説明

フローティングクレーン

【課題】フローティングクレーンのジブを横たえて船体内に引き込む際に、大型のジブであっても確実に傾倒させ、倒伏したジブを安全に船体内に引き込む。
【解決手段】ジブ3の基台4を船体2の船軸方向に移動自在とするレール8を備える。ジブ3は、主ジブの先端側に補助ジブが回転可能に設けられている。補助ジブは先端に浮力タンク13が設けられ、船体2の一端側に立設しているジブ3を傾倒させながら倒伏させる際に、基台4を船体2の一端側から移動せずに主ジブに対し補助ジブを屈曲させて浮力タンク13を海上に浮かせる。その状態で、基台4をレール8に沿って船体2の他端側に移動し、ジブ3(主ジブ及び補助ジブ)と浮力タンク13とを共に船体2に収容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローティングクレーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、海上でのクレーン作業にはフローティングクレーンが使用されている。該フローティングクレーンは、船体に基台を固設し、該基台に旋回自在にジブを装着して、該ジブに配設する滑車に索体を懸架して、別に備えるウインチにより前記索体を巻き取り、あるいは送り出して前記滑車から吊り下げられたフックにより荷揚げまたは荷降ろしを行うものである。
【0003】
また、前記ジブは船体の一端側(例えば船首側)に立設した状態で荷揚げまたは荷降ろし作業を行うために、通常は前記ジブを旋回自在に支持する基台に固設している。
【0004】
しかし、フローティングクレーンを曳航する際や、暴風雨時等には、立設しているジブを倒伏させることが望ましい。
【0005】
そのために、船体にレールを敷設して、前記基台を船体の船軸に沿って移動可能とすると共に、前記ジブを前記基台から旋回して横たえるようにして、前記ジブを船体に収容するとしたフローティングクレーンが既に提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
通常は立設しているフローティングクレーンのジブを倒伏させる場合に、船体の一端側(船首側もしくは船尾側)に配設されているジブをそのまま傾倒させながら海側に倒伏させると、前記フローティングクレーンが大型になればなるほど、前記ジブを支持する基台に掛かるモーメント負荷が大きくなる。また、前記ジブを海面近くまで傾倒した状態では、船体内に引き込むことも、前記基台に掛かる負荷が大きくなり、スムーズに引き込むことは困難である。さらに、倒伏したジブをそのまま移動させると、前記ジブの先端部に配設される滑車に吊下げられているフックが揺動する。
【0007】
そこで、出願人は、フローティングクレーンのジブを横たえて船体内に引き込む際に、大型のジブであっても確実に倒伏させることができ、倒伏させたジブを安全に船体内に引き込むことができる構成としたフローティングクレーンを先に出願している(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−179294号公報
【特許文献2】特開2005−330087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述した特許文献2に記載のものでは、フローティングクレーンのジブを横たえて船体内に引き込む際に、補助台船がジブの先端部を受け取り、前記補助台船が受取った状態で引き込むようにしているので、大型のジブであっても確実に倒伏させることができ、倒伏したジブを安全に船体内に引き込むことができるとしても、船体とは別の補助台船を必要とする。
【0010】
この発明は、前述したような補助台船を用いることなく、フローティングクレーンのジブを倒伏させて船体内に引き込む際に、大型のジブであっても確実に傾倒させながら、倒伏したジブを安全に船体内に引き込むことを可能としたフローティングクレーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために請求項1の発明は、ジブの基台を船体の船軸方向に移動自在とするレールを備えるフローティングクレーンであって、前記ジブは、主ジブの先端側に補助ジブが回転可能に設けられ、前記補助ジブは先端に浮力タンクが設けられ、前記船体の一端側に立設しているジブを傾倒させながら倒伏させる際に、前記基台を前記船体の一端側から移動させずに前記ジブに対し前記補助ジブを屈曲させて前記浮力タンクを海上に浮かせ、その状態で、前記基台を前記レールに沿って船体の他端側に移動させ、前記ジブ及び補助ジブ、浮力タンクを共に船体に収容する構成としていることを特徴とする。
【0012】
このようにすれば、立設したジブ(ジブ及び補助ジブ)を海側に傾倒させながら倒伏させる際に、浮力タンクを海上に浮かせる構成としているので、大型のジブでも安全にほぼ水平状態に倒伏させることができ、前記浮力タンクを海上に浮かせた状態で引き込むので、前記ジブ及び補助ジブを基台と浮力タンクとで安定した状態で支持しつつ船体内に引き込んで収容することができる。
【0013】
請求項2に記載のように、前記浮力タンクに、前記船体の一端に設けられている被係止部に係脱可能に係止されるフックが設けられている構成とすることができる。
【0014】
このようにすれば、ジブを倒伏した状態で船体に収容する際に、前記浮力タンクのフックが船体の被係止部に係脱可能に係止されるので、安全にまた確実にジブ(主ジブ、補助ジブ)および浮力タンクを船体に収容することができる。
【0015】
請求項3に記載のように、前記浮力タンクは、主巻きフックが設けられ、この主巻きフックをワイヤーで牽引することで前記浮力タンクのフックを前記船体の被係止部に係脱可能に係止されることが望ましい。
【0016】
このようにすれば、ジブに本来設けられる主巻きフックやワイヤーを利用して、前記浮力タンクのフックを前記船体の被係止部に係止することができるので、余分な部材を設ける必要がなく、構造も複雑にならない。
【0017】
請求項4に記載のように、前記浮力タンクは、前記補助ジブの先端部分の幅と同じ幅を有することが望ましい。
【0018】
このようにすれば、浮力タンクが補助ジブの先端部分と同じ幅を有するので、前記浮力タンクを海上に浮かせた状態で安定して引き込むことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、上記のように構成したから、補助台船を用いることなく、大型のジブであっても安全にかつ確実に傾倒させながら倒伏させて、船体内に引き込んで収容することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態であるフローティングクレーン全体の概略構成を示す側面図である。
【図2】同平面図である。
【図3】補助ジブを海面に対し水平に倒伏させた状態を示す側面図である。
【図4】(a)〜(c)はそれぞれ倒伏させたジブ(主ジブ、補助ジブ)を船体に引き込む動作の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0022】
図1および図2に示すように、フローティングクレーン1は、海上に浮かぶ、いわゆるクレーンで、船体2の一端側に、主ジブ3と補助ジブ4とを有するジブ5を立設し、このジブ5(主ジブ3、補助ジブ4)に吊下げるフック6,7を上下駆動して、海上での荷降ろしや荷揚げなどの作業を行うものである。なお、主ジブ3と補助ジブ4とは回転可能に連結されており、図3に示すように、主ジブ4に対し補助ジブ4が一定の角度をなすように傾斜させて、作業が行えるようになっている。
【0023】
ジブ5(主ジブ3)の下端が基台8に回転可能に支持されている。つまり、主ジブ4を構成する左右のフレームの下端部が左右2個の基台8に設置され、この2個の基台8に対しジブ5全体が一体的に回転可能に装着されている。これにより、船体2に対しジブ5全体が起伏動作できるようになっている。この起伏操作は、主ジブ3の先端部に懸架されるバックステーワイヤー9をウインチ10により巻上げたり繰り出したりすることにより行われる。バックステーワイヤー9は、バックタワー11を経由してウインチ10に巻回されている。
【0024】
また、ジブ5(補助ジブ4)の先端部に、中空の補助ジブ4の先端部分の幅とほぼ同じ幅を有する浮力タンク13が固定されている。主ジブ3と補助ジブ4との連結部分付近に3つの滑車14,15,16が設けられ、滑車14にはワイヤー17を介してフック6が吊下げられており、このワイヤー17はウインチ18により巻上げたり繰り出したりされる。滑車15,16にはワイヤー19を介してフック7が吊り下げられており、このワイヤー19は主ジブ3上のウインチ20により巻上げたり繰り出したりされる。
【0025】
浮力タンク13には、船体2の船首側の被係止部21に係脱可能に係止されるフック22が設けられ、ジブ5が船体2に収容される際に、被係止部21にフック22が係脱可能に係止される。これにより、浮力タンク13が海上より持ち上げられ、ジブ5(主ジブ3、補助ジブ4)と一緒に船体2上に収容される。
【0026】
船体2の甲板上には、船首2A側から船尾2B側まで左右に、レール23が所定間隔で並行に設けられ、それぞれのレール23に2個の基台8がそれぞれスライド移動可能に係合し、基台8がレール23に沿って船首2Aと船尾2Bとの間をスライド移動できるようになっている。この基台8のスライド移動には、駆動部を備える駆動ワイヤーを用い、この駆動ワイヤーにより基台8を移動させるようにしているが、基台8に直接駆動輪を設けて、直接レール上を移動する構成としてもよく、その引き込みのための構成は特に限定するものではない。
【0027】
ジブ5は、2個の基台8がレール23に沿って移動することで、船体2の一端側から他端側まで(例えば船首2Aから船尾2Bまで)移動することになる。この際に、両方の基台8,8を同時に移動させる駆動手段を用いてもよいし、また、どちらか一方の基台8を移動させる駆動手段を用い、他方の基台が従動するようにして、ジブ5全体を一体的に移動させることも可能である。
【0028】
ジブ5を船体2上に収容する際には、基台8を、例えば船首2A側に位置させて、図1に矢符で示すように、立設しているジブ5を海側に徐々に傾倒させ、所定の傾斜角度の倒伏状態とする。このとき、補助ジブ4はワイヤー19を介して主ジブ3と一体化されている。
【0029】
それから、ワイヤー19はウインチ20により巻き上げたり繰り出したりされるので、ウインチ20を駆動してワイヤー19を繰り出すことで、浮力タンク13が下向きになるように、主ジブ3に対し補助ジブ4を回転させ、最終的には、図3(a)に示すように浮力タンク13を海上に浮かべることができる。このとき、フック7にもワイヤー24を掛け、ウインチ25で巻き上げ、補助ジブ4の回転を補助することも可能である。
【0030】
つまり、繰り出されるワイヤー19の長さに応じて補助ジブ4の、主ジブ3に対する傾斜角度が変化するので、それに伴い浮力タンク13の海面に対する角度も変化する。補助ジブ4の軸線が海面に直交する向きとなるように補助ジブ4の主ジブ3に対する傾斜角度が調整され、その状態で浮力タンク13が海上に浮かべられる。
【0031】
このとき、ジブ5(補助ジブ4)の先端部に浮力タンク13を設けて、ジブ5を傾倒するときに、主ジブ3に対し補助ジブ4を回転させることで浮力タンク13を海上に浮かべるようにしているので、補助台船を用いる場合のように、ジブ5(主ジブ3、補助ジブ4)と補助台船との間の特別な位置あわせを行う必要がなくなる。このとき、フック7に掛けられているワイヤー24の弛みを巻き取りながらジブ5を傾倒させていくことが必要である。
【0032】
それから、図3(b)に示すように、図示しない駆動部により駆動ワイヤーを駆動させて、レール23に沿って基台8を移動させてジブ5全体を船体2内へ引き込む。このとき、ジブ5は鋼鉄製のフレーム構造で、高重量であっても、一旦浮力タンク13が海上に浮かぶと、安定姿勢を保つことができる。そのために、基台8に回転可能に支持されているジブ5を傾倒して浮力タンク13を海上に浮かべた状態で、基台8をレール23に沿ってジブ5を船体2側へ引き込む方向に移動させても、浮力タンク13がジブ5を支持しつつ安定して、移動するジブ5と共に船体2側へ移動する。
【0033】
ジブ5を傾倒して船体2内に引き込むと、船体2が安定するので、暴風雨等の波が高い場合でも、その影響も最小限に抑制することができ、フローティングクレーン1を安全に曳航することができる。
【0034】
船体2の船首2A側から船尾2B側まで並行して敷設されているレール23に沿って、基台8とジブ5とが一体的に移動するとき、ジブ5を構成する左右両側のフレームがそれぞれ、船体2の甲板上に設けられている操舵室31を跨ぐ構成とされ、この操舵室31とは干渉しないレイアウトとされていて、基台8と略水平に倒伏されたジブ5とを船尾2B側一杯に引き込むことを可能としている。
【0035】
船尾2B側一杯に引き込んだ状態で、図3(c)に示すように、浮力タンク13が海上より持ち上げられ、最終的に、浮力タンク13のフック22が船体2の船首側の被係止部22に係脱可能に係止され、船体2と一体になるようにして収容される。
【0036】
なお、補助ジブ4側のフック7は、船体2とワイヤー24で連結され、浮力タンク13を船体2側へ移動すると、ワイヤー24が弛むので、その弛んだ分のワイヤー24をウインチ25で巻き取ることになる。
【0037】
また、倒伏状態のジブ5を船体2内に引き込む際には、ジブ5の先端部に懸架されるバックステーワイヤー9が弛むので、このワイヤー9をウインチ10により巻上げていく構成としている。この巻上げる速度はバックステーワイヤー9の弛みを解消する程度の速度でよく、この弛みを人が目視にて確認しながらウインチ10を操作しても、また、ワイヤー9の弛みを検知する部材を別に設置して、前記弛みを検知した時に自動的に巻上げる構成としてもよい。
【0038】
一方、船体2内に収容したジブ5を操業位置に立設する際には、図示しない駆動部を逆回転させて駆動ワイヤーを逆方向に駆動し、ジブ5を船体2から押出すように基台8を移動させればよい。つまり、前記駆動部の駆動ワイヤーは周知のように正逆駆動が可能である。
【0039】
前述した実施の形態では、浮力タンクは、中空状としているが、中実形状でも海上に安定して浮かぶものであればよく、その形状も海上に安定して浮かぶものであれば特に制限されない。
【符号の説明】
【0040】
1 フローティングクレーン
2 船体
2A 船首
2B 船尾
3 主ジブ
4 補助ジブ
5 ジブ
8 基台
6,7 フック
13 浮力タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジブの基台を船体の船軸方向に移動自在とするレールを備えるフローティングクレーンであって、
前記ジブは、主ジブの先端側に補助ジブが回転可能に設けられ、
前記補助ジブは先端に浮力タンクが設けられ、
前記船体の一端側に立設しているジブを傾倒させながら倒伏させる際に、前記基台を前記船体の一端側から移動させずに前記ジブに対し前記補助ジブを屈曲させて前記浮力タンクを海上に浮かせ、その状態で、前記基台を前記レールに沿って船体の他端側に移動させ、前記ジブ及び補助ジブ、浮力タンクを共に船体に収容する構成としていることを特徴とするフローティングクレーン。
【請求項2】
前記浮力タンクに、前記船体の一端に設けられている被係止部に係脱可能に係止されるフックが設けられていることを特徴とする請求項1に記載のフローティングクレーン。
【請求項3】
前記浮力タンクは、主巻きフックが設けられ、
この主巻きフックをワイヤーで牽引することで前記浮力タンクのフックを前記船体の被係止部に係脱可能に係止されることを特徴とする請求項2に記載のフローティングクレーン。
【請求項4】
前記浮力タンクは、前記補助ジブの先端部分の幅と同じ幅を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフローティングクレーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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