説明

フレームの振動を抑制したスピーカシステム

【課題】複数のスピーカユニットを適宜に組み合わせることによってフレームに歪が発生するのを防止し、高忠実度の再生音が得られるスピーカシステムを提供する。
【解決手段】同一性能のスピーカユニット1、1を対称に配置して固定具2で固定する。固定具2の取り付け部にスピーカユニット1の駆動部が挿入され、周囲がネジで固定されている。エンクロージャへの取り付けは、固定具2に放射状の取り付け金具を設けてエンクロージャに取り付けたり、固定具2に脚を設けて取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカシステムに関し、スピーカの駆動に基づくフレームの変形及びエンクロージャ全体の揺れを解消し、忠実度の高い再生音が得られるようにした複数のスピーカユニットからなるスピーカシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なダイナミック型スピーカユニットは、エンクロージャに取り付けるためのフレーム、音響電気信号を空気の振動に変換する振動板、音響電気信号を振動に変換するボイスコイルとマグネット及びマグネットを保持するヨークから構成される。音響電気信号がボイスコイルに流れると磁気が発生し、マグネットによってボイスコイルに力が作用して振動板が振動する。
また、図9に示すように複数のスピーカを対称配置した無指向性スピーカシステムが知られている。(特許文献2参照)
【0003】
【特許文献1】特開2006−186778号公報
【特許文献2】特開平07−087585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スピーカユニットは、エンクロージャにフレームを介して取り付けられており、駆動時の振動板の振動の反作用によってフレームに力が作用して振動し、更にエンクロージャ自身を振動させることになり、余分なノイズを放射すると共に、スピーカの振動板が入力信号に忠実に振動するようにしっかりした支持をエンクロージャがしてくれないため、放射音にエンクロージャの振動の影響をノイズとして含んでしまい、入力信号に忠実な再生音が得られない。
【0005】
スピーカユニット単体でこの問題を解決するために特許文献1(特開2006−186778号公報)にあるように、フレームのブリッジを適宜の間隔をおいて外周部の内側に且つ中心線に交差する位置に配置してフレームの強度を向上させ、振動板の振動によって磁気回路に生じた振動をブリッジの取り付け部において減衰または消滅させることによって音質低下を防止することが提案されている。
本発明は、フレームを強化することなく、既存のスピーカユニットであってもフレームに歪が発生するのを防止し、高忠実度の再生音が得られるスピーカシステムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
同一性能のスピーカユニットを対称に配置し、スピーカユニットの駆動部を保持するフレームを全て相互に連結し、スピーカ駆動によってフレームに作用する力を互いに打ち消すようにしたスピーカシステムである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
実施例
本発明の基本的概念を説明する。
図1に示すように、スピーカユニット1を固定する円筒形の固定具2によって同一性能のスピーカユニット1、1を対称に配置して固定する。固定具2の材質は特に限定されず、金属、合成樹脂など任意の材料を使用することができる。
固定具2は、スピーカユニット1の駆動部が固定される、剛性の高い、可聴域において共振をおこしにくいものであればよく、図1の例は、スピーカユニット1の基部が円筒形の固定具2に挿入し、周囲をネジで固定したものである。
【0008】
図2は、固定具2の変形例である。
エンクロージャへの取り付けは、固定具2に放射状の取り付け金具を設けてエンクロージャに取り付けたり、固定具2に脚を設けて固定する。
このような状態で、直列あるいは並列に接続したスピーカユニットに音響電気信号を送ると、スピーカユニット全体としてみた場合、2個のユニットの振動板は互いに反対方向に駆動され、フレームに作用する力は互いに打ち消されるので、フレームが振動することがなく、再生音は高忠実度が維持されることになる。
【0009】
図3は、無指向性スピーカシステムのように六面を有するエンクロージャ3に固定具2でスピーカユニットを対称に固定したものであり、360度全方向に音波が発せられる。固定具2は対向するスピーカユニット同士だけでなく、全スピーカユニットが一体となるように固定するものであり、適宜の手段でエンクロージャに固定される。
【0010】
対称に配置するスピーカユニットの特性は、同一であることが前提であるが、永久磁石の経年変化はかなり大きく、しかも個体差が大きいので、フレーム振動を抑制する効果がだんだんと弱くなることが予想される。そこで、図4に示すように、磁気回路を共通にする、即ち永久磁石5を2個の振動板4で共有してボイスコイル6を駆動する方式にすることが好ましい。
【0011】
図5は、本発明を指向性がほとんどない低域周波数帯を対象とした場合のマウントの状態を示すものであり、スピーカユニット1は固定具2で相互に連結されると共に、エンクロージャの前後方に音波を放射するように取り付けられている。
図6は、フルレンジの場合を示しており、低音用の場合と異なり指向性があるので、後方に向けたスピーカによって後方壁面での反射が不自然な音場再生を行ってしまうため、図6に示すように後方側のスピーカはキャビネットに固定せずに、前面側のスピーカに支持させた形態としてキャビネット内部に格納した状態とするのが好ましい。
前面に向けたスピーカと内部に格納されたスピーカの音響放射のインピーダンスが若干異なるが、低音域のフレーム振動の抑制には問題がない。
【0012】
本発明の効果を確認するため以下に説明する試験をおこなった。
同一性能の2個のスピーカ(Fostex製のFE-127E)を互いのフレームを背中合わせに固定し、約50cmのテグスでこれらを吊り下げ、1〜2Wの正弦波(100Hzと300Hz)を入力し、エッジ周辺部のフレームの振動を6秒間測定した結果を図7及び図8に示す。
図中の「同相」とあるのが、一体化されたフレームから見て2個のスピーカの振動板が同時に外側に出る、あるいは内側に入るように振動するので、フレーム全体としては、振動板の振動による反作用が発生しない状況を示すものである。
【0013】
実際には、スピーカの個体差、振動板が入力に完全に同期した振動をしないこと、高音域での分割振動などの要因により、フレームの振動が完全にゼロとはなっていない。
「逆相」は、片方の振動板がフレームから膨らむとき、もう一方がフレーム側に凹む状態となるように信号を入力した場合であり、一個のスピーカだけを吊り下げて同等の大きさの入力を与えて測定した状態とほぼ同じである。
以上の結果から、本発明がフレーム振動を抑制することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のスピーカシステムの概念図。
【図2】固定具の他の実施例の概念図。
【図3】本発明を無指向性スピーカシステムとした概念図。
【図4】磁気回路を共通とした実施例の概念断面図。
【図5】キャビネットへのマウントした状態の概念図(低音)。
【図6】キャビネットへのマウントした状態の概念図(フルレンジ)。
【図7】フレームの振動の測定グラフ(100Hz)。
【図8】フレームの振動の測定グラフ(300Hz)。
【図9】無指向性スピーカシステムの概念図。
【符号の説明】
【0015】
1 スピーカユニット
2 固定具
3 エンクロージャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一性能のスピーカユニットを対称に配置し、スピーカユニットの駆動部を保持するフレームを、スピーカ駆動によってフレームに作用する力を互いに打ち消すように全て相互に連結したスピーカシステム。
【請求項2】
請求項1において、対称位置のスピーカユニットが磁気回路を共有するスピーカシステム。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図1】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−135837(P2009−135837A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311703(P2007−311703)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(504193837)国立大学法人室蘭工業大学 (70)
【Fターム(参考)】