説明

ブラシレスDCモータ

【課題】 本発明は、3相ブラシレスDCモータの巻線端子を短絡してショートブレーキ動作をする際に、マグネットに減磁が生じにくくする。
【解決手段】
2種類の保磁力の異なるマグネットを円周状に交互に配置しリング形状を形成する。反磁界が強く生じるマグネット部分には保磁力の大きなマグネットを配置する。反磁界の発生部分はステータの突極部分であり、逆起電力が最大になるのはステータの突極部センタがマグネットのNS極の境界付近にした時である。その位置で反磁界が最大値となるので、NS極境界付近に保磁力の強いマグネットを配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネットを回転子に使用したブラシレスDCモータに関し、特に、モータ自身の巻線を短絡するショートブレーキ動作の際に生じるマグネットの減磁現象を改善することを目的としたモータの回転子の改良に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ファン,ブロワの用途では、流量−静圧特性の向上のために羽根の高速運転化が進められている。反面、安全性確保の観点から電源を切断した際に、短時間に羽根が停止することが求められる場合がある。この場合、電源切断後にモータ駆動回路が動作している短時間内にモータを停止させるために、モータの巻線端子間を短絡してモータの逆起電力でブレーキトルクを発生させるショートブレーキ方式が採用されている。例えば、特開平10−185252号公報には、換気扇のファンモータにおいて、駆動制御部のブリッジ接続した複数のスイッチング素子のうち下アームの全てのスイッチング素子をオンすることによりブレーキを発生させることが記載されている。
また、マグネットの材質は安価なフェライト系の樹脂結合型のボンドマグネットが使用されることが多い。
【0003】
図4は、現在多く使用されているファンモータ駆動用回路の簡略結線図を示している。このファンモータは3相ブラシレスDCモータからなり、モータ部分は、例えば図5に示すような構成になっている。すなわち、円環状コア1の外周に6個の突極2を周方向等間隔に備えたステータコア3と、各突極2に巻回された3相の巻線4とにより固定子5が構成され、この固定子5を囲むように、各突極2に僅かな空隙を介して対向する円環状マグネット6とこのマグネット6を保持する円環状ロータヨーク7とからなる回転子8が設けられている。マグネット6は例えばリング形状のフェライト系ボンドマグネットからなり、4極に着磁され、同一磁極幅の4磁極がNS交互にかつ等間隔に配置されている。この回転子8はその回転中心位置に回転軸を一体的に有し、これが図外の軸受により、固定子5と同心になる位置で回転自在に支持されている。
【0004】
図4において、電源11に接続されたスイッチ12をオンにすると、コンデンサ13が充電される一方、電源電圧がインバータ回路14及びこのインバータ回路14のトランジスタ群を制御するトランジスタ駆動回路部15にそれぞれ印加される。インバータ回路14は上アームのトランジスタ群14aと下アームのトランジスタ群14bとを備えてなり、上アームのトランジスタ群14aと下アームのトランジスタ群14bとの各相間に、デルタ結線されたモータ巻線4の各端子がそれぞれ接続されている。そして、スイッチ12のオンにより電源が供給されたトランジスタ駆動回路部15はトランジスタ群14a,14bを駆動制御し、インバータ回路14の上下アームのそれぞれのトランジスタ群14a,14bが各相毎に順次オンオフ制御されて3相の巻線4への通電が順次行われ、各相の巻線4が順次励磁される結果、磁化された各相の突極2とマグネット6との電磁相互作用により回転子8に回転力が発生し、ロータが回転することになる。なお、図4では、巻線4を内部抵抗16とインダクタンス17と逆起電力18との直列回路で等価的にあらわしている。
【0005】
ここで、ロータの回転中にスイッチ12をオフにして電源11を切断した場合、コンデンサ13に蓄積されていた電荷にてトランジスタ駆動回路部15が短時間のみ動作を継続するようになっている。この動作可能時間内で、トランジスタ駆動回路部15は、モータ巻線端子に接続されているインバータ回路14の3相分の上アームのトランジスタ群14aを全てオフとし、下アームのトランジスタ群14bを全てオン状態とする動作を行う。3相モータ巻線4は下アームトランジスタ群14bで短絡された状態となる。回転子8は回転しているため、図4に示すように、各相のモータ巻線4には大きなモータ逆起電力18が発生する。その結果、大きなショート電流が各モータ巻線4に流入し、ブレーキトルクが発生し、これにより、ロータを短時間(つまりコンデンサ13の電荷が残っていてトランジスタ駆動回路部15が動作している時間)内に停止させることができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−185252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来技術における短絡動作では、巻線4が巻回された固定子3の突極2からこれに対向する回転子8のマグネット6に大きな反磁界を与えることになる。図6は、電源が遮断された直後の3相各巻線4の逆起電力波形を示している。図中のA点の位置はU相の逆起電力が最大に生じる位置である。図5で示すマグネット6の磁極位置とステータ突極2との位置関係はこのA点のものを示している。U相の突極2はN極に励磁され、/U相の突極2はS極に励磁されている。U相突極2とマグネット6のN磁極は領域Xの位置で同極で対向し、/U相突極2とマグネット6のS磁極は領域Yの位置で同極で対向している。
【0008】
図7はフェライト系ボンドマグネットの特性を表す減磁曲線である。21はボンドマグネットのB−Hカーブ、22はボンドマグネットの4πI−Hカーブ、23は構成されている磁気回路のパーミアンス係数をそれぞれ示す。B−Hカーブ21とパーミアンス係数23の交点(B点)から、減磁が発生する際の限界反磁界強度Hd1が約120KA/mであることを算出できる。すなわち、磁石使用時のパーミアンス係数が図7の符号23で示すものの場合、このパーミアンス係数23とB−Hカーブ21との交点(B点)での磁束密度でマグネットは動作することになる。B点からの垂線と4πI−Hカーブ22との交点(C点)は、外部磁界がゼロの時の磁化の強さをあらわす。外部磁界が逆方向に印加された場合、パーミアンス係数が外部磁界だけ平行移動したと考えられ、このとき、C点が4πI−Hカーブ22の屈曲点(D点)よりもさらに平行移動すると不可逆変化(つまり外部磁界による減磁)が生じるため、この屈曲点(D点)での平行移動した時の磁界強度が限界反磁界強度Hd1となり、約120KA/mが得られる。
【0009】
そして、先のN極に励磁されたU相突極とS極に励磁された/U相突極から生じる限界反磁界強度がHd1を越えたとき、対向する位置のマグネット6の磁極部分が減磁することになる。
【0010】
図8はマグネット内径面の表面磁束密度の分布をマグネットの周方向角度θに沿って示したものである。24は減磁現象が生じる前の表面磁束密度の分布をあらわし、25は減磁が生じた場合の表面磁束密度の分布である。4極マグネット6のNS極の磁極境界付近で減磁現象が生じ、磁極中央部分では減磁は生じていないことがわかる。
【0011】
モータに使用されるフェライト系の樹脂結合型のボンドマグネットは、磁気回路動作点から決まる限界反磁界強度Hdを越える反磁界により減磁してしまい、ファン用モータとして所要の特性を維持できなくなる。
【0012】
ここで、短絡電流を低減して減磁を抑える方法として、抵抗器を各相巻線に接続する方法がある。また、モータ起動時と同様に電流制限回路を構成することも考えられる。しかし何れもが、ブレーキ停止時間の遅延や回路形状の大型化、コストアップ等の問題が生じる。
【0013】
また、マグネット自体を保磁力の高いフェライト焼結材とする方法があるが、リングマグネットではその径方向寸法と厚み寸法で製作上の制約があり、厚みの薄い形状のリングマグネットには適用できない場合が多い。さらには、マグネットを分割してセグメント形状とする方法があるが位置決めや接着工程が複雑になる。いずれもかなりのコストアップを伴ってしまう。
【0014】
本発明は、上記従来の問題点に留意してなされたものであり、その目的とするところは、モータ巻線を短絡してショートブレーキ動作を行う場合であっても、マグネットの減磁を最小限に抑えることが可能な回転子を有するブラシレスDCモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記目的を達成するために、2種類の保磁力の異なるマグネットを円周状に交互に配置してリング形状を形成すると共に、反磁界が強く生じるマグネット部分には保磁力の大きなマグネットを配置する。すなわち、反磁界の発生部分はステータの突極部分であり、逆起電力が最大になるのはステータの突極部センタがマグネットのNS極の境界付近にした時である。その位置で反磁界が最大値となるので、NS極境界付近に保磁力の強いマグネットを配置する。
【0016】
また、保磁力の小さなマグネットを樹脂結合型のボンドマグネットとし、これを一定間隔に配置すると同時に隣り合う複数の極間を接続する連結部を有するように成形し、保持力の小さなマグネット間に保磁力の大きなマグネットを配置する構成として、この保持力の大きなマグネットの位置決め作業を容易にする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下に記載のような優れた特徴を有し、例えばファン・ブロワ駆動用モータとして好適な回転子が構成できる。
(1)巻線短絡時に反磁界が強く生じるマグネット部分のみに保磁力の大きなマグネットを配置することで、マグネットの材料費増加を最小限に抑えることができる。
(2)従来のものを回路構成を変更せずに適用できるので、モータ外観形状や回路コスト増加がない。
(3)保磁力の小さなフェライト系の樹脂結合型の安価なボンドマグネット材を使用し、隣り合う複数の極間を接続する連結部を有するように成形し、保磁力の大きな焼結セグメントマグネットの位置決め部分を構成することで作業性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の1実施形態によるブラシレスDCモータの切断平面図である。
【図2】図1におけるマグネットの展開図を示し、(a)は着磁前(未着磁時)、(b)は着磁後を示す。
【図3】図2のマグネットの減磁曲線を示す特性図である。
【図4】一般的なファンモータの駆動用回路を示す簡略結線図である。
【図5】従来のブラシレスDCモータの切断平面図である。
【図6】電源遮断直後の各相の逆起電力波形図である。
【図7】従来のマグネットの減磁曲線を示す特性図である。
【図8】従来のマグネットの表面磁束密度を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下,本発明によるブラシレスDCモータの実施形態を図1及び図2に基づいて説明する。図1は3相4極6突極のブラシレスDCモータの断面図である。従来技術で説明した場合と同様に、円環状コア51の外周に6個の突極52を周方向等間隔に備えたステータコア53と、各突極52に巻回された3相の巻線54とにより固定子55が構成され、この固定子55を囲むように、各突極52に僅かな空隙を介して対向する円環状マグネット56とこのマグネット56を保持する円環状ロータヨーク57とからなる回転子58が設けられている。この回転子58はその回転中心位置に回転軸を一体的に有し、これが図外の軸受により、固定子55と同心になる位置で回転自在に支持されている。
【0020】
回転子58に用いられるマグネット56は、リング形状のフェライト系マグネットからなり、従来のものと異なり、保持力の異なる2種類のマグネット要素を組み合わせてなる。すなわち、図2は、マグネット56を直線状に展開して示したものであり、同図(a)は未着磁のもの、同図(b)は着磁後のものを示している。このマグネット56は、全周の1/8の角度幅(45度)を有する4個の第1磁極56Aaを等間隔(90度毎)に配置すると共に隣り合う磁極56Aaの端縁間を連結部56Abで円環状に連結して構成された保磁力の小さなフェライト系の樹脂結合型ボンドマグネットからなる第1マグネット要素56Aと、全周の1/8の角度幅(45度)を有し第1マグネット要素56Aの各第1磁極56Aaの間にそれぞれ介挿された保持力の大きなフェライト系の焼結型マグネットからなるセグメント状の4個の第2磁極56Baを備えた第2マグネット要素56Bとにより構成されている。
【0021】
そして、第1,第2マグネット要素56A,56Bを、それぞれ未着磁の状態で、隣り合う第1磁極56Aa間にセグメントマグネットである第2磁極56Baをそれぞれ配置して接着剤等を用いて一体に結合し、着磁工程前に保磁力の異なる2種類でリング形状を形成する。次に、このリング状のマグネット56に対して、第1マグネット要素56Aの各第1磁極56Aaの内径側がそれぞれN極とS極とに交互に磁化されるよう着磁を行う。この時、第1磁極56AaのNS極の境界部分に配置された保磁力の大きなフェライト系の焼結型のセグネントマグネットは、その中央部分を境にN極とS極とに磁化される。従って、図2(a)に示すように、マグネット56のN極は保磁力の小さなマグネット要素56Aの第1磁極56Aaとその両側に位置する保磁力の大きなマグネット要素56Bの第2磁極56Baのうち隣接側の半分の領域とで構成され、同様に、S極は保磁力の小さなマグネット要素56Aの第1磁極56Aaとその両側に位置する保磁力の大きなマグネット要素56Bの第2磁極56Baのうち隣接側の半分の領域とで構成され、保磁力の大きな第2磁極56BaのセンタにNS極の境界線が存在することになる。
【0022】
このように構成されるマグネット56を回転子58に有するブラシレスDCモータは、図4に示す駆動用回路を用いて回転動作が行われる。また、ロータの回転時にスイッチ12をオフにしてショートブレーキ動作を行わせると、インバータ回路14の下アームのトランジスタ群14bの全てがオンとなって3相の巻線54を短絡し、電磁ブレーキが作用する。先に述べたように、モータ巻線54を短絡するブレーキ動作の際、モータ巻線54が施された固定子53の突極52から回転子58のマグネット56に作用する反磁界が最も大きくなる位置は、NS磁極の境界線付近であるが、上記実施形態のものでは、マグネット56におけるNS磁極の境界部分に保磁力の大きな第2マグネット要素56Bの第2磁極56Baが配置される結果、反磁界は保磁力の大きなマグネット要素56Bの限界反磁界強度がHdを越えることはなく、従って、マグネット部分が減磁することがなくなる。
【0023】
図3は、保磁力の大きなフェライト系の焼結型のマグネット要素56Bの特性を表す減磁曲線である。61は焼結マグネットのB−Hカーブ、62は焼結マグネットの4πI−Hカーブ、63は磁気回路のパーミアンス係数である。磁気回路のパーミアンス係数63を求め、B−Hカーブ21とパーミアンス係数23との交点(B’点)であるマグネット動作点から、これを通る垂線と4πI−Hカーブ62との交点(C’点)を求め、外部磁界がゼロの時の磁化の強さを得、外部磁界が逆方向に印加された場合、減磁が発生する際の限界反磁界強度Hd2が4πI−Hカーブ22の屈曲点(D’点)に平行移動した時の磁界強度であることから、減磁が発生する際の限界反磁界強度Hd2を、約180KA/mと算出できる。従来の保磁力の小さなフェライト系樹脂結合型ボンドマグネットの場合、限界反磁界強度Hd1が約120KA/mであるから、50%の余裕度を確保できたことになる。
【0024】
本発明によれば、高速で回転するファン用ブラシレスDCモータを巻線端子を短絡して、短時間でモータを停止する際に生じるモータ巻線からの反磁界でマグネットが減磁することを、回転子のマグネットの構成を工夫することで防止することができ、最小限のコストアップで対処することが可能で大量生産のファン用モータ等には大変有効な技術となる。
【0025】
なお、上記実施形態では、2種類のマグネットをフェライト系の保磁力の異なるマグネットを用いて説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、マグネットの材質に無関係に異なる保磁力のものであれば同様に適用可能である。また、実施形態では、アウターロータ方式のモータを用いて説明したが、インナロータ構造のモータにも適用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0026】
高速回転するファン用のブラシレスDCモータのように、電磁ブレーキを発生させる使用形態を有するブラシレスDCモータに本発明は有益であり、加えて、エアコンの室外機や換気扇等のように、外部空気によりロータが回転されて反磁界を発生する可能性のあるブラシレスDCモータにおいても本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0027】
52 突極
54 巻線
55 固定子
56 マグネット
56A 第1マグネット要素
56Aa 第1磁極
56Ab 連結部
56B 第2マグネット要素
56Ba 第2磁極
58 回転子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性材料で構成されモータ巻線が巻回される複数の主磁極部とその先端の突極部を有する固定子と、該固定子の突極部にエアギャップを介して対向するマグネットを有する回転子とから構成されたブラシレスDCモータにおいて、
前記マグネットは、2種類の保磁力の異なるマグネット要素を用いてリング状に形成され、両マグネット要素はそれぞれ複数の磁極部を有し、両マグネット要素のそれぞれの磁極部が円周方向に交互に配置され、NS極境界付近に保磁力の強いマグネット要素の磁極部が配置されることを特徴とするブラシレスDCモータ。
【請求項2】
2種類の保磁力の異なるマグネット要素から構成されたリング状マグネットのNS磁極の境界が、保磁力の大きなマグネット要素の磁極部におけるセンタ付近に存在することを特徴とする請求項1に記載のブラシレスDCモータ。
【請求項3】
保磁力の小さなマグネット要素の磁極数に対して、保磁力の大きなマグネット要素の磁極数が2倍であることを特徴とする請求項1に記載のブラシレスDCモータ。
【請求項4】
保磁力の小さなマグネット要素は樹脂結合型のボンドマグネットからなり、一定間隔毎に配置された複数の磁極部と隣り合う磁極部間をそれぞれ連結する連結部とによりリング状に構成されていることを特徴とする請求項1に記載のブラシレスDCモータ。
【請求項5】
保持力の小さなマグネット要素における複数の連結部は、その複数の磁極部における軸方向端縁間に配置されていることを特徴とする請求項4に記載のブラシレスDCモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−62889(P2013−62889A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197734(P2011−197734)
【出願日】平成23年9月10日(2011.9.10)
【出願人】(000228730)日本電産サーボ株式会社 (276)
【Fターム(参考)】