説明

フェノール誘導型シラン化合物、及びその製法

【課題】 有機-無機ハイブリッド材料用途原料、シランカップリング剤に有用と考えられるフェノール性水酸基が脱保護容易な保護基で保護されている新規なフェノール誘導型トリアルコキシシラン化合物、およびその効率的な製造方法を提供すること。
【解決手段】
下記式(1)の新規なフェノール誘導型シラン化合物、および下記式(2)のヒドロシラン化合物を式(3)のフェノール誘導型オレフィン化合物と反応させる該フェノール誘導型シラン化合物の製造方法。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
有機-無機ハイブリッド材料用途原料、シランカップリング剤に有用と考えられるフェノール構造を含有する新規なシラン化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリアルコキシシラン化合物は、有機-無機材料間の界面を繋ぐシランカップリング剤としての用途のほか、シルセスキオキサン化合物の原料としても用いられる。有機-無機ハイブリッド材料は予想外の特性を発揮しうる材料として注目されるが、シルセスキオキサン化合物はそのキーマテリアルの一つと位置付けられている。
【0003】
現在、種々の官能基を有するトリアルコキシシラン化合物がシランカップリング剤として市販されており、これに伴い多様な構造のシルセスキオキサン化合物も合成され、これを利用した材料開発に関する研究も盛んである。
【0004】
一方で、フェノール性水酸基が脱保護容易な保護基で保護されているフェノール誘導型トリアルコキシシラン化合物は、未だ特許で報告されていない新規な化合物である。種々の特性及び用途が期待される構造でありながら現状未報告となっているその理由として、製法上の要求からその保護基には化学的安定性の高いものが通常選択される一方で、実用に際し水酸基の遊離化を図る場合においてそのような保護基の脱保護が困難であることがその要因と推測される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、フェノール性水酸基が脱保護容易な保護基で保護されている新規なフェノール誘導型トリアルコキシシラン化合物を提供することにある。
本発明はまた、フェノール性水酸基を種々の保護基で予め保護したフェノール誘導型オレフィン化合物を、ヒドロシラン化合物でヒドロシリル化させるフェノール誘導型シラン化合物の効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記一般式(1)で表されるフェノール誘導型シラン化合物を提供する。
【0007】
【化1】

(式中、mは1〜5の整数を表し、nは0〜10の整数を表し、kは1または2を表し、Pは炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素基、炭素数1〜10の飽和脂肪族アシル基、ベンゾイル基のベンゼン環に炭素数1〜10の飽和脂肪族置換基が0〜5個結合している芳香族アシル基、または炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素置換基もしくはベンゼン環に炭素数1〜10個の飽和脂肪族置換基が0〜5個結合している芳香族炭化水素基からなる3置換型シリル基を表し、R〜Rは炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素置換基、またはベンゼン環に炭素数1〜10の飽和脂肪族置換基が0〜5個結合している芳香族炭化水素基を表し、RおよびRは水素原子、炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素置換基、またはベンゼン環に炭素数1〜10の飽和脂肪族置換基が0〜5個結合している芳香族炭化水素基を表す。)
【0008】
本発明はまた、下記一般式(2)で表されるヒドロシラン化合物を
【0009】
【化2】

(式中R〜Rは前記と同じである。)
下記一般式(3)で表されるフェノール誘導型オレフィン化合物
【0010】
【化3】

(式中、P、RおよびRは前記と同じであり、R〜Rは水素原子、炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素置換基、またはベンゼン環に炭素数1〜5の飽和脂肪族置換基が0〜5個結合している芳香族炭化水素基を表し、m及びnは前記と同じである。)
と反応させる前記一般式(1)で表されるフェノール誘導型シラン化合物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、フェノール性水酸基が脱保護容易な保護基で保護されている新規なフェノール誘導型トリアルコキシシラン化合物、およびそれを効率的に製造することができる方法が提供される。
本発明により、フェノール性水酸基を適当な条件下で遊離させることが可能なフェノール誘導型シラン化合物を提供することができる。
本発明により、フェノール性水酸基を種々の保護基で予め保護したフェノール誘導型オレフィン化合物を、ヒドロシラン化合物でヒドロシリル化させるフェノール誘導型シラン化合物の効率的な製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、下記一般式(1)で表される新規なフェノール誘導型シラン化合物を提供する。
【0013】
【化4】

【0014】
式(1)中、Pは、炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素基、炭素数1〜10の飽和脂肪族アシル基、ベンゾイル基のベンゼン環に炭素数1〜10の飽和脂肪族置換基が0〜5個結合している芳香族アシル基、または炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素置換基もしくはベンゼン環に炭素数1〜10個の飽和脂肪族置換基が0〜5個結合している芳香族炭化水素基からなる3置換型シリル基を表す。
〜Rは炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素置換基、またはベンゼン環に炭素数1〜10の飽和脂肪族置換基が0〜5個結合している芳香族炭化水素基を表す。
およびRは水素原子、炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素置換基、またはベンゼン環に炭素数1〜10の飽和脂肪族置換基が0〜5個結合している芳香族炭化水素基を表す。mは1〜5の整数を、nは0〜10、好ましくは2〜5の整数を表す。kは、1または2を表す。
【0015】
フェノール誘導型シラン化合物として好ましい具体的化合物として、2−(4−アセトキシフェニル)エチルトリエトキシシラン、3−(2−アセトキシフェニル)プロピルトリエトキシシラン、4−(3−アセトキシフェニル)ブチルトリエトキシシラン、3-(2-トリエチルシロキシフェニル)プロピルトリメトキシシラン、2-(3-トリメチルシロキシフェニル)プロピルトリプロポキシシラン、2−(4−ベンゾイロキシフェニル)プロピルトリフェノキシシランなどを挙げることができる。
【0016】
本発明の上記一般式(1)で表される新規なフェノール誘導型シラン化合物を製造する好ましい方法としては、下記一般式(2)で表されるヒドロシラン化合物を
【0017】
【化5】

(式中R〜Rは前記と同じである。)
下記一般式(3)で表されるフェノール誘導型オレフィン化合物
【0018】
【化6】

(式中、P、RおよびRは前記と同じであり、R〜Rは水素原子、炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素置換基、またはベンゼン環に炭素数1〜5の飽和脂肪族置換基が0〜5個結合している芳香族炭化水素基を表し、m及びnは前記と同じである。)
と反応させる方法を挙げることができる。
【0019】
前記一般式(2)で表されるヒドロシラン化合物としては、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、トリイソプロポキシシラン、トリブトキシシラン、トリフェノキシシランなどを例示することができる。
ヒドロシラン化合物の使用量は、原料オレフィン1モルに対し、0.5〜2モル、好ましくは1〜1.5モルの使用が望ましい。
【0020】
本発明のヒドロシリル化は、遷移金属触媒またはラジカル開始剤の存在下で反応が進行する。遷移金属触媒としては、ニッケル(II)アセチルアセトネート、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロリド、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)、塩化白金(IV)酸等を例示することができる。ラジカル開始剤としては、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)などを例示することができる。触媒の使用量は原料オレフィンの0.001〜50mol%の使用が好ましい。
【0021】
ヒドロシリル化では溶剤を必ずしも必要としないが、例えば、ヘキサン、トルエン、クロロホルム、テトラヒドロフラン等を溶剤として使用することもできる。溶剤の使用量は原料オレフィン及びヒドロシラン化合物の混合物1重量部に対し、0.1〜100重量部の使用が好ましい。
【0022】
前記一般式(3)で表されるフェノール誘導型オレフィン化合物は、フェノール性水酸基の遊離が可能な基により保護された構造のものが使用される。一般式(3)で表されるフェノール誘導型オレフィン化合物においては、Pが保護基に相当する。その保護基としてはフェノール性水酸基の遊離が容易でヒドロシリル化条件に対し安定であることが求められる。保護基Pとして使用可能な基としては、前記一般式(1)で表される化合物に置けるPとして例示されたような基が挙げられる。より具体的には、メチル基、tert−ブチル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、アセチル基、ベンゾイル基、ピバロイル基等が挙げられる。これらの基により保護されたフェノール構造は芳香環1個に対し複数存在してよく、前記一般式(3)中のmが1〜5の整数の範囲内で存在するフェノール誘導型オレフィン化合物が使用できる。
【0023】
オレフィン構造についても、フェノール骨格に対し二重結合が直接結合、又はメチレン基を介して結合したもののいずれも使用可能であり、その二重結合及びメチレン基が脂肪族又は芳香族の炭化水素基で置換されていてもよい。具体的には、4−アセトキシフェニルエテン、4−ベンゾイロキシフェニルエテン、2−アセトキシフェニルプロペン、2−トリメチルシロキシフェニルプロペン、2−トリエチルシロキシフェニルプロペン、2−トリプロピルシロキシフェニルプロペンなどが挙げられる。
【0024】
本発明により、フェノール性水酸基を適当な条件下で遊離させることが可能なフェノール誘導型シラン化合物を提供することができる。本発明が与えるシラン化合物は、新規なシランカップリング剤、及びシルセスキオキサン化合物を与えうるものであり、従来型のシラン化合物の使用では実現困難な特性の発揮のほか、従来用途以外での応用等も期待される。
【実施例】
【0025】
以下に実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
【0026】
(参考例1)3−(2−アセトキシフェニル)プロペンの合成
2−アリルフェノール(東京化成工業(株)製)134.8g(1000mmol)をピリジン(和光純薬工業(株)製)150gに溶解させた後、無水酢酸(関東化学(株)製)105.11g(1010mmol)を10分かけて滴下し、50℃で1時間保持した。冷却後、ヘプタン(和光純薬工業(株)製)100gを加え、これに10%食塩水50gを加えて攪拌し分離する下層成分を除去するこの操作を5回繰り返した。得られるヘプタン層を減圧留去することで、2−アセトキシフェニルプロペン171.8g(収率97.5%)を得た。
【0027】
(実施例1)2−(4−アセトキシフェニル)エチルトリエトキシシランの合成
トリエトキシシラン(東京化成工業(株)製)51.7g(315mmol)とトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロリド(東京化成工業(株)製)0.56g(0.6mmol)の80℃の混合物に4−アセトキシフェニルエテン(東京化成工業(株)製)48.66g(300mmol)を滴下し4時間保持した。冷却後、反応液にヘプタン(和光純薬工業(株)製)180g、N,N-ジメチルホルムアミド(和光純薬工業(株)製)60gを加えて激しく攪拌した。分離した反応液の上層のみを回収し、これにメタノール(和光純薬工業(株)製)5gを加えて攪拌し分離する下層成分を除去するこの操作を3回繰り返した。得られるヘプタン層を減圧留去することで、2−(4−アセトキシフェニル)エチルトリエトキシシラン64.23g(収率65.6%)を得た。
【0028】
得られた2−(4−アセトキシフェニル)エチルトリエトキシシランのH−NMRチャートを図1に、13C−NMRチャートを図2に、質量分析チャートを図3に示した。図1、2より、反応生成物を構成する水素原子及び炭素原子の分子内における数量関係と位置関係が特定され、推定構造と合致した。更に図3では分子イオンに相当する質量数326のピークが検出され、反応生成物が2−(4−アセトキシフェニル)エチルトリエトキシシランであることを示すものである。
【0029】
(実施例2)3−(2−アセトキシフェニル)プロピルトリエトキシシランの合成
トリエトキシシラン(東京化成工業(株)製)51.7g(315mmol)とトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロリド(東京化成工業(株)製)0.56g(0.6mmol)の80℃の混合物に参考例記載の方法により合成した3−(2−アセトキシフェニル)プロペン52.86g(300mmol)を滴下し4時間保持した。冷却後、反応液にヘプタン(和光純薬工業(株)製)180g、N,N-ジメチルホルムアミド(和光純薬工業(株)製)60gを加えて激しく攪拌した。分離した反応液の上層のみを回収し、これにメタノール(和光純薬工業(株)製)5gを加えて攪拌し分離する下層成分を除去するこの操作を3回繰り返した。得られるヘプタン層を減圧留去することで、3−(2−アセトキシフェニル)プロピルトリエトキシシラン66.21g(収率64.8%)を得た。
【0030】
得られた3−(2−アセトキシフェニル)プロピルトリエトキシシランのH−NMRチャートを図4に、13C−NMRチャートを図5に、質量分析チャートを図6に示した。図4,5より、反応生成物を構成する水素原子及び炭素原子の分子内における数量関係と位置関係が特定され、推定構造と合致した。更に図6では分子イオンに相当する質量数340の痕跡ピークのほか、分子イオンより脱エタノール化した質量数294、脱酢酸エチル化した質量数252のフラグメントピークも観測され、反応生成物が3−(2−アセトキシフェニル)プロピルトリエトキシシランであることを裏付けるものである。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明により、フェノール性水酸基が脱保護容易な保護基で保護されている新規なフェノール誘導型トリアルコキシシラン化合物、およびそれを効率的に製造することができる方法が提供される。
本発明によって提供される新規なフェノール誘導型トリアルコキシシラン化合物によって、従来型のシラン化合物の使用では実現困難な特性が発揮されることが期待され、また従来型シラン化合物の用途以外での新たな応用も期待される。
本発明により、フェノール性水酸基を適当な条件下で遊離させることが可能なフェノール誘導型シラン化合物を提供することができる。本発明が与えるシラン化合物は、新規なシランカップリング剤、及びシルセスキオキサン化合物を与えうるものであり、従来型のシラン化合物の使用では実現困難な特性の発揮のほか、従来用途以外での応用等も期待される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例1で得られた2−(4−アセトキシフェニル)エチルトリエトキシシランのH−NMRチャートである。
【図2】実施例1で得られた2−(4−アセトキシフェニル)エチルトリエトキシシランの13C−NMRチャートである。
【図3】実施例1で得られた2−(4−アセトキシフェニル)エチルトリエトキシシランの質量分析チャートである。
【図4】実施例2で得られた3−(2−アセトキシフェニル)プロピルトリエトキシシランのH−NMRチャートである。
【図5】実施例2で得られた3−(2−アセトキシフェニル)プロピルトリエトキシシランの13C−NMRチャートである。
【図6】実施例2で得られた3−(2−アセトキシフェニル)プロピルトリエトキシシランの質量分析チャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるフェノール誘導型シラン化合物。
【化1】

(式中、mは1〜5の整数を表し、nは0〜10の整数を表し、kは1または2を表し、Pは炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素基、炭素数1〜10の飽和脂肪族アシル基、ベンゾイル基のベンゼン環に炭素数1〜10の飽和脂肪族置換基が0〜5個結合している芳香族アシル基、または炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素置換基もしくはベンゼン環に炭素数1〜10個の飽和脂肪族置換基が0〜5個結合している芳香族炭化水素基からなる3置換型シリル基を表し、R〜Rは炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素置換基、またはベンゼン環に炭素数1〜10の飽和脂肪族置換基が0〜5個結合している芳香族炭化水素基を表し、RおよびRは水素原子、炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素置換基、またはベンゼン環に炭素数1〜10の飽和脂肪族置換基が0〜5個結合している芳香族炭化水素基を表す。)
【請求項2】
一般式(2)で表されるヒドロシラン化合物
【化2】

(式中R〜Rは前記と同じである。)
を一般式(3)で表されるフェノール誘導型オレフィン化合物
【化3】

(式中、P、RおよびRは前記と同じであり、R〜Rは水素原子、炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素置換基、またはベンゼン環に炭素数1〜5の飽和脂肪族置換基が0〜5個結合している芳香族炭化水素基を表し、m及びnは前記と同じである。)
と反応させることを特徴とする請求項1に記載のフェノール誘導型シラン化合物の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(2)のヒドロシラン化合物と前記一般式(3)のフェノール誘導型オレフィン化合物との反応を、遷移金属触媒またはラジカル開始剤の存在下で反応させることを特徴とする請求項2に記載のフェノール誘導型シラン化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−231038(P2008−231038A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73953(P2007−73953)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)
【Fターム(参考)】