説明

フレグランスマイクロエマルション組成物

【課題】清澄であり、非粘着性であり、温度範囲にわたって安定である芳香性水性マイクロエマルション組成物を提供すること。
【解決手段】本発明は、a)1重量%〜25重量%のフレグランス組成物と;b)それぞれが4〜20個の炭素原子を含有する少なくとも2つの疎水性鎖を有する、1重量%〜10重量%の少なくとも1つのノニオン性界面活性剤と;c)それぞれが4〜20個の炭素原子を含有する少なくとも2つの疎水性鎖を有する、1重量%〜10重量%の少なくとも1つのアニオン性界面活性剤と;d)4〜12個の炭素原子を有するジオールまたは該ジオールの混合物である、1重量%〜20重量%の溶媒と;e)少なくとも50重量%の水と;を含む芳香性水性マイクロエマルション組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物が少ない芳香性水性マイクロエマルション組成物に関する。これらの組成物は、例えばフレグランス、オードトワレおよび化粧用製剤に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
化粧品として許容される低または無エタノールフレグランス製剤の必要性は、一定の極端な気象条件下で地表オゾンを生成すると主張されている揮発性有機化合物(VOC)に関する懸念に起因する。フレグランスを0.5%以上のレベルで含有するオードトワレなどのフレグランス組成物は、多くの場合、エタノールで可溶化される。しかしエタノールは、多くの現行規制下および懸案の規制下では、VOCであるとみなされる。本明細書において、「VOC」とは、環境保護局(Environmental Protection Agency)の定義による揮発性有機化合物を意味し、特に、エタノールなどのC−Cアルカノール、ならびにエチレングリコールまたは1,2−および1,3−プロピレングリコールなどの高揮発性グリコールを意味する。
【0003】
皮膚感触、溶液清澄性の点でエタノール性フレグランス組成物と似かよっていて、凍結融解サイクルの反復などといったさまざまな条件下で貯蔵安定性を有し、しかも高温安定性を示す、低または無VOCフレグランス製剤を製造するという課題を達成することは、困難である。その難しさは、組成物内のフレグランスの比率が増加するにつれて増大する。低VOCフレグランス製剤は、エタノールやVOCに分類される他の溶媒を実質的に含まない製剤である。
【0004】
Blakewayは、可溶化剤、特にノニオン性表面活性剤を使った、香料の可溶化を概説している(非特許文献1参照)。Blakewayが記載した製剤は高い界面活性剤対香油比を必要とするが、それは皮膚に粘着感を残すことになり、製品を好ましくないレベルまで泡立たせる場合がある。
【0005】
マイクロエマルションは、清澄で透明な製品を製造するためのアプローチの一つである。例えば特許文献1には、油相としてのフレグランス、アニオン性界面活性剤、およびノニオン性界面活性剤を、イオン性可溶化剤と共に含む、マイクロエマルション組成物が記載されている。特許文献2は、香油、水相および界面活性剤を含み、香料/界面活性剤重量比が0.85〜2.5の範囲にある、清澄な水中油型マイクロエマルションに関する。実施例6Bには、少量の香料(0.5重量%)を含み、ノニオン性界面活性剤に対するアニオン性界面活性剤の重量比が50である、マイクロエマルションが示されている。特許文献3には、アニオン性界面活性剤とグリコールまたはポリオールなどの高水溶性親水性協働(coactive)溶媒との組み合わせを含む、低VOC香料マイクロエマルションが記載されている。特許文献4には、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤および共溶媒としてのビシナルジオールを含む、フレグランスマイクロエマルションが記載されている。全ての実施例で単一アルキル鎖界面活性剤が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/023569号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第571677号明細書
【特許文献3】米国特許第5585343号明細書
【特許文献4】国際公開第2005/123028号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Blakeway,Perfumer and Flavorist,18,Jan/Feb.,p.33,1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、清澄であり、非粘着性であり、凍結融解復元(Freeze thaw recovery)を含む広い温度範囲にわたって安定である、芳香性水性マイクロエマルション組成物を提供する。さらにまた、本発明の組成物は、使用される界面活性剤の性質およびレベルゆえに、皮膚を刺激しない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この結果は、20重量%以下の界面活性剤を含有し、その界面活性剤が特別なノニオン性界面活性剤およびアニオン性界面活性剤を所与の重量比で含む、下記マイクロエマルション組成物を処方することによって達成される。
[1]
a)1重量%〜25重量%のフレグランス組成物と;
b)それぞれが4〜20個の炭素原子を含有する少なくとも2つの疎水性鎖を有する、1重量%〜10重量%の少なくとも1つのノニオン性界面活性剤と;
c)それぞれが4〜20個の炭素原子を含有する少なくとも2つの疎水性鎖を有する、1重量%〜10重量%の少なくとも1つのアニオン性界面活性剤と;
d)4〜12個の炭素原子を有するジオールまたは該ジオールの混合物である、1重量%〜20重量%の溶媒と;
e)少なくとも50重量%の水と;
を含み、
ノニオン性界面活性剤に対するアニオン性界面活性剤の重量比が1:1〜5:1の範囲にあり;
フレグランス組成物に対する界面活性剤の重量比が1:2.5〜2.5:1の範囲にある;
芳香性水性マイクロエマルション組成物。
[2]
a)フレグランス組成物、b)ノニオン性界面活性剤、c)アニオン性界面活性剤、d)溶媒およびe)水の和が100重量%に等しい、[1]に記載の組成物。
[3]
溶媒が4〜8個の炭素原子を有するジオールまたは該ジオールの混合物である、[1]または[2]に記載の組成物。
[4]
2.5重量%〜20重量%のフレグランス組成物を含む、[1]〜[3]のいずれか一に記載の組成物。
[5]
5重量%〜15重量%のフレグランス組成物を含む、[1]〜[4]のいずれか一に記載の組成物。
[6]
フレグランス組成物の平均ClogP値が2.00〜6.00の範囲にある、[1]〜[5]のいずれか一に記載の組成物。
[7]
フレグランス組成物の平均ClogP値が3.00〜5.00の範囲にある、[1]〜[6]のいずれか一に記載の組成物。
[8]
フレグランス組成物の平均ClogP値が3.50〜4.50の範囲にある、[1]〜[7]のいずれか一に記載の組成物。
[9]
1重量%〜5重量%のノニオン性界面活性剤および1重量%〜5重量%のアニオン性界面活性剤を含む、[1]〜[8]のいずれか一に記載の組成物。
[10]
ノニオン性界面活性剤およびアニオン性界面活性剤の疎水性鎖が、それぞれ、4〜16個の炭素原子を有する、[1]〜[9]のいずれか一に記載の組成物。
[11]
ノニオン性界面活性剤およびアニオン性界面活性剤の疎水性鎖が、それぞれ、4〜12個の炭素原子を有する、[1]〜[10]のいずれか一に記載の組成物。
[12]
溶媒が非ビシナルジオールまたは非ビシナルジオールの混合物である、[1]〜[11]のいずれか一に記載の組成物。
[13]
非ビシナルジオールが1,3−ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコールおよびオクチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種である、[12]に記載の組成物。
[14]
60重量%〜90重量%の水を含む、[1]〜[13]のいずれか一に記載の組成物。
[15]
ノニオン性界面活性剤に対するアニオン性界面活性剤の重量比が51:49〜5:1の範囲、好ましくは1.5:1〜5:1の範囲、より好ましくは1.5:1〜4:1の範囲にある、[1]〜[14]のいずれか一に記載の組成物。
[16]
ノニオン性界面活性剤に対するアニオン性界面活性剤の重量比が1.5:1〜5:1の範囲にある、[1]〜[15]のいずれか一に記載の組成物。
[17]
ノニオン性界面活性剤に対するアニオン性界面活性剤の重量比が1.5:1〜4:1の範囲にある、[1]〜[16]のいずれか一に記載の組成物。
[18]
フレグランス組成物に対する界面活性剤の重量比が1:1.5〜1.5:1の範囲にある、[1]〜[17]のいずれか一に記載の組成物。
[19]
f)0.5重量%〜5重量%の1つ以上の共界面活性剤
をさらに含み、
共界面活性剤が組成物内の全界面活性剤の50重量%未満に相当する、
[1]〜[18]のいずれか一に記載の組成物。
[20]
a)フレグランス組成物、b)ノニオン性界面活性剤、c)アニオン性界面活性剤、d)溶媒、e)水およびf)共界面活性剤の和が100重量%に等しい、[1]〜[19]のいずれか一に記載の組成物。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において使用する用語「マイクロエマルション」は、油、水および界面活性剤の熱力学的に安定で巨視的に均一な混合物を表す。これは、微視的レベルでは、界面活性剤層によって隔てられた油と水の別々のドメインを含有する。決定的な性質は熱力学的安定性である。マイクロエマルションおよびそれらの性質に関する一般的説明については、Joensson B.,Lindman B.,Holmberg K.,Kronberg B.「Surfactants and polymers in aqueous solution」Wiley and Sons Ltd,1998,365−399(参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0011】
マイクロエマルションは、広い温度範囲および濃度範囲にわたって、機能または安定性を失うことなく、安定であり得る。さらにまた、マイクロエマルションは、それが微細構造を有し、「油」膨潤ミセル、二相連続構造(bi−continuous structure)、水膨潤逆ミセル、または系内の「油」の量に依存して他の構造を含有し得るという点で、溶液とは区別することができる。真の溶液はこれらの微細構造的特徴をいずれも示さない。上記の定義で使用した「油」という用語は、マイクロエマルションの有機非界面活性剤構成要素を意味する。一般にマイクロエマルションは、チンダル散乱を示し、低い界面張力を有し得る。
【0012】
マイクロエマルションは、以下の識別的特徴を有する:マイクロエマルションは構成要素同士を穏やかに混合または振とうすることによって容易に調製される;マイクロエマルションは熱力学的に安定であり、温度変化がなく、それらがその化学的同一性を保つ限りにおいて、別々の相に分離したり、沈殿したりしない。マイクロエマルションの形成は、いずれも周知の散乱法である以下の試験方法のいずれか一つによって証明することができる:チンダル散乱法、動的光散乱法、X線散乱法、および小角中性子散乱法。他の重要な方法には、R Zana編「Surfactant Solutions,New Methods of Investigation」(Marcel Dekker、ニューヨーク、1987)および「Microemulsions」Ber.Bunsenges Phys.Chem.,100,181(1996)No.3(参照により本明細書に組み込まれる)に記載の伝導度法、NMR法および蛍光法などがある。
【0013】
本明細書においてマイクロエマルションに適用される「清澄」という用語は、そのマイクロエマルションが、着色剤または蛍光剤を一切含まないときに、UV/Vis分光計において500nm、600nm、700nm、および800nmの波長で、脱塩水を参照物質として1cmキュベットで透過率を測定した場合に、95%より高い、好ましくは99%より高い透過率値を有することを意味するものとする。
【0014】
官能基名などの化学用語は全て、化学において一般に理解されているとおりであり、定義および説明は、G.J.Leigh,H.A.Favre,W.V.Metanomski著「Principles of Chemical Nomenclature A Guide to IUPAC Recommendations」(Blackwell Science刊、1998[ISBN0865426856])に見いだすことができる。
【0015】
本明細書に関して、「フレグランス組成物」という用語は、用語「フレグランス」または「香料組成物」または「香料」と同義であり、心地よい匂いを与える嗅覚的に活性な材料の混合物を指すと理解される。「フレグランス成分」という用語も「フレグランス構成要素」、「香料成分」および「香料構成要素」と同義であって、フレグランス組成物内の一成分であり得る任意の個別材料を意味すると解釈され、その香料成分自体が数多くの個別の化学化合物を含んでもよい。この区別は、フレグランス調合の技法に精通する人々には理解される。香料成分または香料材料は、フレグランス組成物に使用される任意の天然油、天然抽出物、または化学化合物であることができる。天然油および天然抽出物は、E Guenther著「The Essential Oils」(Van Nostrand刊)に記載されており、これには、適切な植物の任意の部分、すなわち根、根茎、鱗茎、塊茎、茎、樹皮、心材、葉、花、種子および果実からの抽出物および留出物が含まれ得る。そのような抽出物および留出物の例には、柑橘類果実油、例えばオレンジ油もしくはレモン油、樹木油、例えばパイン油もしくはセダー油、ハーブ油、例えばハッカ油、タイム油、ローズマリー油、チョウジ油、または花抽出物、例えばローズ油、もしくはゼラニウム油などが含まれる。アセタール類、アルケン類、アルコール類、アルデヒド類、アミド類、アミン類、エステル類、エーテル類、イミン類、ニトリル類、ケタール類、ケトン類、オキシム類、チオール類、チオケトン類など、さまざまな化学官能基を有する材料を含む、多種多様な合成臭気材料も香料製造用に知られている。限定しようとするものではないが、ほとんどの場合、香料成分は、十分な揮発性が確保されるように、70質量単位〜400質量単位の分子量を有する臭気化合物である。フレグランス成分は、スルホネート、サルフェート、または4級アンモニウムイオンなどといった、強くイオン化する官能基を含有しない。香料成分は、S.Arctander「Perfume Flavors and Chemicals」Vol.IおよびII(ニュージャージー州モントクレア)、「Merck Index」(第8版、Merck and Co.,Inc.、ニュージャージー州ローウェー)および「Allured’s Flavor and Fragrance Materials 2008」(Allured Publishing Corp刊、ISBN1−932633−42−1)に、より詳しく記載されており、これらはすべて参照により本明細書に組み込まれる。
【0016】
本発明における実施形態では、本発明の芳香性水性マイクロエマルション組成物が1重量%〜25重量%のフレグランス組成物を含有し、好ましくは2.5重量%〜20重量%のフレグランス組成物を含有し、より好ましくは5重量%〜15重量%のフレグランス組成物を含有し、さらに好ましくは8重量%〜12重量%のフレグランス組成物を含有する。
【0017】
水溶性の高いフレグランス分子は疎水性の高いフレグランス分子よりも可溶化するのが容易である。水溶性は、一般にClogPと呼ばれる理論的オクタノール水分配係数と逆相関する。低いClogP値は水溶性の高い分子を示し、一方、高いClogP値は疎水性の高い化合物の性質である。ある実施形態では、フレグランス組成物の平均ClogP値が2.00〜6.00の範囲にあり、平均ClogP値が3.00〜5.00の範囲にあれば好ましく、平均ClogP値が3.50〜4.50の範囲にあればさらに好ましい。平均ClogPは、ClogP値に組成物内のフレグランスの重量百分率をかけ、得られた値を合計することによって算出される。ClogPは、フレグランス成分のオクタノール/水分配係数(P)を指す。香料成分のオクタノール/水分配係数は、オクタノールおよび水におけるその平衡濃度間の比である。香料成分の分配係数は、10を底とするその対数、logPの形で与えられると、さらに便利である。多くの香料成分のlogPが報告されている。例えば、カリフォルニア州アービンのDaylight Chemical Information Systems,Inc.(Daylight CIS)から入手することができるPomona92データベースには、数多くの値が、その元文献への言及と共に含まれている。しかし、ここで報告されるClogP値は、CambridgeSoft Corporation(米国02140マサチューセッツ州ケンブリッジ、ケンブリッジパークドライブ100)またはCambridgeSoft Corporation(英国CB5 8LAケンブリッジ、スワンズロード、シグネットコート8)から入手することができるChemoffice Ultra Softwareバージョン9内で利用可能な「ClogP」プログラムによって、最も便利に算出される。本発明において有用な香料成分の選択には、好ましくは、ClogP値が実験的logP値の代わりに用いられる。天然油または天然抽出物の場合、そのような油の組成は分析によって決定するか、BACIS(Boelens Aroma Chemical Information Service、オランダ国1272GBフイゼン、グロン・ファン・プリンステルラン21(Groen van Prinsterlaan 21))が刊行したESO2000データベースに公表されている組成を使って決定することができる。
【0018】
フレグランス組成物がある範囲の化学官能基を含むことも、それがマイクロエマルションの形成を助けると考えられていることから、有利である。理論上、極性官能基を有するフレグランス構成要素、特に、アルコール類やアルデヒド類などといった水素結合する能力を有するものは、マイクロエマルションの表面に整列し、一方、炭化水素など、極性基を何も有さない化合物は、マイクロエマルション小滴の中心に存在することになると考えられる。したがって、極性官能基と無極性官能基とのバランスがとれたフレグランスは、より容易にマイクロエマルションを形成する。そのようなバランスは、フレグランスが5%〜60%の炭化水素、好ましくは10〜50%の炭化水素、より好ましくは15%〜40%の炭化水素をフレグランス中に含有すれば、達成することができる。
【0019】
フレグランスはフレグランスの30%までのレベルで使用することができる溶媒を含むことが多い。溶媒は、標的材料を妥当な比率で溶解することができる比較的低臭気の液体と定義される。香料製造用には、溶媒を、30重量%の濃度でフレグランス組成物に加えてもその組成物の臭気を実質的に変化させない、十分に少ない臭気を有する液体と定義してもよい。フレグランス産業では、嗅覚的に強力な成分を希釈し、固形成分を溶解して液体として取り扱うことによってそれらの取り扱いを容易にするために、溶媒が使用される。プロピレングリコールやジプロピレングリコールなど、香料製造に使用される一般的溶媒のいくつかは水混和性であり、そういうものとして、それらは、清澄な水溶液またはマイクロエマルションへのフレグランスの可溶化を補助することができる。本明細書では、フレグランス組成物の比率を、存在し得る水混和性溶媒を除外して示す。
【0020】
本発明の水性マイクロエマルション組成物に製剤されたら、フレグランス組成物は25℃で48時間は安定でなければならない。
【0021】
本発明の芳香性水性マイクロエマルション組成物は、ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤とを含有する界面活性剤系も含む。
本明細書において使用する界面活性剤という用語は、水の表面張力を低下させるという点で表面活性を有し、水溶液中で特定の濃度(臨界ミセル濃度)を超えた濃度では極微小な分子アセンブリを形成することができる、両親媒性分子、すなわち親水性部分と疎水性部分とを含有する分子を意味する。界面活性剤の親水性部分はアニオン性、カチオン性、ノニオン性もしくは両性イオン性の化学官能基またはそれら官能基の組み合わせを有し得る。ある実施形態では、界面活性剤系が、(少なくとも)1つのアニオン性界面活性剤と(少なくとも)1つのノニオン性界面活性剤とを含有し、それらは各々に、それぞれが4〜20個の炭素原子を含有する複数の疎水性鎖を有さなければならない。複数の疎水性鎖とは、次の式1または式2に示すように、少なくとも2つの別々の直鎖または分枝鎖アルキルまたはアルカリール(すなわち、ベンジル基などの芳香族置換基を有するアルキル鎖)部分を意味する:
【0022】
【化1】

【0023】
【化2】

【0024】
式中、
Xは、界面活性剤中で知られる一般的な極性親水性基のいずれか、例えばカルボキシレート、サルフェート、スルホネート、スルホスクシネート、グルタメート、エトキシレート、プロポキシレート(もしくはそれらのうちの2つの混合物)または糖基などを表す。
R’およびR’’は、それぞれが4〜20個の炭素原子、好ましくは4〜16個の炭素原子、より好ましくは4〜12個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖のアルキルまたはアルカリール基を表す。
は、ジェミニ型界面活性剤において疎水性ユニットを親水性基と連結する1〜3個の炭素原子を表す(これらの炭素上の結合価要件は水素原子によって満たされる)。
【0025】
本発明に関して、分枝鎖界面活性剤に見られるような、または極性官能基が末端炭素原子においてではなくアルキル鎖の途中で共有結合しているために見られるような、共通の炭素原子を共有している複数の疎水性鎖を有する界面活性剤は、複数の疎水性鎖を有するとはみなされない。共通する炭素原子を有する2つの鎖を有する界面活性剤の例は、アルコールエトキシレートが2級アルキル基から製造される場合に生じる。そのような界面活性剤の例には、Tergitol(登録商標)という商標名で販売されているものなどがある。
【0026】
本発明に関して有用な界面活性剤は、二量体型またはジェミニ型界面活性剤と呼ばれる界面活性剤であり、これらは、極性基間にある連結基または極性基に近接する連結基によって接合された複数の極性基と複数の疎水性基とを有するものとして定義される。そのような界面活性剤の合成、構造および性質は、Marcel Dekkerが刊行する「Surfactant Science Series」の第117巻であるR ZanaおよびJ Xia編「Gemini Surfactants Synthesis,Interfacial and Solution Phase Behaviour and Applications」[ISBN0824747054]に記載されている。
【0027】
本発明の組成物における使用に適した界面活性剤の例は、年に1回発行されるMC Publishing(米国ニュージャージー州グレンロック)の「McCutcheon’s Surfactants and Detergents」North American and International Editionsに記載されている。使用される界面活性剤は、好ましくは、化粧品およびパーソナルケア製品における使用について承認されているものである。すなわちそれらは、ヨーロッパ連合化粧品指令(European Union Cosmetics Directive)(76/768/EEC)の規定に基づいて使用が承認され、乳化剤、洗浄剤、界面活性剤または向水性物質の機能の下に列挙された付属書II(Annex II)に見いだし得る。
【0028】
複数の疎水性鎖を有する適切なアニオン性界面活性剤には、ジアルキルグルタメート、ジアルキルホスフェート、およびジアルキルスルホスクシネート、例えばCytec IndustriesがAerosol(登録商標)という名称で販売しているもの、例えばAerosol(登録商標)OTとして販売されているナトリウムジエチルヘキシルスルホスクシネートなどがある。
複数の疎水性鎖を有する適切なノニオン性界面活性剤には、グリセロールポリエチレングリコールエステル、例えばBASFがCremophor(登録商標)という名称で販売しているもの、例えばCremophor(登録商標)RH40;ジアルキルポリエチレングリコール(Xが5〜50個の繰り返し単位を有するポリエチレングリコールである、式1に示すもの);ジアルキルまたはトリアルキルソルビタンエステル;ポリソルベート;ジアルキル脂肪族グルカミド;ジグリコシドまたはそれ以上のオリゴグリコシド;エトキシル化ジオール、例えばAir ProductsがSurfynol(登録商標)という名称で販売しているもの、例えばSurfynol(登録商標)465またはSurfynol(登録商標)480などがある。
【0029】
本発明における実施形態では、本発明の芳香性水性マイクロエマルション組成物が、上に定義したアニオン性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤のそれぞれを1〜10重量%の濃度で含有する。好ましい実施形態では、アニオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤とが、それぞれ1重量%〜5重量%の濃度で、マイクロエマルション組成物中に含まれる。
【0030】
本発明では、ノニオン性界面活性剤がマイクロエマルション組成物内の全界面活性剤の少なくとも50重量%を構成することが好ましい。
【0031】
本発明における実施形態では、ノニオン性界面活性剤に対するアニオン性界面活性剤の重量比が約1:1〜約5:1の範囲にある。もう一つの実施形態では、ノニオン性界面活性剤に対するアニオン性界面活性剤の重量比が約51:49〜約5:1の範囲にある。
【0032】
本発明における実施形態では、ノニオン性界面活性剤に対するアニオン性界面活性剤の重量比が約1.5:1〜約5:1の範囲にある。好ましい実施形態では、ノニオン性界面活性剤に対するアニオン性界面活性剤の重量比が約1.5:1〜約4:1の範囲にある。さらに好ましい実施形態では、ノニオン性界面活性剤に対するアニオン性界面活性剤の重量比が約2:1〜約4:1の範囲にある。
【0033】
本発明の芳香性水性マイクロエマルション組成物は、5重量%までの、例えば0.5重量%〜5重量%の、主要界面活性剤の可溶化性を改善する1つ以上の共界面活性剤を含有してもよい。これらの共界面活性剤は、イオン(カチオン、アニオン、両性イオン)タイプまたはノニオンタイプであることができ、(上述のノニオン性界面活性剤やアニオン性界面活性剤とは異なり)複数の疎水性鎖を有さない。共界面活性剤を使用する場合、それは、組成物内の全界面活性剤の50重量%未満に相当することが好ましい。使用される共界面活性剤がノニオンタイプまたはアニオンタイプである場合は、ノニオン性界面活性剤に対するアニオン性界面活性剤の重量比が、上に指定した範囲内にあるように留意しなければならない。ある実施形態では、共界面活性剤がノニオン性界面活性剤である。
【0034】
適切な共界面活性剤の例には、次に挙げるものがある:アルキルグリコシド、例えばCognisがPlantacare(登録商標)という名称で販売しているもの、例えばPlantacare(登録商標)1200UPとして販売されているC12−C16脂肪族アルコールポリグリコシド;モノアルキルソルビタンエステル;アルキルエトキシレート;アルキルプロポキシレート、ならびにエトキシおよびプロポキシ混合エーテル(ここで、疎水性ユニットはC〜C20直鎖または分枝鎖のアルキルまたはアルケニル基である1つのアルキル鎖からなる)。
【0035】
本発明の芳香性水性マイクロエマルション組成物は、溶媒として、1重量%〜20重量%のジオールまたはジオールの混合物も含む。好ましくは、マイクロエマルション組成物が2重量%〜15重量%のジオールを含む。適切なジオールには、5〜8個の炭素原子を有するビシナルジオール、例えば1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、または1,2−オクタンジオール;および4〜12個の炭素原子、好ましくは4〜8個の炭素原子を有する、ビシナルジオール(すなわち2つのアルコール基を隣接炭素原子上に有するジオール)でないジオール、例えば1,3−ブタンジオール(もしくは1,3−ブチレングリコール)、ペンチレングリコール、2−メチルペンタン−2,4−ジオール(もしくはヘキシレングリコール)、またはオクチレングリコールなどがある。ある実施形態では、ジオールが非ビシナルジオールである。
【0036】
本発明のマイクロエマルション組成物の性質は、界面活性剤および溶媒の量による影響を受ける。ほとんどの場合、界面活性剤の減量は、溶媒の大幅な増加によってしか達成されない。さらにまた、過剰の界面活性剤または溶媒は、製品の性質に有害な影響を有し得る。
【0037】
理論に束縛されることは望まないが、本発明者らは、水性であり、清澄であり、非粘着性であり、貯蔵安定性を有する、フレグランス組成物を、フレグランス組成物に対する界面活性剤の重量比が1:2.5〜2.5:1の範囲、好ましくは1:1.5〜1.5:1の範囲、さらに好ましくは1:1.25〜1.25:1の範囲、特に好ましくは1:1.1〜1.1:1の範囲にあるマイクロエマルションとして処方することが可能であることを見いだした。上記の性質を達成するには、フレグランス組成物に対する溶媒の重量比が1:3〜3:1の範囲、好ましくは1:2〜2:1の範囲、より好ましくは1:1.5〜1.5:1の範囲にあれば、有利である。
【0038】
本発明の芳香性水性マイクロエマルション組成物は、少なくとも50重量%の水を含む。好ましくは、組成物が60重量%〜90重量%の水を含む。さらに好ましくは、組成物が70重量%〜90重量%の水を含む。
【0039】
本発明の組成物中に場合によって存在し得る他の成分には、例えば酸化防止剤、キレート剤、UVフィルター、冷却剤などの化学美容剤(chemaesthetic agent)、および保存剤などがある。増粘剤、化粧活性成分、保湿剤、湿潤剤、軟化剤、乳白剤、パール光沢付与物質、顔料、着色剤、染料、消泡剤、およびpH調節剤または緩衝剤などの追加成分も、場合によっては、本発明の組成物中に使用してもよい。これらの成分は、当業者には理解されるようなプロセス中の時点で、または数回の簡単な実験で決定できるようなプロセス中の時点で加えることができる。
【0040】
随意成分の量はその成分の目的および有効性に依存してさまざまになる。典型的には、そのような成分は、マイクロエマルション組成物の0.0005重量%〜2.5重量%、好ましくは0.001重量%〜1重量%、より好ましくは0.01重量%〜0.5重量%に相当する。
【0041】
本発明の芳香性水性マイクロエマルション組成物は、例えば全成分の簡単な混合によって、例えばマイクロエマルション組成物の構成要素および任意の随意構成要素を、手で撹拌して、または必要なら機械的に(すなわち何らかの機械的撹拌手段によって)撹拌して、均一な混合物を形成させることなどによって、調製することができる。
【0042】
ある実施形態では、ノニオン性界面活性剤をフレグランス組成物および任意の油溶性随意成分に加え、その混合物を撹拌する。次に、ジオールまたはジオールの混合物を撹拌しながら加える。別途、アニオン性界面活性剤を、任意の水溶性成分と一緒に、必要なら温めながら、水に溶解または分散する。次に、その水溶液または水分散液を、絶えず穏やかに撹拌しながら、有機相にゆっくり加える。水相を加えた後、絶対的な清澄性を保証するために、さらに少量のジオールを加える必要がある場合がある。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を挙げて本発明を例示するが、本発明は以下の実施例に限定されるわけではない。
【0044】
[実施例1]
水性マイクロエマルションへの処方に適したフレグランス組成物を調製した。これは、表1に示す以下の成分を含有する。
【0045】
【表1】

【0046】
[実施例2]
表2に示す以下の成分を使ってマイクロエマルション組成物を調製した。
【0047】
【表2】

【0048】
手順:
オーバーヘッドスターラーを装着したビーカーにおいて、室温で、A相の全ての成分を混合した。B相の成分を水に混合し、それらが溶解するまで撹拌した。加温により、Aerosol OTとPlantacareの溶解を加速することができる。
一定の低速で撹拌しながら、A相をB相に加えた。こうして清澄な溶液を得た。
マイクロエマルションの小滴サイズの測定値は、レーザー光散乱法で決定される平均粒径が0.073マイクロメートルだった。
【0049】
[比較例A]
ジエチルヘキシルスルホスクシネートの代わりに直鎖状モノアルキル界面活性剤を使用し、実施例2に記載の手順で、表3に示す以下の成分を使ってマイクロエマルション組成物を調製した。
【0050】
【表3】

【0051】
混合すると、試料は濁ったエマルションになり、それは数時間以内に分離し始めた。
【0052】
[実施例3および比較例B]
実施例1のフレグランス組成物を使用し、水を除く全ての成分濃度を約10倍して、EP−A−571677の実施例6Bのマイクロエマルションを調製することにより、約5重量%のフレグランスを含む組成物(比較例B)を得た。これを、界面活性剤濃度を半分にして1,3−ブチレングリコールを加えた以外は実施例2と同様としたマイクロエマルション(実施例3)と比較した。使用した成分を表4に示す。
【0053】
【表4】

【0054】
比較例Bのマイクロエマルションは実施例3のマイクロエマルションよりも濁っていた。いくつかの波長で可視領域における吸収スペクトルを測定すると、比較例Bの方が大きい散乱度を示す。
【0055】
[実施例4]
実施例2に記載の手順を使って、表5に示す以下の成分を含むマイクロエマルション組成物を調製した。混合すると清澄な溶液が得られた。
【0056】
【表5】

【0057】
[実施例5]
実施例2に記載の手順を使って、表6に示す以下の成分を含むマイクロエマルション組成物を調製した。混合すると、清澄な溶液が得られた。
【0058】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)1重量%〜25重量%のフレグランス組成物と;
b)それぞれが4〜20個の炭素原子を含有する少なくとも2つの疎水性鎖を有する、1重量%〜10重量%の少なくとも1つのノニオン性界面活性剤と;
c)それぞれが4〜20個の炭素原子を含有する少なくとも2つの疎水性鎖を有する、1重量%〜10重量%の少なくとも1つのアニオン性界面活性剤と;
d)4〜12個の炭素原子を有するジオールまたは該ジオールの混合物である、1重量%〜20重量%の溶媒と;
e)少なくとも50重量%の水と;
を含み、
ノニオン性界面活性剤に対するアニオン性界面活性剤の重量比が1:1〜5:1の範囲にあり;
フレグランス組成物に対する界面活性剤の重量比が1:2.5〜2.5:1の範囲にある;
芳香性水性マイクロエマルション組成物。
【請求項2】
a)フレグランス組成物、b)ノニオン性界面活性剤、c)アニオン性界面活性剤、d)溶媒およびe)水の和が100重量%に等しい、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
溶媒が4〜8個の炭素原子を有するジオールまたは該ジオールの混合物である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
2.5重量%〜20重量%のフレグランス組成物を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
5重量%〜15重量%のフレグランス組成物を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
フレグランス組成物の平均ClogP値が2.00〜6.00の範囲にある、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
フレグランス組成物の平均ClogP値が3.00〜5.00の範囲にある、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
フレグランス組成物の平均ClogP値が3.50〜4.50の範囲にある、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
1重量%〜5重量%のノニオン性界面活性剤および1重量%〜5重量%のアニオン性界面活性剤を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
ノニオン性界面活性剤およびアニオン性界面活性剤の疎水性鎖が、それぞれ、4〜16個の炭素原子を有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
ノニオン性界面活性剤およびアニオン性界面活性剤の疎水性鎖が、それぞれ、4〜12個の炭素原子を有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
溶媒が非ビシナルジオールまたは非ビシナルジオールの混合物である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
非ビシナルジオールが1,3−ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコールおよびオクチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
60重量%〜90重量%の水を含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
ノニオン性界面活性剤に対するアニオン性界面活性剤の重量比が51:49〜5:1の範囲、好ましくは1.5:1〜5:1の範囲、より好ましくは1.5:1〜4:1の範囲にある、請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
ノニオン性界面活性剤に対するアニオン性界面活性剤の重量比が1.5:1〜5:1の範囲にある、請求項1〜15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
ノニオン性界面活性剤に対するアニオン性界面活性剤の重量比が1.5:1〜4:1の範囲にある、請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
フレグランス組成物に対する界面活性剤の重量比が1:1.5〜1.5:1の範囲にある、請求項1〜17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
f)0.5重量%〜5重量%の1つ以上の共界面活性剤
をさらに含み、
共界面活性剤が組成物内の全界面活性剤の50重量%未満に相当する、
請求項1〜18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
a)フレグランス組成物、b)ノニオン性界面活性剤、c)アニオン性界面活性剤、d)溶媒、e)水およびf)共界面活性剤の和が100重量%に等しい、請求項1〜19のいずれか一項に記載の組成物。

【公開番号】特開2011−136995(P2011−136995A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293212(P2010−293212)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000169466)高砂香料工業株式会社 (194)
【Fターム(参考)】