説明

フラーレン脂溶体とその水系分散体、並びに抗酸化剤と細胞傷害抑制処方剤

【課題】 フラーレン類の抗酸化活性を脂質への溶解状態においても顕著に発現することができ、しかも水系の状態においてもその発現を可能として、フラーレン類の実用展開を大きく拓くことのできる新しい技術手段を提供する。
【解決手段】 フラーレン類が、スクワラン類、ミネラルオイルおよびビタミンE類のうちの少なくとも1種の脂質に溶解されているフラーレン脂溶体とし、またこのフラーレン脂溶体が水系溶媒に分散されているフラーレン脂溶体の水系分散体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品、医薬品等として有用な、抗酸化活性を有するフラーレン脂溶体とその水系分散体、そして抗酸化剤、細胞傷害抑制処方剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒト皮膚細胞への紫外線照射や過酸化脂質処理に伴う活性酸素の増加を抑制する抗酸化剤としてフラーレン類が優れた効果を示すことや、これを用いて化粧品、医薬等の外用処方剤とすることはすでに本発明者らによって報告、提案されているところである(たとえば非特許文献1、特許文献1を参照)。
【0003】
そして、フラーレン類を水系溶媒に溶解することがその応用において有用であることから、フラーレン類を水溶性高分子によって修飾複合化することや、シクロデキストリンによって包接すること、あるいは水酸化フラーレン類とすることもすでに提案されている。
【0004】
また、水溶液中でレドックス系酸化還元能力を発現させるために、フラーレン類からの多価アニオン、ラジカルアニオン状態を水中においても安定に保持できるように、フラーレン類を合成脂質と複合化したコンポジットマテリアルも提案されている(特許文献2)。
【0005】
しかしながら、フラーレン類の抗酸化活性の発現については、これに随伴させる媒体との相互作用については必ずしも十分な検討が行われていない。特に、フラーレン類を脂質に溶解させた場合の顕著な作用効果の実現についての知見はほとんど得られていないのが実情であり、このことがフラーレン類の実用の観点からは大きな制約の一つとなっていた。
【非特許文献1】BIO INDUSTRY vol.20, No.5, 2003, pp.82-40
【特許文献1】特開2004−250690号公報
【特許文献2】特開2000−16974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のとおりの背景から、フラーレン類の抗酸化活性を脂質への溶解状態においても顕著に発現することができ、しかも水系の状態においてもその発現を可能として、フラーレン類の実用展開を大きく拓くことのできる新しい技術手段を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものとして、以下のことを提供する。
【0008】
第1:フラーレン類が、スクワラン類、ミネラルオイルおよびビタミンE類のうちの少なくとも1種の脂質に溶解されているフラーレン脂溶体。
【0009】
第2:上記のフラーレン脂溶体が水系溶媒に分散されているフラーレン脂溶体の水系分散体。
【0010】
第3:ノニオン界面活性剤とともに分散されている上記の水系分散体。
【0011】
第4:超音波の照射、ボリテックスミキサーおよびホモジナイズ処理の少なくともいずれかの手段によってフラーレン脂溶体を水系溶媒に分散させるフラーレン脂溶体の水系分散体の製造方法。
【0012】
第5:フラーレン脂溶体を有効成分とする抗酸化剤。
【0013】
第6:フラーレン脂溶体の水系分散体を有効成分とする抗酸化剤。
【0014】
第7:上記いずれかの抗酸化剤を含有する細胞傷害抑制処方剤。
【発明の効果】
【0015】
上記のとおりの本発明によれば、フラーレン類の抗酸化活性を脂質への溶解状態において、さらには水系の状態においても顕著に発現することができ、化粧品等の外用組成物として、あるいは医薬処方組成物等としての実用展開を拡大することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施の形態を以下に説明する。
【0017】
本発明のフラーレン脂溶体、そしてその水系分散体に用いることのできるフラーレン類については、フラーレンとその誘導体の各種のものが考慮される。たとえばフラーレンは、Cn(nは60以上の整数)として表わされるもので、C60フラーレン、C70フラーレン等をはじめ、さらにはカーボンチューブフラーレン等の、球面状、チューブ状等の炭素骨格構造を有する、従来公知のものをはじめとする各種のものの1種または2種以上が例として挙げられる。
【0018】
そして、このような炭素骨格構造には、各種の置換基、たとえば炭化水素基、酸素架橋基、水酸基、アシル基、エーテル基、カルボキシル基等の含酸素基、アミノ基、シアノ基の含窒素基等を有していてもよい。
【0019】
そしてまた、メチレン鎖等のアルキレン鎖を介して複数のフラーレンが結合したものも含まれる。フラーレンC60の誘導体としては、フラーレン分子一個に対して修飾基が1個から40個結合しているものや、フラーレンC70の誘導体としては、フラーレン分子一個に対して修飾基が1個から50個結合しているものが例示される。この場合の修飾基は、各々独立に水酸基またはその水酸基と無機もしくは有機酸とのエステル基または糖との配糖体基、もしくは水酸基とケトンとのケタール基もしくはアルデヒドとのアセタール基であればよく、このフラーレン修飾化合物またはその塩及びそこから選択される少なくとも一種であればよい。
【0020】
また、フラーレン含酸素誘導体については、フラーレン骨格の炭素原子に直接滴に、あるいはアルキレン鎖等の炭素鎖等を介して酸素原子が結合するものが考慮される。たとえば水酸化率が50/モル・フラーレン程度までの−OH基が直接結合した水酸化フラーレンが例示される。
【0021】
たとえば、フラーレンの一分子当り30〜36個の水酸基(OH)が結合している水酸化フラーレン類も本発明においては好適なものとして例示される。
【0022】
たとえば以上のようなフラーレンまたはフラーレン誘導体を修飾もしくは包接する有機化合物としては、有機オリゴマー、有機ポリマーおよび包接化合物または包接錯体が形成可能なシクロデキストリン(CD)やクラウンエーテルもしくはそれらの類緑化合物の1種または2種以上のものが好適なものとして例示される。
【0023】
有機オリゴマーや、有機ポリマーとしては、たとえば、カルボン酸エステル類、アルコール類、糖類、多糖類、多価アルコール類、ポリエチレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、等のポリアルキレングリコール又は多価アルコール類の重合体、デキストラン、ブルラン、デンプン、ヒドロキシエチルデンプン及びヒドロキシプロピルデンプンのようなデンプン誘導体を含む非イオン性水溶性高分子、アルギン酸、ヒアルロン酸、キトサン、キチン誘導体、並びにこれらの高分子のアニオン性又はカチオン性誘導体及びこれらの高分子グリセリン及び脂肪酸類、油類、炭酸プロピオン、ラウリルアルコール、エトキシル化ひまし油、ポリソルベート類、及びこれらのエステル類又はエーテル類、及びこれらの重合体、及びこれらのポリエステル重合体類、ポリビニルピロリドン等のピロリドン重合体類、不飽和アルコール重合体類のエステル類またはエーテル類およびポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体等のものがフラーレン又はその誘導体に結合したものが好ましく、それらの一種以上の混合物であってよい。なかでも、ポリエチレングリコール(PEG)等のポリアルキレングリコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、等の各種のものが好ましいものとして例示される。PEG、PVP等のポリマーの場合には、その平均分子量については、一般的には、2000〜100,000程度が好ましい、フラーレンまたはフラーレン含酸素誘導体との比率としては、モル比として10/1以下程度とすることが考慮される。
【0024】
たとえば以上のようなフラーレン類は、脂溶性を保持できるものであればいずれでもよく、合成されたもの、あるいは市販品として利用できるもののいずれであってもよい。
【0025】
本発明においては、これらのフラーレン類のうちの1種または2種以上がスクワラン類、ミネラルオイルおよびビタミンE類の1種または2種以上の混合物からなる脂質に溶解されてフラーレン脂溶体が構成される。この場合のスクワラン類としては、スクワランやスクワレンをはじめとするそれらの各種の類縁体、誘導体のうちの1種または2種以上であってよい。ビタミンE類についても同様であって、トコフェロールやトコトリエノール等の各種の類縁体や誘導体の1種または2種以上であってよい。フラーレン類をこれらの脂質に溶解されることのできる割合であれば、これら脂質とフラーレン類の使用割合には特に限定はない。溶解のための手段も、攪拌、加熱等の適宜なものでよい。
【0026】
本発明のフラーレン脂溶体は、水や水性溶媒、たとえばアルコール等と水との混合物等の水系溶媒に分散されていることで、化粧品をはじめとする外用剤等として、その抗酸化活性を生かした実用的な技術としてより有効に展開される。
【0027】
水系溶媒へのフラーレン脂溶体の分散は、たとえばO/Wエマルジョン等として具体化されるが、この水系分散体の製造には、超音波の照射やボルテックスミキサー、ホモジナイザー等による処理がより有効である。
【0028】
そして、この水系溶媒へのフラーレン脂溶体の分散にはノニオン界面活性剤も有効に使用される。たとえばポリオキシエチレンエーテル構造を主体とするノニオン界面活性剤である。これらのノニオン界面活性剤の添加使用量は、全体量の0.01〜2wt%の範囲とすることが好ましい。
【0029】
ホモジナイザーとしてはたとえばPotter型ホモジナイザーが好適なものとして考慮される。このものは、ガラス製筒、筒内腔にフィットしたフッ素樹脂製回転棒との組合わせで、両者の回転とピストン運動の摺り合わせで粒子を微粒化する。エアーを巻き込み難いため、抗酸化剤の微粒化に有効である。
【0030】
これら手段による分散処理では減気泡条件下で行うことが好ましく、さらに好ましくは脱気処理した水系溶媒に分散させる。これによって抗酸化活性を保持することが容易となる。
【0031】
本発明のフラーレン脂溶体、そしてその水系溶媒への分散体は、抗酸化剤として化粧品等の外用剤に用いるのに適しており、このような抗酸化剤は、細胞傷害抑制処方剤として、たとえば、UV傷害、日焼け、皮膚脂質代謝異常、光老化、日光過剰症や光発ガン等の抑制、治療、そして防止、あるいはスキンケア用等として有用である。
【0032】
本発明のフラーレン脂溶体は、その水分散体は、外用剤として適用することができ、その形態についてはたとえば以下のことが考慮される。
1.投与量
この出願の発明のフラーレン類の濃度は0.00001%から30%重量濃度であればよいが使用感的側面から好ましくは5%以下が良い。皮膚に投与する場合外用組成物の量は皮膚面積1平方メートル当たり液体0.001〜20ml好ましくは0.01〜5.0mlを外用塗布、湿布または粉霧することがのぞましい。
2.投与形態
皮膚外用組成物の形態の例としては、特に限定されず、たとえば、水溶剤、軟膏、乳液、クリーム、ジェル剤、パック、浴剤、洗浄剤、パップ剤、分散液などのあらゆる外用剤の形態を取ることができ、その剤型についても特に制限はなく、ペースト状、ムース状、ジェル状、粉末状、溶液系、可溶化系、乳化系とすることができる。特に水溶液、乳剤、軟膏剤、ジェル剤、水溶性剤、美容液、パック剤については、これらの剤を外用した後に加湿導入器、振動導入器、イオン導入器、音波導入器、電磁波導入器を用いることによりフラーレン類の皮膚への浸透を促進することができより大きな効果を発揮できる。
【0033】
塗布方法は、液剤の場合、スプレー、貼布、湿布、ディッピング、マスクなど物理的に可能な全ての方法を用いることができる。
3.配合成分
本発明の抗酸化組成物、そして外用組成物は、基本的に従来より知られている化粧品や外用薬剤を構成する各種成分との組み合わせとして実現される。
【0034】
たとえば、保温剤、顔料、基材としてアルコール類や水溶性高分子、細胞賦活剤、アスコルビン酸またはその誘導体、活性酸素消去剤、抗菌剤等である。
【0035】
そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん以下の例によって発明が限定されることはない。
【実施例】
【0036】
C60フラーレンの割合が概ね95%のC60標品を、ミネラルオイル、植物性スクワランおよびビタミンE類(トコフェロール)の各々に溶解し、次いでPotter型ホモジナイザーによって減気泡条件下(アスピレータで減圧化して気泡を減少させる)に水分散させ、O/Wエマルジョンを形成した。
【0037】
このエマルジョンの各々をヒト皮膚角化細胞:HaCaT Cell培養系に添加して細胞生存率について評価した。
【0038】
図1は、ミネラルオイルと植物性スクワランの場合の結果を示したものである。t−BuOOH 20μM添加の条件下で、フラーレン含有のエマルジョン(Lipo Fullereue)の場合と、フラーレンを含有しないミネラルオイル、スクワラン単独(Oil)の場合とを対比して示している。投与濃度V/V%は、水に対する割合を、ppmは、フラーレンの含有量(1mL well中)を示している。
【0039】
図1中の黒色バーの表示として示されているフラーレン脂溶体エマルジョンの場合には、細胞生存率を大きく向上させていることがわかる。
【0040】
図2は、t−BuOOH 70μM添加の条件下でのビタミンEの場合について示したものである。黒色バーで表示されているフラーレン脂溶体のエマルジョンの場合は、ビタミンE単独の場合に比べて細胞生存率を向上させていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】ミネラルオイル、スクワランにフラーレンを溶解した脂溶体の水分散体について、細胞生存率への寄与を示した図である。
【図2】ビタミンE(α−トコフェロール)にフラーレンを溶解した脂溶体の水分散体について、細胞生存率への寄与を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラーレン類が、スクワラン類、ミネラルオイルおよびビタミンE類のうちの少なくとも1種の脂質に溶解されていることを特徴とするフラーレン脂溶体。
【請求項2】
請求項1に記載のフラーレン脂溶体が水系溶媒に分散されていることを特徴とするフラーレン脂溶体の水系分散体。
【請求項3】
ノニオン界面活性剤とともに分散されていることを特徴とする請求項2に記載のフラーレン脂溶体の水系分散体。
【請求項4】
請求項2または3の水系分散体の製造方法であって、超音波の照射、ボルテックスミキサーおよびホモジェナイザ処理の少なくともいずれかの手段によってフラーレン脂溶体を水系溶媒に分散させることを特徴とするフラーレン脂溶体の水系分散体の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のフラーレン脂溶体を有効成分として含有することを特徴とする抗酸化剤。
【請求項6】
請求項2から3に記載のフラーレン脂溶体の水系分散体を有効成分として含有することを特徴とする抗酸化剤。
【請求項7】
請求項5または6に記載の抗酸化剤を含有することを特徴とする細胞傷害抑制処方剤。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−255107(P2008−255107A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61757(P2008−61757)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(803000104)財団法人ひろしま産業振興機構 (70)
【Fターム(参考)】