説明

フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子及びその製造方法

【課題】透明性及び耐熱性の双方の特性に優れたフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】フルオレン系ポリエステル樹脂と、このフルオレン系ポリエステル樹脂に対して非相溶である水溶性高分子とを溶融混練し、水溶性高分子で構成された連続相中に、フルオレン系ポリエステル樹脂で構成された分散相を分散させた後、水溶性高分子を溶出し、フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子を製造する。前記水溶性高分子として、ビニルアルコール系樹脂を用いてもよい。前記フルオレン系ポリエステル樹脂と前記水溶性高分子との割合(重量比)は、前者/後者=1/99〜50/50程度であってもよい。前記水を用いて水溶性高分子を溶出してもよい。また、前記製造方法において、微粒子の平均粒径は、0.1〜5μm程度であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性及び耐熱性の双方の特性に優れたフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子とその製造方法、前記樹脂微粒子を用いたコンポジット材料、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー微粒子の製造方法としては、気相法、粉砕法などの物理的方法、液相法などの化学的方法などが知られている。
【0003】
気相法では、加熱下で、ポリマー溶液を噴霧する方法が主として行われているが、大型の設備が必要であり、かつ製造条件に非常に厳密な制御が必要である。また、気相法では、ポリマー微粒子の表面平滑性が乏しいことに加え、粒径分布が大きく、ポリマー微粒子の凝集などが避けられない。
【0004】
また、粉砕法として、例えば、特開2004−130305号公報(特許文献1)には、複数個の粉砕媒体ボールと粉体とを収納した処理容器の回転により、該粉体を微粒子化する高速粉体反応装置であって、前記処理容器の回転に基づく前記粉砕媒体ボールの運動方向を変向する少なくとも1個のガイドベーンを処理容器内に配設し、このガイドベーンにより前記運動方向を変向された粉砕媒体ボールが前記処理容器内の壁面上の前記粉体に衝突することにより、該粉体を微粒子化する高速粉体反応装置が開示されている。しかし、このような方法では、粒子が一定サイズ以下に小さくできず、表面平滑性に劣り、粒径分布が広い。また、この方法では、粉砕の熱による粒子同士の凝結が生じやすい。
【0005】
液相法には、溶解度差を利用した共沈法、均一沈殿法、モノマー懸濁液やモノマーエマルションを用いる重合方法などがある。例えば、特開平6−206950号公報(特許文献2)には、アルコールの(メタ)アクリル酸エステル、飽和脂肪族カルボン酸のビニルエステル、オレフィン、ビニル芳香族化合物、ハロゲン化ビニルおよび/またはビニルエーテルから選択された少なくとも一種またはそれ以上に基づくラテックスが第一工程において重合され、ここでフリーラジカル開始剤が重合体ラテックスに添加され、そして第二工程において、この混合物がフリーラジカルが分解される温度にまで加熱されおよび/または還元剤が添加され、ホモポリマーを生成する単量体を含有するグラフト単量体相の添加後、ラテックス重合体がグラフトされる、二工程乳化重合法におけるコア/シェル分散微粒子のグラフト共重合体ラテックスの製造方法が開示されている。しかし、このような方法では、ポリマー微粒子の分離精製が困難であるとともに、界面活性剤や凝集剤がポリマー微粒子中に残存し、用途によっては、前記界面活性剤や凝集剤が微粒子に悪影響を及ぼす。特に、この方法では、ラジカル重合性単量体を用いる必要があり、縮合重合した樹脂(ポリエステル系樹脂など)には適用できない。
【0006】
これらの問題点を解決するため、例えば、特開平9−165457号公報(特許文献3)には、溶融成形可能な水溶性高分子(A)及び熱可塑性樹脂(B)を混合重量比(A)/(B)=99/1〜30/70で混合して溶融成形物を得た後、該成形物を水と接触させて水溶性高分子(A)を除去し、樹脂微粒子を製造する方法が開示されている。この文献には、水溶性高分子として、ポリビニルアルコール系樹脂、変性澱粉、ポリエチレンオキサイド等が記載されている。また、熱可塑性樹脂(B)は、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物が好適に用いられることが記載されている。この文献には、ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンアジペート、ポリ(エチレン−2,6−ナフタレート)、ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレンアジペート共重合体などが用いられることが記載されている。しかし、この方法では、結晶性のポリアルキレンアリレート系樹脂や、脂肪族ポリエステルを用いるため、樹脂微粒子の透明性及び耐熱性を両立させることが困難である。また、この文献には、樹脂微粒子は、充填剤の用途に利用できることが記載されているが、樹脂微粒子と無機微粒子との組合せは記載されていない。さらに、無機微粒子を樹脂中に多量に含有させることができない。
【特許文献1】特開2004−130305号公報(請求項2)
【特許文献2】特開平6−206950号公報(請求項1)
【特許文献3】特開平9−165457号公報(請求項1、段落番号[0006][0013]及び[0015])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、透明性及び耐熱性の双方の特性に優れたフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子とその製造方法、このフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子を用いたコンポジット材料、及びその製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、粒径が小さく、表面の平滑性に優れたフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子とその製造方法、このフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子を用いたコンポジット材料、及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、粒度分布が狭いフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子とその製造方法、このフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子を用いたコンポジット材料、及びその製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明の別の目的は、無機微粒子の含有量が多くても、均一に混合されたコンポジット材料とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、水溶性高分子で構成された連続相中に、フルオレン系ポリエステル樹脂で構成された分散相を分散させた後、水溶性高分子を溶出すると、透明性及び耐熱性の双方の特性に優れたフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子を製造できることを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明では、フルオレン系ポリエステル樹脂と、このフルオレン系ポリエステル樹脂に対して非相溶である水溶性高分子とを溶融混練し、水溶性高分子で構成された連続相中に、フルオレン系ポリエステル樹脂で構成された分散相を分散させた後、水溶性高分子を溶出し、フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子を製造する。前記水溶性高分子として、ビニルアルコール系樹脂を用いてもよい。前記フルオレン系ポリエステル樹脂と前記水溶性高分子との割合(重量比)は、前者/後者=1/99〜50/50程度であってもよい。前記製造方法において、水を用いて水溶性高分子を溶出してもよい。また、前記製造方法において、微粒子の平均粒径は、0.1〜5μm程度であってもよい。
【0013】
本発明には、前記製造方法で得られたフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子も含まれる。
【0014】
また、本発明には、前記微粒子と無機微粒子とで構成された粉体組成物を加圧及び/又は加熱成形してコンポジット材料を製造する方法も含まれる。前記製造方法において、無機微粒子の平均粒径は、フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子の平均粒径より小さくてもよい。このような粉体組成物を用いると、無機微粒子の含有量が多くても、容易にフルオレン系ポリエステル樹脂と均一に混合することができる。また、前記製造方法において、フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子と無機微粒子との割合(重量比)は、前者/後者=99/1〜50/50程度であってもよい。さらに、本発明には、前記製造方法で得られたコンポジット材料も含まれる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、水溶性高分子で構成された連続相中に、フルオレン系ポリエステル樹脂で構成された分散相を分散させた後、水溶性高分子を溶出するため、透明性及び耐熱性の双方の特性に優れたフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子を製造できる。さらに、粒径が小さく、表面の平滑性に優れたフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子を製造できる。さらにまた、粒度分布が狭いフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子を製造できる。また、前記フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子と無機微粒子とで構成された粉体組成物を加圧及び/又は加熱成形するため、無機微粒子の含有量が多くても、フルオレン系ポリエステル樹脂と均一に混合することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子は、フルオレン系ポリエステル樹脂と、このフルオレン系ポリエステル樹脂に対して非相溶である水溶性高分子とを溶融混練する工程と、水溶性高分子を溶出する工程とを経ることにより製造できる。
(フルオレン系ポリエステル樹脂)
フルオレン系ポリエステル樹脂は、少なくともフルオレン骨格を有するジオールで構成されたジオール成分(9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン骨格を有するジオールで構成されたジオール成分)と、ジカルボン酸成分とのエステル化反応により得られるポリエステル樹脂を含む。このようなフルオレン系ポリエステル樹脂は、通常、少なくとも下記式(1)で表される繰り返し単位を有している。
【0017】
【化1】

【0018】
(式中、Aは脂肪族炭化水素残基、脂環族炭化水素残基又は芳香族炭化水素残基を示し、Z及びZは同一又は異なって芳香族炭化水素残基を示す。Rは、ハロゲン原子又はアルキル基を示し、R1a及びR1bは同一又は異なってアルキレン基を示し、R2a、R2b、R3a及びR3bは同一又は異なって、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、シクロアルキル基、アラルキル基、ニトロ基又はシアノ基を示し、m及びnは同一又は異なって0又は1以上の整数である。h1及びh2は同一又は異なって0〜6の整数であり、j1及びj2は同一又は異なって0〜4の整数であり、kは0以上の整数である。)
Aにおいて、脂肪族炭化水素残基としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、イソブタン、n−ヘプタン、n−オクタンなどの直鎖状又は分岐鎖状のC1−10脂肪族飽和炭化水素に対応する基(二価基)、エチレン、プロピレン、トリメチレン、イソブテンなどの直鎖状又は分岐鎖状のC1−10脂肪族不飽和炭化水素に対応する基(二価基)が例示できるが、通常、直鎖状又は分岐鎖状のC1−10脂肪族飽和炭化水素に対応する基(二価基)である。Aにおいて、脂環族炭化水素残基としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどのC5−10シクロアルカン環に対応する基(二価基)、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテンなどのC5−10シクロアルケン環に対応する基(二価基)、ボルナン、ノルボルナン、アダマンタンなどの多環式飽和炭化水素環(例えば、二環又は三環式C7−10炭化水素環)に対応する基(二価基)、ボルネン、ノルボルネンなどの多環式不飽和炭化水素環(例えば、二環又は三環式C7−10不飽和炭化水素環)に対応する基(二価基)などが例示できる。通常、脂環族炭化水素残基は、C5−10シクロアルカン環に対応する基(二価基)である。Aにおいて、芳香族炭化水素残基としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ビフェニル、インデンなどのC6−14芳香族炭化水素環に対応する基(二価基)などが例示できる。Aは、前記脂環族炭化水素残基又は芳香族炭化水素残基(例えば、C5−10シクロアルカン環に対応する二価基やC6−10芳香族炭化水素環に対応する二価基、特にフェニレン基)が好ましい。
【0019】
Aにおいて、Aに対応する炭化水素残基の結合手の位置も、特に制限されず、非対称位置であってもよく対称位置であってもよい。例えば、Aがシクロヘキサン環である場合、Aに対応する炭化水素残基は、1,2−シクロヘキサン−ジイル基、1,3−シクロヘキサン−ジイル基であってもよく、1,4−シクロヘキサン−ジイル基であってもよい。
【0020】
置換基Rとしては、ハロゲン原子(臭素原子、塩素原子、フッ素原子など)、アルキル基(メチル基、エチル基、ブチル基、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基)などが挙げられる。Rは、通常、エステル化反応に不活性である場合が多い。置換基Rの置換数kは、Aの炭素数などに応じて0以上の整数の範囲で選択でき、通常、0〜8(例えば、0〜2)程度の整数であってもよい。置換基Rの置換位置は特に制限されず、Aの種類に応じて選択できる。
【0021】
及びZにおいて、芳香族炭化水素残基としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセンなどのC6−14芳香族炭化水素環に対応する基(二価基)などが例示できる。Z及びZは、フェニレン基又はナフチレン基(例えば、フェニレン基)が好ましい。
【0022】
1a及びR1bで表されるアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2−4アルキレン基が例示できる。R1a及びR1bにおいてアルキレン基の種類はそれぞれ異なっていてもよい。また、アルキレン基R1a及びR1bの種類は係数m及びnの数によっても異なっていてもよい。好ましいアルキレン基は、C2−3アルキレン基(エチレン基、プロピレン基)であり、通常、エチレン基である。
【0023】
2a、R2b、R3a及びR3bにおいて、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−5アルキル基(特に、C1−4アルキル基)が例示できる。R2a、R2b、R3a及びR3bにおいて、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのC1−4アルコキシ基(特にC1−3アルコキシ基)が例示できる。R2a、R2b、R3a及びR3bにおいて、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基などのC6−12アリール基が例示でき、R2a、R2b、R3a及びR3bにおいて、シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC5−10シクロアルキル基が例示できる。R2a、R2b、R3a及びR3bにおいて、アラルキル基としては、ベンジル基などのC6−12アリール−C1−4アルキル基が例示できる。
【0024】
置換基R2a及びR2bの置換数h1及びh2は、通常、0〜3(例えば0〜2、特に0)程度の整数であってもよい。置換基R2a及びR2bの置換位置は特に制限されず、Z及びZの種類に応じて選択できる。好ましい置換基R2a及びR2bは、C1−4アルキル基(特にメチル基)であり、好ましい置換数h1及びh2は0〜2(例えば0又は1)程度の整数である。
【0025】
置換基R3a及びR3bの置換数j1及びj2は、通常、0〜2(例えば0又は1)程度の整数であってもよい。置換基R3a及びR3bの置換位置は特に制限されず、好ましい置換基R3a及びR3bは、C1−4アルキル基(特にメチル基)であり、好ましい置換数j1及びj2は0又は1(例えば0)である。
【0026】
オキシアルキレン単位の繰り返し数m及びnは、0又は1以上の整数であり、通常、1〜10、好ましくは1〜7、さらに好ましくは1〜5(例えば、1〜3)程度の整数である。
【0027】
フルオレン系ポリエステル樹脂は、ホモポリエステルであってもよく、コポリエステルであってもよい。このようなフルオレン系ポリエステル樹脂は、例えば、少なくとも前記式(1)で表される繰り返し単位及び下記式(2)で表される繰り返し単位を有していてもよい。
【0028】
【化2】

【0029】
(式中、A、R、およびkは前記に同じ。R1cはアルキレン基を示し、qは1以上の整数である。)
1cで表されるアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2−10アルキレン基が例示できる。好ましいアルキレン基は、直鎖状又は分岐鎖状C2−4アルキレン基(例えば、エチレン基、テトラメチレン基など)である。特に、q≧2であるとき、R1cで表されるアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などのC2−4アルキレン基が例示でき、qは、2〜10、好ましくは2〜7、さらに好ましくは2〜5(例えば、2〜4)程度の整数であってもよい。前記式(2)において、係数qは、通常、1〜5、好ましくは1〜3(特に1)程度の整数である。
【0030】
このようなフルオレン系ポリエステル樹脂は、前記式(2)で表される単位を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。前記式(1)で表される単位と式(2)で表される単位との割合は、前者/後者(モル比)=100/0〜10/90(例えば、100/0〜30/70)程度の範囲から選択でき、通常、99/1〜50/50、好ましくは99/1〜55/45、さらに好ましくは97/3〜60/40、特に、95/5〜65/35(例えば、90/10〜65/35)程度であってもよい。
【0031】
好ましいフルオレン系ポリエステル樹脂には、(i)ジカルボン酸成分がベンゼンジカルボン酸(特にテレフタル酸)成分である下記式(1a)で表される繰り返し単位及び下記式(2a)で表される繰り返し単位を有するフルオレン系ポリエステル樹脂、又は(ii)ジカルボン酸成分がシクロヘキサンジカルボン酸成分である下記式(1b)で表される繰り返し単位及び下記式(2b)で表される繰り返し単位を有するフルオレン系ポリエステル樹脂などが含まれる。
【0032】
【化3】

【0033】
(式中、R1a及びR1bは同一又は異なって、C2−4アルキレン基を示し、R1cはC2−4アルキレン基を示し、R2a、R2bは同一又は異なって、C1−4アルキル基を示し、m及びnは1〜3の整数であり、h1及びh2は0〜2の整数である。)
【0034】
フルオレン系ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、例えば、0.5×10〜100×10、好ましくは1×10〜50×10、さらに好ましくは1×10〜25×10(例えば、1×10〜10×10)程度であってもよい。
【0035】
このようなフルオレン系ポリエステル樹脂は、透明性、耐熱性、疎水性、屈折率などが高く、成形に伴う複屈折の増加が小さいなど、種々の特性に優れる。
【0036】
前記フルオレン系ポリエステル樹脂の屈折率は、例えば、1.55以上(例えば、1.59〜1.7程度)、好ましくは1.60以上(例えば、1.60〜1.65程度)、さらに好ましくは1.605以上(例えば、1.605〜1.63程度)であってもよい。
【0037】
なお、前記フルオレン系ポリエステル樹脂の光弾性係数は、例えば、7×10−12cm/dyn以下(例えば、0.1×10−12〜6.5×10−12cm/dyn程度)、好ましくは6×10−12cm/dyn以下(例えば、1×10−12〜5.5×10−12cm/dyn程度)、さらに好ましくは5×10−12cm/dyn以下(例えば、2×10−12〜4.5×10−12cm/dyn程度)であってもよい。
【0038】
前記フルオレン系ポリエステル樹脂は、通常、少なくとも下記式(3)で表されるジオール(9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン骨格を有するジオール)で構成されたジオール成分と、少なくとも下記式(5)で表されるジカルボン酸及びこれらの反応性誘導体を含むジカルボン酸成分とを反応させることにより得ることができる。さらに、前記のように、ジオール成分及びジカルボン酸成分はそれぞれ単一の成分であってもよく、ジオール成分及び/又はジカルボン酸成分は共重合成分を含んでいてもよい。例えば、ジオール成分は、前記式(3)で表されるジオールと下記式(4)で表されるジオールとを組み合わせて構成してもよい。
【0039】
【化4】

【0040】
(式中、A、Z、Z、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、R、m、n、h1、h2、j1、j2、及びkは前記化1に同じ。R1c及びqは前記化2に同じ。)
式(3)で表されるジオールには、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類及び9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン類などが含まれる。
【0041】
9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類としては、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(ビスフェノールフルオレン,BPF);ビスクレゾールフルオレン(BCF、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)フルオレンなど)などの9,9−ビス(C1−4アルキルヒドロキシフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ジC1−4アルキルヒドロキシフェニル)フルオレンや、9,9−ビス[2−(6−ヒドロキシ)ナフチル]フルオレン;9,9−ビス[2−(6−ヒドロキシ−5−メチル)ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキルヒドロキシナフチル)フルオレン;これらの化合物に対応し、置換基R2a及びR2bがC5−10シクロアルキル基やC6−12アリール基などであるビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類が挙げられる。
【0042】
また、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン類としては、ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類のヒドロキシル基1モルに対してC2−4アルキレンオキサイド1〜10モル(好ましくは1〜5モル、特に1〜3モル)程度又は3−クロロプロパノールなどのC2−8ハロアルカノール1〜5モル(好ましくは1〜3モル、特に1モル)程度が付加した化合物が挙げられる。代表的な9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン類としては、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)フルオレン(ビスフェノキシエタノールフルオレン,BPEF)などの9,9−ビス[4−(ヒドロキシC2−3アルコキシ)フェニル]フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシエトキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(ビスクレゾールエタノールフルオレン,BCEF)、9,9−ビス(4−ヒドロキシイソプロポキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(アルキルヒドロキシC2−3アルコキシフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシエトキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ジアルキルヒドロキシC2−3アルコキシフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシエトキシ−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(シクロアルキルヒドロキシC2−3アルコキシフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシエトキシ−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(アリールヒドロキシC2−3アルコキシフェニル)フルオレンや、9,9−ビス[2−(6−ヒドロキシエトキシ)ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−3アルコキシナフチル)フルオレン;9,9−ビス[2−(6−ヒドロキシエトキシ−5−メチル)ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジアルキルヒドロキシC2−3アルコキシナフチル)フルオレンなどが挙げられる。
【0043】
これらの化合物のうち、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類としては、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(例えば、BPF)、9,9−ビス(C1−4アルキルヒドロキシフェニル)フルオレン(例えば、BCF)などが好ましい。9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン類としては、例えば、9,9−ビス[4−(ヒドロキシC2−3アルコキシ)フェニル]フルオレン(例えば、BPEF)、9,9−ビス(アルキルヒドロキシC2−3アルコキシフェニル)フルオレン(例えば、BCEF)などが好ましい。上記式(3)で表されるジオール成分としては、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンを用いる場合が多い。これらの化合物は単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0044】
上記式(3)で表されるジオール{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン}は、剛直なフルオレン環と2つの芳香環とを有することにより、耐熱性を向上できるだけでなく、これらの3つの芳香環の平面が互いに直交する立体配座に起因し、非結晶性であるため、透明性も向上することができる。
【0045】
式(4)で表されるジオールは共重合成分として使用でき、必ずしも必要ではない。式(4)で表されるジオールとしては、アルキレングリコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、テトラメチレングリコール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、オクタンジオール、デカンジオールなどの直鎖状又は分岐鎖状C2−12アルキレングリコールなど)、(ポリ)オキシアルキレングリコール(例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのジ乃至テトラC2−4アルキレングリコールなど)が例示できる。これらのジオールは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましいジオールは、直鎖状又は分岐鎖状C2−10アルキレングリコール、特にC2−6アルキレングリコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどの直鎖状又は分岐鎖状C2−4アルキレングリコール)である。ジオールとしては、少なくともエチレングリコールを用いる場合が多い。
【0046】
上記式(4)で表されるジオール(例えば、エチレングリコール)は、重合反応性を高めるとともに樹脂に柔軟性を付与させるための共重合成分として有用である。なお、共重合成分の導入により、屈折率、耐熱性などが低下する場合があるため、一般的には、共重合比率はできるだけ小さい方がよいようである。
【0047】
式(3)で表されるジオールと式(4)で表されるジオールとの割合(モル比)は、前者/後者=100/0〜10/90(例えば、100/0〜30/70)程度の範囲から選択でき、通常、99/1〜50/50、好ましくは99/1〜60/40、さらに好ましくは99/1〜70/30、特に、97/3〜75/25(例えば、95/5〜80/20)程度であってもよい。
【0048】
なお、必要であれば、前記式(3)及び(4)で表されるジオールに、脂環族ジオール(例えば、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンなどのビス(ヒドロキシシクロアルキル)アルカン、2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパンなどのビス((ヒドロキシアルコキシ)シクロアルキル)アルカンなど)や、芳香族ジオール(例えば、ビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンなどのビス(ヒドロキシアリール)アルカン、2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパンなどのビス((ヒドロキシアルコキシ)アリール)アルカン、キシリレングリコールなど)を組み合わせて使用してもよい。これらのジオールも単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。さらに、必要に応じて、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールなどのポリオールを併用してもよい。
【0049】
式(5)で表されるジカルボン酸及びこれらの反応性誘導体を含むジカルボン酸成分のうち、脂肪族ジカルボン酸成分としては、脂肪族飽和ジカルボン酸類(例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのC1−10アルカン−ジカルボン酸など)、脂肪族不飽和ジカルボン酸類(例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸などのC2−10アルケン−ジカルボン酸など)、これらの反応性誘導体(無水コハク酸などの酸無水物、ジメチルエステル、ジエチルエステルなどの低級C1−4アルキルエステル、ジカルボン酸に対応する酸ハライドなどのエステル形成可能な誘導体)などが例示できる。通常、脂肪族ジカルボン酸成分は、C2−8アルカン−ジカルボン酸又はこれらの反応性誘導体である。
【0050】
式(5)で表されるジカルボン酸及びこれらの反応性誘導体を含むジカルボン酸成分のうち、脂環族ジカルボン酸成分としては、シクロアルカンジカルボン酸類(シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘプタンジカルボン酸などのC5−10シクロアルカン−ジカルボン酸)、シクロアルケンジカルボン酸類(テトラヒドロフタル酸などのC5−10シクロアルケン−ジカルボン酸)、多環式アルカンジカルボン酸類(ボルナンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸などのジ又はトリシクロC7−10アルカン−ジカルボン酸)、多環式アルケンジカルボン酸類(ボルネンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸などのジ又はトリシクロC7−10アルケン−ジカルボン酸)、これらの反応性誘導体(ヘキサヒドロ無水フタル酸などの酸無水物、ジメチルエステル、ジエチルエステルなどの低級C1−4アルキルエステル、ジカルボン酸に対応する酸ハライドなどのエステル形成可能な誘導体)などが例示できる。通常、脂環族ジカルボン酸成分は、C5−10シクロアルカン−ジカルボン酸又はこれらの反応性誘導体である。
【0051】
式(5)で表されるジカルボン酸及びこれらの反応性誘導体を含むジカルボン酸成分のうち、芳香族ジカルボン酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などのC6−14アレーン−ジカルボン酸、ビフェニル−4,4′−ジカルボン酸などのC12−14ビフェニル−ジカルボン酸又はこれらの反応性誘導体(無水フタル酸などの酸無水物、ジメチルエステル、ジエチルエステルなどの低級C1−4アルキルエステル、ジカルボン酸に対応する酸ハライドなどのエステル形成可能な誘導体)などが例示できる。通常、芳香族ジカルボン酸成分は、C6−12アレーン−ジカルボン酸又はこれらの反応性誘導体である。
【0052】
これらの前記ジカルボン酸成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。脂環族ジカルボン酸又は芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸との割合(モル比)は、前者/後者=100/0〜50/50、好ましくは95/5〜70/30、さらに好ましくは90/10〜80/20程度であってもよい。さらに、必要であれば、トリカルボン酸、テトラカルボン酸などの多価カルボン酸を併用し、フルオレン系ポリエステル樹脂に分岐構造を導入してもよい。これらのジカルボン酸成分のうち、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸又はその反応性誘導体(1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルなど)及びテレフタル酸又はその反応性誘導体(テレフタル酸ジメチルなど)を用いる場合が多い。
【0053】
ジカルボン酸成分により、生成するフルオレン系ポリエステル樹脂の屈折率、透明性、機械的強度及び成形性などの諸性質を調節することができるため、目的に応じて、ジカルボン酸成分の種類を選択することができる。
【0054】
ジカルボン酸成分とジオール成分との割合(モル比)は、通常、前者/後者=1.5/1〜0.7/1、好ましくは1.2/1〜0.8/1(特に、1.1/1〜0.9/1)程度であってもよい。
【0055】
フルオレン系ポリエステル樹脂の製造法については、特開2004―315676号公報を参照できる。フルオレン系ポリエステル樹脂の製造法としては、特に制限がなく、慣用の方法、例えば、エステル交換法、溶融重合法(直接重合法など)、有機溶媒中で反応させる溶液重合法、酸ハライドを用いる界面重合法などが例示できる。ジカルボン酸とビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類と必要により共重合成分(アルキレングリコールなど)とを直接重合法で反応させると、極めて温和な条件でもエステル化反応が円滑に進行する。
【0056】
反応は触媒の非存在下で行うこともできるが、樹脂が着色するのを防ぎ、より穏和な条件で所定の重合度の樹脂を得るためには、触媒を用いるのが好ましい。触媒としては、フルオレン系ポリエステル樹脂の製造に利用される種々の触媒、例えば、金属触媒などが使用できる。金属触媒としては、例えば、アルカリ金属(ナトリウムなど)、アルカリ土類金属(マグネシウム、バリウムなど)、又は遷移金属(亜鉛、カドミウム、鉛、コバルトなど)などを含む金属化合物が用いられる。金属化合物としては、アルコキシド、有機酸塩(酢酸塩、プロピオン酸塩など)、無機酸塩(ホウ酸塩、炭酸塩など)、金属酸化物などが例示できる。これらの触媒は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。触媒の使用量は、例えば、ジカルボン酸成分に対して、0.01×10−4〜100×10−4モル、好ましくは0.1×10−4〜10×10−4モル程度であってもよい。
【0057】
反応は、通常、不活性ガス(窒素、ヘリウムなど)雰囲気中で行うことができる。また、反応は、常圧下で行ってもよく、減圧下(例えば、1〜100torr(約1×10〜1×10Pa))で行うこともできる。反応温度は、例えば、150〜270℃(好ましくは180〜260℃、さらに好ましくは200〜250℃)程度で行うことができる。反応終了後、必要により慣用の方法で樹脂を精製してもよい。
【0058】
式(5)で表されるジカルボン酸として脂肪族ジカルボン酸を用いると、得られるフルオレン系ポリエステル樹脂は、易成形性を有する。
【0059】
また、式(5)で表されるジカルボン酸として脂環族ジカルボン酸を用いると、得られるフルオレン系ポリエステル樹脂は、極めて高い透明性を有する。また、成形流動性に優れるため、アルキレングリコール(エチレングリコールなど)などの共重合成分が少量であってもよく、樹脂本来の物性(例えば、屈折率、耐熱性など)を保つことができる。
【0060】
さらに、式(5)で表されるジカルボン酸として芳香族ジカルボン酸を用いると、得られるフルオレン系ポリエステル樹脂の機械的強度、屈折率が向上する。なお、成形流動性が低下し、応力歪や分子配向により一般的に透明性が低くなる場合があるが、フルオレン骨格を有するジオール(ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類)と芳香族ジカルボン酸とを重合させると、高い透明性を有するフルオレン系ポリエステル樹脂が得られる。さらにジオール成分の共重合成分としてアルキレングリコール(エチレングリコールなど)を用いると、流動性を向上でき、成形に適した樹脂が得られる。
【0061】
(水溶性高分子)
水溶性高分子としては、前記フルオレン系ポリエステル樹脂に対して非相溶性であれば特に制限されず、例えば、ビニルアルコール系樹脂(例えば、ポリビニルアルコール、ビニルアルコール−エチレンスルホン酸共重合体、ビニルアルコール−マレイン酸共重合体など)、ビニルエーテル系樹脂(ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ビニルアルキルエーテル−マレイン酸共重合体などのビニルアルキルエーテルの単独又は共重合体など)、ビニルピロリドン系樹脂(ポリビニルピロリドン;ビニルピロリドンと酢酸ビニルとの共重合体など)、ポリアルキレングリコール(ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体など)、アクリルアミド系樹脂(ポリアクリルアミドなど)、水溶性ポリアミド(ポリオキシエチレンユニットなどのポリオキシC2−3アルキレンユニットを有するポリエーテル型ポリアミドなど)などの水溶性合成樹脂;セルロース系樹脂[アルキルセルロース(メチルセルロースなど)、ヒドロキシアルキルセルロース(ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)など)、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど)、カルボキシアルキルセルロース(カルボキシメチルセルロース(CMC)など)、アルキル−カルボキシアルキルセルロース(メチルカルボキシメチルセルロースなど)など]及びこれらの誘導体[カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのCMC塩(アルカリ金属塩など)など]などが挙げられる。これらの水溶性高分子は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの水溶性高分子のうち、ポリビニルアルコールなどのビニルアルコール系樹脂を用いる場合が多い。
【0062】
前記水溶性高分子は、通常、前記フルオレン系ポリエステル樹脂と混和性を有している場合が多い。
【0063】
前記フルオレン系ポリエステル樹脂と前記水溶性高分子との割合(重量比)は、前者/後者=1/99〜50/50(例えば、5/95〜45/55)、好ましくは10/90〜43/57、さらに好ましくは15/85〜40/60程度であってもよい。
【0064】
本発明の製造方法において、必要により、添加剤を用いてもよい。前記添加剤は、前記フルオレン系ポリエステル樹脂及び/又は前記水溶性高分子に予め含有させてもよく、後述する溶融混練の過程で、フルオレン系ポリエステル樹脂及び水溶性高分子を含む樹脂組成物に添加してもよい。
【0065】
前記添加剤としては、例えば、可塑剤(エステル類、フタル酸系化合物、エポキシ化合物、スルホンアミド類など)、難燃剤(無機系難燃剤、有機系難燃剤、コロイド難燃物質など)、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、帯電防止剤、消泡剤、滑剤、離型剤(天然ワックス類、合成ワックス類、直鎖脂肪酸又はその金属塩、酸アミド類など)などが挙げられる。また、屈折率や耐熱性を高めるために、透明性を損なわない範囲で、硫黄化合物やポリシランなどを含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0066】
前記添加剤の割合は、それぞれ、フルオレン系ポリエステル樹脂及び水溶性高分子の合計量100重量部に対して、0.1〜30重量部、好ましくは0.3〜20重量部、さらに好ましくは0.5〜10重量部程度であってもよい。
【0067】
前記フルオレン系ポリエステル樹脂と前記水溶性高分子との溶融混練は、水溶性高分子で構成された連続相中に、フルオレン系ポリエステル樹脂で構成された分散相を分散できれば特に制限されず、慣用の溶融混練機、例えば、一軸又はベント式二軸押出機、バンバリーミクザー、ニーダー、ミキシングロールなどを用いて行うことができる。また、溶融混練に先だって、例えば、混合機(タンブラー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、ナウタミキサー、リボンミキサー、メカノケミカル装置など)などを用いて、フルオレン系ポリエステル樹脂と、水溶性高分子と、必要により添加剤などとを予備混合してもよい。
【0068】
なお、溶融混練温度は、例えば、150〜300℃、好ましくは160〜280℃、さらに好ましくは170〜260℃程度であってもよい。また、溶融混練終了後に冷却してもよく、溶融混練により、分散相が変形した状態で冷却してもよい。
【0069】
このような方法により、連続相(海又はマトリックス)及び分散相(島)が形成された分散体を得ることができる。前記分散相の形状は、特に制限されず、例えば、ロッド状、楕円体状(フットボール型形状、又は回転楕円体状)、球状などであってもよく、通常、球状である場合が多い。また、前記分散相は、扁平であってもよい。
【0070】
なお、水溶性高分子の溶出を効率よく行うため、前記分散体は、例えば、慣用の粉砕機(ハンマーミル、カッターミル、ペレタイザーなど)などを用いて粉砕されていてもよい。
【0071】
前記分散体において、連続相を構成する水溶性高分子を溶出することにより、フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子を得ることができる。水溶性高分子の溶出には、水、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒などを用いることができ、通常、水(例えば、温水)を用いる場合が多い。
【0072】
前記水溶性有機溶媒としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのC1−4アルカノールなど)、ケトン類(アセトンなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、有機カルボン酸類(酢酸など)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのC1−4アルキルセロソルブ類など)、セロソルブアセテート類(エチルセロソルブアセテートなどのC1−4アルキルセロソルブアセテート類)、カルビトール類(メチルカルビトール、エチルカルビトールなどのC1−4アルキルカルビトール類など)などが例示できる。これらの水溶性有機溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0073】
なお、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒において、水溶性有機溶媒の割合(重量比)は、水溶性高分子を溶出可能であり、かつフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子を溶出しない限り限定されず、例えば、水100重量部に対して、20重量部以下(例えば、0.01〜15重量部)、10重量部以下(例えば、0.03〜5重量部)、さらに好ましくは3重量部以下(例えば、0.05〜1重量部程度)であってもよい。
【0074】
水溶性高分子を溶出させる方法としては、水と水溶性高分子とを接触させる方法などが挙げられ、例えば、前記分散体を水に浸漬させる方法、前記分散体を水で洗浄する方法などが挙げられる。
【0075】
溶出温度は、0〜100℃、好ましくは10〜90℃、さらに好ましくは20〜85℃(特に、30〜80℃)程度であってもよい。
【0076】
このようにして得られたフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子は、粒径が小さく、表面の平滑性に優れている。さらに、前記フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子は、粒度分布が狭い。
【0077】
前記フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子の形状は、前記分散相の形状の項で例示の形状が挙げられ、特に球状であるのが好ましい。なお、前述のように、溶融混練後に冷却すると、フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子の形状を球状に形成でき、溶融混練により、分散相が変形した状態で冷却すると、ロッド状、楕円体状などに形成できる。前記フルオレン系ポリエステル樹脂は、疎水性が高いためか、連続相中に分散相が球状に細かく分散しやすく、粒径が小さい微粒子が得られる。
【0078】
前記フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子の平均粒径は、0.1〜30μm(例えば、0.3〜20μm)、好ましくは0.5〜10μm、さらに好ましくは1〜5μm(特に、1.5〜3μm)程度であってもよく、通常、0.1〜5μm程度である場合が多い。また、前記フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子のアスペクト比は、1〜10程度から選択でき、好ましくは1.1〜5、さらに好ましくは1.2〜3(例えば、1.3〜2)程度であってもよく、通常、1〜3程度である場合が多い。
【0079】
このようなフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子は、透明性及び耐熱性の双方の特性に優れている。さらに、粒径が小さく、表面の平滑性に優れている。さらには、各種添加剤との親和性が高く、簡便にコンポジット材料を製造することができる。
【0080】
前記フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子と無機微粒子とで構成された粉体組成物を加圧及び/又は加熱成形してコンポジット材料を製造できる。
【0081】
前記粉体組成物は、フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子と無機微粒子とを混合して得ることができる。混合には、例えば、前記溶融混練における予備混練の項で例示の混合機などが使用できる。
【0082】
成形圧力は、例えば、1〜100MPa、好ましくは3〜80MPa、さらに好ましくは5〜50MPa(例えば、8〜30MPa)程度であってもよい。また、成形温度は、例えば、150〜300℃、好ましくは180〜280℃、さらに好ましくは200〜270℃程度であってもよい。
【0083】
なお、成形時間は、例えば、1分間〜1時間、好ましくは3〜30分間、さらに好ましくは5〜20分間程度であってもよい。
【0084】
前記フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子を用いるため、無機微粒子の含有量が多くても、均一に混合することができる。
【0085】
前記無機微粒子としては、例えば、微粒子状無機充填剤[カーボンブラック、黒鉛、カオリン、タルク、クレーなどのケイ酸塩;酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、アルミナなどの金属酸化物;カルシウム、マグネシウム、亜鉛などの金属の炭酸塩や硫酸塩;炭化ケイ素などの金属炭化物、窒化ケイ素、窒化ホウ素などの金属窒化物など]などが挙げられる。これらの無機微粒子のうち、酸化チタンなどの金属酸化物を用いる場合が多い。前記無機微粒子は単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0086】
前記無機微粒子の形状としては、前記分散相の形状の項で例示の形状が挙げられる。
【0087】
前記無機微粒子の平均粒径は、10nm〜80μm(例えば、10nm〜50μm)、好ましくは15nm〜10μm(例えば、15nm〜1μm)、さらに好ましくは20〜100nm(例えば、20〜80nm、特に、25〜60nm)程度であってもよい。無機微粒子の平均粒径は、前記フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子の平均粒径より大きくてもよく、小さくてもよい。無機微粒子の平均粒径が、フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子の平均粒径より小さいと、無機微粒子の含有量が多くても、フルオレン系ポリエステル樹脂と効率よく均一に混合できる。
【0088】
また、前記無機微粒子のアスペクト比は、前記フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子のアスペクト比と同様の範囲から選択できる。
【0089】
前記フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子の平均粒径(A)に対する前記無機微粒子の平均粒径(B)の比(粒径比(B/A))は、0.5〜20、好ましくは1〜15(例えば、1.5〜12)、さらに好ましくは2〜10(特に、3〜8)程度であってもよい。
【0090】
フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子と無機微粒子との割合(重量比)は、前者/後者=99/1〜50/50、好ましくは90/10〜55/45、さらに好ましくは80/20〜60/40程度であってもよく、通常、95/5〜50/50程度である場合が多い。
【0091】
このようにして得られたコンポジット材料は、無機微粒子の含有量が多くても、フルオレン系ポリエステル樹脂と均一に混合されている。
【産業上の利用可能性】
【0092】
フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子は、光学用スペーサ、各種添加剤[コーティング剤に添加するための添加剤(ブロッキング剤、スリップ剤など)、レオロジー制御剤(例えば、上塗り塗料用レオロジー制御剤など)、光拡散剤、つや消し剤、充填剤、アンチブロッキング剤(例えば、フィルム用アンチブロッキング剤など)など]などに有効である。
【実施例】
【0093】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0094】
得られたフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子の特性は以下の方法により評価した。
【0095】
[透明性]
透明性は、(株)島津製作所製、UV−Visスペクトロフォトメーター(Spectrophotometer)UV3600を用いて、波長550nmにおける光透過率を測定した。
【0096】
[光沢度]
光沢度は、(株)堀場製作所製、光沢計(Gloss Checker) IG−330を用いて測定した。
【0097】
[ガラス転移温度]
ガラス転移温度は、示差走査熱量計(島津製作所(株)製、「DSC−60」)を用いて、50mL/分の窒素流下、10℃/分の昇温条件で測定した。
【0098】
(実施例1)
フルオレン系ポリエステル樹脂(大阪ガスケミカル(株)製、FBP−GX)30部と、水溶性ポリビニルアルコール((株)クラレ製、エクセパル)70部とをドライブレンドし、260℃に加熱したラボプラストミル((株)トーシン製、TDR100−500X3型)に投入し、300rpmで10分間混練した。混練直後に融液は濁りはじめ、フルオレン系ポリエステル樹脂が水溶性ポリビニルアルコールに分散したことを示した。混練終了後、冷却し、粉砕機(大阪ガスケミカル(株)製、アブソルートミルABS-W)を用いて、冷却した分散体を1cm程度の塊に粉砕し、80℃の熱水で水溶性ポリビニルアルコールを溶出して、フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子を沈殿として得た。さらに、前記熱水による洗浄を3回繰り返した。フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子の平均粒子径は、粒度分布測定器(日機装(株)製、マイクロトラックUPA)を用いて、水分散状態で測定したところ、1.94μmであり、極めて粒度分布の狭い粒子が得られた。図1にフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子の走査型電子顕微鏡写真、図2にフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子の粒度分布を示す。
【0099】
(実施例2)
実施例1で得られたフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子と、酸化チタン(石原産業(株)製、TTO-55D、粒径30〜50nm)とを粉体状態にて、表1に示す割合で予備混合した。次いで、混合した粉体組成物を内径20mm、高さ20mmのテフロン(登録商標)製のリングに、高さ(厚さ)5mm程度まで充填し、表1に示す温度に加熱したホットプレス間に保持し、テフロン(登録商標)製のリングに内接するシリンダーにより10MPaの加圧下で10分間加熱及び加圧成形し、コンポジットシートを得た。
【0100】
得られたコンポジットシートは、光沢のある白色シートであり、十分に柔軟性を有していた。コンポジットシートの透明性、光沢度、及びガラス転移温度を測定し、走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製、電界放射走査型電子顕微鏡(FE−SEM)により、コンポジットシートの断面を観察した。結果を表1及び図3に示す。
【0101】
【表1】

【0102】
表1及び図1〜2から明らかなように、比較例に比べ、実施例では、粒径が小さいとともに、粒径分布が狭いフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子が得られた。さらに、前記フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子は、透明性及び光沢度が高いことがわかった。また、図3から明らかなように、コンポジットシートは、酸化チタンの含有量が多くても、フルオレン系ポリエステル樹脂中に凝集することなく、均一に混合されていた。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】図1は、実施例1で得られたフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子の50,000倍の走査型電子顕微鏡写真である。図中のスケールは10μmを示す。
【図2】図2は、実施例1で得られたフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子の個数換算での粒度分布曲線を示す。
【図3】図3は、実施例2で得られたコンポジットシート断面における50,000倍の走査型電子顕微鏡写真である。図中のスケールは10μmを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオレン系ポリエステル樹脂と、このフルオレン系ポリエステル樹脂に対して非相溶である水溶性高分子とを溶融混練し、水溶性高分子で構成された連続相中に、フルオレン系ポリエステル樹脂で構成された分散相を分散させた後、水溶性高分子を溶出し、フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子を製造する方法。
【請求項2】
水溶性高分子として、ビニルアルコール系樹脂を用いる請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
フルオレン系ポリエステル樹脂と水溶性高分子との割合(重量比)が、前者/後者=1/99〜50/50である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
水を用いて水溶性高分子を溶出する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
微粒子の平均粒径が0.1〜5μmである請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法で得られたフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子。
【請求項7】
請求項6記載のフルオレン系ポリエステル樹脂微粒子と無機微粒子とで構成された粉体組成物を加圧及び/又は加熱成形してコンポジット材料を製造する方法。
【請求項8】
無機微粒子の平均粒径が、フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子の平均粒径より小さい請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
フルオレン系ポリエステル樹脂微粒子と無機微粒子との割合(重量比)が、前者/後者=99/1〜50/50である請求項7又は8記載の製造方法。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかに記載の製造方法で得られたコンポジット材料。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−167231(P2009−167231A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3731(P2008−3731)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】