説明

フラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼを用いるグルコース測定方法

【課題】公知のFAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼの欠点を克服し、広い温度域において十分な反応性を有し、且つ、基質特異性に優れた改変型FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼを提供すること。
【解決手段】FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼを遺伝子レベルで改変することで、改変前のFAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼよりも温度依存性が改善し且つ、キシロース作用性が低下した改変型FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(以下、FADGDHとも表す。)を用いるグルコース(血糖)測定方法に関するもので、特に、温度依存性が改善されたグルコース測定方法に関する。
また、本発明は、温度依存性が改善された改変型FADGDH、該改変型FADGDHをコードする遺伝子、該改変型FADGDHの製造法及び該改変型FADGDHのグルコース測定試薬への種々の適用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、糖尿病の発生率は年々増加傾向にあり、更に糖尿病予備軍といわれる人数を合わせると、日本国内だけでも1000万人以上の数になると推測されている。また、生活習慣病への関心が非常に高まっていることもあり、血糖値を自己管理する機会は増加している。こうした時代背景において、血糖自己測定モニターのための技術開発は、糖尿病患者が日常の血糖値を管理するための重要な技術である。血糖測定技術に関しては、多くの方法で実用化が進んでおり、検体の微量化、測定時間の短縮、装置の小型化の点で電気化学的なセンシングが有利である。
【0003】
血糖測定技術におけるセンシングの手法としては血液中のグルコースを基質とする酵素が利用される。そのような酵素の例としてはグルコースオキシダーゼ(EC 1.1.3.4)が挙げられる。グルコースオキシダーゼはグルコースに対する特異性や熱に対する安定性が高いという利点があった。グルコースオキシダーゼを利用した血糖センサはグルコースを酸化してD−グルコノ−δ−ラクトンに変換する過程で生じる電子がメディエーターを介して電極に流れることで測定されるが、グルコースオキシダーゼは反応で生じたプロトンを溶存酸素に渡しやすいため測定値に影響してしまうという問題があった。
【0004】
このような問題を回避するために、ピロロキノリンキノン依存型グルコースデヒドロゲナーゼ(以下、PQQGDHとも表す。)(EC1.1.5.2(旧EC1.1.99.17))が血糖センサ用酵素として用いられている。PQQGDHは溶存酸素の影響を受けない点で優位であるが、基質特異性に乏しく、マルトースやラクトースといったグルコース以外の糖類にも作用するため測定値の正確性を損ねてしまうという欠点がある。
【0005】
そこで、溶存酸素の影響を受けず、なおかつ基質特異性に優れたグルコースデヒドロゲナーゼ(以下、GDHとも表す。)としてフラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(以下、FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼをFADGDHと記載する。)が注目されている。FADGDHは非特許文献1〜6に記載されており、古くから知られている。
また、特許文献1にはAspergillus terreus(アスペルギルス・テレウス)由来FADGDHの遺伝子配列、アミノ酸配列が記載されている。
また、特許文献2にはAspergillus oryzae由来FADGDHが、特許文献3にはAspergillus oryzae由来FADGDHを改変し、熱安定性が向上した改変型FADGDHが記載されている。特許文献4にはAspergillus oryzae由来FADGDHおよびAspergillus terreus由来FADGDHを改変し、熱安定性およびキシロース作用性を改善した改変型FADGDHが記載されている。
【0006】
一方、医療と検査機器・試薬という業界紙において、『SMBG装置とPOCT対応血糖測定装置のすみ分け』(2009年32(6)P.707−713)の中で、SMBG(血糖自己測定(Self Monitoring Blood Glucose))装置の注意点として、環境温度条件が低温度域および高温度域の場合に、測定値がISO15197の許容範囲から外れる装置も多く、測定値が極端に低値や高値を示す場合は医療事故の要因になりうることを指摘している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2004/058958
【特許文献2】特開2007−289148
【特許文献3】特開2008−237210
【特許文献4】WO2008/059777
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Biochim Biophys Acta.1967 Jul 11;139(2):265−76
【非特許文献2】Biochim Biophys Acta.1967 Jul 11;139(2):277−93
【非特許文献3】Biochim Biophys Acta.146(2):317−27
【非特許文献4】Biochim Biophys Acta.146(2):328−35
【非特許文献5】J Biol Chem (1967)242:3665−3672
【非特許文献6】Appl Biochem Biotechnol (1996)56:301−310
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上述のような公知のグルコース(血糖)測定方法に関する問題点を解消あるいは低減し、実用面においてさらに有利なグルコース測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、特に、環境温度による測定値のばらつきや異常に焦点をあてて考察したところ、以下のような問題点が存在する可能性を見出した。
【0011】
酵素反応温度に関して、開発の段階においては、酵素反応条件は、特定の温度(たとえば37℃)での検討が中心になるのに対し、現実に糖尿病患者がグルコースセンサーを用いてグルコース測定が行われる温度は、室温である。したがって、酵素に、温度による反応性の差異(酵素活性の変動)があれば、測定値にばらつきが生じることはありうる。
しかし、酵素を用いた物質量の測定においては、基質である測定対象物質に対して十分量の酵素を用いることが当業者の常識であり、そうしている限り、多少の酵素活性の変動は測定値に殆ど影響を与えないはずである。
【0012】
しかし、現実に業として供給されているグルコースセンサーなどでは、コストダウン等の理由により使用する酵素の量を最小限に抑えている可能性が考えられる。
すなわち、環境温度による測定値のばらつきが起こる原因は、酵素に、環境温度による反応性の差異があると考えられるためで、酵素の添加濃度が低いことから、通常当業者が想定する反応系では起こり得ない幅の測定値のばらつきや異常が生じていると考えられた。
【0013】
本発明者らは、上記の考察を基に、特許文献2あるいは特許文献3に開示された公知のFADGDHの温度依存性を検討してみた。すると、37℃における活性値を100%とした場合に、25℃における活性値が63%、5℃における活性値が40%であった。このことから、本FADGDHはグルコース濃度を測定する際の温度変化によって、測定精度が低下することがわかった。
【0014】
この環境温度による反応性の差異を縮小することができれば、測定精度や正確性を向上することが期待できる。(本願においては、この至適温度の山をなだらかにすることを温度依存性の改善と表現する。)
【0015】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、公知のFADGDHの特定のアミノ酸を他のアミノ酸に置換することで、改変前の野生型FADGDHよりも温度依存性が改善した改変型FADGDHを見出し、それを用いてグルコース測定系を組むことで、本発明を完成させた。
【0016】
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
[項1]
以下のいずれかで示される、フラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質(以下、FADGDHとも記載)。
(1)配列番号1または配列番号2に記載のアミノ酸配列の46位、49位、50位、54位、55位、78位、104位のうちいずれか、もしくは、それと同等の位置においてアミノ酸置換されているアミノ酸配列を有する。
(2)配列番号3または配列番号4に記載の塩基配列を有する遺伝子によりコードされるアミノ酸配列の46位、49位、50位、54位、55位、78位、104位のうちいずれか、もしくは、それと同等の位置においてアミノ酸置換されているアミノ酸配列を有する。
[項2]
項1に記載のタンパク質において、アミノ酸が置換された位置以外の位置において、さらに、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加(挿入)されたアミノ酸配列からなり、かつグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
[項3]
項1または2に記載のタンパク質をコードする遺伝子。
[項4]
項3に記載の遺伝子を含むベクター。
[項5]
項4に記載のベクターで形質転換された形質転換体。
[項6]
項5に記載の形質転換体を培養し、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質を採取することを特徴とする、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質を生産する方法。
[項7]
項1または2に記載のタンパク質を含むグルコースアッセイキット。
[項8]
項1または2に記載のタンパク質を含むグルコースセンサー。
[項9]
項1または2に記載のタンパク質を用いるグルコース測定法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、正確性・精密性に優れたグルコース測定方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本願明細書において、アミノ酸配列はアスファベット1文字または3文字で表記する。また、アミノ酸の変異の位置については次のように表記する。例えば、「G59A」は59位のG(Gly)がA(Ala)に置換することを意味する。なお、配列番号1、2において、アミノ酸の表記は、メチオニンを1として番号付けされている。
【0019】
本願発明の一実施形態は、以下のいずれかで示される、フラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質である。
(1)配列番号1または配列番号2に記載のアミノ酸配列の46位、49位、50位、54位、55位、78位、104位のうちいずれか、もしくは、それと同等の位置においてアミノ酸置換されているアミノ酸配列を有する。
(2)配列番号3または配列番号4に記載の塩基配列を有する遺伝子によりコードされるアミノ酸配列の46位、49位、50位、54位、55位、78位、104位のうちいずれか、もしくは、それと同等の位置においてアミノ酸置換されているアミノ酸配列を有する。
【0020】
ここで、配列番号1、2は、野生型のアスペルギルス・テレウス由来のFADGDHのアミノ酸配列である。
これらのアミノ酸配列は、特許文献1により公知である。
【0021】
上記のタンパク質において、アミノ酸が置換された位置以外の位置において、さらに、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加(挿入)されたアミノ酸配列からなり、かつグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質もまた、本願発明の一実施形態である。
【0022】
本願発明のタンパク質は、改変前よりも温度依存性が改善し、および/または、キシロース作用性が低下した改変型FADGDHである。
【0023】
例えば、上記の実施形態において、その46位、49位、50位、54位、55位、78位、104位のうちいずれかにおけるアミノ酸置換が、N46A、G49N、G49F、G49V、G49R、G49I、G49M、G49L、G49Q、G49D、G49C、G49W、G49T、G49E、G49K、G49A、G49S、Y50K、Y50I、Y50V、Y50Q、Y50H、Y50C、Y50P、Y50N、Y50S、Y50A、Y50D、Y50E、Y50R、Y50M、Y50T、Y50G、F54D、F54S、F54E、F54Q、F54C、F54N、F54T、F54A、F54Y、F54M、G55T、G55K、G55P、G55I、G55H、G55L、G55V、G55Y、G55M、G55W、R78S、R78P、R78F、R78Q、R78G、R78A、R78D、R78L、A104N、A104Y、A104W、A104P、A104M、およびA104Dからなる群のうちいずれかであるFADGDHは、改変前よりも温度依存性が改善した改変型FADGDHである。
【0024】
例えば、上記の実施形態において、その46位、49位、50位、54位、55位、78位、104位のうちいずれかにおけるアミノ酸置換が、N46L、G49A、G49K、G49D、G49E、G49S、G49C、G49T、F54I、F54H、F54M、F54N、F54Y、G55D、およびR78Hからなる群のうちいずれかであるFADGDHは、改変前よりもキシロース作用性が低下した改変型FADGDHである。
【0025】
例えば、上記の実施形態において、その46位、49位、50位、54位、55位、78位、104位のうちいずれかにおけるアミノ酸置換が、G49A、G49K、G49D、G49E、G49S、G49C、G49T、F54M、F54N、およびF54Yからなる群のうちいずれかであるFADGDHは、改変前よりも温度依存性が改善し、且つ、キシロース作用性が低下した改変型FADGDHである。
【0026】
なお、上記の変換位置は、アスペルギルス・テレウス由来のFADGDH活性を有する蛋白質のアミノ酸配列(配列番号1、2)における同等の位置であっても良い。この同等の位置は、そのアミノ酸配列の一次構造(例えばアラインメント)、立体構造の知見を基に判断することができる。
本願明細書においては、例えばあるアミノ酸配列における配列番号1の46位と同等の位置は、GENETYXソフトで配列の一次構造(例えばアラインメント)を比較したとき、配列番号1の46位と対応する位置をもって同等と判断する。必要に応じてさらに立体構造の知見などを参照しても良い。
なお、GENETYXソフトは、GENETYX CORPORATIONから販売されているGENETYX WIN Version 6.1のものを使用した。
【0027】
温度依存性
本願において、温度依存性とは、温度変化に伴って酵素活性が変化することを意味する。温度依存性の改善とは酵素活性の変化が少なく、広い範囲で一定の酵素活性を示すことを意味する。
「温度依存性が改善されているか」を判断する方法は以下のとおりである。
(1)37℃、24時間処理後における活性値(U/ml)を測定し、これをAとする。
(2)25℃、24時間処理後における活性値(U/ml)を測定し、これをBとする。
(3)Aを100%としたときのBの相対値(%)を計算し、これをC(表1〜7における「温度依存性」)とする。
(4)野生型酵素(WT)のCの値を1とし、それぞれの改変型酵素の相対値を計算しなおす。これをD(表1〜7における「温度依存性比」)とする。
(5)野生型酵素(WT)においてA>Bであれば、改変型酵素がD>1であって値が大きいほど温度依存性は改善されていると判断する。野生型酵素(WT)においてA<Bであれば、改変型酵素がD<1であって値が小さいほど温度依存性は改善されていると判断する。
【0028】
後述の実施例(表1〜表7参照)において、25℃と37℃の反応温度で活性を測定することにより、37℃での活性測定値を100%とした場合の25℃での活性測定値の割合(%)を調べた。25℃における野生型の活性値は約50〜54%を示していた。
温度依存性が55%以上を示すフラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質もまた、本願発明の一実施形態である。
温度依存性は、好ましくは60%以上であり、更に好ましくは65%以上であり、更に好ましくは70%以上であり、更に好ましくは75%以上である。
これらの効果のある変異部位をさらに組合せることにより、相加・相乗効果が期待できる。
【0029】
キシロース作用性
また、キシロース作用性とは、グルコースを基質とした場合の反応速度とキシロースを基質とした場合の反応速度の相対比%(グルコースを100%とする。)である。
次いで、野生型酵素(WT)のキシロ−ス作用性の値を1とし、それぞれの改変型酵素の相対比%を計算しなおす。これが表1〜7における「キシロース作用性比」)である。この値が小さいほど、キシロース作用性が低下していると判断される。
【0030】
後述の実施例(表1〜表7参照)において、野生型のグルコースに対する活性値を100%とした場合、キシロースに対する活性値比率は、8.1〜10.0%となっていた。
キシロースに対する反応性が8.0%以下を示すフラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質もまた、本願発明の一実施形態である。
キシロースに対する反応性は、好ましくは7.0%以下であり、更に好ましくは6.0%以下であり、更に好ましくは5.5%以下であり、更に好ましくは5.0%以下である。
これらの効果のある変異部位をさらに組合せることにより、相加・相乗効果が期待できる。
【0031】
本願発明の改変型FADGDHは、好ましくは、温度依存性比が改変前と比べて1.02以上に改善している改変型FADGDHである。さらに好ましくは、改変前と比べて1.10以上向上している改変型FADGDHである。
【0032】
本願発明の改変型FADGDHは、好ましくは、キシロース作用性比が改変前と比べて0.9以下に低減している改変型FADGDHである。さらに好ましくは、改変前と比べて0.8以下に低減している改変型FADGDHである。
【0033】
温度依存性およびキシロース作用性の測定方法は、後述のFADGDHの活性測定法を用いて求める。
【0034】
本願発明のFADGDH改変体は、種々の公知の手段で作製することが出来る。
以下に、配列番号1、2で示される野生型のアスペルギルス・テレウス由来のFADGDHを改変したFADGDH改変体の製造法を例示する。製造法は、特に限定されないが、以下に示すような手順で製造することが可能である。
FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼを構成するアミノ酸配列を改変する方法としては、通常行われる遺伝情報を改変する手法が用いられる。すなわち、タンパク質の遺伝情報を有するDNAの特定の塩基を変換することにより、或いは特定の塩基を挿入または欠失させることにより、改変タンパク質の遺伝情報を有するDNAが作成される。DNA中の塩基配列を変換する具体的な方法としては、例えば市販のキット(Transformer Mutagenesis Kit;Clonetech社, EXOIII/Mung Bean Deletion Kit;Stratagene製, Quick Change Site Directed Mutagenesis Kit;Stratagene製など)の使用、或いはポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)の利用が挙げられる。
【0035】
作製されたFAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼ改変体の遺伝情報を有するDNAは、プラスミドと連結された状態にて宿主微生物に移入され、FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼ改変体を生産する形質転換体となる。この際のプラスミドとしては、例えば、エシェリヒア・コリーJM109、エシェリヒア・コリーDH5α、エシェリヒア・コリーW3110、エシェリヒア・コリーC600などが利用できる。宿主微生物に組み換えベクターを移入する方法としては、例えば宿主微生物がエシェリヒア・コリーに属する微生物の場合には、カルシウムイオンの存在下で組み換えDNAの移入を行う方法などを採用することができる、更にエレクトロポレーション法を用いても良い。更には市販のコンピテントセル(例えばコンピテントハイJM109;東洋紡績製)を用いても良い。
【0036】
なお、これらの過程で得られた、FADGDH改変体をコードする遺伝子、該遺伝子を含むベクター、該ベクターで形質転換された形質転換体も、本発明の実施形態として含まれる。
【0037】
本発明の改変型FADGDHの改変の基になる遺伝子は、特に限定されるものではないが、Aspergillus属由来のFADGDHを用いることが望ましい。さらに好ましくはAspergillus oryzae由来あるいはAspergillus terreus由来のFADGDHであることが望ましい。
Aspergillus terreus由来のFADGDHとしては、配列番号1、2で表されるタンパク質が例示できる。
【0038】
本願発明の一実施形態は、上記のいずれかに記載のタンパク質をコードする遺伝子である。
【0039】
改変前のタンパク質をコードする遺伝子として、たとえば、上記の配列番号1、2で表されるタンパク質をコードする遺伝子としては、配列番号3、4で表される塩基配列が例示できる。
本願発明の遺伝子は、上記改変前のタンパク質をコードする遺伝子の配列において、46位、49位、50位、54位、55位、78位、104位のうちいずれかのアミノ酸、あるいはそれと同等の位置のアミノ酸をコードする部分が、他のアミノ酸をコードするように置換されている。
【0040】
本発明のFADGDH改変体をコードする遺伝子は、配列番号3、4に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつFADGDH活性を有する蛋白質をコードするDNAである。ここでストリンジェントな条件とは、相同性が高い核酸同士、例えば完全にマッチしたハイブリッドのTmから該Tmより15℃、好ましくは10℃低い温度までの範囲の温度でハイブリダイズする条件をいう。具体的には、例えば一般的なハイブリダイゼーション用緩衝液中で、68℃、20時間の条件でハイブリダイズする条件をいう。本発明において、配列番号3、4に記載の塩基配列がコードするアミノ酸配列と50%以上の相同性、好ましくは80%以上の相同性、さらに好ましくは90%以上の相同性、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ配列をコードする塩基配列がストリンジェントな条件に相当すると考えられる。
【0041】
本願発明の遺伝子は、たとえばGDHの発現を向上させる目的などで、コドンユーセージ(Codon usage)を変更したものを含みうる。
【0042】
本願発明の一実施形態は、上記の遺伝子を含むベクター、該ベクターで形質転換された形質転換体、該形質転換体を培養し、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質を採取するグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質を生産する方法である。
【0043】
例えば、上記のGDH遺伝子を発現用ベクター(プラスミド等多くのものが当該技術分野において知られている)に挿入し、適当な宿主(大腸菌等多くのものが当該技術分野において知られている)を形質転換する。得られた形質転換体を培養し、培養液から遠心分離などで菌体を回収した後、菌体を機械的方法またはリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、また、必要に応じてEDTAなどのキレート剤や界面活性剤等を添加して可溶化し、GDHを含む水溶性画分を得ることができる。または適当な宿主ベクター系を用いることにより、発現したGDHを直接培養液中に分泌させることが出来る。
【0044】
上記のようにして得られたGDH含有溶液を、例えば減圧濃縮、膜濃縮、さらに硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどの塩析処理、あるいは親水性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトンなどによる分別沈殿法により沈殿せしめればよい。また、加熱処理や等電点処理も有効な精製手段である。また、吸着剤あるいはゲルろ過剤などによるゲルろ過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーを行うことにより、精製されたGDHを得ることができる。該精製酵素標品は、電気泳動(SDS−PAGE)的に単一のバンドを示す程度に純化されていることが好ましい。
【0045】
これらは、例えば、以下の文献に従って進めることができる。
(a)タンパク質実験プロトコール第1巻 機能解析編,第2巻 構造解析編 (秀潤社) 西村善文,大野茂男 監修
(b)改訂 タンパク質実験ノート 上 抽出と分離精製 (洋土社) 岡田雅人,宮崎香 編集
また、以下に例示する方法によって進めることもできる。
【0046】
作製されたタンパク質の遺伝情報を有するDNAは、ベクターと連結された状態にて宿主微生物中に移入される。
【0047】
ベクターとしては、宿主微生物内で自立的に増殖し得るファージまたはプラスミドから遺伝子組換え用として構築されたものが適している。ファージとしては、例えばエシェリヒア・コリーを宿主微生物とする場合にはLambda gt10、Lambda gt11などが例示される。また、プラスミドとしては、例えば、エシェリヒア・コリーを宿主微生物とする場合には、pBR322、pUC19、pKK223−3、pBluescriptなどが例示される。なかでも、pBluescriptなど、クローニングサイト上流にエシェリヒア・コリー内で認識されうるプロモーターを保持するものが好ましい。
また、適当な宿主微生物としては、組換えベクターが安定であり、かつ自立増殖可能で外来遺伝子の形質発現できるものであれば特に制限されない。エシェリヒア・コリーではエシェリヒア・コリーW3110、エシェリヒア・コリーC600、エシェリヒア・コリーHB101、エシェリヒア・コリーJM109、エシェリヒア・コリーDH5αなどを用いることができる。
【0048】
宿主微生物に組換えベクターを移入する方法としては、例えば宿主微生物がエシェリヒア属に属する微生物の場合には、カルシウムイオンの存在下で組換えDNAの移入を行なう方法などを採用することができ、更にエレクトロポレーション法を用いても良い。更には、市販のコンピテントセル(例えば、コンピテントハイDH5α;東洋紡績製)を用いても良い。宿主として、酵母が用いられる場合にリチウム法、エレクトロポレーション法が、また、糸状菌が用いられ場合にはプロトプラスト法などが用いられる。
【0049】
本発明において、GDHをコードする遺伝子を得る方法としては、次のような方法が挙げられる。アスペルギルス・テレウスのゲノム配列情報を用い、予測GDH遺伝子を見出すことができる。ついで、アスペルギルス・テレウスの菌体よりmRNAを調製し、cDNAを合成する。こうして得られたcDNAをテンペレートとして、PCR法によりGLD遺伝子を増幅させ、本遺伝子をベクターと両DNAの平滑末端または付着末端においてDNAリガーゼなどにより結合閉鎖させて組換えベクターを構築する。該組換えベクターを複製可能な宿主微生物に移入した後、ベクターのマーカーを利用してGDHをコードする遺伝子を含有する組換え微生物を得る。
【0050】
上記のように得られた形質転換体である微生物は、栄養培地で培養されることにより、多量のGDHを安定に生産し得る。組換え体の選択は、ベクターのマーカーとGDH活性を同時に発現する微生物を検索すればよい。例えば、薬剤耐性マーカーに基づく選択培地で生育し、かつGDHを生成する微生物を選択すればよい。
【0051】
GDH遺伝子の塩基配列は、Science,第214巻,1205(1981)に記載されたジデオキシ法により解読した。また、GDHのアミノ酸配列は上記のように決定された塩基配列より推定した。
【0052】
上記のようにして、一度選択されたGDH遺伝子を保有する組換えベクターより、他の微生物にて複製できる組換えベクターへの移入は、GDH遺伝子を保持する組換えベクターから制限酵素やPCR法によりGDH遺伝子であるDNAを回収し、他のベクター断片と結合させることにより容易に実施できる。また、これらのベクターによる他の微生物の形質転換は、カルシウム処理によるコンピテントセル法やエレクトロポレーション法、プロトプラスト法などを用いることができる。
【0053】
なお、本発明のGDH遺伝子は、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有する限り、該遺伝子の翻訳後のアミノ酸配列の各アミノ酸残基の一部が欠失または置換されるようなDNA配列をもつものでもよく、また他のアミノ酸残基が付加または置換されるようなDNA配列をもつものでもよい。
【0054】
野生型GDHをコードする遺伝子を改変する方法としては、通常行われる遺伝情報を改変する手法が用いられる。すなわち、タンパク質の遺伝情報を有するDNAの特定の塩基を変換することにより、或いは特定の塩基を挿入または欠失させることにより、改変蛋白質の遺伝情報を有するDNAが作成される。DNA中の塩基を変換する具体的な方法としては、例えば市販のキット(TransformerMutagenesis Kit;Clonetech製,EXOIII/Mung Bean Deletion Kit;Stratagene製,QuickChange Site Directed Mutagenesis Kit;Stratagene製など)の使用、或いはポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)の利用が挙げられる。
【0055】
形質転換体である宿主微生物の培養形態は、宿主の栄養生理的性質を考慮して培養条件を選択すればよい。多くの場合は液体培養で行い、工業的には通気攪拌培養を行うのが有利である。ただし、生産性を考えた場合に、宿主として糸状菌を使用し、固体培養で行った方が有利な場合もある。
【0056】
培地の栄養源としては,微生物の培養に通常用いられるものが広く使用され得る。炭素源としては資化可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコース、シュークロース、ラクトース、マルトース、ラクトース、糖蜜、ピルビン酸などが使用される。また、窒素源としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えば、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物、大豆粕アルカリ抽出物などが使用される。その他、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガン、亜鉛などの塩類、特定のアミノ酸、特定のビタミンなどが必要に応じて使用される。
【0057】
培養温度は菌が成育し、GDHを生産する範囲で適宜変更し得るが、好ましくは20〜37℃程度である。培養時間は条件によって多少異なるが、GDHが最高収量に達する時期を見計らって適当時期に培養を完了すればよく、通常は6〜48時間程度である。培地のpHは菌が発育し、GDHを生産する範囲で適宜変更し得るが、好ましくはpH5.0〜8.0程度の範囲である。
【0058】
培養物中のGDHを生産する菌体を含む培養液をそのまま採取し、利用することもできるが、一般には、常法に従って、GDHが培養液中に存在する場合はろ過、遠心分離などにより、GDH含有溶液と微生物菌体とを分離した後に利用される。GDHが菌体内に存在する場合には、得られた培養物からろ過または遠心分離などの手段により菌体を採取し、次いで、この菌体を機械的方法またはリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、また、必要に応じて、EDTA等のキレート剤及び界面活性剤を添加してGDHを可溶化し、水溶液として分離採取する。
【0059】
上記のようにして得られたGDH含有溶液を、例えば減圧濃縮、膜濃縮、さらに硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどの塩析処理、あるいは親水性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトンなどによる分別沈殿法により沈殿せしめればよい。また、加熱処理や等電点処理も有効な精製手段である。その後、吸着剤あるいはゲルろ過剤などによるゲルろ過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーを行うことにより、精製されたGDHを得ることができる。
【0060】
例えば、セファデックス(Sephadex)ゲル(GEヘルスケア バイオサイエンス社製)などによるゲルろ過、DEAEセファロースCL−6B (GEヘルスケア バイオサイエンス社製)、オクチルセファロースCL−6B (GEヘルスケア バイオサイエンス社製)等のカラムクロマトグラフィーにより分離、精製し、精製酵素標品を得ることができる。該精製酵素標品は、電気泳動(SDS−PAGE)的に単一のバンドを示す程度に純化されていることが好ましい。
【0061】
本発明において、FADGDHの活性測定は以下の条件で行う。
[試験例]
<試薬>
50mM PIPES緩衝液pH6.5(0.1% TritonX−100を含む)
24mM PMS溶液
2.0mM 2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCPIP)溶液
1M D−グルコース溶液
上記PIPES緩衝液21.9ml、DCPIP溶液1.0ml、PMS溶液2.0ml、D―グルコース溶液4.5mlを混合して反応試薬とする。
【0062】
<測定条件>
反応試薬3mlを37℃で5分間予備加温する。GDH溶液0.1mlを添加しゆるやかに混和後、水を対照に37℃に制御された分光光度計で、600nmの吸光度変化を5分記録し、直線部分から1分間あたりの吸光度変化(ΔODTEST)を測定する。盲検はGDH溶液の代わりにGDHを溶解する溶媒を試薬混液に加えて同様に1分間あたりの吸光度変化(ΔODBLANK)を測定する。これらの値から次の式に従ってGDH活性を求める。ここでGDH活性における1単位(U)とは、濃度200mMのD−グルコース存在下で1分間に1マイクロモルのDCPIPを還元する酵素量として定義している。また、25℃での活性値を測定する場合は、上記の37℃と表記した操作を25℃に変更して測定する。キシロースに対する反応性を測定する際は、上記の1M D−グルコース溶液の代わりに1M D−キシロースを使用すればよい。

活性(U/ml)=
{−(ΔODTEST−ΔODBLANK)×3.0×希釈倍率}/{16.3×0.1×1.0}

なお、式中の3.0は反応試薬+酵素溶液の液量(ml)、16.3は本活性測定条件におけるミリモル分子吸光係数(cm/マイクロモル)、0.1は酵素溶液の液量(ml)、1.0はセルの光路長(cm)を示す。
【0063】
グルコースアッセイキット
本発明はまた、本発明に従う改変型FADGDHを含むグルコースアッセイキットを特徴とする。本発明のグルコースアッセイキットは、本発明に従う改変型FADGDHを少なくとも1回のアッセイに十分な量で含む。典型的には、キットは、本発明の改変型FADGDHに加えて、アッセイに必要な緩衝液、メディエーター、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。本発明に従う改変型FADGDHは種々の形態で、例えば、凍結乾燥された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液として提供することができる。
【0064】
グルコースセンサー
本発明はまた、本発明に従う改変型FADGDHを用いるグルコースセンサーを特徴とする。電極としては、カーボン電極、金電極、白金電極などを用い、この電極上に本発明の酵素を固定化する。固定化方法としては、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマー、導電性ポリマー、酸化還元ポリマーなどがあり、あるいはフェロセンあるいはその誘導体に代表される電子メディエーターとともにポリマー中に固定あるいは電極上に吸着固定してもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。典型的には、グルタルアルデヒドを用いて本発明の改変型FADGDHをカーボン電極上に固定化した後、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングする。
【0065】
グルコース測定法
グルコース濃度の測定は、以下のようにして行うことができる。恒温セルに緩衝液を入れ、一定温度に維持する。メディエーターとしては、フェリシアン化カリウム、フェナジンメトサルフェートなどを用いることができる。作用電極として本発明の改変型FADGDHを固定化した電極を用い、対極(例えば白金電極)および参照電極(例えばAg/AgCl電極)を用いる。カーボン電極に一定の電圧を印加して、電流が定常になった後、グルコースを含む試料を加えて電流の増加を測定する。標準濃度のグルコース溶液により作製したキャリブレーションカーブに従い、試料中のグルコース濃度を計算することができる。
【0066】
本発明のグルコース測定に用いる試料は血液であり、ヒトの体温に近い温度(37℃付近)であるが、血糖の測定は、通常、温度が厳密に調整されていない室温で行われるため、実際の測定温度は室温付近から体温付近の間、例えば25℃以上37℃以下の範囲内で行われる。
本発明のグルコース測定方法においては、例えば、上述の温度依存性が改善したFADGDHを用いることが好ましく、それによって、広い温度範囲で、より正確性・精密性の高い測定値を得ることが容易になる。
【0067】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【実施例1】
【0068】
実施例1 アスペルギルス・テレウス由来の改変型FADGDH遺伝子の作製
アスペルギルス・テレウス由来のFADGDH(配列番号2)をコードする遺伝子(配列番号4)を含む組み換えプラスミドpATGDH2で市販の大腸菌コンピテントセル(E.coli DH5a;TOYOBO社製)を形質転換し、アンピシリンを含んだ寒天培地(1%ポリペプトン、0.5%酵母エキス、0.5%NaCl、1.5%寒天;pH7.3)に塗布した後、30℃で一晩培養した。得られた形質転換体をアンピシリン(50mg/ml;ナカライテスク社製)を含んだ液体培地(1%ポリペプトン、0.5%酵母エキス、0.5%NaCl;pH7.3)を摂取し、30℃で一晩振とう培養した。得られた菌体から常法によりプラスミドpATGDH2を調製した。
このpATGDH2プラスミドを鋳型として、46番目のアスパラギンを他のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号5の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチドをQuickChange Site−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて改変型FADGDHプラスミドを作製した。
【0069】
上記と同様の方法にて、49番目のグリシンについても部位特異的アミノ酸置換を行った。pATGDHプラスミドを鋳型として、49番目のグリシンを他のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号6の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチドをQuickChange Site−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて改変型FADGDHを作製した。
【0070】
上記と同様の方法にて、50番目のチロシンについても部位特異的アミノ酸置換を行った。pATGDHプラスミドを鋳型として、50番目のチロシンを他のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号7の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチドをQuickChange Site−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて改変型FADGDHを作製した。
【0071】
上記と同様の方法にて、54番目のフェニルアラニンについても部位特異的アミノ酸置換を行った。pATGDHプラスミドを鋳型として、54番目のフェニルアラニンを他のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号8の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチドをQuickChange Site−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて改変型FADGDHを作製した。
【0072】
上記と同様の方法にて、55番目のグリシンについても部位特異的アミノ酸置換を行った。pATGDHプラスミドを鋳型として、55番目のグリシンを他のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号9の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチドをQuickChange Site−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて改変型FADGDHを作製した。
【0073】
上記と同様の方法にて、78番目のアルギニンについても部位特異的アミノ酸置換を行った。pATGDHプラスミドを鋳型として、78番目のアルギニンを他のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号10の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチドをQuickChange Site−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて改変型FADGDHを作製した。
【0074】
上記と同様の方法にて、104番目のアラニンについても部位特異的アミノ酸置換を行った。pATGDHプラスミドを鋳型として、104番目のアラニンを他のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号11の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチドをQuickChange Site−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて改変型FADGDHを作製した。
【0075】
これらの改変型FADGDHプラスミドで市販の大腸菌コンピテントセル(E.coli DH5a;TOYOBO社製)を形質転換し、アンピシリンを含んだLB寒天培地で30℃、16時間培養した。その後、改変型FADGDHを有したシングルコロニーを、アンピシリンを含むLB寒天培地にレプリカした後、アンピシリンを含むLB液体培地に摂取して、30℃で一晩振とう培養した。その後、1mlの培養液を摂取し、常法によりプラスミドを抽出した。抽出したプラスミドの当該部位をDNAシークエンサー(ABI PRISMTM 3700DNA Analyzer;Perkin−Elmer製)を用いて特定した。
【実施例2】
【0076】
実施例2 アスペルギルス・テレウス由来の改変型FADGDHの温度依存性の比較検討
実施例1で確認した野生型とは異なるアミノ酸種に部位特異的変異している形質転換株を15mlのアンピシリンを含むTB液体培地に植菌して、25℃、64時間培養した。培養液全量を集菌した後、50mMのリン酸緩衝液(pH6.0)に懸濁し、ガラスビーズを用いて該菌体を破砕することにより粗酵素液を調製した。
得られた粗酵素液は、試験例に示した活性測定法を基本として、25℃と37℃の反応温度で活性を測定することにより、37℃での活性測定値を100%とした場合の25℃での活性測定値の割合(%)を調べた。25℃における野生型の活性値は約50〜54%を示していた。野生型の活性値比率と比べて上昇しているものは温度依存性が改善されていると考えられた。
N46A、またはG49N、またはG49F、またはG49V、またはG49R、またはG49I、またはG49M、またはG49L、またはG49Q、またはG49D、またはG49C、またはG49W、またはG49T、またはG49E、またはG49K、またはG49A、またはG49S、またはY50K、またはY50I、またはY50V、またはY50Q、またはY50H、またはY50C、またはY50P、またはY50N、またはY50S、またはY50A、またはY50D、またはY50E、またはY50R、またはY50M、またはY50T、またはY50G、またはF54D、またはF54S、またはF54E、またはF54Q、またはF54C、またはF54N、またはF54T、またはF54A、またはF54Y、またはF54M、またはG55T、またはG55K、またはG55P、またはG55I、またはG55H、またはG55L、またはG55V、またはG55Y、またはG55M、またはG55W、またはR78S、またはR78P、またはR78F、またはR78Q、またはR78G、またはR78A、またはR78D、またはR78L、またはA104N、またはA104Y、またはA104W、またはA104P、またはA104M、またはA104Dのアミノ酸置換した改変型FADGDHにおいて温度依存性の顕著な改善効果が見られた。
【0077】
表1の左側4列は、アスペルギルス・テレウス由来のFAD−GDHの46位のNを17種の他のアミノ酸に置換した改変型FADGLDの温度依存性の比較である。
【0078】
【表1】

【0079】
表2の左側4列は、アスペルギルス・テレウス由来のFAD−GDHの49位のGを16種の他のアミノ酸に置換した改変型FADGLDの温度依存性の比較である。
【0080】
【表2】

【0081】
表3の左側4列は、アスペルギルス・テレウス由来のFAD−GDHの50位のYを18種の他のアミノ酸に置換した改変型FADGLDの温度依存性の比較である。
【0082】
【表3】

【0083】
表4の左側4列は、アスペルギルス・テレウス由来のFAD−GDHの54位のFを14種の他のアミノ酸に置換した改変型FADGLDの温度依存性の比較である。
【0084】
【表4】

【0085】
表5の左側4列は、アスペルギルス・テレウス由来のFAD−GDHの55位のGを16種の他のアミノ酸に置換した改変型FADGLDの温度依存性の比較である。
【0086】
【表5】

【0087】
表6の左側4列は、アスペルギルス・テレウス由来のFAD−GDHの78位のRを14種の他のアミノ酸に置換した改変型FADGLDの温度依存性の比較である。
【0088】
【表6】

【0089】
表7の左側4列は、アスペルギルス・テレウス由来のFAD−GDHの104位のAを14種の他のアミノ酸に置換した改変型FADGLDの温度依存性の比較である。
【0090】
【表7】

【実施例3】
【0091】
実施例3 アスペルギルス・テレウス由来の改変型FADGDHのキシロース作用性の比較検討
実施例1で確認した野生型とは異なるアミノ酸種に部位特異的変異している形質転換株を15mlのアンピシリンを含むTB液体培地に植菌して、25℃、64時間培養した。培養液全量を集菌した後、50mMのリン酸緩衝液(pH6.0)に懸濁し、ガラスビーズを用いて該菌体を破砕することにより粗酵素液を調製した。
得られた粗酵素液は、試験例に示した活性測定法を基本として、グルコースの代わりにキシロースを基質として、活性値を測定した。そして、グルコースを基質とした場合の活性値を100%として、キシロースを基質とした場合の活性値の割合(%)を調べた。野生型のキシロースに対する活性値比率(8.1〜10.0%)と比べて減少しているものが、キシロースに対する反応性が低下して、グルコースに対する特異性が向上していると考えた。
N46L、またはG49A、またはG49K、またはG49D、またはG49E、またはG49S、またはG49C、またはG49T、またはF54I、またはF54H、またはF54M、またはF54N、またはF54Y、またはG55D、またはR78Hのアミノ酸置換した改変型FADGDHにおいてキシロースの対する反応性が低下する顕著な改善効果が見られた。
G49A、またはG49K、またはG49D、またはG49E、またはG49S、またはG49C、またはG49T、またはF54M、またはF54N、またはF54Yのアミノ酸置換した改変型FADGDHにおいては、温度依存性と共に、キシロースの対する反応性が低下する2重の改善効果が見られた。
【0092】
表1の右側4列は、アスペルギルス・テレウス由来のFAD−GDHの46位のNを17種の他のアミノ酸に置換した改変型FADGLDのキシロース作用性の比較である。
表2の右側4列は、アスペルギルス・テレウス由来のFAD−GDHの49位のGを16種の他のアミノ酸に置換した改変型FADGLDのキシロース作用性の比較である。
表3の右側4列は、アスペルギルス・テレウス由来のFAD−GDHの50位のYを18種の他のアミノ酸に置換した改変型FADGLDのキシロース作用性の比較である。
表4の右側4列は、アスペルギルス・テレウス由来のFAD−GDHの54位のFを14種の他のアミノ酸に置換した改変型FADGLDのキシロース作用性の比較である。
表5の右側4列は、アスペルギルス・テレウス由来のFAD−GDHの55位のGを16種の他のアミノ酸に置換した改変型FADGLDのキシロース作用性の比較である。
表6の右側4列は、アスペルギルス・テレウス由来のFAD−GDHの78位のRを14種の他のアミノ酸に置換した改変型FADGLDのキシロース作用性の比較である。
表7の右側4列は、アスペルギルス・テレウス由来のFAD−GDHの104位のAを14種の他のアミノ酸に置換した改変型FADGLDのキシロース作用性の比較である。
【0093】
また、アスペルギルス・テレウス由来のFADGDH(配列番号1)をコードする遺伝子(配列番号3)を含む組み換えプラスミドpATGDH1で市販の大腸菌コンピテントセル(E.coli DH5a;TOYOBO社製)を形質転換し、アンピシリンを含んだ寒天培地(1%ポリペプトン、0.5%酵母エキス、0.5%NaCl、1.5%寒天;pH7.3)に塗布した後、30℃で一晩培養した。得られた形質転換体をアンピシリン(50mg/ml;ナカライテスク社製)を含んだ液体培地(1%ポリペプトン、0.5%酵母エキス、0.5%NaCl;pH7.3)を摂取し、30℃で一晩振とう培養した。得られた菌体から常法によりプラスミドpATGDH1を調製した。
このpATGDH1プラスミドを鋳型として、先と同様の方法にて、配列番号1のアミノ酸配列の46位、49位、50位、54位、55位、78位、104位のうちいずれかの位置においてアミノ酸置換を有する改変型FADGDHプラスミドを作製した。
【0094】
これらの改変型FADGDHプラスミドで市販の大腸菌コンピテントセル(E.coli DH5a;TOYOBO社製)を形質転換した改変型FADGDHについても、同様の検討を行い、同じ変異体で温度依存性およびキシロース作用性の低下において、同程度の改善効果が見られることを確認している。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明による温度依存性が改善し、且つ、基質特異性が向上したFAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼを利用することにより、グルコース測定の精度向上を可能にし、医療関連分野などの産業に貢献するところ大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のいずれかで示される、フラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質(以下、FADGDHとも記載)。
(1)配列番号1または配列番号2に記載のアミノ酸配列の46位、49位、50位、54位、55位、78位、104位のうちいずれか、もしくは、それと同等の位置においてアミノ酸置換されているアミノ酸配列を有する。
(2)配列番号3または配列番号4に記載の塩基配列を有する遺伝子によりコードされるアミノ酸配列の46位、49位、50位、54位、55位、78位、104位のうちいずれか、もしくは、それと同等の位置においてアミノ酸置換されているアミノ酸配列を有する。
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質において、アミノ酸が置換された位置以外の位置において、さらに、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加(挿入)されたアミノ酸配列からなり、かつグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項3】
請求項1または2に記載のタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項4】
請求項3に記載の遺伝子を含むベクター。
【請求項5】
請求項4に記載のベクターで形質転換された形質転換体。
【請求項6】
請求項5に記載の形質転換体を培養し、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質を採取することを特徴とする、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質を生産する方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載のタンパク質を含むグルコースアッセイキット。
【請求項8】
請求項1または2に記載のタンパク質を含むグルコースセンサー。
【請求項9】
請求項1または2に記載のタンパク質を用いるグルコース測定法。

【公開番号】特開2012−19756(P2012−19756A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161640(P2010−161640)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】