説明

フィルムおよび加飾成形品並びにこれらの製造方法

【課題】曲面を加飾しやすく、小ロット多品種生産に短納期で対応でき、また、耐水性、耐油性及び耐化粧品性に優れた加飾フィルムを提供する。
【解決手段】基材フィルム3と、溶剤吸収層5と、ヒートシール層7とを、この順で積層し、前記ヒートシール層は、有機溶剤系インクジェットプリンタで印刷された像9を有し、合計の厚さが50μm以下であることを特徴とする加飾フィルムである。この加飾フィルムについて、ヒートシール層が溶剤吸収層の機能も併せ持っても良い。これらの加飾フィルムは、インモールド加工により、成形品を加飾することができる。また、これらの加飾フィルムの基材フィルム上に離型層を設けてもよい。離型層を設けた加飾フィルムは、インモールド転写や熱転写により、成形品を加飾することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品の平面または曲面を加飾するために用いられる加飾フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、成形品の平面または曲面を加飾するためのインモールドラベルまたは転写フィルムは、グラビア印刷機にて画像層を形成している。
また、Tシャツやマグカップ表面に絵付けをするため、フィルムまたは紙を基材とする転写シートに、インクジェットプリンタを用いて画像形成し、転写することが行われている。
【0003】
また、オーバーヘッドプロジェクター用のスライドなどを作成する目的で、基材、離型層、及び被覆層(インク吸収層)からなるインクジェット受容転写シートを用い、インクジェット印刷によりインク吸収層に画像形成した後、半透明または透明な樹脂フィルムやガラスに転写シートを加圧することで、画像を転写することが知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、ノベルティグッズなど、成形品の平面または曲面を加飾する目的で、基材フィルム、離型層、受像層、及びヒートシール層を積層した転写フィルムを用い、水性インクジェットプリンタで印刷後、熱転写が可能な転写フィルム、及び熱転写システムがある(特許文献2参照)。水性インクジェットプリンタは、解像度が高く、鮮明な印刷が可能であるため、特許文献2に記載の転写フィルムは、鮮明な加飾が可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−222878号公報
【特許文献2】特開2009−255322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、グラビア印刷機により、転写フィルムまたはインモールドラベルに画像層を形成するためには、印刷版を作製する必要があり、このための時間、手間、及びコストがかかってしまう。また、グラビア印刷方式は、大ロット少品種生産に特化した生産方式であるため、短納期、小ロット、及び多品種生産には向かないという欠点があった。
【0007】
Tシャツやマグカップ表面の絵付けに用いられる転写シートは、転移層の厚みが50μmを超えるため、転写バリが発生しやすく曲面への転写が困難であり、また、熱伝導性が悪いことで転写時の加熱時間が長く、平面への高速転写が不可能であった。
【0008】
特許文献1に記載のインクジェット受容転写シートは、被覆層(インク吸収層)と被転写物を接着させるための粘着層を被転写物側に設ける必要があるが、曲面を有する被転写物に粘着層を設けることが困難であるという問題があった。また、被転写物に粘着剤を塗布した状態で搬送または保管するため、粘着剤表面に傷などが入りやすく、品質低下の原因となっている。
【0009】
また、画像の汚染防止、耐衝撃性、耐水性、及び耐光性を向上させるためには、被覆層表面に樹脂溶液を塗布するか、透明樹脂フィルムをラミネートすることで、被覆層の保護層を設ける必要があり、工程数が増えてしまう。
【0010】
特許文献2に記載の転写フィルムは、水性インクジェットプリンタを使用して印刷するため、受像層が水性であり、加飾成形品の耐水性及び耐薬品性が低かった。特に、筆記具を始めとする文房具類に加飾をする場合には、水がかかる場合や、風呂場などの高温多湿環境下で使用する場合、化粧品の付いた手で使用する場合などがあり、高いレベルの耐水性および耐油性、耐化粧品性が求められている。転写フィルムにさらにバリア層等を設け、耐水性等を向上させることが可能であるが、曲面への加飾を行うためにはバリア層の厚さを薄くする必要があり、曲面への加飾性と耐水性の両立が困難であった。なお、本願において、耐薬品性とは、耐油性と耐化粧品性の両方を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とすることは、曲面を加飾しやすく、小ロット多品種生産に短納期で対応でき、また、耐水性、耐油性及び耐化粧品性に優れた加飾フィルムを提供することである。
【0012】
本発明においては、非水性の有機溶剤系インクジェットプリンタを用いて、非水性のヒートシール層に印刷することで、加飾成形品に耐水性、及び耐薬品性を付与することが可能になった。なお、一般的に、有機溶剤系インクジェットプリンタは、水性インクジェットプリンタに比べると解像度が低いが、トナー画像層を有する転写箔を用いた装飾に比べると解像度が高い。
【0013】
また、本発明においては、従来不可能であった薄い非水性の受像層に、有機溶剤系インクジェットプリンタによる印刷を行うことが可能となった。
【0014】
前述した目的を達成するために、以下のような発明を提供する。
(1)基材フィルムと、溶剤吸収層と、ヒートシール層とを、この順で積層し、前記ヒートシール層は、有機溶剤系インクジェットプリンタで印刷された像を有し、合計の厚さが50μm以下であることを特徴とするフィルム。
(2)基材フィルムと、ヒートシール層とを、この順で積層し、前記ヒートシール層は、有機溶剤系インクジェットプリンタで印刷された像を有し、合計の厚さが50μm以下であることを特徴とするフィルム。
(3)基材フィルムと、離型層と、溶剤吸収層と、ヒートシール層とを、この順で積層し、前記ヒートシール層は、有機溶剤系インクジェットプリンタで印刷された像を有し、合計の厚さが50μm以下であることを特徴とするフィルム。
(4)基材フィルムと、離型層と、ヒートシール層とを、この順で積層し、前記ヒートシール層は、有機溶剤系インクジェットプリンタで印刷された像を有し、合計の厚さが50μm以下であることを特徴とするフィルム。
(5)前記ヒートシール層が、塩素化ポリプロピレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂からなる群のうち少なくともひとつの樹脂を含むことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のフィルム。
(6)前記ヒートシール層が、分子量10,000〜30,000、ガラス転移温度が80〜90℃の塩素化ポリプロピレン、または分子量20,000〜30,000,ガラス転移温度が60℃の塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂で形成されることを特徴とする(5)に記載のフィルム。
(7)(1)〜(4)に記載のフィルムを用いて加飾された成形品。
(8)基材フィルムに、溶剤吸収層と、ヒートシール層とを、合計の厚さが50μm以下であるようにこの順で積層する積層工程と、前記ヒートシール層に、有機溶剤系インクジェットプリンタで、像を印刷する印刷工程と、を具備することを特徴とするフィルムの製造方法。
(9)基材フィルムに、ヒートシール層を、合計の厚さが50μm以下であるように積層する積層工程と、前記ヒートシール層に、有機溶剤系インクジェットプリンタで、像を印刷する印刷工程と、を具備することを特徴とするフィルムの製造方法。
(10)基材フィルムに、離型層と、溶剤吸収層と、ヒートシール層とを、合計の厚さが50μm以下であるように、この順で積層する積層工程と、前記ヒートシール層に、有機溶剤系インクジェットプリンタで、像を印刷する印刷工程と、を具備することを特徴とするフィルムの製造方法。
(11)基材フィルムに、離型層と、ヒートシール層とを、合計の厚さが50μm以下であるように、この順で積層する積層工程と、前記ヒートシール層に、有機溶剤系インクジェットプリンタで、像を印刷する印刷工程と、を具備することを特徴とするフィルムの製造方法。
(12)一組の射出成形型の間に、ヒートシール層が成形樹脂と接触する向きで、(1)または(2)に記載のフィルムを挿入するフィルム挿入工程と、前記一組の射出成形型を型締めする型締め工程と、前記一組の射出成形型の間に、成形樹脂を注入する成形樹脂注入工程と、前記成形樹脂が冷却した後に、前記一組の射出成形型から加飾された成形品を取り出す取り出し工程と、を具備することを特徴とする加飾された成形品の製造方法。
(13)一組の射出成形型の間に、ヒートシール層が成形樹脂と接触する向きで、(3)または(4)に記載のフィルムを挿入するフィルム挿入工程と、前記一組の射出成形型を型締めする型締め工程と、前記一組の射出成形型の間に、成形樹脂を注入する成形樹脂注入工程と、前記成形樹脂が冷却した後に、前記一組の射出成形型から加飾された成形品を取り出す取り出し工程と、前記成形品から基材フィルムを剥離する剥離工程と、を具備することを特徴とする加飾された成形品の製造方法。
(14)成形品に、(3)または(4)に記載のフィルムのヒートシール層を接触させる配置工程と、前記フィルムを加熱し、前記成形品に接着させる接着工程と、前記成形品に接着した前記フィルムから、基材フィルムを剥離する剥離工程と、を具備することを特徴とする加飾された成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、曲面を加飾しやすく、小ロット多品種生産に短納期で対応でき、また、耐水性、耐油性及び耐化粧品性に優れた加飾フィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施形態に係る加飾フィルム1aの断面図。
【図2】(a)〜(d)第1の実施形態に係る加飾フィルム1aの製造方法を示す断面図。
【図3】第2の実施形態に係る加飾フィルム1bの断面図。
【図4】(a)〜(c)第2の実施形態に係る加飾フィルム1bの製造方法を示す断面図。
【図5】第3の実施形態に係る加飾フィルム1cの断面図。
【図6】(a)〜(d)第3の実施形態に係る加飾フィルム1cの製造方法を示す断面図。
【図7】第4の実施形態に係る加飾フィルム1dの断面図。
【図8】(a)〜(c)第4の実施形態に係る加飾フィルム1dの製造方法を示す断面図。
【図9】加飾された成形品15を示す斜視図。
【図10】(a)〜(d)加飾フィルム1aを用いたインモールド加工方法を示す断面図。
【図11】(a)〜(d)加飾フィルム1cを用いたインモールド転写方法を示す断面図。
【図12】(a)〜(c)加飾フィルム1cを用いた熱転写方法を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0018】
[第1の実施形態]
(加飾フィルム1aの構成)
図1は、第1の実施形態に係る加飾フィルム1aの断面図である。加飾フィルム1aは、基材フィルム3の上に溶剤吸収層5を設け、溶剤吸収層5の上に、ヒートシール層7を設けたフィルムであり、ヒートシール層7の中には、印刷された像9がある。加飾フィルム1aは、いわゆるインモールドラベルであり、後述するインモールド加工により成形品に加飾を行う。
【0019】
加飾フィルム1aの、基材フィルム3と溶剤吸収層5とヒートシール層7とを積層し、合計の厚さは50μm以下である。薄くすることで、加飾対象の成形品の表面が曲面の場合でも、追随性よく密着できる。
【0020】
基材フィルム3は、溶剤吸収層5とヒートシール層7を支持する基材である。基材フィルム3は、耐熱性、及びインモールド加工適性を考慮して、厚さ12〜25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)を使用することが好ましいが、用途に応じ、他の材質の選定が可能である。
【0021】
溶剤吸収層5は、有機溶剤系インクジェットインキの溶剤を吸収する機能を持ち、像9の滲みを防止するために設けられた機能層である。溶剤吸収層5は、その目的から、多孔質構造でありフレキシブルな材質であることが求められるため、シリカを0.1〜1.0%含有したウレタン樹脂で形成した、厚さ1〜5μmの層であることが好ましい。溶剤吸収層5は、像9を形成する有機溶剤系インクの有機溶剤を吸収し、ヒートシール層7に有機溶剤が残存することを防止することができる。ヒートシール層7に有機溶剤が残存すると、ヒートシール層7にひびなどが生じ、耐水性、耐薬品性が悪化してしまうため、溶剤吸収層5を設けることで耐水性、耐薬品性が向上する。
【0022】
ヒートシール層7は、熱可塑性樹脂であり、被着成形品へのヒートシール機能、並びに有機溶剤系インクジェットインキの受像層として機能する層である。ヒートシール層7は、塩素化ポリプロピレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、及びアクリル系樹脂を用いることが可能であるが、分子量10,000〜30,000、ガラス転移温度が80〜90℃の塩素化ポリプロピレン、または分子量20,000〜30,000,ガラス転移温度が60℃の塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂で形成した、厚さ1〜5μmの層であることが好ましい。このように薄い親油性の受像層に、有機溶剤系インクジェットプリンタによる印刷を行うことは従来不可能であったが、本発明では、溶剤吸収層5との積層により有機溶剤系インクジェットプリンタによる印刷を行うことができた。
【0023】
像9は、有機溶剤系インクジェット印刷により、ヒートシール層7に形成された有機溶剤系のインクよりなり、絵柄、文字、記号などを形成する。
【0024】
(加飾フィルム1aの製造方法)
図2(a)〜(d)は、第1の実施形態に係る加飾フィルム1aの製造方法を示す断面図である。
図2(a)は、基材フィルム準備工程を示す。基材フィルム準備工程とは、所望の基材フィルム3を用意する工程である。
図2(b)は、溶剤吸収層形成工程を示す。溶剤吸収層形成工程とは、基材フィルム3の上に溶剤吸収層5を形成する工程である。
図2(c)は、ヒートシール層形成工程を示す。ヒートシール層形成工程とは、溶剤吸収層5の上にヒートシール層7を形成する工程である。
図2(d)は、印刷工程を示す。印刷工程とは、ヒートシール層7に、有機溶剤系インクジェットプリンタで印刷を行い、像9を形成する工程である。
なお、請求項では、溶剤吸収層形成工程とヒートシール層形成工程を合わせて積層工程として記載している。
【0025】
まず、図2(a)に示すように、基材フィルム3を準備する。
【0026】
続いて、図2(b)に示すように、基材フィルム3の上に、溶剤吸収層5をグラビア印刷方式にて形成する。
【0027】
続いて、図2(c)に示すように、溶剤吸収層5の上に、ヒートシール層7をグラビア印刷方式にて形成する。なお、溶剤吸収層5とヒートシール層7は、基材フィルム3の全面に形成されず、像9が形成される絵柄の位置に形成されることが好ましいため、グラビア印刷方式を用いる事が好ましい。
【0028】
続いて、図2(d)に示すように、ヒートシール層7に、有機溶剤系インクジェットプリンタにより絵柄を印刷し、像9を形成し、加飾フィルム1aを得る。
【0029】
(加飾フィルム1aの効果)
加飾フィルム1aは、合計の厚さが50μm以下であるため、加飾対象が曲面であっても加飾しやすい。
【0030】
また、加飾フィルム1aは、有機溶剤系のインクジェットにより形成された像9を有しているため、耐水性、耐薬品性を有する。
【0031】
また、加飾フィルム1aは、インクジェットにより像9を形成するため、小ロット多品種生産に短納期で対応可能である。
【0032】
[第2の実施形態]
(加飾フィルム1bの構成)
図3は、第2の実施形態にかかる加飾フィルム1bを示す断面図である。以下の実施形態で第1の実施形態と同一の様態を果たす要素には同一の番号を付し、重複した説明は避ける。
【0033】
加飾フィルム1bは、溶剤吸収層5とヒートシール層7に代えて、溶剤吸収層5の効果も有するヒートシール層11を用いる点で、加飾フィルム1aと異なる。加飾フィルム1bは、いわゆるインモールドラベルであり、後述するインモールド加工により成形品に加飾を行う。
【0034】
ヒートシール層11は、溶剤吸収層5、及びヒートシール層7の機能を併せ持った層である。ヒートシール層11は、塩素化ポリプロピレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、及びアクリル系樹脂を用いることが可能であるが、分子量10,000〜30,000、ガラス転移温度が80〜90℃の塩素化ポリプロピレン、または分子量20,000〜30,000,ガラス転移温度が60℃の塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂で形成した、厚さ1〜5μmの層であることが好ましい。
【0035】
他の加飾フィルム1bを構成する材料は、加飾フィルム1aと同様である。
【0036】
(加飾フィルム1bの製造方法)
図4(a)〜(c)は、第2の実施形態に係る加飾フィルム1bの製造方法を示す断面図である。
図4(a)は、基材フィルム準備工程を示す。基材フィルム準備工程とは、所望の基材フィルム3を用意する工程である。
図4(b)は、ヒートシール層形成工程を示す。ヒートシール層形成工程とは、基材フィルム3の上にヒートシール層11を形成する工程である。
図4(c)は、印刷工程を示す。印刷工程とは、ヒートシール層11に、有機溶剤系インクジェットプリンタで印刷を行い、像9を形成する工程である。
なお、請求項では、ヒートシール層形成工程を、積層工程として記載している。
【0037】
まず、図4(a)に示すように、基材フィルム3を準備する。
【0038】
続いて、図4(b)に示すように、基材フィルム3の上に、ヒートシール層11をグラビア印刷方式にて形成する。
【0039】
続いて、図4(c)に示すように、ヒートシール層11に、有機溶剤系インクジェットプリンタにより絵柄を印刷し、像9を形成し、加飾フィルム1bを得る。
【0040】
(第2の実施形態に係る加飾フィルム1bの効果)
第2の実施形態に係る加飾フィルム1bは、第1の実施形態に係る加飾フィルム1aの効果と同等の効果を奏する。
【0041】
また、第2の実施形態に係る加飾フィルム1bは、第1の実施形態に係る加飾フィルム1aに比べて、積層する層の数が少ないため、簡単に低コストで製造することができる。
【0042】
また、第2の実施形態に係る加飾フィルム1bは、第1の実施形態に係る加飾フィルム1aに比べて、溶剤吸収層5を省略することが可能であるため、全面転写が可能である。
【0043】
また、第2の実施形態に係る加飾フィルム1bのヒートシール層11は、第1の実施形態に係る加飾フィルム1aのヒートシール層7に比べて、厚いため、ヒートシール層はインクを吸収する受像層としての機能も有するため、多量のインクを使用でき、印刷の濃淡をはっきりさせることができ、意匠性が高くなる。
【0044】
[第3の実施形態]
(加飾フィルム1cの構成)
図5は、第3の実施形態にかかる加飾フィルム1cを示す断面図である。加飾フィルム1cは、溶剤吸収層5と基材フィルム3の間に、離型層13を有する点で、加飾フィルム1aと異なる。加飾フィルム1cは、いわゆる転写フィルムであり、後述するインモールド転写または熱転写により成形品に加飾を行う。
【0045】
離型層とは、基材フィルム3からヒートシール層7などを、容易に剥離できるように設けられる層であり、加飾フィルム1cより基材フィルム3を剥離する際、ヒートシール層7側に残る層である。離型層13は、熱が加わることにより基材フィルム3から剥離し、離型層13と溶剤吸収層5とヒートシール層7が、成形品へ転写される。離型層13は、分子量100,000、ガラス転移温度が約100℃であるアクリル系樹脂で形成した、厚さ1〜10μmの層であることが好ましい。
【0046】
他の加飾フィルム1cを構成する材料は、加飾フィルム1aと同様である。
【0047】
(加飾フィルム1cの製造方法)
図6(a)〜(d)は、第3の実施形態に係る加飾フィルム1cの製造方法を示す断面図である。
図6(a)は、離型層形成工程を示す。離型層形成工程とは、所望の基材フィルム3の上に、離型層13を形成する工程である。
図6(b)は、溶剤吸収層形成工程を示す。溶剤吸収層形成工程とは、離型層13の上に、溶剤吸収層5を形成する工程である。
図6(c)は、ヒートシール層形成工程を示す。ヒートシール層形成工程とは、溶剤吸収層5の上にヒートシール層7を形成する工程である。
図6(d)は、印刷工程を示す。印刷工程とは、ヒートシール層7に、有機溶剤系インクジェットプリンタで印刷を行い、像9を形成する工程である。
なお、請求項では、離型層形成工程、溶剤吸収層形成工程、ヒートシール層形成工程を合わせて、積層工程として記載している。
【0048】
まず、図6(a)に示すように、基材フィルム3の上に、離型層13をグラビア印刷方式にて形成する。
【0049】
続いて、図6(b)に示すように、離型層13の上に、溶剤吸収層5をグラビア印刷方式にて形成する。
【0050】
続いて、図6(c)に示すように、溶剤吸収層5の上に、ヒートシール層7をグラビア印刷方式にて形成する。
【0051】
続いて、図6(d)に示すように、ヒートシール層7に、有機溶剤系インクジェットプリンタにより絵柄を印刷し、像9を形成し、加飾フィルム1cを得る。
【0052】
(第3の実施形態に係る加飾フィルム1cの効果)
第3の実施形態に係る加飾フィルム1cは、第1の実施形態に係る加飾フィルム1aの効果と同等の効果を奏する。
【0053】
また、第3の実施形態に係る加飾フィルム1cは、基材フィルム3と離型層13の間で剥離可能であるため、成形品への転写が可能である。
【0054】
また、第3の実施形態にかかる加飾フィルム1cは、基材フィルム3を、成形品に、転写しないため、転写する層が薄く、受像層であるヒートシール層を厚くでき、像9の意匠性を向上させることができる。
【0055】
[第4の実施形態]
(加飾フィルム1dの構成)
図7は、第4の実施形態にかかる加飾フィルム1dを示す断面図である。加飾フィルム1dは、溶剤吸収層5とヒートシール層7に代えて、溶剤吸収層5の効果も有するヒートシール層11を用いる点で、加飾フィルム1cと異なる。加飾フィルム1dは、いわゆる転写フィルムであり、後述するインモールド転写または熱転写により成形品に加飾を行う。
【0056】
加飾フィルム1dを構成する材料は、加飾フィルム1a、1b、1cと同様である。
【0057】
(加飾フィルム1dの製造方法)
図8(a)〜(c)は、第4の実施形態に係る加飾フィルム1dの製造方法を示す断面図である。
図8(a)は、離型層形成工程を示す。離型層形成工程とは、所望の基材フィルム3の上に、離型層13を形成する工程である。
図8(b)は、ヒートシール層形成工程を示す。ヒートシール層形成工程とは、離型層13の上にヒートシール層11を形成する工程である。
図8(c)は、印刷工程を示す。印刷工程とは、ヒートシール層11に、有機溶剤系インクジェットプリンタで印刷を行い、像9を形成する工程である。
なお、請求項では、離型層形成工程、ヒートシール層形成工程を、合わせて積層工程として記載している。
【0058】
まず、図8(a)に示すように、基材フィルム3の上に、離型層13をグラビア印刷方式にて形成する。
【0059】
続いて、図8(b)に示すように、離型層13の上に、ヒートシール層11をグラビア印刷方式にて形成する。
【0060】
続いて、図8(c)に示すように、ヒートシール層11に、有機溶剤系インクジェットプリンタにより絵柄を印刷し、像9を形成し、加飾フィルム1bを得る。
【0061】
(第4の実施形態に係る加飾フィルム1dの効果)
第4の実施形態に係る加飾フィルム1dは、第2の実施形態に係る加飾フィルム1bの効果と同等の効果を奏する。
【0062】
また、第4の実施形態に係る加飾フィルム1dは、第3の実施形態に係る加飾フィルム1cに比べて、積層する層の数が少ないため、簡単に低コストで製造することができる。
【0063】
また、第4の実施形態に係る加飾フィルム1dは、基材フィルム3と離型層13の間で剥離可能であるため、成形品への転写が可能である。
【0064】
また、第4の実施形態にかかる加飾フィルム1dは、基材フィルム3を成形品に転写しないため、転写する層が薄く、受像層であるヒートシール層を厚くでき、像9の意匠性を向上させることができる。
【0065】
[加飾された成形品]
図9は、加飾された成形品15の一例を示す斜視図である。加飾された成形品15は、加飾フィルム1が接着された成形品17である。図9では、成形品17の一例として、ボールペンなどの筆記具として記載しているが、他の文房具や生活用品などでもよい。特に、成形品17は、ポリカーボネート樹脂(PC)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(ABS)、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂(AS)、ポリプロピレン樹脂(PP)などの樹脂の成形品であることが好ましい。
加飾フィルム1は、後述するインモールド加工、インモールド転写または熱転写により、成形品17に接着される。
【0066】
(インモールド加工方法:加飾フィルム1aまたは1bを用いる)
図10(a)〜(d)は、加飾フィルム1aを用いたインモールド加工方法を示す断面図である。なお、加飾フィルム1bのインモールド加工方法も、同様である。
図10(a)は、加飾フィルム挿入工程を示す。加飾フィルム挿入工程とは、一組の射出成形型19と21の間に、ヒートシール層7が成形樹脂と接触する向きで、加飾フィルム1aを挿入する工程である。
図10(b)は、型締め工程を示す。型締め工程とは、一組の射出成形型19と21を型締めする工程である。
図10(c)は、成形樹脂注入工程を示す。成形樹脂注入工程とは、一組の射出成形型19と21の間に、成形樹脂23を注入する工程である。
図10(d)は、取り出し工程を示す。取り出し工程とは、成形樹脂23が冷却した後に、一組の射出成形型19と21から加飾された成形品15aを取り出す工程である。
【0067】
図10(a)に示すように、射出成形型19と射出成形型21の間へ、シート状の加飾フィルム1aを挿入する。
【0068】
続いて、図10(b)に示すように、射出成形型19へ加飾フィルム1aをクランプして固定し、射出成形型15と17の型締めを行う。
【0069】
続いて、図10(c)に示すように、成形樹脂23を、加飾フィルム1aと射出成形型21の間に注入し、射出成形を行う。
【0070】
その後、図10(d)に示すように、フィルム一体型の加飾された成形品が得られる。加飾された成形品15aには、基材フィルム3が一体化されている。
【0071】
(インモールド転写方法:加飾フィルム1cまたは1dを用いる)
図11を用いて、加飾フィルム1cのインモールド転写方法を説明する。なお、加飾フィルム1dのインモールド転写方法も、同様である。
図11(a)は、加飾フィルム挿入工程を示す。加飾フィルム挿入工程とは、一組の射出成形型19と21の間に、ヒートシール層7が成形樹脂と接触する向きで、加飾フィルム1cを挿入する工程である。
図11(b)は、型締め工程を示す。型締め工程とは、一組の射出成形型19と21を型締めする工程である。
図11(c)は、成形樹脂注入工程を示す。成形樹脂注入工程とは、一組の射出成形型19と21の間に、成形樹脂23を注入する工程である。
図11(d)は、取り出し工程と剥離工程を示す。取り出し工程とは、成形樹脂23が冷却した後に、一組の射出成形型19と21から加飾された成形品15bを取り出す工程である。また、剥離工程とは、成形品15bから基材フィルム3を剥離する工程である。
【0072】
図11(a)に示すように、射出成形型19と射出成形型21の間へ、シート状またはロール状の加飾フィルム1cを挿入する。
【0073】
続いて、図11(b)に示すように、射出成形型19へ加飾フィルム1cをクランプし、型締めする。
【0074】
続いて、図11(c)に示すように、成形樹脂23にて射出成形を行う。
【0075】
その後、図11(d)に示すように、基材フィルム3と離型層13が剥離し、離型層13、溶剤吸収層5、及びヒートシール層7が転写された加飾された成形品15bが得られる。
【0076】
(熱転写方法:加飾フィルム1cまたは1dを用いる)
図12を用いて、加飾フィルム1cの熱転写方法を説明する。なお、加飾フィルム1dの熱転写方法も、同様である。
図12(a)は、配置工程を示す。配置工程とは、成形品17に加飾フィルム1cのヒートシール層を接触させる工程である。
図12(b)は、接着工程を示す。接着工程とは、加飾フィルム1cを加熱し、成形品17に接着させる工程である。
図12(c)は、剥離工程を示す。剥離工程とは、成形品17に接着した加飾フィルム1cから、基材フィルム3を剥離する工程である。
【0077】
図12(a)に示すように、成形品17と熱ローラー25の間へ、シート状またはロール状の加飾フィルム1cを挿入する。
【0078】
続いて、図12(b)に示すように、熱ローラー25にて、加飾フィルム1cを成形品17へホットスタンプする。この際、成形品17が平面状または若干の起伏がある形状のものであれば、熱ローラー25または成形品17を平行に移動することで、面状にホットスタンプが可能であり、成形品17が円筒状のものであれば、成形品17を回転することで、円筒の側面にホットスタンプが可能となる。
【0079】
図12(c)に示すように、基材フィルム3と離型層13が剥離し、離型層13、溶剤吸収層5、及びヒートシール層7が転写された加飾された成形品15cが得られる。
【0080】
以上、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しえることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0081】
1、1a、1b、1c、1d………加飾フィルム
3………基材フィルム
5………溶剤吸収層
7………ヒートシール層
9………像
11………ヒートシール層
13………離型層
15、15a、15b、15c………加飾された成形品
17………成形品
19………射出成形型
21………射出成形型
23………成形樹脂
25………熱ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと、溶剤吸収層と、ヒートシール層とを、この順で積層し、
前記ヒートシール層は、有機溶剤系インクジェットプリンタで印刷された像を有し、
合計の厚さが50μm以下であることを特徴とするフィルム。
【請求項2】
基材フィルムと、ヒートシール層とを、この順で積層し、
前記ヒートシール層は、有機溶剤系インクジェットプリンタで印刷された像を有し、
合計の厚さが50μm以下であることを特徴とするフィルム。
【請求項3】
基材フィルムと、離型層と、溶剤吸収層と、ヒートシール層とを、この順で積層し、
前記ヒートシール層は、有機溶剤系インクジェットプリンタで印刷された像を有し、
合計の厚さが50μm以下であることを特徴とするフィルム。
【請求項4】
基材フィルムと、離型層と、ヒートシール層とを、この順で積層し、
前記ヒートシール層は、有機溶剤系インクジェットプリンタで印刷された像を有し、
合計の厚さが50μm以下であることを特徴とするフィルム。
【請求項5】
前記ヒートシール層が、塩素化ポリプロピレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂からなる群のうち少なくともひとつの樹脂を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項6】
前記ヒートシール層が、分子量10,000〜30,000、ガラス転移温度が80〜90℃の塩素化ポリプロピレン、または分子量20,000〜30,000,ガラス転移温度が60℃の塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂で形成されることを特徴とする請求項5に記載のフィルム。
【請求項7】
請求項1〜4に記載のフィルムを用いて加飾された成形品。
【請求項8】
基材フィルムに、溶剤吸収層と、ヒートシール層とを、合計の厚さが50μm以下であるようにこの順で積層する積層工程と、
前記ヒートシール層に、有機溶剤系インクジェットプリンタで、像を印刷する印刷工程と、
を具備することを特徴とするフィルムの製造方法。
【請求項9】
基材フィルムに、ヒートシール層を、合計の厚さが50μm以下であるように積層する積層工程と、
前記ヒートシール層に、有機溶剤系インクジェットプリンタで、像を印刷する印刷工程と、
を具備することを特徴とするフィルムの製造方法。
【請求項10】
基材フィルムに、離型層と、溶剤吸収層と、ヒートシール層とを、合計の厚さが50μm以下であるように、この順で積層する積層工程と、
前記ヒートシール層に、有機溶剤系インクジェットプリンタで、像を印刷する印刷工程と、
を具備することを特徴とするフィルムの製造方法。
【請求項11】
基材フィルムに、離型層と、ヒートシール層とを、合計の厚さが50μm以下であるように、この順で積層する積層工程と、
前記ヒートシール層に、有機溶剤系インクジェットプリンタで、像を印刷する印刷工程と、
を具備することを特徴とするフィルムの製造方法。
【請求項12】
一組の射出成形型の間に、ヒートシール層が成形樹脂と接触する向きで、請求項1または2に記載のフィルムを挿入するフィルム挿入工程と、
前記一組の射出成形型を型締めする型締め工程と、
前記一組の射出成形型の間に、成形樹脂を注入する成形樹脂注入工程と、
前記成形樹脂が冷却した後に、前記一組の射出成形型から加飾された成形品を取り出す取り出し工程と、
を具備することを特徴とする加飾された成形品の製造方法。
【請求項13】
一組の射出成形型の間に、ヒートシール層が成形樹脂と接触する向きで、請求項3または4に記載のフィルムを挿入するフィルム挿入工程と、
前記一組の射出成形型を型締めする型締め工程と、
前記一組の射出成形型の間に、成形樹脂を注入する成形樹脂注入工程と、
前記成形樹脂が冷却した後に、前記一組の射出成形型から加飾された成形品を取り出す取り出し工程と、
前記成形品から基材フィルムを剥離する剥離工程と、
を具備することを特徴とする加飾された成形品の製造方法。
【請求項14】
成形品に、請求項3または4に記載のフィルムのヒートシール層を接触させる配置工程と、
前記フィルムを加熱し、前記成形品に接着させる接着工程と、
前記成形品に接着した前記フィルムから、基材フィルムを剥離する剥離工程と、
を具備することを特徴とする加飾された成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−56459(P2013−56459A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195675(P2011−195675)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】