説明

ブドウ球菌感染症を治療および予防するための、α毒素の使用

黄色ブドウ球菌(S. aureus)α毒素抗原および薬学的に許容される担体を含むワクチンが提供され、該ワクチンは感染症を治療および予防するのに有用である。黄色ブドウ球菌α毒素抗原は、毒性を減少させる少なくとも2つの改変を含有してもよく、および/または別の細菌抗原に抱合されてももしくは同時投与されてもよい。ワクチンは、一つまたは複数の他の細菌抗原を含んでもよい。α毒素、および任意で一つまたは複数の他の細菌抗原に対する抗体を含む抗体組成物もまた提供され、該組成物は感染症を治療および予防するのに有用である。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2006年12月18日に出願された米国仮出願第60/875,363号、および2006年6月12日に出願された米国仮出願第60/812,598号の優先権の恩典を主張し、これら出願の全内容は、参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
本発明は、細菌感染の治療および予防に関する。特に、本発明は、α毒素を産生するものなどのメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus (S. aureus))株に関連する感染を含めて、黄色ブドウ球菌および他の細菌感染を治療し、かつ予防するための組成物および方法を提供する。
【0003】
しばしば「黄色ブドウ球菌(staph)」、「黄色ブドウ球菌(Staph. aureus)」、または「黄色ブドウ球菌(S. aureus)」と称される黄色ブドウ球菌細菌は、通常、健康なヒトの鼻および皮膚にコロニー形成する。任意の所定の時点で、人口のおよそ20〜30%が、黄色ブドウ球菌でコロニー形成されている。これらの細菌は、健康な個体において、しばしば、吹き出物および腫れ物などの重要でない感染を引き起こすが、全身性の感染もまた引き起こす。これらは日和見病原体と見なされる。通常、粘膜および表皮バリア(皮膚)が黄色ブドウ球菌感染に対して防御する。やけど、外傷または外科的処置などの傷害の結果として、これらの天然のバリアが妨げられると、感染のリスクが劇的に増加する。免疫系を損なう疾患(例えば糖尿病、末期腎疾患、癌)もまた、感染のリスクを増加させる。日和見黄色ブドウ球菌感染は、かなり深刻になる可能性もあり、しばしば深刻な病的状態または死亡を生じる、心内膜炎、菌血症および骨髄炎を引き起こす。
【0004】
黄色ブドウ球菌は、莢膜多糖およびタンパク質毒素を含む、いくつかの病原性因子を発現する。1つの重要な病原性因子は、黄色ブドウ球菌の大部分の病原性株によって産生される、孔形成性でかつ溶血性のエキソタンパク質、α毒素(α溶血素)である。ヒト白血球、赤血球、血小板および内皮細胞は、α毒素の溶血効果に特に感受性であることが研究によって示されてきている。こうした研究は、ヒト病理生理学へのα毒素の関連性を確立する。
【0005】
抗α毒素免疫は、毒素の有害な効果に対して防御することが示されてきているが、α毒素に対するワクチンの設計は、かなりの難問であり続けている。これは、防御免疫応答を誘導する必要性と、毒素の生物学的活性に関連する疾病が引き起こされるのを回避する必要性とのバランスを取らなければならないためである。α毒素の化学的および分子修飾は、その毒性を減少させ得る一方、α毒素の毒性を完全に除去する、単一の報告される修飾はない。さらに、修飾α毒素が、先のより毒性の状態に戻り得る真のリスクも存在する。このため、任意の単発に修飾されたα毒素は、ヒトワクチンで使用するのに不適切となる。
【0006】
したがって、当技術分野において、α毒素および黄色ブドウ球菌細菌に対して、安全に免疫を与え得る組成物および方法に対する必要性が当技術分野において依然としてある。本発明はこのおよび他の必要性を満たす。
【発明の概要】
【0007】
発明の概要
本発明は、黄色ブドウ球菌感染症を治療するためのワクチン、黄色ブドウ球菌感染症を治療および予防する方法、静脈内免疫グロブリン(IVIG)組成物(を含む)抗体組成物、ならびに抗体組成物を作製する方法を提供する。
【0008】
1つの態様において、(i)黄色ブドウ球菌5型抗原、(ii)黄色ブドウ球菌8型抗原、(iii)黄色ブドウ球菌336抗原、(iv)黄色ブドウ球菌α毒素抗原、および(v)ブドウ球菌ロイコシジン抗原を含む、五価ブドウ球菌抗原組成物を提供する。1つの態様において、ブドウ球菌抗原の少なくとも1つは防御抗原である。1つの態様において、黄色ブドウ球菌α毒素抗原は、5型抗原、8型抗原、336抗原、またはロイコシジン抗原の少なくとも1つに抱合されている。
【0009】
1つの態様において、α毒素抗原は、野生型黄色ブドウ球菌α毒素に比較してその毒性を減少させる少なくとも2つの改変を含有する。1つの態様において、ブドウ球菌ロイコシジン抗原は、Panton-Valentineロイコシジン(PVL)抗原サブユニットおよびγ溶血素サブユニット抗原からなる群より選択される。1つの態様において、ブドウ球菌ロイコシジン抗原は、(i)黄色ブドウ球菌PVLのLukF-PVサブユニット、(ii)黄色ブドウ球菌PVLのLukS-PVサブユニット、(iii) HlgA黄色ブドウ球菌γ溶血素サブユニット、(iv) HlgB黄色ブドウ球菌γ溶血素サブユニット;(v) HlgC黄色ブドウ球菌γ溶血素サブユニット、(vi)黄色ブドウ球菌由来のLukD、(vii)黄色ブドウ球菌由来のLukE、(viii)黄色ブドウ球菌由来のLukM、(ix)黄色ブドウ球菌PVLのLukF’-PVサブユニット、(x) S.インターメディウス(S. intermedius)由来のLukF-Iサブユニット;および(xi) S.インターメディウス由来のLukS-Iサブユニットからなる群より選択される。1つの態様において、組成物は、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis) PS1、表皮ブドウ球菌GP1、リポテイコ酸(LTA)および接着性マトリックス分子を認識する微生物表面成分(MSCRAMM)タンパク質、ならびにその組み合わせからなる群より選択される、ブドウ球菌抗原などの、一つまたは複数のさらなる細菌抗原をさらに含む。
【0010】
別の態様において、野生型黄色ブドウ球菌α毒素に比較してその毒性を減少させる少なくとも2つの改変を含有する、黄色ブドウ球菌α毒素抗原、および薬学的に許容される担体を含む、組成物を提供する。1つの態様において、改変の少なくとも1つは化学的改変である。別の態様において、改変の少なくとも1つは分子改変である。さらに別の態様において、改変の少なくとも1つは化学的改変であり、かつ少なくとも1つは分子改変である。
【0011】
1つの態様において、分子改変は、野生型黄色ブドウ球菌α毒素のアミノ酸配列における置換、挿入または欠失である。1つの態様において、分子改変は、野生型黄色ブドウ球菌α毒素のアミノ酸配列における置換である。1つの態様において、置換は、野生型黄色ブドウ球菌α毒素のHis-35に対応する位置で生じる。1つの態様において、置換は、Hisに対するArg、Lys、Ala、Leu、またはGluの置換である。1つの態様において、分子改変は、野生型黄色ブドウ球菌α毒素のアミノラッチ(latch)ドメインにおける置換、挿入または欠失である。1つの態様において、分子改変は、野生型黄色ブドウ球菌α毒素のアミノラッチドメインにおける欠失である。1つの態様において、分子改変は、野生型黄色ブドウ球菌α毒素のステムドメインにおける欠失である。
【0012】
別の態様において、(i)黄色ブドウ球菌α毒素抗原および(ii)該黄色ブドウ球菌α毒素抗原以外の一つまたは複数のさらなる細菌抗原を含む、組成物を提供する。1つの態様において、一つまたは複数のさらなる細菌抗原の少なくとも1つは、黄色ブドウ球菌5型、黄色ブドウ球菌8型、黄色ブドウ球菌336、ブドウ球菌ロイコシジン抗原、表皮ブドウ球菌PS1、表皮ブドウ球菌GP1、リポテイコ酸(LTA)、および接着性マトリックス分子を認識する微生物表面成分(MSCRAMM)タンパク質、ならびにその組み合わせからなる群より選択されるさらなるブドウ球菌抗原である。1つの態様において、さらなるブドウ球菌抗原は防御抗原である。1つの態様において、黄色ブドウ球菌α毒素抗原は、一つまたは複数のさらなる細菌抗原の少なくとも1つに抱合されている。1つの態様において、α毒素抗原は、野生型黄色ブドウ球菌α毒素に比較してその毒性を減少させる少なくとも2つの改変を含有する。
【0013】
別の態様において、任意の前述の抗原組成物をそれを必要とする被験体に投与する工程を含む、黄色ブドウ球菌感染を治療するかまたは予防するための方法を提供する。1つの態様において、方法は、バンコマイシン、リゾスタフィンまたはクリンダマイシンなどの、抗感染剤、抗生物質剤、および抗菌剤からなる群より選択される薬剤を投与する工程をさらに含む。1つの態様において、黄色ブドウ球菌感染は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌と関連する。1つの態様において、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌はα毒素を産生する。
【0014】
別の態様において、(i)任意の上述の組成物を被験体に投与する工程、(ii)該被験体から血漿を採取する工程、および(iii)該被験体から免疫グロブリンを精製する工程を含む、過免疫特異的静脈内免疫グロブリン(IVIG)調製物を作製する方法を提供する。
【0015】
別の態様において、(i)黄色ブドウ球菌5型抗原に特異的に結合する第一の抗体、(ii)黄色ブドウ球菌8型抗原に特異的に結合する第二の抗体、(iii)黄色ブドウ球菌336抗原に特異的に結合する第三の抗体、(iv)黄色ブドウ球菌α毒素抗原に特異的に結合する第四の抗体、および(v)ブドウ球菌ロイコシジン抗原に特異的に結合する第五の抗体を含む、五価ブドウ球菌抗体組成物を提供する。1つの態様において、第一から第五の抗体の少なくとも1つはモノクローナル抗体である。1つの態様において、第一から第五の抗体の少なくとも1つは中和抗体である。1つの態様において、第五の抗体は、Panton-Valentineロイコシジン(PVL)抗原サブユニットおよびγ溶血素サブユニット抗原からなる群より選択されるブドウ球菌ロイコシジン抗原に特異的に結合する。1つの態様において、第五の抗体は、(i)黄色ブドウ球菌PVLのLukF-PVサブユニット、(ii)黄色ブドウ球菌PVLのLukS-PVサブユニット、(iii) HlgA黄色ブドウ球菌γ溶血素サブユニット、(iv) HlgB黄色ブドウ球菌γ溶血素サブユニット;(v) HlgC黄色ブドウ球菌γ溶血素サブユニット、(vi)黄色ブドウ球菌由来のLukD、(vii)黄色ブドウ球菌由来のLukE、(viii)黄色ブドウ球菌由来のLukM、(ix)黄色ブドウ球菌PVLのLukF’-PVサブユニット、(x) S.インターメディウス由来のLukF-Iサブユニット;および(xi) S.インターメディウス由来のLukS-Iサブユニットからなる群より選択されるブドウ球菌ロイコシジン抗原に特異的に結合する。
【0016】
別の態様において、(i)黄色ブドウ球菌α毒素抗原に特異的に結合する第一の抗体、および(ii)該黄色ブドウ球菌α毒素抗原以外の細菌抗原に特異的に結合する、少なくとも1つの第二の抗体を含む、防御抗体組成物を提供する。1つの態様において、第一および第二の抗体の少なくとも1つはモノクローナル抗体である。1つの態様において、第一および第二の抗体の少なくとも1つは中和抗体である。1つの態様において、少なくとも1つの第二の抗体の少なくとも1つは、黄色ブドウ球菌5型、黄色ブドウ球菌8型、黄色ブドウ球菌336、ブドウ球菌ロイコシジン抗原、表皮ブドウ球菌PS1、表皮ブドウ球菌GP1、リポテイコ酸(LTA)、および接着性マトリックス分子を認識する微生物表面成分(MSCRAMM)タンパク質からなる群より選択されるさらなるブドウ球菌抗原に特異的に結合する。1つの態様において、少なくとも1つの第二の抗体の少なくとも1つは、Panton-Valentineロイコシジン(PVL)抗原サブユニットおよびγ溶血素サブユニット抗原からなる群より選択されるブドウ球菌ロイコシジン抗原に特異的に結合する。1つの態様において、少なくとも1つの第二の抗体の少なくとも1つは、(i)黄色ブドウ球菌PVLのLukF-PVサブユニット、(ii)黄色ブドウ球菌PVLのLukS-PVサブユニット、(iii) HlgA黄色ブドウ球菌γ溶血素サブユニット、(iv) HlgB黄色ブドウ球菌γ溶血素サブユニット;(v) HlgC黄色ブドウ球菌γ溶血素サブユニット、(vi)黄色ブドウ球菌由来のLukD、(vii)黄色ブドウ球菌由来のLukE、(viii)黄色ブドウ球菌由来のLukM、(ix)黄色ブドウ球菌PVLのLukF’-PVサブユニット、(x) S.インターメディウス由来のLukF-Iサブユニット;および(xi) S.インターメディウス由来のLukS-Iサブユニットからなる群より選択されるブドウ球菌ロイコシジン抗原に特異的に結合する。1つの態様において、組成物は、最適以下の量の第一の抗体および最適以下の量の第二の抗体を含む。
【0017】
1つの態様において、組成物は、(a)(i)黄色ブドウ球菌α毒素抗原および(ii)該黄色ブドウ球菌α毒素抗原以外の一つまたは複数のさらなる細菌抗原を、ヒト被験体に投与する工程、(b)該被験体から血漿を採取する工程、および(c)該被験体から免疫グロブリンを精製する工程を含む方法によって調製される。1つの態様において、方法は、一つまたは複数のさらなる細菌抗原の少なくとも1つに抱合されている黄色ブドウ球菌α毒素抗原を用いる。1つの態様において、方法は、野生型黄色ブドウ球菌α毒素に比較してその毒性を減少させる少なくとも2つの改変を含有する、黄色ブドウ球菌α毒素抗原を用いる。
【0018】
1つの態様において、組成物は、(a)黄色ブドウ球菌α毒素抗原および該黄色ブドウ球菌α毒素抗原以外のさらなる細菌抗原を投与されたことがないヒト被験体をスクリーニングする工程、(b)該被験体から血漿を採取する工程、および(c)該被験体から免疫グロブリンを精製する工程を含む方法によって調製される。
【0019】
別の態様において、任意の前述の抗体組成物をそれを必要とする被験体に投与する工程を含む、黄色ブドウ球菌感染を治療するかまたは予防するための方法を提供する。1つの態様において、バンコマイシン、リゾスタフィンまたはクリンダマイシンなどの、抗感染剤、抗生物質剤、および抗菌剤からなる群より選択される薬剤を投与する工程をさらに含む。1つの態様において、黄色ブドウ球菌感染は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌と関連する。1つの態様において、黄色ブドウ球菌感染はα毒素を産生する。
【0020】
別の態様において、(i)ブドウ球菌ロイコシジン抗原または(ii)ブドウ球菌ロイコシジン抗原に特異的に結合する抗体を含む組成物を、それを必要とする患者に投与する工程を含む、黄色ブドウ球菌PVL感染を中和する方法を提供する。
【0021】
別の態様において、(i)黄色ブドウ球菌PVL抗原サブユニットまたは(ii)黄色ブドウ球菌PVL抗原サブユニットに特異的に結合する抗体を含む組成物を、それを必要とする被験体に投与する工程を含む、ブドウ球菌ロイコシジン感染を中和する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ウサギ・ポリクローナル抗ALD/H35Kを用いたα毒素タンパク質の免疫拡散法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
詳細な説明
本発明は、黄色ブドウ球菌感染を治療するためのワクチン、黄色ブドウ球菌感染を治療し、かつ予防するための方法、抗体組成物(IVIG組成物を含む)、および抗体組成物を作製する方法を提供する。本発明のこれらの局面を論じる際に、「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」の使用は、別に明記しない限り、「一つまたは複数」を意味する。
【0024】
細菌多糖(PS)は、T細胞非依存性抗原であり、かつそのようなものとして、単独で投与された際、未処置の集団および幼い小児においては、有意なレベルの抗体を誘発しない、すなわち既往の免疫応答を誘発しないことが一般的に認識される。大部分の細菌多糖と同様、単独の表皮ブドウ球菌PS1(タンパク質に抱合されていない)は、特異的抗体免疫応答を誘発しない。しかし、タンパク質(PR)に多糖を化学的に抱合することによって、多糖は、免疫学的記憶および長期持続性IgG応答などのT細胞依存性抗原の特性を獲得する。タンパク質が、PS-PR抱合体ワクチンにおいてタンパク質担体として機能するのに適切であるかどうかは、通常、PSに特異的な抗体応答を測定することによって評価される。
【0025】
本明細書に記載のPS1-rALD/H35K抱合体の場合、タンパク質担体、rALD/H35Kは、臨床的に重要な抗原であり、かつrALD/H35Kに特異的な抗体は、天然α毒素を中和し得る。したがって、PS1-rALD/H35Kによって誘導される抗α毒素抗体応答の大きさは、臨床的に重要である。
【0026】
ワクチン組成物
本発明は、黄色ブドウ球菌α毒素抗原を含むワクチンを提供する。本明細書において用いた際、「黄色ブドウ球菌α毒素抗原」または「α毒素抗原」は、全長黄色ブドウ球菌α毒素およびその断片を含む、黄色ブドウ球菌α毒素の抗原性部分を含む、任意の分子を指す。本発明で使用するのに適した黄色ブドウ球菌α毒素の断片は、野生型黄色ブドウ球菌α毒素に類似の抗原特性を所持する。例えば、こうした抗原は、野生型黄色ブドウ球菌α毒素に特異的に結合する抗体を誘導する。黄色ブドウ球菌α毒素抗原は、長さ約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290または300アミノ酸であってもよい。黄色ブドウ球菌α毒素抗原は、野生型黄色ブドウ球菌α毒素の約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280または290の連続アミノ酸を含んでもよい。この長さに渡って、黄色ブドウ球菌α毒素抗原のアミノ酸配列は、野生型黄色ブドウ球菌α毒素(SEQ ID NO: 1)のアミノ酸配列または黄色ブドウ球菌α毒素の対応する部分に、約10、20、30、40、50、60、70、75、80、85、90、95または100パーセント同一であってもよい。
【0027】
黄色ブドウ球菌α毒素抗原は、組換え抗原であってもよく、これは抗原が組換えDNA方法論によって作製されたことを意味する。こうした組換えDNA方法論は当技術分野に周知である。組換え黄色ブドウ球菌α毒素抗原は、一般的に、野生型黄色ブドウ球菌α毒素が天然状態で会合している他のタンパク質および細胞成分(すなわちブドウ球菌細胞中に存在するタンパク質および細胞成分)を含まない。黄色ブドウ球菌α毒素抗原を作製するための例示的な組換え宿主は大腸菌(E. coli)である。抗原をまず大腸菌細胞中で発現させ、かつ次いで、例えばアフィニティーカラムクロマトグラフィーを用いて、大腸菌から精製してもよい。
【0028】
本発明で有用な黄色ブドウ球菌α毒素抗原は、野生型黄色ブドウ球菌α毒素に比較して、一つまたは複数のアミノ酸挿入、置換または欠失を含んでもよい。例えば、黄色ブドウ球菌α毒素配列内の一つまたは複数のアミノ酸残基を、機能的同等物として作用する、類似の極性の別のアミノ酸によって置換して、サイレント改変を生じてもよい。抗原内の置換は、そのアミノ酸が属するクラスの他のメンバーから選択してもよい。例えば、非極性(疎水性)アミノ酸には、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファンおよびメチオニンが含まれる。極性中性アミノ酸には、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、およびグルタミンが含まれる。正荷電(塩基性)アミノ酸には、アルギニン、リジンおよびヒスチジンが含まれる。負荷電(酸性)アミノ酸には、アスパラギン酸およびグルタミン酸が含まれる。あるいは、非保存的アミノ酸改変を行ってもよく、これには黄色ブドウ球菌α毒素抗原を解毒するのに関連して以下により詳細に論じられる改変が含まれる。したがって、いくつかの態様において、黄色ブドウ球菌α毒素抗原に対して、これを解毒する非保存的アミノ酸変化が行われる。
【0029】
本発明にしたがって、その毒性を減少させるために、野生型黄色ブドウ球菌α毒素抗原に比較して、黄色ブドウ球菌α毒素抗原が改変される。1つの態様において、抗原は、野生型抗原に比較して、少なくとも2つの改変を含有する。この態様は毒性を最小限にし、かつまた抗原がより毒性の状態に戻るリスクを減少させる。例えば、抗原は、2、3、4、5〜10、10〜15、15〜20またはそれ以上の改変を含有してもよい。改変は「化学的改変」であってもよいし、「分子改変」であってもよいし、または化学的および分子改変の組み合わせであってもよい。改変の数を計数する上で、単一のアミノ酸またはアミノ酸の隣接配列の化学的または分子修飾は、単一の改変と見なされる。したがって、2つまたはそれ以上の隣接アミノ酸の欠失、置換または挿入は、本明細書で用いられる際、「単一の改変」である。
【0030】
「化学的改変」は、黄色ブドウ球菌α毒素抗原の化学的処理、または別の部分への黄色ブドウ球菌α毒素抗原の抱合によって達成される修飾を指す。例えば、黄色ブドウ球菌α毒素中のヒスチジンのジエチルピロカーボネートでの化学的修飾は、α毒素の溶血活性を減少させることが公知である。他の分子への黄色ブドウ球菌α毒素の抱合もまた、α毒素の溶血活性を減少させる。1つの態様において、他の分子は、細菌多糖または細菌糖タンパク質などの、別の細菌抗原である。細菌抗原は黄色ブドウ球菌抗原であってもよいし、または他の細菌種に由来してもよい。例示的な細菌抗原には、黄色ブドウ球菌5型、黄色ブドウ球菌8型、黄色ブドウ球菌336、表皮ブドウ球菌PS1、表皮ブドウ球菌GP1、PVL(個々のPVLサブユニット、LukS-PVおよびLukF-PVを含む)およびγ溶血素サブユニット(HlgA、HlgB、およびHlgC)、黄色ブドウ球菌由来のLukD、黄色ブドウ球菌由来のLukE、黄色ブドウ球菌由来のLukM、黄色ブドウ球菌のLukF’-PV、S.インターメディウス由来のLukF-Iサブユニット、またはS.インターメディウス由来のLukS-Iサブユニットなどのロイコシジン、リポテイコ酸(LTA)、ならびに接着性マトリックス分子を認識する微生物表面成分(MSCRAMM)タンパク質が含まれる。したがって、本発明のワクチンは、α毒素抗原-5型抱合体、α毒素抗原-8型抱合体、α毒素抗原-336型抱合体、α毒素-PVL抱合体、α毒素抗原-PS1抱合体、α毒素抗原-GP1抱合体、α毒素LTA抱合体、またはα毒素-MSCRAMM抱合体を含んでもよい。同様に、本発明のワクチンは、別の細菌多糖、別のグラム陽性細菌抗原またはグラム陰性細菌抗原などの、別の分子への抱合によって、改変され、かつ解毒されている、α毒素抗原を含んでもよい。
【0031】
「分子改変」は、黄色ブドウ球菌α毒素のアミノ酸配列中の修飾を指す。修飾は、一つまたは複数のアミノ酸の挿入、欠失または置換であってもよい。分子改変は、黄色ブドウ球菌α毒素の任意の部分で生じてもよい。1つの態様において、アミノラッチドメインが分子的に修飾される。例えば、アミノラッチドメインの一部または全アミノラッチドメイン(Ala1-Val20)を欠失させ、それによってα毒素抗原を解毒してもよい。別の態様において、ステムドメイン(Lys110-Tyr148)が分子的に修飾される。例えば、ステムドメインの一部または全ステムドメインを欠失させてもよい。別の態様において、三角形領域を形成するアミノ酸残基(Pro103-Thr109およびVal149-Asp152)が分子的に修飾される。別の態様において、キャップドメインが分子的に修飾される。別の態様において、リムドメインが分子的に修飾される。別の態様において、His35、His48、His144およびHis259などの一つまたは複数のヒスチジン残基が修飾される。His35の修飾が例示的である。例えば、修飾は、His35Lys、His35Arg、His35Ala、His35LeuまたはHis35Glu置換であってもよい。His35Lys置換が1つの特定の態様である。修飾され得る他の例示的な残基には、Asp24、Lys37、Lys58、Asp100、Ile107、Glu111、Met113、Asp127、Asp128、Gly130、Gly134、Lys147、Gln150、Asp152、Phe153、Lys154、Val169、Asn173、Arg200、Asn214およびLeu219が含まれる。
【0032】
元来のKunkel法(Kunkel, TA, Proc. Acad. Sci., USA, 82:488-492 (1985))によって一本鎖テンプレートを、または二本鎖DNAテンプレート(Papworth et al, Strategies, 9(3):3-4 (1996))を用いる、プラスミドテンプレートに対するプライマー伸長を含む当技術分野に周知の方法によって、およびPCRクローニング(Braman,J. (ed.), IN VITRO MUTAGENESIS PROTOCOLS, 2nd ed. Humana Press, Totowa, NJ (2002), Ishii et al., Meth. Enzymol., 293,, 53-71 (1998), Kammann et al, Nucleic Acids Res., 17:5404 (1989), Hemsley et al, Nucleic Acids Res., 17:6545-6551 (1989), Giebel et al., Nucleic Acids Res., 18:4947 (1990), Landt et al, Gene, 96:125-128 (1990), Stemmer et al., BioTechniques, 13:214-220 (1992), Marini et al. , Nucleic Acids Res., 21 :2277-2278 (1993), およびWeiner et al, Gene, 151 :119-123 (1994))によって、分子改変を達成してもよい。
【0033】
改変が黄色ブドウ球菌α毒素抗原の毒性を減少させるかどうかを決定する方法は当技術分野に公知である。α毒素は、膜に浸透し、細胞成分の迅速な放出を引き起こす。したがって、孔形成および有核細胞死は、慣用的な色素排除試験によって、ヨウ化プロピジウムもしくは臭化エチジウムなどの蛍光色素の取り込みを測定することによって、またはATP漏出を測定することによって、好適に記録可能である。α毒素毒性を測定するのに有用な技術には、光学または蛍光顕微鏡法、フローサイトメトリー、および蛍光光度法が含まれる。
【0034】
Bernheimerは、毒性を測定するのに赤血球を用いる溶血アッセイを記載した(Bernheimer, A.W., Methods Enzymol., 165: 213-217 (1988))。溶血力価を決定するための標準法は、連続希釈した毒素に赤血球懸濁物を添加することである。室温で1時間以内に50%の溶解を誘発する希釈の逆数は、タンパク質ミリグラムあたりで表され得る溶血単位(HU)数となる。精製α毒素の比活性は、2.5%赤血球懸濁物(2.5×108細胞/ml)の1体積の添加によって評価した際、40,000 HU/mgタンパク質の範囲である。インキュベーション時間を延長すると溶血力価はより高く、かつ室温で4時間後に50,000〜100,000 HU/mgに達する。
【0035】
他の分子に黄色ブドウ球菌α毒素抗原を抱合すると、α毒素抗原の溶血活性が減少するだけでなく、他の分子に対する免疫応答の誘導も可能になる。実際、黄色ブドウ球菌α毒素抗原に分子を抱合すると、分子の抗原性プロフィールが改善されるか、または分子に対する免疫応答の強度が増加し得る。これは、それ自体では持続性の強力な免疫応答を誘導することが不能な、ペプチドおよびオリゴ糖などの低分子量分子に関して特に当てはまる。したがって、黄色ブドウ球菌α毒素抗原は、有効な担体タンパク質として機能する。これらは、細菌抗原には特に有用な担体である。
【0036】
したがって、本発明のいくつかの態様において、黄色ブドウ球菌α毒素抗原を、別の分子に抱合する。1つの態様において、他の分子は、細菌多糖または細菌糖タンパク質などの別の細菌抗原である。細菌抗原は黄色ブドウ球菌抗原であってもよいし、または別の細菌種に由来してもよい。例示的な細菌抗原には、黄色ブドウ球菌5型、黄色ブドウ球菌8型、黄色ブドウ球菌336、LukS-PVおよびLukF-PVなどのPanton-Valentineロイコシジン(PVL)抗原、HlgA、HlgB、およびHlgCなどのγ溶血素サブユニット抗原などのロイコシジン、ならびに黄色ブドウ球菌由来のLukMおよびLukF’-PV、黄色ブドウ球菌由来のLukEおよびLukD、S.インターメディウス由来のLukS-IおよびLukF-Iなどの他のロイコシジン、表皮ブドウ球菌PS1、表皮ブドウ球菌GP1、LTA、ならびにMSCRAMMが含まれる。
【0037】
したがって、本発明のワクチンは、α毒素抗原-5型抱合体、α毒素抗原-8型抱合体、α毒素抗原-336型抱合体、α毒素抗原-PS1抱合体、α毒素-PVL抱合体などのα毒素-ロイコシジン抱合体、α毒素抗原-GP1抱合体、α毒素-LTA抱合体、またはα毒素-MSCRAMM抱合体を含んでもよい。1つの態様において、他の抗原は防御抗原であり、例えば抗原は中和抗体を誘導する。
【0038】
細菌抗原などの別の分子に黄色ブドウ球菌α毒素抗原を抱合する方法が当技術分野で利用可能である。例えば、PS1、5型または8型抗原を、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)によって活性化して、システアミン誘導体を形成してもよい。α毒素をN-スクシンイミジル-3-(-2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)で修飾し、かつ次いで、チオール置換を介してPS1のシステアミン誘導体に抱合する。生じた抱合体を、サイズ排除クロマトグラフィーによって、抱合されていない抗原から分離してもよい。
【0039】
別の態様において、例えば、臭化シアンまたは1-シアノ-4-ジメチルアミノ-ピリジニウムテトラフルオロボレートを用いて336抗原上のヒドロキシル基を活性化して、かつ求核基を含有するリンカーを通じてまたはリンカーを用いずに、α毒素抗原に結合することによって、336抗原に黄色ブドウ球菌α毒素抗原を抱合する。次いで、生じた抱合体を、抱合されていない抗原から分離してもよい。
【0040】
別の態様において、例えば、EDC促進性反応を介して、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)でPS1を修飾して、PS1のアジピン酸ヒドラジド誘導体(PS1AH)を調製することによって、PS1抗原に黄色ブドウ球菌α毒素抗原を抱合する。次いで、黄色ブドウ球菌α毒素抗原をスクシニル化して、かつα毒素抗原のスクシン誘導体を、EDCによって仲介される工程で、PS1AHに抱合する。
【0041】
他の有用な抱合法もまた、当技術分野に公知であり、例えば過ヨウ素酸酸化後の還元性アミン化、カルボジイミド処理、およびこうした方法の組み合わせがある。こうした方法は、α毒素担体への分子の直接のまたは間接的な(リンカーを通じた)共有結合を提供し得る。α毒素担体への分子の抱合に用いる方法に関わらず、担体への分子の共有結合は、分子をT細胞非依存性抗原から、T細胞依存性抗原に変換し得る。結果として、抱合体は、免疫動物において分子特異的抗体応答を誘発し、これは分子単独の投与に際してこうした応答がないことと対照的である。
【0042】
本発明のワクチンはまた、薬学的に許容される担体も含んでもよい。薬学的に許容される担体は、ワクチン投与に関連して、その物質が不活性であるかまたはそうでなければ医学的に許容され得ると共に、活性剤と適合することから、抗原のビヒクルとして使用可能な物質である。適切な賦形剤に加えて、薬学的に許容される担体は、希釈剤、アジュバントおよび他の免疫刺激剤、酸化防止剤、保存剤ならびに可溶化剤のような慣用的なワクチン添加物を含有してもよい。例えば、ポリソルベート80を添加して、凝集を最小限にし、および安定化剤としても作用させてもよく、ならびにpH調節のために緩衝剤を添加してもよい。
【0043】
ワクチンを作製するための方法が当技術分野に一般的に公知である。例えば、Di Tommaso et al., Vaccine, 15:1218-24 (1997)、ならびにFattom et al., Infect, and Immun. 58:2367-2374 (1990)および64:1659-1665 (1996)を参照されたい。本明細書記載のワクチンは、比較的容易に、かつ組成を歪めることなく、アジュバントの添加を可能にする。さらに、本発明のワクチンは、投与部位での抗原性物質の滞留を増加させる「デポー」成分を含むように製剤化してもよい。例えば、アジュバント(用いられる場合)に加えて、ミョウバン(水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウム)、QS-21、硫酸デキストランまたはミネラルオイルを添加して、このデポー効果を提供してもよい。
【0044】
上述のように、本発明のワクチンは、黄色ブドウ球菌α毒素抗原以外の一つまたは複数の細菌抗原を含んでもよい。他の細菌抗原を黄色ブドウ球菌α毒素抗原に抱合してもよいし、同じ組成物の別個の成分として黄色ブドウ球菌α毒素抗原と同時投与してもよいし、またはα毒素抗原の投与前、投与中もしくは投与後に、完全に別個の組成物の一部として投与してもよい。いかなる場合であっても、他の細菌抗原は、黄色ブドウ球菌抗原および他の細菌種由来の抗原の両方を含む、細菌多糖または細菌糖タンパク質などの、先に記載したものの1つであってもよい。1つの態様において、他の細菌抗原は、中和抗体を誘導する防御抗原である。
【0045】
したがって、他の細菌抗原は、Fattom et al., Infec. and Immun., 58:2367-2374 (1990)およびFattom et al., Infec. and Immun., 64:1659-1665 (1996)に記載される5型および8型抗原であってもよい。他の細菌抗原はまた、米国特許第5,770,208号;第6,194,161号;第6,537,559号に記載される黄色ブドウ球菌336抗原、もしくは米国特許第5,770,208号および第6,194,161号に記載されるブドウ球菌336抗原、またはこれらに対する抗体であってもよい。さらに他の黄色ブドウ球菌抗原が当技術分野に知られ、かつ本発明によって含まれる。例えば、Adams et al., J. Clin. Microbiol., 26:1175-1180 (1988), Rieneck et al., Biochim. Biophys. Acta., 1350:128-132 (1977)およびO'Riordan et al., Clin. Microbiol. Rev., 17: 218-34 (2004)を参照されたい。例えば、個々のサブユニットLukF-PVおよびLukS-PVを含むPanton-Valentineロイコシジン(PVL)抗原が、本発明によって含まれる。
【0046】
同様に、本発明は、表皮ブドウ球菌抗原を含む。例えば、PS1とも称される表皮ブドウ球菌II型抗原が、米国特許第5,961,975号および第5,866,140号に開示される。この抗原は、ATCC 55254に対する抗血清を凝集させる表皮ブドウ球菌の単離体(II型単離体)の細胞を増殖させる工程を含むプロセスによって得られ得る酸性多糖抗原である。表皮ブドウ球菌GP1抗原は、公開された米国特許出願2005/0118190に記載される。GPlは、表皮ブドウ球菌、スタフィロコッカス・ヘモリチカス(Staphylococcus haemolyticus)、およびスタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)を含むブドウ球菌属の多くの凝固酵素陰性株に共通である。この抗原は、ATCC 202176として寄託された表皮ブドウ球菌株から得られ得る。
【0047】
本発明によって含まれるさらに別のブドウ球菌属抗原は、WO 00/56357に記載される。この抗原は、アミノ酸およびα配置にあるN-アセチル化ヘキソサミンを含み、O-アセチル基をまったく含有せず、かつヘキソースをまったく含有しない。これは、ATCC 202176のもとに寄託されたブドウ球菌属株に対する抗体と特異的に結合する。この抗原のアミノ酸分析によって、およそ39:25:16:10:7のモル比のセリン、アラニン、アスパラギン酸/アスパラギン、バリン、およびスレオニンの存在が示される。アミノ酸は、抗原分子重量の約32%を構成する。
【0048】
本発明にしたがって有用な他の抗原には、ロイコシジンが含まれる。ロイコシジン(例えば二成分ロイコトキシンとも称される)のクラスには、限定されるわけではないが、黄色ブドウ球菌由来のLukS-PV、LukM、黄色ブドウ球菌由来のHlgA(γ溶血素)、HlgC(γ溶血素)、LukE、LukS-I(S.インターメディウス由来)などのS成分、ならびに黄色ブドウ球菌由来のLukF-PV、LukF’-PV、HlgB(γ溶血素)、LukD、およびLukF-I(S.インターメディウス由来)などのF成分が含まれる。本発明は、本明細書記載のSおよびF成分の一つまたは複数を含む、ロイコシジン属の任意の種の使用を含む。
【0049】
したがって、本発明には、α毒素抗原、一つまたは複数のさらなる細菌抗原、および薬学的に許容される担体を含む組成物が含まれ、α毒素抗原および一つまたは複数のさらなる細菌抗原は、別個に提供され得るか、またはα毒素抗原は、一つまたは複数のさらなる細菌抗原に抱合されている。
【0050】
1つの態様は、例えば中和抗体を誘導するのに有用な毒素調製物に関する。例示的な抗毒素調製物は、(i)黄色ブドウ球菌α毒素抗原;(ii)黄色ブドウ球菌α毒素抗原およびPanton-Valentineロイコシジン(PVL)抗原などのロイコシジン;(iii)黄色ブドウ球菌α毒素抗原およびLukS-PVまたはLukF-PVなどの一つまたは複数のPVL抗原サブユニット;(i)、(ii)、または(iii)の任意の組み合わせ、およびα毒素抗原を含む他の毒素調製物を含み得る。1つの特定の態様において、毒素調製物は、α毒素、および少なくとも1つのPVLサブユニット、またはHlgA、HlgB、もしくはHlgCなどの少なくとも1つのγ溶血素サブユニットなどの、少なくとも一つのロイコシジン抗原を含む。
【0051】
別の態様は、オプソニン抗体を誘導可能なものなどの、オプソニン調製物に関する。例示的なオプソニン調製物は、α毒素抗原、および黄色ブドウ球菌5型、8型、または366などの一つまたは複数のオプソニン抗原を含んでもよい。オプソニン調製物はまた、PVL抗原、またはLukS-PVもしくはLukF-PVなどの一つもしくは複数のPVLサブユニットなどの、ロイコシジン抗原も含んでもよい。1つの特定の態様は、α毒素抗原、ロイコシジン抗原(PVLまたは一つもしくは複数のPVLサブユニットなどのPVL抗原など)、5型抗原、8型抗原、および336抗原を含む五価調製物を提供する。別の態様には、rLukS-PV抗原を含む抗原の五価の組み合わせがある。別の態様は、α毒素抗原、ロイコシジン抗原(HlgA、HlgBまたはHlgCなどの一つまたは複数のγ溶血素サブユニット抗原など)、5型抗原、8型抗原、および336抗原を含む五価調製物を提供する。
【0052】
1つの態様において、調製物は、例えば黄色ブドウ球菌感染を予防するのに有用な、表面抗原および毒素抗原両方を含む。こうした組成物は、α毒素抗原(例えばrALD/H35K)および/またはPVL抗原もしくはPVLサブユニット(例えばLukS-PV)もしくはγ溶血素サブユニット抗原などのロイコシジン抗原などの毒素抗原と組み合わされた、5型および/もしくは8型莢膜抗原ならびに/または336抗原などの表面多糖などの表面抗原を含んでもよい。1つの態様において、組成物は、(i)5型-rEPA抱合体、(ii)8型-rEPA抱合体、(iii)336-rEPA抱合体;および(iv)α毒素抗原rALD/H35Kを含む。別の態様において、組成物は、(i)5型-rEPA抱合体、(ii)8型-rEPA抱合体、(iii)336-rEPA抱合体;(iv)α毒素抗原rALD/H35K、および(v)rLukS-PVを含む。別の態様において、組成物は、(i)5型-rEPA抱合体、(ii)8型-rEPA抱合体、(iii)336-rEPA抱合体;(iv)α毒素抗原rALD/H35K、および(v) HlgA、HlgBまたはHlgCなどの一つまたは複数のγ溶血素サブユニット抗原を含む。
【0053】
いくつかの抗原が、他の抗原と関連する感染に対して交差反応性であり、かつ交差中和性であることが発見されてきている。したがって、例えば、LukS-PVまたはLukF-PVなどのPVLサブユニット抗原は、別のロイコシジン、γ溶血素と関連する感染を中和する抗体を誘導可能である。逆に、HlgA、HlgBおよび/またはHlgCなどのγ溶血素抗原は、PVLと関連する感染を中和する抗体を誘導し得る。したがって、本発明の1つの局面には、例えばγ溶血素感染に対して有用な、一つまたは複数のPVLサブユニット抗原を含む組成物が含まれる。本発明の別の局面には、例えばPVL感染に対して有用な、HlgA、HlgBまたはHlgCなどの一つまたは複数のγ溶血素抗原を含む組成物が含まれる。したがって、本発明には、異なるが交差反応性である抗原と関連する感染に対して有用である抗原の1つのタイプを含む組成物が含まれる。
【0054】
ワクチン組成物を用いた、感染症の治療および予防
本発明はまた、任意の上述のワクチンをそれを必要とする被験体に投与することによって、感染症を治療または予防する方法も提供する。本明細書記載の治療法および予防法の標的被験体集団には、黄色ブドウ球菌などの細菌病原体に感染したか、またはこうした病原体に感染するリスクがある、ヒトなどの哺乳動物が含まれる。いくつかの態様において、治療または予防すべき感染は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌に関連する。特定の態様において、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌は、α毒素を産生する。
【0055】
ワクチンを、上述のようなさらなる抗原と組み合わせて投与してもよい。例示的なさらなる抗原には、5型、8型および336抗原などの黄色ブドウ球菌莢膜多糖抗原ならびに当技術分野に公知の他の黄色ブドウ球菌が含まれる。例示的なさらなる抗原にはまた、PS1抗原またはGP1抗原などの表皮ブドウ球菌抗原、およびWO 00/56357に記載される抗原などの他のブドウ球菌属抗原も含まれる。他の例示的な抗原には、LukS-PVおよびLukF-PVなどのPanton-Valentineロイコシジン(PVL)抗原、HlgA、HlgBおよびHlgCなどのγ溶血素サブユニット抗原などのロイコシジン、ならびに黄色ブドウ球菌由来のLukMおよびLukF’-PV、黄色ブドウ球菌由来のLukEおよびLukD、ならびにS.インターメディウス由来のLukS-IおよびLukF-Iなどの他のロイコシジンが含まれる。上に示すように、一つまたは複数のさらなる抗原を黄色ブドウ球菌α毒素抗原ワクチン組成物とは別個に投与してもよいし、または黄色ブドウ球菌α毒素抗原ワクチン組成物中に含めてもよい。
【0056】
上述のいくつかの抗原の交差反応性および交差中和活性を考慮して、本発明には、異なるが交差反応性である抗原を含むワクチンを投与することによって、1つの抗原と関連する感染を中和する方法が含まれる。例えば、本発明には、HlgA、HlgBおよび/またはHlgCなどのγ溶血素抗原を含むワクチンを用いてPVL感染を中和する方法、ならびにLukF-PVおよびLukS-PVなどのPVLサブユニット抗原を含むワクチンを用いてγ溶血素感染を中和する方法が含まれる。
【0057】
本発明のワクチンの治療的にまたは予防的に有効な量は、当技術分野においてルーチンである方法によって決定可能である。当業者は、ワクチンの組成、特定の被験体の特徴、選択した投与経路、および治療または予防される細菌感染の性質によって量が変化し得ることを認識する。一般的な指針は、例えば、International Conference on Harmonizationの刊行物およびREMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES (Mack Publishing Company 1990)に見いだされ得る。典型的なワクチン投薬量の範囲は、抗原1μg〜400μgである。
【0058】
ワクチンはアジュバントを伴ってまたは伴わずに投与され得る。アジュバントを用いる場合、アジュバントが毒性を誘導するのを回避するように選択する。例えば、本発明にしたがったワクチンは、米国特許第6,355,625号に記載されるようなβグルカン、または顆粒球コロニー刺激因子を含んでもよい。
【0059】
静脈内、筋内または皮下投与可能な剤型を含む、任意の所望の剤型でワクチンをヒトに投与してもよい。単回用量で、または複数回投薬プロトコルにしたがって、ワクチンを投与してもよい。投与は、皮下、皮内、および静脈内を含む、任意の数の経路によってであってもよい。1つの態様において、筋内投与を用いる。当業者は、投与経路が治療または予防しようとする細菌感染、およびワクチンの組成に応じて変化することを認識する。
【0060】
併用療法において、抗感染剤、抗生物質剤、および/または抗菌剤と組み合わせて、ワクチンを投与してもよい。例示的な抗感染剤には、限定されるわけではないが、バンコマイシンおよびリゾスタフィンが含まれる。例示的な抗生物質剤および抗菌剤には、限定されるわけではないが、バンコマイシン、リゾスタフィン、ペニシリンG、アンピシリン、オキサシリン、ナフシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、セファロチン、セファゾリン、セファレキシン、セフラジン、セファマンドール、セフォキシチン、イミペネム、メロペネム、ゲンタマイシン、テイコプラニン、リンコマイシンおよびクリンダマイシンを含む、ペニシリナーゼ耐性ペニシリン、セファロスポリン、ならびにカルバペネムが含まれる。これらの抗生物質の投薬量は当技術分野に周知である。例えば、MERCK MANUAL OF DIAGNOSIS AND THERAPY, § 13, Ch. 157, 100th Ed. (Beers & Berkow, eds., 2004)が含まれる。抗感染剤、抗生物質剤および/または抗菌剤を投与前に組み合わせてもよいし、またはワクチン組成物と同時にもしくは連続して投与してもよい。
【0061】
抗体
本発明は、黄色ブドウ球菌α毒素抗原に特異的に結合する抗体(「α毒素抗体」)および別の細菌抗原に特異的に結合する抗体(「細菌抗原抗体」)を含む組成物をさらに提供する。黄色ブドウ球菌α毒素抗原および他の細菌抗原は、任意の天然に存在するα毒素もしくは他の細菌抗原であってもよく、または上述の任意の抗原であってもよい。抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体断片またはその任意の組み合わせであってもよい。抗体を薬学的に許容される担体と共に製剤化してもよい。
【0062】
用語「抗体」は、本明細書において用いた際、全長(すなわち天然に存在するか、または通常の免疫グロブリン遺伝子断片組換えプロセスによって形成される)免疫グロブリン分子(例えばIgG抗体)、または抗体断片を含めて、免疫グロブリン分子の免疫学的に活性である(すなわち特異的に結合する)部分であってもよい。「抗体」および「免疫グロブリン」は、本明細書において、同義で用いられる。抗体断片は、F(ab')2、F(ab)2、Fab'、Fab、Fv、sFv等の抗体の部分である。構造に関わらず、抗体断片は、全長抗体によって認識されるのと同じ抗原に結合し、かつ本発明と関連して、黄色ブドウ球菌α毒素抗原または別の細菌抗原に特異的に結合する。抗体断片を作製し、かつスクリーニングする方法は、当技術分野に周知である。
【0063】
本発明のα毒素抗体または細菌抗原抗体を、いくつかの異なる方法によって調製してもよい。例えば、黄色ブドウ球菌α毒素抗原および/または細菌抗原を投与した被験体から抗体を得てもよい。また、以下により詳細に論じるように、α毒素抗体および/または細菌抗原抗体に関してスクリーニングした血漿から抗体を得てもよい。いくつかの態様において、組換え法によって抗体を作製してもよい。組換えモノクローナル抗体を作製するための技術が当技術分野に周知である。免疫原として黄色ブドウ球菌α毒素抗原および/または細菌抗原を用いて、米国特許出願2002/0009453 (Haurum et al.)に記載されるものと類似の方法によって、組換えポリクローナル抗体を産生してもよい。
【0064】
本発明にしたがったα毒素抗体または細菌抗原抗体は、ネズミ、ヒトまたはヒト化抗体であってもよい。ヒト化抗体は、1つの種由来の抗体、例えば齧歯類、ウサギ、イヌ、ヤギ、ウマ、またはニワトリ抗体(または任意の他の適切な動物抗体)のCDRが、齧歯類抗体の重鎖および軽鎖可変鎖からヒト重鎖および軽鎖可変ドメイン内に移されている、組換えタンパク質である。抗体分子の定常ドメインは、ヒト抗体のもの由来である。ヒト化抗体を作製するための方法が当技術分野に周知である。
【0065】
慣用法によって上述の抗体を得てもよい。例えば、標準的な方法論によって、α毒素抗原および/または他の細菌抗原を被験体に投与し、ならびに被験体から採取した血漿から、生じたIgGを精製してもよい。抗体を得るのに用いる抗原は、任意の天然存在抗原、任意の上述の抗原、または当技術分野に公知の任意の他の抗原であってもよい。1つの態様において、α毒素抗体を得るのに用いる黄色ブドウ球菌α毒素抗原は、上記教示にしたがって無毒性となっている。
【0066】
抗体組成物
本発明には、抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物などの、投与に適した抗体組成物が含まれる。当技術分野に公知の方法によって、静脈内、筋内、皮下および経皮を含む任意の投与経路のために、抗体組成物を製剤化してもよい。1つの態様において、抗体組成物は、治療的または予防的に有効な量、すなわち治療的にまたは予防的に有益な効果を達成するのに十分な量の抗体を提供する。さらなる態様において、抗体は、感染を中和および/または感染に対する防御を提供する、防御抗体組成物である。
【0067】
1つの態様において、抗体組成物はIVIG組成物である。本明細書において用いた際、「IVIG」は静脈内投与に適した免疫グロブリン組成物を指す。IVIG組成物は、免疫グロブリンに加えて、薬学的に許容される担体を含有してもよい。IVIG組成物は、「特異的IVIG」であってもよく、これはIVIGが黄色ブドウ球菌α毒素抗原および/または他の所望の細菌抗原(上述のようなもの)に特異的に結合する免疫グロブリンを含有することを意味する。IVIG組成物はまた、「過免疫特異的IVIG」であってもよい。「過免疫特異的IVIG」は、高力価のα毒素抗体を含む抗体調製物を指す。過免疫特異的IVIG調製物は、標的黄色ブドウ球菌α毒素抗原および/または他の所望の細菌抗原に曝露されたことがある被験体血漿から調製可能であるし、または抗原を投与されたことがない被験体の血漿を高力価抗体に関してスクリーニングすることによって得られ得る。どちらの場合でも、被験体はヒトまたは動物のいずれであってもよい。
【0068】
1つの態様において、特異的IVIG組成物は、黄色ブドウ球菌α毒素抗原に特異的に結合する(および任意でα毒素抗原を中和する)抗体、および別の細菌抗原に特異的に結合する(および任意で他の細菌抗原を中和する)抗体の両方を含む。抗体および抗原は、先に記載された任意のものであってもよい。例えば、他の細菌抗原は多糖であってもよいし、ならびに黄色ブドウ球菌5型、黄色ブドウ球菌8型、黄色ブドウ球菌336、表皮ブドウ球菌PS1、表皮ブドウ球菌GP1、PVL(個々のPVLサブユニット、LukS-PVおよびLukF-PVを含む)、γ溶血素サブユニット(HlgA、HlgB、およびHlgC)、黄色ブドウ球菌由来のLukEまたはLukD、黄色ブドウ球菌由来のLukMまたはLukF’-PV、S.インターメディウス由来のLukF-I、LukS-Iサブユニットなどのロイコシジン成分、リポテイコ酸(LTA)、および接着性マトリックス分子を認識する微生物表面成分(MSCRAMM)タンパク質を含む、糖タンパク質であってもよい。
【0069】
1つの態様は、抗毒素調製物に関する。例示的な抗毒素調製物は、(i)黄色ブドウ球菌α毒素抗原に特異的に結合する抗体;(ii)黄色ブドウ球菌α毒素抗原に特異的に結合する抗体およびPanton-Valentineロイコシジン(PVL)抗原などのロイコシジンに特異的に結合する抗体;(iii)黄色ブドウ球菌α毒素抗原に特異的に結合する抗体、およびLukS-PVまたはLukF-PVに特異的に結合する抗体などの、PVL抗原サブユニットなどのロイコシジン・サブユニット抗原に特異的に結合する抗体;(i)、(ii)、および(iii)の任意の組み合わせ、ならびにα毒素抗原に特異的に結合する抗体を含む他の抗毒素調製物を含んでもよい。1つの特定の態様において、抗毒素調製物は、α毒素に特異的に結合する抗体、およびPVL、LukS-PVもしくはLukF-PVに、またはHlgA、HlgB、もしくはHlgCなどのγ溶血素サブユニットなどの別のロイコシジンに特異的に結合する抗体を含む。
【0070】
別の態様は、オプソニン抗体を含むオプソニン抗体調製物に関する。例示的なオプソニン抗体調製物は、α毒素抗原に特異的に結合する抗体、および黄色ブドウ球菌5型、8型、または366に特異的に結合する抗体などの、一つまたは複数のオプソニン抗体を含んでもよい。オプソニン抗体調製物はまた、PVL抗原などのロイコシジン抗原に特異的に結合するか、あるいははLukS-PVもしくはLukF-PVなどの一つもしくは複数のPVLサブユニットに、またはHlgA、HlgB、もしくはHlgCなどのγ溶血素サブユニットに特異的に結合する抗体も含んでもよい。1つの特定の態様は、α毒素抗原に特異的に結合する抗体、PVL抗原(PVLまたは一つもしくは複数のPVLサブユニットなど)などのロイコシジン抗原またはγ溶血素サブユニット(HlgA、HlgB、またはHlgCなど)に特異的に結合する抗体、5型抗原に特異的に結合する抗体、8型抗原に特異的に結合する抗体、および336抗原に特異的に結合する抗体を含む五価調製物を提供する。
【0071】
したがって、いくつかの態様は、中和する(抗α毒素抗体など)および/またはオプソニン化する(莢膜または表面抗原に対する抗体など)モノクローナルおよび/またはポリクローナル抗体を含む組成物を提供する。1つの組成物は、5型抗原に特異的に結合するモノクローナルおよび/またはポリクローナル抗体、8型抗原に特異的に結合する抗体、336抗原に特異的に結合する抗体、およびα毒素抗原rALD/H35Kに特異的に結合する抗体を含む。別の組成物は、5型抗原に特異的に結合するモノクローナルおよび/またはポリクローナル抗体、8型抗原に特異的に結合する抗体、336抗原に特異的に結合する抗体、α毒素抗原に特異的に結合する抗体およびrLukS-PVに特異的に結合する抗体を含む。別の組成物は、5型抗原に特異的に結合するモノクローナルおよび/またはポリクローナル抗体、8型抗原に特異的に結合する抗体、336抗原に特異的に結合する抗体、α毒素抗原に特異的に結合する抗体、およびHlgA、HlgB、またはHlgCなどのγ溶血素サブユニットに特異的に結合する抗体を含む。
【0072】
別の態様は、交差反応性、交差中和性抗体組成物に関する。例えば、本発明には、1つの抗原に特異的であり、かつ別の抗原に交差反応性でかつ交差中和性である抗体を含む組成物が含まれる。例えば、本発明には、例えばPVL感染に対して有用な、HlgA、HlgBおよび/またはHlgCなどのγ溶血素抗原に特異的な抗体を含む組成物、ならびにγ溶血素感染に対して有用な、LukF-PVおよびLukS-PVなどのPVLサブユニット抗原に特異的な抗体を含む組成物が含まれる。
【0073】
上述のように、本発明は、治療的にまたは予防的に有効な量、すなわち治療的にまたは予防的に有益な効果を達成するのに十分な量の抗体を提供する、抗体組成物を提供する。さらなる態様において、抗体は、感染を中和し、かつ/または感染に対する防御を提供する防御抗体組成物である。こうした防御組成物には、防御性の量のα毒素抗体および防御性の量の別の細菌抗原に対する抗体が含まれてもよい。あるいは、防御抗体組成物は、最適以下の量の抗α毒素抗体および最適以下の量の別の細菌抗原に対する抗体を含んでもよい。本明細書において用いた際、「最適以下」の量は、それ自体では防御性でない量、すなわちそれ自体では、感染を中和するかまたは感染に対する防御を提供するのに有効ではない量を意味する。これらの組成物は、それ自体では有効でない抗体量を含むが、にもかかわらず、抗体の組み合わせの相乗活性によって、感染を中和し、かつ/または感染に対する防御を提供する。1つの特定の態様において、組成物は、最適以下の量の抗α毒素抗体および最適以下の量の黄色ブドウ球菌5型抗体を含む。別の特定の態様において、組成物は、最適以下の量の抗α毒素抗体および最適以下の量の黄色ブドウ球菌8型抗体を含む。
【0074】
IVIG組成物を作製する方法
本発明はまた、特異的IVIG組成物および過免疫IVIG組成物を含むIVIG組成物を作製する方法も提供する。任意の上述の抗原組成物を用いて、IVIG組成物を作製してもよい。1つの態様において、黄色ブドウ球菌α毒素抗原および別の細菌抗原を被験体に投与し、次いで、被験体から血漿を採取し、かつ血漿から免疫グロブリンを精製することによって、IVIG組成物を調製する。黄色ブドウ球菌α毒素抗原および他の細菌抗原は、野生型抗原、および中和抗体を誘導する防御抗原を含む、任意の上述のものであってもよく、ならびに任意の上述のワクチン中に製剤化されてもよい。したがって、他の細菌抗原は、多糖であってもよく、および糖タンパク質であってもよく、ならびに1つの態様において、黄色ブドウ球菌5型、黄色ブドウ球菌8型、黄色ブドウ球菌336、表皮ブドウ球菌PS1、表皮ブドウ球菌GP1、ロイコシジン、例えばLukS-PVおよびLukF-PVなどのPanton-Valentineロイコシジン(PVL)抗原、HlgA、HlgB、およびHlgCなどのγ溶血素サブユニット抗原などのロイコシジン成分、ならびに黄色ブドウ球菌由来のLukMおよびukF’-PV、黄色ブドウ球菌由来のLukEおよびLukD、S.インターメディウス由来のLukS-IおよびLukF-Iなどの他のロイコシジン、リポテイコ酸(LTA)、ならびに接着性マトリックス分子を認識する微生物表面成分(MSCRAMM)タンパク質から選択される。細菌抗原を黄色ブドウ球菌α毒素抗原に抱合してもよい。1つの態様において、黄色ブドウ球菌α毒素抗原は、上述のように、野生型黄色ブドウ球菌α毒素に比較してその毒性を減少させる少なくとも2つの改変を含有する。
【0075】
黄色ブドウ球菌α毒素抗原および他の細菌抗原などの抗原に曝露されるかまたはこうした抗原を投与される被験体は、ヒトであってもよいし、またはマウス、ウサギ、ラット、ニワトリ、ウマ、イヌ、非ヒト霊長類、もしくは任意の他の適切な動物などの、別の動物であってもよい。抗原に特異的に結合する抗体は、慣用的な血漿分画方法論によって、動物の血漿から得られ得る。
【0076】
別の態様において、黄色ブドウ球菌α毒素抗原および別の細菌抗原を投与されたことがない被験体などの、抗原を投与されたことがない被験体(すなわち未刺激の被験体)をスクリーニングし、次いで被験体から血漿を採取し、かつ血漿から免疫グロブリンを採取することによって、IVIG組成物を調製する。この態様において、未刺激被験体由来の血漿を、黄色ブドウ球菌α毒素抗原および他の細菌抗原などの抗原に特異的に結合する高力価の抗体に関してスクリーニングする。抗原は任意の上述のものであってもよい。例えば、他の細菌抗原は多糖であってもよく、および糖タンパク質であってもよく、ならびに黄色ブドウ球菌5型、黄色ブドウ球菌8型、黄色ブドウ球菌336、表皮ブドウ球菌PS1、表皮ブドウ球菌GP1、PVL(個々のPVLサブユニット、LukS-PVおよびLukF-PVを含む)またはおよびγ溶血素サブユニット(HlgA、HlgB、またはHlgC)、黄色ブドウ球菌由来のLukEまたはLukD、黄色ブドウ球菌由来のLukMまたはLukF’-PV、S.インターメディウス由来のLukF-IまたはLukS-Iサブユニットなどのロイコシジン、リポテイコ酸(LTA)、ならびに接着性マトリックス分子を認識する微生物表面成分(MSCRAMM)タンパク質より選択され得る。1つの態様にしたがって、標準的IVIG調製物で典型的に見られるレベルより2倍もしくはそれ以上、3倍もしくはそれ以上、4倍もしくはそれ以上、または5倍もしくはそれ以上高い力価のα毒素抗体および/または他の細菌抗体に関して、血漿をスクリーニングする。
【0077】
再び、スクリーニングしようとする被験体は、ヒトであってもよいし、またはマウス、ウサギ、ラットもしくは非ヒト霊長類などの別の動物であってもよい。慣用的な血漿分画方法論によって、動物の血漿から免疫グロブリンを得てもよい。
【0078】
抗体組成物を用いた感染症の治療および予防
本発明はまた、上述のIVIG組成物などの上述の抗体組成物をそれを必要とする被験体に投与することによって、感染を治療または予防する方法も提供する。感染の治療および予防のための標的患者集団には、細菌病原体に感染したかまたは感染するリスクがある、ヒトなどの哺乳動物が含まれる。1つの態様において、治療または予防すべき感染は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌もしくはα毒素を産生する黄色ブドウ球菌の感染を含む黄色ブドウ球菌感染、または表皮ブドウ球菌感染である。
【0079】
1つの態様にしたがって、本発明は、黄色ブドウ球菌α毒素抗体、別の黄色ブドウ球菌抗原に特異的に結合する抗体、および薬学的に許容される担体を含む組成物を用いて、黄色ブドウ球菌感染を治療するかまたは予防するための方法を提供する。黄色ブドウ球菌α毒素抗体および別の黄色ブドウ球菌抗原に結合する抗体は、任意の上述のものであってもよい。1つの態様において、抗体組成物はIVIG組成物または過免疫特異的IVIG組成物である。別の態様において、抗体は、組換えまたはヒト化抗体である。さらに別の態様において、抗体はモノクローナル抗体である。
【0080】
上述のいくつかの抗原の交差反応性および交差中和性活性を考慮して、本発明には、第一の抗原に対して交差反応性でありかつ交差中和性である、異なる抗原に特異的な抗体を含む抗体組成物(IVIG組成物を含む)を投与することによって、1つの抗原と関連する感染を中和する方法が含まれる。例えば、本発明には、HlgA、HlgBおよび/またはHlgCなどのγ溶血素抗原に特異的な抗体を含む抗体組成物またはIVIGを用いて、PVL感染を中和する方法、ならびにLukF-PVおよびLukS-PVなどのPVLサブユニット抗原に特異的な抗体を含む抗体組成物またはIVIGを用いて、γ溶血素感染を中和する方法が含まれる。
【0081】
当技術分野にルーチンである方法によって、抗体組成物の治療的または予防的に有効な量を決定してもよい。当業者は、組成物内の特定の抗体、組成物中の抗体濃度、投与頻度、治療または予防すべき感染の重症度、ならびに年齢、体重および免疫条件などの被験体詳細に応じて、量が変化し得ることを認識する。いくつかの態様において、投薬量は、体重キログラムあたり少なくとも50mg IVIG組成物(mg/kg)であり、少なくとも100 mg/kg、少なくとも150 mg/kg、少なくとも200 mg/kg、少なくとも250 mg/kg、少なくとも500 mg/kg、少なくとも750 mg/kgおよび少なくとも1000 mg/kgが含まれる。モノクローナル抗体組成物に関する投薬量は、典型的にはより低く、例えばIVIG組成物投薬量の1/10、例えば少なくとも約5 mg/kg、少なくとも約10 mg/kg、少なくとも約15 mg/kg、少なくとも約20 mg/kg、または少なくとも約25 mg/kgである。投与経路は、受動性ワクチンに適した任意のものであってもよい。したがって、静脈内、皮下、筋内、腹腔内および他の投与経路が想定される。上述のように、抗体の治療的または予防的に有効な量は、治療的または予防的に有益な効果を達成するのに十分な量である。防御抗体組成物は、感染を中和しかつ/または予防し得る。防御抗体組成物は、それ自体では防御性でないが、組み合わされて防御性抗体組成物を生じる量の、抗α毒素抗体および/または別の細菌抗原に対する抗体を含んでもよい。
【0082】
併用療法において、抗体組成物を、抗感染剤、抗生物質剤、および/または抗菌剤と組み合わせて投与してもよい。例示的な抗感染剤には、限定されるわけではないが、バンコマイシンおよびリゾスタフィンが含まれる。例示的な抗生物質剤および抗菌剤には、限定されるわけではないが、バンコマイシン、リゾスタフィン、ペニシリンG、アンピシリン、オキサシリン、ナフシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、セファロチン、セファゾリン、セファレキシン、セフラジン、セファマンドール、セフォキシチン、イミペネム、メロペネム、ゲンタマイシン、テイコプラニン、リンコマイシンおよびクリンダマイシンを含む、ペニシリナーゼ耐性ペニシリン、セファロスポリンおよびカルバペネムが含まれる。これらの抗生物質の投薬量は当技術分野に周知である。例えば、MERCK MANUAL OF DIAGNOSIS AND THERAPY, § 13, Ch. 157, 100th Ed. (Beers & Berkow, eds., 2004)を参照されたい。抗感染剤、抗生物質剤および/または抗菌剤を投与前に組み合わせてもよいし、またはIVIG組成物と同時にもしくは連続して投与してもよい。
【0083】
いくつかの態様において、1または2回用量などの比較的少ない用量の抗体組成物を投与し、かつ一般的に数日または数週の期間に渡って複数回の用量を伴う、慣用的抗生物質療法を使用する。したがって、抗生物質を、少なくとも5日間、10日間もしくはもっと言えば14日間またはそれ以上など、ある期間に渡って、毎日1回、2回もしくは3回またはそれ以上投与してもよく、一方、抗体組成物は、通常、1回または2回しか投与されない。しかし、当業者が、異なる投薬量、投薬時期、ならびに相対量の抗体組成物および抗生物質を選択および調整してもよい。
【0084】
以下の例は限定するよりも例示のみであり、かつ本発明のより完全な理解を提供する。
【0085】
実施例1
本実施例は、大腸菌における組換えα毒素突然変異体ALD/H35K (rALD/H35K)のクローニングおよび発現を示す。rALD/H35Kは、アミノラッチ(ALD)の欠失、およびアミノ酸35位でのヒスチジンからリジンへの点突然変異(H35K)を含有する。
【0086】
ヒスチジン6タグを含まない組換えα毒素突然変異体タンパク質rALD/H35Kのための発現構築物を以下のように調製した。先に調製したヒスチジンタグ化構築物、pTrcHis-ALD/H35Kから、ALD/H35K遺伝子をPCR増幅した。ヒスチジンタグを除去し、かつそれぞれアミノおよびカルボキシ末端にNco1およびBamHI制限部位を取り込むようにプライマーを設計した。増幅および制限消化後、Nco1およびBamHI制限部位で、Invitrogen pTrcHisBベクター内に、ALD/H35K遺伝子を連結した。翻訳開始に、Nco1制限部位のATGを用いることによって、ベクターにコードされるヒスチジンタグおよびエンテロキナーゼ切断部位を除去した。その結果、付加的なN末端アミノ酸を伴わずにタンパク質を発現させた。
【0087】
Nco IおよびBamHIを用いて、pTrcHis-Bの二重制限消化を実行した。次いで、PCR反応を用いて、His6タグを含まない二重突然変異体、ALD/H35Kを生成した。PCR反応のプライマーは以下の通りであった:

および

PCR後、アガロースゲル電気泳動を実行した。ゲルを分析し、かつ写真撮影した後、ゲルをUVトランスイルミネーター上に置き、かつベクターおよび挿入物(PCR産物)を切り出した。マトリックスゲル抽出系を用いて、ベクターおよび挿入物をアガロース片から抽出した。PCR産物の酢酸アンモニウム/エタノール沈殿を実行し、その後、Nco IおよびBamHIを用いて、ゲル抽出した挿入物を二重制限消化した。次いで、消化した挿入物のシリカ樹脂精製を実行した。
【0088】
Genechoice(商標)迅速連結キットに関する使用説明書にしたがって、ベクターおよび挿入物を連結した。次いで、連結産物をGC10コンピテント高効率細胞内に形質転換して、これを形質転換プレート上で増殖させた。次いで、「コロニーPCR」によるスクリーニングを実行した。正しいサイズの単位複製配列(〜800 bp)を生じるコロニーの一晩培養物を増殖させた。潜在的なクローンのビーズストックおよびミニプレップを調製した。ミニプレップの制限酵素消化分析を実行し、かつスクリーニング目的のため、ミニプレップを定量化した。以下の4つのプライマーを用いて、配列決定を実行した:
pTrcHis-順方向

順方向-1

順方向-2

および順方向-3

配列決定によって、挿入物の正しいDNA配列を検証した。
【0089】
培養物をまた、ビーズストックから増殖させ、かつ細胞溶解後、SDS-PAGEによってタンパク質発現を分析した。rALD/H35Kα毒素突然変異体の可溶性過剰発現が確認された。
【0090】
実施例2
本実施例は、黄色ブドウ球菌由来の野生型α毒素の毒性または溶血活性を欠くα毒素突然変異体の構築を示す。七量体孔を破壊するため、突然変異体His35置換/欠失、アミノラッチ欠失(ALD)およびステム欠失(SDD)を構築した。これらの領域は、孔形成に必須の役割を果たすと考えられる。突然変異体を組換えタンパク質として作製し、かつPCRクローニング技術によって構築した。次いで、突然変異体をIPTG誘導してタンパク質を発現させ、その毒性/溶血活性に関して評価した。
【0091】
PromegaのWizard(商標)ゲノムDNA精製キットを用いて、黄色ブドウ球菌Wood 46株から、ゲノムDNAを精製した。以下の表1および2に示すプライマーの組み合わせを用いて、PCRを実行した。
【0092】
(表1)

【0093】
(表2)

【0094】
次いで、PCR増幅したDNA断片およびpTrcHisBベクターDNAの二重制限消化を実行して、かつその後、消化したDNAの酢酸アンモニウムおよびエタノール沈殿を実行した。制限消化し、かつエタノール沈殿した挿入物およびベクターDNAを連結し、かつ連結したDNAでコンピテント大腸菌細胞を形質転換して、かつ寒天プレート上で増殖させた。次いで、コロニーを摘み取り、かつプラスミドプレップを作製した。BamHIおよびNco I酵素でプラスミドを消化し、かつアガロースゲル上で泳動して、組換え体に関してスクリーニングした。組換え体からビーズストックを作製し、かつ配列決定した。配列決定結果を野生型α毒素の配列とマッチさせ、かつ所望の突然変異の存在を確認した。
【0095】
IPTG誘導および突然変異体の発現もまた実行した。突然変異体は可溶性および不溶性型で多様に発現された。SDS-PAGEによって発現を確認した。
【0096】
実施例3
本実施例は、hisタグを含まないrALD/H35Kα・トキソイドの精製および特徴付けを示す。
【0097】
発現プラスミドを含有し、かつrALD/H35Kα・トキソイドの発現のために誘導された細胞を、リゾチームで溶解した。次いで、デオキシコール酸(DOC)で膜を可溶化した。次いで、細胞溶解物の粘性を超音波によって減少させた後、DNアーゼおよびRNアーゼ酵素でDNA/RNAを消化した。遠心分離によって細胞破片を除去し、かつさらなるプロセシングのため、α・トキソイドを含有する上清をデカントした。Toyopearl(商標)Phenyl 650M樹脂が充填されたカラムを用いて、上清に対してクロマトグラフィーを実行した。Coomassie染色法を用い、SDS-PAGEによって、Phenyl 650カラム分画を分析し、かつα・トキソイドの純度および量に関して選択したプール分画をダイアフィルトレーションに供した。Amersham Cibacron Blue Fast Flow(商標)樹脂が充填されたカラムを用いて、さらなるクロマトグラフィーを実行した。SDS-PAGEによってカラム分画を再び分析し、かつα・トキソイドの純度および量に関して選択したプール分画を、再びダイアフィルトレーションに供した。セラミックヒドロキシアパタイト(CHT)が充填されたカラムを用いて、さらなるクロマトグラフィーを実行した。CHTカラムからの分画をSDS-PAGEによって分析し、かつα・トキソイドの純度および量に関して選択した分画をプールした。全精製プロセスを以下に概略する。

【0098】
タンパク質含量、純度および分子量をBCA、SDS-PAGEおよびサイズ排除クロマトグラフィーによって確認した。ウェスタンブロットおよびN末端配列決定によって、rALD/H35Kα・トキソイドの同一性を確認した。サンドイッチELISAは、精製プロセスによってrALD/H35Kα・トキソイドの12%回収が得られたことを示した。
【0099】
rALD/H35Kα・トキソイドに対して標準的溶血アッセイを実行し、かつこのアッセイはトキソイドが溶血活性を持たないことを示した。
【0100】
実施例4
本実施例は、PS-タンパク質抱合体を作製するための担体タンパク質として使用するための、組換えα毒素の精製および特徴付けを示す。H35K/ALD (rALD/H35K)二重突然変異体を構築し、かつ大腸菌において過剰発現させた。まず、Ni-NTA(ニッケル装填)アフィニティーカラムを用いて突然変異体を精製し、次いで、セラミックヒドロキシアパタイトカラムを用いることによって、さらに精製した。免疫拡散法および溶血活性によって、精製α毒素の抗原性および毒性を評価した。ベンゾナーゼおよびPMSFと共にB-PERを用いて、大腸菌細胞を溶解した。遠心分離を実行し、かつ上清を収集した。Ni-NTAカラムを用いてクロマトグラフィーを実行し、かつ収集した分画をSDS-PAGEによって分析した。α毒素分画をプールし、かつBCAタンパク質アッセイによって総タンパク質に関して分析した。HTPカラムを用いたクロマトグラフィーによって、Ni-NTA精製α毒素をさらに精製し、かつ収集した分画を、再びSDS-PAGEによって分析した。次いで、α毒素を含有する分画をプールし、濃縮し、かつ分析した。精製プロセスを以下に概略する。
組換えα毒素H35K/ALD突然変異体タンパク質精製チャート

【0101】
免疫拡散法によって、精製α毒素突然変異体の同一性および抗原性を試験した。
【0102】
α毒素突然変異体に対して、標準的溶血アッセイもまた実行して、かつ突然変異体が検出可能な溶血活性をまったく持たないことが示された。
【0103】
実施例5
本実施例は、組換えALD/H35K αトキソイド突然変異体に対して得たα毒素特異的抗体と組み合わせて、AltaStaphを投与することによって、α毒素高産生性黄色ブドウ球菌単離体に対する相乗的受動防御を達成可能であることを示す。
【0104】
AltaStaph(商標)(Nabi(登録商標)Biopharmaceuticals, Rockville Maryland)は、黄色ブドウ球菌由来の莢膜多糖5型および8型抗原に対する高レベルの抗体を含有する。AltaStaph(商標)は、莢膜多糖黄色ブドウ球菌5型および8型抗原を含むStaphVAX(登録商標)(Nabi(登録商標)Biopharmaceuticals, Rockville Maryland)で、健康なヒト志願者を免疫することによって、産生される。現在産生されるようなAltaStaph(商標)は、0.075塩化ナトリウム、0.15 Mグリシンおよび0.01%ポリソルベート80中、pH 6.2の、ヒト血漿タンパク質の無菌で注射可能な5%溶液である。溶液各1 mLは、50 mgタンパク質を含有し、このうちIgG免疫グロブリンが96%を超える。IgAおよびIgMクラスは、≦1.0 g/Lの濃度で存在する。
【0105】
80匹の雌BALB/cマウスを清浄なケージに無作為に入れ、かつ研究開始前に6日間隔離した。
【0106】
細菌曝露24時間前、群あたり10匹のマウスの腹腔内に抗体用量を投与した。個々の抗体処置に関する群指定を表3に記載する。
【0107】
(表3)抗体処置に基づく研究群指定

【0108】
α毒素高産生単離体である黄色ブドウ球菌5型単離体328を、37℃で、200 rpmの一定の振盪を用いて、Columbia Mg/CaCl2培地10 mL中、〜20時間、一晩増殖させた。翌日、細菌をPBS中に懸濁して、540 nmで0.1のO.D.にした。このO.D.は、〜2×107 CFU/mlの濃度を生じ、これを次いで、25 mLの総体積で〜2×105 CFU/mlまで連続調整した。希釈した細菌懸濁物を、新鮮に調製したブタ・ムチンと組み合わせて、細菌曝露のための調製物中、氷上に置いた。
【0109】
一定に攪拌しながら、室温で5〜10分間、50 mlリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中、5グラムのブタ・ムチン粉末を可溶化した。混合後、懸濁物をラップしないサイクルで、10分間オートクレーブし、懸濁物を氷冷して、かつ氷を充填した容器中、動物施設に運んだ。
【0110】
注射時、細菌懸濁物を、等体積の10%ブタ・ムチン中に懸濁し、3 mlシリンジ内に充填し、かつシリンジに取り付けた25G5/8針を用いて、500μLをマウス腹腔内に注射した。計算した実際の曝露用量は、500μL曝露あたり5.81×104 CFUであった。個々の群あたりの曝露後罹患率および死亡率を16、24、41、48、65、168時間で記録した。曝露後5日目に研究を終結させた。
【0111】
個々の処置群あたりの生存データを以下の表4に概略する。4 mgのαトキソイド(rALD/H35二重突然変異体)由来総ウサギIgGを補った200μg T5CP特異的IgG (AltaStaph(商標)IGIV)を投与したマウスは、100%防御を示した。2 mgまたは1 mgトキソイドIgGのいずれかを補ったAltaStaphで免疫したマウスでは、防御レベルが低下した。2 mg総IgG用量に関する生存率は、曝露5日後に90%であり、一方、1 mg用量に関しては60%であった。対照的に、非補充AltaStaphでは生存は30%であり、一方、トキソイドIgG、MEP IGIVでは防御はまったく観察されなかった。
【0112】
(表4)高毒性のα毒素を分泌する黄色ブドウ球菌に対するAltaStaph IGIV +αトキソイド(rALD/H35K) IgG相乗的受動防御

*総IgGの用量
【0113】
個々に投与した200μgのAltaStaph(商標)IGIVの莢膜特異的IgGおよびαトキソイド(rALD/H35突然変異体)に対して得たウサギIgGは、非常に溶血性のα毒素を分泌する黄色ブドウ球菌致死曝露に対して防御性ではなかった。しかし、200μg T5CP AltaStaph(商標)ヒトIGIVとαトキソイド抗体の組み合わせは、溶血性黄色ブドウ球菌致死曝露に対して、100%防御性である。AltaStaph IGIV中に毒素中和抗体が存在すると、高毒性のα毒素を分泌する黄色ブドウ球菌単離体に対して、さらなる防御有効性が提供される。
【0114】
実施例6. α毒素rALD/H35Kクローンの生成
American Type Culture Collection (ATCC)から得た、α毒素(α溶血素)を産生するプロトタイプ株である、黄色ブドウ球菌株ATCC #10832、Wood 46から、WizardゲノムDNA精製キットを用い、記載されるような修飾Promegaプロトコルにしたがって、ゲノムDNAを単離した。H35K点突然変異およびアミノラッチ欠失(ALD、ΔA1-N17)を生成するように、オリゴヌクレオチドプライマーを設計した。推定上のシグナルペプチドを除去し、かつNco I部位を取り込むように、順方向プライマーを設計した。Nco I部位のATGが翻訳の開始コドンとして働くように設計して、ベクターがコードするN末端アミノ酸の付加を除外した。停止コドンのすぐ下流にBamHI部位を取り込むように、逆プライマーを設計した。Wood 46ゲノムDNAのhla遺伝子をテンプレートとして用い、PCRを用いて単一突然変異体、H35KおよびALD、ならびに二重突然変異体、ALD/H35K (His6タグを含むまたは含まない)を生成した。
【0115】
用いたプライマーは、以下の通りであった:
ALD:NcoI部位を含む順方向プライマー、開始コドンがALDの遺伝子配列に付随する:

AG0-2:BamHI部位および停止コドンをコードする逆方向プライマー:

H35K-F:H35K突然変異をコードする順方向プライマー:

H35K-R:H35K突然変異をコードする逆方向プライマー:

CTH-R: His6タグ停止コドンおよびBamHI部位をコードするC末端プライマー:

AG01:NcoI部位、開始コドン、その後、hla遺伝子をコードするN末端プライマー:

【0116】
製造者(Invitrogen)によって記載される方法のように、PCR産物をpTrcHisB内にクローニングするか、またはNcoIおよびBamHI部位を用いた。さらに、hla-ALD/H35K遺伝子を含有するNcoI-BamHI挿入物を、続いて、pET28 (Novagen)内にサブクローニングした。
【0117】
製造者のプロトコル(Gene Choice)を用いて、大腸菌GC10細胞内に、生じた構築物を形質転換した。ABI PRISM Dye Terminator Cycle配列決定を用いて、配列決定を実行した。発現に関しては、正しい配列を持つすべてのクローンを大腸菌GC10または大腸菌BL21(DE3)pLysS内に形質転換した。
【0118】
実施例7. rALD/H35Kの発現および精製
振盪フラスコ中で、中間対数期まで、rALD/H35Kプラスミドを含有する大腸菌株GC10またはBL21(DE3)pLysSを、選択培地中、37℃で培養し、かつ1 mM IPTGの最終濃度を用いて、2〜3時間誘導した。遠心分離によって細胞を採取した。振盪フラスコ培養物をSDS-PAGEおよびウェスタンブロットによって分析すると、誘導前には明らかでなかった、32 KDaの見かけの分子量を持つバンドが示された。観察されたこの分子量は、存在する突然変異に一致し、一方、野生型組換えα毒素は、34 KDaの見かけの分子量を有する。
【0119】
ペレット化した細胞を、20 mM Tris-HCl、50 mM NaCl、pH 8中に再懸濁し、かつ2 mg/gペーストのリゾチームで、室温で20分間処理した後、0.25% (w/v)デオキシコール酸で膜を破壊し、かつMisonix超音波装置を用いて超音波処理した。破壊した細胞懸濁物を、等体積の2.25 Mの(NH4)2SO4、20 mM Na2HPO4、pH 7.0緩衝液と混合した。細胞溶解物の上清を遠心分離によって収集した。
【0120】
可溶性タンパク質を、Toyopearl(登録商標)Phenyl-650M上でクロマトグラフィーした。20 mM Na2HPO4、pH 7.0緩衝液中、1.5から0 Mの(NH4)2SO4および0から20%のグリセロールの直線勾配を用いて、結合したrALD/H35K突然変異体を溶出させた。rALD/H35K含有分画をプールし、かつ20 mM Tris、100 mM NaCl、5%グリセロール、pH 7.0に対してダイアフィルトレーションした。生じたダイアフィルトレーション分画を、Blue Sepharose 6 FFカラム上に適用し、かつ20 mM Tris、5%グリセロール、pH 7.0緩衝液中、0.1から2.5 MのNaClの直線勾配で溶出させた。rALD/H35K含有分画をプールし、かつ20 mM Na2HPO4、100 mM NaCl、5%グリセロール、pH 6.8緩衝液に対してダイアフィルトレーションした。次いで、20 mM Na2HPO4、5%グリセロール、pH 6.8緩衝液中、100から750 mM NaClの直線勾配を用いて、未透過物(retentate)をI型セラミックヒドロキシアパタイトカラム上でクロマトグラフィーして、純粋なrALD/H35Kを得た。
【0121】
ウェスタンブロット分析のため、タンパク質をPVDF膜にトランスファーし、かつα毒素突然変異体に対する一次モノクローナル抗体を用いた、当技術分野に公知の標準的方法を用いてプロセシングした。ブロットによって、およそ〜32 kDaのバンドで、rALD/H35K抗原が存在することを確認した。さらに、rALD/H35KのN末端配列決定によって、hla-ALD/H35K遺伝子産物が存在することを確認した。
【0122】
同じ方法論を用いて、α毒素突然変異体rALDおよびrH35Kを精製した。
【0123】
実施例8. α毒素、rALD/H35Kポリクローナル抗体の産生
rALD/H35K (50μg)を、1:1の比で、アジュバント(CFA、その後、IFA)と共に、2週間間隔で3回、New Zealand Whiteウサギに注射した。rALD/H35K抗血清は、抗原に対する免疫拡散アッセイにおいて、rALD/H35Kおよび天然黄色ブドウ球菌α毒素(List Biological Laboratories)を同一抗原として認識した。rALD/H35K抗血清は、ウェスタンブロットおよびEISAによって示されるように、野生型および突然変異体α毒素の両方を認識した。これらの結果は、rALD/H35Kワクチンが天然α毒素と反応性の抗体を生じたことを示す。
【0124】
陽性血液を合わせ、かつプロテインGカラム上でIgGを精製した。次いで、精製した抗ALD/H35K IgGを動物モデルにおいて用いた。
【0125】
実施例9. α毒素抗原の免疫化学分析
1%アガロースゲルにおいて二重免疫拡散法を実行して、rALD/H35K抗血清の特異性を決定すると共に、α毒素抗原の抗原性を決定した。簡潔には、10μl/ウェルの200μg/ml各α毒素抗原(外部ウェル)および10μl/ウェルのrALD/H35K抗血清(中央ウェル)を、湿潤環境中、ゲルを通じて一晩拡散させた。次いで、アガロースゲルをPBS中で洗浄し、かつプレスし、乾燥させ、かつCoomassie blueで染色した。抗原および抗体が共に結合して、抗体-抗原複合体を形成する際に形成される沈降素バンドに関してゲルを分析した。抗血清と反応するエピトープを共有した2つの抗原を、隣接するウェルに入れ、かつ同じ抗血清に対して拡散させると、これらの沈降素ラインは共に融合して、「同一性ライン」を形成するであろう。抗血清由来のAbと反応するすべてのエピトープが両方の抗原に存在するのではない場合、2つの抗原間で、部分的な同一性ライン(2つの沈降素ラインが出会う点でのスパー)が形成される。
【0126】
4つのタンパク質、黄色ブドウ球菌から精製した天然α毒素(List Biological Laboratories)、ならびに組換え突然変異体rALD/H35K、rALDおよびrH35Kの各々は、同一性ラインを形成する単一の沈降素バンドとして、抗rALD/H35K血清と反応し、rALD/H35Kに対して作製した抗血清が、天然黄色ブドウ球菌α毒素、ならびにrALDおよびrH35KおよびrALD/H35Kを同一であるかまたは非常に類似の抗原と認識することを示す。図1。
【0127】
実施例10. α・トキソイド・ハイブリドーマ産生
BALB/cマウスをrALDで免疫した。この研究において、免疫した脾臓細胞をマウスから収集し、かつ50%ポリエチレングリコールを用いて、Sp2/O骨髄腫細胞に融合させた。選択培地中に融合細胞を再懸濁し、96ウェル組織培養プレート内に植え付け、かつ8% CO2を含む37℃インキュベーター中、加湿条件下でインキュベーションした。モノクローナル抗体(MAb)分泌細胞に関して、精製rALD抗原でコーティングしたELISAプレート上で、増殖中の培養物の上清をスクリーニングした。いくつかのハイブリドーマを生成し、かつ2回の連続クローニングプロセス後、11のMAb分泌細胞を確立した。これらのクローンから確立した大量培養物から植え付けストックを生成し、これをまた、マウス腹水を産生するのにも使用し、ここから精製MAbを調製し、かつさらに特徴付けた。
【0128】
実施例11. α毒素モノクローナル抗体の特徴付け
特徴付け分析によって、上述のように調製した11の確立α毒素(Alt) MAbのうち9つが、ウェスタンブロット評価において、天然黄色ブドウ球菌α毒素(List Biological Laboratories)に特異的に結合する一方、11のうち2つは天然α毒素を認識しないことが明らかになった。ウェスタンブロット陽性であったすべてのMAbは、赤血球(RBC)溶血実験において、野生型α毒素を中和した(実施例15を参照されたい)。アイソタイプ決定評価によって、すべての11の確立されたMAbが、IgG1カッパ・サブクラスであることが明らかになった。確立されたクローンの大量培養物から植え付けストックを生成し、これをまた、マウス腹水を産生するのにも使用し、ここから精製MAbを調製し、かつさらに特徴付けた。
【0129】
実施例12. 溶血アッセイによる、細胞傷害活性のインビトロ決定
0.85%塩化ナトリウム(NaCl)、pH 7.2を含有する10 mM Tris-HCl溶液(希釈/洗浄緩衝液)中で、精製α毒素の1.0μg/mL溶液を調製した。96ウェルプレート上で、α毒素抗原の連続2倍希釈を実行した。洗浄緩衝液のみを含有する(α毒素不含)細胞対照ウェルを、各アッセイプレート上に含めた。ウサギRBC (Colorado Serum Co.、カタログ番号CS 1081)を洗浄あたり10体積で2回連続して洗浄した後、洗浄緩衝液を用いて、最初の濃度に再調整した。α毒素および洗浄緩衝液を含有する各ウェルに、等体積のRBC懸濁物を添加した。プレートを37℃で30分間インキュベーションして、α毒素がRBCを溶解するのを可能にした。次いで、プレートを遠心分離して、すべてのRBCおよび細胞破片をペレットにした後、別のポリスチレンELISAプレートの対応するウェル中、洗浄緩衝液中で、各上清の希釈を実行した。データを報告する前に、バックグラウンドとして細胞対照(毒素不含)ODを減じて、ELISAプレート読み取り装置の補助で、上清の光学密度(OD)を450 nmで測定した。次いで、α毒素活性のため溶解したRBCの割合(パーセント)を計算した。
【0130】
0.5μg/mLの天然黄色ブドウ球菌α毒素または0.5μg/mL野生型組換えα毒素では、完全なまたはほぼ100%の溶血が観察された(表5)。しかし、このアッセイでは、>185倍多いrALD/H35K抗原(92.8μg/mL)で、測定可能な溶血活性はまったく検出されなかった。これらの結果は、rALD/H35Kがインビトロで非溶血性であり、かつしたがって、rALD/H35Kが、黄色ブドウ球菌由来の天然α毒素と反応性である抗体を生成するワクチンとして使用可能であることを示す。
【0131】
(表5)天然および組換え野生型α毒素に比較した際のrALD/H35Kの溶血活性

【0132】
実施例13.
黄色ブドウ球菌α毒素溶血活性のポリクローナル抗体中和
ウサギ血清抗体(4匹の異なるウサギ由来の抗rALD/H35K)または正常ウサギ血清の連続二倍希釈を、96ウェルアッセイプレート上で実行した。洗浄緩衝液のみを含有する(α毒素不含および抗体不含)細胞対照ウェルおよびα毒素対照ウェル(抗体不含)を、各アッセイプレート上に含めた。抗体を含むすべてのウェル、および毒素陽性対照のため、洗浄緩衝液のみを含むウェルに、洗浄緩衝液中の等体積の4倍濃縮α毒素(2μg/mL)を添加する。洗浄緩衝液のみを含有するすべての細胞対照ウェルに、等体積の洗浄緩衝液を添加した。細胞対照のため、希釈抗体、α毒素および洗浄緩衝液を含む各ウェルに、各ウェル中のものと等体積の洗浄RBCを添加した。その結果、すべての抗体および毒素濃度は、出発濃度のものの4倍希釈される。加湿37℃インキュベーター中で30分間、プレートをインキュベーションした。次いで、プレートを遠心分離して、すべてのRBCおよび細胞破片をペレットにした後、別のポリスチレンELISAプレートの対応するウェル中、洗浄緩衝液中で、各上清の希釈を実行した。データを報告する前に、バックグラウンドとして細胞対照(毒素不含)ODを減じて、ELISAプレート読み取り装置の補助で、上清の光学密度(OD)を450 nmで測定した。α毒素陽性対照に比較して、各抗体の中和能を決定した。
【0133】
結果(表6に示す)は、rALD/H35Kで免疫された4匹のウサギがすべて、黄色ブドウ球菌由来の天然α毒素に対する中和抗体を産生したことを示す。抗ALD/H35K過免疫血清は、およそ1:2648から1:6125希釈で、ほぼ50%を中和することが可能であり、一方、正常なウサギ血清は、1:100希釈の、さらに25倍濃縮された血清で、α毒素溶血活性の50%を中和することが不能であった。これらのデータは、ALD/H35K特異的抗体が、インビトロで、天然α毒素活性を中和する際に有効であることを明らかに示す。
【0134】
(表6)ポリクローナル血清による、α毒素溶血活性のインビトロ中和

【0135】
実施例14.
α毒素抗原の免疫原性および抗rALD/H35Kの反応性および天然黄色ブドウ球菌α毒素での中和活性
群あたり10匹のマウスを免疫することによって、ポリクローナル過免疫マウス血清を調製した。マウスに、2週間間隔で、アジュバントとしてのミョウバンを伴いまたは伴わずに2.5μgの抗原(rALD/H35K、rH35K、rH35R、またはrALD)を3回注射した。最後の注射の1週間後、マウスを放血させ、それぞれの抗原に関してマウス血清をプールし、かつ標準的な定量的ELISAを実行して、野生型α毒素に対する、かつ相同抗原に対する、IgG力価を決定した。すべてのマウス血清プールは、相同抗原および黄色ブドウ球菌由来の天然α毒素を認識した。これらの結果は、二重突然変異体rALD/H35Kが、他の単一点突然変異抗原に比較した際、より高いレベルのα毒素IgGを、かつrALD抗原に対するより大きいかまたは類似の力価を産生可能であったことを示す。
【0136】
また、実施例13に記載するように、インビトロで黄色ブドウ球菌α毒素によって引き起こされる溶血活性の中和に関しても、マウス血清プールを試験した。結果(表7に示す)は、抗rALD/H35K血清が、溶血活性を中和する際に有効であったことを示す。
【0137】
(表7)免疫原性、天然α毒素との反応性、およびポリクローナルマウス血清による溶血活性の中和

【0138】
実施例15. モノクローナル抗体による、α毒素溶血活性の中和
抗α毒素MAb (実施例10に記載するように得られるもの)を含有する組織培養上清を、インビトロでα毒素を中和する能力に関して特徴付けた。陰性対照として、それぞれ、ニコチンに対して特異的なMAbおよび正常ウサギ血清を、中和活性に関して評価した。
【0139】
抗体の連続2倍希釈を96ウェルアッセイプレート上で実行した。洗浄緩衝液のみを含有する(α毒素不含および抗体不含)細胞対照ウェルおよびα毒素対照ウェル(抗体不含)を、各アッセイプレート上に含めた。抗体を含むすべてのウェル、および毒素陽性対照のため、洗浄緩衝液のみを含むウェルに、洗浄緩衝液中の等体積のα毒素(2μg/ml)を添加した。洗浄緩衝液のみを含有するすべての細胞対照ウェルに、等体積の洗浄緩衝液を添加した。細胞対照のため、希釈抗体、α毒素および洗浄緩衝液を含む各ウェルに、各ウェル中のものと等体積の洗浄RBCを添加した。その結果、すべての抗体および毒素濃度は、出発濃度のものの4倍希釈される。加湿37℃インキュベーター中で30分間、プレートをインキュベーションした。次いで、プレートを遠心分離して、すべてのRBCおよび細胞破片をペレットにした後、別のポリスチレンELISAプレートの対応するウェル中、洗浄緩衝液中で、各上清の希釈を実行した。データを報告する前に、バックグラウンドとして細胞対照(毒素不含)ODを減じて、ELISAプレート読み取り装置の補助で、上清の光学密度(OD)を450 nmで測定した。α毒素陽性対照に比較して、各抗体の中和能を決定した。
【0140】
ウェスタンブロット分析によって示されるように天然α毒素に結合する9つのMAbは、天然α毒素によって、インビトロ溶血活性を中和することが示された(表8に示すデータ)。ウェスタンブロットによって天然α毒素との結合に関して陰性であった2つのMab、および非特異的モノクローナル抗体(2Nic311)は、α毒素中和活性に関して陰性であった。
【0141】
(表8)モノクローナルおよびポリクローナル抗体による、α毒素溶血活性のインビトロ中和

NA=測定可能な中和活性がまったく検出されないか、または50%中和が達成されなかった。
【0142】
実施例16.
ポリクローナルウサギ血清による、黄色ブドウ球菌細胞培養上清由来のα毒素溶血活性の中和
黄色ブドウ球菌が分泌するα毒素を抗rALD/H35K抗体が中和する能力を、インビトロ溶血アッセイにおいて示した。単離体Wood (ATCC #10832、α毒素プロトタイプ単離体)およびNabi臨床単離体MRSA 328由来の一晩黄色ブドウ球菌培養物を2.0 OD540nmに調整し、遠心分離し、かつ生じた上清をろ過した。次いで、連続希釈ウサギ抗rALD/H35Kウサギ血清に4倍希釈上清を添加して、かつ10分間インキュベーションした。インキュベーション後、新鮮に得たウサギ赤血球を添加し、かつプレートを37℃で30分間インキュベーションした。
【0143】
インキュベーション後、マイクロタイタープレートを2000rpmで10分間遠心分離し、かつ410 nmの波長で、ELISA読み取り装置を用い、放出されたヘムのレベルを測定することによって、溶解の度合いを定量化した。
【0144】
結果(表9に示す)は、抗rALD/H35K血清の中和活性を示す。1:1000希釈で、抗ALD/H35Kは、100 ng/mLの精製天然α毒素および2つの黄色ブドウ球菌臨床単離体由来の細菌分泌α毒素を、インビトロで完全に中和可能であった。
【0145】
(表9)抗rALD/H35Kウサギ血清による、黄色ブドウ球菌細胞培養上清由来のα毒素溶血活性の中和

【0146】
実施例17.
モノクローナルおよびポリクローナル抗体による、黄色ブドウ球菌天然α毒素曝露のインビボ中和
実施例10に記載するように得たα毒素MAbの1つ(MAb 1Alt660)および抗rALD/H35Kポリクローナル抗体のインビボ中和有効性を以下のように評価した。BALB/cマウスに100μgのMAb 1Alt660を腹腔内(IP)投与した。対照として、別の群のマウスに、大腸菌細胞壁成分に対して生成したMAb(MAb 158)を投与した。同様に、マウスに、実施例8に記載するrALD/H35Kワクチン接種ウサギから得た500μgの総抗ALD/H35K IgGを投与し、対照として、別の群のマウスに、等量の正常ウサギIgGを投与した。24時間後、10μgの天然α毒素(List Biological Laboratories)によって、マウスを皮内(ID)曝露し、かつ皮膚病変および致死性に関して、7日間観察した。
【0147】
受動免疫データによって、モノクローナル抗体1Alt660および抗ALD/H35K IgGの両方が、創傷形成、およびα毒素が誘導する死亡率に対して防御することが示された。結果を表10に要約する。
【0148】
(表10)モノクローナルおよびポリクローナル抗体による、BALB/cマウスにおける天然黄色ブドウ球菌α毒素曝露のインビボ中和

【0149】
実施例18.
黄色ブドウ球菌の致死曝露に対する抗rALD/H35K IgGおよびStaph VAX IgG (5型および8型IgG)の使用
高毒性の黄色ブドウ球菌単離体に対する療法において、中和およびオプソニン抗体を組み合わせる利点を示すため、腹腔内経路を介して、200μgのオプソニン抗体、黄色ブドウ球菌5型および8型莢膜多糖ヒト抗体(AltaStaph、Nabi Biopharmaceuticals)と組み合わせて、抗ALD/H35KウサギIgG (中和抗体)をBALB/cマウスに投与した。対照として、マウスに、抗rALD/H35K IgGまたはAltaStaph単独または非免疫IgG (標準的ヒトIGIV)を含む等用量の抗体を投与した。24時間後、5%ブタ・ムチン中の高レベルのα毒素を分泌する黄色ブドウ球菌Nabi MRSA 328の5×104 CFUによって、マウスをIPで曝露し、かつ罹患率および死亡率に関して、細菌曝露の24時間後、40時間後、および5〜7日後にモニターした。
【0150】
結果(表11に示す)によって、黄色ブドウ球菌中和およびオプソニン抗体の組み合わせの防御有効性が示される。したがって、AltaStaph (オプソニン化抗5型および8型莢膜多糖IgG)と組み合わせたウサギ抗rALD/H35K IgG (中和)で免疫したマウスは、高毒性の黄色ブドウ球菌曝露から防御され、一方、抗rALD/H35K IgGまたはAltaStaph単独のいずれかを投与したマウスは、曝露後、生き延びなかった。
【0151】
(表11)黄色ブドウ球菌の致死曝露に対する、抗rALD/H35K IgGおよびStaph VAX IgGの有効性

【0152】
実施例19.
担体タンパク質としてrALD/H35Kを用いて、抱合体ワクチンを調製するための方法
非毒性α毒素突然変異体、rALD/H35Kを、多糖-タンパク質抱合体ワクチンにおいて、タンパク質担体として用いた。rALD/H35Kに表皮ブドウ球菌多糖抗原PS1を抱合するための方法を記載する。
【0153】
0.1 M MES緩衝液中でPS1溶液(10 mg/mL)を調製した。アジピン酸ジヒドラジド(ADH)を乾燥粉末として添加して、最終濃度0.2 Mを得た。反応を開始するため、エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を最終濃度0.05 Mまで添加し、かつさらに30分間攪拌させた。次いで、誘導体化PS1 (PS1-AH)を含有する反応混合物を、1M NaClに対して、その後、蒸留水に対して透析し、かつ次いで、Sephadex G25カラムを通じてクロマトグラフィーして、残渣塩を取り除いた。トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)アッセイによって、比色分析で、抗原PS1-AH上に取り込まれたADHの量を決定した。
【0154】
0.3 M NaClを含有する0.05 Mリン酸ナトリウム/0.2 Mイミダゾール緩衝液中、rALD/H35K (2 mg/mL)を含有する溶液を調製した。続いて、無水コハク酸を2:1のw/w比でタンパク質に添加し、かつ2時間、攪拌しながら1 M NaOHを用いて、pHを8に維持した。次いで、誘導体化担体タンパク質、rALD/H35K-sucを0.2 M NaClに対して透析して、かつSephadex-G25カラム上でさらに精製し、プールし、かつ濃縮した。BCA (Pierce)によってタンパク質含量を測定し、かつTNBSアッセイにより反応前および反応後にアミノ基を測定することによって、タンパク質のスクシニル化効率を概算した。
【0155】
0.1 M MES/0.2 M NaCl緩衝液、pH 5.7〜5.8の1 mL中に、10 mg PS1-AHおよび10 mg rALD/H35K-sucを含有する溶液を調製した。反応混合物にEDCを添加して、最終濃度50 mMを得て、かつ反応を攪拌しながら30分間維持し、かつ次いで、0.2 M NaClに対して続いて透析した。Sephacryl S-300カラム上、0.2M NaClで溶出させるサイズ排除クロマトグラフィーによって、純粋な抱合体を得た。リンアッセイおよびBCAアッセイ(Pierce)によって、それぞれ、抱合体中のPS1および担体タンパク質(rALD/H35K)の量を決定した。対照として、同じ方法論を用いて、PS1および緑膿菌外毒素A (rEPA)の非毒性突然変異体の抱合体を調製した(PS1-rEPA)。
【0156】
表12は、表皮ブドウ球菌PS1-rALD/H35Kの特性をPS1-rEPA抱合体に比較する。rALD/H35KおよびrEPAのコハク酸誘導体は、アミノ基の数の減少を介してモニターした際、スクシニル化の効率に関して、非常に類似の特性を持ち、こうした減少は、それぞれ80%および75%であった。生じた抱合体PS1-rALD/H35KおよびPS1-rEPAは、類似のw/w PS/PR比を有した(0.71および0.61)。
【0157】
(表12)担体タンパク質としてrALD/H35KまたはrEPAを用いて調製した表皮ブドウ球菌PS1抱合体の特徴付け

【0158】
実施例20.
表皮ブドウ球菌PS1-rALD/H35K抱合体ワクチンの免疫原性
PS1-rALD/H35Kの免疫原性を評価するため、群あたり10匹のBALB/cマウスを、2週間間隔で、アジュバント(QS-21)を伴いまたは伴わずに、2.5および10μgのPS1-rALD/H35K抱合体で3回免疫した。第三の注射の7日後、マウスを放血させ、かつ血清を収集した。
【0159】
コーティング抗原として、それぞれPS1または天然α毒素(List Biological Laboratories)を用いたELISAを介して、血清試料中で、抗PS1 IgGおよび抗α毒素IgG応答を測定した。免疫原性結果を、ELISA単位/mL (EU/mL)で表した血清IgGの群幾何平均(GM)値として提示する。抗PS1 IgG力価を、恣意的に100 EU/mLに指定された参照血清に比較した。100 EU/mLの力価は、ELISAにおいて、1:2000の希釈で、2.0のOD450を生じる特異的IgGの濃度に相当する。恣意的に5,000 EU/mLに指定された参照血清への内挿によって、抗α毒素IgG力価を計算した。5,000 EU/mLの力価は、ELISAにおいて、1:5,000の希釈で、2.0のOD450を生じる特異的IgGの濃度に相当する。
【0160】
実施例13に記載するように、インビトロでの天然α毒素溶血活性の中和に関して、すべての血清試料を評価した。
【0161】
免疫後、抗PS1 IgGならびに抗α毒素IgG応答はどちらも、用量依存方式で増加し、かつ免疫中にアジュバントを用いると、力価の増加が示された。PS1-rALD/H35K抱合体によって有意な抗α毒素力価が誘導されたが、非常に高い力価の血清(> 300 EU/mL)だけが、インビトロで天然α毒素の溶血活性を中和可能であった。こうした適切な毒素中和レベルの抗α毒素IgGが、アジュバント(QS-21)を伴って2.5または10μgのPS1-rALD/H35Kを投与された動物の90〜100%で誘導され、一方、アジュバントを伴わない10μg抱合体での免疫は、2/10の動物で、50%中和力価を誘導した。
【0162】
これらのデータは、高力価のPS抗体およびまた天然α毒素溶血活性を中和するのに有効なα毒素抗体の両方を刺激するのに使用可能な多糖コンジュゲート、例えばPS1-rALD/H35Kの担体タンパク質として、rALD/H35Kを用いてもよいことを示す。
【0163】
(表13)表皮ブドウ球菌PS1-rALD/H35K抱合体ワクチンの免疫原性

GM=幾何平均
*10の群中、6より多い血清が測定可能な50%中和力価に到達しなかった場合、GM値を計算しなかった。最低の50%中和力価は「4」であり、中和アッセイにおいて、そのままのもの(未希釈血清)の使用に対応する。
【0164】
実施例21.
オプソニン(抗5型、抗8型および抗336)および中和(抗LukS-PVおよび抗ALD/H35K)ポリクローナル抗体の産生
抗原を、2週間間隔で5〜6回、New Zealand Whiteウサギに注射した。ウサギには、(1)各50μgの5型-rEPA、8型-rEPAおよび336-rEPA抱合体、(2)1:1の比でアジュバント(5% Titermax)を伴う、各50μgのrALD/H35KおよびrLukS-PV、(3)各50μgの5型-rEPA、8型-rEPAおよび336-rEPA抱合体、ならびに1:1の比でアジュバント(5% Titermax)を伴う、各50μgのrALD/H35KおよびrLukS-PV、または(4)1:1の比でアジュバント(5% Titermax)を伴うPBSを投与した。
【0165】
ウサギを5型-rEPA、8型-rEPAおよび336-rEPA抱合体で免疫することによって生成された抗血清は、ELISAおよび免疫拡散法において、5型、8型および336多糖を認識した。rALD/H35KおよびrLukS-PVでウサギを免疫することによって生成された抗血清は、ELISAおよび免疫拡散法において、天然黄色ブドウ球菌α毒素(List Biological Laboratories)およびrLukS-PVを認識した。ウサギを5型-rEPA、8型-rEPAおよび336-rEPA抱合体、ならびにrALD/H35KおよびrLukS-PVで免疫することによって生成された抗血清は、ELISAおよび免疫拡散法において、5型、8型および336多糖、α毒素ならびにLukS-PVを認識した。
【0166】
陽性出血を合わせて、かつプロテインGまたはAカラム上で、IgGを精製した。次いで、動物モデル実験において、以下の精製IgGを用いた:(1)抗5型および抗8型莢膜多糖IgGならびに抗336 IgG (オプソニン抗体);(2)抗α毒素ALD/H35Kおよび抗LukS-PV IgG (中和抗体);(3)抗5型および抗8型莢膜多糖IgG、抗336 IgG、抗α毒素ALD/H35K IgGおよび抗LukS-PV IgG (オプソニンおよび中和抗体)。
【0167】
実施例22.
5型抱合体、8型抱合体、336抱合体、rALD/H35KおよびrLukS-PVでの能動免疫による、黄色ブドウ球菌曝露に対する防御
5型抱合体、8型抱合体、336抱合体、rALD/H35KおよびrLukS-PVを含むワクチンが、黄色ブドウ球菌が誘導する皮膚感染に対して防御する能力を評価した。5〜6ヶ月齢のNew Zealand雌ウサギを実施例21に記載するように免疫して、高レベルの抗体を生成した。5回目または6回目の注射の7日後にウサギを出血させ、かつELISAによって、5型、8型および336多糖、ならびにα毒素およびLukS-PV IgG抗体力価に関して評価した。すべての適切な血清において、これらの抗原に関する力価は、OD450nm=2.0に対し、1:105〜106希釈であった。
【0168】
ウサギの背中を剪毛し、かつ108 CFU/100□Lの黄色ブドウ球菌株、USA300-01114 (PVL産生CA-MRSA)を皮内注射した。皮膚壊死病変の形成に関して、動物を観察した。
【0169】
5型-rEPA、8型-rEPAおよび336-rEPA抱合体、rALD/H35KならびにrLukS-PVでのワクチン接種は、それぞれ、各サブユニットに関する高抗体力価を誘導した(OD450nm=2のため、1:105〜106希釈)。これらの抗体は、PVL産生黄色ブドウ球菌単離体(またはCA-MRSA USA300)から生じる膿瘍形成に対して防御を示した。すなわち、五価の組み合わせ(5型-rEPA、8型-rEPAおよび336-rEPA抱合体、rALD/H35KならびにrLukS-PV)で免疫されたウサギ上では、注射部位で、わずかな発赤しか観察されなかった。対照的に、プラセボ(PBSに加えてTitermax)を投与された対照ウサギ上では、膿瘍形成が観察された。5つの抗原(5型-rEPA、8型-rEPAおよび336-rEPA抱合体、rALD/H35KならびにrLukS-PV)すべてで免疫されたウサギは、第8日に健康であった。しかし、プラセボで免疫されたウサギは、病的状態の臨床徴候(体重喪失、不活発)を有することが観察された。したがって、5型抱合体、8型抱合体、336抱合体、rALD/H35KおよびrLukS-PVを含有する五価黄色ブドウ球菌ワクチンでの免疫は、非常に侵襲性のPVL産生株によって誘導される感染を含む黄色ブドウ球菌感染を予防する。
【0170】
実施例23.
黄色ブドウ球菌曝露に対する5型/8型/336 IgG (オプソニンIgG)およびα毒素/PVL IgG (中和IgG)の相乗効果
高毒性の黄色ブドウ球菌単離体に対するオプソニンおよび中和ポリクローナル抗体(pAb)の組み合わせの利点を示すため、BALB/cマウスを(1)抗5型および抗8型莢膜多糖IgGおよび抗336 IgGオプソニンpAb;(2)抗α毒素ALD/H35Kおよび抗LukS-PVウサギIgG中和pAb;または(3)抗5型および抗8型莢膜多糖IgG、抗336 IgG、抗ALD/H35K IgGおよび抗LukS-PV IgG (例えばオプソニンおよび中和pAbの組み合わせ)で腹腔内受動免疫した。対照として、マウスに等用量の正常ウサギIgGの2 mg総IgGを投与した。24時間後、マウスを剪毛して、背中の毛皮を除去し、かつPVLおよびα毒素を分泌するCA-MRSA株である黄色ブドウ球菌USA 300-01114の1×108 CFUによって、皮内(ID)経路を介して曝露した。16および72時間後、皮膚壊死病変に関して、マウスを観察した。
【0171】
結果(表14に示す)によって、黄色ブドウ球菌中和およびオプソニンpAbの組み合わせの防御有効性が示される。したがって、オプソニンおよび中和pAb(抗5型、抗8型、抗336、抗α毒素rALD/H35Kおよび抗LukS-PV)で免疫されたマウスは、高毒性の黄色ブドウ球菌曝露から防御され、一方、オプソニンpAbのみ(抗5型、抗8型および抗336)または中和pAbのみ(抗α毒素ALD/H35Kおよび抗LukS-PV)のいずれかを投与されたマウスは、この曝露から防御されなかった。
【0172】
(表14)黄色ブドウ球菌感染に対する防御における、オプソニンpAbおよび中和pAbの相乗効果

【0173】
実施例24.
黄色ブドウ球菌γ溶血素サブユニットのクローニング、発現および精製
黄色ブドウ球菌株ATCC 49775からゲノムDNAを抽出し、かつアンピシリン耐性を与えるpTrcHisAプラスミドベクター中にγ溶血素遺伝子、hlgA、hlgB、およびhlgCをクローニングするためにプライマーを設計した。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて、シグナルペプチドを3つすべての遺伝子から除去して、かつクローニングのため、BamHIおよびNcoI部位を設計した。PCR産物をBamHIおよびNcoIで消化し、かつ3つの遺伝子を各々別個に、同様に消化したベクターと連結した。次いで、アンピシリンを含有するLB寒天プレート上で増殖させたGC-10大腸菌化学的コンピテント細胞内に、連結したDNAを形質転換した。PCRを用いて、正しい遺伝子挿入物に関してコロニーをスクリーニングし、かつLBブロス中で陽性コロニーを増殖させ、その後、プラスミドDNAを抽出し、かつ確認のため、BamHIおよびNcoIで消化した。次いで、正しい遺伝子挿入物を持つ試料を配列決定し、かつ次いで、タンパク質発現のため、正しい挿入物を持つプラスミドを、大腸菌BL21(DE3)pLysS化学的コンピテント細胞内に形質転換した。同じアプローチを用いて、37℃で2LのCirclegrow培地中で、各サブユニットを発現する大腸菌を別個に増殖させ、その後、30℃で、IPTGで誘導することによって、HlgA、HlgB、およびHlgCを精製した。次いで、細菌細胞を遠心分離によって採取し、かつ20%スクロース溶液を用いた浸透圧ショックに細胞ペーストを曝露し、その後、低浸透圧緩衝液中に再懸濁した。遠心分離によって細胞破片を除去し、かつ上清をろ過し、かつ次いで、SP Sepharose陽イオン交換カラム上に装填した。溶出のため、塩化ナトリウム溶液の直線勾配を用い、かつSDS-PAGE上で、溶出された試料を分析した。正しいサイズのタンパク質を含有する試料をプールし、かつセラミックヒドロキシアパタイト(CHT)カラム上に装填し、かつ溶出のため、再び塩化ナトリウムの直線勾配を用いた。
【0174】
SDS-PAGEおよびウェスタンブロットによって、試料を分析した。ウェスタンブロット分析のため、タンパク質をPVDF膜にトランスファーし、かつ抗LukS-PVまたは抗LukF-PV抗体を用いた、当技術分野に公知の標準的方法を用いてプロセシングした。ブロットによって、およそ〜32-34 kDaのバンドで、rHlgA、rHlgB、およびrHlgC抗原が存在することを確認した。
【0175】
実施例25.
ロイコシジン・ポリクローナル抗体の産生および特徴付け
rLukS-PV、rLukF-PV、rHlgA、rHlgB、またはrHlgC(各50μg)を、1:1の比でアジュバント(Sigma TitermaxまたはCFA、その後、IFA)を伴い、New Zealand Whiteウサギに、2週間間隔で3〜6回注射した。LukS-PV抗血清は、抗原に対する免疫拡散アッセイにおいて、同一抗原としてrLukS-PVを認識し、一方、rLukF-PV抗血清は、LukF-PVを認識した。rLukS-PVまたはrLukF-PVは、異種抗血清とは反応しなかった。
【0176】
実施例26
黄色ブドウ球菌ロイコシジン・サブユニット、HlgA、HlgB、HlgCとPVL抗体の交差反応性
1%アガロースゲル中で二重免疫拡散法を実行して、PVL抗血清の特異性を決定すると共に、Hlgサブユニット抗原の抗原性を決定した。簡潔には、10μl/ウェルの200μg/mlの各ロイコシジン抗原(外部ウェル)および10μl/ウェルのLukS-PV抗血清またはLukF-PV抗血清(中央ウェル)を、湿潤環境中、ゲルを通じて一晩拡散させた。次いで、アガロースゲルをPBS中で洗浄し、かつプレスし、乾燥させ、かつCoomassie blueで染色した。
【0177】
抗原および抗体が共に結合して、抗体-抗原複合体を形成する際に形成される沈降素バンドに関してゲルを分析した。抗血清と反応するエピトープを共有した2つの抗原を、隣接するウェル内に入れ、かつ同じ抗血清に対して拡散させると、これらの沈降素ラインは共に融合して、「同一性ライン」を形成するであろう。抗血清由来のAbと反応するすべてのエピトープが両方の抗原に存在するのではない場合、2つの抗原間で、部分的な同一性ライン(2つの沈降素ラインが出会う点でのスパー)が形成される。
【0178】
3つの黄色ブドウ球菌ロイコシジンSサブユニット、rHlgA(A)、rHlgCおよびLukS-PV(S)は、部分的同一性ラインを形成する単一の沈降素バンドとして、抗LukS-PV血清と反応し、かつこれらのSサブユニットは、抗LukF-VP抗血清と反応しなかった。これは、rLukS-PVに対して作製した抗血清が、黄色ブドウ球菌γ毒素Sサブユニット、HlgAおよびHlgCを、すべてではないがいくつかの共有エピトープを有する類似の抗原として認識することを示す。同様に、2つのロイコシジンFサブユニット、rHlgB(B)およびrLukF-PV(F)は、部分的同一性ラインを形成する単一の沈降素バンドとして、抗LukF-PV血清と反応し、かつLukS-PV抗血清と反応しなかった。これは、rLukF-PVに対して作製した抗血清が、黄色ブドウ球菌溶血素Fサブユニット、HlgBを、すべてではないがいくつかの共有エピトープを有する類似の抗原として認識することを示す。したがって、PVL抗体は、黄色ブドウ球菌ロイコシジン、γ溶血素と交差反応性である。
【0179】
抗LukS-PVおよび抗LukF-PV抗体の両方を用いて定量的ELISAを実行して、ロイコシジンSサブユニット(rHlgA、rHlgCおよびrLukS-PV)の中で交差反応性が、ならびにロイコシジンFサブユニット(rHlgB、およびrLukF-PV)の中で交差反応性があることを確認した。ロイコシジン・サブクラスSおよびFの間には交差反応性は示されなかった。
【0180】
実施例27.
ロイコシジン抗体の反応性
標準的ELISA技術を用いて、rLukS-PV、rLukF-PV、rHlgA、rHlgB、およびrHlgCを含む、多様なロイコシジン抗原との反応性に関して、ウサギ・ポリクローナル抗体(抗LukS-PV、抗LukF-PV、抗HlgA、抗HlgBおよび抗HlgC)を評価した。簡潔には、96ウェルプレートを、1μg/mLの特異的ロイコシジン抗原でコーティングし、かつ次いで、プレートを洗浄し、かつ次いでBSAでブロッキングした。プレートを再び洗浄し、かつ次いで、抗ロイコシジンウサギ血清または参照対照ウサギ血清をプレートの下方に連続希釈して、かつインキュベーションした。プレートを再び洗浄し、かつ西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)に抱合された二次抗体を添加した。プレートを洗浄し、かつ次いで、ペルオキシダーゼ基質系を用いて発色させ、OD 450 nmでの読み取りによって反応性を決定した。450 nmでのODが0.2より大きい場合、交差反応性を陽性と見なした。
【0181】
ELISAデータは、ロイコシジンSサブユニット(rLukS-PV、rHlgAおよびrHlgC)が抗LukS-PV、抗HlgAおよび抗HlgC抗体と反応性である一方、ロイコシジンFサブユニット(rLukF-PVおよびrHlgB)が抗LukF-PVおよび抗HlgB抗体と反応性であることを示す(表15)。ロイコシジンSサブユニット(rLukS-PV、rHlgAおよびrHlgC)は、抗HlgBおよび抗LukF-PV抗体と反応性でなく、一方、ロイコシジンFサブユニット(rLukF-PVおよびrHlgB)は、抗LukS-PV、抗HlgA、または抗HlgC抗体と反応性でなかった。したがって、ロイコシジンS抗体は、異種ロイコシジンSサブユニットと交差反応性であり、かつロイコシジンF抗体は、異種ロイコシジンFサブユニットと交差反応性である。
【0182】
(表15)ロイコシジン・サブユニットとロイコシジン抗体の交差反応性

【0183】
実施例28.
ロイコシジン・ポリクローナル抗体による、黄色ブドウ球菌γ溶血素の中和
DMSOの存在下、10%ウシ胎児血清(FBS)を補ったDMEM培地中で、HL-60細胞を7日間増殖させて、分化を誘導した。次いで、低速遠心分離によって細胞を採取し、かつ次いで、FBS不含培地を用いて、5×105細胞/ウェルで、96ウェルプレート中に植え付けた。異なる濃度のγ溶血素(HlgA/HlgBまたはHlgC/HlgB)を、異なる希釈のウサギ・ポリクローナル抗LukS-PV抗体、抗LukF-PV抗体または正常ウサギ血清と、37℃で30分間インキュベーションした。次いで、抗体および毒素の混合物を細胞に添加し、かつ24時間のインキュベーションを可能にした。次いで、XTT (2,3-ビス(2-メトキシ-4-ニトロ-5-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム-5-カルボキシアニリド内塩)溶液を細胞に添加し、かつ450 nmでの吸光度を測定して、細胞生存度を決定した。対照として、いかなるウサギ血清も添加せずに、反応を実行した。
【0184】
HlgA/HlgBおよびHlgC/Bは、それぞれ、250 ng/mLおよび32μg/mLの濃度で、HL-60細胞に対して細胞傷害性であった。抗LukS-PVおよび抗LukF-PV抗血清はどちらも、HlgA/HlgBおよびHlgC/HlgBの細胞傷害性を中和可能であった。抗血清の中和効果は、低レベルの非特異的中和を示す正常ウサギ血清の効果と対照的に、希釈依存性であった。HlgA/HlgB細胞傷害活性は、1:20希釈の抗LukF-PVおよび抗LukS-PV抗血清によって、それぞれ84%および74%中和された。HlgC/HlgB細胞傷害性は、1:5希釈の抗LukF-PVおよび抗LukS-PVによって、それぞれ91%および72%中和された。これは、抗ロイコシジン抗体が、異種ロイコシジンに対して交差中和性であることを明らかに示す。
【0185】
(表16)抗LukS-PVおよび抗LukF-PV抗体でのγ溶血素HlgA/HlgBおよびHlgC/HlgBの交差中和

【0186】
実施例29.
ロイコシジン・ポリクローナル抗体による、黄色ブドウ球菌PVL細胞傷害性の中和
DMSOの存在下、10%ウシ胎児血清(FBS)を補ったDMEM培地中で、HL-60細胞を7日間増殖させて、分化を誘導した。次いで、低速遠心分離によって細胞を採取し、かつ次いで、FBS不含培地を用いて、5×105細胞/ウェルで、96ウェルプレート中に植え付けた。PVL(32μg/mLのrLukS-PVおよびrLukF-PV)を、異なる希釈のウサギ・ポリクローナル抗HlgA、抗HlgB、および抗HlgC抗体または正常ウサギ血清と、37℃で30分間インキュベーションした。次いで、抗体および毒素の混合物を細胞に添加し、かつ24時間のインキュベーションを可能にした。次いで、XTT (2,3-ビス(2-メトキシ-4-ニトロ-5-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム-5-カルボキシアニリド内塩)溶液を細胞に添加し、かつ450 nmでの吸光度を測定して、細胞生存度を決定した。対照として、いかなるウサギ血清も添加せずに、反応を実行した。
【0187】
PVLは、32μg/mLの濃度で、HL-60細胞に対して細胞傷害性であった。ウサギ抗HlgA、抗HlgB、および抗HlgC抗血清は、PVLの細胞傷害性を中和可能であった。抗血清の中和効果は、低レベルの非特異的中和を示す正常ウサギ血清の効果と対照的に、希釈依存性であった。血清を1:5希釈した際、PVL細胞傷害活性は、抗HlgA、抗HlgB、および抗HlgC抗血清によって、それぞれ32%、26%および26%中和された。正常ウサギ血清は、1:5希釈で、非常にわずかしかまたはまったく中和活性を示さなかった(1%)。したがって、ロイコシジン特異的抗体は、異種ロイコシジンを中和することが示された。
【0188】
(表17)抗HlgA、抗HlgB、および抗HlgC抗体でのPVL毒素の交差中和

【0189】
実施例30.
ロイコシジン・ポリクローナル抗体による、黄色ブドウ球菌ロイコシジン細胞傷害性の中和
ロイコシジン細胞傷害性、およびロイコシジン抗体によるロイコシジン細胞傷害性の中和を示した。ロイコシジン(PVLまたはγ溶血素HlgC/HlgBのいずれか、各400 ng/ml)を異なる希釈のウサギ・ポリクローナル抗HlgA、抗HlgB、もしくは抗HlgC抗体または正常ウサギ血清と37℃で30分間インキュベーションした。次いで、FBS不含培地を用いて、抗体/毒素混合物を5×105細胞/ウェルのヒト多核白血球(PMN)に添加し、かつ2時間のインキュベーションを可能にした。次いで、XTT (2,3-ビス(2-メトキシ-4-ニトロ-5-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム-5-カルボキシアニリド内塩)溶液を細胞に添加し、かつ450 nmでの吸光度を測定して、細胞生存度を決定した。対照として、いかなるウサギ血清も添加せずに、反応を実行した。
【0190】
黄色ブドウ球菌PVLおよびγ溶血素(HlgC/HlgB)は、400 ng/mlの濃度で、PMNに対して細胞傷害性であった。ウサギ抗HlgA、抗HlgBおよび抗HlgC抗血清は、PVL細胞傷害性を中和可能であり、かつ抗LukS-PVおよび抗LukF-PVは、HlgC/HlgBの細胞傷害性を中和可能であった。抗血清の中和効果は、低レベルの非特異的中和を示す正常ウサギ血清の効果と対照的に、希釈依存性であった。これらのデータは、ロイコシジン特異的抗体が、異種ロイコシジンを中和可能であることを示す。
【0191】
(表18)ロイコシジン抗体での黄色ブドウ球菌ロイコシジン、PVLおよびγ溶血素の交差中和

【0192】
実施例31
黄色ブドウ球菌に対する5型/8型/336モノクローナル抗体(オプソニン抗体)およびα毒素/ロイコシジン・モノクローナル抗体(中和抗体)の相乗効果
高毒性の黄色ブドウ球菌単離体に対する療法において、中和およびオプソニン・モノクローナル抗体(mAb)を組み合わせた利点を示すため、BALB/cマウスを(1)抗5型および抗8型莢膜多糖mAbならびに抗336 mAb(オプソニンmAb)、(2)抗α毒素および抗LukS-PV mAb(毒素中和mAb)、または(3)抗5型および抗8型莢膜多糖mAbならびに抗336 mAb、ならびに抗α毒素および抗LukS-PV mAb(オプソニンおよび中和mAbの組み合わせ)で、腹腔内受動免疫した。対照として、マウスに非特異的モノクローナル抗体またはPBSを投与した。24時間後、マウスを剪毛して、背中の毛皮を除去し、かつPVLおよびα毒素を分泌するCA-MRSA株である黄色ブドウ球菌USA 300-01114の1×108 CFUによって、皮内(ID)経路を介して曝露した。72時間後、皮膚および軟組織感染に関して、マウスを観察した。
【0193】
結果(表19に示す)によって、中和またはオプソニン抗体いずれか単独での免疫の防御効果に比較した際の、黄色ブドウ球菌単離体USA300での細菌曝露72時間後の黄色ブドウ球菌毒素中和およびオプソニン抗体の組み合わせの防御有効性が示される。非特異的モノクローナル抗体またはPBSを投与された対照マウスは、すべてのマウスが壊死皮膚病変を発展させ、かつより高い率の臓器播種を有した点で、細菌感染から防御されていなかった。毒素中和抗体(抗α毒素および抗ロイコシジン・モノクローナル抗体)で免疫されたマウスは、皮膚病変数の減少を示し、一方、オプソニン抗体(抗5型、抗8型および抗336モノクローナル抗体)で免疫されたマウスは、臓器播種の減少を示した。オプソニンおよび中和抗体の両方(抗5型、抗8型、抗336、抗α毒素および抗LukS-PVモノクローナル抗体)で免疫されたマウスは、減少した数の皮膚病変およびより低い率の臓器播種を有する点で、高毒性の黄色ブドウ球菌曝露から防御された。したがって、オプソニンおよび毒素中和抗体の組み合わせは、皮膚および軟組織感染ならびに臓器播種を予防する際に防御性の効果を示した。
【0194】
(表19)黄色ブドウ球菌曝露に対する防御における、オプソニンおよび中和抗体の防御効果

*高用量:オプソニン抗体に関しては各500μg、および中和抗体に関しては各100μg
**低用量=オプソニン抗体に関しては各100μg、および中和抗体に関しては各50μg
【0195】
当業者が本発明を作製し、かつ用いるために十分に詳細に本発明を記載し、かつ例示してきたが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、多様な代替物、変更、および改善が明らかであるはずである。本明細書に提供する実施例は、代表的であり、例示的であり、かつ本発明の範囲に対する限定として意図されない。当業者は、その修飾および他の使用に気づくであろう。これらの修飾は本発明の精神内に含まれ、かつ特許請求の範囲によって定義される。
【0196】
本明細書に言及するすべての特許および刊行物は、本発明が関連する当業者の技術レベルを示す。すべての特許および刊行物は、各個々の刊行物が、具体的にかつ個々に、参照により本明細書に組み入れられると示されたのと同じ程度で、参照により本明細書に組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)黄色ブドウ球菌(S. aureus)5型抗原、(ii)黄色ブドウ球菌8型抗原、(iii)黄色ブドウ球菌336抗原、(iv)黄色ブドウ球菌α毒素抗原、および(v)ブドウ球菌(Staphylococcal)ロイコシジン抗原を含む、五価ブドウ球菌抗原組成物。
【請求項2】
ブドウ球菌抗原の少なくとも1つが防御抗原である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
黄色ブドウ球菌α毒素抗原が、5型抗原、8型抗原、336抗原、およびロイコシジン抗原の少なくとも1つに抱合されている、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
α毒素抗原が、野生型黄色ブドウ球菌α毒素に比較してその毒性を減少させる少なくとも2つの改変を含有する、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
ブドウ球菌ロイコシジン抗原が、Panton-Valentineロイコシジン(PVL)抗原サブユニット、およびγ溶血素サブユニット抗原からなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
ブドウ球菌ロイコシジン抗原が、(i)黄色ブドウ球菌PVLのLukF-PVサブユニット、(ii)黄色ブドウ球菌PVLのLukS-PVサブユニット、(iii) HlgA黄色ブドウ球菌γ溶血素サブユニット、(iv) HlgB黄色ブドウ球菌γ溶血素サブユニット;(v) HlgC黄色ブドウ球菌γ溶血素サブユニット、(vi)黄色ブドウ球菌由来のLukD、(vii)黄色ブドウ球菌由来のLukE、(viii)黄色ブドウ球菌由来のLukM、(ix)黄色ブドウ球菌PVLのLukF’-PVサブユニット、(x) S.インターメディウス(S. intermedius)由来のLukF-Iサブユニット;および(xi) S.インターメディウス由来のLukS-Iサブユニットからなる群より選択される、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
一つまたは複数のさらなる細菌抗原をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
一つまたは複数のさらなる細菌抗原の少なくとも1つが、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis) PS1、表皮ブドウ球菌GP1、リポテイコ酸(LTA)、および接着性マトリックス分子を認識する微生物表面成分(MSCRAMM)タンパク質、ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択されるブドウ球菌抗原である、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
野生型黄色ブドウ球菌α毒素に比較してその毒性を減少させる少なくとも2つの改変を含有する、黄色ブドウ球菌α毒素抗原、および薬学的に許容される担体を含む、組成物。
【請求項10】
改変の少なくとも1つが化学的改変である、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
改変の少なくとも1つが分子改変である、請求項9記載の組成物。
【請求項12】
改変の少なくとも1つが化学的改変であり、かつ改変の少なくとも1つが分子改変である、請求項9記載の組成物。
【請求項13】
分子改変が、野生型黄色ブドウ球菌α毒素のアミノ酸配列における置換、挿入、または欠失である、請求項11記載の組成物。
【請求項14】
分子改変が、野生型黄色ブドウ球菌α毒素のアミノ酸配列における置換である、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
置換が、野生型黄色ブドウ球菌α毒素のHis-35に対応する位置にある、請求項14記載の組成物。
【請求項16】
置換が、Hisに対するArg、Lys、Ala、Leu、またはGluの置換である、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
分子改変が、野生型黄色ブドウ球菌α毒素のアミノラッチ(latch)ドメインにおける置換、挿入、または欠失である、請求項14記載の組成物。
【請求項18】
分子改変が、野生型黄色ブドウ球菌α毒素のアミノラッチドメインにおける欠失である、請求項17記載の組成物。
【請求項19】
分子改変が、野生型黄色ブドウ球菌α毒素のステムドメインにおける欠失である、請求項13記載の組成物。
【請求項20】
(i)黄色ブドウ球菌α毒素抗原および(ii)該黄色ブドウ球菌α毒素抗原以外の一つまたは複数のさらなる細菌抗原を含む、組成物。
【請求項21】
一つまたは複数のさらなる細菌抗原の少なくとも1つが、黄色ブドウ球菌5型、黄色ブドウ球菌8型、黄色ブドウ球菌336、ブドウ球菌ロイコシジン抗原、表皮ブドウ球菌PS1、表皮ブドウ球菌GP1、リポテイコ酸(LTA)、および接着性マトリックス分子を認識する微生物表面成分(MSCRAMM)タンパク質、ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択されるさらなるブドウ球菌抗原である、請求項20記載の組成物。
【請求項22】
さらなるブドウ球菌抗原が防御抗原である、請求項21記載の組成物。
【請求項23】
黄色ブドウ球菌α毒素抗原が、一つまたは複数のさらなる細菌抗原の少なくとも1つに抱合されている、請求項20記載の組成物。
【請求項24】
α毒素抗原が、野生型黄色ブドウ球菌α毒素に比較してその毒性を減少させる少なくとも2つの改変を含有する、請求項20記載の組成物。
【請求項25】
(i)請求項1、9、または20のいずれか一項記載の組成物を被験体に投与する工程、(ii)該被験体から血漿を採取する工程、および(iii)該被験体から免疫グロブリンを精製する工程を含む、過免疫特異的静脈内免疫グロブリン(IVIG)調製物を作製する方法。
【請求項26】
(i)黄色ブドウ球菌5型抗原に特異的に結合する第一の抗体、(ii)黄色ブドウ球菌8型抗原に特異的に結合する第二の抗体、(iii)黄色ブドウ球菌336抗原に特異的に結合する第三の抗体、(iv)黄色ブドウ球菌α毒素抗原に特異的に結合する第四の抗体、および(v)ブドウ球菌ロイコシジン抗原に特異的に結合する第五の抗体を含む、五価ブドウ球菌抗体組成物。
【請求項27】
第一から第五の抗体の少なくとも1つがモノクローナル抗体である、請求項26記載の組成物。
【請求項28】
第一から第五の抗体の少なくとも1つが中和抗体である、請求項26記載の組成物。
【請求項29】
第五の抗体が、Panton-Valentineロイコシジン(PVL)抗原サブユニットおよびγ溶血素サブユニット抗原からなる群より選択されるブドウ球菌ロイコシジン抗原に特異的に結合する、請求項26記載の組成物。
【請求項30】
第五の抗体が、(i)黄色ブドウ球菌PVLのLukF-PVサブユニット、(ii)黄色ブドウ球菌PVLのLukS-PVサブユニット、(iii) HlgA黄色ブドウ球菌γ溶血素サブユニット、(iv) HlgB黄色ブドウ球菌γ溶血素サブユニット;(v) HlgC黄色ブドウ球菌γ溶血素サブユニット、(vi)黄色ブドウ球菌由来のLukD、(vii)黄色ブドウ球菌由来のLukE、(viii)黄色ブドウ球菌由来のLukM、(ix)黄色ブドウ球菌PVLのLukF’-PVサブユニット、(x) S.インターメディウス由来のLukF-Iサブユニット;および(xi) S.インターメディウス由来のLukS-Iサブユニットからなる群より選択されるブドウ球菌ロイコシジン抗原に特異的に結合する、請求項29記載の組成物。
【請求項31】
(i)黄色ブドウ球菌α毒素抗原に特異的に結合する第一の抗体および(ii)該黄色ブドウ球菌α毒素抗原以外の細菌抗原に特異的に結合する少なくとも1つの第二の抗体を含む、防御抗体組成物。
【請求項32】
第一および第二の抗体の少なくとも1つがモノクローナル抗体である、請求項31記載の組成物。
【請求項33】
第一および第二の抗体の少なくとも1つが中和抗体である、請求項31記載の組成物。
【請求項34】
少なくとも1つの第二の抗体の少なくとも1つが、黄色ブドウ球菌5型、黄色ブドウ球菌8型、黄色ブドウ球菌336、ブドウ球菌ロイコシジン抗原、表皮ブドウ球菌PS1、表皮ブドウ球菌GP1、リポテイコ酸(LTA)、および接着性マトリックス分子を認識する微生物表面成分(MSCRAMM)タンパク質からなる群より選択されるさらなるブドウ球菌抗原に特異的に結合する、請求項31記載の組成物。
【請求項35】
少なくとも1つの第二の抗体の少なくとも1つが、Panton-Valentineロイコシジン(PVL)抗原サブユニットおよびγ溶血素サブユニット抗原からなる群より選択されるブドウ球菌ロイコシジン抗原に特異的に結合する、請求項34記載の組成物。
【請求項36】
少なくとも1つの第二の抗体の少なくとも1つが、(i)黄色ブドウ球菌PVLのLukF-PVサブユニット、(ii)黄色ブドウ球菌PVLのLukS-PVサブユニット、(iii) HlgA黄色ブドウ球菌γ溶血素サブユニット、(iv) HlgB黄色ブドウ球菌γ溶血素サブユニット;(v) HlgC黄色ブドウ球菌γ溶血素サブユニット、(vi)黄色ブドウ球菌由来のLukD、(vii)黄色ブドウ球菌由来のLukE、(viii)黄色ブドウ球菌由来のLukM、(ix)黄色ブドウ球菌PVLのLukF’-PVサブユニット、(x) S.インターメディウス由来のLukF-Iサブユニット;および(xi) S.インターメディウス由来のLukS-Iサブユニットからなる群より選択されるブドウ球菌ロイコシジン抗原に特異的に結合する、請求項35記載の組成物。
【請求項37】
最適以下の量の第一の抗体および最適以下の量の第二の抗体を含む、請求項31記載の組成物。
【請求項38】
(a)(i)黄色ブドウ球菌α毒素抗原および(ii)該黄色ブドウ球菌α毒素抗原以外の一つまたは複数のさらなる細菌抗原を、ヒト被験体に投与する工程、(b)該被験体から血漿を採取する工程、ならびに(c)該被験体から免疫グロブリンを精製する工程を含む方法によって調製される、請求項31記載の組成物。
【請求項39】
黄色ブドウ球菌α毒素抗原が、一つまたは複数のさらなる細菌抗原の少なくとも1つに抱合されている、請求項38記載の組成物。
【請求項40】
黄色ブドウ球菌α毒素抗原が、野生型黄色ブドウ球菌α毒素に比較してその毒性を減少させる少なくとも2つの改変を含有する、請求項38記載の組成物。
【請求項41】
(a)黄色ブドウ球菌α毒素抗原および該黄色ブドウ球菌α毒素抗原以外のさらなる細菌抗原を投与されたことがないヒト被験体をスクリーニングする工程、(b)該被験体から血漿を採取する工程、ならびに(c)該被験体から免疫グロブリンを精製する工程を含む方法によって調製される、請求項31記載の組成物。
【請求項42】
請求項1、9、20、31、または36記載の組成物を、それを必要とする被験体に投与する工程を含む、黄色ブドウ球菌感染を治療または予防するための方法。
【請求項43】
抗感染剤、抗生物質剤、および抗菌剤からなる群より選択される薬剤を投与する工程をさらに含む、請求項42記載の方法。
【請求項44】
薬剤が、バンコマイシン、リゾスタフィン、およびクリンダマイシンからなる群より選択される、請求項43記載の方法。
【請求項45】
黄色ブドウ球菌感染が、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌と関連する、請求項42記載の方法。
【請求項46】
黄色ブドウ球菌がα毒素を産生する、請求項42記載の方法。
【請求項47】
(i)ブドウ球菌ロイコシジン抗原または(ii)ブドウ球菌ロイコシジン抗原に特異的に結合する抗体を含む組成物を、それを必要とする患者に投与する工程を含む、黄色ブドウ球菌PVL感染を中和する方法。
【請求項48】
(i)黄色ブドウ球菌PVL抗原サブユニットまたは(ii)黄色ブドウ球菌PVL抗原サブユニットに特異的に結合する抗体を含む組成物を、それを必要とする患者に投与する工程を含む、ブドウ球菌ロイコシジン感染を中和する方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−539979(P2009−539979A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515382(P2009−515382)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【国際出願番号】PCT/US2007/005084
【国際公開番号】WO2007/145689
【国際公開日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(500175130)ナビ バイオファーマシューティカルズ (7)
【Fターム(参考)】