説明

ファラデー回転子、光アイソレータおよびレーザ加工装置

【課題】レーザ光の出力の増大または環境温度の変化が生じてもファラデー回転子の温度上昇による偏光回転角の変動を防止することができるファラデー回転子、光アイソレータおよびレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】レーザ加工装置1の光アイソレータ11のファラデー回転子3は、ファラデー効果を生じる結晶柱体6、封入用筒体7、冷却用筒体8、磁石9を有する。封入用筒体7は結晶柱体を内包する。冷却用筒体8は、結晶柱体7の両端において、結晶柱体6と封入用筒体7との間に挟まれる。冷却用筒体8には冷却液15が流れる流路13があり、冷却液15が結晶柱体6と封入用筒体7との間の空隙LSおよび流路13を循環して結晶柱体6を冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファラデー回転子、光アイソレータおよびレーザ加工装置に係り、特に、偏光無依存型光アイソレータを用いる際に好適に利用できるファラデー回転子、そのファラデー回転子を用いた光アイソレータ、およびその光アイソレータを備えたレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーザ加工装置は、図6に示すように、反射による戻り光を遮って光源の安定化や破壊防止を図るための光アイソレータ111を備えている。この光アイソレータ111は、レーザ光FBの進行方向において、第1の偏光子102、ファラデー回転子103、波長板104、第2の偏光子105の順に備えている。
【0003】
ここで、従来のファラデー回転子103は、図示はしないが、ファラデー効果を生じる素子および磁石からなる。ファラデー効果を生じる素子としては、ファラデー効果を生じる結晶、例えばTiO(ルチル)、CaCO(カルサイト)、α−BBO、YVO等が用いられている。磁石は、その磁力線がレーザ光FBの光路と平行に生じるように、配設されている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−34926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図7に示すように、100W以上の高出力レーザ光FBをファラデー回転子103に通過させると、ファラデー回転子103の温度が上昇し、偏光回転角が変動するという問題があった。偏光回転角が変動すると、光アイソレータ111の透過率および消光比が不安定になる。特に、500W以上の高出力レーザ光FBをファラデー回転子103に通過させる場合にはこの問題が深刻になる。
【0006】
また、ファラデー回転子103、光アイソレータ111およびレーザ加工装置が用いられる環境温度は、通常0〜50℃であり、その環境温度の変化によってもファラデー回転子103の温度が変動する。そのため、低出力レーザ光FBをファラデー回転子103に通過させる場合であっても偏光回転角が変動して光アイソレータ111の透過率および消光比が不安定になるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、レーザ光の出力の増大または環境温度の変化が生じても、ファラデー回転子の温度変化を抑制し、偏光回転角の変動を防止することができるファラデー回転子、光アイソレータおよびレーザ加工装置を提供することを本発明の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するため、本発明のファラデー回転子は、その第1の態様として、偏光を回転させる結晶を用いて柱状に形成されている結晶柱体と、循環する冷媒を用いて前記結晶柱体の側面を冷却する冷却部とを備えていることを特徴としている。
【0009】
第1の態様のファラデー回転子によれば、結晶柱体の側面が冷却部によって冷却されるので、結晶柱体の温度が必要以上に上昇することを防止できる。その結果、ファラデー回転子の偏光回転角を一定に保持することができる。
【0010】
第2の態様のファラデー回転子は、偏光を回転させる結晶を用いて柱状に形成されている結晶柱体と、前記結晶柱体の側面を囲繞する封入用筒体と、前記結晶柱体の外周面の両端が内接し、かつ、前記封入用筒体の内周面の両端が外接する大きさおよび位置にそれぞれ配設される2個の冷却用筒体と、前記冷却用筒体の内部に形成される流路と、前記結晶柱体、前記封入用筒体および前記2個の冷却用筒体の間に形成される空隙および前記流路を循環する冷媒と、前記封入用筒体の外周に配設される磁石とを備えることを特徴としている。
【0011】
第2の態様のファラデー回転子によれば、冷却用筒体の流路から前述の空隙に供給された冷却液が結晶柱体の側面を直接冷却するので、結晶柱体の温度が上昇することを防止できる。また、冷却液が結晶柱体、封入用筒体および2個の冷却用筒体の間に形成される空隙および流路を循環するので、冷却効果を維持でき、結晶柱体の温度を一定に保持できる。
【0012】
第3の態様のファラデー回転子は、第2の態様のファラデー回転子において、個々の前記冷却用筒体は前記結晶柱体に内接する側と反対側の端部にフランジを有しており、前記個々の冷却用筒体のフランジの周縁に沿って全体を覆うように筒状の封止用ケースが配設されており、前記磁石は、前記2個の冷却用筒体の前記フランジと前記封入用筒体と前記封止用ケースとによって挟まれる位置に配設されていることを特徴としている。
【0013】
第3の態様のファラデー回転子によれば、冷却用筒体のフランジおよび封止用ケースを利用して封入用筒体の外周面に磁石を固定することができる。また、封止用ケースの取付により防塵効果が期待できるので、産業用レーザが用いられるような悪環境化においても所望の性能を発揮させることができる。
【0014】
第4の態様のファラデー回転子は、第2または第3の態様のファラデー回転子において、冷却用筒体が結晶柱体との接触部および封入用筒体との接触部にシール部材を有していることを特徴としている。
【0015】
第4の態様のファラデー回転子によれば、冷却用筒体と結晶柱体の間、または冷却用筒体と封入用筒体との間から冷却液が流路の外側に漏出することを防止できる。また、シール部材の厚さを適宜変更することにより、冷却用筒体の寸法許容差を大きく設定して冷却用筒体の形成を容易にすることができる。
【0016】
第5の態様のファラデー回転子は、第2から第4のいずれか1の態様のファラデー回転子において、封入用筒体および冷却用筒体が磁性を有しない材料を用いて形成されていることを特徴としている。
【0017】
第5の態様のファラデー回転子によれば、封入用筒体および冷却用筒体によって磁石への悪影響が生じてしまうことを防止することができる。
【0018】
第6の態様のファラデー回転子は、第2から第5のいずれか1の態様のファラデー回転子において、結晶柱体は、偏光を45度回転させるものであり、結晶柱体から出射する光の光路上であって冷却用筒体に接触する位置には、λ/2波長板が配設されていることを特徴としている。
【0019】
第6の態様のファラデー回転子によれば、結晶柱体だけでなくλ/2波長板もあわせて冷却しているので、結晶柱体の温度だけでなくλ/2波長板の温度が上昇することも防止できる。
【0020】
また、前述した目的を達成するため、本発明の光アイソレータは、その第1の態様として、第1から第6のいずれか1の態様のファラデー回転子と、ファラデー回転子に入射する光の光路上およびファラデー回転子から出射する光の光路上にそれぞれ配設される2個の偏光子とを備えていることを特徴としている。
【0021】
第1の態様の光アイソレータによれば、ファラデー回転子の温度が必要以上に上昇することを防止してその温度を一定に保持することができるので、結晶柱体において安定した透過率や消光比を得ることができる。従って、このファラデー回転子を用いた光アイソレータは、安定したアイソレーション機能(例えば、透過率や消光比)を得ることができる。
【0022】
また、前述した目的を達成するため、本発明のレーザ加工装置は、その第1の態様として、第1の態様の光アイソレータを備えていることを特徴としている。
【0023】
第1の態様のレーザ加工装置によれば、光アイソレータの温度が必要以上に上昇することを防止してその温度を一定に保持することができるので、光アイソレータのアイソレーション機能(例えば、透過率や消光比)を安定させることができる。従って、この光アイソレータを用いた第1の態様のレーザ加工装置においても安定したレーザ出力を得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のファラデー回転子、光アイソレータおよびレーザ加工装置によれば、ファラデー回転子の温度上昇を防止してその温度を一定に保持するので、レーザ光の出力の増大または環境温度の変化が生じても、ファラデー回転子の温度変化を抑制し、偏光回転角の変動を防止することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明のファラデー回転子、光アイソレータおよびレーザ加工装置をその一実施形態により説明する。
【0026】
図1は、本実施形態のレーザ加工装置1を示している。本実施形態のレーザ加工装置1は、レーザ光の進行方向において、レーザ発振部21、光アイソレータ11、入射ユニット14、伝送用光ファイバ16、出射ユニット18、加工テーブル20の順にそれらを備えている。
【0027】
レーザ発振部21は、ファイバレーザ発振器10およびレーザ電源部12を有する。このファイバレーザ発振器10は、電気光学励起部24に配設されたLD(レーザダイオード)30および共振器23を備える。共振器23は、主として、一対の共振ミラー26、28とそれらの間に配設された一対の光学レンズ32、34および発振ファイバ22などからなる。発振ファイバ22は、図示しないコアおよびクラッドからなり、コアを活性媒体とし、クラッドを励起用レーザ光MBの伝播光路としている。また、共振器23の下流側には、折り返しミラー36、レーザ吸収体38、ビームスプリッタ40、集光レンズ44、PD(フォトダイオード)42を有する。共振ミラー26、28および折り返しミラー36は部分反射ミラーである。
【0028】
ビームスプリッタ40は、ファイバレーザ光FBの一部(たとえば1%)を所定の方向に反射させるミラーである。PD42は、ビームスプリッタ40による反射光の光路上に配設されている。集光レンズ44は、ビームスプリッタ40による反射光の光路上であってビームスプリッタ40とPD42との間に配置されている。
【0029】
図2は、本実施形態の光アイソレータ11を示している。本実施形態の光アイソレータ11は、図1に示すように、レーザ発振部21側から順方向に進行するファイバレーザ光FBを通過させるとともに、被加工物60側から反射した戻り光RBを除去する偏光無依存型光アイソレータ11である。この光アイソレータ11は、図2の左側から順に示すように、ファイバレーザ光FBの光路上に、第1の偏光子2、ファラデー回転子3、λ/2波長板4、第2の偏光子5を備えている。
【0030】
第1の偏光子2は、図2に示すように、ファイバレーザ光FBをP偏光成分PおよびS偏光成分Sに分割する光学素子である。P偏光成分PおよびS偏光成分Sとは、それらの偏光面が互いに直交し、かつ、平行に伝播する2つの偏光成分である。第1の偏光子2としては、偏光ビームスプリッタ2aおよび全反射ミラー2bが用いられている。
【0031】
図3は、ファラデー回転子3の断面図を示している。また、図4は、図3のA−A矢視断面図である。ファラデー回転子3は、図3および図4に示すように、その中央部に位置する結晶柱体6、結晶柱体6を内包する封入用筒体7、2個の冷却用筒体8、複数の磁石9を有している。
【0032】
結晶柱体6は、所定の角度だけ偏光を回転させる結晶を用いて円柱状に形成されている。本実施形態においては偏光回転角を45度に設定している。この結晶柱体6の結晶としては、偏光を透過させてファラデー効果を生じる結晶が選択される。具体的な結晶としては、TGG(テリビウム・ガリウム・ガーネット)などのガーネットが選択される。
【0033】
封入用筒体7は、結晶柱体6の直径よりも大きな内径を有する筒状に形成されており、結晶柱体6の側面を囲繞する位置に配設されている。この封入用筒体7は、磁性を有しない材料を用いて形成されていることが好ましい。具体的な材料としては、ガラスのなかでも磁性を有しないものが選択されている。
【0034】
2個の冷却用筒体8は、結晶柱体6の両端に配置されている。これら2個の冷却用筒体8は、図3および図4に示すように、筒状の基部8a、フランジ8bおよび端板8cからそれぞれなる。基部8aは、図3に示すように、結晶柱体6の直径と同等の内径、および、封入用筒体7の内径と同等の外径を有しており、フランジ8bと反対側の端部に結晶柱体6の外周面の両端が内接し、かつ、封入用筒体7の内周面の両端が外接する位置にそれぞれ配設されている。また、フランジ8bは、図3に示すように、基部8aの外端から外側に広がる円形鍔状に形成されている。端板8cは、フランジ8bの外端面を覆うものである。基部8a、フランジ8bおよび端板8cからなる冷却用筒体8は、磁性を有しない材料を用いて形成されていることが好ましい。具体的な材料としては、オーステナイト系ステンレス鋼が選択されている。
【0035】
また、冷却用筒体8の基部8aにおいては、結晶柱体6との接触部および封入用筒体7との接触部にシール部材としてのゴムパッキン17を有している。このゴムパッキン17として、本実施形態ではOリングが用いられている。このOリングは筒体8の内周面及び外周面にそれぞれ設けられている。このOリング17により、結晶柱体6と冷却用筒体8の接触部及び封入用筒体7と冷却用筒体8との接触部をそれぞれ気密にシールすることができる。
【0036】
冷却用筒体8の内部には、図3および図4に示すように、フランジ8bの外端面から基部8aの内端面の間に亘って、軸方向に円形の流路13が周方向に等分配置するように多数形成されている。ここで、フランジ8bの外端面には全部の軸方向の流路13を通過させる環状流路13aが形成されている。端板8cは、環状流路13aの外側を覆うとともに、径方向において対称する2箇所に円形の入出用流路13bがそれぞれ開設されている。これらの流路13、13a、13bには、図示しないポンプによって冷媒としての冷却液15が強制的に循環している。結晶柱体6の外周面と封入用筒体7の内周面との間であって2個の冷却用筒体8の内端面に挟まれている環状空隙LSは流路13に直結しているため、この環状空隙LSにも冷却液15が流入出している。冷却液15としては、10℃〜20℃に設定された冷却水が用いられている。
【0037】
複数の磁石9は、図3および図4に示すように、断面が略台形に形成された柱状のもの2個を直列に配置して一体にし、それら2個の磁石9の磁力線の向きを結晶柱体6の軸方向と平行にしながら封入用筒体7の外周面を囲繞するように配設されている。2個の冷却用筒体8がそれぞれフランジ8bを有しているため、これら複数の磁石9は、図3に示すように、2個のフランジ8bと封入用筒体7とによって挟まれる位置に配設されている。
【0038】
封止用ケース3aは、フランジ8bの外側の直径と同等の内径を有する筒状に形成されており、2個の冷却用筒体8のフランジ8bの周縁に沿って全体を覆うようにフランジ8bに固着されている。封止用ケース3aの材質としては、プラスチックが選択されている。
【0039】
図2に示すように、λ/2波長板4は、結晶柱体6から出射する偏光回転したP偏光成分P’およびS偏光成分S’の光路上に配設されている。λ/2波長板は、図2に示すように、ファラデー回転子3の出光側の冷却用筒体8と別個に配設されていたり、図3に示すように、一体に固着されていたりしてもよい。λ/2波長板4の固着手段としては、図3に鎖線で示すように、冷却用筒体8の端板8cとその外側に配置された環状の固定用外板4aとによってλ/2波長板4を挟持するとよい。冷却用筒体8の端板8cにはフランジ8bに設けられた環状流路13aをλ/2波長板4に通過させるための環状流路13cを開設するとよい。また、固定用外端4aは、例えば、冷却用筒体8の端板8cまたは封止用ケース3aに螺着させ、入出用流路13bに連通する2個の透孔13dを開設するとよい。冷却液15の漏洩防止として、必要箇所にゴムパッキンなどの図示しない封止部材を設けるとよい。なお、λ/2波長板4としては、水晶波長板を用いるとよい。
【0040】
第2の偏光子5は、図2に示すように、λ/2波長板4を通過して得たP偏光成分PおよびS偏光成分Sを合成する光学素子である。第2の偏光子5としては、第1の偏光子2と同様、偏光ビームスプリッタ5aおよび全反射ミラー5bが用いられている。
【0041】
図1に示すように、入射ユニット14は、ベントミラー46および集光レンズ50を有している。伝送用光ファイバ16としては、SI(ステップ・インデックス)形ファイバが選択されている。出射ユニット18は、図1に示すように、コリメートレンズ56および集光レンズ58を備えた光学素子54を有している。
【0042】
次に、本実施形態のファラデー回転子3、光アイソレータ11およびレーザ加工装置1の作用を説明する。
【0043】
図1に示すように、レーザ発振部21のレーザ電源部12からファイバレーザ発振器10のLD30に励起電流が供給されると、LD30はポンピング用の励起用レーザ光MBを発振する。LD30から励起用レーザ光MBが照射されると、共振ミラー26は、LD30側から入射した励起用レーザ光MBを透過させるとともに、発振ファイバ22側から入射した発振光線を全反射する。光学レンズ32は励起用レーザ光MBを発振ファイバ22の一端面に集光入射させる。また、光学レンズ32、34は、発振ファイバ22の端面から放出されてきた発振光線を平行光にコリメートする。
【0044】
発振ファイバ22の一端面に入射した励起用レーザ光MBは、クラッド外周界面の全反射によって閉じ込められながら発振ファイバ22の内部を軸方向に伝搬し、その伝搬中にコアを何度も横切ることによってコアのイオンを光励起する。これにより、コアの両端面から軸方向に所定の波長の発振光線が放出される。この発振光線が共振ミラー26、28の間を何度も行き来することによって共振増幅され、共振ミラー28を透過したときに所定の波長のファイバレーザ光FBが得られる。
【0045】
共振ミラー28より出力されたファイバレーザ光FBは、この折り返しミラー36をまっすぐ透過し、ビームスプリッタ40を通ってから光アイソレータ11に入射する。一方、所定の波長のファイバレーザ光FBを得る前に励起用レーザ光MBが光学レンズ34および共振ミラー28を透過した場合、折り返しミラー36によってレーザ吸収体38の方向に折り返される。
【0046】
ビームスプリッタ40は、入射したファイバレーザ光FBの一部、たとえば1%、をフォトダイオード(PD)42側に反射する。集光レンズ44は反射されたファイバレーザ光FBを集光し、フォトダイオード(PD)42は反射したファイバレーザ光FBを光電変換してレーザ出力の電気信号を出力する。この電気信号はレーザ電源部12に送られる。
【0047】
以上より、励起用レーザ光MBが発振ファイバ22の内部において何度もコアを横切って励起エネルギーを使い果たすので、高い発振効率でファイバレーザ光FBを生成することができる。これにより、500W以上の高出力のファイバレーザ光FBによる加工効率の向上が期待できる。また、PD42によってファイバレーザ光FBの出力を正確に把握しているので、光アイソレータ11の温度上昇を予測しやすくなる。
【0048】
図1に示すように、光アイソレータ11にファイバレーザ光FBが入射すると、図2に示すように、第1の偏光子2がファイバレーザ光FBをP偏光成分PおよびS偏光成分Sの2つに分割する。第1の偏光子2によって生じたP偏光成分PおよびS偏光成分Sがファラデー回転子3の結晶柱体6を通過すると、それぞれの偏光面は45度回転する。結晶柱体6からみて光路の後側にあるλ/2波長板4は光軸方向Nを基準にして通過した偏光成分を軸対称に回転させる。このため、ともに偏光面が45度回転したP偏光成分P’およびS偏光成分S’がλ/2波長板4を通過すると、偏光回転したP偏光成分P’がS偏光成分Sに、また、偏光回転したS偏光成分S’がP偏光成分Pに、それぞれ変換される。そして、相互に変換されたS偏光成分SおよびP偏光成分Pは、第2の偏光子5によって同一の光路上においてファイバレーザ光FBに復元される。
【0049】
一方、図5に示すように、ファイバレーザ光FBが反射して生じた戻り光RBが第2の偏光子5に入射した場合、第2の偏光子5は戻り光RBをP偏光成分PおよびS偏光成分Sに分割する。λ/2波長板4は、光軸方向Nを基準にして戻り光RBのP偏光成分PおよびS偏光成分Sを軸対称に回転させる。しかし、ファラデー回転子3は、λ/2波長板4の透過により回転した戻り光RBのP偏光成分P’およびS偏光成分S’を入射時と同様の方向に45度回転させるので、λ/2波長板4により回転したP偏光成分P’およびS偏光成分S’はP偏光成分PおよびS偏光成分Sに戻される。つまり、ファラデー回転子3によって、P偏光成分PがS偏光成分Sに、またS偏光成分SがP偏光成分Pに、変換されることはない。そのため、第1の偏光子2は、元に戻されたP偏光成分PおよびS偏光成分Sをレーザ発振部21側に出射するのでなく、その直交方向に戻り光RBを出射してファイバレーザ光FBの光路上から除去する。
【0050】
ここで、本実施形態のファラデー回転子3は、高出力のファイバレーザ光FBの使用または環境温度が変化する状況においての使用を想定している。そのため、本実施形態のファラデー回転子3においては、図3および図4に示すように、冷却用筒体8の流路13から結晶柱体6と封入用筒体7との間の環状空隙LSに供給された冷却液15が結晶柱体6の側面を直接冷却している。これにより、結晶柱体6の温度が必要以上に上昇することを防止でき、一定に保持することができる。結晶柱体6の温度が一定に保持されるのであれば、ファラデー回転子3の温度を一定に保持することができるので、ファイバレーザ光FBの出力の増大または環境温度の変化が生じても、ファラデー回転子3の温度変化を抑制し、偏光回転角の変動を防止することができる。
【0051】
また、ファラデー回転子3においては、図3に示すように、結晶柱体6との接触部および封入用筒体7との接触部にゴムパッキン17が介在している。そのため、冷却液15の封止性を高めることができ、冷却液15を結晶柱体6の側面に直接接触させても、冷却液15の漏出を防止することができる。ゴムパッキン17の厚さを適宜変更すれば、冷却用筒体8の寸法許容差を大きく設定することができるので、冷却用筒体8の作成を容易にすることができる。
【0052】
封入用筒体7の外側には、冷却用筒体8のフランジ8bの間に磁石9が配設されている。また、フランジ8bの周縁に沿って全体を覆うように封止用ケース3aが配設されている。そのため、冷却用筒体8のフランジ8bおよび封止用ケース3aを利用して封入用筒体7の外周面に磁石9を固定することができる。また、封入用筒体7をガラスとし、冷却用筒体8をオーステナイト系ステンレス鋼とすることにより、封入用筒体7および冷却用筒体8によって磁石9への悪影響が生じてしまうことを防止するだけでなく、腐食性および磁性の有無を考慮しつつ、封入用筒体7および冷却用筒体8を軽量かつ安価に形成することができる。
【0053】
また、フランジ8bに沿って磁石9を覆うように封止用ケース3aを配設しているので、防塵効果が期待でき、産業用レーザが用いられるような悪環境化においても所望の性能を発揮させることができる。
【0054】
さらに、高出力のファイバレーザ光FBの使用または環境温度が変化する状況においての使用はλ/2波長板4における偏光回転角の変動をも生じさせるおそれがある。そのため、λ/2波長板4は、図3の鎖線に示すように、冷却用筒体8に接触する位置に固着されていることが好ましい。この場合、冷却液15は、冷却用筒体8のフランジ8aおよび端板8cに開設された環状流路13a、13cを通過してλ/2波長板4に直接接触して冷却する。これにより、結晶柱体6だけでなくλ/2波長板4もあわせて冷却することができるので、結晶柱体6の温度だけでなくλ/2波長板4の温度も一定に保持することができる。
【0055】
レーザ発振器から供給されたファイバレーザ光FBが光アイソレータ11を通過すると、そのファイバレーザ光FBは入射ユニット14、伝送用光ファイバ16、出射ユニット18を介して、加工テーブル20に載置された被加工物60の加工点Wに集光照射される。例えば、このファイバレーザ光FBがレーザ溶接に用いられる場合、ファイバレーザ光FBのエネルギーにより被加工物60の加工点Wが溶融し、ファイバレーザ光FBの終了後に凝固してナゲットが形成される。その際、ファラデー回転子3は常に一定温度に保持されているので、アイソレータの透過率や消光比が劣化することなく、常に一定の出力のファイバレーザ光FBが被加工物60の加工点Wに供給される。
【0056】
すなわち、本実施形態のファラデー回転子3、光アイソレータ11およびレーザ加工装置1によれば、ファラデー回転子3の温度が一定に保持されるので、レーザ光の出力の増大または環境温度の変化が生じても、ファラデー回転子3の温度変化を抑制し、偏光回転角の変動を防止することができるという作用を生じる。
【0057】
なお、本発明は、前述した実施形態などに限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。
【0058】
例えば、本実施形態のファラデー回転子3は、所定の部材によって構成されているが、他の実施形態においては、少なくとも、結晶柱体6および所定の冷却部を有していればよい。所定の冷却部としては、循環する冷却液15を用いて結晶柱体6の側面を冷却するものであればよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本実施形態のレーザ加工装置を示す概念図
【図2】本実施形態の光アイソレータにファイバレーザ光が入射した場合を示す概念図
【図3】本実施形態のファラデー回転子を示す断面図
【図4】図3のA−A矢視断面図
【図5】本実施形態の光アイソレータに戻り光が入射した場合を示す概念図
【図6】従来の光アイソレータの一例を示す概念図
【図7】従来の光アイソレータに500W以上の高出力レーザ光を通過させた状態を示す概念図
【符号の説明】
【0060】
1 レーザ加工装置
2 第1の偏光子
3 ファラデー回転子
4 λ/2波長板
5 第2の偏光子
6 結晶柱体
7 封入用筒体
8 冷却用筒体
9 磁石
11 光アイソレータ
13 流路
15 冷却液
17 ゴムパッキン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光を回転させる結晶を用いて柱状に形成されている結晶柱体と、
循環する冷媒を用いて前記結晶柱体の側面を冷却する冷却部と
を備えていることを特徴とするファラデー回転子。
【請求項2】
偏光を回転させる結晶を用いて柱状に形成されている結晶柱体と、
前記結晶柱体の側面を囲繞する封入用筒体と、
前記結晶柱体の外周面の両端が内接し、かつ、前記封入用筒体の内周面の両端が外接する大きさおよび位置にそれぞれ配設される2個の冷却用筒体と、
前記冷却用筒体の内部に形成される流路と、
前記結晶柱体、前記封入用筒体および前記2個の冷却用筒体の間に形成される空隙および前記流路を循環する冷媒と、
前記封入用筒体の外周に配設される磁石と
を備えることを特徴とするファラデー回転子。
【請求項3】
個々の前記冷却用筒体は前記結晶柱体に内接する側と反対側の端部にフランジを有しており、
前記個々の冷却用筒体のフランジの周縁に沿って全体を覆うように筒状の封止用ケースが配設されており、
前記磁石は、前記2個の冷却用筒体の前記フランジと前記封入用筒体と前記封止用ケースとによって挟まれる位置に配設されている
ことを特徴とする請求項2に記載のファラデー回転子。
【請求項4】
前記冷却用筒体は、前記結晶柱体との接触部および前記封入用筒体との接触部にシール部材を有している
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載のファラデー回転子。
【請求項5】
前記封入用筒体および前記冷却用筒体は、磁性を有しない材料を用いて形成されている
ことを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか1項に記載のファラデー回転子。
【請求項6】
前記結晶柱体は、偏光を45度回転させるものであり、
前記結晶柱体から出射する光の光路上であって前記冷却用筒体に接触する位置には、λ/2波長板が配設されている
ことを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか1項に記載のファラデー回転子。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のファラデー回転子と、
前記ファラデー回転子に入射する光の光路上および前記ファラデー回転子から出射する光の光路上にそれぞれ配設される2個の偏光子と
を備えていることを特徴とする光アイソレータ。
【請求項8】
請求項7に記載の光アイソレータを備えている
ことを特徴とするレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−282310(P2009−282310A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134439(P2008−134439)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000161367)ミヤチテクノス株式会社 (103)
【Fターム(参考)】