説明

フッ酸含有処理液の再生方法及び再生装置

【課題】シリコン基板、ガラス基板またはその他の珪素含有材料を処理するフッ酸含有処理液を再生する方法及び装置において、効果的な再生または回収を可能にする。
【解決手段】、使用後のフッ酸含有処理液を貯留する貯蔵タンク1と、この貯蔵タンク1中の液におけるヘキサフルオロ珪酸の濃度を測定する濃度測定装置11と、貯蔵タンク1から受け入れた液を静置可能な析出反応タンク2と、測定された濃度から求められる理論計算量に基づき析出反応タンク2中に所定量のカリウム塩の水溶液を添加する析出用薬液供給部7,8,15と、析出した不溶性カリウム塩の懸濁液を静置して上澄み液を取り出し、必要に応じて濾過することで、清澄液と沈殿固形物とに分離する固液分離機構3-6,9と、この清澄液におけるフッ酸及び硝酸の濃度を測定する濃度測定装置11と、この濃度測定結果に基づきフッ酸及び硝酸を追加する機構13,14,23とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ酸(フッ化水素酸、弗酸)を含有する処理液を再生して再利用可能にするための再生方法及び再生装置に関する。特には、珪素を含有する材料にテクスチャー加工、エッチング加工などを行うのに用いたフッ酸含有処理液を再生するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶型シリコン基板やフラットパネルディスプレィ用の硝子基板は、珪素並びに酸化珪素や酸化硼素を含んでいる。これら基板について、テクスチャー加工、エッチング加工などを行うためには、高濃度のフッ酸溶液やフッ酸と硝酸の混合液、並びに、フッ酸と塩酸・硫酸の混合液、フッ酸とフッ化アンモニウムの混合溶液等が用いられている。
【0003】
フッ酸含有液を珪素含有材料の処理に用いるとフッ酸などの活性種が消費されるとともに処理中に生成する不純物の含量が増大していくため、所定の回数の処理後などに廃液として処理していた。ところが、この廃液中には、珪素含有材料との反応などによる生成物とともに、フッ酸などの高濃度の遊離酸が共存しているため、その中和処理経費が増大する他、硝酸態窒素や弗素イオンの削減処理経費が嵩むという問題がある。
【0004】
そのため、効率的な廃液の処理方法、または、処理液の再生方法が求められていた。特には、多結晶型シリコンウェハのテクスチャー加工や、硝子基板についての薄板化加工、並びに、表面に生成する酸化珪素膜を除去するエッチング加工、排出される多量の廃液中には高濃度の遊離酸が共存しており、これを回収して再利用する技術の確立が望まれていた。
【0005】
従来の一般的な回収手段としては電気透析膜や拡散透析膜を用いた回収方法が試みられたが、共存する不純物の主成分が遊離酸と同等の強酸に相当するヘキサフルオロ珪酸やテトラフルオロ硼酸であるため、膜による不純物の分離性能は非常に低く更に高濃度の遊離酸による膜の劣化現象が発生するため実用的ではなかった。また、蒸留再生方法(例えば下記特許文献1〜2)は、効果的な回収方法ではあるが、耐食性の材料を用いる必要があり設備が高価な上に、ヘキサフルオロ珪酸やテトラフルオロ硼酸の蒸留分離が不十分なために設備のランニングコスト面からも適用することが困難であった。そのため有効な回収技術は未だに確立されていないということができる。なお、一種の沈殿形成剤を添加することも提案されているが(下記特許文献3〜4)、再生処理の効率において充分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−345949
【特許文献2】特開2002―030475
【特許文献3】特開2003−313049
【特許文献4】特開2011−092929
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、珪素含有材料を処理するフッ酸含有処理液について、効果的な再生または回収を可能にしようとするものである。特には、簡便な方法で共存する不純物を効率的に分離除去し高濃度の遊離酸を選択的に回収再利用する方法と設備を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の処理方法は、シリコン基板、ガラス基板またはその他の珪素含有材料を処理するフッ酸含有処理液を再生する方法において、使用後のフッ酸含有処理液中に溶解しているヘキサフルオロ珪酸イオン、テトラフルオロ硼酸イオン、またはその他の不溶性カリウム塩を形成するイオン種の濃度を測定する工程と、測定された濃度から求められる理論計算量に基づきカリウムイオン供給種を添加する工程と、不溶性カリウム塩を析出させる工程と、析出後の縣濁液を不溶性カリウム塩からなる固形物と清澄なフッ酸含有液とに分離する固液分離工程と、得られた清澄なフッ酸含有液におけるフッ酸、硝酸、塩酸、フッ化アンモニウム、またはその他の活性種の濃度を測定する工程と、この濃度測定結果に基づきフッ酸、硝酸、塩酸、フッ化アンモニウムまたはその他の活性種を追加する工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明の処理装置は、シリコン基板、ガラス基板またはその他の珪素含有材料を処理するフッ酸含有処理液を再生する装置において、使用後のフッ酸含有処理液を受け入れて貯留する貯留槽と、この貯留槽中のフッ酸含有処理液におけるヘキサフルオロ珪酸イオンまたはテトラフルオロ硼酸イオンの濃度を測定する濃度測定装置と、貯留槽からフッ酸含有処理液を受け入れる析出反応部と、測定された濃度から求められる理論計算量に基づき析出反応部中にカリウムイオン供給種を添加する析出用薬液供給部と、析出反応部の縣濁液を、上澄み液の取り出し、濾過、またはその他の固液分離手段によって不溶性カリウム塩からなる固形物と清澄液とに分離する固液分離機構と、この清澄なフッ酸含有液におけるフッ酸、硝酸、塩酸、フッ化アンモニウム塩、またはその他の活性種の濃度を測定する装置と、この濃度測定結果に基づきフッ酸、硝酸、フッ化アンモニウム、またはその他の活性種を追加するか、または、希釈もしくは部分的な蒸発により濃度を調整する機構とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
簡便な方法及び装置で、共存する不純物を効率的に分離除去し高濃度の遊離酸を選択的に回収再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例の処理装置の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本件発明者らは、多結晶型シリコンウェハのテクスチャー加工に用いた使用済みのフッ酸含有処理液(以降「廃酸」ともいう)中の不純物について調べることで、フッ酸が下記反応式1及び2に基づきヘキサフルオロ珪酸を生成しており、他の不純物は殆ど共存していないことを確認した。;
Si0 + 2O → SiO2 ・・反応式1;
SiO2 + 6HF → H2SiF6 + 2H2O ・・反応式2;
また、ヘキサフルオロ珪酸を選択的に分離除去した液は、高濃度のフッ酸溶液(「回収酸」)であり、そのまま、または、高濃度のフッ酸またはフッ化水素を添加することで、フッ酸含有処理液に再利用できることを見出した。なお、シリコンウェハのテクスチャー加工に用いられるフッ酸含有処理液は、例えば、1〜5%のフッ酸と40〜50%の硝酸とを含み、特には4〜15%のフッ酸と35〜50%の硝酸とを含む。後述のように不溶解性のカリウム塩を生成させてヘキサフルオロ珪酸を選択的に除去することにより、例えば、0.9〜4.9%のフッ酸と39〜49%の硝酸とを含む回収処理液、特には3.9〜14.2%のフッ酸と34.5〜49%の硝酸とを含む回収処理液が得られる。フッ酸の回収率は、例えば85〜99%、特には90〜98%であり、硝酸の回収率は、例えば85〜99%、特には90〜98%である。
【0013】
さらに、本件発明者らは、硝子基板の薄板化加工に用いた使用済みのフッ酸含有処理液(以降「廃酸」ともいう)中の不純物について調べることで、硝子の主成分である酸化珪素とフッ酸が下記反応式3〜6に基づきヘキサフルオロ珪酸を生成していることを確認した。また、硝子中の酸化硼酸はフッ酸と反応してテトラフルオロ硼酸を生成し、硝子中に含まれる少量の酸化カリウムはフッ酸と反応して不溶性のヘキサフルオロ珪酸カリウムになることを確認し、また、他の不純物は殆ど共存していないことを確認した。;
SiO2 + 6HF → H2SiF6 (強酸) + 2H2O・・反応式3;
B2O3 + 8HF → 2HBF4 (強酸) + 3H2O・・反応式4;
K2O + 2HF → 2KF + H2O・・反応式5;
2KF + H2SiF6 → K2SiF6 (不溶性) + 2HF・・反応式6;
また、このような廃酸中のヘキサフルオロ珪酸とテトラフルオロ硼酸並びにヘキサフルオロ珪酸カリウムを、選択的に分離除去した後の清澄液は、高濃度のフッ酸溶液(「回収酸」)であり、そのまま、または、高濃度のフッ酸またはフッ化水素を添加することで、フッ酸含有処理液に再利用できることを見出した。なお、硝子基板の薄板化加工に用いられるフッ酸含有処理液は、例えば、3〜5%のフッ酸と5〜20%の塩酸とを含み、特には5〜10%のフッ酸と10〜30%の塩酸とを含む。後述のように不溶解性のカリウム塩を生成させてヘキサフルオロ珪酸を選択的に除去することにより、例えば、2.7〜4.9%のフッ酸と4.9〜19.3%の塩酸とを含む回収処理液、特には4.9〜9.6%のフッ酸と9.5〜29%の塩酸とを含む回収処理液が得られる。この場合も、フッ酸の回収率は、例えば85〜99%、特には90〜98%である。
【0014】
一方、バッファードフッ酸(BHF;HF+NH4F、すなわちフッ化水素酸とフッ化アンモニウムの混合水溶液)を用いてシリコン基板や硝子基板などの珪素含有材料をエッチングする加工(バッファードエッチング加工)が行われている。本件発明者らは、この加工工程から出てくる廃液中の不純物について調べることで、珪素膜の表面に生成した酸化珪素とフッ酸が下記の反応式7〜8に基づきヘキサフルオロ珪酸アンモニウムを生成しており、その他の不純物は殆ど共存しないことを確認した。;
SiO2 + 6HF → H2SiF6 + 2H2O・・反応式7;
H2SiF6 + 2NH4F → (NH4)2SiF6 + 2HF・・反応式8;
また、この廃酸中のヘキサフルオロ珪酸アンモニウムを選択的に分離除去した後の液は回収酸として再利用できることを見出した。なお、バッファードエッチング加工に用いられるフッ酸含有処理液は、例えば、1〜5%のフッ酸と20〜30%のフッ化アンモニウムとを含み、特には4〜10%のフッ酸と30〜38%のフッ化アンモニウムとを含む。後述のように不溶解性のカリウム塩を生成させてヘキサフルオロ珪酸アンモニウムを選択的に除去することにより、例えば、0.9〜4.8%のフッ酸と19〜29%のフッ化アンモニウムとを含む回収処理液、特には3.9〜9.8%のフッ酸と29〜37%のフッ化アンモニウムとを含む回収処理液が得られる。フッ酸の回収率は、例えば85〜99%、特には90〜98%であり、フッ化アンモニウムの回収率は、例えば90〜99%、特には95〜99%である。
【0015】
反応式3、反応式4及び反応式8により生成した不純物が、いずれもカリウムイオンと定量的に速やかに反応することを確認した。詳しくは、次の反応式9〜11に基づき化学量論的に一致する不溶解性のカリウム塩の沈殿を生成する特性を有することを確認した。;
H2SiF6 + 2K+ → K2SiF6 (不溶性) + 2H+・・反応式9;
HBF4 + K+ → KBF4 (不溶性) + H+・・反応式10;
(NH4)2SiF6 + 2K+ → K2SiF6 (不溶性) + 2NH4+・・反応式11。
【0016】
このような廃酸中の不純物の特性に基づき、個々の廃酸中の不純物の濃度を正確に測定し、その濃度を基準に全ての不純物を不溶性のカリウム塩に変換するために必要な理論量のカリウムイオンの量を求める。そして、廃酸にほぼ理論量のカリウムイオンを添加して不溶性の沈殿を生成した後、一定時間静置すると沈殿層と上澄液層に分離する。この上澄液層を回収した後、フッ酸その他の個々の遊離酸の成分濃度を測定し所定の濃度に調整した上で、フッ酸含有処理液(「加工液」)として再利用することを特徴とする。なお、上澄液は、必要に応じて濾過、特には精密な濾過を行うことで完全な清澄液とし、これにより、再生する処理液中に汚染源となり得る粉末が入るのを防止する。また、沈殿層は、濾過、または遠心分離により清澄液と沈殿固形物に分離し、清澄液は、上澄み液と混合するか、または、静置前の懸濁液もしくは再生処理前の「廃酸」に混合することができる。後述の実施例においては、沈殿層を濾過して得られた清澄液を、カリウムイオン供給種の溶解・貯留槽に送り込んでいる。析出したカリウム塩を分離除去するにあたり、上記に代えて、例えば、遠心分離と、濾過または精密濾過とを組み合わせて行うこともできる。濾過装置としては、例えば、特開平11-333216に記載されたように、孔径が400μm〜2mmの、ポリエステルあるいはポリプロピレンなどからなるフィルターシートが、円筒状の濾過装置内に保持されて逆洗浄可能となっているものを用いることができる。また、例えば、特開平05-345107に記載されたように、1mm四方の網目を形成する網状シートに長さ6cmといった繊維を植設することで容易に洗浄可能としたものを用いることができる。
【0017】
廃液中の不純物の濃度を正確に測定しその濃度を基準に、全ての不純物を不溶性のカリウム塩に変換するために必要なカリウムイオンの量を決定する。この際、その理論量以上のカリウムイオンを添加すると回収酸中に過剰のカリウムイオンが残存することになる。このように残存したカリウムイオンは、テクスチャー加工又はエッチング加工で生成するヘキサフルオロ珪酸と反応して不溶性のカリウム塩を生成し沈殿となって、加工液を汚染する原因になる。そのため、カリウムイオンの添加量は理論添加量の90〜97%程度にすることが望ましく、95〜98%とするのがさらに望ましい。なお、個々の遊離酸濃度を正確に、かつ簡便に測定する一般的な方式としては、光検出器(NIR&UV etc)を採用した濃度計やイオンクロマト方式を採用した濃度計があるが、これらは全酸濃度を遊離酸として評価測定するために適用することはできない。また「廃酸」中には複数の強酸が共存しているために一般的な中和滴定法では、個々の成分を分離定量することは困難である。そのため、特殊な非水中和滴定法と沈殿滴定法並びに置換滴定法を駆使することで、個々の遊離酸濃度を正確に測定する方法を開発し適用した。また、図示の実施例のように自動測定装置に適用した。但し、効率などがかなり落ちるが、例えば特開平11-194120の0045段落などに記載の方法により濃度を測定することもできる。すなわち、試料溶液にアセトンを添加して水酸化ナトリウム水溶液で滴定し、変曲点の位置から、フッ酸、硝酸及びヘキサフルオロ珪酸の濃度を評価することも可能である。
【0018】
沈殿生成剤として用いるカリウムイオン源としては、塩化カリウム、炭酸カリウム、フッ化カリウム、水酸化カリウム、硝酸カリウム等、遊離のカリウムイオンを供給するものであれば、その地域に適した入手しやすく安価なものを選択すれば良い。ただし、次の反応により遊離酸が生成するカリウム塩があるので、加工液中の遊離酸と異なる酸を生成するカリウム塩を用いることは避けたほうが良い。;
H2SiF6 + 2KCl → K2SiF6 (不溶性) + 2HCl・・反応式12;
H2SiF6 + 2KF → K2SiF6 (不溶性) + 2HF・・反応式13;
H2SiF6 + 2KOH → K2SiF6 (不溶性) + 2H2O・・反応式14;
H2SiF6 + K2CO3 → K2SiF6 (不溶性) + H2O + CO2↑・・反応式15。
【0019】
この回収原理は廃液中の不純物を選択的に不溶性のカリウム塩として沈降分離する方法である。そのため、回収酸の濃度は廃酸に共存する不純物の濃度比分だけ回収酸中の遊離酸濃度は高くなるので、回収酸の濃度調整に追加補給する高濃度酸の量を大幅に削減できる特徴を有する。特に、本発明によると、蒸留工程を経ることなく、大部分のフッ酸を回収して利用することができる。この点、上記特許文献3〜4のようにフッ化水素のロスが多い再生方法とは根本的に異なる。
【実施例】
【0020】
次に本発明の実施例に基づき具体的に説明する。図1は本発明に係わる廃酸再生回収設備を示す概略図である。図中、制御装置は省略されているが、以下の説明における制御は、付属するパソコンやマイコンなどの制御装置により、所定の運転ソフトウェアや、所定の設定にしたがって行われる。制御装置は、全ての制御を一つの箇所で集中的に行うものでも、複数の制御装置が連結されたものであっても良い。例えば、設備の複数の要素にマイコンが設けられ、これらが1台のパソコンに接続されて制御されるのであっても良い。
【0021】
設備の1は、加工ラインから排出される廃酸を貯蔵するタンクである。図中では一つのみ示すが、実際は、複数の貯蔵タンクを設け、満杯になったら別の貯蔵タンクに切り替わる構造になっている。
【0022】
廃酸貯蔵タンク1が満杯になったら、貯蔵タンク1の上端及び下端にそれぞれ接続する配管13-1及び13-2を相互に連通させた状態で、検知装置からの検知信号に基づき、配管13-2に設けた循環ポンプ13Pを起動し、タンク1内の廃酸を循環混合して均一にする。
【0023】
設備の11は、濃度測定装置である。所定時間の経過後、または循環混合の累積流量が所定量を超えた時点で、廃酸貯蔵タンク1の混合終了信号が制御装置により受信される。この際に、サンプリング用配管13-4に設けられたバルブが一時的に開かれて、廃酸貯蔵タンク1から廃酸が送り込まれる。この濃度測定装置11は、貯蔵タンク1内の廃酸中の全ての遊離酸と不純物の濃度を正確に測定する機能を搭載する。例えば、複数種の自動滴定装置が組み合わさってなる。
【0024】
濃度測定後に、貯蔵タンク1中の廃酸は、設備2のカリウム塩沈殿生成反応タンクに、所定の量まで配管13-1と13-3を介して移送される。このカリウム塩沈殿生成反応タンク2には、カリウムイオン供給種としてのカリウム塩を水溶液の形態で供給する析出薬液供給機構7,8,15,19,22が備え付けられ、この析出薬液供給機構、または、中央の制御装置は、先に測定した濃度と廃酸量から、廃酸中の全ての不純物を反応式9〜15に基き不溶性のカリウム塩に変換するために必要な反応理論量のカリウムイオンを計算で自動的に求める機能を搭載している。
【0025】
設備の7は、カリウムイオン原液溶解貯蔵タンクであり、既知濃度のカリウムイオンを溶解調合するとともに貯蔵する機能を有し、特には、カリウムイオン源として用いる反応式12〜15に準じたカリウム塩化合物を、設備の8から7に計量投入する機能を有する。
【0026】
図示の例において、カリウムイオン原液溶解貯蔵タンク7におけるカリウム化合物の溶解のためには、純水供給配管22からの純水と、配管19-1と19-2を介して回収される、カリウム塩沈殿スラッジ濾過装置9から回収される回収酸とが溶解貯蔵タンク7に送り込まれて用いられる。すなわち、本実施例の装置は、カリウムイオン供給種としてのカリウム塩を、純粋と、回収酸の一部とを用いて溶解する機能を有する。
【0027】
設備2のカリウム塩沈殿生成反応タンクに既知量移送した液は、配管14-2に接続した循環混合ポンプ14Pを用いて連続的に循環混合を行う。そして、廃酸中の全ての不純物を不溶性のカリウム塩に変換するために必要な反応理論量に基づき、所定量のカリウムイオンを、カリウムイオン原液溶解貯蔵タンク7から供給配管15を通じて、混合中のカリウム塩沈殿生成反応タンクに注入する。すなわち、本実施例の装置は、廃酸中の不純物を析出させるための薬液を調製し、添加して混合する機能を有する。
【0028】
カリウム塩に変換するために必要な反応理論量のカリウムイオンを注入完了後、一定時間混合を継続し均一に混合した時点で沈殿生成反応は終了し循環混合を停止した後、この沈殿生成反応終了液を直ちに配管14-1を介して、反応液静置沈殿沈降分離タンク3に全量を移送する。図示の例で、この移送は、重力による流下により行われる。
【0029】
反応液静置沈殿沈降分離タンク3に移送し、一定時間静置して沈降分離させる。例えば、60分〜120分、好ましくは180〜300分だけ静置される。下部沈殿層と上部上澄液層は静置時間が長くなる程、個液分離性能が高くなり回収酸中の微粒子の量を大幅に削減できると共に回収率が向上する特徴を有する。
【0030】
静置して沈降分離した上澄液層は、回収液移送用のポンプ16Pにより配管16を介して回収液貯蔵タンク5に移送する。
【0031】
回収液貯蔵タンク5に貯蔵した液は、循環濾過装置6と循環ポンプ21Pを組み込んだ配管21-1と21-2を介して、連続的に任意の設定時間循環濾過する。例えば、回収液貯蔵タンク5の全量が1〜5回循環されるだけの時間だけ濾過を行う。本実施例の装置は、このようにして、回収酸中に残存する微粒子を除去する機能を有する。
【0032】
任意の設定時間循環濾過した回収液貯蔵タンク5の液は、配管21-1と21-3を介して濃度測定装置11に供給し、回収液中の個々の遊離酸濃度を自動的に測定する。この濃度測定値と設定した目標濃度から、目標濃度に調整するために必要な高濃度補給酸の理論量を自動的に求め、高濃度補給酸-1及び高濃度補給酸-2を補給配管23-1及び23-2を介して回収液貯蔵タンク5に計量注入する。すなわち、本実施例の装置は、固液分離により回収された清澄液中の濃度を自動的に測定するとともに、処理液中の各活性種を所定濃度に調整するための機能を搭載している。
【0033】
回収液貯蔵タンク5に高濃度補給酸-1及び高濃度補給酸-2を計量注入後、循環濾過装置と循環ポンプ21Pを組み込んだ、配管21-1と21-2を介し連続的に任意の設定時間だけ循環濾過し併せて均一に混合する。回収液貯蔵タンク5及びこれに付属する循環濾過機構により、まず上澄み液を濾過・混合し、次いで、濃度調整後の再生処理液について濾過・混合する機能を有する。
【0034】
回収液の濃度調整が終了した回収液貯蔵タンク5の液は、配管21-1と21-3を介して濃度測定装置11に供給し個々の遊離酸濃度を再度自動的に測定する。万一、目標濃度からのズレが所定値以上であれば、再度濃度調整を行う。
【0035】
濃度調整及びその確認が終了した回収液貯蔵タンク5の液は、再生された処理液として、配管21-1と24を介して現場加工設備の加工液貯蔵槽15に自動的に移送供給される。図示の例で、循環濾過を行うのに用いたと同一のポンプ21Pにより、処理液を用いた処理設備へと送り出す機能が実現されている。
【0036】
反応液静置沈殿沈降分離タンク3に移送し、一定時間静置して沈降分離した下部沈殿層は、配管17を介してカリウム塩スラッジ液貯蔵タンク4に移送する。この貯蔵したカリウム塩スラッジ液には遊離酸を含むため、スラッジ液濾過装置9に配管18を介してポンプで圧入して濾過分離する。スラッジ液濾過装置9から排出されるスラッジは配管20を介してカリウム塩スラッジ貯蔵槽10に貯蔵する。このスラッジは、約50%のフッ素を含有する固形物であるためフッ酸製造工場等の原料として有効活用することが可能であるという特性を有する。
【0037】
スラッジ液濾過装置9から排出される濾過液は、配管19-1と19-2を介して、カリウムイオン供給種の溶解タンク7に送られる。すなわち、カリウム化合物の溶解液として再利用することを特徴とする機能を搭載する。
【0038】
以下、3つの具体的な実施例におけるフッ酸含有処理液の回収試験結果について表1〜3により示す。表1は多結晶型シリコン基板のテクスチャー加工から出てくる廃酸の回収率確認試験結果を示し、表2は硝子基板薄膜化加工廃酸の回収率確認試験結果を示す。また、表3はバッファードエッチング加工廃酸の回収率確認試験結果を示す。いずれも、廃酸中の遊離酸の回収率は90%以上であり、回収設備から排出されるものはカリウム塩のスラッジだけである。そのため、廃棄物の大幅な削減効果を伴うことを特徴とする廃酸中の遊離酸回収方法並びに設備が実現されている。なお、下記の具体的な実施例において、特殊な非水中和滴定法と沈殿滴定法並びに置換滴定法を駆使することで、各遊離酸とヘキサフルオロ珪酸または弗化アンモニウム並びにヘキサフルオロ珪酸アンモニウムの濃度を測定した。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に示す具体的な実施例では、初期状態のフッ酸含有処理液が、重量比で、約7%のフッ化水素(HF)と、約45%の硝酸(HNO3)とを含んでいたが、シリコンウェファーのテクスチャー加工に例えば300,000枚使用された結果、4.8%のフッ化水素(HF)と、43.2%の硝酸(HNO3)と、10.15%のヘキサフルオロ珪酸を含む「廃酸」となった。そして、図1に示す実施例の設備を用い、理論量の95%に相当する炭酸カリウムの水溶液を添加してヘキサフルオロ珪酸を除去する処理を行ったところ、得られた「回収酸」中には、0.34%のヘキサフルオロ珪酸のみが残留していた。また、「廃酸」からの硝酸及びフッ化水素の回収率は、それぞれ、94.7%及び92.9%であった。すなわち、簡便で低コストの設備により非常に高い回収率及び除去率が得られた。なお、回収酸の重量は、除去されるヘキサフルオロ珪酸の重量が、炭酸カリウムとともに添加される水分量より少し多いことから、廃酸より少し減少した。
【0041】
【表2】

【0042】
表2に示す具体的な実施例では、初期状態のフッ酸含有処理液が、重量比で、約5%のフッ化水素(HF)と、約10%の塩化水素(HCL)とを含んでたいたが、ガラス基板の薄板化処理に例えば4時間使用された結果、4.1%のフッ化水素(HF)と、10%の塩化水素(HCL)と、8.46%のヘキサフルオロ珪酸を含む「廃酸」となった。そして、図1に示す実施例の設備を用い、理論量の95%に相当する塩化カリウムの水溶液を添加してヘキサフルオロ珪酸を除去する処理を行ったところ、得られた「回収酸」中には、0.22%のヘキサフルオロ珪酸のみが残留していた。また、「廃酸」からの塩化水素及びフッ化水素の回収率は、それぞれ、111%及び90%であった。すなわち、簡便で低コストの設備により非常に高い回収率及び除去率が得られた。塩化水素の濃度が増加したのは、上記反応式12に示す反応の結果であると考えられる。塩化水素の濃度上昇は、多くの場合影響を及ぼさないが、必要に応じて、水で所定の濃度に希釈して高濃度弗酸を追加調整することで加工液として用いることができる。
【0043】
【表3】

【0044】
表3に示す具体的な実施例では、初期状態のフッ酸含有処理液が、重量比で、約4%のフッ化水素(HF)と、約36%のフッ化アンモニウム(NH4F)とを含んでたいたが、ガラス基板のバッファードエッチング加工処理に例えば4,000枚使用された結果、約3.8%のフッ化水素(HF)と、約34%のフッ化アンモニウム(NH4F)と、2.9%のヘキサフルオロ珪酸アンモニウムを含む「廃酸」となった。そして、図1に示す実施例の設備を用い、理論量の95%に相当する水酸化カリウムの水溶液を添加してヘキサフルオロ珪酸アンモニウムを除去する処理を行ったところ、得られた「回収酸」中には、約0.21%のヘキサフルオロ珪酸アンモニウムのみが残留していた。また、「廃酸」からのフッ化アンモニウム及びフッ化水素の回収率は、それぞれ、約98%及び約92%であった。すなわち、簡便で低コストの設備により非常に高い回収率及び良好な除去率が得られた。
【0045】
以上のように、本発明の実施例によると、テクスチャー加工などにフッ酸含有処理液を使用することで該処理液中に蓄積していく不純物を簡便な設備及び方法で効率的に除去することが可能であり、これにより、使用済みの処理液に含まれるフッ酸などの活性化合物を高い比率で再利用して処理液を再生することができる。
【0046】
特に、多結晶型シリコン基板にテクスチャー加工を施した後の廃酸には、高濃度の硝酸とフッ酸を含有するため、従来、簡便な装置及び方法にて効果的に回収再利用できる技術はなかった。本発明によるテクスチャー加工用の処理液の再生技術は、多結晶型シリコン基板が高純度の珪素金属であり、テクスチャー加工反応で生成共存物がヘキサフルオロ珪酸だけに限定されることを利用した回収技術である。この回収技術は、回収酸を再利用することで薬液の消費量を大幅に削減することが可能であり、回収設備からの廃棄物量を大幅に削減できる効果を有する。
【符号の説明】
【0047】
1 廃酸(使用済み処理液)貯蔵タンク 2 カリウム塩析出反応タンク
3 静置沈降分離タンク 4 カリウム塩スラッジ液貯蔵タンク
5 上澄液貯蔵タンク 6 上澄液循環精密濾過装置
7 カリウムイオン原液溶解貯蔵タンク 8 カリウムイオン薬剤計量投入口
9 カリウム塩スラッジ濾過装置 10 カリウム塩沈殿貯蔵槽
11 廃酸&回収酸及び再生処理液(回収酸濃度調整液)の濃度測定装置
12 カリウムイオン溶解用純水
13 フッ酸系高濃度単酸(HF等) 14 非フッ酸系高濃度単酸(HCl&HNO3等)
15 再生済み処理液(濃度調整済み回収酸)貯槽(加工設備側設置タンク等転用)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板、ガラス基板またはその他の珪素含有材料を処理するフッ酸含有処理液を再生する方法において、
使用後のフッ酸含有処理液中に溶解しているヘキサフルオロ珪酸イオン、テトラフルオロ硼酸イオン、またはその他の不溶性カリウム塩を形成するイオン種の濃度を測定する工程と、
測定された濃度から求められる理論計算量に基づきカリウムイオン供給種を添加して、不溶性カリウム塩を析出させる工程と、
析出後の縣濁液を不溶性カリウム塩からなる固形物と清澄なフッ酸含有液とに分離する固液分離工程と、
得られた清澄なフッ酸含有液におけるフッ酸、硝酸、塩酸、フッ化アンモニウム、またはその他の活性種の濃度を測定する工程と、
この濃度測定結果に基づきフッ酸、硝酸、塩酸、フッ化アンモニウム、またはその他の活性種を追加する工程とを含むことを特徴とするフッ酸含有処理液の再生方法。
【請求項2】
フッ酸含有処理液が、多結晶型シリコンウェハにテクスチャー加工を行うための処理液であってフッ酸とともに硝酸を活性種として含み、
不溶性カリウム塩を形成するイオン種として、ヘキサフルオロ珪酸の濃度が測定され、カリウムイオン供給種として、水酸化カリウム、硝酸カリウムまたはその他の、処理液に含まれるイオン種のみを生成するカリウム塩が用いられ、
得られた清澄なフッ酸含有液におけるフッ酸及び硝酸の濃度が測定されて、この濃度測定結果に基づきフッ酸及び硝酸を追加することを特徴とする請求項1に記載のフッ酸含有処理液の再生方法。
【請求項3】
フッ酸含有処理液が、フラットパネルディスプレイ用またはその他の硝子基板を薄板化するための処理液であってフッ酸とともに塩酸を活性種として含み、
不溶性カリウム塩を形成するイオン種として、ヘキサフルオロ珪酸の濃度が測定され、カリウムイオン供給種として、塩化カリウム、水酸化カリウムまたはその他の、処理液に含まれるイオン種のみを生成するカリウム塩が用いられ、
得られた清澄なフッ酸含有液におけるフッ酸及び塩酸の濃度が測定されて、この濃度測定結果に基づきフッ酸の追加、及び、塩酸濃度の調整が行われることを特徴とする請求項1に記載のフッ酸含有処理液の再生方法。
【請求項4】
フッ酸含有処理液が、バッファードエッチング加工のための処理液であってフッ化アンモニウムを活性種として含み、
不溶性カリウム塩を形成するイオン種として、ヘキサフルオロ珪酸アンモニウムの濃度が測定され、カリウムイオン供給種として、水酸化カリウムまたはその他の、処理液に含まれるイオン種のみを生成するカリウム塩が用いられ、
得られた清澄なフッ酸含有液におけるフッ酸及びフッ化アンモニウムの濃度が測定されて、この濃度測定結果に基づきフッ酸及びフッ化アンモニウムを追加することを特徴とする請求項1に記載のフッ酸含有処理液の再生方法。
【請求項5】
シリコン基板、ガラス基板またはその他の珪素含有材料を処理するフッ酸含有処理液を再生する装置において、
使用後のフッ酸含有処理液を受け入れて貯留する貯留槽と、
この貯留槽中のフッ酸含有処理液におけるヘキサフルオロ珪酸イオンまたはテトラフルオロ硼酸イオンの濃度を測定する濃度測定装置と、
貯留槽からフッ酸含有処理液を受け入れる析出反応部と、
測定された濃度から求められる理論計算量に基づき析出反応部中にカリウムイオン供給種を添加する析出用薬液供給部と、
析出反応部の縣濁液を、静置及び上澄み液の取り出し、濾過、またはその他の固液分離手段によって不溶性カリウム塩からなる固形物と清澄なフッ酸含有液とに分離する固液分離機構と、
この清澄なフッ酸含有液におけるフッ酸、硝酸、塩酸、フッ化アンモニウム、またはその他の活性種の濃度を測定する装置と、この濃度測定結果に基づきフッ酸、硝酸、フッ化アンモニウム、またはその他の活性種を追加するか、または、希釈もしくは部分的な蒸発により濃度を調整する機構とを含むことを特徴とする装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−46888(P2013−46888A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185795(P2011−185795)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(392010980)株式会社アナック (1)
【Fターム(参考)】