説明

フィルム状食材およびその製造方法

【課題】 ナガイモを含むヤマノイモ属植物に含まれる生理活性機能を保持し、しかも手軽に摂取できて、調理においてもまた包材としても、食用に便利かつ種々の形態で利用可能な食材の製造方法を提供すること。
【解決手段】 ヤマノイモ属植物の可食部から分離された粘性物質含有材料1と、糊料2とを混合する混合過程P1と、混合過程P1により得られた混合物3をフィルム状に成形する成形過程P2とにより、フィルム状食材を得る。原料ヤマノイモ属植物としては、特にナガイモを用いるものとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィルム状食材およびその製造方法に係り、特にヤマノイモ属植物に含まれる生理活性機能を保持し、かつ手軽に摂取できて、調理においてもまた包材としても広く利用可能な、フィルム状食材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナガイモを原料とした加工品、特に乾燥食品は従来、フリーズドライ製品が主体であり、粉末化し、麺類などの小麦製品等における「つなぎ」としての役割が主である。
【0003】
ナガイモの特徴である粘質成分についてはさまざまな生理活性機能が明らかになってきており、その中のムチンは、鼻粘膜においてウイルスの体内侵入を防御したり、胃粘膜の表面を保護したりする作用を有する。またデオスコランは、血糖値の上昇抑制作用を有するなど、ナガイモは極めて有用な物質を含んでいる。これらの粘質物質を保持した加工品としては従来、フリーズドライ製品が存在する。
【0004】
なお後掲特許文献は、加熱乾燥の長所と凍結乾燥の長所とを生かした乾燥方法により、含有される栄養素を保ったままで植物性の食材を乾燥、粉末化した食品の提供を目的として、穀物の全粒乾燥粉末と、葉菜類・根菜類(ヤマイモを含む。)・果菜類の中からそれぞれ1種類以上を選んだ全乾燥粉末とを少なくとも含み、それぞれの乾燥方法が熱風による乾燥、遠赤外線による乾燥または凍結乾燥のいずれかとする技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−212025号公報「乾燥粉末食品」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて上述のとおり、従来、ナガイモを原料とした加工品はフリーズドライ製品が主体であって、乾燥品を直接喫食するような加工食品は、未だに提案も提供もなされていない。また、ムチン・デオスコランといったナガイモの粘質成分中の有用物質を保持した加工品であるフリーズドライ製品は、加水が必要で即席製に乏しい。また、フリーズドライ以外の乾燥方法ではナガイモの組織が硬化し、食用とするのが困難となる。なお、ナガイモにおけるこれらの課題は、可食性のヤマノイモ属植物全般に共通するといえる。
【0007】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点を踏まえ、ナガイモを含むヤマノイモ属植物に含まれる生理活性機能を保持し、しかも手軽に摂取できて、調理においてもまた包材としても、食用に便利かつ種々の形態で利用可能な食材およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は、ナガイモを原料としたフィルム状食材を製品化することに基づいて上述課題を解決できることに想到した。そして、かかるフィルム状食材化のためのいくつかの小課題(下記(a)〜(f))を特定した。
(a)フィルム状食材を製造する場合、ナガイモに含まれるデンプンを糊化する必要があるが、加熱により粘性物質の機能性や粘性が消失すること。
(b)一般に、可食性フィルムはゼラチンや寒天、ペクチンなどを加熱溶解し、糊状にして製造するが、これらを得るための加熱温度では粘性物質の機能性や粘性が消失すること。
(c)フィルム強度を確保するため、ナガイモの粘質物に由来して生じる気泡を除去する必要があること。
【0009】
(d)フィルム状食材を包材として使用する際、相応の強度が必要であること。
(e)ヒートシール可能で、かつィルム同士では付着しない性状とすること。
(f)食材としての利用範囲を広くするためには、ある程度耐水性があるものや、温水に容易に溶解する性質などを付与可能なものであること。
【0010】
本願発明者は各小課題に対して検討し、いずれも解決可能であることを確認した。そして最終的に、生体調節機能を有した物質や粘性を損なうことなくナガイモをフィルム状に成形して、そのまま喫食でき、また調理や包材等にも広く利用可能な食材を得た。この成果は、他のヤマノイモ属植物にも利用可能なものである。すなわち、上述の課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0011】
(1) ヤマノイモ属植物の可食部を原料とする、フィルム状食材。
(2) 含有される粘性物質に由来する機能性または粘性の少なくともいずれか一方が残存していることを特徴とする、(1)に記載のフィルム状食材。
(3) 前記ヤマノイモ属植物がナガイモであることを特徴とする、(1)または(2)に記載のフィルム状食材。
(4) ヤマノイモ属植物の可食部から分離された粘性物質含有材料と、糊料とを混合する混合過程と、該混合過程により得られた混合物をフィルム状に成形する成形過程とを備えていることを特徴とする、フィルム状食材製造方法。
【0012】
(5) 前記混合過程において、前記糊料は、前記粘性物質含有材料中の粘性物質の機能性もしくは粘性の消失を防止できる程度の温度で混合されることを特徴とする、(4)に記載のフィルム状食材製造方法。
(6) 前記粘性物質含有材料は、前記ヤマノイモ属植物可食部の擂り下ろし物を遠心分離処理して得られる上清であることを特徴とする、(4)または(5)に記載のフィルム状食材製造方法。
(7) 前記糊料には、ヤマノイモ属植物を原料とするヤマノイモ属製糊料が用いられることを特徴とする、(4)ないし(6)のいずれかに記載のフィルム状食材製造方法。
(8) 前記ヤマノイモ属製糊料は、前記ヤマノイモ属植物可食部の擂り下ろし物を遠心分離処理して得られる残渣を原料とすることを特徴とする、(7)に記載のフィルム状食材製造方法。
【0013】
(9) 前記ヤマノイモ属製糊料は、前記ヤマノイモ属植物可食部の蒸煮物を原料とすることを特徴とする、(7)に記載のフィルム状食材製造方法。
(10) 前記蒸煮物には、製造されるフィルム状食材を吸水させた場合でも容易には溶解しない程度に水溶性減少効果を発現するのに充分な程度にヤマノイモ属植物繊維が含まれていることを特徴とする、(9)に記載のフィルム状食材製造方法。
(11) 前記ヤマノイモ属植物がナガイモであることを特徴とする、(4)ないし(10)のいずれかに記載のフィルム状食材製造方法。
(12) (4)ないし(11)のいずれかに記載のフィルム状食材製造方法を用いて製造される、下記<A>の応用製品。
<A>可食性フィルム状体、他食材用包装材、他食材調味用フィルム状体
【発明の効果】
【0014】
本発明のフィルム状食材およびその製造方法は上述のように構成されるため、ナガイモを含むヤマノイモ属植物に含まれる生理活性機能を保持した状態で、手軽にそのままの形態で喫食摂取できるフィルム状食材を実現することができる。また本発明フィルム状食材は、調理においてもまた包材としても、食用に便利かつ種々の形態にて、広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明フィルム状食材製造方法の基本構成を示すフロー図である。
【図2】本発明フィルム状食材の製造工程例を示すフロー図である。
【図3A】試作フィルムの引張試験結果を示すグラフであり、最大荷重(g)と硬さ(g)を示したものである。
【図3B】試作フィルムの引張試験結果を示すグラフであり、強度(dyn/cm)とエネルギー(erg/cm)を示したものである。
【図4】本発明実施例のフィルム状食材の写真である。
【図5】本発明実施例のフィルム状食材(包材)の使用例の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明について、さらに詳細に説明する。
本発明のフィルム状食材は、ナガイモを初めとするヤマノイモ属植物の可食部を原料とする。特に本発明では以下、ナガイモの例によって説明するが、原料とするヤマノイモ属植物はナガイモには限定されない。たとえば、イチョウイモ、ツクネイモ・丹波ヤマノイモ・大和イモ・伊勢イモ(以上、ツクネイモ群)、また、ヤマイモ(自然薯)であってもよい。いずれの場合も、利用する部位は可食部(いも)である。
【0017】
そして本発明フィルム状食材には、後述する製造過程を経た後も、原料ヤマノイモ属植物に含有される粘性物質由来の一もしくは複数の機能性物質か、または粘性物質のうち少なくともいずれか一方が残存していることを、主たる構成とする。機能性物質が残存している場合は、何らかの、一または複数の機能性物質の残存であればすべて、本発明の範囲内である。
【0018】
図1は、本発明フィルム状食材製造方法の基本構成を示すフロー図である。図示するように本製造方法は、ヤマノイモ属植物の可食部から分離された粘性物質含有材料1と、糊料2とを混合する混合過程P1と、混合過程P1により得られた混合物3をフィルム状に成形する成形過程P2とを備えてなることを、主たる構成とする。原料ヤマノイモ属植物としては、特にナガイモを用いるものとすることができる。
【0019】
かかる構成により本製造方法によれば、混合過程P1においてヤマノイモ属植物の可食部から分離された粘性物質含有材料1と糊料2とが混合されて混合物3が得られ、ついで成形過程P2において混合物3がフィルム状に成形されてフィルム状食材5が得られる。
【0020】
混合過程P1では、粘性物質含有材料1中の粘性物質の機能性もしくは粘性の少なくとも一方の消失を防止するためには、かかる防止が可能な程度に低い温度で、糊料2を粘性物質含有材料1に対して混合することとする。具体的な温度は、消失を防止したい機能性あるいは粘性に係る物質の性状による。
【0021】
粘性物質含有材料1としては、ヤマノイモ属植物可食部の擂り下ろし物を適宜の条件にて遠心分離処理して得られる上清を用いる。また、糊料2としては、ヤマノイモ属植物を原料とするヤマノイモ属製糊料を用いることができるが、これは、ヤマノイモ属植物可食部の擂り下ろし物を遠心分離処理して得られる残渣、すなわち粘性物質含有材料1(上清)の分離残渣を用いればよい。
【0022】
一方、これとは異なり、ヤマノイモ属製糊料としてヤマノイモ属植物可食部の蒸煮物を原料として用いることも可能である。また、蒸煮物を用いる場合は、最終的に製造されるフィルム状食材を吸水させた場合でも容易には溶解しない程度にヤマノイモ属植物繊維を含んだ蒸煮物を、特に用いるものとすることができる。
【0023】
本発明のフィルム状食材は、たとえば、フィルム状体をそのまま喫食可能な可食性フィルム状体として、餡その他の別の食材を包むための包装材として、あるいはまた本フィルム状食材を予め調味処理したものとして、そのままで食用としたり、あるいはこれに他の食材を載置等することにより当該他の食材を調味するためのものとして、用いることができる。
【0024】
原料として特にナガイモを用いる場合の、典型的な本発明製造方法例における技術的要点を7項目記す。もっとも、本発明がこの例に限定されないことはいうまでもない。
1.ナガイモ製糊料(その1)
ナガイモを蒸煮し、フードプロセッサーでナガイモ重量の1〜2倍量(1.5倍量が最適)加水しながら破砕したものを加熱し、糊料とする。
2.ナガイモ製糊料(その2)
ナガイモを擂り下ろした後、7000rpmで30〜40分間遠心分離し、粘性物質含有材料である上清と残渣を分け、残渣をそのまま、またはより望ましくは乾燥・粉末化した後で加水したもの、そのいずれかを加熱糊化させて、フィルム製造用糊料とする。
3.補助的な糊料
糊料として、上記ナガイモ製糊料に加え、ゼラチン・寒天・グリセリン・キシリトール等の補助的な糊料を所定量用いる。
【0025】
4.混合過程
糊料と上清の混合の際に、ムチンなど上清中に含有される有用物質の機能性または粘性物質が失活することを防止するため、糊料を加熱溶解し、冷却した後(望ましくは55℃以下に冷却)、遠心分離された上清を所定の量加えて混合する。
5.フィルム状成形
自転・公転ミキサーによる脱泡処理を行った後にプラスチックまたはポリプロピレン、ポリエチレン製等のフィルムやトレーに所定の量展開し、50℃以下で乾燥する。
【0026】
6.難溶性の付与
難溶性を付与するために、粗いナガイモ繊維を多く含む、蒸煮・破砕したナガイモを糊料とする。
7.溶解性の付与
溶解性を付与するために、ゼラチン、遠心後残渣の粉末等を糊料とする。
【0027】
図2は、原料として特にナガイモを用いる場合の、典型的な本発明フィルム状食材の製造工程例を示すフロー図である。図示するように本フィルム状食材は、遠心分離上清(粘性物質含有材料)と、遠心分離残渣または蒸煮ナガイモのいずれかによるナガイモ製糊料にさらに補助的に糊料を添加したものとを、混合処理し、脱泡処理し、最後にフィルム状に展開して乾燥処理することによって得られる。図中、破線で示す経路が、蒸煮ナガイモを用いる場合である。
【0028】
ナガイモ製糊料と補助的な糊料は混合した後に加熱・糊化するが、糊化物を上清と混合処理する前に、上清中の機能性または粘性に係る物質の失活を防止するため、望ましくは55℃以下に冷却される。なお、遠心分離残渣を用いる場合はこれを乾燥・粉砕処理してから加水することが望ましいが、本発明がこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
以下、ナガイモを用いた実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。なお、本発明完成のために行ったいくつかの実験とその結果の説明をもって、実施例とする。
<I ナガイモ蒸煮物を糊料とするフィルム>
<I−1.方法>
(1)フィルム糊料の調製
ナガイモを洗浄・剥皮し、500gを1cm幅の輪切りとした後、蒸煮機(マルチクッカー・北沢産業(株)/PALUX製)を用いて所定の庫内温度下で蒸煮した。蒸煮したナガイモをフードプロセッサ(ロボクープ(登録商標)R−301U・FMI製)で30秒間攪拌粉砕処理し、これに蒸留水を徐々に添加し、十分に均質化した。
【0030】
(2)フィルムの調製
200mL容トールビーカーに所定量のフィルム糊料をいれ、これに混合材料を添加し、沸騰水浴中で十分混練し、自転公転ミキサー(AR−100・THINKY社製)にて自転800rpm/公転2000rpmで脱泡処理後、ポリプロピレン製のディスポトレー(DT−4:250×175×31mm)に展開した。これを50℃に調節した通風乾燥機(DK64・ヤマト科学製)で2〜3hr乾燥した後、室温に静置し、皮膜状の乾燥物をトレーから慎重に剥がし、フィルムを得た。
【0031】
(3)試験項目
下記の3項目について、試験した。
ア 製造時加水量
イ 混合材料
補助的な糊料として混合する材料は、下記3種類を試験した。
上白糖、グリセリン、キシリトール
ウ フィルム物性(引張強度)
【0032】
<I−2.試験結果概要>
(1)加水量
蒸煮したナガイモ20gに20〜100gの蒸留水を加えて均質化したものをプラスチックフィルム上に20g展開し、性状を観察した結果、ナガイモ重量の1.5倍加水したものが適当であり、以降の試験における加水量を、ナガイモ重量の1.5倍とすることを標準とした。
【0033】
(2)混合材料
上白糖は、乾燥後表面の粘着性が強く、フィルム同士が密着してしまうため、適さないものと判断された。グリセリンは、従来から可食フィルム製造によく使用されているものでもあり、本実験ではその添加によりフィルムの強度が増し、その上密着することもなかった。したがって、混合材料として良好であった。またキシリトールは、上白糖に比べ粘着性が少なく、これも良好であると判断された。
【0034】
(3)フィルム物性
ナガイモ重量に対して1.5倍量の蒸留水を添加した原料各20、30gに対し、所定量グリセリンまたはキシリトールを添加してフィルムを調製し、引張試験による強度の測定を行った。
図3Aは、試作フィルムの引張試験結果を示すグラフであり、最大荷重(g)と硬さ(g)を示したものである(平均値±SE、n=10)。また、
図3Bは、試作フィルムの引張試験結果を示すグラフであり、強度(dyn/cm)とエネルギー(erg/cm)を示したものである(平均値±SE、n=10)。
【0035】
引張試験により、下記の各結果を得た。
i)ナガイモ原料20g、30gのグリセリン100μL添加区およびナガイモ原料20gのキシリトール1%、2%添加区は、トレーからの剥離が困難となり測定に供することはできなかった(「%」は重量%。以下も同様。)。
ii)グリセリン添加量の増加に伴い、硬さが低くなり、破断までの時間が長かった。グリセリン750μL添加区では、わずかながらフィルム同士が密着する傾向を示した。
iii)キシリトール添加量増加においても同様に硬さが低下する傾向にあった。
【0036】
iv)対照としてオブラートを測定したところ、物性のパターンは糊料30g、グリセリン300μL添加区と同様であった(図3A、3B中の楕円囲み部分)。
v)対照のオブラートは伸びがなく一気に破断し、破断曲線が描く面積、破断のエネルギーが小さかった。一方、ナガイモの20gでの300μL、30gの450μL以上のグリセリン添加では、フィルムの引張より伸びが生じ、破断までの経過時間が長く、エネルギーが増大した。
【0037】
vi)結局、本製法においてグリセリン添加量は、ナガイモ糊料(W)に対し、1〜2%程度が適当であると判断された。また、キシリトール添加量は、展開量を多めにして、2〜3%程度添加が適当であると判断された。
vii)また、グリセリンとキシリトールを併用する場合は、キシリトール2〜4%、グリセリン0.5〜0.8%が良好であると考えられた。
【0038】
(4)水に対する溶解性
本製法により製造したフィルムについて、20、60、90℃の水に対する溶解性を試験したところ、スターラーで200rpm程度の撹拌では、フィルムが分解せずに形を保持するという結果を得られた。なお、より強い撹拌や、治具等で直接接触するとフィルムは分解されたが、そのような物理的衝撃を加えない限りは、溶解は生じなかった。また90℃という熱水中においても、分散はするものの、速やかな溶解は生じなかった。
【0039】
<II ナガイモ遠心分離残渣を糊料とするフィルム>
<II−1.方法>
(1)原料の調製
ナガイモを洗浄・剥皮し、フードプロセッサ(ロボクープ(登録商標)・FMI製)に擂り下ろし円盤を装着して破砕処理後、7000rpmで40分間遠心分離した。遠心分離後の上清(以下、「DCS」という。)は−60℃で凍結保存し、残渣は凍結乾燥後粉砕処理して粉末(以下、「DCP」という。)とした。
【0040】
(2)フィルムの製造
補助的な糊料となる原料(ゼラチン、寒天、DCP、グリセリン等)を加熱溶解し、所定量のDCS(解凍したもの)を加えて混合し、自転公転ミキサー(AR−100・THINKY社製)にて自転800rpm/公転2000rpmで脱泡処理後、ポリエチレン製のディスポトレー(DT−4:250×175×31mm)に展開した。これを室温に静置後、50℃に調節した通風乾燥機(DK64・ヤマト科学製)で2〜3hr乾燥し、生成した皮膜状の乾燥物をトレーから慎重に剥離してフィルムを得た。
【0041】
(3)試験項目
ア 微生物検査(大腸菌群、一般生菌数、クリストリジア属)
イ 混合材料の検討
【0042】
<II−2.試験結果概要>
(1)微生物検査
原料として使用するDCSの低温殺菌(50〜65℃で30分)について検討した。大腸菌群およびクリストリジア属は検出されなかった。無処理区の一般生菌数は9.0×10cfu、温度が高くなるに従い菌数は減少し、50℃で6.0×10cfu、65℃では確認されなくなった。本発明の実用性を一層高めるために、次亜塩素酸等による初発菌の制御が有効であると考えられた。
【0043】
(2)混合材料
糊料素材として、蒸煮ナガイモ、ゼラチン、低融点寒天、グリセリン、DCP等について検討したところ、これらを所定の割合で混合することにより、ナガイモの粘性を有するフィルムの製造が可能であった。混合材料検討とその結果について、以下詳細を述べる。
【0044】
(2)−1 基本的な混合の検討
DCS(遠心分離上清)30gを基準とした。
i)DCSのみ。
DCSのみでは、フィルムを形成しなかった。
ii)DCSに0.6g馬鈴薯デンプン、0.6gグリセリンを添加したもの。
iii)DCSにゼラチン20g、ペクチン1g、グリセリン4mL、蒸留水50mLを添加したもの。
iv)DCSにゼラチン20g、ペクチン1g、グリセリン4mL、蒸留水100mLを添加したもの。
これらはいずれも、ペクチンの溶解性に問題があり、不適当であった。
v)DCSにグリセリン1.2mLを添加したもの。
良好に乾燥せず、フィルムを製造できなかった。
【0045】
vi)DCSにグリセリン0、1、2、3、4mL、ゼラチン10g、即溶性寒天0.1g、蒸留水100mLを添加したもの。
DT−4への展開量を10g、15g、20gとし、上記各グリセリン量にてフィルム作製を試みた。
グリセリン0mLでは、展開量により、割れやすいオブラート状、さらに割れやすいセロハン状、厚めのセロハン状となった。いずれも本発明の食材としては不適当な物性であると判断された。グリセリン量1mLでも同様の結果であった。
【0046】
グリセリン量2mLまたは3mLの場合は、展開量により、柔軟なビニール状、包装用パウチ状もしくは低廉なビニール製雨具状のフィルムとなった。また4mLの場合は、展開量により、食品用ラップフィルム状、厚めの食品用ラップフィルム状、園芸用ハウスに用いるような付着性の強いビニール状のフィルムとなった。
以上の結果から、ゼラチン10g、即溶性寒天0.1g、蒸留水100mLの配合例では、グリセリン2〜3mL程度が適正であると判断された。
【0047】
(2)−2 補助的糊料の混合バランスおよび香味付加の検討
キシリトールもグリセリン同様、補助的な糊料として用いることができる。キシリトール添加量とグリセリン添加量のバランスを検討し、併せて香味付加についても検討した。
ベース配合は、ゼラチン10g、即溶性寒天0.1g、蒸留水100mL、グリセリン2mLとした。このベース配合に、キシリトール1〜5g、およびフレーバー(リンゴ、オレンジ)を添加してフィルムを作製した。
【0048】
その結果、リンゴフレーバー添加のものは、トレーにつきにくいという難点があった。また、キシリトール5gを用いる場合、良好なフィルムを得るにはグリセリン量を減らすことが必要であると認められた。ゼラチン10g、即溶性寒天0.1g、蒸留水100mL、グリセリン1mL、キシリトール5g の配合では、良好なフィルムが作製されたが、付着性が高かった。ゼラチン10g、即溶性寒天0.5g、蒸留水100mL、グリセリン1mL、キシリトール5g、オレンジフレーバー5mLに、DCS30gを加えた配合では、キシリトールが完全に溶解し、良好なフィルムが作製された。
【0049】
(2)−3 DCP(残渣)粉末の利用
ベース配合を検討した。DCP1g/蒸留水100mLに、即溶性寒天0.1〜1gを添加した配合では、フィルムはオブラート状となった。DCP2g/蒸留水100mL、グリセリン1mL、さらに寒天0.5gまたは1.0gを添加した配合では、寒天の量が増えるにしたがって作製されるフィルムは硬くなった。DCP30g混合で、DCSを3g加え、寒天を使用しない配合は、フィルムは形成されなかった。さらにグリセリンを1〜3mL添加した場合は、フィルム化したが、乾燥しにくく、この配合ではグリセリン量が過多であると判断された。
【0050】
(2)−4 ゼラチンベース・DCP利用
ゼラチン10g、DCP3g、蒸留水100mL、グリセリン2mL、さらにDCS30gを添加した配合は、フィルムは硬くなり、割れが生じた。キシリトール5g添加、グリセリンを1mL、水を80mLにしてDCSを50gに増量した配合では、良好なフィルムが形成された。硬さは、展開量やゼラチン・寒天量で調節することができた。本レシピは、本発明のフィルム状食材の基準となり得るものだった。
【0051】
(2)−5 蒸煮ナガイモベースの検討
ゼラチンベースの配合では溶解性が高いため、利用方法が限定される。そこで、蒸煮ナガイモベースの配合を検討した。ある程度形の崩れを防止でき、味付け海苔状のものを目標とした。蒸煮ナガイモ(×1.5加水)30g、グリセリン500μLの配合により、良好なフィルム形成を得ることができた。なお、この配合にゼラチン1g、またはゼラチン1gおよび蒸留水10mLを加えた配合では、フィルムは硬くて割れやすくなり、不適当だった。
【0052】
(2)−6 蒸煮ナガイモベース調味フィルム製造
蒸煮ナガイモ(×1.5加水)30g、グリセリン500μL、醤油750μL、DCS20g の配合でフィルム作製を試みたところ、良好な調味フィルムを得ることができた。なお、グリセリン量を750μL、1mLという具合に増やしたところ、作製されたフィルムは付着性が高くなった。調味程度は調節可能であった。また、熱いご飯に接触させた場合でもフィルムは溶解しなかった。なお、ご飯の副食としての用途では、ある程度厚いフィルムとすることが望ましいと思われた。
【0053】
(2)−7 フィルム歩留まり
展開量15〜35gで乾燥前後の重量変化を調査したところ、いずれの配合例においても約14%の歩留まりであった。
【0054】
(2)−8 ムチン摂取用フィルム試作
直接喫食用途のムチン摂取用フィルムを試作した。香味改善のため、香料(ペパーミントオイル、スペアミントオイル)添加を検討した。
香料1mL、ゼラチン10g、DCP3g、キシリトール5g、グリセリン1mL、蒸留水80mL、さらにDCS50gを添加した配合では、ペパーミントの方がスペアミントよりも風味良好であった。また、同配合でキシリトール量を6gに増量したところ、フィルムはより柔らかくなった。しかし、キシリトール量をこれ以上増量すると、付着性が高くなる傾向がうかがえた。
【0055】
<III フィルム状食材の用途および配合例>
図4は、以上述べた本発明実施例により製造されたフィルム状食材の写真である。かかるフィルム状食材の使用方法の例を、下記に示す。
(1)直接喫食用途_粘質物摂取用携帯フィルム
20mm四方内外の大きさにカットした本フィルムをたとえば専用のケース等に収納、携帯し、これを必要な時に取り出して、舌上でゆっくりと溶解させるか、望ましくは口腔内の上顎部にフィルムを貼り付けるようにし、徐々にフィルムを溶解させて、粘質物質を摂取する。
【0056】
粘質物摂取用携帯フィルム(粘質物少なめ)の配合例は、次のとおりである。
ナガイモ遠心分離上清30g、ナガイモ遠心分離残渣乾燥粉末3g、ゼラチン10g、キシリトール5g、蒸留水80mL、グリセリン1mL、ペパーミントオイル1mL。
【0057】
粘質物摂取用携帯フィルム(粘質物多め)の配合例は、次のとおりである。
ナガイモ遠心分離上清50g、ナガイモ遠心分離残渣乾燥粉末3g、ゼラチン10g、キシリトール5g、蒸留水80mL、グリセリン1mL、ペパーミントオイル1mL。
【0058】
(2)即席スープ等の包材
図5は、本発明実施例のフィルム状食材(包材)の使用例の写真である。このように本フィルム状食材をヒートシールにより袋状に成形し、粉末の調味料や乾燥した野菜類を中に入れて再びシールして口を閉じ、即席スープ等の製品とする。利用時は、これを汁椀またはカップに入れ、熱湯を注ぎ溶解させることにより、包材ごとそのまま食することができ、非食品製の包材が不要なスープ等として提供可能である。
【0059】
即席スープ等の包材に適した、温水に溶けやすいフィルムの配合例は、次のとおりである。
ナガイモ遠心分離上清30g、ナガイモ遠心分離残渣乾燥粉末3g、ゼラチン10g、キシリトール5g、蒸留水80mL、グリセリン1mL。
【0060】
また、次のような配合例でもよい。
ナガイモ遠心分離上清30g、ナガイモ遠心分離残渣乾燥粉末3g、ゼラチン10g、蒸留水80mL、グリセリン2mL。
【0061】
(3)喫食時に包材とする形態(その1)
本フィルム状食材をオブラートのように用いて食品を包み、そのまま食する。
(4)喫食時に包材とする形態(その2)
特に難水溶性の本フィルム状食材を使用し、そのままで、または吸水させた後、野菜などを包んで食する。
【0062】
この用途に適した、容易に溶解しないフィルムの配合例は、次のとおりである。
蒸煮ナガイモ蒸煮ナガイモ1.5倍加水物60g、グリセリン1.2mL。
【0063】
(5)調味済みのフィルム状食材
本フィルム状食材を予め所定の味に調味しておき、味付け海苔のように食する。あるいは、魚介類や肉類の調味用フィルムとして用いる。
【0064】
調味フィルムフィルムの配合例は、次のとおりである。
蒸煮ナガイモ1.5倍加水物30g、ナガイモ遠心分離上清30g、粉末味噌1g、グリセリン0.75mL。または、次の配合例でもよい。
蒸煮ナガイモ1.5倍加水物30g、ナガイモ遠心分離上清30g、粉末醤油1g、グリセリン0.75mL。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のフィルム状食材およびその製造方法によれば、ナガイモを含むヤマノイモ属植物に含まれる有用成分を、直接喫食可能な食品形態にて提供できる他、可食性のスープ等包材その他種々の食品形態として提供することができる。したがって、食品製造産業分野および関連産業分野において利用性の高い発明である。
【符号の説明】
【0066】
1…粘性物質含有材料
2…糊料
3…混合物
5…フィルム状食材
P1…混合過程
P2…成形過程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヤマノイモ属植物の可食部を原料とする、フィルム状食材。
【請求項2】
含有される粘性物質に由来する機能性または粘性の少なくともいずれか一方が残存していることを特徴とする、請求項1に記載のフィルム状食材。
【請求項3】
前記ヤマノイモ属植物がナガイモであることを特徴とする、請求項1または2に記載のフィルム状食材。
【請求項4】
ヤマノイモ属植物の可食部から分離された粘性物質含有材料と、糊料とを混合する混合過程と、該混合過程により得られた混合物をフィルム状に成形する成形過程とを備えていることを特徴とする、フィルム状食材製造方法。
【請求項5】
前記混合過程において、前記糊料は、前記粘性物質含有材料中の粘性物質の機能性もしくは粘性の消失を防止できる程度の温度で混合されることを特徴とする、請求項4に記載のフィルム状食材製造方法。
【請求項6】
前記粘性物質含有材料は、前記ヤマノイモ属植物可食部の擂り下ろし物を遠心分離処理して得られる上清であることを特徴とする、請求項4または5に記載のフィルム状食材製造方法。
【請求項7】
前記糊料には、ヤマノイモ属植物を原料とするヤマノイモ属製糊料が用いられることを特徴とする、請求項4ないし6のいずれかに記載のフィルム状食材製造方法。
【請求項8】
前記ヤマノイモ属製糊料は、前記ヤマノイモ属植物可食部の擂り下ろし物を遠心分離処理して得られる残渣を原料とすることを特徴とする、請求項7に記載のフィルム状食材製造方法。
【請求項9】
前記ヤマノイモ属製糊料は、前記ヤマノイモ属植物可食部の蒸煮物を原料とすることを特徴とする、請求項7に記載のフィルム状食材製造方法。
【請求項10】
前記蒸煮物には、製造されるフィルム状食材を吸水させた場合でも容易には溶解しない程度に水溶性減少効果を発現するのに充分な程度にヤマノイモ属植物繊維が含まれていることを特徴とする、請求項9に記載のフィルム状食材製造方法。
【請求項11】
前記ヤマノイモ属植物がナガイモであることを特徴とする、請求項4ないし10のいずれかに記載のフィルム状食材製造方法。
【請求項12】
請求項4ないし11のいずれかに記載のフィルム状食材製造方法を用いて製造される、下記<A>の応用製品。
<A>可食性フィルム状体、他食材用包装材、他食材調味用フィルム状体

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−5402(P2012−5402A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143376(P2010−143376)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(309015019)地方独立行政法人青森県産業技術センター (52)
【Fターム(参考)】