説明

フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物及び積層体

【課題】柔軟性を有するシリコーンゴムなどの基材表面に塗布し、乾燥させ、焼成した後でもクラックが生じることのない、新規なフッ素樹脂コーティング用水性分散組成物、及びそれを用いた積層体を提供すること。
【解決手段】フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物がフッ素樹脂粒子ディスパージョンと分解して気化する温度が該フッ素樹脂粒子の分解温度までの温度範囲内にある解重合性アクリル樹脂粒子エマルジョンと分解して気化する温度が該解重合性アクリル樹脂の分解温度までの温度範囲内にある水溶性高分子からなり、前記解重合性アクリル樹脂粒子エマルジョンを前記フッ素樹脂粒子ディスパージョンの固形分に対して5重量%以上50重量%未満含み、かつ、前記水溶性高分子を前記フッ素樹脂粒子ディスパージョンの固形分に対して5重量%以上50重量%未満含むこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンゴムなどの柔軟な弾性体基材に塗膜形成させた場合にも、乾燥あるいは焼成後にマッドクラックが発生しないフッ素樹脂コーティング用水性分散組成物、及びそれを用いた積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物を用いて基材に塗布しフッ素樹脂塗膜を乾燥させる場合、溶剤や水の蒸発に伴ってフッ素樹脂塗膜が収縮して生ずる「乾燥後クラック」及び、フッ素樹脂塗膜を焼成する時に熱収縮により生ずる「焼成後クラック」の発生が問題視されていた。
【0003】
そこで、「乾燥後クラック」を防止するために例えば、特許文献1では、造膜助剤として特定のポリエーテル系ウレタン樹脂を使用している。この方法によれば、「乾燥後クラック」の発生は低減化されるものの、フッ素樹脂塗膜を焼成する好適な焼成温度と時間では、ウレタン基の熱分解が不充分であるため未分解物質が焼成後の被膜に残渣として残り、フッ素樹脂の焼成被膜が着色し、本来フッ素樹脂が持ち合わせている離型性、撥水性などの特性が低下するという問題があった。
【0004】
また、特許文献2〜4では造膜助剤として、解重合性アクリル樹脂粒子を用いることが提案されているが、これらのコーティング用水性分散組成物は、「乾燥後クラック」を防止するために、高沸点溶剤であるトリエタノールアミンを使用することが必須であり、トリエタノールアミンは窒素原子を含むため、これらのコーティング用水性分散組成物から得られる焼成被膜は着色し、被膜特性が低下するという問題がある。
【0005】
上記の通り、従来技術において「乾燥後クラック」を防止するためには、前記トリエタノールアミンやジエタノールアミンなどの高沸点溶剤、あるいは室温で不揮発性液体であるカプリル酸、カプリン酸、オレイン酸などの長鎖脂肪酸を添加する方法が公知である。しかし、「乾燥後クラック」防止効果が奏される量まで高沸点溶剤や長鎖脂肪酸を添加すると、焼成時にこれらが反応して、フッ素樹脂被膜を着色させる物質に変化してしまうため、酸化剤を必ず添加しなければならず、酸化剤を添加すると、高沸点溶剤や長鎖脂肪酸のほとんどはフッ素樹脂の融点以下で分解し、着色物質を減少させることはできるが、焼成時に熱収縮して生ずる「焼成後クラック」の発生を防止できなくなる。
【0006】
また、その他の方法として、アクリル樹脂粒子を溶解させるブチルジグリコール、ジプロピレングリコールメチルエーテルなどの水溶性高沸点溶剤を添加し、乾燥時にアクリル樹脂粒子を溶かして、「乾燥後クラック」と焼成時の熱収縮による「焼成後クラック」を同時に防止する方法も考えられる。しかし、これらの水溶性高沸点溶剤は、分散剤として添加される非イオン性界面活性剤の乳化力を低下させるため、凝集物が発生したり、スプレー塗装時の剪断でフッ素樹脂エマルジョンが破壊され塗膜が不均一になったりするという問題がある。
【0007】
次に、特許文献5には、窒素原子を含まず沸点が100度C以上で、かつ、水酸基を2個以上有する高沸点多価アルコールを添加することにより、「乾燥後クラック」を防止する技術が提案されている。
【0008】
しかしながら、これらの技術においてもエラストマー、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどの柔軟な基材からなる弾性体表面に塗布して乾燥させると、弾性体が膨張するため、「乾燥後クラック」が生じてしまうという問題を解決することができなかった。
【特許文献1】WO1997/040112号パンフレット
【特許文献2】特開昭50−088128号公報
【特許文献3】特開昭51−060243号公報
【特許文献4】特開昭52−013531号公報
【特許文献5】WO2003/011991号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の解決課題は、上記従来技術の問題点を克服し、柔軟なシリコーンゴムなどの基材表面に塗布し、乾燥させ、焼成した後でもクラックが生じることのない、新規なフッ素樹脂コーティング用水性分散組成物、及びそれを用いた積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のフッ素樹脂コーティング用水性分散組成物は、フッ素樹脂粒子ディスパージョンと、分解して気化する温度が該フッ素樹脂粒子の分解温度までの温度範囲内にある解重合性アクリル樹脂粒子エマルジョンと、分解して気化する温度が該解重合性アクリル樹脂粒子の分解温度までの温度範囲内にある水溶性高分子からなり、前記解重合性アクリル樹脂粒子エマルジョンを、前記フッ素樹脂粒子ディスパージョンの固形分に対して5重量%以上50重量%未満含み、かつ、前記水溶性高分子を前記フッ素樹脂粒子ディスパージョンの固形分に対して5重量%以上50重量%未満含むことを特徴とするものである。なお、本発明において、「フッ素樹脂粒子ディスパージョン」とは、フッ素樹脂水性分散液のことをいう。また、本発明において、「分解して気化する温度」とは、空気中で10度C/分で昇温したとき、50%重量減少する温度のことをいう。
【0011】
また、本発明のフッ素樹脂コーティング用水性分散組成物は、前記フッ素樹脂粒子が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)粒子、及びテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)粒子から選ばれる少なくとも一つのフッ素樹脂粒子であることを特徴とするものである。
【0012】
さらに、前記水溶性高分子が、平均分子量が200以上、1000未満のポリエチレングリコールであることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の積層体は、弾性体、耐熱性樹脂又は金属の少なくとも一つからなる基材上に請求項1〜3のいずれかに記載のフッ素樹脂コーティング用水性分散組成物を塗布し焼成してなる被膜を有する積層体である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のフッ素樹脂コーティング用水性分散組成物は、上記構成からなるため、以下に詳述するように、柔軟なシリコーンゴムなどの基材表面に塗布し、乾燥させ焼成した場合でも、クラックが生じることのないという効果を発揮することができる。
【0015】
また、本発明のフッ素樹脂コーティング用水性分散組成物はフッ素樹脂の分解温度までの温度範囲内で造膜助剤が分解するため、焼成されたフッ素樹脂被膜中の炭化残存物が少なく、着色もなくフッ素樹脂本来の離型性、電気特性、耐薬品性等の優れた特性を有する積層体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に本発明の実施の形態について説明する。本発明のフッ素樹脂コーティング用水性分散組成物はフッ素樹脂粒子ディスパージョンと、分解して気化する温度が該フッ素樹脂粒子の分解温度までの温度範囲内にある解重合性アクリル樹脂粒子エマルジョンと、分解して気化する温度が該解重合性アクリル樹脂粒子の分解温度までの温度範囲内にある水溶性高分子からなり、前記解重合性アクリル樹脂粒子エマルジョンを前記フッ素樹脂粒子ディスパージョンの固形分に対して5重量%以上50重量%未満含み、かつ、前記水溶性高分子を前記フッ素樹脂粒子ディスパージョンの固形分に対して5重量%以上50重量%未満含む構成で得ることが出来る。
【0017】
本発明において上記したフッ素樹脂粒子ディスパージョンとしては、フッ素樹脂粒子を含んだ水性分散液を用いることができる。フッ素樹脂粒子ディスパージョンは、例えば、フッ素系モノマーを乳化重合などの方法で製造し、フッ素樹脂粒子が界面活性剤で覆われた形で水中に分散したフッ素樹脂粒子の水性分散液であり、市販品を使用することができる。
【0018】
前記フッ素樹脂粒子ディスパージョン中のフッ素樹脂粒子の平均粒子径は、0.01μm以上50μm以下であることが好ましい。0.01μm未満ではクラックを生じやすく、逆に50μmを超えると、フッ素樹脂被膜の表面粗度が大きくなりすぎるからである。平均粒子径が0.1μm以上5μm以下の範囲のフッ素樹脂粒子であることがより好ましい。
【0019】
前記フッ素樹脂粒子ディスパージョンの固形分は、塗膜形成の点から20重量%以上70重量%以下が好ましく、40重量%以上70重量%以下であることが、より好ましい。
【0020】
本発明において、上記したフッ素樹脂粒子ディスパージョンに用いるフッ素樹脂粒子は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)粒子、及びテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)粒子から選ばれる少なくとも一つのフッ素樹脂粒子であることが好ましい。
【0021】
次に、本発明において上記した解重合性アクリル樹脂粒子エマルジョンは、本発明のフッ素樹脂コーティング用水性分散組成物を基材に塗布し、乾燥及び焼成工程で、フッ素樹脂粒子への結着(バインダー)効果を維持しながら徐々に熱分解して、フッ素樹脂塗膜の収縮によるクラックを防止する重要な働きをする。このため、解重合性アクリル樹脂粒子エマルジョンは、フッ素樹脂の分解温度までの温度範囲内で、完全に熱分解して気化し除去されることが好ましい。
【0022】
前記解重合性アクリル樹脂粒子エマルジョンは、例えば、メタクリル系モノマーを乳化重合などの方法で製造した解重合性アクリル樹脂粒子水性分散液をそのまま使用することができる。メタクリル系モノマーとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ジメチルプロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチルなどが挙げられる。
【0023】
また、前記解重合性アクリル樹脂粒子エマルジョン中の解重合性アクリル樹脂粒子の平均粒子径は、0.1μm以上50μm以下が好ましい。より好ましくは0.2μm以上1μm以下の範囲である。平均粒子径が0.1μm未満であるとクラックを生じやすく、造膜が難しく、逆に50μmを超えると、フッ素樹脂粒子ディスパージョンへの分散が難しくフッ素樹脂被膜の表面粗さ、あるいは離型性などの特性を低下させるため好ましくない。
【0024】
前記解重合性アクリル樹脂粒子エマルジョン中の解重合性アクリル樹脂粒子の固形分は30重量%以上60重量%以下が好ましい。この範囲であるとフッ素樹脂粒子ディスパージョンへの混合、分散が容易である。
【0025】
本発明において、解重合性アクリル樹脂粒子エマルジョンの配合量は、フッ素樹脂粒子ディスパージョンの固形分に対して5重量%以上50重量%以下であることが必要である。5重量%未満では「焼成後クラック」を防止することができず、50重量%を超えると焼成後の被膜に残存して着色を生じ、離型性、電気特性、耐薬品性などの特性が低下するからである。
【0026】
次に本発明において、請求項1に記載の水溶性高分子は、「乾燥後クラック」を防止するために必要である。このような水溶性高分子として、例えば、ポリエチレングリコールは、塗膜の乾燥時に水分が蒸発した後にも塗膜中に残存して「乾燥後クラック」を防止する。また、さらに焼成時には上記解重合性アクリル樹脂粒子が熱融着を開始するまで残存して「焼成後クラック」を防止する働きをする。
【0027】
前記水溶性高分子は、フッ素樹脂の焼成が完了するまでに、完全に分解して揮発することが好ましい。さらには、上記解重合性アクリル樹脂粒子が分解して気化する温度範囲内で分解して除去されることが好ましい。フッ素樹脂の焼成後の被膜に炭化して残存するとクラックやピンホール欠陥を発生させやすいからである。
【0028】
このため、前記水溶性高分子の平均分子量は200以上、1000未満であることが好ましい。200未満では、「乾燥後クラック」を完全に防止することができない。1000以上では、室温においてグリース状又は蝋状であるため、乾燥後も塗膜に残存してしまい、フッ素樹脂塗膜の焼成時に分解・揮発して、焼成された被膜にクラックやピンホール欠陥を発生させやすいからである。
【0029】
本発明において、水溶性高分子としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジメチコンコポリオールなどを用いることができる。安価な点で、ポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0030】
前記水溶性高分子の配合量は、フッ素樹脂粒子ディスパージョンの固形分に対して5重量%以上50重量%以下であることが必要である。5重量%未満では「乾燥後クラック」を防止することができず、50重量%を超えるとフッ素樹脂焼成後の被膜の特性を損なうからである。
【0031】
次に、本発明のフッ素樹脂コーティング用水性分散組成物の製造において、フッ素樹脂粒子ディスパージョンと解重合性アクリル樹脂粒子エマルジョン、及び水溶性高分子を混合する際に、最終のフッ素樹脂コーティング用水性分散組成物の分散安定性を高めるために、非イオン性界面活性剤を添加してもよい。これら非イオン性界面活性剤のHLB値(親水親油バランス)は9.5〜16であることが好ましく、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールアルキルエーテルなどが挙げられる。中でも、環境への優しさの観点から、アルキルフェニル基を含まないポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが好ましい。
【0032】
添加方法は、特に限定されず、もちろん最終のフッ素樹脂コーティング用水性分散組成物に添加してもよいし、予め、フッ素樹脂粒子ディスパージョンや解重合性アクリル樹脂粒子エマルジョンに添加してもよい。
【0033】
また、本発明のフッ素樹脂コーティング用水性分散組成物を製造する際、粘度調節等のため、次のような公知の溶剤を添加しても何ら差し支えない。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、ペンタメチレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのジオール類、グリセリン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオールなどのトリオール類、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールなどのグリコールエーテル類、ジメチコンコポリオールやポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)メチルポリシロキサン共重合体その他、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル、炭酸ジエチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類、N、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド類などである。
【0034】
また、本発明のフッ素樹脂コーティング用水性分散組成物を製造する際、次のような公知の添加剤を用いても何ら差し支えない。例えば、充填材、顔料、顔料分散剤、固体潤滑剤、沈降防止剤、レベリング剤、表面調節剤、チキソトロピー性付与剤、水分吸収剤、ゲル化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、色分かれ防止剤、皮張り防止剤、界面活性剤、帯電防止剤、消泡剤、抗菌剤、防カビ剤、防腐剤、増粘剤などである。
【0035】
本発明の積層体において弾性体、耐熱性樹脂又は金属の少なくともひとつを基材として用いることができる。すなわち、シリコーンゴムのような柔軟な弾性体、ポリイミドなどの耐熱性樹脂、又はアルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼などの金属などを基材として用い、要求される特性あるいは形状に応じて塗布し、焼成してフッ素樹脂の特性を付与させることができる。さらにはアルミニウム芯体表面に成形したシリコーンゴムローラーのシリコーンゴム面、あるいはポリイミド管状物の外表面に成形されたシリコーンゴムやフッ素ゴム弾性体表面へ本発明のフッ素樹脂コーティング用水性分散組成物を塗布し、焼成して複合化された積層体として用いることができる。これらの基材の形状は、円筒状、シート状、ロッド、ワイヤー状など種々の形状に対応でき、特に制限されるものではない。
【0036】
本発明において、シリコーンゴムなどの柔軟な弾性体基材にフッ素樹脂コーティング用水性分散組成物を塗布する際には、十分に脱脂、洗浄しておくことが好ましい。とくにシリコーンゴム表面に塗布する際、接着力向上のために、予めシリコーンゴム表面を改質処理しておくことが好ましい。例えば、(a)大気中で電極間に高電圧をかけて絶縁破壊させるコロナ放電処理、(b)水銀灯からの短波長の紫外線による照射処理、(c)強い酸化炎中に通す火炎処理、(d)低圧の不活性ガスや、酸素、ハロゲンガスなどの中でのグロー放電によるプラズマ処理、(e)シラン系、チタン系、アルミニウム系等のカップリング剤を表面に塗布する処理、(f)その他プライマー組成物の塗布などである。また、これらの表面改質処理は一種ばかりでなく、複数を組み合わせてもよい。
【0037】
本発明において、前記基材にフッ素樹脂コーティング用水性分散組成物を塗布する方法は、刷毛塗り法、スピン法、スプレー法、ディスペンサー法、ディップ法、ロールコート法など、公知の方法を用いることができる。
【0038】
本発明において、フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物を基材に塗布した後、乾燥する条件は、特に限定されず、溶剤が突沸しない条件であればよい。例えば、室温から90度Cの温度で30分〜3時間乾燥させても、水溶性高分子の効果により「乾燥後クラック」を生じることがない。
【0039】
本発明において、フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物を基材に塗布し、乾燥しその後、焼成する条件は、特に限定されず、フッ素樹脂の溶融温度以上分解温度未満であればよい。
【0040】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。
(1)分解して気化する温度
まず、解重合性アクリル樹脂粒子エマルジョン又は水溶性高分子を、100度Cで30分乾燥した。次に、島津製作所製の示差熱・熱重量同時測定装置“DTG60”を用いて、空気中で10度C/分で昇温し、50%重量減少したときの温度を「分解して気化する温度」とした。
【実施例1】
【0041】
(1)フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物(A)の作製
ポリテトラフルオロエチレン粒子ディスパージョン“XAD911”(旭硝子製:固形分60%、平均粒子径0.25μm)400gに、造膜剤として、解重合性アクリル樹脂粒子エマルジョン“Primal B−15B”(ロームアンドハース製、分解して気化する温度340度C)30g(フッ素樹脂粒子ディスパージョンの固形分に対して5.8重量%)、界面活性剤として、“TritonX100”(MPバイオメディカルズ製)10g、平均分子量200のポリエチレングリコール(第一工業製薬製、分解して気化する温度240度C)20g(フッ素樹脂粒子ディスパージョンの固形分に対して8.3重量%)、オレイン酸(和光純薬)23g、トリエタノールアミン(和光純薬)12gを添加混合後、#300のステンレススチール製メッシュを用いてろ過して、フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物(A)を作製した。
【0042】
(2)シリコーンゴムからなる弾性層を形成した管状物の作製
厚さ90μm、内径50mm、長さ400mmmのポリイミド基材からなる管状物の外面にプライマー“X−33−156−5”(信越化学工業製)を厚さ4μmで塗布し室温で乾燥させプライマー層を形成した。次に、前記プライマー層の外面にシリコーンゴム“XE15−B7354”(GE東芝シリコーン製)を厚さ180μmにダイス落下法により成形し、150度Cで30分間、200度Cで4時間加熱し加硫させ、ポリイミド基材からなる管状物の外面にシリコーンゴムからなる弾性層を成形した管状物を作製した。
【0043】
(3)フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物(A)の塗布及び焼成
前記シリコーンゴムからなる弾性層の外面に、プライマー“PR−990CL”(三井
・デュポンフロロケミカル製)を厚さ4μmで塗布し室温で乾燥させプライマー層を形成した。次に、前記フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物(A)を浸漬法により塗布し、70度Cで20分間乾燥させた。「乾燥後クラック」はまったく見られなかった。次に、360度Cで20分間焼成し、急冷して厚さ15μmのフッ素樹脂層を形成し、ポリイミド基材からなる管状物の外面にシリコーンゴムからなる弾性層、フッ素樹脂層を順次成形した管状物を作製した。フッ素樹脂層からなる焼成被膜に、「乾燥後クラック」、「焼成後クラック」のいずれも発生していなかった。
【実施例2】
【0044】
実施例1において、平均分子量200のポリエチレングリコールの代わりに、平均分子量300のポリエチレングリコールを用いた以外は実施例1と同様にして、(1)フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物(B)の作製(2)シリコーンゴムからなる弾性層を形成した管状物の作製(3)フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物(B)の塗布及び焼成を行った。フッ素樹脂層からなる塗膜に、乾燥後クラック、焼成後クラックのいずれも発生しなかった。
【実施例3】
【0045】
実施例1において、平均分子量200のポリエチレングリコールの代わりに、平均分子量600のポリエチレングリコールを用いた以外は実施例1と同様にして、(1)フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物(C)の作製(2)シリコーンゴムからなる弾性層を形成した管状物の作製(3)フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物(C)の塗布及び焼成を行った。フッ素樹脂層からなる塗膜に、乾燥後クラック、焼成後クラックのいずれも発生しなかった。
【実施例4】
【0046】
(1)フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物(D)の作製
テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体粒子ディスパージョン“ALGOFLON D5010X”(ソルベイソレクシス製:固形分55%、平均粒子径0.24μm)400gに、造膜剤として、解重合性アクリル樹脂粒子エマルジョン“Primal B−15B”(ロームアンドハース製、分解して気化する温度340度C)25g(フッ素樹脂粒子ディスパージョンの固形分に対して5.2重量%)、界面活性剤として、“TritonX100”(MPバイオメディカルズ製)5g、平均分子量200のポリエチレングリコール(第一工業製薬製、分解して気化する温度240度C)35g(フッ素樹脂粒子ディスパージョンの固形分に対して15.9重量%)を添加混合後、#300のステンレススチール製メッシュを用いてろ過して、フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物(D)を作製した。
【0047】
実施例1において、フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物(A)の代わりに、フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物(D)を用いた以外は、実施例1と同様にして、(1)フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物(D)の作製(2)シリコーンゴムからなる弾性層を形成した管状物の作製(3)フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物(D)の塗布及び焼成を行った。フッ素樹脂層からなる塗膜に、乾燥後クラック、焼成後クラックのいずれも発生しなかった。
【実施例5】
【0048】
実施例1において、解重合性アクリル樹脂粒子エマルジョンを“Primal B−15B”の代わりに、“Primal 261P”(ロームアンドハース製、分解して気化する温度360度C)を用いた以外は、実施例1と同様にして、(1)フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物(E)の作製(2)シリコーンゴムからなる弾性層を形成した管状物の作製(3)フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物(E)の塗布及び焼成を行った。フッ素樹脂層からなる塗膜に、乾燥後クラック、焼成後クラックのいずれも発生しなかった。
【0049】
(比較例1)
実施例1において、ポリエチレングリコールを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、(1)フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物(F)の作製(2)シリコーンゴムからなる弾性層を形成した管状物の作製(3)フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物(F)の塗布及び焼成を行った。しかしながら、フッ素樹脂からなる塗膜は風乾後、「乾燥後クラック」を生じた。また焼成後もクラックが消えることはなかった。
【0050】
(比較例2)
実施例1において、平均分子量200のポリエチレングリコールの添加量を20gから5g(フッ素樹脂粒子ディスパージョンの固形分に対して2.1重量%)に代えた以外は、実施例1と同様にして、(1)フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物(G)の作製(2)シリコーンゴムからなる弾性層を形成した管状物の作製(3)フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物(G)の塗布及び焼成を行った。しかしながら、フッ素樹脂からなる塗膜は風乾後、「乾燥後クラック」を生じた。また焼成後もクラックが消えることはなかった。
【0051】
(比較例3)
実施例1において、平均分子量200のポリエチレングリコールに代えてグリセリンを用いた以外は、実施例1と同様にして、(1)フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物(H)の作製(2)シリコーンゴムからなる弾性層を形成した管状物の作製(3)フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物(H)の塗布及び焼成を行った。フッ素樹脂からなる塗膜は風乾後、クラックを生じることはなかったが、焼成後に着色及びピンホールの外観不良を引き起こした。
【0052】
(比較例4)
実施例1において、解重合性アクリル樹脂粒子エマルジョン“Primal B−15B”(ロームアンドハース製)30gから5gに代えた以外は、実施例1と同様にして、
(1)フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物(I)の作製(2)シリコーンゴムからなる弾性層を形成した管状物の作製(3)フッ素樹脂コーティング用水性分散組成物(I)の塗布及び焼成を行った。フッ素樹脂からなる塗膜は風乾後、クラックを生じることはなかったが、焼成後クラックを生じた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のフッ素樹脂コーティング用水性分散組成物は、電子写真画像形成装置の定着ベルト、定着ローラーなどの塗装に有用であり、特にシリコーンゴム弾性体の表面へのフッ素樹脂被膜成形に好適に用いることができる。また、金属調理器具、医療用ガイドワイヤーあるいは医療用チューブなど離型性、耐薬品性、耐熱性などの特性を必要とする基材に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂粒子ディスパージョンと、分解して気化する温度が該フッ素樹脂粒子の分解温度までの温度範囲内にある解重合性アクリル樹脂粒子エマルジョンと、分解して気化する温度が該解重合性アクリル樹脂粒子の分解温度までの温度範囲内にある水溶性高分子からなり、前記解重合性アクリル樹脂粒子エマルジョンを前記フッ素樹脂粒子ディスパージョンの固形分に対して5重量%以上50重量%未満含み、かつ、前記水溶性高分子を前記フッ素樹脂粒子ディスパージョンの固形分に対して5重量%以上50重量%未満含むことを特徴とするフッ素樹脂コーティング用水性分散組成物。
【請求項2】
前記フッ素樹脂粒子が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)粒子、及びテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)粒子から選ばれる少なくとも一つのフッ素樹脂粒子であることを特徴とする請求項1に記載のフッ素樹脂コーティング用水性分散組成物。
【請求項3】
前記水溶性高分子が 平均分子量が200以上、1000未満の、ポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項1に記載のフッ素樹脂コーティング用水性分散組成物。
【請求項4】
弾性体、耐熱性樹脂又は金属の少なくとも一つからなる基材上に請求項1〜3のいずれかに記載のフッ素樹脂コーティング用水性分散組成物を塗布し、焼成してなる被膜を有する積層体。

【公開番号】特開2007−191709(P2007−191709A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343893(P2006−343893)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(391059399)株式会社アイ.エス.テイ (102)
【Fターム(参考)】