フィブリンフォームに組込まれたPDGF融合タンパク質
創傷治癒のための組成物、組成物の使用、ならびにそれを用いるキットおよび方法がここに記載される。好ましい局面では、この発明の組成物は、必要な部位に適用されるか注入され得るフィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームを形成する方法で使用するのに好適である。別の好ましい局面では、この発明の組成物は、さらに、ゲルまたは発泡体として投与され得る、増強された、制御された送達フィブリンマトリックスを形成する方法で使用するのに好適である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
この発明は融合タンパク質を含むフィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームを形成するための組成物、キットおよび方法に関する。好ましい融合タンパク質は、マトリックスへの共有結合連結を可能にするトランスグルタミナーゼ基質ドメインを含む血小板由来増殖因子である。フィブリンマトリックスは、特に、創傷治癒のために、組織修復または再生のために、制御された増殖因子の放出を可能にする。特に、この発明は、補足されたフィブリンフォームを形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
組織修復または再生のためには、細胞は創傷床に移動し、増殖し、マトリックス成分を発現するか細胞間マトリックスを形成し、最終の組織形状を形成しなければならない。複数の細胞集団が、しばしば血管細胞および神経細胞を含んで、この形態形成応答にしばしば参加しなければならない。マトリックスは、これが生じるために、非常に増強することを実証され、ある場合では不可欠と分かった。天然の細胞内殖(cell in-growth)マトリックスは、すべてタンパク質加水分解に基づく細胞の影響、たとえば、プラスミン(分解フィブリン)およびマトリックスメタロプロテイナーゼ(分解コラーゲン、エラスチンなど)によるリモデリングの対象となる。そのような分解は高度に局在化され、細胞との直接接触のみである。さらに、増殖因子のような、特定の細胞信号伝達タンパク質の送達は、厳しく規制される。
【0003】
組織が傷付けられると、一連の生物学的活性を示すポリペプチド増殖因子がその創傷内に放出され、そこにおいて、それらは治癒における重要な役割を果たす(たとえば、ホルモンタンパク質およびペプチド(Hormonal Proteins and Peptides)、Li,C.H.編、第7巻、アカデミック・プレス・インク(Academic Press, Inc.)、ニューヨーク(New York)、231〜277頁、およびブラント(Brunt)ら、生物工学(Biotechnology)、6:25〜30(1998年)参照)。これらの活性は、白血球および線維芽細胞などのような細胞を損傷領域に補充すること、ならびに細胞増殖および細胞分化を誘導することを含む。創傷治癒に参加する増殖因子は次のものを含む:血小板由来増殖因子(PDGF)、インスリン結合増殖因子−1(IGF−1)、インスリン結合増殖因子−2(IGF−2)、上皮増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子−α(TGF−α)、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)、血小板第4因子(PF−4)、ならびにヘパリン結合性増殖因子1および2(HBGF−1およびHBGF−2)。
【0004】
フィブリンはいくつかの生物医学的な適用例のために報告された天然素材である。フィブリンゲルは、多くの組織に付着するそれらの能力および創傷治癒におけるそれらの自然な役割により、シーラントとして使用されてきた。いくつかの特定の適用例は、血管グラフト取付け、心臓弁取付け、骨折中の骨位置決めおよび腱修復用のシーラントとしての使用を含む。さらに、これらのゲルは、薬物送達装置として、ならびにニューロンの再生のため、および細胞内殖マトリックスの材料のためにも使用されてきた(ハベル(Hubbell)らへの米国特許第6,331,422号)。
【0005】
天然もしくは合成の生体適合材料またはそれらの混合物における生理活性因子の組込みは、主に、米国特許第6,117,425号および第6,197,325号およびWO02/085422などに記載されるように、物理的相互作用を介した生理活性因子の組込みによってなされる。生体適合物質への生理活性因子の共有結合連結は、生体適合物質からの生理活性因子の放出プロファイルの改善された制御を可能にする、より高度な技術である。小さな合成または自然発生の分子、ペプチドおよび/またはタンパク質の、トランスグルタミナーゼの作用によるフィブリンマトリックスの中への組込みは、米国特許第6,331,422号;第6,468,731号および第6,960,452号、およびWO 03/052091ならびにSchense, J. C.ら(1999年) Bioconj. chem. 10:75−81に記載されている。生理活性因子の共有結合架橋は、前駆体成分または生体適合物質の形成中もしくは形成の後の生体適合物質の反応性基の1つ以上と反応することができる官能基の組込みによって生理活性因子を修飾することにより行なわれてもよい。米国の特許出願第2003/0187232号には、トランスグルタミナーゼ基質ドメインで修飾されたPDGFで補われたフィブリンゲル、および人間の患者の慢性創傷の治癒でのその使用が開示されている。しかしながら、そこに記載されるシステムでは、大量の増殖因子が適用の後の第1の時間でフィブリンゲルから放出される。
【0006】
タンパク質および増殖因子のための送達システムが公知である一方で、時間とともに放出される増殖因子の量および増殖因子の放出の割合を制御する必要が残る。特に、適用の後の第1の時間で放出される増殖因子の量を低減する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、この発明の目的は、増殖因子の制御および/または抑制された放出を改善するためのフィブリンマトリックスを提供するであることである。
【0008】
この発明のさらなる目的は、増殖因子で補われたフィブリンマトリックスの形成のための方法を提供することである。
【0009】
この発明のさらなる目的は、増殖因子で補われたフィブリンフォームの形成のための組成物および方法を提供することである。
【0010】
この発明のさらなる目的は、増殖因子で補われたフィブリンフォームの形成のための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の要約
創傷治癒のための組成物、組成物の使用、ならびにそれを使用するキットおよび方法がここに記載される。
【0012】
1つの局面では、この発明の組成物は、そこに組込まれた増殖因子の増強された制御放出を伴うフィブリンマトリックスを形成することに対して好適である。
【0013】
好ましい局面では、この発明の組成物は、完全な架橋が生ずる前に必要な部位で適用され得るフィブリンフォームを形成する方法での使用に対して好適である。
【0014】
別の好ましい局面では、この発明の組成物は、さらに、発泡体として投与され得る制御された送達フィブリンマトリックスを形成する方法で使用することに対して好適である。
【0015】
生物分解性があり、多孔性であり、および融合タンパク質がマトリックスに組込まれ、その組込みの態様が、タンパク質がマトリックスに共有結合で連結され、その生理活性を保持し、適用後の第1の時間でゆっくりと放出される、発泡したフィブリンマトリックスを提供する。
【0016】
1つの局面では、この発明は、以下を含む組成物を提供する:
(i)フィブリノゲン;
(ii)フィブリノゲン1mgにつき0.3UI未満の量のトロンビン;および
(iii)PDGFを含む第1のドメイン、およびトランスグルタミナーゼ基質ドメインを含む第2のドメインを含む少なくとも1つの融合タンパク質。組成物はさらにカルシウム源を含み得る。
【0017】
1つの実施の形態では、融合タンパク質の第2のドメインは、因子XIIIa基質ドメインを有するトランスグルタミナーゼ基質ドメイン(TG)を含む。好ましくは、因子XIIIa基質ドメインはSEQ ID NO:1を含む。
【0018】
別の実施の形態では、融合タンパク質は、さらに、融合タンパク質の第1のドメインと第2のドメインとの間に分解部位を含む。好ましい実施の形態では、分解部位は酵素分解部位または加水分解部位である。非常に好ましい実施の形態では、分解部位は酵素分解部位であり、それは、プラスミンおよびマトリックスメタロプロテイナーゼからなる群から選択される酵素によって開裂される。
【0019】
非常に好ましい実施の形態では、融合タンパク質は、SEQ ID NO:2およびSEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含む。
【0020】
別の実施の形態では、フィブリノゲン溶液の濃度は、フィブリノゲン前駆体溶液の約10mg/mlから約130mg/mlの範囲、好ましくは約50mg/mlである。
【0021】
好ましい実施の形態では、トロンビン量は、フィブリノゲンの1mg当たり、約0.04〜0.28I.U.トロンビン、好ましくは、約0.08I.U.トロンビンである。
【0022】
別の実施の形態では、融合タンパク質は、フィブリノゲンの約1〜20μg/mg、好ましくは約1.32〜16μg/mg、より好ましくは約4〜12μg/mgの範囲内の量にある。
【0023】
さらなる局面においては、この発明は、
(i)フィブリノゲンと、PDGFを含む第1のドメインおよび架橋酵素のために基質ドメインを含む第2のドメインを含む少なくとも1つの融合タンパク質とを含む第1の容器と;
(ii)トロンビンを含み、トロンビンの量はフィブリノゲンの1mgに付き0.3U.I.未満トロンビンであり、さらに、カルシウム源を含む第2の容器とを含むキットを提供する。
【0024】
この発明のキットは、さらに、CO2、N2、空気または不活性ガスからなる群から選択される生体適合性のある気体、好ましくは空気を含み得る。生体適合性のある気体は第1または第2の容器のいずれかにある。
【0025】
さらなる局面では、この発明は、少なくとも1つの融合タンパク質を含むフィブリンマトリックスを調製する方法であって、以下のステップを含む方法を提供する:
(i)フィブリノゲン溶液を提供するステップ;
(ii)トロンビンの量がフィブリノゲンの1mg当たり0.3未満I.U.のトロンビンであるトロンビン溶液を提供するステップ;
(iii)PDGFを含む第1のドメイン、およびトランスグルタミナーゼ基質ドメインを含む第2のドメインを含む少なくとも1つの融合タンパク質を提供するステップ;および
(iv)ステップ(i)、(ii)および(iii)において提供された成分を混合して、マトリックス材料を架橋し、融合タンパク質が第2のドメインを介してマトリックスに共有結合で連結されるステップ。
【0026】
フィブリンフォームを形成するために、ステップ(i)、(ii)および(iii)において提供された成分を、CO2、N2、空気または不活性ガスからなる群から選択される生物適合性のある気体、好ましくは空気と混合して、発泡体材料を架橋し、融合タンパク質を第2のドメインを介してマトリックスと共有結合で連結する。
【0027】
好ましい実施の形態では、フィブリノゲン溶液の体積は、生体適合性のある気体の体積の約40〜60%、好ましくは約50%である。
【0028】
さらなる局面では、この発明は、この発明の方法によって得られる制御された送達フィブリンマトリックスを提供する。好ましくは、制御された送達フィブリンマトリックスは、増殖因子の25%以下が、バッファ溶液中での37℃での3日間の、制御された送達フィブリンマトリックスのインキュベーションの後に放出される、という点で特徴づけられる。
【0029】
代替的に、この発明は、この発明の方法によって得られる制御された送達フィブリンフォームを提供する。好ましくは、制御された送達フィブリンフォームは、増殖因子の25%以下が、バッファ溶液中での37℃での3日間の、制御された送達フィブリンマトリックスのインキュベーションの後に放出される、という点で特徴づけられる。
【0030】
1つの局面では、この発明は以下を含むフィブリンフォームを提供する:
(i)フィブリノゲン;
(ii)フィブリノゲンの1mg当たり0.3I.U.未満の量であるトロンビン;
(iii)PDGFを含む第1のドメイン、およびトランスグルタミナーゼ基質ドメインを含む第2のドメインを含む少なくとも1つの融合タンパク質;および
(iv) CO2、N2、空気または不活性ガスからなる群から選択される生体適合性のある気体、好ましくは空気。
【0031】
別の局面では、この発明は、PDGFで補われたフィブリンフォームを調製する方法を提供する。この方法は、以下のステップを含む:
(i)フィブリノゲン溶液を提供するステップ;
(ii)トロンビンの量がフィブリノゲンの1mg当たり0.3I.U.未満のトロンビンであるトロンビン溶液を提供するステップ;
(iii)血小板由来増殖因子(PDGF)を含む第1のドメインとトランスグルタミナーゼ基質ドメインを含む第2のドメインとを含む少なくとも1つの融合タンパク質を提供するステップ;
(iv)生体適合性のある気体を提供するステップ;および
(v)ステップ(i)、(ii)、(iii)および(iv)で得られた成分を混合してフィブリンフォームを形成するステップ。
【0032】
1つの実施の形態では、融合タンパク質の第2のドメインは、因子XIIIa基質ドメインを有するトランスグルタミナーゼ基質ドメイン(TG)を含む。好ましくは、因子XIIIa基質ドメインは、SEQ ID NO:1であるか、またはSEQ ID NO:1を含む。
【0033】
別の実施の形態では、融合タンパク質は、さらに、融合タンパク質の第1のドメインと第2のドメインとの間に分解部位を含む。好ましい実施の形態では、分解部位は酵素分解部位または加水分解部位である。非常に好ましい実施の形態では、分解部位は酵素分解部位であり、それは、プラスミンおよびマトリックスメタロプロテイナーゼからなる群から選択される酵素によって開裂される。
【0034】
別の好ましい実施の形態では、融合タンパク質は、SEQ ID NO:2およびSEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含む。
【0035】
別の実施の形態では、生体適合性のある気体は、CO2、N2、空気またはフレオンのような不活性ガスからなる群から選択され、好ましくは空気である。
【0036】
別の実施の形態では、フィブリノゲン溶液の濃度は、フィブリノゲン前駆体溶液の約10mg/mlから130mg/mlの範囲、好ましくは約50mg/mlである。
【0037】
好ましい実施の形態では、トロンビン量は、フィブリノゲンの1mg当たり約0.04〜0.28I.U.のトロンビン、好ましくは、約0.08I.U.のトロンビンである。
【0038】
別の実施の形態では、融合タンパク質は、フィブリノゲンの約1〜20μg/mg、好ましくは約1.32〜16μg/mg、より好ましくは約4〜12μg/mgの範囲内の量にある。
【0039】
別の実施の形態では、制御された送達フィブリンフォームは、PDGFで補われたフィブリンフォームを調製するためのこの発明の方法によって得られる。
【0040】
好ましい実施の形態では、制御された送達フィブリンフォームは、PDGFの25%以下が、バッファ溶液中での37℃での3日間の、制御された送達フィブリンマトリックスのインキュベーションの後に放出される、という点で特徴づけられる。好ましくは、この発明の制御された送達発泡体に組込まれた融合タンパク質の量は、フィブリンフォームの約0.015mg/mlから約1mg/mlまでの範囲にある。
【0041】
他の実施の形態において提供されるのは:
薬物として使用されるこの発明の制御された送達マトリックスまたは発泡体。
【0042】
創傷の治療で使用されるこの発明の制御された送達マトリックスまたは発泡体であり、創傷は好ましくは糖尿病によって引き起こされた潰瘍である。
【0043】
創傷の治療のための薬物の製造のための制御された送達マトリックスまたは発泡体の使用であり、創傷は好ましくは糖尿病によって引き起こされた潰瘍である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】50mg/mlのフィブリノゲン、250I.U./mlのトロンビン、および600μg/mlのTG−PDGF.ABで調製されたフィブリンマトリックスからのTG−PDGF.ABの対時間(時間)百分率放出の線グラフである。5つの実験がグラフ上でプロットされる。
【図2】50mg/mlのフィブリノゲン、250I.U./mlのトロンビン、および66μg/mlのTG−PDGF.ABで調製されたフィブリンマトリックスからのTG−PDGF.ABの対時間(時間)百分率放出の線グラフである。5つの実験がグラフ上でプロットされる。
【図3】50mg/mlのフィブリノゲン、600μg/mlのTG−PDGF.AB、ならびに4I.U./ml(★)、15I.U./ml(X)、31I.U./ml(▲)、62I.U./ml(■)、125I.U./ml(◆)および250I.U./ml(●)のトロンビンで調製されたフィブリンマトリックスからのTG−PDGF.ABの対時間(時間)百分率放出の線グラフである。
【図4】50mg/mlのフィブリノゲン、66μg/mlのTG−PDGF.AB、ならびに4I.U./ml(●)、15I.U./ml(★)、31I.U./ml(X)、62I.U./ml(▲)、125I.U./ml(■)および250I.U./ml(◆)のトロンビンで調製されたフィブリンマトリックスからのTG−PDGF.ABの対時間(時間)百分率放出の線グラフである。
【図5】50mg/mlのフィブリノゲン、66μg/mlのTG−PDGF.AB(33μg/mlの最終濃度)、および4I.U./mlおよび250I.U./mlのトロンビンで調製されたフィブリンマトリックス、ならびに50mg/mlのフィブリノゲン、600μg/mlのTG−PDGF.AB(300μg/mlの最終濃度)、および4I.U./mlおよび250I.U./mlのトロンビンで調製されたフィブリンマトリックスからのTG−PDGF.ABの対時間(時間)百分率放出の線グラフである。
【図6】50mg/mlのフィブリノゲン、600μg/mlのTG−PDGF.AB、および250I.U./mlのトロンビンで調製され、0I.U./ml(◆)、0.1I.U./ml(■)、1I.U./ml(▲)および10I.U./ml(X)の第XIII因子濃度を有するフィブリンマトリックスからのTG−PDGF.ABの対時間(時間)百分率放出の線グラフである。
【図7】50mg/mlのフィブリノゲン、66μg/mlのTG−PDGF.AB、および250I.U./mlのトロンビンで調製され、0I.U./ml(◆)、0.1I.U./ml(■)、1I.U./ml(▲)および10I.U./ml(X)の第XIII因子濃度を有するフィブリンマトリックスからのTG−PDGF.ABの対時間(時間)百分率放出の線グラフである。
【図8】50mg/mlのフィブリノゲン、600μg/mlのTG−PDGF.AB、および4I.U./mlのトロンビンで調製され、0I.U./ml(◆)、0.1I.U./ml(■)、1I.U./ml(▲)および10I.U./ml(X)の第XIII因子濃度を有するフィブリンマトリックスからのTG−PDGF.ABの対時間(時間)百分率放出の線グラフである。
【図9】50mg/mlのフィブリノゲン、66μg/mlのTG−PDGF.AB、および4I.U./mlのトロンビンで調製され、0I.U./ml(◆)、0.1I.U./ml(■)、1I.U./ml(▲)および10I.U./ml(X)の第XIII因子濃度を有するフィブリンマトリックスからのTG−PDGF.ABの対時間(時間)百分率放出の線グラフである。
【図10】バッファにおいて十分な分解までインキュベートされたテストアイテム(バッファ変更有り(◆))または14日にわたって分解無しでインキュベートされたテストアイテム(バッファ変更無し(■))からのTG−PDGF.ABの放出比較である。
【図11】フィブリンフォームクロットからのTG−PDGF.ABおよび天然PDGF−ABの、3つの濃度(高、中、低用量)、天然PDGF−AB低用量(◆)、天然PDGF−AB中用量(■)、天然PDGF−AB高用量(▲)、TG−PDGF.AB低用量(X)、TG−PDGF.AB中用量(★)およびTG−PDGF.AB高用量(●)に対する放出プロファイル(%TG−PDGF.AB放出対時間)である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
発明の詳細な記載
I.定義
ここで概して用いられる「マトリックス」は、材料に永久にまたは一時的に依存して、任意の組織またはその組織の機能を処理、増大、または置換する生体系とインタフェースするよう意図される、その材料を指す。マトリックスはそこに組込まれる薬物のための送達装置として働き得る。ここに記載されるマトリックスは、身体における必要な部位で三次元ネットワークを形成することができる液体の前駆体成分から形成される。用語「マトリックス」、「シーラント」および「三次元ネットワーク」は、ここでは同義的に使用される。「マトリックス」および「シーラント」という用語は、前駆体溶液がともに混合され架橋反応が開始した後形成される組成物を指す。したがって、「マトリックス」および「シーラント」という用語は部分的にまたは完全に架橋された重合体のネットワークを包含する。それらは、半固形の形態、たとえば、ペースト、固体ゲルまたは発泡体であってもよい。前駆体材料の種類によって、マトリックスは水で膨張するかもしれないが、水に溶けない、つまりある期間の間体内にとどまるヒドロゲルを形成してもよい。
【0046】
ここで概して用いられる「発泡体/フォーム」は、生体適合性のある気体をそこに組入れたマトリックスを指す。
【0047】
ここで概して用いられる「組成物」は、フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームを形成するために必要とされる前駆体を指す。用語「組成物」は、前駆体溶液がともに混合され架橋反応が開始する前に形成される組成物を指す。
【0048】
ここで概して用いられる「フィブリンマトリックス」は、前駆体成分、フィブリノゲンおよびトロンビンの実質的にすべてが、前駆体成分中に通常存在するカルシウム源、因子XIIIaおよび賦形剤の存在下で架橋して三次元ネットワークを形成する処理の生成物を意味する。
【0049】
ここで概して用いられる「フィブリンフォーム」は、前駆体成分、フィブリノゲンおよびトロンビンの実質的にすべてが、カルシウム源、因子XIIIaの存在下、ならびに前駆体成分中に通常存在する生体適合性のある気体および賦形剤の存在下で架橋して、生体適合性のある気体を含む三次元ネットワークを形成する処理の生成物を意味する。
【0050】
ここで概して用いられる「架橋する」は、共有結合連結の形成を意味する。
ここで概して用いられる「補足されたマトリックス」は、融合タンパク質が放出可能にそこに組込まれるマトリックスを指す。
【0051】
ここで用いられる「制御(される/された)放出」または「制御(される/された)送達」は、同じ意味を持っており、フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォーム内の作用物質の保持を指す。「制御(される/された)放出」、「制御(される/された)送達」という用語は、時間にわたって放出される作用物質の量、および/または作用物質の放出の割合が制御されることを意味する。
【0052】
II. フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームおよび融合タンパク質
フィブリノゲン、トロンビン、および増殖因子を含む第1のドメインとトランスグルタミナーゼ基質ドメインを含む第2のドメインとを有する少なくとも1つの融合タンパク質を含むフィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームが提供される。
【0053】
フィブリンマトリックスは、典型的にはフィブリノゲン、融合タンパク質、凝固因子XIII基質および凝固因子XIIIaを含む第1の溶液と、典型的には塩基水溶液にトロンビンおよび塩化カルシウムを含む第2の溶液とを組み合わせることにより調製される。フィブリンフォームは、典型的にはフィブリノゲン、増殖因子、凝固因子XIII基質および凝固因子XIIIaを含む第1の溶液、ならびに典型的には塩基水溶液にトロンビンと塩化カルシウムとを含む第2の溶液に、生体適合性のある気体を組み合わせることにより調製される。好ましい実施の形態では、トロンビンの量はフィブリノゲンの1mg当たり0.3U.I.未満のトロンビンである。
【0054】
A. フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォーム
フィブリンはいくつかの生物医学的な適用例のために報告された天然材料である。フィブリンゲルは、多くの組織を結合するそれらの能力および創傷治癒におけるそれらの自然な役割により、シーラントとして使用されてきた。いくつかの特定の適用例は、血管グラフト取付け、心臓弁取付け、骨折中の骨位置決めおよび腱修復用のシーラントとしての使用を含む。さらに、これらのゲルは、薬物送達装置として、ならびにニューロンの再生のため、および細胞内殖マトリックスの材料のためにも使用されてきた(ハベルらへの米国の特許6,331,422号)。
【0055】
フィブリノゲンがフィブリンに重合されるプロセスも特徴づけられている。最初に、プロテアーゼが二量体のフィブリノゲン分子を2つの対称な部位で開裂する。トロンビン、ペプチダーゼおよびプロテアーゼIIIを含む、フィブリノゲンを開裂し得るいくつかの考えられ得るプロテアーゼがあり、各々は異なる部位でタンパク質に役立つ。一旦フィブリノゲンが開裂されると、自己重合ステップが生じ、フィブリノゲンモノマーが集まって、非共有結合で架橋されたポリマーゲルを形成する。この自己集合が起こるのは、プロテアーゼ開裂が生じた後、結合部位が露出されるからである。一旦それらが露出されると、分子の中心にあるこれらの結合部位は、ペプチド鎖の端に存在するフィブリノゲン鎖上の他の部位へ結合し得る。このようにして、ポリマーネットワークが形成される。その後、トロンビンタンパク質分解によって第XIII因子から活性化された因子XIIIa、トランスグルタミナーゼが、共有結合で重合体のネットワークに架橋してもよい。他のトランスグルタミナーゼが存在し、フィブリンネットワークへの共有結合架橋およびグラフトに関係してもよい。
【0056】
架橋されたフィブリンゲルが形成されると、後の分解は厳しく制御される。フィブリンの分解の制御における重要な分子のうちの1つは、α2−プラスミン阻害因子である。この分子は、因子XIIIaの作用を通じてフィブリンのα鎖に架橋することにより作用する。それ自体をゲルに取付けることによって、高濃度の阻害因子がゲルに局在化され得る。その後、阻害因子は、フィブリンへのプラスミノゲンの結合を防ぎプラスミンを不活性化することにより作用する。α2−プラスミン阻害因子はグルタミン基質を含む。
【0057】
1つの実施の形態では、フィブリンマトリックスを形成することができる組成物は、少なくとも1つの融合タンパク質に加えて2つの前駆体溶液を含む。
【0058】
別の実施の形態では、フィブリンフォームを形成することができる組成物は、2つの前駆体溶液、少なくとも1つの融合タンパク質、および生体適合性のある気体を含む。フィブリンフォームの形成は、フィブリンネットワークの架橋中に生体適合性のある気体を前駆体溶液に組込むことにより行われる。これは、米国再発行特許RE39,321に述べられているような推進剤の使用によって行うことができるかもしれず、その内容をここに引用により援用する。または、生体適合性のある気体の組込みは、気体を前駆体溶液と機械的に混合することによりなされ得る。生体適合性のある気体は生理学上受入れ可能で、薬学的適用に好適でなければならず、圧力下であろうとなかろうと、従来認識されるガス、たとえばCO2、N2、空気、フロンのような不活性ガスなどを含んでもよい。好ましくは、生体適合性のある気体は空気である。代替的に、乾燥したフィブリン成分が、気体を発生させる材料で補われ、したがって、水和する作用物質との接触で発泡してもよい。1つの好ましい実施の形態では、フィブリノゲン溶液の体積は、生体適合性のある気体の体積の約40〜60%である。好ましくは、フィブリノゲン溶液の体積は生体適合性のある気体の体積の約50%である。
【0059】
1.フィブリノゲン
第1の前駆体溶液は、前駆体溶液の1ミリリットル当たり、好ましく10〜130mg、より好ましくは30〜120mg、さらにより好ましくは40〜110mg、最も好ましくは50mgの濃度範囲のフィブリノゲンを含有する。フィブリノゲンは、好ましくは水性のバッファ溶液の中で可溶性になる。さらにより好ましくは、フィブリノゲン希釈バッファは、水、クエン酸ナトリウムを好ましくは25mMの濃度で、ナイアシンアミドを好ましくは50mMの濃度で、およびヒスチジンを好ましくは100mMの濃度で含み、好ましくは7.3のpHを有する。
【0060】
2.トロンビン
フィブリノゲン溶液および/またはトロンビン溶液の濃度は、形成されたネットワークの密度、および最終のフィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームの凝固速度または架橋速度に大きな影響を有する。典型的には、トロンビンの量の低減は架橋プロセスを遅くし、フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームをより密度の低いネットワークで形成することに貢献する。驚いたことに、トロンビンおよびフィブリノゲンの量の比率の制御は、特に、高濃度の増殖因子がマトリックスまたはフォームに組込まれる場合には、より延長された増殖因子の放出に至る。さらに、トロンビン対フィブリノゲンの量の比率は、フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームに、より密度の低いネットワークを与え、それは、細胞浸潤または内殖、およびしたがって創傷治癒に対してより好適である。
【0061】
好ましい実施の形態では、第2の前駆体溶液はトロンビンを含有し、トロンビン量は、フィブリノゲン1mg当たり、0.3U.I.未満のトロンビンであり、好ましくは0.04〜0.28I.U.の範囲のトロンビンであり、より好ましくは0.06〜0.1I.U.の範囲のトロンビンであり、最も好ましくは0.08I.U.のトロンビンである。トロンビンは、好ましくは、水性のバッファ溶液の中で可溶性になる。さらにより好ましくは、トロンビン希釈バッファは、水、塩化カルシウムを好ましくは40mMの濃度で、塩化ナトリウムを好ましくは75mMの濃度で含み、好ましくは7.3のpHを有する。
【0062】
3.カルシウム源
カルシウムイオン源は、前駆体溶液の少なくとも1つ、および好ましくは第2の前駆体溶液の中にあってもよい。カルシウムイオン源は、好ましくは、前駆体溶液の1ml当たり、好ましくは1〜10mg、より好ましくは4〜7mg、最も好ましくは5〜6mgの間の濃度範囲でのCaCl2・2H2Oである。
【0063】
4.架橋酵素
第XIII因子のような、それが活性化された後マトリックス形成を触媒することができる酵素が、前駆体溶液の少なくとも1つに添加されてもよい。好ましくは、第XIII因子は、フィブリノゲン前駆体溶液中において、前駆体溶液の1ミリリットル当たり、0.5〜100I.U.、より好ましくは1〜60I.U.、最も好ましくは1〜10I.U.の間の濃度範囲で存在する。
【0064】
B.融合タンパク質
増殖因子を隔離するために、タンパク質を修飾 して、それがフィブリンに取付くことができるようになることが必要である。これはいくつかの方法で達成され得る。例として、これは、結果として得られる融合タンパク質への第XIII因子基質の添加を通じて達成されてもよい。選択肢として、融合タンパク質は分解部位を含んでもよい。
【0065】
好ましい増殖因子はトランスフォーミング増殖因子(TGFβ)スーパーファミリーのメンバーであり、血小板由来増殖因子(PDGF)スーパーファミリーのメンバーである。特に、好ましいメンバーはPDGF、PDGF A、PDGF B、PFGF D、PDGF BB、PDGF AB、TGFβ、BMP、VEGFおよびインスリン様増殖因子(IGF)であり、最も好まれるのは、PDGF AB、TGFβl、TGFβ3、BMP2、BMP7、VEGF 121およびIGF 1である。
【0066】
好ましい実施の形態では、融合タンパク質は、SEQ ID NO:2およびSEQ ID NO:3のアミノ酸配列(ここではTG−PDGFと称される)を含む。
【0067】
追加のアミノ酸配列を、増殖因子に添加して、分解部位および/または基質を架橋酵素のために含めてもよい(以下において、「TG−degr」フックと称される)。アミノ酸配列は増殖因子の構造に基づいて選択される。増殖因子が異質二量体または同質二量体である場合、追加のアミノ酸は、一方または両方の鎖の末端に取付けられ得る。好ましい実施の形態では、TG−degr−配列は両方の鎖に取付けられる。増殖因子の構造(つまりタンパク質内の活性中心の位置)によって、TG―degr―配列は、鎖のN末端および/またはC末端に取付けられ得る。好ましい実施の形態では、TG−degr−配列はN末端に取付けられる。増殖因子がPDGF AB(異質二量体)またはTGFβl(同質二量体)である場合、TG−degr−配列は両方の鎖のN末端に取付けられる。
【0068】
合成因子XIIIa基質の添加は、融合タンパク質のアミノまたはカルボキシル末端のいずれかで天然増殖因子配列および因子XIIIa基質を含む融合タンパク質を発現することにより達成され得る。この修飾はDNAレベルで行われる。全タンパク質は、それらが固相化学合成によって合成されることにおいて困難さを呈する。増殖因子をコード化するDNA塩基配列は、細菌の発現のための最適なコドン使用に適合される。その後、DNA塩基配列は、細菌DNAに頻繁に生じるコドンを使用して、所望の因子XIIIa基質に対して決定される。
【0069】
一連の遺伝子フラグメントがDNA合成に先立って設計される。約50bpごとにエラーを含む、ほとんどのDNA合成のエラー頻度のため、遺伝子は長さが約100bpであるよう構築される。これにより、適切なDNA塩基配列を含むものを見つけるためにスクリーニングされなければならないコロニーの数が低減される。1つの遺伝子が終了し、次のものが始まる位置は、遺伝子内の特有の制限酵素切断部位の自然な発生に基づいて選択され、その結果、可変長のフラグメント(またはオリゴヌクレオチド)をもたらす。そのプロセスは、所与のDNA塩基配列の内の制限酵素部位の位置および頻度を識別するソフトウェアの使用によって大きく支援される。
【0070】
一旦遺伝子フラグメントが成功裡に設計されると、クローニングプラスミドの中への各フラグメントのライゲーションを可能にするために、共通の制限酵素部位が各フラグメントの端部に含まれる。たとえば、EcoRIおよびHindIII部位を各遺伝子フラグメントに加えることは、それがpUC 19のポリリンカークローニング領域に挿入されることを可能にする。その後、各遺伝子フラグメントの3’および5’一本鎖は、クローニングベクターへの挿入のために適切な付着端を伴う標準的固相合成を使用して合成される。その後、開裂および脱塩に続いて、一本鎖フラグメントは、PAGEによって精製されアニールされる。リン酸化の後、アニールされたフラグメントは、pUC 19のようなクローニングベクターにライゲートされる。
【0071】
代替的に、2つのDNA分子を、オーバーラップ伸張PCR(Mergulhaoら、Mol Biotechnol、1999年10月;12(3):285−7)を使用して、ともにスプライシングし得る。まず、遺伝子が、結果として得られるPCR生成物の端部が相補的配列を含むよう設計されたオリゴヌクレオチドプライマーを使用して、各分子に対して実行されるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅される。2つのPCR生成物が混合、変性、再アニールされると、相補的配列を有する一本鎖DNA鎖はアニールし、互いに対してプライマーとして作用する。DNAポリメラーゼによるアニールされた領域の伸張は、元の分子がともにスプライシングされる二本鎖DNA分子を生成する。オーバラップ伸長による遺伝子スプライシング(SOE)は、組換え部位におけるヌクレオチド配列にかかわらず、および制限エンドヌクレアーゼまたはリガーゼを使用せずに、正確な接合でのDNA分子の組換えを可能にする。SOEアプローチは、ヌクレオチド配列を組換え修飾するのに、高速で、単純で、非常に強力な方法である。
【0072】
ライゲーションに続いて、プラスミドはDH5−F’コンピテント細胞に転換され、イソプロピル―D―チオガラクトピラノシド(IPTG)/ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−D−ガラクトピラノシド(X−gal)プレート上にプレートされ、遺伝子フラグメントの挿入のためのスクリーニングを行う。その後、遺伝子フラグメントを含む、生じたコロニーは、適切な長さの挿入のためにスクリーニングされる。これは、アルカリ性の溶解ミニプレッププロトコルによって形質転換細胞のコロニーからプラスミドを精製し、遺伝子フラグメントのいずれかの端部にある制限酵素部位でプラスミドを消化することにより、達成される。アガロースゲル電気泳動法による適切な長さのフラグメントの検知で、プラスミドは配列される。
【0073】
適切な配列を伴う遺伝子フラグメントを含むプラスミドが同定されると、その後、フラグメントは切り取られ、十分な遺伝子を組み立てるために使用される。毎回、1つのプラスミドが挿入点において酵素で切断され、脱リン酸化の後に、アガロースゲルから精製される。一方、挿入されるべきフラグメントを含む第2のプラスミドも切断され、挿入されるべきフラグメントがアガロースゲルから精製される。その後、挿入物DNAは脱リン酸化されたプラスミドにライゲートされる。このプロセスは、十分な遺伝子が組み立てられるまで継続される。その後、遺伝子はpET 14bのような発現ベクターに移動されて、発現のために細菌に転換される。この最終ライゲーションの後、十分な遺伝子を配列して、それが正確であることを確認する。
【0074】
融合タンパク質の発現は、細菌を対数増殖期中期に達するまで増殖させ、融合タンパク質の発現を誘発することにより達成される。発現は約3時間継続され、細胞を次いで採取する。細菌細胞ペレットを得た後、細胞を溶解する。細胞膜および細胞残屑は、トリトンX100(Triton X100)で細胞溶解産物ペレットを洗浄することにより取除かれ、封入体を比較的純粋な形態で残す。融合タンパク質は高い尿素濃度を用いて可溶性にされ、ヒスチジンアフィニティークロマトグラフィーによって精製される。その後、生じたタンパク質は、ゆっくり減少する量の尿素に対する透析によって徐々に復元され、凍結乾燥される。
【0075】
III.融合タンパク質の組込みおよび/または放出のための方法
開示された融合タンパク質補足フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームは、フィブリノゲンの凝固によって形成される。カルシウム源、トロンビン、フィブリノゲンおよび少なくとも1つの融合タンパク質が、補足されたフィブリンマトリックスを形成する。別の実施の形態では、カルシウム源、トロンビン、フィブリノゲン、少なくとも1つの融合タンパク質および生体適合性のある気体が、補足されたフィブリンフォームを形成する。
【0076】
外来性のペプチドを、2つのドメインを含む融合タンパク質として設計し得、ここで、第1のドメインは、ペプチド、タンパク質または多糖類のような生理活性因子であり、第2のドメインは、因子XIIIaのような架橋酵素のための基質である。因子XIIIaは凝固中に活性であるトランスグルタミナーゼである。トロンビンによる開裂により第XIII因子から自然に形成されるこの酵素は、グルタミン側鎖とリジン側鎖との間で形成されるアミド結合によってフィブリン鎖を互いに対して取付けるよう機能する。因子XIIIaは、さらに、タンパク質アルファ2プラスミン阻害因子のような他のタンパク質を凝固中にフィブリンに取付ける。このタンパク質のN末端領域、具体的には配列NQEQVSP(SEQ ID NO:1)は、因子XIIIaのための有効な基質として機能することが示された。このペプチドの第2のドメインは、ペプチド、タンパク質または多糖類のような生理活性因子を含み得る(サキヤマ(Sakiyama)−エルバート(Elbert)ら、(2000)、J. 制御放出(Controlled Release)65:389−402参照)。そのような融合タンパク質は、生理活性因子(たとえば増殖因子)を凝固中に因子XIIIa基質を介してフィブリン内に組込むために使用されてもよい。
【0077】
驚いたことに、トロンビンの量を低減すること(フィブリノゲン定数の量を保持すること)は、フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームからの融合タンパク質の延長された制御放出を考慮する。トロンビンの量を低減することは、時間にわたって放出される増殖量上の制御、および増殖因子の放出の割合の制御を考慮に入れる。この効果はフィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームに最初に組込まれた増殖因子の量に対して独立している。1つの好ましい実施の形態では、トロンビンは、フィブリノゲン1mg当たり、0.3U.I.未満のトロンビンであり、好ましくは0.04〜0.28I.U.の範囲のトロンビンであり、より好ましくは0.06〜0.1I.U.の範囲のトロンビンであり、最も好ましくは0.08I.U.のトロンビンで用いられる。融合タンパク質は、増殖因子を有する第1のドメイン、およびトランスグルタミナーゼ基質ドメインを有する第2のドメインを含む。好ましい実施の形態では、トランスグルタミナーゼ基質ドメインは因子XIIIa基質ドメインである。
【0078】
上に共有結合で連結された少なくとも1つの融合タンパク質を含むフィブリンマトリックスを調製するための一般的な方法は、次のステップを含む:
(i)フィブリノゲン溶液を提供するステップ;
(ii)トロンビンの量がフィブリノゲンの1mg当たり0.3未満I.U.のトロンビンであるトロンビン溶液を提供するステップ;
(iii)生理活性因子を含む第1のドメイン、およびトランスグルタミナーゼ基質ドメインを含む第2のドメインを含む少なくとも1つの融合タンパク質を提供するステップ;および
(iv)ステップ(i)、(ii)、(iii)で得られた成分を混合してマトリックス材料を架橋し、融合タンパク質を第2のドメインを通してマトリックスに共有結合で連結するステップ。
【0079】
マトリックスは、ゲル、ヒドロゲル、フィルム、ペースト、クリーム、スプレー、軟膏、ラップもしくは包帯からなる群から選択される形式であり得、またはある実施の形態ではマトリックスは発泡体の形式であり得る。
【0080】
上に共有結合で連結される少なくとも1つの融合タンパク質を含むフィブリンフォームを調製するための一般的な方法は、次のステップを含む:
(i)フィブリノゲン溶液を提供するステップ;
(ii)トロンビンの量がフィブリノゲンの1mg当たり0.3I.U.未満のトロンビンであるトロンビン溶液を提供するステップ;
(iii)血小板由来増殖因子(PDGF)を含む第1のドメインとトランスグルタミナーゼ基質ドメインを含む第2のドメインとを含む少なくとも1つの融合タンパク質を提供するステップ;
(iv)生体適合性のある気体を提供するステップ;および
(v)ステップ(i)、(ii)、(iii)および(iv)で得られた成分を混合してフィブリンマトリックスを形成するステップ。
【0081】
得られた、制御された送達フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームは、増殖因子の25%以下が、バッファ溶液中での37℃での3日間の、制御された送達フィブリンフォームのインキュベーションの後に放出される、という点で特徴づけられる。
【0082】
1つの実施の形態では、融合タンパク質量は、フィブリノゲンの約1〜20μg/mg、好ましくは約1.32〜16μg/mg、より好ましくは約4〜12μg/mgの範囲内にある。
【0083】
好ましい実施の形態では、フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームは、身体内または身体上の元の位置に(in situ)架橋される。フィブリノゲン前駆体溶液およびトロンビン前駆体溶液は、溶液の重合を可能にする条件の下における互いとの組合わせまたは接触を防ぐために、身体への混合物の適用に先立って分離されるべきである。投与に先立って接触を防ぐために、溶液を互いから分離するキットが使用されてもよい。重合を可能にする条件の下で混合すると、組成物は融合タンパク質で補足されたフィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームを形成する。前駆体溶液およびそれらの濃度によって、架橋が、混合の後、ある程度瞬間的に生じ得る。そのような高速な架橋は、注射針によるゲル状材料または発泡材料の適用または注入、つまり圧搾をほとんど不可能にする。
【0084】
驚いたことに、トロンビンの量がフィブリノゲンの1mg当たり0.3I.U.未満のトロンビンであるような、トロンビンおよびフィブリノゲンの量は、共有結合で連結される増殖因子で補われたフィブリンフォームを形成するのに好適である。前駆体溶液の混合で、適用された表面から流れ出るよう十分に固形である発泡体を生成するのに十分高速で、かつ完全な架橋前および適用装置または注入装置の目詰まりの前に必要な部位に発泡体が適用または注入されるのに十分に低速で、架橋が生ずる。この方法、およびトロンビンとフィブリノゲンとの比率は、材料を、前駆体溶液の混合から1分未満で、好ましくは30秒未満で、より好ましくは15秒以内に適用または注入するのに充分適している。適用または注入されたフィブリンフォームは投与部位にとどまるよう十分に粘着性で、所望される形状で投与されるよう十分に柔軟性がある。1つの実施の形態では、マトリックスはフィブリノゲンから形成される。適切な温度およびpHでトロンビンおよびカルシウム源に接触させられると、フィブリノゲンは、さまざまな反応の段階的過程を経て、ゲル化し、マトリックスを形成する。3つの成分、フィブリノゲン、トロンビンおよびカルシウム源は、別々に保存されるべきである。しかしながら、3つの成分の少なくとも1つが分離されて維持される限り、他の2つの成分を投与に先立って組合わせ得る。
【0085】
1つの実施の形態では、フィブリノゲンは、さらに、安定性を増加させるためにアプロチニンを含んでもよく、pH6.5〜8.0、好ましくはpH7.0〜7.5の範囲である生理的pHでバッファ溶液に溶解される。フィブリノゲンのためのバッファ溶液は、水、クエン酸ナトリウムを好ましくは25mMの濃度で、ナイアシンアミドを好ましくは50mMの濃度で、およびヒスチジンを好ましくは100mMの濃度で含み得、好ましくは7.3のpHを有する。塩化カルシウムバッファ中のトロンビン(たとえば40〜50mMの濃度範囲)が調製される。その後、フィブリノゲンは、トロンビン溶液とは別々に保存される。フィブリノゲン溶液およびトロンビン溶液は貯蔵安定性を増強するよう冷凍で保存され得る。使用に先立って、フィブリノゲン溶液およびトロンビン溶液は、(必要な場合は)解凍され、そして混合される。別の実施の形態では、フィブリノゲンおよびトロンビンは、カルシウム源とは別々に保存され得る。さらに別の実施の形態では、フィブリノゲンは、カルシウム源とともに保存され、トロンビンからは分離され得る。
【0086】
IV.キット
別の実施の形態では、融合タンパク質、フィブリノゲン、トロンビン、カルシウム源および選択肢として生体適合性のある気体を含むキットが提供される。選択肢として、キットは、因子XIIIaのような架橋酵素を含んでもよい。融合タンパク質は、増殖因子、架橋酵素のための基質ドメイン、および選択肢として基質ドメインと生理活性因子との間の分解部位用を含む。融合タンパク質はフィブリノゲン溶液またはトロンビン溶液のいずれかの中にあってもよい。好ましい実施の形態では、フィブリノゲン溶液は融合タンパク質を含む。生体適合性のある気体はフィブリノゲン溶液またはトロンビン溶液のいずれかの中にあってもよい。好ましくは、生体適合性のある気体はトロンビン溶液の中にある。溶液および選択肢として生体適合性のある気体は、好ましくは、2方向注射器装置によって混合され、その中では、混合室および/または針および/またはスタティックミキサを介して両方の注射器の内容物を圧搾することにより、混合が生じる。
【0087】
好ましい実施の形態では、フィブリノゲンおよびトロンビンの両方は、凍結乾燥された形式で別々に保存される。2つのどちらかは融合タンパク質を含み得る。使用に先立って、フィブリノゲン希釈バッファは凍結乾燥されたフィブリノゲンに添加され、バッファはさらにアプロチニンを含んでもよい。凍結乾燥されたトロンビンは、塩化カルシウム溶液において溶解される。続いて、フィブリノゲン溶液およびトロンビン溶液は別々の容器/ガラス瓶/注射器本体に置かれ、2方向注射器のような2方向接続装置によって混合される。選択肢として、容器/ガラス瓶/注射器本体は二部構成で、2室が注射器本体壁に垂直な調整可能な仕切りによって分離されている。2室のうちの1つは凍結乾燥されたフィブリノゲンまたはトロンビンを含み、その一方で他方の室は適切なバッファ溶液を含む。プランジャが押し下げられると、仕切りは移動し、バッファをフィブリノゲン室に放出し、フィブリノゲンを溶解させる。フィブリンフォームを形成するために、生体適合性のある気体を、フィブリノゲン溶液またはトロンビン溶液を含む容器/ガラス瓶/注射器本体のうちの任意のものに添加し得る。一旦フィブリノゲンおよびトロンビンの両方が溶解されると、両方の二部構成注射器本体は2方向接続装置に取付けられ、内容物は、接続装置に取付けられた注射針を通ってそれらを圧搾することにより混合される。選択肢として、接続装置は、内容物の混合を改善するよう、スタティックミキサを含む。
【0088】
好ましい実施の形態では、フィブリノゲン溶液の体積は、混合に先立って、生体適合性のある気体の体積の約40〜60%、好ましくは50%である。この比率の結果、約15秒のウィンドウがもたらされ、その間に、発泡プロセスが開始し、十分な架橋が生じる前に必要な部位で適用または注入され得る表面接着性材料を生成する。これは、水平ではない表面に材料を適用することを可能にし、材料が表面から流れ出るのを防ぐことを可能にする。これは、治療される表面が患者の足または脚のように水平でない場合に、創傷治癒指標として特に役立つ。
【0089】
別の好ましい実施の形態では、混合に先立って、フィブリノゲンは50mg/mlの量で使用され、トロンビンは、4I.U./mlの量で使用され、TG−PDGF.ABは、1〜600μg/mlの範囲の量で使用される。この比率は、バッファ溶液中における3日間の37℃での制御された送達フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームのインキュベーションの後に放出される25%までの融合タンパク質の量をもたらす結果となる。
【0090】
V.使用の方法
開示された融合タンパク質補足フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームは、移植前または移植時において、組織の修復、再生もしくはリモデリング、および/または生理活性因子の放出のために使用され得る。
【0091】
この発明の制御された送達マトリックスまたは発泡体は、創傷の治療に使用され得、好ましくは、創傷は、糖尿病によって引き起こされた潰瘍である。
【0092】
細胞のマトリックスに対する添加も、移植前または移植時において、またはさらには移植後においてでも、重合体が架橋してマトリックスを形成する際または形成した後に、行ない得る。これは、細胞増殖または内殖(in-growth)を促進することよう設計された間質間隔を形成するようマトリックスを架橋することに加えて、または架橋することの代わりであってもよい。
【0093】
他の態様で定義されなければ、ここに使用される技術用語および科学用語はすべて開示される発明が属する技術分野の当業者によって共通に理解されるのと同じ意味を有する。ここに引用される刊行物、およびそれらが引用される材料は、具体的に引用により援用される。
【0094】
当業者は、通常の実験のみを用いて、ここに開示される発明の具体的な実施の形態の多数の等価物を認識または確認できるだろう。そのような等価物は、特許請求の範囲に包含されるよう意図される。
【実施例】
【0095】
TG−PDGF.ABの形成
これらの実験で使用されるPDGF ABは、110のアミノ酸のPDGF A鎖および109のアミノ酸のPDGF B鎖から構成されていた。(TGホックのない)PDGF ABのこの形式は、人体で自然に見つけられ得る。
【0096】
PDGF AB配列はフィブリンマトリックスへの共有結合を考慮に入れるよう修飾された。さらに21のアミノ酸、プラスミン分解部位を含むTG―ホックが、以下のように、PDGF ABのN末端の両方に取付けられた:
TG―N(A)・・・・・・・・C(A)
C(B)・・・・・・・・N(B)―TG
NはN末端を指し;CはC末端を指し;(A)はA鎖を指し;および(B)はB鎖を指す。
【0097】
TG−PDGF Aのアミノ酸配列は次のとおりである:
MNQEQVSPLPVELPLIKMKPHSIEEAVPAVCKTRTVIYEIPRSQVDPTSANFLIWPPCVEVKRCTGCCNTSSVKCQPSRVHHRSVKVAKVEYVRKKPKLKEVQVRLEEHLECACATTSLNPDYREEDTDVR(SEQ ID NO:2)。
【0098】
TG−PDGF Bのアミノ酸配列は次のとおりである:
MNQEQVSPLPVELPLIKMKPHSLGSLTIAEPAMIAECKTRTEVFEISRRLIDRTNANFLVWPPCVEVQRCSGCCNNRNVQCRPTQVQLRPVQVRKIEIVRKKPIFKKATVTLEDHLACKCETVAAARPVT(SEQ ID NO:3)。
【0099】
異質二量体TG−PDGF ABのA鎖およびB鎖は、細菌システムで別々に発現された。細菌細胞の封入体を可溶性にしてA鎖またはB鎖をそれぞれ放出した。両方とも、A鎖およびB鎖溶液を陽イオン交換カラムの使用により(別々に)精製した。続いて、A鎖およびB鎖は還元、変性または沈殿された。沈殿物を溶解し、A鎖およびB鎖溶液は、再折りたたみステップのために混合された。TG−PDGF ABへの再折りたたみは、バッファ溶液において3〜5日の期間にわたって生じた。再折りたたみされたタンパク質は、陽イオン交換カラムに続いてゲルろ過カラムを含む、2ステップの精製工程によって精製された。
【0100】
放出研究プロトコル
各実験ごとに、100μL−ゲルを、バクスター(Baxter)からのDuPloject(商標)装置を使用して、3部作成した。これらの2注射器装置は、2つの注射器に含まれる、等しい量の、TG−PDGF.ABを含むフィブリノゲン溶液およびトロンビン溶液の混合を可能にする。一方の注射器はフィブリノゲン溶液を含む。第1の前駆体溶液は、バクスターAG(オーストリア、ウィーン)からのTISSEEL VHTMまたはVH S/DTM(S/Dは、追加安全性を提供するよう、追加されたウイルス不活性化ステップである)のフィブリノゲン成分を、フィブリノゲンの50mg/mlの濃度に対し、水、クエン酸ナトリウム25mM、ナイアシンアミド50mM、およびヒスチジン100mMを含むバッファ溶液で希釈することにより調製される。第1の前駆体溶液は7.3のpHを有する。TG−PDGF.ABは、66μg/ml、200μg/mlまたは600μg/mlの濃度でフィブリノゲン前駆体溶液に添加される。第2の注射器は、4IU/ml、15IU/ml、31IU/ml、62IU/ml、125IU/mlおよび250IU/mlの最終トロンビン濃度に対して塩化カルシウム40mMおよび塩化ナトリウム75mMを含有するバッファにおいて希釈された(実施例に示されるように異なる量の)バクスターAG(オーストリア、ウィーン)からのTISSEEL VHTMまたはVH S/DTM(S/Dは、さらなる安全性を与えるよう、追加されたウイルス不活性化ステップである)から得られるトロンビンを含有する。注射器溶液は等しい体積で混合される。
【0101】
ゲルは37℃で1時間乾燥された。それらは、10mlの放出バッファ(TRIS 10mM、NaCl 70mM、KCl 1.3mM、BSA 0.1%、pH 7.4)を含む15mlファルコンチューブに挿入され、インキュベータの中で37℃で72時間インキュベートされた。100μL放出バッファ部分標本が、適切な時点(約6時間、24時間、48時間および72時間)で採取された。異なる時点で放出バッファに含まれていたPDGF−AB濃度を、組織内のELISAアッセイを使用して判断した。
【0102】
実施例1:高用量および低用量TG−PDGF.ABの放出割合
放出研究プロトコルは、(同じロットまたは異なるロットを、異なる日日で用いて)66μg/mlまたは600μg/mlのTG−PDGF.ABを含むフィブリノゲン溶液で5回行なった。平均放出割合はこれらの5つの実験を用いて計算された。
【0103】
高用量(フィブリノゲン溶液中の600μg/ml TG−PDGF.AB)の放出割合(図1)は、低用量(66μg/ml TG−PDGF.AB)の放出割合(図2)よりはるかに高い:つまり、それぞれ62%および21%であった。
【0104】
実施例2:TG−PDGF.ABの放出に対するトロンビン濃度の影響
放出研究は、トロンビン溶液において異なる量のトロンビン(4IU/ml、15IU/ml、31IU/ml、62IU/ml、125IU/mlおよび250IU/ml)を使用し、フィブリノゲン溶液は変わらないまま(図3に対しては50mg/mlのフィブリノゲンおよび600μg/mlのTG−PDGF.AB、図4に対しては66μg/mlのTG−PDGF.AB)で、行なわれた。
【0105】
図3および図4のトロンビンの250IU/mlおよび4IU/mlに対応するデータは、図5に示されるように提示される。両方の用量について、トロンビン濃度を低減すると、より低い放出割合に至った。
【0106】
実施例3:異なる量の第XIII因子を用いた放出研究
放出研究は、フィブリノゲン溶液に異なる量の第XIII因子(0IU/ml、0.2IU/ml、2IU/mlおよび20IU/ml、つまり最終ゲルにおいて0IU/ml、0.1IU/ml、1IU/mlおよび10IU/ml)を添加して行なわれた。
【0107】
この実験は、(それぞれ図6および図7に対して)250IU/mlのトロンビンで高用量(フィブリンゲルにおける300μg/mlのTG−PDGF.AB)および低用量(フィブリンゲルにおける33μg/mlのTG−PDGF.AB)、ならびに(それぞれ図8および図9に対して)4IU/mlのトロンビンで高用量および低用量に対して行なわれた。
【0108】
250IU/mlのトロンビンについて、第XIII因子濃度増加させると、高用量のTG−PDGF.ABに対しては、より低い放出に至る。(60%から35%への放出)。これは、低用量についての放出割合には大きな影響はない。
【0109】
4IU/mlのトロンビンについては、第XIII因子濃度を増加させることは、両方の用量について、放出割合に影響はなく、なぜならば、放出割合は既に低いからである(10%付近)。
【0110】
実施例4:フィブリンフォームからの放出研究
材料および方法
テストアイテムは、ミキサを介して2つの注射器の内容物を前後に3回混合することにより調製された。第1の注射器は、0.5mlの50mg/mlフィブリノゲン溶液を含み、第2の注射器は、0.5mlの4IU/mlトロンビン溶液および1mlの空気を含んだ。
【0111】
各テストアイテムの6つの複製(バッファが変更されたサンプル)または4つの複製(バッファが変更されないサンプル)が調製された。テストアイテムは、端部が切断された2.5mlの注射器で調製され、型として使用された。サンプルを37℃で1時間乾燥させ、バッファ中でアッセイする前に計量して、最初のテストアイテムに含まれるTG−PDGF.ABの合計量を評価した。
【0112】
バッファが変更されたサンプル:テストアイテムを、15mlのファルコンチューブで10mlの放出バッファ中でインキュベートし、このバッファの100μL部分標本を各時点で採取し、さらなる分析まで−20℃で凍結した。各時点(1日2回)で、およびサンプルの完全な分解が生ずるまで、バッファは取除かれ、10mlの新鮮な放出バッファがサンプルに加えられた。
【0113】
バッファが変更されないサンプル:テストアイテムを、15mlのファルコンチューブで10mlの放出バッファ中でインキュベートし、このバッファの500μL部分標本を各時点で採取し、さらなる分析まで−20℃で凍結した。バッファは各時点で変更されなかった。
【0114】
ELISAシステムを用いて、さまざまな時点で得られたバッファ部分標本に含まれるTG−PDGF.ABおよびPDGF−ABを定量化した。放出サンプルのPDGF−AB濃度が、ELISAによって得られた光学濃度値から計算され、すべての計算およびグラフは、マイクロソフトEXCELを使用して、それぞれ行なわれ、およびプロットされた。
【0115】
結果
バッファが変更された場合、テストアイテムは分解した(14日後に、サンプルはすべて消滅した)。反対に、バッファが変更されなかった場合、テストアイテムは、バッファにおける14日間のインキュベーションの後、(視覚的に評価して)損なわれていなかった。各テストアイテムから放出されたTG−PDGF.ABまたはPDGF−ABのパーセンテージを、時間に対して計算しプロットした(図10を参照)。結果は、テストアイテムに最初に組込まれたTG−PDGF.ABの100%がテストアイテムの分解で復元された一方で、バッファが変更されなかった場合は14%だけが放出されたことを示した。
【0116】
実施例5:フィブリンフォームからのTG−PDGF.ABおよび天然PDGF−AB放出の比較
全体積の50%の空気を伴う実施例4に記載されるように、フィブリンフォームクロットが調製された。クロットは、(グラフ上の100%レベルに対応する)フィブリンフォームクロットに含まれるフィブリン/TG−PDGF.ABの合計量を判断するよう計量された。フィブリンフォームクロットは3部調製された。3つのTG−PDGF.AB濃度、66μg/ml、200μg/mlおよび600μg/mlのフィブリノゲンがテストされた。これらの濃度は、フィブリンフォームにおける16.5μg/ml、50μg/mlおよび150μg/mlに対応する。
【0117】
目的の理解のために、66μg/ml、200μg/mlおよび600μg/mlのTG−PDGF.AB濃度の各々を、それぞれ、低、中および高用量のTG−PDGF.ABとして言及する。
【0118】
調製の後、フィブリンフォームクロットは放出バッファにおいて37℃で3日間インキュベートされ、部分標本が4つの時点:6h 25h 48h 75hで採取された。これらの時点で放出バッファに含まれていたPDGFの濃度を、ELISAによって判断した。
【0119】
図11は、3つの濃度すべてに対する、フィブリンフォームクロットからのTG−PDGF.ABおよび天然PDGF−ABの放出プロファイルを示す。
【0120】
まず、TG−PDGF.ABは、天然PDGF.ABと比較して、フィブリンフォームクロットからはるかにより少なく放出された。(TG−PDGF.AB対天然PDGF.ABの放出割合は、低、中および高用量に対し、22%対57%、17%対74%および19%対110%であった)。
【0121】
第2に、3つのすべての用量に対し、TG−PDGF.ABの放出割合に有意差はなかった一方で、フィブリンフォームクロットからの天然PDGF−ABの放出割合は、天然PDGF−ABの濃度が増加するとともに、増加した。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
この発明は融合タンパク質を含むフィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームを形成するための組成物、キットおよび方法に関する。好ましい融合タンパク質は、マトリックスへの共有結合連結を可能にするトランスグルタミナーゼ基質ドメインを含む血小板由来増殖因子である。フィブリンマトリックスは、特に、創傷治癒のために、組織修復または再生のために、制御された増殖因子の放出を可能にする。特に、この発明は、補足されたフィブリンフォームを形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
組織修復または再生のためには、細胞は創傷床に移動し、増殖し、マトリックス成分を発現するか細胞間マトリックスを形成し、最終の組織形状を形成しなければならない。複数の細胞集団が、しばしば血管細胞および神経細胞を含んで、この形態形成応答にしばしば参加しなければならない。マトリックスは、これが生じるために、非常に増強することを実証され、ある場合では不可欠と分かった。天然の細胞内殖(cell in-growth)マトリックスは、すべてタンパク質加水分解に基づく細胞の影響、たとえば、プラスミン(分解フィブリン)およびマトリックスメタロプロテイナーゼ(分解コラーゲン、エラスチンなど)によるリモデリングの対象となる。そのような分解は高度に局在化され、細胞との直接接触のみである。さらに、増殖因子のような、特定の細胞信号伝達タンパク質の送達は、厳しく規制される。
【0003】
組織が傷付けられると、一連の生物学的活性を示すポリペプチド増殖因子がその創傷内に放出され、そこにおいて、それらは治癒における重要な役割を果たす(たとえば、ホルモンタンパク質およびペプチド(Hormonal Proteins and Peptides)、Li,C.H.編、第7巻、アカデミック・プレス・インク(Academic Press, Inc.)、ニューヨーク(New York)、231〜277頁、およびブラント(Brunt)ら、生物工学(Biotechnology)、6:25〜30(1998年)参照)。これらの活性は、白血球および線維芽細胞などのような細胞を損傷領域に補充すること、ならびに細胞増殖および細胞分化を誘導することを含む。創傷治癒に参加する増殖因子は次のものを含む:血小板由来増殖因子(PDGF)、インスリン結合増殖因子−1(IGF−1)、インスリン結合増殖因子−2(IGF−2)、上皮増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子−α(TGF−α)、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)、血小板第4因子(PF−4)、ならびにヘパリン結合性増殖因子1および2(HBGF−1およびHBGF−2)。
【0004】
フィブリンはいくつかの生物医学的な適用例のために報告された天然素材である。フィブリンゲルは、多くの組織に付着するそれらの能力および創傷治癒におけるそれらの自然な役割により、シーラントとして使用されてきた。いくつかの特定の適用例は、血管グラフト取付け、心臓弁取付け、骨折中の骨位置決めおよび腱修復用のシーラントとしての使用を含む。さらに、これらのゲルは、薬物送達装置として、ならびにニューロンの再生のため、および細胞内殖マトリックスの材料のためにも使用されてきた(ハベル(Hubbell)らへの米国特許第6,331,422号)。
【0005】
天然もしくは合成の生体適合材料またはそれらの混合物における生理活性因子の組込みは、主に、米国特許第6,117,425号および第6,197,325号およびWO02/085422などに記載されるように、物理的相互作用を介した生理活性因子の組込みによってなされる。生体適合物質への生理活性因子の共有結合連結は、生体適合物質からの生理活性因子の放出プロファイルの改善された制御を可能にする、より高度な技術である。小さな合成または自然発生の分子、ペプチドおよび/またはタンパク質の、トランスグルタミナーゼの作用によるフィブリンマトリックスの中への組込みは、米国特許第6,331,422号;第6,468,731号および第6,960,452号、およびWO 03/052091ならびにSchense, J. C.ら(1999年) Bioconj. chem. 10:75−81に記載されている。生理活性因子の共有結合架橋は、前駆体成分または生体適合物質の形成中もしくは形成の後の生体適合物質の反応性基の1つ以上と反応することができる官能基の組込みによって生理活性因子を修飾することにより行なわれてもよい。米国の特許出願第2003/0187232号には、トランスグルタミナーゼ基質ドメインで修飾されたPDGFで補われたフィブリンゲル、および人間の患者の慢性創傷の治癒でのその使用が開示されている。しかしながら、そこに記載されるシステムでは、大量の増殖因子が適用の後の第1の時間でフィブリンゲルから放出される。
【0006】
タンパク質および増殖因子のための送達システムが公知である一方で、時間とともに放出される増殖因子の量および増殖因子の放出の割合を制御する必要が残る。特に、適用の後の第1の時間で放出される増殖因子の量を低減する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、この発明の目的は、増殖因子の制御および/または抑制された放出を改善するためのフィブリンマトリックスを提供するであることである。
【0008】
この発明のさらなる目的は、増殖因子で補われたフィブリンマトリックスの形成のための方法を提供することである。
【0009】
この発明のさらなる目的は、増殖因子で補われたフィブリンフォームの形成のための組成物および方法を提供することである。
【0010】
この発明のさらなる目的は、増殖因子で補われたフィブリンフォームの形成のための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の要約
創傷治癒のための組成物、組成物の使用、ならびにそれを使用するキットおよび方法がここに記載される。
【0012】
1つの局面では、この発明の組成物は、そこに組込まれた増殖因子の増強された制御放出を伴うフィブリンマトリックスを形成することに対して好適である。
【0013】
好ましい局面では、この発明の組成物は、完全な架橋が生ずる前に必要な部位で適用され得るフィブリンフォームを形成する方法での使用に対して好適である。
【0014】
別の好ましい局面では、この発明の組成物は、さらに、発泡体として投与され得る制御された送達フィブリンマトリックスを形成する方法で使用することに対して好適である。
【0015】
生物分解性があり、多孔性であり、および融合タンパク質がマトリックスに組込まれ、その組込みの態様が、タンパク質がマトリックスに共有結合で連結され、その生理活性を保持し、適用後の第1の時間でゆっくりと放出される、発泡したフィブリンマトリックスを提供する。
【0016】
1つの局面では、この発明は、以下を含む組成物を提供する:
(i)フィブリノゲン;
(ii)フィブリノゲン1mgにつき0.3UI未満の量のトロンビン;および
(iii)PDGFを含む第1のドメイン、およびトランスグルタミナーゼ基質ドメインを含む第2のドメインを含む少なくとも1つの融合タンパク質。組成物はさらにカルシウム源を含み得る。
【0017】
1つの実施の形態では、融合タンパク質の第2のドメインは、因子XIIIa基質ドメインを有するトランスグルタミナーゼ基質ドメイン(TG)を含む。好ましくは、因子XIIIa基質ドメインはSEQ ID NO:1を含む。
【0018】
別の実施の形態では、融合タンパク質は、さらに、融合タンパク質の第1のドメインと第2のドメインとの間に分解部位を含む。好ましい実施の形態では、分解部位は酵素分解部位または加水分解部位である。非常に好ましい実施の形態では、分解部位は酵素分解部位であり、それは、プラスミンおよびマトリックスメタロプロテイナーゼからなる群から選択される酵素によって開裂される。
【0019】
非常に好ましい実施の形態では、融合タンパク質は、SEQ ID NO:2およびSEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含む。
【0020】
別の実施の形態では、フィブリノゲン溶液の濃度は、フィブリノゲン前駆体溶液の約10mg/mlから約130mg/mlの範囲、好ましくは約50mg/mlである。
【0021】
好ましい実施の形態では、トロンビン量は、フィブリノゲンの1mg当たり、約0.04〜0.28I.U.トロンビン、好ましくは、約0.08I.U.トロンビンである。
【0022】
別の実施の形態では、融合タンパク質は、フィブリノゲンの約1〜20μg/mg、好ましくは約1.32〜16μg/mg、より好ましくは約4〜12μg/mgの範囲内の量にある。
【0023】
さらなる局面においては、この発明は、
(i)フィブリノゲンと、PDGFを含む第1のドメインおよび架橋酵素のために基質ドメインを含む第2のドメインを含む少なくとも1つの融合タンパク質とを含む第1の容器と;
(ii)トロンビンを含み、トロンビンの量はフィブリノゲンの1mgに付き0.3U.I.未満トロンビンであり、さらに、カルシウム源を含む第2の容器とを含むキットを提供する。
【0024】
この発明のキットは、さらに、CO2、N2、空気または不活性ガスからなる群から選択される生体適合性のある気体、好ましくは空気を含み得る。生体適合性のある気体は第1または第2の容器のいずれかにある。
【0025】
さらなる局面では、この発明は、少なくとも1つの融合タンパク質を含むフィブリンマトリックスを調製する方法であって、以下のステップを含む方法を提供する:
(i)フィブリノゲン溶液を提供するステップ;
(ii)トロンビンの量がフィブリノゲンの1mg当たり0.3未満I.U.のトロンビンであるトロンビン溶液を提供するステップ;
(iii)PDGFを含む第1のドメイン、およびトランスグルタミナーゼ基質ドメインを含む第2のドメインを含む少なくとも1つの融合タンパク質を提供するステップ;および
(iv)ステップ(i)、(ii)および(iii)において提供された成分を混合して、マトリックス材料を架橋し、融合タンパク質が第2のドメインを介してマトリックスに共有結合で連結されるステップ。
【0026】
フィブリンフォームを形成するために、ステップ(i)、(ii)および(iii)において提供された成分を、CO2、N2、空気または不活性ガスからなる群から選択される生物適合性のある気体、好ましくは空気と混合して、発泡体材料を架橋し、融合タンパク質を第2のドメインを介してマトリックスと共有結合で連結する。
【0027】
好ましい実施の形態では、フィブリノゲン溶液の体積は、生体適合性のある気体の体積の約40〜60%、好ましくは約50%である。
【0028】
さらなる局面では、この発明は、この発明の方法によって得られる制御された送達フィブリンマトリックスを提供する。好ましくは、制御された送達フィブリンマトリックスは、増殖因子の25%以下が、バッファ溶液中での37℃での3日間の、制御された送達フィブリンマトリックスのインキュベーションの後に放出される、という点で特徴づけられる。
【0029】
代替的に、この発明は、この発明の方法によって得られる制御された送達フィブリンフォームを提供する。好ましくは、制御された送達フィブリンフォームは、増殖因子の25%以下が、バッファ溶液中での37℃での3日間の、制御された送達フィブリンマトリックスのインキュベーションの後に放出される、という点で特徴づけられる。
【0030】
1つの局面では、この発明は以下を含むフィブリンフォームを提供する:
(i)フィブリノゲン;
(ii)フィブリノゲンの1mg当たり0.3I.U.未満の量であるトロンビン;
(iii)PDGFを含む第1のドメイン、およびトランスグルタミナーゼ基質ドメインを含む第2のドメインを含む少なくとも1つの融合タンパク質;および
(iv) CO2、N2、空気または不活性ガスからなる群から選択される生体適合性のある気体、好ましくは空気。
【0031】
別の局面では、この発明は、PDGFで補われたフィブリンフォームを調製する方法を提供する。この方法は、以下のステップを含む:
(i)フィブリノゲン溶液を提供するステップ;
(ii)トロンビンの量がフィブリノゲンの1mg当たり0.3I.U.未満のトロンビンであるトロンビン溶液を提供するステップ;
(iii)血小板由来増殖因子(PDGF)を含む第1のドメインとトランスグルタミナーゼ基質ドメインを含む第2のドメインとを含む少なくとも1つの融合タンパク質を提供するステップ;
(iv)生体適合性のある気体を提供するステップ;および
(v)ステップ(i)、(ii)、(iii)および(iv)で得られた成分を混合してフィブリンフォームを形成するステップ。
【0032】
1つの実施の形態では、融合タンパク質の第2のドメインは、因子XIIIa基質ドメインを有するトランスグルタミナーゼ基質ドメイン(TG)を含む。好ましくは、因子XIIIa基質ドメインは、SEQ ID NO:1であるか、またはSEQ ID NO:1を含む。
【0033】
別の実施の形態では、融合タンパク質は、さらに、融合タンパク質の第1のドメインと第2のドメインとの間に分解部位を含む。好ましい実施の形態では、分解部位は酵素分解部位または加水分解部位である。非常に好ましい実施の形態では、分解部位は酵素分解部位であり、それは、プラスミンおよびマトリックスメタロプロテイナーゼからなる群から選択される酵素によって開裂される。
【0034】
別の好ましい実施の形態では、融合タンパク質は、SEQ ID NO:2およびSEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含む。
【0035】
別の実施の形態では、生体適合性のある気体は、CO2、N2、空気またはフレオンのような不活性ガスからなる群から選択され、好ましくは空気である。
【0036】
別の実施の形態では、フィブリノゲン溶液の濃度は、フィブリノゲン前駆体溶液の約10mg/mlから130mg/mlの範囲、好ましくは約50mg/mlである。
【0037】
好ましい実施の形態では、トロンビン量は、フィブリノゲンの1mg当たり約0.04〜0.28I.U.のトロンビン、好ましくは、約0.08I.U.のトロンビンである。
【0038】
別の実施の形態では、融合タンパク質は、フィブリノゲンの約1〜20μg/mg、好ましくは約1.32〜16μg/mg、より好ましくは約4〜12μg/mgの範囲内の量にある。
【0039】
別の実施の形態では、制御された送達フィブリンフォームは、PDGFで補われたフィブリンフォームを調製するためのこの発明の方法によって得られる。
【0040】
好ましい実施の形態では、制御された送達フィブリンフォームは、PDGFの25%以下が、バッファ溶液中での37℃での3日間の、制御された送達フィブリンマトリックスのインキュベーションの後に放出される、という点で特徴づけられる。好ましくは、この発明の制御された送達発泡体に組込まれた融合タンパク質の量は、フィブリンフォームの約0.015mg/mlから約1mg/mlまでの範囲にある。
【0041】
他の実施の形態において提供されるのは:
薬物として使用されるこの発明の制御された送達マトリックスまたは発泡体。
【0042】
創傷の治療で使用されるこの発明の制御された送達マトリックスまたは発泡体であり、創傷は好ましくは糖尿病によって引き起こされた潰瘍である。
【0043】
創傷の治療のための薬物の製造のための制御された送達マトリックスまたは発泡体の使用であり、創傷は好ましくは糖尿病によって引き起こされた潰瘍である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】50mg/mlのフィブリノゲン、250I.U./mlのトロンビン、および600μg/mlのTG−PDGF.ABで調製されたフィブリンマトリックスからのTG−PDGF.ABの対時間(時間)百分率放出の線グラフである。5つの実験がグラフ上でプロットされる。
【図2】50mg/mlのフィブリノゲン、250I.U./mlのトロンビン、および66μg/mlのTG−PDGF.ABで調製されたフィブリンマトリックスからのTG−PDGF.ABの対時間(時間)百分率放出の線グラフである。5つの実験がグラフ上でプロットされる。
【図3】50mg/mlのフィブリノゲン、600μg/mlのTG−PDGF.AB、ならびに4I.U./ml(★)、15I.U./ml(X)、31I.U./ml(▲)、62I.U./ml(■)、125I.U./ml(◆)および250I.U./ml(●)のトロンビンで調製されたフィブリンマトリックスからのTG−PDGF.ABの対時間(時間)百分率放出の線グラフである。
【図4】50mg/mlのフィブリノゲン、66μg/mlのTG−PDGF.AB、ならびに4I.U./ml(●)、15I.U./ml(★)、31I.U./ml(X)、62I.U./ml(▲)、125I.U./ml(■)および250I.U./ml(◆)のトロンビンで調製されたフィブリンマトリックスからのTG−PDGF.ABの対時間(時間)百分率放出の線グラフである。
【図5】50mg/mlのフィブリノゲン、66μg/mlのTG−PDGF.AB(33μg/mlの最終濃度)、および4I.U./mlおよび250I.U./mlのトロンビンで調製されたフィブリンマトリックス、ならびに50mg/mlのフィブリノゲン、600μg/mlのTG−PDGF.AB(300μg/mlの最終濃度)、および4I.U./mlおよび250I.U./mlのトロンビンで調製されたフィブリンマトリックスからのTG−PDGF.ABの対時間(時間)百分率放出の線グラフである。
【図6】50mg/mlのフィブリノゲン、600μg/mlのTG−PDGF.AB、および250I.U./mlのトロンビンで調製され、0I.U./ml(◆)、0.1I.U./ml(■)、1I.U./ml(▲)および10I.U./ml(X)の第XIII因子濃度を有するフィブリンマトリックスからのTG−PDGF.ABの対時間(時間)百分率放出の線グラフである。
【図7】50mg/mlのフィブリノゲン、66μg/mlのTG−PDGF.AB、および250I.U./mlのトロンビンで調製され、0I.U./ml(◆)、0.1I.U./ml(■)、1I.U./ml(▲)および10I.U./ml(X)の第XIII因子濃度を有するフィブリンマトリックスからのTG−PDGF.ABの対時間(時間)百分率放出の線グラフである。
【図8】50mg/mlのフィブリノゲン、600μg/mlのTG−PDGF.AB、および4I.U./mlのトロンビンで調製され、0I.U./ml(◆)、0.1I.U./ml(■)、1I.U./ml(▲)および10I.U./ml(X)の第XIII因子濃度を有するフィブリンマトリックスからのTG−PDGF.ABの対時間(時間)百分率放出の線グラフである。
【図9】50mg/mlのフィブリノゲン、66μg/mlのTG−PDGF.AB、および4I.U./mlのトロンビンで調製され、0I.U./ml(◆)、0.1I.U./ml(■)、1I.U./ml(▲)および10I.U./ml(X)の第XIII因子濃度を有するフィブリンマトリックスからのTG−PDGF.ABの対時間(時間)百分率放出の線グラフである。
【図10】バッファにおいて十分な分解までインキュベートされたテストアイテム(バッファ変更有り(◆))または14日にわたって分解無しでインキュベートされたテストアイテム(バッファ変更無し(■))からのTG−PDGF.ABの放出比較である。
【図11】フィブリンフォームクロットからのTG−PDGF.ABおよび天然PDGF−ABの、3つの濃度(高、中、低用量)、天然PDGF−AB低用量(◆)、天然PDGF−AB中用量(■)、天然PDGF−AB高用量(▲)、TG−PDGF.AB低用量(X)、TG−PDGF.AB中用量(★)およびTG−PDGF.AB高用量(●)に対する放出プロファイル(%TG−PDGF.AB放出対時間)である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
発明の詳細な記載
I.定義
ここで概して用いられる「マトリックス」は、材料に永久にまたは一時的に依存して、任意の組織またはその組織の機能を処理、増大、または置換する生体系とインタフェースするよう意図される、その材料を指す。マトリックスはそこに組込まれる薬物のための送達装置として働き得る。ここに記載されるマトリックスは、身体における必要な部位で三次元ネットワークを形成することができる液体の前駆体成分から形成される。用語「マトリックス」、「シーラント」および「三次元ネットワーク」は、ここでは同義的に使用される。「マトリックス」および「シーラント」という用語は、前駆体溶液がともに混合され架橋反応が開始した後形成される組成物を指す。したがって、「マトリックス」および「シーラント」という用語は部分的にまたは完全に架橋された重合体のネットワークを包含する。それらは、半固形の形態、たとえば、ペースト、固体ゲルまたは発泡体であってもよい。前駆体材料の種類によって、マトリックスは水で膨張するかもしれないが、水に溶けない、つまりある期間の間体内にとどまるヒドロゲルを形成してもよい。
【0046】
ここで概して用いられる「発泡体/フォーム」は、生体適合性のある気体をそこに組入れたマトリックスを指す。
【0047】
ここで概して用いられる「組成物」は、フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームを形成するために必要とされる前駆体を指す。用語「組成物」は、前駆体溶液がともに混合され架橋反応が開始する前に形成される組成物を指す。
【0048】
ここで概して用いられる「フィブリンマトリックス」は、前駆体成分、フィブリノゲンおよびトロンビンの実質的にすべてが、前駆体成分中に通常存在するカルシウム源、因子XIIIaおよび賦形剤の存在下で架橋して三次元ネットワークを形成する処理の生成物を意味する。
【0049】
ここで概して用いられる「フィブリンフォーム」は、前駆体成分、フィブリノゲンおよびトロンビンの実質的にすべてが、カルシウム源、因子XIIIaの存在下、ならびに前駆体成分中に通常存在する生体適合性のある気体および賦形剤の存在下で架橋して、生体適合性のある気体を含む三次元ネットワークを形成する処理の生成物を意味する。
【0050】
ここで概して用いられる「架橋する」は、共有結合連結の形成を意味する。
ここで概して用いられる「補足されたマトリックス」は、融合タンパク質が放出可能にそこに組込まれるマトリックスを指す。
【0051】
ここで用いられる「制御(される/された)放出」または「制御(される/された)送達」は、同じ意味を持っており、フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォーム内の作用物質の保持を指す。「制御(される/された)放出」、「制御(される/された)送達」という用語は、時間にわたって放出される作用物質の量、および/または作用物質の放出の割合が制御されることを意味する。
【0052】
II. フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームおよび融合タンパク質
フィブリノゲン、トロンビン、および増殖因子を含む第1のドメインとトランスグルタミナーゼ基質ドメインを含む第2のドメインとを有する少なくとも1つの融合タンパク質を含むフィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームが提供される。
【0053】
フィブリンマトリックスは、典型的にはフィブリノゲン、融合タンパク質、凝固因子XIII基質および凝固因子XIIIaを含む第1の溶液と、典型的には塩基水溶液にトロンビンおよび塩化カルシウムを含む第2の溶液とを組み合わせることにより調製される。フィブリンフォームは、典型的にはフィブリノゲン、増殖因子、凝固因子XIII基質および凝固因子XIIIaを含む第1の溶液、ならびに典型的には塩基水溶液にトロンビンと塩化カルシウムとを含む第2の溶液に、生体適合性のある気体を組み合わせることにより調製される。好ましい実施の形態では、トロンビンの量はフィブリノゲンの1mg当たり0.3U.I.未満のトロンビンである。
【0054】
A. フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォーム
フィブリンはいくつかの生物医学的な適用例のために報告された天然材料である。フィブリンゲルは、多くの組織を結合するそれらの能力および創傷治癒におけるそれらの自然な役割により、シーラントとして使用されてきた。いくつかの特定の適用例は、血管グラフト取付け、心臓弁取付け、骨折中の骨位置決めおよび腱修復用のシーラントとしての使用を含む。さらに、これらのゲルは、薬物送達装置として、ならびにニューロンの再生のため、および細胞内殖マトリックスの材料のためにも使用されてきた(ハベルらへの米国の特許6,331,422号)。
【0055】
フィブリノゲンがフィブリンに重合されるプロセスも特徴づけられている。最初に、プロテアーゼが二量体のフィブリノゲン分子を2つの対称な部位で開裂する。トロンビン、ペプチダーゼおよびプロテアーゼIIIを含む、フィブリノゲンを開裂し得るいくつかの考えられ得るプロテアーゼがあり、各々は異なる部位でタンパク質に役立つ。一旦フィブリノゲンが開裂されると、自己重合ステップが生じ、フィブリノゲンモノマーが集まって、非共有結合で架橋されたポリマーゲルを形成する。この自己集合が起こるのは、プロテアーゼ開裂が生じた後、結合部位が露出されるからである。一旦それらが露出されると、分子の中心にあるこれらの結合部位は、ペプチド鎖の端に存在するフィブリノゲン鎖上の他の部位へ結合し得る。このようにして、ポリマーネットワークが形成される。その後、トロンビンタンパク質分解によって第XIII因子から活性化された因子XIIIa、トランスグルタミナーゼが、共有結合で重合体のネットワークに架橋してもよい。他のトランスグルタミナーゼが存在し、フィブリンネットワークへの共有結合架橋およびグラフトに関係してもよい。
【0056】
架橋されたフィブリンゲルが形成されると、後の分解は厳しく制御される。フィブリンの分解の制御における重要な分子のうちの1つは、α2−プラスミン阻害因子である。この分子は、因子XIIIaの作用を通じてフィブリンのα鎖に架橋することにより作用する。それ自体をゲルに取付けることによって、高濃度の阻害因子がゲルに局在化され得る。その後、阻害因子は、フィブリンへのプラスミノゲンの結合を防ぎプラスミンを不活性化することにより作用する。α2−プラスミン阻害因子はグルタミン基質を含む。
【0057】
1つの実施の形態では、フィブリンマトリックスを形成することができる組成物は、少なくとも1つの融合タンパク質に加えて2つの前駆体溶液を含む。
【0058】
別の実施の形態では、フィブリンフォームを形成することができる組成物は、2つの前駆体溶液、少なくとも1つの融合タンパク質、および生体適合性のある気体を含む。フィブリンフォームの形成は、フィブリンネットワークの架橋中に生体適合性のある気体を前駆体溶液に組込むことにより行われる。これは、米国再発行特許RE39,321に述べられているような推進剤の使用によって行うことができるかもしれず、その内容をここに引用により援用する。または、生体適合性のある気体の組込みは、気体を前駆体溶液と機械的に混合することによりなされ得る。生体適合性のある気体は生理学上受入れ可能で、薬学的適用に好適でなければならず、圧力下であろうとなかろうと、従来認識されるガス、たとえばCO2、N2、空気、フロンのような不活性ガスなどを含んでもよい。好ましくは、生体適合性のある気体は空気である。代替的に、乾燥したフィブリン成分が、気体を発生させる材料で補われ、したがって、水和する作用物質との接触で発泡してもよい。1つの好ましい実施の形態では、フィブリノゲン溶液の体積は、生体適合性のある気体の体積の約40〜60%である。好ましくは、フィブリノゲン溶液の体積は生体適合性のある気体の体積の約50%である。
【0059】
1.フィブリノゲン
第1の前駆体溶液は、前駆体溶液の1ミリリットル当たり、好ましく10〜130mg、より好ましくは30〜120mg、さらにより好ましくは40〜110mg、最も好ましくは50mgの濃度範囲のフィブリノゲンを含有する。フィブリノゲンは、好ましくは水性のバッファ溶液の中で可溶性になる。さらにより好ましくは、フィブリノゲン希釈バッファは、水、クエン酸ナトリウムを好ましくは25mMの濃度で、ナイアシンアミドを好ましくは50mMの濃度で、およびヒスチジンを好ましくは100mMの濃度で含み、好ましくは7.3のpHを有する。
【0060】
2.トロンビン
フィブリノゲン溶液および/またはトロンビン溶液の濃度は、形成されたネットワークの密度、および最終のフィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームの凝固速度または架橋速度に大きな影響を有する。典型的には、トロンビンの量の低減は架橋プロセスを遅くし、フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームをより密度の低いネットワークで形成することに貢献する。驚いたことに、トロンビンおよびフィブリノゲンの量の比率の制御は、特に、高濃度の増殖因子がマトリックスまたはフォームに組込まれる場合には、より延長された増殖因子の放出に至る。さらに、トロンビン対フィブリノゲンの量の比率は、フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームに、より密度の低いネットワークを与え、それは、細胞浸潤または内殖、およびしたがって創傷治癒に対してより好適である。
【0061】
好ましい実施の形態では、第2の前駆体溶液はトロンビンを含有し、トロンビン量は、フィブリノゲン1mg当たり、0.3U.I.未満のトロンビンであり、好ましくは0.04〜0.28I.U.の範囲のトロンビンであり、より好ましくは0.06〜0.1I.U.の範囲のトロンビンであり、最も好ましくは0.08I.U.のトロンビンである。トロンビンは、好ましくは、水性のバッファ溶液の中で可溶性になる。さらにより好ましくは、トロンビン希釈バッファは、水、塩化カルシウムを好ましくは40mMの濃度で、塩化ナトリウムを好ましくは75mMの濃度で含み、好ましくは7.3のpHを有する。
【0062】
3.カルシウム源
カルシウムイオン源は、前駆体溶液の少なくとも1つ、および好ましくは第2の前駆体溶液の中にあってもよい。カルシウムイオン源は、好ましくは、前駆体溶液の1ml当たり、好ましくは1〜10mg、より好ましくは4〜7mg、最も好ましくは5〜6mgの間の濃度範囲でのCaCl2・2H2Oである。
【0063】
4.架橋酵素
第XIII因子のような、それが活性化された後マトリックス形成を触媒することができる酵素が、前駆体溶液の少なくとも1つに添加されてもよい。好ましくは、第XIII因子は、フィブリノゲン前駆体溶液中において、前駆体溶液の1ミリリットル当たり、0.5〜100I.U.、より好ましくは1〜60I.U.、最も好ましくは1〜10I.U.の間の濃度範囲で存在する。
【0064】
B.融合タンパク質
増殖因子を隔離するために、タンパク質を修飾 して、それがフィブリンに取付くことができるようになることが必要である。これはいくつかの方法で達成され得る。例として、これは、結果として得られる融合タンパク質への第XIII因子基質の添加を通じて達成されてもよい。選択肢として、融合タンパク質は分解部位を含んでもよい。
【0065】
好ましい増殖因子はトランスフォーミング増殖因子(TGFβ)スーパーファミリーのメンバーであり、血小板由来増殖因子(PDGF)スーパーファミリーのメンバーである。特に、好ましいメンバーはPDGF、PDGF A、PDGF B、PFGF D、PDGF BB、PDGF AB、TGFβ、BMP、VEGFおよびインスリン様増殖因子(IGF)であり、最も好まれるのは、PDGF AB、TGFβl、TGFβ3、BMP2、BMP7、VEGF 121およびIGF 1である。
【0066】
好ましい実施の形態では、融合タンパク質は、SEQ ID NO:2およびSEQ ID NO:3のアミノ酸配列(ここではTG−PDGFと称される)を含む。
【0067】
追加のアミノ酸配列を、増殖因子に添加して、分解部位および/または基質を架橋酵素のために含めてもよい(以下において、「TG−degr」フックと称される)。アミノ酸配列は増殖因子の構造に基づいて選択される。増殖因子が異質二量体または同質二量体である場合、追加のアミノ酸は、一方または両方の鎖の末端に取付けられ得る。好ましい実施の形態では、TG−degr−配列は両方の鎖に取付けられる。増殖因子の構造(つまりタンパク質内の活性中心の位置)によって、TG―degr―配列は、鎖のN末端および/またはC末端に取付けられ得る。好ましい実施の形態では、TG−degr−配列はN末端に取付けられる。増殖因子がPDGF AB(異質二量体)またはTGFβl(同質二量体)である場合、TG−degr−配列は両方の鎖のN末端に取付けられる。
【0068】
合成因子XIIIa基質の添加は、融合タンパク質のアミノまたはカルボキシル末端のいずれかで天然増殖因子配列および因子XIIIa基質を含む融合タンパク質を発現することにより達成され得る。この修飾はDNAレベルで行われる。全タンパク質は、それらが固相化学合成によって合成されることにおいて困難さを呈する。増殖因子をコード化するDNA塩基配列は、細菌の発現のための最適なコドン使用に適合される。その後、DNA塩基配列は、細菌DNAに頻繁に生じるコドンを使用して、所望の因子XIIIa基質に対して決定される。
【0069】
一連の遺伝子フラグメントがDNA合成に先立って設計される。約50bpごとにエラーを含む、ほとんどのDNA合成のエラー頻度のため、遺伝子は長さが約100bpであるよう構築される。これにより、適切なDNA塩基配列を含むものを見つけるためにスクリーニングされなければならないコロニーの数が低減される。1つの遺伝子が終了し、次のものが始まる位置は、遺伝子内の特有の制限酵素切断部位の自然な発生に基づいて選択され、その結果、可変長のフラグメント(またはオリゴヌクレオチド)をもたらす。そのプロセスは、所与のDNA塩基配列の内の制限酵素部位の位置および頻度を識別するソフトウェアの使用によって大きく支援される。
【0070】
一旦遺伝子フラグメントが成功裡に設計されると、クローニングプラスミドの中への各フラグメントのライゲーションを可能にするために、共通の制限酵素部位が各フラグメントの端部に含まれる。たとえば、EcoRIおよびHindIII部位を各遺伝子フラグメントに加えることは、それがpUC 19のポリリンカークローニング領域に挿入されることを可能にする。その後、各遺伝子フラグメントの3’および5’一本鎖は、クローニングベクターへの挿入のために適切な付着端を伴う標準的固相合成を使用して合成される。その後、開裂および脱塩に続いて、一本鎖フラグメントは、PAGEによって精製されアニールされる。リン酸化の後、アニールされたフラグメントは、pUC 19のようなクローニングベクターにライゲートされる。
【0071】
代替的に、2つのDNA分子を、オーバーラップ伸張PCR(Mergulhaoら、Mol Biotechnol、1999年10月;12(3):285−7)を使用して、ともにスプライシングし得る。まず、遺伝子が、結果として得られるPCR生成物の端部が相補的配列を含むよう設計されたオリゴヌクレオチドプライマーを使用して、各分子に対して実行されるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅される。2つのPCR生成物が混合、変性、再アニールされると、相補的配列を有する一本鎖DNA鎖はアニールし、互いに対してプライマーとして作用する。DNAポリメラーゼによるアニールされた領域の伸張は、元の分子がともにスプライシングされる二本鎖DNA分子を生成する。オーバラップ伸長による遺伝子スプライシング(SOE)は、組換え部位におけるヌクレオチド配列にかかわらず、および制限エンドヌクレアーゼまたはリガーゼを使用せずに、正確な接合でのDNA分子の組換えを可能にする。SOEアプローチは、ヌクレオチド配列を組換え修飾するのに、高速で、単純で、非常に強力な方法である。
【0072】
ライゲーションに続いて、プラスミドはDH5−F’コンピテント細胞に転換され、イソプロピル―D―チオガラクトピラノシド(IPTG)/ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−D−ガラクトピラノシド(X−gal)プレート上にプレートされ、遺伝子フラグメントの挿入のためのスクリーニングを行う。その後、遺伝子フラグメントを含む、生じたコロニーは、適切な長さの挿入のためにスクリーニングされる。これは、アルカリ性の溶解ミニプレッププロトコルによって形質転換細胞のコロニーからプラスミドを精製し、遺伝子フラグメントのいずれかの端部にある制限酵素部位でプラスミドを消化することにより、達成される。アガロースゲル電気泳動法による適切な長さのフラグメントの検知で、プラスミドは配列される。
【0073】
適切な配列を伴う遺伝子フラグメントを含むプラスミドが同定されると、その後、フラグメントは切り取られ、十分な遺伝子を組み立てるために使用される。毎回、1つのプラスミドが挿入点において酵素で切断され、脱リン酸化の後に、アガロースゲルから精製される。一方、挿入されるべきフラグメントを含む第2のプラスミドも切断され、挿入されるべきフラグメントがアガロースゲルから精製される。その後、挿入物DNAは脱リン酸化されたプラスミドにライゲートされる。このプロセスは、十分な遺伝子が組み立てられるまで継続される。その後、遺伝子はpET 14bのような発現ベクターに移動されて、発現のために細菌に転換される。この最終ライゲーションの後、十分な遺伝子を配列して、それが正確であることを確認する。
【0074】
融合タンパク質の発現は、細菌を対数増殖期中期に達するまで増殖させ、融合タンパク質の発現を誘発することにより達成される。発現は約3時間継続され、細胞を次いで採取する。細菌細胞ペレットを得た後、細胞を溶解する。細胞膜および細胞残屑は、トリトンX100(Triton X100)で細胞溶解産物ペレットを洗浄することにより取除かれ、封入体を比較的純粋な形態で残す。融合タンパク質は高い尿素濃度を用いて可溶性にされ、ヒスチジンアフィニティークロマトグラフィーによって精製される。その後、生じたタンパク質は、ゆっくり減少する量の尿素に対する透析によって徐々に復元され、凍結乾燥される。
【0075】
III.融合タンパク質の組込みおよび/または放出のための方法
開示された融合タンパク質補足フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームは、フィブリノゲンの凝固によって形成される。カルシウム源、トロンビン、フィブリノゲンおよび少なくとも1つの融合タンパク質が、補足されたフィブリンマトリックスを形成する。別の実施の形態では、カルシウム源、トロンビン、フィブリノゲン、少なくとも1つの融合タンパク質および生体適合性のある気体が、補足されたフィブリンフォームを形成する。
【0076】
外来性のペプチドを、2つのドメインを含む融合タンパク質として設計し得、ここで、第1のドメインは、ペプチド、タンパク質または多糖類のような生理活性因子であり、第2のドメインは、因子XIIIaのような架橋酵素のための基質である。因子XIIIaは凝固中に活性であるトランスグルタミナーゼである。トロンビンによる開裂により第XIII因子から自然に形成されるこの酵素は、グルタミン側鎖とリジン側鎖との間で形成されるアミド結合によってフィブリン鎖を互いに対して取付けるよう機能する。因子XIIIaは、さらに、タンパク質アルファ2プラスミン阻害因子のような他のタンパク質を凝固中にフィブリンに取付ける。このタンパク質のN末端領域、具体的には配列NQEQVSP(SEQ ID NO:1)は、因子XIIIaのための有効な基質として機能することが示された。このペプチドの第2のドメインは、ペプチド、タンパク質または多糖類のような生理活性因子を含み得る(サキヤマ(Sakiyama)−エルバート(Elbert)ら、(2000)、J. 制御放出(Controlled Release)65:389−402参照)。そのような融合タンパク質は、生理活性因子(たとえば増殖因子)を凝固中に因子XIIIa基質を介してフィブリン内に組込むために使用されてもよい。
【0077】
驚いたことに、トロンビンの量を低減すること(フィブリノゲン定数の量を保持すること)は、フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームからの融合タンパク質の延長された制御放出を考慮する。トロンビンの量を低減することは、時間にわたって放出される増殖量上の制御、および増殖因子の放出の割合の制御を考慮に入れる。この効果はフィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームに最初に組込まれた増殖因子の量に対して独立している。1つの好ましい実施の形態では、トロンビンは、フィブリノゲン1mg当たり、0.3U.I.未満のトロンビンであり、好ましくは0.04〜0.28I.U.の範囲のトロンビンであり、より好ましくは0.06〜0.1I.U.の範囲のトロンビンであり、最も好ましくは0.08I.U.のトロンビンで用いられる。融合タンパク質は、増殖因子を有する第1のドメイン、およびトランスグルタミナーゼ基質ドメインを有する第2のドメインを含む。好ましい実施の形態では、トランスグルタミナーゼ基質ドメインは因子XIIIa基質ドメインである。
【0078】
上に共有結合で連結された少なくとも1つの融合タンパク質を含むフィブリンマトリックスを調製するための一般的な方法は、次のステップを含む:
(i)フィブリノゲン溶液を提供するステップ;
(ii)トロンビンの量がフィブリノゲンの1mg当たり0.3未満I.U.のトロンビンであるトロンビン溶液を提供するステップ;
(iii)生理活性因子を含む第1のドメイン、およびトランスグルタミナーゼ基質ドメインを含む第2のドメインを含む少なくとも1つの融合タンパク質を提供するステップ;および
(iv)ステップ(i)、(ii)、(iii)で得られた成分を混合してマトリックス材料を架橋し、融合タンパク質を第2のドメインを通してマトリックスに共有結合で連結するステップ。
【0079】
マトリックスは、ゲル、ヒドロゲル、フィルム、ペースト、クリーム、スプレー、軟膏、ラップもしくは包帯からなる群から選択される形式であり得、またはある実施の形態ではマトリックスは発泡体の形式であり得る。
【0080】
上に共有結合で連結される少なくとも1つの融合タンパク質を含むフィブリンフォームを調製するための一般的な方法は、次のステップを含む:
(i)フィブリノゲン溶液を提供するステップ;
(ii)トロンビンの量がフィブリノゲンの1mg当たり0.3I.U.未満のトロンビンであるトロンビン溶液を提供するステップ;
(iii)血小板由来増殖因子(PDGF)を含む第1のドメインとトランスグルタミナーゼ基質ドメインを含む第2のドメインとを含む少なくとも1つの融合タンパク質を提供するステップ;
(iv)生体適合性のある気体を提供するステップ;および
(v)ステップ(i)、(ii)、(iii)および(iv)で得られた成分を混合してフィブリンマトリックスを形成するステップ。
【0081】
得られた、制御された送達フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームは、増殖因子の25%以下が、バッファ溶液中での37℃での3日間の、制御された送達フィブリンフォームのインキュベーションの後に放出される、という点で特徴づけられる。
【0082】
1つの実施の形態では、融合タンパク質量は、フィブリノゲンの約1〜20μg/mg、好ましくは約1.32〜16μg/mg、より好ましくは約4〜12μg/mgの範囲内にある。
【0083】
好ましい実施の形態では、フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームは、身体内または身体上の元の位置に(in situ)架橋される。フィブリノゲン前駆体溶液およびトロンビン前駆体溶液は、溶液の重合を可能にする条件の下における互いとの組合わせまたは接触を防ぐために、身体への混合物の適用に先立って分離されるべきである。投与に先立って接触を防ぐために、溶液を互いから分離するキットが使用されてもよい。重合を可能にする条件の下で混合すると、組成物は融合タンパク質で補足されたフィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームを形成する。前駆体溶液およびそれらの濃度によって、架橋が、混合の後、ある程度瞬間的に生じ得る。そのような高速な架橋は、注射針によるゲル状材料または発泡材料の適用または注入、つまり圧搾をほとんど不可能にする。
【0084】
驚いたことに、トロンビンの量がフィブリノゲンの1mg当たり0.3I.U.未満のトロンビンであるような、トロンビンおよびフィブリノゲンの量は、共有結合で連結される増殖因子で補われたフィブリンフォームを形成するのに好適である。前駆体溶液の混合で、適用された表面から流れ出るよう十分に固形である発泡体を生成するのに十分高速で、かつ完全な架橋前および適用装置または注入装置の目詰まりの前に必要な部位に発泡体が適用または注入されるのに十分に低速で、架橋が生ずる。この方法、およびトロンビンとフィブリノゲンとの比率は、材料を、前駆体溶液の混合から1分未満で、好ましくは30秒未満で、より好ましくは15秒以内に適用または注入するのに充分適している。適用または注入されたフィブリンフォームは投与部位にとどまるよう十分に粘着性で、所望される形状で投与されるよう十分に柔軟性がある。1つの実施の形態では、マトリックスはフィブリノゲンから形成される。適切な温度およびpHでトロンビンおよびカルシウム源に接触させられると、フィブリノゲンは、さまざまな反応の段階的過程を経て、ゲル化し、マトリックスを形成する。3つの成分、フィブリノゲン、トロンビンおよびカルシウム源は、別々に保存されるべきである。しかしながら、3つの成分の少なくとも1つが分離されて維持される限り、他の2つの成分を投与に先立って組合わせ得る。
【0085】
1つの実施の形態では、フィブリノゲンは、さらに、安定性を増加させるためにアプロチニンを含んでもよく、pH6.5〜8.0、好ましくはpH7.0〜7.5の範囲である生理的pHでバッファ溶液に溶解される。フィブリノゲンのためのバッファ溶液は、水、クエン酸ナトリウムを好ましくは25mMの濃度で、ナイアシンアミドを好ましくは50mMの濃度で、およびヒスチジンを好ましくは100mMの濃度で含み得、好ましくは7.3のpHを有する。塩化カルシウムバッファ中のトロンビン(たとえば40〜50mMの濃度範囲)が調製される。その後、フィブリノゲンは、トロンビン溶液とは別々に保存される。フィブリノゲン溶液およびトロンビン溶液は貯蔵安定性を増強するよう冷凍で保存され得る。使用に先立って、フィブリノゲン溶液およびトロンビン溶液は、(必要な場合は)解凍され、そして混合される。別の実施の形態では、フィブリノゲンおよびトロンビンは、カルシウム源とは別々に保存され得る。さらに別の実施の形態では、フィブリノゲンは、カルシウム源とともに保存され、トロンビンからは分離され得る。
【0086】
IV.キット
別の実施の形態では、融合タンパク質、フィブリノゲン、トロンビン、カルシウム源および選択肢として生体適合性のある気体を含むキットが提供される。選択肢として、キットは、因子XIIIaのような架橋酵素を含んでもよい。融合タンパク質は、増殖因子、架橋酵素のための基質ドメイン、および選択肢として基質ドメインと生理活性因子との間の分解部位用を含む。融合タンパク質はフィブリノゲン溶液またはトロンビン溶液のいずれかの中にあってもよい。好ましい実施の形態では、フィブリノゲン溶液は融合タンパク質を含む。生体適合性のある気体はフィブリノゲン溶液またはトロンビン溶液のいずれかの中にあってもよい。好ましくは、生体適合性のある気体はトロンビン溶液の中にある。溶液および選択肢として生体適合性のある気体は、好ましくは、2方向注射器装置によって混合され、その中では、混合室および/または針および/またはスタティックミキサを介して両方の注射器の内容物を圧搾することにより、混合が生じる。
【0087】
好ましい実施の形態では、フィブリノゲンおよびトロンビンの両方は、凍結乾燥された形式で別々に保存される。2つのどちらかは融合タンパク質を含み得る。使用に先立って、フィブリノゲン希釈バッファは凍結乾燥されたフィブリノゲンに添加され、バッファはさらにアプロチニンを含んでもよい。凍結乾燥されたトロンビンは、塩化カルシウム溶液において溶解される。続いて、フィブリノゲン溶液およびトロンビン溶液は別々の容器/ガラス瓶/注射器本体に置かれ、2方向注射器のような2方向接続装置によって混合される。選択肢として、容器/ガラス瓶/注射器本体は二部構成で、2室が注射器本体壁に垂直な調整可能な仕切りによって分離されている。2室のうちの1つは凍結乾燥されたフィブリノゲンまたはトロンビンを含み、その一方で他方の室は適切なバッファ溶液を含む。プランジャが押し下げられると、仕切りは移動し、バッファをフィブリノゲン室に放出し、フィブリノゲンを溶解させる。フィブリンフォームを形成するために、生体適合性のある気体を、フィブリノゲン溶液またはトロンビン溶液を含む容器/ガラス瓶/注射器本体のうちの任意のものに添加し得る。一旦フィブリノゲンおよびトロンビンの両方が溶解されると、両方の二部構成注射器本体は2方向接続装置に取付けられ、内容物は、接続装置に取付けられた注射針を通ってそれらを圧搾することにより混合される。選択肢として、接続装置は、内容物の混合を改善するよう、スタティックミキサを含む。
【0088】
好ましい実施の形態では、フィブリノゲン溶液の体積は、混合に先立って、生体適合性のある気体の体積の約40〜60%、好ましくは50%である。この比率の結果、約15秒のウィンドウがもたらされ、その間に、発泡プロセスが開始し、十分な架橋が生じる前に必要な部位で適用または注入され得る表面接着性材料を生成する。これは、水平ではない表面に材料を適用することを可能にし、材料が表面から流れ出るのを防ぐことを可能にする。これは、治療される表面が患者の足または脚のように水平でない場合に、創傷治癒指標として特に役立つ。
【0089】
別の好ましい実施の形態では、混合に先立って、フィブリノゲンは50mg/mlの量で使用され、トロンビンは、4I.U./mlの量で使用され、TG−PDGF.ABは、1〜600μg/mlの範囲の量で使用される。この比率は、バッファ溶液中における3日間の37℃での制御された送達フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームのインキュベーションの後に放出される25%までの融合タンパク質の量をもたらす結果となる。
【0090】
V.使用の方法
開示された融合タンパク質補足フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームは、移植前または移植時において、組織の修復、再生もしくはリモデリング、および/または生理活性因子の放出のために使用され得る。
【0091】
この発明の制御された送達マトリックスまたは発泡体は、創傷の治療に使用され得、好ましくは、創傷は、糖尿病によって引き起こされた潰瘍である。
【0092】
細胞のマトリックスに対する添加も、移植前または移植時において、またはさらには移植後においてでも、重合体が架橋してマトリックスを形成する際または形成した後に、行ない得る。これは、細胞増殖または内殖(in-growth)を促進することよう設計された間質間隔を形成するようマトリックスを架橋することに加えて、または架橋することの代わりであってもよい。
【0093】
他の態様で定義されなければ、ここに使用される技術用語および科学用語はすべて開示される発明が属する技術分野の当業者によって共通に理解されるのと同じ意味を有する。ここに引用される刊行物、およびそれらが引用される材料は、具体的に引用により援用される。
【0094】
当業者は、通常の実験のみを用いて、ここに開示される発明の具体的な実施の形態の多数の等価物を認識または確認できるだろう。そのような等価物は、特許請求の範囲に包含されるよう意図される。
【実施例】
【0095】
TG−PDGF.ABの形成
これらの実験で使用されるPDGF ABは、110のアミノ酸のPDGF A鎖および109のアミノ酸のPDGF B鎖から構成されていた。(TGホックのない)PDGF ABのこの形式は、人体で自然に見つけられ得る。
【0096】
PDGF AB配列はフィブリンマトリックスへの共有結合を考慮に入れるよう修飾された。さらに21のアミノ酸、プラスミン分解部位を含むTG―ホックが、以下のように、PDGF ABのN末端の両方に取付けられた:
TG―N(A)・・・・・・・・C(A)
C(B)・・・・・・・・N(B)―TG
NはN末端を指し;CはC末端を指し;(A)はA鎖を指し;および(B)はB鎖を指す。
【0097】
TG−PDGF Aのアミノ酸配列は次のとおりである:
MNQEQVSPLPVELPLIKMKPHSIEEAVPAVCKTRTVIYEIPRSQVDPTSANFLIWPPCVEVKRCTGCCNTSSVKCQPSRVHHRSVKVAKVEYVRKKPKLKEVQVRLEEHLECACATTSLNPDYREEDTDVR(SEQ ID NO:2)。
【0098】
TG−PDGF Bのアミノ酸配列は次のとおりである:
MNQEQVSPLPVELPLIKMKPHSLGSLTIAEPAMIAECKTRTEVFEISRRLIDRTNANFLVWPPCVEVQRCSGCCNNRNVQCRPTQVQLRPVQVRKIEIVRKKPIFKKATVTLEDHLACKCETVAAARPVT(SEQ ID NO:3)。
【0099】
異質二量体TG−PDGF ABのA鎖およびB鎖は、細菌システムで別々に発現された。細菌細胞の封入体を可溶性にしてA鎖またはB鎖をそれぞれ放出した。両方とも、A鎖およびB鎖溶液を陽イオン交換カラムの使用により(別々に)精製した。続いて、A鎖およびB鎖は還元、変性または沈殿された。沈殿物を溶解し、A鎖およびB鎖溶液は、再折りたたみステップのために混合された。TG−PDGF ABへの再折りたたみは、バッファ溶液において3〜5日の期間にわたって生じた。再折りたたみされたタンパク質は、陽イオン交換カラムに続いてゲルろ過カラムを含む、2ステップの精製工程によって精製された。
【0100】
放出研究プロトコル
各実験ごとに、100μL−ゲルを、バクスター(Baxter)からのDuPloject(商標)装置を使用して、3部作成した。これらの2注射器装置は、2つの注射器に含まれる、等しい量の、TG−PDGF.ABを含むフィブリノゲン溶液およびトロンビン溶液の混合を可能にする。一方の注射器はフィブリノゲン溶液を含む。第1の前駆体溶液は、バクスターAG(オーストリア、ウィーン)からのTISSEEL VHTMまたはVH S/DTM(S/Dは、追加安全性を提供するよう、追加されたウイルス不活性化ステップである)のフィブリノゲン成分を、フィブリノゲンの50mg/mlの濃度に対し、水、クエン酸ナトリウム25mM、ナイアシンアミド50mM、およびヒスチジン100mMを含むバッファ溶液で希釈することにより調製される。第1の前駆体溶液は7.3のpHを有する。TG−PDGF.ABは、66μg/ml、200μg/mlまたは600μg/mlの濃度でフィブリノゲン前駆体溶液に添加される。第2の注射器は、4IU/ml、15IU/ml、31IU/ml、62IU/ml、125IU/mlおよび250IU/mlの最終トロンビン濃度に対して塩化カルシウム40mMおよび塩化ナトリウム75mMを含有するバッファにおいて希釈された(実施例に示されるように異なる量の)バクスターAG(オーストリア、ウィーン)からのTISSEEL VHTMまたはVH S/DTM(S/Dは、さらなる安全性を与えるよう、追加されたウイルス不活性化ステップである)から得られるトロンビンを含有する。注射器溶液は等しい体積で混合される。
【0101】
ゲルは37℃で1時間乾燥された。それらは、10mlの放出バッファ(TRIS 10mM、NaCl 70mM、KCl 1.3mM、BSA 0.1%、pH 7.4)を含む15mlファルコンチューブに挿入され、インキュベータの中で37℃で72時間インキュベートされた。100μL放出バッファ部分標本が、適切な時点(約6時間、24時間、48時間および72時間)で採取された。異なる時点で放出バッファに含まれていたPDGF−AB濃度を、組織内のELISAアッセイを使用して判断した。
【0102】
実施例1:高用量および低用量TG−PDGF.ABの放出割合
放出研究プロトコルは、(同じロットまたは異なるロットを、異なる日日で用いて)66μg/mlまたは600μg/mlのTG−PDGF.ABを含むフィブリノゲン溶液で5回行なった。平均放出割合はこれらの5つの実験を用いて計算された。
【0103】
高用量(フィブリノゲン溶液中の600μg/ml TG−PDGF.AB)の放出割合(図1)は、低用量(66μg/ml TG−PDGF.AB)の放出割合(図2)よりはるかに高い:つまり、それぞれ62%および21%であった。
【0104】
実施例2:TG−PDGF.ABの放出に対するトロンビン濃度の影響
放出研究は、トロンビン溶液において異なる量のトロンビン(4IU/ml、15IU/ml、31IU/ml、62IU/ml、125IU/mlおよび250IU/ml)を使用し、フィブリノゲン溶液は変わらないまま(図3に対しては50mg/mlのフィブリノゲンおよび600μg/mlのTG−PDGF.AB、図4に対しては66μg/mlのTG−PDGF.AB)で、行なわれた。
【0105】
図3および図4のトロンビンの250IU/mlおよび4IU/mlに対応するデータは、図5に示されるように提示される。両方の用量について、トロンビン濃度を低減すると、より低い放出割合に至った。
【0106】
実施例3:異なる量の第XIII因子を用いた放出研究
放出研究は、フィブリノゲン溶液に異なる量の第XIII因子(0IU/ml、0.2IU/ml、2IU/mlおよび20IU/ml、つまり最終ゲルにおいて0IU/ml、0.1IU/ml、1IU/mlおよび10IU/ml)を添加して行なわれた。
【0107】
この実験は、(それぞれ図6および図7に対して)250IU/mlのトロンビンで高用量(フィブリンゲルにおける300μg/mlのTG−PDGF.AB)および低用量(フィブリンゲルにおける33μg/mlのTG−PDGF.AB)、ならびに(それぞれ図8および図9に対して)4IU/mlのトロンビンで高用量および低用量に対して行なわれた。
【0108】
250IU/mlのトロンビンについて、第XIII因子濃度増加させると、高用量のTG−PDGF.ABに対しては、より低い放出に至る。(60%から35%への放出)。これは、低用量についての放出割合には大きな影響はない。
【0109】
4IU/mlのトロンビンについては、第XIII因子濃度を増加させることは、両方の用量について、放出割合に影響はなく、なぜならば、放出割合は既に低いからである(10%付近)。
【0110】
実施例4:フィブリンフォームからの放出研究
材料および方法
テストアイテムは、ミキサを介して2つの注射器の内容物を前後に3回混合することにより調製された。第1の注射器は、0.5mlの50mg/mlフィブリノゲン溶液を含み、第2の注射器は、0.5mlの4IU/mlトロンビン溶液および1mlの空気を含んだ。
【0111】
各テストアイテムの6つの複製(バッファが変更されたサンプル)または4つの複製(バッファが変更されないサンプル)が調製された。テストアイテムは、端部が切断された2.5mlの注射器で調製され、型として使用された。サンプルを37℃で1時間乾燥させ、バッファ中でアッセイする前に計量して、最初のテストアイテムに含まれるTG−PDGF.ABの合計量を評価した。
【0112】
バッファが変更されたサンプル:テストアイテムを、15mlのファルコンチューブで10mlの放出バッファ中でインキュベートし、このバッファの100μL部分標本を各時点で採取し、さらなる分析まで−20℃で凍結した。各時点(1日2回)で、およびサンプルの完全な分解が生ずるまで、バッファは取除かれ、10mlの新鮮な放出バッファがサンプルに加えられた。
【0113】
バッファが変更されないサンプル:テストアイテムを、15mlのファルコンチューブで10mlの放出バッファ中でインキュベートし、このバッファの500μL部分標本を各時点で採取し、さらなる分析まで−20℃で凍結した。バッファは各時点で変更されなかった。
【0114】
ELISAシステムを用いて、さまざまな時点で得られたバッファ部分標本に含まれるTG−PDGF.ABおよびPDGF−ABを定量化した。放出サンプルのPDGF−AB濃度が、ELISAによって得られた光学濃度値から計算され、すべての計算およびグラフは、マイクロソフトEXCELを使用して、それぞれ行なわれ、およびプロットされた。
【0115】
結果
バッファが変更された場合、テストアイテムは分解した(14日後に、サンプルはすべて消滅した)。反対に、バッファが変更されなかった場合、テストアイテムは、バッファにおける14日間のインキュベーションの後、(視覚的に評価して)損なわれていなかった。各テストアイテムから放出されたTG−PDGF.ABまたはPDGF−ABのパーセンテージを、時間に対して計算しプロットした(図10を参照)。結果は、テストアイテムに最初に組込まれたTG−PDGF.ABの100%がテストアイテムの分解で復元された一方で、バッファが変更されなかった場合は14%だけが放出されたことを示した。
【0116】
実施例5:フィブリンフォームからのTG−PDGF.ABおよび天然PDGF−AB放出の比較
全体積の50%の空気を伴う実施例4に記載されるように、フィブリンフォームクロットが調製された。クロットは、(グラフ上の100%レベルに対応する)フィブリンフォームクロットに含まれるフィブリン/TG−PDGF.ABの合計量を判断するよう計量された。フィブリンフォームクロットは3部調製された。3つのTG−PDGF.AB濃度、66μg/ml、200μg/mlおよび600μg/mlのフィブリノゲンがテストされた。これらの濃度は、フィブリンフォームにおける16.5μg/ml、50μg/mlおよび150μg/mlに対応する。
【0117】
目的の理解のために、66μg/ml、200μg/mlおよび600μg/mlのTG−PDGF.AB濃度の各々を、それぞれ、低、中および高用量のTG−PDGF.ABとして言及する。
【0118】
調製の後、フィブリンフォームクロットは放出バッファにおいて37℃で3日間インキュベートされ、部分標本が4つの時点:6h 25h 48h 75hで採取された。これらの時点で放出バッファに含まれていたPDGFの濃度を、ELISAによって判断した。
【0119】
図11は、3つの濃度すべてに対する、フィブリンフォームクロットからのTG−PDGF.ABおよび天然PDGF−ABの放出プロファイルを示す。
【0120】
まず、TG−PDGF.ABは、天然PDGF.ABと比較して、フィブリンフォームクロットからはるかにより少なく放出された。(TG−PDGF.AB対天然PDGF.ABの放出割合は、低、中および高用量に対し、22%対57%、17%対74%および19%対110%であった)。
【0121】
第2に、3つのすべての用量に対し、TG−PDGF.ABの放出割合に有意差はなかった一方で、フィブリンフォームクロットからの天然PDGF−ABの放出割合は、天然PDGF−ABの濃度が増加するとともに、増加した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)フィブリノゲン;および
(ii)トロンビンを含み、前記トロンビンの量は、フィブリノゲンの1mg当たり0.3I.U.未満のトロンビンであり、さらに;
(iii)PDGFを含む第1のドメインと、トランスグルタミナーゼ基質ドメインを含む第2のドメインとを含む少なくとも1つの融合タンパク質を含む、組成物。
【請求項2】
カルシウム源をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記トランスグルタミナーゼ基質ドメインは因子XIIIa基質ドメインを含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記因子XIIIa基質ドメインはSEQ ID NO:1を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記融合タンパク質は前記第1のドメインと前記第2のドメインとの間に分解部位をさらに含む、請求項1〜4のうちのいずれか1つに記載の組成物。
【請求項6】
前記分解部位は酵素分解部位または加水分解部位である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記分解部位は酵素分解部位であり、それは、プラスミンおよびマトリックスメタロプロテイナーゼからなる群から選択される酵素によって開裂される、請求項5または6に記載の組成物。
【請求項8】
前記融合タンパク質はSEQ ID NO:2およびSEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含む、請求項1〜7のうちのいずれか1つに記載の組成物。
【請求項9】
フィブリノゲン溶液の濃度は、約10mg/mlから約130mg/mlの範囲、好ましくは約50mg/mlである、請求項1〜8のうちのいずれか1つに記載の組成物。
【請求項10】
前記トロンビンの量は、フィブリノゲンの1mg当たり、約0.04から約0.028I.U.トロンビンまで、好ましくは約0.08I.U.トロンビンである、請求項1〜9のうちのいずれか1つに記載の組成物。
【請求項11】
前記融合タンパク質の量は、フィブリノゲンの1mg当たり、約4〜約12μg融合タンパク質である、請求項1〜10のうちのいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
(i)フィブリノゲン、およびPDGFを含む第1のドメインと架橋酵素のための基質ドメインを含む第2のドメインとを含む少なくとも1つの融合タンパク質を含む第1の容器と;
(ii)トロンビンを含む第2の容器とを含み、トロンビンの量はフィブリノゲンの1mg当たり0.3I.U.未満のトロンビンであり、さらに;
(iii)選択肢として、好ましくは前記第2の容器に含まれるカルシウム源を含む、キット。
【請求項13】
CO2、N2、空気または不活性ガスからなる群から選択される生体適合性のある気体、好ましくは空気をさらに含む、請求項12に記載のキット。
【請求項14】
前記生体適合性のある気体は前記第1の容器または前記第2の容器のいずれかにある、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
前記融合タンパク質はSEQ ID NO:2およびSEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含む、請求項12〜14のうちのいずれか1つに記載のキット。
【請求項16】
フィブリノゲン溶液の濃度は、約10mg/mlから約130mg/mlの範囲、好ましくは約50mg/mlである、請求項12〜15のうちのいずれか1つに記載のキット。
【請求項17】
前記トロンビンの量は、フィブリノゲンの1mg当たり、約0.04から約0.028I.U.トロンビンまで、好ましくは約0.08I.U.トロンビンである、請求項12〜16のうちのいずれか1つに記載のキット。
【請求項18】
前記融合タンパク質の量は、フィブリノゲンの1mg当たり、約4〜約12μg融合タンパク質である、請求項12〜17のうちのいずれかのキット。
【請求項19】
少なくとも1つの融合タンパク質を含むフィブリンマトリックスを調製する方法であって、
(i)フィブリノゲン溶液を提供するステップと;
(ii)トロンビン溶液を提供するステップとを含み、トロンビンの量は、フィブリノゲンの1mg当たり0.3I.U.未満のトロンビンであり、前記方法はさらに;
(iii)PDGFを含む第1のドメインとトランスグルタミナーゼ基質ドメインを含む第2のドメインとを含む少なくとも1つの融合タンパク質を提供するステップと;
(iv)ステップ(i)、(ii)、(iii)で得られた成分を混合してマトリックス材料を架橋し、前記融合タンパク質を前記第2のドメインを通してマトリックスに共有結合で連結するステップとを含む、方法。
【請求項20】
カルシウム源を提供するステップをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ステップ(i)、(ii)、(iii)で得られた成分を、CO2、N2、空気または不活性ガスからなる群から選択される生体適合性のある気体、好ましくは空気と混合して発泡材料を架橋し、前記融合タンパク質を前記第2のドメインを通してマトリックスに共有結合で連結する、請求項19または20のうちのいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記フィブリノゲン溶液の体積は、前記生体適合性のある気体の体積の約40〜60%、好ましくは約50%である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記トランスグルタミナーゼ基質ドメインは因子XIIIa基質ドメインを含む、請求項19〜22のうちのいずれか1つに記載の方法。
【請求項24】
因子XIIIa基質ドメインは、SEQ ID NO:1であるか、またはSEQ ID NO:1を含む、請求項19〜23のうちのいずれか1つに記載の方法。
【請求項25】
前記融合タンパク質は前記第1のドメインと前記第2のドメインとの間に分解部位をさらに含む、請求項19〜24のうちのいずれか1つに記載の方法。
【請求項26】
前記分解部位は酵素分解部位または加水分解部位である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記分解部位は酵素分解部位であり、それは、プラスミンおよびマトリックスメタロプロテイナーゼからなる群から選択される酵素によって開裂可能である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記融合タンパク質はSEQ ID NO:2を含む、請求項19〜27のうちのいずれか1つ)に記載の方法。
【請求項29】
フィブリノゲン溶液の濃度は、約10mg/mlから約130mg/mlの範囲、好ましくは約50mg/mlである、請求項19〜28のうちのいずれか1つに記載の方法。
【請求項30】
前記トロンビンの量は、フィブリノゲンの1mg当たり、約0.04から約0.28I.U.トロンビンまで、好ましくは約0.08I.U.トロンビンである、請求項19〜29のうちのいずれか1つに記載の方法。
【請求項31】
前記融合タンパク質の量は、フィブリノゲンの約4〜12μg/mgの範囲にある、請求項19〜30のうちのいずれか1つに記載の方法。
【請求項32】
請求項19〜31のうちのいずれかによる方法によって、および/または請求項1〜11のうちのいずれか1つによる組成物から、および/または請求項12〜18のうちのいずれか1つによるキットから得られ得る、制御された送達フィブリンマトリックス。
【請求項33】
増殖因子の25%以下が、放出バッファ(TRIS 10mM、NaCl 70mM、KCl 1.3mM、BSA 0.1%、pH 7.4)中での37℃での3日間の、前記制御された送達フィブリンマトリックスのインキュベーションの後に放出されることにおいて特徴づけられる、請求項32に記載の制御された送達マトリックス。
【請求項34】
請求項21〜22のうちのいずれかに記載の方法によって得られる制御された送達フィブリンフォーム。
【請求項35】
増殖因子の25%以下が、放出バッファ(TRIS 10mM、NaCl 70mM、KCl 1.3mM、BSA 0.1%、pH 7.4)中での37℃での3日間の、制御された送達フィブリンマトリックスのインキュベーションの後に放出されることにおいて特徴づけられる、請求項34に記載の制御された送達フィブリンフォーム。
【請求項36】
薬物としての使用のための、請求項32〜35のうちのいずれかに記載の制御された送達フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォーム。
【請求項37】
創傷の治療における使用のための、請求項32〜35のうちのいずれかに記載の制御された送達フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォーム。
【請求項38】
前記創傷は糖尿病によって引き起こされた潰瘍である、請求項37に記載の制御された送達フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォーム。
【請求項39】
創傷の治療のための薬物の製造のための、請求項32〜35のうちのいずれかに記載の制御された送達フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームの使用。
【請求項40】
前記創傷は糖尿病によって引き起こされた潰瘍である、請求項39に記載の制御された送達フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームの使用。
【請求項1】
(i)フィブリノゲン;および
(ii)トロンビンを含み、前記トロンビンの量は、フィブリノゲンの1mg当たり0.3I.U.未満のトロンビンであり、さらに;
(iii)PDGFを含む第1のドメインと、トランスグルタミナーゼ基質ドメインを含む第2のドメインとを含む少なくとも1つの融合タンパク質を含む、組成物。
【請求項2】
カルシウム源をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記トランスグルタミナーゼ基質ドメインは因子XIIIa基質ドメインを含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記因子XIIIa基質ドメインはSEQ ID NO:1を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記融合タンパク質は前記第1のドメインと前記第2のドメインとの間に分解部位をさらに含む、請求項1〜4のうちのいずれか1つに記載の組成物。
【請求項6】
前記分解部位は酵素分解部位または加水分解部位である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記分解部位は酵素分解部位であり、それは、プラスミンおよびマトリックスメタロプロテイナーゼからなる群から選択される酵素によって開裂される、請求項5または6に記載の組成物。
【請求項8】
前記融合タンパク質はSEQ ID NO:2およびSEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含む、請求項1〜7のうちのいずれか1つに記載の組成物。
【請求項9】
フィブリノゲン溶液の濃度は、約10mg/mlから約130mg/mlの範囲、好ましくは約50mg/mlである、請求項1〜8のうちのいずれか1つに記載の組成物。
【請求項10】
前記トロンビンの量は、フィブリノゲンの1mg当たり、約0.04から約0.028I.U.トロンビンまで、好ましくは約0.08I.U.トロンビンである、請求項1〜9のうちのいずれか1つに記載の組成物。
【請求項11】
前記融合タンパク質の量は、フィブリノゲンの1mg当たり、約4〜約12μg融合タンパク質である、請求項1〜10のうちのいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
(i)フィブリノゲン、およびPDGFを含む第1のドメインと架橋酵素のための基質ドメインを含む第2のドメインとを含む少なくとも1つの融合タンパク質を含む第1の容器と;
(ii)トロンビンを含む第2の容器とを含み、トロンビンの量はフィブリノゲンの1mg当たり0.3I.U.未満のトロンビンであり、さらに;
(iii)選択肢として、好ましくは前記第2の容器に含まれるカルシウム源を含む、キット。
【請求項13】
CO2、N2、空気または不活性ガスからなる群から選択される生体適合性のある気体、好ましくは空気をさらに含む、請求項12に記載のキット。
【請求項14】
前記生体適合性のある気体は前記第1の容器または前記第2の容器のいずれかにある、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
前記融合タンパク質はSEQ ID NO:2およびSEQ ID NO:3のアミノ酸配列を含む、請求項12〜14のうちのいずれか1つに記載のキット。
【請求項16】
フィブリノゲン溶液の濃度は、約10mg/mlから約130mg/mlの範囲、好ましくは約50mg/mlである、請求項12〜15のうちのいずれか1つに記載のキット。
【請求項17】
前記トロンビンの量は、フィブリノゲンの1mg当たり、約0.04から約0.028I.U.トロンビンまで、好ましくは約0.08I.U.トロンビンである、請求項12〜16のうちのいずれか1つに記載のキット。
【請求項18】
前記融合タンパク質の量は、フィブリノゲンの1mg当たり、約4〜約12μg融合タンパク質である、請求項12〜17のうちのいずれかのキット。
【請求項19】
少なくとも1つの融合タンパク質を含むフィブリンマトリックスを調製する方法であって、
(i)フィブリノゲン溶液を提供するステップと;
(ii)トロンビン溶液を提供するステップとを含み、トロンビンの量は、フィブリノゲンの1mg当たり0.3I.U.未満のトロンビンであり、前記方法はさらに;
(iii)PDGFを含む第1のドメインとトランスグルタミナーゼ基質ドメインを含む第2のドメインとを含む少なくとも1つの融合タンパク質を提供するステップと;
(iv)ステップ(i)、(ii)、(iii)で得られた成分を混合してマトリックス材料を架橋し、前記融合タンパク質を前記第2のドメインを通してマトリックスに共有結合で連結するステップとを含む、方法。
【請求項20】
カルシウム源を提供するステップをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ステップ(i)、(ii)、(iii)で得られた成分を、CO2、N2、空気または不活性ガスからなる群から選択される生体適合性のある気体、好ましくは空気と混合して発泡材料を架橋し、前記融合タンパク質を前記第2のドメインを通してマトリックスに共有結合で連結する、請求項19または20のうちのいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記フィブリノゲン溶液の体積は、前記生体適合性のある気体の体積の約40〜60%、好ましくは約50%である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記トランスグルタミナーゼ基質ドメインは因子XIIIa基質ドメインを含む、請求項19〜22のうちのいずれか1つに記載の方法。
【請求項24】
因子XIIIa基質ドメインは、SEQ ID NO:1であるか、またはSEQ ID NO:1を含む、請求項19〜23のうちのいずれか1つに記載の方法。
【請求項25】
前記融合タンパク質は前記第1のドメインと前記第2のドメインとの間に分解部位をさらに含む、請求項19〜24のうちのいずれか1つに記載の方法。
【請求項26】
前記分解部位は酵素分解部位または加水分解部位である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記分解部位は酵素分解部位であり、それは、プラスミンおよびマトリックスメタロプロテイナーゼからなる群から選択される酵素によって開裂可能である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記融合タンパク質はSEQ ID NO:2を含む、請求項19〜27のうちのいずれか1つ)に記載の方法。
【請求項29】
フィブリノゲン溶液の濃度は、約10mg/mlから約130mg/mlの範囲、好ましくは約50mg/mlである、請求項19〜28のうちのいずれか1つに記載の方法。
【請求項30】
前記トロンビンの量は、フィブリノゲンの1mg当たり、約0.04から約0.28I.U.トロンビンまで、好ましくは約0.08I.U.トロンビンである、請求項19〜29のうちのいずれか1つに記載の方法。
【請求項31】
前記融合タンパク質の量は、フィブリノゲンの約4〜12μg/mgの範囲にある、請求項19〜30のうちのいずれか1つに記載の方法。
【請求項32】
請求項19〜31のうちのいずれかによる方法によって、および/または請求項1〜11のうちのいずれか1つによる組成物から、および/または請求項12〜18のうちのいずれか1つによるキットから得られ得る、制御された送達フィブリンマトリックス。
【請求項33】
増殖因子の25%以下が、放出バッファ(TRIS 10mM、NaCl 70mM、KCl 1.3mM、BSA 0.1%、pH 7.4)中での37℃での3日間の、前記制御された送達フィブリンマトリックスのインキュベーションの後に放出されることにおいて特徴づけられる、請求項32に記載の制御された送達マトリックス。
【請求項34】
請求項21〜22のうちのいずれかに記載の方法によって得られる制御された送達フィブリンフォーム。
【請求項35】
増殖因子の25%以下が、放出バッファ(TRIS 10mM、NaCl 70mM、KCl 1.3mM、BSA 0.1%、pH 7.4)中での37℃での3日間の、制御された送達フィブリンマトリックスのインキュベーションの後に放出されることにおいて特徴づけられる、請求項34に記載の制御された送達フィブリンフォーム。
【請求項36】
薬物としての使用のための、請求項32〜35のうちのいずれかに記載の制御された送達フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォーム。
【請求項37】
創傷の治療における使用のための、請求項32〜35のうちのいずれかに記載の制御された送達フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォーム。
【請求項38】
前記創傷は糖尿病によって引き起こされた潰瘍である、請求項37に記載の制御された送達フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォーム。
【請求項39】
創傷の治療のための薬物の製造のための、請求項32〜35のうちのいずれかに記載の制御された送達フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームの使用。
【請求項40】
前記創傷は糖尿病によって引き起こされた潰瘍である、請求項39に記載の制御された送達フィブリンマトリックスまたはフィブリンフォームの使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2012−512812(P2012−512812A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540118(P2010−540118)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【国際出願番号】PCT/EP2008/068185
【国際公開番号】WO2009/083544
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(507207144)クロス・バイオサージェリー・アクチェンゲゼルシャフト (7)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【国際出願番号】PCT/EP2008/068185
【国際公開番号】WO2009/083544
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(507207144)クロス・バイオサージェリー・アクチェンゲゼルシャフト (7)
【Fターム(参考)】
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