説明

フッ素発生装置及びフッ素原料の再生方法並びにフッ素利用システム

【課題】安全性の高いフッ素発生装置を提供する。
【解決手段】セル10内の第1電極11と第2電極12との間に金属フッ化物31を含むフッ素原料30を挟む。電流供給手段20により第1電極11から第2電極12へ直流電流を通電する。第1電極11とフッ素原料30との接触面から発生するガスを第1ガスポート13から導出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フッ素を発生させる装置、及びこのフッ素発生装置のフッ素原料の再生方法、並びにフッ素利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素は、例えば半導体装置の製造分野において、シリコンのエッチングや表面改質等の処理ガス成分として広く用いられている。通常、フッ素ガスはボンベに圧縮されて充填されている。充填圧力は例えば2MPa程度である。フッ素の流量は、一般にマスフロコントローラーでモニターしている。
【非特許文献1】フッ素化学入門(三共出版、第309頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
マスフロコントローラーより上流側のフッ素流路は高圧になっており、フッ素ガスが漏れるおそれがある。フッ素ガスは、毒性が強く、腐食性も強い。そのため、安全管理を十分に行なう必要がある。また、フッ素の消費に伴いフッ素の出が悪くなる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、本発明に係るフッ素発生装置は、
金属フッ化物を含むフッ素原料と、
互いの間に前記フッ素原料を挟む第1、第2の電極と、第1ガスポートとを含むセルと、
直流電流を前記第1電極から前記第2電極へ通電する電流供給手段と、
を備え、前記第1電極とフッ素原料との接触面から発生するガスが前記第1ガスポートから導出されることを特徴とする。
この特徴構成によれば、電極間への通電によりフッ素原料の金属フッ化物が還元され、第1電極とフッ素原料との接触面では金属フッ化物中のフッ素イオンから電子が奪われ、フッ素ガス(F)が発生する。このフッ素ガスを第1ガスポートから取り出し、種々の利用に供することができる。通電電流の制御によって、所望のフッ素ガス発生流量を得ることができる。フッ素の発生量は、通電量から求めることができ、マスフローコントローラは不要である。また、高圧ボンベも不要であり、配管を高圧にする必要がなく、安全性を高めることができる。
【0005】
使用中の前記フッ素原料が、前記金属フッ化物からなる金属フッ化物層と、前記金属フッ化物からフッ素が抜けた還元金属からなる還元金属層との積層構造になり、前記金属フッ化物層が前記第1電極側に配され、前記還元金属層が前記第2電極側に配され、前記通電により前記金属フッ化物層と前記還元金属層との界面が前記第1電極の側に移ることが好ましい。
この反応を詳しく述べる。電極間への通電によりフッ素原料に電界がかかるために金属フッ化物のフッ素イオンが金属フッ化物の層内を第1電極側へ移動する。すると、金属フッ化物層の第2電極側の部分では金属フッ化物からフッ素が抜け、金属フッ化物が還元され、還元金属の層が生成され又は成長する。したがって、フッ素原料は、金属フッ化物層と還元金属層の積層構造になる。そして、金属フッ化物層と還元金属層との界面が第1電極側へ移動する。金属フッ化物からフッ素が抜けると、絶縁体にはならず、完全に還元されて導電体の金属になるため、電流が遮断されることがなく、反応を持続させることができる。よって、フッ素ガスの取り出し効率を確保できる。(金属フッ化物は一般的に絶縁体であるため、還元が不完全でフッ素価数が低下しただけでは反応の持続が困難であり、取り出せるフッ素の分子数も少ない。)
【0006】
前記第1電極が、ガス透過性を有していることが好ましい。前記第1ガスポートが、前記セルの前記第1電極よりフッ素原料側とは反対側に設けられていることが好ましい。
これによって、第1電極とフッ素原料との接触面から発生したフッ素ガスを、第1電極を透過させ、第1ガスポートから確実に取り出すことができる。
【0007】
前記フッ素系原料が、ガス透過性を有していることが好ましい。前記第2電極が、ガス透過性を有していることが好ましい。前記セルの前記第2電極よりフッ素原料側とは反対側にキャリアガスを導入する第2ガスポートが設けられていることが好ましい。
これによって、キャリアガスが、第2電極を透過してフッ素原料中を第1電極に向かって流れる。このキャリアガスにフッ素原料から発生したフッ素ガスを担持させ、キャリアガスとフッ素の混合ガスとして取り出すことができる。キャリアガスの流れによって、フッ素ガスが金属フッ化物の還元金属に再結合するのを防止することができ、フッ素ガスの取り出し効率を高めることができる。キャリアガスとして、窒素やアルゴンを用いるのが好ましい。
【0008】
前記フッ素原料が、粉状、若しくは粉を圧縮固形化してなる固形体、又は多孔体であることが好ましい。
これによって、フッ素原料を確実にガス透過性にすることができる。
【0009】
前記金属フッ化物は、例えばPbSn、フッ化鉛、フッ化水銀からなる群から選択される少なくとも1つを含む。前記金属フッ化物は、例えばPbSnFである。
これによって、フッ素を確実に発生させることができるとともに、還元により確実に金属になるようにできる。
【0010】
前記フッ素原料を、前記金属フッ化物からフッ素が抜けた還元金属の融点未満に加熱する加熱部を設けることが好ましい。
これによって、フッ素原料中のフッ素が第1電極へ向けて伝導するのを促進できる。また、還元金属の融点未満にすることにより、還元金属が溶けるのを防止できる。前記金属フッ化物が、PbSnFである場合、その還元金属であるPbSn(共晶ハンダ)の融点は183℃であるから、前記加熱部は前記フッ素原料を183℃未満に加熱することが好ましい。
【0011】
フッ素原料からフッ素が取り出されてフッ素原料のフッ素含有量が減少するのに伴ない、定電流の通電下では第1、第2電極間の電位差及び抵抗が低下する。そこで、前記第1、第2電極間の電位差又は抵抗が所定以下となったとき、前記電流供給手段による通電を停止することが好ましい。
これにより、フッ素原料中のフッ素の残量が所定以下になると通電を停止することができる。
【0012】
フッ素発生装置が、前記電流供給手段による通電時に前記第1、第2電極間の電位差又は抵抗に基づいて前記フッ素原料中のフッ素の残量を推定する残量推定部を、更に備えていることが好ましい。
これによって、フッ素原料中のフッ素の残量を把握することができる。
【0013】
フッ素原料からフッ素が取り出されてフッ素原料のフッ素含有量が減少するのに伴ない、フッ素原料の重量が低下する。そこで、前記フッ素原料の重量を計測する重量計測手段を設けてもよい。
これによって、フッ素原料中のフッ素の残量を把握することができる。フッ素原料の計測重量が所定以下になったとき、前記電流供給手段による通電を停止することにしてもよい。
【0014】
異常を検知するセンサを設け、このセンサの異常検知に応じて前記電流供給手段の通電を停止することが好ましい。
これによって、安全性を一層高めることができる。異常とは、例えば第1ガスポートから延びるフッ素供給管等からのフッ素ガスの漏洩や火災である。フッ素ガスの漏洩に対してはフッ素センサを用いることができる。火災に対して温度センサを用いることができる。
【0015】
本発明に係る原料再生方法は、上記フッ素発生装置において前記フッ素原料の一部又は全部が使用済みになったとき、該使用済フッ素原料の前記金属フッ化物からフッ素が抜けた還元金属にフッ素を化合させることを特徴とする。
これによって、還元金属を金属フッ化物に戻すことができ、フッ素原料を再生させ再使用することができる。
【0016】
前記フッ素の化合が、フッ素系反応ガスを前記還元金属に接触させて行うものであることが好ましい。
これによって、還元金属を金属フッ化物に確実に戻すことができ、フッ素原料を確実に再生させることができる。
【0017】
前記フッ素系原料がガス透過性を有し、前記フッ素系反応ガスを、前記フッ素原料の前記第1電極側の部分から前記第2電極側の部分へ向けて流すことが好ましい。
これによって、フッ素原料の第1電極側の金属フッ化物の層と第2電極側の還元金属の層との界面が、再生が進むにしたがって第2電極の側へ移動していくようにすることができる。還元金属の層の第2電極側の部分に新たな金属フッ化物の層が形成されるのを防止でき、還元金属の層が、第1電極側の金属フッ化物の層と第2電極側に新たに出来た金属フッ化物の層とに挟まれた状態になるのを防止できる。したがって、再使用時にフッ素ガスの発生量が減殺されるのを回避できる。
【0018】
前記フッ素系反応ガスが、F又はHFを含むことが好ましい。
これによって、還元物を金属フッ化物に確実に戻すことができ、フッ素原料を確実に再生させることができる。
【0019】
本発明に係るフッ素利用システムは、上記フッ素発生装置を種々のフッ素利用部へのフッ素供給源として適用したものであり、第1のセルと、第2のセルと、第1の切替手段と、第2の切替手段と、フッ素を利用するフッ素利用部と、フッ素系反応ガスの供給部と、を備え、
前記第1、第2セルの各々が、互いの間に金属フッ化物を含むフッ素原料を挟む第1、第2の電極と、前記第1電極よりフッ素原料側とは反対側に設けられた第1ガスポートと、前記第2電極よりフッ素原料側とは反対側に設けられた第2ガスポートと、を有し、前記フッ素原料及び第1、第2電極が、それぞれガス透過性であり、
直流電流を前記第1セルの第1電極から第2電極へ通電するとともに前記第2セルへの通電を停止する第1モードと、直流電流を前記第2セルの第1電極から第2電極へ通電するとともに前記第1セルへの通電を停止する第2モードとを選択的に実行し、
前記第1モードでは、前記第1切替手段が、前記第1セルの第2ガスポートをキャリアガスの導入路に接続するとともに前記第2セルの第2ガスポートを排出路に接続し、かつ、前記第2切替手段が、前記第1セルの第1ガスポートを前記フッ素利用部に接続するとともに前記第2セルの第1ガスポートを前記フッ素系反応ガス供給部に接続し、
前記第2モードでは、前記第1切替手段が、前記第2セルの第2ガスポートをキャリアガスの導入路に接続するとともに前記第1セルの第2ガスポートを排出路に接続し、かつ、前記第2切替手段が、前記第2セルの第1ガスポートを前記フッ素利用部に接続するとともに前記第1セルの第1ガスポートを前記フッ素系反応ガス供給部に接続することを特徴とする。
これによって、第1モードでは、第1セルのフッ素原料を使用してフッ素を発生させ、このフッ素ガスを利用に供し、これと併行して、反応ガス供給部からのフッ素系反応ガスにより第2セルのフッ素原料を再生させることができる。第2モードでは、第2セルのフッ素原料を使用してフッ素を発生させ、このフッ素ガスを利用に供し、これと併行して、反応ガス供給部からのフッ素系反応ガスにより第1セルのフッ素原料を再生させることができる。
【0020】
前記フッ素利用部においてフッ素の利用によりフッ素含有化合物が生成され、前記フッ素系反応ガス供給部が、前記フッ素含有化合物から前記フッ素系反応ガスを生成することが好ましい。
これにより、第1、第2セルとフッ素利用部とフッ素系反応ガス供給部とによりフッ素の閉鎖循環系を構成でき、フッ素が系外に出るのを防止又は抑制でき、系外からフッ素を供給ないし補充する必要性を解消ないし軽減できる。
【0021】
前記フッ素利用部が、被処理物をフッ素を用いてエッチングするエッチャーであり、前記エッチングにより前記フッ素含有化合物が生成されるようになっていてもよい。
これにより、フッ素発生装置をエッチングに適用できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、金属フッ化物からフッ素ガスを発生させることができる。系を高圧にする必要がなく、安全性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
本発明のフッ素発生装置は、種々のフッ素利用部へのフッ素供給源として適用できる。フッ素利用部としては、例えばフッ素を用いて被処理物の表面処理を行う表面処理装置が挙げられる。表面処理内容として、例えばシリコンや酸化シリコンのエッチング、撥水化処理等が挙げられる。発生させたフッ素ガスは、そのまま被処理物に供給してもよく、プラズマ化等の処理を施したうえで被処理物に供給してもよく、他の反応ガス成分と混合して被処理物に供給してもよい。
【0024】
[第1実施形態]
図1に示すように、第1実施形態のフッ素発生装置1は、セル10と、可変定電流電源20(電流供給手段)を備えている。セル10は、セル本体19と、一対をなす第1、第2の電極11,12を有している。セル本体19は、周壁19aと、この周壁19aの一端部(図において上端)を塞ぐ端壁19bとを有し、他端が開口された容器状になっている。セル本体19は、フッ素に対する耐性が高い樹脂等の絶縁材料で構成されている。このような絶縁材料としてテフロン(登録商標)が挙げられる。
なお、セル本体19のうち電極11,12及び後記フッ素原料30と接触する部分以外の部分については、銅等の金属で構成してもよい。例えば、銅は、フッ素ガスで不導体化し、耐食性を具備するようになる。セル本体19はガス溜りが出来ない形状になっているのが好ましい。
【0025】
電極11,12は互いに対向し、平行平板電極を構成している。第1電極11は、セル本体19の内部に収容されている。第1電極11は、ガス透過性を有し、かつフッ素に対する耐性が高い導電性の部材で構成されている。このような導電性部材として、カーボンペーパー、カーボンクロス、白金メッシュ、金メッシュ、白金または金でメッキされた各種金属メッシュ等が挙げられる。第1電極11をカーボンペーパー又はカーボンクロスで構成する場合、その外側(端壁19bを向く面)に金属メッシュ等のガス透過性補強材を宛がうとよい。
【0026】
第1電極11によって、セル10の内部が第1電極11より端壁19b側とその反対側とに仕切られている。セル10の内部の第1電極11と端壁19bと間には第1室10aが形成されている。セル本体19には第1室10aに連なる第1ガスポート13が設けられている。第1ガスポート13からフッ素供給路51が延びている。このフッ素供給路51が上記フッ素利用部(図示せず)に接続されている。
【0027】
第2電極12は、導電材料で構成され、セル本体19の端壁19bとは反対側の開口を塞いでいる。第2電極12は、第1電極11とは異なり、ガス透過性を有している必要はない。また、第2電極12は、フッ素に対する耐性が高いことが好ましいが、第1電極11ほど高い耐フッ素性は要求されない。第2電極12として、例えばステンレスやアルミニウムの板を用いることができる。
【0028】
第1電極11には、定電流電源20の正極出力端子が接続されている。第2電極12には、定電流電源20の負極出力端子が接続されている。定電流電源20は、所定の大きさの直流電流を第1電極11から第2電極12へ通電する。図示は省略するが、定電流電源20には制御部(第4実施形態(図7の符号21)参照)が接続されている。制御部は、装置1から取り出すフッ素ガスの所望流量に応じて、定電流電源20の供給電流を制御する。
【0029】
セル10の第1、第2電極11,12の間にフッ素原料30が充填されている。フッ素原料30は、金属フッ化物を主成分とする金属フッ化物層31を含み、更に上記金属フッ化物からフッ素が抜けてできた還元金属を主成分とする還元金属層32を含み得る。フッ素原料30中のフッ素が満杯状態のときはフッ素原料30の全体が金属フッ化物層31で占められている。フッ素原料30の使用により還元金属層32が生じる。フッ素原料30のフッ素が完全に消費されると、フッ素原料30の全体が還元金属層32になる。図1は、フッ素原料30を満杯状態から少し使用した時点の状態で示したものである。図の網掛け部分が還元金属層32である。2つの層31,32は、電極11,12の対向方向に積層されている。金属フッ化物層31は、第1電極11の側に配され、第1電極11に接している。還元金属層32は、第2電極12の側に配され、第2電極12に接している。金属フッ化物層31と還元金属層32との間には両層の界面30aが形成されている。フッ素の消費が進むにしたがって、界面30aが第1電極11側に移動し、金属フッ化物層31の厚さが小さくなり還元金属層32の厚さが大きくなる。
【0030】
フッ素原料30の金属フッ化物は、イオン導電性を有していることが好ましく、例えば、PbSn、フッ化鉛、フッ化水銀等から選択される。ここでは、金属フッ化物として、PbSnFが用いられている。PbSnFは、白色の粉状になっている。したがって、還元金属層32を構成する還元金属は、PbSnである。PbSnは、ハンダの成分であり、導電性を有し、灰色になっている。還元金属層32のPbSnは、層31の粉状PbSnFからFが抜けてできたものであるため粉状になっている。よって、フッ素原料30の全体が粉状になっている。粉状のフッ素原料30は、その周囲が周壁19aで囲まれ、電極11,12で両側から挟まれることによって保持されている。フッ素原料30と電極11,12とは、互いに密着していればよく、接着などを行なう必要はない。
【0031】
上記構成のフッ素発生装置1の作用を説明する。
いま、フッ素原料30中のフッ素が満杯状態であり、フッ素原料30の全体が金属フッ化物層31で占められているものとする。したがって、金属フッ化物層31の第1電極11側の面が第1電極11と接しているだけでなく、金属フッ化物層31の第2電極12側の面が第2電極12と接している。
【0032】
定電流電源20によって、直流電流を第1電極11から第2電極12へ流す。これにより、第2電極12と金属フッ化物層31との接触部分で次の反応が起きる。
PbSnF+4e → PbSn+4F 式(1)
この反応でPbSnFが還元されてPbSnに変わる。したがって、金属フッ化物層31の第2電極12との接触部分が還元金属層32になり、この還元金属層32と金属フッ化物層31の残部との間に界面30aが形成される。続いて、この界面30aにおいて上記式(1)の還元反応が起き、金属フッ化物層31の界面30aを構成する部分が還元金属層32になる。これにより、漸次、金属フッ化物層31が減退し、還元金属層32が成長し、界面30aが第1電極11の側へ移動する。
【0033】
界面30a等で発生したF(式(1)の右辺第2項)は、金属フッ化物層31内に入ってPbSnFのFを第1電極11側へはじき出し、はじかれたF−が更に第1電極11側のPbSnFのFをはじき出す。こうして、金属フッ化物層31内でFの第1電極11側へのイオン伝導が起きる。最終的に第1電極11と金属フッ化物層31の接触面で次の反応が起き、フッ素ガス(F)が発生する。
2F→F+2e 式(2)
このフッ素ガスが、ガス透過性の第1電極11を透過して第1室10a内に入る。このフッ素ガスをフッ素供給路51から取り出し、上記フッ素利用部へ送ることにより、種々の利用に供することができる。
【0034】
理論上、セル10で発生するフッ素ガスのモル数は、通電電荷をファラデー定数で除して半分にした量である。したがって、フッ素ガスの発生流量は、定電流電源20の供給電流によって調節できる。マスフローコントローラは不要である。
フッ素は、フッ素原料30内に金属フッ化物の形で貯蔵されており、高圧ボンベは不要であり、配管を高圧にする必要もない。したがって、フッ素漏れを防止でき、安全性を高めることができる。
金属フッ化物層31を構成するPbSnFは、通電により完全に還元されて導電体の金属PbSnになるため、電流が遮断されることがなく、式(1)及び(2)の反応を確実に持続させることができる。よって、フッ素ガスの取り出し効率を確保できる。
【0035】
フッ素発生装置1の運転継続に伴ない、やがて、金属フッ化物層31が残り少なくなり、フッ素原料30の大部分が還元金属層32で占められるようになる。そのときは、装置1の運転を停止し、以下のようにしてフッ素原料30の再生処理を行なう。この再生処理は、金属フッ化物層31がある程度残っている段階で行うことが好ましい。金属フッ化物層31が薄くなり過ぎると、界面30aに僅かな凹凸があっただけで還元金属層32のうち最も第1電極11に近い箇所に電界が集中し、凹凸が拡大するように還元金属層32が不均一に成長しやすい。したがって、還元金属層32が部分的に第1電極11と接触して短絡するおそれがある。そうすると、電流が還元金属層32と第1電極11との接触部分にばかり流れ、金属フッ化物層31内には流れず、フッ素が発生しなくなる。
金属フッ化物層31の厚さがどの程度になった段階で装置1の運転を停止し再生処理を行なうかは、第1、第2電極11,12による電界の均一性等に応じて適宜設定する。装置1の運転停止ないし再生処理開始のタイミング判断には、後述する第4、第5実施形態の判断手段を用いるとよい。
【0036】
図2に示すように、フッ素原料30の再生処理では、フッ素系反応ガス供給部60のフッ素系反応ガスを供給路61を介して使用済みのフッ素原料30に接触させる。この操作は、使用済みのフッ素原料30をセル10から取り出して行なってもよく、原料30をセル10に残置したまま行なってよい。同図の二点鎖線で示すように、残置する場合、フッ素系反応ガス供給路61を第1ガスポート13に接続するとよい。ただし、その場合、第2電極12をメッシュ等のガス透過性の部材18に取り替える必要がある。フッ素系反応ガスは、使用済みフッ素原料30の金属フッ化物31側の面と還元金属32側の面とのうち、金属フッ化物層31の側(第1電極11側)の面からフッ素原料30の内部に導入するのが好ましい。その理由については第2実施形態(図5)で説明する。
【0037】
フッ素系反応ガスとして例えばHFが用いられている。フッ素系反応ガスとしてHFに代えてFを用いてもよい。
【0038】
フッ素原料30の金属フッ化物層31に吹付けられたフッ素系反応ガスのHFは、金属フッ化物層31を透過して、還元金属層32のPbSnに接触する。これにより、還元金属層32内で次の反応が起き、還元金属のPbSnにFが化合し、PbSbFに変化する。
PbSn+4HF→PbSbF+2H 式(3)
この結果、還元金属層32を金属フッ化物層31に戻すことができ、フッ素原料30を再生させ再使用することができる。
【0039】
フッ素発生装置1を例えば半導体装置の製造工程におけるエッチング等の表面処理用のフッ素ガス供給源として用いる場合、上記の再生処理は、表面処理用のクリーンルームの外部で行なうのが好ましい。これにより、クリーンルーム内にHFガスを持ち込まなくても済み、安全性を向上できる。
【0040】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において既述の形態と重複する構成に関しては、図面に同一符号を付して説明を省略する。
[第2実施形態]
図3に示すように、第2実施形態のセル10は、周壁19aの両端部(図において上下)が端壁19b,19cで塞がれ、気密構造になっている。第2電極12側の端壁19cと第2電極12との間に第2室10bが形成されている。セル10には、第2室10bに連なる第2ガスポート14が設けられている。第2ガスポート14にキャリアガス導入路41を介してキャリア供給源40が接続されている。キャリア供給源40はキャリアガスを蓄えている。キャリアガスとしては、窒素(N)やアルゴン(Ar)等の不活性ガスを用いることが好ましい。ここでは、キャリアガスとして例えば窒素(N)が用いられている。
【0041】
第2実施形態の第2電極12は、第1電極11と同様にカーボンペーパー、カーボンクロス、白金メッシュ、金メッシュ、白金または金でメッキされた各種金属メッシュ等のガス透過性を有する導電性の部材で構成されている。第2電極12は、フッ素に対する耐性が高いことが好ましいが、第1電極11ほど高い耐フッ素性は要求されないため、白金または金でメッキされていないステンレスのメッシュ等の比較的安価な部材で構成されていてもよい。第2電極12をカーボンペーパー又はカーボンクロスで構成する場合、その外側(端壁19cを向く面)に金属メッシュ等のガス透過性補強材を宛がうとよい。
【0042】
フッ素原料30を構成する金属フッ化物層31及び還元金属層32は何れも粉状であり、ガスを通す。したがって、第2実施形態では、一対の電極11,12及びフッ素原料30が、何れもガス透過性を有している。
【0043】
第2実施形態によれば、定電流電源20による通電と併行して、キャリア供給源40の窒素ガスが導入路41を経て第2ガスポート14から第2室10bに導入される。窒素ガスは、第2電極12を透過し、フッ素原料30の内部に入り込み、還元金属層32、金属フッ化物層31の順に透過し、更に第1電極11を透過する。この窒素ガスが金属フッ化物層31と第1電極11との接触面を通過するとき、該接触面で発生したフッ素ガス(F)と混合する。この窒素ガスの流れによって、フッ素ガスを金属フッ化物層31と第1電極11との接触面から第1電極11の側へ確実に移動させることができる。よって、フッ素ガスがフッ素原料30の内部に逆流しPbSnと再結合するのを防止できる。この結果、フッ素ガスの放出効率を高めることができる。
フッ素は、窒素(キャリア)との混合ガスとしてフッ素供給路51から導出され、利用に供される。
キャリア供給源40からのキャリアガスは、メンテナンス等でセル10の内部をパージする際のパージガスとしても用いることができる。
【0044】
第2実施形態において、使用済みのフッ素原料30を再生するときは、図4に示すように、フッ素原料30をセル10内に残置したまま、第1ガスポート13からフッ素供給路51を切り離し、これに代えて、第1ガスポート13にフッ素系反応ガス供給部60からの供給路61を接続する。また、第2ガスポート14からキャリア供給源40を切り離し、これに代えて、第2ガスポート14に排出路62を連ねる。そして、反応ガス供給部60のフッ素系反応ガス(ここではHFガス)を第1ガスポート13から第1室10a内に導入する。このHFガスが第1電極11を透過し、更にフッ素原料30の金属フッ化物層31を透過して、還元金属層32のPbSnに接触することにより、上記式(3)の再生反応が起き、還元金属層32を金属フッ化物層31に戻すことができる。反応生成物のH(式(3)の右辺第2項)は、第2電極12を透過し、第2室10bを経て、第2ガスポート14から排出路62を経て回収される。
【0045】
式(3)の再生反応は、主に金属フッ化物層31と還元金属層32の界面30aで起きる。したがって、図4に示す再生処理によれば、漸次、金属フッ化物層31が第2電極12の側へ向けて成長し、還元金属層32が減退し、界面30aが第2電極12の側へ移っていく。
【0046】
一方、図5に示すように、反応ガス供給部60を第1ガスポート13にではなく第2ガスポート14に接続した場合、フッ素系反応ガスのHFガスが、第2ガスポート14、第2室10bを順次経て第2電極12を透過し、第2電極12の側からフッ素原料30に接触する。したがって、式(3)の再生反応は、主に還元金属層32の第2電極12と接する部分で起きる。このため、第1電極11側の金属フッ化物層31とは別のPbSnFからなる金属フッ化物層33が、第2電極12の側に形成される。したがって、2つの金属フッ化物層31,33の間に還元金属層32が挟まれた状態になる。還元金属層32が消滅して金属フッ化物層33が金属フッ化物層31に合わさるまで金属フッ化物層33を十分に成長させることができれば問題はないが、還元金属層32が2つの金属フッ化物層31,33間に残った状態で再生処理を終えた場合、そのフッ素原料30に通電すると、金属フッ化物層33から抜けたフッ素が還元金属層32のPbSnにくっ付くことになる。したがって、第1ガスポート13からのフッ素ガスの取り出し流量が減殺される。
図4に示すように、再生時にHFガスを第1電極11の側からフッ素原料30に供給すると、フッ素原料30が三層構造にはならず、再使用時にフッ素ガスの取り出し流量が減殺されるのを回避できる。
【0047】
[第3実施形態]
図6に示すように、第3実施形態のフッ素発生装置1には加熱部70(ヒータ)が設けられている。加熱部70は、セル10の外側部に配置されているが、セル10の内部に配置されていてもよい。
【0048】
加熱部70によってセル10が加熱される。この熱がフッ素原料30に伝わり、フッ素原料30が加熱されるようになっている。加熱部70によるフッ素原料30の加熱温度は、層32を構成する還元物の融点未満になるよう設定されている。PbSnの最低融点は183℃であるから、ここでは、フッ素原料30の加熱温度は183℃未満になるよう設定されている。セル本体19を構成するテフロン(登録商標)は、200℃程度の温度に十分耐えることができる。
【0049】
第3実施形態によれば、フッ素発生装置1の運転時に加熱部70でフッ素原料30を加熱することにより、フッ素原料30中のフッ素イオンが第1電極11側へ伝導するのを促進できる。これにより、フッ素ガスの発生効率を高めることができる。フッ素原料30の加熱温度を、還元金属層32を構成するPbSnの融点未満にすることにより、PbSnが溶けるのを防止できる。
【0050】
[第4実施形態]
図7に示すように、第4実施形態では、第1電極11と第2電極12間の電位差を計測する電位差計81が設けられている。電位差計81の出力信号線が定電流電源20を制御する制御部21に接続されている。詳細な図示は省略するが、制御部21は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を有するマイクロコンピュータで構成されているが、アナログ回路で構成されていてもよい。また、制御部21には、設定データ等を入力する入力部や、処理状態等を表示する表示部が付設されている。設定データとしては、装置1から取り出すフッ素ガスの所望流量や、電極11,12間の電位差の所定の閾値が挙げられる。制御部21は、フッ素ガスの所望流量の設定データに応じて定電流電源20の供給電流を制御する。電極11,12間の電位差の閾値は、還元金属層32が電界集中により不均一に成長することがない範囲で金属フッ化物層31の厚さが十分に小さくなったときの電極11,12間の電位差に対応する。
【0051】
フッ素発生装置1の運転によりフッ素原料30中のフッ素含有量が減少するのに伴ない、金属フッ化物層31の厚さが小さくなり、金属導体のPbSnからなる還元金属層32の厚さが大きくなるため、定電流電源20による定電流制御下では電極11,12間の電位差が低下する。この電位差が電位差計81によって計測され、制御部21に入力される。制御部21は、この電位差計測値に基づいてフッ素原料30中のフッ素の残量を推定し、結果をモニタに表示する。これによって、オペレータがフッ素原料30中のフッ素残量を把握できる。フッ素残量は、一定電流下の電位差とほぼ比例関係にあるため、容易に算出することができる。電位差によるフッ素残量推定処理時の制御部21は「残量推定部」として機能する。
【0052】
さらに、制御部21は、電位差計81による電位差計測値が上記閾値以下であるか否かを判断し、閾値を超えている間は定電流電源20の通電動作を許容する。電位差計測値が閾値以下になったとき、制御部21は、定電流電源20の通電動作を停止させる。これにより、金属フッ化物層31の厚さが十分に小さくなり、かつ還元金属層32が未だ不均一に成長し始めない時点で装置1の運転を停止できる。
【0053】
[第5実施形態]
図8に示すように、第5実施形態のフッ素発生装置1には重量計82が設けられている。重量計82は、セル10の重量を計測するようになっている。重量計82には、計測した重量を表示する表示部82aが設けられている。また、重量計82の計測データの出力信号線が制御部21に接続されている。
【0054】
フッ素発生装置1の運転によりフッ素原料30中のフッ素含有量が減少するのに伴ない、フッ素原料30の重量が低下する。したがって、セル10の重量が低下する。このセル10の重量ひいてはフッ素原料30の重量が重量計82によって計測され、表示部82aに表示されるとともに、重量計測信号として制御部21に入力される。制御部21(残量推定部)は、この重量計測信号に基づいてフッ素原料30中のフッ素の残量を推定し、結果をモニタに表示する。これによって、オペレータがフッ素原料30中のフッ素残量を把握できる。フッ素原料30のフッ素残量は、フッ素原料30の重量とほぼ比例関係にあるため、容易に算出することができる。
【0055】
さらに、制御部21は、重量計82による重量計測値が所定の閾値以下であるか否かを判断し、閾値を超えている間は定電流電源20の通電動作を許容する。重量計測値が閾値以下になったとき、制御部21は、定電流電源20の通電動作を停止させる。これにより、金属フッ化物層31の厚さが十分に小さくなり、かつ還元金属層32が未だ不均一に成長し始めない時点で装置1の運転を停止できる。
【0056】
[第6実施形態]
図9に示すように、第6実施形態のフッ素発生装置1には異常検知センサ83,84が設けられている。異常検知センサは、1種類でもよく、複数種類でもよい。ここでは、異常検知センサとして、フッ素漏れセンサ83と火災センサ84が用いられている。フッ素漏れセンサ83は、装置1の周辺の雰囲気中のフッ素を検知するものであり、分光分析器やガスクロマトグラフィー等で構成できる。火災センサ84は、セル10の近傍又はフッ素供給路51の近傍に配置することが好ましい。火災センサ84は、装置1及びその周辺での火災の発生を検知するものであり、温度センサや炎センサで構成できる。センサ83,84の検知信号線は、制御部21に接続されている。
【0057】
万が一、セル10やフッ素供給路51からフッ素が漏洩したときは、フッ素漏れセンサ83によってこれを検知できる。このフッ素検知信号が制御部21に入力される。制御部21は、これに応じて定電流電源20の通電動作を停止する。また、火災が発生したときは、これを火災センサ84で検知できる。この火災検知信号が制御部21に入力される。制御部21は、これに応じて定電流電源20の通電動作を停止する。これによって、事故を未然に防ぐことができ、安全性を一層高めることができる。
【0058】
[第7実施形態]
図10に示すように、第7実施形態は、フッ素発生装置を、被処理物9をエッチングするエッチング装置2に適用したフッ素利用システムを示したものである。エッチング装置2は、第1、第2の2つのセル10X,10Yと、定電流電源20と、キャリア供給源40と、エッチャー50と、水スクラバ60Aと、第1、第2の2つの切替弁91,92を備えている。
【0059】
セル10X,10Yは、第2〜第6実施形態(図3〜図9)のセル10と実質的に同様の構造になっている。
【0060】
図10及び図11に示すように、定電流電源20は、第1セル10Xと第2セル10Yの何れか一方を選択し、そのセルの電極11,12間に通電を行なうようになっている。ここで、図10に示すように、第1セル10Xの電極11,12間に通電するとともに第2セル10Yへの通電を停止する状態を第1モードと称す。図11に示すように、第2セル10Yの電極11,12間に通電するとともに第1セル10Xへの通電を停止する状態を第2モードと称す。定電流電源20のモード選択は、制御部21によって制御される。
【0061】
第7実施形態のキャリア供給源40は、キャリアガスとしてアルゴンを蓄えている。アルゴンに代えて窒素(N)等の他の不活性ガスを用いてもよい。
【0062】
エッチャー50は、フッ素を用いて被処理物9のエッチングを行なうフッ素利用部である。エッチャー50は、例えば大気圧プラズマ処理装置で構成され、チャンバー52と、このチャンバー52内に収容された一対の電極53,53を有している。これら電極53,53の間に被処理物9が配置されている。被処理物9の表面には、エッチングされるべき膜9aが形成されている。膜9aは、例えばシリコンで構成されている。シリコンは、アモルファスシリコンでもよく、ポリシリコンでもよく、単結晶シリコンでもよい。
【0063】
図示は省略するが、一対の電極53,53のうち一方にはプラズマ生成用の電源が接続され、他方は接地されている。プラズマ生成用電源からの電圧供給によって一対の電極53,53間に電界が印加され、電極間の空間54が大気圧近傍のプラズマ空間となる。少なくとも一方の電極53の対向面には固体誘電体層が設けられている。
【0064】
電極間空間54の一端部にはフッ素供給路51が連なっている。電極間空間54の他端部から反応副生成物路55が延びている。反応副生成物路55は、チャンバー52から引き出され、水スクラバ60Aに連なっている。
【0065】
水スクラバ60A(フッ素系反応ガス供給部)は、反応槽63と、この反応槽63の内部に設けられた複数の噴霧ノズル64とを有している。複数の噴霧ノズル64は、反応槽63内の上側部に並んで配置されている。これら噴霧ノズル64の側部の下方に反応副生成物路55の下流端が開口して配置されている。反応槽63の底部には水が貯えられている。水は、ポンプ65で汲み上げられ、噴霧ノズル64から噴霧されるようになっている。反応槽63の水面より上側からフッ素系反応ガス供給路61が延び出ている。
なお、反応槽63の水は、後記式(4)で示す反応により生じたHFが溶けてフッ酸水(HF水溶液)になっている。
水スクラバ60Aは、水中に反応副生成物路55の下流端を差し入れたバブリングタンクで構成してもよい。反応槽63の底部の水(液体)を加熱して気化させ、気化したガスをフッ素系反応ガス供給路61に導出するようにしてもよい。
【0066】
第1切替弁91(第1切替手段)は、2位置4ポートの方向制御弁で構成され、キャリア供給源40とセル10X,10Yの間に配置されている。図10に示すように、第1モードでは、第1切替弁91のスプールが、第1セル10Xの第2ガスポート14をキャリアガス導入路41に接続し、第2セル10Yの第2ガスポート14を排出路62に接続する第1位置に位置される。図11に示すように、第2モードでは、第1切替弁91のスプールが、第1セル10Xの第2ガスポート14を排出路62に接続し、第2セル10Yの第2ガスポート14をキャリアガス導入路41に接続する第2位置に位置される。第1切替弁91の位置切り替えは、制御部21によって制御される。
【0067】
第2切替弁92(第2切替手段)は、第1切替弁91と同様に2位置4ポートの方向制御弁で構成され、セル10X,10Yとエッチャー50と水スクラバ60Aの間に配置されている。図10に示すように、第1モードでは、第2切替弁92のスプールが、第1セル10Xの第1ガスポート13をフッ素供給路51に接続し、第2セル10Yの第1ガスポート13をフッ素系反応ガス供給路61に接続する第3位置に位置される。図11に示すように、第2モードでは、第2切替弁92のスプールが、第1セル10Xの第1ガスポート13をフッ素系反応ガス供給路61に接続し、第2セル10Yの第1ガスポート13をフッ素供給路51に接続する第4位置に位置される。第2切替弁92の位置切り替えは、制御部21によって制御される。
【0068】
エッチング装置2によって被処理物9のシリコン膜9aをエッチングする方法を説明する。
いま、第1セル10Xのフッ素原料30のフッ素はほぼ満杯状態であり、かつ、第2セル10Yのフッ素原料30は再生が必要な状態であるものとする。このとき、制御部21は、第1モードを選択する。これにより、図10に示すように、第1切替弁91が第1位置に位置され、第2切替弁92が第3位置に位置される。したがって、キャリア供給源40のアルゴン(キャリアガス)が、導入路41から第1切替弁91を経て第1セル10Xの第2ガスポート14に導入される。また、定電流電源20が第1セル10Xの電極11,12間に所定の大きさの電流を通電する。これにより、第1セル10Xのフッ素原料30から通電量に応じた量のフッ素ガスが発生する。このフッ素ガスが、キャリアのアルゴンと混合されて第1セル10Xの第1ガスポート13から出される。この混合ガス(F+Ar)が、第2切替弁92及びフッ素供給路51を経てエッチャー50のプラズマ空間54に導入され、プラズマ化される。混合ガス中のアルゴンは、プラズマの安定化に寄与する。このプラズマ化によりフッ素ラジカル等が生成される。このフッ素ラジカルが被処理物9の表面のシリコン膜9aに接触して反応を起こす。これにより、シリコン膜9aをエッチングできる。
【0069】
上記のエッチング反応により反応副生成物としてSiFが形成される。SiFは、揮発性のフッ素含有化合物である。このSiFが未分解のアルゴン等と共にチャンバー52から反応副生成物路55(フッ素含有化合物路)に導出され、水スクラバ60Aの反応槽63内に送られる。反応槽63内では、噴霧ノズル64から水が噴霧されている。この霧状の水滴に反応副生成物路55からのSiFが接触し、次の反応が起きる。
SiF+3HO→HSiO+4HF 式(4)
これにより、フッ素系反応ガスであるHFが生成される。HFは水に溶ける。これにより、反応槽63の下部の水がフッ酸水になり、反応槽63の水面より上側にはフッ酸蒸気が溜る。式(4)の右辺第1項のHSiOは、反応槽63のフッ酸水の底部に沈殿する。反応槽63のフッ酸水をポンプ65で汲み上げる際は、HSiOを吸い込まないようフィルタリングするとよい。
【0070】
反応槽63のフッ酸蒸気(HF+HO)は、フッ素系反応ガス供給路61から第2切替弁92を経て、第2セル10Yの第1ガスポート13に導入される。そして、フッ酸蒸気中のHFが第2セル10Yの還元金属層32と式(3)に示す反応を起こす。これにより、第2セル10Yのフッ素原料30を再生させることができる。第2セル10Yの第2ガスポート14からの排出ガス(H、HO、Ar等)は、第1切替弁91を経て、排出路62から排出される。
【0071】
エッチング装置2の第1モードでの運転を継続すると、やがて第1セル10Xのフッ素原料30のフッ素が十分消費される一方、第2セル10Yのフッ素原料30のフッ素はほぼ満杯状態になる。このとき、制御部21は、第1モードを第2モードに切り替える。モード切り替えのタイミングを判断するために上記第4実施形態の電位差計81や第5実施形態の重量計82を用いてもよい。モード切り替えは、第1セル10Xの金属フッ化物層31の厚さが十分に小さくなり、かつ第1セル10Xの還元金属層32が未だ不均一に成長し始めない時点に設定することが好ましい。
【0072】
第2モードへの切り替えによって、図11に示すように、第1切替弁91が第2位置に位置され、第2切替弁92が第4位置に位置される。定電流電源20は、第1セル10Xへの通電を停止し、これに代えて第2セル10Yの電極11,12間に所定の大きさの電流を通電する。これにより、キャリア供給源40のアルゴンが、導入路41から第1切替弁91を経て第2セル10Yの第2ガスポート14に導入され、第2セル10Yのフッ素原料30から通電量に応じた量のフッ素ガスが発生する。このフッ素ガスとアルゴンの混合ガス(F+Ar)が、第2セル10Yの第1ガスポート13から出され、第2切替弁92及びフッ素供給路51を経てエッチャー50のプラズマ空間54に導入されてプラズマ化される。このプラズマ化によって生成されたフッ素ラジカルによって被処理物9のシリコン膜9aがエッチングされる。このエッチング反応により生成されたSiFが、反応副生成物路55によって水スクラバ60Aの反応槽63内に送られ、HF化される。HFは、フッ酸蒸気としてフッ素系反応ガス供給路61から第2切替弁92を経て、第1セル10Xの第1ガスポート13に導入される。これにより、第1セル10Xのフッ素原料30を再生させることができる。第1セル10Xの第2ガスポート14からの排出ガス(H、HO、Ar等)は、第1切替弁91を経て、排出路62から排出される。
【0073】
以上のように、エッチング装置2によれば、第1モードでは第1セル10Xのフッ素原料30を使用してエッチングを行ない、これと併行して第2セル10Yのフッ素原料30の再生を行うことができる。第2モードでは第2セル10Yのフッ素原料30を使用してエッチングを行ない、これと併行して第1セル10Xのフッ素原料30の再生を行うことができる。フッ素は、閉鎖系を循環し、系外に出ることがない。外部からフッ素を供給する必要がなく、セル10X,10Yのフッ素原料30が劣化するまで連続的に運転することができる。
【0074】
この発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の改変をなすことができる。
例えば、フッ素原料30を構成する金属フッ化物は、PbSnFに限られず、PbSnF以外のPbSnでもよく、フッ化鉛でもよく、フッ化水銀でもよく、その他の金属フッ化物でもよく、複数の金属フッ化物の混合物でもよい。金属フッ化物は、通電により完全に還元されて金属になり得るものであることが好ましい。例えば、金属フッ化物としてフッ化鉛を用いる場合、通電により次式のようにしてフッ素ガスが発生するとともに還元金属としてPbが得られる。
PbF→Pb+F 式(5)
ガス透過性のフッ素原料30は、粉状に限られず、粉を圧縮固形化してなる固形体でもよく、多孔体であってもよい。
第1実施形態(キャリアガスをフッ素原料30内に通さない場合)では、フッ素原料30がガス透過性を有している必要はない。
第1電極11と第2電極12は、平行平板電極に限られず、同心筒状の電極構造になっていてもよい。
第1ガスポート13をセル本体19における第1電極11とフッ素原料30との境に対応する位置に設け、第1電極11とフッ素原料30との接触面で発生したフッ素ガスを第1電極11を透過させることなく第1ガスポート13から導出するようにしてもよい。その場合、第1電極11は、ガス透過性でなくてもよく、セル10の第1電極11側の端壁19b及び第1室第1室10aを省略してもよい。
第4実施形態において、電極11,12間の電位差に代えて、電極11,12間の抵抗値に基づいてフッ素原料30中のフッ素の残量を推定してもよく、電極11,12間の抵抗値が所定以下となったとき、定電流電源20の通電を停止することにしてもよい。
第7実施形態のエッチング装置2において、被処理物9の膜9aは、シリコンに代えて酸化シリコンや窒化シリコンでもよい。その場合、フッ素供給路51にオゾンガスを合流させるとよい。エッチャー50は、被処理物9をプラズマ空間54内に配置し、プラズマが被処理物9に直接的に照射される所謂ダイレクト式のプラズマ処理方式になっているが、これに代えて、被処理物9をプラズマ空間54の外部に配置し、プラズマ空間54からフッ素ラジカル等を含むプラズマガスを吹出し被処理物9に接触させる所謂リモート式のプラズマ処理方式にしてもよい。
複数の実施形態の要素を互いに組み合わせてもよい。例えば、第1実施形態のセル10や第7実施形態の第1、第2セル10X,10Yに第3実施形態の加熱部70を組み込んでもよい。第7実施形態のエッチング装置2に第5実施形態の異常検知センサ83,84を設置してもよい。
本発明のフッ素発生装置1は、エッチャーをはじめとする表面処理装置等のフッ素利用部へのフッ素供給源として用いられるのに限られず、フッ素ガスを溜めるフッ素タンクへのフッ素供給源としても適用できる。フッ素発生装置1で発生したフッ素ガスの一部をフッ素利用部に供給し、残部をフッ素タンクに供給し、このフッ素タンクに蓄えたフッ素ガスをフッ素原料30の再生に用いることにしてもよい。
フッ素利用システムのフッ素系反応ガス供給部は、フッ素利用部からのフッ素含有化合物からフッ素系反応ガスを生成するものに限られず、フッ素系反応ガスを蓄えたタンクであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、例えば半導体装置の製造分野においてシリコンや酸化シリコンのエッチング、撥水化処理等に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の第1実施形態に係るフッ素発生装置を示す断面図である。
【図2】上記第1実施形態に係るフッ素発生装置のフッ素原料を再生処理する状態を示す断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るフッ素発生装置を示す断面図である。
【図4】上記第2実施形態に係るフッ素発生装置のフッ素原料を再生処理する好ましい形態を示す断面図である。
【図5】上記第2実施形態に係るフッ素発生装置のフッ素原料を再生処理する他の形態を示す断面図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係るフッ素発生装置を示す断面図である。
【図7】本発明の第4実施形態に係るフッ素発生装置を示す断面図である。
【図8】本発明の第5実施形態に係るフッ素発生装置を示す断面図である。
【図9】本発明の第6実施形態に係るフッ素発生装置を示す断面図である。
【図10】本発明の第7実施形態に係るエッチング装置を第1モードの状態で示す断面図である。
【図11】上記第7実施形態に係るエッチング装置を第2モードの状態で示す断面図である。
【符号の説明】
【0077】
1 フッ素発生装置
2 エッチング装置(フッ素利用システム)
9 被処理物
9a シリコン膜
10 セル
10X 第1セル
10Y 第2セル
10a 第1室
10b 第2室
11 第1電極
12 第2電極
13 第1ガスポート
14 第2ガスポート
18 ガス透過性部材
19 セル本体
19a 周壁
19b 端壁
19c 端壁
20 可変定電流電源(電流供給手段)
21 制御部
30 フッ素原料
30a 界面
31 金属フッ化物層
32 還元金属層
33 別の金属フッ化物層
40 キャリア供給源
41 キャリアガス導入路
50 エッチャー(フッ素利用部)
51 フッ素供給路
52 チャンバー
53 電極
54 プラズマ空間
55 反応副生成物路
60 フッ素系反応ガス供給部
60A 水スクラバ(フッ素系反応ガス供給部)
61 反応ガス供給路
62 排出路
63 反応槽
64 噴霧ノズル
65 ポンプ
70 加熱部
81 電位差計(電位差計測手段)
82 重量計(重量計測手段)
82a 表示部
83 フッ素漏れセンサ(異常検知センサ)
84 火災センサ(異常検知センサ)
91 第1切替弁(第1切替手段)
92 第1切替弁(第2切替手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属フッ化物を含むフッ素原料と、
互いの間に前記フッ素原料を挟む第1、第2の電極と、第1ガスポートとを含むセルと、
直流電流を前記第1電極から前記第2電極へ通電する電流供給手段と、
を備え、前記第1電極とフッ素原料との接触面から発生するガスが前記第1ガスポートから導出されることを特徴とするフッ素発生装置。
【請求項2】
使用中の前記フッ素原料が、前記金属フッ化物からなる金属フッ化物層と、前記金属フッ化物からフッ素が抜けた還元金属からなる還元金属層との積層構造になり、前記金属フッ化物層が前記第1電極側に配され、前記還元金属層が前記第2電極側に配され、前記通電により前記金属フッ化物層と前記還元金属層との界面が前記第1電極の側に移ることを特徴とする請求項1に記載のフッ素発生装置。
【請求項3】
前記第1電極が、ガス透過性を有し、前記第1ガスポートが、前記セルの前記第1電極よりフッ素原料側とは反対側に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のフッ素発生装置。
【請求項4】
前記フッ素系原料が、ガス透過性を有し、前記第2電極が、ガス透過性を有しており、前記セルの前記第2電極よりフッ素原料側とは反対側にキャリアガスを導入する第2ガスポートが設けられていることを特徴とする請求項3に記載のフッ素発生装置。
【請求項5】
前記フッ素原料が、粉状、若しくは粉を圧縮固形化してなる固形体、又は多孔体であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のフッ素発生装置。
【請求項6】
前記金属フッ化物が、PbSn、フッ化鉛、フッ化水銀からなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のフッ素発生装置。
【請求項7】
前記金属フッ化物が、PbSnFであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のフッ素発生装置。
【請求項8】
前記フッ素原料を、前記金属フッ化物からフッ素が抜けた還元金属の融点未満に加熱する加熱部を設けたことを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載のフッ素発生装置
【請求項9】
前記第1、第2電極間の電位差又は抵抗が所定以下となったとき、前記電流供給手段による通電を停止することを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載のフッ素発生装置。
【請求項10】
前記電流供給手段による通電時に前記第1、第2電極間の電位差又は抵抗に基づいて前記フッ素原料中のフッ素の残量を推定する残量推定部を更に備えたことを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載のフッ素発生装置。
【請求項11】
前記フッ素原料の重量を計測する重量計測手段を設けたことを特徴とする請求項1〜10の何れかに記載のフッ素発生装置。
【請求項12】
異常を検知するセンサを設け、このセンサの異常検知に応じて前記電流供給手段の通電を停止することを特徴とする請求項1〜11の何れかに記載のフッ素発生装置。
【請求項13】
請求項1〜12の何れかに記載のフッ素発生装置において前記フッ素原料の一部又は全部が使用済みになったとき、該使用済フッ素原料の前記金属フッ化物からフッ素が抜けた還元金属にフッ素を化合させることを特徴とするフッ素発生装置の原料再生方法。
【請求項14】
前記フッ素の化合が、フッ素系反応ガスを前記還元金属に接触させて行うことを特徴とする請求項13に記載の原料再生方法。
【請求項15】
前記フッ素系原料がガス透過性を有し、前記フッ素系反応ガスを、前記フッ素原料の前記第1電極側の部分から前記第2電極側の部分へ向けて流すことを特徴とする請求項14に記載の原料再生方法。
【請求項16】
前記フッ素系反応ガスが、F又はHFを含むことを特徴とする請求項14又は15に記載の原料再生方法。
【請求項17】
第1のセルと、第2のセルと、第1の切替手段と、第2の切替手段と、フッ素を利用するフッ素利用部と、フッ素系反応ガスの供給部と、を備え、
前記第1、第2セルの各々が、互いの間に金属フッ化物を含むフッ素原料を挟む第1、第2の電極と、前記第1電極よりフッ素原料側とは反対側に設けられた第1ガスポートと、前記第2電極よりフッ素原料側とは反対側に設けられた第2ガスポートと、を有し、前記フッ素原料及び第1、第2電極が、それぞれガス透過性であり、
直流電流を前記第1セルの第1電極から第2電極へ通電するとともに前記第2セルへの通電を停止する第1モードと、直流電流を前記第2セルの第1電極から第2電極へ通電するとともに前記第1セルへの通電を停止する第2モードとを選択的に実行し、
前記第1モードでは、前記第1切替手段が、前記第1セルの第2ガスポートをキャリアガスの導入路に接続するとともに前記第2セルの第2ガスポートを排出路に接続し、かつ、前記第2切替手段が、前記第1セルの第1ガスポートを前記フッ素利用部に接続するとともに前記第2セルの第1ガスポートを前記フッ素系反応ガス供給部に接続し、
前記第2モードでは、前記第1切替手段が、前記第2セルの第2ガスポートをキャリアガスの導入路に接続するとともに前記第1セルの第2ガスポートを排出路に接続し、かつ、前記第2切替手段が、前記第2セルの第1ガスポートを前記フッ素利用部に接続するとともに前記第1セルの第1ガスポートを前記フッ素系反応ガス供給部に接続することを特徴とするフッ素利用システム。
【請求項18】
前記フッ素利用部においてフッ素の利用によりフッ素含有化合物が生成され、前記反応ガス供給部が、前記フッ素含有化合物から前記フッ素系反応ガスを生成することを特徴とする請求項17に記載のフッ素利用システム。
【請求項19】
前記フッ素利用部が、被処理物をフッ素を用いてエッチングするエッチャーであり、前記エッチングにより前記フッ素含有化合物が生成されることを特徴とする請求項18に記載のフッ素利用システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−280862(P2009−280862A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133768(P2008−133768)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】