説明

フォトリソグラフィ用高分子化合物の金属イオン不純物除去方法

【課題】フォトレジスト用組成物または反射防止膜用組成物に使用されるのに好適な高分子化合物を強酸性イオン交換性基との反応による化学構造等の変化を生じることなく効率的に金属イオン不純物またはゲル粒子を除去する方法を提供する。
【解決手段】側鎖に架橋剤が付加された高分子化合物を含む溶液を、濾材に強酸性イオン交換基を含まず、かつ、ゼータ電位が生じる電荷調整剤を含む一以上のフィルターを通過させることにより、前記溶液中の金属イオン不純物を除去する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトリソグラフィ用組成物、例えば、フォトレジストもしくは反射防止膜組成物として使用するのに好適な高分子化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から半導体デバイス製造工程において、フォトリソグラフィによる微細加工が用いられており、例えば、シリコンウエハ等の半導体基板上にフォトレジストや反射防止膜等のフォトリソグラフィ用組成物の薄膜を形成し、次いで半導体デバイスのパターンが描かれたマスクパターンを介して紫外線等の活性光線を照射し、現像して得られたフォトレジストパターンを保護膜として基板をエッチング処理することにより、基板表面に該パターンに対応する微細凹凸が形成されている。
【0003】
金属イオン汚染は、高密度集積回路、コンピュータチップ及びコンピュータハードドライブの製造において、しばしば欠陥の増加や収量損失を招き、性能低下を引き起こす大きな要因となっている。例えば、プラズマプロセスでは、ナトリウム及び鉄等の金属イオンがフォトリソグラフィ用組成物中に存在すると、プラズマ剥離の際に汚染を生じる恐れがある。しかし、これらの問題は、高温アニールサイクルの間に汚染物のHClゲッタリングを利用することにより、製造プロセスにおいて実質的な程度に問題を抑制することが可能である。
【0004】
一方、リソグラフィ用組成物であるフォトレジストおよび反射防止膜等の高分子化合物を製造する際は、高分子化合物および/または高分子化合物溶液中には遊離酸やゲル粒子が残存または発生することがある。これらの因子は、フォトレジストや反射防止膜、その他の電子材料、例えばハードマスクコーティング、層間コーティング及びフィルレイヤーコーティングの不良要因となり得る。
【0005】
フォトリソグラフィ等の微細加工技術の発展により電子デバイスがより精巧なものとなっており、これらの諸問題は、完全な解決が困難となっている。非常に低レベルの金属イオン不純物の存在により、半導体デバイスの性能及び安定性が低下することがしばしば観察されており、これらの主要因は、特にフォトリソグラフィ用組成物中に含まれるナトリウム及び鉄イオンであることが確認されている。
【0006】
更には、フォトリソグラフィ用組成物中の100ppb未満の金属イオン不純物濃度が、このような電子デバイスの性能及び安定性に悪影響を及ぼすことも明らかになっている。従来、フォトリソグラフィ用組成物中の金属イオン不純物濃度は、厳しい不純物濃度規格を満たす材料を選択することやフォトリソグラフィ用組成物の調整段階で金属イオン不純物が混入しないように徹底したプロセス管理を行うことで、管理されている。
【0007】
特許文献1及び2には、イオン交換樹脂を含むフィルターを使用して、フォトレジスト組成物からイオン性不純物や金属イオン不純物を除去する方法が開示されている。更に、特許文献3及び特許文献4には、電位吸着による金属除去方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6103122号明細書
【特許文献2】特開2007−291387号公報
【特許文献3】特開平8−165313号公報
【特許文献4】特開平10−237125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、近年の半導体集積回路の微細化に伴い、金属イオン等の不純物の除去工程だけでなく、フォトリソグラフィ用組成物の物性においてリソグラフィ特性の高い再現性が要求されており、特に、フォトリソグラフィ用組成物中に含まれる組成物であるフォトレジスト組成物または反射防止膜組成物中の高分子化合物の物性、例えば、分子量・分散度・光学定数等、に高い再現性が要求されている。
【0010】
つまり、フォトリソグラフィ用組成物に含まれる金属イオン不純物の低減とそこで用いられる高分子化合物の高い再現性を非常に精密な領域で制御することが必要であり、光学定数である屈折率及び消衰係数は、高分子化合物に大きく影響されることから、高分子化合物の化学構造を変化させることなく金属イオン不純物の除去をすることが要求されている。一方、特許文献1〜4においては、いずれも強酸性イオン交換性樹脂を含むフィルターを用いて濾過処理を行っており、このような従来の金属イオン不純物を除去するために用いられてきた手法では、これらのイオン交換性基との化学反応によりフォトレジスト組成物中の保護基の脱離またはポリマー側鎖に架橋剤が付加した高分子化合物を含む反射防止膜組成物の架橋反応の進行といった問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の要旨は、側鎖に架橋剤が付加された高分子化合物を含む溶液を、濾材に強酸性イオン交換基を含まず、かつ、ゼータ電位が生じる電荷調整剤を含む一以上のフィルターを通過させることにより、上記溶液中の金属イオン不純物を除去する方法にある。
【0012】
本発明の第二の要旨は、各金属イオン不純物濃度が、100ppb未満である、上記方法によるより得られた、側鎖に架橋剤が付加された高分子化合物を含む溶液にある。
【発明の効果】
【0013】
上記方法によれば、リソグラフィ工程に使用されるのに好適な高分子化合物またはこれを含む溶液中に含まれる金属イオン不純物を非常に低い濃度まで除去することができる。
【0014】
また、本発明の金属イオン不純物の除去方法を用いることで、フォトレジスト用組成物または反射防止膜用組成物に使用されるのに好適な高分子化合物を強酸性イオン交換性基との反応による化学構造等の変化を生じることなく効率的に金属イオン不純物またはゲル粒子を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】pH依存性試験によるGPCチャート(酸性側)である。
【図2】pH依存性試験によるGPCチャート(塩基性側)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル系高分子化合物」とは、アクリル系高分子化合物又はメタクリル系高分子化合物を意味する。
【0017】
<側鎖に架橋剤が付加された高分子化合物>
本発明において、上記側鎖に架橋剤が付加された高分子化合物としては、リソグラフィ工程で使用される活性光線を吸収する部位を有する高分子化合物の側鎖に架橋剤が付加されたものであればよい。
【0018】
上記高分子化合物としては、例えば、芳香環および/またはイソシアヌル酸等を含むものであって、典型的には、(メタ)アクリレートモノマー、または官能基としてカルボン酸とヒドロキシル基を含む少なくとも二種のモノマーを重合することによって製造される(メタ)アクリル系高分子化合物、またはポリエステル系高分子化合物、ポリエーテル系高分子化合物、ポリアミド系高分子化合物等を挙げることができる。特に制限されるわけではないが、反射防止膜性能としての観点から(メタ)アクリル系高分子化合物またはポリエステル系高分子化合物であることが好ましい。
【0019】
上記高分子化合物において、側鎖に付加される架橋剤としては、例えば、グリコールウリル、メチル化グリコールウリル、ブチル化グリコールウリル、テトラメトキシグリコールウリル、メチル化メラミン樹脂、N-メトキシメチル-メラミン、ウレタンウレア、アミノ基またはビニルエーテルを含む群から選択される。
特に、反射防止膜性能に優れる観点から、グリコールウリルが好ましい。更に、非芳香族の特徴を併せ持つことにより、エッチングレートを向上させることができる。
【0020】
上記ポリエステル系高分子化合物は、例えば、官能基としてカルボン酸とヒドロキシル基を含む少なくとも二種のモノマーを重合溶媒に溶解させ、重合反応に適当な温度まで加熱して縮重合反応により得ることができる。特に制限されないが、上記縮合重合反応は、100〜150℃、更に好ましくは120〜145℃で行われるのが好ましい。目的分子量に達するまでの反応時間の短縮及び分子量の精密な制御の観点から、上記範囲での縮合重合反応が好ましい。
【0021】
次いで、上記官能基であるカルボン酸とヒドロキシル基の縮合重合反応によって得られたポリエステル系高分子化合物を含む反応溶液に酸触媒(例えば、p-トルエンスルホン酸)、架橋剤(例えば、グリコールウリルやメラミン)等を添加し反応させることで、ポリエステル系高分子化合物に含まれる官能基に架橋剤を付加させることができ、高分子化合物の側鎖に架橋剤が付加された高分子化合物を合成することができる。この架橋剤付加反応は、50℃以下、好ましくは15〜30℃、更に好ましくは18〜22℃の範囲が望ましい。架橋剤付加反応の効率的な進行と分子量の精密な制御の両方の観点から、上記範囲での架橋剤付加反応を行うことが好ましい。
【0022】
上記ポリエステル系高分子化合物の重合に用いられる重合溶媒としては、特に制限されないが、モノマー、酸触媒、および重合体のいずれをも溶解できる溶媒が好ましい。このような有機溶媒としては、例えば、アニソール、1,4-ジオキサン、イソプロピルアルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0023】
上記縮重合反応において、官能基であるカルボン酸をアルキル基で保護したモノマーを用いて、脱水及び脱アルコール反応等を制御することが好ましい。これによりゲル化等を抑制することができるため、リソグラフィ用組成物、特に反射防止膜用高分子化合物に用いるのに適したポリエステル系高分子化合物を得ることが可能である。
【0024】
上記(メタ)アクリル系高分子化合物は、従来技術において公知の技術を用いて得ることができる。例えば、重合開始剤として2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)やジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(V-601)等を用いて遊離基重合技術によって合成することができる。
【0025】
例えば、上記(メタ)アクリル系高分子化合物は、溶液重合により得ることができる。かかる溶液重合の重合方法については、特に制限されず、一括重合でも溶液滴下重合でもよい。特に、組成分布および/または分子量分布の狭い重合体が簡便に得られる観点から、モノマーを重合容器中に滴下する滴下重合と呼ばれる重合方法が好ましい。滴下するモノマーは、モノマーのみであってもよく、またはモノマーを有機溶媒に溶解した溶液であってもよい。
【0026】
上記滴下重合法においては、例えば、有機溶媒を予め重合容器に仕込み(この有機溶媒を「仕込み溶媒」ともいう)、所定の重合温度まで加熱した後、モノマーや重合開始剤を、それぞれ独立または任意の組合せで、有機溶媒に溶解させた溶液(この有機溶媒を「滴下溶媒」ともいう)を、仕込み溶媒中に滴下する。モノマーは滴下溶媒に溶解させずに滴下してもよく、その場合、重合開始剤は、モノマーに溶解させてもよいし、重合開始剤だけを有機溶媒へ溶解させた溶液を有機溶媒中に滴下してもよい。また、仕込み溶媒が重合容器内に存在しない状態でモノマーあるいは重合開始剤を重合容器中に滴下してもよい。
【0027】
上記高分子化合物の重合に用いられる重合溶媒については、特に制限されないが、モノマー、重合開始剤、および重合体のいずれをも溶解できる溶媒が好ましい。このような有機溶媒としては、例えば、1,4-ジオキサン、イソプロピルアルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0028】
モノマーと重合開始剤は、それぞれ独立した貯槽から所定の重合温度まで加熱された仕込み溶媒へ直接滴下してもよいし、それぞれ独立した貯槽から所定の重合温度まで加熱された仕込み溶媒へ滴下する直前で混合し、上記仕込み溶媒へ滴下してもよい。
【0029】
さらに、モノマーあるいは重合開始剤を、前記仕込み溶媒へ滴下するタイミングは、モノマーを先に滴下した後、遅れてモノマーを滴下してもよいし、モノマーと重合開始剤を同じタイミングで滴下してもよい。また、これらの滴下速度は、滴下終了まで一定の速度であってもよいし、モノマーや重合開始剤の消費速度に応じて、多段階に速度を変化させてもよいし、あるいは間欠的に滴下を停止させたり、開始したりしてもよい。
【0030】
滴下重合法における重合温度は特に制限されないが、通常、50〜150℃の範囲内であることが望ましい。
【0031】
重合溶媒の使用量は特に制限されず、適宜最適なものを選択することができる。通常は、共重合に使用するモノマー全量100質量部に対して30〜70質量部の範囲内で使用されることが望ましい。
【0032】
仕込み溶媒の量も特に制限されず、適宜最適なものを選択することができる。通常は、共重合に使用するモノマー全量100質量部に対して30〜70質量部の範囲内で使用されることが望ましい。
【0033】
重合開始剤の使用量も特に制限されず、共重合体の収率を高くする観点から、共重合体に使用するモノマー全量100モル%に対して0.3モル%以上が好ましく、1モル%以上が好ましく、共重合体の分子量分布を狭くする観点から、共重合に使用するモノマー全量100モル%に対して30モル%以下が望ましい。
【0034】
上記方法で得られた高分子化合物を含む溶液を冷却後、酸触媒、例えば、p-トルエンスルホン酸、更に、架橋剤、例えば、テトラメトキシグリコールウリルまたはメラミン等を添加し、反応させることで(メタ)アクリル系樹脂中に含まれるヒドロキシル基等の架橋部位に架橋剤を付加することができる。この架橋剤付加反応は、50℃以下、好ましくは15〜30℃、更に好ましくは18〜22℃の範囲が望ましい。架橋剤付加反応の効率的な進行と分子量の精密な制御の両方の観点から、上記範囲での架橋剤付加反応を行うことが好ましい。
【0035】
<フィルター>
上記の通り得られた高分子化合物を含む溶液は、原料由来あるいは製造工程で金属イオン等不純物を含むことが多く、この金属イオン等不純物が電子デバイスの性能及び安定性に悪影響を及ぼすことも明らかになっているため、濾過等により、上記金属イオン等の不純物を低濃度まで除去する必要がある。
【0036】
本発明において、上記溶液中の金属イオン等の不純物を低濃度まで除去するために、上記溶液を、濾材に強酸性イオン交換基を含まず、かつ、ゼータ電位を生じる電荷調整剤を含む一以上のフィルターを通過させて処理される。
【0037】
上記フィルターを用いることにより、高分子化合物を強酸性イオン交換性基との反応による化学構造等の変化を生じることなく、効率的に溶液中に含まれる金属イオン不純物やゲル粒子等を除去することができる。
【0038】
上記強酸性イオン交換基としては、例えば、スルホン酸基等が挙げられる。例えば、高分子化合物中に酸と化学反応を生じうる構造(例えば、架橋剤等)を有する場合、このような強酸性イオン交換基を含むフィルターを用いて濾過すると、架橋反応が進行し、高分子化合物の化学構造や分子量に変化が生じうる。このような強酸性イオン交換基を含まないフィルターを用いて濾過することにより、上述したような架橋反応の進行等を抑制することができる。
【0039】
上記フィルターにおいて、ゼータ電位を生じる電荷調整剤とは、例えば、特公昭63-17486号に記載されているようなポリアミド-アミンエピクロロヒドリンカチオン樹脂、特公昭36-20045号に記載されているようなN,N’-ジエタノールピペラジン、メラミン、ホルマリンおよびグリセリンフタル酸エステルを反応させた樹脂、米国特許第4007113号に記載されているようなメラミン-ホルムアルデヒドカチオン樹脂、米国特許第2802820号に記載されているようなジシアンジアミド、モノエタノールアミンおよびホルムアルデヒドの反応物、米国特許第2839506号に記載されているようなアミノトリアジン樹脂等が一般に用いられる。これらの中でも特にポリアミド-アミンエピクロロヒドリンカチオン樹脂が安定したカチオン電荷をフィルターに与えるため、好ましく用いられる。
【0040】
上記フィルターは、特に限定されないが、好ましくはシート状である。フィルターシートとして使用される場合、フィルターシートの孔径及び枚数は、製造工程において適切に選択することができる。
【0041】
特に限定されないが、上記フィルター(シート)の一様態としては、約0.5〜10μmの平均孔径を有するフィルターシートであってよい。
【0042】
上記フィルター(シート)は、好ましくは、粒状濾過助剤が均一に分布しており、かかる粒状濾過助剤に金属イオン不純物を電位吸着させることにより、溶液中から金属イオン不純物を除去することができる。
【0043】
上記フィルター(シート)は、自己支持性繊維マトリックスを含み、そしてこの線維マトリックスは、その中に不動化された粒状濾過助剤、場合によりバインダー樹脂を含むことができる。さらに、上記粒状濾過助剤及び場合により含まれるバインダー樹脂は、上記マトリックス横断面に均一に分布していることが好ましい。
【0044】
上記フィルター(シート)に含まれる粒状濾過助剤には様々な種があり、例えば、珪藻土、マグネシア、パーライト、タルク、コロイダルシリカ、ポリマー性粒状物、例えば、乳化重合もしくは懸濁重合によって製造されるもの、例えば、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリエチレン、活性炭、クレーおよびこれらの類似物から選択することができる。
【0045】
上記フィルター(シート)を使用するのに適当な自己支持性繊維質マトリックスとしては、例えば、ポリアクリロニトリル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、セルロース繊維、例えばウッドパルプおよび綿、およびセルロースアセテート繊維などがあげられる。好ましくは、該自己支持性マトリックスは、セルロース繊維からなるマトリックスである。セルロース繊維は、好ましくは、米国特許第4606824号明細書に開示されるように、約+400〜約+800mlのカナダ標準形ろ水度を有する未叩解セルロースパルプおよび約+100〜約−600mlのカナダ標準形ろ水度を有する高度に叩解されたセルロースパルプを含むセルロースパルプ混合物から誘導される。
【0046】
上記フィルターに場合により含むことができるバインダー樹脂としては、米国特許第4007113号明細書および同第4007114号明細書に開示されるメラミンホルムアルデヒドコロイド、米国特許第4859340号明細書に開示されるポリアミド-ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂、および米国特許第4596660号明細書に開示されるポリアルキレンオキシド等があげられる。
【0047】
上記高分子化合物を含む溶液を、超純水で洗浄した後、適当な有機溶剤またはこの高分子化合物を溶解してい溶媒に上記フィルターを通すことでフィルターに含まれる粒状濾過助剤へ金属イオン不純物が電位吸着されることにより、金属イオン不純物を非常に低い濃度まで除去することができる。
【0048】
上記性質を有するフィルターとして、好ましくは、住友3M社から商業的に入手可能なCUNOTMゼータプラスTMフィルターカートリッジ ECであり、GNグレードとして入手することができる。
【0049】
酸の触媒作用による架橋反応の進行及び塩基によるエステル結合等の分解を考慮すると、本発明を実施するのに最適なpH範囲は3.5〜11.0であることが好ましい。更には、0〜40℃の温度範囲で実施されるのが好ましい。更に好ましくは、10〜30℃の温度範囲で実施されるのが好ましい。酸の触媒作業による架橋反応の進行及び塩基によるエステル結合等の分解を抑制し、濾過に最適な粘度を維持するためにも上記範囲で実施されるのが好ましい。
【0050】
本発明の一実施態様としては、リソグラフィ用組成物として使用されるのに好適な高分子化合物は、各々100ppb未満、好ましくは各々50ppb未満、さらに好ましくは各々25ppb未満、特に好ましくは各々10ppb未満の金属イオン不純物を有する。また、上記フィルターを用いることにより、ゲル粒子の除去も同時に可能である。
【0051】
上記重合によって得られた溶液中に含まれる金属イオン不純物を、上記フィルターに通すことにより除去した溶液を、必要に応じて、アニソール、1,4-ジオキサン、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル等の良溶媒で適当な濃度に希釈した後、メタノール、イソプロピルアルコール、ジイソプロピルエーテル、水、ヘキサン、ヘプタン等、又はこれらの混合溶媒等からなる多量の貧溶媒中に滴下することで重合体を析出させてもよい。
【0052】
この工程は一般に再沈殿と呼ばれ、重合体溶液中に残存する未反応のモノマーや重合開始剤、酸触媒等を除去するのに有効である。これらの未反応物は、そのまま残存しているとレジストや反射防止膜性能に悪影響を及ぼす可能性が高く、可能な限り除去することが好ましい。再沈殿工程は、場合により省略することも可能である。その後、その析出物を濾別し、十分に乾燥してフォトリソグラフィ用組成物に使用するのに好適な成膜性樹脂を得ることができる。また、濾別した後、乾燥工程を含まずに湿粉のまま使用することも可能である。
【0053】
上記方法の特徴は強酸性イオン交換性基に接触させることなく、フィルターに含まれる粒状濾過助剤への電位吸着により金属イオン不純物を除去するという特徴を有するため、高分子化合物中に酸または塩基感応性基を含む場合であっても、保護基の脱離等の影響を受けずに効率的に金属イオン不純物およびゲル粒子を容易に除去することができる。
【0054】
さらに、反射防止膜用に使用される高分子化合物である場合、酸触媒のより架橋反応が進行する架橋剤が高分子化合物骨格中またはそれが溶解した溶液中に含まれることがある。よって、本発明による金属イオン不純物の除去方法を用いることで、フィルターの通過前後で酸触媒採用による架橋反応の進行等の影響を受けることなく、効率的に金属イオン不純物およびゲル粒子を容易に除去することができる。
【0055】
本明細書に記載の方法でフォトリソグラフィ用組成物として使用するのに好適な高分子化合物を含む溶液を処理することで、原料由来および/または製造工程に由来する金属イオン不純物を非常に低い濃度まで除去することが可能である。また、同時に溶液中に含まれるゲル粒子も効率的に除去できるという付随的利点も有する。
【0056】
以下の具体例は、本発明を利用した高分子化合物の製造方法の例示である。しかし、これらの例は、本発明の範囲を如何様にも限定もしくは減縮することを意図したものではなく、本発明を実施するために排他的に利用しなければならない条件、パラメータまたは値を教示するものと解釈されるべきものではない。また、特に断りがない場合、全ての部および百分率は重量に基づく値である。
なお、下記合成例1〜4において得られた高分子化合物の重量平均分子量は、GPC(Gel Permeation Chromatography:東ソー製HLC8220GP)により、ポリスチレン換算で求めた(測定条件:乾粉50mg/溶離液5mL、溶離液:1.7mMリン酸/THF)。
【0057】
合成例1
1,3,5-トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(33.56g,0.129mol)、デカヒドロ-2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル(32.68g, 0.129mol)、p-トルエンスルホン酸-水和物(pTSA)(1.303g,6.85mmol)、及びアニソール(39.80g)を三口フラスコに充填し、Dean-Starkトラップを用いて脱水及び脱メタノール反応を行いながら130℃で10時間重合した。その後、テトラヒドロフラン(THF)で希釈して、テトラメトキシグリコールウリル(TMGU)(12.81g,0.805mol)添加し、20℃で5.5時間反応させてトリエチルアミン(0.6932g,6.85mmol)を加えて反応を停止させた。この反応液をTHF及びIPA(2-プロパノール)で希釈し、ヘキサンとIPAの混合物に再沈殿し、高分子化合物中のTHEICのヒドロキシル基にTMGUを付加させて、下記式に示すポリエステル系高分子化合物(重量平均分子量:9,142、収率:約40%)を得た。
【0058】
【化1】

【0059】
合成例2
1,3,5-トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(33.56g,0.129mol)、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル(34.10g,0.129mol)、p-トルエンスルホン酸-水和物(pTSA)(1.303g,6.85mmol)、及びアニソール(39.80g)を三口フラスコに充填し、Dean-Starkトラップを用いて脱水及び脱メタノール反応を行いながら130℃で10時間重合した。その後、テトラヒドロフラン(THF)で希釈して、テトラメトキシグリコールウリル(TMGU)(12.81g,0.805mol)添加し、20℃で5.5時間反応させてトリエチルアミン(0.6932g,6.85mmol)を加えて反応を停止させた。この反応液をTHF及びIPA(2-プロパノール)で希釈し、ヘキサンとIPAの混合物に再沈殿し、高分子化合物中のTHEICのヒドロキシル基にTMGUを付加させて、下記式に示すポリエステル系高分子化合物(重量平均分子量:10,378、収率:約45%)を得た。
【0060】
【化2】

【0061】
合成例3
1,3,5-トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(33.56g,0.129mol)、1,3-ジメチルシクロヘキサンジカルボキシレート(25.83g,0.129mol)、p-トルエンスルホン酸-水和物(pTSA)(1.303g,6.85mmol)、及びアニソール(39.80g)を三口フラスコに充填し、Dean-Starkトラップを用いて脱水及び脱メタノール反応を行いながら130℃で10時間重合した。その後、テトラヒドロフラン(THF)で希釈して、テトラメトキシグリコールウリル(TMGU)(12.81g,0.805mol)添加し、20℃で5.5時間反応させてトリエチルアミン(0.6932g,6.85mmol)を加えて反応を停止させた。この反応液をTHF及びIPA(2-プロパノール)で希釈し、ヘキサンとIPAの混合物に再沈殿し、高分子化合物のTHEICのヒドロキシル基にTMGUを付加させて下記式に示すポリエステル系高分子化合物(重量平均分子量:7,572、収率:約40%)を得た。
【0062】
【化3】

【0063】
合成例4
重合溶媒として乳酸エチルを使用し、γ−ブチロラクトン−2−イルメタクリレート(75.1g、0.31mol)、6-ヒドロキシナフタレン-2-2イルメチルメタクリレート(53.6g、0.31mol)、2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(0.328g、2.0mmol)を滴下溶液重合法にて高分子化合物を得た。その後、20℃において、p-トルエンスルホン酸およびテトラメトキシグリコールウリルを添加し、7時間反応させてトリエチルアミン(0.6932g,6.85mmol)を加えて反応を停止させた。この反応液を乳酸エチルで1.5倍希釈し、IPE(ジイソプロピルエーテル)に再沈殿し、高分子化合物中のヒドロキシル基にTMGUを付加させて化学式4に示すメタクリル系高分子化合物(重量平均分子量:21,204、収率:約85%)を得た。
【0064】
【化4】

【0065】
実施例1
合成例1で得られた高分子化合物を含む溶液を、超純水5000mL、THF1000mLで洗浄を行ったフィルターシート(CUNOTMゼータプラスTMフィルターカートリッジEC GNグレード)により金属イオン不純物の除去を行った。上記フィルターシートを通過させた溶液を、ヘキサンと2-プロパノールの混合物(ヘキサン/2-プロパノール=1/9)の貧溶媒に再沈殿し、ポリエステル系高分子化合物を得た。得られた化合物を、40℃で60時間減圧乾燥し、乾粉をGPC(Gel Permeation Chromatography:東ソー製HLC8220GP)を用いて、ポリスチレン換算により、重量平均分子量(Mw)及びZ平均分子量(Mz)を算出した(分離カラム:昭和電工社製、Shodex GPC K−805L(商品名)、測定条件:乾粉50mg/溶離液5mL、溶離液:1.7mMリン酸/THF、測定温度:40℃、検出器:示差屈折率検出器)。また、フィルターを通して得られた高分子化合物を含む溶液を高周波誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS- Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometer:Agilent Technologies製7500cs)により金属分析を行った(測定サンプル:高分子化合物の乾粉1.5gを蒸留精製したN-メチル-2-ピロリドン)で100倍希釈したサンプル、測定法:標準添加法)。
【0066】
実施例2
合成例2で得られた高分子化合物を含む溶液を、超純水5000mL、THF1000mLで洗浄を行ったフィルターシート(CUNOTMゼータプラスTMフィルターカートリッジEC GNグレード)により金属イオン不純物の除去を行った後、合成例1と同様の方法で処理した後、分子量及び金属イオン不純物濃度の分析を行った。
【0067】
実施例3
合成例3で得られた高分子化合物を含む溶液を、超純水5000mL、THF1000mLで洗浄を行ったフィルターシート(CUNOTMゼータプラスTMフィルターカートリッジEC GNグレード)により金属イオン不純物の除去を行った後、合成例1と同様の方法で処理した後、分子量及び金属イオン不純物濃度の分析を行った。
【0068】
実施例4
合成例4で得られた高分子化合物を含む溶液を、超純水5000mL、THF1000mLで洗浄を行ったフィルターシート(CUNOTMゼータプラスTMフィルターカートリッジEC GNグレード)により金属イオン不純物の除去を行った後、合成例1と同様の方法で処理した後、分子量及び金属イオン不純物濃度の分析を行った。
【0069】
比較例1
合成例1で得られた高分子化合物を含む溶液を、超純水5000mL、THF1000mLで洗浄を行った強酸性イオン交換性基としてスルホン酸基を含むフィルターシート(CUNOTMゼータプラスTMフィルターカートリッジEC SHグレード)により金属イオン不純物の除去を行った。その後、合成例1と同様の方法で処理した後、分子量及び金属イオン不純物濃度の分析を行った。
【0070】
比較例2
合成例2で得られた高分子化合物を含む溶液を、超純水5000mL、THF1000mLで洗浄を行った強酸性イオン交換性基としてスルホン酸基を含むフィルターシート(CUNOTMゼータプラスTMフィルターカートリッジEC SHグレード)により金属イオン不純物の除去を行った。その後、合成例1と同様の方法で処理した後、分子量及び金属イオン不純物濃度の分析を行った。
【0071】
比較例3
合成例3で得られた高分子化合物を含む溶液を、超純水5000mL、THF1000mLで洗浄を行った強酸性イオン交換性基としてスルホン酸基を含むフィルターシート(CUNOTMゼータプラスTMフィルターカートリッジECSHグレード)により金属イオン不純物の除去を行った。その後、合成例1と同様の方法で処理した後、分子量及び金属イオン不純物濃度の分析を行った。
【0072】
比較例4
合成例4で得られた高分子化合物を含む溶液を、超純水5000mL、THF1000mLで洗浄を行った強酸性イオン交換性基としてスルホン酸基を含むフィルターシート(CUNOTMゼータプラスTMフィルターカートリッジECSHグレード)により金属イオン不純物の除去を行った。その後、合成例1と同様の方法で処理した後、分子量及び金属イオン不純物濃度の分析を行った。
【0073】
上記実施例及び比較例より、フィルター種による化学構造変化及び金属イオン不純物除去による結果を以下に示す。
【0074】
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【0075】
前述の比較表より、比較例1〜4の場合には、高分子量成分の面積百分率(%)が増加していることから、フィルター中に含まれる強酸性イオン交換性基により高分子化合物の側鎖に付加している架橋剤が反応し、架橋反応が進行していることが判断できる。一方で、金属イオン不純物は、強酸性イオン交換基を含んでいない電位吸着でもフォトリソグラフィ用組成物として十分な性能を発現できるレベルまで低減可能であることも同時に判断できる。本発明によって、高分子化合物の化学構造を精密に制御した条件下で効率的に金属イオン不純物を除去することが可能である。更には、リソグラフィ性能に影響を与える屈折率や消衰係数の制御も同時に実現すると容易に推測できる。
【0076】
pH依存性試験
実施例3で得られた高分子化合物をTHFに固形分濃度20%で調整し、GPCにより分子量分布の変化を確認した(測定条件:乾粉50mg/溶離液5mL、溶離液:1.7mMリン酸/THF)。図1及び図2は、それぞれ酸性側(pH6.0〜pH2.0)及び塩基性側(pH6.0〜pH13.0)におけるGPCチャートを示す。また、各pHにおける分子量変化結果を表5に示す。高分子化合物を20質量%になるようにTHFに溶解した高分子化合物溶液に対し、硫酸または酢酸、トリエチルアミンまたは水酸化ナトリウム水溶液を目標pHになるまで添加した高分子化合物溶液を用いた。pHの確認は、pH試験紙を用いて実施した。上記試験結果より、pH3.0以下では、高分子量領域の成分(Mw>10,000)が増加しており、架橋反応が進行したことが判断できる。また、pH11.5以上では、低分子量領域の成分(Mw<1000)が増加しており、エステル結合の分解反応が進行していると判断できる。
【0077】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖に架橋剤が付加された高分子化合物を含む溶液を、濾材に強酸性イオン交換基を含まず、かつ、ゼータ電位が生じる電荷調整剤を含む一以上のフィルターを通過させることにより、前記溶液中の金属イオン不純物を除去する方法。
【請求項2】
前記高分子化合物がポリエステル系高分子化合物である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記高分子化合物が(メタ)アクリル系高分子化合物である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記架橋剤の骨格がグリコールウリルである請求項1ないし3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記フィルターのpHが、3.5〜11.0の範囲である請求項1ないし4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
各金属イオン不純物濃度が、100ppb未満である、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の方法により得られる側鎖に架橋剤が付加された高分子化合物を含む溶液。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−189563(P2010−189563A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36289(P2009−36289)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】