説明

フッ素回収方法およびその装置

【課題】PFCs分解ガスから乾式除害により高純度のCaFを安定的に回収することのできるフッ素回収方法およびその装置を提供する。
【解決手段】カルシウム塩化合物からなる第1フッ素回収薬剤と、ナトリウム塩化合物からなる第2フッ素回収薬剤とに分解生成ガスを直列に通過させて反応させ、両薬剤の重量変化を測定検出し、その合計重量変化の変曲点を検出した時点を反応終了時期として、分解生成ガスの供給を停止するとともに、フッ素回収薬剤からフッ素成分を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の製膜工程等で使用されるPFCs(Perfluorocompounds)ガスの分解により生成されるHF(フッ化水素)等の有害成分を含む分解生成ガスの処理方法と装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程ではPFCsガスがエッチングガスやクリーニングガスとして使用されている。このPFCsガスは地球温暖化防止の観点から、使用量の削減ならびに大気放出量を低減する必要があり、最近は大気放出量を低減する為にPFCsガスの分解装置が多く導入されている。PFCsガスを分解すると毒性ガスであるHFを主成分とするガス状のPFCs以外のフッ素化合物が生成されるが、その多くが水に可溶であるため、現状では水あるいはアルカリ水で洗浄する湿式方式で処理されている。しかし、この洗浄水についても中和処理によりフッ化物塩として沈殿させ、この沈殿物を産業廃棄物として処理する必要がある。
【0003】
これを解決するものとして、本出願人らは先に、フッ素回収薬剤が充填された乾式フッ素回収装置を用いてPFC分解ガスからフッ素化合物を除去・回収し、反応済み薬剤を工業用原料などとして再利用する方法を提案した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−331432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PFCsガスは、半導体産業で主にSi系膜のクリーニング・エッチング工程において使用されており、これらの排ガス中にはHFの他にSiF(四フッ化珪素)も多量に含有している。このSiFは、他の活性なフッ素成分(例えば、HF)と比べてフッ素回収薬剤との反応性が低いため、実用的に水あるいはアルカリ水などの湿式法でしか除害されていない。
【0006】
このSiFが発生することにより、フッ素回収薬剤として特許文献1に示されているカルシウム塩化合物を用いた場合、以下に述べるような問題点があることが判明した。
【0007】
a.フッ素を回収した薬剤を工業原料として利用する場合、価値の高い蛍石(CaF)として回収することが望ましいが、この場合の品位として、純度90%以上、Si・Clなどの不純物含有量は1%以下などが要求される。
【0008】
しかし、カルシウム塩化合物、例えば水酸化カルシウムを用いた場合、次に示す式(1)の反応が起こり、薬剤中にSiOが蓄積する。このため、回収薬剤のCaF純度が低下するとともに、Si濃度が増加し、工業原料としての利用価値が低くなる。
2Ca(OH) + SiF → 2CaF +SiO + HO …(1)
【0009】
b.さらに、前記特許文献1に示されているものでは、フッ素回収薬剤の反応の終点は、HFモニターでHF濃度3ppmが検知された時点としていた。しかし、HFモニターを用いた場合にHFとSiFの性質が類似しているため、HFだけでなくSiFも同様に検出してしまう。加えて、SiFは上述のカルシウム塩化合物との反応性が低く薬剤を通過してしまうため、本来の終点タイミングより早くなる傾向がある。このHFモニターを用いて、高純度のCaFを得ようとすると、大量のSiFが後段に流れてしまうので、除害装置の性能およびフッ素回収装置としての効率が悪くなる。
【0010】
また、特許文献1に示されている方法で、より効果的にフッ素成分を回収しようとすると、水分の添加が必要となる。加えて、フッ素回収薬剤として、例えば水酸化カルシウムを用いた場合、次に示す式(2)のような反応となり、水分が大量に発生する。
Ca(OH) + 2HF → 2CaF + 2HO …(2)
【0011】
これら水分が露点以下になると結露しフッ素系ガスが吸収されることから、モニターに誤差が生じることになる。例えば、フッ素回収薬剤が収容されている反応筒の温度は約200℃であるが、HFモニター検知部の温度は約40℃である。
【0012】
この結果、SiFを含むPFCs分解ガスから、完全な乾式除害ならびに安定的に高純度のCaFを回収することは困難とされている。
【0013】
本発明は、このような点に着目してなされたもので、PFCs分解ガスから乾式除害により高純度のCaFを安定的に回収することのできるフッ素回収方法およびその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するために本発明は、カルシウム塩化合物からなる第1フッ素回収薬剤と、ナトリウム塩化合物からなる第2フッ素回収薬剤とに分解生成ガスを直列に通過させて反応させ、両薬剤の重量変化を測定検出し、その合計重量変化の変曲点を検出した時点を反応終了時期とし、フッ素回収薬剤からフッ素成分を回収するようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、カルシウム塩化合物からなる第1フッ素回収薬剤と、ナトリウム塩化合物からなる第2フッ素回収薬剤とでフッ素回収薬剤を構成し、この第1フッ素回収薬剤と第2フッ素回収薬剤とに、分解生成ガスを直列に通過させて反応させ、この反応に伴う両薬剤の重量変化を測定して、その合計重量変化が変曲する時点を反応終了時点として、フッ素回収薬剤からフッ素成分を回収するようにしていることから、PFCsガスの分解により生成した分解生成ガスから、完全な乾式法で、工業原料として価値の高いフッ素化合物を回収することができるとともに、導入ガス条件にこだわることなくフッ素回収薬剤の破過を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図は本発明の一実施形態を示すフッ素回収装置の概略構成図である。
【図2】フッ素回収薬剤の重量の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図に示すフッ素回収装置は、内部に第1層となる第1フッ素回収薬剤収容室(1)と第2層となる第2フッ素回収薬剤収容室(2)とを区画形成した反応筒(3)を2基配置し、図示を省略したPFCガスの分解装置で生成された分解生成ガスの導入路(4)を各反応筒(3)内での第1フッ素回収薬剤収容室(1)に連通させるとともに、処理済みガスを導出する導出路(5)を各反応筒(3)内での第2フッ素回収薬剤収容室(2)から導出してある。
【0018】
この導入路(4)の各反応筒(3)への連絡路部分にそれぞれ流入制御弁(6)を介在させるとともに、導出路(5)にそれぞれ流出制御弁(7)が介在させてある。そして、導出路(5)の流出制御弁(7)よりも上流側の部分から分岐路(8)が導出してあり、この分岐路(8)は開閉切換弁(9)を介して、他方の反応筒(3)への導入路(4)での流入制御弁(6)よりも下流側(反応筒側)に連通接続してある。
【0019】
このように2基の反応筒(3)へ分解生成ガスを入れつつ直列に位置させる構造は、一方の反応筒(3)の第2フッ素回収薬剤収容室(2)から導出された導出ガスを他方の反応筒(3)の第1フツ素回収薬剤収容室(1)に導入するようにしており、第1反応筒内で充分反応し切れなかったフッ素成分を第2反応筒内で確実に反応処理させることになる。そのうえ、一方の反応筒での反応が終了して、反応済み薬剤を工業用原料などとして再利用するために回収する際に、ガス導入系に装着した流入制御弁(6)、ガス導出系に装着した流出制御弁(7)を切換えることにより、アイドルタイムを減少させて連続操作が可能になる。
【0020】
そして、この2基の反応筒(3)は、それぞれロードセル等の計量器(10)に載置してあり、各計量器(10)での検出データは制御装置(11)に伝達するようになっている。
【0021】
第1フッ素回収薬剤収容室(1)に充填される第1フッ素回収薬剤は、炭酸カルシウムなどのカルシウム塩化合物であり、第2フッ素回収薬剤収容室(2)に充填される第2フッ素回収薬剤は、炭酸水素ナトリウムなどのナトリウム塩化合物が用いられる。
【0022】
このように第1層にカルシウム塩化合物を、第2層にナトリウム塩化合物を収容したものに、HFおよびSiFを含む排ガスを流通させると、HFを含む活性なフッ素成分は、第1層のカルシウム塩化合物と反応して、CaFを形成し、SiFを含む排ガスは第2層のナトリウム塩化合物と反応する。そして、SiFなどが流入すると、前記(1)式で示す反応により、SiOに代表される不純物が第1層のCaF回収層に混入するが、次式(3)で示す反応が起こり、再度SiFとして排出されることになるから、高純度かつ不純物含有量の低いCaFを回収することができる。
SiO + 4HF → SiF + HO …(3)
【0023】
そして、HFおよびSiFを含む排ガスに、カルシウム塩化合物とナトリウム塩化合物の2種の薬剤を反応させながら、これらの薬剤の量をロードセルなどによって、測定すると、重量の増加・減少量の違いが薬剤中のフッ素転化率によって変化する。この原理を利用し、例えばカルシウム層のCaF濃度を測定し、フッ素回収薬剤の反応の終点を判断することができる。その一例を以下に示す。
【0024】
第1層にカルシウム塩化合物として炭酸カルシウム(CaCO)を、第2層にナトリウム塩化合物として炭酸水素ナトリウム(NaHCO)を充填して、HFおよびSiFを含む排ガスを導入すると、次式(4)から式(8)のように反応する。
【0025】
第1層では、
CaCO + 2HF → CaF + CO + 2HO …(4)
CaCO + 1/2SiF → CaF + 1/2SiO + 1/2CO …(5)
【0026】
第2層では、
NaHCO + HF → NaF +CO + HO …(6)
NaHCO + 1/2SiF + HF → 1/2NaSiF +CO + HO …(7)
NaF + 1/2SiF → 1/2NaSiF …(8)
【0027】
第1層および第2層に未反応物の薬剤が存在すれば、第1層は上記(4)式のCaCO→CaF(分子量:100→77)および前記(5)式のCaCO→CaF+1/2SiO(分子量:100→77+33)の反応となり減少し、第2層では前記(7)式のNaHCO→1/2NaSiF(分子量:84→94)の反応となって増加し、薬剤全量としては、分子量:284→278となり減少する。
【0028】
第1層に未反応物がなく第2層に存在する場合は、第1層においてHFおよびSiFはスルーし、第2層は、前記(6)式のNaHCO→NaF(分子量:84→42)および前記(7)式NaHCO→1/2NaSiF(分子量:84→94)の反応となり、減少する。このときの減少量は、第1層および第2層の薬剤が未反応である場合とは異なる。
【0029】
第1層および第2層に薬剤が存在しなければ第1層においてHFおよびSiFはスルーし、第2層は前記(8)式NaF→1/2NaSiF(分子量:42→94)の反応により増加することになる。
【0030】
上記は例として、CaCOおよびNaHCOを用い、かつHFおよびSiFの導入量が1:1の条件であるが、他のカルシウム塩化合物やナトリウム塩化合物、導入ガス種や導入比率が異なった場合でも適用できる。
【0031】
以上のことから、重量変化の変化点を観測することで、たとえ水分が多量に含有されていても、水分の影響を受けずに、薬剤の反応の終点を把握することができる。
【実施例】
【0032】
反応筒(3)として内径48mmの円筒パイプを2本用意し、この各円筒パイプ内に第1フッ素回収薬剤としての炭酸カルシウム(3mm押出成型品)を充填高さ150mmで充填するとともに、第2フッ素回収薬剤としての炭酸水素ナトリウム(1〜2mm破砕品、商品名エコブラストEB−10、旭硝子(株)製)を充填高さ150mmで充填し、この2本の円筒パイプを直列に連通する状態に接続した。
【0033】
この反応筒(3)を150℃に保持した条件で、HF:3%、SiF:0.1%(残りN)を8.15L/minで流通させる。反応筒(3)全体を電子天秤(計量器)(10)で秤量し、かつ、反応筒(3)の出口でのガス分析を実施し、所定重量および所定濃度になった時点で、反応筒(3)内の薬剤を取り出し、各薬剤の組成分析を実施した。なお、炭酸カルシウム反応後薬剤はJIS-K1468-1978に基き定性および定量を、炭酸水素ナトリウム反応後薬剤はX線回析装置にて定性および簡易定量を実施した。
【0034】
重量の経時変化を図2に示すとともに、図2に示した各時点での炭酸カルシウム反応後薬剤の純度分析結果を表1に、また、炭酸水素ナトリウム反応後薬剤の純度分析結果を表2に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
図2および表1、表2において、
P1は、重量の減少率が変化する前のポイント
P2は、重量の減少率が変化した時点でのポイント
P3は、重量の増減が変化した時点でのポイント
P4は、HF若しくはSiFが検出された時点のポイント
P5は、過剰にHF、SiFを導入した時点のポイント
を示している。
【0038】
この結果より、炭酸カルシウムを充填した第1層において、ポイントP2以降で純度90%以上かつSiO含有量1%以下のフッ化カルシウム(CaF)が得られた。また、炭酸水素ナトリウムを充填した第2層において、ポイントP5で未反応物である炭酸水素ナトリウムがなく、すべてフッ化ナトリウム(NaF)、珪フッ化ナトリウム(NaSiF)になっていた。これらより、重量減少率および増減変化でフッ化カルシウム(CaF)およびフッ化ナトリウム(NaF)、珪フッ化ナトリウム(NaSiF)の純度が推測できることか゛確認できた。
【0039】
また、ポイントP5まで反応させると、工業価値の高いフッ化カルシウム(CaF)およびフッ化ナトリウム(NaF)、珪フッ化ナトリウム(NaSiF)を回収することができるが、一方では高濃度のHF、SiFを排出することになるため、除害装置としてはポイントP3あるいはポイントP4で反応を終了させることが望ましい。
【0040】
上記の実施態様では、第1フッ素回収薬剤としてのカルシウム塩化合物を炭酸カルシウムを例に説明したが、カルシウムの硝酸塩、硫酸塩、蓚酸塩、水酸化物、酸化物を使用することもできる。また、第2フッ素回収薬剤としてのナトリウム塩化合物は、例示した炭酸水素ナトリウムのほかにナトリウムの硝酸塩、硫酸塩、蓚酸塩、水酸化物、酸化物であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
プロセスガスやクリーニングガスとしPFCガス使用している分野で、排ガス処理技術として利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1…第1フッ素回収薬剤収容室、2…第2フッ素回収薬剤収容室、3…反応塔、4…ガス導入路、5…ガス導出路、10…計測機器、11…制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PFCsガスの分解により生成した分解生成ガスよりフッ素を回収する方法において、カルシウム塩化合物からなる第1フッ素回収薬剤と、ナトリウム塩化合物からなる第2フッ素回収薬剤とに分解生成ガスを直列に通過させて反応させ、両薬剤の重量変化を測定検出し、その合計重量変化の変曲点を検出した時点を反応終了時期とする、フッ素回収薬剤からフッ素成分を回収するようにしたことを特徴とするフッ素回収方法。
【請求項2】
第1フッ素回収薬剤と第2フッ素回収薬剤とを同一の反応塔内に区画収容してある請求項1に記載したフッ素回収方法。
【請求項3】
PFCガスsの分解により生成した分解生成ガスよりフッ素を回収する装置であって、内部にカルシウム塩化合物からなる第1フッ素回収薬剤と、ナトリウム塩化合物からなる第2フッ素回収薬剤とを区画して収容している反応塔(3)と、この反応塔(3)の重量を計測する計測機器(10)と、計測機器(10)からの計測データを分析処理する制御装置(11)とを有し、反応塔(3)内で第1フッ素回収薬剤収容室(1)と第2フッ素回収薬剤収容室(2)とを連通させるとともに、第1フッ素回収薬剤収容室(1)と第2フッ素回収薬剤収容室(2)のいずれか一方にガス導入路(4)を、他方にガス導出路(5)を接続してあることを特徴とするフッ素回収装置。
【請求項4】
反応塔(3)を2基配置し、この2基の反応塔(3)を切換使用可能に構成してある請求項3に記載したフッ素回収装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−25180(P2011−25180A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174847(P2009−174847)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000158312)岩谷産業株式会社 (137)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】