説明

フッ素樹脂被覆電線及びそれを用いた同軸ケーブル並びにそれらの製造方法

【課題】 フッ素樹脂の高周波帯域での誘電損失が低減されたフッ素樹脂被覆電線、及びそれを用いた同軸ケーブル、並びにそれらを製造する方法を提供すること。
【解決手段】 融点の異なる少なくとも2種のフッ素樹脂の混合物を、中心導体に被覆したフッ素樹脂被覆電線及びそれから得られる同軸ケーブル、並びに融点の異なる少なくとも2種のフッ素樹脂を混合して得られる混合物を中心導体に被覆し、最低融点フッ素樹脂の融点以上、高融点フッ素樹脂の融点未満の温度で成形するフッ素樹脂被覆電線の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波帯域での誘電損失が少ないフッ素樹脂被覆電線、それを用いた同軸ケーブル、及びそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高周波伝送用の回線、基地局等といった通信システム用の同軸ケーブル、LANケーブル、フラットケーブル等のケーブル用途、携帯用電話機等の小型電子機器、プリント配線基板等の高周波伝送部品用途などでは誘電損失が生ずるため、できるだけ誘電損失を低減することが要求されている。誘電損失は低誘電率(ε)と低誘電正接(tanδ)との関数であるため、それらはいずれも小さいことが好ましい。これら誘電特性を有することに加え、成形加工性、さらにはメッキや半田付けに耐えられる耐熱性、ケーブルなどにした場合の強度なども要求されるため、従来からPTFEを始めとしたフッ素樹脂が使用されている。とりわけPTFEはその分子構造から結晶構造を取りやすく、重合後では重合結晶化されており結晶化度が高いため、未焼成及び半焼成状態のPTFEは誘電特性が良好であることが知られている。
【0003】
特開平2−273416号公報では、PTFE絶縁層をPTFE樹脂の融点未満かつ潤滑助剤の沸点以上で熱処理した未焼成PTFE絶縁層を有する同軸ケーブルを提案している。特開平2001−357730号公報では、低融点PTFEと高融点PTFEの2層構造の絶縁層を持ち、低融点PTFE層のみを焼成した同軸ケーブルを提案している。特開平2004−172040号公報では、絶縁体内層を焼成状態、絶縁体外層を未焼成状態又は半焼成状態とした絶縁体を持つ絶縁電線と該絶縁電線を使用した同軸ケーブルを提案している。特開平11−213776号公報では、絶縁層を焼成多孔質PTFEとし絶縁層に空隙を持たせた同軸ケーブルを提案している。また、特開2004−319216号公報では、絶縁層に低焼成度のPTFEを含む同軸ケーブルを提案している。
【0004】
しかしながら、誘電特性に対する要求は益々厳しくなっているため、これらに開示された半焼成あるいは未焼成のPTFEを絶縁体として使用する絶縁電線または同軸ケーブルでは、誘電特性に対する要求を満たすことができない。また、半焼成あるいは未焼成のPTFEは、PTFE同士が十分に融着していないため、機械的強度に劣ると言う問題が有る。更に、焼成PTFEとの多層構造を成すための成型加工が煩雑であるという問題もあった。
【0005】
【特許文献1】特開平2−273416号公報
【特許文献2】特開2001−357730号公報
【特許文献3】特開2004−172040号公報
【特許文献4】特開平11−213776号公報
【特許文献5】特開2004−319216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、フッ素樹脂の高結晶化度を維持することにより高周波帯域での誘電損失が低減されたフッ素樹脂被覆電線、及びそれを用いた同軸ケーブルを提供する。
本発明はまた、フッ素樹脂の高結晶化度を維持することによる高周波帯域での誘電損失が低減されたフッ素樹脂被覆電線、及びそれを用いた同軸ケーブルの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、融点の異なる少なくとも2種のフッ素樹脂の混合物を、中心導体に被覆したフッ素樹脂被覆電線を提供する。
【0008】
前記フッ素樹脂の混合物が、テトラフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びポリフッ化ビニルから選ばれる融点の異なる少なくとも2種の混合物であるフッ素樹脂被覆電線は、前記フッ素樹脂被覆電線の好ましい態様である。
【0009】
前記フッ素樹脂の混合物が、テトラフルオロエチレン重合体と、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体及び/又はテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体との混合物であるフッ素樹脂被覆電線は、本発明の好ましい態様である。
【0010】
前記テトラフルオロエチレン重合体と、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体及び/又はテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体との混合物の結晶融解熱量(ΔH)が45J/g以上であり、比重が2.2以上であるフッ素樹脂被覆電線は、本発明の好ましい態様である。
【0011】
前記テトラフルオロエチレン重合体と、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体及び/又はテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体との混合物の結晶融解熱量(ΔH)が45J/g以上であり、比重が1.8以下であるフッ素樹脂被覆電線は、本発明の好ましい態様である。
【0012】
前記フッ素樹脂の混合物が、70〜99.5重量%のテトラフルオロエチレン重合体と、30〜0.5重量%のテトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体及び/又はテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体であるフッ素樹脂被覆電線は、本発明の好ましい態様である。
【0013】
フッ素樹脂の混合物を中心導体に被覆し、最低融点フッ素樹脂の融点以上、高融点フッ素樹脂の融点未満の温度で成形して得られるフッ素樹脂被覆電線は、前記したフッ素樹脂被覆電線の好ましい態様である。
【0014】
本発明はまた、前記したフッ素樹脂被覆電線を用いて得られる同軸ケーブルを提供する。
【0015】
本発明はさらに、融点の異なる少なくとも2種のフッ素樹脂を混合して得られる混合物を中心導体に被覆し、最低融点フッ素樹脂の融点以上、高融点フッ素樹脂の融点未満の温度で成形するフッ素樹脂被覆電線の製造方法を提供する。
【0016】
また本発明は、前記の製造方法によって得られるフッ素樹脂被覆電線の外周に外部導体層を設ける同軸ケーブルの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、低誘電率(ε)及び低誘電正接(tanδ)を有する高周波帯域での誘電損失が低減されたフッ素樹脂被覆電線、及びそれを用いた同軸ケーブルが提供される。
本発明のフッ素樹脂被覆電線、及びそれを用いた同軸ケーブルは、高周波伝送用の回線、基地局等といった通信システム用の同軸ケーブル、LANケーブル、フラットケーブル等のケーブル用途、携帯用電話機等の小型電子機器、或いはプリント配線基板等の高周波伝送用部品用途などの広い範囲に適用可能である。
本発明によれば、フッ素樹脂の高結晶化度を維持することにより、低誘電率(ε)及び低誘電正接(tanδ)を有する高周波帯域での誘電損失が低減されたフッ素樹脂被覆電線、それを用いた同軸ケーブル、及びそれらの製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、融点の異なる少なくとも2種のフッ素樹脂の混合物を、中心導体に被覆したフッ素樹脂被覆電線およびそれから得られる同軸ケーブルを提供する。
本発明は、また該フッ素樹脂被覆電線およびそれから得られる同軸ケーブルの好適な製造方法を提供する。
【0019】
本発明の融点の異なる少なくとも2種のフッ素樹脂の混合物としては、テトラフルオロエチレン、フロロトリフルオロエチレン、又はフッ化ビニリデンの単独重合体またはこれらと他のフッ素含有単量体との共重合体を挙げることができる。具体例として、テトラフルオロエチレン重合体(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(CTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びポリフッ化ビニルなどから選ばれる少なくとも2種の混合物であることが好ましい。
【0020】
テトラフルオロエチレン重合体は、テトラフルオロエチレンの重合体(PTFE)、またはテトラフルオロエチレンと2重量%未満の共重合可能な含フッ素単量体との共重合体(以下、変性PTFE)をいう。変性PTFE中の共重合可能な含フッ素単量体の含有量は、2重量%未満であり、好ましくは1.5重量%以下、より好ましくは1重量%以下である。
【0021】
本発明の融点の異なる少なくとも2種のフッ素樹脂の混合物としては、PTFEと、PFA及び/又はFEPとの混合物をより好ましいものとして挙げることができる。
【0022】
PTFEと、PFA及び/又はFEPとの混合物が、その結晶融解熱量が45J/g以上である混合物は好ましい態様である。結晶融解熱量がこの範囲であれば、結晶化度が高く誘電正接を低減することができるので、得られるフッ素樹脂被覆電線の誘電特性に好ましい結果を与えることができる。
【0023】
さらにPTFEと、PFA及び/又はFEPとの混合物が、その比重が2.2以上である場合には、誘電正接が低減されることによる優れた誘電特性を有することに加え、機械的強度に優れたフッ素樹脂被覆電線を得ることができる。これは、最低融点フッ素樹脂の融点以上の温度によりペースト押出助剤が抜けてできるフッ素樹脂被覆部の空隙が、最低融点フッ素樹脂が溶融することにより埋まり易くなるためであると推定される。そのため、機械的強度に優れたフッ素樹脂被覆電線を目的とする場合、比重が2.2以上である混合物が特に好ましい。
【0024】
また、PTFEと、PFA及び/又はFEPとの混合物が、その比重が1.8以下である場合には、誘電正接が低減されることによる優れた誘電特性を有することに加え、誘電率も低減することができ、優れた誘電特性を得ることができる。これは、最低融点フッ素樹脂の融点以上の温度によりペースト押出助剤が抜けてできるフッ素樹脂被覆部の空隙が一部残存しているためであると推定される。そのため、誘電率の低減を目的とする場合、比重が1.8以下である混合物が特に好ましい。
【0025】
テトラフルオロエチレン重合体と、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体及び/又はテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体との混合物は、例えば乳化重合により得られたPTFE水性分散液(例えば平均粒径約0.24μm)と、PFAの水性分散液(例えば平均粒径約0.24μm)及び/又はFEPの水性分散液とを混合し、攪拌・凝集して凝集物を得た後、乾燥することにより得ることができる。
【0026】
PTFE水性分散液とPFAの水性分散液及び/又はFEPの水性分散液との混合比率は、得られるフッ素樹脂被覆電線の表面平滑性および機械的強度の観点から、固体重量で70:30から99.5:0.5の比率であることが好ましく、より好ましくは95:5の比率である。また、混合物の平均粒径としては、300〜600μm程度、好ましくは400μm程度の粉末であることが望ましい。
【0027】
フッ素樹脂混合物を中心導体上に被覆するには、中心導体に共ペースト押出法などの常法に従ってフッ素樹脂混合物を被覆することによって得ることができる。
【0028】
例えば、高融点フッ素樹脂がPTFEである場合には、PTFEと融点の異なる少なくとも1種のフッ素樹脂とを混合して得られる混合物と、公知のペースト押出助剤とを混合し、圧縮して予備成形体を得た後、該予備成形体をペースト押出機に充填し中心導体上に被覆し乾燥して、中心導体にフッ素樹脂混合物を被覆することができる。
【0029】
本発明のフッ素樹脂被覆電線、及びそれを用いたケーブルのフッ素樹脂被覆の厚さはそれらの規格、用途により異なるが、0.5〜6mm程度であることが好ましい。
【0030】
本発明において、融点の異なる少なくとも2種のフッ素樹脂を混合して得られる混合物を、中心導体上に被覆した後、最低融点フッ素樹脂の融点以上、最高融点フッ素樹脂の融点未満の温度で焼成して成形することによってフッ素樹脂被覆電線を得ることは本発明の好ましい態様である。最低融点フッ素樹脂の融点以上、最高融点フッ素樹脂の融点未満の温度で焼成成形することにより得られるフッ素樹脂被覆電線は、フッ素樹脂被覆電線の誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)が低減されており本発明の好ましいフッ素樹脂被覆電線である。
【0031】
最低融点フッ素樹脂の融点未満の温度で成形した場合には、得られるフッ素樹脂成形品の強度や伸びが劣る傾向にある。また、最高融点フッ素樹脂の融点以上の温度で成形した場合には、得られるフッ素樹脂被覆部の結晶化度が低下し、誘電正接が改善されにくい傾向がある。
【0032】
また、本発明においてフッ素樹脂としてPTFEのみを用いた場合には、ペースト押出助剤が抜けてできるフッ素樹脂被覆部の空隙が埋まり難いためと考えられるが、得られるフッ素樹脂被腹部の比重が小さくなり機械的強度に劣るため好ましくない。
【0033】
本発明によって得られた高周波帯域での誘電損失が低減されたフッ素樹脂被覆電線を用いて形成される同軸ケーブルは、高周波帯域での誘電損失が低減された同軸ケーブルである。フッ素樹脂被覆電線から同軸ケーブルを形成させる方法としては、従来公知の同軸ケーブルの形成方法を採用することができる。
【0034】
本発明のフッ素樹脂被覆電線から同軸ケーブルを形成させる方法の例として、得られたフッ素樹脂被覆電線の外周に外部導体層を設けることによって同軸ケーブルを形成させる方法を挙げることができる。外部導体層を設ける方法としては、金属めっきによって形成したもの、金属テープを重ね巻きして形成したもの、導線を横巻きして形成したものなどを挙げることができる。
【0035】
本発明のフッ素樹脂被覆電線、及びそれを用いたケーブルは、フッ素樹脂の高結晶化度を維持することにより高周波帯域での誘電損失を低減することができるため、高周波伝送用の回線、基地局等といった通信システム用の同軸ケーブル、LANケーブル、フラットケーブル等のケーブル用途、携帯用電話機等の小型電子機器、プリント配線基板等の高周波伝送部品用途など、種々の用途に使用することができるものである。
【実施例】
【0036】
以下に本発明を、実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの説明によって何ら限定されるものではない。
本発明において各物性の測定は、下記の方法によって行った。
【0037】
(1)最大点荷重
実施例及び比較例で得られた電線から芯線を残した状態で被覆部10mmを切り出すか、または実施例及び比較例で得られたビードから10mm切り出して、2枚の平行板の間に置き、径方向に圧縮荷重を加え1mm圧縮するまでの間における最大点応力をテンシロン(オリエンテック社製、RTC−1310A)を用いて測定し、これを最大点荷重とした。
【0038】
(2)誘電率
実施例及び比較例で得られた電線の誘電率εを、以下の式により求めた。
C = 24.128ε/log(D1/D2)
ε:誘電率
C:電気容量(pF/m)
(キャパシタンスモニター(AUMBACH製)により測定した。)
D1:電線の導体径(mm)
D2:電線の仕上がり外径(mm)
(レーザーマイクロダイアメーター(タキカワ社製LDM−303H)により測定した。)
【0039】
(3)比重
JIS K7112のA法(水中置換法)により、電線上に被覆されたフッ素樹脂の比重を求めた。
【0040】
(4)結晶融解熱量
示差走査熱量計(Pyris1型DSC、パーキンエルマー社製)を用いた。試料10mgを秤量して専用のアルミパンに入れ、専用のクリンパーによってクリンプした後、DSC本体に収納し、150℃から360℃まで10℃/分で昇温をする。この時得られる融解曲線から、融解ピーク前後で曲線がベースラインから離れる点とベースラインに戻る点とを直線で結んで定められるピーク面積から結晶融解熱量を求めた。
【0041】
(5)誘電正接
試料粉末を150kg/cmの圧力で直径50mm、厚さ2mmの円板状に圧縮成形し、サンドペーパー600番で両面が全て研磨面になるまで研磨を行った。その後、表2に示す表2に示す温度にて30分焼成した。焼成後、冷却速度60℃/hrにて室温まで除冷し試験片を得た。この試験片について12GHzにおける誘電正接を空洞共振器法(電子情報学会誌 MW87−7(1987)記載)にて測定した。
【0042】
(試料粉末の作成)
乳化重合により得られた変性PTFE水性分散液(平均粒径0.24μm、固体としての融解ピーク温度343℃)と、PFAの水性分散液(平均粒径0.24μm、固体としての融解ピーク温度290℃)を、これらポリマーの固体重量で95:5の比率で混合し、全固形分濃度15−20重量%になるよう調製した。この混合物を攪拌し凝集物を得た後、150℃で10時間乾燥して平均粒径300〜600μm程度の試料粉末を得た。
【0043】
(実施例1及び2)
試料粉末100重量部と、炭化水素潤滑剤(アイソパーE、エクソン化学(株))19.8重量部を混合し12時間静置後、ペースト押出用混合物を得た。得られたペースト押出用混合物を円筒状の金型(シリンダー内径70mm、マンドレル外径15.9mm)に入れ10kg/cmで加圧することにより、予備成形物を得た。得られた予備成形物を押出ダイが付いたシリンダーに入れ、外径0.911mmの鋼線の外周に肉厚0.945mmとなるよう、線速3.75m/minでペースト押出被覆した後、表1に示す5区間の温度に設定された加熱炉を連続通過(各通過時間48秒)させて潤滑剤を除去し、表1に示す外径の電線を得た。冷却後、得られた電線の誘電率及び最大点荷重を測定した。また、得られた電線から鋼線を抜き出し、電線上に被覆されたフッ素樹脂の比重、結晶融解熱量を測定した。結果を表1に示す。
【0044】
(比較例1及び2)
試料粉末をPTFE粉末(平均粒径400μm、固体としての融解ピーク温度343℃)とした以外は、実施例1と同様にして表1に示す外径の電線を得た。得られた電線の誘電率及び最大点荷重を測定した。また、得られた電線の中心の鋼線を抜き出し、電線上に被覆されたPTFEの比重、結晶融解熱量を測定した。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
(参考例1−3)
試料粉末100重量部と、炭化水素潤滑剤(アイソパーE、エクソン化学(株))19.0重量部を混合し12時間静置後、ペースト押出用混合物を得た。得られたペースト押出混合物を円筒状の金型(シリンダー内径31.7mm)に入れ10kg/cmで加圧することにより、予備成形物を得た。得られた予備成形物を押出ダイが付いたシリンダー(絞り比(RR)100)に入れペースト押出を行い、ひも状押出物(ビード)を得た。絞り比(RR)は、ダイ出口における断面積(S1)に対する、ペースト状混合物が充填されているシリンダーの断面積(S2)の比、すなわちS2/S1である。得られたひも状押出物(ビード)を表2に示す温度に設定された加熱炉にて30分焼成し、冷却速度60℃/hrにて室温まで冷却後、最大点荷重、比重、結晶融解熱量を測定した。結果を表2に示す。また、試料粉末について誘電正接を測定した。
参考例1〜3の結果は、最低融点フッ素樹脂の融点以上、最高融点フッ素樹脂の融点未満の温度で焼成成形することによって、誘電正接(tanδ)が低減されていることを示している。
【0047】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明により提供される、フッ素樹脂被覆電線、及びそれを用いた同軸ケーブルは、低誘電率(ε)及び低誘電正接(tanδ)を有する高周波帯域での誘電損失が低減されたフッ素樹脂被覆電線及び同軸ケーブルであるので、高周波伝送用の回線、基地局等といった通信システム用の同軸ケーブル、LANケーブル、フラットケーブル等のケーブル用途、携帯用電話機等の小型電子機器、或いはプリント配線基板等の高周波伝送用部品用途などの広い範囲に好適に適用できるものである。
本発明によれば、低誘電率(ε)及び低誘電正接(tanδ)を有する高周波帯域での誘電損失が低減されたフッ素樹脂被覆電線、それを用いた同軸ケーブルを容易に製造することができる製造方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点の異なる少なくとも2種のフッ素樹脂の混合物を、中心導体に被覆したフッ素樹脂被覆電線。
【請求項2】
前記フッ素樹脂の混合物が、テトラフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びポリフッ化ビニルから選ばれる融点の異なる少なくとも2種の混合物であることを特徴とする請求項1に記載のフッ素樹脂被覆電線。
【請求項3】
前記フッ素樹脂の混合物が、テトラフルオロエチレン重合体と、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体及び/又はテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体との混合物であることを特徴とする請求項1に記載のフッ素樹脂被覆電線。
【請求項4】
前記テトラフルオロエチレン重合体と、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体及び/又はテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体との混合物の結晶融解熱量(ΔH)が45J/g以上であり、比重が2.2以上であることを特徴とする請求項3記載のフッ素樹脂被覆電線。
【請求項5】
前記テトラフルオロエチレン重合体と、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体及び/又はテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体との混合物の結晶融解熱量(ΔH)が45J/g以上であり、比重が1.8以下であることを特徴とする請求項3記載のフッ素樹脂被覆電線。
【請求項6】
前記フッ素樹脂の混合物が、70〜99.5重量%のテトラフルオロエチレン重合体と、30〜0.5重量%のテトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体及び/又はテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載のフッ素樹脂被覆電線。
【請求項7】
フッ素樹脂の混合物を中心導体に被覆し、最低融点フッ素樹脂の融点以上、高融点フッ素樹脂の融点未満の温度で成形して得られることを特徴とする請求項1〜6に記載のフッ素樹脂被覆電線。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のフッ素樹脂被覆電線を用いて得られる同軸ケーブル。
【請求項9】
融点の異なる少なくとも2種のフッ素樹脂を混合して得られる混合物を中心導体に被覆し、最低融点フッ素樹脂の融点以上、高融点フッ素樹脂の融点未満の温度で成形するフッ素樹脂被覆電線の製造方法。
【請求項10】
前記フッ素樹脂の混合物が、テトラフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン重合体、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びポリフッ化ビニルから選ばれる融点の異なる少なくとも2種であることを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
高融点フッ素樹脂がテトラフルオロエチレン重合体、低融点フッ素樹脂がテトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体及び/又はテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体であることを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれかによって製造されたフッ素樹脂被覆電線の外周に外部導体層を設けることを特徴とする同軸ケーブルの製造方法。

【公開番号】特開2006−164646(P2006−164646A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−351928(P2004−351928)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000174851)三井・デュポンフロロケミカル株式会社 (59)
【Fターム(参考)】