説明

フッ素樹脂塗料組成物及び塗装物品

【課題】本発明は、薄膜且つ平滑で、耐摩耗性、非粘着の耐久性が優れたフッ素樹脂被覆層を形成することができるフッ素樹脂塗料組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、98%積算粒子径が1〜10μmであり、かつ、平均粒径が0.3〜5μmである溶融加工可能なフッ素樹脂粒子、水、界面活性剤、及び、グリコール系溶剤を含むことを特徴とするフッ素樹脂塗料組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂塗料組成物及び塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、その優れた耐熱性,耐候性,耐油性,耐溶剤性、耐薬品性及び非粘着性を利用し、成形されて、又は、織物、繊維、金属、プラスチック、ゴムその他種々の基材に塗布又は含浸されて、工業用材料として広く用いられている。
【0003】
フッ素樹脂は、オフィスオートメーション(OA)機器(例えば、複写機、プリンター等)に使用される耐熱ロール、ベルト又はフィルム表面の被膜としても用いられているが、摩耗により非粘着性が低下する問題があった。
【0004】
そこで、非粘着性の耐久性を向上させるため、耐熱性樹脂又はゴム上に、フッ素樹脂粉体をベースにした水性塗料組成物を被覆することが試みられているが(例えば、特許文献1参照。)、フッ素樹脂表層被膜が厚すぎて基材追従性に乏しく、基材熱膨張等によるクラック等の被膜欠陥が発生する問題があった。
【0005】
また、薄膜化という点で、基材上に乳化重合によって重合されたフッ素樹脂ディスパージョンから調製される塗料組成物を被覆することが試みられているが(例えば、特許文献2参照。)、乳化剤(PFOA)規制の問題及び薄膜かつ低分子量のため、駆動耐久性のある被膜を得ることができない問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開2001−54761号公報
【特許文献2】特開2003−47911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、薄膜且つ平滑で、耐摩耗性、非粘着の耐久性が優れたフッ素樹脂被覆層を形成することができるフッ素樹脂塗料組成物を提供することにある。
【0008】
本発明の目的は、また、薄膜且つ平滑で、耐摩耗性、非粘着の耐久性が優れたフッ素樹脂被覆層を有する塗装物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、98%積算粒子径が1〜10μmであり、かつ、平均粒径が0.3〜5μmである溶融加工可能なフッ素樹脂粒子、水、界面活性剤、及び、グリコール系溶剤を含むことを特徴とするフッ素樹脂塗料組成物である。
【0010】
本発明は、上記フッ素樹脂塗料組成物から形成された被覆層を有することを特徴とする塗装物品である。
以下に本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明のフッ素樹脂塗料組成物は、98%積算粒子径が1〜10μmであり、かつ、平均粒径が0.3〜5μmである溶融加工可能なフッ素樹脂粒子を含むものであるので、従来の粉砕方法により粉砕したフッ素樹脂、又は、乳化重合により得られるディスパージョンから作られる塗料組成物に比べて、薄膜且つ平滑であり、耐摩耗性、非粘着の耐久性が優れる塗膜を得ることができる。
【0012】
本発明の塗装物品は、98%積算粒子径が1〜10μmであり、かつ、平均粒径が0.3〜5μmである溶融加工可能なフッ素樹脂粒子が分散された塗料組成物から形成された被覆層を有することを特徴とするものであるので、従来の粉砕方法により粉砕したフッ素樹脂、又は、乳化重合により得られるディスパージョンから作られる塗料組成物から形成された塗膜を有する物品に比べ、フッ素樹脂被覆層が薄膜且つ平滑であり、耐摩耗性、非粘着の耐久性が優れるものである。
【0013】
上記フッ素樹脂塗料組成物は、98%積算粒子径が1〜10μmであり、かつ、平均粒径が0.3〜5μmである溶融加工可能なフッ素樹脂粒子が分散したものであり、更に、水、界面活性剤、及び、グリコール系溶剤を含むものである。上記98%積算粒子径は、1〜5μmであることが好ましく、1〜3μmであることがより好ましく、上記平均粒径は、0.5〜5μmであることが好ましく、0.5〜1μmであることがより好ましい。
【0014】
上記フッ素樹脂塗料組成物中のフッ素樹脂粒子の98%積算粒子径及び平均粒径は、遠心沈降式粒度分布測定装置により、液体中の粒子を強制的に沈降させ、その沈降状態を光透過法で測定し、ストークスの沈降式に従ってミーの理論に基づき解析、演算して決定されるものである。
【0015】
98%積算粒子径が1〜10μmであり、かつ、平均粒径が0.3〜5μmである溶融加工可能なフッ素樹脂粒子が分散されたフッ素樹脂塗料組成物は、フッ素樹脂粒子を気体雰囲気下で粉砕(以下、乾式粉砕という。)する工程(1)、上記工程(1)で粉砕されたフッ素樹脂粒子を水性媒体に分散させ、50〜10000kg/cmの圧力下、幅50〜500μmの通路を通過させることによりフッ素樹脂粒子を更に粉砕(高圧乳化粉砕法)する工程(2)を含む製造方法により得られるものであることが好ましい。上記製造方法は、必要に応じて、塗料組成物に必要な成分を添加する工程を有するものであってもよい。
【0016】
上記乾式粉砕は、気体雰囲気下で、フッ素樹脂粒子同士、又は、フッ素樹脂粒子と壁や物とを衝突させ、その衝突力や摩擦力などで粒子を粉砕するものである。上記乾式粉砕は、液体を含まない状態で固形物を粉砕する装置を用いて行うことが好ましく、例えば、ビーズ(メディア)ミル、ジェットミル、ローラーミル、カッターミル、ハンマーミル等の粉砕装置を用いて行うことができる。
【0017】
上記工程(1)は、フッ素樹脂粒子の98%積算粒子径が通路の幅以下となるまで粉砕することが好ましく、該幅の80%以下、より好ましくは50%以下の大きさとなるまで行うことがより好ましい。98%積算粒子径が通路の幅を超えると、通路に粒子が閉塞するなど、工程(2)の粉砕が円滑に行えないおそれがある。上記工程(1)で粉砕されたフッ素樹脂粒子は、98%積算粒子径が通路の幅以下であることが好ましく、60μm以下であることがより好ましく、40μm以下であることが更に好ましい。このような粒子径を得ることが困難である点で、湿式粉砕は好ましくない。
【0018】
上記の「通路」の形状は特に制限されず、円筒状であっても多面体状であってもよく、いわゆるノズルと呼ばれるものであってもよい。上記の「通路の幅」とは、通路のうち最も断面積の小さい箇所の最大の断面径をいう。例えば、通路の断面が真円である場合にはその通路のうち最も狭い箇所の直径をいい、楕円である場合にはその通路のうち最も狭い箇所の長軸の長さをいい、多角形である場合にはその通路のうち最も狭い箇所の最も長い対角線の長さをいう。
【0019】
上記98%積算粒子径とは、粒子径から換算した体積の最小点からの積算値が98%の点の粒子径をいう。本明細書において、工程(1)で粉砕したフッ素樹脂粒子の98%積算粒子径及び平均粒径は、湿式フローシステムによるレーザー回折式粒度分布解析装置により、懸濁液試料の光散乱強度分布からミーの理論に基づき解析、演算して決定されるものである。
【0020】
上記フッ素樹脂粒子を所望の粒子径とするために、ふるいや風力による分級を行ってもよい。乾式粉砕によって得られた粒子は容易に分級することができるので、分級が比較的困難である湿式粉砕と比較して有利である。
【0021】
工程(1)は、98%積算粒子径が100〜2000μm、かつ、平均粒径が25〜1000μmのフッ素樹脂粒子を乾式粉砕するものであることが好ましい。
【0022】
上記工程(2)は、上記工程(1)で粉砕されたフッ素樹脂粒子を水性媒体に分散させ、50〜10000kg/cmの圧力下、幅50〜500μmの通路を通過させることによりフッ素樹脂粒子を更に粉砕するものである。
【0023】
上記工程(2)は、フッ素樹脂粒子を分散させた水性媒体を50〜10000kg/cmの圧力下、幅50〜500μmの通路に通過させることにより、フッ素樹脂粒子にエネルギーを加え、粉砕するものである。すなわち、フッ素樹脂粒子が高圧で狭い通路を通過する際の衝撃力や真空作用によるキャビテーション等により粉砕、分散、乳化される。工程(2)は、必要に応じて、複数回繰り返して行うことができる。
【0024】
工程(2)は、50〜10000kg/cmの圧力下に、幅50〜500μmの通路を通過させるものである。上記圧力は、100〜5000kg/cmであることが好ましく、300〜3000kg/cmであることがより好ましい。上記圧力が低すぎると、粉砕が不充分となるおそれがあり、上記圧力が高すぎると、圧力に見合った効果が得られず経済的ではない。上記通路の幅は、加える圧力やフッ素樹脂粒子の粒子径等により異なるが、70〜300μmであることが好ましい。
【0025】
上記の通路を通過させ粉砕する方法としては、(1)フッ素樹脂粒子が分散した水性媒体に超高圧の圧力エネルギーを与え、途中で2流路に分岐させ、再度合流する部分で対向衝突させて、粉砕・分散・乳化を行う方法(噴射対向衝突法)、(2)制御ノズルで高圧化された水性媒体を噴出させ、多段減圧部で高圧から常圧状態に段階的に圧力を下げていき、粉砕・分散・乳化を行う方法(貫通法)、等が挙げられる。
【0026】
上記フッ素樹脂粒子を構成するフッ素樹脂の重合方法としては特に制限されず、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合等が挙げられる。上記重合において、温度、圧力等の各条件、重合開始剤やその他の添加剤は、所望のフッ素樹脂の組成や量に応じて適宜設定することができる。
【0027】
上記フッ素樹脂は、得られる塗膜の物性が優れる点で、懸濁重合により得られたものであることが好ましい。懸濁重合により得られたフッ素樹脂は、通常の方法で凝析・乾燥することによって、98%積算粒子径が100〜2000μm、かつ、平均粒径が25〜1000μmのフッ素樹脂粒子とすることができる。
【0028】
本発明に用いられるフッ素樹脂は、融点が320℃以下の溶融加工可能なフッ素樹脂であることが好ましく、例えば、テトラフルオロエチレン〔TFE〕/ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕共重合体〔FEP〕、TFE/アルキルビニルエーテル共重合体〔PFA〕、TFE/HFP/アルキルビニルエーテル共重合体〔EPA〕、TFE/クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕共重合体、TFE/エチレン共重合体〔ETFE〕、ポリフッ化ビニリデン〔PVdF〕、分子量30万以下のテトラフルオロエチレン〔LMW−PTFE〕等が挙げられる。
【0029】
上記アルキルビニルエーテルとしては、下式(1)〜(5)を例示できる。
式(1): CF=CFO(CFCF (n=1〜9)
式(2): CF=CFO(CFCFCFO)−CFCFCF (1≦m≦5)
式(3): CF=CFO[CFCF(CF)]−CFCFCF (1≦m≦5)
式(4): CF=CFO[CFCF(CF)]−CFCFCHI (1≦m≦5)
式(5): CF=CFOCFOCH(CFX (k=1〜12、X=H、F又はCl)
【0030】
上記フッ素樹脂としては、非粘着性、表面平滑性の点で、FEP、PFA又はEPAが好ましく、耐熱性の点で、PFAが好ましい。
【0031】
上記フッ素樹脂塗料組成物におけるフッ素樹脂の配合量は、全組成物質量の10〜80質量%、好ましくは15〜75質量%、より好ましくは20〜50質量%である。フッ素樹脂の配合量が上記下限より少ないと、粘度が低すぎて物品表面に塗装してもすぐにタレを生じ、また厚塗りもできない。一方、フッ素樹脂の配合量が多すぎると、塗料組成物が流動性とならず、塗装できない。具体的な配合量は、塗装方法や膜厚の調整等を考慮して上述の範囲内で適宜選定すればよいが、スプレー塗装等の場合は比較的低濃度とし、一方、押し付け塗装等の場合はペースト状となる50質量%以上とするのがよい。
【0032】
本発明において、水性分散体の固形分濃度は、加熱残存質量測定法により測定するものである。
【0033】
上記水性媒体としては特に制限されず、水、水溶性溶媒、アルコール等の有機溶媒、界面活性剤等を含むものが挙げられ、粉砕を効率的に行うことができる点で、上記フッ素樹脂を溶解しないものであることが好ましい。水溶性溶媒、界面活性剤及び後述の各種添加剤は、上記工程(2)において添加してもよいし、上記工程(2)の後、所望の塗料組成となるように添加して、本発明のフッ素樹脂塗料組成物としてもよい。
【0034】
上記水溶性溶媒は、上記フッ素樹脂を濡らす働きを有し、更に高沸点のものは、塗装後の乾燥時に樹脂同士をつなぎ、クラックの発生を防止する乾燥遅延剤として作用する。高沸点溶媒でも、フッ素樹脂の焼成温度では蒸発するので、被覆膜に悪影響を及ぼすことはない。上記水溶性溶媒の具体例としては、沸点が100℃までの低沸点有機溶媒としてメタノール、エタノール、イソプロパノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン等;沸点が100〜150℃の中沸点有機溶媒として、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等;沸点が150℃以上の高沸点有機溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジメチルカルビトール、ブチルジカルビトール、ブチルセロソルブ、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等が挙げられる。また、これらの水溶性溶剤は、1種または2種以上のものを混合して用いても良い。上記水溶性溶媒としては、高沸点有機溶媒が好ましく、なかでも、グリコール系溶媒がフッ素樹脂塗料組成物の分散安定性、安全性の点でより好ましい。
【0035】
上記水溶性溶媒の配合量は、好ましくは全水量の0.5〜50質量%、より好ましくは1〜30質量%である。低沸点有機溶媒の場合、配合量が、少なすぎると泡の抱込みなどが起こりやすくなり、多すぎると組成物全体が引火性となって水性分散組成物の利点が損なわれる。中沸点有機溶媒の場合、配合量が多すぎると焼成後も被覆膜中に残留して悪影響を及ぼすことがあり、少なすぎると塗布後の乾燥時にフッ素樹脂が粉末に戻ってしまい焼成できない。高沸点有機溶媒の場合、配合量が多すぎると焼成後も被覆膜中に残留して悪影響を及ぼすことがある。
【0036】
上記界面活性剤は、塗料組成物中にフッ素樹脂粒子を15〜80質量%で均一に分散させ得るものであればよく、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも使用できる。例えば、ナトリウムアルキルサルフェート、ナトリウムアルキルエーテルサルフェート、トリエタノールアミンアルキルサルフェート、トリエタノールアミンアルキルエーテルサルフェート、アンモニウムアルキルサルフェート、アンモニウムアルキルエーテルサルフェート、アルキルエーテルリン酸ナトリウム、フルオロアルキルカルボン酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤;アルキルアンモニウム塩、アルキルベンジルアンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、プロピレングリコール−プロピレンオキシド共重合体、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、2−エチルヘキサノールエチレンオキシド付加物等の非イオン性界面活性剤;アルキルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミド酢酸ベタイン、イミダゾリウムベタイン等の両性界面活性剤等が挙げられる。なかでも、アニオン性及び非イオン性界面活性剤が好ましい。特に好ましい界面活性剤は、熱分解残量の少ないオキシエチレン鎖を有する非イオン性界面活性剤である。
【0037】
上記界面活性剤としては、また、炭化水素系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、アセチレン系界面活性剤等を使用することができる。上記界面活性剤は、シリコン系界面活性剤、アセチレン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤のうちの1種以上、あるいは、これらと炭化水素系界面活性剤を組み合わせて使用することが好ましい。また、塗装膜の加熱乾燥後に塗膜中に界面活性剤が残存せず、且つ、環境に影響が少ない点から、アセチレン系界面活性剤が好ましい。
【0038】
界面活性剤の添加量は、通常フッ素樹脂粒子の0.01〜50質量%、好ましくは0.1〜30質量%、より好ましくは0.2〜20質量%である。界面活性剤の添加量が少なすぎるとフッ素樹脂粒子の分散が均一にならず、一部浮上することがある。一方、界面活性剤の添加量が多すぎると焼成による界面活性剤の分解残渣が多くなり着色が生ずるほか、被覆膜の耐熱性,非粘着性等が低下する。
【0039】
上記フッ素樹脂塗料組成物から形成された被覆層を有することを特徴とする塗装物品も本発明の一つである。
【0040】
本発明の塗装物品は、物品基材上に耐熱性ゴム層を有するものであってもよい。上記耐熱性ゴムとは、フッ素樹脂の加工(焼成)温度(一般に250〜400℃)に耐えうるゴムを意味し、フッ素ゴムやシリコーンゴムが例示できる。フッ素ゴムは、耐熱性や上記フッ素樹脂塗料組成物から形成された被覆層との密着性等の点で優れている。上記耐熱性ゴム層は、1種のフッ素ゴムからなる単層であってもよく、また、同種又は異種のフッ素ゴムからなる2層又はそれ以上の複層から形成されていてもよい。上記耐熱性ゴム層は、フッ素樹脂を含有するフッ素ゴム塗料により形成してもよく、この場合、フッ素樹脂の含有量は通常塗料中の20〜80質量%である。フッ素樹脂を含むフッ素ゴム塗料から形成した塗膜表面はフッ素樹脂リッチとなるので、上記フッ素樹脂塗料組成物から形成される被覆層と耐熱性ゴム層との密着性が向上する。
【0041】
上記耐熱性ゴムがシリコーンゴムである場合には、アルコキシシランモノマーからなる重合体組成物(特開昭51−36226号公報、特公平1−37737号公報、特公平5−1313号公報)、アルコキシシランモノマーからなる重合体組成物及び有機チタネート化合物を含む組成物(国際公開第00/60016号パンフレット)、官能基含有含フッ素エチレン性重合体粒子の分散組成物(国際公開第98/50229号パンフレット)等をプライマーとして適用することにより、上記フッ素樹脂塗料組成物から形成された被覆層との密着性を高めることができる。
【0042】
本発明の塗装物品は、物品基材上にプライマー層を有し、その上に上記フッ素樹脂塗料組成物から形成された被覆層を有するものであってもよい。上記プライマーとしては、上述したものが挙げられ、なかでも、ダイキン工業株式会社製EK−1908S21Lが好ましい。
【0043】
本発明の塗装物品の好ましい層構成としては、(1)物品基材、耐熱性ゴム層、上記フッ素樹脂塗料組成物から形成された層がこの順に積層されたもの、(2)物品基材、プライマー層、上記フッ素樹脂塗料組成物から形成された層がこの順に積層されたものが挙げられる。
【0044】
上記フッ素樹脂塗料組成物には、フッ素樹脂組成物に通常添加される各種添加剤、例えば、顔料、安定剤、増粘剤、分解促進剤、防錆剤、防腐剤、消泡剤等を配合することができる。上記顔料としては、無機顔料、複合酸化物顔料等が例示でき、カーボンブラック、ホワイトカーボン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、珪酸カルシウム等が挙げられる。
【0045】
上記フッ素樹脂塗料組成物は、顔料を含まないクリアー塗料であってもよいし、必要に応じて顔料を含む着色塗料であってもよい。
【0046】
上記フッ素樹脂塗料組成物は、通常の塗料で用いられる塗装方法により塗装することができ、上記塗装方法としては、スプレー塗装、ロール塗装、ドクターブレードによる塗装、ディップ(浸漬)塗装、含浸塗装、スピンフロー塗装、カーテンフロー塗装等が挙げられる。
【0047】
上記塗装の後、乾燥・焼成することにより、本発明の塗装物品とすることができる。上記乾燥としては、水性媒体を除去することができる方法であれば特に限定されず、例えば、必要に応じて加熱し、室温〜120℃で、5〜30分間行う方法等が挙げられる。上記焼成は、フッ素樹脂の溶融温度以上で行うものであり、通常、200〜400℃の範囲で10〜60分間行うことが好ましい。
【0048】
本発明の塗装物品における物品基材としては、鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、真鍮等の金属類;ガラス板、ガラス繊維の織布及び不織布等のガラス製品;ポリプロピレン、ポリオキシメチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン等の汎用及び耐熱性樹脂の成形品及び被覆物;SBR、ブチルゴム、NBR、EPDM等の汎用ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の耐熱性ゴムの成形品及び被覆物;天然繊維及び合成繊維の織布及び不織布;またはこれらを組み合わせて形成された積層基材等を使用することができる。
【0049】
上記物品基材は、表面加工されたものであってもよい。上記表面加工としては、サンドブラストを用いて所望の粗度まで粗面化するものが挙げられる。
【0050】
本発明の塗装物品は、耐熱性、耐溶剤性、潤滑性、非粘着性が要求される分野で使用でき、具体的な用途としては、複写機、プリンター、ファクシミリ等のOA機器用の耐熱ロール、ベルト、フィルム、スリーブ(例えば、定着ロール、定着ベルト、圧着ロール)及び搬送ベルト;シート及びベルト;O−リング、ダイヤフラム、耐薬品性チューブ、燃料ホース、バルブシール、化学プラント用ガスケット、エンジンガスケット等が挙げられる。
【発明の効果】
【0051】
本発明のフッ素樹脂塗料組成物は、薄膜且つ平滑で、耐摩耗性、非粘着の耐久性が優れたフッ素樹脂被覆層を形成することができる。本発明の塗装物品は、フッ素樹脂被覆層が薄膜且つ平滑で、耐摩耗性、非粘着の耐久性が優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、実施例、比較例を示し、本発明を具体的に説明する。
【0053】
実施例1
「PFA微粉末塗料」の調製
【0054】
ステップ1.予備粉砕(乾式粉砕)
懸濁重合によりテトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロビニルエーテル(PFVE)共重合体(PFA:融点=300℃、MFR=25g/10min)を製造し、得られた乾燥粉末をそのまま、エアジェットミル装置(アイエムマテリアル社製)により粉砕し、平均粒径10μmの微粉末を得た。
【0055】
ステップ2.予備混合(予備分散)
ステップ1.により得られたPFA微粉末100質量部に対して、アセチレングリコール系分散剤(サーフィノール440、エアプロダクツジャパン社製)10質量部、非イオン界面活性剤(ノイゲンTDS−80、第一工業製薬社製)10質量部及びイオン交換水280質量部をPFA微粉末と十分に撹拌・混合し、PFA分散液を得た。
【0056】
ステップ3.湿式粉砕
ステップ2.により得られたPFA分散液を100メッシュ金網で濾過した後、高圧乳化機(ナノマイザーNMII、吉田機械興業社製、粉砕圧力=200MPa)に通し、平均粒径0.6μmの(CAPA700:堀場製作所社製による測定)のPFA微粉末分散液を得た。
【0057】
ステップ4.塗料化
ステップ3.により得られたPFA微粉末分散液100質量部に対し、非イオン系界面活性剤(ノイゲンTDS−120、第一工業製薬社製)2.5質量部、エチレングリコール(双葉化学社製)2.5質量部を加え、更に、イオン交換水20質量部を加え塗料化した。
【0058】
98%積算粒子径及び平均粒径の測定
ステップ3.で得られたPFA微粉末分散液(及び下記乳化重合品)については、堀場製作所社製CAPA700を用いて測定した。
その他のPFA粉末については、堀場製作所社製LA−200を用いて測定した。
【0059】
塗装板1の作成
予めアセトン洗浄しておいたアルミニウム板表面上半面に、PFA樹脂含有フッ素ゴム塗料(GLS−223、ダイキン工業株式会社製)をスプレー塗装し、80〜100℃で15分間乾燥した後室温まで空冷し、約30μmの膜厚を有する下層被膜を作成した。そして、その上から塗板全面に上記PFA微粉末塗料をスプレー塗装し、室温で約1時間及び80〜100℃で15分間乾燥した後、250℃で60分、更に325℃で30分焼成して、トータル膜厚約35μmの塗装板を作成した。
【0060】
塗装板2の作成
純アルミニウム板の表面をサンドブラストによってRa=2〜3.5μmとなるように粗面化した。粗面化した純アルミニウム板にプライマー塗料(商品名、EK−1908S 21L、ダイキン工業株式会社製)を膜厚が10〜15μmとなるようにエアスプレーを用いて塗装し、80〜100℃で15分間乾燥し、冷却した。その上から、上記PFA微粉末塗料をエアスプレーを用いて膜厚15μm以上に塗装し、80〜100℃で15分間乾燥後、380℃で15分間焼成し、空冷した。
【0061】
塗膜特性の評価
塗膜の特性を以下のように評価した。
【0062】
<塗膜外観>
塗装板1において、塗膜表面上のクラック、発泡、ブツやフクレ等の有無を目視で観察評価した。
【0063】
<表面粗さ>
塗装板1において、塗膜表面の十点平均表面粗さRz(測定長=4mm)を、表面粗さ計(東京精機社製サーフコム470A)によって測定した。
【0064】
<光沢>
塗装板1において、塗膜表面の光沢(60°−60°)を、デジタル変角光沢計(スガ試験機社製)によって測定した。
【0065】
<接触角>
塗装板1の塗膜表面に純水を一滴滴下してゴニオメーター(協和界面科学社製)を用いて接触角を測定した。
【0066】
<テーバー磨耗試験(200℃)>
塗装板2において、(株)安田精機製作所製の加熱型テーバー磨耗試験機(No.101特型)を用い、荷重500g、磨耗輪(CS−17)で磨耗試験を行った。供試塗板を装置に固定した後、塗板表面温度が200℃になったことを確認し、試験を開始した。1000回転磨耗輪を回転させた前後の質量を測定し、減少量を磨耗量とした。
【0067】
実施例2
実施例1の「PFA微粉末塗料」の調製のステップ3(湿式粉砕)において、高圧乳化機の機種をナノ3000(美粒社製、粉砕圧力=172MPa)に変更し、平均粒径0.8μmのPFA微粉末を得たこと以外は、実施例1と同様の試験を行った。
【0068】
実施例3
実施例1の「PFA微粉末塗料」の調製のステップ3(湿式粉砕)において、高圧乳化機の機種をマイクロフルイタイザー(みづほ工業社製、粉砕圧力=136MPa)に変更し、平均粒径1.0μmのPFA微粉末を得たこと以外は、実施例1と同様の試験を行った。
【0069】
比較例1
実施例1において、PFA微粉末塗料の代わりに、PFAディスパージョン(AD−2CRE、ダイキン工業社製、融点=314℃、MFR=25g/10min、平均粒径=0.3μm)に置き換えた以外は、実施例1と同様の試験を行った。
【0070】
比較例2
実施例1において、PFA微粉末塗料の代わりに、PFA水性塗料(AW−5000、ダイキン工業社製、融点=300℃、MFR=25g/10min、平均粒径=25μm)に置き換えた以外は、実施例1と同様の試験を行った。
【0071】
比較例3
実施例1において、「PFA微粉末塗料」の調整のステップ3(湿式粉砕)を省略して得られたPFA微粉末塗料を用いた以外は、実施例1と同様の試験を行った。
各実施例及び比較例の測定結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のフッ素樹脂塗料組成物は、オフィスオートメーション機器用耐熱ロール、ベルト又はフィルムの被覆層を形成するための塗料として好適に使用できる。本発明の塗装物品は、オフィスオートメーション機器用耐熱ロール、ベルト又はフィルムとして特に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
98%積算粒子径が1〜10μmであり、かつ、平均粒径が0.3〜5μmである溶融加工可能なフッ素樹脂粒子、水、界面活性剤、及び、グリコール系溶剤を含むことを特徴とするフッ素樹脂塗料組成物。
【請求項2】
フッ素樹脂粒子は、高圧乳化粉砕法により得られるものである請求項1記載のフッ素樹脂塗料組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のフッ素樹脂塗料組成物から形成された被覆層を有することを特徴とする塗装物品。
【請求項4】
オフィスオートメーション機器用耐熱ロール、ベルト又はフィルムである請求項3記載の塗装物品。

【公開番号】特開2009−1767(P2009−1767A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275264(P2007−275264)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】