説明

フィラメントワインディング装置

【課題】2軸回転式のFW装置において自転及び公転の加減速頻度を少なくしてインプレーン巻きの速度を向上させ、生産性を向上する。
【解決手段】公転アームを公転軸に対して傾斜させ、公転アームに対して回転可能に傾斜アームを保持し、傾斜アームの先端に自転軸を回転可能に保持し、自転軸にマンドレルを保持する。公転アームに対して傾斜アームを傾けた状態で公転させることで、自転軸の回転を少なくしてインプレーン巻きすることができ、巻回時間を短縮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンファイバー、ガラスファイバーなどのフィラメント、あるいはフィラメントに熱硬化性樹脂を含浸した線材などをマンドレルに巻き付け、軽量かつ高強度の燃料タンクあるいはガス容器などの成形品を形成するためのフィラメントワインディング(以下、FWという)装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧力容器、パイプなどの成形方法として、樹脂を含浸させた強化繊維(以下、フィラメントという)をマンドレルに巻き付けて成形し、加熱硬化させるFW法が広く知られている。マンドレル側を回転させる方式と、フィラメントを供出するヘッド側を回転させる方式がある。
【0003】
例えば自動車の燃料タンクとして圧縮天然ガスを貯蔵するCNGタンクがあるが、このCNGタンクはストレートの円筒部と円筒部の両側に半球状のドーム部とを有している。このようなCNGタンクをFW法で製造するにあたり、図1(a)に示すフープ巻きと、図1(b)に示すヘリカル巻きの両方を行うことで、円筒部とドーム部の両方にフィラメントを巻き付けている。しかしフープ巻き及びヘリカル巻きでは、フィラメントをドーム部に巻き付ける際にすべりが生じ易い。また円筒部の軸方向に対してフィラメントに張力を掛けられないため、円筒部の軸方向の強度とドーム部の軸付近の強度が不足するという問題があった。
【0004】
この問題を解決するには、図1(c)に示すインプレーン巻きを行うことが望ましい。このインプレーン巻きによれば、巻回時のフィラメントのすべりを防止し易く、円筒部の軸方向に対してフィラメントに張力を掛けることができるので、上記問題を解決することが可能となる。インプレーン巻きを行うには、例えば特開2006−132746号公報に記載されているように、マンドレルをその中心軸回りに自転させながら繊維供出ガイドを自転軸に沿って左右に往復移動させて巻く1軸回転式がある。しかし1軸回転式では、マンドレルの軸部で繊維供出ガイドの移動を停止した状態でマンドレルを180°以上回転させないと、フィラメントのすべりが発生して巻回が困難となる。そのため繊維供出ガイドの移動に加減速が必要となり、往復移動に時間がかかるようになるため巻き取り速度を大きくできず生産性が低いという問題がある。
【0005】
また特開平06−143439号公報には、マンドレルをその中心軸回りに自転させるとともに中心軸に対する直交軸回りに公転できるようにし、かつマンドレルを前後方向に傾動可能とした2軸回転式のFW装置が提案されている。
【0006】
しかし同公報に記載のFW装置でインプレーン巻きを行う場合、180°公転させると自転の回転方向が逆向きとなり、フィラメントの巻き方向が逆向きの緩み方向となる。そのため180°公転させる間に270°程度の自転を行う必要があるが、その際、小さい公転角度の間に自転の加減速を完了させなければならず、公転の回転速度を減速する、あるいは自転速度を増速する必要がある。このように自転及び公転の回転速度を変化させるためには、慣性を考慮しなければならずFW装置が大がかりとなるという問題がある。また公転速度を減速する場合には、巻き取り速度が低下して生産性が低下してしまう。
【0007】
さらに特開2009−029006号公報には、前述したすべりの問題を解決するために、タンクを磁界中に配置し、繊維に通電しながら巻き付けるFW法が提案されている。しかしこの方法でも、FW装置が大がかりとなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−132746号公報
【特許文献2】特開平06−143439号公報
【特許文献3】特開2009−029006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記した事情に鑑みてなされたものであり、2軸回転式のFW装置において自転及び公転の加減速頻度を少なくしてインプレーン巻きの速度を向上させ、生産性を向上することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明のFW装置の特徴は、基台と、基台に設けられた公転軸に対して所定角度αで傾斜して延び公転軸を中心軸として回転自在に基台に保持された公転アームと、公転アームを基台に対して回転駆動する公転駆動装置と、公転アームに設けられ公転軸と交差する角度調整軸を中心として回転自在に一端が公転アームに保持された傾斜アームと、角度調整軸を中心として傾斜アームを回転駆動することで公転アームに対する傾斜アームの角度を調整する角度調整駆動装置と、傾斜アームに対して所定角度βで傾斜し一端が傾斜アームの他端に回転自在に保持され他端にマンドレルが保持される自転アームと、自転アームを傾斜アームに対して回転駆動する自転駆動装置と、フィラメントをマンドレルに対して繰り出す供出ガイドと、からなることにある。
【0011】
公転駆動装置、角度調整駆動装置及び自転駆動装置はそれぞれ独立して駆動制御されることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のFW装置によれば、公転アームに対する傾斜アームの角度を任意に調整することができ、公転軸に対する自転軸の角度を任意に調整することができる。すなわち公転アームの回転速度と傾斜アームの角度と自転アームの回転速度とをそれぞれ独立して制御することで、マンドレルの姿勢を任意に変化させることが可能となるため、インプレーン巻きで巻回する場合における自転及び公転の加減速頻度が従来に比べて大きく減少し、生産性が大きく向上する。
【0013】
所定角度αと所定角度βとの和は90°であることが望ましい。このようにすれば、公転アームと傾斜アームとが互いに平行に重なったときに公転アームの回転軸と自転アームの回転軸とを同軸位置とすることができる。したがって公転アーム又は自転アームの一方を回転させることでフープ巻き又はヘリカル巻きを行うことができる。また角度調整駆動装置として後述の実施例に示すような傘歯車機構を採用した場合は、傘歯車の構造及び強度面で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】FW装置を用いた一般的な巻回方法を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施例に係るFW装置の断面図である。
【図3】本発明の一実施例に係るFW装置の要部斜視図である。
【図4】本発明の一実施例に係るFW装置の要部拡大断面図である。
【図5】本発明の一実施例に係るFW装置の動きを説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のFW装置は、基台と、公転アームと、公転駆動装置と、傾斜アームと、角度調整駆動装置と、自転アームと、自転駆動装置と、供出ガイドとから構成される。
【0016】
基台は公転アーム、傾斜アーム、自転アーム及びマンドレルを支持する基体となるものであり、その形状は問わない。またマンドレルが軽量である場合には公転アーム、傾斜アーム及び自転アームは一つづつ設け、マンドレルを片持支持することもできるが、マンドレルを両端で両持支持できるように、公転アーム、傾斜アーム及び自転アームは左右にそれぞれ設けることが望ましい。このようにすれば重いマンドレルでも安定して回転させることができ、フィラメントの巻回精度が向上する。
【0017】
公転アームは、基台に設けられた公転軸に対して所定角度αで傾斜して延び、その公転軸を中心軸として回転自在に基台に保持されている。この所定角度αは90°以下の任意の角度とすることができる。この公転アームは、モータなどの公転駆動装置によって回転駆動される。公転アームの回転は、加減速を行ってもよいが、本発明のFW装置によれば一定速度でのインプレーン巻きが可能となる。
【0018】
傾斜アームは、一端が公転アームの先端に回転自在に保持され、公転軸と交差する角度調整軸を中心として回転する。公転軸と角度調整軸との角度は、公転アームの所定角度αと同一とすることが望ましい。このようにすることで省スペースとなり装置を小型化することができる。
【0019】
角度調整駆動装置は、角度調整軸を中心として傾斜アームを回転駆動することで公転アームに対する傾斜アームの角度を調整する。この角度が0°を超えることで、公転軸(公転アームの回転軸)の軸方向と自転軸(自転アームの回転軸)の軸方向とが交差する。この傾斜角度の範囲は任意とすることができるが、省スペースの観点からは0°±90°の範囲で選択することが好ましい。なお傾斜角度は固定してもよいし、巻回に伴って変化させてもよい。この角度調整駆動装置としては、モータなどを用いることができる。
【0020】
自転アームは、一端が傾斜アームの他端に傾斜アームの中心軸に対して所定角度βで傾斜して回転自在に保持され、他端にはマンドレルが保持される。所定角度βは、所定角度αとの和が90°となるように設定することが望ましい。このようにすることで、公転アームと傾斜アームとが互いに平行に重なったときに公転アームの回転軸(公転軸)と自転アームの回転軸(自転軸)とが同軸位置となる。したがって、その状態で角度調整駆動装置を停止し、公転アーム又は自転アームの一方を回転させることで、フープ巻き又はヘリカル巻きを行うことができる。この自転アームは、モータなどの自転駆動装置によって回転駆動される。
【0021】
供出ガイドは、フィラメントをマンドレルに向かって繰り出す。この供出ガイドは、従来のマンドレルを回転させる方式に用いられているものと同様に、少なくとも左右方向に移動する必要があるが、前後、左右、上下の三次元方向に移動可能であることが望ましい。マンドレルの回転姿勢に応じて適切な位置からフィラメントを供出することができるので、高い巻回精度でインプレーン巻きをすることができる。
【0022】
本発明のFW装置は、ストレートの円筒部と円筒部の両側に半球状のドーム部とを有するCNGタンクにフィラメントを巻回するのに有用であるが、そればかりでなく、公転軸の回転中に角度調整駆動装置によって傾斜アーム及び自転軸の角度を変更し、かつ自転軸の回転を調整することで、あらゆる角度から球体の円周上に巻回することも可能である。
【0023】
本発明のFW装置を用いてフープ巻きでフィラメントを巻回する場合には、角度調整駆動装置を駆動して傾斜アームを回転し、傾斜アームが公転アームと平行で重なる位置とする。このとき所定角度αと所定角度βとの和が90°であれば、公転アームの回転軸(公転軸)と自転アームの回転軸(自転軸)とが同軸位置となる。したがって自転駆動装置又は公転駆動装置を駆動してマンドレルを自転軸回りに回転させながら、供出ガイドを自転軸と平行に往復移動させることで、フープ巻きでフィラメントを巻回することができる。
【0024】
またヘリカル巻きで巻回する場合には、上記したフープ巻きと同様にマンドレルを自転軸回りに回転させながら、供出ガイドの移動速度を増大するだけでヘリカル巻きで巻回することができる。
【0025】
インプレーン巻きの場合には、角度調整駆動装置を駆動して傾斜アームの中心軸と公転アームの中心軸とが角度θ(図5参照)で交差するようにする。この角度θを任意に変更することで、公転アームの回転軸(公転軸)に対する自転アームの回転軸(自転軸)の角度を0〜90°の範囲で任意に変化させることができる。この状態で、公転アームの回転軸(公転軸)と傾斜アームの回転軸と自転アームの回転軸(自転軸)とは一点で交差している。
【0026】
そして上記一点に対向するように供出ガイドを配置し、公転駆動装置を駆動して公転アームを回転させると、フィラメントは、上記一点を含み公転軸に直交する平面でマンドレルを切断した切断線に沿ってたすきがけ状に巻回されるので、インプレーン巻きで巻回することができる。ただし、公転アームのみを回転しただけでは、フィラメントの締まる方向がマンドレルのドーム部の表面に対して垂直方向(フィラメントとドーム部の表面との接触点からの法線と反対方向)とならずフィラメントが外れ易くなる場合があるので、フィラメントの締まる方向がマンドレルのドーム部の表面に対して垂直方向となるように、自転駆動装置を制御しながら自転アームを自転させることが望ましい。
【0027】
以下、本発明の実施態様を実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0028】
図2、図3に本実施例に係るFW装置を示す。このFW装置は、直立する一対の脚部10と、一対の脚部10の上端部を連結する橋部11とからなる略門形状の基台1を備えている。一対の脚部10には、それぞれ脚部10に対して直交する公転軸部28が回転自在に形成されている。それぞれの公転軸部28には、公転軸部28の中心軸に対して所定角度α=45°の角度で傾斜する長ブロック形状の公転アーム2がそれぞれ内側へ向かって突出するように連結されている。すなわち一対の公転アーム2は、公転軸部28の回転に伴ってそれぞれ公転軸部28の中心軸(公転軸X)を中心とする円錐形状の軌跡で回転する。
【0029】
一対の公転アーム2の先端には、それぞれ長ブロック形状の傾斜アーム3が回転自在に保持されている。傾斜アーム3は、公転アーム2の中心軸に対して直交する角度調整軸Zを中心として回転する。すなわち傾斜アーム3と公転アーム2とがなす角度は、傾斜アーム3の回転に伴って0°〜360°の間で変化可能である。
【0030】
一対の傾斜アーム3の先端には、それぞれ棒状の自転アーム4が回転自在に保持されている。自転アーム4は、その中心軸が傾斜アーム3の中心軸に対して所定角度β=45°の角度で傾斜している。一対の自転アーム4の先端にはマンドレルMが保持され、自転アーム4の回転によってマンドレルMは自転軸Yを中心として回転する。
【0031】
基台1の橋部11には、公転モータ20と、角度調整モータ30と、自転モータ40とが、それぞれ独立して駆動可能に設置されている。公転モータ20の回転軸には公転第1プーリ21が固定され、公転第1プーリ21の回転は公転第1ベルト22を介して公転第2プーリ23に伝達される。公転第2プーリ23の中心軸には、公転第2プーリ23の両側へ延びる公転ロッド24が固定され、公転ロッド24の両端にはそれぞれ公転第3プーリ25が固定されている。一対の公転第3プーリ25の回転は、公転第2ベルト26を介して公転第4プーリ27に伝達される。一対の公転第4プーリ27の中心軸には、図4に拡大して示すように公転軸部28が固定され、公転軸部28には前述のように公転アーム2が45°で傾斜して固定されている。したがって公転モータ20の回転によって一対の公転軸部28が同期して回転し、一対の公転アーム2は互いに同期して公転軸Xを中心に回転する。
【0032】
角度調整モータ30の回転軸には角度調整第1プーリ31が固定され、角度調整第1プーリ31の回転は角度調整第1ベルト32を介して角度調整第2プーリ33に伝達される。角度調整第2プーリ33の中心軸には、角度調整第2プーリ33の両側へ延びる角度調整ロッド34が固定され、角度調整ロッド34の両端にはそれぞれ角度調整第3プーリ35が固定されている。一対の角度調整第3プーリ35の回転は、角度調整第2ベルト36を介して角度調整第4プーリ37に伝達される。一対の角度調整第4プーリ37の中心軸には角度調整軸部38が固定され、角度調整軸部38は後述の自転軸部48及び公転軸部28を軸方向に貫通して突出し、先端には角度調整傘歯車39が形成されている。角度調整軸部38は、自転軸部48及び公転軸部28内の筒状の中空部を貫通し、自転軸部48及び公転軸部28とは独立して回転自在である。
【0033】
自転モータ40の回転軸には自転第1プーリ41が固定され、自転第1プーリ41の回転は自転第1ベルト42を介して自転第2プーリ43に伝達される。自転第2プーリ43の中心軸には、自転第2プーリ43の両側へ延びる自転ロッド44が固定され、自転ロッド44の両端にはそれぞれ自転第3プーリ45が固定されている。一対の自転第3プーリ45の回転は、自転第2ベルト46を介して自転第4プーリ47に伝達される。一対の自転第4プーリ47の中心軸には、図4に拡大して示すように自転軸部48が固定されている。自転軸部48は公転軸部28の筒状の中空部を軸方向に貫通して突出し、先端には自転第1傘歯車49が形成されている。
【0034】
公転アーム2の内部と傾斜アーム3の内部には、図4に示すように歯車リンク機構が形成されている。公転アーム2の内部には両端に傘歯車をもつ角度調整伝達軸部材50が配置されている。傾斜アーム3の回転軸(角度調整軸Z)には傾斜アーム側傘歯車51が形成され、傾斜アーム側傘歯車51は公転アーム2の内部に配置されている。角度調整伝達軸部材50は、一端の傘歯車が角度調整傘歯車39と歯合し、他端の傘歯車が傾斜アーム側傘歯車51と歯合している。したがって角度調整モータ30が回転駆動されると、その回転が角度調整第1プーリ31、角度調整第1ベルト32、角度調整第2プーリ33、角度調整ロッド34、角度調整第3プーリ35、角度調整第2ベルト36、角度調整第4プーリ37、角度調整軸部38、角度調整傘歯車39、角度調整伝達軸部材50、傾斜アーム側傘歯車51の順に伝達され、傾斜アーム3が回転する。
【0035】
また公転アーム2の内部には、両端に傘歯車をもつ自転伝達第1軸部材52が配置されている。傾斜アーム3の回転軸には、両端に傘歯車をもつ自転伝達第2軸部材53が傾斜アーム側傘歯車51を貫通して回転自在に配置され、自転伝達第2軸部材53は一端の傘歯車が公転アーム2内部に配置され、他端の傘歯車が傾斜アーム3内部に配置されている。自転伝達第2軸部材53は、傾斜アーム側傘歯車51に干渉することなく独立して回転する。傾斜アーム3の内部には、両端に傘歯車をもつ自転伝達第3軸部材54が配置されている。そして自転軸部48の端部には、傾斜アーム3の内部に配置された自転第2傘歯車55が形成されている。
【0036】
自転伝達第1軸部材52は、一端の傘歯車が自転第1傘歯車49と歯合し、他端の傘歯車が自転伝達第2軸部材53の一方の傘歯車と歯合している。自転伝達第2軸部材53の他方の傘歯車は自転伝達第3軸部材54の一方の傘歯車と歯合し、自転伝達第3軸部材54の他方の傘歯車は自転第2傘歯車55と歯合している。したがって自転モータ40が回転駆動されると、その回転が自転第1プーリ41、自転第1ベルト42、自転第2プーリ43、自転ロッド44、自転第3プーリ45、自転第2ベルト46、自転第4プーリ47、自転軸部48、自転第1傘歯車49、自転伝達第1軸部材52、自転伝達第2軸部材53、自転伝達第3軸部材54、自転第2傘歯車55の順に伝達され、自転アーム4が自転軸Yを中心として回転する。
【0037】
なお、図4には本実施例のFW装置の左側の構造を示しているが、右側も同様の構造であり、一対の公転アーム2、一対の角度調整アーム3、一対の自転アーム4は、それぞれ同期して回転するように構成されている。
【0038】
本実施例のFW装置は、マンドレルMに向かってフィラメントFを供出する供出装置6をさらに備えている。この供出装置6は、先端にフィラメントFを供出するリング部をもつ供出ガイド60と、供出ガイド60を支持する可動台61とを備える。可動台61は左右移動プレート62上に設置され、左右駆動モータ63の回転により左右移動プレート62上を左右方向に移動する。また左右移動プレート62は前後移動プレート64上に設置され、前後駆動モータ65の回転により前後移動プレート64上を前後方向に移動する。
【0039】
可動台61の下部には上下駆動モータ66が備えられ、上下駆動モータ66の駆動によって可動台61、左右移動プレート62、前後移動プレート64は一体に上下方向に移動する。さらに可動台61には角度変更モータ67が備えられ、供出ガイド60が可動台61に対してなす角度を調整可能とされている。可動台の背部には、張力制御モータ、張力センサなどを備えた図示しない張力制御ユニットが配置され、カーボンファイバー製のフィラメントが所定の張力となるように供出ガイド60に供出され、マンドレルMの回転に伴って先端のリング部から所定の張力でフィラメントFが繰り出される。
【0040】
以下、本実施例のFW装置を用いてマンドレルMにフィラメントFを巻回する方法を説明する。本実施例ではマンドレルMとして、ストレートの円筒部と円筒部の両側に半球状のドーム部とを有するアルミ合金製のCNGタンクを用い、フープ巻き、ヘリカル巻き、インプレーン巻きを組み合わせて巻回する。
【0041】
先ずフープ巻きの場合には、図2に示すように、角度調整モータ30を駆動して公転アーム2と傾斜アーム3とが互いに平行に重なる位置とする。その状態では、公転アーム2の回転軸(公転軸X)と自転アーム4の回転軸(自転軸Y)とが同軸となり、マンドレルMは水平状態で保持されている。次いで公転モータ20を駆動し、公転アーム2と傾斜アーム3とが供出ガイド60に対して垂直となる位置で停止させ、巻回時に供出ガイド60と干渉するのを防止する。
【0042】
そして自転モータ40のみを回転駆動してマンドレルMを自転軸Yを中心に回転させ、供出ガイド60を左右方向に往復移動させながらフィラメントFを巻回することで、フープ巻きを行うことができる。
【0043】
ヘリカル巻きは、フープ巻きと同様にマンドレルMを回転させながら、供出ガイド60の左右方向の移動速度を大きくすることで行うことができる。
【0044】
インプレーン巻きの場合には、角度調整モータ30を駆動し、傾斜アーム3の中心軸と公転アーム2の中心軸とが角度θ(図5参照)で交差するようにする。この角度θを任意に変更することで、公転アーム3の回転軸(公転軸X)に対する自転アーム4の回転軸(自転軸Y)の角度を0〜90°の範囲で任意に変化させることができる。この状態で、公転アーム2の回転軸(公転軸X)と傾斜アーム3の回転軸(角度調整軸Z)と自転アーム4の回転軸(自転軸Y)とは一点で交差している。
【0045】
このとき、図3に示すように、公転アーム2の回転軸(公転軸X)と傾斜アーム3の回転軸(角度調整軸Z)との交点を中心として、一対の公転アーム2の回転軸(公転軸X)、一対の傾斜アーム3の回転軸(角度調整軸Z)、一対の自転アーム4の回転軸(自転軸Y)とが点対称となる位置に配置する。このようにすることで、対応する両側の各軸を同じ角度だけ動かせば、理論上は一対の自転アーム4の回転軸(自転軸Y)は常に同一直線上に同一距離で位置するため、巻回中に安定してマンドレルMを保持することができる。
【0046】
そして公転アーム2の回転軸(公転軸X)の中央付近にフィラメントFが対向するように供出ガイド60を位置させ、公転モータ20を回転駆動して公転アーム2を回転させると、マンドレルMは図5に示す順序で回転する。このときフィラメントFは、供出ガイド60が位置する点を含み公転軸Xに直交する平面でマンドレルMを切断した切断線に沿ってたすきがけ状に巻回されるので、インプレーン巻きで巻回することができる。フィラメントFは公転軸Xの中央を通る直交平面に沿うように巻回され、図5に示す順でマンドレルMが回転する。
【0047】
しかし公転アーム2のみの回転では、フィラメントFの締まる方向がマンドレルMの表面に対して垂直方向とならずフィラメントFが外れ易くなる場合があるので、フィラメントFの締まる方向がマンドレルMの表面に対して垂直方向となるように、自転モータ40を制御しながら駆動して自転させたり、供出ガイド60の位置を同期して移動させたりすることが望ましい。すなわち公転モータ20と自転モータ40を制御しながら自転アーム4を同期して自転させることが望ましく、こうすることで安定したインプレーン巻きを行うことができる。
【0048】
しかし本実施例で採用した歯車リンク機構をもつFW装置では、公転モータ20のみを駆動した場合でも公転アーム2の回転に伴って傾斜アーム3と自転アーム4が相対的に回転する。また角度調整モータ30のみを駆動した場合でも自転アーム4が相対的に回転する。そこで公転モータ20、角度調整モータ30、自転モータ40をそれぞれ独立して同期制御し、回転が影響を受ける側の回転軸の回転速度を加算又は減算することで相対的な回転を打ち消すことが望ましい。
【0049】
従来の技術で説明した1軸回転式のFW装置を用い、インプレーン巻きによってマンドレルMの周囲にフィラメントを1周巻回(1サイクル)した場合には、両端部のドーム部にフィラメントFがすべらないように180°巻き付ける(図5の右下図参照)ためには、自転軸を約360°回転させる必要がある。また引用文献2に記載の2軸回転式のFW装置を用いて同様に1サイクル巻回した場合には、両端部のドーム部にフィラメントFがすべらないように180°巻き付けるためには、自転軸を約440°回転させる必要がある。
【0050】
それに対し本実施例に係るFW装置によれば、インプレーン巻きで1サイクル巻回する間に自転軸Yを約10°回転させるだけで、両端部のドーム部にフィラメントFがすべらないように180°巻き付けることが可能であった。すなわち本実施例のFW装置によれば、自転軸Yの回転駆動時間を削減することができる。また自転による負荷が小さくなることで一定速度で公転させることができ、加減速によるロスが低減されるとともに、巻回時間を大きく短縮することができ生産性が向上する。
【0051】
本実施例ではCNGタンクを製造する場合について説明したが、球形状のマンドレルにフィラメントを均一に巻回することもできる。すなわち球体からなるマンドレルMに巻回する場合には、上記したインプレーン巻きと同様にして巻回しながら、角度調整アーム3を少しずつ回転させることでマンドレルMの傾きが変化するので、あらゆる角度で満遍なく(自転アーム4で保持した部分を除いて)巻回することができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のFW装置は、CNGタンク、球体、パイプなど種々の形状の成形品の製造に用いることができる。
【符号の説明】
【0053】
1:基台 2:公転アーム 3:傾斜アーム
4:自転アーム 20:公転モータ(公転駆動装置)
30:角度調整モータ(角度調整駆動装置)
40:自転モータ(自転駆動装置) 60:供出ガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、
該基台に設けられた公転軸に対して所定角度αで傾斜して延び該公転軸を中心として回転自在に該基台に保持された公転アームと、
該公転アームを該基台に対して回転駆動する公転駆動装置と、
該公転アームに設けられ該公転軸と交差する角度調整軸を中心として回転自在に一端が該公転アームに保持された傾斜アームと、
該角度調整軸を中心として該傾斜アームを回転駆動することで該公転アームに対する該傾斜アームの角度を調整する角度調整駆動装置と、
該傾斜アームに対して所定角度βで傾斜し一端が該傾斜アームの他端に回転自在に保持され他端にマンドレルが保持される自転アームと、
該自転アームを該傾斜アームに対して回転駆動する自転駆動装置と、
フィラメントを該マンドレルに対して繰り出す供出ガイドと、からなることを特徴とするフィラメントワインディング装置。
【請求項2】
前記公転駆動装置、前記角度調整駆動装置及び前記自転駆動装置はそれぞれ独立して駆動制御されている請求項1に記載のフィラメントワインディング装置。
【請求項3】
前記所定角度αと所定角度βとの和は90°であり、前記公転アームと前記傾斜アームとが互いに平行に重なったときに前記公転アームの回転軸と前記自転アームの回転軸とが同軸位置となる請求項1又は請求項2に記載のフィラメントワインディング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−40736(P2012−40736A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182863(P2010−182863)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】