説明

フレキソ印刷版の製版方法

【課題】より少ないドットゲイン量を示すフレキソ印刷版を作製するための表面処理方法および製版方法を提供すること。
【解決手段】1)裏露光、2)主露光、3)現像、4)乾燥の後に、5)波長200〜300nmの紫外線を3.6J/cm以上照射する表面処理を行うことを特徴とするフレキソ印刷版の製版方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフレキソ印刷版の製版方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキソ印刷版は、紙、フィルムなどを利用した様々な包装材料に印刷を行うために広く使用されている。一般にフレキソ印刷版は、基材と保護シートに挟まれた光重合性層を有し、この光重合性層は、エラストマーバインダ、モノマーおよび光開始剤を含む光重合性組成物が、カレンダー加工機のニップに供給されて形成される方法で製造されることが知られている。
【0003】
フレキソ印刷版は、ネガフィルムなどのマスクを利用して選択的に画像部分のみに露光処理を行うことで、光重合性層が光重合により不溶化する。水、溶剤、界面活性剤、またはそれらの混合物による現像液中に版を浸漬させ、または現像液をシャワー状に噴射しながら、ブラシ等で未露光部をこすりだすことで、光重合性層の未露光部分が除去されて、印刷に使用される凸部が残される。
【0004】
この露光処理に際して、ネガフィルムなどのマスクを光重合性層に密着させる一般的な方法は、それら同士を重ねた後に真空シートなどで覆いシートの間を真空引きすることである。また、近年ではネガフィルムを必要とせずに光重合性層の表層にマスクを形成することのできる層をあらかじめ設けた版材の開発が進められ、実用化されている。
【0005】
現像後の版材は、その光重合性層中に浸透した現像液を除去するために温風などにより乾燥を行う。仕上げに表面処理として、紫外線による露光などを行うことで、フレキソ印刷版表面の粘着性を除去することができる。粘着性をなくすための露光には300nm以下の波長の紫外線(UV−C)が使用されることが知られている(例えば、特許文献1〜2参照)。
【0006】
近年、印刷品質に関する要求がますます高まりを見せ、フレキソ印刷版に求められる性能も、従来と比較して高いものとなっている。すなわち、ベタ画像、文字画像とともに、写真画像を点で表現した網点画像が同一印刷版上に配置された印刷物が増加しており、十分なベタ画像部分のトーン濃度と、網点画像部分の適切にコントロールされたドットゲイン量を両立できる印刷版の性能が求められている。ここで、ドットゲイン量とは、印刷圧力により、印刷版上の点サイズよりも印刷物上の点サイズが大きくなる量をさし、元サイズに比べてゲインした量で表現する。ベタ画像部分のトーン濃度を増すためには印刷中に大きな印圧を必要とするが、より大きな印圧は、網点画像部分でより大きなドットゲインをもたらすこととなる。そのため、ドットゲイン量が小さいことは、印刷版に求められる重要な性能のひとつであるといえる。
【特許文献1】特開昭55−135838号公報
【特許文献2】特開平1−121858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、印刷品質を向上させるために、より少ないドットゲイン量を示すフレキソ印刷版を作製するための製版方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、1)裏露光、2)主露光、3)現像、4)乾燥の後に、5)波長200〜300nmの紫外線を3.6J/cm以上照射する表面処理を行うことを特徴とするフレキソ印刷版の製版方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、印刷工程での印刷インキ転写を制御し、より少ないドットゲイン量を示すフレキソ印刷版を作製することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
本発明において用いられるフレキソ印刷版材は、公知の版材が使用できる。それらの製版工程は異なっているが、樹脂やゴムの組成物によりレリーフ像を形成しその物理的高低差や化学的耐性などを利用することで、版材上にインキ転写のための印刷画像を形成して、印刷を可能としている。
【0012】
次に、製版方法の一例を述べるが、本発明はこれに限定されるものではない。フレキソ印刷版に印刷用のレリーフ像を形成するためには、まず基材側より、波長300〜400nmの紫外線を照射し(一般に裏露光と称する)、その後、保護シートを剥離した光重合性層上にネガティブまたはポジティブのマスクを密着させ紫外線照射し(一般に主露光と称する)、光重合によって不溶化を行わせる。この露光順序は、必ず裏露光を先に行う必要はなく、主露光を先に裏露光を後に行ってもよい。また露光装置によっては同時に行うこともできる。光源としては、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノン灯、カーボンアーク灯、ケミカル灯などがあげられる。標準的な光源の例としては、PHILIPS TL/10シリーズやSYLVANIA 350 Blacklightなどが挙げられる。これら光源は、通常、フレキソ印刷版から約3〜200cmの距離に配置され、フレキソ印刷版の感度やマスクの精細さにあわせて、数秒から数十分まで露光時間を変化させて使用する。
【0013】
次に、紫外線照射されなかった光重合性層部分をスプレー式現像装置やブラシ式現像機により溶出させることにより基材上にレリーフ像を形成することができる。この現像液は、現像除去される光重合性層の化学的性質により決まるが、有機溶剤、水性溶液または水道水などが使用される。有機溶剤現像液としては、芳香族または脂肪族炭化水素、および脂肪族または芳香族のハロゲン化炭化水素、例えば、n−ヘキサン、石油エーテル、水和石油オイル、リモネンもしくは他のテルペンまたはトルエン、イソプロピルベンゼンなど、ケトン、例えば、メチルエチルケトン、ハロゲン化炭化水素、例えば、クロロホルム、トリクロロエタン、または、テトラクロロエチレン、エステル、例えば、酢酸またはアセト酢酸エステル、またはこれらの溶剤と適当なアルコールの混合物が挙げられる。水性溶液現像液としては、通常、水とアルカリ性物質とを含んでいる。例えば、脂肪酸ナトリウム塩、脂肪酸カリウムや炭酸塩など汎用の石鹸成分が好適に使用される。界面活性剤を含有する場合、その含有量は現像液の全重量に対して、0.01重量%〜10重量%が好ましく、0.1重量%〜3重量%がより好ましい。現像時間は現像機種、フレキソ印刷版の性質や、レリーフ深度の設定により変化するが、通常1〜30分の範囲である。
【0014】
現像後には、版面に付着した現像液や感光性樹脂を取り除くために版面洗浄液で洗浄し、次にそれを温風または赤外オーブンにより乾燥処理を行う。版面洗浄液は、一般に未使用の現像液が使用される。乾燥時間は、乾燥温度やフレキソ印刷版の性質により変化するが、通常はフレキソ印刷版の基材が収縮するなどの歪みを生じない程度の温度で、例えば、60℃で5〜240分間実施する。
【0015】
乾燥の次には、表面処理を行う。本発明の本質的な特徴は、200〜300nmの波長を有する紫外線を3.6J/cm以上照射する、フレキソ印刷版の表面処理にある。紫外線照射量は好ましくは4.8J/cm以上、より好ましくは7.2〜14.4J/cmである。また、照射する紫外線としては、好ましくは254nmの紫外線(UV−C)が用いられる。この表面処理は、一般に先述の通り製版の最終工程として実施されるものであるが、そのエネルギーを一定以上与えることにより、フレキソ印刷版の印刷面表面を改質することが可能であり、その結果として印刷品質に大きな影響を与えることとなる網点の太り量(ドットゲイン量)をコントロールすることが可能である。この表面処理で照射する紫外線照射量が3.6J/cm未満である場合には、ドットゲイン量が大きくなり、印刷品質の悪化をまねくこととなる。
【0016】
さらに、かかる表面処理により、フレキソ印刷版表面の粘着性を除去することができ、実用印刷に耐えうるフレキソ印刷版を得ることができる。フレキソ印刷版表面に粘着性がある場合に生じる、印刷中の空気中のごみやほこりの版面への付着や、紙粉の付着、紙の表面を剥離する「紙ムケ」などの種々の印刷障害を防止することができる。なお、印刷版の物性強度を向上させるために波長300〜400nmの紫外線をさらに照射してもよい。
【0017】
印刷版表面の改質に関しては、その表面張力で確認することが可能であり、より多くのエネルギーを与えることで、より大きな表面張力をもつものに改質することが可能となる。つまり、印刷インキに対して濡れやすい状態となることは、印刷版表面により均一なインキ被膜を形成できる状態となることを意味し、その結果として網点の太り量が減少する効果を発生させることができ、印刷品質をコントロールすることが可能となる。
【0018】
また本発明の別の利点は、様々なタイプのフレキソ印刷版に対し本発明を採用できるということである。好ましくは、水現像されるフレキソ印刷版に有用である。本発明は、アナログ露光にも、デジタル露光にも、または直接彫刻タイプのフレキソ印刷版材に対しても有用である。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例で詳細に説明する。
【0020】
実施例1〜5、比較例1〜3
A4サイズの“LT114SR3”(東レ(株)製 水現像型感光性フレキソ印刷版材)を、“TLK40W/10R”(フィリップス社製ケミカルランプ)を14本設置した“GPP500F”(東レ(株)製 水現像フレキソ印刷版用製版機)により露光作業を行った。まず、版基材側から15秒間の裏露光を行った後、版カバーフィルムを剥がしてネガフィルムを真空密着させた後にネガフィルム側から5分間露光を行った。ネガフィルムは版材評価用に準備をしたもので150線2%、50%の網点チャートや40μm幅の細線などを含む内容であった。
【0021】
露光終了後に、“GPP500F”を使用して現像作業を行った。現像液としては50℃の中性水25リットルに界面活性剤としてニッサン高密度粉石鹸(ニッサン石鹸(株)製)0.2重量%を溶解したものを使用し、手動バッチ処理による現像5分、乾燥10分、後露光5分を実施することにより、印刷版を得た。
【0022】
こうして作業を繰り返し、同じ製版条件で印刷版を8枚作製し、それぞれに対して異なるエネルギー量の表面処理を実施した。表面処理にはSANKYO電気製殺菌灯GL15が17本配置された表面処理装置(日本電子精機製)を使用して、0〜60分までの処理を行った。すなわち、0、0.2、2.4、4.8、7.2、9.6、12、14.4J/cmの8種類の異なるエネルギーを与えた印刷版を作製した。これら仕上げ処理が終了した印刷版を使用して印刷を実施し、それぞれの網点50%部分におけるドットゲイン量を測定した。印刷インキにはUV500藍(T&KTOKA製)を使用し、印刷機にはMA830(MarkAndy社製)を使用した。ドットゲイン量測定結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
実施例6〜8、比較例4〜6
A4サイズの“LT114R2”(東レ(株)製 水現像型感光性フレキソ印刷版材)、“NS114”(東洋紡(株)製水現像型感光性フレキソ印刷版材)、AQS114”(DUPONT社製 水現像型感光性フレキソ印刷版材)を、“TLK40W/10R”(フィリップス社製ケミカルランプ)を6本設置した“FTW350LII”富士写真フイルム(株)製)により露光作業を行った。まず、版基材側から15秒間の裏露光を行った後、版カバーフィルムを剥がしてネガフィルムを真空密着させた後にネガフィルム側から10分間露光した。ネガフィルムは版材評価用に準備をしたもので150線2%、50%の網点チャートや3級明朝文字などを含む内容であった。
【0025】
露光終了後に、“GPP500”を使用して現像作業を行った。現像液としては50℃の中性水25リットルにニッサン粉石鹸(ニッサン石鹸(株)製)1重量%を溶解したものを使用し、製版機の現像部で10分間現像作業を行い、0.5mmのレリーフ深度を得た。次に60℃の温風で乾燥を10分間、後露光を10分間実施し、印刷版を得た。
【0026】
こうして作業を繰り返し、同じ製版条件で印刷版を2枚作製し、それぞれに対して異なるエネルギー量の表面処理を実施した。表面処理にはSANKYO電気製殺菌灯GL15が17本配置された表面処理装置(日本電子精機製)を使用して、10分および30分の2種類の処理を行った。すなわち、2.4、7.2J/cmの2種類の異なるエネルギーを与えた印刷版を作製した。これら仕上げ処理が終了した印刷版を使用して印刷を実施し、それぞれの網点50%部分におけるドットゲイン量を測定した。印刷インキにはUV500藍(T&KTOKA製)を使用し、印刷機にはMA830(MarkAndy社製)を使用した。ドットゲイン量測定結果を表2に示す。
【0027】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)裏露光、2)主露光、3)現像、4)乾燥の後に、5)波長200〜300nmの紫外線を3.6J/cm以上照射する表面処理を行うことを特徴とするフレキソ印刷版の製版方法。