フェライト粉末の製造方法、フェライト粉末及び磁気記録媒体
【課題】磁気記録媒体に好適な100nm以下の平均粒径のフェライト粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】液相反応法により得られた前駆体を20℃/min以上の昇温速度で750〜1200℃の到達温度まで加熱し、到達温度における保持時間を0〜60secとし、到達温度から300℃までを50℃/min以上の降温速度で冷却して、一次粒子の平均粒径が100nm以下のフェライト粉末を生成する。フェライト粉末が、A元素(ただしAは、Sr、Ba、Ca及びPbのうち少なくとも1種類以上)およびFeを含み、組成式:AZna(1−x)NiaxFebO27において、0≦x≦1.0、1.3≦a≦1.8、14≦b≦17を満足するW型フェライトからなる場合、磁気記録媒体に好適である。
【解決手段】液相反応法により得られた前駆体を20℃/min以上の昇温速度で750〜1200℃の到達温度まで加熱し、到達温度における保持時間を0〜60secとし、到達温度から300℃までを50℃/min以上の降温速度で冷却して、一次粒子の平均粒径が100nm以下のフェライト粉末を生成する。フェライト粉末が、A元素(ただしAは、Sr、Ba、Ca及びPbのうち少なくとも1種類以上)およびFeを含み、組成式:AZna(1−x)NiaxFebO27において、0≦x≦1.0、1.3≦a≦1.8、14≦b≦17を満足するW型フェライトからなる場合、磁気記録媒体に好適である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体に好適なフェライト粉末の製造方法に関し、特に粒径が100nm以下の微細な粒子のフェライト粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、フェライト粉末は、酸化物、水酸化物、炭酸塩等主種の原料となる化合物を所定の組成に混合したものを、大気中あるいは大気圧の雰囲気ガス中で熱処理することによって、原料同士を反応させて合成されていた。その際の熱処理条件は、3〜10℃/min程度の速度で加熱し、1200〜1350℃の温度で1〜3hr程度保持した後、3〜10℃/min程度の速度で冷却する方法で行われてきた。
【0003】
一般に、フェライト化反応に際して1200〜1350℃という高温に加熱する必要があった。しかし、上述した熱処理方法では、高温にさらされている時間が1〜3hrと長いために、フェライト化反応が終了した部分にさらに熱が加わると、反応だけでなく、粒成長まで起こってしまう。共沈法及び有機酸塩法に代表される液相反応法による前駆体は一次粒子が100nm以下、さらには50nm以下と微細であるが、この前駆体を用いても得られるフェライト粉末の一次粒子の大きさは100nmを超えてしまう。このため、得られたフェライト粉末には、磁気特性の低下、分散性の低下などが見られる。
【0004】
微細な粒子を得るために、急速昇温(24℃/min以上)、急速冷却(60℃/min以上)で行う方法が特許文献1に開示されている。特許文献1は、ボンド磁石に用いられる磁石粉末を製造することを目的としており、固相反応法により得られた前駆体を1500〜1650K(1227〜1377℃)に加熱してフェライト化反応を行っている。そして、得られたフェライト磁石粉末の粒径は、最小値で0.7μmである。ところが磁気記録媒体、例えば高記録密度のデータテープ用のフェライト粉末としては、さらに微細に、具体的には平均で100nm以下の粒径であることが好ましい。
【0005】
【特許文献1】特開2001−284112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、磁気記録媒体に好適な100nm以下の平均粒径のフェライト粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
フェライト化反応に際して高温に加熱する必要があるが、フェライト化反応に必要な熱量以上の熱エネルギが与えられると、そのエネルギは粒子間焼結を引起し、粒成長が生じる。そこで、高温に晒される時間を極力短くして、フェライト化反応の後、焼結反応や粒成長が起る前に冷却することによって、微細なフェライト粉末を作製する。
またこの時、反応に用いる原料(前駆体)のサイズが大きい場合には、得られる粒子の大きさも大きくなってしまうために、液相反応法で合成された微細な前駆体を使用する。液相反応法による前駆体は、微細であるとともに、成分が均一であるために、1200℃以下という従来の標準的な加熱温度よりも低温でフェライト化反応を実現することができる。
【0008】
以上の思想に基づく本発明のフェライト粉末の製造方法は、液相反応法により得られた前駆体を20℃/min以上の昇温速度で750〜1200℃の到達温度まで加熱し、到達温度における保持時間を0〜60secとし、到達温度から300℃までを50℃/min以上の降温速度で冷却して、一次粒子の平均粒径が100nm以下のフェライト粉末を生成することを特徴とする。
本発明のフェライト粉末の製造方法において、昇温速度は50℃/min以上であることが好ましい。昇温速度をこの範囲とすることにより、50nm以下の平均粒径を容易に得ることができる。
また、本発明により得られるフェライト粉末を磁気記録媒体に用いる場合には、A元素(ただしAは、Sr、Ba、Ca及びPbのうち少なくとも1種類以上)およびFeを含み、組成式:AZna(1−x)NiaxFebO27において、0≦x≦1.0、1.3≦a≦1.8、14≦b≦17を満足するW型フェライトからフェライト粉末を構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、短時間でフェライト化反応を進行させつつ、急速に冷却することで粒成長を抑制することによって、得られるフェライト粉末の平均粒径を100nm以下と小さくできる。100nm以下という平均粒径の小さいフェライト粉末を用いることで、磁気記録媒体の周波数特性の改善や記録密度の向上が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
<前駆体>
本発明は、液相反応法により得られたフェライト前駆体(以下、単に前駆体と称す)を用いる。
液相反応法としては、上述したように、有機酸塩法と共沈法とがある。
液相反応法の出発原料として、フェライトを構成する金属を含む金属化合物と、この金属化合物とともに加えられる他の化合物とが含まれる。この金属化合物は、有機酸塩法及び共沈法に共通して用いることができる。
フェライトを構成する金属を含む金属化合物には、鉄化合物と他の金属化合物とが含まれる。鉄化合物としては、硝酸第二鉄((Fe(NO3)3)、硫酸第二鉄(Fe2(SO4)3)、塩化第二鉄(FeCl3)などの3価の鉄を有する水溶性の第二鉄塩などを用いることができる。
また、他の金属化合物は、目的とするフェライト組成によって適宜選択される。例えば、M型(マグネトプランバイト型)フェライト粉末を合成する場合、他の金属化合物としては、硝酸ストロンチウム(Sr(NO3)2)、硝酸バリウム(Ba(NO3)2)などの水溶性の金属塩を用いることができる。また、他の金属化合物としては、必要に応じて、さらに希土類金属元素を含む金属塩やCo、Znを含む金属塩を用いることができる。
【0011】
有機酸塩法は、他の化合物として、クエン酸やシュウ酸等の、金属イオンと錯形成能力を有する有機酸を用いることができる。この中では、クエン酸が好適である。
また、共沈法は、他の化合物として、沈殿剤としてのアルカリ性化合物を用いることができる。アルカリ性化合物としては、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)などの水酸化アルカリ、アンモニア(NH3)を用いることができる。この中では、水酸化ナトリウム、アンモニアが好適である。なお、沈殿の過程で、塩化ナトリウム(NaCl)やアンモニウム(NH4Cl)などのナトリウム塩やアンモニウム塩が生成される。
【0012】
液相反応法においては、フェライトを構成する金属を含む複数の金属化合物を水に溶解して混合した水溶液を調製し、さらに他の化合物を添加して混合して、前駆体を調製する。
液相反応法で得られた前駆体を構成する一次粒子の平均粒径は、100nm以下であることが好ましい。熱処理により得られるフェライト粉末の平均粒径を100nm以下とするためである。好ましくは50nm以下、さらに好ましくは30nm以下である。なお、下限値は特に限定されるものでないが、1nm以上が現実的な値である。本発明は、この微細な前駆体の粒成長を抑えつつフェライト化反応を実行ならしめる。前駆体を造粒して熱処理に供することもできる。
なお、粒径とは、六角柱状のフェライト粒子において、六角柱底面の最大径を意味し、平均粒径とはその算術平均を意味する。
【0013】
<熱処理>
液相反応法で得られる前駆体にフェライト化反応を生じさせるための熱処理が施される。この熱処理は、フェライト化反応を瞬時に行い、かつ急速に冷却することで、生成されたフェライト粒子の粒成長を抑制することができる。
前述したように、従来は、フェライト化反応のための熱処理は、3〜10℃/min程度の速度で到達温度まで昇温し、到達温度で1〜3hr程度保持した後、3〜10℃/min程度の速度で冷却する方法で行われてきた。しかし、この方法では、フェライト化反応処理の途中で粒成長が起こってしまうために、液相反応法で得た前駆体を用いても、微細なフェライト粉末を得ることは困難である。上記のような昇温速度、降温速度により得た粉末は、通常10μm以上の粗大粒子になる。
【0014】
一般に、フェライト化反応を進行させるためには、粉体に加える熱エネルギの総量を一定範囲に保つ必要がある。したがって、昇温速度を速くする場合には、到達温度を高くする必要があり、逆に、昇温速度を遅くする場合には、到達温度を低くする必要がある。昇温速度が到達温度に対して速すぎる場合や、昇温速度に対して到達温度が低すぎる場合には、未反応物の残留等が認められる。逆に、昇温速度が到達温度に対して遅すぎる場合や、昇温速度に対して到達温度が高すぎる場合には、粗大粒子の発生が見られる。
【0015】
詳しくは後述する実施例において述べるが、平均粒径が100nm以下のフェライト粉末を得るには少なくとも20℃/min以上の昇温速度が必要である。磁気記録媒体の特性を考慮すると、得られるフェライト粉末の粒径は平均で50nm以下であることが望ましく、そのためには昇温速度を50℃/min以上とする。昇温速度は、焼成炉の能力等から、現実的には1000℃/secとするのが限界であり、本発明の昇温速度の上限は1000℃/secとする。
また、昇温速度が20℃/minの場合、到達温度は800〜900℃の範囲とすることが、得られるフェライト粉末の粒径を平均で100nm以下にするために必要である。同様に、昇温速度が50℃/min以上では到達温度を900℃以上にする必要がある。
到達温度は、昇温速度が50℃/min以上であれば理論的には上限が制限されることはないが、1200℃を超える温度にするとエネルギ効率が劣ることになるので、1200℃以下とすることが好ましい。好ましい到達温度は、900〜1100℃である。
【0016】
冷却速度に関しては、20℃/min以下の速度では、粗大粒子が観察される。
冷却速度が50℃/minでは、一部で粗大粒子の発生が見られるものの、細かい粒子も見られるようになる。ただし、20nm以下の微細な粒子は、あまり見られない。
冷却速度が100℃/minになると、粗大粒子の発生が大幅に減少するのに加えて、20nm以下の細かい粒子も多く見られるようになる。
以上より、本発明における冷却速度としては、50℃/min以上とする。冷却速度は、100℃/min以上とすることが好ましく、1000℃/min以上とすることが更に好ましい。ただし、現実的に達成することのできる冷却速度の限界は1000℃/sec程度であり、本発明における冷却速度の上限はこの値とする。
本発明による冷却速度は、到達温度から300℃までとする。この300℃以下では粒成長のおそれがないためである。
【0017】
従来のフェライト化反応では、到達温度での保持時間を1〜3時間としていた。ところが本発明のフェライト粉末の製造方法では、原則として保持を行わない(保持時間が0)。フェライト化反応が終了した後に、不必要な熱量をフェライト粉末に与えないためである。ただし、本発明において、60sec以下であれば保持を許容する。
【0018】
本発明により得られるフェライト粉末の一次粒子は平均で100nm以下の粒径である。高密度磁気記録媒体用として用いる場合、100nm以上の粒径では高記録密度化に伴う短波長化に対応できないとともに、磁気記録媒体の表面粗度も粗くなりスペーシングロスが大きくなる。フェライト粉末の一次粒子の平均粒径は、好ましくは50nm以下、更に好ましくは30nm以下である。
本発明に適用されるフェライトとしては、六方晶フェライトであるW型フェライト及びマグネトプランバイト(M)型フェライトが掲げられる。W型フェライト粉末を作製する場合、各粒子がW相の単相で構成されていることが好ましい。ただし、磁気特性に影響を与えない範囲で、M相、スピネル相等のW相に対する異相が若干含まれていることを許容する。M型フェライト粉末を作製する場合、各粒子がM相の単相で構成されていることが好ましいが、上述のように異相を含むことを許容する。
【0019】
磁気記録媒体用として考えると、現状の磁気ヘッドで消去・書き込みが可能な保磁力(Hc)の上限は4000Oeであり、3000Oe以下とするのが好ましい。保存安定性を考慮すると、保磁力(Hc)は1000Oe以上が好ましく、1200Oe以上がより好ましい。また、飽和磁化(Ms)は、50emu/g以上であることが好ましい。W型フェライトはこれらの特性を備えることができる。W型フェライトは特に、金属元素として、A元素(ただしAは、Sr、Ba、Ca及びPbのうち少なくとも1種類以上)およびFeを含み、組成式AZna(1−x)NiaxFebO27において、0≦x≦1.0、1.3≦a≦1.8、14≦b≦17を満足するW型フェライトが、本発明にとって好ましい。
M型フェライトは、6000Oe程度の保磁力(Hc)が容易に得られる。この場合には、フェライトの構成元素を他の元素で置換して保磁力(Hc)を4000Oe以下に低減すればよい。
【0020】
磁気記録媒体としては、磁気テープ、磁気カード、磁気ディスク等の公知の形態に対して本発明によるフェライト粉末を適用できる。
例えば、磁気テープは、下層非磁性層および磁性層がベースフィルムの一方の面上にこの順で形成されて、記録再生装置による各種記録データの記録再生が可能に構成されている。
また、ベースフィルムの他方の面上には、テープ走行性を向上させると共にベースフィルムの傷付き(摩耗)や磁気テープの帯電を防止するためのバックコート層が形成されている。なお、構造はこれに限定されず、公知の構造を用いることができる。
【0021】
<磁性層>
磁性層は、磁性塗料を塗布することにより得られる。磁性塗料は、磁性粉末、結合剤を溶剤中に分散させたものであり、必要に応じて、公知の分散剤、潤滑剤、研磨剤、硬化剤、帯電防止剤等が添加される。この磁性粉末として、本発明により得られたフェライト粉末を用いる。
結合剤としては、塩化ビニル系共重合体、ポリウレタン系樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル系樹脂、等の熱硬化性樹脂、放射線硬化性樹脂等、公知のものを用いることができる。
<下層非磁性層>
下地層の材料としては、非磁性粉末及び結合剤を含む材料を用いることができる。なお、必要に応じて分散剤、研磨剤、潤滑剤等を添加してもよい。
非磁性粉末としては、カーボンブラック、α酸化鉄、酸化チタン、炭酸カルシウム、αアルミナ、等の無機質粉末やこれらの混合物を用いることができる。
下地層の結合剤や分散剤、研磨剤、潤滑剤についても、磁性塗料と同様の分散剤、研磨剤、潤滑剤を用いることができる。
<バックコート層>
バックコート層は、公知の構造や組成を用いることができるが、例えば、カーボンブラック、カーボンブラック以外の非磁性無機粉末、および結合剤を含んでバックコート層を形成することができる。
【0022】
<製造方法>
本発明において、磁気記録媒体の製造方法は特に限定されず、公知の磁気記録媒体の製造方法を用いることができる。例えば、材料を混合、混練、分散、希釈することにより塗料を作製し、公知の塗布方法により支持体上に、下層非磁性層、磁性層、バックコート層用の塗料を塗布することで各層を形成できる。必要に応じて、配向、乾燥、カレンダー処理を行なうことができる。塗布後に硬化処理を行ない、所望の形状に切断することにより、または、カートリッジに組み込むことで、磁気記録媒体を製造できる。
【実施例1】
【0023】
硝酸第二鉄(Fe(NO3)3・9H2O)、硝酸ストロンチウム(Sr(NO3)2)、硝酸亜鉛(Zn(NO3)2・6H2O)及び、硝酸ニッケル(Ni(NO3)2・6H2O)をFe:Sr:Zn:Ni=15.0:1.0:0.75:0.75(Sr1.0Zn0.75Ni0.75Fe15.0Ox)の化学組成になるように秤量し、Fe濃度で0.2mol/Lとなるようにイオン交換水に溶解させた。次いでこの溶液に、金属イオンの総molに対してクエン酸が5倍等量となるように、10mol%の濃度のクエン酸水溶液を混合した。この混合溶液を80℃で3時間加熱した後、120℃でゲル化するまで加熱した。得られたゲルを、窒素気流中120℃で脱水を行った後、酸素分圧が制御できる炉を用いて300〜600℃で有機物の分解を行った後粉砕し、前駆体を作製した。前駆体の一次粒子の平均粒径は20nmであった。
【0024】
赤外線イメージ炉(アルバック理工社製MILA−3000)を用いて前駆体に熱処理(フェライト化反応)を施して、W型のフェライト粉末を作製した。この熱処理は、以下のように種々の到達温度及び昇温速度で行った。なお、本実施例では、到達温度に達した後に加熱を即座に停止して、冷却に移行した。つまり、本実施例における保持時間はゼロである。300℃付近まで1000℃/minで冷却し、その後は室温まで60℃/minの速度で冷却した。
得られたフェライト粉末の一次粒子の粒径、飽和磁化(Ms)及び保磁力(Hc)を測定した。なお、フェライト粉末の粒径(図1の粒子サイズ)は、TEM(Transmission Electron Microscope)を用い、100個の粒子について粒径を測定し、その平均を粒子サイズとした。なお、前駆体の一次粒子の平均粒径も同様に測定した。また、飽和磁化(Ms)及び保磁力(Hc)は、VSM(Vibrating Sample Magnetometer)を用いて測定した。
到達温度:700℃、800℃、900℃、1000℃、1100℃、1200℃
昇温速度:10℃/min、20℃/min、50℃/min、100℃/min、
200℃/min
【0025】
以上の測定結果を図1〜図3に示す。
粒子サイズについてみると、昇温速度が速くなると粒子サイズが小さくなる。昇温速度が速いと到達温度に達するまでの時間が短くなり、粒成長を抑制できるためである。逆に、到達温度が高く、かつ昇温速度が遅いと、粒成長が顕著となる。
昇温速度が20℃/minの場合には、到達温度を選択することにより100nm以下の粒子サイズとすることができるが、50nm以下の粒子サイズを得ることが困難である。これに対して、昇温速度が50℃/min以上になると、到達温度に係らず50nm以下の粒子サイズを得ることができる。前駆体の一次粒子の平均粒径が20nm程度であることを考慮すると、50℃/min以上の昇温速度では、粒成長がほとんど生じないといえる。
【0026】
飽和磁化(Ms)についてみると、本実施例で作製された粉末は、概ね50emg/g以上の飽和磁化(Ms)を備えており、磁気記録媒体として使用することができる。より高い飽和磁化(Ms)を得るためには、到達温度を高く、昇温速度を遅くすればよい。加えられる熱エネルギが多くなり、結晶性が向上したためである。
【0027】
保磁力(Hc)についても概ね飽和磁化(Ms)と同様のことが言えるが、保磁力(Hc)には到達温度との関係でピークが存在する。つまり、保磁力(Hc)は到達温度が900〜1100℃の範囲で高い値を示す。
磁気記録媒体として用いる場合には、保磁力(Hc)は1000〜4000Oe、好ましくは1200〜3000Oeであることが要求される。この要求を満足するためには、昇温速度と到達温度を調整する必要がある。例えば、昇温速度が20℃/minの場合には到達温度を800℃以上とし、昇温速度が100℃/minの場合には到達温度を900℃以上にする必要がある。
【実施例2】
【0028】
昇温速度を100℃/min、到達温度を1000℃とし、冷却速度を以下に示すものとした以外は、実施例1と同様にして、フェライト粉末を作製した。
冷却速度:10℃/min、20℃/min、50℃/min、100℃/min、
200℃/min、1000℃/min
作製されたフェライト粉末について、実施例1と同様にして、一次粒子の平均粒径(粒子サイズ)、飽和磁化(Ms)及び保磁力(Hc)を測定した。その結果を図4及び図5に示す。
【0029】
粒子サイズについてみると、冷却速度が速くなると粒子サイズが小さくなっており、冷却速度を速くすることにより冷却過程における粒成長が抑制される。粒子サイズを100nm以下にするには冷却速度を50℃/min以上とし、さらに粒子サイズを50nm以下にするには冷却速度を1000℃/min以上とすべきことがわかった。
【0030】
飽和磁化(Ms)及び保磁力(Hc)は、いずれの条件においても磁気記録媒体としての要求を具備している。
【実施例3】
【0031】
昇温速度を100℃/min、到達温度を1000℃とし、到達温度における保持時間を以下に示すものとした以外は、実施例1と同様にして、フェライト粉末を作製した。
保持時間:0sec、1sec、10sec、30sec、60sec、300sec
作製されたフェライト粉末について、実施例1と同様にして、一次粒子の平均粒径(粒子サイズ)、飽和磁化(Ms)及び保磁力(Hc)を測定した。その結果を図6及び図7に示す。
【0032】
粒子サイズについて見ると、保持時間が長くなると粒子サイズが大きくなる。保持時間を60secとすれば粒子サイズを100nm以下とすることができ、保持時間を30secとすれば粒子サイズを50nm以下とすることができる。より微細なフェライト粉末を得たい場合には、到達温度で保持しないことが好ましい。
【0033】
飽和磁化(Ms)及び保磁力(Hc)は、いずれの条件においても磁気記録媒体としての要求を具備している。
【実施例4】
【0034】
昇温速度を100℃/min、到達温度を1000℃とし、組成式を以下に示すものとした以外は、実施例1と同様にして、フェライト粉末を作製した。
組成式:Sr1.0Zn1.50(Ni0)Fe15.0Ox…Ni置換量:0%
Sr1.0Zn1.125Ni0.375Fe15.0Ox…Ni置換量:25%
Sr1.0Zn0.75Ni0.75Fe15.0Ox…Ni置換量:50%
Sr1.0Zn0.375Ni1.125Fe15.0Ox…Ni置換量:75%
Sr1.0(Zn0)Ni1.125Fe15.0Ox…Ni置換量:100%
作製されたフェライト粉末について、実施例1と同様にして、一次粒子の平均粒径(粒子サイズ)、飽和磁化(Ms)及び保磁力(Hc)を測定した。その結果を図8及び図9に示す。
【0035】
粒子サイズは、Ni置換量により大きな変動はないが、Feの一部をZnのみならずNiで置換したほうが、粒子サイズをより小さくすることができる。これは新規な知見である。
【0036】
次に、飽和磁化(Ms)はNi置換量が多くなると低くなるのに対して、保磁力(Hc)はNi置換量が多くなると高くなる傾向がある。Ni置換量が0〜100%の範囲で、磁気記録媒体に要求される特性を満足するが、保磁力(Hc)を好ましい範囲にするためには、Ni置換量は75%以下とする。
【実施例5】
【0037】
硝酸第二鉄(Fe(NO3)3・9H2O)、硝酸ストロンチウム(Sr(NO3)2)、硝酸亜鉛(Zn(NO3)2・6H2O)及び、硝酸ニッケル(Ni(NO3)2・6H2O)をFe:Sr:Zn:Ni=15.0:1.0:0.75:0.75(Sr1.0Zn0.75Ni0.75Fe15.0Ox)の化学組成になるように秤量し、Fe濃度で0.2mol/Lとなるようにイオン交換水に溶解させた。
次いでこの溶液に、pH=13となるように、3mol%の濃度の水酸化ナトリウム水溶液を混合して、沈殿を作製した。この沈殿を含む溶液を100℃で2時間加熱した後、濾過・水洗し、沈殿を分離した。この沈殿を、大気中120℃で乾燥・粉砕して共沈粉(前駆体)を作製した。
【0038】
以後は、実施例1と同様にして種々の到達温度及び昇温速度で熱処理を行ってフェライト粉末を作製した。
作製されたフェライト粉末について、実施例1と同様にして、一次粒子の平均粒径(粒子サイズ)、飽和磁化(Ms)及び保磁力(Hc)を測定した。その結果を図10〜図12に示す。
到達温度:700℃、800℃、900℃、1000℃、1100℃、1200℃
昇温速度:10℃/min、20℃/min、50℃/min、100℃/min
【0039】
共沈法により得られた前駆体を用いても、有機酸塩法により得られた前駆体を用いた場合(実施例1)と、同様の傾向が見られた。
【実施例6】
【0040】
硝酸第二鉄(Fe(NO3)3・9H2O)、硝酸ストロンチウム(Sr(NO3)2)、硝酸ランタン(La(NO3)3・6H2O)及び、硝酸コバルト(Co(NO3)2・6H2O)をFe:Sr:La:Co=11.7:0.7:0.3:0.3(La0.3Sr0.7Co0.3Fe11.7Ox)の化学組成になるように調整した以外は、実施例1と同様にして、前駆体を作製した。
作製された前駆体について、以下の種々の到達温度及び昇温速度とした以外は、実施例1と同様にして熱処理を行ってM型のフェライト粉末を作製した。
作製されたフェライト粉末について、実施例1と同様にして、一次粒子の平均粒径(粒子サイズ)、飽和磁化(Ms)及び保磁力(Hc)を測定した。その結果を図13〜図15に示す。
到達温度:800℃、900℃、1000℃、1100℃、1200℃
昇温速度:10℃/min、50℃/min、100℃/min、200℃/min
【0041】
M型フェライトについても、W型フェライト(実施例1)と、同様の傾向が見られた。
【実施例7】
【0042】
<磁性層用塗料の調製>
実施例1のフェライト粉末(平均粒径:32nm、昇温速度:50℃/min、到達温度:1000℃(保持時間ゼロ)100重量部、塩化ビニル(日本ゼオン(株)製、MR104):10質量部、ポリエステルウレタン(東洋紡(株)製、UR8700):10重量部、α−Al2O3:6質量部、フタル酸:2質量部、混合溶媒(メチルエチルケトン(MEK)/トルエン/シクロヘキサノン=2/2/6重量比)を加えて固形分濃度80wt%とし2時間混練を行った。混練後のスラリーに、混合溶媒(MEK/トルエン/シクロヘキサノン=2/2/6重量比)を加えて固形分濃度30wt%のスラリーとした後、このスラリーを、ジルコニアビーズを充填した横型ピンミルにて分散処理を行った。その後、混合溶媒(MEK/トルエン/シクロヘキサノン=2/2/6重量比)、ステアリン酸:1質量部、とステアリン酸ブチル:1質量部を加えて固形分濃度10wt%のスラリーとした。このスラリー100質量部にイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製、コロネートL)0.4質量部を加え、磁性層用の最終塗料とした。
【0043】
<下層非磁性層用塗料の調製>
針状α−Fe2O3:85質量部、カーボンブラック:15質量部、電子線硬化型塩化ビニル系樹脂:15質量部、電子線硬化型ポリエステルポリウレタン樹脂:10質量部、α−Al2O3:5質量部、o−フタル酸:2質量部、メチルエチルケトン(MEK):10重量部、トルエン:10重量部、シクロヘキサン:10重量部を加圧ニーダーに投入し、2時間混練を行った。混練後のスラリーに、混合溶媒(MEK/トルエン/シクロヘキサン=2/2/6重量比)を加えて固形分濃度30wt%のスラリーとした後、このスラリーを、ジルコニアビーズを充填した横型ピンミルにて8時間分散処理を行った。その後、混合溶媒(MEK/トルエン/シクロヘキサン=2/2/6重量比)、ステアリン酸:1質量部、とステアリン酸ブチル:1質量部を加えて固形分濃度10wt%のスラリーとして下層非磁性層用の塗料とした。
【0044】
<バックコート層用塗料の調製>
ニトロセルロース:50質量部、ポリエステルポリウレタン樹脂:40質量部、カーボンブラック:85質量部、BaSO4:15質量部、オレイン酸銅:5質量部、銅フタロシアニン:5質量部をボールミルに投入し、24時間分散を行った。その後、混合溶媒(MEK/トルエン/シクロヘキサン=1/1/1重量比)、を加えて固形分濃度10wt%のスラリーとした。続いて、スラリー100質量部にイソシアネート化合物1.1質量部を加え、バックコート塗料とした。
【0045】
<磁気テープの製造>
厚さ6.1μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの表面上に、上記下層非磁性層用塗料を乾燥厚みが1.0μmとなるよう塗布し、乾燥し、カレンダー処理し、最後に電子線照射を行い塗膜の硬化を行って下層非磁性層を形成した。次に、下層非磁性層上に磁性層用塗料を乾燥厚み0.05μmとなるように塗布し、磁場配向処理を行い、乾燥し、カレンダー処理し磁性層を形成した。次いで、ポリエチレンテレフタレートフィルムの裏面上に上記バックコート層用塗料を乾燥厚みが0.6μmとなるように塗布し、乾燥し、カレンダー処理しバックコート層を形成した。このようにして、両面に各層が形成された磁気テープ原反を得た。その後、磁気テープ減反を60℃のオーブンに24時間入れ、熱硬化を行った。その後、1/2インチ(12.65mm)幅に裁断し、磁気テープを得た。
【0046】
<比較例>
実施例1の昇温速度を5℃/min、到達温度を900℃、到達温度での保持時間を1時間とした以外は同様にしてフェライトの粉末を作製した。平均粒径500nmであった。
このフェライト粉末を使用した以外は、上記と同様に、磁気記録媒体を製造した。
【0047】
<電磁変換特性の評価>
ドラムテスタを用いて、MIGヘッドを用いて0.2μmの記録波長で記録し、GMRヘッドを用いて再生して、単周波信号の出力電圧と、1MHz離れたノイズ電圧の比をC/Nとして評価した。比較例aの磁気テープをC/Nを0dBとして比較し、実施例7の磁気テープは、C/Nは3dBと高い電磁変換特性が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1において、昇温速度、到達温度を変化させたときの粒子サイズの測定結果を示すグラフである。
【図2】実施例1において、昇温速度、到達温度を変化させたときの飽和磁化(Ms)の測定結果を示すグラフである。
【図3】実施例1において、昇温速度、到達温度を変化させたときの保磁力(Hc)の測定結果を示すグラフである。
【図4】実施例2において、冷却速度を変化させたときの粒子サイズの測定結果を示すグラフである。
【図5】実施例2において、冷却速度を変化させたときの飽和磁化(Ms)、保磁力(Hc)の測定結果を示すグラフである。
【図6】実施例3において、保持時間を変えたときの粒子サイズの測定結果を示すグラフである。
【図7】実施例3において、保持時間を変えたときの飽和磁化(Ms)、保磁力(Hc)の測定結果を示すグラフである。
【図8】実施例4において、Ni置換量を変えたときの粒子サイズの測定結果を示すグラフである。
【図9】実施例4において、Ni置換量を変えたときの飽和磁化(Ms)、保磁力(Hc)の測定結果を示すグラフである。
【図10】実施例5において、昇温速度、到達温度を変化させたときの粒子サイズの測定結果を示すグラフである。
【図11】実施例5において、昇温速度、到達温度を変化させたときの飽和磁化(Ms)の測定結果を示すグラフである。
【図12】実施例5において、昇温速度、到達温度を変化させたときの保磁力(Hc)の測定結果を示すグラフである。
【図13】実施例6において、昇温速度、到達温度を変化させたときの粒子サイズの測定結果を示すグラフである。
【図14】実施例6において、昇温速度、到達温度を変化させたときの飽和磁化(Ms)の測定結果を示すグラフである。
【図15】実施例6において、昇温速度、到達温度を変化させたときの保磁力(Hc)の測定結果を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体に好適なフェライト粉末の製造方法に関し、特に粒径が100nm以下の微細な粒子のフェライト粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、フェライト粉末は、酸化物、水酸化物、炭酸塩等主種の原料となる化合物を所定の組成に混合したものを、大気中あるいは大気圧の雰囲気ガス中で熱処理することによって、原料同士を反応させて合成されていた。その際の熱処理条件は、3〜10℃/min程度の速度で加熱し、1200〜1350℃の温度で1〜3hr程度保持した後、3〜10℃/min程度の速度で冷却する方法で行われてきた。
【0003】
一般に、フェライト化反応に際して1200〜1350℃という高温に加熱する必要があった。しかし、上述した熱処理方法では、高温にさらされている時間が1〜3hrと長いために、フェライト化反応が終了した部分にさらに熱が加わると、反応だけでなく、粒成長まで起こってしまう。共沈法及び有機酸塩法に代表される液相反応法による前駆体は一次粒子が100nm以下、さらには50nm以下と微細であるが、この前駆体を用いても得られるフェライト粉末の一次粒子の大きさは100nmを超えてしまう。このため、得られたフェライト粉末には、磁気特性の低下、分散性の低下などが見られる。
【0004】
微細な粒子を得るために、急速昇温(24℃/min以上)、急速冷却(60℃/min以上)で行う方法が特許文献1に開示されている。特許文献1は、ボンド磁石に用いられる磁石粉末を製造することを目的としており、固相反応法により得られた前駆体を1500〜1650K(1227〜1377℃)に加熱してフェライト化反応を行っている。そして、得られたフェライト磁石粉末の粒径は、最小値で0.7μmである。ところが磁気記録媒体、例えば高記録密度のデータテープ用のフェライト粉末としては、さらに微細に、具体的には平均で100nm以下の粒径であることが好ましい。
【0005】
【特許文献1】特開2001−284112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、磁気記録媒体に好適な100nm以下の平均粒径のフェライト粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
フェライト化反応に際して高温に加熱する必要があるが、フェライト化反応に必要な熱量以上の熱エネルギが与えられると、そのエネルギは粒子間焼結を引起し、粒成長が生じる。そこで、高温に晒される時間を極力短くして、フェライト化反応の後、焼結反応や粒成長が起る前に冷却することによって、微細なフェライト粉末を作製する。
またこの時、反応に用いる原料(前駆体)のサイズが大きい場合には、得られる粒子の大きさも大きくなってしまうために、液相反応法で合成された微細な前駆体を使用する。液相反応法による前駆体は、微細であるとともに、成分が均一であるために、1200℃以下という従来の標準的な加熱温度よりも低温でフェライト化反応を実現することができる。
【0008】
以上の思想に基づく本発明のフェライト粉末の製造方法は、液相反応法により得られた前駆体を20℃/min以上の昇温速度で750〜1200℃の到達温度まで加熱し、到達温度における保持時間を0〜60secとし、到達温度から300℃までを50℃/min以上の降温速度で冷却して、一次粒子の平均粒径が100nm以下のフェライト粉末を生成することを特徴とする。
本発明のフェライト粉末の製造方法において、昇温速度は50℃/min以上であることが好ましい。昇温速度をこの範囲とすることにより、50nm以下の平均粒径を容易に得ることができる。
また、本発明により得られるフェライト粉末を磁気記録媒体に用いる場合には、A元素(ただしAは、Sr、Ba、Ca及びPbのうち少なくとも1種類以上)およびFeを含み、組成式:AZna(1−x)NiaxFebO27において、0≦x≦1.0、1.3≦a≦1.8、14≦b≦17を満足するW型フェライトからフェライト粉末を構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、短時間でフェライト化反応を進行させつつ、急速に冷却することで粒成長を抑制することによって、得られるフェライト粉末の平均粒径を100nm以下と小さくできる。100nm以下という平均粒径の小さいフェライト粉末を用いることで、磁気記録媒体の周波数特性の改善や記録密度の向上が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
<前駆体>
本発明は、液相反応法により得られたフェライト前駆体(以下、単に前駆体と称す)を用いる。
液相反応法としては、上述したように、有機酸塩法と共沈法とがある。
液相反応法の出発原料として、フェライトを構成する金属を含む金属化合物と、この金属化合物とともに加えられる他の化合物とが含まれる。この金属化合物は、有機酸塩法及び共沈法に共通して用いることができる。
フェライトを構成する金属を含む金属化合物には、鉄化合物と他の金属化合物とが含まれる。鉄化合物としては、硝酸第二鉄((Fe(NO3)3)、硫酸第二鉄(Fe2(SO4)3)、塩化第二鉄(FeCl3)などの3価の鉄を有する水溶性の第二鉄塩などを用いることができる。
また、他の金属化合物は、目的とするフェライト組成によって適宜選択される。例えば、M型(マグネトプランバイト型)フェライト粉末を合成する場合、他の金属化合物としては、硝酸ストロンチウム(Sr(NO3)2)、硝酸バリウム(Ba(NO3)2)などの水溶性の金属塩を用いることができる。また、他の金属化合物としては、必要に応じて、さらに希土類金属元素を含む金属塩やCo、Znを含む金属塩を用いることができる。
【0011】
有機酸塩法は、他の化合物として、クエン酸やシュウ酸等の、金属イオンと錯形成能力を有する有機酸を用いることができる。この中では、クエン酸が好適である。
また、共沈法は、他の化合物として、沈殿剤としてのアルカリ性化合物を用いることができる。アルカリ性化合物としては、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)などの水酸化アルカリ、アンモニア(NH3)を用いることができる。この中では、水酸化ナトリウム、アンモニアが好適である。なお、沈殿の過程で、塩化ナトリウム(NaCl)やアンモニウム(NH4Cl)などのナトリウム塩やアンモニウム塩が生成される。
【0012】
液相反応法においては、フェライトを構成する金属を含む複数の金属化合物を水に溶解して混合した水溶液を調製し、さらに他の化合物を添加して混合して、前駆体を調製する。
液相反応法で得られた前駆体を構成する一次粒子の平均粒径は、100nm以下であることが好ましい。熱処理により得られるフェライト粉末の平均粒径を100nm以下とするためである。好ましくは50nm以下、さらに好ましくは30nm以下である。なお、下限値は特に限定されるものでないが、1nm以上が現実的な値である。本発明は、この微細な前駆体の粒成長を抑えつつフェライト化反応を実行ならしめる。前駆体を造粒して熱処理に供することもできる。
なお、粒径とは、六角柱状のフェライト粒子において、六角柱底面の最大径を意味し、平均粒径とはその算術平均を意味する。
【0013】
<熱処理>
液相反応法で得られる前駆体にフェライト化反応を生じさせるための熱処理が施される。この熱処理は、フェライト化反応を瞬時に行い、かつ急速に冷却することで、生成されたフェライト粒子の粒成長を抑制することができる。
前述したように、従来は、フェライト化反応のための熱処理は、3〜10℃/min程度の速度で到達温度まで昇温し、到達温度で1〜3hr程度保持した後、3〜10℃/min程度の速度で冷却する方法で行われてきた。しかし、この方法では、フェライト化反応処理の途中で粒成長が起こってしまうために、液相反応法で得た前駆体を用いても、微細なフェライト粉末を得ることは困難である。上記のような昇温速度、降温速度により得た粉末は、通常10μm以上の粗大粒子になる。
【0014】
一般に、フェライト化反応を進行させるためには、粉体に加える熱エネルギの総量を一定範囲に保つ必要がある。したがって、昇温速度を速くする場合には、到達温度を高くする必要があり、逆に、昇温速度を遅くする場合には、到達温度を低くする必要がある。昇温速度が到達温度に対して速すぎる場合や、昇温速度に対して到達温度が低すぎる場合には、未反応物の残留等が認められる。逆に、昇温速度が到達温度に対して遅すぎる場合や、昇温速度に対して到達温度が高すぎる場合には、粗大粒子の発生が見られる。
【0015】
詳しくは後述する実施例において述べるが、平均粒径が100nm以下のフェライト粉末を得るには少なくとも20℃/min以上の昇温速度が必要である。磁気記録媒体の特性を考慮すると、得られるフェライト粉末の粒径は平均で50nm以下であることが望ましく、そのためには昇温速度を50℃/min以上とする。昇温速度は、焼成炉の能力等から、現実的には1000℃/secとするのが限界であり、本発明の昇温速度の上限は1000℃/secとする。
また、昇温速度が20℃/minの場合、到達温度は800〜900℃の範囲とすることが、得られるフェライト粉末の粒径を平均で100nm以下にするために必要である。同様に、昇温速度が50℃/min以上では到達温度を900℃以上にする必要がある。
到達温度は、昇温速度が50℃/min以上であれば理論的には上限が制限されることはないが、1200℃を超える温度にするとエネルギ効率が劣ることになるので、1200℃以下とすることが好ましい。好ましい到達温度は、900〜1100℃である。
【0016】
冷却速度に関しては、20℃/min以下の速度では、粗大粒子が観察される。
冷却速度が50℃/minでは、一部で粗大粒子の発生が見られるものの、細かい粒子も見られるようになる。ただし、20nm以下の微細な粒子は、あまり見られない。
冷却速度が100℃/minになると、粗大粒子の発生が大幅に減少するのに加えて、20nm以下の細かい粒子も多く見られるようになる。
以上より、本発明における冷却速度としては、50℃/min以上とする。冷却速度は、100℃/min以上とすることが好ましく、1000℃/min以上とすることが更に好ましい。ただし、現実的に達成することのできる冷却速度の限界は1000℃/sec程度であり、本発明における冷却速度の上限はこの値とする。
本発明による冷却速度は、到達温度から300℃までとする。この300℃以下では粒成長のおそれがないためである。
【0017】
従来のフェライト化反応では、到達温度での保持時間を1〜3時間としていた。ところが本発明のフェライト粉末の製造方法では、原則として保持を行わない(保持時間が0)。フェライト化反応が終了した後に、不必要な熱量をフェライト粉末に与えないためである。ただし、本発明において、60sec以下であれば保持を許容する。
【0018】
本発明により得られるフェライト粉末の一次粒子は平均で100nm以下の粒径である。高密度磁気記録媒体用として用いる場合、100nm以上の粒径では高記録密度化に伴う短波長化に対応できないとともに、磁気記録媒体の表面粗度も粗くなりスペーシングロスが大きくなる。フェライト粉末の一次粒子の平均粒径は、好ましくは50nm以下、更に好ましくは30nm以下である。
本発明に適用されるフェライトとしては、六方晶フェライトであるW型フェライト及びマグネトプランバイト(M)型フェライトが掲げられる。W型フェライト粉末を作製する場合、各粒子がW相の単相で構成されていることが好ましい。ただし、磁気特性に影響を与えない範囲で、M相、スピネル相等のW相に対する異相が若干含まれていることを許容する。M型フェライト粉末を作製する場合、各粒子がM相の単相で構成されていることが好ましいが、上述のように異相を含むことを許容する。
【0019】
磁気記録媒体用として考えると、現状の磁気ヘッドで消去・書き込みが可能な保磁力(Hc)の上限は4000Oeであり、3000Oe以下とするのが好ましい。保存安定性を考慮すると、保磁力(Hc)は1000Oe以上が好ましく、1200Oe以上がより好ましい。また、飽和磁化(Ms)は、50emu/g以上であることが好ましい。W型フェライトはこれらの特性を備えることができる。W型フェライトは特に、金属元素として、A元素(ただしAは、Sr、Ba、Ca及びPbのうち少なくとも1種類以上)およびFeを含み、組成式AZna(1−x)NiaxFebO27において、0≦x≦1.0、1.3≦a≦1.8、14≦b≦17を満足するW型フェライトが、本発明にとって好ましい。
M型フェライトは、6000Oe程度の保磁力(Hc)が容易に得られる。この場合には、フェライトの構成元素を他の元素で置換して保磁力(Hc)を4000Oe以下に低減すればよい。
【0020】
磁気記録媒体としては、磁気テープ、磁気カード、磁気ディスク等の公知の形態に対して本発明によるフェライト粉末を適用できる。
例えば、磁気テープは、下層非磁性層および磁性層がベースフィルムの一方の面上にこの順で形成されて、記録再生装置による各種記録データの記録再生が可能に構成されている。
また、ベースフィルムの他方の面上には、テープ走行性を向上させると共にベースフィルムの傷付き(摩耗)や磁気テープの帯電を防止するためのバックコート層が形成されている。なお、構造はこれに限定されず、公知の構造を用いることができる。
【0021】
<磁性層>
磁性層は、磁性塗料を塗布することにより得られる。磁性塗料は、磁性粉末、結合剤を溶剤中に分散させたものであり、必要に応じて、公知の分散剤、潤滑剤、研磨剤、硬化剤、帯電防止剤等が添加される。この磁性粉末として、本発明により得られたフェライト粉末を用いる。
結合剤としては、塩化ビニル系共重合体、ポリウレタン系樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル系樹脂、等の熱硬化性樹脂、放射線硬化性樹脂等、公知のものを用いることができる。
<下層非磁性層>
下地層の材料としては、非磁性粉末及び結合剤を含む材料を用いることができる。なお、必要に応じて分散剤、研磨剤、潤滑剤等を添加してもよい。
非磁性粉末としては、カーボンブラック、α酸化鉄、酸化チタン、炭酸カルシウム、αアルミナ、等の無機質粉末やこれらの混合物を用いることができる。
下地層の結合剤や分散剤、研磨剤、潤滑剤についても、磁性塗料と同様の分散剤、研磨剤、潤滑剤を用いることができる。
<バックコート層>
バックコート層は、公知の構造や組成を用いることができるが、例えば、カーボンブラック、カーボンブラック以外の非磁性無機粉末、および結合剤を含んでバックコート層を形成することができる。
【0022】
<製造方法>
本発明において、磁気記録媒体の製造方法は特に限定されず、公知の磁気記録媒体の製造方法を用いることができる。例えば、材料を混合、混練、分散、希釈することにより塗料を作製し、公知の塗布方法により支持体上に、下層非磁性層、磁性層、バックコート層用の塗料を塗布することで各層を形成できる。必要に応じて、配向、乾燥、カレンダー処理を行なうことができる。塗布後に硬化処理を行ない、所望の形状に切断することにより、または、カートリッジに組み込むことで、磁気記録媒体を製造できる。
【実施例1】
【0023】
硝酸第二鉄(Fe(NO3)3・9H2O)、硝酸ストロンチウム(Sr(NO3)2)、硝酸亜鉛(Zn(NO3)2・6H2O)及び、硝酸ニッケル(Ni(NO3)2・6H2O)をFe:Sr:Zn:Ni=15.0:1.0:0.75:0.75(Sr1.0Zn0.75Ni0.75Fe15.0Ox)の化学組成になるように秤量し、Fe濃度で0.2mol/Lとなるようにイオン交換水に溶解させた。次いでこの溶液に、金属イオンの総molに対してクエン酸が5倍等量となるように、10mol%の濃度のクエン酸水溶液を混合した。この混合溶液を80℃で3時間加熱した後、120℃でゲル化するまで加熱した。得られたゲルを、窒素気流中120℃で脱水を行った後、酸素分圧が制御できる炉を用いて300〜600℃で有機物の分解を行った後粉砕し、前駆体を作製した。前駆体の一次粒子の平均粒径は20nmであった。
【0024】
赤外線イメージ炉(アルバック理工社製MILA−3000)を用いて前駆体に熱処理(フェライト化反応)を施して、W型のフェライト粉末を作製した。この熱処理は、以下のように種々の到達温度及び昇温速度で行った。なお、本実施例では、到達温度に達した後に加熱を即座に停止して、冷却に移行した。つまり、本実施例における保持時間はゼロである。300℃付近まで1000℃/minで冷却し、その後は室温まで60℃/minの速度で冷却した。
得られたフェライト粉末の一次粒子の粒径、飽和磁化(Ms)及び保磁力(Hc)を測定した。なお、フェライト粉末の粒径(図1の粒子サイズ)は、TEM(Transmission Electron Microscope)を用い、100個の粒子について粒径を測定し、その平均を粒子サイズとした。なお、前駆体の一次粒子の平均粒径も同様に測定した。また、飽和磁化(Ms)及び保磁力(Hc)は、VSM(Vibrating Sample Magnetometer)を用いて測定した。
到達温度:700℃、800℃、900℃、1000℃、1100℃、1200℃
昇温速度:10℃/min、20℃/min、50℃/min、100℃/min、
200℃/min
【0025】
以上の測定結果を図1〜図3に示す。
粒子サイズについてみると、昇温速度が速くなると粒子サイズが小さくなる。昇温速度が速いと到達温度に達するまでの時間が短くなり、粒成長を抑制できるためである。逆に、到達温度が高く、かつ昇温速度が遅いと、粒成長が顕著となる。
昇温速度が20℃/minの場合には、到達温度を選択することにより100nm以下の粒子サイズとすることができるが、50nm以下の粒子サイズを得ることが困難である。これに対して、昇温速度が50℃/min以上になると、到達温度に係らず50nm以下の粒子サイズを得ることができる。前駆体の一次粒子の平均粒径が20nm程度であることを考慮すると、50℃/min以上の昇温速度では、粒成長がほとんど生じないといえる。
【0026】
飽和磁化(Ms)についてみると、本実施例で作製された粉末は、概ね50emg/g以上の飽和磁化(Ms)を備えており、磁気記録媒体として使用することができる。より高い飽和磁化(Ms)を得るためには、到達温度を高く、昇温速度を遅くすればよい。加えられる熱エネルギが多くなり、結晶性が向上したためである。
【0027】
保磁力(Hc)についても概ね飽和磁化(Ms)と同様のことが言えるが、保磁力(Hc)には到達温度との関係でピークが存在する。つまり、保磁力(Hc)は到達温度が900〜1100℃の範囲で高い値を示す。
磁気記録媒体として用いる場合には、保磁力(Hc)は1000〜4000Oe、好ましくは1200〜3000Oeであることが要求される。この要求を満足するためには、昇温速度と到達温度を調整する必要がある。例えば、昇温速度が20℃/minの場合には到達温度を800℃以上とし、昇温速度が100℃/minの場合には到達温度を900℃以上にする必要がある。
【実施例2】
【0028】
昇温速度を100℃/min、到達温度を1000℃とし、冷却速度を以下に示すものとした以外は、実施例1と同様にして、フェライト粉末を作製した。
冷却速度:10℃/min、20℃/min、50℃/min、100℃/min、
200℃/min、1000℃/min
作製されたフェライト粉末について、実施例1と同様にして、一次粒子の平均粒径(粒子サイズ)、飽和磁化(Ms)及び保磁力(Hc)を測定した。その結果を図4及び図5に示す。
【0029】
粒子サイズについてみると、冷却速度が速くなると粒子サイズが小さくなっており、冷却速度を速くすることにより冷却過程における粒成長が抑制される。粒子サイズを100nm以下にするには冷却速度を50℃/min以上とし、さらに粒子サイズを50nm以下にするには冷却速度を1000℃/min以上とすべきことがわかった。
【0030】
飽和磁化(Ms)及び保磁力(Hc)は、いずれの条件においても磁気記録媒体としての要求を具備している。
【実施例3】
【0031】
昇温速度を100℃/min、到達温度を1000℃とし、到達温度における保持時間を以下に示すものとした以外は、実施例1と同様にして、フェライト粉末を作製した。
保持時間:0sec、1sec、10sec、30sec、60sec、300sec
作製されたフェライト粉末について、実施例1と同様にして、一次粒子の平均粒径(粒子サイズ)、飽和磁化(Ms)及び保磁力(Hc)を測定した。その結果を図6及び図7に示す。
【0032】
粒子サイズについて見ると、保持時間が長くなると粒子サイズが大きくなる。保持時間を60secとすれば粒子サイズを100nm以下とすることができ、保持時間を30secとすれば粒子サイズを50nm以下とすることができる。より微細なフェライト粉末を得たい場合には、到達温度で保持しないことが好ましい。
【0033】
飽和磁化(Ms)及び保磁力(Hc)は、いずれの条件においても磁気記録媒体としての要求を具備している。
【実施例4】
【0034】
昇温速度を100℃/min、到達温度を1000℃とし、組成式を以下に示すものとした以外は、実施例1と同様にして、フェライト粉末を作製した。
組成式:Sr1.0Zn1.50(Ni0)Fe15.0Ox…Ni置換量:0%
Sr1.0Zn1.125Ni0.375Fe15.0Ox…Ni置換量:25%
Sr1.0Zn0.75Ni0.75Fe15.0Ox…Ni置換量:50%
Sr1.0Zn0.375Ni1.125Fe15.0Ox…Ni置換量:75%
Sr1.0(Zn0)Ni1.125Fe15.0Ox…Ni置換量:100%
作製されたフェライト粉末について、実施例1と同様にして、一次粒子の平均粒径(粒子サイズ)、飽和磁化(Ms)及び保磁力(Hc)を測定した。その結果を図8及び図9に示す。
【0035】
粒子サイズは、Ni置換量により大きな変動はないが、Feの一部をZnのみならずNiで置換したほうが、粒子サイズをより小さくすることができる。これは新規な知見である。
【0036】
次に、飽和磁化(Ms)はNi置換量が多くなると低くなるのに対して、保磁力(Hc)はNi置換量が多くなると高くなる傾向がある。Ni置換量が0〜100%の範囲で、磁気記録媒体に要求される特性を満足するが、保磁力(Hc)を好ましい範囲にするためには、Ni置換量は75%以下とする。
【実施例5】
【0037】
硝酸第二鉄(Fe(NO3)3・9H2O)、硝酸ストロンチウム(Sr(NO3)2)、硝酸亜鉛(Zn(NO3)2・6H2O)及び、硝酸ニッケル(Ni(NO3)2・6H2O)をFe:Sr:Zn:Ni=15.0:1.0:0.75:0.75(Sr1.0Zn0.75Ni0.75Fe15.0Ox)の化学組成になるように秤量し、Fe濃度で0.2mol/Lとなるようにイオン交換水に溶解させた。
次いでこの溶液に、pH=13となるように、3mol%の濃度の水酸化ナトリウム水溶液を混合して、沈殿を作製した。この沈殿を含む溶液を100℃で2時間加熱した後、濾過・水洗し、沈殿を分離した。この沈殿を、大気中120℃で乾燥・粉砕して共沈粉(前駆体)を作製した。
【0038】
以後は、実施例1と同様にして種々の到達温度及び昇温速度で熱処理を行ってフェライト粉末を作製した。
作製されたフェライト粉末について、実施例1と同様にして、一次粒子の平均粒径(粒子サイズ)、飽和磁化(Ms)及び保磁力(Hc)を測定した。その結果を図10〜図12に示す。
到達温度:700℃、800℃、900℃、1000℃、1100℃、1200℃
昇温速度:10℃/min、20℃/min、50℃/min、100℃/min
【0039】
共沈法により得られた前駆体を用いても、有機酸塩法により得られた前駆体を用いた場合(実施例1)と、同様の傾向が見られた。
【実施例6】
【0040】
硝酸第二鉄(Fe(NO3)3・9H2O)、硝酸ストロンチウム(Sr(NO3)2)、硝酸ランタン(La(NO3)3・6H2O)及び、硝酸コバルト(Co(NO3)2・6H2O)をFe:Sr:La:Co=11.7:0.7:0.3:0.3(La0.3Sr0.7Co0.3Fe11.7Ox)の化学組成になるように調整した以外は、実施例1と同様にして、前駆体を作製した。
作製された前駆体について、以下の種々の到達温度及び昇温速度とした以外は、実施例1と同様にして熱処理を行ってM型のフェライト粉末を作製した。
作製されたフェライト粉末について、実施例1と同様にして、一次粒子の平均粒径(粒子サイズ)、飽和磁化(Ms)及び保磁力(Hc)を測定した。その結果を図13〜図15に示す。
到達温度:800℃、900℃、1000℃、1100℃、1200℃
昇温速度:10℃/min、50℃/min、100℃/min、200℃/min
【0041】
M型フェライトについても、W型フェライト(実施例1)と、同様の傾向が見られた。
【実施例7】
【0042】
<磁性層用塗料の調製>
実施例1のフェライト粉末(平均粒径:32nm、昇温速度:50℃/min、到達温度:1000℃(保持時間ゼロ)100重量部、塩化ビニル(日本ゼオン(株)製、MR104):10質量部、ポリエステルウレタン(東洋紡(株)製、UR8700):10重量部、α−Al2O3:6質量部、フタル酸:2質量部、混合溶媒(メチルエチルケトン(MEK)/トルエン/シクロヘキサノン=2/2/6重量比)を加えて固形分濃度80wt%とし2時間混練を行った。混練後のスラリーに、混合溶媒(MEK/トルエン/シクロヘキサノン=2/2/6重量比)を加えて固形分濃度30wt%のスラリーとした後、このスラリーを、ジルコニアビーズを充填した横型ピンミルにて分散処理を行った。その後、混合溶媒(MEK/トルエン/シクロヘキサノン=2/2/6重量比)、ステアリン酸:1質量部、とステアリン酸ブチル:1質量部を加えて固形分濃度10wt%のスラリーとした。このスラリー100質量部にイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製、コロネートL)0.4質量部を加え、磁性層用の最終塗料とした。
【0043】
<下層非磁性層用塗料の調製>
針状α−Fe2O3:85質量部、カーボンブラック:15質量部、電子線硬化型塩化ビニル系樹脂:15質量部、電子線硬化型ポリエステルポリウレタン樹脂:10質量部、α−Al2O3:5質量部、o−フタル酸:2質量部、メチルエチルケトン(MEK):10重量部、トルエン:10重量部、シクロヘキサン:10重量部を加圧ニーダーに投入し、2時間混練を行った。混練後のスラリーに、混合溶媒(MEK/トルエン/シクロヘキサン=2/2/6重量比)を加えて固形分濃度30wt%のスラリーとした後、このスラリーを、ジルコニアビーズを充填した横型ピンミルにて8時間分散処理を行った。その後、混合溶媒(MEK/トルエン/シクロヘキサン=2/2/6重量比)、ステアリン酸:1質量部、とステアリン酸ブチル:1質量部を加えて固形分濃度10wt%のスラリーとして下層非磁性層用の塗料とした。
【0044】
<バックコート層用塗料の調製>
ニトロセルロース:50質量部、ポリエステルポリウレタン樹脂:40質量部、カーボンブラック:85質量部、BaSO4:15質量部、オレイン酸銅:5質量部、銅フタロシアニン:5質量部をボールミルに投入し、24時間分散を行った。その後、混合溶媒(MEK/トルエン/シクロヘキサン=1/1/1重量比)、を加えて固形分濃度10wt%のスラリーとした。続いて、スラリー100質量部にイソシアネート化合物1.1質量部を加え、バックコート塗料とした。
【0045】
<磁気テープの製造>
厚さ6.1μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの表面上に、上記下層非磁性層用塗料を乾燥厚みが1.0μmとなるよう塗布し、乾燥し、カレンダー処理し、最後に電子線照射を行い塗膜の硬化を行って下層非磁性層を形成した。次に、下層非磁性層上に磁性層用塗料を乾燥厚み0.05μmとなるように塗布し、磁場配向処理を行い、乾燥し、カレンダー処理し磁性層を形成した。次いで、ポリエチレンテレフタレートフィルムの裏面上に上記バックコート層用塗料を乾燥厚みが0.6μmとなるように塗布し、乾燥し、カレンダー処理しバックコート層を形成した。このようにして、両面に各層が形成された磁気テープ原反を得た。その後、磁気テープ減反を60℃のオーブンに24時間入れ、熱硬化を行った。その後、1/2インチ(12.65mm)幅に裁断し、磁気テープを得た。
【0046】
<比較例>
実施例1の昇温速度を5℃/min、到達温度を900℃、到達温度での保持時間を1時間とした以外は同様にしてフェライトの粉末を作製した。平均粒径500nmであった。
このフェライト粉末を使用した以外は、上記と同様に、磁気記録媒体を製造した。
【0047】
<電磁変換特性の評価>
ドラムテスタを用いて、MIGヘッドを用いて0.2μmの記録波長で記録し、GMRヘッドを用いて再生して、単周波信号の出力電圧と、1MHz離れたノイズ電圧の比をC/Nとして評価した。比較例aの磁気テープをC/Nを0dBとして比較し、実施例7の磁気テープは、C/Nは3dBと高い電磁変換特性が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1において、昇温速度、到達温度を変化させたときの粒子サイズの測定結果を示すグラフである。
【図2】実施例1において、昇温速度、到達温度を変化させたときの飽和磁化(Ms)の測定結果を示すグラフである。
【図3】実施例1において、昇温速度、到達温度を変化させたときの保磁力(Hc)の測定結果を示すグラフである。
【図4】実施例2において、冷却速度を変化させたときの粒子サイズの測定結果を示すグラフである。
【図5】実施例2において、冷却速度を変化させたときの飽和磁化(Ms)、保磁力(Hc)の測定結果を示すグラフである。
【図6】実施例3において、保持時間を変えたときの粒子サイズの測定結果を示すグラフである。
【図7】実施例3において、保持時間を変えたときの飽和磁化(Ms)、保磁力(Hc)の測定結果を示すグラフである。
【図8】実施例4において、Ni置換量を変えたときの粒子サイズの測定結果を示すグラフである。
【図9】実施例4において、Ni置換量を変えたときの飽和磁化(Ms)、保磁力(Hc)の測定結果を示すグラフである。
【図10】実施例5において、昇温速度、到達温度を変化させたときの粒子サイズの測定結果を示すグラフである。
【図11】実施例5において、昇温速度、到達温度を変化させたときの飽和磁化(Ms)の測定結果を示すグラフである。
【図12】実施例5において、昇温速度、到達温度を変化させたときの保磁力(Hc)の測定結果を示すグラフである。
【図13】実施例6において、昇温速度、到達温度を変化させたときの粒子サイズの測定結果を示すグラフである。
【図14】実施例6において、昇温速度、到達温度を変化させたときの飽和磁化(Ms)の測定結果を示すグラフである。
【図15】実施例6において、昇温速度、到達温度を変化させたときの保磁力(Hc)の測定結果を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液相反応法により得られた前駆体を20℃/min以上の昇温速度で750〜1200℃の到達温度まで加熱し、
前記到達温度における保持時間を0〜60secとし、
前記到達温度から300℃までを50℃/min以上の降温速度で冷却して、一次粒子の平均粒径が100nm以下のフェライト粉末を生成することを特徴とするフェライト粉末の製造方法。
【請求項2】
前記昇温速度が、50℃/min以上であることを特徴とする請求項1に記載のフェライト粉末の製造方法。
【請求項3】
前記フェライト粉末が、
A元素(ただしAは、Sr、Ba、Ca及びPbのうち少なくとも1種類以上)およびFeを含み、
組成式:AZna(1−x)NiaxFebO27において、
0≦x≦1.0、1.3≦a≦1.8、14≦b≦17を満足するW型フェライトからなることを特徴とする請求項1又は2に記載のフェライト粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とするフェライト粉末。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により製造されたフェライト粉末を用いたことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項1】
液相反応法により得られた前駆体を20℃/min以上の昇温速度で750〜1200℃の到達温度まで加熱し、
前記到達温度における保持時間を0〜60secとし、
前記到達温度から300℃までを50℃/min以上の降温速度で冷却して、一次粒子の平均粒径が100nm以下のフェライト粉末を生成することを特徴とするフェライト粉末の製造方法。
【請求項2】
前記昇温速度が、50℃/min以上であることを特徴とする請求項1に記載のフェライト粉末の製造方法。
【請求項3】
前記フェライト粉末が、
A元素(ただしAは、Sr、Ba、Ca及びPbのうち少なくとも1種類以上)およびFeを含み、
組成式:AZna(1−x)NiaxFebO27において、
0≦x≦1.0、1.3≦a≦1.8、14≦b≦17を満足するW型フェライトからなることを特徴とする請求項1又は2に記載のフェライト粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とするフェライト粉末。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により製造されたフェライト粉末を用いたことを特徴とする磁気記録媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−91227(P2009−91227A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266251(P2007−266251)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
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