説明

フッ素樹脂フィルム

【課題】透明性に優れ、360nm以下の紫外線遮断性に優れたフッ素樹脂フィルムの提供。
【解決手段】酸化亜鉛100重量部に対して20〜200重量部の不定形シリカで被覆した酸化亜鉛粒子が集合してなる粒子径1〜30μmの複合体粒子、好ましくはこの複合体粒子の表面が有機ケイ素化合物で疎水化処理されている複合体粒子、が分散されている、エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体などのフッ素樹脂のフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂に配合された紫外線遮断材料の分散性が良好で透明性があり、紫外線遮断性、及び耐候性に優れたフッ素樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂、特にテトラフルオロエチレン系共重体は、耐候性、透明性、および耐汚染性が屋外暴露20年以上にわたり維持される材料として、農業用ハウスフィルムや屋根材料として使用されている。
【0003】
フッ素樹脂フィルムを軟質塩化ビニル樹脂、硬質塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ABS樹脂、ポリカーボネートなどのプラスチックやステンレス鋼板、アルミニウム板、亜鉛メッキ鋼板などの金属板とラミネートして屋外建材に用いる場合、接着剤を介してラミネートする必要がある。しかし、フッ素樹脂フィルム自体は紫外線を透過するため、接着剤の紫外線による劣化を防ぐために最外層のフッ素樹脂フィルムが紫外線を遮断するという工夫、たとえば、フッ素樹脂に顔料を分散させ紫外線を遮断する方法が採られている。
【0004】
しかし、この方法ではフッ素樹脂フィルムの透明性が損なわれ、たとえば、フッ素樹脂フィルムを表面に印刷が施された鋼板にラミネートして使う場合、その印刷が見えにくい問題がある。これに対処するために、フッ素樹脂フィルムが400〜700nmの可視光線の透過率を高く維持し、かつ接着剤の光劣化を生じさせる360nm以下の波長の紫外線を遮断することが好ましい。
【0005】
フッ素樹脂フィルムを農業用ハウスフィルムとして用いる場合、栽培する果実、花、野菜などの色、糖度、収穫量を向上させるため、それぞれに対応して紫外線透過率を調節したフィルムが要求されている。また、特に近年、アザミウマなどの害虫の被害が大きく、これらの害虫の農業ハウスでの活動を防止するため、紫外線を遮断した農業用ハウスフィルムの開発が待たれている。
【0006】
従来、フッ素樹脂フィルムに紫外線遮断機能を付与する方法として、たとえばエチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体(以下、ETFEという)に0.02μm程度の粒子径の酸化チタンや酸化亜鉛を配合する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、この方法では酸化チタン微粒子の分散が悪く、微粒子が凝集してフィルムが白化する問題と、長期にわたる光と雨による酸化チタンの光触媒によりETFEフィルム自体の劣化が促進されフィルムが空洞化する問題が生ずる。
【0007】
また、ケイ素原子に結合したメチル基を有するシランカップリング剤で表面被覆処理した酸化チタン微粒子をETFEに分散、混練して紫外線遮断フィルムを製造する方法が開示されている(特許文献2)。しかし、表面処理した酸化チタンの分散性が改良されずヘイズの小さいフィルムは得られない。また、酸化チタンなどの微粒子を表面処理したシランカップリング剤の被覆厚みはわずかに数nm程度であり、ETFEに対する光触媒作用を低減できにくい。
【0008】
酸化チタンの添加量が少ないETFEフィルムは、少なくとも波長300nm以下の紫外線を遮断できるが、360nm以下の紫外線を遮断するために酸化チタン添加量を多くする必要があり、その結果ETFEフィルムの透明性が著しく損なわれる。
【0009】
酸化亜鉛は紫外線遮断性能が酸化チタンより優れているため、酸化亜鉛の添加量が少なくともETFEフィルムは波長360nm以下の紫外線を遮断できる。しかし、酸化亜鉛は屋外暴露中にフッ素樹脂から遊離したフッ素化合物と反応し紫外線遮断機能を有しないフッ化亜鉛に変質し、その結果ETFEフィルムの紫外線遮断機能が低下しやすい問題が生ずる。また、酸化亜鉛微粒子をETFEに混練しフィルムを成形する際においても、発生するフッ素化合物により変質しやすい。
【0010】
特許文献3には、酸化セリウム微粒子を混練した農業用ETFEフィルムが提案されている。酸化セリウムは、酸化チタンに比べ光触媒機能が小さく、また酸化亜鉛と同様に屋外暴露中にフッ素樹脂から遊離したフッ素化合物と反応し紫外線遮断機能を有しないフッ化セリウムに変質し、次第にフィルムの紫外線遮断機能が低下しやすい問題が生ずる。また、酸化セリウムの添加量が少ないETFEフィルムは、波長300nm以下の紫外線を遮断できるが、360nm以下のを遮断するために酸化セリウム添加量を多くする必要があり、その結果ETFEフィルムの透明性が著しく損なわれる。
【特許文献1】特開平7−3047号公報
【特許文献2】特開平7−304924号公報
【特許文献3】特開平8−37942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、優れた透明性を有し、360nm以下の紫外線遮断に優れたフッ素樹脂フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
紫外線遮断材料を分散したフィルムが良好な透明性を確保するために、従来分散粒子径が0.01μm以下であることが望ましいとされていた。しかし、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、分散粒子径が0.01μmに比べて100倍以上大きく、分散粒子として不定形シリカで被覆した酸化亜鉛粒子が集合してなる複合体粒子を分散させたフッ素樹脂フィルムは、優れた透明性を有し、かつフッ素樹脂から発生するフッ素化合物による酸化亜鉛の変質を完全に阻止することを見い出し、その知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、酸化亜鉛100重量部に対して20〜200重量部の不定形シリカで被覆した酸化亜鉛粒子が集合してなる複合体粒子が分散されているフッ素樹脂フィルムであって、該複合体粒子全体に占める粒子径1〜30μmの複合体粒子の比率が95重量%以上であることを特徴とするフッ素樹脂フィルムを提供する。
また酸化亜鉛100重量部に対して20〜200重量部の不定形シリカで被覆した酸化亜鉛粒子が集合してなる複合体粒子の表面が有機ケイ素化合物により疎水化処理されている複合体粒子が分散されているフッ素樹脂フィルムであって、該複合体粒子全体に占める粒子径1〜30μmの複合体粒子の比率が95重量%以上であることを特徴とするフッ素樹脂フィルムを提供する。
【発明の効果】
【0014】
透明性に優れ、かつ長期にわたる紫外線遮断性を有するフッ素樹脂フィルムが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に用いる不定形シリカで被覆した酸化亜鉛粒子が集合してなる複合体粒子は、不溶性亜鉛化合物を不定形シリカで被覆した粒子の焼成物であり、以下に製造方法を例示するが、これ以外の製法で得られた複合体粒子を用いてもよい。
不溶性亜鉛化合物とは水に不溶または難溶な亜鉛化合物であり、たとえば水酸化亜鉛、リン酸亜鉛、炭酸亜鉛、酸化亜鉛などが挙げられ、炭酸亜鉛が好ましい。
【0016】
不定形シリカは、結晶性を有しない無定形のシリカであり、たとえば3号ケイ酸ナトリウム(SiO2 含有率:28.5%)やテトラエチルシリケートなどのケイ素化合物を加水分解して得られる不定形シリカが挙げられる。
【0017】
不定形シリカで被覆した酸化亜鉛粒子が集合してなる複合体粒子の製造例を以下に示す。たとえば、粒径0.01μm程度の酸化亜鉛を水に分散し、この水分散液に撹拌下でケイ素化合物を滴下し、その後、乾燥し、さらに200〜1000℃、好ましくは400〜600℃で焼成する方法が挙げられる。また、炭酸亜鉛などの不溶性亜鉛化合物に水を加え分散機や乳化機を使って水分散液とし、この水分散液に撹拌下でケイ素化合物を滴下し、粒子径0.1μm以下程度のシリカ被覆不溶性亜鉛化合物を得る。その後、乾燥し、さらに200〜1000℃、好ましくは400〜600℃で焼成することにより、不溶性酸化亜鉛化合物は酸化亜鉛となり、不定形シリカで被覆された酸化亜鉛粒子が集合してなる複合体粒子が得られる。
【0018】
本発明に用いる複合体粒子は、複合体粒子全体に占める粒子径1〜30μmの複合体粒子の比率が95重量%以上である。粒子径は、好ましくは1〜20μmである。複合体粒子径が大きいと、成形されたフィルムに孔を生じやすい。
【0019】
本発明に用いる複合体粒子は1〜30μmの範囲の粒径を有するが、この粒径範囲以外の粒子を複合体粒子100重量部に対し10重量部以下、特に3重量部以下含有する複合体を用いても本発明の効果に対して支障ない。なお、複合体粒子の平均粒子径は、4〜10μmが好ましく、特に4〜8μmが好ましい。
【0020】
複合体粒子は、その複合体粒子製造時に不溶性亜鉛化合物粒子を被覆した不定形シリカ同士が乾燥、焼成工程において融着固化しているものである。しかし、焼成前の不溶性亜鉛化合物粒子や酸化亜鉛粒子は不定形シリカで被覆されているために、不溶性亜鉛化合物粒子や酸化亜鉛粒子同士は2次凝集も3次凝集もしていない。本発明に用いる複合体粒子における粒子の集合は、従来良好な透明性を確保するために用いられる0.01μm以下の超微粒子が2次凝集または3次凝集したものと異なる。不定形シリカは透明性が高いため、1〜30μmの大きな複合体粒子を分散してもフッ素フィルムの透明性に悪影響を与えない。
【0021】
本発明に用いる複合体は酸化亜鉛を被覆する不定形シリカの被覆厚みが大きいため酸化亜鉛がフッ素樹脂とは接することがなく、フッ素樹脂から発生するフッ素化合物と反応してフッ化亜鉛に変質することを防止できる。
【0022】
不定形シリカは酸化亜鉛100重量部に対し20〜200重量部であり、好ましくは50〜150重量部である。20重量部未満では不定形シリカの被覆厚みが小さいため、フッ素樹脂内に発生したフッ素化合物による酸化亜鉛の変質を長期にわたり阻止できにくく、200重量部超では紫外線遮断性能が小さい。
【0023】
複合体粒子のフッ素樹脂における分散を向上させるために、複合体粒子の表面を表面処理剤で疎水化処理することが好ましい。本発明に使用する複合体粒子は粒径が1〜30μmと大きいため、容易に表面処理を行うことができる。
【0024】
疎水化の目安として、メタノール疎水化度を用いる。メタノール疎水化度は、粒子の疎水性を示す指標であり、その測定方法は次のとおりである。300ccのビーカーに蒸留水50ccを入れ、5gの粒子を良く撹拌させながら投入する。粒子が均一に分散されれば、この粒子は蒸留水ときわめてなじみが良く、メタノール疎水化度は0%である。粒子が均一に分散しない場合、水溶液に粒子が均一に分散されるまでメタノールを徐々に滴下する。ちょうど均一に分散されるようになるまでのメタノール総添加量M(単位:cc)から、メタノール疎水化度D(単位:%)は次式によって求められる。
D=100M/(M+50)
【0025】
表面処理される前の複合体粒子のメタノール疎水化度は10%未満である。このようなメタノール疎水化度の低い粒子はフッ素樹脂に対して分散性が低いため、本発明では40〜75%の複合体粒子を用いることが好ましい。
なお、フッ素樹脂の種類により要求する好ましいメタノール疎水化度は若干異なり、ETFEの場合は40〜70%とすることが好ましく、ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系共重合体、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)−テトラフルオロエチレン系共重合体の場合は60〜75%であることが好ましい。また、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン系共重合体では、40〜70%であることが好ましい。
【0026】
表面処理剤としては複合体粒子表面に強固に結合でき、かつ疎水化度を上げうるものであれば使用でき、アルコキシ基、水酸基、イソシアネート基、塩素原子などの加水分解性基、特に炭素数4以下のアルコキシ基がケイ素原子に2〜3個直接結合している有機ケイ素化合物が好ましく用いられる。さらに好ましくは、このような加水分解性基を有し、しかも疎水性の有機基がケイ素原子に炭素−ケイ素結合で結合している有機ケイ素化合物が用いられ、シランカップリング剤やシリコーンオイルなどの有機ケイ素化合物が好ましい。
【0027】
通常のシランカップリング剤は、加水分解性基と非加水分解性有機基とを有し、非加水分解性有機基は官能基としてたとえばエポキシ基、アミノ基などを有している。このような官能基は親水性が高く、本発明における表面被覆剤としてあまり好ましくない。むしろ、親水性基を有しない炭化水素基や、高い疎水性をもたらすフッ素化炭化水素基を有機基として有する有機ケイ素化合物が好ましい。
【0028】
ケイ素原子に炭素−ケイ素結合で結合している有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルアルキル基、モノ(またはポリ)フルオロアルキル基、モノ(またはポリ)フルオロアリール基などが好ましい。特に、炭素数2〜20のアルキル基、1以上のフッ素原子を有する炭素数2〜20のモノ(またはポリ)フルオロアルキル基、アルキル基やモノ(またはポリ)フルオロアルキル基で置換されてもよいフェニル基などが好ましい。
【0029】
有機ケイ素化合物としては、さらに加水分解性基がケイ素原子に直接結合しているオルガノシリコーン化合物であってもよい。このオルガノシリコーン化合物における有機基としては、炭素数4以下のアルキル基やフェニル基が好ましい。このようなオルガノシリコーン化合物としては、シリコーンオイルとよばれているものを用いうる。
【0030】
有機ケイ素化合物の具体的として、イソブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、エチルトリエトキシシランなどのトリアルコキシシラン類、ジメチルシリコーンオイル、メチル水素シリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイルなどのシリコーンオイルが好ましく、特にイソブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ジメチルシリコーンオイルが好ましい。
【0031】
表面処理剤の処理量は、複合体粒子の比表面積、表面処理剤の複合体との反応性などに関連する。したがって、表面処理剤として複合体との反応性が高く、かつ少量で複合体を疎水化できるものが好ましい。本発明においては、複合体100重量部に対して5〜50重量部の表面処理剤を反応させ、複合体のメタノール疎水化度を調節する。処理量が多いと複合体粒子同士の表面処理剤が付着し、複合体粒子からなる凝集体がブツとなりフィルム外観が悪くなることがある。
表面処理方法は特に限定されないが、表面処理剤を溶解した水、アルコール、アセトン、n−ヘキサンなどの溶液に複合体粒子を分散させ、その後乾燥する方法が好ましい。
【0032】
本発明のフッ素樹脂フィルムに要求される紫外線遮断機能は、そのフィルムを使用する用途によって異なる。たとえば、ラミネートして用いる場合、接着剤を保護するために330〜360nmの紫外線を70%以上遮断し、基材表面の印刷を見やすくするために400〜700nmの可視光を70%以上透過させることが好ましい。
【0033】
また、農業ハウスに用いる場合、穀物、花、野菜、果物の種類に適した紫外線遮断機能を有することが必要であり、330〜360nmの紫外線を100%遮断するフィルム、80%遮断するフィルム、50%遮断するフィルムなどが用いられる。また、アザミウマなどの害虫の活動を防止するため、特に330〜360nmの紫外線を70%以上遮断するフィルムが用いられる。
【0034】
本発明における光線透過率とは、JIS−K7105に準拠した測定法によって求めたものであり、拡散光線と平行光線の総量、すなわち全光線透過率をいう。この方法に用いる光源はJIS−Z8720に準処し、300〜830nmに分布した標準光である。
【0035】
本発明において、330〜360nmの光を70%以上遮断するとは、この波長全域にわたり70%以上遮断することをいう。また、400〜700nmの光を70%以上透過するとは、この波長全域にわたり70%以上透過することをいう。
【0036】
本発明におけるフッ素樹脂は特に限定されないが、フッ化ビニル重合体、フッ化ビニリデン重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−プロピレン共重合体、ETFE、ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、またはパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂などが挙げられる。
【0037】
これらのフッ素樹脂のうち、特にETFE、ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)−テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン共重合体が好ましい。
【0038】
本発明のフッ素樹脂フィルムに分散させる複合体粒子の量は要求される紫外線遮断性能に応じて設定すればよく、通常、フッ素樹脂100重量部に対し、0.4〜10重量部程度分散させることが好ましい。
フッ素樹脂フィルムの厚みは特に制限はないが、通常6〜500μm、好ましくは10〜200μmの範囲である。
【実施例】
【0039】
本発明を実施例、比較例により詳細に説明する。なお、本実施例では、330〜360nmの紫外線を約80%遮断するフィルムを作成し、農業ハウスフィルムとしてその長期にわたる性能を評価した。また、ラミネート用途として360nm以下の紫外光を100%遮断するフィルムを作成し評価した。本発明のフッ素樹脂フィルムの紫外線遮断程度はこの実施例に特に限定されない。
【0040】
[例1]
20重量%塩化亜鉛水溶液に炭酸ガスを吹き込みながら重炭酸ナトリウムを加え、炭酸亜鉛の微白色スラリーを得た。炭酸亜鉛の粒子径は0.005〜0.02μmであった。この炭酸亜鉛をよく水洗した後、60℃に保温し、撹拌しながらテトラエチルシリケート20重量%のエタノール溶液を滴下し、炭酸亜鉛粒子表面に不定形シリカを沈積させた。テトラエチルシリケートの添加量は、炭酸亜鉛100重量部に対し、SiO2 として100重量部となるように滴下した。その後、1時間以上撹拌を続け、最後に希硝酸を加えて中和し、不定形シリカによる炭酸亜鉛の被覆を終了させた。その後、水洗、乾燥、粉砕の工程を経た後、500℃で1時間焼成し、不定形シリカで被覆した酸化亜鉛粒子が集合した複合体粒子を得た。
【0041】
この複合体粒子の組成は、ZnO:SiO2 =100:120(重量比)であった。また、この複合体粒子の粒径をレーザー回折・散乱式粒度分布測定機(セイシン企業製、LMS−24)で測定したところ、1〜30μmにその粒子の95%が分布し、平均粒径は7.8μmであった。
【0042】
この複合体粒子200gを小型ヘンシェルミキサに投入し、続いて、エチルトリエトキシシシラン14gを水:メタノール=1:9(重量比)の混合溶媒に溶解した溶液40gをゆっくり投入し10分間撹拌した。続いて、表面処理した湿った複合体粒子を120℃で1時間乾燥し再度小型ヘンシェルミキサで2分間充分にほぐした。この表面処理した粒子のメタノール疎水化度は65%である。
【0043】
この表面処理された複合体粒子160gとETFE(アフロンCOP88AX、旭硝子製)4kgをVミキサにて乾式混合した。この混合物を2軸押出機にて320℃でペレット化を行った。
次いでTダイ方式により、320℃で40μmのフィルムを成形した。このフィルムは全光線透過率92.2%、ヘイズ18.5%であり、360〜330nmにおける全光線透過率は20%、400〜700nmの全光線透過率は83%以上であった。
【0044】
得られたフィルムをコロナ放電処理し、この面にシリカ微粒子とシランカップリング剤を主成分とする流滴剤を0.2μm塗工した。この流滴加工した紫外線遮断フィルムをナイロン樹脂で被覆したマイカ線を使用して、農業用パイプハウスを作成した。
【0045】
このハウスを3年間展張し、その後の光学特性を測定した。全光線透過率は92.8%、ヘイズ18.0%、400〜700nmの全光線透過率は85%以上、360〜330nmにおける全光線透過率は21%であった。また、展張前後のフィルムの引張り破断強度保持率は99%、引張り伸度保持率は98%であり、劣化は認められなかった。結果を表1、表2に示す。また、3年間の展張前後の各波長における全光線透過率のチャートを図1に示す。
【0046】
また、展張3年目にこのハウス内でキュウリ(品種:シャープ1)を栽培したが、アザミウマによる被害は皆無であり、キュウリの収穫も良好であった。結果を表2に示す。
【0047】
[例2、3、4]
例1と同様にして、ZnOとSiO2 の組成(重量比)が、100:30(例2)、100:80(例3)、100:160(例4)の不定形シリカ−酸化亜鉛複合体を作成し、その後、表面処理を行った粒子の物性を表1に示す。
【0048】
また、この表面処理した複合体粒子を、例1と同様にてETFEに混練して得られたフィルムを流滴化工して農業用パイプハウスとして3年間展張した前後の光学特性および、引張り破断強度保持率および引張り伸度保持率を表1、表2に示す。
また、このハウス内でキュウリを栽培したが、その収穫量およびアザミウマによる被害の程度を表2に示す。
【0049】
[例5、6、7(比較例)]
例1と同様にして、ZnOとSiO2 の組成(重量比)が、100:5(例5)、100:10(例6)、100:15(例7)の不定形シリカ−酸化亜鉛複合体を作成し、その後、表面処理を行った粒子の物性を表1に示す。
また、この表面処理した複合体粒子を、例1と同様にてETFEに混練して得られたフィルムを流滴加工して農業用パイプハウスとして3年間展張した前後の光学特性および、引張り破断強度および伸度を表1および表2に示す。
【0050】
引張り強度および伸度は初期値をほとんど維持しているものの、不定形シリカの被覆量が少ないものほどUV遮断の機能が低下している。従って、表2に示すように、このハウス内でキュウリを栽培したが、アザミウマによる被害状況は甚大であった。
また、例6のフィルムについての3年間の展張前後の各波長における全光線透過率のチャートを図2に示す。
【0051】
[例8(比較例)]
平均粒径0.01μmの酸化セリウム(CeO2 )粒子をETFE100重量部に対して1.5重量部配合した40μmETFEフィルムを成形した。このフィルムは全光線透過率92.5%、ヘイズ16.5%であり、360nmにおける全光線透過率は40%、400〜700nmにおける全光線透過率は80%以上であった。このフィルムを例1と同様にて農業用パイプハウスとして3年間展張した後の光学特性および、引張り破断強度および伸度を表1、表2に示す。
また、3年間の展張前後の各波長における全光線透過率のチャートを図3に示す。
引張り強度および伸度は初期値をほとんど維持していた。しかし、このハウス内でキュウリを栽培した際、アザミウマによる被害状況は甚大であった。
【0052】
[例9]
例1の表面処理したメタノール疎水化度65%の不定形シリカ−酸化亜鉛複合体を用い、これをETFE100重量部に対して8重量部配合した40μmのETFEフィルムを作成した。
このフィルムの全光線透過率は89.2%であり、ヘイズは26.2%であった。また、360nm以下の紫外線を100%遮断した。
【0053】
このフィルム表面をコロナ放電処理し、ポリエステル系接着剤を用いて白色ポリエステルシートとラミネートし、カーボンアーク型サンシャンウェザオメーター試験機に5000時間暴露した。暴露前後の密着力はそれぞれ1.5kgf/cm、1.4kgf/cmであり、密着力の低下はほとんど見られなかった。また、基材の白色ポリエステルシートの黄変は見られなかった。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
[例10(比較例)]
平均粒子径0.01μmの酸化亜鉛を例1と同様にして、エチルトリエトキシシランで疎水化処理しメタノール疎水化度60%、平均粒子径0.2μmの粒子を得た。このフィラーをETFE100重量部に対して3重量部含む40μmのETFEフィルムを成形した。このフィルムは全光線透過率82.5%、ヘイズ20.0%であり、360nmにおける全光線透過率は8%、330nmにおける全光線透過率は8%であった。
【0057】
このフィルムを例1と同様に処理し、農業用パイプハウスとして展張したが、1ケ月で紫外線遮断性を喪失し、全光線透過率93.5%、ヘイズ6.2%であり、360nmにおける全光線透過率は86%、330nmにおける全光線透過率は85%であった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】例1の展張前、3年間展張後のフィルム、および紫外線遮断剤を含有しないETFEフィルムの280〜700nmの全光線透過率のチャートを示す。
【図2】例6の展張前、3年間展張後のフィルムの280〜700nmの全光線透過率のチャートを示す。
【図3】例8の展張前、3年間展張後のフィルムの280〜700nmの全光線透過率のチャートを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛100重量部に対して20〜200重量部の不定形シリカで被覆した酸化亜鉛粒子が集合してなる複合体粒子が分散されているフッ素樹脂フィルムであって、
該複合体粒子全体に占める粒子径1〜30μmの複合体粒子の比率が95重量%以上であることを特徴とするフッ素樹脂フィルム。
【請求項2】
酸化亜鉛100重量部に対して20〜200重量部の不定形シリカで被覆した酸化亜鉛粒子が集合してなる複合体粒子の表面が有機ケイ素化合物により疎水化処理されている複合体粒子が分散されているフッ素樹脂フィルムであって、
該複合体粒子全体に占める粒子径1〜30μmの複合体粒子の比率が95重量%以上であることを特徴とするフッ素樹脂フィルム。
【請求項3】
前記複合体粒子の平均粒子径が4〜10μmである請求項1または2記載のフッ素樹脂フィルム。
【請求項4】
フッ素樹脂が、エチレン−テトラフルオロエチレン系共重合体、ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系共重合体、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)−テトラフルオロエチレン系共重合体、またはテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン系共重合体である請求項1〜3の何れかに記載のフッ素樹脂フィルム。
【請求項5】
波長330〜360nmの光線を50%以上遮蔽し、400〜700nmの光線を70%以上透過することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のフッ素樹脂フィルム。
【請求項6】
波長330〜360nmの光線を70%以上遮蔽し、400〜700nmの光線を70%以上透過することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のフッ素樹脂フィルム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−162029(P2007−162029A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−1161(P2007−1161)
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【分割の表示】特願平10−84414の分割
【原出願日】平成10年3月30日(1998.3.30)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【出願人】(391015373)大東化成工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】