説明

フィルムシート類成型用精密転写方法及びその精密転写装置

【課題】表面に微細な彫刻を施した彫刻ロールによるフィルムシート類表面に対する微細模様の転写形成に際し、転写性を良好にして高精度で精密転写させる。
【解決手段】表面に転写模様を付してある彫刻ロール3と、押圧成形ロール10との間に溶融合成樹脂材料を供給し、模様を付したフィルムシートSを成形する。このとき、彫刻ロール3外表面を、この彫刻ロール3と押圧成形ロール10との押圧成形の開始部位に配した加熱部4によって加熱し、押圧成形の終了部位では冷却している。加熱部4は、彫刻ロール3外表面の押圧成形部位を溶融合成樹脂材料の溶融温度とほぼ同一温度に加熱する。押圧成形ロール10は、彫刻ロール3の外周面に位置する一対の駆動ローラ11,12相互間に彫刻ロール3外周面に当接して循環する押圧帯13を掛巡して成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶融状態の合成樹脂材料にて所定肉厚のフィルムシート類を成形するとき、これの表面に各種の微細な凹凸模様を精度良く転写形成できるフィルムシート類成型用精密転写方法及びその精密転写装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から所定肉厚のフィルムシート類を成形するに際し、溶融した合成樹脂材料をTダイから例えば対状に配置した成型ロール相互間に供給し、この成型ロール相互の押圧によって伸展することで行っている。また、このように成形するにつき、成型ロールを加熱制御することで薄膜状となるフィルムシート類の表面欠陥の是正、品質の確保、肉厚調整等を図っている。例えば特許文献1に係るベルト式樹脂成形方法及び装置、特許文献2に係るシート製造方法及びシート製造装置、特許文献3に係る熱可塑性樹脂シートの製造方法等である。
【特許文献1】特開平7−276397号公報
【特許文献2】特開平8−118386号公報
【特許文献3】特開2002−120248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のような従来提案されている装置及び方法は、特許文献1では供給する溶融樹脂のみを加熱するとし、特許文献2では成形する際の成形用の駆動ベルトを高温に維持する恒温保持装置を備えるとし、特許文献3では仕上げロールに接面している熱可塑性樹脂シートの非接触面の少なくとも両側端部を加熱するとする。したがって、これらは成形されるフィルムシート類が平滑表面を有する場合に効果的ではあっても、フィルムシート類の表面に微細な彫刻模様を付す場合には必ずしも有効ではない。
【0004】
すなわち、表面に微細模様が付されるフィルムシート類を成形するには、溶融された合成樹脂材がTダイから成型ロールに供給される間の空気中で成型ロールに到達するまでに冷却されてしまい、特にフィルムシート類の表面は最初に冷却されてしまうから、これに対する微細な彫刻の転写が困難となっている。これを解決すべくTダイから溶融された合成樹脂材を成型ロールに供給し、微細模様を付したフィルムシート類を成形するには、これの転写性を向上させるべく成型ロール相互間の圧着圧力を大きくし、転写率を高くしている。しかしながら、こうすると成型ロール自身に撓みが生じ、転写ムラも発生する。
【0005】
そこで本発明は叙上のような従来存した諸事情に鑑み創出されたもので、その目的は表面に微細な彫刻が施されている彫刻ロールによるフィルムシート類表面に対する微細模様の転写形成に際し、転写性を良好にして高精度で精密転写させるフィルムシート類成型用精密転写方法及びその精密転写装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明に係るフィルムシート類成型用精密転写方法にあっては、表面に転写模様が付されている彫刻ロール3と、押圧成形ロール10との間に溶融合成樹脂材料を供給し、模様を付したフィルムシートSを成形するとき、彫刻ロール3外表面を、この彫刻ロール3と押圧成形ロール10との押圧成形の開始部位では加熱し、押圧成形の終了部位では冷却していることにある。
また、本発明に係るフィルムシート類成型用精密転写装置にあっては、表面に転写模様が付されている彫刻ロール3と、押圧成形ロール10との間に溶融合成樹脂材料を供給し、模様が付されたフィルムシートSを成形するものであって、彫刻ロール3には押圧成形ロール10と共に溶融合成樹脂材料を成形押圧する部位で加熱部4を配して成る。
加熱部4は、彫刻ロール3外表面の押圧成形部位を溶融合成樹脂材料の溶融温度とほぼ同一温度に加熱するものとしてある。
押圧成形ロール10は、彫刻ロール3の外周面上に位置するように配した上下で一対の駆動ローラ11,12相互間に彫刻ロール3外周面に当接して循環する押圧帯13を掛巡して成る。
【0007】
以上のように構成された本発明に係るフィルムシート類成型用精密転写方法及びその精密転写装置にあって、加熱部4によって表面が溶融合成樹脂材料とほぼ同一温度で加熱された彫刻ロール3は、押圧成形ロール10と共に溶融合成樹脂材料を押圧成形するとき、溶融合成樹脂材料を冷却させることなく彫刻ロール3表面の微細模様を溶融合成樹脂材料に精密に転写する。
循環する押圧帯13を彫刻ロール3外周面に当接させる押圧成形ロール10は、彫刻ロール3に沿って湾曲し、溶融合成樹脂材料を彫刻ロール3外周面に当接させて連続成形させる。また当接しながら成形するにしたがい冷却される彫刻ロール3外表面はフィルムシートSの微細模様を確実に定着させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明は以上説明したように構成されているため、表面に微細な彫刻が施されている彫刻ロール3によって押圧成形ロール10と共に溶融合成樹脂材料を押圧成形してフィルムシートS類を成形するとき、フィルムシートSの表面に微細模様の転写を高精度で精密に行うことができる。
【0009】
すなわちこれは本発明において、彫刻ロール3には押圧成形ロール10と共に溶融合成樹脂材料を成形押圧する部位で加熱部4を配し、彫刻ロール3外表面を、この彫刻ロール3と押圧成形ロール10との押圧成形の開始部位では加熱し、押圧成形の終了部位では冷却しているからである。これによって、溶融状態で供給される溶融合成樹脂材料を冷却させず、冷却凝固化に伴う微細模様の転写の困難性の発生事態を予め排除でき、溶融合成樹脂材料に対する精密転写の確実性、容易性を図ることができる。
【0010】
また、加熱部4による彫刻ロール3外表面の押圧部位に対する加熱は、溶融合成樹脂材料の溶融温度とほぼ同一温度に加熱することで、最適な溶融状態にある合成樹脂材料に対して彫刻ロール3による転写を開始できる。そして循環する押圧帯13による押圧成形ロール10の彫刻ロール3表面に対する連続した押圧とこの押圧に伴う彫刻ロール3外表面の自然冷却と相俟ち、微細模様の転写の精密性を一層向上できる。
【0011】
尚、上記の課題を解決するための手段、発明の効果の項夫々において付記した符号は、図面中に記載した構成各部を示す部分との参照を容易にするために付した。本発明は図面中の符号によって示された構造・形状等に限定されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下図面を参照して本発明を実施するための最良の一形態を説明する。図において示される符号1は基台ベースであり、この基台ベース1には、溶融状態の合成樹脂材料を貯留しているTダイ2から供給された溶融合成樹脂材料を成形して微細模様が付された長尺状のフィルムシートSを形成する彫刻ロール3、及びこの彫刻ロール3と共に溶融合成樹脂材料を押圧する押圧成形ロール10を回転自在に支承してある。
【0013】
彫刻ロール3、押圧成形ロール10相互が対面する押圧部分の直上にTダイ2の供給口が位置している。彫刻ロール3は、これの外周面に、伸展成形する溶融合成樹脂材料に付与すべき微細模様が凹凸状に形成されている。この彫刻ロール3における押圧成形ロール10との押圧部分近傍には、彫刻ロール3外周面を加熱する加熱部4が彫刻ロール3に対して近接、離間自在に配装されている。尚、彫刻ロール3表面の微細彫刻は例えばその深さが10〜20μm程度としてあるも、もとよりこれに限定されない。
【0014】
加熱部4は例えば遠赤外線ヒータ、熱風ファン等であり、その温度は温度コントローラーによって適宜に制御される。また、この加熱部4自体は例えばエアーシリンダー機構、ラック・ピニオン、送りねじ等の構造を備えることで、例えば昇降させる位置決め機構5によって彫刻ロール3に対しての位置調整がなされ、温度コントローラーの制御と共に彫刻ロール3に対する加熱温度が制御されるようにしてある。加熱部4による彫刻ロール3の加熱は、彫刻ロール3において溶融合成樹脂材料を押圧成形ロール10と共に押圧する部位において、好ましくは溶融合成樹脂材料とほぼ同一の温度に設定する。このときの温度設定は、溶融合成樹脂材料が冷却されずに彫刻ロール3表面の微細模様が確実に転写される温度範囲とされれば足り、少なくとも冷却させる温度に比し高温度に設定される。
【0015】
彫刻ロール3自体はロール温度調整手段6によって温度制御されており、彫刻ロール3内外で循環する水、油等の熱媒体によって所定の温度に設定調整される。そして、彫刻ロール3の表面は加熱部4によって加熱された後、押圧成形ロール10と共に押圧する間にロール温度調整手段6によって内部からロール温調温度まで冷却され、押圧作用を付与する最終位置までに順次に冷却される。また彫刻ロール3自体が回転することで、押圧成形ロール10との押圧部位は加熱部4位置で再加熱されるものとなっている。
【0016】
押圧成形ロール10は、溶融合成樹脂材料に対して彫刻ロール3が微細模様を付与するとき、溶融合成樹脂材料の背面側を支持し、前面側に所定の微細模様を形成させる。図示にあっての押圧成形ロール10は、彫刻ロール3の外周面上に位置するように配した上下で一対の駆動ローラ11,12相互間に彫刻ロール3外周面に湾曲状に当接して循環するようにしたループ・スリーブ・ドラム・ベルト状等の押圧帯13を掛巡して成る。この押圧帯13は可撓性があり、上下に配される駆動ローラ11,12相互間で掛巡された状態で循環されるとき、彫刻ロール3外周面側に所定の移動距離でしっくりと当接し、彫刻ロール3による溶融合成樹脂材料に対する微細模様の転写作用を溶融合成樹脂材料の背面から支持している。尚、この押圧成形ロール10は図示のように循環する押圧帯13を備えずに、一般的な単なるローラー状とすることも可能である。
【0017】
また図中符号15は彫刻ロール3に対して押圧成形ロール10を接近あるいは離間させて押圧力を調整するよう、押圧成形ロール10の後方に配した例えばエアーシリンダー・油圧機構等から成る押圧調整機構である。
【0018】
彫刻ロール3、押圧成形ロール10によるフィルムシートSの成形後では、彫刻ロール3の前方位置で彫刻ロール3に押圧している成形ロール21で仕上げ成形される。尚図中符号22は彫刻ロール3に対して成形ロール21を接近あるいは離間させて成形押圧力を調整するよう、成形ロール21の前方に配した例えばエアーシリンダー・油圧機構等から成る仕上げ用の冷却押圧調整機構である。
【0019】
次にこれの使用の一例を説明する。所定のフィルムシート材料である溶融合成樹脂材料をTダイ2から彫刻ロール3の外周面に帯状に滴下するように供給する。この溶融合成樹脂材料が供給された彫刻ロール3外周面は加熱部4によって溶融合成樹脂材料とほぼ同一温度に加熱されていることで、彫刻ロール3表面の微細模様を溶融合成樹脂材料に押圧成形ロール10による支持押圧力と共に転写する。彫刻ロール3は溶融合成樹脂材料に対する転写開始後では加熱された転写面で、彫刻ロール3表面の凹凸模様にしっくりと馴染ませ、転写開始後ではロール温度調整手段6によって所定のロール温調温度まで次第に冷却する。そして押圧成形ロール10との押圧力が解除されるときには降下した温度にて転写模様を定着させることでフィルムシートSを成形する。次いで彫刻ロール3と形成ロール21とで順次冷却して所定のロールに巻き取る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を実施するための最良の形態を示す概略側面図である。
【符号の説明】
【0021】
S…フィルムシート
1…基台ベース 2…Tダイ
3…彫刻ロール 4…加熱部
5…位置決め機構 6…ロール温度調整手段
10…押圧成形ロール 11,12…駆動ローラ
13…押圧帯 15…押圧調整機構
21…成形ロール
22…冷却押圧調整機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に転写模様が付されている彫刻ロールと、押圧成形ロールとの間に溶融合成樹脂材料を供給し、模様を付したフィルムシートを成形するとき、彫刻ロール外表面を、この彫刻ロールと押圧成形ロールとの押圧成形の開始部位では加熱し、押圧成形の終了部位では冷却していることを特徴としたフィルムシート類成型用精密転写方法。
【請求項2】
表面に転写模様が付されている彫刻ロールと、押圧成形ロールとの間に溶融合成樹脂材料を供給し、模様が付されたフィルムシートを成形するフィルムシート類成型用精密転写装置であって、彫刻ロールには押圧成形ロールと共に溶融合成樹脂材料を成形押圧する部位で加熱部を配して成ることを特徴とするフィルムシート類成型用精密転写装置。
【請求項3】
加熱部は、彫刻ロール外表面の押圧成形部位を溶融合成樹脂材料の溶融温度とほぼ同一温度に加熱する請求項2に記載のフィルムシート類成型用精密転写装置。
【請求項4】
押圧成形ロールは、彫刻ロールの外周面上に位置するように配した上下で一対の駆動ローラ相互間に彫刻ロール外周面に当接して循環する押圧帯を掛巡して成る請求項2または3に記載のフィルムシート類成型用精密転写装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−296824(P2007−296824A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128901(P2006−128901)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【出願人】(393017384)千葉機械工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】