説明

フェンタニルまたはその類似化合物を投与するための経皮治療システム

皮膚を通して有効成分を投与するための経皮治療システムであって、
a)裏打ち層、ならびに
b)b1)有効成分と、少なくとも1種のゲル形成剤と、少なくとも1種の可塑剤と、第1ポリイソブチレンとを含む第1層;および
b2)有効成分と、少なくとも1種のゲル形成剤と、少なくとも1種の可塑剤と、第2ポリイソブチレンとを含む第2層を含む、
該裏打ち層上に設けられたリザーバーを含み、
第1ポリイソブチレンが、第2ポリイソブチレンとは異なる種類のものであり、
少なくとも第1層が、未溶解の有効成分を有効成分粒子の形態で含んでおり、
該有効成分が、フェンタニルまたはその類似化合物であること
を特徴とする経皮治療システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、フェンタニルまたはその類似化合物を治療目的で経皮投与するためのシステムを提供することを目的とする。本発明の経皮治療システム(TTS)は、有効成分の含量が少ないことおよび小型の貼付剤であること特徴とする。
【背景技術】
【0002】
フェンタニルおよびその類似化合物、特に、アルフェンタニル、カルフェンタニル、ロフェンタニル、レミフェンタニル、スフェンタニル、トレフェンタニルおよびこれらの関連化合物は強力な合成オピオイドである。フェンタニルおよびこれらの類似化合物は有効性が高く、また急速に代謝される。フェンタニルの問題点として、治療係数が比較的小さいことが挙げられる。閾値を超えると望ましくない副作用が起こり、特に、呼吸抑制が起こった場合、適切な処置が取られなければ死に至る。上記の有効成分は比較的高価であり、また乱用される危険性が高いものである。したがって、フェンタニル貼付剤は、有効成分の放出が極めて厳密に制御されている必要があり、乱用を防止するため、有効成分が簡単には取り出せないような製品設計にしておかなければならない。
【0003】
経皮貼付剤とは、通常、送達される有効成分を含有した小型の粘着包帯を指す。このような粘着包帯には種々の形や大きさのものがある。最も単純なタイプは、担体上に有効成分貯蔵層(リザーバー)を含む、粘着式の一枚ものである。通常、リザーバーは、有効成分を含む薬学的に許容できる感圧粘着剤で形成されているが、適切な粘着剤からなる薄層を皮膚接触面に備えた非粘着性材料で形成することもできる。
【0004】
より複雑なタイプの貼付剤としては、(必要に応じて液体に溶解していてもよい)有効成分の貯蔵層(リザーバー)と、皮膚に接触する粘着剤およびリザーバーの間に配置された、有効成分の放出を制御する膜とを有する多層積層体または多層貼付剤が挙げられる。この膜は、インビトロおよびインビボにおいて貼付剤からの有効成分の送達速度を低下させることにより、皮膚の透過性のばらつきによる影響を制御し、必要に応じてそれを軽減する。
【0005】
経皮貼付剤のリザーバーには、完全に溶解した状態の有効成分を含有させることも、あるいは過剰量の未溶解有効成分を飽和濃度を超えて含有させることもできる(デポー貼付剤)。しかしながら、有効成分や他の成分が溶解していない状態で貼付剤に含まれていると、保管時および使用時に安定性に関する問題や他の問題が生じることがある。さらに、送達された有効成分を補うのに十分な速度で固形デポーから有効成分を確実に溶出させることも困難である。当該技術分野において、リザーバーに固形粒子形態の有効成分を含む有効成分含有貼付剤は、不都合を有すると考えられることが多い。
【0006】
当該技術分野において、フェンタニルを投与するための経皮貼付剤として種々のものが知られている。国際公開第02/074286号パンフレットには、リザーバーにフェンタニルを含む経皮貼付剤が記載されており、該リザーバーは、未溶解有効成分を含まない均一な状態のポリマー組成物(好ましくはポリアクリレート)を含む。この場合明らかに、過飽和は避けられなければならない。
【0007】
ポリイソブチレンからなるマトリックス層を基材とするフェンタニル貼付剤を調製した実験も数多く報告されている。このような実験は、フェンタニル貼付剤に関する基本特許である米国特許第4,588,580(A)号明細書に記載されている。この文献では、未溶解固形物としてフェンタニルを2%含有する、ポリイソブチレンマトリックスと鉱油とを用いた経皮治療システムが開示されている。しかしながら、実際にはこのようなシステムには不都合があり、ポリイソブチレンマトリックスを用いた開発はなされなくなった。その後、ポリイソブチレンマトリックスを使用する場合は、有効成分をポリイソブチレンマトリックスに完全に溶解する試みがなされてきた。
【0008】
ポリイソブチレンマトリックスを用いた経皮治療システムは、Royら,Journal of Pharmaceutical Sciences, Vol.85, No.5, May 1996, 491-495に記載されている。この文献によると、ポリイソブチレンマトリックスに含まれるフェンタニルの濃度が4%を上回るとフェンタニルが析出してくるが、この現象はRoyらにより明らかに不都合と考えられた。Royらは、有効成分の含量が少ない貼付剤として、ポリイソブチレンではなく、ポリシリコーンを用いたフェンタニル貼付剤を提案している。
【0009】
欧州特許第1 625 854号明細書、米国特許第2007/0009588号明細書、および米国特許第2006/0013865号明細書には、フェンタニルを含有するポリイソブチレンマトリックスが提案されており、この場合、フェンタニルをポリイソブチレンマトリックスに完全に溶解させるよう注意を払うことが記載されている。このように、マトリックス中に生じる結晶は不都合と考えられている。
【0010】
独国特許第198 37 902号明細書には、クロニジン投与に特に適した、ポリイソブチレンを基剤とする経皮治療システムが開示されている。有効成分としてフェンタニルが挙げられているにもかかわらず、本文献にはフェンタニル貼付剤は例示されていない。また、開示されている貼付剤に含まれる有効成分が固体であるべきことも記載されていない。さらに、貼付剤からの有効成分の放出に関するインビボ試験も本文献には記載されていない。なお、本文献記載の貼付剤のポリイソブチレン層には、充填剤が少なくとも5重量%含まれる。
【0011】
未公開欧州特許出願08155167.3号明細書には、有効成分と4重量%以下のゲル形成剤とを含むポリイソブチレン層が裏打ち層上に配置された、フェンタニルまたはその類似化合物を投与するための経皮治療システムが記載されている。本文献に記載されている経皮治療システムにおいては、粘着層がポリイソブチレン層上に配置されていてもよい。しかしながら、粘着層にはフェンタニルが含まれておらず、粘着層の組成も定義されていない。本文献記載の貼付剤は、公知のフェンタニル貼付剤に比べて、フェンタニルを長期間にわたりより均一に放出することができると考えられる。
【0012】
米国第2008/0175890(A1)号明細書は、経皮吸収促進剤を使用せずに、可能な限り高い透過流束でスフェンタニルが皮膚を通して吸収されるように設計されたスフェンタニル貼付剤に関する。ポリイソブチレンを基剤とする本文献記載の貼付剤は、可塑剤もゲル形成剤も含んでいない。本文献に開示されている貼付剤では、たとえば、良好な接着強度を持ち、非常に小型ながらも有効成分を長期にわたって徐放するといった、市販貼付剤にとって有利な特性は示されていない。
【0013】
欧州特許第0 272 987号明細書には、特別に設計された支持層が本発明に関連すると考えられる、有効成分を投与するための貼付剤が開示されている。本文献には、一例として、ポリイソブチレン層とポリジメチルシロキサン層との2種の有効成分層を含むフェンタニル貼付剤が開示されている。本文献では、ポリイソブチレン層からの有効成分の透過流束は、ポリジメチルシロキサン層からのそれよりも実質的に低いことが開示されている。
【0014】
国際公開第01/64149号パンフレットには、有効成分が部分的に溶解している有効成分層が一層設けられた有効成分貼付剤が開示されている。
【0015】
今現在、ポリイソブチレンを基剤とするフェンタニル貼付剤は市販されていない。
【0016】
市販されている公知のフェンタニル貼付剤は、通常、ポリアクリレートを基剤とするマトリックス貼付剤であるが、これらの貼付剤は有効成分含量が多いうえ、8cm以上と比較的大きな表面積を有する。患者の皮膚へ貼付する際、大きな表面積は不都合とみなされる。フェンタニルが高価であること、および乱用される危険性のあるものであることから、有効成分の含量が少なく、その残留含量も極めて少ない貼付剤を開発することが有利だと考えられる。
【0017】
市販されている従来のフェンタニル貼付剤としては、サイズが10.5cmで有効成分を4.2mg含むDUROGESIC(登録商標) SMATが挙げられる。より少量の有効成分を含むさらに小型の市販品としては、サイズが8.4cmであり、ポリシリコーンを基剤として有効成分を2.75mg含むMATRIFEN(登録商標)が挙げられる。しかしながら、公知の貼付剤と同等のサイズもしくはさらに小型であり、より少量の有効成分を含む貼付剤が求められている。このような貼付剤は、可能な限り良好な接着能を有するべきである。すなわち、意図した使用期間、通常、3日間またはそれ以上にわたって皮膚に接着可能であるが、同時に痛みを伴うことなく容易に除去可能であるべきである。さらに、これらの貼付剤の使用により、公知の市販品、具体的には、DUROGESIC SMATなどと同等もしくは少なくともかなり類似した血漿中濃度曲線が得られるべきである。特に、市販品であるDUROGESIC SMATと実質的に生物学的に同等なことが好ましい。「生物学的同等性」は、本発明に関連する国際公開第02/074286号パンフレットに定義されており、具体的な説明は該パンフレットを参照されたい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
先行技術を鑑みると、特に、先行技術でみられた問題点を示さない、皮膚を通してフェンタニルまたはその類似化合物を投与するための経皮治療システムを提供することが課題として挙げられる。具体的には、この課題を解決する本発明の貼付剤は、疼痛管理に必要とされる量のフェンタニルまたはその類似化合物を長期間にわたり均一に放出可能であるべきである。また、その血漿中濃度は、可能な限り長期間にわたって一定に保たれるべきであるが、市販品であるDUROGESIC SMATの使用により達成される血漿中濃度に実質的に相当するように、投与後約30〜72時間にわたって一定に保たれることが好ましい。好ましい実施形態において、本発明の貼付剤は、3日毎、4日毎、5日毎、6日毎、または7日毎に投与するように設計されている。したがって、本発明の貼付剤を、たとえば、3日用貼付剤、4日用貼付剤、5日用貼付剤、6日用貼付剤、または7日用貼付剤として使用できるように、血漿中濃度は相当する期間において実質的に一定に保たれることが好ましい。本発明によれば、市販品であるDUROGESIC SMATの投与期間に相当する3日用貼付剤が特に好ましい。
【0019】
さらに、本発明の貼付剤は、本発明の貼付剤の有効成分に相当する有効成分を含む従来の市販貼付剤と比較して、(放出速度が同一の場合において)有効成分含量が顕著に少なく、表面積がより小さいことを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
したがって、本発明は、皮膚を通して有効成分を投与するための経皮治療システムであって、
a)裏打ち層、ならびに
b)b1)有効成分と、少なくとも1種のゲル形成剤と、少なくとも1種の可塑剤と、第1ポリイソブチレンとを含む第1層;および
b2)有効成分と、少なくとも1種のゲル形成剤と、少なくとも1種の可塑剤と、第2ポリイソブチレンとを含む第2層を含む、
該裏打ち層上に設けられたリザーバーを含み、
第1ポリイソブチレンが、第2ポリイソブチレンとは異なる種類のものであり、
少なくとも第1層が、未溶解の有効成分を有効成分粒子の形態で含んでおり、
該有効成分が、フェンタニルまたはその類似化合物であること
を特徴とする経皮治療システムを提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による好ましい経皮治療システムの構造を示す断面図である。
【図2】インビトロにおけるフェンタニルの放出特性を示すグラフである。
【図3】貼付剤により達成されるフェンタニル血中濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明によれば、有効成分は、フェンタニルに加えて、アルフェンタニル、ロフェンタニル、レミフェンタニル、スフェンタニルなどのフェンタニルの類似化合物も好ましく、フェンタニルまたはスフェンタニルであることが特に好ましく、フェンタニルであることがさらに好ましい。以下、有効成分がフェンタニルである場合について本発明を実質的に説明する。しかしながら、それぞれの実施形態は、有効成分がフェンタニルの類似化合物である場合にも同様に適用することができる。
【0023】
本発明の貼付剤を使用することにより、意図した使用期間(特に好ましくは3日間)にわたって患者に鎮痛効果がもたらされ、かつ、有効成分の利用率が非常に高いことが好ましい。本発明の貼付剤において、有効成分含量に対する表面積の比率は、2〜5の範囲が好ましく、2〜4の範囲がより好ましく、2.2〜3.8の範囲が特に好ましい。
【0024】
好ましい経皮治療システムの構造の断面図を図1に示す。図1に示される好ましい経皮治療システムにおいて、経皮治療システムは、裏打ち層(1)と、第1層(2)および第2層(4)を含むリザーバーと、剥離層(5)とを含む。貼付剤はさらに膜(3)(任意)を含んでもよいが、含まない方が好ましい。さらに、被覆層を含んでもよく、裏打ち層上に実質的に固定せずに配置し、たとえば静電力によって付着させてもよい。被覆層は公知のものであり、包装から貼付剤を取り出すのを容易にする。被覆層と剥離層(5)は別物である。膜(3)、被覆層、および剥離層(5)は任意に含まれるが、通常、剥離層(5)は貼付剤に含まれる。図1において、第1層(2)中に含まれる未溶解の有効成分は、第1層(2)中の星印で示されている。
【0025】
本発明によれば、上記の構造を有する経皮治療システムが最も好ましい。しかしながら、また別の実施形態も可能であり、第1層および第2層に加えて、さらなる層(たとえば、有効成分を含まない裏打ち層、さらなるリザーバー層など)を配置してもよい。このような実施形態は下記において詳述されないが、当業者であれば本願の開示により容易にこのような貼付剤を調製することができる。したがって、以下の実施形態は、本発明による経皮治療システムの好ましい実施形態を示し、この実施形態においては、ちょうど2つの有効成分含有層と、任意に膜とが含まれ、さらなる層は含まれないが、この実施形態に関する記載は、有効成分を含んでよいさらなる層を有する、本明細書には記載されていないまた別の実施形態にも同様に適用することができる。
【0026】
裏打ち層(1)は、使用時に皮膚に向かい合う面とは反対側の、貼付剤の最も外側に位置する。裏打ち層(1)の、使用時にヒトの皮膚に向かい合う側には、第1層(2)および第2層(4)を含むリザーバーが位置する。裏打ち層(1)と接する第1層(2)に含まれる有効成分の含量は、皮膚に接する第2層(4)よりも高いことが好ましい。
【0027】
本発明によれば、第2層が裏打ち層の機能をも果たすように、第2層(4)の接着能が第1層(2)よりも高いことが好ましい。
【0028】
本発明によれば、第2層の接着能が、意図した作用期間にわたって経皮治療システムを確実に皮膚に接着させ、また、皮膚に損傷や炎症を与えることなく皮膚から経皮治療システムを取り外すことができるようなものであることが特に好ましい。
【0029】
少なくとも第1層(2)には、溶解した有効成分と粒子形態の未溶解有効成分とが含まれる。有効成分粒子については後に詳述する。
【0030】
本願明細書において言及される接着能は、ドイツ工業規格(DIN)に従って測定される。本発明において、接着能が、各層の絶対接着能によって決まるのではなく、第2層に対する第1層の相対接着能によって決まるのであれば、第1層の接着能と第2層の接着能とが同一の方法により決定される限り、DINに記載の方法とは異なるまた別の一般的な接着能測定方法を使用してもよい。
【0031】
第2層(4)上には、経皮治療システムを使用する前に剥がされる剥離層(5)がさらに配置されることが好ましい。
【0032】
第1層と第2層とが互いよりはみ出さないように、第1層の表面積と第2層の表面積とが貼付剤において同一であることが好ましい。
【0033】
さらなる実施形態において、有効成分の放出を制御する膜(3)が、経皮治療システムの第1層と第2層との間にさらに配置される。この膜は、インビボおよびインビトロにおいて貼付剤からの有効成分の放出速度を低減することを目的として設けられる。このようにして、皮膚における有効成分透過性のばらつきを均一化してもよい。この膜は、微多孔膜であることが好ましい。
【0034】
適切な膜は当該技術分野において公知である。好ましい実施形態において、この膜は、ポリプロピレンまたはポリエチレン酢酸ビニルを含むことができ、あるいはこれらのうちのいずれかから構成されていてもよい。膜として特に好ましい材料は、微多孔性ポリプロピレンフィルムである。
【0035】
膜の厚さは特に限定されないが、たとえば、10〜100μm、好ましくは50μm未満、たとえば約25μmとしてもよい。膜孔は、0.001〜0.025μmが好ましく、たとえば、0.002〜0.011μmとすることができ、約0.005μmが特に好ましい。膜孔の形状も特に限定されないが、長方形が好ましい。
【0036】
したがって、適切な膜としては、Celgard LLC(米国、シャーロット)よりCelgard 2400の商品名で販売されている、厚さ約25μm、膜孔約0.12μm×0.04μmの微多孔性ポリプロピレンフィルムが代表的なものとして挙げられる。
【0037】
しかしながら、本発明の貼付剤は膜を含まないことが好ましい。
【0038】
第2層(4)上には、図1において符号5で示される剥離層(剥離ライナー)が設けられている。剥離層は、高分子材料より調製することが好ましく、該高分子材料を金属で被覆してもよい。好ましい高分子材料としては、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、および、必要に応じこのようなポリマーで表面を被覆してもよい紙類が挙げられる。剥離層の片面または両面をフッ素またはシリコーンで処理することが好ましい。片面をシリコーン処理した商品である、Primeliner 100μm(Loparex社(オランダ))、Perolsic LF 75μm(Perlen Converting AG(スイス))などのフッ素またはシリコーンで処理した市販ポリエステルフィルムが特に好ましく、片面をフッ素で処理した商品である、Scotchpak 1022、Scotchpak 9742(3M社)などがさらに好ましい。
【0039】
本発明によれば、第1層と第2層のいずれもが有効成分(好ましくはフェンタニル)を含むことが必須である。本発明によれば、第1層に含まれる有効成分の濃度が、第2層よりも高いことが好ましい。本発明によれば、第1層に含まれる溶解した状態のフェンタニルの濃度は第1層におけるフェンタニルの飽和溶解度に相当するが、第1層中のフェンタニル(溶解状態のもの+未溶解状態のもの)の総濃度は、第1層におけるフェンタニルの飽和溶解度を上回るため、第1層に含まれるフェンタニルの一部は未溶解の状態で存在する。
【0040】
第1層中のフェンタニル(溶解したフェンタニルおよび未溶解のフェンタニル)の総濃度は、5〜15重量%が好ましく、8〜12重量%が特に好ましく、9〜11重量%がより好ましい。「重量%」は、有効成分および他の成分を含む第1層の総重量に対するパーセンテージを指す。
【0041】
第2層に含まれるフェンタニルは、完全に溶解した状態で存在することが好ましい。したがって、第2層に含まれるフェンタニルの濃度は、第2層におけるフェンタニルの飽和溶解度を下回ることが好ましい。しかしながら、本発明によれば、第1層と第2層のいずれにおいてもフェンタニルが部分的に結晶の状態で存在してもよい。
【0042】
第2層中のフェンタニルの濃度は、0.5〜3重量%が好ましく、1〜2.5重量%がより好ましく、1〜2重量%が特に好ましい。これらの値は、有効成分および他の成分を含む第2層の総重量に対するパーセンテージを指す。
【0043】
本願明細書において、フェンタニルの飽和溶解度または飽和濃度は、25℃における値であり、飽和溶解度は以下の手順で決定される。フェンタニル濃度を連続的に増加させた複数の貼付剤を調製し、25℃で保管する。これらの貼付剤を6ヶ月間にわたり観察する。6か月後に結晶化した(または固体として沈殿した)有効成分がみられない濃度のうち、最も高い濃度を飽和溶解度の下限とする。6か月後に結晶化した(または固体として沈殿した)有効成分がみられる濃度のうち、最も低い濃度を飽和溶解度の上限とする。このように、飽和溶解度は2種の境界よりなる範囲である。この測定法の正確性は、各貼付剤に含まれるフェンタニルの濃度の差を小さくすることによって高めることができる。この観察は視覚的に(肉眼で)行う。
【0044】
各層におけるフェンタニルの飽和溶解度は、公知の方法で調整することができる。たとえば、飽和溶解度に変化を与える物質を各層に添加することによって、またはこのような物質からなるマトリックスポリマーを選択することによって飽和溶解度を調整することができる。本発明によれば、各層に含まれる可塑剤の種類を変えたり、その濃度を変化させることによって飽和溶解度を調整することが特に好ましい。
【0045】
本発明によれば、第2層に含まれるフェンタニルの濃度が、第1層に含まれるフェンタニルの濃度よりも低いことが好ましい。第2層中のフェンタニルに対する第1層中のフェンタニルの比率(重量比)は、4〜12倍が好ましく、6〜10倍がより好ましく、7〜9倍が特に好ましい。
【0046】
リザーバー全体(第1層と第2層とを含み、有効成分を含むさらなる層を含んでもよい)における有効成分の濃度は、3〜20重量%が好ましく、4〜15重量%がより好ましく、5〜10重量%が特に好ましい。ここで、「重量%」は、リザーバーの総重量(有効成分および他の成分を含む有効成分含有層をすべて合わせた重量)に対するパーセンテージを示す。
【0047】
上記の濃度は、単位面積当たりの含量に換算すると、好ましくは20〜100g/m、より好ましくは25〜80g/m、特に好ましくは30〜70g/mとなる。リザーバーの厚さ(各層を含み、膜を含んでもよい)(乾燥時)は、20〜400μmが好ましく、30〜200μmがより好ましく、40〜100μmが特に好ましい。
【0048】
本発明の経皮治療システムにおいて、有効成分含有層はすべてリザーバーに含まれる、すなわち、有効成分含有層はリザーバーにしか含まれない。
【0049】
可塑剤としては、当技術分野において経皮治療システムの可塑剤として用いられる基本的に公知の化合物を使用することができる。可塑剤は、有効成分の皮膚への透過性を高めるものであることが好ましい。特に好適な実施形態においては、溶液中に溶解した有効成分が一定量で維持されるように、可塑剤を使用してリザーバーにおける有効成分の溶解度を調節する。したがって、上記で定義されているように、可塑剤は、第1層と第2層のいずれにも含まれる。これらの層に含まれる可塑剤は、同一の化合物であることが好ましいが、第2層とは異なる種類の可塑剤を第1層に含有させることも可能である。特に、所望であれば、可塑剤を使用することにより、第1層における有効成分の溶解度が第2層における有効成分の溶解度とは異なるように調整してもよい。
【0050】
好ましい可塑剤としては、鉱油、アマニ油、パルミチン酸オクチル、スクアレン、スクアラン、シリコーンオイル、ミリスチン酸イソブチル、イソステアリルアルコール、およびオレイルアルコールが挙げられ、特に鉱油が好ましい。流動パラフィンとも称される鉱油は、無色透明の炭化水素である。鉱油は、固形の炭化水素物から遊離した、沸点が300℃を上回る石油留分を冷却することによって得られ、溶媒を用いた抽出ならびに漂白土および/または硫酸を用いた処理によって精製される。細菌の増殖を抑制し、かつ化学的にも生物学的にも安定した鉱油が好適である。適切な分留により、体温(約35〜37℃)に近い温度においては液体で、それよりも低い温度(特に20℃未満)においては固体である鉱油が得られる。液化点が約30〜35℃である鉱油を選択することが好ましい。
【0051】
第1層における可塑剤の割合が、第2層のそれよりも高いことが好ましい。
【0052】
第1層中の可塑剤の含量は、(第1層の総重量に対して)好ましくは10〜60重量%、より好ましくは25〜50重量%、特に好ましくは30〜40重量%である。
【0053】
第2層中の可塑剤の含量は、(第2層の総重量に対して)好ましくは1〜15重量%、より好ましくは2〜10重量%、特に好ましくは3〜8重量%、たとえば約5重量%である。
【0054】
本発明の経皮治療システムにおいて、ヒトに鎮痛効果をもたらしかつその効果を(貼付剤を投与した時点を基準として)所望の期間、好ましくは少なくとも2日間、より好ましくは少なくとも3日間維持するのに十分な量のフェンタニルまたはその類似化合物がリザーバーに含まれていなければならない。リザーバーにおけるフェンタニルまたはその類似化合物の含量は、鎮痛効果をもたらしかつその効果を少なくとも3日間、特に3〜7日間、特に好ましくは3日間維持するのに十分な量が好ましい。
【0055】
本発明による貼付剤の層には、ゲル形成剤も含まれる。このゲル形成剤は、表面に高濃度の極性基を有する粒子構造をもつものであることが好ましい。これらの極性基は、その高い濃度に応じて、上記の油類(可塑剤)に対し高い界面張力を引き起こすが、この界面張力の一部が粒子同士の凝集により打ち消されゲル骨格が形成される。したがって、油類とゲル形成剤表面との間の極性の差が大きくなればなるほど、ゲル骨格はより強固となる。本発明によれば、ゲル形成剤として高分散シリカまたはコロイダルシリカを使用することが好ましい。ゲル形成剤の粒径は、たとえば400〜1500nmのナノ領域であることが好ましく、500〜1000nmであることが特に好ましい。コロイダルシリカは、たとえば、Cab−O−Sil(登録商標)の名称で市販されており、鉱油の増粘剤として知られている。また別の適切なゲル形成剤としては、ベントナイトが挙げられる。ゲル形成剤として知られているカルボマーナトリウムも使用することができる。それぞれの層におけるゲル形成剤の使用量は、各層の総重量に対して、0.1〜4.0重量%が好ましく、0.5〜2.0重量%がより好ましい。
【0056】
可塑剤について述べられたのと同様に、各層(具体的には、第1層よび第2層)に含まれるゲル形成剤は、同一のものであることが好ましいが、それぞれの層に異なる種類のゲル形成剤を使用することもできる。
【0057】
本発明によれば、第1層のポリイソブチレン(第1ポリイソブチレン)と、第2層のポリイソブチレン(第2ポリイソブチレン)とが異なることは必須である。本発明によれば、第1ポリイソブチレンの平均分子量と、第2ポリイソブチレンの平均分子量とが異なることが好ましい。(本願明細書において、特別に記載があるもしくは本明細書の記載より明らかである場合を除き、平均分子量とは、常に重量平均分子量(Mw)を指す。当業者に知られているように、通常、重量平均分子量(Mw)はGPCによって決定される。)
【0058】
本発明によれば、第1ポリイソブチレンの平均分子量が100,000〜10,000,000であり、第2のポリイソブチレンの平均分子量が15,000〜5,000,000であり、かつ、第2ポリイソブチレンの平均分子量が、第1ポリイソブチレンの平均分子量よりも小さいことが好ましい。
【0059】
本発明によれば、第1ポリイソブチレンは、平均分子量が異なる少なくとも2種のポリイソブチレンの混合物からなることが好ましい。これは、第1ポリイソブチレンの分子量分布に、少なくとも2つのピークがみられることを意味する。
【0060】
すなわち、第1ポリイソブチレンが、第1重量平均分子量を有するポリイソブチレンと第2重量平均分子量を有するポリイソブチレンとの混合物であり、第1重量平均分子量が第2重量平均分子量よりも大きいことが好ましい。この実施形態において、第1重量平均分子量を有するポリイソブチレンと第2重量平均分子量を有するポリイソブチレンの比率が、1:0.1〜1:10であることが特に好ましく、1:0.5〜1:2(たとえば1:1)であることがより好ましい。
【0061】
本発明によれば、第2ポリイソブチレンは、平均分子量が異なる少なくとも2種のポリイソブチレンの混合物からなることが好ましい。これは、第2ポリイソブチレンの分子量分布にも、少なくとも2つのピークがみられることを意味する。
【0062】
すなわち、第2ポリイソブチレンが、第1重量平均分子量を有するポリイソブチレンと第2重量平均分子量を有するポリイソブチレンとの混合物であり、第1重量平均分子量が第2重量平均分子量よりも大きいことが好ましい。この実施形態において、第1重量平均分子量を有するポリイソブチレンと第2重量平均分子量を有するポリイソブチレンの比率が、1:1〜1:100であることが特に好ましく、1:5〜1:20(たとえば約1:9または1:10)であることがより好ましい。
【0063】
本発明によれば、第1ポリイソブチレンと第2ポリイソブチレンのいずれもが、少なくとも2種のポリイソブチレンの混合物からなることが好ましく、平均分子量が大きいポリイソブチレンと平均分子量が小さいポリイソブチレンとの2種のポリイソブチレンの混合物からなることがより好ましい。
【0064】
上記混合物に含まれる一方のポリイソブチレン(高分子量ポリイソブチレン、すなわち、第1重量平均分子量を有するポリイソブチレン)の平均分子量が、150,000〜10,000,000であることが好ましく、500,000〜10,000,000であることが特に好ましい。また、上記混合物に含まれる他方のポリイソブチレン(低分子量ポリイソブチレン、すなわち、第2重量平均分子量を有するポリイソブチレン)の平均分子量がより小さく、15,000〜100,000の範囲であり、20,000〜80,000であることが好ましい。主に、平均分子量が小さいポリイソブチレンが貼付剤の接着性を担う。
【0065】
本発明の一実施形態において、第1ポリイソブチレンを構成する混合物に含まれる高分子量ポリイソブチレンの平均分子量と、第2ポリイソブチレンを構成する混合物に含まれる高分子量ポリイソブチレンの平均分子量とが異なり、および/または、第1ポリイソブチレンを構成する混合物に含まれる低分子量ポリイソブチレンの平均分子量と、第2ポリイソブチレンを構成する混合物に含まれる低分子量ポリイソブチレンの平均分子量とが異なる。
【0066】
しかしながら、本発明によれば、第1ポリイソブチレンを構成する混合物と第2ポリイソブチレンを構成する混合物のそれぞれに含まれる高分子量ポリイソブチレンの平均分子量が実質的に同一であることが好ましい。また、本発明によれば、第1ポリイソブチレンを構成する混合物と第2ポリイソブチレンを構成する混合物のそれぞれに含まれる低分子量ポリイソブチレンの平均分子量が実質的に同一であることが好ましい。したがって、第1ポリイソブチレンと第2ポリイソブチレンとの相違は、それぞれを構成する混合物に含まれる2種のポリイソブチレンの比率(高分子量ポリイソブチレンと低分子量ポリイソブチレンの比率、すなわち、第1重量平均分子量を有するポリイソブチレンと第2重量平均分子量を有するポリイソブチレンの比率)が異なる点にある。
【0067】
すなわち、高分子量ポリイソブチレンの占める割合が、第1ポリイソブチレンを構成する混合物と第2ポリイソブチレンを構成する混合物とで異なり、また、それに応じて、低分子量ポリイソブチレンの占める割合が、第1ポリイソブチレンを構成する混合物と第2ポリイソブチレンを構成する混合物とで異なる。
【0068】
本発明によれば、「実質的に同一」とは、最大値を基準とした、(たとえば、平均分子量の)それぞれの値の差が10%未満であることを指す。好ましくは、これは、測定精度の範囲内においてそれぞれの値が同一であることを意味する。
【0069】
第1ポリイソブチレンを構成する混合物において、高分子量ポリイソブチレンと低分子量ポリイソブチレンの比率は、0.05:1〜20:1が好ましく、0.5:1〜2:1(たとえば、約1:1)が特に好ましい。
【0070】
第2ポリイソブチレンを構成する混合物においては、通常、低分子量ポリイソブチレンの占める割合が、第1ポリイソブチレンを構成する混合物におけるその割合よりも高い。具体的には、低分子量ポリイソブチレンと高分子量ポリイソブチレンの比率は、1:1〜30:1が好ましく、2:1〜15:1が特に好ましく、この範囲内の比率としてたとえば約9:1が挙げられ、この比率においては、低分子量ポリイソブチレンの含量が、高分子量ポリイソブチレンの含量の約9倍である(すべて重量に基づく)。
【0071】
第1ポリイソブチレンの割合は、第1層の総重量に対して、30〜80重量%が好ましく、40〜65重量%がより好ましく、50〜60重量%が特に好ましい。
【0072】
第2ポリイソブチレンの割合は、第2層の総重量に対して、50〜98重量%が好ましく、60〜95重量%がより好ましく、80〜95重量%(たとえば、約93重量%)が特に好ましい。
【0073】
特定の重量平均分子量を有するポリイソブチレンは市販されており、本発明の記載に従い、これを第1ポリイソブチレンおよび/または第2ポリイソブチレンとして使用してもよい。本発明において特に好ましいとされる、分子量が異なる少なくとも2種のポリイソブチレンの混合物は、たとえば、市販ポリイソブチレンを混合することにより調製してもよい。この混合物の調製は、2種の市販ポリイソブチレンを適切な溶媒(たとえば、n−ヘプタン)に溶解し混合することによって行う。次いで、溶媒は適切に留去することができる。
【0074】
高分子量ポリイソブチレン(第1重量平均分子量を有するポリイソブチレン)としては、市販品である、オパノールB80、B100、B150およびB200が挙げられ、オパノールB80またはB100が好ましく、オパノールB100(Mw=1,100,000)が特に好ましい。低分子量ポリイソブチレン(第2重量平均分子量を有するポリイソブチレン)としては、オパノールB10 SFN〜B15 SFN、特にオパノールB10 SFN(Mw=36,000)が挙げられる。第1ポリイソブチレンとしては、オパノールB100とオパノールB10 SFNとを1:1の割合で混合したものが好ましく、第2ポリイソブチレンとしては、オパノールB100とオパノールB10 SFNとを1:9の割合で混合したものが好ましい。
【0075】
第1ポリイソブチレンを構成する混合物および第2ポリイソブチレンを構成する混合物のさらに好ましい例を以下に挙げる。
【0076】
【表1】

【0077】
さらに、上記の混合物において、オパノールB10 SFNの代わりにオパノールB12 SFNを使用することも好ましい。
【0078】
特別に記載があるもしくは本明細書の記載より明らかである場合を除き、本明細書において、「総重量」とは、通常、すべての成分を含んだ乾燥重量、すなわち、すぐに使用できる状態の貼付剤の重量を指す。
【0079】
本発明の経皮治療システムにおいて、少なくとも第1層が多量の有効成分を含み、その一部が未溶解の状態で含まれること、すなわち、有効成分粒子として存在することが必須である。
【0080】
本発明の貼付剤の製造において、有効成分は、平均粒径が50μm以下、好ましくは20μm以下の微粒子の形態で使用することが好ましい。貼付剤の第1層には、有効成分が微粒子の形態で含まれるが、貼付剤保管中の再構成反応により粒径にわずかなばらつきが生じる可能性がある。しかしながら、貼付剤に含まれる有効成分粒子の平均粒径は、100μm未満が好ましく、50μm未満がより好ましく、約20μm以下が特に好ましい。本発明の貼付剤の製造において、平均粒径が好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上の微粒子化したフェンタニルを使用することが好ましい。さらに、最終製品である貼付剤中に、この平均粒径の粒子が存在することが好ましい。経皮治療システムの層に含まれる有効成分粒子の粒径および粒度分布は、慣用の光学顕微鏡法で測定することができる。測定結果は、一般に、使用する顕微鏡に適した慣用のコンピュータプログラム(画像処理システム)で評価する。特別に記載があるもしくは本明細書の記載より明らかである場合を除き、「粒径」とは粒子直径である。
【0081】
微粒子化したフェンタニルの出発原料として、それ自体が臨床応用に適した市販のフェンタニルを使用する。通常、このようなフェンタニルは、粒子の100%が2,500μm未満であり、粒子の約90%が約1,000μm未満であり、粒子の50%が約100μm未満である粒度分布を示す。
【0082】
本発明によれば、所望の粒径が得られる公知の微粒子化方法であればどのような方法を利用してもよい。慣用の「ジェットミル」、たとえば、ホソカワアルピネ社のAS型ジェットミルを用いて微粒子化したフェンタニルを使用することが好ましい。
【0083】
本発明の記載に従った微粒子化方法によって、フェンタニルの平均粒径を上記の範囲に調整することが好ましい。また、粒子の100%が50μm未満、特に20μm未満であることが好ましい。微粒子の約90%が12μm未満であり、約50%が6μm未満であることが好ましい。
【0084】
有効成分の粒径および粒度分布を決定する方法には種々のものがあり、たとえば、「マルバーン マスターサイザーX」などのマルバーン社の機器で使用されている光散乱法(レーザー回折法);アビセルPH(登録商標)の粒度分布を決定するためにFMC社で使用されている機械式振動ふるい法;および、アルピネ(登録商標)「エアジェット」200型を用いて行うことができる「エアジェット」ふるい分析が挙げられる。
【0085】
特別に記載がある場合を除き、(平均)粒径および粒度分布は、たとえばマルバーン社のマスターサイザー2000を用いて、レーザー回折法により決定される。
【0086】
有効成分を平均粒径および粒度分布により定義すると、本発明において使用される微粒子化された有効成分の平均粒径は20μm以下が好ましく、その粒度分布は、25μm以上の粒子が10%未満であり、かつ1μm以下の粒子が10%未満であることが好ましい。有効成分の平均粒径が15μmであることがさらに好ましく、このときの粒度分布としては、20μm以上の粒子が2%未満であり、かつ6μm以下の粒子が50%未満である粒径分布が好ましい。有効成分の粒度分布は可能な限り狭くするべきである。
【0087】
リザーバーの、使用時にヒトの皮膚の反対側となる面には、裏打ち層が設けられ、好ましい実施形態においては閉塞性または密閉性裏打ち層が設けられる。好ましい実施形態において、このような裏打ち層は、ポリオレフィン、特にポリエチレンで構成することができ、ポリエステルまたはポリウレタンでも構成することができる。あるいは、種々の異なるポリマーを数枚積層させた層を用いると有利である。裏打ち層の材料としては、マイラン・テクノロジーズ社からMediflex(登録商標)1000の名称で市販されているポリオレフィンが特に好ましい。他の好適な材料としては、セロファン、酢酸セルロース、エチルセルロース、可塑剤を含む酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、エチレン/酢酸ビニルコポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン、エチレン/メタクリレートコポリマー、必要に応じて被覆した紙類、編織布、およびポリエチレンテレフタレートフィルムなどのポリエステルフィルムが挙げられる。アルミニウムフィルム、およびポリマー/金属複合材料が特に好ましい。裏打ち層の厚さは、たとえば10〜80μmであり、たとえば、当該技術分野において一般的な約55μm(呼び厚さ)である。
【0088】
貼付剤の裏打ち層上には、特に、ポリイソブチレンまたは粘着剤が少量滲出した場合に貼付剤が包装に付着するのを防ぐための被覆層を設けることが好ましい。被覆層は、裏打ち層上に固定せずに配置し、静電気により付着させることが好ましい。このような被覆層は、当該技術分野において公知であり、たとえば、欧州特許第1 097 090号明細書に記載されており、この明細書に記載の内容は、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。被覆層は非粘着性であり、少なくとも裏打ち層に接する面は、たとえば、シリコーンまたはフッ素で処理されている。
【0089】
好ましい経皮治療システムは、以下のように調製する。まず、第1層の構成成分のうち、たとえば、フェンタニルとゲル形成剤とを混合し、ヘプタンなどの有機溶媒中に分散させる(フェンタニルの一部は有機溶媒中に溶解させる)。これとは別に、鉱油とポリイソブチレンとを(好ましくは、上記と同一の)有機溶媒中で混合する。次いで、上記のフェンタニルとゲル形成剤との混合物を、ポリイソブチレンと鉱油との混合物中に分散させる。上記混合物の製造における有機溶媒としては、揮発性有機溶媒、たとえばヘプタンを使用するのが好ましい。次に、得られた混合物を均一な層になるように裏打ち層上に塗布し、乾燥させる。膜を配置する場合は、リザーバーの、裏打ち層とは反対側の面に配置する。
【0090】
別工程において、第2層の構成成分を、上記の第1層の調製と実質的に同様の方法で混合する。ただし、第2層の調製では、フェンタニル全量を溶解させることが好ましい。したがって、フェンタニルの使用量は、第2層におけるフェンタニルの飽和溶解度を下回るべきであり、また、調製する際には、フェンタニルが完全に溶解したことを確認する必要がある。
【0091】
次いで、第2層の構成成分と溶媒との混合物を、剥離フィルムに塗布し、乾燥させる。
【0092】
次いで、両工程で得られた層を積層するが、膜を設ける場合、膜上に第2層が配置されるように積層する。膜を使用しない実施形態においては、第1層上に第2層を直接積層する。その後、最終的に得られた積層フィルムを、所望の大きさに打ち抜き、包装することができる。
【0093】
それぞれの製造工程において、ポリイソブチレンの溶解および他の構成成分の溶解・分散に必要とされた有機溶媒は、通常、製品の温度を上昇させて、必要に応じて減圧下で留去する。
【0094】
本発明の経皮治療システムにより、公知の貼付剤、特に市販の貼付剤と比較して、有効成分含量がより少なくサイズがより小さい、フェンタニルまたはその類似化合物を投与するのに実用的な貼付剤を提供することができる。具体的には、有効成分含量が顕著に少なく小型であるにもかかわらず、市販品であるDUROGESICと実質的に生物学的に同等な(国際公開第02/074286号パンフレットに記載の定義を参照)、有効成分フェンタニルを投与するための貼付剤を提供することができる。DUROGESIC SMAT貼付剤は、サイズが10.5cmで、フェンタニルを4.2mg含み、その放出速度は25μg/hである。これと比較すると、本発明の貼付剤は、わずか6.6cmのサイズであり、フェンタニルを2.23mgしか含んでいないが、その放出速度は上記と同様の25μg/hで、DUROGESIC SMAT貼付剤と実質的に生物学的に同等の機能を有する。加えて、本発明の貼付剤は、現在市販されているポリシリコーン貼付剤、たとえば、サイズが8.4cmで、フェンタニルを2.75mg含み、その放出速度が25μg/hである市販品MATRIFENなどよりも、有効成分含量が少なく小型である。
【0095】
以下の実施例により本発明を説明するが、これらに限定されない。
【実施例】
【0096】
実施例1(比較例)
a)第1層の調製
経皮貼付剤を調製するために、まず、平均粒径が20μm(たとえば、Gesellschaft fur Micronisierung mbH、およびAS型ジェットミル(ホソカワアルピネ社)により微粒子化したもの)のフェンタニルを、ポリイソブチレン(n−ヘプタンに溶解した、オパノールB100とオパノールB10 SFNとの1:1混合物)、ゲル形成剤としてのシリカ(Cab−O−Sil M−5P)、および可塑剤としての鉱油「Klearol」とともに、ヘプタン中に分散させた。得られた混合物を、単位面積当たりの重量が約55g/mとなるように、裏打ち層上に薄層状に塗布し乾燥させた。
【0097】
b)膜の配置
得られた第1層上に、微多孔性ポリプロピレンフィルム(Celgard 2400)を膜として配置した。
【0098】
c)第2層の調製
上記とは別に、ポリイソブチレンのみ(ヘプタンに溶解した、オパノールB100とオパノールB10 SFNとの1:1混合物)を、単位面積当たりの重量が約30g/mとなるように、剥離層に薄層状に塗布し乾燥させた。単位面積当たりの重量誤差は10%であった。
【0099】
d)貼付剤の調製
上記で得られた2枚の層を乾燥させた後、両者を積層した。膜は、適度な圧力によりリザーバーと接着させた。次いで、10cmの角丸長方形に貼付剤を打ち抜き、被覆フィルムとともに包装した(サイズ:10cm)。最終製品の組成を以下に示す。
【0100】
【表2】

* 最終製品には含まれない
【0101】
上記実施例で使用した構成成分をより詳細に以下に示す。
【0102】
【表3】

【0103】
実施例2(本発明)
下記の表に記載された構成成分を下記の表に記載の濃度で使用して、実施例1(比較例)と同様の方法で経皮治療システムを調製した。ただし、第1層上には膜を配置せず、第2層の調製においてはフェンタニル全量が完全に溶解するよう注意を払った。したがって、実施例1(比較例)の工程b)は行わず、工程d)においては、第1層を膜で覆うことなく2枚の層を積層した。
【0104】
次いで、約7cmの角丸長方形に貼付剤を打ち抜き、被覆フィルムとともに包装した(公称放出速度:25μg/h;サイズ:6.6cm;フェンタニル総含量:2.23mg)。
【0105】
【表4】

* 最終製品には含まれない
【0106】
実施例3
実施例1(比較例)および実施例2(本発明による実施例)の貼付剤を打ち抜いてサンプルを得た後、インビトロにおけるフェンタニルの放出特性を、一般的なフランツセルに装着したマウス皮膚を用いて決定した。結果を図2に示す。有効成分含量は、実施例2の貼付剤よりも実施例1の貼付剤の方が多かった(0.338mg/cm(実施例2)に対し、0.495mg/cm(実施例1))にもかかわらず、フェンタニルのインビトロにおける放出速度は、比較例1の貼付剤よりも実施例2の本発明による貼付剤の方が顕著に速かった。
【0107】
実施例4
市販貼付剤のDUROGESIC SMATを対照として、実施例2の貼付剤により達成されるヒト患者におけるインビボ血中濃度を臨床研究において調査した。なお、市販貼付剤であるDUROGESIC SMATは、サイズが10.5cmであり、有効成分フェンタニルを4.2mg含む。本発明の経皮治療システムは、サイズが6.6cmであり、有効成分フェンタニルを2.23mg含む。
【0108】
臨床研究の結果を図3に示す。実施例2の貼付剤を「FIA−TDS Acino」で示す。本発明による貼付剤は、対照である市販品と比較して、サイズが顕著に小さい上にフェンタニルを半分未満しか含まないにもかかわらず、対照である市販品に匹敵するフェンタニル血中濃度を達成できることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚を通して有効成分を投与するための経皮治療システムであって、
a)裏打ち層、ならびに
b)b1)有効成分と、少なくとも1種のゲル形成剤と、少なくとも1種の可塑剤と、第1ポリイソブチレンとを含む第1層;および
b2)有効成分と、少なくとも1種のゲル形成剤と、少なくとも1種の可塑剤と、第2ポリイソブチレンとを含む第2層を含む、
該裏打ち層上に設けられたリザーバーを含み、
第1ポリイソブチレンが、第2ポリイソブチレンとは異なる種類のものであり、
少なくとも第1層が、未溶解の有効成分を有効成分粒子の形態で含んでおり、
該有効成分が、フェンタニルまたはその類似化合物であること
を特徴とする経皮治療システム。
【請求項2】
前記第1ポリイソブチレンが、第1重量平均分子量を有するポリイソブチレンと第2重量平均分子量を有するポリイソブチレンとの混合物であり、第1重量平均分子量が第2重量平均分子量よりも大きいことを特徴とする、請求項1に記載の経皮治療システム。
【請求項3】
前記第2ポリイソブチレンが、第1重量平均分子量を有するポリイソブチレンと第2重量平均分子量を有するポリイソブチレンとの混合物であり、第1重量平均分子量が第2重量平均分子量よりも大きいことを特徴とする、請求項1または2に記載の経皮治療システム。
【請求項4】
前記第1ポリイソブチレンを構成する混合物に含まれる前記第1重量平均分子量を有するポリイソブチレンの重量平均分子量が、前記第2ポリイソブチレンを構成する混合物に含まれる前記第1重量平均分子量を有するポリイソブチレンの重量平均分子量と実質的に同一であり、前記第1ポリイソブチレンを構成する混合物に含まれる前記第2重量平均分子量を有するポリイソブチレンの重量平均分子量が、前記第2ポリイソブチレンを構成する混合物に含まれる前記第2重量平均分子量を有するポリイソブチレンの重量平均分子量と実質的に同一であることを特徴とする、請求項3に記載の経皮治療システム。
【請求項5】
前記第2重量平均分子量を有するポリイソブチレンの重量平均分子量が、15,000〜100,000であること、および前記第1重量平均分子量を有するポリイソブチレンの重量平均分子量が、500,000〜10,000,000であることを特徴とする、請求項2〜4のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項6】
前記リザーバーに含まれる前記有効成分の濃度が、すべての有効成分含有層を合わせた重量に対して、3〜20重量%の範囲内であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項7】
前記第1層が、前記裏打ち層上に配置されており、前記第2層よりも高濃度の前記有効成分を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項8】
剥離層をさらに有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項9】
前記第2層が前記第1層上に配置されているか、前記第1層上に配置された膜上に前記第2層が配置されていることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項10】
前記第2層の接着能が前記第1層よりも高いことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項11】
ヒト患者に鎮痛効果をもたらしかつその効果を3〜7日間維持するのに十分な量のフェンタニルまたはその類似化合物が前記リザーバーに含まれることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項12】
前記可塑剤が鉱油であり、前記ゲル形成剤がコロイダルシリカまたはベントナイトであることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項13】
前記リザーバーに含まれる前記有効成分粒子が、平均粒度50μm以下、特に20μm以下の微粒子の形態であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項14】
前記裏打ち層が、閉塞性裏打ち層であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項15】
前記第1層がその総重量に対してポリイソブチレンを30〜80重量%含み、前記第2層がその総重量に対してポリイソブチレンを50〜98重量%含むことを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項16】
前記第1層がその総重量に対して前記可塑剤を10〜60重量%含み、前記第2層がその総重量に対して前記可塑剤を1〜15重量%含むことを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項17】
前記第1層が、すべての有効成分含有層を合わせた重量に対して前記有効成分を3〜15重量%含み、前記第2層が、すべての有効成分含有層を合わせた重量に対して前記有効成分を0.5〜5重量%含み、前記第1層中の前記有効成分の濃度が前記第2層よりも高いことを特徴とする、請求項1〜16のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項18】
前記有効成分が、フェンタニル、アルフェンタニル、ロフェンタニル、レミフェンタニル、およびスフェンタニルからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜17のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか一項に記載の経皮治療システムの調製方法であって、
第1層の構成成分と任意に1種以上の溶媒とを含む第1混合物を、経皮治療システムの裏打ち層上に塗布し、必要に応じて溶媒を留去すること、
第2層の構成成分と任意に1種以上の溶媒とを含む第2混合物を、剥離層上に塗布し、必要に応じて溶媒を留去すること、
必要に応じて膜を第1層上または第2層上に配置すること、および
得られた層を積層すること
を含む経皮治療システムの調製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−504546(P2013−504546A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528387(P2012−528387)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【国際出願番号】PCT/EP2010/063433
【国際公開番号】WO2011/029948
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(510002350)アシノ アーゲー (7)
【Fターム(参考)】