説明

フローティング型ブレーキディスク

【課題】環状のロータと、このロータの内側に配置されるハブとを備え、軸方向に付勢力を付与する付勢手段を介してロータとハブとを連結ピンにより連結してなるフローティング型ブレーキディスクにおいて、突片の長さを短くできて軽量であると共に、組付容易である構成とする。
【解決手段】ロータ1の内周縁部に、径方向内方にのびる舌片状の突片11が周方向に複数形成され、ハブ2の外周縁部に、突片に夫々対応させて、径方向内方に凹入し、前記突片を受け入れる受入れ凹部が形成される。連結ピン4が、筒状の胴体部と、胴体部の一端側に設けられて突片及びハブの軸方向一方の面側を係止する係止部とを有し、各受入れ凹部の径方向内方に、この受入れ凹部に隣接させて連結ピンの胴体部が挿通されるピン挿入孔が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車等のディスクブレーキ装置に用いられるフローティング型ブレーキディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
上記種のフローティング型ブレーキディスクとして、ロータの内周縁部に所定間隔を存して略半円形の第1の連結部を形成すると共に、この第1の連結部に突き合わせ可能な略半円形の第2の連結部をハブの外周縁部に形成し、各連結部を突合せて組み付けたときに形成されるピン挿入孔(ピン結合部)に中空の連結ピンを挿通し、その一端をかしめてなるものが従来から知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記フローティング型ブレーキディスクでは、ブレーキパッドでロータ部を挟むことで制動力を車軸に伝達させる際(ブレーキ操作)に、回転方向の負荷がロータから連結ピンを介してハブに伝達される。このため、連結ピンに加わる負荷が大きい。この場合、耐久性を向上させるには、例えば、ピンを肉厚で大径にしたり、または、連結ピンによるロータとハブとの連結箇所を多くすることが必要となり、これでは、ブレーキディスク自体の軽量化を図ることができないという不具合が生じる。
【0004】
そこで、前記ロータ(バンド)の内周縁部に、径方向内方にのびる舌片状の突片を周方向に所定間隔で複数形成し、ハブ(サポートベル)の外周縁部に、突片に夫々対応させて、径方向内方に凹入し、各突片を受け入れる受入れ凹部を形成し、連結手段により各突片を各凹部に対し軸方向に抜け止めするものが特許文献2で知られている。
【0005】
このものでは、連結手段が、突片の挿通を可能するスロットを形成した連結部から径方向内方にのびる2枚の羽根を有するプレートで構成されている。ロータとハブとを連結する場合、プレートのスロットを突片に挿通させて各プレートを各突片に夫々仮装着し、連結手段をロータの内側に配置されるハブと干渉しないように径方向外方に退避させ、この状態で、ロータの各突片がハブの受入れ凹部内に夫々位置するようにロータの内側にハブを配置する。そして、プレートの両羽根でハブの表裏両面が挟持される連結位置まで当該プレートを径方向内方に移動させ、連結ピンによりプレートとハブとを軸方向で螺着する。このような構成によれば、ブレーキ操作時、回転方向の負荷はロータから直接ハブに伝達されるようにでき、上記不具合を解消することができる。
【0006】
然しながら、上記特許文献2のものでは、ロータとハブとの連結時、退避位置と連結位置との間でプレートが径方向に移動し得るように突片の長さを設定する必要があり、突片を長くせざるを得ない。このように突片の長さが長くなると、周方向に荷重に対して耐久性が低下する。この場合、突片の肉厚を厚くすることが考えられるが、これでは、重量の増加は避けられない。また、複雑な形状のプレートを用いると、コストアップも招来するだけでなく、その組付作業も面倒となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−216205号
【特許文献2】特表2009−522513号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、突片の長さを短くできて軽量であると共に、組付容易である低コストのフローティング型ブレーキディスクを提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、環状のロータと、このロータの内側に配置されるハブとを備え、軸方向に付勢力を付与する付勢手段を介してロータとハブとを連結ピンにより連結してなるフローティング型ブレーキディスクであって、前記ロータの内周縁部に、径方向内方にのびる舌片状の突片が周方向に所定間隔で複数形成され、前記ハブの外周縁部に、前記突片に夫々対応させて、径方向内方に凹入し、前記突片を受け入れる受入れ凹部が形成されるものにおいて、前記連結ピンが、胴体部とこの胴体部の一端側に設けられて突片及びハブの軸方向一方の面側を係止する係止部とを有し、前記各受入れ凹部の径方向内方に、この受入れ凹部に隣接させて連結ピンの胴体部が挿通されるピン挿入孔が形成され、胴体部の他端側に、突片及びハブの軸方向他方の面に一端が当接する前記付勢手段の他端を受ける受け部が設けられることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、ロータとハブとは次のように連結される。即ち、ロータの各突片がハブの各受入れ凹部内に夫々位置するようにロータの内側にハブを配置した後、連結ピンの胴体部をその他端側からピン挿入孔に挿通し、例えば、係止部を突片及びハブの軸方向一方の面に夫々当接させて係止する。このとき、ハブに形成したピン挿入孔で連結ピンが位置決めされる。そして、胴体部の他端側に、突片及びハブの軸方向他方の面に一端が当接する前記付勢手段の他端を受ける受け部が設けられ、ロータとハブとが軸方向で抜け止めされて連結される。
【0011】
このように本発明では、突片が係止部に当接するだけの長さを有していればよいため、上記従来例のものより突片の長さを短く設計できる。その結果、突片の肉厚を薄くしても十分な強度を有し、ブレーキ操作時、連結ピンには周方向の荷重が作用せずに連結ピンの胴体部を小径にできることと相俟って、軽量化を図ることができる。また、付勢手段として皿ばねを用いるような場合、この皿ばねの大部分がハブの軸方向の面と接触するため、その安定感が良好となる。更に、上記従来例とは異なり、簡単な形状の連結ピンを用いてロータとハブとを連結するため、低コストであり、しかも、既存の設備を用いてその連結作業も簡単に行うことができ、有利である。
【0012】
なお、本発明において、受入れ凹部とピン挿入孔とはハブに連続して形成されていてもよく、また、受入れ凹部とピン挿入孔とはハブに独立して形成されていてもよい。例えば、受入れ凹部とピン挿入孔とをハブに独立して形成しておけば、受入れ凹部に周方向の荷重が作用し、受入れ凹部が拡がられる力に抗する強度を増加させることができる。
【0013】
ところで、付勢手段として皿ばねを用いる場合、上記受け部を、その胴体部の他端側に外挿する皿ばねで構成し、胴体部の他端をかしめて皿ばねを抜け止めすることが考えられるが、これでは、かしめ量を多くする必要がある。このような場合、前記受け部は、その胴体部の他端側に外挿するワッシャで構成され、胴体部の他端をかしめてワッシャを抜け止めすることが好ましい。これにより、少ないかしめ量でハブとロータの突片とを抜け止めする構成を実現することができる。
【0014】
更に、本発明において、前記受入れ凹部とピン挿入孔とが連続して形成される場合、ピン挿入孔の径を、前記突片の周方向の幅より大きく設定することが好ましい。これによれば、ピン挿入孔に連結ピンの胴体部を挿入したとき、連結ピンの径方向への移動が規制され、確実に位置決めできてよい。
【0015】
また、本発明においては、前記連結ピンを中実のものとすることもできる。これにより、小径の連結ピンでも十分な強度が得られ、有利である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態のフローティング型ブレーキディスクを示す正面図。
【図2】図1の部分拡大正面図。
【図3】図1のIII―III線に沿った拡大断面図。
【図4】変形例に係るブレーキディスクを示す部分拡大正面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して自動二輪車に装着される本発明の実施形態のフローティング型ブレーキディスクBDを説明する。図1に示すように、本実施形態のフローティング型ブレーキディスクBDは、環状のロータ1と、このロータ1の内側に配置されるハブ2とを備え、軸方向に付勢力を付与する付勢手段3を介してロータ1とハブ2とを連結ピン4により連結して構成される。なお、図1中、最上部に位置するものは、連結ピン4を装着していない状態で示している。
【0018】
ロータ1は、例えばステンレス鋼板製で環状に形成されたものであり、ブレーキ操作時に図外の表裏一体のブレーキパッドで挟持されてハブ2を介して図示省略の車軸に制動力を伝達する。ロータ1の内周縁部には、径方向内方にのびる舌片状(正面視矩形)の突片11が周方向に所定間隔で複数形成されている。また、ロータ1には、軽量化等のため、内外複数重(図示例では3重)の同心円上に位置させて、正面視円形で同一開口径を有する軸方向の貫通孔(抜き孔)12が複数開設されている。なお、ロータ部1の外周形状は、軽量化及び放熱性向上のために、径方向の凸部と凹部とが周方向に連続する花弁状に形成するようにしてもよい。
【0019】
ロータ1の内側に配置されるハブ2は、例えばアルミニウム合金製である。ハブ2には、中央の軸孔21と、軽量化等のため、大中小複数の孔22とが夫々形成され、軸孔21の周囲に形成した取付孔23を介して図示省略の車軸に連結される。また、ハブ2の外周には、図2に示すように、各突片11に夫々対応させて、径方向内方に凹入し、各突片11を夫々受け入れる受入れ凹部24が形成されている。受入れ凹部24は、突片11の径方向に沿う両側面に略平行な受入れ面を有し、両受入れ面間の幅は、突片11の周方向の幅より僅かに大きく形成されている。更に、各受入れ凹部11の径方向内方には、この受入れ凹部24に連続させて後述の連結ピン3の胴体部が挿通されるピン挿入孔25が形成されている。この場合、ピン挿入孔24の径は、突片11の周方向の幅より大きく形成されている。
【0020】
付勢手段3は、ロータ1の突片11とハブ2とを軸方向に付勢することで両者をフローティング状態に連結するものであり、図3に示すように、一端が突片11及びハブ2の軸方向他方の面に当接する皿ばねから構成される。また、連結ピン4は、図3に示すように、筒状の胴体部41と、この胴体部41の一端側に設けられたフランジ部42とから構成され、本実施形態では、このフランジ部42が突片11及びハブ2の軸方向一方の面に当接して当該面側を係止する係止部を構成する。そして、連結ピン4の胴体部41をその他端側からピン挿入孔25に挿通し、ピン挿入孔25にからロータ1及びハブ2の軸方向他方の面側に突出する部分に皿ばね3とワッシャ5とを外挿し、胴体部41の他端をかしめる。これにより、胴体部41の他端側に、突片1及びハブ2の軸方向他方の面に一端が当接する皿ばね3の他端を受ける受け部が設けられ、この受け部はワッシャ5で構成される。以下に、ロータ1とハブ2との連結手順を説明する。
【0021】
ロータ1の各突片11がハブ2の各受入れ凹部24内に夫々位置するようにロータ1の内側にハブ2を配置する。次に、連結ピン4の胴体部41をその他端側からピン挿入孔25に夫々挿通し、係止部たるフランジ部42を突片11及びハブ2の軸方向一方の面に夫々当接させる。このとき、ハブ2に形成したピン挿入孔25で連結ピン4が位置決められる。そして、ピン挿入孔25からロータ1及びハブ2の軸方向他方の面側に突出する胴体部41の先端部分に皿ばね3とワッシャ5とを夫々外挿する。最後に、胴体部41の先端部分をかしめて、ロータ1とハブ2とが連結される。
【0022】
上記実施形態によれば、突片11がフランジ部42に当接するだけの長さを有していればよいため、上記従来例のものより突片11の長さを短く設計できる。その結果、突片11の肉厚を薄くしても十分な強度を有し、ブレーキ操作時、連結ピン4の胴体部41には周方向の荷重が作用せず、この胴体部41を小径にできることと相俟って、軽量化を図ることができる。なお、突片11が正面視矩形の輪郭を有していれば、ハブ2の凹部24の受入れ面との接触面積が大きくなるため、突片11の長さを更に短くして、更なる軽量化を図ることもできる。また、皿ばね3の大部分はハブ2の軸方向の面と接触しているため、その安定感が良好となる。更に、上記従来例とは異なり、簡単な形状の連結ピン4を用いてロータ1とハブ2とを連結するため、低コストであり、しかも、既存の設備を用いてその連結作業も簡単に行うことができ、有利である。また、受け部をワッシャ5で構成したため、少ないかしめ量でロータ1の突片11とハブ2とを抜け止めする構成を実現できる。
【0023】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して説明したが、本発明は上記のものに限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、受入れ凹部24とピン挿入孔25とを連続して形成したものを例に説明したが、図4に示すように、受入れ凹部24とピン挿入孔25とはハブ2に互いに独立かつ隣接させて形成してもよい。これによれば、受入れ凹部24に周方向の荷重が作用し、受入れ凹部24が拡がられる力に抗する強度を増加させることができてよい。なお、受入れ凹部24とピン挿入孔25とを連続して形成したものの場合であっても、受入れ凹部24に、周方向の架け渡し部(図示せず)を形成し、受入れ凹部24が拡がられる力に抗する強度を増加させるようにしてもよい。
【0024】
また、連結ピン4の胴体部41を中実のものとすることができる。これによれば、小径の連結ピンでも十分な強度が得られ、有利である。更に、上記実施形態では、フランジ部42が突片11及びハブ2の軸方向一方の面に当接して当該面側を係止する係止部を構成するものを例に説明したが、上記にものに限定されるものではなく、突片11及びハブ2の軸方向一方の面とフランジ部42との間にワッシャを設け、このワッシャが係止部を構成するようにしてもよい。更に、上記実施形態では、ピン挿入孔24からロータ1及びハブ2の軸方向他方の面側に突出する胴体部41の先端部分に皿ばね3とワッシャ5とを夫々外挿するものを例に説明したが、ロータ1及びハブ2の軸方向他方の面と皿ばね3との間にも他のワッシャを設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0025】
BD…ブレーキディスク、1…ロータ、11…突片、2…ハブ、24…受入れ凹部、25…ピン挿入孔、3…皿ばね(付勢手段)、4…連結ピン、41…胴体部、42…フランジ部(係止部)、5…ワッシャ(受け部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のロータと、このロータの内側に配置されるハブとを備え、軸方向に付勢力を付与する付勢手段を介してロータとハブとを連結ピンにより連結してなるフローティング型ブレーキディスクであって、
前記ロータの内周縁部に、径方向内方にのびる舌片状の突片が周方向に所定間隔で複数形成され、前記ハブの外周縁部に、前記突片に夫々対応させて、径方向内方に凹入し、前記突片を受け入れる受入れ凹部が形成されるものにおいて、
前記連結ピンが、胴体部とこの胴体部の一端側に設けられて突片及びハブの軸方向一方の面側を係止する係止部とを有し、前記各受入れ凹部の径方向内方に、この受入れ凹部に隣接させて連結ピンの胴体部が挿通されるピン挿入孔が形成され、胴体部の他端側に、突片及びハブの軸方向他方の面に一端が当接する前記付勢手段の他端を受ける受け部が設けられることを特徴とするフローティング型ブレーキディスク。
【請求項2】
前記受け部は、その胴体部の他端側に外挿するワッシャで構成され、胴体部の他端をかしめてワッシャを抜け止めすることを特徴とする請求項1記載のフローティング型ブレーキディスク。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のフローティング型ブレーキディスクであって、前記受入れ凹部とピン挿入孔とが連続して形成されるものにおいて、ピン挿入孔の径を、前記突片の周方向の幅より大きく設定することを特徴とする請求項1または請求項2記載のフローティング型ブレーキディスク。
【請求項4】
前記連結ピンを中実のものとすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のフローティング型ブレーキディスク。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−53738(P2013−53738A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194327(P2011−194327)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000138521)株式会社ユタカ技研 (134)
【Fターム(参考)】