説明

フェロモリブデンの製造方法

【課題】モリブデン鉱石等を原料とせず、フェロモリブデンを高効率、かつ安価に製造するフェロモリブデンの製造方法およびこの製造方法により製造されたフェロモリブデンを提供する。
【解決手段】モリブデン原料として二硫化モリブデンを含む廃潤滑剤、鉄原料として酸化鉄含有物質、炭素質還元剤、脱硫剤およびスラグ形成剤を混合する混合工程(S1)と、混合工程(S1)で混合した混合物を、加熱、溶解して溶解物とし、当該溶解物中に、生成したフェロモリブデンを沈殿させる溶解工程(S2)と、フェロモリブデンを沈殿させた溶解物を冷却して生成したスラグと、当該スラグ中のフェロモリブデンとを分離する分離工程(S3)と、を含み、溶解工程(S2)において、加熱温度を1400〜1600℃に制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェロモリブデンを高効率、かつ安価に製造するフェロモリブデンの製造方法およびこの製造方法により製造されたフェロモリブデンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フェロモリブデンの製造方法としては、主にテルミット法と電気炉法があり、現在ではテルミット法が主な製造方法として用いられている。
テルミット法によるフェロモリブデンの製造方法としては、まず、製造原料として輝水鉛鉱(モリブデナイト)を、浮遊選鉱によりモリブデン精鉱(二硫化モリブデン約85%)とし、これをヘレショフ炉やロータリーキルンで酸化焙焼して酸化モリブデンとする。そして、この酸化モリブデン、鉄源、還元剤(フェロシリコン粉およびアルミニウム粒)および媒溶剤(鉄鉱石、ミルスケール等)を混合して混合物とし、テルミット反応炉を用いてフェロモリブデンを製造する技術が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
また、電気炉法は、現在あまり用いられていないが、モリブデン原料として酸化鉱、硫化鉱のどちらも使用可能である。電気炉法では、モリブデン原料、鉄源、還元剤および媒溶剤を混合して混合物とし、電気炉を用いてフェロモリブデンを製造する。ここで、還元するときにフェロシリコン、アルミニウム等の還元剤を用い、また、含まれる硫黄をスラグに固定化するためCaOとSiOの比率(CaO/SiO)を質量比で3.0以上にする技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、硫化鉱(輝水鉛鉱)を原料として、移行アーク式プラズマ反応器において、スリ−ブ内壁に原料をキヤリヤーガスにより供給し、アークにより融解して、るつぼに滴下させることにより、フェロモリブデンを高純度に効率的に生成する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
フェロモリブデンの別の製造方法としては、酸化モリブデンと酸化鉄の混合物を、ガス状還元剤を使用した500〜650℃および800〜900℃の2段階の還元により、金属モリブデンと金属鉄の混合物を得る方法が提案されている。この方法の特徴は、処理中にモリブデンまたは鉄が溶融しないことであり、また、ガス状還元剤として解離アンモニア、一酸化炭素、水素、リフォームした炭化水素およびその混合物を利用することである(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
また、その他の製造方法として、まず、約10〜90質量%の金属化された鉄、約7〜65質量%のモリブデン酸化物、約5〜26質量%の固体炭素質材料よりなる混合物にバインダ−を加え、圧縮して団鉱を形成し、この団鉱をスラグ形成物、付加炭質材料とともにキュポラ等のシャフト炉内等に装入する。そして、炭質材料を燃焼させてモリブデン酸化物を加熱し、金属状態に還元させ、かつ、鉄およびモリブデンを溶解させて、炉内にフェロモリブデン溶湯を形成させる方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
さらに、原料としてモリブデンを含む廃棄物から合金鉄を製造する方法として、使用済石油脱硫触媒等の各種廃棄物からV、Mo、Ni等の有用金属を回収する方法が提案されている。すなわち、使用済石油脱硫触媒を灯油等の軽質油を用いて付着する重油を洗浄した後、洗浄済触媒と油分に遠心分離する。洗浄済触媒は、その他使用済の触媒(硫酸製造触媒、無水マレイン酸製造触媒、フタル酸製造触媒)と重油あるいはペトコーク焚きボイラーより発生する燃焼灰を混合して、必要に応じてブリケット等に成形する。そして、混合物もしくは成形物は、炉底出鋼型電気炉に装入して、通電・溶融し、使用済触媒中あるいは燃焼灰中のNi、Mo分は、燃焼灰中のカーボンおよび別途装入したスクラップ等の鉄源により優先還元され、Ni−Mo合金鉄となる(例えば、特許文献5参照)。
【非特許文献1】日本鉄鋼協会発行、日本鉄鋼協会編、鉄鋼便覧、第3版、第2巻、第7章第3節第5項
【特許文献1】特公昭37−17112号公報
【特許文献2】特開昭58−27937号公報
【特許文献3】特開昭50−16607号公報
【特許文献4】特開昭61−231134号公報
【特許文献5】特開2004−35995号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記したフェロモリブデン等を製造する方法では、以下に示す問題があった。
非特許文献1に記載のテルミット法では、モリブデン精鉱の酸化焙焼工程が必要であり、副生物として大量の亜硫酸ガスが発生するため、この亜硫酸ガスを除く処理が必要であること、テルミット反応後のフェロモリブデンの冷却処理や破砕処理に費用がかかること等の理由により、経済性に劣るという問題があった。さらに、ロータリーキルンは、ダスト発生量が多く、キルン内にダムリングが生起しやすいという問題や、原料の滞留時間にばらつきが生じるため過剰な処理搬送路の長さを必要とし、設備の設置面積が大きくなるという問題、キルンの表面積が大きくなり、熱放散量が多いため、燃料消費量が高くなる等の問題もあった。
【0008】
特許文献1〜4に記載されたフェロモリブデン等の製造方法は、モリブデン鉱石等を使用したものである。ここで、近年のモリブデン鉱石の高騰により、モリブデン鉱石を原料としないフェロモリブデンの製造方法が求められ、モリブデン鉱石等を使用する特許文献1〜4に記載の製造方法では、経済性に劣り、前記要求を満足できないという問題があった。
さらに、特許文献3に記載の製造方法では、ガス状還元剤として解離アンモニア、一酸化炭素、水素、リフォームした炭化水素およびその混合物を利用する方法であるため、別途これらのガスを用意する必要があった。
【0009】
特許文献5に記載の製造方法は、使用済石油脱硫触媒等の各種廃棄物からフェロモリブデンを製造するものであるが、特許文献5に記載の製造方法は、バナジウムの回収が主目的であり、モリブデンはNi−Mo合金鉄の形で得られるものであるため、フェロモリブデンの製造方法としては、不十分であるという問題があった。
【0010】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、モリブデン鉱石等を原料とせず、フェロモリブデンを高効率、かつ安価に製造するフェロモリブデンの製造方法およびこの製造方法により製造されたフェロモリブデンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らはフェロモリブデンの製造を効率的、経済的に行う方法に関し、鋭意研究を重ねた結果、モリブデン原料として二硫化モリブデンを含む使用済みの潤滑剤(廃潤滑剤)を用いたフェロモリブデンの製造方法およびこの製造方法により製造されたフェロモリブデンを発明するに至った。
すなわち、請求項1に係るフェロモリブデンの製造方法は、モリブデン原料として二硫化モリブデンを含む廃潤滑剤、鉄原料として酸化鉄含有物質、炭素質還元剤、脱硫剤およびスラグ形成剤を混合する混合工程と、前記混合工程で混合した混合物を、加熱、溶解して溶解物とし、当該溶解物中に、生成したフェロモリブデンを沈殿させる溶解工程と、前記フェロモリブデンを沈殿させた溶解物を冷却して生成したスラグと、当該スラグ中のフェロモリブデンとを分離する分離工程と、を含み、前記溶解工程において、加熱温度を1400〜1600℃に制御することを特徴とする。
【0012】
このような構成によれば、混合工程において、二硫化モリブデン(MoS)、酸化鉄含有物質、炭素質還元剤、脱硫剤およびスラグ形成剤が混合される。そして、溶解工程において、MoSが酸化鉄に含まれる酸素(O)と反応して、モリブデン酸化物に転換され、その後、炭素(C)によって還元されて金属モリブデンとなり、加熱処理によりフェロモリブデンが沈殿する。また、MoSに含まれる硫黄(S)についても、一部についてはFeOSといった化合物で固定化される。そして、分離工程において、生成したスラグと、スラグ中のフェロモリブデンとが分離され、フェロモリブデンが製造される。
また、混合物を融点(1400℃)以上に加熱することで、混合物が溶解し、また、加熱温度を1600℃以下に制御することで、フェロモリブデンに含まれるC濃度の上昇および仕様電力量の増大が防止される。
【0013】
請求項2に係るフェロモリブデンの製造方法は、前記脱硫剤としてCaO含有物質を用い、前記スラグ形成剤としてSiO含有物質を用い、前記混合物中のCaOとSiOの比率(CaO/SiO)が質量比で1.0〜1.2、かつ、前記混合物中の炭素量と酸化鉄に含まれる酸素量の比率(C/O)がモル比で1.00〜1.21であることを特徴とする。
【0014】
このような構成によれば、脱硫剤としてCaOを配合しておくことで、混合物中のMoSに含まれるSが、CaSとして固定され、さらに、生成したFeOSは還元されて鉄となるとともに、Sは配合するCaOと反応して生成するスラグに固定される。
また、SiOを配合し、混合物中の比率(CaO/SiO)を質量比で1.0〜1.2とすることで、混合物が溶解しやすくなる。
さらに、混合物中の炭素量と酸化鉄に含まれる酸素量の比率(C/O)をモル比で1.00〜1.21とすることで、フェロモリブデン中の炭素濃度が抑制され、また、酸化鉄を還元するのに必要な炭素量が供給される。
【0015】
請求項3に係るフェロモリブデンの製造方法は、前記CaO含有物質として、炭酸カルシウムまたは焼石灰を用いることを特徴とする。
このような構成によれば、CaO含有物質として炭酸カルシウムまたは焼石灰を用いることで、効率よくCaOを配合することができ、また、経済性が向上する。
【0016】
請求項4に係るフェロモリブデンの製造方法は、前記溶解工程において、前記混合物を溶解するための保持容器に炭素質材料を用いることを特徴とする。
このような構成によれば、保持容器からの溶解した混合物の取り出しが容易になる。
【0017】
請求項5に係るフェロモリブデンは、前記記載のフェロモリブデンの製造方法により製造されたことを特徴とする。
このような構成によれば、Mo含有量が高く、S含有量が低いフェロモリブデンとなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の請求項1に係るフェロモリブデンの製造方法によれば、Mo濃度の高いフェロモリブデンを安定して、高効率、かつ安価に製造することができる。
請求項2に係るフェロモリブデンの製造方法によれば、フェロモリブデン中のS濃度、C濃度を抑制することができ、また、混合物が溶解しやすくなる。
請求項3に係るフェロモリブデンの製造方法によれば、効率的、経済的にCaOを配合することができる。
【0019】
請求項4に係るフェロモリブデンの製造方法によれば、溶解した混合物を保持容器から容易に取り出すことができる。
請求項5に係るフェロモリブデンによれば、効率性、経済性に優れ、Mo濃度が高く、S濃度が低いフェロモリブデンとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、図面を参照して本発明に係るフェロモリブデンの製造方法およびこの製造方法で製造されたフェロモリブデンについて詳細に説明する。なお、参照する図面において、図1(a)は、フェロモリブデンの製造方法のフローを示す図、(b)は、各工程における物質のフローを示す図である。
【0021】
≪フェロモリブデンの製造方法≫
図1(a)に示すように、フェロモリブデンの製造方法は、混合工程(S1)と、溶解工程(S2)と、分離工程(S3)と、を含むものである。
以下、各工程について説明する。
【0022】
<混合工程>
混合工程(S1)は、図1(b)に示すように、モリブデン原料として二硫化モリブデンを含む廃潤滑剤、鉄原料として酸化鉄含有物質、炭素質還元剤、脱硫剤およびスラグ形成剤(以下、適宜「原料」ともいう)を混合する工程である。
二硫化モリブデンは、製造されるフェロモリブデンに含有されるモリブテン原料となるものであり、二硫化モリブデン原料(モリブデン原料)としては、二硫化モリブデンを含有した廃潤滑剤を用いる。ここで、廃潤滑剤とは、使用済みの潤滑剤のことである。
【0023】
酸化鉄含有物質中の酸化鉄は、酸化鉄中に含まれる酸素により、二硫化モリブデンを酸化させるものであり、酸化鉄含有物質としては、鉄鉱石(鉄鉱石粉)やスケール(ミルスケール)等を用いることができる。
酸化鉄含有物質の量は、所望のモリブデン濃度(目標Mo濃度)から計算される、潤滑剤中のモリブデンと鉄の比に対して配合する酸化鉄に基づいて定める。ここで、鉄鉱石を用いる場合には、目標Mo濃度=潤滑剤中のモリブデン量×廃潤滑剤の配合量/(潤滑剤中のモリブデン量×廃潤滑剤の配合量+鉄鉱石中に含まれる鉄の量×鉄鉱石の配合量)である。
【0024】
炭素質還元剤は、酸化鉄を還元するものであり、炭素質還元剤としては、固定炭素を含むものであればよく、石炭、コークス、木炭、廃トナー、バイオマスの炭化物等を用いることができ、また、これらを適宜混合して用いてもよい。
混合物中における炭素質還元剤の配合率は、所望のモリブデン濃度(目標Mo濃度)から計算される、潤滑剤中のモリブデンと鉄の比に対して配合された酸化鉄を、加熱炉内で還元するのに必要な炭素量以上となるように決定する。
【0025】
配合する炭素質還元剤(固定炭素質)の量は、前記の物質(石炭等)に含まれる固定炭素質量を考慮して配合すればよいが、配合される酸化鉄に含まれる酸素量に対してモル比で等量以上であることが好ましい。しかしながら、酸化鉄を還元する以上に炭素を配合しても、得られるフェロモリブデンに炭素が移行するだけであるため、それ以上に配合する必要はない。
すなわち、混合物中の炭素量と酸化鉄に含まれる酸素量のモル比(C/O)が1.00〜1.21であることが好ましい。
モル比(C/O)が1.00未満であると、酸化鉄が還元されにくく、一方、1.21を超えると、得られるフェロモリブデンの炭素濃度が高くなりやすい。
【0026】
脱硫剤は、スラグにSを固定化するために、スラグ形成剤とともに配合するものであり、CaO含有物質を用いることが好ましい。
CaO含有物質としては、効率性、経済性の観点から、石灰(炭酸カルシウム)、焼石灰、消石灰等を用いることが好ましく、また、SiO以外の不純物を含むものであれば、CaOの含有量を考慮して、配合量を決定する。
【0027】
また、配合量を決定する際には、炭素質還元剤(炭素含有物質)に灰分として含まれる量および廃潤滑剤として使用するに当たり粘度調整用として廃潤滑剤中に含まれるCaO等も考慮して配合量を決定する。
また、廃潤滑剤中に含まれるCaO等を脱硫剤成分として用いてもよいし、廃潤滑剤中に含まれるCaO等が少ない場合は、さらにCaO等を配合してもよい。
すなわち、脱硫剤として廃潤滑剤を使用することもでき、この場合の廃潤滑剤は、二硫化モリブデンを含む廃潤滑剤と、脱硫剤とを混合したものということである。
なお、脱硫剤としてはCaOの他、MgOが挙げられるが、CaOよりも反応能力が劣るため、通常はCaOの配合の一部をMgOに取り替えて配合する。
【0028】
スラグ形成剤は、スラグにSを固定化するために、脱硫剤とともに配合するものであり、SiO含有物質を用いることが好ましい。なお、前記した廃潤滑剤、酸化鉄含有物質、炭素質還元剤等には、不純物としてSiOが含まれるが、これらに含まれるSiOは微量であるため、以下に述べるように、CaO/SiOが質量比で1.0〜1.2となるように、不純物として含まれるSiOに加えて、さらにSiO含有物質を配合することが好ましい。
【0029】
SiO含有物質としては、けい石やけい砂等を用いることができる。なお、これらの使用においては、100μm程度以下に粉砕する必要がある。
また、CaOおよびSiOを同時に含有する鉱物として、Wollasteniteも使用することができる。
SiOは、CaOと反応させることで、処理する温度で混合物をスラグとして溶融させるために配合するものである。
【0030】
ここで、廃潤滑剤、酸化鉄含有物質および炭素質還元剤中に、CaO含有物質およびSiO含有物質を添加する場合、CaOとSiOの質量比(CaO/SiO)が1.0〜1.2となるように配合することで全体の配合率を決定することが好ましい。
CaOとSiOの質量比(CaO/SiO)が1.0未満であると、Sをスラグ中に固定しにくく、一方、1.2を超えると、混合物が溶解(溶融)しにくい。
【0031】
また、混合物中にCaOとSiOを少量しか含まない場合には、CaOまたはSiOの一方、あるいはCaOとSiOの両方を配合し、得られるフェロモリブデン量の質量に対してスラグの質量が0.1倍以上となるようにしてスラグを副生成させて原料中に含まれるS分を固定化させることが好ましい。
なお、得られるフェロモリブデン量とは、配合した廃潤滑剤中のモリブデン量と配合した鉄鉱石等に含まれる鉄分の合計である。
【0032】
ここで、図1(b)に示すように、廃潤滑剤、酸化鉄含有物質、炭素質還元剤、脱硫剤およびスラグ形成剤を混合するには混合機を用いる。また、混合した混合物は造粒機で塊成化することが好ましい。混合物を塊成化することにより、加熱炉からのダスト発生量が減るとともに、加熱炉内における混合物(塊成物)内部の反応の結果生成するCOガスが移動しやすくなり、このCOガスによって原料がダストとなることが防止できるためである。造粒機としては、ブリケットプレス等の圧縮成形機やディスク型ペレタイザー等の転動造粒機のほか押出成形機を用いてもよい。
なお、原料中に水分を多く含む場合は、事前に乾燥しておくことが好ましい。乾燥の度合いは混合工程での混合手段(本実施の形態では混合機)を考慮して決めればよい。また、造粒後の混合物(塊成物)の水分が高い場合は加熱炉に装入する前に乾燥してもよい。
【0033】
<溶解工程>
溶解工程(S2)は、混合工程において混合した混合物を加熱、溶解して溶解物とし、この溶解物中に、生成したフェロモリブデンを沈殿させる工程であり、また、還元反応を起こす工程でもある。
図1(b)に示すように、混合機で混合した混合物または造粒機で造粒した塊成物は、加熱炉に装入して加熱、溶解する。加熱炉としては抵抗加熱炉、誘導加熱炉等のるつぼを備えた炉を使用することができる。また、この他の加熱炉としては、回転炉床炉や直線炉、多段炉等が使用でき、これらの移動炉床炉は、被加熱物である混合物(塊成物)が炉床上に静置されるため、ダスト等の発生が少なく、また、いずれの炉もコンパクトであり、ロータリーキルンに比べて設備費、設置面積を節減できる。
【0034】
次に、溶解工程(S2)における還元反応の一例について説明する。
本発明の還元反応の概要は次式で示される。
FeOx+MoS+CaO+C→Fe+Mo+CaS+CO
(低温度)
MoS+C+FeOx→MoO+FeOS+CO
MoS+C+CaO→MoO+CaS+CO
(高温度)
MoO+C+FeOx→Mo+Fe+CO
FeOS+C→Fe+CO+S(in slag)
ここで、MoSは廃潤滑剤に含まれるモリブデン原料としての二硫化モリブデン、FeOxは鉄原料としての酸化鉄含有物質中に含まれる酸化鉄、Cは炭素質還元剤、CaOは脱硫剤である。
【0035】
この反応過程において廃潤滑剤に含まれるMoSは、酸化鉄に含まれる酸素と反応して一旦モリブデン酸化物に転換され、その後炭素によって還元されて金属モリブデンとなり、一段の加熱処理により歩留りを下げることなくフェロモリブデンが製造される。また潤滑剤中のMoSに含まれるSについても一部についてはFeOSといった化合物で固定化されるとともに脱硫剤としてCaOを同時に配合しておくことでCaSとして固定される。さらに、FeOSは還元されて鉄となるとともに、Sは配合するCaOと反応して生成するスラグ分に固定される。
【0036】
ここで、混合物(塊成物)を溶解(溶融)するにあたって、保持容器として炭素質材料(炭素質の成型体)を用いることが好ましい。保持容器として炭素質材料を用いることにより、溶融後に保持容器から、混合物を溶解した溶解物を取り出すことが容易になる。
さらに、混合物(塊成物)を溶解させるためには、融点以上に加熱する必要がある。このため、加熱温度(最高加熱温度)は1400℃以上であることが必要である。また、炭素質の保持容器で加熱した場合、温度を上げると生成したフェロモリブデンと反応してフェロモリブデンに含まれるC濃度が上昇することおよび仕様電力量の増大を防止する観点から1600℃以下で加熱する。
【0037】
なお、本発明で製造するフェロモリブデンは、溶融したスラグ内にフェロモリブデン粒子として生成するものであるが、前記加熱温度の範囲においては、このフェロモリブデン粒子は固体である。このため、加熱温度で保持している間に、フェロモリブデン粒子は溶融しているスラグ中を沈殿し、スラグとフェロモリブデンが物理的に分離したものであることを特徴とする。このフェロモリブデン粒子は、沈殿時に一部スラグ成分を巻き込むため、フェロモリブデン中には、成分としてCa、Sを少量含有する。
【0038】
<分離工程>
分離工程(S3)は、フェロモリブデンを沈殿させた溶解物を冷却して生成したスラグと、スラグ中に沈殿したフェロモリブデンとを分離する工程である。
図1(b)に示すように、加熱炉内で溶解、還元された溶解物である溶解塊成物(還元混合物)は、加熱終了後冷却してるつぼもしくは炉床から排出する。この冷却した還元混合物である還元固化物を、破砕機により破砕し、篩により、フェロモリブデン(メタル)とスラグに篩い分ける。この破砕や篩による分離は、人力で行うのに加え、スクリーンを用いて行うこともできる。得られたスラグはコンクリート用骨材等に利用できる。なお、分離されたスラグからは、必要に応じてさらに磁選、浮選等の手段によりフェロモリブデン分を回収することができる。
【0039】
≪フェロモリブデン≫
本発明に係るフェロモリブデンは、前記した各工程からなる製造方法により得られるものである。
前記記載の製造方法により、例えば、Mo含有量が25.6質量%以上67.1質量%以下であり、C含有量が0.56質量%以上6.81質量%以下であり、Ca含有量が5.42質量%以下とするフェロモリブデンを得ることができる。
【実施例】
【0040】
次に、本発明に係るフェロモリブデンの製造方法およびフェロモリブデンについて、本発明の要件を満たす実施例と本発明の要件を満たさない比較例とを比較して具体的に説明する。
本発明の混合原料の還元状況を把握するため、実験室規模の小型加熱炉を用いて以下の還元実験を実施した。
【0041】
配合原料としては、二硫化モリブデンを含有した使用済みの潤滑剤(廃潤滑剤)、酸化鉄の原料として、酸化鉄含有物質であるヘマタイト系の鉄鉱石、炭素質還元剤としてコークス粉(固定炭素分86.3質量%)(関西熱化学社製)およびスラグ形成剤として、副生成するスラグの組成を調整するため、けい砂を混合した。用いた廃潤滑剤、酸化鉄含有物質、炭素質還元剤、スラグ形成剤の成分を表1に示す。なお、使用済みの潤滑剤としては、MoSを主成分としているものである。潤滑剤は、MoSを主成分として油類が含有されるものがあるが、用途によっては、粘度を調整するためにカルシウム石鹸等を配合するものもあり、本実施例では脱硫剤としてのCaOを配合した潤滑剤を用いた。
【0042】
配合は、使用済み潤滑剤中のMo量に対して鉄鉱石に含まれる鉄分の比(目標Mo濃度)が40%、60%、65%となるよう配合した。すなわち、潤滑剤中のモリブデン量×廃潤滑剤の配合量/(潤滑剤中のモリブデン量×廃潤滑剤の配合量+鉄鉱石中に含まれる鉄の量×鉄鉱石の配合量)=40%、60%、65%ということである。
次に、コークス粉を、酸化鉄に含まれる酸素との比率(C/O)がモル比で0.47〜1.40となるよう配合した。さらに、一部については、これらに含まれるCaOに対してCaO/SiOが質量比で0.8〜1.2となるようけい砂を混合し、一部については、けい砂を混合しなかった。
【0043】
混合は、適量の水分を添加して小型ディスク型ペレタイザーで造粒し、直径約13mmのペレットを作製した。このペレットを105℃で24時間乾燥したもの1000gを、炭素質からなる内径130mm深さ150mmである坩堝を備えた小型誘導加熱炉中にバッチ装入した後、雰囲気温度一定の下で保持時間30分間の加熱を行い、還元溶解後、冷却しスラグ分とフェロモリブデン分を分離した。得られたフェロモリブデンを化学分析してMo、S、C、Caの含有量(濃度)を求めた。雰囲気は窒素雰囲気とし、加熱温度(最高加熱温度)は、1350℃、1400℃、1500℃および1600℃の4水準として、加熱を開始し、最高加熱温度に到達後30分間温度を保持した(焼成)。この加熱実験で得られた結果を表2に示す。
【0044】
なお、表2において、C/Oは含有される固定炭素質と酸素とのモル比、CaO/SiOは含有されるCaO質量とSiO質量の比、フェロモリブデン回収率は回収フェロモリブデン量×Mo濃度/装入Mo量である。なお、装入Mo量とは、廃潤滑剤中に含まれるMo濃度×配合割合から計算されるMo量のことである。
【0045】
評価としては、フェロモリブデン回収率を求め、フェロモリブデン回収率が80%以上のものを優良、50%以上80%未満のものを良好、50%未満のものを不良とした。また、参考として、焼成後のサンプルの溶融状態を調べた。溶融状態は焼成後サンプルが溶融状態を呈しているものを○、溶融状態を呈しているがスラグとフェロモリブデンが容易に分離しないものを△、溶融していないものを×とした。
なお、表1、2において、成分を含有していないもの、または成分を測定できなかったものについては「−」で示す。また、本発明の構成を満たさないもの等については、数値に下線を引いて示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
実施No.1〜25は本発明の実施例であって、混合物中に含まれる炭素質と、配合した鉄鉱石や廃潤滑剤中に含まれる酸化鉄分合計中の酸素との比率(C/O)がモル比で0.47〜1.40の範囲となるよう配合したものである。実施No.1は、C/O=1.04として1500℃で加熱したものであり、フェロモリブデン回収率は82%と優良であった。また実施No.2〜19、25は、フェロモリブデン中に含まれるS濃度を下げる目的でCaO/SiOを1.2程度にし、1400℃、1500℃または1600℃で加熱したものであり、いずれの配合においてもフェロモリブデンの回収率は80%以上と優良であった。ただし、実施No.25は、C/Oがモル比で1.21を超えるため、フェロモリブデン中の炭素濃度が高かった。
【0049】
実施No.20〜24は、C/Oがモル比で1.00〜1.21の範囲を満たさないが、本発明の要件は満たしているため、フェロモリブデンの回収率は50%以上80%未満の範囲であり、良好であった。また、反応に必要な炭素量が少ないため、還元反応が小さく、スラグ中にSが固定されにくかったため、得られたフェロモリブデン中に含まれるS濃度も5.6〜16.9質量%と高かった。
【0050】
また、C/Oがモル比で1.00未満であるため、還元すべき酸素量に対して、還元するための炭素量が少なく、フェロモリブデンが完全に生成できず、中途半端に反応が終了した。そのため、スラグ分とフェロモリブデン分が上下に分離せず、実施No.21〜24は、溶融状態が△であった。なお、実施No.20は、実施No.21〜24に比べると、C/Oの値がやや高かったため、溶融状態は○であった。
【0051】
実施No.26〜34は本発明の比較例であって、混合物中に含まれる炭素質と、配合した鉄鉱石や廃潤滑剤中に含まれる酸化鉄分中の酸素との比率(C/O)がモル比で0.47〜1.30の範囲となるよう配合したものである。この比較例のうち、実施No.26〜31は1350℃で加熱したものであるが、副生成させるスラグ分が溶融せず、反応が起きてもフェロモリブデンがスラグ分離できないため、フェロモリブデンを回収できず、フェロモリブデンの回収率は不良であった。実施No.32〜34はスラグ形成剤としてけい砂を添加しなかったものである。そのため、塩基度(CaO/SiO)が極めて大きくなり、スラグの融点が高くなったため、1600℃で加熱しても、スラグ分が溶融しなかった。そのため、フェロモリブデンがスラグ分離できないため、フェロモリブデンを回収できず、フェロモリブデンの回収率は不良であった。なお、これらは、フェロモリブデンを分離できなかったため、成分は測定できなかった。
【0052】
以上、本発明に係るフェロモリブデンの製造方法およびフェロモリブデンについて最良の実施の形態および実施例を示して詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されるものではない。なお、本発明の内容は、前記した記載に基づいて広く改変・変更等することができることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】(a)は、フェロモリブデンの製造方法のフローを示す図であり、(b)は、各工程における物質のフローを示す図である。
【符号の説明】
【0054】
S1 混合工程
S2 溶解工程
S3 分離工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン原料として二硫化モリブデンを含む廃潤滑剤、鉄原料として酸化鉄含有物質、炭素質還元剤、脱硫剤およびスラグ形成剤を混合する混合工程と、
前記混合工程で混合した混合物を、加熱、溶解して溶解物とし、当該溶解物中に、生成したフェロモリブデンを沈殿させる溶解工程と、
前記フェロモリブデンを沈殿させた溶解物を冷却して生成したスラグと、当該スラグ中のフェロモリブデンとを分離する分離工程と、を含み、
前記溶解工程において、加熱温度を1400〜1600℃に制御することを特徴とするフェロモリブデンの製造方法。
【請求項2】
前記脱硫剤としてCaO含有物質を用い、前記スラグ形成剤としてSiO含有物質を用い、前記混合物中のCaOとSiOの比率(CaO/SiO)が質量比で1.0〜1.2、かつ、前記混合物中の炭素量と酸化鉄に含まれる酸素量の比率(C/O)がモル比で1.00〜1.21であることを特徴とする請求項1に記載のフェロモリブデンの製造方法。
【請求項3】
前記CaO含有物質として、炭酸カルシウムまたは焼石灰を用いることを特徴とする請求項2に記載のフェロモリブデンの製造方法。
【請求項4】
前記溶解工程において、前記混合物を溶解するための保持容器に炭素質材料を用いることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のフェロモリブデンの製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のフェロモリブデンの製造方法により製造されたことを特徴とするフェロモリブデン。

【図1】
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【公開番号】特開2008−274362(P2008−274362A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120529(P2007−120529)
【出願日】平成19年5月1日(2007.5.1)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】