説明

フェライト組成物および電子部品

【課題】初透磁率および直流重畳特性が良好であり、かつ初透磁率の温度特性に比較的優れ、しかも低温焼成が可能であるフェライト組成物と、該フェライト組成物を有する電子部品とを、提供すること。
【解決手段】主成分が、酸化鉄をFe換算で46.0〜49.8モル%、酸化銅をCuO換算で5.0〜14.0モル%、酸化亜鉛をZnO換算で8.0〜32.0モル%を含有し、残部が酸化ニッケルで構成されており、主成分100重量%に対して、副成分として、酸化珪素をSiO換算で0.5〜6.0重量%、酸化ホウ素をB換算で0.01〜2.0重量%を含有することを特徴とするフェライト組成物。さらに、副成分として、酸化カリウムをKO換算で0.01〜0.17重量%含有してもよい。また、副成分として、酸化スズをSnO換算で0.3〜2.0重量%含有してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタ素子などの電子部品に好適に使用されるフェライト組成物と、該フェライト組成物が適用されたインダクタ素子などの電子部品とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯機器等の各種電子機器の小型・軽量化が急速に進み、それに対応すべく、各種電子機器の電気回路に用いられる電子部品の小型化・軽量化・高性能化への要求が急速に高まっている。
【0003】
インダクタ素子などの電子部品においては、優れた磁気特性を有するフェライト組成物が磁性体として多く用いられている。
【0004】
このような材料には、高い透磁率を有することに加え、直流電流が印加された場合の透磁率の低下が少ないこと、すなわち、直流重畳特性が良好であることが求められる。
【0005】
たとえば特許文献1では、Ni−Cu−Zn系フェライトにシリコンやシリカを特定量添加することで直流重畳時のインダクタンスを向上させることが記載されている。
【0006】
また、特許文献2では、Ni−Cu−Zn系フェライトにZrOおよびSiOを特定量添加することで、熱衝撃に対する耐性等を向上させることが記載されている。
【0007】
ところで、インダクタ素子などの電子部品が実装された電子機器は様々な環境下で使用されるため、インダクタ素子には、広い温度域において透磁率の変化が少ないこと、すなわち、透磁率の温度特性が良好であることも求められる。
【0008】
また、インダクタ素子を積層インダクタで構成する場合、コイル導体として一般的に用いられるAgの融点よりも低い温度(たとえば900℃程度)で積層インダクタを低温焼成する必要がある。
【0009】
しかしながら、特許文献1では、透磁率の温度特性については何ら考慮されていない。また、原料の微粒子化により、SiOの添加のみで900℃程度での焼成が可能である旨が記載されているが、実際には困難であった。
【0010】
また、特許文献2では、透磁率の温度特性については何ら考慮されていないことに加え、焼成温度が1000℃以上であり低温焼成は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−145781号公報
【特許文献2】特開2005−213092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、初透磁率および直流重畳特性が良好であり、かつ初透磁率の温度特性に比較的優れ、しかも低温焼成が可能であるフェライト組成物と、該フェライト組成物を有する電子部品とを、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係るフェライト組成物は、
主成分が、酸化鉄をFe換算で46.0〜49.8モル%、酸化銅をCuO換算で5.0〜14.0モル%、酸化亜鉛をZnO換算で8.0〜32.0モル%を含有し、残部が酸化ニッケルで構成されており、
前記主成分100重量%に対して、副成分として、酸化珪素をSiO換算で0.5〜6.0重量%、酸化ホウ素をB換算で0.01〜2.0重量%を含有することを特徴とする。
【0014】
主成分を構成する酸化物の含有量を上記の範囲とし、さらに副成分として酸化珪素および酸化ホウ素を上記の範囲で含有させることにより、初透磁率が比較的高く直流重畳特性が良好であり、かつ初透磁率の温度特性に比較的優れ、しかも低温焼成が可能なフェライト組成物が得られる。
【0015】
このような効果が得られる理由としては、酸化珪素および酸化ホウ素を上記の範囲で共存させることで得られる複合的な効果が大きく影響していると考えられる。
【0016】
好ましくは、前記主成分100重量%に対して、副成分として、酸化カリウムをKO換算で0.01〜0.17重量%含有する。
【0017】
好ましくは、前記主成分100重量%に対して、副成分として、酸化スズをSnO換算で0.3〜2.0重量%含有する。
【0018】
これらの副成分をさらに含有することで、上述した効果をさらに高めることができる。
【0019】
好ましくは、前記フェライト組成物を用いた焼結体の結晶粒子の平均結晶粒子径が0.2〜1.3μmである。平均結晶粒子径を上記の範囲に制御することで、上述した効果をさらに高めることができる。
【0020】
本発明に係る電子部品は、上記のいずれかに記載のフェライト組成物を有する電子部品である。
【0021】
本発明に係る電子部品としては、特に制限されないが、インダクタ素子、トランス用コア、フェライトタイルなどが挙げられる。本発明に係るフェライト組成物は低温焼成が可能であるため、本発明に係る電子部品としては積層インダクタやインダクタ部を含む積層複合電子部品等が好適である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1(A)は、本発明の一実施形態に係る積層型インダクタの斜視図であり、図1(B)は、図1(A)におけるIB−IB線に沿って切断した断面図であり、図1(C)は、図1(A)におけるIC−IC線に沿って切断した断面図である。
【図2】図2(A)は、本発明の実施例に係る試料のSEM写真であり、図2(B)は、本発明の比較例に係る試料のSEM写真である。
【図3】図3は、本発明の実施例および比較例に係る試料について、透磁率と、直流重畳電流と、の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0024】
本実施形態に係るフェライト組成物は、Ni−Cu−Zn系フェライトであり、主成分として、酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛および酸化ニッケルを含有している。
【0025】
主成分100モル%中、酸化鉄の含有量は、Fe換算で、46.0〜49.8モル%、好ましくは46.5〜49.0モル%である。酸化鉄の含有量が少なすぎると、初透磁率の温度特性が悪化する傾向にある。多すぎると、初透磁率が低下する傾向にある。
【0026】
主成分100モル%中、酸化銅の含有量は、CuO換算で、5.0〜14.0モル%、好ましくは7.0〜13.0モル%である。酸化銅の含有量が少なすぎると、初透磁率が低下する傾向にある。多すぎると、初透磁率の温度特性が悪化する傾向にある。
【0027】
主成分100モル%中、酸化亜鉛の含有量は、ZnO換算で、8.0〜32.0モル%、好ましくは12.0〜30.0モル%である。酸化亜鉛の含有量が少なすぎると、初透磁率が低下する傾向にある。多すぎると、初透磁率が急激に低下すると共に、初透磁率の温度特性も悪化する傾向にある。
【0028】
主成分の残部は、酸化ニッケルから構成されている。
【0029】
本実施形態に係るフェライト組成物は、上記の主成分に加え、副成分として、酸化珪素および酸化ホウ素を含有している。
【0030】
酸化珪素の含有量は、主成分100重量%に対して、SiO換算で、0.5〜6.0重量%、好ましくは1.0〜4.0重量%、より好ましくは1.0〜3.0重量%である。酸化珪素の含有量が少なすぎると、直流重畳特性が低下する傾向にある。多すぎると、焼結性が劣化する傾向にある。
【0031】
酸化ホウ素の含有量は、主成分100重量%に対して、B換算で、0.01〜2.0重量%、好ましくは0.01〜1.0重量%、より好ましくは0.03〜0.50重量%である。酸化ホウ素の含有量が少なすぎると、焼結性が劣化する傾向にある。多すぎると、異常粒成長が生じ、直流重畳特性が低下する傾向にある。
【0032】
本実施形態に係るフェライト組成物においては、主成分の組成範囲が上記の範囲に制御されていることに加え、副成分として、上記の酸化珪素および酸化ホウ素が含有されている。その結果、初透磁率および直流重畳特性が良好で、かつ初透磁率の温度特性に比較的優れたフェライト組成物を得ることができる。しかも、副成分として、酸化珪素だけではなく酸化ホウ素も含有されていることで、焼結温度を低下させることができ、低温焼成が可能となる。
【0033】
なお、酸化珪素および酸化ホウ素が単独で含有されている場合には上記の効果は十分に得られない。すなわち、上記の効果は、酸化珪素および酸化ホウ素が同時に特定量含有された場合に初めて得られる複合的な効果であると考えられる。
【0034】
本実施形態に係るフェライト組成物は、副成分として、さらに酸化カリウムを含むことが好ましい。酸化カリウムの含有量は、主成分100重量%に対して、KO換算で、好ましくは0.01〜0.17重量%、より好ましくは0.01〜0.07重量%である。酸化カリウムの含有量を上記の範囲内とすることで、直流重畳特性が向上するという効果が得られる。なお、酸化リチウムおよび酸化ナトリウムを含有させても上記の効果は得られない。
【0035】
本実施形態に係るフェライト組成物は、副成分として、さらに酸化スズを含むことが好ましい。酸化スズの含有量は、主成分100重量%に対して、SnO換算で、好ましくは0.3〜2.0重量%である。酸化スズの含有量を上記の範囲内とすることで、直流重畳特性が向上するという効果が得られる。なお、たとえば酸化チタンを含有させても上記の効果は得られない。
【0036】
また、本実施形態に係るフェライト組成物は、酸化カリウムおよび酸化スズの両方を含有してもよい。すなわち、該フェライト組成物は、酸化珪素、酸化ホウ素、酸化カリウムおよび酸化スズを含有してもよい。
【0037】
この場合であっても、酸化カリウムおよび酸化スズの含有量は上記の範囲とすることが好ましい。酸化カリウムは、Ni−Cu−Znフェライトを主成分とする結晶粒子(フェライト粒子)の外側を覆うように存在する傾向にあり、酸化スズは、フェライト粒子内に固溶する傾向にあるため、互いに悪影響を及ぼさないからである。
【0038】
また、本実施形態に係るフェライト組成物には、不可避的不純物元素の酸化物が含まれ得る。
【0039】
具体的には、不可避的不純物元素としては、C、S、Cl、As、Se、Br、Te、Iや、Li、Na、Mg、Al、Ca、Ga、Ge、Sr、Cd、In、Sb、Ba、Pb、Bi等の典型金属元素や、Sc、Ti、V、Cr、Co、Y、Nb、Mo、Pd、Ag、Hf、Ta等の遷移金属元素が挙げられる。また、不可避的不純物元素の酸化物は、フェライト組成物中に0.05重量%以下程度であれば含有されてもよい。
【0040】
本実施形態に係るフェライト組成物は、フェライト粒子と、隣り合う結晶粒子間に存在する結晶粒界とを有している。結晶粒子の平均結晶粒子径は、好ましくは0.2〜1.3μmである。
【0041】
なお、フェライト組成物中に、副成分として酸化カリウムが含まれる場合には、平均結晶粒径は好ましくは0.2〜1.3μmである。
【0042】
また、フェライト組成物中に、副成分として酸化カリウムが含まれない場合には、平均結晶粒子径は好ましくは0.2〜1.1μmである。
【0043】
平均結晶粒子径を上記の範囲とすることで、透磁率および直流重畳特性を良好に保つことができるという効果を有する。
【0044】
平均結晶粒子径は、焼結体(フェライト組成物)の切断面を、たとえばSEM観察して、所定数の結晶粒子の結晶粒子径を測定し、その測定結果を基に算出することができる。なお、各結晶粒子の粒子径は、たとえば、各結晶粒子の面積に相当する円と仮定した円相当径(ヘイウッド径)として求めることができる。また、平均結晶粒子径の測定を行う粒子の数は、通常100個以上とする。
【0045】
次に、本実施形態に係るフェライト組成物の製造方法の一例を説明する。まず、出発原料(主成分の原料および副成分の原料)を準備する。主成分の原料および副成分の原料としては、特に制限されないが、以下のものを用いることが好ましい。
【0046】
主成分の原料としては、酸化鉄(α−Fe )、酸化銅(CuO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニッケル(NiO)、あるいは複合酸化物などを用いることができる。さらに、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物等を用いることができる。焼成により上記した酸化物になるものとしては、たとえば、金属単体、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、有機金属化合物等が挙げられる。
【0047】
副成分の原料としては、酸化物(酸化珪素、酸化ホウ素、酸化スズ)あるいは炭酸塩(炭酸カリウム)を用いることができる。また、酸化物については、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物等を用いることができる。焼成により上記した酸化物になるものとしては、たとえば、金属単体、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、有機金属化合物等が挙げられる。たとえば、酸化珪素の原料としては、シリコーン樹脂、シリコン、有機シランなどを用いてもよい。
【0048】
また、副成分の原料の形態は特に制限されず、粉末であってもよいし、コロイド状原料などの液状原料であってもよい。さらに、副成分の原料は結晶質であってもよいし、非晶質であってもよい。
【0049】
上述した副成分の原料としては、微細な粉末あるいは粒子を用いることが好ましい。微細な粉末を用いることで、副成分の分散状態や焼成後のフェライト組成物における結晶粒子の平均結晶粒子径が制御された微細構造を有するフェライト組成物が得られる。
【0050】
特に、酸化珪素の原料としては、微細な粉末を用いるのが好ましい。具体的には、原料粉末の粒径(原料平均粒子径)は好ましくは0.01〜0.40μmである。
【0051】
また、酸化ホウ素の原料も微細な粉末を用いることが好ましい。具体的には、酸化ホウ素粉末の原料平均粒子径は好ましくは0.01〜0.40μmである。酸化珪素の微細な原料粉末は分散しにくい傾向にあるため、酸化ホウ素の微細な原料粉末を用いることで、酸化珪素の微細粉末の分散性を向上させることができ、上述した複合的効果をより高めることができる。
【0052】
まず、準備した出発原料を、所定の組成比となるように秤量して混合し、原料混合物を得る。混合する方法としては、たとえば、ボールミルを用いて行う湿式混合や、乾式ミキサーを用いて行う乾式混合が挙げられる。なお、平均粒子径が0.1〜3μmの出発原料を用いることが好ましい。
【0053】
次に、原料混合物の仮焼きを行い、仮焼き材料を得る。仮焼きは、原料の熱分解、成分の均質化、フェライトの生成、焼結による超微粉の消失と適度の粒子サイズへの粒成長を起こさせ、原料混合物を後工程に適した形態に変換するために行われる。こうした仮焼きは、好ましくは600〜800℃の温度で、通常1〜3時間程度行う。仮焼きは、大気(空気)中で行ってもよく、大気中よりも酸素分圧が低い雰囲気や純酸素雰囲気で行っても良い。なお、主成分の原料と副成分の原料との混合は、仮焼きの前に行ってもよいし、仮焼き後に行ってもよい。
【0054】
次に、仮焼き材料の粉砕を行い、粉砕材料を得る。粉砕は、仮焼き材料の凝集をくずして適度の焼結性を有する粉体とするために行われる。仮焼き材料が大きい塊を形成しているときには、粗粉砕を行ってからボールミルやアトライターなどを用いて湿式粉砕を行う。湿式粉砕は、仮焼き材料の平均粒径が、好ましくは0.05〜1μm程度となるまで行う。
【0055】
次に、粉砕材料の造粒(顆粒)を行い、造粒物を得る。造粒は、粉砕材料を適度な大きさの凝集粒子とし、成形に適した形態に変換するために行われる。こうした造粒法としては、たとえば、加圧造粒法やスプレードライ法などが挙げられる。スプレードライ法は、粉砕材料に、ポリビニルアルコールなどの通常用いられる結合剤を加えた後、スプレードライヤー中で霧化し、低温乾燥する方法である。
【0056】
次に、造粒物を所定形状に成形し、成形体を得る。造粒物の成形としては、たとえば、乾式成形、湿式成形、押出成形などが挙げられる。乾式成形法は、造粒物を、金型に充填して圧縮加圧(プレス)することにより行う成形法である。成形体の形状は、特に限定されず、用途に応じて適宜決定すればよいが、本実施形態ではトロイダル型形状とされる。
【0057】
次に、成形体の本焼成を行い、焼結体(本実施形態のフェライト組成物)を得る。本焼成は、多くの空隙を含んでいる成形体の粉体粒子間に、融点以下の温度で粉体が凝着する焼結を起こさせ、緻密な焼結体を得るために行われる。こうした本焼成は、好ましくは840〜940℃の温度で、通常2〜5時間程度行う。本焼成は、大気(空気)中で行ってもよく、大気中よりも酸素分圧が低い雰囲気で行っても良い。本実施形態のフェライト組成物は上述した組成を有しているため、このような低温焼成が可能となる。
【0058】
このような工程を経て、本実施形態に係るフェライト組成物は製造される。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0060】
たとえば、上述した実施形態では、フェライト組成物をトロイダル型形状としているが、フェライト組成物を、図1(A)に示すような、たとえば積層インダクタ等の積層型電子部品に適用してもよい。
【0061】
この場合には、まず、公知のシート法あるいは印刷法等を用いて、上述したフェライト組成物を含むグリーンシートを形成し、その上に、コイル導体を所定のパターンで形成する。続いて、コイル導体パターンが形成されたグリーンシートを複数積層した後に、スルーホールを介して各コイル導体パターン7を接合することで、図1(B)および(C)に示すように、コイル導体5が3次元的かつ螺旋状に形成されたグリーンの積層体4が得られる。この積層体4を焼成することで、素子2が得られ、端子電極3を形成して図1(A)に示す積層型インダクタ1が得られる。
【0062】
上述したフェライト組成物は950℃以下での低温焼成が可能であるため、コイル導体としてAgを用いることができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0064】
(実験例1)
まず、主成分の原料として、Fe粉末、NiO粉末、CuO粉末、ZnO粉末を準備した。副成分の原料として、SiO粉末およびB粉末を準備した。なお、試料番号33のSiO粉末の原料平均粒子径は0.42μmであり、それ以外の試料番号のSiO粉末の原料平均粒子径は0.025μmであった。
【0065】
次に、準備した主成分および副成分の原料を表1および2に示す組成になるように秤量した後、ボールミルで16時間湿式混合して原料混合物を得た。
【0066】
次に、得られた原料混合物を、空気中において750℃で4時間仮焼して仮焼き材料とした後、ボールミルで16時間湿式粉砕して粉砕材料を得た。
【0067】
次に、この粉砕材料を乾燥した後、該粉砕材料100重量%に、バインダーとしてのポリビニルアルコールを1.0重量%添加して、スプレードライヤーを用いて造粒し、顆粒とした。この顆粒を加圧成形して、成形密度が3.20Mg/mとされたトロイダル形状(寸法=外径13mm×内径6mm×高さ3mm)の成形体を得た。
【0068】
次に、これら各成形体を、空気中において、900℃で2時間焼成して、焼結体としてのトロイダルコアサンプルを得た。なお、試料番号25については、970℃で焼成した。得られたサンプルについて、以下の特性評価を行った。
【0069】
(平均結晶粒子径)
サンプルを切断し、その切断面の100μm以上の領域を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、SEM写真を撮影した。
【0070】
このSEM写真をソフトウェアにより画像処理を行い、結晶粒子の境界を判別し、各結晶粒子の面積を算出した。そして、算出された結晶粒子の面積を円相当径に換算して粒子径を算出した。得られた結晶粒子径の平均値を平均結晶粒子径とした。なお、結晶粒子径の算出は、100個の結晶粒子について行った。実験例1では、平均結晶粒子径は0.2〜1.1μmであることが好ましい。結果を表1および2に示す。また、試料番号4についてのSEM写真を図2(A)、試料番号25についてのSEM写真を図2(B)に示す。
【0071】
(初透磁率(μi))
得られたトロイダルコアサンプルに、銅線ワイヤを20ターン巻きつけ、インピーダンスアナライザ(ヒューレットパッカード 4284A)を使用して、初透磁率μiを測定した。測定条件としては、測定周波数100kHz、測定温度25℃とした。μiは50以上を良好とした。結果を表1および2に示す。
【0072】
(直流重畳特性)
得られたトロイダルコアサンプルに、銅線ワイヤを20ターン巻きつけ、インピーダンスアナライザ(ヒューレットパッカード 4284A)を使用して、直流電流Idc(直流重畳電流)を印加した場合における初透磁率μiの変化を測定した。そして、直流重畳電流を印加していない場合(Idc=0)の初透磁率μiの値から10%低下したときの直流電流値をIdc10%offとして算出した。測定条件としては、測定周波数100kHz、測定温度25℃とした。Idc10%offは580mA以上を良好とした。結果を表1および2に示す。また、試料番号4および25について、初透磁率μと直流重畳電流Idcとの関係を示すグラフを図3に示す。
【0073】
(μi×(Idc)
上記で得られた初透磁率(μi)および直流重畳電流(Idc)からμi×(Idc)を算出した。一般にμiが低い場合、Idc特性は良好になり、μiが高くなると、Idc特性は低下する傾向がある。よって、μiが異なる場合にIdc特性の良し悪しを比較することは難しい。そこで、上記のパラメータを導入することで、μiが異なる場合でも特性を評価することができ、μiとIdcとが両立できるか否かについて評価することができる。本実施例では、43以上を良好とした。結果を表1および2に示す。
【0074】
(温度特性)
得られたトロイダルコアサンプルに、銅線ワイヤを20ターン巻きつけ、インピーダンスアナライザ(ヒューレットパッカード 4284A)を使用して、−25℃および85℃における透磁率μを測定した。そして、基準温度25℃における透磁率(初期透磁率μi)に対する変化率を算出した。測定条件としては、測定周波数100kHz、測定温度25℃とした。本実施例では、変化率が−4.0%以上、8.0%以下を良好とした。結果を表1および2に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
表1より、主成分の組成範囲が本発明の範囲内であり、かつ副成分である酸化珪素および酸化ホウ素の含有量が本発明の範囲内である場合(試料番号1〜12)、初透磁率および直流重畳特性が良好であり、かつ初透磁率の温度特性に優れていることが確認できた。しかも、試料番号1〜12は全て900℃で焼成されており、低温焼成が可能であることも確認された。
【0078】
これに対し、表2より、副成分として酸化珪素または酸化ホウ素の一方が含有されていない場合(試料番号21および22)、あるいは酸化珪素または酸化ホウ素の含有量の一方が本発明の範囲外となっている場合(試料番号24、26および32)には、初透磁率μiや温度特性が悪化する傾向が確認された。
【0079】
なお、副成分として、酸化珪素および酸化ホウ素が含有されず、酸化ビスマスが含有されている場合(試料番号34)には、初透磁率および温度特性が悪化していることが確認できた。
【0080】
また、表2より、主成分を構成する成分の含有量が本発明の範囲外となる場合(試料番号23および27〜31)には、少なくとも初透磁率μiが悪化する傾向が確認された。
【0081】
また、平均結晶粒子径が本発明の好ましい範囲外である場合(試料番号25)には、温度特性が若干悪化する傾向にあることが確認された。さらに、試料番号4と試料番号25とを比較すると、組成は同一であるものの、試料番号25の焼成温度(970℃)は高くなっている。この場合、図2(A)および(B)から明らかなように、試料番号25の平均結晶粒子径はかなり大きくなっている。その結果、図3から明らかなように、直流重畳電流Idcの印加に対し、透磁率がより小さくなる傾向にあることが確認できた。したがって、本発明に係るフェライト組成物は、組成を特定の範囲とすることに加え、所定の微細構造とすることにより本発明の効果をより高めることができることが確認できた。
【0082】
さらに、表2より、原料平均粒子径の大きなSiO粉末を用いた場合(試料番号33)には、平均結晶粒子径が大きくなりすぎており、微細な原料を用いることが好ましいことが確認できた。
【0083】
(実験例2)
副成分として表3に示す化合物を用い、その含有量を表3に示す量とした以外は、実験例1と同様にして、トロイダルコアサンプルを作製し、実験例1と同様の特性評価を行った。結果を表3に示す。
【0084】
なお、試料番号54は、副成分の原料として、主成分100重量%に対する副成分の含有量が表3に示す値となるガラス組成物を用いた。具体的には、SiOを80重量%、Bを17重量%、KOを2.1重量%含有するガラス組成物を、主成分100重量%に対して、2.5重量%添加した。また、KOを含む試料の平均結晶粒子径は0.2〜1.3μmであることが好ましい。
【0085】
【表3】

【0086】
表3より、副成分として、酸化珪素および酸化ホウ素が含有され、さらに、酸化カリウムあるいは酸化スズの含有量が本発明の好ましい範囲内である場合(試料番号44〜49)には、初期透磁率、直流重畳特性および温度特性を向上できることが確認できた。
【0087】
なお、酸化カリウムおよび酸化スズの両方が含有される場合(試料番号50〜52)であっても、それぞれの含有量を、本発明の好ましい範囲内とすることで、初期透磁率、直流重畳特性および温度特性を向上できることが確認できた。
【0088】
また、副成分の原料として、ガラス組成物を用いた場合(試料番号54)であっても、本発明の効果が得られることが確認できた。
【0089】
これに対し、酸化カリウムあるいは酸化スズが含有されていても、酸化ホウ素が含有されていない場合(試料番号43および53)には、本発明の効果が得られないことが確認できた。また、酸化リチウムや酸化ナトリウムを用いた場合(試料番号41および42)にも、本発明の効果が得られないことが確認できた。
【符号の説明】
【0090】
1… 積層型インダクタ
2… 素子
3… 端子電極
4… 積層体
5… コイル導体
5a、5b… 引出部
7… 導体パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分が、酸化鉄をFe換算で46.0〜49.8モル%、酸化銅をCuO換算で5.0〜14.0モル%、酸化亜鉛をZnO換算で8.0〜32.0モル%を含有し、残部が酸化ニッケルで構成されており、
前記主成分100重量%に対して、副成分として、酸化珪素をSiO換算で0.5〜6.0重量%、酸化ホウ素をB換算で0.01〜2.0重量%を含有することを特徴とするフェライト組成物。
【請求項2】
前記主成分100重量%に対して、副成分として、酸化カリウムをKO換算で0.01〜0.17重量%含有する請求項1に記載のフェライト組成物。
【請求項3】
前記主成分100重量%に対して、副成分として、酸化スズをSnO換算で0.3〜2.0重量%含有する請求項1または2に記載のフェライト組成物。
【請求項4】
前記フェライト組成物に含有される結晶粒子の平均結晶粒子径が0.2〜1.3μmである請求項1〜3のいずれかに記載のフェライト組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のフェライト組成物を有する電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−213578(P2011−213578A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20030(P2011−20030)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】