説明

フレームラミネート用ポリウレタン発泡体

【課題】優れた接着強度を発揮することができると共に、変色を抑制することができるフレームラミネート用ポリウレタン発泡体を提供する。
【解決手段】フレームラミネート用ポリウレタン発泡体は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体の原料を反応させ、発泡及び硬化させて得られるものである。その際、ポリウレタン発泡体の原料には、ベンゾチアゾール系化合物及びジチオカルバミン酸塩系化合物から選ばれる少なくとも一種の有機化合物と、吸熱剤とが配合される。前記有機化合物は、分解温度が170〜220℃のものであることが好ましく、その配合量はポリオール類100質量部当たり0.1〜2.0質量部であることが好ましい。吸熱剤は、硫酸塩の水和物であることが好ましく、その配合量はポリオール類100質量部当たり3.0〜20.0質量部であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の座席等に用いられるクッションの製造工程において、フレームラミネート法により表皮をカバーリングする場合に用いられるフレームラミネート用ポリウレタン発泡体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フレームラミネート用ポリウレタン発泡体は、生地と接着させるために発泡体表面に炎(フレーム)を当てて溶かし、その部分に粘着性を発現させることにより、生地と接着されるものである。係るポリウレタン発泡体は低密度の軟質ポリウレタン発泡体であり、軽量化等を目的としてさらなる低密度化が求められている。その場合、発泡剤を水のみとしたとき、低密度化を図るため水の添加量を増大させる必要があることから、泡化反応が促進されて発泡時における発熱温度が170℃以上に達する。このため、ポリウレタンの酸化劣化(スコーチ)が起こり、それにより得られる軟質ポリウレタン発泡体が変色する。そのような事態を回避するために、従来の水の添加量のままで発泡助剤として塩化メチレンや液化炭酸ガスを添加する技術が知られている。
【0003】
しかし、塩化メチレンは環境等に悪影響を与える物質の一つであって、使用が規制されている。一方、液化炭酸ガスによる発泡は、液化炭酸ガスを高圧で供給する専用の設備が必要であり、発泡を円滑に行うためには製造条件が限定されるうえに、製造コストも上昇する。そこで、発泡体の原料として、二水石膏等の無機化合物の水和物を用い、加熱により生成する水の蒸発潜熱を利用して反応温度を低下させる方法が提案されている。
【0004】
また、フレームラミネート用ポリウレタン発泡体では、表皮材に対する剥離強度などの接着強度が高いことが要求される。そのような要求を満たすため、特定のポリールからなる架橋剤を用い、初期接着性を向上させる方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開平2003−252946号公報(第2頁及び第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、フレームラミネート用ポリウレタン発泡体では、表皮材との接着強度が高いと同時に、スコーチによる変色の少ないことが求められている。しかしながら、前記特許文献1に記載された技術においては、初期接着性に優れているが、発泡体の原料には吸熱剤として無機化合物の水和物が含まれており、発泡過程で消費されなかった水和物が残存することによりポリウレタン発泡体の溶融温度が上昇する。そのため、ポリウレタン発泡体がフレームによって溶け難くなり、その結果接着強度が低下するという問題があった。
【0006】
そこで本発明の目的とするところは、優れた接着強度を発揮することができると共に、変色を抑制することができるフレームラミネート用ポリウレタン発泡体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明のフレームラミネート用ポリウレタン発泡体は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体の原料を反応させ、発泡及び硬化させてなるフレームラミネート用ポリウレタン発泡体であって、前記ポリウレタン発泡体の原料には、ベンゾチアゾール系化合物及びジチオカルバミン酸塩系化合物から選ばれる少なくとも一種の有機化合物と、吸熱剤とを配合することを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に記載の発明のフレームラミネート用ポリウレタン発泡体は、請求項1に記載の発明において、前記有機化合物は、分解温度が170〜220℃の化合物であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3に記載の発明のフレームラミネート用ポリウレタン発泡体は、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記有機化合物の配合量は、ポリオール類100質量部当たり0.1〜2.0質量部であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4に記載の発明のフレームラミネート用ポリウレタン発泡体は、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明において、前記吸熱剤は、硫酸塩の水和物であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項5に記載の発明のフレームラミネート用ポリウレタン発泡体は、請求項1から請求項4のいずれかに係る発明において、前記吸熱剤の配合量は、ポリオール類100質量部当たり3.0〜20.0質量部であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に記載の発明のフレームラミネート用ポリウレタン発泡体においては、その原料に、ベンゾチアゾール系化合物及びジチオカルバミン酸塩系化合物から選ばれる少なくとも一種の有機化合物が配合されている。この有機化合物は、ポリウレタン発泡体の溶融開始温度を低下させる作用を示すものと考えられ、その結果ポリウレタン発泡体がフレームによって溶融しやすくなり、その溶融部分が増えて接着性が高められる。従って、ポリウレタン発泡体は、剥離強度などの優れた接着強度を発揮することができる。
【0013】
また、ポリウレタン発泡体の原料には吸熱剤が配合されていることから、発泡過程で吸熱剤が吸熱作用を発現するため反応時における温度が低下する。そのため、スコーチが抑制され、ポリウレタン発泡体の変色を抑制することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明のフレームラミネート用ポリウレタン発泡体においては、前記有機化合物の分解温度が170〜220℃であることにより、ポリウレタン発泡体の溶融開始温度を低下させる作用を有効に発現させることができるものと推測される。従って、請求項1に係る発明の効果を向上させることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明のフレームラミネート用ポリウレタン発泡体においては、前記有機化合物の配合量は、ポリオール類100質量部当たり0.1〜2.0質量部であることから、請求項1又は請求項2に係る発明の効果を十分に発揮させることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明のポリウレタン発泡体においては、吸熱剤が硫酸塩の水和物である。このため、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加え、ポリウレタン発泡体の原料の発泡過程に沿って硫酸塩の水和物が分解されて水を生成し、その水の蒸発潜熱により吸熱作用を良好に発揮することができる。
【0017】
請求項5に記載の発明のポリウレタン発泡体においては、前記吸熱剤の配合量がポリオール類100質量部当たり3.0〜20.0質量部であることから、請求項1から請求項4のいずれかに係る発明の効果に加えて、吸熱剤による吸熱作用を十分に発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の最良と思われる実施形態について詳細に説明する。
本実施形態におけるフレームラミネート用ポリウレタン発泡体(以下、ポリウレタン発泡体又は単に発泡体ともいう)は次のようにして得られるものである。すなわち、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体の原料を反応させ、発泡及び硬化させて得られる。その際、ポリウレタン発泡体の原料には、ベンゾチアゾール系化合物及びジチオカルバミン酸塩系化合物から選ばれる少なくとも一種の有機化合物と、吸熱剤とが配合される。
【0019】
そして、前記有機化合物はポリウレタン発泡体の溶融開始温度を下げ、発泡体表面をより低い温度で溶融させて接着性を高める機能を発揮するものと考えられる。一方、吸熱剤はポリウレタン発泡体の原料が反応及び発泡する過程で加熱されたときに吸熱作用を発揮するものと考えられる。
【0020】
次に、前記ポリウレタン発泡体の原料について順に説明する。
ポリオール類としては、ポリエーテルポリオール又はポリエステルポリオールが用いられる。これらのうち、ポリイソシアネートとの反応性に優れているという点と、ポリエステルポリオールのように加水分解をしないという点から、ポリエーテルポリオールが好ましい。ポリエーテルポリオールとしては、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、多価アルコールにプロピレンオキシドとエチレンオキシドとを付加重合させた重合体よりなるポリエーテルポリオール、それらの変性体等が用いられる。多価アルコールとしては、グリセリン、ジプロピレングリコール等が挙げられる。
【0021】
ポリエーテルポリオールとして具体的には、グリセリンにプロピレンオキシドを付加重合させ、さらにエチレンオキシドを付加重合させたトリオール、ジプロピレングリコールにプロピレンオキシドを付加重合させ、さらにエチレンオキシドを付加重合させたジオール等が挙げられる。ポリエーテルポリオール中のポリエチレンオキシド単位は10〜30モル%程度である。ポリエチレンオキシド単位の含有量が多い場合には、その含有量が少ない場合に比べて親水性が高くなり、極性の高い分子、ポリイソシアネート類等との混合性が良くなる。その結果、反応性が高くなる。
【0022】
ポリエステルポリオールとしては、アジピン酸、フタル酸等のポリカルボン酸を、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のポリオールと反応させることによって得られる縮合系ポリエステルポリオールのほか、ラクトン系ポリエステルポリオール及びポリカーボネート系ポリオールが用いられる。これらのポリオール類は、原料成分の種類、分子量、縮合度等を調整することによって、水酸基の官能基数や水酸基価を変えることができる。
【0023】
前記ポリオール類と反応させるポリイソシアネート類はイソシアネート基を複数個有する化合物であって、具体的にはトリレンジイソシアネート(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、これらの変性物等が用いられる。ポリイソシアネート類のイソシアネート指数(イソシアネートインデックス)は100以下又は100を越えてもよいが、通常90〜130程度であり、100〜120程度が好ましい。ここで、イソシアネート指数は、ポリオール類、発泡剤としての水等の活性水素基に対するポリイソシアネート類のイソシアネート基の当量比を百分率で表したものである。従って、イソシアネート指数が100を越えるということは、ポリイソシアネート類がポリオール類等より過剰であることを意味する。
【0024】
発泡剤はポリウレタン樹脂を発泡させてポリウレタン発泡体とするためのもので、例えば水のほかペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、炭酸ガス等が用いられる。発泡剤としては、泡化反応の反応性が高く、取扱いの容易な水が好ましい。発泡剤が水の場合には、ポリウレタン発泡体の見掛け密度を20〜25kg/mにするため、その配合量をポリオール類100質量部に対して3〜9質量部とすることが好ましい。水の配合量が3質量部未満では発泡量が少なく、ポリウレタン発泡体の見掛け密度が25kg/mを越える傾向となり、9質量部を越えると発泡及び硬化時に温度が上昇しやすくなり、その温度を低下させることが難しくなる。
【0025】
触媒はポリオール類とポリイソシアネート類とのウレタン化反応、発泡剤としての水とポリイソシアネート類との泡化反応などを促進するためのものであり、具体的にはトリエチレンジアミン、ジメチルエタノールアミン、N,N´,N´−トリメチルアミノエチルピペラジン等の第3級アミン、オクチル酸スズ(スズオクトエート)、ジブチルスズジラウレート等の有機金属化合物(金属触媒)、酢酸塩、アルカリ金属アルコラート等が用いられる。
【0026】
この触媒としては、その効果を高めるためにアミン触媒と金属触媒とを組合せて用いることが好ましい。特に、無機化合物の水和物等の吸熱剤の配合量がポリオール類100質量部当たり20〜30質量部という多量配合の場合に発泡体の歪特性が劣る傾向を示すため、上記のアミン触媒と金属触媒とを組合せる触媒系を採用することが望ましい。
【0027】
アミン触媒の配合量は、ポリオール類100質量部当たり0.01〜0.5質量部であることが好ましく、0.1〜0.5質量部であることがより好ましい。アミン触媒の配合量が0.01質量部未満の場合には、樹脂化反応及び泡化反応を十分にかつバランス良く促進させることができなくなる。一方、0.5質量部を越える場合には、樹脂化反応や泡化反応が過度に促進されたり、両反応のバランスを損なう結果を招くおそれがある。また、金属触媒の配合量は、ポリオール類100質量部当たり0.1〜0.5質量部であることが好ましい。金属触媒の配合量が0.1質量部未満の場合には、樹脂化反応と泡化反応とのバランスを欠き、発泡を良好に行うことができなくなる。その一方、0.5質量部を越える場合には、樹脂化反応や泡化反応が過剰に促進されるとともに、両反応のバランスが悪くなり、発泡体の歪特性が低下する。
【0028】
次に、前記有機化合物について説明する。係る有機化合物は、発泡体の溶融開始温度を低下させることにより発泡体表面をより低い温度で溶融させて接着性を高めるように機能する材料である。係る有機化合物としては、ベンゾチアゾール系化合物及びジチオカルバミン酸塩系化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物が用いられる。ベンゾチアゾール系化合物としては、2−メルカプトベンゾチアゾール又はその塩、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。ジチオカルバミン酸塩系化合物としては、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛、N−エチル−N−フェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジメチルジチオカルバミン酸第二鉄等が挙げられる。
【0029】
この有機化合物の配合量は、ポリオール類100質量部当たり0.1〜3.0質量部であることが好ましい。この配合量が0.1質量部未満の場合には、有機化合物の作用が十分に発揮されず、得られるポリウレタン発泡体の接着強度が不足する傾向を示す。一方、配合量が3.0質量部を越える場合には、有機化合物による作用がそれ以上向上せず、過剰な有機化合物によりポリウレタン発泡体の物性がかえって低下することがある。
【0030】
次に、吸熱剤について説明する。この吸熱剤はポリウレタン発泡体の製造過程で加熱されたときに吸熱作用を発現できる物質で、無機化合物の水和物等が用いられる。無機化合物の水和物は、加熱によって分解し、分解により水を生成する材料である。無機化合物の水和物として具体的には、硫酸カルシウム・2水和物(CaSO・2HO、二水石膏、比重2.32、分解温度128〜163℃)、硫酸マグネシウムの1水和物から7水和物(MgSO・HOからMgSO・7HO、比重2.57〜1.68、分解温度150℃)、硫酸鉄の1水和物から5水和物(FeSO・HOからFeSO・5HO、比重2.97、分解温度100〜130℃)又はそれらの混合物、その他酸化アルミニウムの1水和物から3水和物(Al・HOからAl・3HO、比重2.4〜3.4、分解温度150〜360℃)、硫酸銅の5水和物(CuSO・5HO、比重2.29)等が用いられる。無機化合物の水和物に含まれる水和水は、固体結晶として常温で安定に存在するものであり、結晶水である。無機化合物の水和物としては、硫酸カルシウムの水和物、硫酸マグネシウムの水和物、硫酸鉄の水和物等の硫酸塩の水和物が好ましい。硫酸塩の水和物は、ポリウレタン発泡体の原料の発泡過程に沿って例えば100℃以上で硫酸塩の水和物が次第に分解されて水を生成し、吸熱作用を発現できるからである。
【0031】
なお、無機化合物の水和物の比重は1.5〜4.0であることが好ましい。この比重が1.5未満では、無機化合物の水和物(粉体)を体積として大量にポリウレタン発泡体の原料、例えばポリオール類に添加しなければ所定の質量を添加できず、粉体とポリオール類との混合撹拌を十分に行うことができない。しかも、ポリウレタン発泡体中に占める無機化合物の水和物の体積が大きくなって、ポリウレタン発泡体としての物性が低下する。一方、その比重が4.0を越えると、ポリウレタン発泡体の原料特にポリオール中において長期保管すると沈降しやすく反応混合液中への分散性が悪くなって、発熱温度を低下させるという無機化合物の水和物の機能が低下する。
【0032】
無機化合物の水和物の分解温度は、100〜170℃であることが好ましい。分解温度が100℃未満の場合には、ポリウレタン原料による発泡及び硬化の初期の段階で、すなわち発熱温度の低い段階で分解による水が生成するため、発泡及び硬化に悪影響を与えたり、生成した水が発泡剤として機能したりするおそれがある。ちなみに、硫酸カルシウム2水和物(二水石膏)は、128℃で分子中の2モルの水のうちの1.5モルの水が分解して遊離の水となり、硫酸カルシウム0.5水和物(半水石膏)となる。また、硫酸マグネシウム7水和物は、150℃で分子中の7モルの水のうちの6モルの水が分解して遊離の水となり、硫酸マグネシウム1水和物となる。
【0033】
吸熱剤の配合量は、ポリオール類100質量部当たり3.0〜20.0質量部であることが好ましい。この配合量が3.0質量部未満の場合には、分解して生成する水の量が少なく、反応及び発泡に基づく発熱温度の上昇を十分に抑制することができなくなる。一方、配合量が20.0質量部を越える場合には、過剰な水が発泡剤として機能し、泡化反応が過度に進行して発熱温度が上昇するおそれがある。
【0034】
ポリウレタン発泡体の原料にはその他必要に応じて、整泡剤、架橋剤、充填剤、安定剤、着色剤、難燃剤、可塑剤等が常法に従って配合される。整泡剤としては、シリコーン化合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤、ポリエーテルシロキサン、フェノール系化合物等が用いられる。
【0035】
そして、ポリウレタン原料を反応させて発泡及び硬化させることによりポリウレタン発泡体を製造するが、その際の反応は複雑であり、基本的には次のような反応が主体となっている。すなわち、ポリオール類とポリイソシアネート類との付加重合反応(ウレタン化反応)、ポリイソシアネート類と発泡剤としての水との泡化(発泡)反応及びこれらの反応生成物とポリイソシアネート類との架橋(硬化)反応である。
【0036】
ポリウレタン発泡体を製造する場合には、ポリオール類とポリイソシアネート類とを直接反応させるワンショット法或はポリオール類とポリイソシアネート類とを事前に反応させて末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを得、それにポリオール類を反応させるプレポリマー法のいずれも採用される。また、ポリウレタン発泡体は、常温大気圧下に発泡、硬化させて得られるスラブ発泡法及び成形型内にポリウレタン発泡体の原料(反応混合液)を注入、型締めして型内で発泡、硬化させて得られるモールド発泡法のいずれの方法により製造されるものであってもよい。この場合、スラブ発泡法の方が簡便で連続生産できる点から好ましい。
【0037】
このようにして得られるポリウレタン発泡体は、接着強度としてフレームラミネート法による剥離強度が例えば0.6〜2.4N/25mmという十分な接着強度を示し、変色性を示す色差(ΔYI)が9〜27に抑えられる。また、JIS K 7222:1999に規定された見掛け密度が20〜25kg/mという低密度のものとなる。さらに、ポリウレタン発泡体は、硬さが70〜85N、通気量が20〜75L/min、引張強さ100〜150kPa、伸びが110〜200%、引裂強さが4〜7N/cm、圧縮残留歪が4〜11%及び反発弾性率が25〜30%という機械的物性の良好なものとなる。係るポリウレタン発泡体は、クッション性が良く、軽量な軟質ポリウレタン発泡体である。ここで軟質ポリウレタン発泡体は、一般にセル(気泡)が連通構造を有し、柔軟性があって復元性を有するものをいう。従って、軟質ポリウレタン発泡体は、クッション性、衝撃吸収性、吸音性等の特性を発揮することができる。フレームラミネート用ポリウレタン発泡体は、自動車の座席(シート)等に用いられるクッションの製造工程において、フレームラミネート法により表皮をカバーリングする場合に好適に用いられる。その他、自動車の天井材、家具のソファの上張り材、ベッドの上張り材などにおいて布地やレザーなどの表皮を張り合せる場合に使用される。
【0038】
さて、本実施形態の作用を説明すると、ポリウレタン発泡体の原料に、ベンゾチアゾール系化合物及びジチオカルバミン酸塩系化合物から選ばれる少なくとも一種の有機化合物及び無機化合物の水和物等の吸熱剤が配合される。そして、その原料が加熱されて反応し、発泡及び硬化することでポリウレタン発泡体が得られる。この過程において、水の蒸発潜熱による吸熱作用が発現され、温度上昇が抑えられ、170℃よりも低い温度で発泡体が製造される。このため、スコーチの発生が抑えられ、発泡体の黄変が抑制される。
【0039】
得られた発泡体を用い、例えば自動車の座席(シート)に用いられるクッションの製造工程において、フレームラミネート法により表皮を張り合せる場合には、前記有機化合物が発泡体の溶融開始温度を低下させる作用を奏すると考えられ、フレームを当てた発泡体の部分は低い温度で溶融を開始する。例えば、有機化合物を配合しない場合のポリウレタン発泡体では溶融開始温度が約200℃であるのに対し、有機化合物を配合した場合には溶融開始温度が約190℃となり、溶融開始温度が約10℃低下する。従って、フレームによって溶融された樹脂の溶融部分が増量され、その溶融部分により高い接着性が発現される。
【0040】
以上の実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 本実施形態におけるフレームラミネート用ポリウレタン発泡体においては、その原料に、ベンゾチアゾール系化合物及びジチオカルバミン酸塩系化合物から選ばれる少なくとも一種の有機化合物が配合されている。この有機化合物がポリウレタン発泡体の溶融開始温度を低下させるものと考えられ、フレームによって発泡体の表面が容易に溶融することから、フレームラミネート用ポリウレタン発泡体は、優れた接着強度を発揮することができる。
【0041】
また、ポリウレタン発泡体の原料には吸熱剤が配合され、その吸熱剤が発泡過程で吸熱効果を発揮することから、スコーチが抑制され、ポリウレタン発泡体の変色を抑制することができる。
【0042】
・ 前記有機化合物の分解温度が170〜220℃であることにより、ポリウレタン発泡体の溶融開始温度を低下させる効果を有効に発揮させることができる。
・ 有機化合物の配合量は、ポリオール類100質量部当たり0.1〜2.0質量部であることにより、上記の効果を十分に発揮させることができる。
【0043】
・ 吸熱剤が硫酸塩の水和物であることにより、ポリウレタン発泡体の原料の発泡過程に沿って硫酸塩の水和物が分解されて水を生成し、その水の蒸発潜熱により吸熱作用を良好に発揮することができる。
【0044】
・ 吸熱剤の配合量がポリオール類100質量部当たり3.0〜20.0質量部であることにより、吸熱剤による吸熱効果を十分に発揮することができる。
・ さらに、前記有機化合物と無機化合物の水和物とが協働して作用し、泡化反応の過度の進行が抑えられ、かつ架橋反応が促進されるものと考えられる。従って、得られるポリウレタン発泡体の硬さ、引張強さ、伸び、圧縮残留歪等の機械的物性を向上させることができる。
【0045】
・ しかも、前記有機化合物により尿素結合などの発色基団の形成が抑制されるとともに、NOxガスの生成も抑えられ、発泡体の変色を抑制することができる。加えて、量産スケールにおいても均一で、良好な発泡体を得ることができるとともに、発泡体の生産性を向上させることができる。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜7)
まず、各実施例で用いたポリウレタン発泡体の原料を以下に示す。
【0047】
ポリオールL−50:ポリエーテルポリエステルポリオール、水酸基価58(mgKOH/g)、三井武田ケミカル(株)製
ポリオールGP3000:グリセリンにプロピレンオキシドを付加重合させたポリエーテルポリオール、分子量3000、水酸基の官能基数が3、水酸基価56(mgKOH/g)、三洋化成工業(株)製
水:発泡剤
ジメチルエタノールアミン:アミン触媒
金属触媒 MRH-110:ジブチルスズジラウレート、城北化学工業(株)製
整泡剤 F-650A:シリコーン整泡剤、信越化学工業(株)製
リン系化合物:トリス(ジプロピレングリコール)ホスファイト、GE東芝シリコーン(株)製、CS−22
難燃剤:塩素化リン酸エステル、大八化学(株)製、CR−504L
ポリイソシアネート T-80:日本ポリウレタン工業(株)製、トリレンジイソシアネート(2,4-トリレンジイソシアネート80質量%と2,6-トリレンジイソシアネート20質量%との混合物)
二水石膏:比重2.32、平均粒子径40μmの二水石膏、(株)ノリタケカンパニーリミテド製、G−40
有機化合物の粉体1:ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、大内新興化学工業(株)製、ノクセラーZTC
有機化合物の粉体2:N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛、大内新興化学工業(株)製、ノクセラーZP
有機化合物の粉体3:ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、大内新興化学工業(株)製、ノクセラーEZ
有機化合物の粉体4:N−エチル−N−フェニルジチオカルバミン酸亜鉛、大内新興化学工業(株)製、ノクセラーPX
有機化合物の粉体5:2−メルカプトベンゾチアゾール、大内新興化学工業(株)製、ノクセラーM(又はノクセラーM−P)
有機化合物の粉体6:N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学工業(株)製、ノクセラーMSA−G
そして、表1に示す配合割合で各例におけるポリウレタン発泡体の原料を調製した。
【0048】
これらのポリウレタン発泡体の原料を縦、横及び深さが各500mmの発泡容器内に注入し、常温、大気圧下で発泡させた後、加熱炉を通過させて硬化(架橋)させることにより軟質スラブ発泡体を得た。得られた軟質スラブ発泡体を切り出すことによってシート状のポリウレタン発泡体を製造した。このポリウレタン発泡体について、見掛け密度、硬さ、通気量、引張強さ、伸び、引裂強さ、圧縮残留歪、反発弾性率、剥離強度及び色差(ΔYI)を以下の測定方法に従って測定した。それらの結果を表1に示す。表1において、剥離強度及び色差における( )内の数値は、それぞれ比較例1の値に対する割合(百分率)を表す。
(測定方法)
見掛け密度(kg/m):JIS K 7222:1999に準拠して測定した。
【0049】
硬さ(N):JIS K 6400−2:2004に準拠して測定した。
通気量(L/min):ASTM D3574に準拠して測定した。
引張強さ(kPa)、伸び(%)及び引裂強さ(N/cm):JIS K 6400−5:2004に準じて測定した。
【0050】
圧縮残留歪(%):JIS K 6400−4:2004に準拠して測定した。
反発弾性率(%):JIS K 6400−3:2004に準拠して測定した。
剥離強度(N/25mm):フレームラミネーション装置を用い、前記ポリウレタン発泡体を布(生地)に接着し、フレームラミネーション装置での発泡体の溶融開始から70秒後、95秒後及び120秒後に剥離強度(180度剥離強度)をJIS L 1066に準拠して測定した。
【0051】
色差(ΔYI):反応及び発泡時における温度の高い発泡体の部位(中心部)と温度の低い部位(表面部)について、色差計〔スガ試験機(株)製、SMカラーコンピューター SM−4〕により黄変度(白色度)を測定し、それらの色差(ΔYI)で示した。
【0052】
【表1】

表1に示したように、実施例1〜7においては、剥離強度が比較例1における経時変化後の各々の剥離強度を基準として各実施例の値を比べると122〜378%という高い値を示し、接着強度(剥離強度)に優れていることが示された。これは、前記有機化合物の粉体がポリウレタン発泡体の溶融開始温度を下げて接着性の向上に寄与したためと考えられる。また、発泡体の色差も比較例1の各値に比べて26〜76%という低い値を示し、黄変度が少ないことが示された。これは、吸熱剤としての二水石膏が発泡体の製造過程で加熱され分解して水を生成し、蒸発潜熱を奪って温度上昇が抑制されたためと考えられる。さらに、得られたポリウレタン発泡体の硬さ、通気量、引張強さ、伸び、引裂強さ、圧縮残留歪及び反発弾性率が良好であった。これは、有機化合物の粉体と二水石膏とが相乗的に作用して泡化反応の過度の進行が抑えられるとともに、架橋反応が促進されたことによるものと推測される。
(実施例8〜10及び比較例1〜3)
実施例1〜7と異なる点を以下に示し、その他は実施例1〜7と同様にしてポリウレタン発泡体を調製した。実施例1〜7と異なるポリウレタン発泡体の原料を以下に示す。
【0053】
硫酸マグネシウム・7水和物:比重1.68、平均粒子径50μmの硫酸マグネシウムの7水和物
ここで、実施例8では無機化合物の水和物として硫酸マグネシウム・7水和物を用い、実施例9では有機化合物としてノクセラーZTCとノクセラーMSA−Gとを組合せて用いた。実施例10では無機化合物の水和物としての二水石膏と、有機化合物としてのノクセラーZPとを用いた。
【0054】
また、比較例1では無機化合物の水和物として二水石膏を配合し、前記有機化合物の粉体を配合しなかった例、比較例2では有機化合物として本発明の範囲外の有機化合物を配合した例、及び比較例3では二水石膏の配合量を20.0質量部に増加した例を示した。
【0055】
そして、実施例1〜7と同様にしてポリウレタン発泡体を製造し、得られたポリウレタン発泡体について、見掛け密度、引張強さ、伸び、引裂強さ、剥離強度及び色差(ΔYI)を実施例1〜7と同様の測定方法に従って測定した。それらの結果を表2に示す。表2において、剥離強度及び色差における( )内の数値は、それぞれ比較例1の値に対する割合(百分率)を表す。
【0056】
【表2】

表2に示したように、実施例8〜10においては、剥離強度が比較例1に比べて158〜281%という高い値を示した。また、発泡体の色差も比較例1に比べて14.2〜23.1%という低い値を示した。その一方、比較例1では有機化合物の粉体を全く配合しなかったため、剥離強度が低い結果であった。比較例2では有機化合物の粉体として本発明の範囲外の化合物を使用したため、剥離強度を向上させることができなかった。比較例3では二水石膏を増量したが、かえって接着しない状態になると共に、変色も大きくなる結果であった。これは、増量した二水石膏が一部残存し、また有機化合物が含まれていないため、接着が阻害されると同時に、変色が促進されたものと推測される。
【0057】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記吸熱剤として、無機の水和物以外に、リン酸ナトリウム、金属水酸化物、キシリトールなどを使用することもできる。
【0058】
・ 無機化合物の水和物としては、複数種類の水和物、例えば硫酸カルシウムの水和物と硫酸マグネシウムの水和物とを組合せて配合することもできる。その場合には、より広い温度範囲で無機化合物の水和物の機能を発揮させることができ、反応及び発泡時における発熱温度を効果的に低下させることができる。
【0059】
・ また、前記有機化合物としては、ベンゾチアゾール系化合物及びジチオカルバミン酸塩系化合物を2種類以上組合せて使用することもできる。
・ 前記有機化合物に加えて、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛等の加硫促進助剤を配合することもできる。
【0060】
・ 前記有機化合物は粉体のほか、液状などの形態であってもよい。
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記硫酸塩の水和物は、硫酸カルシウムの水和物又は硫酸マグネシウムの水和物であることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のフレームラミネート用ポリウレタン発泡体。この場合、請求項4又は請求項5に係る発明の効果に加え、無機化合物の水和物の機能を効果的に発揮することができる。
【0061】
・ 前記発泡剤は水であり、その配合量がポリオール類100質量部当たり3〜9質量部であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のフレームラミネート用ポリウレタン発泡体。このように構成した場合、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加えて、泡化反応を十分に進行させることができる。
【0062】
・ ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体の原料を反応させ、発泡及び硬化させるポリウレタン発泡体の製造方法であって、前記ポリウレタン発泡体の原料には、ベンゾチアゾール系化合物及びジチオカルバミン酸塩系化合物から選ばれる少なくとも一種の有機化合物と、吸熱剤とを配合することを特徴とするフレームラミネート用ポリウレタン発泡体の製造方法。この製造方法によれば、優れた接着強度を発揮することができると共に、変色を抑制することができるフレームラミネート用ポリウレタン発泡体を、原料成分の調整だけで容易に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体の原料を反応させ、発泡及び硬化させてなるフレームラミネート用ポリウレタン発泡体であって、
前記ポリウレタン発泡体の原料には、ベンゾチアゾール系化合物及びジチオカルバミン酸塩系化合物から選ばれる少なくとも一種の有機化合物と、吸熱剤とを配合することを特徴とするフレームラミネート用ポリウレタン発泡体。
【請求項2】
前記有機化合物は、分解温度が170〜220℃の化合物であることを特徴とする請求項1に記載のフレームラミネート用ポリウレタン発泡体。
【請求項3】
前記有機化合物の配合量は、ポリオール類100質量部当たり0.1〜2.0質量部であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のフレームラミネート用ポリウレタン発泡体。
【請求項4】
前記吸熱剤は、硫酸塩の水和物であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のフレームラミネート用ポリウレタン発泡体。
【請求項5】
前記吸熱剤の配合量は、ポリオール類100質量部当たり3.0〜20.0質量部であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のフレームラミネート用ポリウレタン発泡体。

【公開番号】特開2007−326971(P2007−326971A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−159809(P2006−159809)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】