説明

フィルタ制御方法、フィルタ制御装置及びフィルタ制御回路

【課題】音響装置のフィルタ制御において、フィルタ係数更新を行っても、音響の変化の違和感を聴取者に与えないこと。
【解決手段】演算器100は、マイクMICによる検出結果に基づいて、スピーカSPからマイクMICまでの音響伝達空間である系の同定処理を行う。そして、聴取者による特定操作(例えば、聴取者によるフィルタ係数の更新要求等)又は入力された音響信号の特定状態(例えば、楽曲間若しくは選曲時の無音状態等)を検知し、かつ、十分な同定処理時間が経過したと判定すると、系の同定処理結果に応じてフィルタ係数を更新する。十分な同定処理時間を確保することによって、正確な同定結果が得られる。以上の様な構成及び処理を取ることによって、フィルタ係数更新時に聴取者に違和感を与えることなく、正確な同定結果に基づき適切なタイミングで適切なフィルタ係数へと更新することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音源からの電気的な音響出力にフィルタ制御を施し、所望の臨場感ある音場にして出力音響を聴取者に聴取させる音響システムが有するフィルタ制御方法、フィルタ制御装置及びフィルタ制御回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、音源からの電気的な音響出力にフィルタ制御を施し、所望の臨場感ある音場にして出力音響を聴取者に聴取させる音響システムがある。フィルタ制御は、適応制御を行って、音響伝達環境(以下、系と呼ぶ)の変化に追従する様にフィルタ係数を更新することが一般的である。この様なフィルタ制御を、適応フィルタ制御と呼ぶこととする。
【0003】
適応フィルタ制御では、系の同定処理、系の同定処理回数(以下、同定回数と呼ぶ)又は系の同定処理時間(以下、同定時間と呼ぶ)の判定、フィルタ更新という手順を踏む。例えば、図5に示す様に、入力信号に対応する音響がスピーカから発せられ、未知の系を伝達してマイクに入力され観測信号が得られるとする。ここで、次式が成立する様にフィルタ係数を変化させる処理が「系の同定処理」である。
【0004】
【数1】

【0005】
ここで、ある時刻tにおけるフィルタ係数をH(t)とすると、同定処理によるフィルタ係数H(t)の補正値Δは、次式の様に表せる。
【0006】
【数2】

【0007】
フィルタ係数H(t)の補正値Δを縦軸、時刻tを横軸に取ると、tに応じて変化するH(t)が描く曲線は、例えば、図6に示す様になる。tが十分に経過すると、Δはt軸への漸近線となることから、例えば、図6に示す様に、ほぼ漸近線が飽和した時刻を同定時間とする。この様にして「同定時間」の判定が行われる。また、「同定回数」は、上記の様にして同定処理が行われた回数を数えることによって判定される。なお、同定時間は、音響システムや系の構成、各種設定パラメータ等によって異なる。
【0008】
ところで、頻繁にフィルタ係数の更新を行うと、音響の性質が急変するために、聴取者に違和感を与える場合があった。そこで、聴取者に違和感を与えない様にするために、従来技術として、「車速が閾値以上、かつ、エンジン回転数変化率が閾値以上である加速走行状態」、「ドア及び窓の閉鎖時」、「予め定められた一定時間毎」、「適応フィルタ制御を行う演算器であるLMS(Least Mean Square)のフィルタ演算に空白時間が生じたとき」、「残響空間において集音される残響音声信号に音声が含まれている場合」等の所定条件の成立時のみ系の同定及び適応フィルタのフィルタ係数の更新を行う技術が提案されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−46186号公報
【特許文献2】特開平5−61486号公報
【特許文献3】特開平10−247088号公報
【特許文献4】特開平7−271451号公報
【特許文献5】特開2006−67127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、系の同定及びフィルタ係数更新が出力音響の出力中に行なわれた場合に、音響の性質が急変して聴取者に違和感を与えるが、上記に代表される従来技術では、この問題点を解決するものではない。
【0011】
本発明は、上記問題点(課題)を解消するためになされたものであって、出力音響の出力中に系の同定及びフィルタ係数更新を行っても、音響の変化の違和感を聴取者に与えないフィルタ制御方法、フィルタ制御装置及びフィルタ制御回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した問題を解決し、目的を達成するため、本発明は、音響伝達空間の同定処理を行い、聴取者による特定操作又は入力された音響信号の特定状態を含むイベントを判定し、イベント判定部によってイベントが判定された場合、同定処理時間を判定し、同定処理時間が一定値以上である場合、入力された音響信号に畳み込むフィルタ係数を同定処理結果に応じたフィルタ係数で更新することを要件とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、聴取者による特定操作又は入力された音響信号の特定状態を含むイベントの判定結果に応じてフィルタ係数の更新を行うので、音響の変化の違和感を聴取者に与えず出力音響の出力中にフィルタ更新を行うことが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施形態の一例に係るフィルタ制御システムの概要を説明するための図である。
【図2】図2は、実施形態の一例に係る演算器の構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、実施形態の一例に係る演算器が有するイベント判定部の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、実施形態の一例に係る演算器で実行されるフィルタ制御処理手順を示すフローチャートである。
【図5】図5は、同定処理を説明するための図である。
【図6】図6は、同定処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照し、本発明のフィルタ制御方法、フィルタ制御装置及びフィルタ制御回路に係る実施形態の一例を詳細に説明する。なお、以下の実施形態の一例では、フィルタ制御方法、フィルタ制御装置及びフィルタ制御回路を車載音響装置に適用した場合を示す。しかし、これに限定されず、一般的な音響装置に適用可能である。
【0016】
先ず、図1を参照して、実施形態の一例に係るフィルタ制御装置を含むフィルタ制御システムの概要を説明する。フィルタ制御システムSにおいて、音響装置(各種音響及び/又は映像再生装置)としての再生装置400は、再生音響信号を演算器100へと出力する。演算器100には、マイクアンプ200と、スピーカアンプ300とが接続されている。そして、マイクアンプ200には、マイクMICが、スピーカアンプ300にはスピーカSPが接続されている。なお、同図では、マイクMIC及びスピーカSPは、1ずつ示されているが、多チャンネルの音声出力形態を取る場合は、複数のマイクMIC及びスピーカSPが用いられる。
【0017】
図1において、スピーカSPから出力される音響は、聴取者Hの聴取位置付近に配設されるマイクMICによって検出される。そして、マイクMICによる検出結果は、マイクアンプ200を経由して演算器100へと入力される。
【0018】
図1において、スピーカSPからマイクMICまでの音響伝達空間が、同定処理が必要な系である。演算器100は、マイクMICによる検出結果に基づいて、系の同定処理を行う。そして、聴取者による特定操作(例えば、聴取者によるフィルタ係数の更新要求等)又は入力された音響信号の特定状態(例えば、楽曲間若しくは選曲時の無音状態等)を検知し、かつ、十分な同定処理時間が経過したと判定すると、系の同定処理結果に応じてフィルタ係数を更新する。十分な同定処理時間を確保することによって、正確な同定結果が得られる。
【0019】
以上の様な構成及び処理を取ることによって、フィルタ係数更新時に聴取者に違和感を与えることなく、正確な同定結果に基づき適切なタイミングで適切なフィルタ係数へと更新することが出来る。
【0020】
次に、図1で示した演算器100の構成について説明する。図2は、演算器100の構成を示すブロック図である。同図に示す様に、演算器100は、A/D(AD(Analog to Digital)コンバータ)101及び105と、同定処理部102と、同定結果記憶部103と、同定時間判定部104と、イベント判定部106と、ANDゲート107と、フィルタ係数更新処理部108と、適応フィルタ記憶部109と、たたみ込み処理部110と、D/A(DA(Digital to Analog)コンバータ)111とを有する。
【0021】
A/D101は、マイクMICによって検出されマイクアンプ200によって増幅された入力音響信号をアナログ信号からデジタル信号へと変換して、同定処理部102へと受け渡す。
【0022】
また、A/D105は、再生装置400から出力された音響信号をアナログ信号からデジタル信号へと変換して、同定処理部102、イベント判定部106及び畳み込み処理部110へと受け渡す。
【0023】
同定処理部102は、A/D101及び105からのデジタル信号に基づいて、スピーカSP及びマイクMIC間の系の同定処理を行う。同定時間判定部104は、同定処理部102による系の同定処理時間を計時し、上記(2)式及び図6に示すΔが飽和状態になったか否かを判定する。ここで、飽和状態とは、Δの所定時間当たりの変化量(例えば、Δのある時刻における微分係数等)が一定値以下若しくは0にほぼ等しい状態をいう。飽和状態に至る同定時間は、システム構成やシステムの設定パラメータ等により異なる。同定時間は、システム構成やシステムの設定パラメータ等を固定して実験等によって求まり、予め定めることができる。
【0024】
そして、同定処理部102は、同定時間判定部104によってΔが飽和状態になったと判定された時刻における同定結果及び同定結果に対応するフィルタ係数を同定結果記憶部103に記憶させる。また、同定時間判定部104は、Δが飽和状態になったと判定された場合、“1(同定時間十分)”をANDゲート107に対して出力する。なお、同定時間判定部104は、Δが飽和状態になったと判定されない間、“0(同定時間不十分)”をANDゲート107に対して出力する。
【0025】
イベント判定部106は、図示しない入力部からの聴取者操作の受け付け及びA/D105からのデジタル信号に基づいて、イベントの有無を判定する。ここで、聴取者操作は、聴取者による音響設定に係る意図的な操作であり、フィルタ係数の更新要求等である。また、「A/D105からのデジタル信号に基づく」とは、再生装置からのデジタル化された音響信号の例えば曲間若しくは選曲時の無音状態等に基づくことを示す。
【0026】
そして、イベント判定部106は、イベントの有無に応じて“1(イベント有り)”又は“0(イベント無し)”をANDゲート107に対して出力する。ANDゲート107は、同定時間判定部104からの出力と、イベント判定部106からの出力との論理積を取る。すなわち、ANDゲート107は、イベントが有り、かつ、同定処理時間十分である場合、フィルタ係数更新処理部108に対して、同定時間判定部104によって同定処理時間十分であると判定された時刻におけるフィルタ係数にてフィルタ係数を更新する様に指示する。
【0027】
この様に、ANDゲート107は、イベントが有り、かつ、同定処理時間十分である場合にのみフィルタ係数更新処理部108に対してフィルタ係数更新を指示するので、同定処理が不十分な状態でフィルタ係数が更新され、視聴者がスピーカSPから出力される音響に違和感をおぼえることを防止する。
【0028】
フィルタ係数更新処理部108は、ANDゲート107からの指示に応じて、同定時間判定部104によって同定処理時間十分であると判定された時刻におけるフィルタ係数を同定結果記憶部103から読み出し、適応フィルタ記憶部109に記憶されるフィルタ係数を更新する。
【0029】
畳み込み処理部110は、再生装置400からの音響信号に基づくデジタル信号と、適応フィルタ記憶部109に記憶されるフィルタ係数とを畳み込みにより出力音響信号を生成し、D/A111へ受け渡す。D/A111は、出力音響信号をデジタル信号からアナログ信号へと変換してスピーカアンプ300へと出力する。スピーカアンプ300は、アナログ信号を増幅してスピーカSPから出力させる。
【0030】
次に、図2に示したイベント判定部106の構成について説明する。図3は、イベント判定部106の構成を示すブロック図である。同図に示す様に、イベント判定部106は、操作判定部106aと、無音判定部106bと、ORゲート106cとを有する。
【0031】
操作判定部106aは、聴取者による音響設定に係る意図的な操作であるフィルタ係数の更新要求等の操作が受け付けられた場合、“1(操作が受け付け有り)”をORゲート106cに対して出力し、更新要求等の操作が受け付けられない間は“0(操作が受け付け無し)”をORゲート106cに対して出力する。
【0032】
また、無音判定部106bは、再生装置400から演算器100へ入力され、デジタル信号へと変換された音響信号の例えば曲間若しくは選曲時の無音状態等を検出する。無音判定部106bは、無音状態等を検出した場合、“1(無音状態検出有り)”をORゲート106cに対して出力し、無音状態等を検出しない間は“0(無音状態検出無し)”をORゲート106cに対して出力する。
【0033】
ORゲート106cは、操作判定部106aの出力と、無音判定部106bの出力との論理和を取り、論理和をANDゲート107へと出力する。この様に、操作判定部106aの出力と、無音判定部106bの出力との論理和を取ることによって、聴取者意志又は適切なタイミングによってフィルタ係数を更新することが可能になる。
【0034】
次に、図2に示した演算器100で実行されるフィルタ制御処理について説明する。図4は、演算器100で実行されるフィルタ制御処理手順を示すフローチャートである。同図に示す様に、同定処理部102は、マイクMICが検出した音響信号がA/D101を経て入力されたか否かを判定する(ステップS101)。
【0035】
マイクMICが検出した音響信号がA/D101を経て入力されたと判定された場合(ステップS101肯定)、ステップS102へ移り、マイクMICが検出した音響信号がA/D101を経て入力されたと判定されなかった場合(ステップS101否定)、ステップS101を繰り返す。
【0036】
続いて、ステップS102では、同定処理部102は、スピーカSPからマイクMICまでの系の同定処理を行う。続いて、イベント判定部106は、イベントの入力の有無を判定する(ステップS103)。イベントの入力の有りと判定された場合(ステップS104肯定)、ステップS105へ移り、イベントの入力の有りと判定されなかった場合(ステップS104否定)、ステップS102へ移る。
【0037】
続いて、ステップS105では、同定時間判定部104は、同定処理部102による同定処理の時間が十分であるか否かを判定する。同定処理部102による同定処理の時間が十分であると判定された場合(ステップS106肯定)、ステップS107へ移り、同定処理部102による同定処理の時間が十分であると判定されなかった場合(ステップS106否定)、ステップS102へ移る。
【0038】
続いて、ステップS107では、フィルタ係数更新処理部108は、同定結果記憶部103に記憶される同定結果に対応するフィルタ係数を読み出し、読み出したフィルタ係数にて適応フィルタ記憶部に記憶されるフィルタ係数を更新する。この処理が終了すると、フィルタ制御処理は終了する。
【0039】
以上の処理によって、聴取者による音響設定に係る意図的な操作又は無音状態があった場合に、十分な時間を以って同定処理された結果に基づく正確なフィルタ係数にてフィルタ係数更新を行うので、フィルタ係数更新時の音響の違和感を抑制し、フィルタ制御が発散すること(フィルタ制御が不安定となること)を防止することが出来る。
【0040】
以上、本発明の実施形態の一例を説明したが、本発明は、これに限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内で、更に種々の異なる実施形態で実施されてもよいものである。また、実施形態の一例に記載した効果は、これに限定されるものではない。
【0041】
また、上記実施形態の一例において説明した各処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部又は一部を手動的に行うこともでき、或いは、手動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。この他、上記実施形態の一例で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0042】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示のように構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散及び/又は統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて任意の単位で機能的または物理的に分散及び/又は統合して構成することができる。
【0043】
さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部又は任意の一部が、CPU(Central Processing Unit)(またはMPU(Micro Processing Unit)、MCU(Micro Controller Unit)などのマイクロ・コンピュータ)及びCPU(またはMPU、MCUなどのマイクロ・コンピュータ)にて解析実行されるプログラムにて実現され、或いは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現されてもよい。
【0044】
上記の実施形態の一例を含む実施形態によれば、以下の技術が開示される。
【0045】
(1)音響伝達空間の同定処理を行う同定処理ステップと、聴取者による特定操作又は入力された音響信号の特定状態を含むイベントを判定するイベント判定ステップと、前記イベント判定ステップによってイベントが判定された場合、前記同定処理ステップによる同定処理時間を判定する同定処理時間判定ステップと、前記同定処理時間判定ステップによって判定された同定処理時間が一定値以上である場合、前記入力された音響信号に畳み込むフィルタ係数を前記同定処理ステップによる同定処理結果に応じたフィルタ係数で更新するフィルタ係数更新ステップとを含むことを特徴とするフィルタ制御方法。
【0046】
(2)前記イベント判定ステップは、聴取者による特定操作を判定する操作判定ステップと、前記入力された音響信号の無音状態を判定する無音判定ステップと、前記操作判定ステップによる判定結果と前記無音判定ステップによる判定結果との論理和を取る論理和取得ステップとを含み、前記論理和取得ステップによって取得された論理和を判定結果として出力することを特徴とする(1)記載のフィルタ制御方法。
【0047】
(3)前記イベント判定ステップによる判定結果と、前記同定処理時間判定ステップによる判定結果との論理積を取る論理積取得ステップを含み、前記フィルタ係数更新ステップは、前記論理積取得ステップによる前記論理積に応じて、前記入力された音響信号に畳み込むフィルタ係数を前記同定処理ステップによる同定処理結果に応じたフィルタ係数で更新することを特徴とする(2)記載のフィルタ制御方法。
【0048】
(4)音響伝達空間の同定処理を行う同定処理部と、聴取者による特定操作又は入力された音響信号の特定状態を含むイベントを判定するイベント判定部と、前記イベント判定部によってイベントが判定された場合、前記同定処理部による同定処理時間を判定する同定処理時間判定部と、前記同定処理時間判定部によって判定された同定処理時間が一定値以上である場合、前記入力された音響信号に畳み込むフィルタ係数を前記同定処理部による同定処理結果に応じたフィルタ係数で更新するフィルタ係数更新部とを有することを特徴とするフィルタ制御装置。
【0049】
(5)前記イベント判定部は、聴取者による特定操作を判定する操作判定部と、前記入力された音響信号の無音状態を判定する無音判定部と、前記操作判定部による判定結果と前記無音判定部による判定結果との論理和を取る論理和取得部とを有し、前記論理和取得部によって取得された論理和を判定結果として出力することを特徴とする(4)記載のフィルタ制御装置。
【0050】
(6)前記イベント判定部による判定結果と、前記同定処理時間判定部による判定結果との論理積を取る論理積取得部を含み、前記フィルタ係数更新部は、前記論理積取得部による前記論理積に応じて、前記入力された音響信号に畳み込むフィルタ係数を前記同定処理ステップによる同定処理結果に応じたフィルタ係数で更新することを特徴とする(5)記載のフィルタ制御装置。
【0051】
(7)音響伝達空間の同定処理を行う同定処理部と、聴取者による特定操作又は入力された音響信号の特定状態を含むイベントを判定するイベント判定部と、前記イベント判定部によってイベントが判定された場合、前記同定処理部による同定処理時間を判定する同定処理時間判定部と、前記同定処理時間判定部によって判定された同定処理時間が一定値以上である場合、前記入力された音響信号に畳み込むフィルタ係数を前記同定処理部による同定処理結果に応じたフィルタ係数で更新するフィルタ係数更新部とを有し、前記イベント判定部は、聴取者による特定操作を判定する操作判定部と、前記入力された音響信号の無音状態を判定する無音判定部と、前記操作判定部による判定結果と前記無音判定部による判定結果との論理和を取る論理和取得部とを有し、前記論理和取得部によって取得された論理和を判定結果として出力し、前記イベント判定部による判定結果と、前記同定処理時間判定部による判定結果との論理積を取る論理積取得部を含み、前記フィルタ係数更新部は、前記論理積取得部による前記論理積に応じて、前記入力された音響信号に畳み込むフィルタ係数を前記同定処理ステップによる同定処理結果に応じたフィルタ係数で更新することを特徴とするフィルタ制御回路。
【0052】
上記に開示の技術によれば、聴取者による特定操作を判定し、入力された音響信号の無音状態を判定し、これらの判定結果の論理和をイベント判定結果として出力するので、音響伝達空間の同定処理が十分に行われたタイミングでフィルタ係数の更新が可能になるという効果を奏する。
【0053】
また、上記に開示の技術によれば、上記発明において、イベント判定結果と、同定処理時間判定結果との論理積に応じて、前記入力された音響信号に乗じるフィルタ係数を同定処理結果に応じたフィルタ係数で更新するので、同定処理が十分でないときフィルタ係数が更新されることを防ぎ、フィルタ制御が発散し不安定になることを防止するという効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、車載音響装置のフィルタ制御において、フィルタ係数更新時の音響の違和感を抑制し、フィルタ制御が発散すること(フィルタ制御が不安定となること)を防止したい場合に有用である。
【符号の説明】
【0055】
100 演算器
101、105 A/D
102 同定処理部
103 同定結果記憶部
104 同定時間判定部
106 イベント判定部
106a 操作判定部
106b 無音判定部
106c ORゲート
107 ANDゲート
108 フィルタ係数更新処理部
109 適応フィルタ記憶部
110 畳み込み処理部
200 マイクアンプ
300 スピーカアンプ
400 再生装置
H 聴取者
MIC マイク
S フィルタ制御システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響伝達空間の同定処理を行う同定処理ステップと、
聴取者による特定操作又は入力された音響信号の特定状態を含むイベントを判定するイベント判定ステップと、
前記イベント判定ステップによってイベントが判定された場合、前記同定処理ステップによる同定処理時間を判定する同定処理時間判定ステップと、
前記同定処理時間判定ステップによって判定された同定処理時間が予め定められた同定時間以上である場合、前記入力された音響信号に畳み込むフィルタ係数を前記同定処理ステップによる同定処理結果に応じたフィルタ係数で更新するフィルタ係数更新ステップと
を含むことを特徴とするフィルタ制御方法。
【請求項2】
音響伝達空間の同定処理を行う同定処理部と、
聴取者による特定操作又は入力された音響信号の特定状態を含むイベントを判定するイベント判定部と、
前記イベント判定部によってイベントが判定された場合、前記同定処理部による同定処理時間を判定する同定処理時間判定部と、
前記同定処理時間判定部によって判定された同定処理時間が予め定められた同定時間以上である場合、前記入力された音響信号に畳み込むフィルタ係数を前記同定処理部による同定処理結果に応じたフィルタ係数で更新するフィルタ係数更新部と
を有することを特徴とするフィルタ制御装置。
【請求項3】
音響伝達空間の同定処理を行う同定処理部と、
聴取者による特定操作又は入力された音響信号の特定状態を含むイベントを判定するイベント判定部と、
前記イベント判定部によってイベントが判定された場合、前記同定処理部による同定処理時間を判定する同定処理時間判定部と、
前記同定処理時間判定部によって判定された同定処理時間が予め定められた同定時間以上である場合、前記入力された音響信号に畳み込むフィルタ係数を前記同定処理部による同定処理結果に応じたフィルタ係数で更新するフィルタ係数更新部と
を有し、
前記イベント判定部は、聴取者による特定操作を判定する操作判定部と、前記入力された音響信号の無音状態を判定する無音判定部と、前記操作判定部による判定結果と前記無音判定部による判定結果との論理和を取る論理和取得部とを有し、前記論理和取得部によって取得された論理和を判定結果として出力し、
前記イベント判定部による判定結果と、前記同定処理時間判定部による判定結果との論理積を取る論理積取得部を含み、
前記フィルタ係数更新部は、前記論理積取得部による前記論理積に応じて、前記入力された音響信号に畳み込むフィルタ係数を前記同定処理ステップによる同定処理結果に応じたフィルタ係数で更新する
ことを特徴とするフィルタ制御回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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