説明

ブプレノルフィン誘導体及びその使用

ブプレノルフィンのフェノール性ヒドロキシル基のエステル誘導体が、鎮静剤の依存症の治療及び/又は重度の痛みを和らげるために使用できる事が記載される。エステルは、改良した生物学的利用能、改良した作用の持続時間、及び減少した悪用の可能性を有する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
技術分野
本発明はブプレノルフィン誘導体及びその使用に関する。
【0002】
背景
乱用された鎮痛剤をより安全でより長期間作用するオピオイドに替えることによる鎮静剤の乱用及び依存症の治療は、多くの場合、成功した薬物療法学の診療戦略である。ヘロインは、広く乱用される鎮静剤であり、μオピオイド受容体(MOR)に対するアゴニストとして機能する。ヘロインは多くの場合、静脈注射で乱用され、多くの場合中毒者は注射針を使い回し、多くの場合生死に関わる感染症、例えばC型肝炎及びHIV/AIDSの拡散に関与する。メタドンは、代用品MORアゴニストとして使用されてきた。メタドンは経口で有効であり、及び1日一回投与量を与えることができる程度に十分な作用の持続時間を有する。より最近は、MOR部分アゴニストである、ブプレノルフィン1、21-(シクロプロピル-7α-[(S)-1-ヒドロキシ-1,2,2-トリメチルプロピル]-6,14-エンド-エタノ-6,7,8,14-テトラヒドロ-オリパビンが、薬物療法として使用されてきている(例えば米国特許第4,935,428を参照されたい)。部分MORアゴニストとして、これは完全MORアゴニストよりもそのMOR媒介効果に対するより低い上限を有する。結果として、ブプレノルフィンは、完全MORアゴニスト(例えばメタドン)よりもより高い安全の限界を有する。さらに、ブプレノルフィンは、作用の長い持続時間も有する。ブプレノルフィンの延長された持続時間と共に向上した安全性は、比較的長い投与間隔、典型的には24時間ごとの間隔を可能とするが、これは72時間以上毎に延長できる。
【0003】
【化1】

メタドンと比べたブプレノルフィンの好ましい安全特性は、診療所開業医がブプレノルフィンを処方することを許容して治療のコストを実質的に削減し、及び薬物療法学的な治療において中毒者の数を増加させた。
【0004】
鎮痛剤の乱用及び依存症を治療するため、ブプレノルフィンは舌下投与のために処方された錠剤として入手可能であり、商品名Subutexの下で販売されている。Subutexの一日維持量は、4-16mgの範囲にある。Subutexは水性媒体に迅速に溶解し、中毒者が水に錠剤を溶解し、結果得られた溶液を注射することにより製剤を悪用出来るようにする。この悪用に対抗するため、ブプレノルフィンは、4:1の割合で、MORアンタゴニストナロキソンとの混合物として処方された(Suboxone(登録商標))。
ブプレノルフィンの舌下投与は、いくつかの欠点を有しており、経口摂取した場合ブプレノルフィンの生体利用性(〜5%)が低いため、特に錠剤を嚥下するのを避ける必要がある点である。比較すると、ブプレノルフィンの生体利用性は、舌下で吸収した場合、おおよそ50%である(例えば、Jasinski and Preston, Buprenorphine, Ed. A Cowan, JW Lewis, Wiley-Lis, NY pp. 189-211を参照されたい)。
【0005】
いくつかのブプレノルフィンエステル誘導体が、Stinchcomb et al. in Pharm. Res (1995), 12, 1526-1529に記載されている。エステルの物理化学的な特性が記載され、ブプレノルフィン塩酸塩のエステル及びその遊離塩基と比較された。Stinchcomb等は、Biol. Pharm. Bull. (1996), 19, 263-267 and Pharm. Res. (1996), 13, 1519-1523において、これらエステルの経皮的な吸収も記載する。Wang,米国出願公開第2005/0075361は、いくつかのブプレノルフィン誘導体も記載し、これらは筋肉注射又は皮下で供給された場合、痛みを軽減するために有用であるらしい。
【0006】
概要
ブプレノルフィン1(上記構造)のフェノール性のヒドロキシル基のエステル誘導体を本明細書で記載する。一般的に、このような誘導体は、前記のフェノール性のヒドロキシル基の酸素と結合する部分を含む。この部分は、例えば末端カルボン酸基、又はカルボン酸基のエステルを含むことができる。本明細書で記載するように、多くのこのような誘導体は、ブプレノルフィンとジカルボン酸、対応する無水物又はこれらの等価物、例えば良好な離脱基、例えばトシレート、ヨーダイド、ブロミド又はクロライドを有するジカルボン酸のエステルと反応させることにより製造できる。新規エステル、例えば固形物の投与形態にあるものは、鎮静剤に肉体的に依存する人を治療するため、又は痛み、例えば急性の又は慢性の痛みに苦しむ人を治療するために使用できる。固形の投与形態は、優れた安全性、向上した作用の持続時間及び減少させた悪用に対する可能性を有する事ができる。
【0007】
一側面において、本発明は構造Iの化合物又はその塩を特徴とする;
【化2】

R1は、
(1)任意で芳香環で置換されたC1-C10直鎖又は分枝アルキレン、
(2)-(CH2)pCH=CH(CH2)p- (式中、各pは独立に0から4の整数である)、
(3)-(CH2)nX(CH2)n- (式中、各nは0から2の整数であり、XはO、S、NH、N(COOCH2Ph)、
【化3】


(1,2-、1,3-又は1,4-置換基を有し、式中YはO、S又はNHである)、
【化4】


(1,2-、1,3-又は1,4-置換基を有する)、

又は
【化5】


(式中、mは1から4の整数である)、

R2は、H又はC1-C6直鎖又は分子アルキルである。)
【0008】
他の側面において、本発明は構造IAの化合物又はその塩を特徴とする;
【化6】

R1は、
(1)C1-C10直鎖アルキレン、
(2)1から4のメチル基又はフェニル基で置換されたC1-C8直鎖アルキル、
(3)-(CH2)pCH=CH(CH2)p- (式中各pは独立に0から3の整数である)。
【0009】
他の側面において、本発明は構造IA1の化合物又はその塩を特徴とする:
【化7】


他の側面において、本発明は構造IA2又はその塩を特徴とする:
【化8】

【0010】
更に他の側面において、本発明は構造IIの化合物又はその塩を特徴とする:
【化9】

各nは、0から2の整数であり、Xは、O、S、NH、N(COOCH2Ph)、
【化10】


(1,2-、1,3-又は1,4-置換基を有し、YはO、S又はNHである)、
【化11】

(1,2-、1,3-又は1,4-置換基を有する)又は、
【化12】


(mは1から4の整数である)。
【0011】
本明細書で記載する化合物及び/又は組成物は、嚥下でき、舌下に適用でき及び/又は口腔に適用できる固形の投与形態を含む。本明細書で記載する化合物及び/又は組成物は、他の経路、例えば、経静脈、筋肉注射又は経皮的に投与することもできる。
他の側面において、本発明は、本明細書で記載する一以上の化合物及び/又は組成物の治療効量を患者に投与することにより、患者の鎮静剤の乱用及び/又は依存症を治療する方法を特徴する。
他の側面において、本発明は、本明細書で記載する一以上の化合物及び/又は組成物の治療効量を患者に投与することにより、患者、例えば人間の患者における痛みを軽減する又は治療する方法を特徴とする。
【0012】
本発明の側面又は態様は、以下の利点のいずれか一つ又はこれらの組み合わせを有しても良い。本明細書で記載する化合物及び/又は組成物は、鎮静剤の依存症の治療に有用である。いくつかの化合物及び/又は組成物は、少なくとも部分的にそれらの減少した親水性及び減少した水における溶解性のため、減少した乱用の可能性を有し得る。治療は、適用することが容易であり、かつ間違って実施される傾向は少ない。化合物及び/又は組成物は、病院外での治療で適用できる。化合物及び/又は組成物は、中程度から重度の痛みを取り除くことができる強力な鎮痛薬である。化合物及び/又は組成物は、経口、舌下、口腔、経静脈、筋肉又は経皮を含む種々の通常の経路で投与できる。化合物及び/又は組成物は、固形物及び液体を含む、多くの異なる状態で提供できる。化合物及び/又は組成物は、錠剤、粉末及びパッチを含む、多くの通常の形態で提供できる。化合物及び/又は組成物は、水溶性又は水不溶性を示すことができる。組成物は、向上した経口の生物学的利用能、及び向上した作用の持続時間を有する。化合物及び/又は組成物は、ブプレノルフィンと比較して、より遅い作用の開始時間を有することができる。
【0013】
他に定義しない限り、本明細書で使用する全ての技術的及び化学的な用語は、本発明が属する技術分野の当業者が普通に理解するのと同じ意味を有する。方法及び材料は、本発明で使用するために本明細書で記載される;本技術で知られる他の適切な方法及び材料も使用できる。材料、方法及び実施例は、説明目的のみであり、限定することを意図しない。本明細書で記載する全ての公開公報、特許出願、特許及び他の参考文献は、本明細書に完全に取り込まれる。矛盾する場合には、定義を含んだ本明細書が制御するであろう。
本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明、及び図面及び特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【0014】
詳細な説明
ブプレノルフィンのフェノール性のヒドロキシル基の新規エステル誘導体が、本明細書で記載される。新規エステルは、例えば、鎮静剤に肉体的に依存する人を治療するために使用できる。1以上の新規エステルを含んだ種々の固形の投与形態を提供できる。固形投与形態は、例えば嚥下し又は舌下で適用できる。
【0015】
ブプレノルフィン誘導体
エステル誘導体は一般的に構造Iの化合物又は構造Iの化合物の塩として記載できる。
【化13】

構造Iにおいて、R1は(1)任意で芳香環、例えば炭素環式又はヘテロ環式芳香環で置換されてもよいC1-C10直鎖又は分枝アルキレン部分;(2)-(CH2)pCH=CH(CH2)p-部分(式中各pは独立に0から4の整数である);又は(3)-(CH2)nX(CH2)n-部分(式中、各nは0から2の整数であり、XはO、S、NH、1,2-(以下の構造2A)、1,3-(2B)、若しくは1,4-(2C)置換基を有する構造2(下記)により表される5員環(式中、YはO、S又はNH)、1,2-(3A)、1,3-(3B)、若しくは1,4-(3C)置換基を有する構造3(下記)により表されるベンゼン環、又は構造4(下記)により表される5-、6-、7-若しくは8-員のアルキル環である)である。Xが5-、6-、7-又は8-員のアルキル環である例において、各環系の全ての位置異性体が適用でき、例えば5-員環についての1,2-及び1,3-置換である。構造Iにおいて、R2は、H又はC1-C6直鎖若しくは分枝アルキルである。
【0016】
【化14】

C1-C10-直鎖又は分枝アルキル部分のいくつかの例は、例えば-CH2-、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2CH2-並びに以下の構造5、6、7及び8を含む。
【化15】

芳香環で置換されたC1-C10直鎖又は分枝アルキル部分のいくつかの例は、以下の構造9、10、11及び12を含む。
【化16】

【0017】
芳香環は、例えば単環又は縮合環であることができる。芳香環は、炭素環(例えば、ベンゼン環又はナフタレン環系)、ヘテロ環(例えば、チオフェン誘導体、フラン誘導体又はピロール誘導体)又は縮合した炭素環及びヘテロ環であることができる。
具体的な態様において、R1は、CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2-、-CH2CH(CH3)CH2-、-CH2C(CH3)2CH2-、-CH2OCH2-、-CH2SCH2-、-CH2NHCH2-又は-CH2N(COOCH2Ph)CH2-である。
R2がC1-C6直鎖又は分枝アルキル部分である例において、R2は、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、アミル、イソアミル、1,2-ジメチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、ペンチル、ヘキシル、4-メチルペンチル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、1,1-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、1,2,2-トリメチルプロピル及び1,1,2-トリメチルプロピルであることができる。
【0018】
いくつかの態様において、R2はHであり、構造IAの化合物又はその塩を提供する。
【化17】

この例において、構造IAにおけるR1は、(1)C1-C10直鎖アルキレン部分;(2)1から4のメチル基又は炭素環式芳香環、例えばフェニル基で置換されたC1-C8直鎖アルキレン部分;又は(3)-(CH2)pCH=CH(CH2)p-部分(式中、各pは独立に0から3の整数である)である。
【0019】
いくつかの態様において、構造IAの化合物又はその塩は、R1がC2-C5直鎖アルキレン、例えば-CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2CH2-、-CH2CH(CH3)CH2-又は-CH2C(CH3)2CH2-である化合物である。
【0020】
具体的な態様において、化合物は構造IA1又はIA2又はこれらの塩である。
【化18】

【0021】
いくつかの態様において、R2はHであり、及びR1は-(CH2)nX(CH2)n-であり、構造IIの化合物又はその塩を提供する。
【化19】

この例において、-(CH2)nX(CH2)n-は、上記のいずれかの部分であることができる。具体的な態様において、nはそれぞれの発生において1であり、及びXはS、NH、N(COOCH2Ph)又はOである。
【0022】
ブプレノルフィン誘導体の製造方法
構造Iの化合物は、例えばアルコール、例えばメタノール又はエタノール中に酸/遊離塩基(IA)を溶解し、次いで前記酸/遊離塩基溶液を所望のR2のジアゾアルカン(R2-H)N213で処理することにより、酸/遊離塩基から調製できる。いくつかの態様において、過剰なジアゾアルカンを使用する。いくつかの態様において、ジアゾアルカンをエーテル、例えばジエチルエーテルに溶解する。いくつかの態様において、ジアゾアルカンを、低温、例えば50℃より低い温度で酸/遊離塩基に対して添加し、次いで添加後その溶液を室温まで温める。ジアゾ化合物を用いるカルボン酸のエステル化が、Furrow, J. Amer. Chem. Soc., 126, 12222-12223 (2004)で検討される。エステルの精製は、粗反応混合物を、吸着剤、例えばアルミナ又はシリカを含んだクロマトグラフィーカラムに通過させ、次いで得られた材料を再結晶化することにより達成できる。
【0023】
【化20】

【0024】
一般的に、構造IAの化合物は、例えば、ブプレノルフィン1又はブプレノルフィンのフェノキシ金属塩1A(例えばナトリウム塩)とジカルボン酸14又はその無水物15から調製できる。例えば、ジカルボン酸は、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、3-メチルグルタル酸、3,3-ジメチルグルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、ジグリコール酸、チオジグリコール酸、イミドアセト酢酸、N-ベンジルオキシカルボニルイミドアセト酢酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,2-ナフタレン-ジカルボン酸、1H-ピロール-2,5-ジカルボン酸、チオフェン-2,5-ジカルボン酸及びフラン-2,5-ジカルボン酸であることができる。
【0025】
【化21】

特に、構造Iの化合物を、例えば3つの方法の内の1つの方法で調製する。第一の方法において、フェノキシ塩1A、例えばブプレノルフィンのナトリウム塩を調製し及び単離する。例えば、溶媒、例えばエタノール/水中に溶解したブプレノルフィンのナトリウム塩と水素化ナトリウムを反応させることによりブプレノルフィンのナトリウム塩を調製できる。次いでフェノキシ塩1Aを、所望の無水物と反応させる。結果得られる粗生成物の塩を、希釈剤、例えば1Mの塩酸で処理することにより塩酸塩に転換する。酸/遊離塩基Iは、中和することにより塩酸塩から得ることができる。第二の方法において、乾燥溶媒、例えばジエチルエーテルとアセトニトリルの混合物中で、ブプレノルフィンと所望の酸無水物を反応させる。典型的には、室温で一晩放置した後、所望のヘミエステルを得る。第三の方法において、過剰、例えば5モル過剰より多い量のジカルボン酸とブプレノルフィンを、乾燥溶媒、例えばテトラヒドロフラン中で過剰のカップリング剤、例えばN,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCCI)と併せることにより、所望のジカルボン酸を用いてヘミエステルを得る。
【0026】
ブプレノルフィン誘導体の作用機構
いかなる特定の理論に縛られることを望まないが、本明細書で記載するヘミエステル化合物及びその塩は、生体内で活性医薬品のブプレノルフィンを放出するプロドラッグであると考えられる。プロドラッグは、その吸収につづいて親医薬品(parent drug)へ代謝的に転換され、例えば生体内変換例えば加水分解されて活性薬品を遊離させる、親医薬品の供給システムとして定義できる。一般的に、プロドラッグは、その作用部位に到達する前に、親医薬品が早まって不活性化し及び排出されることを防ぐことができる。例として、ヘロイン(3,6-ジアセチルモルフィン)はプロドラッグであるが、主としてモルフィンのためのプロドラッグではなく、6-アセチルモルフィンのためのプロドラッグである。この例において、6-アセトキシ基は、一般的に3-アセトキシ基よりも代謝に対してより安定である。
特に、開示されるヘミエステルは、(以下に示すように)患者の体内で加水分解された後、ブプレノルフィンを放出するプロドラッグであると考えられる。
【0027】
【化22】

加水分解の速度は、ヘミ-エステルの親水性を調整することにより制御できる。結果として、構造Iの化合物は、患者に対して経口投与(嚥下)した場合、同じ投与量のブプレノルフィンで生成するよりも、より高いブプレノルフィンの血液濃度を生成できる。この特徴は、ブプレノルフィンと比較して向上した作用の持続時間、及びより遅い作用の開始を得ることができる。
【0028】
以下、図1A、1B、2A及び2Bに言及すると、ビーグル犬における薬物動態学的な検討を、トリチウム化したヘミアジペート16及びトリチウム化したヘミグルタレート17を用いて行った。
【化23】

図1Aは、ビーグル犬の第一の群に対して1mg/kgの投与量のブプレノルフィンヘミアジペートを経口投与(嚥下)した後の時間の関数として、ブプレノルフィンヘミアジペートと加水分解生成物のブプレノルフィンの平均血漿濃度(ng/ml)を示すグラフである。比較のため、図1Bは、ビーグル犬の第二の群に対して、0.8mg/kgの投与量のブプレノルフィンを経口投与(嚥下)した後の時間の関数として、ブプレノルフィンの平均血漿濃度(ng/ml)を示すグラフである。図2Bは、ビーグル犬の第一の群に対して1mg/kgの投与量のブプレノルフィンヘミグルタレートを経口投与(嚥下)した後の時間の関数として、ブプレノルフィンヘミグルタレートと加水分解生成物のブプレノルフィンの平均血漿濃度(ng/ml)を示すグラフである。比較のため、図2Bは、ビーグル犬の第二の群に対して、0.8mg/kgの投与量のブプレノルフィンを経口投与(嚥下)した後の時間の関数として、ブプレノルフィンの平均血漿濃度(ng/ml)を示すグラフである。これら検討は、1mg/kgのブプレノルフィンヘミ-エステル(ヘミアジペート又はヘミグルタレート)の投与後最大1時間で、原型のままのエステルの高い濃度が血漿中で存在することを示した。エステルのレベルは、遊離ブプレノルフィンのレベルよりもより高かったが、2時間以内にブプレノルフィンのレベルよりもより低くなるように急速に低下した。各検討(図1B及び2B)において、動物の他のグループは、同じ投与量のエステル化していないブプレノルフィンを投与された。ビーグル犬におけるヘミエステルの投与量とほとんど同じ投与量の経口投与に続くブプレノルフィンの血漿レベルは、ヘミエステルの投与からもたらされるレベルよりも顕著に低かった。結果として、各ヘミエステルは親医薬品から得られるよりも2から3倍より高いブプレノルフィンの血液レベルを与えた。
【0029】
医薬組成物
一般的に、医薬組成物は、活性成分として本明細書で記載するような少なくとも一つのブプレノルフィンヘミエステル及び/又は少なくとも一つのこれらの塩を含む組成物である。医薬組成物は典型的に、医薬品として許容されるキャリアーを含む。本明細書で使用するものとして、言葉“医薬品として許容されるキャリアー”は、医薬品の投与に適合した材料、例えば、生理食塩水、溶媒、分散媒体、コーティング、錠剤賦形剤、抗菌剤及び抗真菌薬、等張剤及び吸収遅延剤を含む。追加の活性剤を、組成物に加える事もできる。追加の活性剤の例は、ナロキソン、ナルトレキソン及びナルメフェンである。
医薬組成物は典型的には、これらの意図される投与経路に適合するように処方される。投与経路の例は、非経口の経路、例えば、静脈、皮内、又は皮下;経口;経皮(局所);及び経粘膜(例えば、舌下、吸入及び直腸の)投与を含む。
【0030】
適切な医薬組成物を処方する方法は、例えば、Drugs and the Pharmaceutical Sciences: a Series of Textbooks and Monographs (Dekker, NY)のシリーズで記載されている。例えば、非経口、皮内又は皮下用途のために使用する溶液又は懸濁液は、以下の成分を含むことができる;無菌の希釈剤、例えば注射のための水、生理食塩水溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶媒;抗菌剤、例えば、ベンジルアルコール又はメチルパラベン;酸化防止剤、例えばアスコルビン酸又はナトリウムビサルファイト;キレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸;緩衝液、例えばアセテート、シトレート又はホスフェート、及び等張を調整するための薬剤、例えば塩化ナトリウム又はデキストロースを含む。pHは、酸又は塩基、例えば、塩酸又は水酸化ナトリウムで調整できる。非経口の製剤は、アンプル、使い捨てのシリンジ又はガラス又はプラスチックで製造された複数回投与のバイアルに封入できる。
【0031】
注射用途に適した医薬組成物は、無菌の注射可能な溶液又は懸濁液の即時調製のための、無菌水性溶液(水溶解性の場合)又は分散物及び無菌の粉末を含むことができる。静脈内投与のため、適切なキャリアーは、生理食塩水、静菌水(bacteriostatic water)、クレモフォールEL(BASF、パーシッパニー、NJ)又はリン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)を含む。全ての場合において、組成物は無菌でなければならず、容易な注入可能性を有する程度の液体であるべきである。これは、製造及び貯蔵の条件下で安定であるべきであり、及び微生物、例えば細菌及び真菌の汚染を防がなければならない。キャリアーは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコール)及びこれらの適切な混合物を含んだ溶媒又は分散媒体であることができる。適切な流動性は、例えば、コーティング、例えばレシチンの使用により、分散の場合において要求される粒径を維持することにより、及び界面活性剤の使用により維持できる。微生物の作用の防止は、種々の抗菌剤及び抗真菌薬、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸及びチメロサールにより達成できる。多くの場合において、等張剤、例えば糖、ポリアルコール、例えばマンニトール、ソルビトール、及び/又は塩化ナトリウムを組成物中で含むことが好ましいであろう。組成物中に吸収を遅らせる薬剤、例えばアルミニウムモノステアレート及びゼラチンを含ませる事により、注射可能な組成物の延長した吸収をもたらすことができる。
【0032】
無菌の注射可能な溶液は、要望通りに、適切な溶媒中の所望の量の活性化合物と上記列挙した成分の1つ又は組み合わせを合わせ、次いでフィルター滅菌することにより調製することができる。一般的に、分散液は、活性化合物と基本の分散媒体及び上記列挙した成分からの要求された他の活性成分を含んだ無菌のビヒクルを組み合わせることにより調製できる。無菌の注射可能な溶液を調製するための無菌の粉末の場合、好ましい調製方法は真空乾燥及びフリーズドライであり、これら方法は前もってフィルター滅菌した溶液から、活性成分及びいかなる付加的な所望の成分の粉末を与える。
いくつかの態様において、本明細書で記載する組成物は、特に経口投与に適合する。経口投与治療の目的のため、1以上のヘミエステル活性化合物(又はこれらの塩)と賦形剤を組合せ、及び錠剤、トローチ又はカプセル、例えばゼラチンカプセルの形態で使用することができる;このような組成物は、一般的に不活性な希釈剤又は可食キャリアーを含むであろう。経口組成物は、うがい薬として使用するための液体キャリアーを使用して調製することもできる。医薬品に適合する結合剤及び/又は補助材料を、組成物の一部として含むことができる。錠剤、ピル、カプセル、トローチ等は、以下の成分又は類似の種類の化合物のいかなるものも含む事ができる:結合剤、例えば微結晶セルロース、トラガカントゴム又はゼラチン;賦形剤、例えば、デンプン又はラクトース、崩壊剤、例えばアルギン酸又はトウモロコシデンプン;滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム;流動促進剤、例えばコロイダル二酸化ケイ素;甘味料、例えばスクロース又はサッカリン;又は香料、例えばペパーミント、メチルサリシレート又はオレンジフレーバー。
【0033】
本明細書で記載するような治療化合物の全身投与は、経粘膜的又は経皮的な手段であることもできる。経粘膜的な又は経皮的な投与のため、浸透すべきバリアーに対する浸透剤のアプローチが製剤で使用される。このような浸透剤は、例えば、経粘膜投与のために、界面活性剤、胆汁塩、及びフシジン酸誘導体を含む。経粘膜的な投与は、鼻腔スプレー又は坐剤の使用を介して達成できる。経皮投与のため、1以上のヘミエステル活性化合物(及び/又はこれらの塩)を、軟膏(ointment)、軟膏(salves)、ゲル又はクリームに処方する。
吸入による投与のため、1以上のヘミエステル活性化合物(及び/又はこれらの塩)を、適切な高圧ガス、例えばガス、例えば二酸化炭素を含む加圧された容器又はディスペンサーからのエアロゾルスプレー又はネブライザーの形態で処方される。乾燥粉末製剤で慣習的に使用されるキャリアー材料も使用でき、これらは例えば、モノ−又はジサッカライド、例えばグルコース、ラクトース、ラクトース一水和物、スクロース又はトレハロース、糖アルコール、例えばマンニトール又はキシリトール、ポリ乳酸又はシクロデキストリン、グルコース、トレハロース及び特にはラクトース一水和物である。いくつかの態様において、製剤は、2以上のキャリアー材料を含むこともできる。要求される場合、吸入可能ではないキャリアー粒子に加えて、製剤はある割合の吸入可能なキャリアー粒子を含むこともできる;例えば比較的粗いラクトース一水和物キャリアー粒子に加えて、例えば粒子の少なくとも50%が最大で10μm、好ましくは最大で5μmの粒子径を有する事ができる、微粉末化したラクトース一水和物をある程度の割合で、例えば0.1から10質量%含む事ができる。本明細書で記載する化合物を含む乾燥粉末製剤は、本技術で公知のものとしてのドライパウダー吸入器、例えばWO97/20589で記載するような粉末容器を含んだ複数投与のドライパウダー吸入器で使用できる。吸入による化合物の供給に適した他の方法及び器具の多くが、例えば、米国特許第6,645,466号で記載される。
【0034】
本医薬組成物は、直腸供給のための坐剤(例えば通常の坐剤のベース、例えばココアバター及び他のグリセリドを含む)又は保持浣腸器の形態で調製することもできる。
いくつかの態様において、治療化合物は、体から急速に排出されることから治療化合物を保護するキャリアー、例えば、移植片及びマイクロカプセル化した供給システムを含む制御された放出製剤と共に調製される。生物分解性の生物適合性のポリマーを使用することができ、例えばエチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル及びポリ乳酸である。このような製剤は、標準的な技術を用いて調製できる。材料は、例えばAlza Corporation and Nova Pharmaceuticals, Incから市場で入手できる。
【0035】
治療方法
本明細書で記載する方法は、鎮静剤の悪用及び依存症の治療方法を含む。いくつかの態様において、乱用される鎮静剤はヘロインである。一般的に、本方法は、このような治療を必要とする、又はこのような治療を必要とすると診断された患者に対して、本明細書で記載するようなブプレノルフィンヘミエステルの治療効量を投与する工程を含む。本明細書で使用するものとして、鎮静剤の乱用及び依存症を“治療する”ことは、乱用された医薬品に対する患者の依存症を削減し又は排除すること、中毒患者の体から中毒医薬品を除去すること、及びある程度まで、この医薬品に対する依存症が再発する事から患者を守る事を意味する。治療は、例えば維持投与計画(maintenance dosing regime)を適用することにより、患者が禁断症状を経験すること又は医薬品の悪用に対する欲望を防止し又は最小限化することも意味する。
同様に、本明細書で記載するものは、痛み、例えば急性又は慢性の痛みの治療方法である。一般的に、方法は、例えば痛み、例えば急性又は慢性の痛みに苦しめられる、治療を必要とする患者又は治療が必要であると診断された患者に対して、本明細書で記載するようなブプレノルフィンヘミエステルの治療効量を投与する工程を含む。本明細書で使用するものとして、痛みを“治療する”ことは、患者の痛みの知覚を改善し、削減し又は排除することを意味する。
【0036】
化合物の投与量、毒性及び治療効果は、例えば細胞培養物及び/又は実験動物における標準的な薬学的手順(pharmaceutical procedure)、例えばLD50(集団の50%致死量)及びED50(集団の50%治療効量)を決定するための方法により決定できる。毒性と治療効量の間の投与比率は治療指数であり、これはLD50/ED50の割合として表現できる。
動物実験から得られるデータは、人間で使用するための投与量の範囲を計画する場合に使用できる。このような化合物の投与量は、好ましくはわずかな毒性又は全く毒性を有さないED50を含んだ循環濃度の範囲内にある。投与量は、適用する投与形態及び利用する投与の経路に起因して、この範囲内で変動して良い。本明細書で記載する方法で使用するいかなる化合物に関しても、治療効量を最初に細胞培養アッセイから評価できる。投与量は、細胞培養で決定するものとしてIC50(すなわち、症状の最大の50%阻害を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するための動物モデルで計画できる。このような情報を使用して、人間における有用な投与量をより正確に決定できる。血漿におけるレベルは、例えば適切な検出システムを備えた高性能の液体クロマトグラフィーにより測定することができ、このデータを使用して禁断症状を防ぎ、かつ舌下のブプレノルフィン錠剤により供給される臨床的に許容されるレベルに一致するレベルでブプレノルフィンを維持するための、適切な投与量及び投与間隔を決定することができる。
【0037】
“有効量”は、効果の利点又は所望の結果を得るために十分な量である。例えば、治療量は所望の治療効果を達成する量である。有効量を、1以上の投与、用途又は投与量で投与できる。例えば、組成物を1日1回から1回以上から、1週間に1回以上投与することができる。当業者は、患者を効果的に治療するために要求される投与量及びタイミングに影響し得る要因を評価し、これら要因は病気又は症状の重症度、以前の治療、患者の一般的な健康及び/又は年齢及び他に存在する病気を含むが、これらに限定されない。さらに、本明細書で記載する組成物の治療効量を使用した患者の治療は、単独の治療又は一連の治療を含むことができる。一般的に、患者を治療に慣れさせるために本組成物は毎日投与されるであろうが、一旦患者が安定したなら投与間隔を長くすることが可能である。しかしながら、薬物依存症の治療を受ける人間において、構造Iの化合物の約2-30mgの投与量が、潜在的な薬効を与えるために要求されることを手引きとして述べておくことができる。補助的な活性化合物、例えばナルトレキソン又はナルメフェンが存在して、組成物の悪用を防いでも良い。構造Iの化合物と組成物の悪用を防ぐために存在する補助的な活性化合物、例えばナロキソン、ナルトレキソン又はナルメフェンの質量比率は、適切には2:1から8:1の範囲、好ましくは2.5:1から6:1の範囲、好ましくは3:1から5:1の範囲、好ましくは3.5:1から4.5:1の範囲内にある。
以下の例は説明目的のものであり、限定することを意図しない。
【0038】
実施例
実施例A:ブプレノルフィンヘミサクシネートの合成
ナトリウムフェノキシド法
ブプレノルフィン(2.35g、0.005mol)を、温めた水素化ナトリウム(油中の50%分散物;0.24g、0.005mol NaH)の2:1エタノール:H2O(9ml)溶液に添加した。30分攪拌した後、ベンゼンを用いた共沸を繰り返すことで溶媒を除去した。最後に残渣を、真空中で五酸化リンで乾燥した。この粗ナトリウム塩を、乾燥したベンゼン(30ml)に溶解し、次いで、無水コハク酸(0.5g、0.005mol)を添加して、混合物を1.5時間攪拌した。ベンゼンを除去した後、残渣を2N塩酸(50ml)で2時間振盪した。このようにして得られた塩酸塩を濾取し、水で洗浄して乾燥した。イソプロパノールからの再結晶、濾取した生成物の温めたメタノールを用いた洗浄の結果、純粋な塩(1.0g)、mp214-216℃(分解)を得た。C, 64.95; H, 7.6; N, 2.2; Cl, 6.25(パーセンテージ)であることが分かった。C33H43NO7(HCl)(1/2 H2O) はC, 64.84; H, 7.4; N, 2.3; Cl 5.8;3480 (OH)、 1757及び1735cm-1であることを要する。
【0039】
無水物法
ブプレノルフィン(1.7g、0.0036mol)及び無水コハク酸(1.1g、0.011mol)を、温めた乾燥エーテル:アセトニトリル3:5混合物(40ml)中に溶解した。一晩静置した後、所望のヘミサクシネート(1.65g)を濾取し、乾燥した、mp195-197℃(分解)。これらを更に付加的に24時間静置した場合、材料のさらなる量(0.1g)が母液から得られた。C, 69.9; H, 7.8; N, 2.4(パーセンテージ)であることが分かった。C33H49NO7 requiresは C, 70.0; H, 7.65; N, 2.5; 3460 (OH), 1760及び1733cm-1であることを要する。
【0040】
実施例B:ブプレノルフィンヘミグルタレートの合成
ブプレノルフィン(2.1g、0.0045mol)及びグルタル酸無水物(1.6g、0.014mol)の3:5乾燥エーテル:アセトニトリル(50ml)の溶液を室温で5日間攪拌し、その間に高密度の白色の固形物としてブプレノルフィンヘミグルタレートグルタル酸塩が沈殿した。固形物を濾取し、乾燥エーテル(40ml)で洗浄した。この洗浄により、白色の結晶質の固形物としての塩(1.4g)融点160-161.5℃を得た。この塩を最小量の冷やしたメタノール(12ml)に溶解し、次いで過剰量の乾燥エーテル(60ml)を添加して、次いでエーテルHClを添加した。この操作は白色固形物の沈殿をもたらし、これを濾取し及び乾燥エーテルで洗浄した。メタノール/エーテルからの再結晶により、塩酸塩一水和物としての純粋なブプレノルフィンヘミグルタレート、融点214-215℃(分解)を得た。C 63.85; H 7.75; N 2.08(パーセンテージ)であることが分かった。C34H47NO7(HCl)(H2O) は、C 64.18; H 7.92; N 2.20; 3340 (OH), 1750及び1720cm-1であることを要する。
【0041】
実施例C:ブプレノルフィンヘミアジペートの合成
ブプレノルフィン(96g、0.2mol)を、新たに乾燥したテトラヒドロフラン中に溶解した。これに対して、アジピン酸(129.2g、0.8mol)及びDCCI(100g、0.48mol)を加えた。この混合物を6日間攪拌し、次いで更なる量のアジピン酸(30g)とDCCI(25g)を添加した。この反応混合物を3日間攪拌した。この後、攪拌を停止し、混合物を3日間静置した。固形物を濾取し、次いで溶媒を可溶性物質から除去した。最小量のメタノールに溶解し、次いでエタノール/HClを添加することで、ブプレノルフィンヘミアジペート(86g)の固形の塩酸塩を得て、エタノールから再結晶することにより精製した。精製した材料は270-272℃の融点を有していた。C,66.49; H,8.12; N,2.23; Cl, 5.53(パーセンテージ)であることが分かった。C35H50NO7ClはC,66.49; H,7.97; N,2.22; Cl,5.61; 3440 (OH) 1762と1739cm-1であることを要する。
【0042】
代わりの方法
テトラヒドロフラン(1.5L、THF)中の4-ジメチルアミノピリジン(1.232g、0.010mol、アシル化触媒)の攪拌した溶液に対して、ブプレノルフィン遊離塩基(93.534g、0.20mol)、次いでアジピン酸(239.952g、1.64mol)を添加した。この懸濁液を20分間攪拌し、次いでジシクロヘキシルカルボンジイミド(45.409g、0.22mol)を約30分かけて添加し、この間冷却水で冷却することにより内部温度を16-21℃に維持した。攪拌を一晩継続した。不溶性の沈殿(ほとんどがジシクロヘキシルウレア)を吸引濾過して、次いで追加のTHFで洗浄した。真空下で濾液から溶媒を除去した(960mlを回収した)。沈殿物(ほとんどがアジピン酸)を濾過により除去し、次いで少量のTHFで洗浄し、大気中で乾燥した。合わせた濾液を室温で攪拌し、次いで濃縮した塩酸(20.606g、0.20mol)で処理した。結果得られた沈殿物を濾過により除去し、THFで洗浄し、大気中で乾燥した。この粗生成物をエタノール/ジクロロメタンで結晶化させ熱濾過し、次いで真空下で溶媒を除去して懸濁液を濃縮した。固形物を濾過により除去し、エタノールで洗浄し乾燥して、ブプレノルフィンヘミアジペート塩酸塩(87.525g)を得た。材料の正体を、1H及び13CNMRスペクトルの完全な割り当てにより、及びブプレノルフィン塩酸塩のNMRスペクトルとこれらスペクトルを比較することにより確認した。
【0043】
実施例D:ブプレノルフィンヘミ-3-メチルグルタレートの合成
ブプレノルフィン(6.8g、0.0146mol)と3-メチルグルタル酸無水物(5.13g、0.04mol)の溶液を、乾燥エーテル:アセトニトリルの3:5混合液(160ml)中で、室温で2日間攪拌し、攪拌後、TLC(SiO2、メタノール/酢酸エチル/880アンモニア、25:74.5:0.5)により、大量のブプレノルフィンの残存が示された。無水物のさらなる量を添加し、次いで攪拌を更に24時間継続した。反応混合物を乾燥エーテル(600ml)に注ぎ、次いでエーテルHClを添加した。結果得られる沈殿物を濾取し、メタノール/エーテルから結晶化した。この操作により、白色の結晶質の固形物としてのヘミ-3-メチルグルタレート塩酸塩水和物(4.5g)を得た。この固形物を3回以上再結晶して、1.8g、融点213-216℃(分解)を得た。C 63.73; H 8.16; N 2.10(パーセンテージ)であることが分かった; C35H47NO6(HCl)(H2O) はC 64.65; H 8.06; N 2.15であることを要する。
【0044】
実施例E:ブプレノルフィンヘミ-3,3-ジメチルグルタレートの合成
ブプレノルフィン(7.05g、0.015mol)の1:3乾燥エーテル/ベンゼン(200ml)溶液に対して、水素化ナトリウム(0.72g、0.015mol、50%油中の懸濁物)を添加した。室温で0.5時間攪拌後、3,3-ジメチルグルタル酸無水物(4.26g、0.03mol)を添加した。攪拌を7時間継続した後、さらなる量の水素化ナトリウム(0.72g、0.015mol)と3,3-ジメチルグルタル酸無水物(4.0g、0.028mol)を添加した。室温で2日後、混合物を乾燥するまで蒸発させ、メタノール(20ml)を添加した。溶液を酢酸エチル/0.5%880アンモニアを用いてシリカカラムで溶出させた。最初の3つの画分は純粋なブプレノルフィンを含んだ;残りの画分は、所望のヘミ-エステルからなっていた。これら画分を合わせて、最小量のメタノール(10ml)中に溶解させ、次いで過剰なエーテル、次いでエーテルHClを添加した。沈殿した固形物を濾取し、エタノール/エーテルから5回再結晶させて、白色の結晶質の固形物(1.5g)融点216-219℃(分解)としてのブプレノルフィンヘミ-3,3-ジメチルグルタレート塩酸塩を得た。C 66.39; H, 8.50; N, 2.16(パーセント)であることが分かった; C36H51NO7(HCl)はC, 66.91; H, 8.11; N, 2.17; 3300 (OH), 1730及び1720cm-1であることを要する。
【0045】
実施例F:ブプレノルフィンヘミジグリコレートの合成
ブプレノルフィン(6.8g、0.0146mol)とジグリコール酸無水物(5.1g、0.044mol)の乾燥エーテル:アセトニトリルの3:5混合物(100ml)の溶液を一晩室温で攪拌した。エーテルHCl、次いで乾燥エーテル(500ml)を添加し、高密度の白色沈殿物を生成し、これを濾取して乾燥エーテルで洗浄し乾燥した。エタノール/エーテルで2回再結晶して、塩酸塩一水和物としてのブプレノルフィンヘミジグリコレート(4.5g)融点186-189℃(分解)を得た。C, 62.04; H, 7.73; N, 2.10(パーセント)であることが分かった; C33H45NO8(HCl)(H2O)はC, 62.10; H, 7.78, N, 2.19; 1780, 1760及び1720cm-1であることを要する。
【0046】
実施例G:ブプレノルフィンヘミチオジグリコレートの合成
チオジグリコール酸無水物を、Morril et al., J. Org. Chem., 26, 4103 (1961)の方法で調製した。チオグリコール酸(32.4g、0.216mol)と三塩化リン(9.2g、5.5ml、0.065mol)をクロロホルム(40ml)中で55℃で、HClガスの発生が全くなくなるまで攪拌した。次いでこの混合物を1時間還流し、その後さらなる量の三塩化リン(4.6g、2.9ml、0.033mol)を添加した。添加した後油が沈殿し、還流を更に1時間継続した。次いで、温めたクロロホルム溶液を油から取り除き冷却した。白色の結晶質の固形物が堆積し、これを濾取して乾燥した(24.6g)。TLC(SIO2、クロロホルム/メタノール4:1)により一の主要な成分、及び非常に少量の出発材料である二価酸が示された。ブプレノルフィン(6.8g、0.0146mol)とチオジグリコール酸無水物(11.6g、0.088mol)の乾燥エーテル:アセトニトリル3:5混合物(160ml)中の溶液を、室温で6時間攪拌した。油が沈殿し、攪拌を止めた。混合物を48時間静置した。白色の固形物が形成し、これを濾取して温めたメタノール(25ml)中に溶解した。乾燥エーテル(500ml)、次いでエーテルHClを添加した。白色の固形物が沈殿した(6.4g)。この2.5gの量をメタノール/エーテルから再結晶させ、所望のブプレノルフィンヘミ−ジチオグリコレート塩酸塩一水和物(2.1g)融点225-226℃(分解)を得た。C, 60.50; H, 7.30; N, 2.03(パーセント)であることが分かった: C33H45NO7S(HCl)(H2O) はC, 60.57; H, 7.39; N, 2.14; 3300 (OH), 1745及び1710cm-1であることを要する。
【0047】
実施例H:ブプレノルフィンヘミイミノジアセテートの合成
N-ベンジルオキシカルボニルイミノアセト酢酸ジシクロヘキシルアミン塩を、10%クエン酸及び酢酸エチルの混合物中に溶解し激しく振盪した。固形のクエン酸を2つの層が透明になるまで添加した;酢酸エチルの層を分取し、水次いで生理食塩水で洗浄し、MgSO4で乾燥し、次いで蒸発させて黄色の油を得た。この一部と等モル量のN,N'-ジシクロヘキシル−カルボジイミンを、塩化メチレン中で0℃で1時間、次いで室温で2時間反応させた。ジシクロヘキシルウレアを濾取して、塩化メチレンを蒸発させ、白色固形物としての無水物を得た。酢酸エチル/石油エーテルからの再結晶により、白色の結晶質の固形物としてのN-ベンジルオキシカルボニルイミノアセト酢酸無水物を得た。1800、1770、1680cm-1
【0048】
N-ベンジルオキシカルボニルイミノアセト酢酸無水物(5.9g、0.025mol)とブプレノルフィン(4.3g、0.009mol)の乾燥エーテル:アセトニトリルの3:5混合物(102ml)中の溶液を室温で24時間攪拌した。ブプレノルフィンヘミ-N-ベンジルオキシカルボニル-イミノジアセテートが沈殿し、これを濾取し、次いでエーテル(7.2g)で洗浄した;融点133-137℃;C 66.64; H, 7.44; N, 4.29(パーセント)であることが分かった; C41H52N2O9(H2O)はC, 67.00; H, 7.41; N, 3.81)であることを要する。3400 (OH), 1770及び1700cm-1
ブプレノルフィンヘミ-N-ベンジルオキシカルボニルイミノジアセテート(2.0g、0.0028mol)を乾燥テトラヒドロフラン(100ml)中に溶解し、木炭上の10%Pdを添加した(0.25g)。懸濁液を室温で攪拌し、水素ガスでバブリングした。4時間後、TLCは非常に少量の出発材料が残っていることを示した。Pd/Cを濾取し、乾燥エーテル(600ml)を濾液に添加した。エーテルHClを添加し、次いでフラスコの側面をひっかいて白色の固形物を沈殿させた。これを濾取し、真空中で五酸化リンで乾燥させた。固形物(1.2g)はエタノールに比較的不溶解性であるが、メタノールには高い溶解性であった。エタノールで洗浄した後、生成物をメタノール中に溶解し(少量の不溶解性の固形物を濾取した)、エーテルを添加した。この操作により、結晶質の固形物を得、これを濾取した(0.25g)。TLC(SIO2、CM20)により一の主要な生成物と、少量のブプレノルフィンの混入物質が示された。メタノール/エーテルからの2回以上の再結晶により、精製したブプレノルフィンヘミイミノジアセテート二塩酸塩一水和物(0.1g)、融点214℃を得た; C, 58.96; H, 7.59; N, 3.17(パーセント)であることが分かった; C33H46N2O7(2HCl)(H2O)はC, 58.83; H, 7.48; N, 4.16)であることを要する。3450 (OH)、1770及び1630cm-1
【0049】
実施例I:3-(3-カルボメチルオキシプロピオニル)ブプレノルフィンの合成
ブプレノルフィンヘミサクシネート(2.1g)(実施例Aを参照されたい)をメタノール(50ml)中で攪拌し、過剰量のエーテルジアゾメタン(新たに蒸留したもの)と共に処理した。メタノールを除去した後、残渣を酢酸エチルに溶解し、アルミナカラム(グレードI;9"x1")を通して濾過した。濾液を蒸発させ、残渣をエーテル/軽石油エーテル(light petroleum ether)で結晶化させ、119.5-121℃の融点を有する1.58gの材料を得た; C, 70.3; H, 7.8; N, 2.5(パーセント)であることが分かった。 C33H45NO7はC, 70.45; H, 7.8; N, 2.4であることを要する。3440 (OH)、1766及び1750cm-1
この塩酸塩をHCl/エーテルで処理した、融点254-254.5℃。C, 66.0; H, 7.8; N, 2.4; Cl, 5.9(パーセント)であることが分かった。C34H45NO7(HCl)はC, 66.3; H, 7.5; N, 2.3; Cl, 5.57)であることを要する。3450 (OH)、1763、1735及び1618cm-1
【0050】
実施例J:生体外での薬物動態学
生体外におけるブプレノルフィンのヘミエステルの加水分解を、種々の種の血漿又は血液中で測定した(結果については、以下の表1を参照されたい)。
a.放射化学:放射性標識したブプレノルフィンのヘミエステルを、例えば[15,16-3H]ブプレノルフィン18と適切な無水物を反応させて所望のヘミエステルを得る事により、上記のエステル化法を用いて18から調製した。比活性は、20-800μCi/mgの範囲で変動した。
【0051】
【化24】

b.血液及び血漿:血液を人間のボランティア、ビーグル犬又はヒヒから静脈穿刺により、及び他の種から心臓末端の穿刺により得た。血液をヘパリンプラスチックチューブに回収し、必要とする場合、血漿を遠心分離(3,000g、10分)により得た。すぐに使用しない場合、血漿は-20℃で保存した。
【0052】
c.生体外でのインキュベーション:サーモスタット制御の振盪ウォーターバスを用いて37℃で検討した。ヘミエステル塩酸塩の水溶液の適切なアリコート(3-30μl)の添加によりインキュベーションを開始する前に、血漿又は血液のサンプル(緩衝液の添加を伴う又は伴わない)を円錐状のガラスチューブ中で37℃に温めた。インキュベーションを0.1-30μg/mlの初期濃度で行った。
インキュベーションの間の種々の時間で、血漿又は血液のアリコート(100μl)をエッペンドルフプラスチックチューブに移し、これをドライアイス/アセトンバス中で急速に凍結させ、メタノール(100μl)を添加した。チューブをボルテックスし、次いでエッペンドルフ3200遠心分離(1分)で遠心分離し、上澄みを以下のようにクロマトグラフにかけた。
【0053】
d.薄層クロマトグラフィー:TLCをメルクシリカゲル60F254プレート(厚さ0.25mm)で行った。以下の溶媒系を使用した:
i. 0.5%v/vNH4OHを含んだクロロホルム/メタノール20:1(v/v)(比重0.88)
ii. 1%v/vNH4OHを含んだ酢酸エチル/メタノール75:25(v/v)(比重0.88)
最初に記載したメタノールの上澄みを、20×5cmプレートの原点にアプライし、乾燥し、適切な系で溶出した。本物のエステル及びブプレノルフィンのマーカーサンプルを共にクロマトグラフにかけ、短波長UVの下で可視化させた。溶出後、シリカの1cmの領域をシンチレーションバイアル中に移して、2mlの水及び5mlのES299(パッカード)又は同じベースのシンチラントで振盪した。バイアルをパッカード2450又はインターテクニックSL4221シンチレーション分光器中で、3Hに関して(cpmとして)カウントした。
【0054】
e.結果の処理:ラジオクロマトグラムの結果を、回収された全体の放射活性のパーセンテージとして、原型のまま残存しているエステルとして表現した。結果を、時間に対する片対数グラフで図式的に表現し、一次半減期の値を得られた直線から得た。
f.結果:結果を表1に示す。
【0055】
表1 種々の種の血漿及び緩衝した血液における、ブプレノルフィンヘミアジペートに関する生体外での一次半減期の値
【表1】

【0056】
これらの結果は、ブプレノルフィンヘミアジペートが血漿中で生き残り、長期間に亘りブプレノルフィンを放出することを証明する。
【0057】
実施例K:生体内での薬物動態学
ブプレノルフィン及びブプレノルフィンヘミエステルの血漿レベルを、ビーグル犬にブプレノルフィンヘミアジペート及びブプレノルフィンヘミグルタレートを経口投与し、ガスクロマトグラフィー/質量分光法(gc/ms)による解析で決定した。
a.生体内への投与:ヘミエステルのブプレノルフィンへの生体内加水分解に関与するエステラーゼ活性の薬物動態学的なパラメーターのモデルとするためにビーグル犬を選択肢した。この選択は、ヒトの血液及び血漿と比較して種々の動物の全血及び血漿におけるいくつかのエステルの広範囲の生体外検討に従って行ったものである。高いエステラーゼ活性を有する齧歯類種−ラット、マウス、モルモット及びウサギからの血液がヘミエステルを迅速に加水分解したのに対して、より高度な種−犬及びヒヒは、よりゆっくりとした加水分解を生じさせる点でヒト血液のような挙動を示すことを見出した。結果として、犬が好ましい実験動物として選択された。
アジペートヘミエステルに関して、親ブプレノルフィンの同じ投与量(50mg/kg)と比較して、ビーグル犬に対して経口投与したより高い投与量(63mg/kg)で薬物動態学的な調査を繰り返した。
【0058】
b.血液サンプリング及び貯蔵:血液サンプル(2ml)を、投与量の投与の後0.5、1、2、5、8及び24時間後に穿刺することで採取した。ヘミエステルが加水分解されるいかなる可能性も最小限化するため、血液サンプルを採集した後すぐに氷上に貯蔵し、冷凍遠心器で血漿を分離し、プレーンチューブに移し、アッセイするまで-20℃で貯蔵した。
c.解析法
遊離ブプレノルフィンについて
全ての抽出及び誘導体化操作を、トルエン中の5%トリメチルクロロシラン(TMCS)を用いて処理することによりシラン化したガラス製品中で行った。
円錐状の15ml遠心チューブ中の血漿(0.25ml)を10μl(1μg)の内部標準であるメタノール中のN-n-プロピルノルブプレノルフィンと混合した。再蒸留したARジエチルエーテル(5ml)を添加し、チューブを1分間ボルテックス混合し、2000rpmで10分間遠心分離した。エーテル層をきれいなチューブに移し、この工程を4mlのエーテルで繰り返した。合わせたエーテル相をN2流れの下で乾燥するまで蒸発させ、次いで抽出した残渣を含むチューブを五酸化リンを備えたデシケーター中で16-24時間静置し、痕跡量の水を除去した。乾燥した残渣に対してトルエン(再蒸留したAR)(20μl)、トルエン中のトリエチルアミン(0.1M、20μl)及びヘパフルオロブチル酸無水物(HFBA、10μl)を添加した。1分間混合した後、溶液を室温で15分間静置した。ホスフェートバッファー(0.5M、pH6.0、50μl)を添加して、全ての未反応のHFBAを加水分解し、チューブを30秒間混合した。2000rpmで10分間遠心分離した後、上部の有機相の一部(5μl)をgc/msにかけた。
【0059】
総ブプレノルフィンについて
15mlの円錐状の遠心分離チューブ中の血漿(0.25ml)を、10μl(1μg)の内部標準溶液及びグリシン−水酸化ナトリウムバッファー(エーテル洗浄した、0.2M、pH10.4、0.25ml)と混合した。30秒混合した後、チューブに栓をして、室温で18時間静置して、すべての未反応のブプレノルフィンアジペートを加水分解させた。
加水分解後、血漿サンプルをClin-Elut(登録商標)チューブ(タイプCE1003、サイエンティフィックマーケッティングアソシエート、ロンドン)に移し、ベッド上に吸着させた。再蒸留したジエチルエーテルの3部(3×5ml)をチューブに注ぎ、きれいな円錐状の遠心チューブに回収した。エーテルをN2ガスの流れの下で乾燥させ、五酸化リンを備えたデシケーターにチューブを移した。
【0060】
トルエン(20μl)とヘパフルオロブチリルイミダゾール(HFBI、20μl)を乾燥した残渣に添加し、1分間混合し、室温で15分間静置した。反応混合物を、室温の窒素下で乾燥するまで蒸発させ、残渣をトルエン(30μl)で処理した。この抽出物の一部をgc/msにかけた。
【0061】
検量線
貯蔵溶液から調製した検量線を、同じ投与量を受けた3匹の犬からの全ての試料の日の間、解析する前に各日で作成した。0.4及び4.0mg/kgの投与量について、検量範囲は2-20ng/血漿0.25mlであり、40mg/kgについては5-50ng/0.25mlであった。同様な検量線を加水分解法で実行した。添加したブプレノルフィンの量に対するピーク高さの割合のプロットを、各日の解析に対して作成し、及びこの日の間処理したサンプルからの結果を定量化するために使用した。
【0062】
d.器具類
ガスクロマトフラフィー/質量分光法(gc/ms)を合わせた方法を、LKB2091質量分光器に対してステンレス鋼2段階ジェットセパレーターを介して結合したPye104ガスクロマトグラフィーを用いて行った。ガラスカラム(1m×4mm i.d.)を、300℃で一晩調製したGas-Chrom Q(登録商標)(100-120メッシュ)JJ'sクロマトグラフィー、キングスリン)上の3%OV-1で充填した。ヘリウムキャリアーガスのフロー速度は、30ml/分であった。ガスクロマトグラフカラム、セパレーター及びイオン源に対する操作温度は、それぞれ290℃、280℃及び290℃であった。20eVのイオン化電圧及び50μAのトラップ電流を使用した。
m/e562の選択したイオンモニタリング(内部標準HFB誘導体のベースピーク)を、LKB2091-710M.I.D.アクセサリーを用いた加速電圧の急速なスイッチングにより行った。m/e562に対する3.5KV電圧検量定数は52620であった。他のM.I.D.操作パラメーターは以下の通りである:プリアンプゲインセッティング3、増幅電圧セッティング800、ピークデュレーション64秒、及びM.I.D.ゲインに対する範囲10から500。モニターしたチャンネルからのシグナルを、1cm/分のチャートスピードを有する、SE3006UVオシログラフレコーダーで記録した。イオンのピーク高さの割合を計算し、参照を計量のための一日ごとの検量線で作成した。
【0063】
e.結果
図3Aは、ビーグル犬の第一の群に対して63mg/kgの投与量のブプレノルフィンヘミアジペートを経口投与(嚥下)した後の時間の関数として、ブプレノルフィンヘミアジペートと加水分解生成物のブプレノルフィンの平均血漿濃度(ng/ml)を示すグラフである;及び図3Bは、ビーグル犬の第二の群に対して、50mg/kgの投与量のブプレノルフィンを経口投与(嚥下)した後の時間の関数として、ブプレノルフィンの平均血漿濃度(ng/ml)を示すグラフである。これは、親ブプレノルフィンとほぼ等しい投与量(50mg/kg、図3B)と比較してビーグル犬に対してより多くの投与量を経口投与した(63mg/kg、図3A)だけで、上記結果の繰り返しである(図1A及び1Bを参照されたい)。より低い投与量の場合のように、インタクトなエステル(加水分解されていないエステル)が、遊離したブプレノルフィンのレベルよりも実質的により高く、インタクトなエステルの血漿濃度が6時間の間維持された。エステルからのブプレノルフィンのピークレベルが1時間後に達成され、エステル化されていないブプレノルフィンから達成される約2倍のピークレベルであった。
【0064】
ビーグル犬に対して28日間毎日ブプレノルフィンヘミアジペートを投与した高い経口投与量の薬物動態学的な特性が図4に示される。28日目において、エステルから遊離したブプレノルフィンの血漿レベルは、24時間にわたり持続したのに対して、原型のままのエステルのレベルは、2時間後に急速に減少した。雄の犬及び雌の犬は、定性的には等価ではなかったがこれらの特性を示した。
これら薬物動態学的な特性は、ブプレノルフィンヘミアジペートが、ブプレノルフィン単独で得ることができるよりもより高い経口の生体利用性を有することを示す。鎮静剤の乱用の治療において使用される高い投与量において、本明細書で記載するヘミエステル(又はこれらの塩)の作用の持続時間が、上記ヘミアジペートの持続した血漿レベルを反映してブプレノルフィンの同じ投与量により達成できるよりもより長いであろうことが予想される。更に、本明細書で記載するヘミエステル(又はこれらの塩)のピーク血漿レベルは、同じ投与量のブプレノルフィンにより達成されるレベルよりも顕著に遅く達成されるであろう事が予想される。
【0065】
他の態様
本発明がこれらの詳細な説明で記載される一方で、前記記載が説明目的であり、貼付した特許請求の範囲により定義される本発明の範囲を制限しない事を意図されることを理解すべきである。他の側面、利点及び変形は、以下の特許請求の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1Aは、ビーグル犬の第一の群に対して1mg/kgの投与量のブプレノルフィンヘミアジペートを経口投与(嚥下)した後の時間の関数として、ブプレノルフィンヘミアジペートと加水分解生成物のブプレノルフィンの平均血漿濃度(ng/ml)を示すグラフである。図1Bは、ビーグル犬の第二の群に対して0.8mg/kgの投与量のブプレノルフィンを経口投与(嚥下)した後の時間の関数として、ブプレノルフィンの平均血漿濃度(ng/ml)を示すグラフである。
【図2】図2Aは、ビーグル犬の第一の群に対して1mg/kgの投与量のブプレノルフィンヘミグルタレートを経口投与(嚥下)した後の時間の関数として、ブプレノルフィンヘミグルタレートと加水分解生成物のブプレノルフィンの平均血漿濃度(ng/ml)を示すグラフである。図2Bは、ビーグル犬の第二の群に対して、0.8mg/kgの投与量のブプレノルフィンを経口投与(嚥下)した後の時間の関数として、ブプレノルフィンの平均血漿濃度(ng/ml)を示すグラフである。
【図3】図3Aは、ビーグル犬の第一の群に対して63mg/kgの投与量のブプレノルフィンヘミアジペートを経口投与(嚥下)した後の時間の関数として、ブプレノルフィンヘミアジペートと加水分解生成物のブプレノルフィンの平均血漿濃度(ng/ml)を示すグラフである。図3Bは、ビーグル犬の第二の群に対して50mg/kgの投与量のブプレノルフィンを経口投与(嚥下)した後の時間の関数として、ブプレノルフィンの平均血漿濃度(ng/ml)を示すグラフである。
【図4】図4は、ビーグル犬に対して28日間毎日ブプレノルフィンヘミアジペートを投与した高い経口投与量の薬物動態学的な特性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造Iの化合物又はその塩;
【化1】

(R1は、
(1)任意で芳香環で置換されてよいC1-C10直鎖又は分枝アルキレン、
(2)-(CH2)pCH=CH(CH2)p- (式中、各pは、独立に0から4の整数である)、又は
(3)-(CH2)nX(CH2)n- (式中、各nは0から2の整数であり、XはO、S、NH、N(COOCH2Ph))、
【化2】


(1,2-、1,3-又は1,4-置換基を有し、式中YはO、S又はNHである)、

【化3】


(1,2-、1,3-又は1,4-置換基を有する)、

又は
【化4】


(式中、mは1から4の整数である)、

R2は、H又はC1-C6直鎖若しくは分枝アルキルである。)
【請求項2】
R1が、CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2-、-CH2CH(CH3)CH2-、-CH2C(CH3)2CH2-、-CH2OCH2-、-CH2SCH2-、-CH2NHCH2-及び-CH2N(COOCH2Ph)CH2-から成る群より選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
R2がHである、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
構造IAの化合物又はこれらの塩:
【化5】

(式中R1は、
(1)C1-C10直鎖アルキレン、
(2)1から4のメチル基又はフェニル基で置換されたC1-C8直鎖アルキレン、
(3)-(CH2)pCH=CH(CH2)p- (式中各pは独立に0から3の整数である))。
【請求項5】
R1がC2-C5の直鎖アルキレンである、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
R1が-CH2CH2CH2-, -CH2CH2CH2CH2-及び -CH2CH2CH2CH2CH2-から成る群より選択される、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
R1が-CH2CH2CH2-である、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
R1が-CH2CH2CH2CH2-である、請求項6に記載の化合物。
【請求項9】
R1が-CH2CH(CH3)CH2-又は-CH2C(CH3)2CH2-である、請求項4に記載の化合物。
【請求項10】
構造IIの化合物、又はこれらの塩:
【化6】

(式中各nは、0から2の整数であり、Xは、O、S、NH、N(COOCH2Ph)、
【化7】


(1,2-、1,3-又は1,4-置換基を有し、YはO、S又はNHである)、

【化8】

(1,2-、1,3-又は1,4-置換基を有する)又は、

【化9】


(mは1から4の整数である))。
【請求項11】
各nが1である、請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
XがS、NH又はN(COOCH2Ph)である、請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
XがOである、請求項11に記載の化合物。
【請求項14】
構造IA1の化合物又はこれらの塩:
【化10】

【請求項15】
構造IA2の化合物又はこれらの塩:
【化11】

【請求項16】
請求項1、4、10、14又は15に記載の化合物を含んだ医薬組成物。
【請求項17】
患者における鎮静剤の乱用及び/又は依存症を治療する方法であって、請求項1、4、10、14又は15に記載の1以上の化合物の治療効量を患者に対して投与する工程を含む方法。
【請求項18】
1以上の化合物を経口又は舌下投与する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
患者の中程度から重度の痛みを軽減する又は和らげる方法であって、請求項1、4、10、14又は15に記載の1以上の化合物の治療効量を患者に対して投与する工程を含む方法。
【請求項20】
フェノール性のヒドロキシル基の酸素に結合した部分を含んだ、ブプレノルフィンのフェノール性のヒドロキシル基の誘導体であって、前記部分が末端カルボン酸基又はその塩を含む誘導体。
【請求項21】
患者に対してブプレノルフィンの治療薬を遊離する手段としての、構造I、IA、II、IA1又はIA2の化合物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−531406(P2009−531406A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−502210(P2009−502210)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【国際出願番号】PCT/GB2007/001120
【国際公開番号】WO2007/110636
【国際公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(501427803)レキット ベンキサー ヘルスケア (ユーケイ) リミテッド (11)
【Fターム(参考)】