説明

フッ素含有物からのフッ素回収方法及びフッ素回収装置

【課題】 本発明は、フッ素含有物からフッ素をフッ化カルシウムとして回収する際、ケイ素化合物の混入をできるだけ低くした状態で回収するフッ素含有物からのフッ素回収方法及びフッ素回収装置を提供することを目的とするものである。
【解決手段】 本発明は、フッ素含有物に酸性物質を添加し、加熱することにより留出するフッ素化合物を、冷却することによって、又は水、アルカリ溶液、カルシウム化合物の溶液若しくはカルシウム化合物の懸濁液に吸収させることによって、フッ素をフッ素化合物として回収することを特徴とするフッ素含有物からのフッ素回収方法の構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有物からフッ素を不純物の少ないフッ素化合物として回収するフッ素含有物からのフッ素回収方法及びフッ素回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国ではフッ素資源の蛍石(フッ化カルシウム)はほとんど産出しないため、全量輸入に依存している。産出国の中で、特に純度の高い鉱石を産出する中国が輸出規制や割当制度を開始したため、輸入量が年々減少するとともに、値段も高騰してきている。このため、純度の低いメキシコ産などの蛍石の活用が望まれるが、高純度の蛍石を必要とするフッ酸製造には利用できないのが実状である。これは、蛍石に硫酸を加えて蒸留する際、鉱石中に含まれるケイ素等の不純物が混入することにより高純度のフッ酸が得られないことによる。このため、低品位の蛍石の純度を高める技術や、フッ酸製造の際に発生するケイ素化合物を含む低純度フッ酸を精製し純度を高める技術、さらにはフッ素を含む廃棄物などからケイ素化合物含有量の少ないフッ酸製造原料の回収技術が強く求められている。
【0003】
フッ素含有排水からフッ素を除去する方法としては、フッ素含有排水にカルシウム化合物を添加し、フッ化カルシウムを含むスラッジとして沈殿除去する方法が取られている。フッ素除去で得られたフッ化カルシウムを含むスラッジは、これまでは回収されずに産業廃棄物として処分されてきた。該スラッジには、排水の種類によって異なるが、通常、ケイ素化合物や重金属等を含んでおり、それがスラッジの再利用を妨げてきた。しかし、スラッジのケイ素含有量を低めるとともに、フッ化カルシウム含有量を高めることができれば、スラッジの再利用が可能になることから、このような技術が強く求められている。
【0004】
特許文献1に記載されているように、フッ素含有排水にマグネシウム化合物を添加し、フッ化マグネシウムとして沈殿させ、回収したフッ素含有スラッジに対して処理を施し、蒸留によりフッ化水素を回収するという発明も公開されている。
【特許文献1】特開2004−000846号公報
【特許文献2】特願2003−050121号
【特許文献3】特願2003−124483号
【特許文献4】特願2003−385991号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発明は、マグネシウムでフッ素含有排水を処理しているが、マグネシウムによる処理はスラッジの量が多いこと、沈降性の良いスラッジが得られないことなどにより、実際の水処理ではほとんど適用されていない方法である。また、特許文献1に記載の発明では、排水処理で得られたスラッジを乾燥しなければならないなど、実際の水処理では、非現実的な要素を具備している。
【0006】
そこで、本発明は、フッ素含有物からフッ素をフッ化カルシウムとして回収する際、ケイ素化合物の混入をできるだけ低くした状態で回収するフッ素含有物からのフッ素回収方法及びフッ素回収装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至り、本発明を以下の構成とした。
【0008】
フッ素含有物からのフッ素回収方法は、フッ素含有物に酸性物質を添加し、加熱することにより留出するフッ素化合物を、冷却することによって、又は水、アルカリ溶液、カルシウム化合物の溶液若しくはカルシウム化合物の懸濁液に吸収させることによって、フッ素をフッ素化合物として回収することを特徴とする。
【0009】
尚、フッ素含有物は、フッ素含有排水又はフッ酸廃液等のフッ素含有水を処理した際に得られるスラッジなどである。したがって、フッ素含有物中にはフッ素化合物以外に重金属やケイ素化合物等の不純物がふくまれているが、酸性物質を添加して加熱し、フッ素化合物を留出させ、低められた不純物のフッ素化合物を得ることを特徴とする。酸性物質は、硫酸、フッ酸、塩酸、シュウ酸、リン酸又は過塩素酸のいずれか、もしくはこれらの一つ以上の酸からなる混合物である。加熱は常圧下でもよいが減圧下で行う方が好ましい。
【0010】
留出するフッ素化合物が、フッ化水素単独の時は、それを冷却することにより、低められた不純物のフッ素化合物、すなわちフッ化水素が得られるし、アルカリ溶液にトラップすればフッ化物塩が得られる。一方、フッ素含有物がケイ素化合物を含んだ場合、留出するフッ素化合物がフッ化水素、ヘキサフルオロケイ酸及び/又はフッ化ケイ素であり、回収されるフッ素化合物の他にもケイ素化合物を含む。
【0011】
留出するフッ素化合物を、カルシウム化合物の溶液又は懸濁液に吸収させることにより、フッ素をフッ化カルシウムとして回収する。尚、カルシウム化合物として、炭酸カルシウムの懸濁液を用いると、他のカルシウム化合物に比べてケイ素化合物の含有量が低められたフッ化カルシウムを得ることができる。
【0012】
炭酸カルシウムで留出したフッ素化合物を回収すると、フッ化カルシウムと未反応の炭酸カルシウムの混合物が得られるが、これをフッ酸で処理し、炭酸カルシウムをフッ化カルシウムに変換することにより、フッ化カルシウムの純度をさらに高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、重金属やケイ素化合物などの不純物を含むフッ素含有物を、不純物含有量を低くしたものに変換することが可能になり、これまで再利用されずに産業廃棄物として処分されていたフッ素含有排水又はフッ酸廃液を処理した際に発生するスラッジを、再利用することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明では、フッ素含有物に酸性物質を添加して、留出させたフッ素化合物を回収することにより、フッ素を不純物の少ないフッ素化合物として回収する。フッ素含有物としては、酸性物質と反応して溶解するものであればいかなるものでも用いることができるが、その量が確保できるものが良い。
【0015】
そのようなものとして例えば、フッ酸製造の際発生するケイ素化合物を含む低純度フッ酸や、フッ素含有排水若しくはフッ酸廃液を処理して得られるフッ素含有スラッジ、又はフッ素産業から排出される各種フッ素含有廃棄物を処理して得られるフッ素含有スラッジ等がある。
【0016】
本発明では、フッ素含有物としてフッ素含有スラッジが利用されるが、フッ素含有スラッジは通常80〜95%の水分を含んでいる。フッ素含有スラッジは、そのまま利用してもよいが、水を加えて90〜99%のスラリー状態で利用した方が、操作性の点からも好ましい。
【0017】
スラリー状のフッ素含有スラッジに酸性物質を添加すると、フッ素はフッ化水素酸として溶解する。フッ化水素酸の沸点である112.2℃以上に加熱することにより、フッ素をフッ化水素として留出させることができる。また、加熱を減圧下で行うことにより更に低い温度で留出させることもできる。
【0018】
フッ素含有物中にケイ素を含まない、又はケイ素の含有量が低い状態で、反応中にケイ素の混入を防ぐことができれば、留出するフッ素化合物はフッ化水素のみとなり、不純物を含まないフッ素化合物として回収することができる。尚、反応中にケイ素の混入を防ぐ方法としては、フッ酸と反応してもケイ素を溶出しない材料で作られた容器を用いて反応させれば良い。
【0019】
留出したフッ素化合物を回収する方法としては、留出したフッ素化合物を冷却して回収する方法と、水又は水酸化ナトリウム若しくは水酸化カリウム等のアルカリに吸収させ、フッ化水素酸又はフッ化ナトリウムとして回収する方法と、さらにはカルシウム化合物の溶液もしくは懸濁液に吸収させてフッ化カルシウムとして回収する方法とがある。
【0020】
留出したフッ素化合物の気化物を、カルシウム化合物の溶液又は懸濁液に吸収させ、フッ素をフッ化カルシウムとして回収する方法では、カルシウム化合物として、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、臭化カルシウム又はヨウ化カルシウム等いかなるカルシウム化合物でも用いることができる。
【0021】
留出したフッ素化合物を冷却する方法としては、通常の蒸留操作で用いられる冷却操作で行うことができ、装置も既存のものを応用することができ特に制約されないが、フッ酸に侵されない材質のものであることが求められる。
【0022】
留出したフッ素化合物を、水又は水酸化ナトリウム若しくは水酸化カリウム等のアルカリに吸収させる、又はカルシウム化合物の溶液若しくは懸濁液に吸収させることは、通常のガス吸収操作で行う方法により達成できる。装置も既存のものを応用することができ特に制約されないが、フッ酸に侵されない材質のものであることが求められる。
【0023】
フッ素含有物が、ケイ素化合物を含まないが、重金属などの非揮発性の不純物を含むだけならば、フッ素含有物に酸性物質を添加し、加熱下で処理すると、フッ素含有物に含まれる重金属等の非揮発性不純物と分離され、純粋なフッ化水素酸又はフッ化ナトリウム、あるいはフッ化カルシウムとして回収することができる。
【0024】
フッ素含有物中に不純物としてケイ素化合物を含む場合は、フッ素の一部はケイ素化合物と反応してフッ化ケイ素及び/又はヘキサフルオロケイ酸として留出するため、回収したフッ化水素酸又はフッ化ナトリウムやフッ化カルシウム中にヘキサフルオロケイ酸や二酸化ケイ素等のケイ素化合物が混入してしまう。
【0025】
本発明で回収されたフッ化カルシウムは、再利用に供されるが、何に再利用するかによって求められるフッ化カルシウムの純度が異なる。例えば、回収したフッ化カルシウムをフッ酸製造原料として再利用する場合には高い純度が求められ、特にケイ素の含有量がフッ化カルシウムに対して1.0%以下であることが望ましい。ケイ素の含有量が1.0%を超えると、フッ化水素を製造した際、得られるフッ化水素の純度が低下してしまう。
【0026】
本発明ではフッ化カルシウムとして回収する際に、いかなるカルシウム化合物でも用いることができるが、フッ素含有物中のケイ素化合物含有量が高く、結果として回収したフッ化カルシウム中のケイ素含有量が問題になる場合は、回収するフッ化カルシウムへのケイ素の混入ができるだけ低められることが望ましい。
【0027】
本発明において、フッ化カルシウムとして回収する際のカルシウム化合物に、炭酸カルシウムや水酸化カルシウム等のアルカリ性のカルシウム化合物を用いると、回収するフッ化カルシウムへのケイ素の混入を低くすることができる。この場合、カルシウム化合物として炭酸カルシウムの使用が特に好ましい。
【0028】
本発明において、ケイ素を含むフッ素含有物から、ケイ素含有率の低いフッ化カルシウムを回収する際のカルシウム化合物としては、炭酸カルシウムや水酸化カルシウム等のアルカリ性カルシウム化合物を用いるが、蒸留後に生成したフッ化カルシウムが溶解しないで存在できるpH3以上、好ましくはpH4以上に維持できることが望ましい。
【0029】
また、添加したアルカリ性カルシウム化合物ができるだけ溶解する方が、ケイ素化合物の取込みをより防止することができるため、蒸留後のpHが中性から酸性側に維持されること、すなわち、pH3〜8、好ましくはpH3〜7、より好ましくはpH4〜5.5に維持されることが望ましい。
【0030】
本発明で留出するフッ素化合物の回収液におけるカルシウム量は、当量でフッ素に対して1〜20倍量、好ましくは1〜10倍量、より好ましくは1〜5倍量である。
【0031】
pHを維持するためには、留出した酸性のフッ素化合物によりpHが下がり過ぎないように、炭酸カルシウムの量を増やしても良いし、炭酸カルシウムと塩基性物質を共存させて調整しても良い。尚、塩基性物質として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又は水酸化カルシウム等を利用することができる。
【0032】
本発明において、ケイ素を含まないフッ素含有物、又はケイ素を含有していても問題とならない程度のフッ素含有物から、フッ化カルシウムを回収する場合、カルシウム化合物としては特に限定されず、蒸留終了後のpHも特に限定されない。
【0033】
蒸留終了後のpHが低下し、フッ化カルシウムが溶解して存在する場合には、塩基性物質を添加し、pH4〜10、好ましくはpH4〜8に調整し、フッ化カルシウムを生成させれば良い。尚、該塩基性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム又は炭酸カルシウム等のアルカリ性物質が用いられる。
【0034】
本発明で用いられる酸性物質としては、本発明の目的を達成できればいかなるものでも良く、硫酸、フッ酸、塩酸若しくは硝酸等の鉱酸(無機酸)、リン酸、シュウ酸又は過塩素酸などが利用できる。
【0035】
酸性物質の純度は特に問題はなく、未利用の酸を利用しても良いし、一度利用された廃酸を利用しても良い。また、酸を単独で用いても良いし、二つ以上の酸からなる混合酸を用いて反応を行うこともできる。本発明における酸性物質の添加量は、フッ素に対してモル比で1〜20倍、好ましくは1〜10倍、より好ましくは1〜5倍である。
【0036】
本発明では、フッ素含有物に酸性物質を添加して加熱をするが、加熱は常圧下で行っても良いし、減圧下で行っても良い。尚、減圧下で行う方が、加熱温度が低くて済むし、ケイ素化合物が器壁に付着するのを防ぐこともできる。また、減圧した方がフッ素の回収率が高いので、より好ましい。
【0037】
加熱を常圧下で行うときは、加熱温度は、100〜150℃、好ましくは100〜130℃、より好ましくは110〜130℃である。当該反応を常圧下で行うときは、発生した気化物を円滑にカルシウム化合物の溶液又は懸濁液に送るため、気体を送りながら反応させるのが好ましい。
【0038】
気体は、可燃性や有害な気体以外ならどのような気体でも用いることができるが、空気又は窒素など安価かつ容易に入手できるものが好ましい。気体の送り方は特に限定されず、気泡を噴射しても良いし、カルシウム化合物の溶液又は懸濁液を入れた吸収容器側から吸引して気体を吸い込むなどの方法でも良い。
【0039】
加熱を減圧下で行うときは、カルシウム化合物の溶液又は懸濁液を入れた吸収容器側から真空装置で吸引して減圧する。尚、真空装置は、既存の真空ポンプなど吸引できるものであれば特に限定されない。
【0040】
真空度はできるだけ高い方が良く、マイナス60〜マイナス76cmHg、好ましくはマイナス65〜マイナス76cmHg、より好ましくはマイナス70〜マイナス76cmHgである。また、加熱温度は、真空度によっても異なるが、30〜100℃、好ましくは40〜90℃、より好ましくは50〜80℃である。
【0041】
フッ素含有物としては、フッ素含有排水を処理した際に発生するスラッジを用いることができる。フッ素含有排水の処理法としては、様々な方法があり、いずれの処理法で得られたスラッジでも利用することができる。
【0042】
例えば、カルシウムを添加してフッ化カルシウムとして沈殿させる方法、又はアルミニウム若しくはマグネシウムの水酸化物沈殿法により共沈若しくは吸着させて処理する方法などで得られたスラッジを利用できる。
【0043】
また、フッ素含有排水中に希土類元素イオン及び無害性多価金属イオンを存在させた状態で、pH5〜9に調整することにより、溶存フッ素イオンを難溶性物質として沈殿分離させる特許文献2に記載の方法で得られたスラッジも利用できる。
【0044】
更に、フッ素含有排水に無害性多価金属イオンを存在させ、アルカリを添加して処理水のpHを10以上に調整し、希土類イオンを添加し、必要に応じてアルミニウムイオンを添加し、酸性物質を添加してpHを6以上10未満に調整することにより、溶存フッ素イオンを難溶性物質として沈殿分離する特許文献3に記載の方法で得られたスラッジも利用できる。
【0045】
その他に、原水であるフッ素排水にカルシウム化合物を添加し、pHを5〜9に調整することにより発生した沈殿物をアルカリ性にして新たな原水に返送することを繰り返すことでフッ素を低濃度まで除去し、発生する沈殿物の量も低減させる特許文献4に記載の方法で得られたスラッジも利用できる。
【0046】
本発明において、回収したフッ化カルシウムを固液分離する際は、フッ化カルシウムを凝集させて分離を容易にするための凝集剤を併用するのが好ましい。
【0047】
凝集剤としては、ポリアクリルアミドのカチオン化変性物、ポリアクリル酸ジメチルアミノエチルエステル、ポリメタクリル酸ジメチルアミノエチルエステル、ポリエチレンイミン若しくはキトサン等のカチオン性有機系凝集剤、ポリアクリルアミド等のノニオン性有機系凝集剤、又はポリアクリル酸、アクリルアミドとアクリル酸との共重合体、若しくは前記共重合体の塩等のアニオン性有機系凝集剤がある。
【0048】
凝集剤の使用量は、水中における濃度では、水1リットルに対して、0.1〜100ミリグラム、好ましくは0.1〜50ミリグラム、より好ましくは0.5〜25ミリグラムである。
【0049】
凝集沈殿されたフッ化カルシウムは固液分離処理され、再利用に供される。固液分離の方法としては、慣用の方法、例えば、濾過分離、遠心分離又は沈降分離などがある。
【0050】
次に、添付図面に基づいて、本発明であるフッ素含有物からのフッ素回収方法及びフッ素回収装置について詳細に説明する。図1は、本発明であるフッ素含有物からのフッ素回収方法を示す図である。
【0051】
フッ素含有物からのフッ素回収方法1は、フッ素含有物準備1a、酸性物質添加1b、蒸留1c、回収1d及び固液分離1eの工程からなる。
【0052】
フッ素含有物準備1a工程では、フッ素回収処理の対象となるフッ素含有スラッジ又はフッ素含有スラリーを準備する。フッ素含有スラッジ等は、フッ素含有排水などを処理した際に発生したものを使用することができる。
【0053】
酸性物質添加1b工程では、フッ素含有物に酸性物質を添加して反応させる。必要に応じて水なども添加する。反応により、フッ素含有物中のフッ素は、フッ化水素酸などに変化する。
【0054】
蒸留1c工程では、フッ素含有物を加熱し、発生したフッ化水素酸などを蒸発させて分離する。蒸留1cを減圧下で行えば、常圧下の場合よりも低い温度で留出させることができる。
【0055】
回収1d工程では、フッ素を回収する。留出したフッ素化合物を冷却して回収する方法と、水又はアルカリ溶液に吸収させる方法と、さらにはカルシウム化合物の溶液もしくは懸濁液に吸収させて回収する方法とがある。
【0056】
留出したフッ素化合物がケイ素化合物を含む場合には、カルシウム化合物の溶液もしくは懸濁液に吸収させて回収する。カルシウム化合物として炭酸カルシウムを用いると、ケイ素含有率の低いフッ化カルシウムが得られる。
【0057】
固液分離1e工程では、濾過などの方法により、沈殿したフッ化カルシウムを液体から分離させて回収する。フッ素を、ケイ素などの不純物を除去したフッ化カルシウムとして回収することができる。
【0058】
図2は、本発明であるフッ素回収装置を示す図である。フッ素回収装置2は、フッ素含有物を蒸発させる蒸留部3と、前記蒸留部3に接続した受部5とからなることを特徴とする。尚、蒸留部3と受部5とを接続する箇所を接続部4とする。
【0059】
蒸留部3は、フッ素含有物を入れる蒸留器3a、前記蒸留器3aを加熱する加熱器3c及び前記蒸留器3aを攪拌する蒸留器用攪拌機3dからなる。
【0060】
接続部4は、フッ素化合物の蒸気が通る通気管4aと、通気管4aの蒸留部3側の管4cと、通気管4aの受部5側の管4dとからなる。通気管4aは、できるだけ短いことが望ましく、蒸留器3aと受器5aとが一体となった構造にすることもできる。また、通気管4aには、必要に応じて通気管4aを加熱するヒーター4bを取り付けて加熱することもできる。
【0061】
受部5は、フッ素化合物の蒸気が入る受器5a、前記受器5aを攪拌する受器用攪拌機5b及び前記受器5a内を減圧する真空装置6からなり、蒸留は減圧蒸留で行う。
【0062】
蒸留器3aは、蒸留液3eを入れる容器であり、フッ酸と反応してケイ素が溶出しない材質のもの、例えば、テフロン(登録商標)製の蒸留フラスコ、又はテフロン(登録商標)でコーティングした蒸留フラスコなどが使用される。尚、蒸留液3eはフッ素含有排水であり、フッ素含有物が懸濁したスラリー(泥漿)状の排水である。
【0063】
蒸留器3a内の蒸留液3eを加熱した際の温度を計測する器具として温度計3bがあり、テフロン(登録商標)被覆温度計などが使用される。蒸留器3aの差込口から温度計3bを差し込んで計測する。
【0064】
加熱器3cは、蒸留器3a内の蒸留液3eを加熱するための器具であり、マントルヒーターなどが使用される。マントルヒーターは、丸底フラスコなどを加熱するのに適している。
【0065】
受器5aは、吸収液5cを入れておく容器であり、吸収フラスコなどが使用される。蒸留器3aから送られてきた蒸気が受器5aの吸収液5cに吸収され、蒸留器3aには残留液が残る。
【0066】
蒸留器用攪拌機3dは、蒸留器3aを攪拌する装置であり、受器用攪拌機5bは、受器5aを攪拌する装置である。蒸留器用攪拌機3d及び受器用攪拌機5bは、マグネチックスターラーなどが使用される。
【0067】
通気管4aは、蒸留器3aと受器5aを繋ぐ器具であり、プラスチックチューブなどが使用されるが、フッ酸と反応してケイ素が溶出しない材質のもの、例えば、テフロン(登録商標)製のもの、又はテフロン(登録商標)でコーティングしたものなどが望ましい。
【0068】
通気管4aの管4cは、蒸留器3aの栓に通し、蒸留液3eに触れないように固定し、通気管4aの管4dは、受器5aの栓に通し、吸収液5cの中まで入れて固定する。蒸留器3aで発生した蒸気が、管4cから通気管4aを通過して受器5aに送られ、管4dから吸収液5c中に放出される。
【0069】
ヒーター4bは、通気管4a内を通過する蒸気が冷えないように加熱する器具であり、リボンヒーターなどが使用される。リボンヒーターの場合は、通気管4aに螺旋状に巻き付けて加熱する。
【0070】
真空装置6は、受器5aを減圧する装置であり、真空ポンプ、水流ポンプなどが使用される。真空装置6は、減圧用接続管6aを受器5aの栓に通すことにより接続され、受器5aから気体を吸引する。
【実施例1】
【0071】
次に、実施例により、本発明であるフッ素含有物からのフッ素回収方法及びフッ素回収装置について詳細に説明する。
【0072】
フッ素含有スラリーの浮遊物質量(SS)濃度は7.1%、浮遊物質中のフッ素濃度は、31.5%、カルシウム濃度は39.9%、ケイ素濃度は5.4%であった。このスラリーを使用してフッ素の回収実験を行った。
【0073】
尚、蒸留器3aとしてテフロン(登録商標)製の蒸留フラスコ、温度計3bとしてテフロン(登録商標)被覆温度計、加熱器3cとしてマントルヒーター、通気管4aとしてプラスチックチューブ、ヒーター4bとしてリボンヒーター、受器5aとして吸収フラスコ、真空装置6として水流ポンプ、蒸留器用攪拌機3d及び受器用攪拌機5bとしてマグネチックスターラーを使用した。
【0074】
フッ素含有スラリー44.6ミリリットル(フッ素として1グラム)を蒸留フラスコ(容量250ミリリットル)に取り、水10ミリリットルと硫酸(モル濃度10.25M)19.5ミリリットルを添加し、マントルヒーターで加熱して蒸留した。
【0075】
留出蒸気の吸収液は炭酸カルシウム3.16グラム(フッ素と当量の1.2倍の量)を水500ミリリットルに懸濁させた懸濁液を容量1リットルのナス形フラスコに入れた。尚、当量とはフッ化カルシウム(CaF2)を形成するフッ素とカルシウムの量である。
【0076】
蒸留フラスコと吸収フラスコは内径12ミリメートルのプラスチックチューブで接続した。プラスチックチューブの先端は吸収液中に開放してある。プラスチックチューブはリボンヒーターで約50℃に加熱する。
【0077】
蒸留液の温度は温度計で測定する。吸収フラスコを真空に減圧するため、減圧用接続管6aを接続した。蒸留液及び吸収液はマグネチックスターラーで撹拌した。
【0078】
蒸留フラスコをマントルヒーターで加熱し、蒸留液の温度を約70〜80℃とし、水流ポンプで約マイナス75cmHg減圧して真空蒸留を開始した。吸収液中のプラスチックチューブの先端から気泡が発生する。1時間後、気泡の発生が収まり、実験を終了した。
【0079】
吸収液(pH6.1)を固液分離し、濾液中のフッ素は4.5ミリグラム、ケイ素は36.3ミリグラム、カルシウムは248ミリグラムであった。吸収スラッジ中のフッ素は577ミリグラム、ケイ素は1.4ミリグラム、カルシウムは722ミリグラムで、ケイ素含有率0.1%であった。
【0080】
蒸留フラスコ内の残留液(18ミリリットル)には、フッ素は73.9ミリグラム、ケイ素は7.1ミリグラム、カルシウムは1318ミリグラムが残留していた。
【実施例2】
【0081】
実施例1において、留出蒸気の吸収液中の炭酸カルシウムの量を変えて実験した。炭酸カルシウム2.63グラム(フッ素と当量)及び2.86グラム(フッ素と当量の1.1倍の量)をそれぞれ水500ミリリットルに懸濁させた懸濁液を使用して実験した。
【0082】
実験結果は、吸収液のpHがそれぞれ1.5及び1.9であった。吸収液を固液分離した濾液中のフッ素濃度はそれぞれ603mg/L及び419mg/Lであった。
【0083】
炭酸カルシウムの量が少ないと吸収液のpHが低くなりフッ素が水中に溶解する量が多くなる。原スラッジ中のフッ素の量と当量の1.2倍以上の炭酸カルシウムが必要である。
【実施例3】
【0084】
実施例1において、留出蒸気の吸収液を、水酸化カルシウム2.22グラム(フッ素と当量の1.14倍)を含む懸濁液500ミリリットルとした以外は実施例1と同様に実験した。
【0085】
吸収液(pH10.0)を固液分離し、フッ素を含む回収物2.275グラムを得た。この回収物の組成は、フッ素787ミリグラム、ケイ素35.7ミリグラム、カルシウム1007ミリグラムで、ケイ素含有率は1.6%であった。なお、この回収物は、フッ化カルシウムを主成分とし、他に未反応の水酸化カルシウムを含むものである。
【実施例4】
【0086】
実施例1において、留出蒸気の吸収液を、炭酸カルシウム2.63グラム(フッ素と当量)と水酸化ナトリウム12ミリモル量を含む懸濁液500ミリリットルとした以外は実施例1と同様に実験した。
【0087】
吸収液(pH9.1)を固液分離し、フッ素を含む回収物を得た。この回収物2.095グラムの組成は、フッ素812ミリグラム、ケイ素2.0ミリグラム、カルシウムは957ミリグラムで、ケイ素含有率は0.1%であった。
【0088】
この結果は、吸収液に原スラッジ中のフッ素の量と当量の1.2倍の炭酸カルシウムがなくても、当量の炭酸カルシウムがあれば、水酸化ナトリウムでpHの低下を抑制しておけば、吸収スラッジ中のケイ素の含有率を低くできることを示している。
【実施例5】
【0089】
実施例1において得られた回収物は、フッ化カルシウムを主成分とし、他に未反応の炭酸カルシウムを含むものである。この回収物0.5グラムにフッ化水素酸(2%水溶液)5ミリリットルを添加して撹拌混合した後、固液分離し、フッ化カルシウムを含む回収物0.465グラムを得た。
【0090】
この回収物の組成は、フッ素226ミリグラム、ケイ素0.45ミリグラム、カルシウム237ミリグラムで、ケイ素含有率は0.1%であった。したがって、この回収物中のフッ化カルシウムの含有率は99.5%である。
【実施例6】
【0091】
フッ素含有モデル排水(排水1リットルに対してフッ化水素9.4グラム、フッ素としては8.9グラム)に水酸化カルシウム24グラムを添加してpH9とし、10分間攪拌した後、硫酸ナトリウム水溶液(モル濃度1.28M)を2.2ミリリットル添加し、高分子凝集剤(ダイヤニトリクス社製、AP120C、濃度0.2%)を3ミリリットル添加し、1分間攪拌した後、固液分離した。
【0092】
フッ素含有スラッジの浮遊物質量(SS)濃度は32.2%、浮遊物質中のフッ素濃度は、29.2%、カルシウム濃度は42.5%、ケイ素濃度は0.15%であった。このスラッジを使用してフッ素の回収実験を行った。実験装置は実施例1と同様である。
【0093】
フッ素含有スラッジ(フッ素として1グラム)を蒸留フラスコ(容量250ミリリットル)に取り、水20ミリリットルと硫酸(モル濃度10.25M)19.5ミリリットル(フッ素に対してモル比で3.8倍)を添加し、マントルヒーターで加熱して蒸留した。
【0094】
留出蒸気の吸収液は炭酸カルシウム3.16グラム(フッ素と当量の1.2倍の量)を水500ミリリットルに懸濁させた懸濁液を容量1リットルのナス形フラスコに入れた。
【0095】
蒸留フラスコをマントルヒーターで加熱し、蒸留液の温度を約70〜80℃とし、水流ポンプで約マイナス75cmHg減圧して真空蒸留を開始した。吸収液中のプラスチックチューブの先端から気泡が発生する。1時間後、気泡の発生が収まり、実験を終了した。
【0096】
吸収液(pH6.6)を固液分離し、フッ素を含む回収物2.544グラムを得た。回収物の組成は、フッ素960ミリグラム、ケイ素1.8ミリグラム、カルシウムは1217ミリグラムで、ケイ素含有率0.1%であった。尚、回収物は、フッ化カルシウムを主要成分とし、他に未反応の炭酸カルシウムを含むものである。
【実施例7】
【0097】
実施例6において、原スラッジに二酸化ケイ素(SiO2)をスラッジ量(乾燥)の5%及び10%となるように添加して実験した。
【0098】
実験結果は、吸収スラッジ中のケイ素の含有率は0.1〜0.2%であった。この結果は、原スラッジ中のケイ素量が多くても、蒸留して炭酸カルシウム懸濁液に吸収させた吸収スラッジ中のケイ素含有率を低減することができることを示している。
【実施例8】
【0099】
実施例6において、原スラッジに添加する硫酸の量を、フッ素に対してモル比で2倍量及び3倍量を添加して実験した。
【0100】
実験結果は、2倍量の場合には、フッ素の回収率は約5%であったが、3倍量の場合には、回収率は約80%であった。フッ素に対してモル比で3倍量以上の硫酸を添加すると良いことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明であるフッ素含有物からのフッ素回収方法を示す図である。
【図2】本発明であるフッ素回収装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0102】
1 フッ素含有物からのフッ素回収方法
1a フッ素含有物準備
1b 酸性物質添加
1c 蒸留
1d 回収
1e 固液分離
2 フッ素回収装置
3 蒸留部
3a 蒸留器
3b 温度計
3c 加熱器
3d 蒸留器用攪拌機
3e 蒸留液
4 接続部
4a 通気管
4b ヒーター
4c 管
4d 管
5 受部
5a 受器
5b 受器用攪拌機
5c 吸収液
6 真空装置
6a 減圧用接続管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有物に酸性物質を添加し、加熱することにより気化して留出するフッ素化合物を、冷却することによって、又は水、アルカリ溶液、カルシウム化合物の溶液若しくはカルシウム化合物の懸濁液に吸収させることによって、フッ素をフッ素化合物として回収することを特徴とするフッ素含有物からのフッ素回収方法。
【請求項2】
フッ素含有物が、フッ素含有排水又はフッ酸廃液等のフッ素含有水を処理した際に得られるスラッジであることを特徴とする請求項1に記載のフッ素含有物からのフッ素回収方法。
【請求項3】
酸性物質が、硫酸、フッ酸、塩酸、硝酸、シュウ酸、リン酸又は過塩素酸のいずれか又はこれらの一つ以上の酸からなる混合物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のフッ素含有物からのフッ素回収方法。
【請求項4】
加熱を減圧下で行うことを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3に記載のフッ素含有物からのフッ素回収方法。
【請求項5】
フッ素含有物がケイ素化合物を含み、留出するフッ素化合物がフッ化水素の他、ヘキサフルオロケイ酸及び/又はフッ化ケイ素等のケイ素化合物を含むことを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4に記載のフッ素含有物からのフッ素回収方法。
【請求項6】
留出するフッ素化合物を回収するカルシウム化合物が、炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3、請求項4又は請求項5に記載のフッ素含有物からのフッ素回収方法。
【請求項7】
炭酸カルシウムで留出したフッ素化合物を回収した際に得られるフッ化カルシウムと炭酸カルシウムの混合物をフッ酸で処理し、フッ化カルシウムの純度を高めることを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5又は請求項6に記載のフッ素含有物からのフッ素回収方法。
【請求項8】
フッ素含有物を入れる蒸留器、前記蒸留器を加熱する加熱器及び前記蒸留器を攪拌する蒸留器用攪拌機からなりフッ素含有物を蒸発させる蒸留部と、前記蒸留部からの蒸気が入る受器、前記受器を攪拌する受器用攪拌機及び前記受器内を減圧する真空装置からなり減圧蒸留可能な受部と、前記蒸留部と受部とを接続する通気管及び前記通気管に取り付けたヒーターからなり通気管内を加熱可能な接続部とからなることを特徴とするフッ素回収装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−175364(P2006−175364A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−371592(P2004−371592)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000005979)三菱商事株式会社 (56)
【Fターム(参考)】