説明

フルオロアルキルスルホンの光酸発生部が置換された新規の単量体およびその重合体

本発明はフルオロアルキルスルホニウム光酸発生基を備える新規化合物と、前記新規化合物とメタクリル酸塩単量体をラジカル重合して製造された有機溶媒に対する溶解性が優れた新規の共重合体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロアルキルスルホニウム(fluoroalkylsulfonium)置換された光酸発生基を備える新規化合物、および前記新規化合物とメタクリル酸塩単量体とのラジカル重合により製造された有機溶媒に対する優れた溶解性を備える新規共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
既存のAFMリソグラフィーにおいて、パターン形成は、有機物レジストを用いて自己組織化単分子膜を製造することにより、大部分は遂行されている(非特許文献1、2、3)。
【0003】
AFMによる酸化パターン形成の工程は、下記の通りである。有機薄膜はケイ素基板上に一定の厚さで形成される。その後、ほぼ数ボルトの電圧は、AFMのチップを用いて局部的に印加され、酸化パターンを形成する。得られた酸化ケイ素は遊離構造(loose structure)を有するので、他の部分よりエッチング速度が非常に早くなる。求めるポジティブパターン(positive pattern)を得るためにエッチング処理を施す間、電圧が印加されなかった有機薄膜の一部がレジストとして用いられ得る。しかしながら、実際には、基板と化学的結合がかなり強いため、パターン形成後、薄膜を完全に除去することがかなり難しい。
【0004】
AFMリソグラフィーにおいて、印加される電圧、電流、走査速度、湿度、レジスト能力などは、重要な要素である(非特許文献4、5、6)。
【0005】
最適条件でリソグラフィーが遂行されなければ、線幅が不規則で、切れた線のパターンが得られる。より良いパターン形成のために、まず高性能レジストの開発が必要であり、また、印加される電圧、走査速度と湿度などの条件は、適切に制御されるべきである。
【0006】
一方、スルホニウムは、通常、重合で光酸開始剤またはラジカル光開始剤として、または有機化合物を脱保護するための酸触媒発生剤として使用される。スルホニウムに対し数種の用途が開発されており、特定領域の紫外線により活性化され陽イオン光酸開始剤を発生する。そして、最近の電子工学の発達とともに、ミクロ電子工学において微細パターンの形成に用いられる。スルホニウム陽イオン光開始剤は光を照射すると強酸を生成するので優れた光重合効率を有するが、しかし、有機溶媒に対する溶解性が小さいという短所がある。
【0007】
この問題点に関して、光を照射することにより非イオン性光開始剤の使用が、有機溶媒に対する溶解性を向上させるという報告がある(非特許文献7)。しかしながら、非イオン性光開始剤により発生される酸は、弱酸、例えば、メチルスルホン酸、プロピルスルホン酸およびカンファースルホン酸などであり、強いトリフルオロメタンスルホン酸ではない。
【非特許文献1】Jpn. J. Appl. Phys., 37, 7148, 1998, Kim J. C.
【非特許文献2】J. Kor. Phys. Soc., 35, 1013, 1999, Kim J. C.
【非特許文献3】Adv. Mater., 12, 6, 424, 2000, Rivka M.
【非特許文献4】Vac. Sci. Technol., 1223, 1996, Sugimura A.
【非特許文献5】J. Vac. Sci. Technol., 2912, 1997, Birkelund K.
【非特許文献6】J. Appl. Phys. Lett., 285, 1997, Avouris P.
【非特許文献7】Journal of Photopolymer Science and Technology, Vol. 13, No. 2(2000), pp223〜230
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の発明者は、スルホニウム塩の有機溶媒に対する難溶解性と、酸化パターン形成時の線幅の不均一性と不連続の問題点を解決するために様々な努力を行った。その際に、ジフェニルスルホキシドを新規フルオロアルキルスルホンニウム塩で置換することにより製造される新規化合物と、メタクリル酸メチル単量体とのラジカル重合により製造される新規共重合体は有機溶媒に対し優れた溶解性を有することを確認した。
【0009】
従って、フルオロアルキルスルホニウムで置換された新規化合物を提供することが本発明の目的である。
【0010】
フルオロアルキルスルホニウムの光酸発生基が側鎖に導入された新規共重合体を提供することが本発明の別の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明はフルオロアルキルスルホニウムで置換された下記化学式(1)により表される化合物に関する。
【0012】
【化1】

【0013】
およびRは独立に、C〜Cのアルキルカルボニル、アルデヒド、シアノ、ニトロおよびフェニルから成る基から選択された電子供与基または電子求引基で置換されたフェニルであり、
は水素原子または直鎖状、側鎖状または環状のC〜Cアルキル基であり、
nは0から20の整数である。
【0014】
また、本発明は同様に、フルオロアルキルスルホニウムの光酸発生基が側鎖に導入されている下記化学式(2)により表される共重合体にも関する。
【0015】
【化2】

【0016】
とRは前記化学式(1)で定義されたのと同様であり、
は直鎖状、側鎖状または環状のC〜C20アルキル基であり、
およびRは独立に、水素原子または直鎖状、側鎖状または環状のC〜Cアルキル基であり、
nは0〜20の整数であり、x+y=1、0≦x≦0.99、および0.01≦y≦1である。
【0017】
以下に、本発明についてより詳細に説明する。
【0018】
本発明は、化学式(1)により表されるフルオロアルキルスルホニウムの光酸発生基を有する新規の単量体に関する。
【0019】
化学式(1)により表される化合物は、特定領域の紫外線を照射させると陽イオン開始剤を発生させ、そして、このように、例えば、有機化合物の脱保護において、光酸開始剤、ラジカル開始剤および酸触媒発生剤として使用される。
【0020】
本発明に基づく化学式(1)により表される化合物の製造方法は以下の工程を含む。
(a)ジフェニルスルホキシドからアルキルスルホニウムトリフルオレート(alkylsulfonium trifluorate)の合成。
(b)ハロゲン置換されたアルキルスルホニウムトリフルオレートの合成。
(c)アルキルアクリロイルオキシアルキルスルホニウムトリフルオレート(alkylacryloyloxy alkylsulfonium trifluorate)の合成。
【0021】
フルオロアルキルスルホニウム置換された化合物を製造する3段階の工程がより詳細に記載される。
【0022】
まず、ジフェニルスルホキシドとトルエンを塩化メチレンに溶かし、アセトン−ドライアイスを用いて反応器内部の温度を−78℃に調整させる。その後、三フッ化無水物(trifluoric anhydride)をゆっくりと滴加する。−78℃で1〜2時間反応させた後、反応溶液はゆっくりと室温まで加熱され、重炭酸ナトリウム飽和溶液と蒸留水で洗浄される。溶液が無水硫酸マグネシウムで乾燥された後、溶媒は減圧条件下で除去される。その後、約60〜70℃の高温の酢酸エチル中に結果物を溶解した後、再結晶が遂行され、アルキルスルホニウムトリフルオレートを得る。
【0023】
次に、得られたアルキルスルホニウムトリフルオレートがハロスクシンイミド(halosuccinimide)と反応され、ハロゲン置換されたアルキルスルホニウムトリフルオレートを得る。反応において、少量の過酸化ベンゾイルが反応開始剤として用いられる。溶媒は、反応中さらなる精製をせずに用いられる。溶媒に対して、二硫化炭素、四塩化炭素およびジクロロメタンの混合物を用いられ得り、好ましくは、1〜100:1〜100:1〜100の重量の混合比である。好ましくは、反応は10〜12日間遂行させる。
【0024】
次に、得られたハロゲン置換されたアルキルスルホニウムトリフルオレートがメタクリル酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、臭化テトラアンモニウムおよびジヒドロキシキノンと反応され、アルキルアクリロイルオキシアルキルスルホニウムトリフルオレート(alkylacryloyloxy alkylsulfonium trifluorate)を得る。好ましくは、反応は約1〜2時間遂行され、アセトニトリルが、さらなる精製をせずに溶媒として用いられる。
【0025】
本発明は、フルオロアルキルスルホニウム光酸発生基が側鎖に導入された化学式(2)により表される新規の共重合体により、同様な特性を示す。
【0026】
フルオロアルキルスルホニウム置換された光酸発生基が側鎖に導入された化学式(2)により表される新規の共重合体は、化学式(1)により表されるフルオロアルキルスルホニウム化合物とメタクリル酸単量体とのラジカル重合から製造される。ラジカル反応の際、少量の通常のラジカル開始剤、例えば、アゾビスイソブチロニトリルなどが添加される。
【0027】
フルオロアルキルスルホニウム光酸発生基が側鎖に導入された化学式(2)により表される得られた共重合体は、有機溶媒に対する向上された溶解性、および置換された光酸発生基のおかげで優れた光重合を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明は実施例を通じてさらに詳しく説明される。しかしながら、以下の実施例は本発明の理解のためだけであり、本発明の範囲を限定するとして解釈すべきではない。
【実施例】
【0029】
(実施例1)光酸発生基で置換された単量体の合成
以下の化学式(3)は新規の光酸発生基が置換された4−メタクリロイルオキシフェニルジフェニルスルホニウムトリフルオレート(4−methacryloyloxyphenyl diphenylsulfonium trifluorate)の合成を図解するが、本発明はこの実施例に限定されない。
【0030】
【化3】

【0031】
(1)4−メチルフェニルジフェニルスルホニウムトリフルオレートの合成
ジフェニルスルホキシド10g(49.4mmol)とトルエン5.1g(49.4mmol)がジクロロメタン500mLに溶解された。アセトン−ドライアイス槽を用いて溶液を含む反応器の温度が約−78℃に調節され、三フッ化無水物(trifluoric anhydride)14.8g(49.4mmol)をゆっくりと滴加させた。その後、溶液は同一温度で1時間攪拌され、室温までゆっくりと温められた。30分間攪拌した後、反応溶液は重炭酸ナトリウム飽和溶液、およびその後蒸留水で洗浄された。溶液は無水硫酸マグネシウムで乾燥された後、溶媒は回転蒸発器を用いることにより除去され、残渣は高温の酢酸エチル中で再結晶され、4−メチルフェニルジフェニルスルホニウムトリフルオレート(収率=50%)を得た。
【0032】
このように得られた合成物の構造はH−NMRと19F−NMR分光法により確認された。
【0033】
H−NMR(CDCl,ppm):2.48(s,3H)、7.46(d,2H フェニル)、7.60(d,2H フェニル)、7.70(m,10H フェニル)
【0034】
(2)4−ブロモメチルフェニルジフェニルスルホニウムトリフルオレート(4-bromomethylphenyl diphenylsulfonium trifluorate)の合成
(1)で合成されたスルホニウム化合物5g(11.7mmol)はN−ブロモスクシンイミド(N-bromosuccinimide)5.5g(30.9mmol)と混合され、混合溶媒(二硫化炭素30mL、四塩化炭素30mL、ジクロロメタン40mL)に溶解される。混合物に過酸化ベンゾイル0.3g(1.2mmol)が加えられた後、混合物は加熱還流下で10日間攪拌された。溶媒は反応溶液から減圧下で除去され、残渣がジクロロメタン100mLに溶解され、蒸留水で2度洗浄され、そして無水硫酸マグネシウムで乾燥された。その後、溶媒は回転蒸発器で除去され、精製がコラムクロマトグラフィー法により遂行され、4−ブロモメチルフェニルジフェニルスルホニウムトリフルオレート(収率=60%)を得た。
【0035】
このように得られた化合物の構造はH−NMR分析法により確認された。
【0036】
H−NMR(CDCl,ppm):4.51(s,2H)、7.30(m,14H フェニル)
【0037】
(3)4−メタアクリロイルオキシフェニルジフェニルスルホニウムトリフルオレートの合成
(2)で合成された化合物22g(3.9mmol)、メタクリル酸ナトリウム0.47g(4.3mmol)、ヨウ化ナトリウム60mg(0.4mmol)、臭化テトラエチルアンモニウム(tetraethylammonium bromide)84mg(0.4mmol)と微量のジヒドロキシキノンがアセトニトリル20mLに溶解され、そして混合物が加熱還流下で1.5時間攪拌された。溶媒が反応溶液から減圧下で除去され、そして残渣が蒸留水30mLに溶解された。生成物がジクロロメタンで抽出され、溶液が無水硫酸マグネシウムで乾燥された。その後、溶媒が回転蒸発器で除去され、精製がコラムクロマトグラフィー法により遂行され、4−メタアクリロイルオキシフェニルジフェニルスルホニウムトリフルオレート(収率=93%)を得た。
【0038】
このように得られた化合物の構造をH−NMR分析法により確認した。
【0039】
H−NMR(CDCl,ppm):1.97(s,1H,C−CH)、5.28(2H,O−CH)、5.64(1H,CH=)、6.66(1H,CH=)、7.70(14H フェニル)
【0040】
(実施例2)側鎖に導入された光発生基を備える共重合体の合成
以下の化学式(4)は、光酸発生基が側鎖で置換された共重合体の例として、ポリ(メタクリル酸メチル・4−ジフェニルトリフルオレートメタクリル酸ベンジル共重合体(methylmethacrylate-co-4-diphenylsulfoniumtrifluoratebenzylmethacrylate))の合成を図解する。本発明はこの実施例に限定されない。
【0041】
【化4】

【0042】
メタクリル酸メチル1.35g(13.5mmol)と実施例1で合成された化合物3.45g(6.75mmol)が精製されたテトラヒドロフラン300mLに溶解された。アゾビスイソブチロニトリル22mg(0.27mmol)を加えた後、混合物は加熱還流下で24時間攪拌された。反応溶液はゆっくりと、イソプロピルとn−ヘキサンの7:3混合溶液に注がれた。沈殿物が濾過され、そして真空乾燥されて、化学式(2)により表される化合物(収率=50)を得た。
【0043】
このように得られた化合物のH−NMRおよびTGA分析結果は、図1と図2に示される。
【0044】
H−NMR分析によれば、xとyの比が1.92:1であり、そして重量平均分子量は約4500であった。
【0045】
(実施例3)
化学式(2)により表される共重合体は、実施例2と同様な方法で合成された。ただしtert−メタクリル酸ブチル(tert-butylmetacrylate)と実施例1で合成された化合物が1:1のモル比(収率=50%)で用いられたことを除く。
【0046】
このように得られた化合物のH−NMRとTGA分析結果は、図3と図4に示される。
【0047】
H−NMR分析によれば、xとyの比が1:1であり、そして重量平均分子量は約5000であった。
【0048】
(実施例4)
化学式(2)により表された共重合体は、実施例2と同様な方法で合成された。ただしテトラヒドロピラニルメタクリル酸と実施例1で合成された化合物が1:1のモル比(収率=45%)で用いられたことを除く。
【0049】
このように得られた化合物のH−NMRとTGA分析結果は、図3と図4に示される。
【0050】
H−NMR分析によれば、xとyの比が1:1であり、そして重量平均分子量は約5000であった。
【0051】
化学式(2)により表される合成された共重合体は、アセトン、塩化メチレン、クロロホルム、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフランを含む様々な溶媒に対して優れた溶解性を示す。
【産業上の利用可能性】
【0052】
上述から明らかなように、フルオロアルキルスルホニウムの光酸発生基が置換された新規の単量体から重合して製造された本発明の共重合体は、有機溶媒に対して優れた溶解性および優れた塗布性能を有している。
【0053】
本発明は好ましい実施形態に関して詳細に記述されているが、当業者は、添付の特許請求の範囲で説明するように、本発明の真意(spirit)および目的から離れることなしに、様々な変更および置換がなされ得ることを理解する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は実施例2で生成された本発明の共重合体のH−NMR(核磁気共鳴)分析の結果を示す図である。
【図2】図2は実施例2で生成された本発明の共重合体のTGA(熱重量分析)分析の結果を示す図である。
【図3】図3は実施例3で生成された本発明の共重合体のH−NMR(核磁気共鳴)分析の結果を示す図である。
【図4】図4は実施例3で生成された本発明の共重合体のTGA(熱重量分析)分析の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロアルキルスルホニウムで置換された下記の化学式(1)により表される化合物。
【化1】


前記化学式(1)において、
およびRは独立に、C〜Cアルキルカルボニル、アルデヒド、シアノ、ニトロ、フェニルから成る基から選択された電子供与基または電子求引基で置換されたフェニルであり、
は水素原子または直鎖状、側鎖状または環状のC〜Cアルキル基であり、
およびnは0〜20の整数である。
【請求項2】
フルオロアルキルスルホニウム置換された光酸発生基が側鎖に導入されている下記の化学式(2)により表される共重合体。
【化2】

前記化学式(2)において、
およびRは独立に、C〜Cアルキルカルボニル、アルデヒド、シアノ、ニトロ、フェニルから成る基から選択された電子供与基または電子求引基で置換されたフェニルであり、
は直鎖状、側鎖状または環状のC〜C20アルキル基であり、
およびRは独立に、水素原子または直鎖状、側鎖状または環状のC〜Cアルキル基であり、
nは0〜20の整数であり、
およびx+y=1、0≦x≦0.99および0.01≦y≦1である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−523053(P2008−523053A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545390(P2007−545390)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際出願番号】PCT/KR2006/000535
【国際公開番号】WO2006/088317
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(505406671)インダストリー−ユニバーシティー コオペレーション ファウンデーション ハンヤン ユニバーシティー (10)
【Fターム(参考)】