説明

フラットパネル型X線センサー

【課題】間接変換方式のフラットパネル型X線センサーにおいて、分解能の一層の向上を図る。
【解決手段】X線検出素子としての微少電子放出源2をアレイ状に並べたカソード基板3と、微少電子放出源2からの電子ビームを電気信号に変換する光電変換膜4を成膜したアノード基板5とを互いに平行に配置する。微少電子放出源2と光電変換膜4は真空セル7に封じ込められ、これによりフラットパネル型X線センサー1の撮像板9が構成される。撮像板9には、磁力線がカソード基板3及びアノード基板5に垂直な磁場を、微少電子放出源2及び光電変換膜4の存在する領域全体にわたって形成する一様磁場形成装置10が組み合わせられる。一様磁場形成装置10は強磁性体プレート11、12と磁石13を組み合わせて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフラットパネル型X線センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
X線像を撮影する手段には様々なものがあるが、近年ではフラットパネル型X線センサーが注目され、盛んに開発が行われるようになっている。フラットパネル型X線センサーの例を特許文献1〜3に見ることができる。
【0003】
特許文献1には、被検体へのX線照射に伴って入射する透過X線を光に変換するX線・光変換薄層と、このX線・光変換薄層により変換された光を電気信号に変換する光電変換薄層とを積層してなる薄膜式X線露出センサーが表面または裏面に一体的に設置されたフラットパネル型X線センサーが記載されている。また、被検体へのX線照射に伴って入射する透過X線を先ず光に変換し、その変換光を電荷に変換するX線検出素子が縦横に配置されているフラットパネル型X線センサーにおいて、表面または裏面に、前記X線検出素子で生じた変換光を電気信号に変換する光電変換薄層を備えた薄膜式X線露出センサーが一体的に設置されたフラットパネル型X線センサーが記載されている。
【0004】
特許文献2には、検出画素を1次元または2次元のマトリックス状に配列したフラットパネル型X線センサーが記載されている。
【0005】
特許文献3には、光電変換ターゲットと電界放出型陰極アレイを有する平面型撮像装置であって、X線撮像にも用いることができるものが記載されている。
【特許文献1】特開平11−188021号公報(図5、8)
【特許文献2】特開2001−340331号公報(図2)
【特許文献3】特開2000−48743号公報(図1、2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
X線センサーの分解能に対する要求は年々高まりつつある。本発明は、特許文献3に記載のもののような、微少電子放出源をX線検出素子として用い、この微少電子放出源から放出された電子ビームを光電変換膜で電気信号に変換する、間接変換方式のフラットパネル型X線センサーにおいて、分解能の一層の向上を図ることができる構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、X線検出素子としての微少電子放出源をアレイ状に並べたカソード基板と、前記微少電子放出源からの電子ビームを電気信号に変換する光電変換膜を成膜したアノード基板とを互いに平行に配置し、前記微少電子放出源と光電変換膜を真空セルに封じ込めたフラットパネル型X線センサーにおいて、磁力線が前記カソード基板及びアノード基板に垂直な磁場を、前記微少電子放出源及び光電変換膜の存在する領域全体にわたって形成する一様磁場形成装置を備えることを特徴としている。
【0008】
この構成によると、磁場により電子ビームが集束されて光電変換膜に到達するので、センサーの分解能が向上する。磁場は微少電子放出源及び光電変換膜の存在する領域全体にわたって一様に形成されるので、画像全体の分解能を向上させることができる。
【0009】
また本発明は、上記構成のフラットパネル型X線センサーにおいて、前記一様磁場形成装置が、前記カソード基板及びアノード基板と平行し、且つ前記微少電子放出源及び光電変換膜を挟むように配置された2枚の強磁性体プレートと、これら2枚の強磁性体プレートの少なくとも一方に組み合わせられるものにして、当該強磁性体プレートに接する側の面及びその反対側の面が磁極となった磁石により構成されることを特徴としている。
【0010】
この構成によると、磁力線がカソード基板及びアノード基板に対し垂直である状態を広い領域で確保することができ、光電変換膜の隅々まで分解能向上効果をもたらすことができる。
【0011】
また本発明は、上記構成のフラットパネル型X線センサーにおいて、前記カソード基板自体が前記2枚の強磁性体プレートの一方であることを特徴としている。
【0012】
この構成によると、より簡素な構成でフラットパネル型X線センサーの分解能向上を実現できる。
【0013】
また本発明は、上記構成のフラットパネル型X線センサーにおいて、前記アノード基板自体が前記2枚の強磁性体プレートの一方であることを特徴としている。
【0014】
この構成によると、より簡素な構成でフラットパネル型X線センサーの分解能向上を実現できる。
【0015】
また本発明は、上記構成のフラットパネル型X線センサーにおいて、前記2枚の強磁性体プレートの一方には板状磁石が同心配置で組み合わせられ、他方にはその周縁部に重なる形でリング状磁石が組み合わせられ、前記板状磁石とリング状磁石の前記強磁性体プレートに接する面同士を同極性としたことを特徴としている。
【0016】
この構成によると、磁力線がカソード基板及びアノード基板に対し垂直である状態を広い領域で確保することができ、光電変換膜の隅々まで分解能向上効果をもたらすことができる。
【0017】
また本発明は、上記構成のフラットパネル型X線センサーにおいて、前記一様磁場形成装置が、前記カソード基板及びアノード基板と平行し、且つ前記微少電子放出源及び光電変換膜を挟むように配置され、互いに向き合う面が反対磁極となった2枚の板状磁石により構成されることを特徴としている。
【0018】
この構成によると、磁力線がカソード基板及びアノード基板に対し垂直である状態を広い領域で確保することができ、光電変換膜の隅々まで分解能向上効果をもたらすことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、一様磁場形成装置を組み合わせたことにより、分解能の高いフラットパネル型X線センサーを得ることができる。また一様磁場形成装置は強磁性体プレートと磁石の組み合わせで構成するから、一般のディスプレイ装置に見られるような集束電極を形成する必要がなく、分解能の向上を比較的簡便且つ安価に達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下本発明の実施形態を図に基づき説明する。図1は第1実施形態に係るフラットパネル型X線センサーの模型的断面図である。
【0021】
フラットパネル型X線センサー1は、X線検出素子としての微少電子放出源2をアレイ状に並べたカソード基板3と、微少電子放出源2からの電子ビームを電気信号に変換する光電変換膜4を成膜したアノード基板5とを互いに平行に配置している。図1では一つの集合として描かれている微少電子放出源2は、微少電子放出源の個体を多数、アレイ状(マトリックス状)に並べたものである。微少電子放出源2としてはフィールドエミッションアレイ(field emission array)を用いることができる。光電変換膜4としては、a−SeやCdTeを主原料とする光電変換膜を用いることができる。
【0022】
カソード基板3とアノード基板5の間にガラス製のスペーサーリング6を挟んで封止した上、カソード基板3、アノード基板5、及びスペーサーリング6で囲まれた空間の空気を抜き、真空セル7を構成する。微少電子放出源2と光電変換膜4は真空セル7に封じ込められるものである。真空セル7の内部では、微少電子放出源2と光電変換膜4の間にメッシュ電極8が配置されている。このように微少電子放出源2、カソード基板3、光電変換膜4、アノード基板5、スペーサーリング6、メッシュ電極8を組み合わせた構造体が撮像板9となる。
【0023】
撮像板9に対し、一様磁場形成装置10が組み合わせられる。一様磁場形成装置10は、磁力線がカソード基板3及びアノード基板5に垂直な磁場を、微少電子放出源2及び光電変換膜4の存在する領域全体にわたって形成するものである。第1実施形態の一様磁場形成装置10は、カソード基板3及びアノード基板5と平行し、且つ微少電子放出源2及び光電変換膜4を挟むように配置された、鉄等の強磁性体からなる2枚の強磁性体プレート11、12と、一方の強磁性体性体プレート12に組み合わせられる磁石(永久磁石)13により構成される。磁石13は撮像板9と強磁性体プレート12の間に、一方の面が強磁性体プレート12に接する形で配置されており、強磁性体プレート12に接する側の面及びその反対側の面が磁極となっている。
【0024】
2枚の強磁性体プレートと1個の永久磁石を図1のように配置した場合の磁場シミュレーションの結果を図2に示す。カソード基板3、アノード基板5、微少電子放出源2、及び光電変換膜4は省略してある。強磁性体は鉄(μ=5000)、永久磁石はネオジウム磁石(Br=1.2T)であるものとした。図2から分かるように、強磁性体プレートの中央領域では、磁力線は一様に強磁性体プレートに垂直、すなわちカソード基板3及びアノード基板5に垂直になる。かかる磁力線領域は、微少電子放出源2及び光電変換膜4の存在する領域全体をカバーする。
【0025】
上記のような一様磁場が存在する場合と存在しない場合とで微少電子放出源から放たれる電子ビームの挙動がどのように変化するかのシミュレーション結果を図6〜図8に示す。複数のグラファイトナノファイバーが電子ビーム放出源となり、その上に直径5μmの開口を有するクロム製の引出電極(ゲート電極)が配置されるものとした。
【0026】
図7に示すのは一様磁場が存在しないまま電子ビームを放出した場合のシミュレーション結果である。この場合には電子ビームが集束しないままになってしまう。
【0027】
図8に示すのは一様磁場の存在下で電子ビームを放出した場合のシミュレーション結果である。この場合には電子ビームがいくつかの箇所に節を形成する形で集束する。節の位置はメッシュ電極に印加する電圧によって変化するので、メッシュ電極の電圧を調整することにより、光電変換膜の位置における集束度を高めることができる。このように、一様磁場が存在する場合の電子ビーム集束度は一様磁場が存在しない場合(図7)に比べ著しく高くなる。これにより分解能が上がり、より精細な画像が得られるようになる。
【0028】
電子ビームの集束について考えた場合、FED(field emission display)のようなディスプレイであれば、1ドットが大きい(50μm〜300μmピッチ)ことと、アノード面に高電圧(5〜6kV)を印加することとが相まって、電子ビームは比較的絞りやすい。しかしながらX線センサーの場合、分解能(≒1ドット)が高いこと(50μm以下であること)が求められる上に、アノード面に印加される電圧が数10V(20〜30V程度)であるため、エミッタンスの悪い微少電子放出源の場合、電子ビームの集束が難しい。この弱点を本発明は補うものであり、上記のような条件下でも電子ビームを集束させることが可能となる。
【0029】
本発明は、図1及び図2に示す第1実施形態と異なる様々な形態で実施することができる。引き続き他の実施形態について説明する。
【0030】
第2実施形態として、カソード基板3自体を強磁性体プレートとしたものを考えることができる。これにより、簡素な構成でフラットパネル型X線センサー1の分解能向上を実現できる。
【0031】
第3実施形態として、アノード基板5自体を強磁性体プレートとしたものを考えることができる。これにより、簡素な構成でフラットパネル型X線センサー1の分解能向上を実現できる。
【0032】
第4実施形態として、カソード基板3とアノード基板5をそれぞれ強磁性体プレートとしたものを考えることができる。これにより、簡素な構成でフラットパネル型X線センサー1の分解能向上を実現できる。
【0033】
第5実施形態として、図3のシミュレーション図に示す構成を考えることができる。図3には、2枚の強磁性体プレートの一方には板状磁石が同心配置で組み合わせられ、他方にはその周縁部に重なる形でリング状磁石が組み合わせられ、板状磁石とリング状磁石の強磁性体プレートに接する面同士を同極性とした構成が描かれている。カソード基板3、アノード基板5、微少電子放出源2、及び光電変換膜4は省略してある。この構成によれば、磁力線がカソード基板3及びアノード基板5に対し垂直である状態を広い領域で確保することができ、光電変換膜4の隅々まで分解能向上効果をもたらすことができる。
【0034】
第6実施形態として、図4のシミュレーション図に示す構成を考えることができる。図4では、一様磁場形成装置10が、カソード基板3及びアノード基板5と平行し、且つ微少電子放出源2及び光電変換膜4を挟むように配置され、互いに向き合う面が反対磁極となった2枚の板状磁石により構成されている。カソード基板3、アノード基板5、微少電子放出源2、及び光電変換膜4は省略してある。この構成によれば、磁力線がカソード基板3及びアノード基板5に対し垂直である状態を広い領域で確保することができ、光電変換膜4の隅々まで分解能向上効果をもたらすことができる。
【0035】
第7実施形態として、図5のシミュレーション図に示す構成を考えることができる。図
5では、図4の2枚の板状磁石に対し、それぞれ前記互いに向き合う面と反対側の面に強磁性体プレートが組み合わせられている。カソード基板3、アノード基板5、微少電子放出源2、及び光電変換膜4は省略してある。この構成によれば、一様磁場の磁界強度を一層高めることができる。
【0036】
以上本発明の各実施形態につき説明したが、発明の主旨を逸脱しない範囲でさらに種々の変更を加えて実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は間接変換方式のフラットパネル型X線センサーに広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】は、フラットパネル型X線センサーの模型的断面図である。
【図2】は、磁場シミュレーションの結果を示す図である。
【図3】は、本発明の第5実施形態を示すシミュレーション図である。
【図4】は、本発明の第6実施形態を示すシミュレーション図である。
【図5】は、本発明の第7実施形態を示すシミュレーション図である。
【図6】は、電子ビームの挙動を示す第1のシミュレーション図である。
【図7】は、電子ビームの挙動を示す第2のシミュレーション図である。
【図8】は、電子ビームの挙動を示す第3のシミュレーション図である。
【符号の説明】
【0039】
1 フラットパネル型X線センサー
2 微少電子放出源
3 カソード基板
4 光電変換膜
5 アノード基板
7 真空セル
8 メッシュ電極
9 撮像板
10 一様磁場形成装置
11、12 強磁性体プレート
13 磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線検出素子としての微少電子放出源をアレイ状に並べたカソード基板と、前記微少電子放出源からの電子ビームを電気信号に変換する光電変換膜を成膜したアノード基板とを互いに平行に配置し、前記微少電子放出源と光電変換膜を真空セルに封じ込めたフラットパネル型X線センサーにおいて、
磁力線が前記カソード基板及びアノード基板に垂直な磁場を、前記微少電子放出源及び光電変換膜の存在する領域全体にわたって形成する一様磁場形成装置を備えることを特徴とするフラットパネル型X線センサー。
【請求項2】
前記一様磁場形成装置が、前記カソード基板及びアノード基板と平行し、且つ前記微少電子放出源及び光電変換膜を挟むように配置された2枚の強磁性体プレートと、これら2枚の強磁性体プレートの少なくとも一方に組み合わせられるものにして、当該強磁性体プレートに接する側の面及びその反対側の面が磁極となった磁石により構成されることを特徴とする請求項1に記載のフラットパネル型X線センサー。
【請求項3】
前記カソード基板自体が前記2枚の強磁性体プレートの一方であることを特徴とする請求項2に記載のフラットパネル型X線センサー。
【請求項4】
前記アノード基板自体が前記2枚の強磁性体プレートの一方であることを特徴とする請求項2に記載のフラットパネル型X線センサー。
【請求項5】
前記2枚の強磁性体プレートの一方には板状磁石が同心配置で組み合わせられ、他方にはその周縁部に重なる形でリング状磁石が組み合わせられ、前記板状磁石とリング状磁石の前記強磁性体プレートに接する面同士を同極性としたことを特徴とする請求項2に記載のフラットパネル型X線センサー。
【請求項6】
前記一様磁場形成装置が、前記カソード基板及びアノード基板と平行し、且つ前記微少電子放出源及び光電変換膜を挟むように配置され、互いに向き合う面が反対磁極となった2枚の板状磁石により構成されることを特徴とする請求項1に記載のフラットパネル型X線センサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−128143(P2009−128143A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302553(P2007−302553)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】