説明

フィチン酸塩と亜鉛の一定量組み合わせ

本発明は、ヒドロキシアパタイトの結晶化の処置に使用するための、相乗作用的割合におけるフィチン酸塩と亜鉛の一定量組み合わせに関する。有利には、該組み合わせは4:1を超えるフィチン酸塩および亜鉛のモル比である。本発明はまた、ヒトにおけるヒドロキシアパタイトの結晶化の処置、予防および/または回避に用いられる薬剤の製造のための該組み合わせの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシアパタイトの結晶化の処置に使用するための、相乗作用的割合におけるフィチン酸塩と亜鉛の一定量組み合わせ(fixed-dose association)に関する。
【0002】
本発明はまた、ヒトにおけるヒドロキシアパタイトの結晶化の処置、予防および/または回避に用いられる薬剤の製造のための該組み合わせの利用に関する。
【発明の背景】
【0003】
一般に、病的結晶化のプロセスは、過飽和、結晶化促進剤(promoters)(基本的には、異種核形成剤(nucleants))および結晶化の抑制剤(repressors)(結晶化阻害剤および細胞防御機構)の3つの因子群の間の不均衡の結果である。
【0004】
ある系がその溶解度積により確立された量を超える量の溶質を含んでいる場合、その系はその溶質に関して過飽和状態である。従って、これは熱力学的因子であり、単に速度論的問題(すなわち、時間経過)であり、最終的には相応の固体が形成される。
【0005】
促進剤または異種核形成剤は、同種核形成の段階を回避することにより、誘導時間を短縮して、結晶の形成を促進する物質である。従って、これらは速度論的因子である。
【0006】
結晶化阻害剤は、結晶の発達を防止または回避する物質である。それらは核形成レベルで(形成される同種または異種の核上に吸着することによる)、結晶成長で(形成される結晶の表面に吸着することによる)、または一度に両方の過程で働き得る。従って、それは速度論的因子も含む。
【0007】
ミオイノシトール6リン酸(フィチン酸塩;フィテート(phytate))は、カルシウム塩の発達について知られている最も強力な阻害剤であり、シュウ酸カルシウムの異種核形成、シュウ酸カルシウムの結晶成長、ならびにリン酸カルシウムの同種および異種核形成に作用する。フィチン酸塩はピロリン酸塩とともに、ブラッシュ石の結晶化とヒドロキシアパタイトの結晶化の双方に阻害作用を示す。両化合物とも、リン酸カルシウムが結晶化可能な2つの形態からなり、後者のものが病的な血管の石(mineralisation)の主要な成分である。
【0008】
フィチン酸塩は哺乳類(その中にヒトも含まれる)の器官、組織および体液の総てに存在することが最近示された。哺乳類の器官、組織および体液中に見られるほとんどの細胞外フィチン酸塩は食物起源であり、内因的な合成の結果ではないが、細胞内フィチン酸塩(わずかに低い濃度で見られる)は、おそらく細胞内で産生される。従って、生物体内でのそのレベルは、食物摂取か局所適用のいずれかを介した外的な供給に直接関連している。
【0009】
血漿は、リン酸塩、カルシウムおよびそのpHの濃度値に応じて、常にリン酸カルシウムに関して過飽和状態である。実際、心血管系には石灰化が頻繁に見られ、血管の柔軟性を低下させ、血栓や動脈破裂を誘発する。このような石灰化が心臓弁に見られる場合、それらは、正確ではなくとも、心不全や死に至り得る種々の障害に関連している。
【0010】
現在、腎臓病、加齢、高血漿コレステロールレベル(高密度リポタンパク質に関連するコレステロールの低下および低密度リポタンパク質に関連するコレステロールの増加)、肥満および高トリグリセリドレベル、細胞傷害性因子(喫煙)ならびに細菌感染などの種々のリスク因子が冠動脈の石灰化の発達に関連していることが知られている。
【0011】
心血管石灰化の発生が10代といった早期に始まる場合があること、また、冠動脈石灰化は40〜49歳の50%、60〜69歳の80%に影響を及ぼしていることを念頭に置いておかねばらない。
【0012】
血管石灰化の形成の厳密な機構は種々の段階を含むが、一般に、石灰化の誘導剤(異種核形成剤)(一般にはヒドロキシアパタイトの形態でのリン酸カルシウム)として働く事前の傷害の存在を必要とする。石灰化の次の発達段階は、残りの因子(過飽和、結晶化阻害剤、石灰化細胞調節剤)のバランスによって異なる。
【0013】
従って、心血管石灰化の発達を回避する際の重要な因子は結晶化阻害剤の存在である。最近の論文では、フィチン酸塩を局所適用した際に心血管石灰化の発達に対するフィチン酸塩の回避作用が示されている(PCT/IB2004/003588参照)。
【0014】
違った分野で、ヒドロキシアパタイトはまた、歯の細菌プラークの石化(mineralisation)を通じて口腔に蓄積する。歯の細菌プラークは加圧下の水で、または単に口をすすぐだけでは除去することができない歯の付着物である。ブラッシングはこのような付着物の急速な蓄積を予防する助けとはなるが、規則的にブラッシングをしても、歯に接着した付着物を総て除去するには十分でない。歯の表面に接着したプラークは石灰化(石灰化デンタルプラーク)して歯石または結石を形成し得る。従って、プラークは結石の前兆である。しかしながら、プラークは、結石とは異なり、歯の表面のどの部分にも、特に歯肉周辺に形成し得る。従って、歯にプラークが存在すると、見苦しいだけでなく、歯肉炎および歯周病の発症の前兆となり得る。細菌プラークの量と歯肉炎の重篤度の間には直接の相関がある。
【0015】
歯石(tartar)または結石(calculus)は、プラークの石化により形成される歯の上の石灰化された付着物であり、このプロセスは24〜72時間以内に始まり、成熟に達するまでに平均12日間かかる。これらは有機物と無機物からなり、生物体に見られる他の病的石灰(腎臓結石、皮膚石灰症など)と極めて類似した組成を有する。
有機物:互いに結合してコロニーを形成している主として微生物(細菌、真菌など)に由来するが、口腔中に残った食物残渣に由来するものもある。
無機物:唾液中に存在するカルシウムとオルトリン酸塩から主としてなり、ヒドロキシアパタイト(HAP)と呼ばれる、結晶格子に配置されている。
【0016】
結石の形成は二段階で起こる。第一段階は、細菌と唾液に由来するゲル化マトリックスに取り巻かれた生菌および死菌からなる細菌プラークが歯に付着する。第二段階で、このプラークが歯の結石を形成するまで石化のプロセスを受ける。まず、非晶質リン酸カルシウムがデンタルプラークの細胞外マトリックスの上および内部に付着し始め、凝集塊が耐変形性となるに十分圧密され、やがて結晶性HAP物質となる。非晶質リン酸カルシウムは、HAPと関連があるが、HAPとは結晶構造、粒子形態および化学量が異なる。
【0017】
HAP形成の阻害は阻害剤、金属イオン封鎖剤、十分なカルシウムおよびマグネシウムイオン抑制剤および/またはキレート剤の作用の手段によって試験されている。水溶性ヘキサメタリン酸塩、トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩などのような脱水ポリリン酸塩がこの目的で使用されている。
【0018】
本発明者らは、口腔用組成物においてこれまでに提案されているこれらのポリリン酸塩を利用している、またはそれらの使用および機能を引用している一連の特許を見出した(米国特許第3,488,419号、同第4,215,105号および同4,515,772号)。しかしながら、米国特許第4,627,977号に開示されているように、直鎖脱水ポリリン酸は、口腔および/または唾液中で、唾液中の酵素(ホスファターゼ)により著しく加水分解されてオルトリン酸塩となり、これはHAPの形成に対して阻害作用を示さず、この加水分解は、これらのポリリン酸塩とフッ化物(米国特許第4,808,4109号に開示)との併用ならびに特許文献US−A−4,627,977におけるポロカルボキシレートポリマーの一部をなしているフッ素イオンとの併用により減少するが、ヒドロキシアパタイトを阻害するのに十分な処置はまだ見出されていない。
【0019】
他方、米国特許第5300289号は、口腔衛生のためのフィチン酸塩を含む抗菌経口組成物を記載している。記載されている経口組成物はフィチン酸またはその薬学上許容される塩、陽イオン抗菌性化合物、および歯の結石、デンタルプラーク、歯肉炎、歯周炎および/または口臭の制御のための適合剤を含む。特に、この特許は、(1)C−O−P結合を有する1種類以上の化合物0.001〜10重量%(このC−O−P結合を有する化合物は、ミオイノシトールヘキサキス(リン酸二水素)、ミオイノシトールペンタキス(リン酸二水素)、ミオイノシトールテトラキス(リン酸二水素)またはその生理学上許容される塩);(2)1種類以上の陽イオン抗菌性化合物0.001〜10重量%;および(3)1種類以上の適合剤0.1〜20重量%、を含んでなる組成物を記載している。陽イオン抗菌性化合物として、10の可能性のある化合物またはその誘導体の一覧が開示されている。適合剤は酸およびそれらのアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩、またはその混合物から選択される。前述の組成物中にストロンチウム、マグネシウム、スズ、亜鉛、カルシウムまたはその混合物から選択される金属イオンが存在すると、溶液中の組成物のフィチン酸の沈殿が起こらず、従って、上記の組成物へのその添加が口臭の抑制の助けとなる。該金属イオンとフィチン酸の間のモル比は、4:1〜1:4、好ましくは3:1〜1:3、いっそう好ましくは1:1比で経口組成物中に存在することができる。
【0020】
さらに、フィチン酸塩は実際にすでに経口組成物に使用されている。例えば、米国特許第4,259,316および同第4,335,102号では、フィチン酸塩はスズ(II)の化合物と併用されている。しかしながら、フィチン酸塩とスズとの複合体の形成は結石の形成を阻害するのに有効ではない。
【0021】
また、米国特許第3,934,002号では、フィチン酸塩は抗プラーク剤および抗う食剤としてのビスビグアニドと併用される。しかしながら、この2つの化合物は互いに反応することから、2つの明瞭に見える相を一様に形成するポイントまでには、経口組成物中に均一に分布させることができない。
【0022】
抗プラーク剤および抗歯肉炎剤の異なる組み合わせを、例えば抗結石剤などの他の化合物(その目的は細菌病因論およびリスク因子を排除することである。)とともに、または所望によりそれらのともに含む多数の組成物が開発されている。
【0023】
しかしながら、良好な結果を伴うヒドロキシアパタイトの結晶化の阻害を可能とする好適な処置はまだ存在しない。
【発明の説明】
【0024】
本発明が解決する課題は、ヒトにおいてヒドロキシアパタイトの結晶化を阻害するための別法として提案され、特に、歯の結石の発達ならびに動脈、静脈、心臓、脳、肺および皮膚におけるヒドロキシアパタイトの石灰化に驚くべき効果を有する。
【0025】
この溶液は、ヒドロキシアパタイトの結晶の阻害に対して相乗作用を有するフィチン酸塩と亜鉛の一定量組み合わせに基づいている。このフィチン酸塩と亜鉛との組み合わせについては、ヒドロキシアパタイトの結晶化に対する相乗作用的混合物として開示されておらず、ヒドロキシアパタイトに対するフィチン酸塩の結晶化に対する高い阻害作用を生じさせるフィチン酸塩と亜鉛の間の相乗作用についてはまだ説明されていない。
【定義】
【0026】
本発明において「フィチン酸塩」または「ミオイノシトール6リン酸」とは、式:
【化1】

に相当する分子およびその相当する塩(限定されるものではないが、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムまたはカルシウム−マグネシウム塩が挙げられる)を意味するものとする。
【0027】
本発明において「結晶化の阻害剤」とは、石の形成を軽減または回避することができる物質を意味するものとする。
【0028】
最もよく知られている石としては、結晶化の誘導時間の延長の作用による、心血管および頬歯の石または生物体の他の部分の石、主として石灰(carcifications)がある。
本発明において「心血管の石」とは、血管壁または心臓の他の部分に蓄積された固体結石を意味するものとする。
【発明の詳細な説明】
【0029】
本発明の一般的な目的はヒドロキシアパタイトの形成を阻害することである。該塩は生物体内で石を形成し、これは一般に生物体内に存在するフィチン酸塩により回避または軽減することができる。しかしながら、そうでない場合には、ヒドロキシアパタイト結晶の外的阻害を効果的に可能とする組成物、混合物または処置はまだ存在しない。
【0030】
本発明は、心血管系および頬歯腔におけるヒドロキシアパタイトの形成の処置、回避および/または予防のためのフィチン酸塩とZn2+の組み合わせを提供する。同様に、本発明は、関節、乳腺、腎臓、脳、肺および皮膚におけるヒドロキシアパタイトの形成の処置、回避および/または予防のためのフィチン酸塩とZn2+の組み合わせを提供するが、これは、軟組織における塩の結晶化の阻害は該組織に到達することができる阻害剤の濃度に依存するためである。軟組織におけるフィチン酸塩の濃度は同等であり(脳では10倍高い)、従って、これらの軟組織においては、心血管組織の場合と同様の効果が予想される。
【0031】
特に、本発明者らは、フィチン酸塩と亜鉛の組み合わせ中の亜鉛の存在がフィチン酸塩それ自体の結晶化に対する阻害作用の増強をもたらす(一方、亜鉛単独では、ヒドロキシアパタイトの結晶化に対する阻害作用はない)ことを見出した。この亜鉛は形成される核上またはヒドロキシアパタイトの成長中の結晶上に吸着される。亜鉛に対するフィチン酸塩の親和性はカルシウムに対する親和性より大きいので、ヒドロキシアパタイトへの亜鉛の吸着は、形成される核または成長中の結晶に対するフィチン酸塩の親和性を高め、結晶化に対するその阻害作用を増強する。
【0032】
驚くことに、フィチン酸塩と亜鉛の組み合わせはモル比4:1を超える場合、常に誘導時間およびフィチン酸塩/亜鉛のモル比によって異なるが、フィチン酸塩の結晶化の阻害作用に40%程度の増強をもたらすことが判明した。
【0033】
有利には、結晶化誘導時間10分の後にモル比5:1が、フィチン酸塩の結晶化に対して50%程度の高い阻害作用をもたらす(図2)。
【0034】
本発明において、ヒドロキシアパタイトの結晶化に対するフィチン酸塩とZn2+の組み合わせの相乗作用を以下に示す。特に、下記の実施例1および2を参照。
【0035】
次に、驚くことに、フィチン酸塩とZn2+の組み合わせが、ウィスターラットにおいて移植されたヒト大動脈弁に断片上のヒドロキシアパタイトの石灰の発達を阻害することも証明される。本発明者らは、特に経口において、優れた結果を伴って心血管石灰の発達の阻害におけるフィチン酸塩とZn2+の組み合わせの相乗作用を見出した。
【0036】
また、本発明者らは、種々の処置を受けた個体の頬歯腔におけるヒドロキシアパタイトの形成に対する本発明のフィチン酸塩とZn2+の組み合わせの作用を研究した(実施例4および5参照)。この場合の目的は、フィチン酸塩とZn2+の組み合わせを含んでなる経口組成物を使用することにより、カルシウム塩の結晶化に対する唾液の阻害能を高めること、およびカルシウム生体内石の形成の合併を回避することである。フィチン酸塩とZn2+を含む口内洗浄剤の使用の基礎は、ヒドロキシアパタイトの生体内石の形成のリスクを軽減することであり、次の事実に基づくものである。
(1)フィチン酸塩は同種および異種核形成ならびにヒドロキシアパタイトおよび他のリン酸カルシウムの結晶成長の極めて強力な阻害剤である。この作用の結果はヒドロキシアパタイトの結晶化の阻害であるが、同時に、歯に付着しているリン酸カルシウムの微粒子の発達も回避される。
(2)フィチン酸塩はヒトの唾液に見られ、その濃度は個人の食生活によって異なる。
(3)唾液にフィチン酸塩が不足している特定の個人は、舌下のヒドロキシアパタイト結石を示すことがある。
(4)フィチン酸塩は、他の直鎖ポリリン酸塩よりも唾液ホスファターゼの作用に対して耐性が高い、ヒト唾液中に存在する天然産物であるという利点がある。
(5)フィチン酸塩とZn2+の相乗作用的組み合わせは、フィチン酸塩単独の場合よりも、ヒドロキシアパタイトの結晶化の阻害に対してより有意なin vitro結果を示す。
【0037】
よって、口内洗浄剤であれビタミン補給剤であれ、または他の投与形態であれ、本発明のフィチン酸塩とZn2+の相乗作用的組み合わせを含む医薬形態はいずれも、その範囲内に含まれる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、これらはその範囲を限定するものではない。
【0039】
実施例1
ヒドロキシアパタイトの沈殿速度を研究するため、in vitro系を設計した。次のような実験条件を用いた系を使用した:[リン酸塩]=1.5mM、[Ca2+]=60mg/l、pH=7.5。ヒドロキシアパタイトの沈殿速度を、3mlプラスチックバイアルを用い、島津(UV−120−02)分光光度計にて、550nmで5分ごとの吸光度を記録することにより記録した。結果を図1に示す。ヒドロキシアパタイトの沈殿は、フィチン酸塩−Znの相乗作用的混合物で、モル比10:1を用いることで完全に阻害されたことが分かる。
【0040】
実施例2
実施例1と同様の系を用い、次のような実験条件を用いた:[リン酸塩]=2.5mM、[Ca2+]=60mg/l、pH=7.5。ヒドロキシアパタイトの沈殿速度を、3mlプラスチックバイアルを用い、島津(UV−120−02)分光光度計にて、550nmで5分ごとの吸光度を記録することにより記録した。結果を図2に示す。Zn単独では阻害作用は見られないことから、フィチン酸塩とZn2+の間には相乗作用が存在することが分かる。
【0041】
実施例3
12匹の雄ウィスターラット(体重およそ250g)(Harlan Iberica s.l., Barcelona, Spainより入手)を、温度および湿度条件をそれぞれ21±1℃および60±5%、明暗周期を12:12時間とした本発明者らの動物施設で7日間適応させた。ラットはPlexiglasケージで1ケージに2匹飼い、食物と水を自由に与えた。
【0042】
適応期間の後、動物を6匹ずつ、Zn2+単独処理、AIN−76A食(フィチン酸塩を除去した精製食、0.003%Zn2+含有)の対照群と、カルシウム−マグネシウム塩形態の1%フィチン酸塩(フィチン酸塩−Zn2+モル比は30:1)を含むこと以外は同様の餌で処理した群の2群に無作為に分けた。16日後、各動物の腹部に石灰化されていないヒト大動脈弁2片を移植した。移植後さらに30日間これらの餌による処理を延長した。その後、24時間おきに尿サンプルを採取してフィチン酸塩を測定し、次に、動物をペントバルビタール(50mg/kg,i.p.)で麻酔し、弁を取り出し、乾燥させた。
【0043】
移植プレートのいくつかの表面および内部を電子操作顕微鏡で調べ、非移植弁の断片と比較した。結果は次の通りであった。a.弁の非移植断片の表面には石灰化は見られなかった。b.対照群ラットに30日間移植した弁の断片の表面には、アスピジン性ヒドロキシアパタイト構造を有するリン酸カルシウムの層が見られた。c.対照群ラットに30日間移植した弁の断片の内部には、リン酸カルシウムの石灰化が見られた。
【0044】
次に、HNO:HClO 1:1混合物を用いてこれらのプレートの酸消を行い、誘導結合プラズマ(ICP−AES)を用いた原子発光分光法により総カルシウムを測定した。結果は各断片中のカルシウムの重量%として表し、図3に示す。
【0045】
この実験に用いた手順は、実験および科学目的に用いる動物の保護に関する指令86/609/EECに従って行い、バレアレス諸島大学の倫理委員会が実験実施の公式許可を求めたものである。
【0046】
試験の終了時のフィチン酸塩の尿レベルは、処理群(1.22+/−0.24mg/l)よりも対照群(0.08+/−0.03mg/l)で有意に低かった。これらの弁断片の移植は、その弁の表面および内部にリン酸カルシウム(ヒドロキシアパタイト)の石灰化の発達をもたらした。対照群と比べた場合、フィチン酸塩+Zn2+で処理した群に移植した大動脈弁の石灰化の程度の統計学的に有意な減少が示され(図3参照)、よって、血漿中のフィチン酸塩が、ウィスターラットに移植されたヒト大動脈弁に形成されたヒドロキシアパタイトの石灰化の発達を阻害することができることが示される。
【0047】
実施例4
まず、頬歯腔におけるヒドロキシアパタイトの形成に対するフィチン酸塩の作用を評価することにした。患者に、1日2回一方または他方の口内洗浄剤10mlを投与するという異なる2種類の処置を1週間施した(表1)。頬歯腔の石化付着物(mineralised deposits)に関する質的評価を行ったところ、歯石または歯の結石の目に見える有意な減少が示された。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例5
次に、フィチン酸塩を欠き、Zn2+と組み合わせた口内洗浄剤を用い、15日後に、頬歯腔におけるヒドロキシアパタイトの付着物を量的に評価した。患者に、1日2回一方または他方の口内洗浄剤20mlを投与するという異なる2種類の処置を2週間施した(表2)。量的評価は頬歯腔の石化付着物に関して、患者からプラークおよび歯石の付着物を機械的に採取し、歯科臨床においてそれらをフィルター上で吸引し、その後、付着物中に存在するヒドロキシアパタイトを1M HClに溶解し、誘導結合プラズマ(Optima 5300DV)を用いた原子発光分光法により、カルシウムおよびリンを測定することにより行った。石化付着物においてリンでは95.1%、カルシウムでは88.3%の減少が見られた。
【0050】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、in vitroにおけるヒドロキシアパタイトに対するフィチン酸塩とZn2+の組み合わせの作用を示す。図1では、最初の曲線はフィチン酸塩またはZn2+を含まない直接的沈殿に相当することが示されている。二番目(Zn2+)は、0.038μMのZn2+の添加からなる。観察されるように、阻害作用は示されない。三番目(フィチン酸塩)は、0.38μMのフィチン酸塩の存在下でのヒドロキシアパタイトの沈殿に相当する。結晶化に対する有意な阻害作用が示される。最後に、一番下のグラフ(フィチン酸塩+Zn2+)は、0.38μMのフィチン酸塩と0.038μMのZn2+(フィチン酸塩−Znのモル比は10:1)の存在下での沈殿に相当する。ヒドロキシアパタイトの沈殿が全体的に阻害されているのが分かる。さらに、Zn単独では阻害作用は見られないことから、これは相加作用ではなく相乗作用である。
【図2】図2は、in vitroにおけるヒドロキシアパタイトに対するフィチン酸塩とZn2+の組み合わせの作用を示す。図2では、最初の系列がフィチン酸塩またはZn2+を含まない直接的沈殿に相当することが示されている。二番目は、0.3μMのZn2+の添加からなる。観察されるように、阻害作用は示されない。三番目の系列は、1.5μMのフィチン酸塩の存在下でのヒドロキシアパタイトの沈殿に相当する。結晶化に対する有意な阻害作用が示される。最後に、1.5μMフィチン酸塩と2種類の異なる濃度の亜鉛:Zn2+:0.3μM(フィチン酸塩−Znモルは比5:1)および0.15μM(フィチン酸塩−Znモル比は10:1)を用いた2系列がそれぞれ示される。Zn単独では阻害作用は見られないことから、フィチン酸塩とZn2+の間には相乗作用が存在することが分かる。
【図3】図3は、ウィスターラットに移植されたヒト大動脈弁において形成されたヒドロキシアパタイトに対するフィチン酸塩とZn2+の組み合わせの作用を示す。この図では、フィチン酸塩を含まない餌を与えた対照群に対し、フィチン酸塩+Zn2+を含む餌を与えた群で、弁における石灰化の程度に統計学的に有意な減少が見られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシアパタイトの結晶化の処置に用いられる、相乗作用的割合におけるフィチン酸塩と亜鉛との一定量組み合わせ。
【請求項2】
前記組み合わせが4:1を超えるフィチン酸塩および亜鉛のモル比である、請求項1に記載のフィチン酸塩と亜鉛の一定量組み合わせ。
【請求項3】
前記組み合わせが5:1のフィチン酸塩および亜鉛のモル比である、請求項1に記載のフィチン酸塩と亜鉛の一定量組み合わせ。
【請求項4】
前記組み合わせが5:1を超えるフィチン酸塩および亜鉛のモル比である、請求項1に記載のフィチン酸塩と亜鉛の一定量組み合わせ。
【請求項5】
歯の結石の処置、予防および/または回避用薬剤を製造するための、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組み合わせの使用。
【請求項6】
心血管石灰化の処置、予防および/または回避用薬剤を製造するための、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組み合わせの使用。
【請求項7】
前記心血管石灰化が、動脈、静脈および/または心臓において起こる、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
脳における石灰化の処置、予防および/または回避用薬剤を製造するための、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組み合わせの使用。
【請求項9】
肺における石灰化の処置、予防および/または回避用薬剤を製造するための、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組み合わせの使用。
【請求項10】
皮膚における石灰化の処置、予防および/または回避用薬剤を製造するための、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組み合わせの使用。
【請求項11】
口内洗浄剤を製造するための、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組み合わせの使用。
【請求項12】
ヒドロキシアパタイトの核形成および結晶成長に対するフィチン酸塩の阻害作用の促進剤としての、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組み合わせにおけるZn2+の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−526818(P2009−526818A)
【公表日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−554771(P2008−554771)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【国際出願番号】PCT/EP2007/051413
【国際公開番号】WO2007/093611
【国際公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(506119291)ウニベルシタット デ レス イリュス バレアルス (2)
【Fターム(参考)】