説明

ブラシロール及びその製造方法

【課題】ブラシを傾斜させてロールに簡単に取り付けられ、バリ取りも良好に行うことができるブラシロールを提供する。
【解決手段】ブラシ30を、接着剤が塗布されたテープ32上に適宜の間隔で配置・接着する。テープ32の長さLはロール芯20の溝24の全周の長さとし、テープ32の幅Wは概略溝24の深さの2倍とする。テープ32は、長手方向の中心に沿ってV字状に折り曲げる。ロール芯20の溝24内に予め接着剤を充填し、前記V字状に折り曲げたテープ32の裏面ないし背面側を順次押し込む。折り曲げたテープ32の内側に糸34を全周にわたって巻き付けて結ぶ。溝24ないしブラシ環31の傾斜角度は20°とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリ取りなどの表面処理に好適な回転式のブラシロール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
板金加工物などの加工過程において生ずるバリを取る背景技術として、下記特許文献1に記載の「加工品表面のサンダー仕上げ方法」や、特許文献2に記載の「製品、特に金属製品のバリ取りの方法及びその方法の使用」がある。これらによれば、平面に対して垂直に立てた回転軸に対して、水平面内で回転する複数(例えば4〜6個)のブラシロールを配置し、ブラシロール自体の回転のみならず、複数のブラシロールの全体も回転させることで、バリ取りが行なわれるようになっている。
【0003】
しかしながら、このような方法では、ブラシロールを回転させる構造が非常に複雑となり、装置全体が大掛かりとなってしまう。そこで、ブラシロールの回転軸方向に対して傾斜するようにブラシ(サンドペーパー片)を設けることで、回転したときにブラシが回転軸方向に揺動し、ワークを回転軸方向に叩くような構造とすることで、簡便な構造でありながら良好なバリ取りや研磨などを行なうようにしたブラシロールが、下記特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2001−521828公報
【特許文献2】特表2000−515434公報
【特許文献3】特開2008−207316公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した特許文献3記載のブラシロールのようにブラシを傾斜させる場合、ロールに対するブラシの取り付けに非常に手数がかかり、コストが高くなってしまう。ブラシロールは消耗品であり、簡便に量産できるとランニングコストも下げることができる。また、ブラシをどの程度傾斜させるかによってバリ取り効果に影響があり、傾斜角度を最適化する必要がある。例えば、ブラシの傾斜の程度が小さいと、ワークを回転軸方向に叩く効果が低くなってしまい、良好にバリ取り等を行なうことができない。しかし、逆に、傾斜の程度を大きくしすぎると、ワークを叩く効果は大きくなるものの、ブラシが往復する周期が長くなり、バリ取りにムラが生ずるなどのおそれがある。
【0006】
本発明は、以上のような点に着目したもので、その目的は、簡便にブラシを傾斜させてロールに取り付けることができる量産も可能なブラシロールの製造方法を提供することである。他の目的は、バリ取りを良好に行うことができる好適なブラシの傾斜角度を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、処理対象の表面に接触して所望の表面処理を施すブラシロールの製造方法であって、テープの接着面上であって、その長手方向に一定間隔となるように、ブラシを配置する工程1,該工程1のテープを、その長手方向に沿ってV字状に折り曲げる工程2,回転可能なロール芯の外周面に所定間隔で形成されている複数のリング状の溝に、前記工程2のテープを埋め込んで固定することでブラシ環を形成する工程3,を含むことを特徴とする。
【0008】
主要な形態の一つは、前記ブラシとして、研磨用繊維もしくはそれを撚ったもの,又は、研磨用の布ないし紙を細帯状としたものであって表裏に砥材があるもの,のいずれかを使用することを特徴とする。他の形態の一つは、前記工程3が、テープを埋め込む溝内に接着剤を充填する工程と、テープを埋め込んだ後に、ブラシを束ねる工程とを含むことを特徴とする。更に他の形態の一つは、前記溝が、前記ロール芯の軸方向に対して垂直な面から、20°傾斜していることを特徴とする。
【0009】
本発明のブラシロールは、前記いずれかのブラシロールの製造方法によって製造されたことを特徴とする。他の発明は、処理対象の表面に接触して所望の表面処理を施すブラシロールであって、回転可能なロール芯,該ロール芯の外周面に所定間隔で形成されており、その軸方向に対して垂直な面から20°傾斜した複数のリング状の溝,多数のブラシによってリング状に構成されており、前記溝に設けられたブラシ環,を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、テープを利用することとしたので、簡便にブラシをロールに取り付けることができ、量産性に優れている。また、ブラシ環を20°傾斜させることとしたので、バリ取りも良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(A)は本発明のブラシロールの全体を示す斜視図,(B)はロール芯の縦断面図,(C)は製造工程の一つを示す図である。(実施例1)
【図2】図2(A)は製造工程の一つを示す図,(B)は主要部を拡大して示す図,(C)は従来の製造方法を示す図である。(実施例1)
【図3】(A)はバリ取り装置におけるバリ取りの様子を示す平面図,(B)は(A)の矢印FB方向から見た図である。(実施例2)
【図4】図4はブラシを20°傾斜した場合と傾斜しない場合のバリ取りの効果を比較して示すグラフである。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
本実施例のブラシロール10は、図1(A)に全体を示すように、ロール芯20の外周に、多数のブラシ30を環状に配列したブラシ環31を設けた構成となっている。ロール芯20の中心には、バリ取り装置のブラシロール取付用の回転軸(図示せず)を挿通するための軸穴22が形成されている。ロール芯20の縦断面の一部を示すと、図1(B)に示すように、ロール芯20の外側周面に適宜の間隔でリング状の溝24が形成された構造となっている。溝24は、ロール芯20の回転軸に直交する面に対して傾斜した方向に形成されている。
【0014】
次に、ブラシロール10の製造方法について説明すると、まず、図1(B)に示すような溝24が外周面に適宜の間隔で多数傾斜形成されたロール芯20を用意する。ロール芯20の材料としては、例えば発泡スチロール等を用いる。一方、ブラシ30を、図1(C)に示すように、表面に接着剤が塗布されたテープ32上に適宜の間隔で配置・接着する。テープ32の長さLは、概略前記ロール芯20の溝24の全周の長さとなっており、テープ32の幅Wは、概略溝24の深さの2倍となっている。全長にわたってブラシ30を配置・接着したテープ32は、図2(A)に示すように、長手方向の中心に沿って、ブラシ30が内側となるようにV字状に折り曲げる。一方、ロール芯20の溝24内には、予め接着剤33を充填しておく。そして、前記V字状に折り曲げたテープ32の裏面ないし背面側を、前記溝24内に順次押し込むようにする。折り曲げたテープ32の内側には、図2(B)に拡大して示すように、全周にわたって糸34を巻き付け、更に締め付けて結び、ブラシ30を束ねるようにする。以上のようなテープ32の折り曲げ,溝24内への押し込み,糸34による結束,の各作業を、すべての溝24に対して順次行うことで、図1(A)に示したブラシロール10を得ることができる。糸34側に接着剤を充填するようにしてもよい。
【0015】
図2(C)には、従来のブラシロールの製造方法が示されており、溝24内に、ブラシ30を順次埋め込み、これらを溝24内の接着剤33と糸34で固定している。この方法では、溝24に対するブラシ30の埋め込みに非常に手数がかかる。これに対し、本実施例のテープ32を使用する方法では、テープ32上にブラシ30を配置し、これをV字状に折り曲げてテープ32ごとロール芯20の溝24に埋め込むようにしているため、作業が単純化され、自動化も可能となって、簡便にブラシ30が傾斜したブラシロール10を得ることができる。
【0016】
次に、ブラシ30としては、例えば、研磨用繊維(例えば、ナイロンなどの樹脂の繊維に、酸化アルミナなどの砥材を分散させたもの)や、研磨用の布ないし紙(サンドペーパー)を細帯状としたものを使用する。上述したように、本実施例では、ブラシ30が傾斜しており、ロール芯20が回転すると、ブラシ30がワークを回転軸方向に叩くようになっている。このため、ブラシ30としてサンドペーパーを使用する場合、いずれの面によってもバリ取り等を行なうためには、サンドペーパーの両面に砥材があったほうが好都合である。特に、研磨用繊維を使用すると、どのような方向からブラシ30がワークに当たってもバリ取り等を行なうことができ、非常に効果的である。
【実施例2】
【0017】
次に、本発明の実施例2について説明する。本実施例は、ブラシ30ないしブラシ環31の傾斜角度について検討したものである。バリ取り装置では、図3(A)に平面の様子を示すように、ワークWを、ベルトコンベアによって矢印FA方向に回転するブラシロール10の下に、矢印FBで示すように送り込む。すると、ワークWの表面をブラシ30が擦るようになり、バリ取りや研磨などが行なわれる。
【0018】
図3(B)には、同図(A)を矢印FB方向から見た様子が示されている。ブラシロール10では、ブラシ環31が傾斜しているため、ロール芯20が1/2回転すると、実線で示すブラシ環31が点線で示すような位置となる。そして、更に1/2回転すると、点線の位置から実線の位置に戻る。すなわち、ロール芯20の回転に伴い、ブラシ環31は、矢印FC方向に揺動を繰り返す。なお、ブラシロール10には、多数のブラシ環31が設けられているが、説明のため、そのうちの一つのみを図3(B)に示している。
【0019】
図4(A),(B)は、溝24ないしブラシ環31を、ロール芯20の回転軸に対して垂直な面から20°傾斜(図1(B)参照)させた場合のバリ高さの変化を示すグラフである。図4(A)は、図3(A)のワークWの面SF1におけるバリ高さの変化を示し、図4(B)は、図3(A)のワークWの面SF3におけるバリ高さの変化を示す。いずれも、横軸は面の起点からの位置を示し、縦軸はバリの高さを示す。また、図中に示すDBRは、一つのブラシ環31が揺動してワークWに接触する範囲である。なお、図4(A)よりも(B)のほうが範囲DBRが広いのは、面SF3が傾斜しているためである。一方、図4(C),(D)は、同図(A),(B)においてブラシ環31の傾斜を0°とした場合を示すグラフである。これらのグラフに示すように、面SF1,SF3のいずれにおいても、図4(A),(B)の20°傾斜の場合のほうが、図4(C),(D)の0°傾斜の場合よりも、より広範囲であって、かつ、効果的にバリ高さが低減されていることが分かる。
【0020】
図4(E)は、20°傾斜と0°傾斜の場合におけるワークWの面SF4の最大バリ高さの減少率を計測したグラフである。ワークWの材料が、冷間圧延鋼板(SPCC),メッキ鋼板(ZAM(登録商標)),ステンレス鋼(SUS304)の場合について、それぞれ計測結果を示す。これらの図に示すように、ブラシ30を20°傾斜させた場合のほうが、いずれの材料に対しても高いバリ高さ減少率を示しており、材料によるバリ取り効果のバラツキが低いことが分かる。
【0021】
なお、図示した測定結果は、溝24ないしブラシ環31の傾きを0°,20°とした場合であるが、15°,25°とした場合についても、同様の測定を行なっており、ブラシ環31の傾きを20°程度とした場合が、最も良好にバリを取ることができる。
【0022】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例は、本発明のブラシロールをバリ取りに適用した場合であるが、面取り(R付け),研磨,ヘアライン仕上げなどの各種の加工に適用してよい。適用する材料も、金属に限定されず、木材や樹脂など、各種のものに適用してよい。
(2)ロール芯20の軸穴22の形状も、バリ取り装置側の回転軸に対応して適宜変更してよい。
(3)ブラシ環31の間隔は、必要に応じて適宜設定してよい。例えば、接触範囲DBRが、隣接するブラシ環31で重ならないようにしてもよいし、逆に、1/2ずつ重なるようにすることで、バリ取りの効果を高めるようにしてもよい。
(4)前記実施例では、ロール芯20の溝24を等間隔に複数形成したが、ロール芯20の外周面上に螺旋状に形成するようにしてもよい。
(5)前記実施例では、ロール芯20の溝24に対するテープ32の固定を接着剤や糸34によって行ったが、例えば糸34の代わりに、リング部材の押し込みと接着固定によって行う等、適宜の方法を用いてよい。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明によれば、簡便にブラシを傾斜してロールに取り付けることができ、バリ取りも良好に行うことができるので、量産性に優れており、各種のバリ取り装置のブラシロールとして好適である。
【符号の説明】
【0024】
10:ブラシロール
20:ロール芯
22:軸穴
24:溝
30:ブラシ
31:ブラシ環
32:テープ
33:接着剤
34:糸
DBR:接触範囲
SF1〜SF4:面
W:ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象の表面に接触して所望の表面処理を施すブラシロールの製造方法であって、
テープの接着面上であって、その長手方向に一定間隔となるように、ブラシを配置する工程1,
該工程1のテープを、その長手方向に沿ってV字状に折り曲げる工程2,
回転可能なロール芯の外周面に所定間隔で形成されている複数のリング状の溝に、前記工程2のテープを埋め込んで固定することでブラシ環を形成する工程3,
を含むことを特徴とするブラシロールの製造方法。
【請求項2】
前記ブラシとして、研磨用繊維もしくはそれを撚ったもの,又は、研磨用の布ないし紙を細帯状としたものであって表裏に砥材があるもの,のいずれかを使用することを特徴とする請求項1記載のブラシロールの製造方法。
【請求項3】
前記工程3は、テープを埋め込む溝内に接着剤を充填する工程と、テープを埋め込んだ後に、ブラシを束ねる工程とを含むことを特徴とする請求項1又は2記載のブラシロールの製造方法。
【請求項4】
前記溝が、前記ロール芯の軸方向に対して垂直な面から、20°傾斜していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のブラシロールの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のブラシロールの製造方法によって製造されたことを特徴とするブラシロール。
【請求項6】
処理対象の表面に接触して所望の表面処理を施すブラシロールであって、
回転可能なロール芯,
該ロール芯の外周面に所定間隔で形成されており、その軸方向に対して垂直な面から20°傾斜した複数のリング状の溝,
多数のブラシによってリング状に構成されており、前記溝に設けられたブラシ環,
を備えたことを特徴とするブラシロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−201545(P2010−201545A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48659(P2009−48659)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名:2008年度砥粒加工学会学術講演会講演論文集 発行者名:社団法人砥粒加工学会 発行日:平成20年9月3日
【出願人】(593199080)三光産業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】