説明

フッ素ゴム成形体並びにこれを使用したゴム材料及びOリング

【課題】固着の原因となる表面の極性基が少なく、表面自由エネルギーを低くしたフッ素ゴム成形体並びにこれを使用したゴム材料及びOリングを提供する。
【解決手段】表面がフッ素化処理されたフッ素ゴム成形体であって、表面の[酸素原子/フッ素原子]の原子個数比が0.11以下、かつ、[C-H結合/C-F結合]の結合数比が1.0以下であり、ヘリウムリーク試験開始3分後のリーク量が1.0×10−12[Pa・m/sec]以下であるフッ素ゴム成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面特性が改良されたフッ素ゴム成形体、特に半導体製造装置、半導体搬送装置、液晶製造装置、真空機器等に好適なフッ素ゴム成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造装置、半導体搬送装置、液晶製造装置、真空機器等で使用されるOリング等のシール材料には、耐プラズマ性、耐熱性、クリーン性、耐薬品性等が求められており、フッ素ゴム材料が多く使用されている。
【0003】
一般に、ゴム材料は、シールすべき金属面に固着しやすいので、開閉が頻繁に行われる装置においては、装置の正常動作を阻害する等の問題が生じ易い。また、メンテナンス時においては、シール材が剥がせないほど強く金属面に固着しており、これを無理に剥がそうとすると、ゴム粉がこすれ落ち、装置の不具合を引き起こす等の問題もある。このような、金属面への固着の問題は、表面エネルギーが低いフッ素ゴムにおいても同様に生じており、上記に挙げた装置等では高真空、高温に晒されることから金属への固着の問題は顕著になっている。
【0004】
フッ素ゴムの非固着化技術としては、1)オイルの配合、2)表面へのシリコーン反応層の形成処理(例えば特許文献1参照)、3)表面近傍に架橋剤を含浸させて加熱し、表面近傍の架橋密度を高める処理法(例えば特許文献2参照)、4)シリコーンゴムとのブレンド(例えば特許文献3参照)、5)フッ素樹脂粉末の充填(例えば特許文献4参照)等が知られている。
【0005】
しかし、1)の方法ではオイル滲出による汚染、材料自体の強度低下と言った問題を生じる。2)の方法においては、フッ素ゴム材料は200℃程度の高温環境下で使用されることが多いため、シリコーン同士、および、シリコーンとゴム表面と結合しているアミド結合、ウレタン結合が熱劣化して非固着性を発現しない。3)の方法では、表面硬化により表面に微小クラックが生じたため、高真空領域においてシール性を満足しない。4)の方法でも、シリコーンゴムの熱劣化で非固着性が不十分となり、また、フッ素ゴム材料の強度が低下する等の欠点がある。5)のような単純充填法では、表面層に現れる樹脂粉末は少なく、十分な非固着性が発揮されない。この点を解決すべく樹脂粉末充填量を増すと、ゴム材料の弾性及び強度の低下、架橋成形性の悪化と言った問題を生じる。
【0006】
【特許文献1】特開平1−301725号公報
【特許文献2】特公平5−21931号公報
【特許文献3】特開平5-339456号公報
【特許文献4】特許第3009676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、従来技術では、クリーン環境でかつ高温、真空といった厳しい環境下で使用されるフッ素ゴム材料に非固着性を発現させることは困難であった。
【0008】
本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、固着の原因となる表面の極性基が少なく、表面自由エネルギーを低くしたフッ素ゴム成形体並びにこれを使用したゴム材料及びOリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、フッ素ゴム成形体をフッ素化し、その際に、表面の[酸素原子/フッ素原子]の原子個数比と[C-H結合/C-F結合]の結合数比が特定の範囲にあるときに、高温環境下で金属と接触させても金属面に固着しないという優れた非固着性が発現することを見出すとともに、その表面状態が長期間変化せず、耐久性も著しく向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記のフッ素ゴム成形体並びにこれを使用したゴム材料及びOリングである、
(1)表面がフッ素化処理されたフッ素ゴム成形体であって、表面の[酸素原子/フッ素原子]の原子個数比が0.11以下、かつ、[C-H結合/C-F結合]の結合数比が1.0以下であり、ヘリウムリーク試験開始3分後のリーク量が1.0×10−12[Pa・m/sec]以下であることを特徴とするフッ素ゴム成形体。
(2)200℃環境下における金属との固着力が100N(ニュートン)以下であることを特徴とする上記(1)記載のフッ素ゴム成形体。
(3)半導体製造装置、液晶製造装置または真空機器のシール部、または半導体搬送機器に使用されるゴム材料であって、上記(1)または(2)に記載のフッ素ゴム成形体からなることを特徴とするゴム材料。
(4)上記(1)または(2)に記載のフッ素ゴム成形体からなることを特徴とするOリング。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフッ素ゴム成形体では、表面が特定組成となるようにフッ素化処理されており、金属表面との間で二次結合やファンデルワールス力が作用し難くなり、非固着性に優れるとともに、適度の柔軟性が付与されてヘリウムリーク試験開始3分後のリーク量が1.0×10−12[Pa・m/sec]以下という優れたシール性も有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という)について説明する。
【0013】
本発明は、表面の[酸素原子/フッ素原子]の原子個数比が0.11以下、好ましくは0.08以下で、かつ、[C-H結合/C-F結合]の結合数比が1.0以下、好ましくは0.5以下となるようにフッ素化処理されたフッ素ゴム成形体である。即ち、本発明のフッ素ゴム成形体は、高度にフッ素化された表面を有する。
【0014】
ここで、フッ素化処理されるフッ素ゴム成形体としては、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンを主成分とする共重合体であることが好ましい。例として、デュポンエラストマー(株)製のバイトンA、住友スリーエム(株)製のFE5641Qが挙げられるがこれらに限定されない。フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの他、テトラフルオロエチレン、プロピレン、エチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等の第三成分を共重合したポリマー、あるいは、ヨウ素、臭素等の過酸化物架橋サイトを有するポリマーでも良い。尚、架橋系も特に限定されない。
【0015】
また、フッ素化処理方法は特に限定されないが、高濃度のフッ素ガス雰囲気中に放置する方法、または、高密度プラズマ照射装置、例えば、平行平板型RIE装置、ICPプラズマ照射装置、ヘリコン波プラズマ照射装置、ECRプラズマ照射装置、表面波プラズマ照射装置等でフッ素系プラズマを照射する方法が好適である。より好ましくは、高濃度のフッ素ガス雰囲気中に放置する方法と、高密度プラズマ装置を用い、トラップ機構によりプラズマ中のイオンを取り除いたプラズマを照射する方法、または、リモートプラズマを利用する方法である。
【0016】
そして、高濃度のフッ素ガス雰囲気中に放置する方法においては、ガス濃度、ガス流量、放置時間、チャンバー内到達真空度、処理時真空度、基材ゴム加熱温度等のパラメータを、チャンバー容積、フッ素ゴムの種類、処理サンプル数、サンプルサイズに応じて最適値を適宜設定して処理する。また、高密度プラズマ照射装置においても、上記パラメータに加え、プラズマ発生方式に応じてプラズマ密度の最適値を適宜設定して処理する。処理条件が過剰過ぎると、通常フッ素ゴムに配合されている、カーボンブラックやシリカが脱離し純粋性が損なわれる。また、条件によってはゴム表面にクラックを生じシール性が発現しない。処理不足の場合は、目的の非固着性が発現しない。
【0017】
本発明のフッ素ゴム成形体は、例えば200℃の環境下において、金属との固着力が100N(ニュートン)以下、好ましくは70N以下であり、しかも、その表面状態が長期間変化せず、長期間使用しても固着力が大きくなることはない。
【0018】
また、ヘリウムリーク試験開始3分後のシーク量が1.0×10−12[Pa・m/sec]以下、好ましくは1.0×10−12[Pa・m/sec]以下という優れたシール性も有する。
【0019】
このような特性を備える本発明のフッ素ゴム成形体は、半導体製造装置、半導体搬送装置、液晶製造装置、真空機器、更には食品製造装置、食品移送器、食品貯蔵器、医療部品等の高温、真空といった厳しい環境下で使用する装置や機器のシール部材や構成材料として好適である。具体的には、ウェット洗浄装置、プラズマエッチング装置、プラズマアッシング装置、プラズマCVD装置、イオン注入装置、スパッタリング装置等の半導体製造装置用のOリング、また、これらの装置の付属機器であるウェハ搬送機器の構成材料等に使用できる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明に係るフッ素ゴム成形体について実施例及び比較例を挙げて更に説明する。尚、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。
【0021】
(フッ素ゴム成形体の作製)
ダイキン工業(株)製2元系共重合体G7801(架橋剤ビスフェノールAF配合)100部に、MTカーボンを20部、酸化マグネシウムを3部、水酸化カルシウムを6部、脂肪酸エステルを0.5部配合し、オープンロールで混練した後、170℃の温度で10分間熱処理して1次架橋し、次いで230℃で24時間熱処理をして2次架橋を行い、100mm×100mm×6tのシート状のフッ素ゴム成形体を得た。
【0022】
(実施例1)
上記フッ素ゴム成形体を、表面波プラズマ照射装置のチャンバー内にセットし、出力3000W、ガス種CF、ガス流量300cc/min、基材温度30℃、処理時真空度6Paとして3分間照射を行い、サンプルを作製した。
【0023】
(実施例2)
真空度50Paとした以外は実施例1と同様にしてプラズマ照射を行い、サンプルを作製した。
【0024】
(実施例3)
真空度133Paとした以外は実施例1と同様にしてプラズマ照射を行い、サンプルを作製した。
【0025】
(比較例1)
真空度500Paとした以外は実施例1と同様にしてプラズマ照射を行い、サンプルを作製した。
【0026】
(比較例2)
真空度1000Paとした以外は実施例1と同様にしてプラズマ照射を行い、サンプルを作製した。
【0027】
(比較例3)
上記フッ素ゴム成形体をそのままサンプルとした(未処理)。
【0028】
(比較例4)
プラズマ照射に代えて、上記フッ素ゴム成形体の表面に架橋財を含浸させ、加熱して架橋させ、サンプルを作製した。
【0029】
(比較例5)
上記フッ素ゴム成形体の表面にシリコーン反応層を形成し、サンプルを作製した。
【0030】
(比較例6)
平行平板型RIE装置を用い、上記フッ素ゴム成形体に対し、150Wで2時間の過剰処理を行い、サンプルを作製した。
【0031】
(表面組成分析)
(株)島津製作所製X線光電子分光分析装置(XPS:XSAM800cpi)を用い、分析面積5mm×10mm幅、真空度10−6Pa、X線カソード電圧・電流それぞれ15kV、10mAの条件下で、サンプル表面を構成する原子や分子、その化学結合状態に関する分析を行い、[酸素原子/フッ素原子]の原子個数比及び[C-H結合/C-F結合]の結合数比を求めた。
【0032】
(固着力測定)
サンプルから厚さ6mm、直径10mmの試験片を切り出し、厚さ2mm、直径90mmの円盤状のステンレス鋼(SUS316L)の圧縮板で両側から厚さ方向に25%圧縮した。この状態で200℃のギアオーブンに22時間入れ、放置した。その後冷却し、上記金属製の圧縮板をオートグラフで垂直方向に10mm/秒の速度で引っ張り、その時の最大荷重を測定した。測定は3回繰り返し行った。
【0033】
(ヘリウムリーク量測定)
LEYBOLD社製ヘリウムリークディテクターUL5000(検出感度1.0×10−13[Pa・m/sec])を用い、リーク量の経時変化を求めた。尚、試験条件は、下記の通りである。
・サンプル形状:AS568−214
・温度 :室温
・ゴム圧縮率 :25%
・測定時間 :1時間
・ヘリウム圧力:0.1MPa
【0034】
上記の測定結果を表1、図1及び図3に示す。尚、表1において、固着力は1回目と3回目の測定値であり、ヘリウムリーク量はヘリウムを流してから3分後の測定値である。また、図1は、固着力の1回目の測定値と、[酸素原子/フッ素原子]の原子個数比または[C-H結合/C-F結合]の結合数比との関係を示すグラフであり、図2はヘリウムリーク量を測定したチャートである。
【0035】
【表1】

【0036】
表1及び図1に示されるように、本発明に従う実施例1〜3のサンプルは、未処理のサンプル(比較例3)に対して5分の1程度の固着力であり、金属への非固着性が向上していることがわかる。また、実施例1〜3のサンプルは、シリコーン反応層の形成処理を行ったサンプル(比較例5)と比較して、固着力の1回目の測定値と3回目の測定とで変化が少なく耐久性にも優れることがわかる。更に、実施例1〜3のサンプルは、架橋剤を含浸させて、表面近傍の架橋密度を高めたサンプル(比較例4)及び平行平板型RIE装置を用いて過剰処理を行ったサンプル(比較例6)と比較してヘリウムリーク量が少ないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】固着力の1回目の測定値と、[酸素原子/フッ素原子]の原子個数比または[C-H結合/C-F結合]の結合数比との関係を示すグラフである。
【図2】ヘリウムリーク量を測定したチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面がフッ素化処理されたフッ素ゴム成形体であって、表面の[酸素原子/フッ素原子]の原子個数比が0.11以下、かつ、[C-H結合/C-F結合]の結合数比が1.0以下であり、ヘリウムリーク試験開始3分後のリーク量が1.0×10−12[Pa・m/sec]以下であることを特徴とするフッ素ゴム成形体。
【請求項2】
200℃環境下における金属との固着力が100N(ニュートン)以下であることを特徴とする請求項1記載のフッ素ゴム成形体。
【請求項3】
半導体製造装置、液晶製造装置または真空機器のシール部、または半導体搬送機器に使用されるゴム材料であって、請求項1または請求項2に記載のフッ素ゴム成形体からなることを特徴とするゴム材料。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のフッ素ゴム成形体からなることを特徴とするOリング。

【図1】
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【図2】
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