説明

フィルムの製造方法

【課題】ロール状に巻き取られたときに発生する巻こぶや多角形化が抑制された、厚みムラが小さいフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】リップ間隔を調整可能なTダイよりフィルム原料を連続的に押し出す工程を少なくとも1工程として有するフィルム製造方法であって、Tダイ10の幅方向を、m個の微調節可能なブロックに区分したとき、任意のブロック(k)に対して、リップ間隔をΔTだけ広げる+制御指令と、ΔTだけ狭くする−制御指令とを、所定の期間を持って交互に出す制御を行い、前記任意のブロック(k)に隣接するブロック(k+1)に対して、所定の期間の遅れをもって、前記任意のブロック(k)と同一の動作を行うように制御を行うこと(但し、mおよびkは正の整数であり、1≦k<mを満たす。)を特徴とするフィルム製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚みムラの小さいフィルム、より詳細には長尺状に製造され、特にロールに巻き取られるフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムの製造する方法としては、
(1)ポリアミック酸溶液、またはポリアミック酸溶液に必要に応じてイミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子などを選択して加えたポリアミック酸溶液組成物をフィルム状に支持体上に流延し、加熱乾燥して自己支持性フィルムを得た後、熱的に脱水環化、脱溶媒させてポリイミドフィルムを得る方法、および
(2)ポリアミック酸溶液に環化触媒及び脱水剤を加え、さらに必要に応じて無機微粒子などを選択して加えたポリアミック酸溶液組成物をフィルム状に支持体上に流延し、化学的に脱水環化させて、必要に応じて加熱乾燥して自己支持性フィルムを得た後、これを加熱脱溶媒、イミド化することによりポリイミドフィルムを得る方法
が知られている。
【0003】
どちらの製造方法でも、ポリアミック酸溶液組成物を支持体上に流延するプロセスにおいては、一般に、リップ間隔の調整可能なダイスより、ポリアミック酸溶液組成物を、ベルトまたはドラム等の支持体上に流延する。流延された溶液状フィルムは、上述の各ステップにより、イミド化され、最終的に製造されたポリイミドフィルムは、一般に、ロール状に巻かれて出荷される。
【0004】
ポリイミドフィルムは、表面に銅などの金属配線を形成した配線基板として使用され、さらに配線基板にICチップなどのチップを搭載して使用される。そのため、ポリイミドフィルムは幅方向や長さ方向に優れた厚みの均一性が要求される。
【0005】
厚みの均一なポリイミドフィルムを連続して得る方法として、例えば特許文献1では、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の溶液を、走行する支持体上に塗布し、塗布された塗膜を乾燥して自己支持性のフィルムとなし、自己支持性のフィルムを支持体から剥離してさらに熱処理してポリイミドフィルムを得る製膜方法において、乾燥時の支持体の走行する方向に直交する幅方向の支持体上の温度を中心値±5℃以内に制御することを特徴とするポリイミドフィルム製膜方法が開示されている。特許文献2では、ポリアミド酸化合物を口金からシート状に押出し、化学閉環または熱閉環させることによりゲル状のフィルムを得、これを乾燥して得たポリイミドフィルムの幅方向の厚みムラを製造工程上で連続測定し、このデータをフィードバックすることにより、フィルム幅方向(TD)の厚みムラが3.0%以下で、かつフィルム長手方向(MD)におよそ10mおきに測定したTD厚みを積層し、平均化することによって得られるTD厚みプロファイルの最大厚みと最小厚みの差が、フィルム平均厚みの2.0%以下となるように口金の間隙を調整し、さらにフィルムのTD延伸倍率を調整することにより、TDのヤング率が340kg/mm以上、TDの5%延伸強度(F−50)が10kg/mm以上、さらにテンター内のTD温度プロファイルを調整することにより長手方向のフィルム長さ6.5mでの片伸びが9mm以下となるように制御を行うことを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法が開示されている。
【0006】
一方でポリイミドフィルムの製品ロールの不良として、巻こぶ、多角形化、ハイエッジが存在する。巻こぶは、フィルムの幅方向に厚い箇所があると、微細な厚みムラであっても、巻物として積層されることによりその差が顕著になり、高いこぶが生じる問題である。また、ポリイミドフィルムは剛性に優れるため、巻こぶがある状態で巻ずれが発生すると擦り傷が発生する問題もある。多角形化は、ポリイミドフィルムの製品ロールを長期間保管しておいたときに、応力緩和によってフィルムが変形し、皺が発生する問題である。この問題は、ポリイミドフィルムの製品ロール硬度が不均一であり、硬度の高い箇所の間隔が広い場合に発生し易い。ハイエッジは、フィルムをカットした際、端部に盛り上がった部分が発生する問題であり、スリット刃の切れ不良やポリイミドフィルムの局所的に厚い箇所をカットした際に発生し易い。いずれの問題もポリイミドフィルムの幅方向に厚い箇所が存在すると発生し易くなるため、厚みムラを極力小さくする必要がある。
【0007】
巻こぶの解消に関しては、Tダイから溶融押出成形されるフィルム製造において、従来、得られるフィルムの幅方向の厚みを計測し、その結果を基にしてTダイのリップ間隔を制御する方法で行われている。
【0008】
例えば、特許文献3では、押出ダイから溶融押出されるプラスチックフィルムの巻物プロファイル制御方法として、幅方向厚さプロファイルを連続的に計測し、その厚さプロファイルを巻き上げ回数分重ね合わせる演算を行って、得られる巻物プロファイルを推定し、その巻物プロファイルに許容を超える偏差がある場合、その位置に対応する押出ダイ位置に厚さ調整操作を加える方法が記載されている。その他、特許文献4においても、厚さ計をフィルム幅方向に1回乃至複数回走査した個別プロファイル測定値をフィルム進行方向へ複数回加算平均すると共に、押出可撓リップの剛性から定まる所定バンド幅にまたがるように設定したプロファイルデータ値に基づいて、このプロファイルデータ値の最大値が予め設定した限界最大値を超える際に、最大値を減少するように、プロファイルの目標値を少なくとも所定バンド幅に亘って減少補正することで、巻こぶを発生させない制御方法が記載されている。
【0009】
また、特許文献5には、フラットダイから押し出すフィルムの厚さを、フラットダイの幅方向に複数に区分して、各区分毎に位相をずらして周期的にわずかに増減させる、巻こぶ巻ずれ防止方法が記載されている。この方法では、目標値TよりΔTだけ制御目標値が大きい区分と、目標値TよりΔTだけ厚さ制御目標値が小さい区分とが互い違いに隣接し、結果として巻取り軸心方向にわずかに波打った状態で巻き取ることにより、フィルムの巻ずれ防止と巻こぶの発生を抑制することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−168222号公報
【特許文献2】特開2001−081211号公報
【特許文献3】特開平7−108586号公報
【特許文献4】特開平8−276491号公報
【特許文献5】特開平3−275324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
複数の位置においてリップ間隔が調整可能なTダイよりフィルム原料を連続的に支持体に押し出し、その後必要に応じて乾燥や加熱を行いフィルムを得るフィルム製造方法では、幅方向に厚みムラ、特に局所的な厚みムラを生じると、得られるフィルムの厚みプロファイルを利用した自動制御を行っても、なかなか厚みムラが解消しない。
【0012】
本発明は、幅方向や長さ方向に厚みのムラのないフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
配線基板用樹脂フィルムは、表面に銅などの金属配線を形成し、その後、異方性導電接着フィルム(ACF)や金属接合(例えば、金金接合、金錫接合など)などにより、他の基板と接続したり、ICチップなどのチップ部材を搭載するなどして使用される。そのため、ポリイミドフィルムなどの配線基板用樹脂フィルムは幅方向や長さ方向に優れた厚みの均一性が要求される。本発明の態様の一つは、配線基板用樹脂フィルムと好適な幅方向や長さ方向に厚みのムラのないフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
特に本発明の態様の一つは、ポリアミド酸溶液やポリイミド溶液を、走行する支持体上に、フィルムの厚みプロファイルを利用した自動制御機能を有する複数の位置においてリップ間隔が調整可能なTダイを用いて塗布し、塗布された塗膜を乾燥して自己支持性フィルムとなし、自己支持性フィルムを支持体から剥離してさらに加熱処理して得られる配線基板用樹脂フィルムであるポリイミドフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、以下の事項に関する。
【0016】
1. リップ間隔を調整可能なTダイよりフィルム原料を連続的に押し出す工程を少なくとも1工程として有するフィルム製造方法であって、
Tダイの幅方向を、m個の微調節可能なブロックに区分したとき、
任意のブロック(k)に対して、リップ間隔をΔTだけ広げる+制御指令と、ΔTだけ狭くする−制御指令とを、所定の期間を持って交互に出す制御を行い、
前記任意のブロック(k)に隣接するブロック(k+1)に対して、所定の期間の遅れをもって、前記任意のブロック(k)と同一の動作を行うように制御を行うこと
(但し、mおよびkは正の整数であり、1≦k<mを満たす。)
を特徴とするフィルム製造方法。
【0017】
2. リップ間隔を調整可能なTダイよりフィルム原料を連続的に押し出す工程を少なくとも1工程として有するフィルム製造方法であって、
Tダイの幅方向を、m個の微調節可能なブロックに区分したとき、
前記のm個のブロックの中の特定の一つのブロック(k)に対して、リップ間隔をΔTだけ広げる+制御指令と、ΔTだけ狭くする−制御指令とを、所定の期間を持って交互に出す制御を行い、
より番号の大きいブロック(k+i)では、隣接するブロック(k+i−1)より、所定の時間だけ遅れて、ブロック(k)と同一の動作を行い、
より番号の小さいブロック(k−j)では、隣接するブロック(k−j+1)より、所定の時間だけ遅れて、ブロック(k)と同一の動作を行うこと
(但し、k、i、jは正の整数であり、mは上記1で定義されたとおりであり、各パラメータは次の関係:
1<k<m
1≦(k−j)< k <(k+i)≦m
を満たす。)
を特徴とするフィルム製造方法。
【0018】
3. 前記リップ間隔を調整可能なTダイは、フィルム幅方向の膜厚プロファイル測定値を利用してTダイの押出しリップの間隙幅を自動調節するプロファイル自動制御機能を有するTダイであることを特徴とする上記1または2に記載のフィルム製造方法。
【0019】
4. +制御指令と次の−制御指令までの時間が等しく、かつ周期的であることを特徴とする上記1〜3のいずれか1項に記載のフィルム製造方法。
【0020】
5. 隣接するブロック間での所定の期間の遅れが、+制御指令と次の−制御指令までの時間および−制御指令と次の+制御指令までの時間より短いことを特徴とする上記1〜4のいずれか1項に記載のフィルム製造方法。
【0021】
6. 隣接するブロック間での所定の期間の遅れが、+制御指令と次の−制御指令までの時間および−制御指令と次の+制御指令までの時間の1/2以下であることを特徴とする上記5に記載のフィルム製造方法。
【0022】
7. 前記フィルム原料が溶媒を含む溶液であって、前記Tダイより押し出された溶液フィルムから前記溶媒の少なくとも一部が蒸発除去されることを特徴とする上記1〜6のいずれか1項に記載のフィルム製造方法。
【0023】
8. 製造されるフィルムが、ポリイミドフィルムであり、
前記フィルム原料がポリイミド前駆体溶液であり、
前記Tダイより前記ポリイミド前駆体溶液を、支持体上にキャストする工程を有することを特徴とする上記1〜7のいずれか1項に記載のフィルム製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、幅方向に厚みムラの小さな樹脂フィルムを連続して製造することができる。そのため本発明の樹脂フィルムを巻き取って得られる製品ロールは、巻こぶや多角形化の発生を抑制できる。
【0025】
本発明により製造されるポリイミドフィルムなどの樹脂フィルムは、表面に銅などの金属配線を形成した配線基板として使用でき、さらに配線基板にICチップなどのチップを搭載して使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】フィルムの製造のために一般に用いられるTダイの模式図である。
【図2】Tダイの模式的平面図である。
【図3】ブロック(k)に対して出される、リップ間隔制御指令のタイミングチャートである。
【図4】ブロック(k)および隣接するブロック等に対して出される、リップ間隔制御指令のタイミングチャートである。
【図5】全ブロックに対する動作制御指令の時間チャートの1例である。
【図6】全ブロックに対する動作制御指令の時間チャートの異なる1例である。
【図7】全ブロックに対する動作制御指令の時間チャートの異なる1例である。
【図8】全ブロックに対する動作制御指令の時間チャートの第2の実施形態に従う1例である。
【図9】全ブロックに対する動作制御指令の時間チャートの第2の実施形態に従う1例である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明が適用されるフィルム製造方法は、複数の位置においてリップ間隔を調整可能なTダイよりフィルム原料を押し出す工程を有する。ここで、フィルム原料は、最終的に製造される目的のフィルムに適したものが使用される。ポリイミドフィルムを製造する場合には、フィルム原料はポリアミック酸溶液組成物であり、溶融押出成形によりフィルムを製造する場合は、フィルムを構成する材料の溶融物である。本発明は、特にポリイミドフィルムの製造方法に適しているが、Tダイを使用して製造されるフィルムであれば、その他のフィルムの製造、例えば、アラミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリエステルイミドフィルム、ポリエステルフィルム、液晶ポリマーフィルム、ポリスルホンフィルムなどに用いることができる。以下の説明では、主としてポリイミドフィルムの製造を例に説明する。
【0028】
図1は、フィルムの製造のために一般に用いられるTダイ(フラットダイ、インラインスリットとも呼ばれる)を模式的に示す図である。Tダイ10は、上リップ12と下リップ11で構成されるリップを有し、リップの間からフィルム原料が押し出される。リップ間隔(T)は、ボルト13により調整される。
【0029】
図2は、Tダイの模式的平面図であり、図2に示すように、ボルト13は、Tダイの幅方向に複数個設けられ、各ボルトを調整することによりリップ間隔を制御することができる。その結果、押し出されたフィルム20、例えばポリイミドフィルムの製造であれば、フィルム状溶液の厚みの幅方向プロファイルを変更することができ、最終的に製品ポリイミドフィルムの厚みの幅方向プロファイルを変更することができる。また、ボルト13は、典型的には、手動操作とともに、自動制御による微調整が可能である。自動制御による微調整としては、例えば、加熱ヒータによる熱収縮を利用してリップ間隔を調整するヒートボルト方式による自動微調整システムが知られている。本発明は、このような自動微調整システムにより、ボルトを調整してリップ間隔の時間的制御を行う。
【0030】
本発明において、ボルト13を操作するにあたり、幅方向の全ボルトを、操作ブロックに区分する。操作ブロックは、リップ間隔の+制御指令(リップ間隔Tを大きくする)、−制御指令(リップ間隔Tを小さくする)に対して、同一の動きをする。これを、ブロック(1)〜ブロック(m)とし、任意のブロックをブロック(k)で表す(mおよびkは正の整数、1≦k<m)。ブロック(k)とブロック(k+1)は隣接するものとする。ブロック(1)〜ブロック(m)には、等しい数のボルトが含まれるようにしてもよいし、または使用する装置が有する特徴を考慮して、等しくない適切な数が含まれるようにしてもよい。例えば、両端を除いて等しいボルト数が各ブロックに含まれるようにする。
【0031】
いくつのボルトを一つのブロックに割り当てるかは、装置により異なり、少なくとも1個以上を含むようにすればよい。但し、多くのボルトを一つのブロックに割り当てると、フィルム幅方向でのブロック数(m)が小さくなり、厚みムラを有効に解消できなくなる。一つのブロックに含まれるボルトの数は、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜5である。
【0032】
本発明において、あるブロック(k)に対しては、リップ間隔を開閉させる(間隔を増減させる)制御を行う。具体的には、図3のタイミングチャートに示すように、ブロック(k)に含まれるボルトに対して、時間t1において、ΔTだけリップ間隔を開くように、+制御指令を出し、時間t2において、ΔTだけリップ間隔を狭くするように、−制御指令を出す。ここで、+制御指令を受けると、ボルトはΔTだけリップ間隔を開く動作を行い、次の指令までこれを維持し(以下、+期間という。)、−制御指令を受けると、ボルトはΔTだけリップ間隔を狭くする動作を行い、次の指令までこの間隔を維持する(以下、−期間という。)。同様にして、時間t3において+制御指令、時間t4において−制御指令、時間t5において+制御指令、時間t6において−制御指令を出す。このような、+制御指令と−制御指令を繰り返すことで、ブロック(k)のボルトは、リップ間隔をΔTの範囲だけ変動させるように動作する。
【0033】
+制御指令と−制御指令は、リップ間隔を変化させても、製品フィルムの厚み(1枚の厚み)が所定の許容範囲内に収まる範囲となるように設定する。
【0034】
ここで、+期間と−期間は、時間が等しい必要はないが、ある期間において、それぞれを合計したときには等しくなるように設定する。一般的には、+期間とその次の−期間の時間を等しくすることが好ましく、さらには、+期間とその次の+期間の時間を等しくすること、即ち、図3に示すように+期間と−期間が同じ時間で周期的に繰り返すことが好ましい。+期間と−期間の時間は、製造されるフィルムの種類、製造装置、その他の製造条件に依存して決めることが好ましいが、例えば数秒(例えば5秒)以上、好ましくは1分以上、より好ましくは5分以上、さらに好ましくは7分以上であり、例えば1日以下、好ましくは10時間以下、より好ましくは1時間以下、さらに好ましくは20分以下である。
【0035】
第1の実施形態では、ブロック(k)に隣接するブロック(k+1)において、特定の時間だけ遅れて、ブロック(k)と同一の動作を行うように制御指令を出す。即ち、図4のタイミングチャートに示すように、ブロック(k+1)に含まれるボルトに対して、時間t(k+1)1において+制御指令、時間t(k+1)2において−制御指令、時間t(k+1)3において+制御指令、時間t(k+1)4において−制御指令、・・・というように、ブロック(k)と同一の動作を行う制御指令を出す。従って、ブロック(k+1)の動作のブロック(k)の動作に対する遅れ時間は、常に一定である。この遅れ時間を、Δt(k+1)−kとすると、
Δt(k+1)−k =t(k+1)1−t1=t(k+1)2−t2=・・・=t(k+1)6−t6=・・・
である。
【0036】
同様に、ブロック(k)からi個離れたブロック(k+i)においても、特定の時間だけ遅れて、ブロック(k)と同一の動作を行う。
【0037】
図5に、全ブロックの動作制御指令の時間チャートの1例を示す。隣接するブロックからの遅れ時間Δt(k+1)−k=t(k+1)1−t1は、+期間および−期間より、少なくとも短いことが必要であり、好ましくは+期間および−期間の1/2以下、より好ましくは1/2未満、さらに好ましくは+期間および−期間の1/3以下、最も好ましくは1/5以下である。隣接するブロックからの遅れ時間Δt(k+1)−kが、+期間および−期間より十分に短い場合、ブロック全体の動作の時間チャートにおいて、図5に見られるように、+制御指令および−制御指令は、番号の小さいブロックから番号の大きいブロックに向けて、波のように伝播している。その結果、局所的な厚みムラが隣接するブロックに流れるように拡散し、解消していくと推定される。
【0038】
図5では、隣接するブロックからの遅れ時間Δt(k+1)−kが、すべてのkに対して一定である例を示したが、Δt(k+1)−k(>0)が、ブロックによって異なってもよい。図6は、Δt(k+1)−kが、ブロック番号が大きくなるに従って短くなる例である。図7は、Δt(k+1)−kが、ブロック番号が大きくなるに従って長くなる例である。ただし、Δt(k+1)−kと、+期間および−期間との関係は、前述の関係(特に好ましい範囲)を満たすように設定される。
【0039】
この実施形態(第1の実施形態)では、前述のとおり、ブロック(k)に隣接するブロック(k+1)において、特定の時間だけ遅れて、ブロック(k)と同一の動作を行うように制御指令を出すことが特徴であるが、ブロック(k)に隣接するブロック(k−1)において、特定の時間だけ遅れて、ブロック(k)と同一の動作を行うとしても同じである。ブロック(k)に隣接するブロック(k−1)において、特定の時間だけ遅れる場合は、図5〜7において、左右を反転させたチャート、即ち、ブロック番号が大きい方から小さい方へ、+制御指令および−制御指令が波のように伝播する図となるのみである(ブロック番号を右から左に順に付けたと考えてもよい。)。
【0040】
次に、第2の実施形態を、図8に示す。第2の実施形態では、特定のブロック(k)を中心に、kより番号の大きいブロック(k+i)では、隣接するブロック(k+i−1)より、特定の時間だけ遅れて、ブロック(k)と同一の動作を行い、一方、kより番号の小さいブロック(k−j)では、隣接するブロック(k−j+1)より、特定の時間だけ遅れて、ブロック(k)と同一の動作を行うように制御指令を出す。ここで、k、i、jは正の整数であり、mは前述のとおりブロックの数である。従って、各パラメータは次の関係を満たしている。
【0041】
1<k<m
1≦(k−j)< k <(k+i)≦m
即ち、第2の実施形態では、kより番号の大きいブロック(k+i)では、第1の実施形態と同じ動作を行い、kより番号の小さいブロック(k−j)では、図5〜7において、左右を反転させたチャート、即ち、ブロック番号が大きい方から小さい方へ、+制御指令および−制御指令が波のように伝播する図となる。
【0042】
図8では、ブロック(k+i)における、隣接するブロック(k+i−1)からの遅れ時間Δt(k0+i)−(k0+i−1)がすべてのiについて等しく、そしてブロック(k−j)における、隣接するブロック(k−j+1)からの遅れ時間Δt(k0−j)−(k0−j+1)がすべてのjについて等しく、かつΔt(k0+i)−(k0+i−1)=Δt(k0−j)−(k0−j+1)である場合を示し、これは好ましい形態の1つである。しかし、遅れ時間をブロックで異なるように設定してもよく、例えば異なるiまたはjにより、それぞれのブロックの遅れ時間を異なるように設定したり、Δt(k0+i)−(k0+i−1)≠Δt(k0−j)−(k0−j+1)となるように設定してもよい。例えば、図9のように、ブロックkから離れるに従い、隣接するブロックからの遅れが大きくなるように設定してもよいし、図示しないが、ブロックkから離れるに従い、隣接するブロックからの遅れが小さくなるように設定してもよい。
【0043】
は、状況に応じていずれのブロックでも選択可能であるが、比較的中央のブロックに設定することが好ましく、例えば、式:
m/5 ≦ k ≦ 4m/5
を満たすように、好ましくは式:
m/4 ≦ k ≦ 3m/4
を満たすように、より好ましくは式:
m/3 ≦ k ≦ 2m/3
を満たすように設定する。
【0044】
以上のように、本発明では、フィルム幅方向の膜厚プロファイルの測定と関係なく、上記のような、リップ間隔の自動制御を行うものである。しかし、本発明によるリップ間隔の自動制御に加えて、膜厚プロファイルの測定のフィードバックに基づく制御を重畳して行うこともできる。言い換えれば、通常のフィルム製造に利用されている複数の位置においてリップ間隔を調整可能なTダイよりフィルム原料を連続的に押し出し、得られるフィルムの幅方向プロファイルを測定し、プロファイル目標値と比較することによりTダイの押出しリップの間隙幅を自動調節するプロファイル自動制御を行っても、幅方向の厚みの均一性が解消しない場合や、幅方向に局所的に生じる厚みムラが解消しない場合に、該プロファイル自動制御にさらに本発明の製造方法を適用することにより、幅方向の厚みの均一性が解消しやすくなり、また幅方向に局所的に生じる厚みムラが解消しやすくなる。
【0045】
本発明は、幅方向や長さ方向に厚みのムラのないかまたは少ないフィルムを提供することができるので、製造された樹脂フィルムは種々の用途に使用できる。
【0046】
本発明により製造された樹脂フィルムは、FPC、TAB、COF等の金属配線板などの用途で使用される絶縁基板材料として、金属配線またはICチップなどのチップ部材などのカバー基材として、さらには液晶ディスプレー、有機エレクトロルミネッセンスディスプレー、電子ペーパー、太陽電池などのベース基材として好適に用いることができる。
【0047】
金属配線板の基板用途として使用した場合、樹脂フィルムの表面に銅などの金属配線を形成し、その後、異方性導電接着フィルム(ACF)や金属接合(例えば、金金接合、金錫接合など)などにより、他の基板と接続したり、ICチップなどのチップ部材を搭載するなどして電子・電気部品を製造することができる。
【0048】
本発明により製造された樹脂フィルムの片面または両面に、接着剤、感光性素材、熱圧着性素材などを積層して、樹脂フィルムの積層体を得ることができる。また、本発明の樹脂フィルムの片面または両面に、直接または接着剤層を介して、銅などの金属層を設けることができる。
【0049】
本発明により製造される樹脂フィルムを巻き取り得られる製品ロールは、巻こぶが少なく、そのため巻ずれの発生によるすり傷の発生が少ない。そして、比較的均一に巻き上げられているために、長期保存しても、多角形化する程度も小さい。また、フィルムの厚みムラも少ないため、ハイエッジが発生し難くなる。
【0050】
そのため本発明の樹脂フィルムを500m以上の長さ、好ましくは1000m〜6000m、さらに好ましくは1500m〜5000m、特に好ましくは2000m〜4000mの長さを巻き取られた製品ロールを得ることができる。
【0051】
<ポリイミドフィルムの製造への応用>
本発明は、種々のフィルムの製造に適用が可能であり、溶融押出成形に適用することもできるが、溶液キャスト法による製造方法に適用することがより好ましい。これは、リップ間隔をΔTの範囲で変動させても、Tダイより押し出されるフィルム原料が溶媒を含む場合には、溶媒が蒸発して厚みが減少するだけ、許容厚みに対する影響が小さいからである。
【0052】
特に、本発明をポリイミドフィルムの製造に適用することが好ましい。ポリイミドフィルムの製造方法は、ポリアミック酸溶液組成物(以下、ポリイミド前駆体溶液という)を支持体上にキャストし、自己支持性フィルムとする第1工程と、前記自己支持性フィルムを搬送しながら、加熱処理する第2工程(キュア工程)とを有する。
【0053】
本発明は、ポリイミドフィルム製造の第1工程において、ポリイミド前駆体溶液をTダイより押出して、支持体上にキャストする際に使用される。Tダイのリップ間隔を前述のように制御することで、自己支持性フィルムの厚みムラが小さくなり、その結果ポリイミドフィルムの厚みムラが小さくなり、製品ロールとしたときに、巻こぶや多角形化の発生の少ない製品が得られる。
【0054】
最終的に製造されるポリイミドフィルムは、1層で構成されても、成分の異なる多層で構成されてもよい。ポリイミドフィルムを構成する層のうちで少なくとも1層は、耐熱性ポリイミドで構成される層であることが好ましい。多層構造の例としては、耐熱性ポリイミドで構成される層の片面または両面に熱圧着性ポリイミドで構成される層が形成された例、表面が平滑性に優れる層と他面が易滑性に優れる層で形成された例、少なくとも1層が透明性又は非透明性に優れる層で形成された例、などが挙げられる。最終的に製造されるポリイミドフィルムに対応して、自己支持性フィルムも、1層で構成されても、ポリイミド前駆体の成分が異なる多層で構成されてもよい。
【0055】
以下の説明では、耐熱性に優れる1層構造のポリイミドフィルムの製造方法を例にして説明する。2層以上の層でポリイミドフィルムが構成され、Tダイからの押出によるキャストが2回以上(別々でも同時でもよい)実施されるならば、その2回以上のキャストの全部または1回以上を、本発明の方法により実施することができる。
【0056】
自己支持性フィルムは、半硬化状態またはそれ以前の乾燥状態である。この半硬化状態またはそれ以前の乾燥状態とは、加熱および/または化学イミド化によって自己支持性の状態にあることを意味する。自己支持性フィルムは、支持体から剥がせるものであればよく、溶媒含量(加熱減量)やイミド化率はどのような範囲であってもよい。自己支持性フィルムの溶媒含量およびイミド化率は、製造を意図するポリイミドフィルムにより適宜設定される。
【0057】
ポリイミドフィルムは、テトラカルボン酸成分と、ジアミン成分とを反応させて得られるものであり、熱イミド化、化学イミド化、または熱イミド化と化学イミド化とを併用した方法で製造することができる。
【0058】
本発明のポリイミドフィルムを製造する方法としては、
(1)ポリアミック酸溶液、またはポリアミック酸溶液に必要に応じてイミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子などを選択して加えたポリアミック酸溶液組成物をフィルム状に支持体上に流延し、加熱乾燥して自己支持性フィルムを得た後、熱的に脱水環化、脱溶媒させてポリイミドフィルムを得る方法、
(2)ポリアミック酸溶液に環化触媒及び脱水剤を加え、さらに必要に応じて無機微粒子などを選択して加えたポリアミック酸溶液組成物をフィルム状に支持体上に流延し、化学的に脱水環化させて、必要に応じて加熱乾燥して自己支持性フィルムを得た後、これを加熱脱溶媒、イミド化することによりポリイミドフィルムを得る方法
が挙げられる。
【0059】
<第1工程>
ポリイミド前駆体溶液を支持体上にキャストし、自己支持性フィルムとする第1工程を最初に説明する。
【0060】
まず、有機溶媒中でテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させて、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸を合成する。次に、得られたポリイミド前駆体の溶液に必要であればイミド化触媒、有機リン化合物や無機微粒子を加えた後、支持体上にキャストし、加熱・乾燥して、自己支持性フィルムを製造する。
【0061】
上記テトラカルボン酸成分としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物等を挙げることができる。具体例としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0062】
上記ジアミン成分としては、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン等を挙げることができる。具体例としては、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、m−トリジン、p−トリジン、5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、4,4’−ジアミノベンズアニリド、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン等の芳香族ジアミンが挙げられる。
【0063】
テトラカルボン酸成分とジアミン成分との組み合わせの一例としては、以下の1)〜3)が、機械的特性に優れ、高い剛性と優れた寸法安定性を有するフィルムが得られやすく、配線基板などの各種基板に好適に用いることができる。
【0064】
1)3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、p−フェニレンジアミン、又はp−フェニレンジアミン及び4,4−ジアミノジフェニルエ−テル(例えば、PPD/DADE(モル比)は100/0〜85/15であることが好ましい。)との組み合わせ。
【0065】
2)3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物(例えば、s−BPDA/PMDA(モル比)は、99/1〜0/100、さらに97/3〜70/30、特に95/5〜80/20であることが好ましい)と、p−フェニレンジアミン、又はp−フェニレンジアミン及び4,4−ジアミノジフェニルエ−テル(例えば、PPD/DADE(モル比)は90/10〜10/90であることが好ましい。)との組み合わせ。
【0066】
3)ピロメリット酸二無水物と、p−フェニレンジアミン及び4,4−ジアミノジフェニルエ−テル(例えば、PPD/DADE(モル比)は90/10〜10/90であることが好ましい。)との組み合わせ。
【0067】
テトラカルボン酸成分とジアミン成分との組み合わせは、上記1)と2)、さらに上記1)であることが好ましい。
【0068】
中でも、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下単にs−BPDAと略記することもある。)を主成分とするテトラカルボン酸成分と、パラフェニレンジアミン(以下単にPPDと略記することもある。)を主成分とするジアミン成分とから製造されるポリイミド前駆体が好ましい。具体的には、s−BPDAを70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上含むテトラカルボン酸成分が好ましく、PPDを70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上含むジアミン成分が好ましい。このようなテトラカルボン酸成分とジアミン成分とからは機械的特性に優れ、高い剛性と優れた寸法安定性を有するフィルムが得られやすく、配線基板などの各種基板に好適に用いることができる。
【0069】
さらに、本発明の特性を損なわない範囲で、他のテトラカルボン酸および他のジアミンを用いることもできる。
【0070】
ポリイミド前駆体の合成は、有機溶媒中で、略等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとをランダム重合またはブロック重合することによって達成される。また、予めどちらかの成分が過剰である2種類以上のポリイミド前駆体を合成しておき、各ポリイミド前駆体溶液を一緒にした後反応条件下で混合してもよい。このようにして得られたポリイミド前駆体溶液はそのまま、あるいは必要であれば溶媒を除去または加えて、自己支持性フィルムの製造に使用することができる。
【0071】
ポリイミド前駆体溶液の粘度は、製造する目的に応じて適宜選択すればよく、ポリアミック酸(ポリイミド前駆体)溶液は、30℃で測定した回転粘度が、約100〜5000ポイズ、特に500〜4000ポイズ、さらに好ましくは1500〜3500ポイズ程度のものであることが、このポリアミック酸溶液を取り扱う作業性の面から好ましい。したがって、前記の重合反応は、生成するポリアミック酸が上記のような粘度を示す程度にまで実施することが望ましい。
【0072】
ポリイミド前駆体溶液の有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
ポリイミド前駆体溶液には、必要に応じて、熱イミド化であればイミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子などを加えてもよい。
【0074】
ポリイミド前駆体溶液には、必要に応じて、化学イミド化であれば環化触媒及び脱水剤、無機微粒子などを加えてもよい。
【0075】
イミド化触媒、有機リン含有化合物、化学イミド化の場合の環化触媒、化学イミド化の場合の脱水剤、無機微粒子等は、公知の物質、材料を適宜必要な量で使用することができる。
【0076】
ポリイミド前駆体溶液の自己支持性フィルムは、上記のようなポリイミド前駆体の有機溶媒溶液、あるいはこれにイミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子などを加えたポリイミド前駆体溶液組成物を支持体上に流延塗布し、自己支持性となる程度(通常のキュア工程前の段階を意味する)、例えば支持体上より剥離することができる程度に加熱して製造される。
【0077】
ポリイミド前駆体溶液は、ポリイミド前駆体を10〜30質量%程度含むものが好ましい。また、ポリイミド前駆体溶液としては、ポリマー濃度が8〜25質量%程度であるものが好ましい。
【0078】
このときの加熱温度および加熱時間は適宜決めることができ、熱イミド化では、例えば、温度100〜180℃で1〜60分間程度加熱すればよい。化学イミド化では、例えば40〜200℃の温度で自己支持性となる程度にまで加熱する。
【0079】
支持体としては、平滑な基材を用いることが好ましく、例えばステンレス基板、ステンレスベルトなどが使用される。連続生産するためには、エンドレスベルトなどのエンドレスな基材が好ましい。
【0080】
自己支持性フィルムは、支持体上より剥離することができる程度にまで溶媒が除去され、および/またはイミド化されていれば特に限定されないが、熱イミド化では、その加熱減量が20〜50質量%の範囲にあること、さらに加熱減量が20〜50質量%の範囲で且つイミド化率が8〜55%の範囲にあることが、自己支持性フィルムの力学的性質が十分となり、好ましい。また、自己支持性フィルムの上面にカップリング剤の溶液を塗工する場合には、カップリング剤溶液をきれいに塗布しやすくなり、イミド化後に得られるポリイミドフィルムに発泡、亀裂、クレーズ、クラック、ひびワレなどの発生が観察されないために好ましい。
【0081】
なお、上記の自己支持性フィルムの加熱減量とは、自己支持性フィルムの質量W1とキュア後のフィルムの質量W2とから次式によって求めた値である。
【0082】
加熱減量(質量%)={(W1−W2)/W1}×100
【0083】
また、上記の自己支持性フィルムのイミド化率は、IR(ATR)で測定し、フィルムとフルキュア品との振動帯ピーク面積または高さの比を利用して、イミド化率を算出することができる。振動帯ピークとしては、イミドカルボニル基の対称伸縮振動帯やベンゼン環骨格伸縮振動帯などを利用する。またイミド化率測定に関し、特開平9−316199号公報に記載のカールフィッシャー水分計を用いる手法もある。
【0084】
本発明においては、このようにして得られた自己支持性フィルムの片面または両面に、必要に応じて、カップリング剤やキレート剤などの表面処理剤の溶液を塗布してもよい。
【0085】
以上のようにして、第1工程において製造された自己支持性フィルムは、第2工程に送られる。
【0086】
<第2工程>
第2工程(キュア工程)においては、第1工程で製造した自己支持性フィルムを、加熱処理(熱キュア)して目的のポリイミドフィルムとする。このとき、必要に応じてフィルムを延伸してもよい。
【0087】
第2工程における加熱処理の温度プロファイルは、目的とするポリイミドフィルムの物性に合わせて適宜設定することができる。
【0088】
加熱処理の温度プロファイルの一例を挙げると、最高温度が、200〜600℃の範囲、好ましくは350〜550℃の範囲、特に好ましくは400〜500℃の範囲となるような条件で、例えば約0.05〜5時間で徐々に加熱されることが好ましい。好ましくは最終的に得られるポリイミドフィルム中の有機溶媒および生成水等からなる揮発物の含有量が1重量%以下になるように、自己支持性フィルムから溶媒などを充分に除去するとともに前記フィルムを構成しているポリマーのイミド化を充分に行う。
【0089】
加熱ゾーンは、温度勾配を有していることも好ましく、また加熱温度の異なるいくつかブロックに分かれていてもよい。1例を挙げると、約100〜170℃の比較的低い温度で約0.5〜30分間第一次加熱処理し、次いで170〜220℃の温度で約0.5〜30分間第二次加熱処理して、その後、220〜400℃の高温で約0.5〜30分間第三次加熱処理し、必要により400〜600℃の高い温度で第四次高温加熱処理する。また、別の1例では、80〜240℃で第一次加熱処理し、必要により中間加熱温度で加熱処理し、350〜600℃で最終加熱処理する。
【0090】
上記の加熱処理は、熱風炉、赤外線加熱炉などの公知の種々の加熱装置を使用して行うことができる。フィルムの初期加熱温度、中間加熱温度および/または最終加熱温度などの加熱処理は、窒素、アルゴンなどの不活性ガスや、空気などの加熱ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0091】
第2工程(キュア工程)における熱処理は、好ましくは所定の加熱ゾーンを有するキュア炉の中を、例えばテンター装置により自己支持性フィルムを連続して搬送し、その間に必要により、幅方向を拡大または縮小することで、延伸または緩和を行うことができる。
【0092】
テンター装置としては、加熱処理の間、自己支持性フィルムの幅方向の両端を把持しながら搬送できるものであればよく、フィルム把持部材として突き刺しピンを使用する(ピン式テンター)、クリップまたはチャックにより自己支持性フィルムの端部を把持するクリップ式テンター、チャック式テンター等を使用することができる。
【0093】
以上の製造方法により、ポリイミドフィルムは長尺状に製造されるので、一般的には、テンター装置により幅方向に把持したフィルムの両端部を切断除外した部分を、ロール状に巻いて、製品ロールとされる。
【0094】
ポリイミドフィルムの厚みは、適宜選択すればよく特に限定されるものではないが、厚さが150μm以下、好ましくは5〜120μm、より好ましくは6〜50μm、さらに好ましくは7〜40μm、特に好ましくは8〜35μmとすることができる。
【0095】
フィルム幅方向の膜厚プロファイル測定値を利用してTダイの押出しリップの間隙幅を自動調節するプロファイル自動制御のみで製造されるポリイミドフィルムに対して、本発明の製造方法をさらに適用して製造されたポリイミドフィルムは、幅方向の厚みの均一性が優れる。そのため本発明により製造されたポリイミドフィルムの製品ロールは、巻こぶが少なく、そのため巻ずれの発生によるすり傷の発生が少ない。そして、比較的均一に巻き上げられているために、長期保存しても、多角形化する程度も小さい。また、フィルムの厚みムラも少ないため、ハイエッジが発生し難くなる。
【実施例】
【0096】
次に、実施例によって本発明を更に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0097】
<実施例1>
重合槽に所定量のN,N−ジメチルアセトアミドを加え、次いで3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン二無水物、次いでパラフェニレンジアミンを加え、30℃で10時間重合反応させて、ポリマーの対数粘度(測定温度:30℃、濃度:0.5g/100ml溶媒、溶媒:N,N−ジメチルアセトアミド)が1.60、ポリマー濃度が18質量%であるポリイミド前駆体溶液を得た。このポリイミド前駆体溶液に、ポリイミド前駆体100質量部に対して0.1質量部の割合でモノステアリルリン酸エステルトリエタノールアミン塩および0.5質量部の割合で平均粒径0.08μmのコロイダルシリカを添加し、均一に混合してポリイミド前駆体溶液組成物を得た。このポリイミド前駆体溶液組成物の回転粘度は3000ポイズであった。
【0098】
得られたポリイミド前駆体溶液組成物を、第1工程において、Tダイから連続的にキャスティング・乾燥炉の平滑な金属支持体に押出し、支持体上に薄膜を形成した。この薄膜を120〜160℃で10分間加熱後、支持体から剥離して自己支持性フィルムを得た。この自己支持性フィルムのB面上(支持体側表面)に、4質量%の濃度でシランカップリング剤(N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン)を含有するN,N−ジメチルアセトアミド溶液を7g/mで塗布し、B面に約10g/mの塗布量でN,N−ジメチルアセトアミドを塗布し、80〜120℃の熱風で乾燥させた。
【0099】
次いで、第2工程において、この乾燥フィルムの幅方向の両端部を把持して連続加熱炉へ挿入し、フィルムを加熱、イミド化(最高温度500℃程度)して、平均膜厚が34μmで幅が524mmの長尺状ポリイミドフィルムを連続的に製造した。
【0100】
第1工程においてキャスティングは、フィルム幅方向の膜厚プロファイル測定値を利用してTダイの押出しリップの間隙幅を自動調節するプロファイル自動制御機能を有するTダイを用いて行った。第1工程では、リップの間隙幅の制御は、プロファイルによる自動制御に、さらに次の制御を加えて行った。ボルト1本を一つのブロックとして、+期間と−期間を各10分とし、周期的にリップ間隔を調整するためのボルト出力を0.2%(+制御指令と−制御指令)変動させた。また、図8のパターンのように、幅方向の中央のブロックを中心に、周辺に向かうに従って、隣接するブロック間で、5分遅れで同一の動作を行うように設定した。
【0101】
また、製造されたポリイミドフィルムを3000m巻き取って製品ロールとした。
【0102】
<比較例1>
ポリイミド前駆体溶液組成物をTダイからキャストするとき、リップの間隙幅の制御は、リップ間隔の周期的な変動を行わずに、プロファイルによる自動制御のみで、ポリイミドフィルムを製造した。
【0103】
<評価>
幅方向のフィルムの厚みの均一性は、実施例、比較例で製造した3000m巻きの製品ロールのロール硬度の幅方向プロファイルを求めた。ロール硬度は、TAPIO社製「Roll Quality Profiler」を用いて測定した。この測定では、巻取りが固い程、硬度の値が大きく、巻取りがゆるい程、硬度の値が小さく現れる。幅方向で最大の硬度と最小の硬度の差から、厚みムラの大きさを評価した。
【0104】
【表1】

【0105】
表1より、本発明の方法により厚みムラが小さくなっていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、ロールに巻き取られる長尺状のフィルムの製造に有用である。
【符号の説明】
【0107】
10 Tダイ
12 上リップ
11 下リップ
13 ボルト
20 押し出されたフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リップ間隔を調整可能なTダイよりフィルム原料を連続的に押し出す工程を少なくとも1工程として有するフィルム製造方法であって、
Tダイの幅方向を、m個の微調節可能なブロックに区分したとき、
任意のブロック(k)に対して、リップ間隔をΔTだけ広げる+制御指令と、ΔTだけ狭くする−制御指令とを、所定の期間を持って交互に出す制御を行い、
前記任意のブロック(k)に隣接するブロック(k+1)に対して、所定の期間の遅れをもって、前記任意のブロック(k)と同一の動作を行うように制御を行うこと
(但し、mおよびkは正の整数であり、1≦k<mを満たす。)
を特徴とするフィルム製造方法。
【請求項2】
リップ間隔を調整可能なTダイよりフィルム原料を連続的に押し出す工程を少なくとも1工程として有するフィルム製造方法であって、
Tダイの幅方向を、m個の微調節可能なブロックに区分したとき、
前記のm個のブロックの中の特定の一つのブロック(k)に対して、リップ間隔をΔTだけ広げる+制御指令と、ΔTだけ狭くする−制御指令とを、所定の期間を持って交互に出す制御を行い、
より番号の大きいブロック(k+i)では、隣接するブロック(k+i−1)より、所定の時間だけ遅れて、ブロック(k)と同一の動作を行い、
より番号の小さいブロック(k−j)では、隣接するブロック(k−j+1)より、所定の時間だけ遅れて、ブロック(k)と同一の動作を行うこと
(但し、k、i、jは正の整数であり、mは請求項1で定義されたとおりであり、各パラメータは次の関係:
1<k<m
1≦(k−j)< k <(k+i)≦m
を満たす。)
を特徴とするフィルム製造方法。
【請求項3】
前記リップ間隔を調整可能なTダイは、フィルム幅方向の膜厚プロファイル測定値を利用してTダイの押出しリップの間隙幅を自動調節するプロファイル自動制御機能を有するTダイであることを特徴とする請求項1または2に記載のフィルム製造方法。
【請求項4】
+制御指令と次の−制御指令までの時間が等しく、かつ周期的であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルム製造方法。
【請求項5】
隣接するブロック間での所定の期間の遅れが、+制御指令と次の−制御指令までの時間および−制御指令と次の+制御指令までの時間より短いことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルム製造方法。
【請求項6】
隣接するブロック間での所定の期間の遅れが、+制御指令と次の−制御指令までの時間および−制御指令と次の+制御指令までの時間の1/2以下であることを特徴とする請求項5に記載のフィルム製造方法。
【請求項7】
前記フィルム原料が溶媒を含む溶液であって、前記Tダイより押し出された溶液フィルムから前記溶媒の少なくとも一部が蒸発除去されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のフィルム製造方法。
【請求項8】
製造されるフィルムが、ポリイミドフィルムであり、
前記フィルム原料がポリイミド前駆体溶液であり、
前記Tダイより前記ポリイミド前駆体溶液を、支持体上にキャストする工程を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のフィルム製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−35491(P2012−35491A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177107(P2010−177107)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】