説明

フリーボールベアリング、ベアリング装置、支持テーブル、搬送設備、ターンテーブル

【課題】フリーボールベアリングに関し、クリーンルーム内への粉塵の飛散を防止することができ、しかも、受け球を押さえ込んで主球の回転抵抗を増大させるための受け球押さえリングの移動抵抗を、グリスを使用しないノングリス方式にて低く抑えることができる技術の提供。
【解決手段】本体20の球受け部23の半球状凹面21と主球42との間に挿入して受け球42を押さえ込むことで前記主球42の回転抵抗を増大させるリング状の押さえ片55を有する受け球押さえリング50が、球受け部23とカバー部30との間に確保された内側空間11内に球受け部23の深さ方向に一致する方向に移動可能に設けられ、この受け球押さえリング50にエア吸引によって駆動力を発生するための駆動用リング部54が設けられているフリーボールベアリング10、ベアリング装置、支持テーブル、搬送設備、ターンテーブルを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全方向に回転自在な1個のボール(主球)が突出された構造であり、物品の搬送あるいは位置決めに用いられる支持テーブル、ターンテーブル等に適用して好適なフリーボールベアリングに係り、例えば半導体基板やプリント配線基板に対する加工、電子部品の実装、フラットパネルの製造、半導体素子や半導体パッケージ等の電子部品の製造、食品や医薬品の製造等にて採用されるクリーンルーム内での使用に好適なフリーボールベアリング、これを用いたベアリング装置、支持テーブル、搬送設備、ターンテーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば物品を搬送する搬送設備にあっては、全方向に回転自在な1個のボール(主球)が突出された構造のフリーボールベアリングを用いて搬送する物品を移送可能に支持するようにした構成のものが多く採用されている。
このような搬送設備にあっては、搬送中の物品の移動を停止あるいは減速させるために、フリーボールベアリングとは別に、物品を衝突させるストッパ、クッション、物品を接触させるガイド部材などを設けた構成のものがあるが、近年、フリーボールベアリング自体が搬送中の物品に制動力を与えることが可能な構成となっているものが提案されている(例えば特許文献1)。このようなフリーボールベアリングを用いた搬送設備は、ストッパ、クッション、ガイド部材等の設置を不要にできる利点がある。
【0003】
上述の特許文献1の図1(a)、(b)記載のフリーボールベアリング(移送用球体支持装置)は、多数の副球を介して凹球面に主球を回転自在に支持した凹球面部材と、前記主球の上部が突出する内孔を有する蓋部材とを備え、前記内孔の縁部が前記主球との間に微小間隙をもって接近した主球の自由転動状態と、前記内孔の縁部が前記主球に押圧接触した主球の制動状態とが切り換え可能になっている。
また、特許文献1の図2(a)、(b)には、環状の副球接触部を有する加圧部材を駆動手段(具体的には電磁線輪によって構成した電磁石34)によって昇降させ、前記加圧部材の下降時に前記副球接触部を副球群の上縁部に接触させることで副球の転動を拘束して主球の回転に制動作用を与える構成のフリーボールベアリング(移送用球体支持装置)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−19877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1の図1(a)、(b)記載のフリーボールベアリング(移送用球体支持装置)のように、蓋部材を主球に接触させて主球の制動を行う構成では、長期の使用によって主球を傷付けることがあり、主球表面に形成された溝が物品との間の隙間の原因になって移動する物品に移動抵抗を与えずらくなる、といった不都合がある。
特許文献1の図2(a)、(b)のように、昇降する加圧部材によって副球を押さえ込む構成の方が、物品に所望の移動抵抗を与える性能を長期にわたって安定に維持できる点で有利である。
【0006】
ところで、例えば半導体基板やプリント配線基板に対する加工、電子部品の実装、フラットパネルの製造、半導体素子や半導体パッケージ等の電子部品の製造、食品や医薬品の製造等にて採用されるクリーンルーム内にて用いられるフリーボールベアリングとしては発塵を高い防塵性が要求される。
上述の特許文献1の図1(a)、(b)記載のフリーボールベアリング(移送用球体支持装置)では蓋部材の主球との接触、特許文献1の図2(a)、(b)記載のフリーボールベアリング(移送用球体支持装置)では蓋部材(特許文献1において符号5a)の下側にて昇降する加圧部材と副球との接触、によって微量の粉塵が生じることがある。このため、クリールームの清浄度の維持のため、粉塵の飛散を防止したいという要求があった。 この点、例えば、フリーボールベアリングを取り付けるテーブルとして通気孔を多数形成したものを採用して、クリーンルーム内に前記テーブルの上方から前記通気孔を介して前記テーブルの下側へ流れる気流を形成し粉塵の飛散を防止する対策(ダウンブロー)も採用可能であるが、特許文献1の図2(a)、(b)記載のフリーボールベアリング(移送用球体支持装置)のように蓋部材の下側にて昇降する加圧部材によって副球を押さえ込む構成では、主球及び副球を回転自在に支持した凹球面部材と蓋部材との間にて発生した粉塵の回収が難しく、清浄度の安定維持の点で不利となっていた。
【0007】
また、例えば特許文献1の図1(a)、(b)記載のフリーボールベアリング(移送用球体支持装置)の蓋部材5にシリンダ部13を結合してなる流体圧シリンダ12のように、主球及び副球を回転自在に支持した凹球面部材の外周面に沿ってスライド移動する筒状体(特許文献1の図1(a)、(b)記載の発明にあっては流体圧シリンダ12)をエア圧等の流体圧によって駆動する構成は、多数のフリーボールベアリングについて主球の回転抑制(回転抵抗の増大)を同時に実現することに有利であり、特許文献1の図2(a)、(b)記載のフリーボールベアリング(移送用球体支持装置)の加圧部材の移動にも適用可能である。
特許文献1の図1(a)、(b)記載の技術は、凹球面部材の外周面と筒状部との間のシール性を高めるために凹球面部材の外周にOリングを設けている。しかしながら、このように、Oリングを使用して、エア圧等の流体圧を駆動源として駆動する機構は、通常、可動部材(特許文献1の図1(a)、(b)にあっては流体圧シリンダ12)の移動抵抗の低減のためにグリスを用いる必要があるが、グリスの揮発成分がクリーンルーム内の汚染の原因となるといった問題がある。
【0008】
本発明は、前記課題に鑑みて、クリーンルーム内への粉塵の飛散を防止することができ、しかも、受け球を押さえ込んで主球の回転抵抗を増大させるための受け球押さえリングの移動抵抗を、グリスを使用しないノングリス方式にて低く抑えることができるフリーボールベアリング、これを用いたベアリング装置、支持テーブル、搬送設備、ターンテーブルの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では以下の構成を提供する。
請求項1記載の発明は、半球状凹面を内面とする球受け用凹所が形成された球受け部を有する本体と、この本体の前記半球状凹面に配された多数の受け球及び該受け球よりも大径に形成され前記受け球を介して回転自在に支持された主球と、前記本体の前記球受け部を取り囲むように設けられたハウジング状のカバー部と、前記本体の前記半球状凹面と前記主球との間に挿入して前記受け球を押さえ込むことで前記主球の回転抵抗を増大させるリング状の押さえ片を有し、前記球受け部と前記カバー部との間に確保された内側空間内に前記球受け用凹所の深さ方向に一致する方向である球受け部高さ方向に移動可能に設けられた受け球押さえリングと、この受け球押さえリングに前記球受け部高さ方向において前記押さえ片によって前記受け球を押さえ込む押さえ方向とは逆方向の変位力を与えて、受け球押さえリングを前記押さえ片によって前記受け球を押さえ込む受け球押さえ位置から離隔した待機位置に配置するための押さえ解除機構とを具備し、前記カバー部に形成された主球突出用開口部から前記主球の一部が突出されているとともに前記カバー部によって前記主球の飛び出しが防止され、前記本体及び/又は前記カバー部には、前記内側空間内のエア吸引用のエア孔が、前記内側空間の前記球受け部高さ方向において前記カバー部の主球突出用開口部とは反対側の基端側に開口して形成され、前記受け球押さえリングは、前記球受け部の外周面と前記内側空間を介して前記球受け部の外周面に対面する前記カバー部の内周面との間に配置された駆動用リング部を有し、前記駆動用リング部は、前記球受け部の外周面にエア流通可能な微小な隙間を介して接近配置された内周面と、前記カバー部の内周面にエア流通可能な微小な隙間を介して接近配置された外周面とを有し、さらに内周面及び/又は外周面にその周方向に延在する溝、あるいはウェアリングが設けられており、前記エア孔を介して前記内側空間内のエアが吸引されることで前記受け球押さえリングに前記内側空間の基端側への変位力が与えられて前記受け球押さえリングが前記待機位置から前記受け球押さえ位置へ移動され、前記内側空間内のエア吸引が行われていないときには前記押さえ解除機構によって前記受け球押さえリングが前記待機位置に配置されることを特徴とするフリーボールベアリングを提供する。
請求項2記載の発明は、前記押さえ解除機構として、該受け球押さえリングに前記吸引装置が作用させる変位力とは逆の方向に弾性付勢するためのスプリングが前記内側空間に組み込まれていることを特徴とする請求項1記載のフリーボールベアリングを提供する。
請求項3記載の発明は、前記本体は、前記球受け部と、この球受け部の基端側に突設されたねじ軸とを具備し、前記エア孔は前記本体に形成されており、前記ねじ軸をその軸心方向に貫通するとともに前記球受け部の外周面に開口していることを特徴とする請求項1又は2記載のフリーボールベアリングを提供する。
請求項4記載の発明は、前記カバー部が、前記本体の前記ねじ軸に螺着されたリング状の基端側カバー部材の外周部に、前記主球突出用開口部が形成されているリング状のキャップを螺着して一体化して構成されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフリーボールベアリングを提供する。
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載のフリーボールベアリングと、このフリーボールベアリングの前記エア孔を介して前記内側空間内のエアを吸引することにより、前記受け球押さえリングに前記内側空間の基端側への変位力を作用させて前記受け球押さえリングの前記押さえ片によって前記受け球を押さえ込むための吸引装置とを具備することを特徴とするベアリング装置を提供する。
請求項6記載の発明は、請求項5記載のベアリング装置が設けられた支持テーブルであって、前記ベアリング装置の前記フリーボールベアリングが水平の基台の複数箇所に取り付けられ、前記フリーボールベアリングの前記エア孔に前記吸引装置をエア吸引可能に接続するための配管が、前記基台の下側から前記エア孔に接続されていることを特徴とする支持テーブルを提供する。
請求項7記載の発明は、請求項6記載の支持テーブルを具備することを特徴とする搬送設備を提供する。
請求項8記載の発明は、ベース部材と、このベース部材上に回転可能に設置された回転テーブルと、この回転テーブルを回転させる回転駆動装置とを有し、前記ベース部材及び/又は前記回転テーブルに取り付けられた請求項1〜4のいずれかに記載のフリーボールベアリングによって前記回転テーブルが前記ベース部材に対して回転可能に支持され、各フリーボールベアリングに前記吸引装置が接続されていることを特徴とするターンテーブルを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フリーボールベアリングの本体及び/カバー部に形成されているエア孔を介して前記内側空間内のエアを吸引することで、受け球押さえリングに、フリーボールベアリングの内側空間の基端側への変位力を作用させることができ、これにより受け球押さえリングに突設されているリング状の押さえ片によって受け球を押さえ込んで主球の回転抵抗を増大させることができる。エア孔からのエア吸引を行ったとき、受け球押さえリングの駆動用リング部がフリーボールベアリングの内側空間の基端側へ吸引されるようにして、受け球押さえリングに内側空間の基端側への変位力が与えられる。受け球押さえリングの駆動用リング部の溝あるいはウェアリングが、受け球押さえリングの変位力の発生に有効に寄与する。
【0011】
また、前記受け球押さえリングの駆動用リング部は、その内周面がエア流通可能な微小な隙間を介して前記球受け部の外周面に接近配置され、外周面が、球受け部の外周面に前記内側空間を介して対面するカバー部の内周面にエア流通可能な微小な隙間を介して接近配置されており、エア孔から前記内側空間内のエアを吸引したとき、前記隙間にエア流が形成される。ウェアリングを用いる場合は、ウェアリングのスリット状の不連続部によって前記隙間のエア流が確保される。このため、エア孔から前記内側空間内のエアを吸引したとき、フリーボールベアリングの内側空間において前記受け球押さえリングの駆動用リング部から開放端側(主球突出用開口部、球受け用凹所の側)のエアも吸引することができる。これにより、受け球押さえリングの移動に伴う発塵のカバー部から外側への放出を防止することができる。
【0012】
しかも、本発明に係るフリーボールベアリングは、前記球受け部及び前記カバー部と受け球押さえリングとの間にグリスを設けていないが、受け球押さえリングの球受け部高さ方向への移動抵抗を低く抑えることができる構成になっており、エア孔からのエア吸引等によって受け球押さえリングの移動を容易に実現できる。
グリスを使用していないことにより、グリスの揮発成分によってクリーンルーム内を汚染するといった不都合を回避できることは言うまでも無い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る1実施形態のフリーボールベアリングの構成を示す部分断面図であり、(a)は受け球押さえリングによる受け球の制動を行っていない状態、(b)は受け球押さえリングによる受け球の制動状態を示す。
【図2】図1のフリーボールベアリングの受け球押さえリングの駆動用リング部付近を示す拡大断面図である。
【図3】本発明に係るフリーボールベアリング、これを用いたベアリング装置、支持テーブルを適用した搬送設備である基板処理設備の一例を説明する平面図である。
【図4】図3の基板処理設備の支持テーブルを説明する正面図である。
【図5】図3の基板処理設備の支持テーブルを説明する平面図である。
【図6】図1のフリーボールベアリングの摩擦抵抗を調べた試験結果を示すグラフである。
【図7】本発明に係る1実施形態のフリーボールベアリングの構成を示す図であり、受け球押さえリングの駆動用リング部付近を示す拡大断面図である。
【図8】ウェアリングの一例を示す斜視図である。
【図9】ターテーブルの一例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の1実施形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
(第1実施形態)
まず、図1(a)、(b)を参照して、本発明に係る第1実施形態のフリーボールベアリングを説明する。
なお、図1(a)、(b)において、このフリーボールベアリング10について、上側を上、下側を下として説明する。
【0016】
図3、図4に示すように、ここで説明するフリーボールベアリング10は、ディスプレイ用マザーガラス、シリコン基板(ウェハ)などといった基板1を精密に位置決めするための基板用位置決めテーブル80(支持テーブル)の水平な基台81に取り付けられている。
【0017】
図3に示すように、前記基板位置決め用テーブル80は、基板1への膜付け等を行う処理設備のクリーンルーム82内に設置されている。クリーンルーム82内には、成膜、レジスト塗布、露光、エッチング等の処理を行う複数の処理室83(チャンバー)が設置されている。前記基板位置決め用テーブル80は、クリーンルーム82内の各処理室83の基板搬入出ゲート(開閉可能なシャッター83a)の外側に設けられており、クリーンルーム82内にて処理室83毎に設けられた搬送装置84によって搬入された基板1を、処理室83内の基板搬送装置(処理室内搬送装置)による搬送前に位置決めする機能を果たす。
【0018】
前記搬送装置84は、クリーンルーム82内に設けられたセンターロボット85と各処理室83に対応して設けられた基板位置決め用テーブル80との間にそれぞれ設けられており、センターロボット85と基板位置決め用テーブル80との間の基板1の搬送を行う。センターロボット85は、搬送装置84間での基板1の移設、及び、クリーンルーム82に対する基板1の搬入出用の搬入出装置86と搬送装置84間の基板1の移設を行う。
【0019】
基台81上に搬入された基板1は、基台81上の多数箇所に突設されているフリーボールベアリング10の上部に突出している主球42(後述)上に載置された状態で水平支持される。そして、この状態にて、図5に示すように、基板位置決め用テーブル80に設けられている位置決め装置のL字形の一対の位置決め部材87が、矩形板状の基板1の4隅の角部のうち対角線上に位置するひと組の角部に当接して、基板1を両側から挟み込むことで基板1の位置決めがなされる。
図5中矢印Gに示すように、前記一対の位置決め部材87は、位置決め装置に設けられている駆動装置によって移動されて互いの間隔方向の距離が可変になっており、基板1を両側から挟み込んで位置決めした後、互いに離隔するように移動されて、基板1の次の搬送動作の障害にならない位置に待避される。
【0020】
図1(a)、(b)に示すように、ここで説明するフリーボールベアリング10は、半球状凹面21を内面とする球受け用凹所22が形成されたブロック状(具体的には円柱状)の球受け部23及び該球受け部23の前記球受け用凹所22の開口部とは反対側(基端側)の端部から突出されたねじ軸24を有する本体20と、この本体20の前記球受け部23を取り囲むように設けられたハウジング状のカバー部30と、前記球受け部23の前記半球状凹面21に配された多数の受け球41と、この受け球41よりも大径に形成され前記受け球41を介して前記半球状凹面21に回転自在に支持された主球42と、前記球受け部23と前記カバー部30との間に確保された内側空間11内に前記球受け用凹所22の深さ方向に一致する方向である球受け部高さ方向(図1(a)、(b)において上下方向)に移動可能に設けられた受け球押さえリング50と、前記カバー部30の内側に組み込まれて前記受け球押さえリング50を前記球受け部高さ方向において前記内側空間の基端側とは反対の方向に弾性付勢するスプリング60(押さえ解除機構)とを具備し、前記カバー部30に形成された主球突出用開口部31から前記主球42の一部を突出させているとともに前記カバー部30によって前記主球42の飛び出しを防止して構成されている。
【0021】
前記カバー部30の主球突出用開口部31の内径は主球42の外径よりも小さいが、この主球突出用開口部31の内径は、図1(a)、(b)に示すように主球42が、本体20の球受け部23の半球状凹面21に接触した多数の受け球41に支持され前記受け球41からの浮き上がりが無い状態において、主球突出用開口部31の内周面と主球42との間には主球42の遊動を可能にするクリアランスCが確保される大きさとなっている。
【0022】
図1(a)、(b)において符号20aで示す仮想線は、前記本体20のねじ軸24の中心軸線である。前記本体20の前記球受け用凹所22の開口部の中央及び前記球受け用凹所22の最深部は前記中心軸線20a上に位置している。以下、前記中心軸線20aを本体軸線とも言う。
【0023】
図4において、このフリーボールベアリング10は、基板位置決め用テーブル80の基台81にねじ軸24をねじ込んで球受け用凹所22の開口部が球受け部23の上部に位置するように本体軸線20aが鉛直の向きで固定している。
但し、このフリーボールベアリング10は、球受け用凹所22の開口部が球受け部23の上部に位置するようにして本体軸線20aが傾斜する向きで使用することも可能であり、また、球受け部高さ方向が水平となる向きでも使用可能である。
例えば、受け部高さ方向が水平となる向きで使用した場合も、主球42は受け球41によって支持されて全方向に回転可能であり、後述のように受け球押さえリング60によって受け球41の押さえ込みを行わない限り、主球42の回転抵抗は小さく、主球42は軽い力で円滑に回転できる。
【0024】
図1(a)、(b)において、本発明に係るフリーボールベアリング10の本体20、カバー部30、受け球41及び主球42、受け球押さえリング50としては、金属製のもの、プラスチック製のもの等を採用できる。
また、基板1が主球42に接触したときに基板1に帯電している静電気によるスパークの発生を防止する点で、主球42として103〜1010Ω/□の表面抵抗率を持つように導電性(狭義の導電性)ないし半導電性樹脂で構成したものを採用し、さらに、この主球42と接するグランド用通電部を有する構成とすることが好ましい。例えば、上述の103〜1010Ω/□の表面抵抗率を持つ主球42を採用し、ステンレス等の導電性金属で形成した受け球41を採用し、さらに、本体20としてステンレス等の導電性金属で形成したもの、あるいはプラスチック等の絶縁材料からなる母材内に電線等からなる通電回路(受け球41と接して電気導通を確保する接触部を含む)を具備した構成のものを採用することで、受け球41と本体20とからなるグランド用通電部を有する構成のフリーボールベアリングが得られる。グランド用通電部を、フリーボールベアリングの外部のグランド用回路と接続しておくことで、基板1が主球ボール42に接したときのスパークの発生を防ぐことができる。スパークの発生は、基板1の損傷の原因になるため、上述の構成のフリーボールベアリング10を採用することで、スパークに起因する基板1の損傷を防止でき、製品歩留まりの向上等を実現できる。
受け球41、本体20は、半導電性樹脂で構成することもできる。
【0025】
また、図示例のフリーボールベアリング10は、本体20に取付部としてのねじ軸24を一体成形している。したがって、ねじ軸24は本体20と同じ導電性ないし半導電性樹脂であるが、ねじ軸を別体で構成することも可能である。その場合には、ねじ軸の部分を、導電性の金属で構成することも可能である。
【0026】
主球ボール42を形成する導電性樹脂材料としては、ベース樹脂に導電性金属フィラーを分散混入したものや、ベース樹脂に帯電防止ポリマーを添加したものなどを採用でき、このような材料によって、103〜1010Ω/□の表面抵抗率を持つようにする。ベース樹脂としては、POM(ポリアセタール)、PAI(ポリアミドイミド)、PBI(ポリベンゾイミダゾール)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PEI(ポリエーテルイミド)、PI(ポリイミド)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、メラミン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂(アラミド樹脂)等を採用できる。また、LCP(液晶ポリマー)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PES(ポリエーテルサルフォン)、その他の樹脂も用いることができる。真空装置内の環境に対する特性安定性等の点で、ベスペル(芳香族ポリアミド樹脂であるデュポン社の登録商標)やPBIが好適である。
本体20やカバー部30、受け球押さえリング50についても同様の導電性樹脂材料によって形成したものを採用可能である。
【0027】
なお、導電性樹脂とは、絶縁性樹脂と対比した広義の意味であり、いわゆる半導電性樹脂と狭義の導電性樹脂とを含む。
一般に体積抵抗率が1013Ωcm程度以下の合成樹脂は、絶縁性樹脂と対比させた広義には導電性樹脂ということができる。その中で体積抵抗率が105〜1013Ωcm程度のものは半導電性樹脂ということができ、さらに、体積抵抗率が105〜1010Ωcm程度のものは、静電気障害を制御するのに適した半導電性樹脂として制電性樹脂とも呼ばれる。この意味で、本発明のフリーボールベアリングにおいて主球等を構成する導電性樹脂(導電性樹脂成形品)は、導電性ないし制電性樹脂ということもできる。
また、本発明に係るフリーボールベアリングの本体20、カバー部30、受け球41及び主球42、受け球押さえリング50としては、導電性、半導電性を有していない材質(例えば、金属、プラスチック等)によって形成されたものを採用することも可能である。
【0028】
図1(a)、(b)に示すように、本体20のねじ軸24は、ブロック状(具体的には円柱状)の球受け部23の基端側の端面(底面23a)から突出されている。
換言すれば、前記本体20は、ねじ軸24の片端に、該ねじ軸24よりも太い外観円柱状の球受け部23を突設した構成になっている。
【0029】
図示例のフリーボールベアリング10において、前記カバー部30は、具体的には、前記本体20の前記ねじ軸24に螺着されたリング状の基端側カバー部材32の外周部に、前記主球突出用開口部31が形成されているリング状のキャップ33を螺着して一体化して構成されたものである。
【0030】
前記基端側カバー部材32は、リング状の底板32aの外周に該底板32aの片面側に突出する周壁部32bが周設された構成になっている。そして、この基端側カバー部材32は、前記底板32aの中央部を貫通する雌ねじ穴32cによって前記ねじ軸24の外側に螺着して取り付けられて、その周壁部32bが本体20の球受け部23の周囲を取り囲むように配置されている。また、図1(a)、(b)において、基端側カバー部材32は、その底板32aが、球受け部23の底面23aに当接されている。
【0031】
また、キャップ33は、前記主球突出用開口部31が形成されているリング状の蓋板部33aの外周に該蓋板部33aの片面側に突出する側壁部33bが周設された構成であり、前記側壁部33bの内周側に形成された内ねじ部33cを、基端側カバー部材32の周壁部32bの外周側に形成された外ねじ部32dにねじ込んで基端側カバー部材32に螺着して、蓋板部33aによって前記本体20の球受け部23の球受け用凹所22の開口部の周囲の端面(先端面23b)を覆うようにして設けられている。
【0032】
図1(a)、(b)に示すように、受け球押さえリング50は、本体20の球受け部23に外挿するようにして前記球受け部23とカバー部30との間の内側空間11に球受け部高さ方向に沿って移動可能に収納されたリング状の部材である。
この受け球押さえリング50は、キャップ33の蓋板部33aと球受け部23の先端面23bとの間に配置されたリング状の天板部51及び該天板部51の外周の全周にわたって天板部51の片面側にリブ状に突設されキャップ33の球受け部23の外周面23cと該外周面23cに前記内側空間11を介して対面するカバー部30の内周面34との間に配置された円筒部52からなる本体リング53と、この本体リング53の円筒部52側の端部から延出されて球受け部23の外周面23cと該外周面23cに前記内側空間11を介して対面するカバー部30の内周面34との間に配置された駆動用リング部54と、前記本体リング53の天板部51の内周端の全周にわたってリブ状に突設され前記本体20の前記半球状凹面21と前記主球42との間に挿入して前記受け球41を押さえ込むためのリング状の押さえ片55とを具備して構成されている。
【0033】
図2に示すように、前記駆動用リング部54は、前記球受け部23の外周面23cにエア流通可能な微小な隙間12a(以下、内周側微小クリアランスとも言う)を介して接近配置された内周面54aと、前記球受け部23の外周面23cに前記内側空間11を介して対面するカバー部30の内周面34にエア流通可能な微小な隙間12b(以下、内周側微小クリアランス)を介して接近配置された外周面54bとを有し、さらに内周面54a及び外周面54bのそれぞれにその周方向に延在する溝54cが形成(周設)された構成になっている。前記溝54cは、内周面54a及び外周面54bのそれぞれにおける、駆動用リング部54の中心軸線方向の複数箇所(図示例では2箇所)に形成されている。
【0034】
内周側微小クリアランス12aの幅(球受け部23の外周面23cと駆動用リング部54の内周面54aとの間の距離)は例えば0.03〜0.07mm程度である。外周側微小クリアランス12bの幅(カバー部30の内周面34と駆動用リング部54の外周面54bとの間の距離)も同程度の大きさに設定される。
【0035】
前記本体20には、該フリーボールベアリング10の外部に設置された吸引装置70によって内側空間11内のエア吸引を行うためのエア孔25が形成されている。
図1(a)、(b)に示すように、前記エア孔25は具体的には、球受け部23の底面23aから突出するねじ軸24の突出先端から球受け部23に達するように穿設された主孔25aと、この主孔25aの奥端(球受け部23側の端部)から該主孔25aに直交する方向に延在して球受け部23の外周面23cに開口し内側空間11に連通する枝孔25bとを具備して構成されている。したがって、ねじ軸24の先端(球受け部23からの突出先端)に開口するエア孔25の開口部である吸引口25cに吸引装置70を接続することで、フリーボールベアリング10の内側空間11に吸引装置70の吸引力を作用させることができる。
【0036】
図4において、フリーボールベアリング10は、基板位置決め用テーブル80の基台81のねじ穴81aに該基台81の上側からねじ軸24をねじ込んで前記基台81に取り付けられている。前記ねじ軸24は基台81を貫通しており、その先端部が基台81の下側に突出されている。また、フリーボールベアリング10は、基端側カバー部材32の底板32aを基台81上面に当接させて基台81に取り付けられている。
図4に示す基板位置決め用テーブル80は、基台81の複数箇所に前記フリーボールベアリング10が取り付けられており、また、各フリーボールベアリング10のねじ軸24の基台81の下側に突出された先端部に配管71を介して接続された吸引装置70を具備する構成となっている。フリーボールベアリング10のエア孔25に配管71を介して吸引装置70を接続したものが本発明に係るベアリング装置である。
図示例の基板位置決め用テーブル80は、基台81に取り付けられている複数のフリーボールベアリング10(その内側空間11)の全てが配管71を介してひとつの吸引装置70と接続されてなるベアリング装置を具備する構成を例示しているが、これに限定されず、基板位置決め用テーブルを複数の吸引装置70を設けた構成とし、基台81に取り付けられている複数のフリーボールベアリング10を互いに異なる吸引装置と接続した構成としても良い。
【0037】
このフリーボールベアリング10には、配管71、エア孔25を介して前記吸引装置70の吸引力を内側空間11に作用させることができる。
前記吸引装置70の吸引力を内側空間11に作用させていないときには、図1(a)に示すように、フリーボールベアリング10の受け球押さえリング50はスプリング60の弾性によって、押さえ片55が球受け部23の受け球41を押さえ込む位置(図1(b)に示す位置。以下、受け球押さえ位置とも言う)からキャップ33の蓋板部33aの側(内側空間11の開放端側)に離隔した位置(待機位置。図1(a)に示す位置)に配置されている。
図示例のフリーボールベアリング10にあっては、受け球押さえリング50の本体リング53と該本体リング53に対してその外周側に若干ずれて位置する駆動用リング部54との間の段差部分に形成された当接面56(駆動用リング部54の本体リング側の端面)が、キャップ33の側壁部33bの内周側に張り出されている突壁部35に、スプリング60の弾性によって内側空間11の基端側から当接された位置が、受け球押さえリング50の待機位置となっている。受け球押さえリング50が待機位置にあるとき、その天板部51はキャップ33の蓋板部33aに当接せず、キャップ33の蓋板部33aと天板部51との間に僅かな隙間が確保された位置となっている。
【0038】
前記吸引装置70の吸引力をフリーボールベアリング10の内側空間11に作用させておらず、受け球押さえリング50が図1(a)に示す待機位置にある状態で、前記吸引装置70の吸引力を内側空間11に作用させると、図1(b)に示すように、受け球押さえリング50に内側空間11の基端側(図1(a)、(b)において下側)への変位力が与えられて受け球押さえリング50が前記待機位置から内側空間11の基端側(受け球41を押さえ込む押さえ方向)へ移動され、該受け球押さえリング50の押さえ片55が球受け部23の受け球41を押さえ込む。この結果、球受け部23の受け球41の回転が抑制されて、内側空間11の基端側への変位力が与えられていないときに比べて、主球42の回転抵抗が増大する。
【0039】
既述のように、駆動用リング部54は、その内周面54a及び外周面54bが、球受け部23の外周面23c及びカバー部30の内周面34に対してエア流通可能な微小な隙間12a、12bを介して接近配置されている。また、図1(a)に示すように、受け球押さえリング50が待機位置にあるとき、受け球押さえリング50の本体リング53の円筒部52及び押さえ片55は、球受け部23の外周面23cあるいはカバー部30の内周面34に密接せず、球受け部23及びカバー部30との間にエア流通可能な隙間(駆動用リング部54の両側の隙間12a、12bと連通する隙間)が確保された状態にある。
【0040】
フリーボールベアリング10の内側空間11にエア孔25を介して前記吸引装置70の吸引力を作用させると、内側空間11の駆動用リング部54よりも主球突出用開口部31側に存在するエアが隙間12a、12bを通って内側空間11の駆動用リング部54よりも基端側へ流れる。そして、隙間12a、12bを流れるエア流の一部が、駆動用リング部54に形成されている溝54cに入り込む乱流を形成し、溝54cの特に駆動用リング部54の先端側(内側空間11の基端側。受け球押さえリング50の天板部51が設けられている前端側とは反対の後端側)に位置する内側面54dを押圧する押圧力を発生する。これにより、受け球押さえリング50に内側空間11の基端側への変位力が作用し、吸引装置70の吸引力によって受け球押さえリング50にスプリング60の弾性に勝る変位力を作用させることにより、図1(b)に示すように、受け球押さえリング50が内側空間11の基端側(押さえ方向)へ移動されることになる。
さらなる検証が必要であるが、溝54cの数を多くすると、吸引装置70の吸引力によって受け球押さえリング50に作用する変位力を増強できるものと考えられる。
【0041】
また、前記受け球押さえリング50は、駆動用リング部54の外周側及び内周側の隙間12a、12bを流れるエア流によって、球受け部23の外周面23c及びカバー部30の内周面34に対する非接触状態が安定に保たれる。したがって、受け球押さえリング50の球受け部23及びカバー部30との接触による移動抵抗の発生を抑えることができるため、受け球押さえリング50の移動に球受け部23及びカバー部30との接触による移動抵抗は殆ど関与しない。
【0042】
駆動用リング部54の外周側及び内周側の隙間12a、12bには、受け球押さえリング50の移動抵抗を低減するための潤滑用のグリスは設けられていない。
このフリーボールベアリング10にあっては、受け球押さえリング50と球受け部23との間、受け球押さえリング50とカバー部30との間にグリスを設けなくても、上述のように駆動用リング部54の外周側及び内周側の隙間12a、12bを流れるエア流によって、球受け部23の外周面23c及びカバー部30の内周面34に対する非接触状態が安定に保たれることで、受け球押さえリング50の移動抵抗を低く抑えることができる。しかも、受け球押さえリング50の移動を円滑に行うことができる。
したがって、グリスを用いない構成でありながら、受け球押さえリング50の移動(待機位置から受け球押さえ位置への移動)に要する吸引装置70の吸引力を大幅に高める必要はなく、吸引力を大幅に高めることなく受け球押さえリング50の移動を実現できる。
また、グリスを用いない構成であるため、グリスから放出される揮発成分によるクリーンルーム内の汚染の問題が生じないことは言うまでも無い。
【0043】
また、図1(a)に示すように、待機位置にある受け球押さえリング50と本体20の球受け部23との間の隙間は、受け球押さえリング50の押さえ片55と球受け部23との間にも確保されており、吸引装置70による内側空間11のエア吸引が開始されると、受け球押さえリング50と本体20の球受け部23との間の隙間を介して球受け部23の球受け用凹所22内のエアも吸引装置70に吸引されることになる。
前記受け球押さえリング50の押さえ片55の外径は球受け用凹所22の開口部の内径よりも若干小さく、また、前記押さえ片55が受け球押さえ位置にあるとき、この押さえ片55の外周は球受け用凹所22の半球状凹面21に接触せず、押さえ片55と前記半球状凹面21との間にはエア流通可能な隙間が確保されるようになっている。このため、吸引装置70による球受け用凹所22内のエア吸引は、押さえ片55が受け球押さえ位置にあるときも継続して行われる。したがって、押さえ片55が受け球41に接触することにより微量の粉塵(発塵)が生じたとしても、吸引装置70による球受け用凹所22内のエア吸引によってこの粉塵を吸引装置70に回収でき、粉塵がカバー部30の主球突出用開口部31から外に放出されることを防止できる。
なお、押さえ片55が受け球押さえ位置にあるとき、この押さえ片55は主球42に接触しない。
【0044】
図4、図5に示すように、基板位置決め用テーブル80にあっては、各フリーボールベアリング10の受け球押さえリング50が待機位置にある状態にて、基台81上に基板1が搬入される。そして、位置決め装置のL字形の一対の位置決め部材87による基板1の位置決め動作(一対の位置決め部材87によって基板1を挟み込む)の後に、各フリーボールベアリング10の内側空間11に吸引装置70の吸引力を作用させて受け球押さえリング50によって受け球41を押さえ込んで受け球41及び主球42の回転を抑制した状態としてから、位置決め装置の一対の位置決め部材87による基板1の挟み込みを解除する。
【0045】
基板1(特にサイズが大きい基板)は、基台81上に載置したときに微小な撓みが存在しているときがあり、複数の位置決め部材87によって挟み込んで位置決めしたときにも前記撓みが解消されないことが多々ある。そして、このような撓みが残った状態にて、位置決め部材同士の間を離隔して基板1の挟み込みを解除すると、前記撓みの影響で若干の位置ずれが生じることがある。基板位置決め用テーブル80上での基板1の位置ずれが大きく、処理室83(図3参照)内の基板搬送装置(処理室内搬送装置)によって処理室83内に搬入した後にも解消されないと、処理室内にて行う処理プロセスにも影響を与えるため、基板位置決め用テーブル80上での基板1の位置ずれを縮小あるいは解消することは、基板1の加工等の処理精度の確保の点でも好ましい。
従来、基板位置決め用テーブルに用いられるフリーボールベアリングとしては主球の回転抵抗が出来るだけ小さいものが求められていた。しかしながら、このように主球の回転抵抗が非常に小さいと、基板を挟み込んで位置決めした位置決め部材同士の間を離隔して基板1の挟み込みを解除したときに、基板1の撓みに起因する位置ずれが大きくなる傾向があることが判明した。
【0046】
本発明者は、既述のように、受け球押さえリング50によって受け球41を押さえ込んで受け球41及び主球42の回転を抑制した状態としてから、位置決め装置の一対の位置決め部材87による基板1の挟み込みを解除することで、位置決め部材による基板1の挟み込みを解除した後の基板1の位置ずれを抑制あるいは解消できることを見出した。
また、受け球押さえリング50によって受け球41を押さえ込むことによる受け球41及び主球42の回転抑制は、位置決め部材による基板1の挟み込みを解除した後に主球42が回転しないように固定するよりも、基板1の微動に対する主球42の追従回転を許容し、主球42の回転抵抗によって基板1の変位を抑えるようにすることが、位置決め部材による挟み込み解除後の基板1の位置ずれ抑制の点で好ましいことが判明した。
【0047】
このため、受け球押さえリング50による受け球41の押さえ込みは、受け球41が回転しないように受け球41を固定するものである必要はなく、受け球41の回転を抑制し、その結果、主球42の回転も抑制できるものであれば良い。
したがって、受け球41の押さえ込みに要する受け球押さえリング50に作用させる押圧力(換言すれば吸引装置70の吸引力)は、主球42を回転しないように固定できる強い力である必要はない。
【0048】
本発明者は、板材にフリーボールベアリング10を3個固定した試験用の支持テーブルを作製し、この支持テーブルの3個のフリーボールベアリング10上にアルミニウム板を載置し、吸引装置の吸引力を作用させておらず受け球押さえリング50による受け球41及び主球42の回転抑制を行っていない状態(解放状態)と、吸引力を作用させて受け球押さえリング50による受け球41及び主球42の回転抑制を行った状態(抑制状態)とにおける、フリーボールベアリング10の摩擦係数を調べた。その結果を図6に示す。
アルミニウム板としては、その重量(ワーク重量)が300gのもの、500gのものの2種類を用いた。また、吸引装置によって作用させたフリーボールベアリング10の1個あたりの吸引力(大気圧に対する真空度)は−90kPa、フリーボールベアリング10の1個あたりの吸入流量(エア吸入量)は9.0L/minである。
受け球押さえリング50の内周側、外周側の微小クリアランス12a、12bはいずれも0.05mmである。
また、フリーボールベアリング10としては、本体、カバー部、主球、受け球押さえ部材がPOM製のもの、受け球としてステンレスボールを使用した構成のものを用いた。
【0049】
図6に示すように、このフリーボールベアリング10は、解放状態にて吸引装置の吸引力を作用させると短時間で直ちに抑制状態となり、また、抑制状態から解放状態への切り換えも短時間で行え、高い応答速度を得ることができる。
また、ワーク重量が300gの場合は、解放時(解放状態)の摩擦係数が0.01であったのに対して、抑制時(抑制状態)の摩擦係数は0.06であり、解放時の6倍程度の摩擦係数が得られる。
ワーク重量が500gの場合は、解放時(解放状態)の摩擦係数が0.01であったのに対して、抑制時(抑制状態)の摩擦係数は0.08であり、解放時の8倍程度の摩擦係数が得られる。
【0050】
このフリーボールベアリング10は、抑制時には解放時に比べて格段に高い摩擦係数が得られるため、抑制時に主球を回転しないように固定する使用方法も可能であることは言うまでも無い。
【0051】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を説明する。
図7、図8に示すように、ここで説明する実施形態のフリーボールベアリングは、既述の第1実施形態のフリーボールベアリング10の受け球押さえリング50の駆動用リング部54の外周面54b側に、ウェアリング13を取り付けた構成のものである。
前記ウェアリング13は、駆動用リング部54の外周面54bから突出されており、カバー部30の内周面34に当接されている。そして、この実施形態のフリーボールベアリングは、ウェアリング13がカバー部30の内周面34に摺動することで、受け球押さえリング50が球受け部高さ方向に移動するようになっている。
フリーボールベアリングの内側空間11に吸引装置70の吸引力を作用させたときには、外周側微小クリアランス12bに作用する吸引力がウェアリング13によって受け球押さえリング50の変位力(基端側への変位力)に変換される。
【0052】
図8に示すようにウェアリング13は、スリット13a(切断部)を有する不連続なリング状部材である。
フリーボールベアリングの内側空間11に吸引装置70の吸引力を作用させたときには、前記スリット13aを介して外周側微小クリアランス12bにエア流が形成される。
なお、内周側微小クリアランス12aにエア流が形成されることは第1実施形態と同様である。
【0053】
また、ウェアリング13としては、その外周面の摩擦抵抗が小さいものが好ましく、例えばポリイミド等のプラスチック製のものを好適に採用できる。ウェアリング13の材質としては、外周面の摩擦抵抗を低く抑えることができるものであれば良く、特に限定は無い。
また、この前記ウェアリング13は、受け球押さえリング50の中心軸線方向における両端部に面取り部13bを有しているため、この面取り部13bが摩擦抵抗(摺動抵抗)の低減に有効に寄与する。
これにより、この実施形態のフリーボールベアリングは、グリスを使用せず(ノングリス)に、受け球押さえリングの円滑な可動を実現できる構成となっている。
【0054】
本発明において、ウェアリング13は、受け球押さえリング50(詳細には駆動用リング部54)の内周側に設けても良く、また、外周側と内周側の両方に設けても良い。
また、前記ウェアリング13は、駆動用リング部54の内周側及び/又は外周側において、駆動用リング部54の中心軸線方向の複数箇所に設けても良い。
また、本発明に係る受け球押さえリングとしては、溝54cが、駆動用リング部54の内周側及び外周側の一方のみに駆動用リング部54の中心軸線方向の1又は複数箇所に形成されている構成、駆動用リング部54の内周側及び外周側の両方にひとつずつ形成されている構成も採用であり、さらに、このような受け球押さえリングの内周側及び/又は外周側にウェアリング13を設けた構成も採用可能である。
【0055】
(第3実施形態)
次に本発明の第3実施形態を図9を参照して説明する。
図9は、本発明に係るフリーボールベアリング10、複数のフリーボールベアリング10のエア孔25に配管71を介して吸引装置70を接続してなるベアリング装置を用いて構成したターンテーブル90を示す。
このターンテーブル90は、板状のベース部材91と、このベース部材91に取り付けて該ベース部材91上に突設された複数(3以上)のフリーボールベアリング10によって回転可能に支持された回転テーブル93と、この回転テーブル93を回転させる回転駆動装置92(モータ)とを有している。既述のように、各フリーボールベアリング10は、配管71を介して吸引装置70に接続されているため、吸引装置70の吸引力を内側空間11に作用させることで回転テーブル93の回転の抑制、停止等を行うことができる。
なお、ターンテーブルとしては、フリーボールベアリング10を回転テーブルに取り付けた構成、回転テーブルとベース部材とに取り付けた構成も採用可能である。
【0056】
本発明に係る支持テーブルとしては、既述の基板位置決め用テーブル80と同様の構成のものを、基板やその他の物品を搬送するための搬送装置の一部として使用することも可能である。
本発明に係るフリーボールベアリング、支持テーブルとしては、例えば半導体基板やプリント配線基板に対する加工、電子部品の実装、フラットパネルの製造、半導体素子や半導体パッケージ等の電子部品の製造の他、食品や医薬品の製造等、クリーンルーム内での物品の搬送(例えば搬送装置の一部としての使用)、位置決め等に幅広く使用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1…基板、10…フリーボールベアリング、11…内側空間、20…本体、23…球受け部、30…カバー部、41…受け球、42…主球、50…受け球押さえリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半球状凹面を内面とする球受け用凹所が形成された球受け部を有する本体と、
この本体の前記半球状凹面に配された多数の受け球及び該受け球よりも大径に形成され前記受け球を介して回転自在に支持された主球と、
前記本体の前記球受け部を取り囲むように設けられたハウジング状のカバー部と、
前記本体の前記半球状凹面と前記主球との間に挿入して前記受け球を押さえ込むことで前記主球の回転抵抗を増大させるリング状の押さえ片を有し、前記球受け部と前記カバー部との間に確保された内側空間内に前記球受け用凹所の深さ方向に一致する方向である球受け部高さ方向に移動可能に設けられた受け球押さえリングと、
この受け球押さえリングに前記球受け部高さ方向において前記押さえ片によって前記受け球を押さえ込む押さえ方向とは逆方向の変位力を与えて、受け球押さえリングを前記押さえ片によって前記受け球を押さえ込む受け球押さえ位置から離隔した待機位置に配置するための押さえ解除機構とを具備し、
前記カバー部に形成された主球突出用開口部から前記主球の一部が突出されているとともに前記カバー部によって前記主球の飛び出しが防止され、前記本体及び/又は前記カバー部には、前記内側空間内のエア吸引用のエア孔が、前記内側空間の前記球受け部高さ方向において前記カバー部の主球突出用開口部とは反対側の基端側に開口して形成され、
前記受け球押さえリングは、前記球受け部の外周面と前記内側空間を介して前記球受け部の外周面に対面する前記カバー部の内周面との間に配置された駆動用リング部を有し、前記駆動用リング部は、前記球受け部の外周面にエア流通可能な微小な隙間を介して接近配置された内周面と、前記カバー部の内周面にエア流通可能な微小な隙間を介して接近配置された外周面とを有し、さらに内周面及び/又は外周面にその周方向に延在する溝、あるいはウェアリングが設けられており、前記エア孔を介して前記内側空間内のエアが吸引されることで前記受け球押さえリングに前記内側空間の基端側への変位力が与えられて前記受け球押さえリングが前記待機位置から前記受け球押さえ位置へ移動され、前記内側空間内のエア吸引が行われていないときには前記押さえ解除機構によって前記受け球押さえリングが前記待機位置に配置されることを特徴とするフリーボールベアリング。
【請求項2】
前記押さえ解除機構として、該受け球押さえリングに前記吸引装置が作用させる変位力とは逆の方向に弾性付勢するためのスプリングが前記内側空間に組み込まれていることを特徴とする請求項1記載のフリーボールベアリング。
【請求項3】
前記本体は、前記球受け部と、この球受け部の基端側に突設されたねじ軸とを具備し、前記エア孔は前記本体に形成されており、前記ねじ軸をその軸心方向に貫通するとともに前記球受け部の外周面に開口していることを特徴とする請求項1又は2記載のフリーボールベアリング。
【請求項4】
前記カバー部が、前記本体の前記ねじ軸に螺着されたリング状の基端側カバー部材の外周部に、前記主球突出用開口部が形成されているリング状のキャップを螺着して一体化して構成されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフリーボールベアリング。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のフリーボールベアリングと、このフリーボールベアリングの前記エア孔を介して前記内側空間内のエアを吸引することにより、前記受け球押さえリングに前記内側空間の基端側への変位力を作用させて前記受け球押さえリングの前記押さえ片によって前記受け球を押さえ込むための吸引装置とを具備することを特徴とするベアリング装置。
【請求項6】
請求項5記載のベアリング装置が設けられた支持テーブルであって、
前記ベアリング装置の前記フリーボールベアリングが水平の基台の複数箇所に取り付けられ、前記フリーボールベアリングの前記エア孔に前記吸引装置をエア吸引可能に接続するための配管が、前記基台の下側から前記エア孔に接続されていることを特徴とする支持テーブル。
【請求項7】
請求項6記載の支持テーブルを具備することを特徴とする搬送設備。
【請求項8】
ベース部材と、このベース部材上に回転可能に設置された回転テーブルと、この回転テーブルを回転させる回転駆動装置とを有し、前記ベース部材及び/又は前記回転テーブルに取り付けられた請求項1〜4のいずれかに記載のフリーボールベアリングによって前記回転テーブルが前記ベース部材に対して回転可能に支持され、各フリーボールベアリングに前記吸引装置が接続されていることを特徴とするターンテーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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