説明

フェライト電極及びその製造方法

【課題】十分に高い密度と十分に低い抵抗率とを兼ね備えたフェライト電極を提供すること。
【解決手段】ニッケルフェライトと酸化ニッケルとを含有する焼結体からなり、焼結体は、ニッケルフェライトを含むフェライト相と、酸化ニッケルを含む酸化ニッケル相とを有しており、Ni元素に対するFe元素のモル比が2を超え且つ3未満であるフェライト電極10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト電極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気分解や電池などの電極には、用途や求められる特性に応じて様々な電極材料が用いられている。代表的な電極としては、炭素電極、金属電極、酸化物電極などが挙げられる。このうち、酸化物電極は、塩素発生反応、酸素発生反応、水素発生反応、酸素の還元反応等、各種の電気分解に用いられている。
【0003】
酸化物電極の一種であるフェライト電極は、スピネル結晶構造を有するフェライトで構成されており、炭素電極や金属電極よりも、導電性が低いものの耐食性が高い。各種フェライトのうち、最も電解消耗速度が小さく、且つ抗折強度が大きいものとして、酸化鉄と酸化ニッケルの固溶酸化物であるニッケルフェライトが知られている(特許文献1参照)。ニッケルフェライトからなるフェライト電極は、比較的優れた耐食性を有するため、例えば、高電圧電解に使用したり、有機物を含有するスラッジを含んだ電解液中で使用したりすることもできる。
【0004】
上記特許文献1では、FeとNiOとを、Fe:NiO=95:5〜60:40のモル比率で配合し、成形体を作製した後、焼成することによって、フェライト電極を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭51−35394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1のように、導電性を確保するためにNiOに対するFeの比率を高くすると、焼結体の密度が低下するため、フェライト電極の強度が低下してしまうことが懸念される。
【0007】
一方、特許文献1よりもFeに対するNiOの比率を高くすると、ニッケルフェライトの組成がNiFeに近づくため、電気抵抗が大きくなってしまう。このように、ニッケルフェライトからなるフェライト電極の場合、密度と抵抗率とはトレードオフの関係にあると考えられていた。このため、ニッケルフェライトが本来有する高い耐食性を維持しつつ、密度と抵抗率の両方の特性を満足するフェライト電極が求められていた。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、十分に高い密度と十分に低い抵抗率とを兼ね備えたフェライト電極を提供することを目的とする。また、十分に高い密度と十分に低い抵抗率とを兼ね備えたフェライト電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ニッケルフェライトと酸化ニッケルとを含有する焼結体からなるフェライト電極を提供する。このようなフェライト電極は、従来よりも、焼結体全体におけるNi元素の割合を高くすることによって得られるものであることから、優れた耐食性を維持しつつ密度を大きくすることができる。また、酸化ニッケルとともにニッケルフェライトを含有する構造を有する焼結体は、酸化ニッケルを含有することに伴って、ニッケルフェライトにおけるNi元素に対するFe元素のモル比が高くなっていると考えられる。このために、抵抗率を低くすることができると考えられる。
【0010】
また、本発明のフェライト電極は、焼結体におけるNi元素に対するFe元素のモル比が、2を超え且つ3未満であることが好ましい。このようなフェライト電極は、従来よりも、上記モル比が低い焼結体からなるものであるため、優れた耐食性を維持しつつ、密度も一層高くすることができる。また、このフェライト電極は、ニッケルフェライトとともに酸化ニッケルを含有する焼結体からなるものであることから、Ni元素に対するFe元素のモル比が同一で単一相(ニッケルフェライトのみ)からなる焼結体に比べて、ニッケルフェライトにおけるNi元素に対するFe元素のモル比が高くなっている。これが抵抗率の低減に寄与すると考えられる。
【0011】
本発明において、焼結体は、ニッケルフェライトを含むフェライト相と、酸化ニッケルを含む酸化ニッケル相とを有しており、焼結体における酸化ニッケル相の含有率が0.5〜12.0体積%であることが好ましい。このような割合でフェライト相と酸化ニッケル相とを含有することによって、密度を高く維持しつつ抵抗率を一層低減することができる。
【0012】
また、本発明は、酸化鉄及び酸化ニッケルを、それぞれFe及びNiOに換算して、NiOに対するFeのモル比が1を超え且つ1.5未満となる比率で含有する混合粉末を仮焼して粉砕し、原料粉を得る仮焼工程と、原料粉を成形して成形体を得る成形工程と、成形体を、酸素ガス濃度が5体積%以下の雰囲気下で焼成してニッケルフェライトと、酸化ニッケルと、を含有する焼結体を得る焼成工程と、を有する、焼結体からなるフェライト電極の製造方法を提供する。
【0013】
上述の製造方法によって得られるフェライト電極は、仮焼工程で、NiOに対するFeのモル比が従来よりも低い混合粉末を用いて、成形体を作製し、当該成形体を酸素濃度が低い雰囲気下で焼成することによって得られる焼結体からなる。このような条件で得られる焼結体は、ニッケルフェライトを主成分として含む相(ニッケルフェライト相)とその中に分散された酸化ニッケルからなる相(酸化ニッケル相)とを含む2相構造を有している。このように、焼結体中に酸化ニッケル相が存在していることから、原料である混合粉末としてNiOに対するFeのモル比が従来よりも低い混合粉末を用いた場合であっても、ニッケルフェライト相におけるニッケル元素に対する鉄元素のモル比(以下、「Fe/Ni比」という。)が大きくなり、抵抗率を十分に低減することができる。また、混合粉末におけるNiOの比率が高いことから、フェライト電極の密度を高くすることができる。
【0014】
上述のフェライト電極の製造方法における焼成工程では、成形体を1330〜1400℃で焼成して焼結体を調製することが好ましい。これによって、酸化ニッケル相の析出が促進されて、ニッケルフェライト相におけるFe/Ni比が一層大きくなり、一層抵抗率が低減されたフェライト電極を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、十分に高い密度と十分に低い抵抗率とを兼ね備えたフェライト電極を提供することができる。また、十分に高い密度と十分に低い抵抗率とを兼ね備えたフェライト電極の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のフェライト電極の好適な一実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明のフェライト電極の好適な一実施形態における断面を1000倍に拡大して示す反射電子線像(BEI)の写真である。
【図3】実施例2のフェライト電極における断面を1000倍に拡大して示す反射電子線像(BEI)の写真である。
【図4】実施例3のフェライト電極における断面を1000倍に拡大して示す反射電子線像(BEI)の写真である。
【図5】実施例4のフェライト電極における断面を1000倍に拡大して示す反射電子線像(BEI)の写真である。
【図6】実施例5のフェライト電極における断面を1000倍に拡大して示す反射電子線像(BEI)の写真である。
【図7】実施例6のフェライト電極における断面を1000倍に拡大して示す反射電子線像(BEI)の写真である。
【図8】比較例2のフェライト電極における断面を1000倍に拡大して示す反射電子線像(BEI)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。図1は、本実施形態のフェライト電極の斜視図である。フェライト電極10は、円柱形状を有する焼結体からなる。
【0018】
フェライト電極は主成分としてニッケルフェライトを含有し、副成分として酸化ニッケルを含有する。図2は、フェライト電極10の断面を、1000倍に拡大して示す反射電子線像(BEI)の写真である。本実施形態のフェライト電極は、ニッケルフェライトを含むフェライト相20と、フェライト相20中に分散された、スピネル相とは異なる相(異相)である酸化ニッケル相30とを有する。この酸化ニッケル相30は、酸化ニッケルを含有する。また、フェライト電極10は焼結体であることから、フェライト相20の内部、酸化ニッケル相30の内部、及び/又は各相の境界部分に、少量の空孔40を有する。
【0019】
フェライト電極10におけるフェライト相20の含有率は、好ましくは88.0〜99.5体積%であり、より好ましくは92.0〜99.2体積%である。フェライト相20の含有率が大きくなり過ぎると、優れた耐食性が損なわれる傾向にあり、フェライト相20の含有率が小さくなり過ぎると、導電性が大きくなる傾向にある。
【0020】
フェライト電極10における酸化ニッケル相30の含有率は、好ましくは0.5〜12.0体積%であり、より好ましくは0.8〜8.0体積%である。酸化ニッケル相30の含有率が小さくなり過ぎると、導電性が損なわれる傾向、及び優れた耐食性が損なわれる傾向にある。フェライト電極10におけるフェライト相20及び酸化ニッケル相30の含有率は、図2に示す写真において、フェライト相20と酸化ニッケル相30との面積から算出することができる。
【0021】
本実施形態のフェライト電極10におけるニッケルフェライト及び酸化ニッケルは、X線回折分析において、同じ位置(2θ)にピークを有するため、X線回折分析による定量は困難である。そこで、上述のように反射電子線像から、各相の含有率を求めることが好ましい。
【0022】
フェライト電極10を構成する焼結体の相対密度は、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上である。焼結体の相対密度が99%以上であれば、一層優れた強度を有するフェライト電極10とすることができる。
【0023】
焼結体に含まれるNi元素のモル数に対するFe元素のモル数の比は、好ましくは2〜3、より好ましくは2.2〜2.8である。上記比が2.2〜2.8である焼結体からなるフェライト電極10は、十分に高い密度及び十分に低い抵抗率を有するとともに、十分に優れた耐食性も有する。焼結体におけるNi元素は、フェライト相20と酸化ニッケル相30の両方に含まれており、Fe元素はフェライト相20に含まれている。焼結体に含まれるNi元素のモル数に対するFe元素のモル数の比は、蛍光X線分析によって求めることができる。
【0024】
焼結体における酸化ニッケル相30のサイズは、その直径が好ましくは0.5〜50μm、より好ましくは1〜30μmである。酸化ニッケル相30の直径は、1000倍に拡大した反射電子線画像において、通常多角形状を有する酸化ニッケル相30を内部に含む最小の円の直径として求めることができる。
【0025】
フェライト相20に含まれるニッケルフェライト、及び酸化ニッケル相30に含まれる酸化ニッケルのそれぞれの組成は、例えば下記式(1)及び(2)で表わすことができる。
NiFe4±δ (1)
NiO (2)
【0026】
上記式(1)中、xは好ましくは0.8〜0.98、より好ましくは0.85〜0.95であり、yは好ましく2.05〜2.3、より好ましくは2.05〜2.25であり、δは好ましくは0〜0.5、より好ましくは0.1〜0.3である。つまり、本実施形態のフェライト電極10に含まれるニッケルフェライトは、通常の量論組成(NiFe)に比べて、Fe/Ni比が大きくなっている。これによって、抵抗率を十分に低くすることができる。Fe/Ni比は、焼結体における酸化ニッケル相30の含有量を変えることによって、調整することができる。上記式(2)中、zは、好ましくは0.8〜3である。
【0027】
上記式(1)における、Fe/Ni比(=y/x)は、好ましくは2.09〜2.9であり、より好ましくは2.3〜2.6である。これによって、低い抵抗率と高密度とを、一層高水準で両立することができる。
【0028】
本実施形態のフェライト電極10は、主成分として導電性に寄与するフェライト相20と、副成分として高密度化及び耐食性に寄与する酸化ニッケル相30とを有する焼結体からなる。このような2相構造を有する焼結体は、酸化鉄(Fe)と酸化ニッケル(NiO)の合計に対する酸化鉄の比率が従来よりも小さい原料を、低酸素雰囲気下で焼成することによって得ることができる。
【0029】
次に、本発明のフェライト電極の製造方法の好適な実施形態について説明する。本実施形態のフェライト電極の製造方法は、酸化鉄(Fe)と酸化ニッケル(NiO)とを、所定の比率で含有する混合粉末を調製する混合工程と、該混合粉末を仮焼して仮焼体を得る仮焼工程と、仮焼体を粉砕して原料粉を得る粉砕工程と、原料粉を成形して成形体を得る成形工程と、成形体を酸素ガス濃度が5体積%以下の雰囲気下で焼成してスピネル相を有するニッケルフェライトと、スピネル相とは異なる相(異相)である酸化ニッケルと、を含有する焼結体を得る焼成工程と、を有する。以下、各工程の詳細について説明する。
【0030】
混合工程では、まず、市販のFe粉末とNiO粉末とを準備する。そして、NiOに対するFeのモル比(以下、「比率α」という)が1を超え且つ1.5未満となる比率になるように、Fe粉末とNiO粉末とを配合する。そして、これらをボールミル等の通常の混合手段でこれらの粉体を混合して、Fe粉末とNiO粉末とを上記比率で含有する混合粉末を調製する。比率αは、好ましくは1.1〜1.4である。
【0031】
混合粉末において、比率αが1以下であると、最終的に得られるフェライト電極の導電性が損なわれて、抵抗率が上昇してしまう。一方、比率αが1.5以上になると、最終的に得られるフェライト電極の焼結体中に酸化ニッケル相が生成し難くなり、二相構造を有するフェライト電極を得ることが困難になる。
【0032】
仮焼工程では、市販の加熱炉を用い、調製した混合粉末を仮焼して仮焼体を得る。仮焼工程では、混合粉末を、大気中で、温度800〜1100℃で0.5〜10時間加熱する。このような仮焼工程によって、Fe粉末とNiO粉末の少なくとも一部が反応して、ニッケルフェライトが生成する。仮焼体は粉状であってもよいが、通常、粉末同士が凝集した凝集体となっているため、次の粉砕工程で粉砕する。
【0033】
粉砕工程では、仮焼工程で得られる仮焼体をボールミル等によって粉砕して、所望のサイズを有する原料粉を得る。原料粉の粒径は、好ましくは2μm以下である。このように、粉砕工程で凝集体を粉砕することによって、原料粉の焼結を容易にすることができる。
【0034】
成形工程では、通常の金型の中にバインダが添加された原料粉を封入し、プレス成形して成形体を作製する。このように、通常の乾式成形によって、成形体を作製することができる。なお、成形方法は乾式成形に限定されるものではなく、原料粉と溶媒とを含むスラリーを、溶媒を除去しながら加圧成形する湿式成形であってもよい。
【0035】
焼成工程では、成形体を、酸素ガス濃度が5体積%以下である雰囲気下で焼成してスピネル相を有するニッケルフェライトと、異相である酸化ニッケルと、を含有する焼結体を得る。この焼結体は、スピネル相を有するニッケルフェライトを主成分として含み、副成分としてスピネル相とは異なる結晶構造を有する酸化ニッケルを含有する。
【0036】
本実施形態の製造方法では、FeとNiOとが所定の比率で配合された原料を用いるとともに、酸素ガス濃度が低減された雰囲気下で焼成している。これによって、図2に示すように、ニッケルフェライトを主成分として含むニッケルフェライト相20、及び酸化ニッケルを主成分として含む酸化ニッケル相30の2相構造を有する焼結体を得ることができる。酸化ニッケル相30は、フェライト相20中に分散している。
【0037】
焼成工程は、酸素ガス濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、より好ましくは1体積%以下、さらに好ましくは0.5体積%以下の雰囲気下で行う。具体的には、酸素ガスと不活性ガス(例えば、窒素ガス又はアルゴンガス)の混合ガスを用いて、焼成工程における酸素ガス濃度を調整することができる。酸素ガス濃度を調整することによって、フェライト相20と酸化ニッケル相30の含有率を調整することができる。酸素ガス濃度が5体積%を超えると、焼結体中に酸化ニッケルが生成し難くなり、2相構造を有する焼結体を得ることが困難になる。
【0038】
焼成工程では、上述の雰囲気下で、成形体を昇温して、好ましくは1330℃〜1400℃、より好ましくは1350〜1400℃の焼成温度で、好ましくは1〜10時間、より好ましくは2〜6時間焼成して焼結体を得る。焼成温度が1330℃未満であると、焼結体(フェライト電極)の抵抗率が高くなる傾向にある。一方、焼成温度が高くなるほど、酸化ニッケルの生成量が多くなる傾向にある。ただし、焼成設備の耐熱性や、製造コスト低減の観点から、焼成温度の上限は好ましくは1400℃である。
【0039】
焼成工程によって得られた焼結体を、そのままフェライト電極としてもよいし、加工して所望の形状を有するフェライト電極としてもよい。
【0040】
以上の製造方法によって、上述の実施形態に係るフェライト電極10を得ることができる。本実施形態の製造方法では、原料における比率αが従来の製造方法よりも低いことから、高い密度を有する焼結体を得ることができる。このように高密度を有する焼結体からなるフェライト電極10は、優れた強度を有している。また、耐食性に優れる酸化ニッケル相30を有しているため、耐食性にも優れる。さらに、焼結時に、酸化ニッケル相30が生成又は残存しているため、フェライト相20のFe/Ni比が高くなっており、抵抗率を十分に低減することができる。
【0041】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、フェライト電極の形状は、図1に示すような円柱形状に限定されるものではなく、例えば、角柱形状や平板形状等であってもよい。また、焼結体は、フェライト相及び酸化ニッケル相とは異なる相(第2の異相)含んでいてもよい。
【実施例】
【0042】
実施例及び比較例を参照して、本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
市販の酸化ニッケル(NiO)粉末と酸化鉄(Fe)粉末とを、NiOに対するFeのモル比率(比率α)が1.128となるように配合し、ボールミルを用いて混合して混合粉末を得た。この混合粉末を、大気中、温度1000℃で3時間保持して仮焼を行った。得られた仮焼粉をボールミルで粉砕し、原料粉を調製した。
【0044】
調製した原料粉をバインダー(ポリビニルアルコール)と混合して、プレス成形し、直方体形状を有する成形体を得た。この成形体を、窒素ガス雰囲気(酸素濃度:0体積%)中、温度1350℃で3時間保持して焼成し、窒素ガス中で徐冷して、焼結体(フェライト電極)を得た。そして、得られたフェライト電極の組成、密度及び抵抗率を評価した。
【0045】
図2は、実施例1のフェライト電極(焼結体)の断面における反射電子線像写真である。図2に示すように、JSM−5400LV(JEOL社製、商品名)を用いて焼結体の断面の反射電子線像(BEI、1000倍)を観察し、画像における酸化ニッケル相30の面積から、フェライト電極における酸化ニッケル相30の含有率(体積割合)を算出した。体積割合は、面積割合を(3/2)乗して求めた。焼結体の密度はアルキメデス法によって測定した。抵抗率は直方体形状(5mm×5mm×30mm)である焼結体の端面上に端子を取り付けて、4端子法によって測定した。これらの結果を表1に纏めて示す。
【0046】
(実施例2〜4、比較例1)
焼成時の雰囲気の酸素濃度を表1に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして焼結体を作製し、評価した。なお、雰囲気中の酸素濃度の調整は、窒素ガスと酸素ガスとの比率を調整することによって行った。評価結果を表1に示す。また、図3〜5は、実施例2〜4のフェライト電極(焼結体)の断面における反射電子線像写真である。
【0047】
(比較例2)
酸化ニッケル(NiO)粉末と酸化鉄(Fe)粉末との混合粉末における比率αを0.6としたこと以外は、実施例1と同様にして焼結体を作製し、評価した。評価結果を表1に示す。また、図8は、比較例2のフェライト電極(焼結体)の断面における反射電子線像写真である。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例1〜4は、表1及び図2〜5に示す通り、スピネル相であるニッケルフェライトを含むフェライト相20と、酸化ニッケルを含む酸化ニッケル相30の2相構造を有していた。また、それぞれのフェライト電極は、少量の空孔40を有していた。一方、比較例2は、表1及び図8に示す通り、フェライト相20のみの単相構造となっており、焼結体の密度は低い値であった。
【0050】
(実施例5、6)
焼成時の温度を、表2に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして焼結体(フェライト電極)を作製し、評価した。評価結果を表2に示す。また、図6及び図7は、実施例5及び実施例6のフェライト電極(焼結体)の断面における反射電子線像写真である。
【0051】
【表2】

【0052】
表1及び表2のデータ、並びに図2、図6及び図7の写真から、焼成温度が高い方が、フェライト電極における酸化ニッケル相30の含有率が高くなる傾向にある。
【符号の説明】
【0053】
10…フェライト電極(焼結体)、20…フェライト相、30…酸化ニッケル相、40…空孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルフェライトと酸化ニッケルとを含有する焼結体からなるフェライト電極。
【請求項2】
前記焼結体におけるNi元素に対するFe元素のモル比が2を超え且つ3未満である、請求項1に記載のフェライト電極。
【請求項3】
前記焼結体は、前記ニッケルフェライトを含むフェライト相と、前記酸化ニッケルを含む酸化ニッケル相とを有しており、前記焼結体における前記酸化ニッケル相の含有率が0.5〜12.0体積%である、請求項1又は2に記載のフェライト電極。
【請求項4】
酸化鉄及び酸化ニッケルを、それぞれFe及びNiOに換算して、NiOに対するFeのモル比が1を超え且つ1.5未満となる比率で含有する混合粉末を仮焼して粉砕し、原料粉を得る仮焼工程と、
前記原料粉を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を、酸素ガス濃度が5体積%以下の雰囲気下で焼成して、ニッケルフェライトと酸化ニッケルとを含有する焼結体を得る焼成工程と、を有する、前記焼結体からなるフェライト電極の製造方法。
【請求項5】
前記焼成工程において、前記成形体を1330〜1400℃で焼成する、請求項4記載のフェライト電極の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−111348(P2011−111348A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267808(P2009−267808)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】