説明

フッ素含有排水の処理方法及び装置

【課題】処理水のフッ素濃度とカルシウム濃度を間接的に制御でき高いフッ素除去性能が得られ炭酸カルシウムの利用効率の向上と汚泥量の低減が可能なフッ素含有排水の処理方法及び装置を提供する。
【解決手段】フッ素含有排水のフッ素イオン濃度の全てがフッ酸由来で且つ他の酸を含まないときのフッ酸溶液のpHを算出し、算出pHに対するフッ素含有排水の測定pH差pHが−0.5〜+1.0の範囲内になるようにpH調整したフッ素含有排水を炭酸カルシウム充填塔13に通水する処理工程Aと炭酸カルシウム充填塔処理工程A後のフッ素含有排水にカルシウム化合物を添加してフッ素濃度を20mg/L以下に処理する凝集・分離工程Bと凝集・分離工程後のフッ素含有排水にリン酸系薬剤とカルシウム化合物とのうち少なくともリン酸系薬剤を添加して晶析塔16に通水する晶析工程Cとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ素含有排水の処理方法及び装置に係り、特に半導体製造工場等から排出されるフッ素含有排水を処理するフッ素含有排水の処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工場やその関連工場等では、フッ化水素やフッ化アンモニウムを主成分とするエッチング剤が多量に使用されている。このため、工場排水には、フッ化水素やフッ化アンモニウムを主成分としたフッ素含有排水が排出されており、このフッ素含有排水からフッ素を除去する処理が必要になる。
【0003】
従来、フッ素含有排水の処理は、凝集沈殿等によって行われており、フッ素含有排水に水酸化カルシウム等のカルシウム塩を添加して難溶解性のフッ化カルシウムを生成させ、このフッ化カルシウムを凝集させることによって、フッ素成分を取り除いている。しかし、この方法は、沈降性の乏しい大量の汚泥が発生するという問題があり、汚泥発生量を低減することが必要となる。
【0004】
そこで、汚泥発生量を低減する方法として、炭酸カルシウム充填塔を用いた方法が提案されている。この方法は、フッ素含有排水を炭酸カルシウム充填塔に通水し、フッ素を粒状のフッ化カルシウムに転換し、除去している。
【0005】
しかし、上記の方法は、フッ素処理を長期間、安定して行うことができないという問題があった。すなわち、フッ素含有排水には、フッ酸の他に塩酸や硝酸などの酸が共存しており、その酸によって炭酸カルシウムが溶解するため、フッ素処理を長期間安定して行うことができないという問題があった。これに対応すべく、フッ素含有排水に含まれるフッ酸以外の酸の当量以上の量のアルカリ剤を添加する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−293475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この方法は、フッ素含有排水の性状によって処理水水質への影響があり、フッ素含有排水中にフッ酸以外の酸成分が多く含まれる場合、炭酸カルシウムが過剰に溶解する。
【0007】
そして、フッ素含有排水に含有するフッ素の多くがフッ化アンモニウム由来である場合は、フッ素処理性能の低下を引き起こし、フッ素が高濃度に残留する。
【0008】
また、フッ素が過剰に残留する処理水を炭酸カルシウム充填塔からフルオロアパタイトを析出させる晶析塔に通水すると、添加するリン酸系薬剤とカルシウム化合物量が不足して処理水にフッ素が残留したり、晶析塔内で濁質が発生したりするという問題がある。
【0009】
更に、晶析塔に通水するまでに十分にフッ素濃度を低下させるために、炭酸カルシウム充填塔と晶析塔の間にカルシウム凝集・固液分離処理をする場合に、フッ酸以外の酸成分が多く含まれる排水が流入する際には濁質が大量に発生するという問題がある。即ち、炭酸カルシウムの過剰溶解による炭酸カルシウム充填塔処理水中の溶解性カルシウムや、次段の凝集・固液分離処理で添加するカルシウム化合物や、その後段の晶析処理で添加するカルシウム化合物により、晶析塔でのカルシウム濃度が高くなり濁質が発生する。
【0010】
なお、半導体製造工場やその関連工場等から排出されるフッ素含有排水は、一般に、フッ酸とフッ化アンモニウム及びフッ酸以外の酸が共存するが、その各成分の濃度が一定で排出されることは稀である。
【0011】
以上のように、炭酸カルシウムの過剰溶解又はフッ素の残留、晶析塔での濁質発生により、フッ素含有排水を炭酸カルシウム充填塔から晶析塔に順次通水して高度なフッ素処理を行うことは困難であった。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みて成されたもので、晶析塔へ通水される処理水のフッ素濃度とカルシウム濃度を好適にコントロールすることで、高いフッ素除去性能が得られるとともに、炭酸カルシウムの利用効率の向上と汚泥発生量の低減をすることができるフッ素含有排水の処理方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、フッ素含有排水からフッ素を除去するフッ素含有排水の処理方法において、前記フッ素含有排水のpHとフッ素イオン濃度を測定し、前記測定したフッ素イオン濃度の全てがフッ酸由来であり且つ他の酸を含まないとしたときのフッ酸溶液のpHを算出し、前記フッ酸溶液の算出pHに対する前記フッ素含有排水の測定pHの差である差pHを求め、前記差pHが−0.5〜+1.0の範囲内になるようにpH調整したフッ素含有排水を炭酸カルシウム充填塔に通水する炭酸カルシウム充填塔処理工程と、前記炭酸カルシウム充填塔処理水に、カルシウム化合物を添加してフッ素濃度を20mg/L以下に処理する凝集・分離工程と、前記凝集・分離工程後のフッ素含有排水に、リン酸系薬剤とカルシウム化合物とのうち少なくともリン酸系薬剤を添加して晶析塔に通水する晶析工程と、を備えることを特徴とする。
【0014】
請求項1の発明によれば、フッ素含有排水のpHとフッ素イオン濃度を測定し、測定したフッ素イオン濃度の全てがフッ酸由来であり且つ他の酸を含まないとしたときのフッ酸溶液のpHを算出し、フッ酸溶液の算出pHに対するフッ素含有排水の測定pHの差である差pHを求め、差pHが−0.5〜+1.0の範囲内になるようにpH調整したフッ素含有排水を炭酸カルシウム充填塔に通水し、カルシウム化合物を添加してフッ素濃度を20mg/L以下に凝集・分離処理し、リン酸系薬剤とカルシウム化合物とのうち少なくともリン酸系薬剤を添加して晶析塔に通水することで、炭酸カルシウムの過剰溶解やフッ素処理性能の低下、濁質の発生を防止することができる。ここで、「フッ酸溶液」は仮想溶液であり、実際に調製はしない。なお、炭酸カルシウム充填塔処理工程でのフッ素含有排水の差pHの設定は、−0.5〜+1.0の範囲であるが、好ましくは−0.5〜+0.5の範囲である。また、上記のように、差pHが−0.5〜+1.0の範囲内を満足するフッ素含有排水においては、炭酸カルシウム充填塔を通した後の処理水のフッ素イオン濃度、及びカルシウム濃度が低濃度であり、且つpH−0.5〜+1.0の領域において略一定の傾きを有するフッ素イオン濃度曲線、カルシウム濃度曲線を有する。したがって、差pHが−0.5〜+1.0の範囲内において、所定の差pHに設定することにより、炭酸カルシウム充填塔を通した処理水中のフッ素イオン濃度、及びカルシウム濃度を、差pHを幾つに設定するかによって間接的にコントロールすることができる。これにより、後工程でのカルシウム化合物の添加量等を調整できるので、炭酸カルシウムの利用効率の向上と、汚泥発生の低減、更には濁質の発生防止に寄与できる。
【0015】
炭酸カルシウム充填塔処理工程次段の凝集・分離工程で、炭酸カルシウム充填塔処理水に残留するフッ素をフッ化カルシウムとして除去するためにカルシウム化合物を添加して凝集・固液分離処理水のフッ素濃度を20mg/L以下に処理する。カルシウム化合物は、フッ素がフッ化カルシウムとなるために必要なカルシウム量よりも過剰に添加して、凝集・固液分離処理水が晶析塔に通水できる濃度である20mg/L以下までフッ素を除去することが好ましい。ここで残留するカルシウムは、後段の晶析塔で利用でき、それを考慮に入れたカルシウム化合物の添加であり、薬品添加量過剰によるランニングコストの増加には繋がらない。このようにすることで、フッ素が過剰に残留する処理水を炭酸カルシウム充填塔からフルオロアパタイトを析出させる晶析塔に通水すると、添加するリン酸系薬剤とカルシウム化合物量が不足して処理水にフッ素が残留したり、晶析塔内で濁質が発生したりするという問題を解消することができる。
【0016】
そして、処理水にリン酸系薬剤とカルシウム化合物とのうち少なくともリン酸系薬剤を添加して晶析塔に通水する晶析工程により好適にフッ素を処理することができる。カルシウムが不足であればカルシウム化合物をさらに添加してフッ素を高度に処理する。
【0017】
以上のように本発明のフッ素含有排水の処理方法でフッ素含有排水の処理をすることで、炭酸カルシウムの過剰溶解の防止、汚泥発生量の削減、及び、添加薬品のコストの削減をすることができるとともに、高度にフッ素処理をすることができる。
【0018】
請求項2に記載の発明は請求項1において、前記凝集・分離工程でのカルシウム化合物の添加は、前記炭酸カルシウム充填塔処理水に残留するフッ素イオンを、フッ化カルシウムとするのに必要な当量のカルシウムよりも50mg/L以上多く、且つ、前記炭酸カルシウム充填塔処理水に溶解するカルシウムと添加するカルシウムを合わせて500mg/Lを超えないようにすることを特徴とする。
【0019】
請求項2の発明によれば、上記の範囲で凝集・分離工程でのカルシウム化合物の添加を行うことで、充填塔処理水のフッ素濃度を20mg/L以下に処理することができるので、後段の晶析塔に通水する際に白濁を発生させる要因にならない。尚、フッ素含有排水を所定の差pHに調整することによって、炭酸カルシウム充填塔処理水中のカルシウム濃度は推定できるため、炭酸カルシウム充填塔での処理水の溶解性カルシウム濃度を監視する等の特別な制御は必要はない。
【0020】
請求項3に記載の発明は請求項1又は2において、前記凝集・分離工程では、前記カルシウム化合物の添加とともに、無機凝集剤と高分子凝集剤との少なくとも一方を添加することを特徴とする。
【0021】
請求項3によれば、凝集・分離工程では、無機凝集剤と高分子凝集剤との少なくとも一方を添加することが好ましい。
【0022】
請求項4に記載の発明は請求項1〜3の何れか1において、前記凝集・分離工程後のフッ素含有排水に残留するフッ素イオンでフルオロアパタイトを生成するに必要な当量のカルシウムよりも300mg/L以上多いカルシウムが溶解している場合には、前記晶析工程において、前記カルシウム化合物は添加しないことを特徴とする。
【0023】
凝集・分離工程後のフッ素含有排水に残留するフッ素イオンでフルオロアパタイトを生成するに必要な当量のカルシウムよりも300mg/L以上多いカルシウムが溶解している場合には、更にカルシウム化合物を添加すると晶析塔内で白濁が発生する可能性があり、また、この溶解しているカルシウムで十分フッ素処理ができるため、カルシウム化合物を添加しなくても晶析塔に通水することでフッ素を処理することができる。従って、請求項4によれば、凝集・分離工程後のフッ素含有排水に残留するフッ素イオンでフルオロアパタイトを生成するに必要な当量のカルシウムよりも300mg/L多いカルシウムが溶解している場合には、晶析工程において、カルシウム化合物は添加せず、リン酸系薬剤だけを添加することで、炭酸カルシウムの溶解によるランニングコストを抑えることができる。
【0024】
請求項5に記載の発明は前記目的を達成するために、フッ素含有排水からフッ素を除去するフッ素含有排水の処理装置において、前記フッ素含有排水のpHを測定するpH測定手段と、フッ素イオン濃度を測定するフッ素イオン濃度測定手段と、前記測定したフッ素イオン濃度の全てがフッ酸由来であり且つ他の酸を含まないとしたときのフッ酸溶液のpHを算出し、前記フッ酸溶液の算出pHに対する前記フッ素含有排水の測定pHの差である差pHを求める演算手段と、前記差pHが−0.5〜+1.0の範囲内になるようにフッ素含有排水をpH調整する排水調整手段と、を備えたpH調整槽と、前記pH調整槽でpH調整されたフッ素含有排水が通水される炭酸カルシウム充填塔と、前記炭酸カルシウム充填塔に通水後のフッ素含有排水中に残留するフッ素を、フッ化カルシウムにするためのカルシウム化合物を添加し、前記フッ素含有排水中のフッ素と前記カルシウム化合物とからフッ化カルシウム汚泥を凝集させる凝集槽と、前記凝集されたフッ化カルシウム汚泥を沈殿させる沈殿槽と、前記沈殿槽を通水後のフッ素含有排水に、リン酸系薬剤とカルシウム化合物とのうち少なくともリン酸系薬剤を添加する添加手段を上流側に備えた晶析塔と、を備えることを特徴とする。
【0025】
請求項6に記載の発明は請求項5において、前記凝集槽のカルシウム化合物添加手段は、前記炭酸カルシウム充填塔処理水に残留するフッ素イオンを、フッ化カルシウムを生成するに必要な当量のカルシウムよりも50mg/L以上多く、且つ、前記pH調整槽を通水後のフッ素含有排水に溶解するカルシウムと添加するカルシウムを合わせて500mg/Lを超えないようにカルシウム化合物を添加することを特徴とする。
【0026】
請求項7に記載の発明は請求項5又は6において、前記沈殿槽での処理水に残留するフッ素イオンでフルオロアパタイトを生成するに必要な当量のカルシウムよりも300mg/L以上多いカルシウムが溶解している場合には、前記晶析塔に、前記カルシウム化合物は添加しないことを特徴とする。
【0027】
請求項5〜7は、請求項1〜4の方法発明を装置発明としたものである。このような処理装置でフッ素を処理することで、炭酸カルシウムの過剰溶解の防止・汚泥発生量の削減、添加薬品のコストの削減をしながらも、高度にフッ素処理することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、高いフッ素除去性能が得られるとともに、炭酸カルシウムの利用効率の向上と汚泥発生量の低減をすることができるフッ素含有排水の処理方法及び装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下添付図面に従って本発明に係るフッ素含有排水の処理方法及び装置の好ましい実施形態について説明する。
【0030】
図1は、本実施の形態の排水処理装置の構成を模式的に示している。同図に示すように、排水処理装置10は、主に、pH調整槽(原水槽とも云う)12、炭酸カルシウム充填塔13、凝集槽14、沈殿槽15、及び晶析槽16を備える。そして、本発明のフッ素含有排水の処理方法は、同図に示すように、炭酸カルシウム充填塔処理工程A、凝集・分離工程B、晶析工程Cと、を備えている。
【0031】
原水槽12に貯留されたフッ素含有排水は、炭酸カルシウム充填塔13に送水し、上向流で処理され上部から処理水を排出する。また、循環ポンプ42により、炭酸カルシウム充填塔13の上部、処理水排出口よりも下方部から塔下部へと該炭酸カルシウム充填塔内液を送水する循環ライン46を設けている。この循環流によって充填された炭酸カルシウムの粒を浮遊させて膨張床を形成し、炭酸カルシウム同士の固着や炭酸カルシウムから排出する炭酸ガスが炭酸カルシウム充填層内に蓄積することを防止する。
【0032】
循環は炭酸カルシウム充填塔13上部から下部へ、直接送水することもできるが、循環槽(不図示)を設置して、循環液を炭酸カルシウム充填塔上部から越流させ、循環槽から循環ポンプにより炭酸カルシウム充填塔下部へ送水することもできる。循環槽を設置する場合、処理水は炭酸カルシウム充填塔上部からではなく、循環槽から排出させる。
【0033】
原水槽12にはpH計20とフッ素イオン濃度計22が設置されており、演算装置24により、測定したフッ素イオン濃度の全てがフッ酸由来であり且つ他の酸を含まないとしたときのフッ酸溶液のpHを算出し、フッ酸溶液の算出pHに対する前記フッ素含有排水の測定pHの差である差pHを求め、差pHが−0.5〜+1.0の範囲内になるように塩酸や水酸化ナトリウム等の酸・アルカリを添加、調整することでpH調整したフッ素含有排水を炭酸カルシウム充填塔に通水する、差pHは、−0.5〜+1.0の範囲が好ましいが、更に好ましくは−0.5〜+0.5の範囲である。
【0034】
原水槽12は、配管26を介して酸貯留槽28に接続されるとともに、配管30を介してアルカリ貯留槽32に接続される。配管26、30にはそれぞれ、ポンプ34、36が配設されており、ポンプ34、36を駆動することによって酸貯留槽28内の酸液(たとえば塩酸)、アルカリ貯留槽32内のアルカリ液(たとえば水酸化ナトリウム)が原水槽12に添加される。ポンプ34、36はそれぞれ制御装置24に接続されており、制御装置24によってポンプ34、36が制御され、原水槽12に添加される酸又はアルカリの量が調節される。
【0035】
例えば、差pHを−0.3に設定した場合、フッ素イオン濃度計22で測定された排水のフッ素イオン濃度から演算装置24にて求めたフッ素イオン濃度の全てがフッ酸由来であり且つ他の酸を含まないとしたときのフッ酸溶液のpHが2.5であったとき、排水のpHを2.2になるように調整すればよい。設定値は炭酸カルシウム充填塔13からの処理水として得たい水質をもとに設定すればよく、これにより炭酸カルシウム充填塔からの処理水のフッ素イオン濃度、カルシウムイオン濃度を間接的にコントロールできる。なお、フッ素含有排水に含有するフッ素イオン濃度が比較的安定している場合、フッ素イオン濃度計22は必ずしも設置する必要はなく、pH計20の測定値からフッ酸液との差pHを求め、フッ素含有排水のpH調整を行うことができる。
【0036】
炭酸カルシウム充填塔13から流出した処理水は、処理水配管44を介して凝集槽14に流入し、カルシウム化合物とPAC(ポリ塩化アルミニウム)等の無機凝集剤及び/又は高分子凝集剤を添加し、沈殿槽15でフッ化カルシウム汚泥と次に述べる晶析塔16への供給水とに凝集・固液分離される。
【0037】
凝集槽14は、配管52を介してカルシウム化合物貯留槽50に接続されるとともに、配管58を介して凝集剤貯留槽56に接続される。配管52、58にはそれぞれ、ポンプ54、60が配設されており、ポンプ54、60を駆動することによってカルシウム化合物貯留槽50内のカルシウム化合物、凝集剤貯留槽56内の無機凝集剤及び/又は高分子凝集剤が凝集槽14に添加される。
【0038】
カルシウム化合物は炭酸カルシウム充填塔13からの処理水中に含有するカルシウム濃度をモニタし、凝集槽15において所定カルシウム濃度になるように添加量を制御することもできるが、定量注入でもよく、またはこれらを組み合わせた方法でもよい。
【0039】
カルシウム化合物の添加量は、炭酸カルシウム充填塔処理水に残留するフッ素イオンを、フッ化カルシウムを生成するに必要な当量のカルシウムよりも50mg/L以上多く、且つ、炭酸カルシウム充填塔に通水後のフッ素含有排水に溶解するカルシウムと添加するカルシウムを合わせて500mg/Lを超えないようにすることが好ましい。
【0040】
晶析塔16には、処理水配管62を介して凝集槽15から接続される。処理水配管62には、配管66が接続され、配管66に配設されたポンプ68を介してカルシウム化合物貯留槽50に接続される。そして、後述の循環ライン70には、配管76、82が配設されている。また、配管76、82にはそれぞれ、ポンプ78、84が配設されており、ポンプ78、84を駆動することによってリン酸系薬剤貯留槽74内のリン酸系薬剤、水酸化ナトリウム貯留槽80内の水酸化ナトリウムが循環ライン70を介して晶析塔16に添加される。
【0041】
炭酸カルシウム充填塔13と凝集・固液分離した晶析塔16への供給水にカルシウム化合物、リン酸系薬剤とpH調整剤として水酸化ナトリウムを添加し、晶析塔16に送水して上向流で処理され上部からフッ素が高度に除去された処理水を排出する。また、晶析塔16の上部、処理水排出口よりも下方部より塔下部へと晶析塔内液を送水する循環ライン70を設けており、この循環流によって充填された晶析材を浮遊させて膨張床を形成し、晶析材同士が固まり、偏流が起こることを防止する。
【0042】
晶析塔16においては、例えば、炭酸カルシウム充填塔処理水中のカルシウムイオンと、凝集・固液分離処理で添加するカルシウム化合物の合計濃度を、凝集・固液分離処理後、晶析塔16による処理で十分に足りるカルシウムイオン濃度にすることで、晶析塔16へのカルシウム化合物の添加は不要とすることも可能である。処理水に残留するフッ素イオンでフルオロアパタイトを生成するに必要な当量のカルシウムよりも300mg/L以上多いカルシウムが溶解している場合には、カルシウム化合物は添加せず、リン酸を添加することが好ましい。
【0043】
この場合、凝集・固液分離処理でのカルシウムイオンが高濃度であり、溶解度積の関係から、本処理水のフッ素イオン濃度は低濃度化できるため、晶析塔16へのフッ素負荷が低減できるという利点もある。
【0044】
本発明によって、各工程から排出するフッ素濃度、カルシウム濃度が管理できることから、高いフッ素除去性能が得られるとともに、炭酸カルシウム利用効率の向上と汚泥発生量の低減が可能となる。
【0045】
次に上記の如く構成された排水処理装置10の作用について、試験を行った結果に基づいて説明する。
【0046】
本実施の形態において、フッ酸液の差pHを±0pHに調整したフッ素含有排水を通水した場合、炭酸カルシウム充填塔でのフッ酸液の差pHを+1.2pHに調整した排水を炭酸カルシウム充填塔に通水すると、フッ素処理性能は低下し、通水当初から処理水フッ素イオン濃度が高くなる結果となった。この様な炭酸カルシウム充填塔13処理水を後段の晶析塔16に供給できる水質にするためには、炭酸カルシウム充填塔13の次段の凝集・固液分離において、大量のカルシウム化合物の添加が必要となり、汚泥発生量が増加することが分かる。
【0047】
フッ酸液の差pHを±0pHに調整した排水は、フッ素処理性能は良好であり、充填した炭酸カルシウムを長期間使用することが可能であった。次に、炭酸カルシウム充填塔処理水にカルシウム化合物として塩化カルシウムを100mg−Ca/L、無機凝集剤としてPACを100mg/L添加した処理水のフッ素イオン濃度は14mg/Lとなり、晶析塔供給水として十分なフッ素濃度まで低下させることができた。ここまでの処理で発生した汚泥はSSとして250mg/L程度であり、従来のカルシウム凝集沈殿処理に比べ、大幅に汚泥発生量が削減できることが確認された。さらに凝集・固液分離処理水を晶析塔に通水することで、フッ素イオン濃度4mg/L以下、SSが1mg/L以下の最終処理水が得られた。本発明によりフッ素含有排水を処理することで、炭酸カルシウム充填塔、凝集・固液分離処理によりフッ素濃度、カルシウム濃度が管理され、安定した晶析塔供給水が得られ、フッ素濃度、カルシウム濃度の変動による晶析塔処理水フッ素が高濃度に残留したり、濁質が発生したりする等の問題は起きなかった。
【0048】
図2は、フッ素含有排水のフッ酸液との差pHと処理水カルシウムイオン濃度との関係を、図3は、フッ素含有排水のフッ酸液との差pHと処理水フッ素イオン濃度との関係を示したものである。
【0049】
フッ素含有排水中のフッ素濃度をある幅で限定し、フッ酸とフッ化アンモニウムの混合比率、酸の種類や濃度によりフッ素含有排水のフッ酸液との差pHを変化させて炭酸カルシウム充填塔13に通水したところ、フッ酸液との差pHと処理水カルシウムイオン濃度には関係性があることが確認された。また、フッ酸液との差pHが±0以下で、急激に処理水のカルシウムイオン濃度が上昇し、フッ酸液との差pHが−0.5を下回ると後段の晶析塔16で濁質が発生しやすいカルシウムイオン濃度を超えることが分かる。
【0050】
フッ酸液との差pHが−0.5では、炭酸カルシウムの溶解が多いため、炭酸カルシウムの目減りが大きく、早期に充填した炭酸カルシウムでの処理ができなくなる。
【0051】
しかし、炭酸カルシウム充填塔処理水中のカルシウム濃度が高くなることが、処理水フッ素イオン濃度の低下につながる。更に、この様な場合、次段の凝集・固液分離処理では、カルシウム化合物の添加量を低減、または添加せずにPAC等の無機凝集剤による凝集・固液分離処理をすればよく、さらに晶析塔16への通水においても同様の処置ができ、炭酸カルシウム溶解によるランニングコストの上昇には繋がらない。
【0052】
処理水のフッ素イオン濃度についてはフッ酸液との差pHが+1.0を超えたところから、AとBの2種類の排水フッ素濃度による差が生じたが、+1.0以下では排水フッ素濃度による影響が小さいことが確認された。また、同様に、フッ酸液との差pHが+1.0を超えたところから、処理水フッ素イオン濃度が急激に上昇する傾向にあり、処理水フッ素イオン濃度が高濃度になると、炭酸カルシウム充填塔13の次段の凝集・固液分離工程の凝集槽14と沈殿槽25において、汚泥発生量が増加することが分かる。
【0053】
以上の結果から、フッ素含有排水のフッ酸液との差pHで処理水中のカルシウムイオン濃度、フッ素イオン濃度のおおよその予測が可能であり、フッ酸液との差pHを調整することで、炭酸カルシウム充填塔処理水の水質をコントロールすることが可能であることが確認された。これにより、凝集・固液分離処理工程や晶析工程における薬剤添加量も決定でき、各工程の処理水水質もコントロールできることから、安定した処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本実施の形態の排水処理装置の構成を示す図
【図2】フッ素含有排水pHとフッ酸液のpHとの差と、処理水カルシウムイオン濃度との関係を示す図
【図3】フッ素含有排水pHとフッ酸液のpHとの差と、処理水フッ素イオン濃度との関係を示す図
【符号の説明】
【0055】
10…排水処理装置、12…pH調整槽(原水槽)、13…炭酸カルシウム充填塔、14…凝集槽、15…沈殿槽、16…晶析塔、18…原水配管、20…pH計、22…フッ素イオン濃度計、24…制御装置、28…酸貯留槽、32…アルカリ貯留槽(水酸化ナトリウム貯留槽)、44…処理水配管、46…循環ライン、48…ポンプ、50…カルシウム化合物貯留槽、56…凝集剤貯留槽、62…処理水配管、64…カルシウム化合物貯留槽、72…ポンプ、74…リン酸系薬剤貯留槽、80…水酸化ナトリウム貯留槽、A…炭酸カルシウム充填塔処理工程、B…凝集・分離工程、C…晶析工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有排水からフッ素を除去するフッ素含有排水の処理方法において、
前記フッ素含有排水のpHとフッ素イオン濃度を測定し、前記測定したフッ素イオン濃度の全てがフッ酸由来であり且つ他の酸を含まないとしたときのフッ酸溶液のpHを算出し、前記フッ酸溶液の算出pHに対する前記フッ素含有排水の測定pHの差である差pHを求め、前記差pHが−0.5〜+1.0の範囲内になるようにpH調整したフッ素含有排水を炭酸カルシウム充填塔に通水する炭酸カルシウム充填塔処理工程と、
前記炭酸カルシウム充填塔処理水に、カルシウム化合物を添加してフッ素濃度を20mg/L以下に処理する凝集・分離工程と、
前記凝集・分離工程後のフッ素含有排水に、リン酸系薬剤とカルシウム化合物とのうち少なくともリン酸系薬剤を添加して晶析塔に通水する晶析工程と、を備えることを特徴とするフッ素含有排水の処理方法。
【請求項2】
前記凝集・分離工程でのカルシウム化合物の添加は、
前記炭酸カルシウム充填塔処理水に残留するフッ素イオンを、フッ化カルシウムとするのに必要な当量のカルシウムよりも50mg/L以上多く、且つ、前記炭酸カルシウム充填塔処理水に溶解するカルシウムと添加するカルシウムを合わせて500mg/Lを超えないようにすることを特徴とする請求項1に記載のフッ素含有排水の処理方法。
【請求項3】
前記凝集・分離工程では、
前記カルシウム化合物の添加とともに、無機凝集剤と高分子凝集剤との少なくとも一方を添加することを特徴とする請求項1又は2に記載のフッ素含有排水の処理方法。
【請求項4】
前記凝集・分離工程後のフッ素含有排水に残留するフッ素イオンでフルオロアパタイトを生成するに必要な当量のカルシウムよりも300mg/L以上多いカルシウムが溶解している場合には、
前記晶析工程において、前記カルシウム化合物は添加しないことを特徴とする請求項1〜3の何れか1に記載のフッ素含有排水の処理方法。
【請求項5】
フッ素含有排水からフッ素を除去するフッ素含有排水の処理装置において、
前記フッ素含有排水のpHを測定するpH測定手段と、フッ素イオン濃度を測定するフッ素イオン濃度測定手段と、前記測定したフッ素イオン濃度の全てがフッ酸由来であり且つ他の酸を含まないとしたときのフッ酸溶液のpHを算出し、前記フッ酸溶液の算出pHに対する前記フッ素含有排水の測定pHの差である差pHを求める演算手段と、前記差pHが−0.5〜+1.0の範囲内になるようにフッ素含有排水をpH調整する排水調整手段と、を備えたpH調整槽と、
前記pH調整槽でpH調整されたフッ素含有排水が通水される炭酸カルシウム充填塔と、
前記炭酸カルシウム充填塔に通水後のフッ素含有排水中に残留するフッ素を、フッ化カルシウムにするためのカルシウム化合物を添加し、前記フッ素含有排水中のフッ素と前記カルシウム化合物とからフッ化カルシウム汚泥を凝集させる凝集槽と、
前記凝集されたフッ化カルシウム汚泥を沈殿させる沈殿槽と、
前記沈殿槽を通水後のフッ素含有排水に、リン酸系薬剤とカルシウム化合物とのうち少なくともリン酸系薬剤を添加する添加手段を上流側に備えた晶析塔と、を備えることを特徴とするフッ素含有排水の処理装置。
【請求項6】
前記凝集槽のカルシウム化合物添加手段は、
前記炭酸カルシウム充填塔処理水に残留するフッ素イオンを、フッ化カルシウムを生成するに必要な当量のカルシウムよりも50mg/L以上多く、且つ、前記pH調整槽を通水後のフッ素含有排水に溶解するカルシウムと添加するカルシウムを合わせて500mg/Lを超えないようにカルシウム化合物を添加することを特徴とする請求項5に記載のフッ素含有排水の処理装置。
【請求項7】
前記沈殿槽での処理水に残留するフッ素イオンでフルオロアパタイトを生成するに必要な当量のカルシウムよりも300mg/L以上多いカルシウムが溶解している場合には、
前記晶析塔に、前記カルシウム化合物は添加しないことを特徴とする請求項5又は6に記載のフッ素含有排水の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−219953(P2009−219953A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64473(P2008−64473)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】