説明

フッ素を含むフラックス芯つき電極

【課題】成形された溶接ビードにおいてガストラッキングが低下し、拡散可能な水素の量が低下した溶接電極の提供。
【解決手段】金属鞘および充填組成物からなるガス遮蔽した電気アーク溶接法においてガストラッキングが低下した溶接ビードを形成する芯つき電極であって、該充填組成物は、15-80重量%の金属酸化物スラグ形成剤、0.5-20重量%の少なくとも1つのフッ素含有化合物、および1-70重量%の金属脱酸素剤および/または金属合金化剤を含み、該金属酸化物スラグ形成剤の該重量%が該フッ素含有化合物のその重量%より大きく、該フッ素含有化合物が該充填組成物の重量%に基づいて少なくとも0.2重量%のフッ素をもたらす芯つき電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、溶接の分野に関し、そして特に、改善された溶接ビード形成性を有する電極に関し、さらに特に、ガストラッキングの量が低下した溶接ビードを形成する芯つき電極に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接の分野では、溶接法の主なタイプは、固体ワイヤによるガス-金属アーク溶接(GMAW)または金属-芯つきワイヤによるガス-金属アーク溶接(GMAW-C)、ガス遮蔽されたフラックス-芯つきアーク溶接(FCAWG)、自己遮蔽されたフラックス-芯つきアーク溶接(FCAW-S)、遮蔽された金属アーク溶接(SMAW)および浸漬アーク溶接(SAW)である。これらの方法のなかで、固体または金属-芯つき電極によるガス金属アーク溶接は、金属コンポーネントを結合するかまたは重ねるのに次第に使用されてきている。これらのタイプの溶接方法は、これらの方法が生産性および多様性の増大をもたらすことから、次第に用いられている。生産性および多様性のこれらの増大は、ガス金属アーク溶接(GMAWおよびGMAW-C)における溶接電極の連続性から生じ、この溶接は、遮蔽された金属アーク溶接(SMAW)よりも実質的な生産性の増加をもたらす。さらに、これらの電極は、スラグが非常に少ない、外観が非常に良好な溶接をもたらし、そのため、他の溶接法でしばしば生じて問題となる、溶接部を清浄しスラグを処理することに伴う時間および費用を節約することができる。
【0003】
固体または芯つきの電極によるガス金属アーク溶接では、遮蔽ガスは、溶接中の大気の汚染に対して溶接部を保護するのに使用される。固体の電極は、遮蔽ガスと組み合わされて所望の物理的および機械的な性質を有する孔のない溶接部をもたらす成分によって適切に合金化される。芯つき電極では、それらの成分は金属性の外側の鞘の内側すなわち芯(充填物(fill))に存在し、そして固体の電極の場合と同様な機能をはたす。
【0004】
固体および芯つきの電極は、適切なガス遮蔽の下で、目的とする応用に満足して用いることができる降伏強さ、引張り強さ、延性および衝撃強さを有する固体の実質的に孔のない溶接部をもたらすようにデザインされる。これらの電極は、また溶接中発生するスラグの量を最小にするようにデザインされる。芯つき電極は、構造用コンポーネントの溶接作業中の生産性を増大させることから、固体のワイヤの代わりに次第に使用されてきている。芯つき電極は、金属性の外側の鞘により囲まれた芯(充填物)材料からなる複合電極である。芯は、金属粉末、並びに所望の物理的および機械的な性質が溶接部で得られるようにアーク安定性、溶接部のウェッティングおよび外観などを助けるラックス成分から主としてなる。芯つき電極は、芯材料の成分を混合しそして形成された片の内側にそれらを溶着し、次に片を閉じ目的とする直径に延伸することにより製造される。芯つき電極は、固体の電極に比べて、溶着速度を早め、そしてより広いかつさらに一定した溶接浸透プロフィルを生ずる。その上、それらは、固体の電極に比較して、アーク作用の改善をもたらし、燻煙およびスパッターの発生がより少なく、そしてウェッティングが良好な溶接溶着物を生ずる。
【0005】
溶接の技術では、多くの従来の努力は、予定されたやり方で実施されることを目的とする予定されたフラックス成分を有するタイプのフラックス組成物を開発するのに費やされてきた。多数の組成物が、アーク溶接におけるフラックスとして使用されるのに開発されてきた。フラックスは、アークの安定性をコントロールし、溶接金属組成物を改変し、そして大気の汚染から保護するためにアーク溶接で利用されている。アーク安定性は、普通、フラックスの組成を改変することによりコントロールされる。そのため、フラックス混合物中でプラズマ電荷担体としてうまく機能する物質を有することが望ましい。フラックスは、また、金属中の不純物をさらに容易に融合可能にしそしてこれら不純物が金属よりもさきに結合してスラグを形成する物質を提供することにより溶接金属組成物を改変する。他の材料も添加されて、スラグの融点を低下させ、スラグの流動性を改善し、そしてフラックス粒子のための結合剤として働くことができる。
【0006】
芯つき電極は、普通、鋼に基づく金属の電気アーク溶接に使用される。電極は、一般に、早い溶接速度で一回のパスおよび複数のパスで強度の高い溶接部を生ずる。これらの電極は、種々の応用の所望の目的とする用途に合う引張り強さ、延性および衝撃強さを有する固体の実質的に孔のない溶接ビードをもたらすように処方される。このような溶接電極の1つは、本明細書で参考として引用する特許文献1に開示されている。
【0007】
溶接金属の形成中の多くのチャレンジのなかの1つは、高品質の溶接ビードを形成することである。溶接ビードの形成中の現象の1つは、ガストラッキングである。ガストラッキングは、虫に似たクレーターが溶接ビードの表面上に観察されるガス遮蔽されたFCAW中に認められる現象である。この現象は、急速凝固スラグシステム(ルチルに基づく)でよく観察され、その場合スラグは溶接プールより遙かに早く固体化する。スラグの急速な固体化のために、溶融した溶接部から生ずるガスは、一部捕捉され、そのため溶接ビードの表面にクレーターを形成する。
【0008】
芯つき溶接電極に関連して使用される充填組成物の技術の現在の状態からみて、ガストラッキングから形成される表面のクレーターの量が低下した高品質の溶接ビードを形成する溶接電極が求められている。
【0009】
【特許文献1】米国特許出願11/028344
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
成形された溶接ビードにおいてガストラッキングが低下した溶接電極を提供するのが本発明の主な目的である。
【0011】
本発明の他の目的および/または別の目的は、溶接ビードにおいて拡散可能な水素の量が低下した溶接電極の提供である。
【0012】
本発明の他の目的および/または別の目的は、形成された溶接ビード中のガストラッキングおよび/または拡散可能な水素の量を低下させるために1つ以上のチタン化合物およびフッ素含有化合物の組み合わせを含む溶接電極の提供である。
【0013】
本発明の他の目的および/または別の目的は、芯つき電極である溶接電極の提供である。
【0014】
本発明の他の目的および/または別の目的は、ガス遮蔽された芯つき電極である溶接電極の提供である。
【0015】
これらの目的および他の目的および利点は、本発明の記述から明らかになるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、溶接電極に関し、さらに特に、ガストラッキングから形成される表面のクレーターの量が低下した高品質の溶接ビードを形成する充填組成物を含む溶接電極に関する。本発明の溶接電極は、また、溶接電極中の拡散可能な水素の量を低下するために処方できるが、これは必須ではない。本発明の充填組成物は、特に、鞘の芯中の充填組成物を囲む金属鞘を有する芯つき電極に関するが、充填組成物は、他のタイプの電極(例えば、スティック電極上のコーティングなど)に適用できるか、または浸漬アーク溶接法のフラックス組成物の一部として使用できる。本発明の充填組成物は、特に、軟および低合金鋼を溶接するのに使用される電極に使用するのに処方されるが、充填組成物は、他のタイプの金属上の溶接ビードの形成のための電極に使用できる。金属電極は、典型的には、鉄(例えば、炭素鋼、低炭素鋼、ステンレス鋼、低合金鋼など)から主として形成されるが、基礎金属は、他の材料から主として形成できる。充填組成物は、典型的に、全電極重量の少なくとも約1重量%、そして全電極重量の約80重量%以下、そして典型的に全電極重量の約8-60重量%、そしてさらに典型的に全電極重量の約10-50重量%、より典型的に全電極重量の約11-40重量%、そしてなお典型的に全電極重量の約12-30重量%をしめるが、他の重量%も使用できる。充填組成物は、1つ以上のスラグ形成剤および1つ以上のフッ素含有化合物を含む。充填組成物のこれらの成分は、溶接金属のガストラッキングを低下させるために溶融した溶接金属について独特なスラグ系を形成するのに使用される。これらの成分は、また、溶接ビードの形成を助け、溶接ビード中の水素の量を減少させ、および/または形成された溶接ビードを大気から少なくとも部分的に遮蔽するのに使用できる。1つ以上のスラグ形成剤の大部分の重量%は、酸化チタン(例えばルチルなど)および/または酸化チタン含有化合物(例えば、カリウムシリコ-チタネート、ナトリウムシリコ-チタネートなど)を含む。充填組成物は、追加のスラグ形成剤を含む。充填組成物中の1つ以上のスラグ形成剤の重量%は、一般に、約80重量%より少なく、典型的に約20-75重量%、そしてさらに典型的に約35-60重量%であるが、他の量も使用できる。一般に、スラグ形成剤の重量%は、フッ素含有化合物の重量%より大きい。一般に、スラグ形成剤対フッ素含有化合物の重量%の比は、約1.1-20:1、典型的に約2-15:1そしてさらに典型的に約5-12:1であるが、他の比も使用できる。1つ以上のフッ素含有化合物は、形成された溶接ビード上のガストラッキングの傾向を低下させるために、スラグの性質を改変するのに使用される。フッ素含有化合物は、スラグの融点を下げるために使用される。スラグのより低い融点は、スラグを長い時間溶融したままにさせ、それによりガスがより長い時間溶融した溶接部から発生しそしてスラグに溶解する。スラグ中にフッ素が含まれることは、またHFの形成を促進させる。溶接部から発生するガスの1つは、水素である。スラグ中のフッ素は、発生する水素ガスと反応しそしてHFを形成する。HFの形成は、溶接システムにおける水素の分圧を低下させ、それによりガストラッキングの発生を低下させる。スラグ中のフッ素は、また形成された溶接ビードの水素の量を減少させる。水素のこの減少は、1つ以上の方法で達成されるものと考えられる。溶接工程中、フッ素化合物のいくらかは分解しそしてフッ素ガスを大気中に放出させるものと考えられる。放出されたフッ素ガスは、溶融した溶接ビードを周りの水分および/または他の水素源から遮蔽する遮蔽効果を有する。さらに、フッ素のいくらかは、水素と反応し、そして溶融した溶接金属に不溶のHFを形成する。また、低融点フッ素含有化合物は、溶接ビードをカバーおよび/または被覆するのを助けて、周りの水素に対してバリヤを形成するものと考えられる。そのため、溶接ビード中に拡散できる水素の量は減少する。溶接工程中、フッ素化合物のいくらかは分解し、そして溶融した溶接金属をカバーするスラグ中に入るものと考えられる。スラグ中のフッ素は、スラグの格子を改変して溶融した溶接金属からの水素の移動を増大させるものとさらに考えられる。溶融した金属からの水素のこの移動は、溶接ビード中の水素の量を低下させさらにガストラッキングの発生を減少させる。充填組成物中に含まれるフッ素含有化合物の例は、フッ化アルミニウム、フッ化バリウム、フッ化ビスマス、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化ストロンチウム、テフロン(登録商標)、NaSiF、KSiF、NaAlFおよび/またはKAlFを含むが、これらに限定されない。しかし、他のフッ素含有化合物または追加のフッ素含有化合物も使用できることも理解できるだろう。充填組成物の全フッ素含量は、少なくとも約0.5重量%である。典型的に、充填組成物の全フッ素含量は、約15重量%より少なく、さらに典型的に約1-10重量%であるが、他のフッ素の量も使用できることは理解できるだろう。本発明の1つの態様(本発明を限定しない)では、1つ以上のフッ素含有化合物は、充填組成物に少なくとも約0.1重量%そして典型的に約10重量%より少ない量のフッ素をもたらすが、他の量も充填物に含まれる。
【0017】
本発明の他の構成および/または別の構成では、溶接電極の金属鞘の組成は、所望の溶接金属組成物と少なくとも密接に合致するように選択される。典型的に、金属鞘は、鉄に基づく素材(例えば、炭素鋼、ステンレス鋼など)を溶接するとき、大部分鉄を含むが、鞘の組成は、種々のタイプの金属を含んで特定の溶接ビード組成物を達成する。本発明の1つの態様では、金属鞘は、主として、鉄を含みそして1つ以上の他の元素例えばアルミニウム、アンチモン、ビスマス、硼素、炭素、コバルト、銅、鉛、マンガン、モリブデン、ニッケル、ニオブ、珪素、硫黄、錫、チタン、タングステン、バナジウム、亜鉛および/またはジルコンを含むが、これらに限定されない。本発明の他の態様および/または別の態様では、金属鞘の鉄含量は、少なくとも約80重量%である。
【0018】
本発明の他の構成および/または別の態様では、充填組成物は、1つ以上の溶接金属保護剤および/または変性剤を含むことができる。充填物の成分は、金属合金化剤(例えば、アルミニウム、硼素、カルシウム、炭素、クロム、鉄、マンガン、ニッケル、珪素、チタン、ジルコンなど)を含み、それらは溶接工程中および/またはその後溶接金属を保護し、特定の溶接工程を助け、および/または溶接ビードの組成を改変するのに少なくとも部分的に使用される。本発明の1つの態様では、充填組成物は、溶接金属保護剤の少なくとも1つを含む。本発明の他の態様および/または別の態様では、充填組成物は、所望の組成を有する溶接金属を形成するのを助けるのに使用される1つ以上の合金化剤を含む。本発明の他の態様および/または別の態様では、充填組成物は1つ以上のスラグ改変剤を含む。スラグ改変剤は、典型的に、スラグの粘度を増加および/または低下させ、溶接金属からのスラグの除去の容易さを改善し、燻煙の生成を減少させ、スパッタリングを低下させるなどに使用される。
【0019】
本発明の他の構成および/または別の構成では、遮蔽ガスは、溶接電極と関連して使用されて、大気中の元素および/または化合物から溶接ビードを保護する。遮蔽ガスは、一般に、1つ以上のガスを含む。これらの1つ以上のガスは、一般に、溶接ビードの組成に関して不活性または実質的に不活性である。1つの態様では、アルゴン、二酸化炭素またはこれらの混合物は、遮蔽ガスとして少なくとも部分的に使用される。この態様の1つの構成では、遮蔽ガスは、約2-40容量%の二酸化炭素を含み、残りはアルゴンである。この態様の別の構成および/または他の構成では、遮蔽ガスは、約5-25容量%の二酸化炭素を含み、残りはアルゴンである。理解できるように、他の不活性または実質的に不活性のガスおよび/または追加の不活性または実質的に不活性のガスも使用できる。
【0020】
本発明の他の構成および/または別の構成では、本発明の電極は、酸化チタンを含まない1つ以上のスラグ形成剤を含む充填組成物を含む。これらのスラグ形成剤は、1つ以上の金属酸化物(例えば、酸化アルミニウム、酸化硼素、酸化カルシウム、酸化クロム、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化ニオブ、酸化カリウム、二酸化珪素、酸化ナトリウム、酸化錫、酸化バナジウム、酸化ジルコンなど)および/または1つ以上の金属炭酸塩(例えば、炭酸カルシウムなど)を含む。充填組成物のスラグ系は、溶着工程中および/またはその後溶接金属または緩衝層を少なくとも部分的に保護するのに使用され、および/または特定の溶着工程を助けるのに使用される。本発明の他の態様(本発明を限定しない)では、スラグ系は、少なくとも1つのスラグウェッティング剤、アーク安定化剤、スラグ除去剤および/または表面溶着剤を含むことができる。スラグウェッティング剤は、使用されるとき、スラグが溶着した金属を完全にカバーして、金属の溶着した層が少なくとも部分的に固体化されるまで、溶着した金属を大気から保護すること、および/または溶着した金属の外観を良好にすることを確実にするのを助ける。安定化剤は、使用されるとき、スパッターを最小にする穏やかなアークを生成するのを助ける。表面溶着剤は、使用されるとき、溶着した金属の光沢および全体の表面外観に助けになる。スラグ除去剤は、使用されるとき、溶着した金属の上および/またはその周りのスラグの容易な除去を助ける。スラグ系は、またスラグの粘度を増加および/または低下させ、および/または燻煙の生成を低下させる。
【0021】
本発明のさらなる構成および/または別の構成では、本発明の電極は、溶接金属に関する酸素の有害な作用を低下させるのに使用される1つ以上の脱酸素剤を含むことができる充填組成物を含む。充填組成物に含まれる1つ以上の脱酸素剤の例は、アルミニウム、マグネシウム、マンガン、珪素および/またはチタンであるが、これらに限定されない。一般に、脱酸素剤は、充填組成物に含まれるとき、充填組成物の約40重量%より少なく、典型的に約1-30重量%をしめるが、他の重量%も使用できる。
【0022】
本発明の他の構成および/または別の構成では、本発明の電極は、所望の溶接金属組成物に少なくとも密接に合致する、および/または形成された溶接ビードの所望の性質を得るように選ばれる1つ以上の金属合金化剤を含む充填組成物を含む。これらの合金化剤の例は、アルミニウム、アンチモン、ビスマス、硼素、カルシウム、炭素、クロム、コバルト、銅、鉄、鉛、マンガン、モリブデン、ニッケル、ニオブ、珪素、硫黄、錫、チタン、タングステン、バナジウム、亜鉛および/またはジルコンを含むがこれらに限定されないが、他の金属合金化剤または追加の金属合金化剤も使用できる。1つの態様では、金属合金化剤は、硼素、鉄、マンガン、珪素およびチタンから選ばれる少なくとも2つの金属を含む。一般に、金属合金化剤は、充填組成物で使用されるとき、充填組成物の約80重量%より少なく、典型的に約10-60重量%をしめるが、他の重量%も使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の芯つき電極は、ガストラッキングに関連する過去の問題を克服する。フラックス芯つき電極の充填組成物は、主要なスラグ形成剤として酸化チタン並びに1つ以上のフッ素含有化合物(溶接金属上のガストラッキングの存在を低下させるかまたは排除するために溶接中形成されるスラグの性質を少なくとも部分的に改変するのに使用される)を含む。多くのタイプのフッ素含有化合物は、充填組成物に使用できる。
【0024】
本発明による充填組成物の一般的な処方(重量%)は、以下の通りである。非フッ素含有スラグ形成剤15-80%、フッ素含有化合物0.5-20%、金属脱酸素剤0-40%、金属合金化剤0-70%。
【0025】
充填組成物の他のさらに特定の一般的な処方(重量%)は、以下の通りである。非フッ素含有スラグ形成剤25-75%、フッ素含有化合物1-15%、金属脱酸素剤0-35%、金属合金化剤0-50%。
【0026】
上記の一般的な処方では、1つ以上のフッ素含有化合物により生ずるフッ素含量は、充填組成物の少なくとも約0.05重量%、典型的に少なくとも約0.1重量%、さらに典型的に少なくとも約0.2重量%である。上記の一般的な処方では、充填組成物の重量%は、典型的に芯つき電極の約8-60重量%、さらに典型的に芯つき電極の約10-28重量%であるが、他の重量%も使用できる。溶接ビードを形成するのに使用される金属鞘は、約0-0.2重量%のB、約0-0.2重量%のC、約0-12重量%のCr、約0-5重量%のMn、約0-2重量%のMo、約0.01%より少ないN、約0-5重量%のNi、約0.014%より少ないP、約0-4重量%のSi、約0.02%より少ないS、約0-0.4重量%のTi、約0-0.4重量%のVおよび約75-99.9重量%のFeを含む。アーク溶接工程中、遮蔽ガスは典型的に芯つき電極と使用されるが、これは必須ではない。遮蔽ガスが使用されるとき、遮蔽は典型的に二酸化炭素および/またはアルゴンのブレンドであるが、他のガスまたは追加のガスも使用でき、例えばヘリウムがあるが、これに限定されない。
【0027】
充填組成物(重量%)の1つの特定の例(本発明を限定しない)は、以下の通りである。金属酸化物含有スラグ形成剤25-70%、フッ素含有化合物0.5-15%、金属脱酸素剤0.5-40%、金属合金化剤(鉄粉末を含む)0.5-40%。
【0028】
充填組成物(重量%)の他の特定の例(本発明を限定しない)は、以下の通りである。
TiO30-65%、他のスラグ形成剤0-15%、フッ素含有化合物1-12%、鉄粉末0-12%、鋳鉄粉末0-8%、金属合金化剤(鉄粉末を除く)0-18%、金属脱酸素剤0-20%。
【0029】
充填組成物(重量%)のなお他の特定の例(本発明を限定しない)は、以下の通りである。ルチル10-35%、他のTiO化合物15-45%、Al0-10%、シリカおよび/またはシリカ化合物0-10%、フッ素含有化合物1.5-8%、FeB0-1%、FeMn0-15%、FeSi0-15%、FeTi0-15%、Mg0-6%、鋳鉄粉末0-5%、Fe粉末0-15%。
【0030】
充填組成物(重量%)のなお他の特定の例(本発明を限定しない)は、以下の通りである。ルチル12-30%、珪チタン酸カリウムおよび/または珪チタン酸ナトリウム24-35%、Al2-8%、シリカおよび/またはシリカ化合物1-8%、KSiF、NaSiF、NaAlF、KAlF、NaF、KFおよび/またはMnF1.5-6%、FeB0.05-1%、FeMn1-10%、FeSi1-10%、FeTi1-10%、Mg1-5%、鋳鉄粉末0-4%、Fe粉末2-10%。
【0031】
充填組成物(重量%)のなお他の特定の例(本発明を限定しない)は、以下の通りである。ルチル14-30%、珪チタン酸カリウムおよび/または珪チタン酸ナトリウム25-32%、Al4-8%、シリカおよび/またはシリカ化合物2-8%、KSiF、NaSiF、NaAlFおよび/またはKAlF1.5-6%、FeB0.05-0.6%、FeMn5-10%、FeSi5-10%、FeTi2-8%、Mg1-4%、鋳鉄粉末0-4%、Fe粉末4-10%。
【0032】
上記の5つの特定の例では、充填組成物の重量%は、芯つき電極の約13-30重量%であり、金属鞘は、約0-0.2重量%のB、約0-0.2重量%のC、約0-12重量%のCr、約0-5重量%のMn、約0-2重量%のMo、約0.01%より少ないN、約0-5重量%のNi、約0.014%より少ないP、約0-4重量%のSi、約0.02%より少ないS、約0-0.4重量%のTi、約0-0.4重量%のVおよび約75-99.9重量%のFeを含む。アーク溶接工程中、遮蔽ガスは芯つき電極とともに使用される。遮蔽ガスは、典型的に、二酸化炭素とアルゴンとのブレンドである。硼素含量は、FeBの約15-30重量%である。マンガンの含量は、FeMnの約30-50重量%である。珪素の含量は、FeSiの約30-50重量%である。チタン含量は、FeTiの約30-50重量%である。炭素の含量は、鋳鉄粉末の約2-6重量%である。充填組成物の平均粒子サイズは、約40-200メッシュ、典型的に約40-100メッシュである。
【0033】
上記の例では、ルチル、ナトリウムシリコ-チタネート、カリウムシリコ-チタネート、Al、シリカおよびシリカ化合物は、スラグ形成剤である。ナトリウムシリコ-チタネートおよびカリウムシリコ-チタネートは、またスラグ変性剤およびアーク安定化剤である。理解できるように、他のまたは追加のスラグ形成剤、スラグ変性剤および/またはアーク安定化剤は、充填組成物に使用できる。KSiF、NaSiF、NaAlF、KAlF、KF、MnFおよびNaFは、フッ素発生化合物である。充填組成物中の1つ以上のフッ素発生化合物は、充填組成物へ少なくとも約0.2重量%のフッ素を供給する量で存在する。KF、NaF、MnF、KSiFおよびNaSiFはまたスラグ変性剤である。KF、NaF、KSiF、NaSiF、NaAlFおよびKAlFは、また安定化剤である。理解できるように、他のまたは追加のフッ素発生化合物は、充填組成物で使用できる。FeMn、FeSi、FeTiおよびMgは、合金化剤および/または脱酸素剤である。これらの成分は、充填組成物に添加されて溶接金属の所望の金属合金組成物を達成しそして溶接工程中溶接金属中およびその周りの酸素を低下させる。理解できるように、他のまたは追加の合金化剤および/または脱酸素剤は、充填組成物に使用できる。Mgは、主として脱酸素剤として添加される。FeBは、主としてミクロ合金化剤としてである。理解できるように、他のまたは追加のミクロ合金化剤は、充填組成物で使用できる。鋳鉄粉末およびFe粉末は、また溶接金属の所望の金属合金組成物を達成するのに添加される。
【0034】
本発明の記述された態様のこれらおよび他の改変並びに本発明の他の態様は、本明細書の記述から当業者に明らかでありそして示唆されており、それにより前述が本発明の単なる例示と解釈されるべきでありそして本発明を限定するものと解釈されてはならないことを明確に理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属鞘および充填組成物からなるガス遮蔽した電気アーク溶接法においてガストラッキングが低下した溶接ビードを形成する芯つき電極であって、該充填組成物は、15-80重量%の金属酸化物スラグ形成剤、0.5-20重量%の少なくとも1つのフッ素含有化合物、および1-70重量%の金属脱酸素剤および/または金属合金化剤を含み、該金属酸化物スラグ形成剤の該重量%が該フッ素含有化合物のその重量%より大きく、該フッ素含有化合物が該充填組成物の重量%に基づいて少なくとも0.2重量%のフッ素をもたらすことを特徴とする芯つき電極。
【請求項2】
該金属酸化物の大部分が酸化チタンである請求項1の芯つき電極。
【請求項3】
該フッ素含有化合物が、AlF、BaF、CaF、NaAlF、KAlF、NaSiF、KSiF、MnF、SrFまたはこれらの混合物を含む請求項1または2の芯つき電極。
【請求項4】
該金属鞘が少なくとも80重量%の鉄を含む請求項1-3の何れか1つの項の芯つき電極。
【請求項5】
該充填組成物が、該芯つき電極の全重量の8-60重量%をしめる請求項1-4の何れか1つの項の芯つき電極。
【請求項6】
該充填組成物が、TiO30-65%、他のスラグ形成剤0-15%、フッ素含有化合物1-12%、鉄粉末0-12%、鋳鉄粉末0-8%、金属合金化剤(鉄粉末を除く)0-18%、金属脱酸素剤0-20%を含む請求項1-5の何れか1つの項の芯つき電極。
【請求項7】
該充填組成物が、ルチル10-35%、他のTiO化合物15-45%、Al0-10%、シリカおよび/またはシリカ化合物0-10%、フッ素含有化合物1.5-8%、FeB0-1%、FeMn0-15%、FeSi0-15%、FeTi0-15%、Mg0-6%、鋳鉄粉末0-5%、Fe粉末0-15%を含む請求項1-6の何れか1つの項の芯つき電極。
【請求項8】
該充填組成物が、ルチル12-30%、珪チタン酸カリウムおよび/または珪チタン酸ナトリウム24-35%、Al2-8%、シリカおよび/またはシリカ化合物1-8%、KSiF、NaSiF、NaAlF、KAlF、NaF、KFおよび/またはMnF1.5-6%、FeB0.05-1%、FeMn1-10%、FeSi1-10%、FeTi1-10%、Mg1-5%、鋳鉄粉末0-4%、Fe粉末2-10%を含む請求項1-7の何れか1つの項の芯つき電極。
【請求項9】
該充填組成物が、ルチル14-30%、珪チタン酸カリウムおよび/または珪チタン酸ナトリウム25-32%、Al4-8%、シリカおよび/またはシリカ化合物2-8%、KSiF、NaSiF、NaAlFおよび/またはKAlF1.5-6%、FeB0.05-0.6%、FeMn5-10%、FeSi5-10%、FeTi2-8%、Mg1-4%、鋳鉄粉末0-4%、Fe粉末4-10%を含む請求項1-8の何れか1つの項の芯つき電極。
【請求項10】
該充填組成物が、ルチル16-28%、珪チタン酸カリウムおよび/または珪チタン酸ナトリウム26-32%、Al4-8%、シリカ2-6%、KSiF、NaSiF、NaAlFおよび/またはKAlF1.5-5%、FeB0.2-0.6%、FeMn5-10%、FeSi5-8%、FeTi2-6%、Mg1-3%、鋳鉄粉末1-4%、Fe粉末4-8%を含む請求項1-9の何れか1つの項の芯つき電極。
【請求項11】
a)金属鞘および充填組成物を含む芯つき電極を用意し、該充填組成物は、15-80重量%の金属酸化物スラグ形成剤、0.5-20重量%の少なくとも1つのフッ素含有化合物、および1-70重量%の金属脱酸素剤および/または金属合金化剤を含み、該金属酸化物スラグ形成剤の該重量%が該フッ素含有化合物のその重量%より大きく、該フッ素含有化合物が該充填組成物の重量%に基づいて少なくとも0.2重量%のフッ素をもたらし、そして
b)電流により該芯つき電極を少なくとも部分的に溶融して該芯つき電極の該溶融部分を素材上に溶着させる
ことを特徴とするガストラッキングが低下した溶融ビードを形成する方法。
【請求項12】
遮蔽ガスを該素材に向かわせて素材上に溶着した該芯つき電極の該溶融部分を少なくとも部分的に遮蔽する請求項11の方法。
【請求項13】
該遮蔽ガスがアルゴン、二酸化炭素またはこれらの混合物を含む請求項11または12の方法。
【請求項14】
該金属酸化物の大部分が酸化チタンである請求項11-13の何れか1つの項の方法。
【請求項15】
該フッ素含有化合物が、AlF、BaF、CaF、NaAlF、KAlF、NaSiF、KSiF、MnF、SrFまたはこれらの混合物を含む請求項11-14の何れか1つの項の方法。
【請求項16】
該金属鞘が少なくとも80重量%の鉄を含む請求項11-15の何れか1つの項の方法。
【請求項17】
該充填組成物が、該芯つき電極の全重量の8-60重量%をしめる請求項11-16の何れか1つの項の方法。
【請求項18】
該充填組成物が、TiO30-65%、他のスラグ形成剤0-15%、フッ素含有化合物1-12%、鉄粉末0-12%、鋳鉄粉末0-8%、金属合金化剤(鉄粉末を除く)0-18%、金属脱酸素剤0-20%を含む請求項11-17の何れか1つの項の方法。
【請求項19】
該充填組成物が、ルチル10-35%、他のTiO化合物15-45%、Al0-10%、シリカおよび/またはシリカ化合物0-10%、フッ素含有化合物1.5-8%、FeB0-1%、FeMn0-15%、FeSi0-15%、FeTi0-15%、Mg0-6%、鋳鉄粉末0-5%、Fe粉末0-15%を含む請求項11-18の何れか1つの項の方法。
【請求項20】
該充填組成物が、ルチル12-30%、珪チタン酸カリウムおよび/または珪チタン酸ナトリウム24-35%、Al2-8%、シリカおよび/またはシリカ化合物1-8%、KSiF、NaSiF、NaAlF、KAlF、NaF、KFおよび/またはMnF1.5-6%、FeB0.05-1%、FeMn1-10%、FeSi1-10%、FeTi1-10%、Mg1-5%、鋳鉄粉末0-4%、Fe粉末2-10%を含む請求項11-19の何れか1つの項の方法。
【請求項21】
該充填組成物が、ルチル14-30%、珪チタン酸カリウムおよび/または珪チタン酸ナトリウム25-32%、Al4-8%、シリカおよび/またはシリカ化合物2-8%、KSiF、NaSiF、NaAlFおよび/またはKAlF1.5-6%、FeB0.05-0.6%、FeMn5-10%、FeSi5-10%、FeTi2-8%、Mg1-4%、鋳鉄粉末0-4%、Fe粉末4-10%を含む請求項11-20の何れか1つの項の方法。
【請求項22】
該充填組成物が、ルチル16-28%、珪チタン酸カリウムおよび/または珪チタン酸ナトリウム26-32%、Al4-8%、シリカ2-6%、KSiF、NaSiF、NaAlFおよび/またはKAlF1.5-5%、FeB0.2-0.6%、FeMn5-10%、FeSi5-8%、FeTi2-6%、Mg1-3%、鋳鉄粉末1-4%、Fe粉末4-8%を含む請求項11-21の何れか1つの項の方法。

【公開番号】特開2006−289494(P2006−289494A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−30437(P2006−30437)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【出願人】(399011597)リンカーン グローバル インコーポレーテッド (24)
【Fターム(参考)】