説明

フッ素樹脂組成物及び積層体

【課題】エラストマーとの接着性に優れると同時に、MFRが比較的大きく成形性に優れ、高温加工時にも発泡を生じないフッ素樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、ポリマーの主鎖末端又は側鎖末端にカルボニル基、オレフィン基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種を有するフッ素樹脂と、芳香族系非対称型多官能化合物と、を含み、上記芳香族系非対称型多官能化合物は、上記フッ素樹脂100質量部に対し0.05〜10.0質量部であることを特徴とするフッ素樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂組成物及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、昨今の環境意識の高まりから、燃料揮発を防止するための法整備が進み、特に自動車業界では米国を中心に燃料揮発抑制の傾向が著しく、燃料バリア性に優れた材料へのニーズが大きくなりつつある。燃料バリア性に優れた材料として、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、エチレンビニルアルコール系樹脂、液晶ポリエステル系樹脂等の熱可塑性樹脂が使用されているが、これらの材料は燃料バリア性が高い反面、柔軟性に乏しく、柔軟性が求められる部位に用いることが困難である。それに対してゴム系材料は高い柔軟性を有しているが一般的に燃料バリア性が劣っており、燃料ホース等の自動車部品に使用した場合には燃料の揮発・蒸散が大きく、改善が求められている。これらの問題を解決するために、近年、燃料バリア性が高い樹脂層と柔軟性が高いエラストマー層からなる積層構造を有する燃料ホースが提案されている。
【0003】
燃料バリア性に優れた材料としては、フッ素樹脂があげられる。しかし、フッ素樹脂は本来接着力が低く、フッ素樹脂と他の材料(基材)とを直接接着させることは困難で、熱融着などで接着を試みても、接着強度が不充分であったり、ある程度の接着力があったとしても基材の種類により接着力がばらつきやすく、接着性の信頼性が不充分であったりすることが多かった。
【0004】
フッ素樹脂と他の材料とを接着させる方法として
1.基材の表面をサンドブラスター処理などで物理的に荒らす方法、
2.フッ素樹脂をナトリウム・エッチング、プラズマ処理、光化学的処理などの表面処理を行う方法、
3.接着剤を用いて接着させる方法、
などが主に検討されている。
【0005】
しかし、上記1、2については、処理工程が必要となり、また、工程が複雑で生産性が悪い。また、基材の種類や形状が限定される。そもそも、接着力も不充分であり、えられた積層体の外観上の問題(着色や傷)も生じやすい。
【0006】
上記3の接着剤の検討も種々行われている。一般のハイドロカーボン系の接着剤は、接着性が不充分であるとともに、それ自体の耐熱性が不充分で、一般に高温での成形や加工を必要とするフッ素ポリマーの接着加工条件では、耐えられず、分解による剥離や着色などを起こす。この接着剤を用いた積層体も接着剤層の耐熱性、耐薬品性、耐水性が不充分であるために、温度変化や、環境変化により接着力が維持できなくなり、信頼性に欠ける。
【0007】
一方、官能基を有するフッ素樹脂を用いた接着剤または接着剤組成物による接着の検討が行われている。例えばフッ素樹脂に無水マレイン酸やビニルトリメトキシシランなどに代表されるカルボキシル基、カルボン酸無水物残基、エポキシ基、加水分解性シリル基を有するハイドロカーボン系単量体をグラフト重合したフッ素樹脂を接着剤に用いた報告(例えば特許文献1〜6)やヒドロキシルアルキルビニルエーテルのような官能基を含むハイドロカーボン系単量体をテトラフルオロエチレンやクロロトリフルオロエチレンと共重合した含フッ素共重合体と、イソシアナート系硬化剤との接着性組成物を硬化させ、塩化ビニルとコロナ放電処理されたエチレン/テトラフルオロエチレンポリマー(以下、ETFEともいう)との接着剤に用いた報告(例えば特許文献7)がなされている。これら、ハイドロカーボン系の官能基モノマーをグラフト重合または共重合した含フッ素重合体を用いた接着剤または接着剤組成物は、耐熱性が不充分でフッ素樹脂との高温での加工時や、高温での使用時では分解・発泡などが起き接着強度を低下させたり、剥離したり、着色したりする。また特許文献7に記載の接着剤組成物では、フッ素樹脂はコロナ放電処理を必要とする。
【0008】
また、カルボン酸やその誘導体を含有するパーフルオロビニルエーテル化合物を含フッ素モノマーと共重合した官能基を有する含フッ素重合体を接着剤や接着剤組成物に用いたものが報告されている。特許文献8には、カルボン酸基、それらの誘導体を有するパーフルオロビニルエーテルをテトラフルオロエチレンなどと共重合して導入した官能基を有するフッ素樹脂を用いた積層体が記載されている。これは、カルボン酸基などを有する上記の含フッ素重合体がエポキシ樹脂やウレタン樹脂といった接着性樹脂を介して金属やその他基材に積層したものであって、直接金属やガラス、その他樹脂に接着したものでなく、使用時におけるエポキシ樹脂やウレタン樹脂などの耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性に問題がある。また、エポキシ樹脂やウレタン樹脂を介すると接着は可能であるが、金属やガラス、その他樹脂に直接接着させる方法は明記されていない。
【0009】
また、特許文献9には、合成樹脂層とエラストマー層を積層させる技術が報告されているが、エラストマー層に特定の種類のエラストマーをブレンドする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−18035号公報
【特許文献2】特開平7−25952号公報
【特許文献3】特開平7−25954号公報
【特許文献4】特開平7−173230号公報
【特許文献5】特開平7−173446号公報
【特許文献6】特開平7−173447号公報
【特許文献7】特開平7−228848号公報
【特許文献8】米国特許第4916020号明細書
【特許文献9】特許第2987391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、エラストマーとの接着性に優れると同時に、MFRが比較的大きく成形性に優れ、高温加工時にも発泡を生じないフッ素樹脂組成物を提供する。本発明は、また、高い燃料バリア性と柔軟性を持ち、フッ素樹脂層とエラストマー層とが強固に接着した積層体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ポリマーの主鎖末端又は側鎖末端にカルボニル基、オレフィン基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種を有するフッ素樹脂と、芳香族系非対称型多官能化合物と、を含み、
上記芳香族系非対称型多官能化合物は、上記フッ素樹脂100質量部に対し0.05〜10.0質量部である
ことを特徴とするフッ素樹脂組成物に関する。
【0013】
更に、芳香族系非対称型多官能化合物は、フッ素原子を有することが好ましい。
【0014】
更に、フッ素ゴムを含むことが好ましい。
【0015】
更に、フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンからなる共重合体、エチレンとテトラフルオロエチレンからなる共重合体及びクロロトリフルオロエチレンとテトラフルオロエチレンからなる共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
本発明は、上記フッ素樹脂組成物から形成されるフッ素樹脂層(a)と、エラストマー組成物から形成されるエラストマー層(b)と、を含むことを特徴とする積層体にも関する。
【0017】
更に、エラストマー組成物は、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム及びアクリルゴムからなる群より選択される少なくとも1種のエラストマーを含むことが好ましい。
【0018】
更に、エラストマー組成物は、オニウム塩、アミン化合物及びエポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。
【0019】
本発明は、上記積層体から形成される成形品にも関する。
【0020】
本発明は、上記積層体から形成される燃料チューブにも関する。
【0021】
本発明は、上記積層体の製造方法にも関する。
【0022】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0023】
フッ素樹脂は本来接着力が低く、フッ素樹脂と他の材料とを直接接着させることは困難である。しかし、本発明者らが有する知見によれば、特定の官能基を有するフッ素樹脂と多官能化合物とを含むフッ素樹脂組成物からフッ素樹脂層を形成すれば、エラストマー組成物から形成されるエラストマー層と高い接着強度を持って接着できる。
【0024】
ところが、特定の官能基を有するフッ素樹脂に対称型の多官能化合物を添加すると、フッ素樹脂のMFRが大きく低下して成形時の押出速度が低下したり(MFRが0.2未満に低下し、溶融成形時の成形性が極めて低下する)、高温での成形時に発泡しやすかったりする問題が生じることが分かった。
【0025】
そこで本発明者らは、この問題を解決する手段を鋭意検討した結果、特定の官能基を有するフッ素樹脂を含むフッ素樹脂組成物において、多官能化合物のなかでも、芳香環を有し、かつ、非対称な構造を有する多官能化合物を使用することによって、MFRの低下及び成形時の発泡を防ぐことができることを見出した。
【0026】
すなわち、本発明のフッ素樹脂組成物は、ポリマーの主鎖末端又は側鎖末端にカルボニル基、オレフィン基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種を有するフッ素樹脂と芳香族系非対称型多官能化合物とを含むことを特徴とする。
【0027】
本発明のフッ素樹脂組成物において、上記フッ素樹脂と芳香族系非対称型多官能化合物とは、それぞれの分子が結合することなく単独で存在していてもよいし、それぞれの官能基同士が反応することによってお互いに結合して存在していてもよいし、単独で存在するものと結合したものとが混在していてもよい。
【0028】
上記芳香族系非対称型多官能化合物とは、1つの分子中に1つ以上の芳香環を有し、同一または異なる種類の2つ以上の官能基を有する有機化合物であって、非対称な(unsymmetrical)構造を有する化合物をいう。非対称な構造を有する化合物が持つ官能基は、同一種類であっても、分子中の結合位置の相違に起因して、お互いに反応性が異なる。N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル〔4,4’−DPE〕、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン〔BAPP〕、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン〔ビスフェノールAF〕などは、芳香環を有し、2つ以上のアミノ基又はヒドロキシル基を有する化合物であるが、対称型の多官能化合物であり、芳香族系非対称型多官能化合物には含まれない。
【0029】
上記芳香族系非対称型多官能化合物が有する官能基としては、カルボニル基、カルボキシル基、ハロホルミル基、アミド基、オレフィン基、アミノ基、イソシアネート基、ヒドロキシ基、エポキシ基等、一般に反応性を有することが知られている官能基があげられる。これらの官能基を有する化合物は、エラストマーとの親和性が高いだけではなく、フッ素樹脂が有する官能基とも反応し、さらに接着性が向上することが期待される。
【0030】
上記芳香族系非対称型多官能化合物としては、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル〔3,4’−DPE〕、2,4,4’−トリアミノジフェニルエーテル〔TADE〕、2,3’−ジアミノジフェニルエーテル〔2,3’−DPE〕、2,5−ビス(4−アミノフェノキシ)−ビフェニル〔P−TPE−Q〕、下記式
【0031】
【化1】

【0032】
で表される2,2−ビス(3,4’−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン、下記の一般式(1)〜(3)
【0033】
【化2】

【0034】
(式中、Rは、炭素数1〜3のアルキル基、またはフルオロアルキル基を表し、複数のRを持つ場合はそれぞれ同一であっても異なってもよい。)
で表されるジアミン化合物、及び、下記一般式(4)
【0035】
【化3】

【0036】
(式中、Rは、それぞれ同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数1〜3のフルオロアルキル基を表し、4つのRのうち少なくとも1つはフルオロアルキル基である。)
で表されるジアミン化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0037】
上記一般式(1)〜(3)で表されるジアミン化合物としては、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)−2,3,5−トリメチルベンゼン〔TMBAB〕等が挙げられ、上記一般式(4)で表されるジアミン化合物としては、4,4’−ジアミノ−2−(トリフルオロメチル)ジフェニルエーテル〔TFDPE〕等が挙げられる。
【0038】
上記芳香族系非対称型多官能化合物は、フッ素樹脂との親和性に優れる点で、炭素原子に結合したフッ素原子を有することが好ましく、フルオロアルキル基又はフルオロフェニル基を有することがより好ましく、2,2−ビス(3,4’−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン及び上記一般式(1)〜(4)で表されるジアミン化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが更に好ましく、TMBAB及びTFDPEからなる群より選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。上記芳香族系非対称型多官能化合物がフッ素原子を有する化合物であると、エラストマーとの接着力を損なうことなく、多官能化合物の使用量を減らすことができる。
【0039】
上記芳香族系非対称型多官能化合物は、フッ素樹脂100質量部に対し0.05〜10.0質量部であり、0.06〜5.0質量部であることが好ましい。芳香族系非対称型多官能化合物の配合量が少なすぎると、エラストマーと積層した場合に充分な接着強度が得られない傾向があり、多すぎるとフッ素樹脂への分散性が悪化し成形品の機械物性が低下したり、成形時に発泡が生じたりする傾向がある。
【0040】
上記フッ素樹脂は、ポリマーの主鎖末端又は側鎖末端にカルボニル基、オレフィン基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する。フッ素樹脂がこれらの官能基を有すると、エラストマーとの接着性が向上する。
【0041】
カルボニル基とは、−C(=O)−を有する官能基である。
【0042】
具体的には、例えば、
カーボネート基[−O−C(=O)−OR(式中、Rは炭素原子数1〜20のアルキル基またはエーテル結合性酸素原子を含む炭素原子数2〜20のアルキル基である)]、
ハロホルミル基[−C(=O)X、Xはハロゲン原子]、
ホルミル基[−C(=O)H]、
式:−R−C(=O)−R(式中、Rは、炭素原子数1〜20の2価の有機基であり、Rは、炭素原子数1〜20の1価の有機基である)で示される基、
式:−O−C(=O)−R(式中、Rは、炭素原子数1〜20のアルキル基またはエーテル結合性酸素原子を含む炭素原子数2〜20のアルキル基である)で示される基、
カルボキシル基[−C(=O)OH]、
アルコキシカルボニル基[−C(=O)OR(式中、Rは、炭素原子数1〜20の1価の有機基である)]、
カルバモイル基[−C(=O)NR(式中、RおよびRは、同じであっても異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1〜20の1価の有機基である)]、
酸無水物結合[−C(=O)−O−C(=O)−]、
イソシアネート基[−N=C=O]、
等をあげることができる。
【0043】
上記Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などがあげられる。上記Rの具体例としては、メチレン基、−CF−基、−C−基などがあげられ、Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などがあげられる。Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などがあげられる。また、RおよびRの具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、フェニル基などがあげられる。
【0044】
これらカルボニル基の中でも、フッ素樹脂への導入のしやすさおよび他材との反応性の観点から、カルボキシル基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基、及び、カーボネート基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、−COOH、−OC(=O)OCHCHCH、−COF、及び、−OC(=O)OCH(CHからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0045】
オレフィン基(Olefinic group)とは、炭素−炭素二重結合を有する官能基である。オレフィン基としては、下記式:
−CR10=CR1112
(式中、R10、R11およびR12は、同じであっても異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子または炭素原子数1〜20の1価の有機基である。)で表される官能基が挙げられ、−CF=CF、−CH=CF、−CF=CHF、−CF=CH及び−CH=CHからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0046】
アミノ基とは、アンモニア、第一級または第二級アミンから水素を除去した1価の官能基である。アミノ基としては、下記式:
−NR1314
(式中、R13およびR14は、同じであっても異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1〜20の1価の有機基である。)で表される官能基が挙げられ、−NH、−NH(CH)、−N(CH、−NH(CHCH)、−N(C、及び、−NH(C)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0047】
フッ素樹脂の末端基の個数は、特公昭37−3127号公報および国際公開第99/45044号パンフレットに記されている方法にて測定することができる。例えば、赤外分光光度計を用いてフッ素樹脂のフィルムシートの赤外吸収スペクトル分析し、官能基特有の周波数の吸収帯からその官能基の数を測定する場合、例えば、−COF末端は1884cm−1の吸収帯、−COOH末端は1813cm−1と1775cm−1の吸収帯、−COOCH末端は1795cm−1の吸収帯、−CONH末端は3438cm−1の吸収帯、−CHOH末端は3648cm−1の吸収帯、−CF=CF末端は1790cm−1の吸収帯から計算することができる。
【0048】
フッ素樹脂に上記官能基を導入する方法としては、特に限定されないが、例えば、フッ素樹脂重合時に上記官能基を有する単量体を共重合する方法、上記官能基または上記官能基に変換できる官能基を有する重合開始剤を使用して重合を行う方法、フッ素樹脂に高分子反応で上記官能基を導入する方法、酸素共存下でポリマー主鎖を熱分解する方法、二軸押出機など強いせん断力を加えることのできる装置を用いてフッ素樹脂の末端を変換させる方法などをあげることができる。
【0049】
上記官能基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、無水メサコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸等の脂肪族不飽和カルボン酸が挙げられる。
【0050】
フッ素樹脂の上記官能基の個数は、フッ素樹脂を構成する炭素原子100万個当たり20〜5000個であることが好ましく、30〜4000個であることがより好ましく、40〜3000個であることがさらに好ましい。20個未満であるとエラストマーとの接着強度が低下する傾向があり、5000個をこえると成形物中に発泡が生ずる傾向がある。
【0051】
なお、本発明で用いる上記官能基を有するフッ素樹脂は、1つのポリマーにおける主鎖の片末端、両末端または側鎖に上記官能基を有する分子のみで構成されているものだけでなく、ポリマーの主鎖の片末端、両末端または側鎖に上記官能基を有する分子と、上記官能基を含まない分子との混合物であっても良い。
【0052】
上記フッ素樹脂としては、特に限定されるものではないが、少なくとも1種の含フッ素エチレン性重合体を含むフッ素樹脂であることが好ましい。含フッ素エチレン性重合体は少なくとも1種の含フッ素エチレン性単量体由来の構造単位を有することが好ましい。上記含フッ素エチレン性単量体としては、テトラフルオロエチレン〔TFE〕、式(5):
CF=CF−R (5)
(式中、Rは、−CFまたは−ORを表す。Rは、炭素原子数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)
で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物などの1種または2種以上のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブテン、フッ化ビニリデン〔VdF〕、フッ化ビニル、式(6):
CH=CX(CF (6)
(式中、Xは、水素原子またはフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子または塩素原子を表し、nは、1〜10の整数を表す。)
で表されるフルオロオレフィンなどをあげることができる。
【0053】
上記フッ素樹脂は、上記含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な単量体由来の構造単位を有してもよく、このような単量体としては、上記フルオロオレフィン及びパーフルオロオレフィン以外の非フッ素エチレン性単量体をあげることができる。非フッ素エチレン性単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、またはアルキルビニルエーテル類などをあげることができる。ここで、アルキルビニルエーテルは、炭素数1〜5のアルキル基を有するアルキルビニルエーテルをいう。
【0054】
上記フッ素樹脂は、フッ素樹脂組成物の成形加工が容易になり、得られる成形品の耐熱性・耐薬品性・耐油性が優れることから、
(1)エチレンとTFEからなるエチレン/TFE共重合体〔ETFE〕
(2)TFEと式(5):
CF=CF−R (5)
(式中、Rは、−CFまたは−ORを表す。Rは、炭素原子数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)
で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物の1種または2種以上からなる共重合体、たとえばTFEとパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕からなる共重合体〔PFA〕またはTFEとヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕からなる共重合体〔FEP〕
(3)TFE、エチレンおよび式(5):
CF=CF−R (5)
(式中、Rは、−CFまたは−ORであり、Rは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基である)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物からなるエチレン−TFE−HFP共重合体、エチレン−TFE−パーフルオロエチレン性不飽和化合物共重合体
(4)ポリフッ化ビニリデン〔PVDF〕
(5)CTFEとTFEからなる共重合体〔CTFE/TFE共重合体〕
のいずれかであることが好ましい。
【0055】
上記フッ素樹脂は、ETFE、CTFE/TFE共重合体、PFA及びFEPからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、ETFE、CTFE/TFE共重合体及びFEPからなる群より選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。
【0056】
ETFE
ETFEは、力学物性や燃料バリア性が向上する点で好ましい。TFE単位とエチレン単位との含有モル比は20:80〜90:10が好ましく、37:63〜85:15がより好ましく、38:62〜80:20が更に好ましい。
【0057】
ETFEは、TFE、エチレン、並びに、TFE及びエチレンと共重合可能な単量体からなる共重合体であってもよい。共重合可能な単量体としては、下記式
CH=CX、CF=CFR、CF=CFOR、CH=C(R
(式中、Xは水素原子またはフッ素原子、Rはエーテル結合性酸素原子を含んでいてもよいフルオロアルキル基を表す)
で表される単量体が挙げられ、なかでも、CH=CXで表される含フッ素ビニルモノマーが好ましく、Rが炭素数1〜8のフルオロアルキル基であるCH=CXで表される含フッ素ビニルモノマーがより好ましい。
【0058】
上記式で示される含フッ素ビニルモノマーの具体例としては、1,1−ジヒドロパーフルオロプロペン−1、1,1−ジヒドロパーフルオロブテン−1、1,1,5−トリヒドロパーフルオロペンテン−1、1,1,7−トリヒドロパーフルオロへプテン−1、1,1,2−トリヒドロパーフルオロヘキセン−1、1,1,2−トリヒドロパーフルオロオクテン−1、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルビニルエーテル、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、ヘキサフルオロプロペン、パーフルオロブテン−1、3,3,3−トリフルオロ−2−(トリフルオロメチル)プロペン−1、2,3,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロ−1−ペンテン(CH=CFCFCFCFH)があげられる。
【0059】
また、TFE及びエチレンと共重合可能な単量体としては、上述したイタコン酸、無水イタコン酸等の脂肪族不飽和カルボン酸であってもよい。
【0060】
TFE及びエチレンと共重合可能な単量体は、含フッ素エチレン性重合体に対して0.1〜10モル%が好ましく、0.1〜5モル%がより好ましく、0.2〜4モル%が特に好ましい。
【0061】
CTFE/TFE共重合体
CTFE/TFE共重合体は、CTFE単位とTFE単位の含有モル比がCTFE:TFE=2:98〜98:2であることが好ましく、5:95〜90:10であることがより好ましい。CTFE単位が2モル%未満であると薬液透過性が悪化しまた溶融加工が困難になる傾向があり、98モル%をこえると成型時の耐熱性、耐薬品性が悪化する場合がある。
【0062】
CTFE/TFE共重合体は、CTFE、TFE、並びに、CTFE及びTFEと共重合可能な単量体からなる共重合体であってもよく、エチレン、VdF、HFP、CF=CF−OR(式中、Rは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕、CX=CX(CF(式中、X、X及びXは、同一若しくは異なって、水素原子又はフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは2〜10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、及び、CF=CF−OCH−Rf(式中、Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられ、なかでも、PAVEであることが好ましい。
【0063】
上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、及び、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、なかでも、PMVE、PEVE及びPPVEからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0064】
上記アルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体としては、Rfが炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であるものが好ましく、CF=CF−OCH−CFCFがより好ましい。
【0065】
上記CTFE/TFE共重合体は、CTFE及びTFEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10モル%であり、CTFE単位およびTFE単位が合計で90〜99.9モル%であることが好ましい。共重合可能な単量体単位が0.1モル%未満であると成形性、耐環境応力割れ性および耐ストレスクラック性に劣りやすく、10モル%をこえると薬液低透過性、耐熱性、機械特性、生産性などに劣る傾向にある。
【0066】
FEP
FEPは、とりわけ耐熱性が優れたものとなり、優れた燃料バリア性が発現する点で好ましい。FEPとしては、特に限定されないが、TFE単位70〜99モル%とHFP単位1〜30モル%からなる共重合体であることが好ましく、TFE単位80〜97モル%とHFP単位3〜20モル%からなる共重合体であることがより好ましい。TFE単位が70モル%未満では機械物性が低下する傾向があり、99モル%をこえると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。
【0067】
FEPは、TFE、HFP、並びに、TFE及びHFPと共重合可能な単量体からなる共重合体であってもよく、当該単量体としてはCTFE及びTFEと共重合可能な単量体として例示した単量体であってもよい。当該単量体としては、CF=CF−OR(式中、Rは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕、CX=CX(CF(式中、X、X及びXは、同一若しくは異なって、水素原子又はフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは2〜10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、及び、CF=CF−OCH−Rf(式中、Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられ、なかでも、PAVEであることが好ましい。
【0068】
上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、及び、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、なかでも、PMVE、PEVE及びPPVEからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0069】
上記アルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体としては、Rfが炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であるものが好ましく、CF=CF−OCH−CFCFがより好ましい。
【0070】
FEPは、TFE及びHFPと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10モル%であり、TFE単位及びHFP単位が合計で90〜99.9モル%であることが好ましい。共重合可能な単量体単位が0.1モル%未満であると成形性、耐環境応力割れ性および耐ストレスクラック性に劣りやすく、10モル%をこえると薬液低透過性、耐熱性、機械特性、生産性などに劣る傾向にある。
【0071】
PFA
PFAは、とりわけ耐熱性が優れたものとなり、優れた燃料バリア性が発現する点で好ましい。PFAとしては、特に限定されないが、TFE単位70〜99モル%とPAVE単位1〜30モル%からなる共重合体であることが好ましく、TFE単位80〜97モル%とPAVE単位3〜20モル%からなる共重合体であることがより好ましい。TFE単位が70モル%未満では機械物性が低下する傾向があり、99モル%をこえると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。
【0072】
上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、及び、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、なかでも、PMVE、PEVE及びPPVEからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、PMVEであることが更に好ましい。
【0073】
PFAは、TFE、PAVE、並びに、TFE及びPAVEと共重合可能な単量体からなる共重合体であってもよく、当該単量体としてはCTFE及びTFEと共重合可能な単量体として例示した単量体であってもよい。HFP、CX=CX(CF(式中、X、X及びXは、同一若しくは異なって、水素原子又はフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは2〜10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、及び、CF=CF−OCH−Rf(式中、Rfは炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
【0074】
上記アルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体としては、Rfが炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であるものが好ましく、CF=CF−OCH−CFCFがより好ましい。
【0075】
PFAは、TFE及びPAVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10モル%であり、TFE単位及びPAVE単位が合計で90〜99.9モル%であることが好ましい。共重合可能な単量体単位が0.1モル%未満であると成形性、耐環境応力割れ性および耐ストレスクラック性に劣りやすく、10モル%をこえると薬液低透過性、耐熱性、機械特性、生産性などに劣る傾向にある。
【0076】
また、上記フッ素樹脂の融点は、150〜340℃であることが好ましく、150〜330℃であることがより好ましく、170〜320℃であることがさらに好ましい。上記フッ素樹脂の融点が、150℃未満であると、耐熱性が低下する傾向があり、340℃を超えると、フッ素樹脂の溶融条件下で上記官能基が熱劣化しエラストマーとの接着性が充分に発現できない傾向がある。
【0077】
上記フッ素樹脂は、シートにした場合の燃料透過係数が、20(g・mm)/(m・day)以下であることが好ましく、15(g・mm)/(m・day)以下であることがより好ましく、10(g・mm)/(m・day)以下であることがさらに好ましく、5(g・mm)/(m・day)以下であることが特に好ましい。燃料透過係数の下限値は特に限定されるものではなく、低ければ低いほど好ましい。燃料透過係数が、20(g・mm)/(m・day)をこえると、耐燃料透過性が低いため、燃料透過量を抑えるためには成形品の肉厚を厚くする必要があり、経済的に好ましくない。なお、燃料透過係数は、低いほど燃料透過防止能力が向上するものであり、逆に燃料透過係数が大きいと燃料が透過しやすいため、燃料チューブ等の成形品としては適さないものである。
【0078】
燃料透過係数は、防湿包装材料の透湿度試験方法におけるカップ法に準ずる方法にて測定される。ここで、カップ法とは、JIS Z 0208に規定された透湿度試験方法であり、一定時間に単位面積の膜状物質を通過する水蒸気量を測定する方法である。本発明においては、このカップ法に準じて、燃料透過係数を測定するものである。具体的方法としては、20mLの容積を有するSUS製容器(開放部面積1.26×10−3)に模擬燃料であるCE10(トルエン/イソオクタン/エタノール=45/45/10容量%)を18mL入れて、シート状試験片を容器開放部にセットして密閉することで、試験体とする。該試験体を恒温装置(60℃)に入れ、試験体の重量を測定し、単位時間あたりの重量減少が一定となったところで下記の式により燃料透過性を求める。
【0079】
【数1】

【0080】
上記フッ素樹脂の製造方法としては、特に限定されるものではないが、特開2005−298702号公報、国際公開第2005/100420号パンフレットなどに記載の方法をあげることができる。
【0081】
本発明のフッ素樹脂組成物は、更にフッ素ゴムを含むことが好ましい。
【0082】
上記フッ素ゴムとしては、パーフルオロフッ素ゴム、非パーフルオロフッ素ゴム、含フッ素熱可塑性エラストマーなどがあげられ、架橋したものでも、未架橋のものであってもよい。
【0083】
パーフルオロフッ素ゴムとしては、TFE/PAVE共重合体、TFE/HFP/PAVE共重合体などがあげられる。
【0084】
非パーフルオロフッ素ゴムとしては、たとえば、VdF系重合体、TFE/プロピレン共重合体などがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に組み合わせて用いることができる。
【0085】
また、上記パーフルオロフッ素ゴムや非パーフルオロフッ素ゴムとして例示したものは主モノマーの構成であり、架橋部位を与える単量体や変性モノマー等を共重合したものも好適に用いることができる。架橋部位を与える単量体や変性モノマーとしては、ヨウ素原子、臭素原子、二重結合を含むものなどの公知の架橋部位を与える単量体、移動剤、公知のエチレン性不飽和化合物などの変性モノマーなどを使用することができる。
【0086】
上記VdF系重合体としては、具体的には、VdF/HFP共重合体、VdF/TFE/HFP共重合体、VdF/TFE/プロピレン共重合体、VdF/エチレン/HFP共重合体、VdF/TFE/PAVE共重合体、VdF/PAVE共重合体、VdF/CTFE共重合体などをあげることができる。さらに具体的には、VdF25〜85モル%と、VdFと共重合可能な少なくとも1種の他の単量体75〜15モル%とからなる含フッ素共重合体であることが好ましく、より好ましくは、VdF40〜80モル%と、VdFと共重合可能な少なくとも1種の他の単量体60〜20モル%とからなる含フッ素共重合体である。
【0087】
ここで、VdFと共重合可能な少なくとも1種の他の単量体としては、たとえば、TFE、CTFE、トリフルオロエチレン、HFP、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、PAVE、フッ化ビニルなどの含フッ素単量体、エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテルなどの非フッ素単量体があげられる。これらをそれぞれ単独で、または、任意に組み合わせて用いることができる。
【0088】
上記フッ素ゴムの中でも、耐熱性、圧縮永久ひずみ、加工性、コストの点から、VdF単位を含むフッ素ゴムであることが好ましく、圧縮永久ひずみが良好な点から、VdF単位とHFP単位と有するフッ素ゴムであることがより好ましい。
【0089】
また、VdF/HFPフッ素ゴム、VdF/TFE/HFPフッ素ゴム、TFE/プロピレンフッ素ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムであることが好ましく、VdF/TFE/HFPフッ素ゴムであることがより好ましい。
【0090】
パーフルオロフッ素ゴム及び非パーフルオロフッ素ゴムは、通常の乳化重合法により製造することができる。重合時の温度、時間などの重合条件としては、モノマーの種類や目的とするゴムにより適宜決定すればよい。
【0091】
含フッ素熱可塑性エラストマーとしては、特に限定されるものではないが、少なくとも1種のエラストマー性ポリマーセグメントと、少なくとも1種の非エラストマー性ポリマーセグメントとからなり、かつエラストマー性ポリマーセグメントと非エラストマー性ポリマーセグメントのうち、少なくとも一方が含フッ素ポリマーセグメントであることが好ましい。
【0092】
エラストマー性ポリマーセグメントは、重合体に柔軟性を付与するセグメントであり、ガラス転移点が25℃以下であることが好ましく、0℃以下であることがより好ましい。その構成単位としては、たとえば、TFE、CTFE、HFP、一般式:
CF=CFO(CFCFXO)−(CFCFCFO)−R
(式中、Xは、フッ素原子または−CF、Rは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基、pは、0〜5の整数、qは、0〜5の整数である)
で表されるパーフルオロビニルエーテルなどのパーハロオレフィン;VdF、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、フッ化ビニルなどの含フッ素単量体;エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテルなどの非フッ素単量体などがあげられる。
【0093】
架橋部位を与える単量体としては、たとえば、一般式:
CX=CX−RCHR15
(式中、Xは、水素原子、フッ素原子または−CH、Rは、フルオロアルキレン基、パーフルオロアルキレン基、フルオロポリオキシアルキレン基またはパーフルオロポリオキシアルキレン基、R15は、水素原子または−CH、Xは、ヨウ素原子または臭素原子である)
で表されるヨウ素または臭素含有単量体、一般式:
CF=CFO(CFCF(CF)O)(CF−X
(式中、mは、0〜5の整数、nは、1〜3の整数、Xは、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基又は臭素原子である)
で表されるような単量体などがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または任意に組合わせて用いることができる。
【0094】
非エラストマー性ポリマーセグメントの構成単位としては、TFE、CTFE、PAVE、HFP、一般式:
CF=CF(CF
(式中、rは、1〜10の整数、Xは、フッ素原子または塩素原子である)
で表される化合物、パーフルオロ−2−ブテンなどのパーハロオレフィン;VdF、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、一般式:
CH=CX−(CF−X
(式中、Xは、水素原子またはフッ素原子、sは、1〜10の整数)
で表される化合物、CH=C(CFなどの部分フッ素化オレフィン;エチレン、プロピレン、塩化ビニル、ビニルエーテル、カルボン酸ビニルエステル、アクリル酸などの非フッ素単量体などをあげることができる。
【0095】
また、これらの中でも、エラストマー性ポリマーセグメントが、TFE/VdF/HFPの共重合体であり、かつ非エラストマー性ポリマーセグメントが、TFE/エチレンの共重合体である含フッ素熱可塑性エラストマーが好ましく、エラストマー性ポリマーセグメントが、TFE/VdF/HFP=0〜35/40〜90/5〜50モル%であり、かつ非エラストマー性ポリマーセグメントが、TFE/エチレン=20〜80/80〜20モル%である含フッ素熱可塑性エラストマーがより好ましい。
【0096】
含フッ素熱可塑性エラストマーは、1分子中にエラストマー性ポリマーセグメントと非エラストマー性ポリマーセグメントがブロックやグラフトの形態で結合した含フッ素多元セグメント化ポリマーであることが好ましく、含フッ素熱可塑性エラストマーが、1個のエラストマー性ポリマーセグメントと、2個の非エラストマー性ポリマーセグメントからなり、かつそのうちの少なくとも一方は含フッ素ポリマーセグメントであるトリブロックポリマーからなることが好ましい。
【0097】
含フッ素熱可塑性エラストマーとしては、エラストマー性ポリマーセグメントと非エラストマー性ポリマーセグメントとをブロックやグラフトなどの形態でつなぎ、含フッ素多元セグメント化ポリマーとするべく、公知の種々の方法が採用できるが、なかでも特公昭58−4728号公報などに示されたブロック型の含フッ素多元セグメント化ポリマーの製法や、特開昭62−34324号公報に示されたグラフト型の含フッ素多元セグメント化ポリマーの製法などが好ましく採用できる。
【0098】
とりわけ、セグメント化率(ブロック化率)も高く、均質で規則的なセグメント化ポリマーが得られることから、特公昭58−4728号公報、高分子論文集(Vol.49、No.10、1992)記載のいわゆるヨウ素移動重合法で合成されたブロック型の含フッ素多元セグメント化ポリマーが好ましい。
【0099】
含フッ素熱可塑性エラストマーの好ましい製造方法としては、フッ素ゴムの製造法として公知のヨウ素移動重合法をあげることができる。たとえば、実質的に無酸素下で、水媒体中で、ヨウ素化合物、好ましくはジヨウ素化合物の存在下に、上記パーハロオレフィンと、要すれば硬化部位を与える単量体を加圧下で撹拌しながらラジカル開始剤の存在下、乳化重合を行なう方法があげられる。使用するヨウ素化合物の代表例としては、たとえば、一般式:
16Br
(式中、xおよびyはそれぞれ0〜2の整数であり、かつ1≦x+y≦2を満たすものであり、R16は炭素数1〜16の飽和もしくは不飽和のフルオロ炭化水素基またはクロロフルオロ炭化水素基、または炭素数1〜3の炭化水素基であり、酸素原子を含んでいてもよい)
で表される化合物を存在させることによって得られる。このようにして導入されるヨウ素または臭素が架橋点として機能する。
【0100】
ヨウ素化合物としては、たとえば1,3−ジヨードパーフルオロプロパン、1,3−ジヨード−2−クロロパーフルオロプロパン、1,4−ジヨードパーフルオロブタン、1,5−ジヨード−2,4−ジクロロパーフルオロペンタン、1,6−ジヨードパーフルオロヘキサン、1,8−ジヨードパーフルオロオクタン、1,12−ジヨードパーフルオロドデカン、1,16−ジヨードパーフルオロヘキサデカン、ジヨードメタン、1,2−ジヨードエタン、1,3−ジヨード−n−プロパン、CFBr、BrCFCFBr、CFCFBrCFBr、CFClBr、BrCFCFClBr、CFBrClCFClBr、BrCFCFCFBr、BrCFCFBrOCF、1−ブロモ−2−ヨードパーフルオロエタン、1−ブロモ−3−ヨードパーフルオロプロパン、1−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブタン、2−ブロモ−3−ヨードパーフルオロブタン、3−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブテン−1、2−ブロモ−4−ヨードパーフルオロブテン−1、ベンゼンのモノヨードモノブロモ置換体、ジヨードモノブロモ置換体、ならびに(2−ヨードエチル)および(2−ブロモエチル)置換体などがあげられ、これらの化合物は、単独で使用してもよく、相互に組み合わせて使用することもできる。
【0101】
これらのなかでも、重合反応性、架橋反応性、入手容易性などの点から、1,4−ジヨードパーフルオロブタン、ジヨードメタンなどを用いるのが好ましい。
【0102】
本発明で使用するラジカル重合開始剤は、従来から含フッ素エラストマーの重合に使用されているものと同じものであってよい。これらの開始剤には有機および無機の過酸化物ならびにアゾ化合物がある。典型的な開始剤として過硫酸塩類、過酸化カーボネート類、過酸化エステル類などがあり、好ましい開始剤として過硫酸アンモニウム(APS)があげられる。APSは単独で使用してもよく、またサルファイト類、亜硫酸塩類のような還元剤と組み合わせて使用することもできる。
【0103】
乳化重合に使用される乳化剤としては、広範囲なものが使用可能であるが、重合中におこる乳化剤分子への連鎖移動反応を抑制する観点から、フルオロカーボン鎖、またはフルオロポリエーテル鎖を有するカルボン酸の塩類が望ましい。乳化剤の使用量は、添加された水の約0.05〜2質量%が好ましく、とくに0.2〜1.5質量%が好ましい。
【0104】
重合圧力は、広い範囲で変化させることができる。一般には、0.5〜5MPaの範囲である。重合圧力は、高い程重合速度が大きくなるため、生産性の向上の観点から、0.8MPa以上であることが好ましい。
【0105】
上記ヨウ素移動重合法で含フッ素熱可塑性エラストマーのエラストマー性ポリマーセグメントを製造した場合、その数平均分子量は、得られる含フッ素多元セグメント化ポリマー全体へ柔軟性の付与、弾性の付与、機械的物性の付与の点から、3,000〜750,000であることが好ましく、5,000〜300,000であることがより好ましい。
【0106】
このようにして得られるエラストマー性ポリマーセグメントの末端部分はパーハロ型となっており、非エラストマー性ポリマーセグメントのブロック共重合の開始点となるヨウ素原子を有している。
【0107】
ついで、非エラストマー性ポリマーセグメントのエラストマー性ポリマーセグメントへのブロック共重合は、エラストマー性ポリマーセグメントの乳化重合に引き続き、単量体を非エラストマー性ポリマーセグメント用に変えることにより行なうことができる。
【0108】
得られる非エラストマー性ポリマーセグメントの数平均分子量は、フッ素樹脂組成物への耐熱性の付与、機械的物性の付与の点から、1,000〜1,200,000が好ましく、より好ましくは3,000〜600,000である。
【0109】
また、含フッ素熱可塑性エラストマーには、非エラストマー性ポリマーセグメントが結合していないエラストマー性ポリマーセグメントのみのポリマー分子は、含フッ素熱可塑性エラストマー中のセグメントとポリマー分子との合計量に対し20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%以下である。
【0110】
上記フッ素ゴムとしては、架橋された架橋フッ素ゴムであることが好ましい。架橋フッ素ゴムは、上記フッ素樹脂及び架橋剤の存在下、未架橋のフッ素ゴムを溶融条件下にて動的に架橋処理したものであることが、フッ素樹脂組成物から形成される成形品又は後述のフッ素樹脂層(a)の柔軟性が向上することから好ましい。この場合、後述する本発明の積層体の引張弾性率を300MPa以下とすることも可能である。また、エラストマーとの接着性を向上させることも可能である。
【0111】
ここで、動的に架橋処理するとは、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、押出機等を使用して、未架橋のフッ素ゴムを溶融混練と同時に動的に架橋させることをいう。これらの中でも、高剪断力を加えることができる点で、二軸押出機等の押出機であることが好ましい。動的に架橋処理することで、フッ素樹脂と架橋フッ素ゴムの相構造を制御することができる。
【0112】
また、溶融条件下とは、フッ素樹脂が溶融する温度以上であることを意味する。好適な温度範囲はフッ素樹脂の融点や未架橋のフッ素ゴムのガラス転移温度により異なるが、120〜330℃であることが好ましく、130〜320℃であることがより好ましい。温度が、120℃未満であると、フッ素樹脂とフッ素ゴムの間の分散が粗大化する傾向があり、330℃をこえると、フッ素ゴムが熱劣化する傾向がある。
【0113】
得られたフッ素樹脂組成物は、フッ素樹脂が連続相を形成し、かつ架橋フッ素ゴムが分散相を形成する構造、またはフッ素樹脂と架橋フッ素ゴムが共連続を形成する構造を有することができるが、その中でも、フッ素樹脂が連続相を形成し、かつ架橋フッ素ゴムが分散相を形成する構造を有することが好ましい。
【0114】
未架橋のフッ素ゴムが、分散当初マトリックスを形成していた場合でも、架橋反応の進行に伴い、未架橋のフッ素ゴムが架橋フッ素ゴムとなることで溶融粘度が上昇し、架橋フッ素ゴムが分散相になるか、またはフッ素樹脂との共連続構造を形成する。
【0115】
また、フッ素樹脂組成物は、フッ素樹脂が連続相を形成し、かつ架橋フッ素ゴムが分散相を形成する構造の一部に、フッ素樹脂と架橋フッ素ゴムとの共連続構造を含んでいても良い。
【0116】
このような構造を形成すると、フッ素樹脂組成物を成形した場合に、優れた燃料バリア性、耐熱性、耐薬品性および耐油性を示すと共に、良好な成形加工性を有する成形品が得られる。架橋フッ素ゴムの平均分散粒子径は、0.01〜30μmであることが好ましく、0.1〜20μmであることがより好ましく、0.1〜10μmであることがさらに好ましい。平均分散粒子径が、0.01μm未満であると、流動性が低下する傾向があり、30μmをこえると、成形品の強度が低下する傾向がある。
【0117】
架橋フッ素ゴムのフッ素濃度は、68質量%以上であることが好ましく、68〜75質量%であることがより好ましく、69〜74質量%であることがさらに好ましく、70〜73質量%であることが特に好ましい。フッ素濃度が68質量%未満であると成形した場合に燃料バリア性が低下する傾向がある。
【0118】
動的な架橋処理に用いられる架橋剤は、フッ素ゴムの種類や溶融混練条件に応じて、適宜選択することができる。
【0119】
動的な架橋処理に用いられる架橋系は、パーフルオロフッ素ゴム、非パーフルオロフッ素ゴム、または含フッ素熱可塑性エラストマーに架橋性基(キュアサイト)が含まれる場合は、キュアサイトの種類によって、または成形品の用途により適宜選択すればよい。
【0120】
架橋系としては、ポリオール架橋系、有機過酸化物架橋系およびポリアミン架橋系のいずれも採用できる。
【0121】
ここで、ポリオール架橋系により架橋してなる場合は、架橋点に炭素−酸素結合を有しており、圧縮永久歪みが小さく、成形性も良い、という特徴がある点で好適である。
【0122】
有機過酸化物架橋系により架橋してなる場合は、架橋点に炭素−炭素結合を有しているので、架橋点に炭素−酸素結合を有するポリオール架橋系および炭素−窒素二重結合を有するポリアミン架橋系に比べて、耐薬品性および耐スチーム性に優れているという特徴がある。
【0123】
ポリアミン架橋により架橋してなる場合は、架橋点に炭素−窒素二重結合を有しているものであり、動的機械特性に優れているという特徴がある。しかし、ポリオール架橋系または有機過酸化物架橋系架橋剤を用いて架橋してなる場合に比べて、圧縮永久歪みが大きくなる傾向がある。
【0124】
したがって、動的な架橋処理には、ポリオール架橋系または有機過酸化物架橋系の架橋剤を用いることが好ましく、ポリオール架橋系の架橋剤を用いることがより好ましい。
【0125】
動的な架橋処理に用いる架橋剤は、有機過酸化物、ポリアミン化合物およびポリヒドロキシ化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0126】
ポリアミン化合物としては、たとえば、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミン、4,4’−ビス(アミノシクロヘキシル)メタンカルバメートなどのポリアミン化合物があげられる。これらの中でも、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミンが好ましい。
【0127】
ポリヒドロキシ化合物としては、従来、フッ素ゴムの架橋剤として知られている化合物を用いることができ、特に、耐熱性に優れる点からポリヒドロキシ芳香族化合物が好適に用いられる。
【0128】
上記ポリヒドロキシ芳香族化合物としては、特に限定されず、たとえば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAという)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン(以下、ビスフェノールAFという)、レゾルシン、1,3−ジヒドロキシベンゼン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、4,4’―ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシスチルベン、2,6−ジヒドロキシアントラセン、ヒドロキノン、カテコール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン(以下、ビスフェノールBという)、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)吉草酸、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)テトラフルオロジクロロプロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、トリ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、3,3’,5,5’−テトラクロロビスフェノールA、3,3’,5,5’−テトラブロモビスフェノールAなどがあげられる。これらのポリヒドロキシ芳香族化合物は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などであってもよいが、酸を用いて共重合体を凝析した場合は、上記金属塩は用いないことが好ましい。
【0129】
有機過酸化物としては、熱や酸化還元系の存在下で容易にパーオキシラジカルを発生し得る有機過酸化物であればよく、たとえば1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゼン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどをあげることができる。これらの中でも、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3が好ましい。
【0130】
これらの中でも、得られる成形品などの圧縮永久歪みが小さく、成形性に優れているという点から、ポリヒドロキシ化合物が好ましく、耐熱性が優れることからポリヒドロキシ芳香族化合物がより好ましく、ビスフェノールAFがさらに好ましい。
【0131】
また、ポリオール架橋系においては、ポリオール系架橋剤と併用して、通常、架橋促進剤を用いる。架橋促進剤を用いると、フッ素ゴム主鎖の脱フッ酸反応における分子内二重結合の形成を促進することにより架橋反応を促進することができる。
【0132】
ポリオール架橋系の架橋促進剤としては、一般にオニウム化合物が用いられる。オニウム化合物としては特に限定されず、たとえば、第4級アンモニウム塩等のアンモニウム化合物、第4級ホスホニウム塩等のホスホニウム化合物、オキソニウム化合物、スルホニウム化合物、環状アミン、1官能性アミン化合物などがあげられ、これらの中でも第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩が好ましい。
【0133】
第4級アンモニウム塩としては特に限定されず、たとえば、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムアイオダイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムメチルスルフェート、8−エチル−1,8―ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−プロピル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−エイコシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−テトラコシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライド(以下、DBU−Bとする)、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−フェネチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7―ウンデセニウムクロライド、8−(3−フェニルプロピル)−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロライドなどがあげられる。これらの中でも、架橋性、架橋物の物性の点から、DBU−Bが好ましい。
【0134】
また、第4級ホスホニウム塩としては特に限定されず、たとえば、テトラブチルホスホニウムクロライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド(以下、BTPPCとする)、ベンジルトリメチルホスホニウムクロライド、ベンジルトリブチルホスホニウムクロライド、トリブチルアリルホスホニウムクロライド、トリブチル−2−メトキシプロピルホスホニウムクロライド、ベンジルフェニル(ジメチルアミノ)ホスホニウムクロライドなどをあげることができ、これらの中でも、架橋性、架橋物の物性の点から、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド(BTPPC)が好ましい。
【0135】
また、架橋促進剤として、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩とビスフェノールAFの固溶体、特開平11−147891号公報に開示されている塩素フリー架橋促進剤を用いることもできる。
【0136】
有機過酸化物架橋促進剤としては、例えば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N′−m−フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタレートアミド、トリアリルホスフェート、ビスマレイミド、フッ素化トリアリルイソシアヌレート(1,3,5−トリス(2,3,3−トリフルオロ−2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン)、トリス(ジアリルアミン)−S−トリアジン、亜リン酸トリアリル、N,N−ジアリルアクリルアミド、1,6−ジビニルドデカフルオロヘキサン、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N′,N′−テトラアリルフタルアミド、N,N,N′,N′−テトラアリルマロンアミド、トリビニルイソシアヌレート、2,4,6−トリビニルメチルトリシロキサン、トリ(5−ノルボルネン−2−メチレン)シアヌレート、トリアリルホスファイトなどがあげられる。これらの中でも、架橋性、架橋物の物性の点から、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)が好ましい。
【0137】
架橋剤の配合量としては、未架橋のフッ素ゴムの合計100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.3〜5質量部である。架橋剤が、0.1質量部未満であると、未架橋のフッ素ゴムの架橋が充分に進行せず、得られる成形品の耐熱性および耐油性が低下する傾向があり、10質量部をこえると、フッ素樹脂組成物の成形加工性が低下する傾向がある。
【0138】
架橋促進剤の配合量としては、未架橋のフッ素ゴムの合計100質量部に対して、0.01〜8質量部であることが好ましく、より好ましくは0.02〜5質量部である。架橋促進剤が、0.01質量部未満であると、未架橋のフッ素ゴムの架橋が充分に進行せず、得られる成形品の耐熱性および耐油性が低下する傾向があり、8質量部をこえると、フッ素樹脂組成物の成形加工性が低下する傾向がある。
【0139】
本発明のフッ素樹脂組成物において、フッ素樹脂と架橋フッ素ゴムとの組成比は、フッ素樹脂10〜95質量%、架橋フッ素ゴム90〜5質量%であることが好ましく、フッ素樹脂20〜90質量%、架橋フッ素ゴム80〜10質量%であることがより好ましい。フッ素樹脂が10質量%未満であると、得られる成形品の燃料バリア性が悪化し、成形加工性が低下する傾向があり、95質量%をこえると、得られる成形品の柔軟性が低下する傾向がある。
【0140】
本発明のフッ素樹脂組成物は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタンなどの他の重合体、炭酸カルシウム、タルク、セライト、クレー、酸化チタン、カーボンブラック、硫酸バリウムなどの無機充填材、顔料、難燃剤、滑剤、光安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、発泡剤、香料、オイル、柔軟化剤などを、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で含有してもよい。
【0141】
フッ素樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)は、0.2〜50g/10分であることが好ましく、1〜25g/10分であることがより好ましい。MFRが0.2g/10分未満であると、流動性が悪化し、成形加工性が低下する傾向がある。ここで、MFRは、(株)東洋精機製作所製メルトフローレート測定装置を使用して、297℃、5000g荷重の条件下にて実施する時の値を示す。
【0142】
本発明のフッ素樹脂組成物を製造する方法は特に限定されないが、フッ素樹脂と多官能化合物とを、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、押出機等を用いてフッ素樹脂の融点以上で溶融混練する方法や、フッ素樹脂を含む水性分散液に多官能化合物を添加し共凝析する方法等があげられる。
【0143】
本発明のフッ素樹脂組成物を製造する方法としては、また、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、押出機等を用いて、フッ素樹脂、多官能化合物、未架橋のフッ素ゴム、及び、架橋剤をフッ素樹脂の融点以上で溶融混練する方法があげられる。この方法によれば、動的に架橋された架橋フッ素ゴムを含むフッ素樹脂組成物を製造できる。未架橋のフッ素ゴム及び架橋剤を混練してフッ素ゴム組成物を得た後、該フッ素ゴム組成物をフッ素樹脂及び多官能化合物と溶融混練してフッ素樹脂組成物を得てもよい。
【0144】
本発明は、上記フッ素樹脂組成物から形成されるフッ素樹脂層(a)と、エラストマー組成物から形成されるエラストマー層(b)と、を含むことを特徴とする積層体でもある。
【0145】
上記エラストマー組成物は、エラストマーを含むものであり、エラストマーとしては、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、ブチルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、α,β−不飽和ニトリル−共役ジエン共重合体ゴム、α,β−不飽和ニトリル−共役ジエン共重合体ゴムの水素化物等があげられる。
【0146】
上記エラストマー組成物は、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム及びアクリルゴムからなる群より選択される少なくとも1種のエラストマーを含むことが好ましい。なかでも、上記エラストマー組成物は、耐熱性、耐油性、耐候性、押し出し成型性の点から、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドロリンゴムからなる群より選択される少なくとも1種のエラストマーを含むことがより好ましい。
【0147】
上記エラストマー組成物は、フッ素樹脂層(a)とエラストマー層(b)との接着力向上の点から、オニウム塩、アミン化合物、エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。
【0148】
オニウム塩としては特に限定されず、例えば、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、オキソニウム塩、スルホニウム塩、環状アミン、1官能性アミン化合物などがあげられ、これらの中でも第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩が好ましい。
【0149】
第4級アンモニウム塩としては特に限定されず、例えば、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムアイオダイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムメチルスルフェート、8−エチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−プロピル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−エイコシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−テトラコシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド(以下、DBU−Bともいう)、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−フェネチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−(3−フェニルプロピル)−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、式(7):
【0150】
【化4】

【0151】
(式中、3つのRは、同じであっても異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜30の1価の有機基であり、Xは1価の陰イオンである)
で示される化合物、
式(8):
【0152】
【化5】

【0153】
(式中、nは、0〜50の整数である)
で示される化合物、および
式(9):
【0154】
【化6】

【0155】
などがあげられる。
【0156】
式(7)中の、3つのRは、それぞれ同じかまたは異なり、水素原子、または炭素数1〜30の1価の有機基である。炭素数1〜30の1価の有機基としては、特に限定されるものではないが、脂肪族炭化水素基、フェニル基などのアリール基、またはベンジル基があげられる。具体的には、例えば、−CH、−C、−Cなどの炭素数1〜30のアルキル基;−CX、−C、−CH、−CHCX、−CHなどの炭素数1〜30のハロゲン原子含有アルキル基(Xは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子);フェニル基;ベンジル基;−C、−CHなどのフッ素原子で1〜5個の水素原子が置換されたフェニル基またはベンジル基;−C5−n(CF、−CH5−n(CF(nは1〜5の整数)などの−CFで1〜5個の水素原子が置換されたフェニル基またはベンジル基などがあげられる。また、式(10):
【0157】
【化7】

【0158】
のように、窒素原子を含んでいてもよい。
【0159】
これらのうち、フッ素樹脂層(a)とエラストマー層(b)との接着力が良好な点から上記のDBU−Bまたは、R13、R14、R15が炭素数1〜20のアルキル基またはベンジル基、Xが1価の陰イオンであり、ハロゲンイオン(F、Cl、Br、I)、OH、RO、RCOO、C、SO2−、SO2−、SO、RSO2−、CO2−、NO(Rは1価の有機基)で表される式(7)、式(8)などが好ましく、式(7)中のXとしては、Clがより好ましい。また、式(8)中では、ゴムとの混練り時の分散性の点から、nは0〜10の整数であることがより好ましく、1〜5の整数であることがさらに好ましい。
【0160】
これらの中でも、特に、式(11):
【0161】
【化8】

【0162】
で示される化合物であることが好ましい。
【0163】
第4級ホスホニウム塩としては特に限定されず、例えば、テトラブチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド(以下、BTPPCともいう)、ベンジルトリメチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリブチルホスホニウムクロリド、トリブチルアリルホスホニウムクロリド、トリブチル−2−メトキシプロピルホスホニウムクロリド、ベンジルフェニル(ジメチルアミノ)ホスホニウムクロリドなどをあげることができ、これらの中でも、フッ素樹脂層(a)とエラストマー層(b)との接着力が良好な点から、BTPPCが好ましい。
【0164】
また、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩とビスフェノールAFの固溶体、特開平11−147891号公報に開示されている化合物を用いることもできる。
【0165】
オニウム塩の配合量は、エラストマー100質量部に対して、0.1〜10.0質量部が好ましく、0.2〜8.0質量部がより好ましく、0.3〜7.0質量部がさらに好ましい。オニウム塩の配合量が、0.1質量部未満であるとフッ素樹脂層(a)とエラストマー層(b)との接着性が充分に発現できない傾向があり、10.0質量部をこえるとエラストマー組成物への分散性が悪化しエラストマー層の機械物性が低下する傾向がある。
【0166】
アミン化合物としては特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミン(以下、V3ともいう)、4,4’−ビス(アミノシクロヘキシル)メタンカルバメートなどの脂肪族ポリアミン化合物誘導体や、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル〔4,4’−DPE〕、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン〔BAPP〕、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,5−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン、N,N’−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン、4,4’−メチレンジアニリン、ジアニリノエタン、4,4’−メチレン−ビス(3−ニトロアニリン)、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、ジアミノピリジン、メラミンなどの芳香族ポリアミン化合物を使用することができる。これらの中でも、フッ素樹脂層(a)とエラストマー層(b)との接着力が良好な点から、V3、4,4’−DPE、BAPPが好ましい。
【0167】
アミン化合物の配合量は、エラストマー100質量部に対して、0.1〜10.0質量部が好ましく、0.2〜8.0質量部がより好ましく、0.3〜7.0質量部がさらに好ましい。アミン化合物の配合量が、0.1質量部未満であるとフッ素樹脂層(a)とエラストマー層(b)との接着性が充分に発現できない傾向があり、10.0質量部をこえるとエラストマー組成物への分散性が悪化しエラストマー層の機械物性が低下する傾向がある。
【0168】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂等があげられる。これらのうちビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、式(12):
【0169】
【化9】

【0170】
で表わされる化合物等があげられる。ここで、式(12)において、nは0.1〜3が好ましく、0.1〜0.5がより好ましく、0.1〜0.3がさらに好ましい。nが0.1未満であると、他材との接着力が低下する傾向がある。一方、nが3をこえると、粘度が高くなり、ゴム中での均一な分散が困難になる傾向がある。
【0171】
エポキシ樹脂の配合量は、エラストマー100質量部に対して、0.1〜20.0質量部が好ましく、0.3〜15.0質量部がより好ましく、0.5〜10.0質量部がさらに好ましい。エポキシ樹脂の配合量が0.1質量部未満であると、フッ素樹脂層(a)とエラストマー層(b)との接着性が充分に発現できない傾向があり、一方、エポキシ樹脂の配合量が20.0質量部をこえると、エラストマー層(b)の柔軟性が低下する傾向がある。
【0172】
エラストマー組成物に含まれるエラストマーは、未架橋のエラストマーであってもよいし、架橋したエラストマーであってもよいが、層(a)との接着性に優れる点で架橋前のエラストマーであることが好ましい。
【0173】
架橋剤としては、通常のエラストマーに使用される架橋剤であれば全て使用できる。例えば、イオウ系架橋剤、パーオキサイド系架橋剤、ポリチオール系架橋剤、キノイド系架橋剤、樹脂系架橋剤、金属酸化物、ジアミン系架橋剤、ポリチオール類、2−メルカプトイミダゾリン、ポリオール系架橋剤、ポリアミン系架橋剤などの架橋剤があり、なかでもパーオキサイド系架橋剤、ポリオール系架橋剤、ポリアミン系架橋剤などが接着特性および得られた架橋ゴムの機械物性の点から好ましい。
【0174】
エラストマー組成物中に配合される架橋剤の配合量としては、エラストマー100質量部に対して、0.2〜10質量部が好ましく、0.5〜8質量部がより好ましい。架橋剤が、0.2質量部未満であると、架橋密度が低くなり圧縮永久歪みが大きくなる傾向があり、10質量部をこえると、架橋密度が高くなりすぎるため、圧縮時に割れやすくなる傾向がある。
【0175】
また、エラストマー組成物には必要に応じて添加物、例えば充填材、加工助剤、可塑剤、着色剤、安定剤、架橋助剤、接着助剤、受酸剤、離型剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、表面非粘着剤、柔軟性付与剤、耐熱性改善剤、難燃剤などの各種添加剤を配合することができ、上記のものとは異なる常用の架橋剤や架橋促進剤を1種またはそれ以上配合してもよい。
【0176】
エラストマー組成物は、エラストマー、オニウム塩、アミン化合物および/またはエポキシ樹脂、架橋剤、架橋助剤、共架橋剤、架橋促進剤、及び、充填材などのその他配合剤を、一般に使用されているゴム混練り装置を用いて混練りすることにより得られる。ゴム混練り装置としては、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、インターナルミキサー、二軸押出機などを用いることができる。
【0177】
特に、架橋剤としてポリオール系架橋剤を用いる場合には、架橋剤・架橋促進剤の融点が比較的高い場合が多く、エラストマー組成物中に均一に分散させるために、架橋剤・架橋促進剤をニーダーなどの密閉型の混練り装置を用いて120〜200℃の高温で溶融させながら混練りした後に、充填材などのその他配合剤をこれ以下の比較的低温で混練りする方法が好ましい。また、架橋剤と架橋促進剤を一旦溶融させ融点降下を起こさせた固溶体を用いて均一分散させる方法もある。
【0178】
架橋条件としては、使用する架橋剤などの種類により適宜決めればよいが、通常、150〜300℃の温度で、1分〜24時間焼成を行う。
【0179】
また、架橋方法としては、スチーム架橋など通常用いられている方法はもちろんのこと、常圧、加圧、減圧下においても、また、空気中においても、どのような条件下においても架橋反応を行うことができる。
【0180】
本発明の積層体の製造方法も本発明の1つである。
【0181】
本発明の積層体は、シート状のフッ素樹脂とシート状のエラストマーとを積層させ金型にセットしてヒートプレスすることにより製造することができる。また、フッ素樹脂組成物とエラストマー組成物とを、押出機により2層同時押出し、または2基の押出機により内側層上に外側層を押出しすることにより内側層と外側層からなる積層体を押出機により押出して一体化し、ついで架橋接着させることによっても製造することができる。
【0182】
積層体の構成は特に制限されるものではなく、例えば、フッ素樹脂層(a)とエラストマー層(b)からなる2層構成、同一または異なる2種類のエラストマー層(b)の間にフッ素樹脂層(a)を挿入した3層構成、等を用いることができる。また、本発明の積層体に任意の材料をさらに積層させることも可能である。
【0183】
また、フッ素樹脂層(a)とエラストマー層(b)の接着性をさらに向上させるために、必要に応じてフッ素樹脂に表面処理を行ってもよい。この表面処理としては、接着を可能とする処理方法であれば、その種類は特に制限されるものではなく、例えばプラズマ放電処理やコロナ放電処理等の放電処理、湿式法の金属ナトリウム/ナフタレン液処理などが挙げられる。また、表面処理としてプライマー処理も好適である。プライマー処理は常法に準じて行うことができる。プライマー処理を施す場合、表面処理を行っていないフッ素樹脂の表面を処理することもできるが、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、金属ナトリウム/ナフタレン液処理などを予め施したフッ素樹脂の表面を更にプライマー処理すると、より効果的である。
【0184】
本発明の積層体から形成される成形品も本発明の1つである。
【0185】
本発明の積層体は、層間の接着強度が高く、耐薬品性、耐油性、耐熱性、耐寒性を兼ね備える積層体であり、多層燃料チューブ(ホース)または多層燃料容器として有用である。特に自動車のエンジンならびに周辺装置、AT装置、燃料系統ならびに周辺装置などの多層燃料チューブまたは多層燃料容器として有用なものである。例えば、自動車用のフィラーホース、エバポホース、ブリーザーホース等の燃料チューブ(ホース);自動車用の燃料容器、自動2輪車用の燃料容器、小型発電機の燃料容器、芝刈機の燃料容器等の燃料容器があげられる。本発明の積層体から形成される燃料チューブ(ホース)も本発明の1つである。
【0186】
また、上記積層体の用途として、さらに、自動車用エンジンのエンジン本体、主運動系、動弁系、滑剤・冷却系、燃料系、吸気・排気系;駆動系のトランスミッション系;シャーシのステアリング系;ブレーキ系;電装品の基本電装部品、制御系電装部品、装備電装部品などの、耐熱性・耐油性・燃料油耐性・エンジン冷却用不凍液耐性・耐スチーム性が要求されるガスケットや非接触型および接触型のパッキン類(セルフシールパッキン、ピストンリング、割リング形パッキン、メカニカルシール、オイルシールなど)などのシール材などがあげられる。
【0187】
自動車用エンジンのエンジン本体に用いられるシール材としては、特に限定されないが、例えば、シリンダーヘッドガスケット、シリンダーヘッドカバーガスケット、オイルパンパッキン、一般ガスケットなどのガスケット、Oリング、パッキン、タイミングベルトカバーガスケットなどのシール材などがあげられる。
【0188】
自動車用エンジンの主運動系に用いられるシール材としては、特に限定されるものではないが、例えば、クランクシャフトシール、カムシャフトシールなどのシャフトシールなどがあげられる。
【0189】
自動車用エンジンの動弁系に用いられるシール材としては、特に限定されるものではないが、例えば、エンジンバルブのバルブステムオイルシールなどがあげられる。
【0190】
自動車用エンジンの滑剤・冷却系に用いられるシール材としては、特に限定されるものではないが、例えば、エンジンオイルクーラーのシールガスケットなどがあげられる。
【0191】
自動車用エンジン燃料系に用いられるシール材としては、特に限定されるものではないが、例えば、燃料ポンプのオイルシール、燃料タンクのフィラーシール、タンクパッキンなど、燃料チューブのコネクターOリンクなど、燃料噴射装置のインジェクタークッションリング、インジェクターシールリング、インジェクターOリングなど、キャブレターのフランジガスケットなどがあげられる。
【0192】
自動車用エンジンの吸気・排気系に用いられるシール材としては、特に限定されるものではないが、例えば、マニホールドの吸気マニホールドパッキン、排気マニホールドパッキン、スロットルのスロットルボディパッキン、ターボチャージのタービンシャフトシールなどがあげられる。
【0193】
自動車用エンジンのトランスミッション系に用いられるシール材としては、特に限定されるものではないが、例えば、トランスミッション関連のベアリングシール、オイルシール、Oリング、パッキンなど、オートマチックトランスミッションのOリング、パッキン類などがあげられる。
【0194】
自動車用エンジンのブレーキ系に用いられるシール材としては、特に限定されるものではないが、例えば、オイルシール、Oリング、パッキンなど、マスターシリンダーのピストンカップ(ゴムカップ)など、キャリパーシール、ブーツ類などがあげられる。
【0195】
自動車用エンジンの装備電装品に用いられるシール材としては、特に限定されるものではないが、例えば、カーエアコンのOリング、パッキンなどがあげられる。
【0196】
自動車用以外の用途としては、特に限定されず、例えば、船舶、航空機などの輸送機関における耐油、耐薬品、耐熱、耐スチームまたは耐候用のパッキン、Oリング、その他のシール材や燃料チューブ(ホース)、燃料タンク;化学プラントにおける同様のパッキン、Oリング、シール材や燃料チューブ(ホース)、燃料タンク;食品プラント機器および食品機器(家庭用品を含む)における同様のパッキン、Oリング、シール材や燃料チューブ(ホース)、燃料タンク;原子力プラント機器における同様のパッキン、Oリング、シール材や燃料チューブ(ホース)、燃料タンク;一般工業部品における同様のパッキン、Oリング、シール材や燃料チューブ(ホース)、燃料タンクなどがあげられる。
【0197】
本発明の成形品は上記の各種用途に好適に用いることができ、特に燃料周辺部品として好適である。また、本発明の成形品は、特に、シール材、パッキン、ローラー、チューブまたはホースとして有用である。
【発明の効果】
【0198】
本発明のフッ素樹脂組成物は、エラストマーとの接着性に優れると同時に、MFRが比較的大きく成形性に優れ、高温加工時にも発泡を生じない。本発明の積層体は、上記フッ素樹脂組成物から形成されたフッ素樹脂層と特定のエラストマー層とを有するので、高い燃料バリア性と柔軟性を実現できるとともに、層間の接着強度が極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0199】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0200】
<シート状試験片の作製(フッ素樹脂層)>
各種フッ素樹脂組成物を金型にセットし、ヒートプレス機により、260〜300℃にて15〜30分保持し、フッ素樹脂組成物を溶融状態にした後、3MPaの負荷を1分間与え圧縮成形し、所定の厚さのシート状試験片を作製した。
【0201】
<シート状試験片の作製(エラストマー層)>
8インチオープンロールにて各種エラストマー組成物から所定の厚さのシート状試験片を作製した。
【0202】
<積層体の作製>
上記方法にて厚さ0.5mmのフッ素樹脂組成物のシート状試験片と厚さ1.5〜2.0mmのエラストマー組成物のシート状試験片を作製した。これらのシート状試験片を重ね160℃に昇温した金型にセットし、ヒートプレス機により、160℃にて3MPaの負荷を45分与え、フッ素樹脂層―エラストマー層積層体を作製した。
【0203】
<接着性評価試験>
得られた積層体をそれぞれ1.0cm幅×10cmの短冊状に切断して接着試験用試験片を作製し、この試験片について、オートグラフ((株)島津製作所製 AGS−J 5kN)を使用して、JIS−K−6256(架橋ゴムの接着試験方法)に記載の方法に準拠し、25℃において50mm/minの引張速度で剥離試験を行い、以下の基準で評価した。
【0204】
(接着評価)
◎…フッ素樹脂層/エラストマー層界面は剥離せず、フッ素樹脂層またはエラストマー層が材料破壊した。
○…フッ素樹脂層/エラストマー層界面で剥離したが、充分に接着しており剥離するのが困難であった。
△…フッ素樹脂層/エラストマー層界面で比較的容易に剥離したが、接着性が見られた。
×…フッ素樹脂層とエラストマー層とが全く接着性を示さなかった。
【0205】
<赤外吸収スペクトルによる官能基分析>
上記の方法にて厚さ0.15〜0.30mmのシート状試験片を作製し、Perkin−Elmer FT−IRスペクトロメーター1760X(パーキンエルマー社製)を用いて赤外吸収スペクトルを分析した。得られた赤外吸収スペクトルをPerkin−Elmer Spectrum for windows Ver.1.4Cを用いて自動でベースラインを判定させ、所定のピークの吸光度を測定した。なお、フィルムの厚さはマイクロメーターを用いて測定した。また、必要に応じ、官能基を有しないベース樹脂との差スペクトルも使用した。
【0206】
<フッ素樹脂の共重合体の組成の測定>
フッ素樹脂の共重合体組成は19F−NMRおよびフッ素の元素分析測定、IRより求めた。
【0207】
<燃料透過係数の測定>
上記の方法で厚さ0.5mmのシート状試験片を作製した。20mLの容積を有するSUS製容器(開放部面積1.26×10−3)に模擬燃料であるCE10(トルエン/イソオクタン/エタノール=45/45/10容量%)を18mL入れて、上記シート状試験片を容器開放部にセットして密閉することで、試験体とする。該試験体を恒温装置(60℃)に入れ、試験体の重量を測定し、単位時間あたりの重量減少が一定となったところで下記の式により燃料透過係数を求めた。
【0208】
【数2】

【0209】
<引張弾性率の測定>
上記方法で厚さ2mmのシート状試験片を作製し、ASTM V型ダンベルを用いて幅3.18mm標線間距離7.6mmのダンベル状試験片を打ち抜く。得られたダンベル状試験片を用いて、オートグラフ((株)島津製作所製 AGS−J 5kN)を使用して、ASTM D638に準じて、25℃において50mm/minの引張速度で引張試験を行った。
【0210】
<フッ素樹脂の融点の測定>
セイコー型示差走査熱量計〔DSC〕を用い、10℃/分の速度で昇温したときの融解ピークを記録し、極大値に対応する温度を融点とした。
【0211】
<メルトフローレート(MFR)の測定>
メルトインデクサー(東洋精機製作所社製)を用い、297℃において、5kg荷重下で直径2mm、長さ8mmのノズルから単位時間(10分間)あたりに流出するポリマーの質量(g)を測定した。
【0212】
<発泡の有無の確認>
測定温度を330℃とするほかは上記MFRの測定と同様の方法にてメルトインデクサーのノズルからポリマーを流出させ、得られたポリマーのストランドの発泡状態を、10倍ルーペを用いて観察した。
○…発泡が観察された。
×…発泡が観察されなかった。
【0213】
<製造例>
実施例および比較例では、下記の材料を用いた。
【0214】
(フッ素樹脂層)
フッ素樹脂(a−1):−COOH基を有するFEP。モノマー組成はTFE/HFP/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)=91.9/7.7/0.4(モル比)。融点260℃。297℃におけるMFRは6.9g/10min。−COOH基数は480個(炭素原子100万個当たり)。引っ張り弾性率は450MPa。燃料透過係数は0.3(g・mm)/(m・day)。
【0215】
フッ素樹脂(a−2):−OC(=O)OCHCHCH基を有するFEP。モノマー組成はTFE/HFP/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)=91.8/7.6/0.6(モル比)。融点261℃。297℃におけるMFRは8.0g/10min。−OC(=O)OCHCHCH基数は410個(炭素原子100万個当たり)。引っ張り弾性率は460MPa。燃料透過係数は0.3(g・mm)/(m・day)。
【0216】
フッ素樹脂(a−3):−CF=CF基を有するFEP。モノマー組成はTFE/HFP/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)=91.9/7.7/0.4(モル比)。融点260℃。297℃におけるMFRは14.8g/10min。−CF=CF基数は380個(炭素原子100万個当たり)。引っ張り弾性率は450MPa。燃料透過係数は0.3(g・mm)/(m・day)。
【0217】
フッ素樹脂(a−4):−CF基、−CFH基を有するFEP。モノマー組成はTFE/HFP/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)=91.9/7.7/0.4(モル比)。融点260℃。297℃におけるMFRは7.8g/10min。−COOH基、−OC(=O)OCHCHCH基、−OC(=O)OCH(CH基、−COF基、−CF=CF基、−NH基はいずれも20個未満(炭素原子100万個当たり)。引っ張り弾性率は450MPa。燃料透過係数は0.3(g・mm)/(m・day)。
【0218】
フッ素樹脂(a−5):−COOH基を有するCTFE/TFE共重合体。モノマー組成はCTFE/TFE/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)=77/21/2(モル比)。融点245℃。297℃におけるMFRは3.0g/10min。−COOH基数は150個(炭素原子100万個当たり)。引っ張り弾性率は410MPa。燃料透過係数は0.3(g・mm)/(m・day)。
【0219】
フッ素樹脂(a−6):−OC(=O)OCHCHCH基を有するCTFE/TFE共重合体。モノマー組成はCTFE/TFE/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)=77/21/2(モル比)。融点245℃。297℃におけるMFRは29.5g/10min。−OC(=O)OCHCHCH基数は160個(炭素原子100万個当たり)。引っ張り弾性率は440MPa。燃料透過係数は0.3(g・mm)/(m・day)。
【0220】
(エラストマー層)
エラストマー組成物(b−1):NBRフルコンパウンド。アクリロニトリル−ブタジエンゴム(N530、JSR(株)製)100質量部にカーボンブラック(N990、Cancarb Ltd.製)43質量部、酸化亜鉛(ハイステック(株)製)7質量部、湿式シリカ(NipsilVN3、日本シリカ工業(株)製)21質量部、ステアリン酸(ルナック、花王(株)製)1.4質量部、老化防止剤(A.O.224、KING INDUSTRIES製)3質量部、可塑剤(Thiokol TP95、Morton International製)21質量部、ワックス(カルナバワックス、東亜化成(株)製)、過酸化物(パークミルD−40、日本油脂(株)製)3質量部を添加し8インチオープンロールを用いて混練し、エラストマー組成物(b−1)を得た。
【0221】
エラストマー組成物(b−2):NBRフルコンパウンド。アクリロニトリル−ブタジエンゴム(N530、JSR(株)製)100質量部にカーボンブラック(N990、Cancarb Ltd.製)43質量部、酸化亜鉛(ハイステック(株)製)7質量部、湿式シリカ(NipsilVN3、日本シリカ工業(株)製)21質量部、ステアリン酸(ルナック、花王(株)製)1.4質量部、老化防止剤(A.O.224、KING INDUSTRIES製)3質量部、可塑剤(Thiokol TP95、Morton International製)21質量部、ワックス(カルナバワックス、東亜化成(株)製)、過酸化物(パークミルD−40、日本油脂(株)製)3質量部、V3(ダイキン工業(株)製)6質量部、エピコート828(ジャパンエポキシレジン(株)製)6質量部を添加し8インチオープンロールを用いて混練し、エラストマー組成物(b−2)を得た。
【0222】
エラストマー組成物(b−3):FKMフルコンパウンド。3元フッ素ゴム生ゴム(G−558BP、ダイキン工業(株)製、VdF/TFE/HFP=58/20/22モル%)100質量部にビスフェノールAF(ダイキン工業(株)製)2.2質量部、DBU−B(和光純薬(株)製)0.56質量部、カーボンブラック(シーストS、東海カーボン(株)製)13質量部、酸化マグネシウム(キョーワマグ150、協和化学工業(株)製)3.0質量部、水酸化カルシウム(カルディック2000、近江化学工業(株)製)6.0質量部を添加し8インチオープンロールを用いて混練し、エラストマー組成物(b−3)を得た。
【0223】
エラストマー組成物(b−4):ECOフルコンパウンド。エピクロロヒドリンゴム(エピクロマーCG、ダイソー株式会社製)100.0質量部に、カーボンブラック(N−550、Cancarb Ltd.製)80質量部、Plasticizer(ADK cizer RS―107、旭電化工業株式会社)5.0質量部、Lubricant(Splender R−300)2.0質量部、老化防止剤(ノクラックNBC、大内新興化学工業(株))2.0質量部、合成ハイドロタルサイト(DHT−4A、協和化学工業(株))3.0質量部、酸化マグネシウム(キョーワマグ150、協和化学工業(株))3.0質量部、DBUフェノール樹脂塩(P−152)1.5質量部、6−メチルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネート(ダイソネット XL−21S、ダイソー株式会社製)1.5質量部を添加し8インチオープンロールを用いて混練し、エラストマー組成物(b−4)を得た。
【0224】
実施例1
280℃に昇温した内容積80mlのラボプラストミル((株)東洋精機製作所製)にてフッ素樹脂(a−1)80gを溶融させた後、3,4’−DPE(和歌山精化(株)製)0.64gを添加し、10分間溶融混練を行いフッ素樹脂組成物を得た。赤外吸収スペクトルより、フッ素樹脂(a−1)には観測されなかった1744cm−1の吸収帯を観測したことから、フッ素樹脂(a−1)と3,4’−DPEとの少なくとも一部がアミド結合により結合していることが示唆された。
【0225】
得られたフッ素樹脂組成物の引っ張り弾性率、燃料透過係数、MFRを測定し、発泡の有無を評価した。結果を表1に示す。
【0226】
上記フッ素樹脂組成物とエラストマー組成物(b−1〜4)とを用いて、上記の方法にしたがい積層体を作製した。この積層体の接着性を上記の方法により評価した。結果を表1に示す。
【0227】
実施例2〜9、比較例1〜3
表1に示すフッ素樹脂及び多官能化合物を使用したほかは実施例1と同様にしてフッ素樹脂組成物を得た。得られたフッ素樹脂組成物のMFRを測定し、発泡の有無を評価した。また、実施例1と同様にして積層体を作成し、接着性を評価した。結果を表1に示す。
【0228】
実施例10(動的架橋)
フッ素ゴム(ビニリデンフルオライド50モル%、テトラフルオロエチレン20モル%及びヘキサフルオロプロピレン30モル%からなる3元系ゴム;100℃におけるムーニー粘度=88)100質量部に、架橋剤として2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン(ダイキン工業(株)製「ビスフェノールAF」)2.0質量部、架橋促進剤としてベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド(BTPPC、北興化学工業(株)製)1.0質量部、酸化マグネシウム(キョーワマグ150協和化学工業(株))3質量部を添加し、8インチオープンロールを用いて混練し、フッ素ゴム組成物を得た。
【0229】
次に、フッ素樹脂(a−6)100質量部に対し、TFDPE(和歌山精化(株)製)1.1質量部とをドライブレンド法にて予備混合した後、該フッ素樹脂組成物80質量部と該フッ素ゴム組成物20質量部を、二軸押出機(φ=15mm、L/D=60)に別々のフィーダーから供給して、シリンダー温度260℃およびスクリュー回転数700rpmの条件下に溶融混練した。ダイスから出てきたストランドを冷却水槽で水冷し、ペレタイザーでカットすることにより、動的に架橋されたフッ素ゴムを含むフッ素樹脂組成物をペレット状の形態で得た。
【0230】
得られたフッ素樹脂組成物のMFRを測定し、発泡の有無を評価した。また、実施例1と同様にして積層体を作成し、接着性を評価した。結果を表1に示す。
【0231】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0232】
本発明のフッ素樹脂組成物は、フッ素樹脂層とエラストマー層とを有する積層体におけるフッ素樹脂層の形成に好適に利用可能である。本発明の積層体は、燃料チューブ等の成形体として好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーの主鎖末端又は側鎖末端にカルボニル基、オレフィン基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種を有するフッ素樹脂と、芳香族系非対称型多官能化合物と、を含み、
前記芳香族系非対称型多官能化合物は、前記フッ素樹脂100質量部に対し0.05〜10.0質量部である
ことを特徴とするフッ素樹脂組成物。
【請求項2】
芳香族系非対称型多官能化合物は、フッ素原子を有する請求項1記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項3】
更にフッ素ゴムを含む請求項1又は2記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項4】
フッ素樹脂は、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンからなる共重合体、エチレンとテトラフルオロエチレンからなる共重合体及びクロロトリフルオロエチレンとテトラフルオロエチレンからなる共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1、2又は3記載のフッ素樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載のフッ素樹脂組成物から形成されるフッ素樹脂層(a)と、
エラストマー組成物から形成されるエラストマー層(b)と、
を含むことを特徴とする積層体。
【請求項6】
エラストマー組成物は、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルとのブレンドゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム及びアクリルゴムからなる群より選択される少なくとも1種のエラストマーを含む請求項5記載の積層体。
【請求項7】
エラストマー組成物は、オニウム塩、アミン化合物及びエポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含む請求項4又は5記載の積層体。
【請求項8】
請求項5、6又は7記載の積層体から形成される成形品。
【請求項9】
請求項5、6又は7記載の積層体から形成される燃料チューブ。
【請求項10】
請求項5、6又は7記載の積層体の製造方法。

【公開番号】特開2010−180366(P2010−180366A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26597(P2009−26597)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】