説明

フタロシアニン染料とその製造方法及び使用方法

【課題】高い溶解度をもち、そしてナノ多孔性記録シート上に、改良された色調とオゾン分解に対する優れた安定性をもった画像を与える新規なフタロシアニン染料を提供する。
【解決手段】N−[(スルホ、その金属塩又は芳香族アンモニウム塩)置換フェニル]カルバモイル基4個が、フタロシアニン核の4つのフェニル環にそれぞれ1個づつ直接結合したフタロシアニン染料に関する。本化合物はフタロニトリル誘導体から製造できる。染色や印刷操作において、特にインクジェット印刷用の水溶性インクとして有用である。また、良好な耐水性及び光安定性をもった染色材料を与えるために、セルロースを含有する材料、紙、木綿、ビスコース、皮及び羊毛の染色に使用される。さらに、少なくとも一つのフタロシアニン染料を含む液体染料調合物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染色や印刷操作において、オゾンによる分解に対して優れた安定性をもった、新規な置換された水溶性フタロシアニン染料、その塩、その製造方法及びその使用に関する。本発明はまた、それらの染料を含む液体染料調合物、特にインクジェット印刷用の水溶性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
最近のインクジェットプリンターの速度は、経済的な理由から着実に増大している。これらのプリンターに特に適している記録用シートはインクを非常に速やかに吸収することが要求される。この目的用に特に適している記録用シートは、ナノ多孔性無機化合物、好ましくは酸化アルミニウム又は二酸化ケイ素のような酸化物、又はアルミニウム酸化物/水酸化物のような酸化物/水酸化物を含む。そのような記録用シートは“ナノ多孔性”記録シートとして知られている。特に好ましい記録用シートは、経済的な理由のために、ナノ多孔性無機酸化物として正電荷表面をもつフュームドシリカ(二酸化ケイ素)を含んだものである。
【0003】
ナノ多孔性記録用シートは、ナノ多孔性化合物のキャピラリー効果の作用によってインクを非常に速やかに(マイクロ秒の範囲で)吸収する。ポリマーベースの記録用シートは、ポリマーの膨張によってインクをよりゆっくりと(ミリ秒の範囲で)吸収する。
【0004】
この方法で得られる画像は、不利な条件下でさえも優れた保存安定性をもつ必要がある。これは、これらのナノ多孔性記録用シートに適合した精密に調整されたインク系(それぞれそこに含まれる染料)を使用することによってのみ達成することができる。
【0005】
そのような記録用シートは、今日利用出来る大部分のインクで印刷するときに、要求される全ての性質をもっているわけではない。特に、これらの記録用シートに印刷された画像の保存安定性は改善されなければならない。これらの画像は、オゾン及び/又は酸化窒素のような不純物を通常含んでいる周囲の空気と接触すると安定ではなくなる。それらは周囲の空気と接触すると短時間で大きく変化するか又は分解してしまうことさえある。またオゾンによる分解に対する安定性の欠如として知られているこの現象は、例えば非特許文献1に記載されている。
【0006】
インクジェット印刷用のシアンインクは一般的には、ダイレクトブルー199、ダイレクトブルー86又はダイレクトブルー87のような銅フタロシアニン染料を含んでいる。
【0007】
インクジェット印刷で使用されるその他のフタロシアニン染料は非特許文献2に記載されている。
式(I)のフタロシアニン染料は特許文献1に記載されている。
【0008】
【化12】

【0009】
この銅フタロシアニン染料は、これまで使用されてきた銅フタロシアニン染料に比較してオゾン分解に対する改善された安定性を示すが、しかしその色調は緑がかり過ぎており、そしてその染料は充分に色鮮やかではない。
【0010】
インクジェット印刷用インクの製造で使用される染料は本質的にインク水溶液中で良好な溶解度をもつ必要があり、記録用シート中に浸透しなければならずそして記録用シート表面で染料の分解(“日焼けによる褐色化”)を起こしてはならない。それらは、不利な条件下でさえも、高い印刷密度、良好な耐水性、良好な光安定性及び良好な保存安定性をもった印刷画像を提供する必要がある。
【0011】
種々のタイプのインク組成物が提案されてきた。典型的なインクは一つ以上の染料又は顔料、水、有機共溶媒及びその他の添加剤を含んでいる。
インクは以下の基準に合格しなければならない。
(1)インクは如何なるタイプの記録用シートにおいても良好な品質の画像を与えること。
(2)インクは良好な耐水性を示す印刷画像を与えること。
(3)インクは良好な光安定性を示す印刷画像を与えること。
(4)インクは良好な耐汚れ性を示す印刷画像を与えること。
(5)インクは、高温及び高湿の条件下でも、良好な保存安定性を示す印刷画像を与えること。
(6)インクは、記録が長い期間中断されていてキャップをしないで放置されたときでも、インクジェットプリンターのジェットノズルを詰まらせないこと。
(7)インクはその品質を低下させずに長い期間保存できること。
(8)粘度、電導度及び表面張力のようなインクの物理的性質の値が全て、意図された用途に良く適合する規定の範囲内にあること。
(9)インクは毒性がなく、不燃性で且つ安全でなければならない。
【0012】
インクジェット印刷用のフタロシアニン染料を含むシアンインク組成物は、例えば、特許文献2、特許文献3、特許文献4及び特許文献5に記載されている。
それゆえに、ナノ多孔性記録シート上に、オゾン分解に対する優れた安定性をもった画像を与えそして好適な青色で彩度の高い色調を示す、改良された、色鮮やかな新規なフタロシアニン染料に対するニーズが今なお存在する。
【0013】
【特許文献1】JP2003−213,153(実施例134)
【特許文献2】EP1,405,883
【特許文献3】EP1,473,335
【特許文献4】EP1,475,417
【特許文献5】USP2003/0,041,775
【非特許文献1】P.G.Engeldrum in“Ozone Degradation of Ink Jet Photo Quality Images”,Journal of Imaging Science and Technology 48,153−159(2004)
【非特許文献2】M.Fryberg in“Dyes for Jet Printing”,Review of Progress in Coloration 35,1−31(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、高い溶解度をもち、そしてナノ多孔性記録シート上に、改良された色調とオゾン分解に対する優れた安定性をもった画像を与える新規なフタロシアニン染料を提供することである。さらに、その画像のシャープさは高温及び高湿の条件下で長期間保存しても低下しないか又は低下しても極くわずかである。その画像はまた高彩度、良好な光安定性及び耐水性のようなその他の要求される性質をもっている。
本発明の別の目的は、特にインクジェット印刷用インクにおいてこれらのフタロシアニン染料を含む液体染料調合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
我々は驚くべきことに、新規なフタロシアニン染料が、オゾン分解に対する良好な安定性、好適な色調及び高い色鮮明度を同時に示すことを見出した。
本発明は一般式(II)の新規なフタロシアニン染料に関する。
【0016】
【化13】

ここで、R−Rは独立に8個までの炭素原子をもつ線状又は分岐アルキル基を表し;R−R12は独立に水素、8個までの炭素原子をもつ線状又は分岐アルキル基又はハロゲンを表し;Meは銅、亜鉛、ニッケル、マンガン、コバルト、アルミニウム又はバナジウムを表し;Mは水素、金属カチオン又は、所望によりそれぞれ1から18個の炭素原子をもつ一つ以上のアルキル又は置換アルキル基で置換されていてもよい芳香族アンモニウムカチオン、又は所望によりそれぞれ1から18個の炭素原子をもつ一つ以上のアルキル又は置換アルキル又はヒドロキシアルコキシアルキル基で置換されていてもよい脂肪族アンモニウムカチオンを表し;そしてm、n、o、pは独立に1又は2である。
【0017】
Meが銅(Cu)又は亜鉛(Zn)であるフタロシアニン染料が好ましい。そしてm、n、o及びpが1であるフタロシアニン染料もまた好ましい。
特に好ましいものは一般式(III)の対称的なフタロシアニン染料であり、ここで、四つの同一の置換基は中心原子の周りに配列されている。これらの染料においては、m、n、o及びpは同じ値をもつ。置換基R、R、R及びRは置換基R、R、R及びRと同様に及び置換基R、R10、R11及びR12と同様に同一であり、そしてR、R、R10、Me及びmは上記で定義したとおりである。
【0018】
【化14】

【0019】
本発明はまた本発明に従った一般式(II)のフタロシアニン染料の製造法に関する。
即ち、
【0020】
【化15】

ここで、R、R、R10、及びmは上記で定義されたものである;
【0021】
【化16】

ここで、R、R、R11、及びnは上記で定義されたものである;
【0022】
【化17】

ここで、R、R、R12、及びoは上記で定義されたものである;
【0023】
【化18】

ここで、R、R、R12、及びpは上記で定義されたものである;
【0024】
【化19】

【0025】
【化20】

【0026】
【化21】

【0027】
【化22】

【0028】
【化23】

【0029】
一般式(IVA)、一般式(IVB)、一般式(IVC)及び一般式(IVD)で示される芳香族アミンを、一般式(VIA)、一般式(VIB)、一般式(VIC)、及び一般式(VID)で示されるアミドが生成する条件下で、式(V)のアシルクロライドと反応させる一般式(II)のフタロシアニン染料の製造方法である。一般式(VIA)、(VIB)、(VIC)、及び(VID)で示されるアミドの混合物は金属Me塩と反応すると、一般式(II)の非対称性(不斉)フタロシアニン染料となる。この反応の好適な条件は、例えば、非特許文献3に記載されている。一般式(IVA)のアミドは金属Me塩と反応して一般式(II)の対称性フタロシアニン染料となる。
以下の一般式(III)のフタロシアニン染料は特定例である:
【0030】
【化24】

【0031】
【化25】

【0032】
【化26】

【0033】
【化27】

【0034】
【化28】

【0035】
【化29】

【0036】
【化30】

中心の金属原子Meは銅又は亜鉛であり、それは表1に示される。
【0037】
一般式(II)及び一般式(III)のフタロシアニン染料は遊離の酸形態又はそれらの無機又は有機塩の形態で存在する。好ましくは、それらはそれらのアルカリ塩又はアンモニウム塩の形態で存在し、アンモニウムカチオンは置換されうる。そのような置換されたアンモニウムカチオンの例としては、2−ヒドロキシエチルアンモニウム、ビス−(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリス−(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、ビス−(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム、トリス−[2−(2−メトキシエトキシ)−エチル]−アンモニウム、8−ヒドロキシ−3,6−ジオキサオクチルアンモニウム、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデケ−7−エン、1,4−ジアザビシクロ−(2,2,2)オクタン及びテトラメチルアンモニウム又はテトラブチルアンモニウム、又はピリジニウムのようなテトラアルキルアンモニウムがある。
【0038】
本発明は一般式(II)及び一般式(III)の純粋なフタロシアニン染料に関するだけでなく、これらのフタロシアニン染料の混合物にもまた関する。本発明に従った一般式(II)及び一般式(III)のフタロシアニン染料は、良好な耐水性及び光安定性をもった染色材料を与えるために、セルロースを含有する材料、紙、木綿、ビスコース、皮及び羊毛の染色に使用される。
【0039】
実在の染料を使用して染色する織物及び製紙工業で公知の全ての方法が、フタロシアニン染料を用いて、好ましくはサイズ化した又はサイズ化されていない紙のバルク処理又は表面処理用に使用される。染料はまた、連続プロセスで木綿、ビスコース及びリネンの糸や切断品を染色するのに使用される。
【0040】
本発明はさらに、一般式(II)及び/又は一般式(III)の少なくとも一つのフタロシアニン染料を含む液体染料調合物に関する。そのような液体染料調合物の使用は特に紙の染色に好ましい。そのような安定な、液体状、好ましくは水性濃縮染料調合物が公知の方法を使用することによって、好ましくは好適な溶媒中に溶解させることによって得られる。例えば反応溶液のろ過による脱塩工程の後で、染料の中間分離なしで、染料合成中のそのような安定な、水性濃縮調合物を製造できることはそれ自身、特に有利なことである。
【0041】
一般式(II)及び一般式(III)のフタロシアニン染料又はそれらの混合物は、その他のシアン染料、特にダイレクトブルー199、ダイレクトブルー86、ダイレクトブルー87、アシドブルー9及び非特許文献2に記載されているようなその他の物と組み合わせることができる。
【0042】
そのようなシアンインクは本発明に従った一つ以上のフタロシアニン染料を液体水性媒体中に含む。インクは、インクの合計重量基準で0.5wt%から20wt%、好ましくは0.5wt%から8wt%のこれらのフタロシアニン染料を含む。液体媒体は好ましくは水又は水と水溶性有機溶媒の混合物である。好適な溶媒は、例えば、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10及び特許文献11に記載されている。本発明を以下の実施例によってより詳細に例証するが、これらは本発明のフタロシアニン染料の範囲を如何なる方法においても限定するものではない。
【発明の効果】
【0043】
本発明により、特にインクジェット印刷用の水溶性インクとして、ナノ多孔性記録シート上に、オゾン分解に対する優れた安定性をもった画像を与えそして好適な青色で彩度の高い色調を示す、改良された、色鮮やかな新規なフタロシアニン染料が提供される。
【実施例1】
【0044】
対称性銅フタロシアニン染料(100)を以下の方法で製造した:
非特許文献4に記載された方法に従って調製された6.7g(30mmol)の式(VII)のアニリンを25mlのピリジン中に懸濁させた。
【0045】
【化31】

【0046】
非特許文献5に記載された方法に従って調製された5.7g(30mmol)の式(VIII)のアシルクロライドを8mlの酢酸エチルに溶解させて、氷冷下で温度が決して30℃を超えないようにしてこの懸濁液に滴下した。滴下終了後、反応混合物を室温で18時間攪拌した。その後、混合物を40mlの酢酸エチルで希釈しそして沈殿物を吸引ろ過しそして140mlのメタノールで再結晶させて精製してから乾燥すると、7.2gの式(IX)のアミドが得られた。
【0047】
【化32】

【0048】
【化33】

【0049】
7.0g(16mmol)の式(IX)のアミド、0.8g(4mmol)の酢酸銅一水和物及び2.4gの1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデケ−7−エンを20mlのフォルムアルデヒド中で100℃の温度で5時間攪拌した。その後、濃青色(ディープブルー)の溶液を室温まで冷却し、30mlのメタノールで希釈し、3.0gの酢酸ナトリウムを添加すると、染料がナトリウム塩として沈殿した。沈殿物をろ過すると、3.7gのフタロシアニン染料(100)のナトリウム塩が得られた。
【0050】
1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデケ−7−エンの代わりに、1,4−ジアザビシクロ−(2,2,2)オクタンのようなその他の有機強塩基も使用できる。酢酸ナトリウムの代わりに、酢酸カリウム又は塩化リチウムのような酢酸塩又は別のアルカリ金属の塩化物も使用できる。この場合、フタロシアニン染料はカリウム塩又はリチウム塩として得られる。
【0051】
本発明に従った対称性フタロシアニン染料(101)から(106)は、適切な出発原料の適切な量を使用することによって同様な方法で製造することができる。
【実施例2】
【0052】
非対称性銅フタロシアニン染料を以下の方法で製造した:
非特許文献4に記載された方法に従って調製された7.7g(30mmol)の式(X)のアニリンを30mlのピリジン中に懸濁させた。
【0053】
【化34】

【0054】
5.7g(30mmol)の式(VIII)のアシルクロライドを氷冷下で温度が決して30℃を超えないようにしてこの懸濁液に滴下した。滴下終了後、反応混合物を室温で18時間攪拌した。その後、混合物を20mlのN−メチルピロリドン及び20mlの酢酸エチルで希釈しろ過しそして濃縮した。粗生成物を50mlの塩化ナトリウム濃縮溶液中の攪拌によって精製してから乾燥すると、6.7gの式(XI)のアミドが得られた。
【0055】
【化35】

【0056】
3.5g(8mmol)の式(X)のアミド及び3.9g(8mmol)の式(XI)のアミド、0.8g(4mmol)の酢酸銅一水和物及び2.4gの1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデケ−7−エンを20mlのフォルムアルデヒド中で100℃の温度で5時間攪拌した。その後、濃青色(ディープブルー)の溶液を室温まで冷却し、30mlのメタノールで希釈し、3.0gの酢酸ナトリウムを添加すると、染料がナトリウム塩として沈殿した。沈殿物をろ過すると、3.3gのフタロシアニン染料混合物のナトリウム塩が得られた。
このフタロシアニン染料混合物は、他の染料に加えて、以下の式のフタロシアニン染料を含む。
【0057】
【化36】

【0058】
【化37】

【0059】
【化38】

【0060】
【化39】

以上の四つの式においては、Meは銅を表す。
(インク製造の実施例)
【0061】
本発明は、インクに関しては、本発明に従ったフタロシアニン染料(100)と文献記載の従来技術を代表する式(I)のフタロシアニン染料を使用した以下の実施例によって例証する。それぞれの染料について、フタロシアニン染料の必要量(4g−8g)、エチレングリコール(12g)、プロピレングリコール(6g)、N−メチルピロリドン(6g)、テルギトール15−S−7(0.5g、ユニオンカーバイド社、ヒューストン、USA製)及び殺生物剤メルガールK10N(0.2g、リーデル−デ−ハーエン社、シールチェ、ドイツ製)の溶液を水と一緒に50℃の温度で攪拌しながら約1時間加熱することによって100gのインクを製造した。得られた溶液を温度20℃まで冷却し、そのpH治を7.5に調節しそしてその溶液を0.5μmの細孔径をもつミリポア(商標)フィルターを通した。染料の量は、印刷した画像の光学密度が二つのフタロシアニン染料で同一となるように調節した。
【0062】
(インク用途の実施例)
1cmの色付き正方形をそれからこれらのインクでナノ多孔性記録シート、イルフォード(ILFORD)ガレリエ(Galerie商標)スムース光沢紙IGSGP9及びイルフォード(ILFORD)プリンタシア(Printasia商標)プレミアム写真光沢紙PRNGP1にインクジェットプリンター、キャノン8500を使用して印刷した。印刷サンプルを相対湿度約60%の空気中で24時間乾燥した。
【0063】
(テスト)
1.水溶液中での最大吸収量
水溶液中での最大吸収量を1cm厚みの光学セル中で20mg/l−30mg/lの染料濃度で分光計コントロンユビコン(Kontron Uvikon、商標)を使用してpH7.0の値で測定した。
【0064】
2.ナノ多孔性記録シートの吸収スペクトル
1.3から1.5の間の密度をもつ色付き正方形の吸収スペクトルをレミッション濃度計スペクトロリノ(Spectrolino商標)、グレタッグマクベス社、レーゲンドルフ、スイス製を使用して記録した。吸収スペクトルは後でノーマライズした。
【0065】
3.暗部のオゾン分解に対する安定性
色付き正方形の光学密度は濃度計スペクトロリノ(Spectrolino商標)、グレタッグマクベス社、レーゲンドルフ、スイス製を使用して測定した。その後、印刷サンプルを予め決められた時間(例えば12時間)サトラ/ハンプデン社、イギリス製のモデル903オゾン室中に温度30℃で、空気の相対湿度50%そしてオゾン濃度1ppmのオゾンを含む空気を13mm/秒の速度で循環しながら保存した。保存後、サンプルを再測定した。初期密度のパーセントで表したこれら二つの測定の密度差は、オゾン暴露による染料損失量の指標である。
【0066】
(結果)
異なった金属Meと異なった金属カチオンMをもつ本発明に従ったフタロシアニン染料で測定された最大吸収値を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
染料(106)の最大吸収値は水とN−メチルピロリドンの1:1混合物中で測定した。
標準化した吸収スペクトルの比較は、本発明に従ったフタロシアニン染料(100)の400nmと500nmの間の波長領域における二次吸収が文献記載の従来技術を代表する式(I)のフタロシアニン染料よりもかなり少ないことを示している。これは、望ましくない緑がかった色調をもった文献記載の従来技術を代表する式(I)のフタロシアニン染料に比較して、本発明に従ったフタロシアニン染料(100)が、ナノ多孔性記録シート、イルフォード(ILFORD)ガレリエ(Galerie商標)スムース光沢紙IGSGP9及びイルフォード(ILFORD)プリンタシア(Printasia商標)プレミアム写真光沢紙PRNGP1上に要求される青の色調をもっている理由である。さらに、本発明に従ったフタロシアニン染料(100)は、文献記載の従来技術を代表する式(I)のフタロシアニン染料に比較して、より色鮮やかである。このことはインクジェット印刷において、鈍い緑がかった色調のみが得られる文献記載の従来技術を代表する式(I)の耐オゾン性フタロシアニン染料の使用に比較して、本発明に従った耐オゾン性フタロシアニン染料(100)の使用によって、色鮮やかで、彩度の高い青をもった原画が得られることを意味する。
【0069】
記録シート、イルフォード(ILFORD)ガレリエ(Galerie商標)スムース光沢紙IGSGP9の、24時間保存期間のオゾン暴露による、インク被覆率80%における測定された密度損失値を表2に示す。
【0070】
【表2】

記録シート、イルフォード(ILFORD)プリンタシア(Printasia商標)プレミアム写真光沢紙PRNGP1の、24時間保存期間のオゾン暴露による、インク被覆率80%における測定された密度損失値を表3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
表2及び表3で測定された染料損失の比較は、本発明に従ったフタロシアニン染料(100)を含むインクは、文献記載の従来技術を代表する式(I)のフタロシアニン染料を含みそしてあまりにも緑がかった色調をもったインクと比較して同じオゾン分解安定性をもっていることを示している。
【0073】
このことはインクジェット印刷において、鈍い緑がかった青の色調のみが得られる文献記載の従来技術を代表する式(I)の耐オゾン性フタロシアニン染料の使用に比較して、本発明に従ったフタロシアニン染料(100)の使用によって、良好なオゾン分解安定性及び純粋で彩度の高い青の色調をもった画像が得られることを意味している。
【0074】
【非特許文献3】M.Hanack,H.Heckmann and R.Polley in“Phtalocyanines and Related Compounds”,Vol.E9d,p717−842 of Houben−Weyl,“Methods of Organic Chemistry”,Georg Thieme editiona Stuttgart New York(1998),ISBN3−13−101614−0
【非特許文献4】G.P.Britovsek,G.Y.Y.Woo and N.Assavathorn in“Synthesis snd reactivity of water−soluble platinum(II)complexes containing nitrogen ligands”,Journal of Organometallic Chemistry 679,110−115(2003)
【非特許文献5】J.J.He,G.Benko,F.Korodi,T.Polivka,R.Lomoth,B.Akermak,L.Sun,A Hagfeld and V.Sundstrom in“Modified Phthalocyanies for Efficient Near−IR Sensitization of Nanostructured TiO2 Electrode”,Jounal of American Chemical Society 124,4922−4932(2002)
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、染色や印刷操作において、特にインクジェット印刷用の水溶性インクとして有用である
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1はナノ多孔性記録シート(イルフォード(ILFORD)プリンタシア(Printasia商標)プレミアム写真光沢紙PRNGP1)上に、本発明に従ったフタロシアニン染料(100)と文献記載の従来技術を代表する式(I)のフタロシアニン染料の標準化した吸収スペクトル図。
【図2】図2はナノ多孔性記録シート(イルフォード(ILFORD)ガレリエ(Galerie商標)スムース光沢紙IGSGP9)上に、本発明に従ったフタロシアニン染料(100)と文献記載の従来技術を代表する式(I)のフタロシアニン染料の標準化した吸収スペクトル図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(II):
【化1】

ここで、R−Rは独立に8個までの炭素原子をもつ線状又は分岐アルキル基を表し;R−R12は独立に水素、8個までの炭素原子をもつ線状又は分岐アルキル基又はハロゲンを表し;Meは銅、亜鉛、ニッケル、マンガン、コバルト、アルミニウム又はバナジウムを表し;Mは水素、金属カチオン又は、所望によりそれぞれ1から18個の炭素原子をもつ一つ以上のアルキル又は置換アルキル基で置換されていてもよい芳香族アンモニウムカチオン、又は所望によりそれぞれ1から18個の炭素原子をもつ一つ以上のアルキル又は置換アルキル又はヒドロキシアルコキシアルキル基で置換されていてもよい脂肪族アンモニウムカチオンを表し;そしてm、n、o、pは独立に1又は2である;で示されるフタロシアニン染料。
【請求項2】
−R、R−R12、Me及びMが請求項1に定義されたものであり、そしてm、n、o、pが1であることを特徴とする請求項1記載のフタロシアニン染料。
【請求項3】
−R、R−R12、そしてm、n、o、p及びMが請求項1に定義されたものであり、Meが銅又は亜鉛であることを特徴とする請求項1記載のフタロシアニン染料。
【請求項4】
一般式(III):
【化2】

ここで、R、R、R10、Me、M及びmが請求項1に定義されたものである;で示される請求項1記載のフタロシアニン染料。
【請求項5】
、R、R10、Me及びMが請求項4に定義されたものであり、そしてmが1であることを特徴とする請求項4記載のフタロシアニン染料。
【請求項6】
、R、R10、m及びMが請求項4に定義されたものであり、そしてMeが銅又は亜鉛であることを特徴とする請求項4記載のフタロシアニン染料。
【請求項7】
【化3】

ここで、R、R、R10、及びmが請求項1に定義されたものである;
【化4】

ここで、R、R、R11、及びnが請求項1に定義されたものである;
【化5】

ここで、R、R、R12、及びoが請求項1に定義されたものである;
【化6】

ここで、R、R、R12、及びpが請求項1に定義されたものである;
【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

一般式(IVA)、一般式(IVB)、一般式(IVC)及び一般式(IVD)で示される芳香族アミンを、一般式(VIA)、一般式(VIB)、一般式(VIC)、及び一般式(VID)で示されるアミドが生成しそして一般式(VIA)、(VIB)、(VIC)、及び(VID)で示されるアミドの混合物が金属Me塩と反応する条件下で、式(V)のアシルクロライドと反応させることを特徴とする請求項1記載のフタロシアニン染料の製造方法。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載のフタロシアニン染料を適用することによって、記録用シートに文章及び画像を記録しそして天然又は合成繊維材料、ナノ多孔性材料、皮及びアルミニウムに染色しそして印刷する方法。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか一項に記載のフタロシアニン染料又はその混合物の少なくとも一つからなる液体染料調合品。
【請求項10】
請求項1から6のいずれか一項に記載のフタロシアニン染料又はその混合物の少なくとも一つからなるインクジェット印刷用インク。
【請求項11】
請求項1から6のいずれか一項に記載のフタロシアニン染料又はその混合物の少なくとも一つに加えて一つ以上のその他の染料からなるインクジェット印刷用インク。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−332374(P2007−332374A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−154902(P2007−154902)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(599085415)イルフォード イメージング スウィツアランド ゲーエムベーハー (13)
【Fターム(参考)】