説明

フタロシアニン類及びそのインクジェットプリンターでの使用

【課題】インクジェット印刷に適し、露光およびオゾンとの接触による色あせおよび変色の少ないシアン系染料を製造する。
【解決手段】式(1)の染料およびその塩の染料混合物を製造する。



式中、Fcは式(a)のフタロシアニン核を表し、xは1〜2であり、yは0.1〜2.9であり、zは0.1〜1であり、置換基はx、yおよびzで表され、フタロシアニン環上のβ位にのみ結合しており、染料は繊維反応基を含まない。また、本発明には、新規の組成物およびインクジェットプリンターインク、方法ならびにカートリッジも含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染料、組成物及びインク、印刷方法、印刷された基材並びにインクジェットプリンターカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は、ノズルを基材と接触させることなく、微細ノズルを通して基材上にインクの小滴を射出する非衝撃印刷技術である。
カラーインクジェットプリンターは、典型的には、4つの異なるカラーインク、すなわちマジェンタ、イエロー、シアンおよびブラックを用いる。これら以外のカラーは、上記インクの異なる組み合わせを使用することによって得られる。従って、最適な印刷品質を得るために、使用する着色料は、特定の色相を持つインクを形成できなければならない。このことは、着色料を混合することによって実現できるが、要求される正確な色相を有する単一着色料を用いることによっても有利に実現することができる。
【0003】
インクジェットプリンターは、他の方式の印刷及び現像より多くの長所を有するが、未だに解決すべき技術的な課題が存在する。例えば、インク媒体中で可溶であるにもかかわらず、紙上に印刷した場合、過度に流れず汚れないインク着色料を提供するという相反する性質が求められている。インクは、印刷後、紙が互いに貼り付いて離れなくなることを防ぐために迅速に乾燥する必要があるが、プリンターに用いられている微細なノズル上に皮(クラスト)を形成してはならない。特に、消費者は、数ヶ月間インクジェットインクカートリッジをそのままにしておく可能性があるので、プリンターに用いられている微細ノズルを詰まらせる可能性のある粒子の形成を阻止するために、保存安定性もまた重要である。
【0004】
高解像度デジタルカメラおよびインクジェットプリンターの出現に伴い、消費者がインクジェットプリンターを用いて写真をプリントすることが、ますます一般的になってきている。このことは、従来のハロゲン化銀写真の高価さ不便さを排除し、迅速かつ便利な印刷を提供する。しかしながら、このインクジェットプリンターを使用するためには、印刷が光およびオゾンのような一般的な酸化ガスに対して顕著な堅ろう度を示すことが要求される。写真は、ひとたび印刷されると、何年も飾り続ける場合もあり、試験システムではわずかにみえる印刷物の光堅ろう度およびオゾン堅ろう度の変化でさえも、実生活において画像の堅ろう度の有意な改善に結びつく可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インクジェット印刷に用いられている大多数のシアン着色料は、フタロシアニンを基本構造としており、露光後及びオゾンとの接触後の褪色および変色の問題が、このクラスの染料では特に深刻である。
【0006】
スルホネートおよびスルホンアミド置換基を有するフタロシアニンは、インクジェット印刷に特に有用であることが見出された。これらの染料は、通常、フタロシアニン顔料をスルホン化し、次に塩素化し、さらにアミン化/アミド化することによって製造され、得られた生成物は、影響を受けやすい位置にスルホおよびスルホンアミド/置換スルホンアミド置換基を有する(例えば、スコフィールド(Schofield,J.)及びアサフ(Asaf, M.)、 ジャーナル・オブ・クロマトグラフィー(Journal of Chromatography)、1997年、770巻、345−348頁を参照)。
【0007】
しかしながら、我々は、β位のみ置換されたある種のフタロシアニンをインクジェット印刷に用いた場合に、好都合な性質を示すことを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、式(1):
【0009】
【化1】

【0010】
[式中、Pcは、以下の式のフタロシアニン核であり;
【0011】
【化2】

【0012】
xは1〜2であり;
yは0.1〜2.9であり;
zは0.1〜1であり;
(x+y+z)の合計は、2〜4であり;さらに、
x、yおよびzで表される置換基は、フタロシアニン環のβ位にのみ結合している。]
およびその塩の染料混合物を提供する。
(x+y+z)の合計は、好ましくは3〜4であり、より好ましくは、(x+y+z)の合計は4である。
【0013】
式(1)の染料の混合物は、好ましくは、β−置換フタル酸およびその類似体の環化を含む方法によって製造される。好ましいβ−置換フタル酸類似体には、フタロニトリル、イミノイソインドリン、フタル酸無水物、フタルイミドおよびフタルアミドまたはその混合物が含まれる。
【0014】
環化反応は、適当なアンモニア源(必要に応じて)、および(必要に応じて)適当な金属塩、例えば、CuCl2、ならびに1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン(DBU)のような塩基の存在下で行うことができ、必要であれば、引き続き、さらなる合成工程(例えば塩素化、さらにアミン化/アミド化)を行ってよい。
x+y+zの総量は、(置換されたフタル酸またはその類似体):(置換されていないフタル酸またはその類似体)の比率を変えることによって制御することができる。このように、一置換フタル酸およびその類似体を環化反応に用いる場合、x+y+zは4である。
式(1)のフタロシアニン染料の好ましい合成製造では、フタロシアニン環は、4−スルホフタル酸の、好ましくはフタロシアニンβ−テトラスルホン酸への環化によって、製造される。
【0015】
フタロシアニンβ−スルホン酸が式(1)染料への経路の中間体である場合、該化合物を任意の適当な塩素化剤と反応させることによって塩素化してよい。
【0016】
塩素化は、好ましくは、フタロシアニンβ-スルホン酸をクロロスルホン酸と、好ましくは、チオニルクロリド、スルフリルクロリド、ホスホラスペンタクロリド、ホスホラスオキシクロリドまたはホスホラストリクロリドのような酸ハロゲン化物の存在下で処理することによって実施される。
【0017】
上記の方法に従って、フタロシアニン環上に形成された−SO2Cl置換基を、次に、アンモニアおよび下式の化合物:
【0018】
【化3】

【0019】
と(順次または同時に)、またはアンモニアおよびエチレンジアミンと(順次または同時に)さらに反応させ、その生成物を、さらに、塩化シアヌルと、さらにその後ジメチルアミンおよび2,5-ジスルホアニリンと逐一または同時に反応させることができる。
【0020】
当業者は、これらの反応生成物が分散混合物であり、x、yおよびzの値が混合物中に存在する基の平均を表すことを認識するであろう。
この反応から、式(1)のフタロシアニン染料の混合物が得られる。
【0021】
式(1)染料は、好ましくは、フタロシアニン環のα位がH以外の置換基で置換されていない。
式(1)染料の混合物は、魅力的で強いシアンの色調を有し、インクジェット印刷用インクの製造での使用に、有益な着色料である。それらは、溶解性、保存安定性、ならびに、水、オゾンおよび光への堅ろう度のバランスが良好であるという利点を有する。
【0022】
式(1)の染料上の酸性または塩基性基、特に酸性基は、好ましくは塩の形である。このように、ここに示した式は、染料を塩の形で含む。
好ましい塩は、アルカリ金属塩、特に、リチウム、ナトリウムおよびカリウム、アンモニウムおよび置換アンモニウム塩((CH34+のような第四級アミンなど)ならびにそれらの混合物である。特に好ましいのは、ナトリウム、リチウム、アンモニアおよび揮発性アミンを有する塩であり、より特定的にはナトリウム塩である。式(1)の染料を、既知の技術を用いて塩に変換してよい。
【0023】
式(1)の染料は、本明細書中に示すそれらの他の互変異性体の型で存在することも可能である。これらの互変異性体は、本発明の範囲内に含まれる。
本発明の第二の態様では、本発明の第一の態様で記載したような式(1)の染料の混合物および液体媒体を含む組成物が提供される。
【0024】
本発明の第二の態様による好ましい組成物は;
(a)0.01〜30部の、本発明の第一の態様に記載の式(1)の染料混合物を;および、
(b)70〜99.9部の液体媒体;
を含んでおり、ここで、部は全て重量によるもの(重量部)とする。
【0025】
好ましくは、(a)+(b)の部の数は100である。
成分(a)の部の数は、好ましくは0.1〜20、より好ましくは0.5〜15,特に1〜5重量部である。成分(b)の部の数は、好ましくは80〜99.9、より好ましくは85〜99.5、特に95〜99重量部である。
【0026】
好ましくは、成分(a)は、成分(b)に完全に溶解している。好ましくは、成分(a)は、成分(b)中に、20℃で少なくとも10%の溶解度を有する。これにより、より希薄なインクの製造に用いることのできる液体染料濃縮液の製造が可能になり、保存中に液体媒体の蒸発が起きた場合に、染料が沈殿する可能性が低下する。
【0027】
該インクは、高濃度シアンインク、低濃度シアンインクまたは高濃度および低濃度インクの両方として、インクジェットプリンター内に組み込むことができる。後者の場合、印刷された像の解像度および品質を向上させることができる。したがって、本発明はまた、成分(a)が2.5〜7部、より好ましくは2.5〜5部(高濃度インク)の量で存在する、または成分(a)が0.5〜2.4部、より好ましくは0.5〜1.5部(低濃度インク)の量で存在する、組成物(好ましくはインク)を提供する。
【0028】
好ましい液体媒体には、水、水と有機溶媒の混合物、および水を含まない有機溶媒が含まれる。好ましくは、液体媒体は、水と有機溶媒の混合物、または水を含まない有機溶媒を含む。
【0029】
液体媒体(b)が水と有機溶媒の混合物を含む場合、水:有機溶媒の重量比は、好ましくは、99:1〜1:99、より好ましくは99:1〜50;50,特に95:5〜80:20である。
【0030】
水と有機溶媒との混合物中に存在する有機溶媒は、水混和性有機溶媒またはそれらの有機溶媒の混合物である。好ましい水混和性有機溶媒としては、C1-6−アルカノール、好ましくはメエタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、シクロペンタノールおよびシクロヘキサノール;線状アミド、好ましくはジメチルホルムアミドまたはジメチルアセトアミド;ケトンおよびケトン-アルコール、好ましくはアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンおよびジアセトンアルコール;水混和性エーテル、好ましくはテトラヒドロフランおよびジオキサン;ジオール、好ましくは2〜12個の炭素原子を有するジオール、例えば、ペンタン−1,5−ジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、へキシレングリコールおよびチオジグリコール、ならびにオリゴアルキレングリコールおよびポリアルキレングリコール、好ましくはジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール;トリオール、好ましくはグリセロールおよび1,2,6−ヘキサントリオール;ジオールのモノ−C1-4−アルキルエーテル、好ましくは2〜12個の炭素原子を有するジオールのモノ−C1-4−アルキルエーテル、特に2−メトキシエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エタノール、2−[2−(2−エトキシエトキシ)-エトキシ]エタノールおよびエチレングリコールモノアリルエーテル;環状アミド、好ましくは2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、カプロラクタムおよび1,3−ジメチルイミダゾリドン;環状エステル、好ましくはカプロラクトン;スルホキシド、好ましくはジメチルスルホキシドおよびスルホランなどが挙げられる。好ましくは、液体媒体は、水と、2種類またはそれ以上、特に2〜8種類の水混和性有機溶媒を含む。
【0031】
特に好ましい水混和性有機溶媒は、環状アミド、特に2−ピロリドン、N−メチルピロリドンおよびN−エチルピロリドン;ジオール、特に1,5−ペンタンジオール、エチレングリコール、チオジグリコール、ジエチレングリコールおよびトリエチレングリコール;ならびに、ジオールのモノ-C1-4−アルキルおよびC1-4−アルキルエーテル、より好ましくは2〜12個の炭素原子を有するジオールのモノ-C1-4−アルキルエーテル、特に、2−メトキシ−2−エトキシ−2−エトキシエタノールである。
【0032】
水と1種類以上の有機溶媒の混合物を含む更なる好適な液体媒体の例は、米国特許第4,963,189号明細書、同第4,703,113号明細書、同第4,626,284号明細書および欧州特許公開公報425,150A号に記載されている。
【0033】
液体媒体が、水を含まない(即ち、水が1重量%より少ない)有機溶媒を含む場合、溶媒は、好ましくは30〜200℃の沸点、より好ましくは40〜150℃、特には50〜125℃の沸点を有する。有機溶媒は、水非混和性溶媒、水混和性溶媒、それらの溶媒の混合物であってよい。好ましい水混和性有機溶媒は、任意の上記水混和性有機溶媒およびその混合物である。好ましい水非混和性溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素;エステル、好ましくは酢酸エチル;塩素化炭化水素、好ましくはCH2Cl2;およびエーテル、好ましくはジエチルエーテル;ならびにその混合物が挙げることができる。
【0034】
液体媒体が水非混和性有機溶媒を含有する場合、好ましくは極性溶媒が含まれる。なぜなら、該極性溶媒は、液体媒体内のフタロシアニン染料混合物の溶解性を高めるからである。極性溶媒の例としては、C1-4−アルコールが挙げられる。
【0035】
上記の好適な例を考慮すると、液体媒体が水を含有しない有機溶媒である場合、該液体媒体は、ケトン(特にメチルエチルケトン)および/またはアルコール(特にC1-4−アルカノール、より特定的にはエタノールまたはプロパノール)を含むことが特に好ましい。
水を含有しない有機溶媒は、単一の有機溶媒または2種類以上の有機溶媒の混合物であってよい。液体媒体が水を含有しない有機溶媒である場合、該液体媒体は、2〜5種類の異なる有機溶媒の混合物であることが好ましい。これにより、インクの乾燥特性および保存安定性をうまく制御できる液体媒体を選択することが可能になる。
水を含有しない有機溶媒を含む液体媒体は、速乾性が必要とされる場合、および、疎水性および非吸収性基材、例えばプラスチック、金属およびガラス上に印刷する場合、特に有用である。
【0036】
液体媒体は、もちろん、インクジェット印刷インク中に通常用いられる追加的成分、例えば粘性調整剤、表面張力調節剤、腐食阻害剤、殺生物剤、焦げ付き防止添加剤および界面活性剤を含んでいてよく、該追加的成分は、イオン性であっても、非イオン性であってもよい。
【0037】
通常必要というわけでないが、色調および性能特性を調整するために、さらなる着色料をインクに加えてもよい。そのような着色料の例としては、C.I. Direct Yellow 86、132、142および173;C.I. Directr Blue 307;C.I. Food Black 2;C.I. Direct Black 168および195;ならびにC.I. Acid Yellow 23が挙げられる。
【0038】
本発明の組成物は、インクジェットプリンターでの使用に適したインクであることが好ましい。インクジェットプリンターでの使用に適したインクは、微細ノズルを詰まらせる原因とならずに、インクジェット印刷ヘッドを通して繰り返し発射できるインクである。
インクジェットプリンターでの使用に適したインクの粘度は、25℃で、好ましくは20cPより小さく、より好ましくは10cPより小さく、特に5cPより小さい。
【0039】
インクジェットプリンターでの使用に適したインクは、(式(1)の染料に結合している任意の二価および三価の金属イオン、またはインク中に組み込まれた任意のその他の着色料または添加剤以外の)二価および三価金属イオンを、全量中で、好ましくは500ppm未満、より好ましくは250ppm未満、特に100ppm未満の量で含有する。
【0040】
好ましくは、インクジェットプリンターでの使用に適したインクを、10μm以下、より好ましくは3μm以下、特に2μm以下、より特定的には1μm以下の平均細孔径を有するフィルターを通してろ過した。このろ過は、多くのインクジェットプリンターで認められている微小ノズルを詰まらせる可能性がある粒子状物質を除去する。
【0041】
インクジェットプリンターでの使用に適したインクは、全量中に、好ましくは500ppm未満、より好ましくは250ppm未満、特に100ppm未満、より特定的には10ppm未満の量のハロゲン化イオンを含む。
【0042】
本発明の第三の態様では、インクジェットプリンターで基体上に像を形成する方法が提供される。該方法は、本発明の第二の態様によるインクジェットプリンターでの使用に適したインクを塗布することを含む。
【0043】
好ましくは、インクジェットプリンターは、小さいオリフィス通って基体上に射出される小滴の形で基体にインクを塗布する。好ましいインクジェットプリンターは、圧電式インクジェットプリンターおよび熱インクジェットプリンターである。熱インクジェットプリンターでは、プログラムされた熱パルスが、オリフィスに隣接した抵抗器によってリザーバー内のインクに加えられ、それによって、基体とオリフィスの相対移動の間に、インクが、オリフィスから、小滴の形で、直接基体に向けて射出される。圧電式インクジェットプリンターでは、小結晶を振動させて、穴からインクを射出させる。これに代わる別の方法としては、例えば、国際特許出願の国際公開WO00/48938およびWO00/55089に記載のとおり、可動性パドル(Paddle)またはプランジャー(plunger)に接続された電気機械の作動装置によって、インクを射出することができる。
【0044】
基体は、好ましくは、紙、プラスチック、織物、金属またはガラス、より好ましくは紙、オーバーヘッドプロジェクタースライドまたは織物材料、特に紙である。
好ましい紙は、普通紙または表面加工紙であり、酸性、アルカリ性あるいは中性の特徴を有してよい。光沢紙が特に好ましい。
【0045】
本発明の第四の態様では、本発明の第一態様に記載された染料の混合物を用いて、または第二の態様による組成物を用いて、または本発明の第三の態様による方法に従って印刷物、好ましくは紙、プラスチック、織物、金属またはガラス、より好ましくは紙、オーバーヘッドプロジェクタースライドまたは織物材料、特に紙、より特定的には普通紙、コート紙または表面加工紙が提供される。
【0046】
本発明の第四の態様の印刷物は、本発明の第三の態様による方法を用いて印刷された写真であることが特に好ましい。
【0047】
本発明の第五の態様では、インクジェットプリンターでの使用に適した容器(chamber)およびインクを含むインクジェットプリンターカートリッジが提供される。該インクジェットプリンターにおいて、インクは容器内に存在し、また、該インクは本発明の第二の態様に記載した通りのインクである。カートリッジは、異なる容器内に、本発明の第二の態様に記載したような高濃度インクおよび低濃度インクを入れておくことができる。
【実施例】
【0048】
本発明は、さらに以下の実施例により説明され、実施例中では、特に断りのない限り、全ての部および%は重量に基づく。
【0049】
実施例1
式(1)の染料混合物の製造(式中、xは1.8であり、yは1.7であり、zは0.5である。)
【0050】
工程1 β−置換銅フタロシアニンテトラスルホン酸の製造
4−スルホフタル酸カリウム(56.8g)、尿素(120g)、CuCl2(6.9g)、モリブデン酸アンモニウム(1.2g)および1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン(DBU)(7.5g)を反応容器内で混合した。次に、混合物を、2時間以上、工程内で加温し(130℃/30分、150℃/30分、180℃/30分、220℃)、形成された溶解物を220℃でさらに2時間攪拌した。形成された固体を熱水で4回(4×200ml)抽出し、抽出物をろ過して、不溶性材料を除去した。得られたろ液を60℃〜70℃の間で攪拌し、次に充分量のNaClを加えると、7%の塩溶液が得られた。攪拌を継続し、沈殿した固体をろ過し、10%塩類溶液(200ml)で洗浄し、減圧で吸引乾燥した。得られた湿潤固体(77.6g)をアセトンでスラリーにし、ろ過し、最初に室温で、次に50℃で乾燥させた。
【0051】
この物質をさらに“酸ペースト化”により精製してもよい。この方法には、上記の通りに製造した物質を硫酸内でスラリー洗浄し、次に水中に沈み込ませ、塩化ナトリウムで沈殿させてナトリウム塩を得ることが含まれる。
【0052】
工程2
β-置換銅フタロシアニンスルホニルクロリドの製造
クロロスルホン酸(68モル当量)、塩化チオニル(40モル当量)、および工程1に記載した方法に従って製造されてよいβ-置換銅フタロシアニンテトラスルホン酸(1モル当量)の酸ペースト化ナトリウム塩を反応容器中で混合した。該反応混合物を120℃に加温し、4時間攪拌しながら、室温に保った。攪拌後、反応融解物を冷却した。
【0053】
工程3
トリアジニルアミンの製造
2.5−ジスルホアニリン(13.8g)を、水酸化ナトリウム溶液を含む水中(pH7)に溶解し、水(200ml)中の塩化シアヌル(9.28g)およびカルソレン油(数滴)のスラリーに、pH5〜6、5℃で滴下しながら加えた。反応物のpHを、希水酸化ナトリウム溶液を加えることにより維持した。2時間後、pHを7に上げ、反応物を25℃に0.5時間に保ち、その後ろ過した。ジメチルアミン(40% 強度(strength))(6.3ml)をろ液に加え、pHをpH8.5〜9に上げ、反応物を、25℃に2時間保った。次に反応物を60℃で1時間、次に80℃で1時間、pHをpH9〜10に保って攪拌した。反応物は、室温に冷却して一晩おいた。次の日、エチレンジアミン(33ml)を加え、反応物を80℃で2時間加熱した。反応混合物を低容量(200ml)に濃縮し、塩(20g)を加え、濃塩酸でpHをpH1に下げることによって、得られた生成物を単離した。沈殿した固体をろ過し、20%塩化ナトリウム溶液(50ml)で洗浄した。沈殿物をメタノール(170ml)および水(9ml)の混合物中、室温で攪拌し、次に60℃で1時間攪拌し、冷却し、ろ過し、メタノール(25ml)で洗浄し、乾燥すると、必要な生成物が白色固体(18.5g)として得られた。
【0054】
工程4
表題染料の製造
工程2からのフタロシアニンフルホニルクロリドのペーストを、6モル当量のアンモニアおよび工程3(0〜5℃)で製造した0.7モル当量のトリアジニルアミンを含む水の攪拌混合物に加えた。次に、希水酸化リチウム溶液を加えることによって、pHを9〜10に上げ、0〜5℃に30分間保ち、その後、pHを約10に保ちながら、40−42℃に加熱した。次に、反応混合物を、40℃、pH10〜11で一晩放置し、反応を完了させた。その後、得られた溶液を、50Kダルトンの膜に通し、存在する任意の塩を除去した。次に溶液をオーブン乾燥させると、最終生成物が得られた。
【0055】
実施例2
式(1)の染料混合物の製造(式中、xは1.8であり、yは1.6であり、zは0.6である。)
実施例2は、実施例1に記載の方法に従って製造するが、工程4では、工程3で製造されたトリアジニルアミンを1.0モル当量用いた。
【0056】
比較染料
比較染料1は、フジフイルム・イメージング・カラランツ(FujifilmImaging Colorants Ltd.)社からのPro-jet(登録商標) Cyan 1として得られたC.I. Direct Blue 199であり、下式の化合物として供給される。
【0057】
【化4】

【0058】
C.I. Direct Blue 199は、もっとも広く用いられているシアンインクジェット染料である。
【0059】
インクおよびインクジェット印刷
インクは、2-ピロリドン 7部;ジエチレングリコール 7部;エチレングリコール 7部;Surfynol(登録商標) 465 1部;Trisバッファー 0.2部および残部の脱イオン水からなる液体媒体97ml中に3gの染料を溶解し、pHを水酸化ナトリウムでpH8〜8.5の間に調整することによって、実施例1および実施例2の染料ならびに比較染料から製造した。Surfynol(登録商標) 465は、エア・プロダクツ(Air Products)社からの界面活性剤である。
【0060】
インクジェット印刷
上記の方法に従って製造されたインクを、0.45ミクロンのナイロンフィルターでろ過し、次にシリンジを用いて空の印刷カートリッジに組み込んだ。
【0061】
これらのインクは下記媒体上での印刷に使用した:
EpsonUltra Premium Glossy Photo Paper(SEC PM);および、
CanonPremium PR101 Photo Paper(PR101)
【0062】
印刷評価
インクジェット印刷によって作成された印刷物を、25℃、50%の相対湿度で24時間、Hampden903 Ozoneキャビネット内で5ppmのオゾンにさらすことによって、オゾン堅ろう度を試験した。印刷インクのオゾンに対する堅ろう度を、オゾンにさらす前および後の光学濃度の差によって判定した。
【0063】
印刷された像の光-堅ろう度は、印刷像を、Atlas Ci5000 Weathermeterに100時間さらし、次に、光学濃度で変化を測定することによって評価した。
【0064】
光学濃度測定は、以下のパラメーター:
測定ジオメトリー : 0°/45°
スペクトル範囲 : 380〜730ppm
スペクトル間隔 : 10nm
光源 : D65
オブサーバー(Observer) : 2°(CIE 1931)
密度 : Ansi A
外部充填剤 : なし
に設定したGretag spectrolino分光光度計を用いて実施した。
【0065】
光堅ろう度およびオゾン堅ろう度を、印刷の光学濃度の%変化(より低い数字は堅ろう度がより高いことを示す)および褪色の度合いで評価した。褪色度を△Eによって表した。より低い数字は光堅ろう度がより高いことを示している。△Eは、印刷のCIE色座標L、a、bにおける全体的な変化として定義され、式ΔE=(ΔL+Δa+Δb0.5によって表される。
【0066】
光堅牢度
【0067】
【表1】

【0068】
オゾン堅牢度
【0069】
【表2】

【0070】
明らかに、本発明による染料は、市場で主流のシアン染料と比較して、強いオゾン堅ろう度と等価又はより優れた光堅ろう度を示す。
【0071】
更なるインク
表AおよびBに記載したインクを、実施例1の染料の混合物から製造することができる。引用された数字は、関連する成分の部の数を表し、部は全て重量による。インクをインクジェット印刷によって紙に塗布することもできる。
表AおよびBでは、以下の略称を用いている。
PG=ポリプロピレングリコール
DEG=ジエチレングリコール
NMP=N−メチルピロリドン
DMK=ジメチルケトン
IPA=イソプロパノール
MEOH=メタノール
2P=2−ピロリドン
MIBK=メチルイソブチルケトン
P12=プロパン−1,2―ジオール
BDL=ブタン−2,3−ジオール
CET=セチルアンモニウムブロミド
PHO=NaHPO 及び
TBT=tert−ブタノール
TDG=チオジグリコール
【0072】
【表3】

【0073】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

(式中、Pcは、以下の式のフタロシアニン核を表し、
【化2】

xは1〜2であり、
yは0.1〜2.9であり、
zは0.1〜1であり、
(x+y+z)の合計は2〜4であり、さらに
x、yおよびzで表される置換基は、フタロシアニン環のβ位のみに結合している。)
及びその塩の染料混合物。
【請求項2】
(x+y+z)の合計が4である、請求項1に記載の染料混合物。
【請求項3】
β-置換フタル酸またはその類似体の環化を含む方法によって製造される、請求項1または2に記載の染料混合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の式(1)の染料混合物および液体媒体を含む組成物。
【請求項5】
(c) 0.01〜30部の、請求項1〜4のいずれか一項に記載の式(1)の染料の混合物;及び
(d) 70〜99.9部の液体媒体
を含んでおり、ここで部はすべて重量による、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
インクジェットプリンターでの使用に適したインクである、請求項4又は5に記載の組成物。
【請求項7】
インクジェットプリンターによって基体上に請求項6記載のインクを塗布することを含む、該基体に像を形成する方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法によって印刷された印刷物。
【請求項9】
写真である、請求項8に記載の印刷物。
【請求項10】
容器、および請求項6に記載のインクを含むインクジェットプリンターカートリッジであって、前記インクが前記容器内に存在することを特徴とするインクジェットプリンターカートリッジ。

【公表番号】特表2009−540093(P2009−540093A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514885(P2009−514885)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【国際出願番号】PCT/GB2007/002148
【国際公開番号】WO2007/144586
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(506139635)フジフィルム・イメイジング・カラランツ・リミテッド (75)
【Fターム(参考)】