説明

フルーツプレパレーション

【課題】ヨーグルトと混合した際に食感が重くならず、極めて軽い食感及び良好な口溶けを有し、更にはヨーグルト中の果肉感が増強されたフルーツ含有ソフトヨーグルトを調製可能な、フルーツプレパレーションを提供する。また、フルーツプレパレーション保存時に生じる、フルーツのシュリンクを抑制する。更には、フルーツの果肉感が増強されたフルーツ含有ソフトヨーグルトを提供する。
【解決手段】糖度が10〜80質量%であるフルーツプレパレーションに発酵セルロースを添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンゴ果肉やアロエ葉肉などのフルーツを含有したソフトヨーグルトを調製する際に使用されるフルーツプレパレーション(フルーツ加工食品)に関する。詳細には、ヨーグルトと混合した際に食感が重くならず、極めて軽い食感及び良好な口溶けを有し、更には果肉感が増強したフルーツ含有ソフトヨーグルトを調製可能な、フルーツプレパレーションに関する。また、本発明は、フルーツプレパレーションを保存した際、特に長期保存下において、フルーツからフルーツプレパレーションシロップ(糖やその他固形分を含有する溶液)へと水分が移行して果肉が収縮(シュリンク)することを抑制する、フルーツのシュリンク抑制方法に関する。更に、本発明はフルーツ含有ソフトヨーグルト中の果肉感を増強させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リンゴ果肉やアロエ葉肉などのフルーツを含有したソフトヨーグルトを製造する方法の一種として、フルーツを糖やその他固形分を含有する溶液(シロップ)中で加工したフルーツプレパレーション(フルーツ加工食品)を、予め調製したソフトヨーグルトミックスに添加する方法が挙げられる。しかし、ソフトヨーグルトはハードヨーグルトと異なり、ヨーグルト自体が流動性を有するため、フルーツの果肉片を添加すると、ヨーグルト調製時や経時的にフルーツが製品の底に沈降し、商品価値が低下してしまう。同様にして、フルーツ含有ソフトヨーグルト調製時に使用されるフルーツプレパレーション自体も、果肉が沈降すると、ソフトヨーグルトミックスとの混合時に配管に果肉がつまる、ソフトヨーグルト中に果肉を均一に分散することができないという課題を抱えており、フルーツプレパレーションやソフトヨーグルトに当該分散安定性を付与するために種々の安定剤が用いられてきた。
【0003】
例えば、グァーガム、キサンタンガム及びコーンスターチから選択される少なくとも一種の安定剤を含有したアロエ葉肉含有加工品(特許文献1)やネイティブ型ジェランガムを含有したフルーツプレパレーション(特許文献2)等が開示されている。
【0004】
また、発酵セルロースを使用した技術としては、細菌網状セルロースを含有した焼き菓子フィリング(特許文献3)やバクテリアセルロースを含有したジャム(特許文献4)等が開示されているが、これらフィリングやジャム等は、堅くなるまで放冷したり、煮詰めて製造するために流動性が極めて低い食品であり、フルーツプレパレーションとは異なった食品である。その上、これら食品は流動性が低いため、ヨーグルトと混合すること自体が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−248611号公報
【特許文献2】特開2006−211940号公報
【特許文献3】特表2000−512850号公報
【特許文献4】特開平10−117705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来から使用されてきた、グァーガム、キサンタンガムやコーンスターチ等の安定剤を用いて調製されたフルーツプレパレーションにより、フルーツ含有ソフトヨーグルトを製造した場合は、ヨーグルト自体の食感が重くなる上、後味がねっとりしてしまう、フルーツヨーグルト特有の果肉感が低減してしまうといった課題を抱えていた。更に場合によってはヨーグルトの組織が凝集し、ざらつきを生じることもあるなど、フルーツプレパレーションがソフトヨーグルトの食感や口溶けに与える影響は大きく、滑らかな口溶け及び従来にない軽い食感を有するヨーグルトを調製可能なフルーツプレパレーションが求められていた。また、安定剤としてネイティブ型ジェランガムを単独で用いた場合は、添加量のわずかな違いによってシロップの粘度が大きくぶれる、添加量が増えるとゲル化してしまうなど、その粘度の調節は難しく取り扱いは容易ではなかった。
【0007】
更に、フルーツプレパレーションは糖やその他固形分を含有する溶液(フルーツプレパレーション用シロップ)中にフルーツを添加することにより調製されるが、当該フルーツプレパレーション用シロップは通常の水溶液や飲料等に比べて糖度が高く、浸透圧の関係上、フルーツプレパレーションの保存中に、フルーツ果肉からシロップ中に水分が移行してフルーツが収縮(シュリンク)してしまう。これにより、フルーツ本来のみずみずしい食感が失われる、フルーツより移行してきた水分によってシロップの粘度が低下するといった問題を抱えており、フルーツプレパレーション中でのフルーツのシュリンクを抑制する方法が求められていた。
【0008】
上記課題に鑑み、本発明では、ヨーグルトと混合した際に食感が重くならず、極めて軽い食感及び良好な口溶けを有し、更にはヨーグルト中の果肉感が増強されたフルーツ含有ソフトヨーグルトを調製可能な、フルーツプレパレーションを提供することを目的とする。また、本発明は、フルーツプレパレーションの保存時に生じる、フルーツのシュリンクを抑制する方法を提供することを目的とする。更に、本発明はフルーツ含有ソフトヨーグルト中の果肉感を増強させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記問題点に鑑みて鋭意研究を重ねていたところ、発酵セルロースをフルーツプレパレーション中に添加することにより、ヨーグルトと混合した際に、従来にない極めて軽い食感および良好な口溶けを有する上、フルーツの果肉感が増強されたフルーツ含有ソフトヨーグルトを調製できることを見出して本発明に至った。また、本発明は発酵セルロースをフルーツプレパレーションに添加することにより、保存時、特に長期保存下であっても、フルーツプレパレーション中のフルーツ果肉のシュリンクを抑制できることを見出した。更に、本発明者らは、当該フルーツプレパレーションを用いることにより、ヨーグルト中の果肉感が増強されたフルーツ含有ソフトヨーグルトを提供できることを見出して本発明を完成した。
【0010】
本発明は、以下の態様を有するフルーツプレパレーション及び当該フルーツプレパレーションを用いたソフトヨーグルトの製造方法に関する;
項1.発酵セルロースを含有し、糖度が10〜80質量%であることを特徴とするフルーツプレパレーション。
項2.ソフトヨーグルト用フルーツプレパレーションである、項1記載のフルーツプレパレーション。
項3.項1又は2に記載のフルーツプレパレーションを添加することを特徴とする、フルーツ含有ソフトヨーグルトの調製方法。
【0011】
また、本発明は、以下の態様を有するフルーツプレパレーション中でのフルーツのシュリンク抑制方法に関する;
項4.フルーツプレパレーション用シロップに、発酵セルロースを添加することを特徴とする、フルーツプレパレーション中でのフルーツのシュリンク抑制方法。
【0012】
更に、本発明は、以下の態様を有するフルーツ含有ソフトヨーグルトの果肉感を増強する方法に関する;
項5.フルーツプレパレーション用シロップに、発酵セルロースを添加することを特徴とする、フルーツ含有ソフトヨーグルトの果肉感を増強する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、ヨーグルトと混合した際に食感が重くならず、極めて軽い食感及び良好な口溶けを有し、更にはヨーグルト中の果肉感が増強されたフルーツ含有ソフトヨーグルトを調製可能な、フルーツプレパレーションを提供できる。加えて、本発明は、フルーツプレパレーションの保存時に生じる、フルーツのシュリンクを抑制することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のフルーツプレパレーションは、発酵セルロースを含有することを特徴とする。
【0015】
本発明で使用する発酵セルロースは、セルロース生産菌が生産するセルロースであれば特に限定されない。通常、セルロース生産菌を既知の方法、例えば特開昭61−212295号公報、特開平3−157402号公報、特開平9−121787号公報に記載される方法に従って培養し、得られる発酵セルロースを所望に応じて適宜精製することによって製造することができる。
【0016】
セルロース生産菌としては、アセトバクター属、シュードモナス属、アグロバクテリウ
ム属等に属する細菌が挙げられるが、好適にはアセトバクター属である。発酵セルロース
を生産するアセトバクター属の細菌として、より具体的には、アセトバクター・パスツリ
アヌス株(例えば、ATCC10245等)、アセトバクター・エスピーDA株(例えば、FERM P−12924等)、アセトバクター・キシリナム株(例えば、ATCC23768、ATCC23769、ATCC10821、ATCC1306−21等)を挙げることができる。好ましくは、アセトバクター・キシリナム株である。
【0017】
かかるセルロース生産菌を培養する培地及び条件としては、特に限定されず、常法に従
うことができる。例えば、培地は、基本的に窒素源、炭素源、水、酸素及びその他の必要
な栄養素を含有しており、上記微生物が増殖して目的の発酵セルロースを産生することが
できるものであればよく、例えばHestrin−Schramm培地を挙げることができる。なお、セ
ルロースの生産性を向上させるために、培地中にセルロースの部分分解物、イノシトール、フィチン酸等を添加することもできる(特開昭56−46759号公報、特開平5−1718号公報)。培養条件としては、例えばpH5〜9、培養温度20〜40℃の範囲が採用され、発酵セルロースが十分産生されるまで培養が続けられる。培養方法は、静置培養、攪拌培養、通気培養のいずれでもよいが、好適には通気攪拌培養である。
【0018】
発酵セルロースを大量生産するためには、多段階接種法が好ましい。この場合、通常、
2段階の予備接種プロセス、一時接種発酵プロセス、二次接種発酵プロセス及び最終発酵
プロセスからなる5段階の発酵プロセスが採用され、各プロセスで増殖された細菌につい
て細胞の形態およびグラム陰性であることを確認しながら、次プロセスの発酵器に継代さ
れる。
【0019】
発酵後、産生された発酵セルロースは培地から分離処理され、洗浄されて、適宜精製さ
れる。精製方法は特に限定されないが、通常、培地から回収した発酵セルロースを洗浄後、脱水し、再度水でスラリー化した後に、アルカリ処理によって微生物を除去し、次いで該アルカリ処理によって生じた溶解物を除去する方法が用いられる。具体的には、次の方法が例示される。
【0020】
まず、微生物の培養によって得られる培養物を脱水し、固形分約20%のケーキとした
後、このケーキを水で再スラリー化して固形分を1〜3%にする。これに水酸化ナトリウ
ムを加えて、pH13程度にして攪拌しながら数時間、系を65℃に加熱して、微生物を
溶解する。次いで、硫酸でpHを6〜8に調整し、該スラリーを脱水して再度水でスラリ
ー化し、かかる脱水・スラリー化を数回繰り返す。精製された発酵セルロースは、必要に
応じて乾燥処理を施すことができる。乾燥処理としては特に制限されることなく、自然乾
燥、熱風乾燥、凍結乾燥、スプレードライ、ドラムドライ等の公知の方法を用いることが
できる。好ましくはスプレードライ法、ドラムドライ法である。
【0021】
かくして得られる発酵セルロースは、白色から黄褐色の無臭の物質であり、水に急速に
分散できる非常に繊細な繊維性粒子からなる。なお、本発明で用いられる発酵セルロース
は、上記方法で調製される発酵セルロースと同一若しくは類似の性質を有し、本発明の目
的を達成しえるものであれば、その調製方法によって限定されるものではない。
【0022】
本発明の発酵セルロースは、更に高分子物質と複合化されていることが好ましい。ここ
で、上記高分子物質と発酵セルロースを複合化させる方法としては、特開平9−1217
87号公報に記載される2種類の方法が挙げられる。第一の方法は、微生物を培養して発
酵セルロースを産生させるにあたり、培地中に高分子物質を添加して培養を行い、発酵セ
ルロースと高分子物質とが複合化した発酵セルロース複合化物として得る方法である。
【0023】
第二の方法は、微生物の培養によって生産された発酵セルロースのゲルを高分子物質の
溶液に浸漬して、高分子物質を発酵セルロースのゲルに含浸させて複合化する方法である。発酵セルロースのゲルは、そのままか、あるいは常法により均一化処理を行ったのちに高分子物質の溶液に浸漬する。均一化処理は、公知の方法で行えばよく、例えばブレンダー処理や500kg/cmで40回程度の高圧ホモジナイザー処理、1000kg/cm2で3回程度のナノマイザー処理などを用いた機械的解離処理が有効である。浸漬時間は30分以上24時間程度、好ましくは1夜であり、浸漬終了後は遠心分離や濾過などの方法で浸漬液を除去することが望ましい。さらに、水洗いなどの処理を行って過剰の高分子物質を除去することにより、発酵セルロースと高分子物質の比率が一定になり、複合化に利用されないで残存する高分子物質の影響を抑えることができるため好ましい。
【0024】
発酵セルロースとの複合化に使用される高分子物質としては、特に限定されず、例として、キサンタンガム、ガラクトマンナン(グァーガム、ローカストビーンガム、タラガム
等)、カラギナン、カシアガム、グルコマンナン、ネイティブ型ジェランガム、脱アシル
型ジェランガム、タマリンドシードガム、ペクチン、サイリウムシードガム、ゼラチン、
トラガントガム、カラヤガム、アラビアガム、ガティガム、サイリウムシードガム、マク
ロホモプシスガム、寒天、アルギン酸類(アルギン酸、アルギン酸塩)、カードラン、プ
ルラン、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等のセルロース誘導体、水溶性ヘミセルロース、大豆多糖類、加工・化工でん粉、未加工でん粉(生でん粉)といった各種高分子物質を挙げることができる。
【0025】
本発明で使用する発酵セルロースは、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサン
タンガム、グァーガムから選ばれる1種又は2種以上の高分子物質によって複合化された
発酵セルロース複合体を用いることが好ましい。更には、カルボキシメチルセルロースナ
トリウムとキサンタンガム、もしくはカルボキシメチルセルロースナトリウムとグァーガ
ムの組み合わせによって複合化された発酵セルロースを用いることが好ましい。発酵セルロースに対する各高分子物質の割合は、複合化させる高分子物質により適宜調節することが可能であるが、好ましくは発酵セルロースに対し、高分子物質が10〜200重量%、更に好ましくは15〜100重量%となるように複合化させることができる。なお、上記複合化物は商業上入手可能であり、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のサンアーティスト[商標]PX、サンアーティスト[商標]PGなどが挙げられる。
【0026】
そして、上述した方法などを用いて調製された発酵セルロースを用いることにより、従来にない極めて軽い食感及び良好な口溶けを有する上、フルーツの果肉感が向上し、軽い食感でありつつも食べ応えのある果肉感を有するソフトヨーグルトを提供することができる。
【0027】
本発明で使用するフルーツプレパレーションとは、フルーツ果肉やアロエ葉肉などのフルーツを、糖やその他固形分を含有する溶液(以下、「シロップ」と言う)中で加工したものであり、ヨーグルトにフルーツを添加する際、生のフルーツに代えて使用されるフルーツ加工食品である。本発明で使用するフルーツプレパレーションは、糖度(Brix)が10〜80質量%、好ましくは20〜40質量%であることを特徴とする。
【0028】
糖質としては、砂糖、果糖、ブドウ糖、乳糖、水飴、還元水飴、果糖ブドウ糖液糖、はちみつ、異性化糖、転化糖、オリゴ糖(イソマルトオリゴ糖、還元キシロオリゴ糖、還元ゲンチオオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、テアンデオリゴ糖、大豆オリゴ糖等)、トレハロース、糖アルコール(マルチトール、エリスリトール、ソルビトール、パラチニット、キシリトール、ラクチトール等)、砂糖結合水飴(カップリングシュガー)等の糖質を使用することができる。なお、糖質のみで甘味が足りない場合は、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、ソーマチン、アリテーム、ネオテーム、カンゾウ抽出物(グリチルリチン)、サッカリン、サッカリンナトリウム、ステビア抽出物、ステビア末等の高甘味度甘味料を添加しても良い。
【0029】
当該フルーツプレパレーション用シロップは通常の水溶液や飲料等に比べて糖度が高く、浸透圧の関係上、フルーツ果肉からシロップ中に水分が移行してフルーツが収縮(シュリンク)してしまう。これにより、フルーツ本来のみずみずしい食感が失われる、フルーツより移行してきた水分によってシロップの粘度が低下するといった問題を抱えていたが、発酵セルロースを使用することにより、シロップ中でのフルーツ果肉のシュリンクを顕著に抑制することが可能となった。かかる点、本願発明はフルーツプレパレーション中でのフルーツのシュリンク抑制方法を提供するものでもある。
【0030】
フルーツプレパレーション用シロップ中の発酵セルロースの添加量としては、適宜調整することが可能であるが、具体的には、フルーツプレパレーション用シロップに対し、0.005〜5.0質量%、好ましくは0.01〜3.0質量%添加することが好ましい。
【0031】
フルーツプレパレーションの調製方法としては、特に限定されずに各種方法を用いることができる。具体的には、発酵セルロースの粉末をフルーツプレパレーション用シロップに添加する方法、いったん水に発酵セルロースを溶解したものをシロップに添加する方法、予め糖質と発酵セルロースを混合した後に水に添加、加熱溶解する方法などが挙げられる。なお、発酵セルロースは水に添加、溶解後、均質化処理を行うことが好ましい。
【0032】
フルーツプレパレーションに使用されるフルーツとしては、適当なサイズにカットされたものを使用することができ、簡便には市販のフルーツ缶詰を使用することもできる。フルーツの種類としては特に限定されず各種フルーツを使用することができ、具体的にはブドウ、みかん、ブルーベリー、桃、アロエ、メロン、オレンジ、梨、あんず、スモモ、バナナ、チェリー、キウイフルーツ、アプリコット等の各種フルーツを挙げることができる。なお、本発明に係る構成をとることにより、5〜10mm角、更には30mm角カット以上のサイズのフルーツを用いた場合であっても、長期間での高い果肉分散安定性を維持することが可能である。
【0033】
フルーツプレパレーション用シロップとフルーツの配合比率は特に制限されるものではないが、シロップ:フルーツ=10:90〜90:10、好ましくは15:85〜70:30、更に好ましくは20:80〜60:40を挙げることができる。
【0034】
そして上記フルーツプレパレーション用シロップとフルーツ、必要に応じて副原料を加え、必要に応じて加熱殺菌工程を経た後、冷却することによってフルーツプレパレーションを製造することができる。加熱殺菌工程としては、特に限定されず常法によって各種殺菌工程を取ることができるが、具体的には、80〜95℃で5〜40分間といった加熱殺菌や、100〜150℃で1〜30秒間といったUHT殺菌、特には100〜130℃で1〜30分間といった加圧高温殺菌(レトルト殺菌)等を例示することができる。
【0035】
本発明のフルーツプレパレーションは、アイスクリームや飲料など、各種食品向けのフルーツプレパレーションとして使用することが可能であるが、好ましくはソフトヨーグルト用フルーツプレパレーションとして用いる。従来のフルーツプレパレーションは、ソフトヨーグルトに添加した場合、ヨーグルト自体の食感が重くなる上、後味がねっとりしてしまう、フルーツヨーグルト特有の果肉感が低減してしまうといった課題を抱えていた。また、場合によってはヨーグルトの組織が凝集し、ざらつきを生じてしまう、更には、フルーツプレパレーションの保存時にシロップ中で果肉がシュリンクするため、フルーツ本来のみずみずしい食感が失われる、フルーツより移行してきた水分によってシロップの粘度が低下するといった数多くの課題を抱えていた。しかし、本発明のフルーツプレパレーションを用いることにより、従来にない極めて軽い食感及び良好な口溶けを有する上、フルーツの果肉感が増強されたフルーツ含有ソフトヨーグルトを提供することが可能となった。また、フルーツのシュリンクが抑制されることにより、フルーツ本来のみずみずしい食感が保持されるため、前記フルーツの果肉感の増強効果と相まってフルーツの食感が楽しめるソフトヨーグルトを提供することが可能となった。
【0036】
更に、本発明のフルーツプレパレーションは、粘度が10mPa・s以上2500mPa・s未満、好ましくは10〜2000mPa・s、更に好ましくは10〜1500mPa・sに調整されていることが好ましい。通常、従来使用されてきたフルーツプレパレーションの粘度は2500〜3500mPa・s程度である。一般的に「ヨーグルト」と称されている「発酵乳」製品は、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」にて、「発酵乳とは乳又はこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させ、糊状又は溶液にしたもの又はこれらを凍結したもの」と定義されており、その成分規格は「無脂乳固形分8.0%以上で乳酸菌数(または酵母数)が1,000万/ml以上」と定められている。つまり、フルーツプレパレーションと混合される前のソフトヨーグルトミックスはフルーツプレパレーションと混合された後も無脂乳固形分が8.0%以上となるように調製されており、高い粘度を有している。そのため、当該ソフトヨーグルトミックスとの混合性の観点から、ヨーグルトに使用されるフルーツプレパレーションは高い粘度が必要であると考えられており、更に、フルーツプレパレーションの調製時及び保存時のフルーツ果肉の分散性の観点からも、従来のフルーツプレパレーションの粘度は2500〜3500mPa・s程度に調整されるのが一般的であった。
【0037】
本発明のフルーツプレパレーションは、発酵セルロースを含有するものであり、2500〜3500mPa・sといった従来のフルーツプレパレーションの粘度範囲内においても、シロップ中におけるフルーツ果肉のシュリンクを抑制することができ、当該フルーツプレパレーションを用いて調製されたソフトヨーグルトの食感は、軽くキレのある食感及び良好な口溶けを有する。しかし、本発明では特に発酵セルロースを含有し、10mPa・s以上2500mPa・s未満といった従来にない低粘度のフルーツプレパレーションを使用することにより、意外にもソフトヨーグルトミックスとの混合性も良好である上、フルーツプレパレーション中でのフルーツのシュリンクを顕著に抑制できることを特徴とする。更に、当該粘度のフルーツプレパレーションを用いて調製されたソフトヨーグルトは、従来にない非常に軽い食感及び良好な口溶けを有する上、フルーツの果肉感が増強され、非常に軽い食感を有しつつもフルーツの食感を楽しめるソフトヨーグルトとなる。なお、ここでいう粘度とは、フルーツプレパレーションを10℃に調整後、B型回転粘度計、回転数30rpmの条件で、1分間測定した値である。
【0038】
本発明のフルーツプレパレーション用シロップは、本発明の効果に影響を与えない範囲において、他の多糖類を併用することもできる。好ましくは、発酵セルロースに加えて、キサンタンガム及び/又はグァーガムを併用することができる。従来、安定剤としてキサンタンガムやグァーガムなどを用いたフルーツプレパレーションは、シロップ中でフルーツ果肉がシュリンクし、フルーツ本来のみずみずしい食感が失われる、フルーツより移行してきた水分によってシロップの粘度が低下するといった課題があった。その上、かかるフルーツプレパレーションを用いて製造されたヨーグルトが重い食感となり、後味がねっとりしてしまう、フルーツの果肉感が低減されてしまうなどの課題も抱えていた。しかし、当該キサンタンガム及び/又はグァーガムを用いた場合であっても、発酵セルロースと併用することにより、フルーツのシュリンクを抑制できる上、かかるフルーツプレパレーションによって製造されたソフトヨーグルトの食感は非常に軽いものとなり、口溶けも良好で果肉感も増強されたヨーグルトとなる。
【0039】
更に、フルーツプレパレーションに求められる物性として、高い果肉の分散安定性が挙げられる。一般的に、フルーツ含有ソフトヨーグルトをはじめとした各種食品は、予め調製され、混合用容器に充填されたフルーツプレパレーションを、別途調製したソフトヨーグルトミックスや各種食品に添加、混合することにより調製される。そのため、混合用容器から食品にフルーツプレパレーションを添加する配管中で果肉の詰まりを防止したり、食品中での果肉を均一に分散させる必要がある。かかる際に必要とされる分散安定性についても、本発明のフルーツプレパレーションは極めて優れた分散安定性を示す。
【0040】
また、本発明のフルーツプレパレーションは従来のフルーツプレパレーションにはない熱時安定性を示す。一方、従来の安定剤を使用したフルーツプレパレーションは熱時安定性を有さないため、調製後、タンク内の温度を下げる、タンク中で撹拌しながら、混合用容器に充填する必要があった。しかし、タンク内の温度を下げるとフルーツプレパレーションの粘度が急激に上昇し、作業性が悪化したり、撹拌によってプレパレーション中の果肉が潰れてしまうなどの課題を抱えていた。かかる点、本発明のフルーツプレパレーションは、熱時安定性を示すため、フルーツプレパレーションを調製後、タンク内温度を下げることなく、またタンク内での撹拌工程を必要とすることなく、混合用容器に充填できるという製造上の利点も有する。そのため、粘度上昇による作業性の悪化という問題は起こらず、また撹拌による果肉の潰れという問題が解決できる。
【0041】
本発明で使用するソフトヨーグルトミックスの製造方法としては、乳原料、乳酸菌等の原料を大きなタンクなどに入れて発酵した後、製造された発酵乳を容器充填する方法(前発酵方式)と、乳原料と乳酸菌などを混合した混合原料を容器充填し、その容器内で発酵させる方法(後発酵方式)があるが、本発明では好ましくは、前発酵方式で製造する。後発酵方式で製造する場合は、乳酸菌発酵後、カードを撹拌によって砕き、ソフトタイプ(流動状)のヨーグルトミックスとしておく必要がある。本発明で使用されるソフトヨーグルトミックスは上記特定温度に調整する以外は通常のヨーグルトと同様の構成をとることができ、即ち、乳原料、乳酸菌(スターター)、水、糖質、安定剤、油脂、乳化剤、着香料、着色料、風味調整剤、酸化防止剤等より選択された添加材料を、所定の割合で混合させ溶融したものが用いられる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。また、特に記載のない限り「部」とは、「質量部」、「%」は「質量%」を意味するものとする。文中「*」印のものは、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、文中「※」印は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを示す。
【0043】
実験例1 フルーツプレパレーションの調製
表1の処方に従って各種安定剤を使用したフルーツプレパレーションを調製した。まず、水を80℃まで加熱し、砂糖、クエン酸三ナトリウム、各種安定剤の粉体混合物を添加し、10分間撹拌溶解した。ついでクエン酸、アロエ果肉を添加し、pHを3.7に調整した。85℃で30分間殺菌後、10℃まで冷却することによりフルーツプレパレーションを調製した。なお、発酵セルロースを含有したフルーツプレパレーションは以下の製法に従って調製した。80℃の水に発酵セルロースを添加し、10分間撹拌後、150kgf/cmの条件で均質化処理を行った。当該発酵セルロース含有溶液に、砂糖、クエン酸三ナトリウムを添加して、80℃にて10分間撹拌した。ついでクエン酸、アロエ果肉を添加し、pHを3.7に調整した。85℃で30分間殺菌後、10℃まで冷却することによりフルーツプレパレーションを調製した。
【0044】
【表1】

【0045】
調製したフルーツプレパレーションを用いて、フルーツ含有ソフトヨーグルトを調製した。詳細には、下記(2)の方法を用いて調製したソフトヨーグルトミックス及び前記フルーツプレパレーションを80:20となるように混合し、フルーツ含有ソフトヨーグルトを調製した。結果を表3に示す。
【0046】
(2)ソフトヨーグルトミックスの調製
表2の処方に従ってソフトヨーグルトミックスを調製した。詳細には、水と牛乳に全脂粉乳、脱脂粉乳、ゼラチンの混合物を添加し、70℃にて10分間撹拌溶解した後、150kgf/cmの条件で均質化処理を行った。次いで90℃にて10分間殺菌を行い、40℃まで冷却した。全量の3%となるようにスターター(乳酸菌)を添加し、40℃にてpH4.5まで発酵させた。発酵後のカードを撹拌機(T.K.ROBOMIX)にて1400rpm、40秒間撹拌してカードを破砕し、10℃まで冷却した。容器に充填後、冷蔵(5℃)にて保存し、ソフトヨーグルトミックスを調製した。調製されたソフトヨーグルトミックスの粘度は5000mPa・sであった。
【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】

注1)サンアーティスト※PX*使用;発酵セルロース20%、キサンタンガム10%、カルボキシメチルセルロースナトリウム3.3%及びデキストリンを66.7%の割合で含む粉末状の発酵セルロース複合化物製剤である。
【0050】
<評価基準>
<フルーツプレパレーションに関する評価基準>
粘度:調製したフルーツプレパレーションを10℃に調整後、B型回転粘度計にて粘度を測定した(回転数30rpm、測定時間1分間)。
熱時の果肉分散性:調製したフルーツプレパレーションを85℃で30分間殺菌後の果肉の分散性を評価した。分散性が高く、プレパレーション中でフルーツ果肉が均一に分散しているものから+++>++>+>±>−(果肉が沈降している)の5段階で評価した。
常温時の果肉分散性:熱時の果肉分散性を評価した後、フルーツプレパレーションを常温まで冷却、いったん振とうさせた後、1ヶ月保存した際の果肉分散性を評価した。分散性が高く、プレパレーション中でフルーツ果肉が均一に分散しているものから+++>++>+>±>−(果肉が沈降している)の5段階で評価した。
シュリンク抑制率:殺菌後のフルーツプレパレーションを常温で14日間保存後の、シュリンク抑制率を評価した。シュリンク抑制率は、(保存後のフルーツプレパレーション中のアロエ重量(g))/(保存前のフルーツプレパレーション中のアロエ重量(g))×100(%)により計算した。値が100%に近いほどフルーツプレパレーション中でのフルーツのシュリンクが抑制されていることを示す。
【0051】
<ヨーグルトに関する評価基準>
口溶け:口溶けが非常に良いものから順に+++>++>+>±>−(残存感が強く、口溶けが悪い)の5段階で評価した。
食感の軽さ:ソフトヨーグルトの食感が非常に軽いものから順に+++>++>+>±>−(食感が重い)の5段階で評価した。
ヨーグルトの荒れ:ソフトヨーグルトの組織が非常に滑らかなものから順に−>±>+>++>+++(凝集、離水が発生)の5段階で評価した。
果肉感:ソフトヨーグルト中の果肉感が増強されているものから順に+++>++>+>±>−の5段階で評価した。
【0052】
従来よりフルーツプレパレーションに使用されてきた、キサンタンガム及びグァーガム(比較例1)やコーンスターチ(比較例2)を用いて調製されたフルーツプレパレーションは、シロップ中のフルーツのシュリンクを十分に抑制することができない上、当該フルーツプレパレーションを用いて調製されたソフトヨーグルトの食感も重い上に口溶けも悪く、軽い食感を付与することは到底できなかった。更に、キサンタンガム及びグァーガムを使用した比較例1のソフトヨーグルトは離水や凝集が生じ、商品価値を著しく下げるものであった。比較例3のネイティブ型ジェランガムを用いて調製されたフルーツプレパレーションは、フルーツ果肉のシュリンクが抑制されていたものの、熱時分散性を有さず、ヨーグルトミックスとの充填時の作業性に劣るものであった。また、調製されたソフトヨーグルトの食感は、比較例1、2のヨーグルトと比較して軽い食感を有するものの、求められる食感には満たないものであった。また、比較例3のフルーツプレパレーションは、シュリンクが抑制されていながらも、調製したヨーグルト中でのフルーツの果肉感も不十分であった。また、セルロースとして結晶セルロースを用いたフルーツプレパレーションの調製も試みたが、フルーツプレパレーション中の添加量を3質量%まで増加させたものの、プレパレーション中で果肉自体が分散することなく、フルーツプレパレーションとして求められる分散安定性自体、付与することができなかった。
【0053】
一方、発酵セルロースを用いて調製されたフルーツプレパレーション(実施例1、2)は、常温時だけでなく熱時の分散安定性に優れる上、プレパレーション中でのフルーツのシュリンクも顕著に抑制することができた。加えて、当該フルーツプレパレーションを用いて調製されたフルーツ含有ソフトヨーグルトは、従来にない非常に軽い食感及び良好な口溶けを有する上、ヨーグルト中の果肉感が極めて増強され、非常に軽い食感を有しつつも、食べ応えのあるソフトヨーグルトであった。また、実験例1で使用したソフトヨーグルトミックス自体の粘度は5000mPa・sと高い粘度を有する一方で、実施例1及び2のフルーツプレパレーションの粘度自体は25mPa・s(実施例1)、86mPa・s(実施例2)と低い粘度を有するものであったが、両者の混合性も良好であり、作業性にも優れていた。
【0054】
実施例3 フルーツ含有ソフトヨーグルトの調製(2)
表4の処方に従ってフルーツプレパレーションを調製した。80℃の水に発酵セルロースを添加し、10分間撹拌後、150kgf/cmの条件で均質化処理を行った。当該発酵セルロース含有溶液に、砂糖、クエン酸三ナトリウム、グァーガムおよびキサンタンガムを添加して、80℃にて10分間撹拌した。ついでクエン酸、アロエ果肉を添加し、pHを3.7に調整した。85℃で30分間殺菌後、10℃まで冷却することによりフルーツプレパレーションを調製した(実施例3)。
【0055】
【表4】

【0056】
調製したフルーツプレパレーションと、実験例1の(2)で調製したソフトヨーグルトミックスの配合割合が20:80となるように混合し、フルーツ含有ソフトヨーグルトを調製した(実施例3)。得られたフルーツ含有ソフトヨーグルトは、実験例1の比較例1〜3のフルーツ含有ソフトヨーグルトに比べて非常に軽い食感で口溶けも良好である上、果肉感が増強されたヨーグルトであった。また、実施例3のフルーツプレパレーションは熱時分散性も良好である上、ソフトヨーグルトミックスとの混合性も良好であり、作業性にも優れたフルーツプレパレーションであった。また、果肉のシュリンクも抑制されたフルーツプレパレーションであった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明により、ヨーグルトと混合した際に食感が重くならず、極めて軽い食感及び良好な口溶けを有し、更にはヨーグルト中の果肉感が増強されたフルーツ含有ソフトヨーグルトを調製可能な、フルーツプレパレーションを提供できる。また、フルーツプレパレーションの保存時に生じるフルーツのシュリンクを抑制することが可能である。更には、本発明のフルーツプレパレーションを用いることにより、フルーツ含有ソフトヨーグルト中に含まれるフルーツの果肉感を増強することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵セルロースを含有し、糖度が10〜80質量%であることを特徴とするフルーツプレパレーション。
【請求項2】
ソフトヨーグルト用フルーツプレパレーションである、請求項1記載のフルーツプレパレーション。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のフルーツプレパレーションを添加することを特徴とする、フルーツ含有ソフトヨーグルトの調製方法。
【請求項4】
フルーツプレパレーション用シロップに、発酵セルロースを添加することを特徴とする、フルーツプレパレーション中でのフルーツのシュリンク抑制方法。
【請求項5】
フルーツプレパレーション用シロップに、発酵セルロースを添加することを特徴とする、フルーツ含有ソフトヨーグルトの果肉感を増強する方法。

【公開番号】特開2010−279253(P2010−279253A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132650(P2009−132650)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】