説明

ブナシメジ菌株及びブナシメジ子実体の製造方法

【課題】種菌硬化症が起こりにくいブナシメジ菌株及び該菌株を用いたブナシメジ子実体の製造方法、種菌硬化症が起こりにくいブナシメジ菌株の選別方法を提供すること。
【解決手段】針葉樹鋸屑及びコメヌカを主要構成成分とし、乾燥重量比で約6.4重量%のメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを含有する固形栽培用培地を用いた栽培において、固形栽培用培地表面の種菌部分の褐変を起こさないブナシメジ菌株、当該菌株を用いたブナシメジ子実体の製造方法。更に、針葉樹鋸屑及びコメヌカを主要構成成分とし、多量のマグネシウム化合物を含有する固形栽培用培地を用いた種菌硬化症が起こりにくいブナシメジ菌株の選別方法。本発明の選別方法により、事前に種菌硬化症が起こりにくいブナシメジ菌株を選別することが可能となり、大規模な商業的製造のブナシメジ子実体の歩留まりを防ぎ、効率よく良質のブナシメジ子実体の製造が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種菌硬化症が起こりにくいブナシメジ菌株及び該菌株を用いるブナシメジ子実体の製造方法に関する。更に、種菌硬化症が起こりにくいブナシメジ菌株の選別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、きのこの人工的な栽培技術が開発され、種々の食用きのこの子実体(シイタケ、エノキタケ、ヒラタケ、ナメコ、マイタケ、ブナシメジ、ハタケシメジ、ホンシメジ等)が提供されるようになってきている。
【0003】
通常、きのこの人工的な栽培方法は、コナラ、ブナ、クヌギ等の原木をほだ木として使用する原木栽培と、オガクズ、コーンコブ等にコメヌカ、小麦フスマ、コーンブラン等の栄養源を混合した培地をビン、袋、箱などの容器に充填した固形栽培用培地を用いる菌床栽培がある。これらの栽培方法のうち、ポリプロピレン製のビンを用いた菌床栽培方法は、大型化、機械化が比較的容易であることから、大型設備の工場システムで実施が推進されてきている。しかしながら、大型設備の工場システムにおいて、少量栽培ではあまり見られなかったきのこ栽培時における各種の障害がみられるようになってきた。
【0004】
例えば、ブナシメジにおいては、培養熟成中に菌床上の種菌部分が褐色に変色して硬化する現象が見られることがある。また、この際には相当の頻度で腐敗臭の発生を伴う。これらの現象が発生した場合、菌かき後、菌床面にまで褐変がおよび、菌糸が再生しないかもしくは再生が極めて遅く、芽出しに至らない、つまり子実体が収穫できない例が多くみられる。この現象は種菌硬化症と呼ばれ、子実体の生産効率を落とすことから重要課題とされている。しかしながら、種菌硬化症の原因やメカニズムは解明されておらず、また対処方法も培養温度を下げる等の方策が試みられているに過ぎない(例えば、非特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】菌床きのこ・栽培障害事例集、第64−66頁、長野県経済事業農業協同連合会 平成7年3月発行
【非特許文献2】長野県野菜花き試験場報告、第11号、23−26頁、2001年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の現状をかんがみ、本発明の目的は、ブナシメジの大規模製造において従来よりも種菌硬化症が起こりにくいブナシメジ菌株及び該菌株を用いたブナシメジ子実体の製造方法を提供することにある。また、種菌硬化症が起こりにくいブナシメジ菌株の選別方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ブナシメジ子実体の大規模製造において重要課題とされる種菌硬化症に関して鋭意検討した結果、驚くべきことに、通常、ブナシメジ子実体の収量を増加させるために少量が用いられているメタケイ酸アルミン酸マグネシウムのようなマグネシウム化合物を多量に含有する固形栽培用培地(菌床栽培用培地又は培養基)を用いてブナシメジ子実体の栽培を行うことにより、大規模製造で起きている種菌硬化症と同様の現象を人為的に起こすことが可能であることを見出した。また、当該固形栽培用培地を用いて、種菌硬化症が起こりにくいブナシメジ菌株を選別することが可能であることを見出し、当該方法を用いて極めて種菌硬化症が起こりにくいブナシメジ菌株を見出した。更に、当該菌株を用いることにより大規模製造において収量の良い安定したブナシメジ子実体の製造が可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明を概説すれば、
[1]針葉樹鋸屑及びコメヌカを主要構成成分とし、乾燥重量比で約6.4重量%のメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを含有する固形栽培用培地を用いた栽培において、固形栽培用培地表面の種菌部分の褐変を起こさないブナシメジ菌株、
[2]針葉樹鋸屑、コメヌカ、コーンコブミール、大豆皮、フスマ、及びメタケイ酸アルミン酸マグネシウムからなる固形栽培用培地を用いた栽培において、種菌部分の褐変を起こさない[1]記載のブナシメジ菌株、
[3]Hypsizygus marmoreus K−4975(FERM BP−11321)、Hypsizygus marmoreus K−4979(FERM BP−11322)、Hypsizygus marmoreus K−4980(FERM BP−11323)、Hypsizygus marmoreus K−4981(FERM BP−11324)、又はこれら菌株由来の変異株であって、これら菌株と同等の性質を有する菌株から選択される[1]又は[2]に記載のブナシメジ菌株、
[4][1]記載のブナシメジ菌株を用いる、ブナシメジ子実体の製造方法、
[5]針葉樹鋸屑及びコメヌカを主要構成成分とし、乾燥重量比で約5.2重量%以上のメタケイ酸アルミン酸マグネシウム、乾燥重量比で約0.5重量%以上の酸化マグネシウム及び乾燥重量比で約2重量%以上の水酸化アルミナマグネシウムから選択される少なくとも1つのマグネシウム化合物からなる固形栽培用培地を用いてブナシメジ菌株を栽培することを含む、種菌硬化症が起こりにくいブナシメジ菌株の選別方法、
[6]固形栽培用培地が、針葉樹鋸屑、コメヌカ、コーンコブミール、大豆皮、フスマ、及びマグネシウム化合物からなる、[5]のブナシメジ菌株の選別方法、
[7]固形栽培用培地表面の種菌部分の褐変を起こさないブナシメジ菌株を選択する選別方法である[5]又は[6]に記載のブナシメジ菌株の選別方法、
に関する。
上記、[3]の発明の一つの態様として、針葉樹鋸屑及びコメヌカを主要構成成分とし、乾燥重量比で約6.4重量%のメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを含有する固形栽培用培地を用いた栽培において、固形栽培用培地表面の種菌部分の褐変を起こさないHypsizygus marmoreus K−4975(FERM BP−11321)、Hypsizygus marmoreus K−4979(FERM BP−11322)、Hypsizygus marmoreus K−4980(FERM BP−11323)、及びHypsizygus marmoreus K−4981(FERM BP−11324)から選択される少なくとも1つの菌株由来の変異株であって、これら菌株と同等の性質を有するブナシメジ菌株も提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、種菌硬化症が起こりにくいブナシメジ菌株が提供され、該菌株を用いることによる、安定したブナシメジ子実体の大規模な商業的製造方法が提供される。また、種菌硬化症が起こりにくいブナシメジ菌株の簡便な選別方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本願明細書において「種菌硬化症」とは、ブナシメジ子実体の製造において、固形栽培用培地に種菌を接種した後、培養熟成中に固形栽培用培地表面の種菌部分が褐色に変色して硬化し、腐敗臭を発し、菌かき後、菌床表面に菌糸が再生しないかもしくは再生が極めて遅延する現象を言う。本現象を発生した固形栽培用培地では芽出しに至らない、つまり子実体が収穫できない。
【0011】
本願明細書におけるブナシメジの菌床栽培方法は特に限定されないが、例えば、オガクズ、コーンコブ等にコメヌカ、小麦フスマ、コーンブラン等の栄養源を混合した固形栽培用培地をビン、袋、箱などの容器に充填した固形栽培用培地を用いる栽培方法が挙げられる。固形栽培用培地としては、ブナシメジ子実体の栽培時に用いられる公知の固形栽培用培地を用いることができる。例えば、針葉樹鋸屑及びコメヌカを主要構成成分とする固形栽培用培地が挙げられ、好ましくは、針葉樹鋸屑、コメヌカ、コーンコブミール、大豆皮、フスマ、及びマグネシウム化合物を含む固形栽培用培地が挙げられる。
【0012】
本願明細書において「針葉樹鋸屑及びコメヌカを主要構成成分とし」とは、固形栽培用培地において、培地基材として針葉樹鋸屑が主な成分であり、栄養材としてコメヌカが主な成分であることを示す。すなわち、培地基材として針葉樹鋸屑のみ又は他の培地基材より針葉樹鋸屑が多く使用され、栄養材としてコメヌカのみ又は他の栄養材よりコメヌカが多く使用されていることを示す。例えば、ビン栽培において、850mLビンを使用した場合、針葉樹鋸屑は乾燥重量で50〜95g、好ましくは60〜75gであり、コメヌカは乾燥重量で45〜110g、好ましくは45〜90gである。
【0013】
本願明細書において「マグネシウム化合物」とは、マグネシウムを含有する化合物であれば特に限定はなく、マグネシウムのオキソ酸塩、ハロゲン化物、酸化物、水酸化物、無機塩又は有機酸塩等を用いることができる。例えば、オキソ酸塩としてはメタケイ酸アルミン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸水素マグネシウム、過炭酸マグネシウム、ハロゲン化物としてはフッ化マグネシウム、フッ化水素マグネシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、酸化物としては酸化マグネシウム、水酸化物としては水酸化マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム(水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムの共沈物)、無機塩としてはアルミン酸マグネシウム、水素化マグネシウム、硫化マグネシウム、硫化水素マグネシウム(水硫化マグネシウム)、過マンガン酸マグネシウム、クロム酸マグネシウム、塩素酸マグネシウム等が挙げられる。これらマグネシウム化合物は、1種類又は複数種類を組み合わせて使用してもよい。本発明の種菌硬化症が起こりにくいブナシメジ菌株の選別方法においては、特にメタケイ酸アルミン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、又は水酸化アルミナマグネシウムが好適に使用される。また当該選別方法における固形栽培用培地中のマグネシウム化合物含有量は使用するマグネシウム化合物によって異なり、適宜選択すればよいが、例えば、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムを使用する場合、固形栽培用培地の全乾燥重量に対する乾燥重量比で約5.2重量%(例えば、市販品の乾燥減量18%の場合、湿重量で約12g/850mLビン)以上、好適には約5.2〜8.4重量%(例えば、市販品の乾燥減量18%の場合、湿重量で約12〜20g/850mLビン)、更に好適には約6.4重量%(例えば、市販品の乾燥減量18%の場合、湿重量で約15g/850mLビン)、酸化マグネシウムの場合、固形栽培用培地の全乾燥重量に対する乾燥重量比で約0.5重量%(例えば、市販品の約1g/850mLビン)以上、好適には約0.5〜3重量%(例えば、市販品の約1〜6g/850mLビン)、さらに好適には約0.8重量%(例えば、市販品の約1.5g/850mLビン)、水酸化アルミナマグネシウム化合物の場合は、固形栽培用培地の全乾燥重量に対する乾燥重量比で約2重量%(例えば、市販品の乾燥減量10%の場合、湿重量で約4g/850mLビン)以上、好適には約2〜4重量%(例えば、市販品の乾燥減量10%の場合、約4〜8g/850mLビン)、さらに好適には約2.5重量%(例えば、市販品の乾燥減量10%の場合、湿重量で約5g/850mLビン)である。
なお、本願明細書における%や比率は、特に断りのない限り、重量基準の値を示す。
【0014】
本発明の種菌硬化症が起こりにくいブナシメジ菌株の選別方法は、菌床栽培方法である、ビン栽培、袋栽培、箱栽培などで実施することが可能である。一例としてビン栽培による本発明の選別方法について述べる。ブナシメジの菌床栽培方法は、菌床培地調製、ビン詰め、殺菌、種菌の接種、菌床培養、菌かき(饅頭かき)、芽出し、生育、収穫等の各工程からなる(例えば、日本国特開平05−268942号公報)。これら工程のうち、菌床培地調製工程において、マグネシウム化合物、例えばメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを固形栽培用培地の全乾燥重量に対する乾燥重量比で約5.2重量%となるように固形栽培用培地に添加する。本発明の種菌硬化症が起こりにくいブナシメジ菌株の選別方法において、マグネシウム化合物を多量に含有させる固形栽培用培地としては、特に限定はなく、ブナシメジ子実体の栽培時に用いられる公知の固形栽培用培地を用いることができる。特に、本発明においては、針葉樹鋸屑(例えばスギ材)及びコメヌカを主成分とする培地が好適に使用され、例えば、針葉樹鋸屑、コメヌカ、コーンコブミール、大豆皮、フスマ、マグネシウム化合物からなる固形栽培用培地を使用すればよい。
【0015】
次に、ビン詰め以降の工程を行う。接種する種菌としては、種菌硬化症が起こりにくいかどうか選別を行いたいブナシメジ菌株の液体種菌又は固体種菌を用いることができる。
【0016】
本発明の種菌硬化症が起こりにくいブナシメジ菌株の選別方法が実施可能なブナシメジの菌株としては、リオフィラム ウルマリウム(Lyophyllum ulmarium)として表示されている菌株、Hypsizygus marmoreusとして表示されている菌株及び栽培に適したこれらの変異株、これらの菌株を親株とした公知の交配育種により得られた交配株等が例示される。
【0017】
種菌硬化症が起こりにくいかどうかは、菌かき前・後の菌床表面の状態、菌かき後の膜再生の状態、子実体の生育状態から選択されるいずれかの状態又は全ての状態を観察することにより選別することができる。例えば、種菌硬化症が起こりやすいブナシメジ種菌の場合、菌かき前の菌床面の状態においては、褐色及び/又は異臭がする状態となる。また、このような場合、菌かき後の菌床面も褐色及び/又は異臭がする状態になっていることが多い。さらに、菌かき後の膜再生においては、膜再生が全くされない又は一部のみ膜再生する状態となる。子実体の生育状態においては、マグネシウム化合物を含まないもしくは少量含有する固形栽培用培地を用いた場合と比較して、子実体の極端な収量低下や子実体の品質(形状)が低下する。下記実施例に示されるように、菌かき後の菌床面が褐変した場合には正常に子実体が発生してもその収量の低下が見られる。従って、マグネシウム化合物を多量に含有する固形栽培用培地において、固形栽培用培地表面の種菌部分の褐変を起こさない菌株は、種菌硬化症を起こしにくい、優良菌株と言える。
【0018】
上記のような状態にならないブナシメジ菌株を選択することにより、種菌硬化症が起こりにくいもしくは起こらないブナシメジ菌株を選別することができる。また、後述の実施例に記載のように、従来知られているブナシメジ菌株と比較することにより、種菌硬化症が起こりにくいもしくは起こらないブナシメジ菌株を選別してもよい。本発明の選別方法においては、1菌株につき、同時期、同一培地、同条件で5個以上、好適には8個以上栽培を行い、種菌硬化症が起こりにくいもしくは起こらないかどうかを選別することが好ましい。
【0019】
本発明の方法を用いて選別したブナシメジ菌株としては、以下の菌株が挙げられる。
・Hypsizygus marmoreus K−4975(FERM BP−11321)
・Hypsizygus marmoreus K−4979(FERM BP−11322)
・Hypsizygus marmoreus K−4980(FERM BP−11323)
・Hypsizygus marmoreus K−4981(FERM BP−11324)
【0020】
これらの菌株は、乾燥重量で鋸屑(スギ材)を62g、湿重量でコメヌカを60g(水分含量約10%)、コーンコブミール30g(水分含量約10%)、大豆皮20g(水分含量約10%)、フスマ20g(水分含量約10%)、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム15g(乾燥減量18%の場合)を混合した後、水分含有率を65%に調製された固形栽培用培地による25℃の栽培において、種菌部分の褐変を起こさない。
また、これらの菌株を親株として公知の方法、例えば、前記菌株の胞子を変異処理、あるいは前記菌株の菌糸と他の菌株の菌糸を交配処理して得られる変異株であって、前記菌株と同等の性質、すなわち種菌硬化症が起こりにくいという性質を有する変異株も本発明に包含される。このような変異株は、当業者であれば常法により容易に取得可能である。また、当該変異株が前記菌株と同様の性質を有するかどうかについては、本願明細書に記載の方法により選別することが可能である。更に、針葉樹鋸屑及びコメヌカを主要構成成分とし、乾燥重量比で約6.4重量%のメタケイ酸アルミン酸マグネシウムからなる固形栽培用培地を用いた栽培において、固形栽培用培地表面の種菌部分の褐変を起こさない前記菌株から選択される少なくとも1つの菌株と同等の性質を有するブナシメジ菌株も本発明に包含される。
【0021】
Hypsizygus marmoreus K−4975(FERM BP−11321)の諸性質を示す。
(1)麦芽エキス寒天培地(25℃)での生育状態:
麦芽エキス寒天培地(麦芽エキス 5%、寒天 3%)を使用。7日目で旺盛な生育、コロニー径は52mm。白色で密な菌糸、気菌糸を生じる。12日目でシャーレ全体に菌糸が生育。菌糸は白色で密、直線状に伸びる。裏面は一様で変色はない。
(2)バレイショ・ブドウ糖寒天培地(25℃)での生育状態:
PDA寒天培地(Difco Potato Dextrose Agar、Becton,Dickinson and Company USA社製)を使用。7日目で旺盛な生育、コロニー径は55mm。白色で密な菌糸、気菌糸を多量に生じる。12日目でシャーレ全体に菌糸が生育。20日目には表面全体を密な菌糸が覆い、マット状に盛り上がる。気菌糸が大変多い。裏面は一様で変色はない。
(3)ツアペック・ドックス寒天培地(25℃)での生育状態:
ツアペック・ドックス寒天培地(NaNO 0.2%、KHPO 0.1%、MgSO・7HO 0.05%、KCl 0.05%、FeSO・7HO 0.001%、シュークロース 3%、寒天 1.5%)を使用。7日目で中程度の生育、コロニー径は45mm。菌糸は樹状に伸長し、極めて希薄、気菌糸は少ない。10日目でコロニー径は65mm、15日目でシャーレ全体に菌糸が生育。菌糸は樹状で白色、希薄である。裏面は一様で変色はない。
(4)サブロー寒天培地(25℃)での生育状態:
サブロー寒天培地(グルコース 4%、ペプトン 0.1%、寒天 1.5%)を使用。10日目で小程度の生育、コロニー径は31mm。白色で薄い綿状の菌糸、20日目でコロニー径は55mm。菌糸は白色で密。裏面は一様で変色はない。
(5)オートミール寒天培地(25℃)での生育状態:
オートミール寒天培地(オートミール30gに1000mL以下の水を加え、湯浴上で1時間煮沸する。これを2〜3重のガーゼでろ過した後、得られたろ液に水を加えて1000mLとし、寒天2%を加える)を使用。7日目で旺盛な生育、コロニー径は54mm。菌糸はよく分枝して伸び、気菌糸は多い。10日目でシャーレ全体に菌糸が生育、綿状の気菌糸を多量に生じる。菌糸は白色。裏面は一様で変色はない。
(6)合成ムコール寒天培地(25℃)での生育状態:
合成ムコール寒天培地(グルコース 4%、アスパラギン 0.2%、KHPO 0.05%、MgSO・7HO 0.025g/L、チアミン 0.5mg/L、寒天 1.5%)を使用。10日目で中程度の生育、コロニー径は50mm。菌糸は白色で直線状に伸びる。15日目で菌糸はシャーレ全体に生育し、気菌糸を生じる。菌糸は白色。裏面は一様で変色はない。
(7)YpSs寒天培地(25℃)での生育状態:
YpSs寒天培地(可溶性デンプン 1.5%、イーストエキス 0.4%、KHPO 0.1%、MgSO・7HO 0.05%、寒天 2%)7日目で旺盛な生育、コロニー径は64mm。菌糸は白色密で気菌糸を多量に生じる。マット状に生育。10日目で菌糸はシャーレ全体に生育し、気菌糸を多量に生じる。裏面は一様で変色はない。
(8)フェノールオキシダーゼ検定用培地(25℃)での生育状態:
0.5%没食子酸添加PDA寒天培地にて、7日目で小程度の生育、コロニー径は27mm。菌糸は白色で綿状、気菌糸を生じる。培地は褐変、褐変半径は26mm。15日目で菌糸はシャーレ全体に生育し、菌糸表面には菌糸の濃淡がみられ、気菌糸を生じる。培地全体が褐変。裏面も一様に褐変がみられる。
(9)最適生育温度:
PDA寒天培地に前培養した直径5mmの寒天種菌を接種し、25℃で予備培養して菌糸の再生を揃えた。その後、各温度で7日間培養し一方向の菌糸の伸長量を測定した。その結果、7日間の菌糸伸長を測定したところ、最適生育温度は24〜26℃であった。また、5℃で多少生育が認められたが、35℃ではほとんど生育しなかった。
(10)最適生育pH:
PGY液体培地(グルコース 2%、ポリペプトン 0.2%、酵母エキス 0.2%、KHPO 0.5%、MgSO・7HO 0.5%)60mLずつを100mL用の三角フラスコに分注して殺菌し、酸又はアルカリで各pHに調整後に直径5mmの寒天種菌を接種し、25℃で15日間静置培養後、菌体の乾燥重量を測定した。その結果、最適生育pHは6〜8であった。また、本菌株の生育可能なpH範囲は、3.5〜10であった。
【0022】
以下、上記と同様の培地及び条件にて菌株の諸性質の検討を行った。
Hypsizygus marmoreus K−4979(FERM BP−11322)の諸性質を示す。
(1)麦芽エキス寒天培地(25℃)での生育状態:
7日目で旺盛な生育、コロニー径は46mm。白色で密な菌糸、気菌糸を生じる。13日目でシャーレ全体に菌糸が生育。菌糸は白色で密、直線状に伸びる。裏面は一様で変色はない。
(2)バレイショ・ブドウ糖寒天培地(25℃)での生育状態:
7日目で旺盛な生育、コロニー径は53mm。白色で密な菌糸、気菌糸を多量に生じる。12日目でシャーレ全体に菌糸が生育。20日目には表面全体を密な菌糸が覆い、マット状に盛り上がる。気菌糸が大変多い。裏面は一様で変色はない。
(3)ツアペック・ドックス寒天培地(25℃)での生育状態:
7日目で小程度の生育、コロニー径は33mm。菌糸は樹状に伸長し、極めて希薄、気菌糸は少ない。10日目でコロニー径は50mm、17日目でシャーレ全体に菌糸が生育。菌糸は樹状で白色、希薄である。裏面は一様で変色はない。
(4)サブロー寒天培地(25℃)での生育状態:
10日目で小程度の生育、コロニー径は34mm。白色で薄い綿状の菌糸、20日目でコロニー径は65mm。菌糸は白色で密。裏面は一様で変色はない。
(5)オートミール寒天培地(25℃)での生育状態:
7日目で旺盛な生育、コロニー径は51mm。菌糸はよく分枝して伸び、気菌糸は多い。12日目でシャーレ全体に菌糸が生育、綿状の気菌糸を多量に生じる。菌糸は白色。裏面は一様で変色はない。
(6)合成ムコール寒天培地(25℃)での生育状態:
10日目で中程度の生育、コロニー径は55mm。菌糸は白色で直線状に伸びる。15日目で菌糸はシャーレ全体に生育し、気菌糸を生じる。菌糸は白色。裏面は一様で変色はない。
(7)YpSs寒天培地(25℃)での生育状態:
7日目で旺盛な生育、コロニー径は62mm。菌糸は白色密で気菌糸を多量に生じる。マット状に生育。10日目で菌糸はシャーレ全体に生育し、気菌糸を多量に生じる。裏面は一様で変色はない。
(8)フェノールオキシダーゼ検定用培地(25℃)での生育状態:
7日目で小程度の生育、コロニー径は21mm。菌糸は白色で綿状、気菌糸を生じる。培地は褐変、褐変半径は26mm。15日目で菌糸はシャーレ全体に生育し、菌糸表面には菌糸の濃淡がみられ、気菌糸を生じる。培地全体が褐変。裏面も一様に褐変がみられる。
(9)最適生育温度:
7日間の菌糸伸長を測定したところ、最適生育温度は24〜26℃であった。また、5℃で多少生育が認められたが、35℃ではほとんど生育しなかった。
(10)最適生育pH:
最適生育pHは6〜8であった。また、本菌株の生育可能なpH範囲は、3.5〜10であった
【0023】
Hypsizygus marmoreus K−4980(FERM BP−11323)の諸性質を示す。
(1)麦芽エキス寒天培地(25℃)での生育状態:
7日目で旺盛な生育、コロニー径は45mm。白色で密な菌糸、気菌糸を生じる。13日目でシャーレ全体に菌糸が生育。菌糸は白色で密、直線状に伸びる。裏面は一様で変色はない。
(2)バレイショ・ブドウ糖寒天培地(25℃)での生育状態:
7日目で旺盛な生育、コロニー径は47mm。白色で密な菌糸、気菌糸を多量に生じる。12日目でシャーレ全体に菌糸が生育。20日目には表面全体を密な菌糸が覆い、マット状に盛り上がる。気菌糸が大変多い。裏面は一様で変色はない。
(3)ツアペック・ドックス寒天培地(25℃)での生育状態:
7日目で小程度の生育、コロニー径は38mm。菌糸は樹状に伸長し、極めて希薄、気菌糸は少ない。10日目でコロニー径は55mm、15日目でシャーレ全体に菌糸が生育。菌糸は樹状で白色、希薄である。裏面は一様で変色はない。
(4)サブロー寒天培地(25℃)での生育状態:
10日目で小程度の生育、コロニー径は41mm。白色で薄い綿状の菌糸、20日目でコロニー径は61mm。菌糸は白色で密。裏面は一様で変色はない。
(5)オートミール寒天培地(25℃)での生育状態:
7日目で旺盛な生育、コロニー径は46mm。菌糸はよく分枝して伸び、気菌糸は多い。13日目でシャーレ全体に菌糸が生育、綿状の気菌糸を多量に生じる。菌糸は白色。裏面は一様で変色はない。
(6)合成ムコール寒天培地(25℃)での生育状態:
10日目で中程度の生育、コロニー径は47mm。菌糸は白色で直線状に伸びる。15日目で菌糸はシャーレ全体に生育し、気菌糸を生じる。菌糸は白色。裏面は一様で変色はない。
(7)YpSs寒天培地(25℃)での生育状態:
7日目で旺盛な生育、コロニー径は59mm。菌糸は白色密で気菌糸を多量に生じる。マット状に生育。10日目で菌糸はシャーレ全体に生育し、気菌糸を多量に生じる。裏面は一様で変色はない。
(8)フェノールオキシダーゼ検定用培地(25℃)での生育状態:
7日目で小程度の生育、コロニー径は29mm。菌糸は白色で綿状、気菌糸を生じる。培地は褐変、褐変半径は27mm。15日目で菌糸はシャーレ全体に生育し、菌糸表面には菌糸の濃淡がみられ、気菌糸を生じる。培地全体が褐変。裏面も一様に褐変がみられる。
(9)最適生育温度:
7日間の菌糸伸長を測定したところ、最適生育温度は24〜26℃であった。また、5℃で多少生育が認められたが、35℃ではほとんど生育しなかった。
(10)最適生育pH:
最適生育pHは6〜8であった。また、本菌株の生育可能なpH範囲は、3.5〜10であった。
【0024】
Hypsizygus marmoreus K−4981(FERM BP−11324)の諸性質を示す。
(1)麦芽エキス寒天培地(25℃)での生育状態:
7日目で旺盛な生育、コロニー径は48mm。白色で密な菌糸、気菌糸を生じる。12日目でシャーレ全体に菌糸が生育。菌糸は白色で密、直線状に伸びる。裏面は一様で変色はない。
(2)バレイショ・ブドウ糖寒天培地(25℃)での生育状態:
7日目で旺盛な生育、コロニー径は48mm。白色で密な菌糸、気菌糸を多量に生じる。13日目でシャーレ全体に菌糸が生育。20日目には表面全体を密な菌糸が覆い、マット状に盛り上がる。気菌糸が大変多い。裏面は一様で変色はない。
(3)ツアペック・ドックス寒天培地(25℃)での生育状態:
7日目で小程度の生育、コロニー径は30mm。菌糸は樹状に伸長し、極めて希薄、気菌糸は少ない。10日目でコロニー径は45mm、17日目でシャーレ全体に菌糸が生育。菌糸は樹状で白色、希薄である。裏面は一様で変色はない。
(4)サブロー寒天培地(25℃)での生育状態:
10日目で小程度の生育、コロニー径は36mm。白色で薄い綿状の菌糸、20日目でコロニー径は68mm。菌糸は白色で密。裏面は一様で変色はない。
(5)オートミール寒天培地(25℃)での生育状態:
7日目で旺盛な生育、コロニー径は48mm。菌糸はよく分枝して伸び、気菌糸は多い。12日目でシャーレ全体に菌糸が生育、綿状の気菌糸を多量に生じる。菌糸は白色。裏面は一様で変色はない。
(6)合成ムコール寒天培地(25℃)での生育状態:
10日目で中程度の生育、コロニー径は50mm。菌糸は白色で直線状に伸びる。15日目で菌糸はシャーレ全体に生育し、気菌糸を生じる。菌糸は白色。裏面は一様で変色はない。
(7)YpSs寒天培地(25℃)での生育状態:
7日目で旺盛な生育、コロニー径は55mm。菌糸は白色密で気菌糸を多量に生じる。マット状に生育。10日目で菌糸はシャーレ全体に生育し、気菌糸を多量に生じる。裏面は一様で変色はない。
(8)フェノールオキシダーゼ検定用培地(25℃)での生育状態:
7日目で小程度の生育、コロニー径は30mm。菌糸は白色で綿状、気菌糸を生じる。培地は褐変、褐変半径は27mm。15日目で菌糸はシャーレ全体に生育し、菌糸表面には菌糸の濃淡がみられ、気菌糸を生じる。培地全体が褐変。裏面も一様に褐変がみられる。
(9)最適生育温度:
7日間の菌糸伸長を測定したところ、最適生育温度は24〜26℃であった。また、5℃で多少生育が認められたが、35℃ではほとんど生育しなかった。
(10)最適生育pH:
最適生育pHは6〜8であった。また、本菌株の生育可能なpH範囲は、3.5〜10であった。
【0025】
これら4菌株は、いずれも他の3菌株との対峙培養において帯線を形成した。さらにリオフィラム ウルマリウム M−8171(FERM BP−1415)及び種々の公知の菌株との対峙培養においても帯線を形成し、新菌株であることが明らかとなった。また、針葉樹鋸屑及びコメヌカを主要構成成分とし、乾燥重量比で約6.4重量%(例えば、市販品の乾燥減量18%の場合、約15g/850mLビン)のメタケイ酸アルミン酸マグネシウムからなる固形栽培用培地を用いた栽培において、種菌硬化症を起こさない新菌株である。また、針葉樹鋸屑及びコメヌカを主要構成成分とし、乾燥重量比で約6.4重量%(例えば、市販品の乾燥減量18%の場合、湿重量で約15g/850mLビン)のメタケイ酸アルミン酸マグネシウムからなる固形栽培用培地を用いた栽培において、いずれの菌株もリオフィラム ウルマリウム M−8171(FERM BP−1415)と比較して高収量である。更に、通常の培地、すなわちマグネシウム化合物を多量に含有しない培地で栽培を行った場合にも、上記の菌株では従来菌株に比較して種菌硬化症の発生頻度が低い。
【0026】
以上、ビン栽培について例を挙げて説明したが、本発明は、上記ビン栽培による選別方法に限定されるものではない。
上述の選別方法で得られた菌株を用いて、ビン栽培、袋栽培、箱栽培などでブナシメジ子実体を製造することができる。一例としてビン栽培によるブナシメジ子実体の製造方法について述べると、その方法とは菌床培地調製、ビン詰め、殺菌、種菌の接種、菌床培養、菌かき(饅頭かき)、芽出し、生育、収穫等の各工程からなる。例えば、日本国特開平05−268942号公報記載の菌床栽培を行う際の種菌として、上述の選別方法で得られた菌株を用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例の範囲のみに限定されるものではない。
【0028】
実施例1
鋸屑(スギ材)を乾燥重量で62g、湿重量のコメヌカ60g(水分含量10%)、コーンコブミール30g(水分含量10%)、大豆皮20g(水分含量10%)、フスマ20g(水分含量10%)をよく混合し、これにメタケイ酸アルミン酸マグネシウム(乾燥減量18%、富士化学工業社製、商品名:ノイシリン)を2.5g又は15g/ビン(それぞれ固形栽培用培地の全乾燥重量に対する乾燥重量比で約1.1重量%、約6.4重量%)で添加し、水分含有率を65%に調製した後、ポリプロピレン製850mL容広口培養ビン(ブロービンS−850、信越農材社製)に圧詰した。圧詰物表面の中央に直径1cm程度の接種孔部を開け、打栓後、120℃、60分間高圧殺菌を行い、常温まで冷却したものを固形栽培用培地として調製した。
【0029】
本発明者らの保有するブナシメジ(Hypsizygus marmoreus)菌株11株について総当たりで交配を実施し、計434株の交配株を得た。各交配株を前記の培地に接種する栽培試験を実施し、15g/850mLビンのメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを含有する固形栽培用培地で菌かき前の菌床表面が褐変しなかった新規の交配株であるブナシメジ(Hypsizygus marmoreus) K−4975(FERM BP−11321)、K−4979(FERM BP−11322)、K−4980(FERM BP−11323)、K−4981(FERM BP−11324)の4株を選抜した。
【0030】
前記の、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムを2.5g又は15g/850mLビンで含有する固形栽培用培地を調製した。K−4975、K−4979、K−4980、K−4981、K−4529(前記の交配株より選抜工程を経ずに選んだ株)、比較としてJA全農長野より市販されているブナシメジからの公知の方法により分離した菌株(以下、市販菌株と記載する)及びリオフィラム ウルマリウム M−8171(FERM BP−1415)の別途調製した固体種菌を各8本ずつ固形栽培用培地に接種し、25℃、湿度55%の条件下で30日間菌糸体を培養し、更に45日培養して子実体発生基を得た。その後、キャップを外し、菌床面上部の菌糸層1cmを中央部に残して菌かきを行い、菌かき時の菌床表面の状態を調査した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1から明らかなように、通常、ブナシメジ子実体の製造において増収のために使用されるメタケイ酸アルミン酸マグネシウム2.5gを添加した場合は、どの菌株も正常に生育したのに対し、ブナシメジ子実体の製造において通常は使用されない量であるメタケイ酸アルミン酸マグネシウム15gを添加した場合は、新規に取得した交配株である5株のうち4株(K−4975、K−4979、K−4980、及びK−4981)は正常であった。しかしながら、1株(K−4529)は全ての試験区において菌床表面の褐変や異臭の発生を伴うものであった。更に市販菌株及びM−8171についても、全ての試験区において褐変や異臭の発生が見られた。
【0033】
次に、これら全ての培地について水道水20mLを加えて十分に吸水させた後、反転脱水により余剰の水を除き、その後、環境を照度20ルクス、温度15℃、加湿はヒューミアイ100(鷺宮製作所製)の表示値として湿度90%以上に制御し、炭酸ガス濃度は1000〜3000ppmの範囲に制御した芽出・生育室で14日間芽出し及び生育を行った後、膜再生状態の確認を行った。結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
表2から明らかなように、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム2.5gを添加した場合は、全ての菌株において膜再生状態は正常であった。これに対して、15gを添加した場合は、K−4975、K−4979、K−4980、K−4981、及び市販菌株の膜再生状態は正常であったが、K−4529及びM−8171については、一部しか膜再生しないものと膜再生が全くしないものが見られた。
【0036】
更に、そのまま同条件で生育を続け、ブナシメジ子実体(成熟子実体)を得た。得られたブナシメジ子実体の平均収量と生育日数(菌かき後、成熟子実体を収穫するまでの日数)の結果を表3に示す。表中、平均収量は「子実体の平均収量=子実体総重量/発生供試ビン数(不発生ビンも含む)」、生育日数は「生育日数=成熟子実体所要生育日数合計/収穫ビン数(不発生ビンは含まない)」の式を用いて算出した。
【0037】
【表3】

【0038】
表3から明らかなように、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム15gを添加した場合、K−4975、K−4979、K−4980及びK−4981は収量もよく、生育日数も特別な遅延もなく、子実体の品質も良好なものであった。これに対してK−4529、市販菌株及びM−8171については、収量の顕著な低下や品質の悪化が認められた。
【0039】
表1〜3の結果から、マグネシウム化合物であるメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを多量に含有する固形栽培用培地を用いることにより、K−4975、K−4979、K−4980及びK−4981は種菌硬化症が起こりにくいに菌株であることが明らかとなった。このことから、これら菌株は、通常の培地、すなわちマグネシウム化合物を多量に含有しない培地を用いた大規模な商業的製造においても、従来菌株と比較して種菌硬化症を起こさないか、発生頻度が極端に低いことが明らかとなった。また、マグネシウム化合物であるメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを多量に含有する固形栽培用培地を用いることにより、種菌硬化症が起こりにくいもしくは起こらない菌株を選別することが可能であることが明らかとなった。
【0040】
実施例2
メタケイ酸アルミン酸マグネシウム15gを添加した場合における、菌糸体の培養時の温度により、種菌硬化症が起こりにくいもしくは起こらない菌株の選別に影響するかどうか、以下のように検討した。
【0041】
メタケイ酸アルミン酸マグネシウム15gを添加した固形栽培用培地を用い、菌糸体の培養時の温度を25℃と27℃とした以外は実施例1に記載の方法と同様の方法で、ブナシメジ(Hypsizygus marmoreus) K−4975(FERM BP−11321)、K−4979(FERM BP−11322)、K−4980(FERM BP−11323)、K−4981(FERM BP−11324)、K−4529、比較として市販菌株及びリオフィラム ウルマリウム M−8171(FERM BP−1415)について検討を行った。まず、菌かき時の菌床面の状態を調査した。結果を表4に示す。
【0042】
【表4】

【0043】
表4から明らかなように、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム15g添加する条件で、かつ菌糸体の培養温度が25℃の場合、実施例1と同様の結果となった。同じ培地で菌糸体の培養温度が27℃の場合においても、25℃の場合と同様に、新規に取得した交配株である5株のうち4株(K−4975、K−4979、K−4980、及びK−4981)は正常であった。しかしながら、1株(K−4529)は全ての試験区において褐変や異臭を伴うものであった。また市販菌株及びM−8171についても、全ての試験区において褐変や異臭を伴うものであった。
【0044】
次に、実施例1と同様に吸水、反転脱水、芽出し及び生育を行った後、膜再生状態の確認を行った結果を表5に示す。
【0045】
【表5】

【0046】
表5から明らかなように、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム15g添加する条件で、かつ菌糸体の培養温度が25℃の場合、実施例1と同様の結果となった。同じ培地で菌糸体の培養温度が27℃の場合においても、K−4975、K−4979、K−4980、K−4981、及び市販菌株の膜再生状態は正常であったが、K−4529及びM−8171については、一部しか膜再生しないものと膜再生が全くしないものが見られた。
【0047】
次に、ブナシメジ子実体の平均収量と生育日数(菌かき後、成熟子実体を収穫するまでの日数)の結果を表6に示す。
【0048】
【表6】

【0049】
表6から明らかなように、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム15gを添加する条件で、かつ菌糸体の培養温度が25℃の場合、実施例1と同様の結果となった。同じ培地で菌糸体の培養温度が27℃の場合においても、K−4975、K−4979、K−4980及びK−4981は収量もよく、生育日数も特別な遅延はなく、子実体の品質も良好なものであった。これに対してK−4529、市販菌株及びM−8171については、収量の顕著な低下や品質の悪化が認められた。
【0050】
表4〜6の結果から、マグネシウム化合物であるメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを多量に含有する固形栽培用培地を用いることにより、K−4975、K−4979、K−4980及びK−4981は種菌硬化症が起こりにくい菌株であることが明らかとなった。また、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムを多量に含有する固形栽培用培地を用いる場合、菌糸体の培養温度の変化では種菌硬化症が起こりにくいもしくは起こらない菌株の選別に影響しないことが明らかとなった。
【0051】
実施例3
メタケイ酸アルミン酸マグネシウムの代わりに水酸化アルミナマグネシウム(水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムの共沈物、乾燥減量10%、協和化学工業社製、商品名:キョーワード300)5g/ビン(固形栽培用培地の全乾燥重量に対する乾燥重量比で約2.5重量%)を添加した以外は、実施例2と同様の方法で、ブナシメジ(Hypsizygus marmoreus) K−4975(FERM BP−11321)、K−4979(FERM BP−11322)、K−4980(FERM BP−11323)、K−4981(FERM BP−11324)、K−4529、比較として市販菌株及びリオフィラム ウルマリウム M−8171(FERM BP−1415)について検討を行った。まず、菌かき時の菌床面の状態を調査した。結果を表7に示す。
【0052】
【表7】

【0053】
表7から明らかなように、水酸化アルミナマグネシウム5g添加する条件で、かつ菌糸体の培養温度が25℃及び27℃のどちらの場合においても、実施例2と同様の傾向を示す結果となった。
【0054】
次に、これら全ての培地について水道水20mLを加えて十分に吸水させた後、反転脱水により余剰の水を除き、その後、環境を照度20ルクス、温度15℃、加湿はヒューミアイ100(鷺宮製作所製)の表示値として湿度90%以上に制御し、炭酸ガス濃度は1000〜3000ppmの範囲に制御した芽出・生育室で12日間芽出し及び生育を続けた。更にK−4980及びK−4981は9日間、K−4975は10日間、K−4979,K−4529及び市販菌株は14日間、M−8171は15日間生育を行った後、ブナシメジ子実体を得た。
【0055】
上記の芽出し及び生育時における14日目の膜再生状態の確認を行った。その結果を表8に示す。
【0056】
【表8】

【0057】
表8から明らかなように、水酸化アルミナマグネシウム5g添加する条件で、かつ菌糸体の培養温度が25℃の場合において、市販菌株で一部しか膜再生しないものと膜再生が全くしないものが見られた。その他の菌株については、実施例2と同様の結果となった。また、同じ培地で菌糸体の培養温度が27℃の場合は、実施例2と同様の結果となった。
【0058】
次に、ブナシメジ子実体の平均収量と生育日数(菌かき後、成熟子実体を収穫するまでの日数)の結果を表9に示す。
【0059】
【表9】

【0060】
表9から明らかなように、水酸化アルミナマグネシウム5g添加する条件においても、K−4975、K−4979、K−4980及びK−4981は収量もよく、生育日数も特別な遅延はなく、子実体の品質も良好なものであった。これに対してK−4529、市販菌株及びM−8171については、子実体が発生しない又は収量の顕著な低下や品質の悪化が認められた。
【0061】
表7〜9の結果から、マグネシウム化合物である水酸化アルミナマグネシウムを多量に含有する固形栽培用培地を用いる場合においても、K−4975、K−4979、K−4980及びK−4981は種菌硬化症が起こりにくいに菌株であることが明らかとなった。また、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムの代わりに水酸化アルミナマグネシウムを多量に含有する固形栽培用培地を用いる場合でも、種菌硬化症が起こりにくいもしくは起こらない菌株を選別することが可能であることが明らかとなり、他のマグネシウム化合物でも同様の効果が得られることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明により、商業製造用固形栽培用培地での栽培において、培地表面の種菌部分の褐変を起こさないブナシメジ菌株が提供される。該菌株を用いることによる、ブナシメジ子実体の安定した大規模な商業的製造が可能となる。また、本発明により、種菌硬化症が起こりにくいブナシメジ菌株の簡便な選別方法が提供される。当該方法を用いることにより、事前に種菌硬化症が起こりやすいブナシメジ菌株であるかどうかを選別することが可能となり、大規模な商業的製造のブナシメジ子実体の歩留まりを防ぎ、効率よくブナシメジ子実体の製造が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
針葉樹鋸屑及びコメヌカを主要構成成分とし、乾燥重量比で約6.4重量%のメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを含有する固形栽培用培地を用いた栽培において、固形栽培用培地表面の種菌部分の褐変を起こさないブナシメジ菌株。
【請求項2】
針葉樹鋸屑、コメヌカ、コーンコブミール、大豆皮、フスマ、及びメタケイ酸アルミン酸マグネシウムからなる固形栽培用培地を用いた栽培において、種菌部分の褐変を起こさない請求項1記載のブナシメジ菌株。
【請求項3】
Hypsizygus marmoreus K−4975(FERM BP−11321)、Hypsizygus marmoreus K−4979(FERM BP−11322)、Hypsizygus marmoreus K−4980(FERM BP−11323)、Hypsizygus marmoreus K−4981(FERM BP−11324)、又はこれら菌株由来の変異株であって、これら菌株と同等の性質を有する菌株から選択される請求項1又は2に記載のブナシメジ菌株。
【請求項4】
請求項1記載のブナシメジ菌株を用いる、ブナシメジ子実体の製造方法。
【請求項5】
針葉樹鋸屑及びコメヌカを主要構成成分とし、乾燥重量比で約5.2重量%以上のメタケイ酸アルミン酸マグネシウム、乾燥重量比で約0.5重量%以上の酸化マグネシウム及び乾燥重量比で約2重量%以上の水酸化アルミナマグネシウムから選択される少なくとも1つのマグネシウム化合物からなる固形栽培用培地を用いてブナシメジ菌株を栽培することを含む、種菌硬化症が起こりにくいブナシメジ菌株の選別方法。
【請求項6】
固形栽培用培地が、針葉樹鋸屑、コメヌカ、コーンコブミール、大豆皮、フスマ、及びマグネシウム化合物からなる、請求項5記載のブナシメジ菌株の選別方法。
【請求項7】
固形栽培用培地表面の種菌部分の褐変を起こさないブナシメジ菌株を選択する選別方法である請求項5又は6に記載のブナシメジ菌株の選別方法。

【公開番号】特開2011−223995(P2011−223995A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74127(P2011−74127)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】