説明

フローティング型ブレーキディスク

【課題】 ロータからハブへの熱引けを可及的に抑制でき、且つ、軽量化も図れるようにしたフローティング型ブレーキディスクを提供する。
【解決手段】 ハブ2の外周の周方向複数箇所に、連結ピン3をブレーキディスクの径方向内方と周方向片側と径方向外方との3方向から囲うようにして受け入れるピン受け部6,6が形成される。ロータ1の内周の周方向複数箇所に、ハブ2に形成するピン受け部6,6の開口部を閉塞するようにして径方向内方にのび、連結ピン3をハブ2に形成するピン受け部6,6との間に挟み込む舌片状のピン受け部6,6が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状のロータと、このロータの内側に配置されるハブとを備え、ロータとハブとを周方向複数箇所で連結ピンにより連結してなるフローティング型ブレーキディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のフローティング型ブレーキディスクにおいては、ロータの内周の周方向複数箇所に、径方向内方に突出し、径方向内端に半円形の切り欠きを有するピン受け部を形成すると共に、ハブの外周の周方向複数箇所に、径方向外方に突出し、径方向外端に半円形の切り欠きを有するピン受け部を形成し、ロータのピン受け部とハブのピン受け部とを突き合わせて両者の切り欠き部によりピン孔を構成し、このピン孔に連結ピンを挿通している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、制動時はロータがブレーキパッドの摺接で高温に発熱する。そして、ロータのピン受け部と連結ピンとを介してハブ側への熱引けを生ずる。上記従来例のものでは、ロータのピン受け部の先端に連結ピンの半周部分を受け入れる切り欠きを形成する関係で、ピン受け部を介しての熱引け量が大きくなる。その結果、ロータに温度差の大きな温度むらを生じ、制動の度にこれが繰り返されると、ロータに熱変形を生じる虞がある。
【0004】
また、図4に示すように、ロータaのピン受け部bを、連結ピンcをブレーキディスクの径方向外方と周方向片側とから囲うように形成すると共に、ハブdのピン受け部eを、連結ピンcをブレーキディスクの径方向内方と周方向反対側とから囲うように形成したものも従来から知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
このものでは、ロータaのピン受け部bの連結ピンcに対する接触面積が特許文献1記載のものより小さくなり、ピン受け部bを介しての熱引けをある程度は抑制できる。然し、ロータaのピン受け部bは、連結ピンcをブレーキディスクの径方向外方から囲う部分b1を有するため、この部分b1からの熱引けを生じ、熱引けを十分には抑制できない。
【0006】
また、ハブは、一般的にアルミニウム合金で形成され、ロータは、耐熱性確保のため、ステンレス鋼板で形成される。ブレーキディスクを軽量化するには、比重の大きなステンレス鋼板で形成されるロータの軽量化が必要になり、そのためには、ロータのピン受け部をできるだけ小型化することが必要になる。
【0007】
特許文献2記載のものでは、ロータaのピン受け部bが特許文献1記載のものに比し小型になるが、一層の軽量化のためには、ピン受け部bから上記部分b1を切除することが望まれる。
【特許文献1】特開2005−48787号公報
【特許文献2】実用新案登録第2534771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、ロータからハブへの熱引けを可及的に抑制でき、かつ、軽量化も図れるようにしたフローティング型ブレーキディスクを提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のフローティング型ブレーキディスクは、環状のロータと、このロータの内側に配置されるハブとを備え、ロータとハブとを周方向複数箇所で連結ピンにより連結してなるフローティング型ブレーキディスクにおいて、ハブの外周の周方向複数箇所に、連結ピンをブレーキディスクの径方向内方と周方向片側と径方向外方との3方向から囲うようにして受け入れる、周方向反対側に開口部を有するピン受け部が形成され、ロータの内周の周方向複数箇所に、ハブに形成するピン受け部の開口部を閉塞するようにして径方向内方にのび、連結ピンをハブに形成するピン受け部との間に挟み込む舌片状のピン受け部が形成されることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、ハブに形成するピン受け部が、連結ピンをブレーキディスクの径方向内方と周方向片側と径方向外方との3方向から囲うため、ロータに形成するピン受け部に、上記した特許文献2記載のもののように連結ピンをブレーキディスクの径方向外方から囲う部分を形成する必要がない。そのため、ローラに形成するピン受け部を介しての熱引けを可及的に抑制して、ロータに温度差の大きな温度むらを生ずることを防止できる。
【0011】
また、本発明においては、ロータがステンレス鋼板で形成され、ハブがアルミニウム合金で形成されることが望ましい。
【0012】
本発明によれば、ロータに形成するピン受け部を可及的に小型化できるため、比重の大きなステンレス鋼板製のロータの軽量化を図ることができる。尚、ハブに形成するピン受け部は大型化するが、ハブはアルミニウム合金製であって、比重が軽いため、ピン受け部が大型化してもハブの重量は然程増加しない。そして、ロータに形成するピン受け部の小型化によるロータの重量の軽減分がハブに形成するピン受け部の大型化によるハブの重量増加分を上回って、ブレーキディスク全体の重量が軽減される。
【0013】
また、本発明においては、ロータの内周寄りの部分に、ロータに形成するピン受け部と同一の周方向箇所に位置させて、透孔が形成されることが望ましい。これにより、透孔によりピン受け部への伝熱面積が狭められ、ピン受け部からの熱引けが一層効果的に抑制される。
【0014】
さらに、本発明においては、ハブに形成するピン受け部は、連結ピンをブレーキディスクの径方向内方と周方向一方と径方向外方との3方向から囲うようにして受け入れる、周方向他方に開口部を有する第1のピン受け部と、連結ピンをブレーキディスクの径方向内方と周方向他方と径方向外方との3方向から囲うようにして受け入れる、周方向一方に開口部を有する第2のピン受け部とから成り、第1のピン受け部と第2のピン受け部とが周方向の間隔を存して交互に形成され、ロータに形成するピン受け部は、連結ピンを第1のピン受け部との間に挟み込む第3のピン受け部と、連結ピンを第2のピン受け部との間に挟み込む第4のピン受け部とから成り、第3のピン受け部と第4のピン受け部とが周方向の間隔を存して交互に形成されることが望ましい。
【0015】
これによれば、ロータに対する制動トルクの作用方向が周方向一方である場合、制動トルクは第3のピン受け部と連結ピンと第1のピン受け部とを介してハブに伝達される。従って、ハブに形成するピン受け部とロータに形成するピン受け部とをそれぞれ第1のピン受け部と第3のピン受け部だけにすることも可能である。但し、上記構成では、ブレーキディスクを表裏反転して車軸に連結すると、制動トルクをハブに伝達できなくなる。一方、ハブに上記の如く第1と第2のピン受け部を形成すると共に、ロータに上記の如く第3と第4のピン受け部を形成しておけば、ブレーキディスクを表裏反転して車軸に連結しても制動トルクをハブに伝達でき、有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して、自動二輪車に装着される本実施の形態のフローティング型ブレーキディスクを説明する。図1に示すように、制動時にパッド(図示せず)が圧接するロータ1は、ステンレス鋼板製であって、環状に形成される。ロータ1の内側には、車軸に連結されるアルミニウム合金製のハブ2が配置される。そして、ロータ1とハブ2とを周方向複数箇所で連結ピン3により連結してフローティング型ブレーキディスクを構成している。尚、図1の左半部は連結ピン3を装着していない状態を示し、右半部は連結ピン3を装着した状態を示している。
【0017】
ハブ2には、中央の軸穴4と、軽量化のための大小複数の孔5とが形成されている。ハブ2の外周には、連結ピン3をブレーキディスクの径方向内方と周方向一方(反時計方向)と径方向外方との3方向から囲うようにして受け入れる、周方向他方に開口部6aを有する第1のピン受け部6と、連結ピン3をブレーキディスクの径方向内方と周方向他方(時計方向)と径方向外方との3方向から囲うようにして受け入れる、周方向一方に開口部6aを有する第2のピン受け部6とが周方向の間隔を存して交互に形成されている。
【0018】
ロータ1の内周には、第1のピン受け部6の開口部を閉塞するようにして径方向内方にのび、連結ピン3を第1のピン受け部6との間に挟み込む舌片状の第3のピン受け部6と、第2のピン受け部6の開口部を閉塞するようにして径方向内方にのび、連結ピン3を第2のピン受け部6との間に挟み込む舌片状の第4のピン受け部6とが周方向の間隔を存して交互に形成されている。尚、第3と第4の各ピン受け部6,6は、ロータ1の他の部分よりも肉薄に形成されている。
【0019】
図2及び図3に示すように、連結ピン3は、外径が第1と第2の各ピン受け部6,6及び第3と第4の各ピン受け部6,6に内接する円の径より僅かに小径の中空ピンで構成されている。連結ピン3の一端には、第1と第2の各ピン受け部6,6及び第3と第4の各ピン受け部6,6の軸方向一方の側面に当接するフランジ部3aを有する。また、連結ピン3の他端側には、皿ばねSとワッシャWとが外挿されている。そして、連結ピン3の他端をかしめることにより、ワッシャWを介して皿ばねSを第1と第2の各ピン受け部6,6及び第3と第4の各ピン受け部6,6の軸方向他方の側面に圧接させている。
【0020】
ここで、ロータ1とハブ2とは、第1と第2の各ピン受け部6,6及び第3と第4の各ピン受け部6,6と連結ピン3の外周面との間に生ずる僅かな隙間分だけ径方向及び周方向に相対変位自在に、且つ、皿ばね3bが撓むことのできる範囲で軸方向に相対変位自在に連結される。そのため、ロータ1の熱膨張をロータ1とハブ2との相対変位で吸収し、ブレーキディスク全体の変形を抑制することができる。
【0021】
尚、ロータ1に対する制動トルクの作用方向が反時計方向である場合、制動トルクは第3のピン受け部6と連結ピン3と第1のピン受け部6とを介してハブ2に伝達される。ここで、ハブ2に形成するピン受け部とロータ1に形成するピン受け部とを夫々第1のピン受け部6と第3のピン受け部6だけにすると、ブレーキディスクを表裏反転して車軸に取付けた場合、制動トルクをハブ2に伝達できなくなる。そこで、本実施形態では、ブレーキディスクを表裏反転して車軸に連結しても制動トルクをハブに伝達できるように、ハブ2に第1と第2のピン受け部6,6を形成すると共に、ロータに第3と第4のピン受け部6,6を形成している。
【0022】
また、ロータ1には、多数の水切り孔7が形成されている。更に、ロータ1の内周部に、第3と第4の各ピン受け部6,6と同一の周方向箇所に位置させて、透孔8が形成されている。
【0023】
制動時は、ロータ1がパッドの摺接で高温に発熱し、ロータ1の第3と第4の各ピン受け部6,6と連結ピン3のフランジ部3aとを介してハブ2側への熱引けを生ずる。この場合、第3と第4の各ピン受け部6,6を介しての熱引け量が大きくなると、ロータ1に温度差の大きな温度むらを生ずる。そして、制動の度にこれが繰り返されると、ロータ1に熱変形を生じる虞がある。
【0024】
本実施の形態では、ハブ2に形成する第1と第2の各ピン受け部6,6が、連結ピン3をブレーキディスクの径方向内方と周方向片側と径方向外方との3方向から囲うため、ロータ1に形成する第3と第4の各ピン受け部6,6に、連結ピン3をブレーキディスクの径方向外方から囲う部分を形成する必要がない。そのため、第3と第4の各ピン受け部6,6と連結ピン3のフランジ部3aとの接触面積が可及的に減少する。その結果、第3と第4の各ピン受け部6,6を介しての熱引けが可及的に抑制され、ロータ1に温度差の大きな温度むらを生ずることが防止される。
【0025】
また、本実施の形態では、第3と第4の各ピン受け部6,6が肉薄に形成されると共に、各ピン受け部6,6に近接した位置に透孔8が形成されるため、各ピン受け部6,6への伝熱面積が狭められる。従って、各ピン受け部6,6からの熱引けが一層効果的に抑制される。
【0026】
さらに、第3と第4の各ピン受け部6,6は、連結ピン3をブレーキディスクの径方向外方から囲う部分を有するものと異なり、可及的に小型化される。そのため、比重の大きなステンレス鋼板製のロータ1の軽量化を図ることができる。尚、ハブ2に形成する第1と第2の各ピン受け部6,6は大型化するが、ハブ2はアルミニウム合金製であって、比重が軽いため、第1と第2の各ピン受け部6,6が大型化してもハブ2の重量は然程増加しない。そして、第3と第4の各ピン受け部6,6の小型化によるロータ1の重量の軽減分が第1と第2の各ピン受け部6,6が大型化によるハブ2の重量増加分を上回って、フローティング型ブレーキディスク全体の重量が軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態のブレーキディスクの正面図。
【図2】図1に示すブレーキディスクの要部の拡大図。
【図3】図2のIII−III線で切断した断面図。
【図4】従来例のブレーキディスクの要部の拡大図。
【符号の説明】
【0028】
1 ロータ
2 ハブ
3 連結ピン
第1のピン受け部
第2のピン受け部
6a 開口部
第3のピン受け部
第4のピン受け部
8 透孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のロータと、このロータの内側に配置されるハブとを備え、ロータとハブとを周方向複数箇所で連結ピンにより連結してなるフローティング型ブレーキディスクにおいて、
ハブの外周の周方向複数箇所に、連結ピンをブレーキディスクの径方向内方と周方向片側と径方向外方との3方向から囲うようにして受け入れる、周方向反対側に開口部を有するピン受け部が形成され、
ロータの内周の周方向複数箇所に、ハブに形成するピン受け部の開口部を閉塞するようにして径方向内方にのび、連結ピンをハブに形成するピン受け部との間に挟み込む舌片状のピン受け部が形成されることを特徴とするフローティング型ブレーキディスク。
【請求項2】
前記ロータはステンレス鋼板で形成され、前記ハブはアルミニウム合金で形成されることを特徴とする請求項1記載のフローティング型ブレーキディスク。
【請求項3】
前記ロータの内周寄りの部分に、ロータに形成した前記ピン受け部と同一の周方向箇所に位置させて、透孔が形成されることを特徴とする請求項1または2記載のフローティング型ブレーキディスク。
【請求項4】
前記ハブに形成する前記ピン受け部は、前記連結ピンをブレーキディスクの径方向内方と周方向一方と径方向外方との3方向から囲うようにして受け入れる、周方向他方に開口部を有する第1のピン受け部と、連結ピンをブレーキディスクの径方向内方と周方向他方と径方向外方との3方向から囲うようにして受け入れる、周方向一方に開口部を有する第2のピン受け部とから成り、第1のピン受け部と第2のピン受け部とが周方向の間隔を存して交互に形成され、
前記ロータに形成するピン受け部は、連結ピンを第1のピン受け部との間に挟み込む第3のピン受け部と、連結ピンを第2のピン受け部との間に挟み込む第4のピン受け部とから成り、第3のピン受け部と第4のピン受け部とが周方向の間隔を存して交互に形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のフローティング型ブレーキディスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−19281(P2010−19281A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178185(P2008−178185)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000138521)株式会社ユタカ技研 (134)
【Fターム(参考)】