説明

ブランク材フランジの接合構造

【課題】スポット溶接時にフランジの間から接着剤がはみ出ることを抑制することができるとともに、スポット溶接後にフランジの間から接着剤がはみ出ることを抑制することができるブランク材フランジの接合構造を提供する。
【解決手段】複数のブランク材のフランジを接着剤とスポット溶接とによって接合してなるブランク材フランジの接合構造は、第1ブランク材と第2ブランク材のフランジの間に接着剤が設けられた状態で挟まれる第3ブランク材30のフランジ33に、第1ブランク材と第2ブランク材のフランジに接着剤とスポット溶接とによって接合される複数の溶接用突出面部34と、第1ブランク材と第2ブランク材のフランジに接着剤によって接合される変形抑制用突出面部35が設けられ、該変形抑制用突出面部は、第3ブランク材のフランジの長手方向において溶接用突出面部の間に離間した状態で設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のブランク材のフランジを接着剤とスポット溶接とによって接合してなるブランク材フランジの接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、自動車の車体においては、所定形状にプレス成形した複数のブランク材を重ね合わせてスポット溶接によって接合することが行われている。また、複数のブランク材の接合面に接着剤を塗布した状態でスポット溶接を行う、所謂ウェルドボンドによって複数のブランク材を接合することも行われており、かかるウェルドボンドによれば、スポット溶接に比して接合強度及びシール性を向上させることができることが知られている。
【0003】
自動車の車体において、この接着剤とスポット溶接とによって接合するウェルドボンドが適用される部位は一般にブランク材の端面部であるフランジであることが多く、かかる部位では、重ね合わせられたブランク材のフランジの接合面に塗布した接着剤がスポット溶接時にフランジの間からはみ出ることが問題となっている。
【0004】
これに対し、接着剤がフランジの間からはみ出ることを抑制するものとして、例えば特許文献1には、重ね合わせられたフランジの一方の外側部分に長手方向に延びる突条を設けるとともに他方のフランジの内側部分に突条と略同じ高さの突出部を長手方向に所定間隔で複数個設け、突条と突出部との間に接着剤を塗布した状態でスポット溶接を行うようにしたものが開示されている。また、例えば特許文献2には、重ね合わせられた一方のフランジの内側部分に長手方向に離間して間欠的に隆起部を設け、この隆起部に接着剤を配置した状態で隆起部の間においてスポット溶接を行うようにしたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平1−149063号公報
【特許文献2】特開2006−213262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1及び前記特許文献2に記載されるように、重ね合わせられたブランク材のフランジに接着剤を溜める部分を設けることによってスポット溶接時に接着剤がブランク材のフランジの間からはみ出ることを抑制することができるものの、接着剤を溜める部分を確保することができない場合や、接着剤を溜める部分によって外観が損なわれる場合があるので、両側のブランク材のフランジの形状を変更することなく、接着剤がブランク材のフランジの間からはみ出ることを抑制することが望まれる。
【0007】
また、本願発明者等は、種々の試験研究を重ねた結果、2枚のブランク材のフランジを接着剤とスポット溶接とによって接合する場合に、一方のフランジを固定側電極に保持した状態で他方のフランジを可動側電極により押圧してスポット溶接を行うと、スポット溶接時にフランジの間から接着剤がはみ出ることに加えて、可動側電極によって押圧されるフランジにおいて溶接部の間に両フランジ面が離間するようなたわみが生じ、このたわみがスポット溶接後に少なくなる方向へ変形する際にもフランジの間から接着剤がはみ出ることを見出した。
【0008】
自動車の車体においては、2枚のブランク材のフランジを接着剤とスポット溶接とによって接合した後にブランク材に錆びが発生することを防止するために防錆処理として電着塗装が一般に施されるが、電着塗装後にこのようにフランジの間から接着剤がはみ出ると、電着塗装が剥がれ、かかる部分から錆びが発生する畏れがある。
【0009】
図9は、接着剤とスポット溶接とによって接合された2枚のブランク材のフランジを示す斜視図である。また、図10は、スポット溶接後のフランジの間からの接着剤のはみ出しを説明するための説明図であり、図10では、図9に示す2枚のブランク材のフランジを接着剤とスポット溶接とによって接合した後に電着塗装を施した状態を図9におけるY10−Y10線に沿った断面で示し、図10(a)は、電着塗装を施した直後の状態を示し、図10(b)は、電着塗装後の乾燥工程における状態を示している。
【0010】
図9に示すように、第1ブランク材101の略平板状のフランジ101aと第2ブランク材102の略平板状のフランジ102aとの間に接着剤103を塗布した状態で、フランジ101aを固定側電極に保持するとともにフランジ102aを可動側電極により押圧した状態でスポット溶接を行って溶接部SWを形成した後に、フランジ102a側から電着塗装を施した場合、図10(a)に示すように、電着塗装を施した直後では、フランジ101a及び102aに電着塗膜104が形成されるとともに、スポット溶接時に接着剤103のフランジ102aからはみ出した部分103aにも電着塗膜104が形成されることとなる。このはみ出した部分103aは、スポット溶接前に両ブランク材101、102をクランプする工程、スポット溶接電極の押圧工程、及びスポット溶接時に溶接部SWの間において生じたフランジ101aから離間する方向へのフランジ102aのたわみが、所定時間を経て該たわみが少なくなる方向、すなわちフランジ101aと102aとの離間距離Dが少なくなる方向に変形することによって生じる。
【0011】
続いて、図10(b)に示すように、電着塗装を施してその乾燥工程に入ると昇温に伴って一時的に接着剤の粘度が低下して流動的となり、接着剤103がフランジ102aからさらにはみ出して電着塗膜104が剥がれ、剥がれた部分Pから錆びが発生する畏れがある。
【0012】
このように、2枚のブランク材のフランジを接着剤とスポット溶接とによって接合した後に電着塗装が施される場合には、スポット溶接時に接着剤がブランク材のフランジの間からはみ出ることに加えて、電着塗装後の乾燥工程で接着剤がブランク材のフランジの間からはみ出ることが問題となる。
【0013】
そこで、本発明は、両側のブランク材のスポット溶接時に接着剤がフランジの間からはみ出ることを抑制することができるとともに、スポット溶接後にフランジの間から接着剤がはみ出ることを抑制することができるブランク材フランジの接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このため、本願の請求項1に係る発明は、複数のブランク材のフランジを接着剤とスポット溶接とによって接合してなるブランク材フランジの接合構造であって、第1ブランク材のフランジと第2ブランク材のフランジとの間に、該第1ブランク材のフランジとの間及び該第2ブランク材のフランジとの間に接着剤が設けられた状態で第3ブランク材のフランジが挟まれ、該第3ブランク材のフランジに、該第3ブランク材のフランジの外方側に向かって突出するとともに前記第1ブランク材のフランジと前記第2ブランク材のフランジとに接着剤とスポット溶接とによって接合される複数の溶接用突出面部と、該第3ブランク材のフランジの外方側に向かって突出するとともに前記第1ブランク材のフランジと前記第2ブランク材のフランジとに接着剤によって接合され、前記第1ブランク材と前記第2ブランク材の何れか一方のフランジの変形を抑制する変形抑制用突出面部とが設けられ、前記変形抑制用突出面部は、前記第3ブランク材のフランジの長手方向において前記溶接用突出面部の間に離間した状態で設けられている、ことを特徴とする。
【0015】
また、本願の請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記変形抑制用突出面部は、前記第3ブランク材のフランジの外方側に向かうにつれて、前記第1ブランク材のフランジと前記第2ブランク材のフランジのうちスポット溶接によるたわみが大きいフランジ側に近づくように傾斜して設けられている、ことを特徴とする。
【0016】
更に、本願の請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記第1ブランク材のフランジは、車室前方側に配設されたダッシュパネルロアの上端部において車体前方側に延びるとともに車幅方向に延びるフランジであり、前記第2ブランク材のフランジは、前記ダッシュパネルロアの上方側に配設されたダッシュパネルアッパの下端部において車体前方側に延びるとともに車幅方向に延びるフランジであり、前記第3ブランク材のフランジは、前記ダッシュパネルロアの車室側に車幅方向に延びるように取り付けられる断面ハット状のダッシュパネルレインフォースメントの上端部において車体前方側に延びるとともに車幅方向に延びるフランジである、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本願の請求項1に係るブランク材フランジの接合構造によれば、第1ブランク材のフランジと第2ブランク材のフランジとの間に接着剤を介して挟まれる第3ブランク材のフランジに、第1ブランク材のフランジと第2ブランク材のフランジとに接着剤とスポット溶接とによって接合される複数の溶接用突出面部と、第1ブランク材のフランジと第2ブランク材のフランジとに接着剤によって接合される変形抑制用突出面部が設けられ、該変形抑制用突出面部は、第3ブランク材のフランジの長手方向において溶接用突出面部の間に離間した状態で設けられている。
【0018】
これにより、スポット溶接時に溶接用突出面部と変形抑制用突出面部との間に接着剤を溜めることができるので、両側のブランク材のフランジの形状を変更することなくスポット溶接時に接着剤がフランジの間からはみ出ることを抑制することができるとともに、スポット溶接時に溶接部の間において第1ブランク材と第2ブランク材の何れか一方のフランジにたわみが生じる場合においても、変形抑制用突出面部によって、変形抑制用突出面部が設けられていない場合に比して、たわみが生じたフランジのスポット溶接後のたわみを少なくする方向への変形を抑制することができ、スポット溶接後にフランジの間から接着剤がはみ出ることを抑制することができる。
【0019】
また、ブランク材のフランジを接着剤とスポット溶接によって接合した後に、電着塗装の昇温乾燥が施される場合に、電着塗装後にフランジの間から接着剤がはみ出ることを抑制することができるので、接着剤のはみ出しに伴って電着塗装が剥がれることを抑制することができ、フランジに錆びが発生することを抑制することができる。
【0020】
また、本願の請求項2に係る発明によれば、変形抑制用突出面部は、第3ブランク材のフランジの外方側に向かうにつれて、第1ブランク材のフランジと第2ブランク材のフランジのうちスポット溶接によるたわみが大きいフランジ側に近づくように傾斜して設けられていることにより、スポット溶接後のフランジの変形をより有効に抑制することができ、前記効果をより有効に奏することができる。
【0021】
更に、本願の請求項3に係る発明によれば、第1ブランク材のフランジは、ダッシュパネルロアの上端部において車体前方側に延びるとともに車幅方向に延びるフランジであり、第2ブランク材のフランジは、ダッシュパネルアッパの下端部において車体前方側に延びるとともに車幅方向に延びるフランジであり、第3ブランク材のフランジは、ダッシュパネルロアの車室側に車幅方向に延びるように取り付けられる断面ハット状のダッシュパネルレインフォースメントの上端部において車体前方側に延びるとともに車幅方向に延びるフランジであることにより、ダッシュパネルロアのフランジとダッシュパネルアッパのフランジとの間に接着剤を介してダッシュパネルレインフォースメントのフランジが挟まれ、これらフランジをスポット溶接とによって接合する場合に、前記効果を有効に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係るブランク材フランジの接合構造を備えた車体のダッシュパネルロア及びダッシュパネルレインフォースメントを車体後方から示した斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係るブランク材フランジの接合構造を備えた車体のダッシュパネルロア及びダッシュパネルアッパを車体前方から示した斜視図である。
【図3】図1に示すダッシュパネルレインフォースメントを模式的に示す斜視図である。
【図4】図3におけるY4−Y4線に沿った断面を含む、ダッシュパネルロア、ダッシュパネルアッパ及びダッシュパネルレインフォースメントの断面図である。
【図5】図3におけるY5−Y5線に沿った断面を含む、ダッシュパネルロア、ダッシュパネルアッパ及びダッシュパネルレインフォースメントの断面図である。
【図6】図3におけるY6−Y6線に沿った断面を含む、ダッシュパネルロア、ダッシュパネルアッパ及びダッシュパネルレインフォースメントの断面図である。
【図7】本発明の別の実施形態に係るブランク材フランジの接合構造を説明するための説明図である。
【図8】図7におけるY8a−Y8a線及びY8b−Y8b線に沿った断面図である。
【図9】2枚のブランク材のフランジの接着剤とスポット溶接とによる接合を説明するための説明図である。
【図10】スポット溶接後のフランジの間からの接着剤のはみ出しを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1は、本発明の実施形態に係るブランク材フランジの接合構造を備えた車体のダッシュパネルロア及びダッシュパネルレインフォースメントを車体後方から示した斜視図、図2は、本発明の実施形態に係るブランク材フランジの接合構造を備えた車体のダッシュパネルロア及びダッシュパネルアッパを車体前方から示した斜視図、図3は、図1に示すダッシュパネルレインフォースメントを模式的に示す斜視図である。
【0025】
また、図4は、図3におけるY4−Y4線に沿った断面を含む、ダッシュパネルロア、ダッシュパネルアッパ及びダッシュパネルレインフォースメントの断面図、図5は、図3におけるY5−Y5線に沿った断面を含む、ダッシュパネルロア、ダッシュパネルアッパ及びダッシュパネルレインフォースメントの断面図、図6は、図3におけるY6−Y6線に沿った断面を含む、ダッシュパネルロア、ダッシュパネルアッパ及びダッシュパネルレインフォースメントの断面図である。
【0026】
図1及び図2に示すように、本発明の実施形態に係るブランク材フランジの接合構造を備えた車体1には、エンジンなどの駆動源が配設されるエンジンルームと車室とを車体前後方向に区画するダッシュパネル2が車室前方側に配設され、このダッシュパネル2は、車体下方側に配設されるダッシュパネルロア10と、該ダッシュパネルロア10の車体上方側に配設されるダッシュパネルアッパ20とによって構成されている。
【0027】
ダッシュパネルロア10は、車体前後方向と略直交する方向に延びる縦壁面部11を備えるとともに該縦壁面部11の上端部から略水平方向に車体前方側に延びるフランジ12を備えており、ダッシュパネルロア10のフランジ12は、車体前方側に延びるとともに車幅方向に延びるように形成されている。
【0028】
一方、ダッシュパネルアッパ20は、車体後方側に向かうにつれて車体上方側に延びる傾斜壁面部21を備えるとともに該傾斜壁面部21の下端部から略水平方向に車体前方側に延びるフランジ22を備えており、ダッシュパネルアッパ20のフランジ22は、車体前方側に延びるとともに車幅方向に延び、その車体前方側の端部が車体上方側に傾斜して形成されている。
【0029】
また、図5及び図6に示すように、ダッシュパネルアッパ20は、傾斜壁面部21の車体後方側の端部が略水平方向に車体後方側に延び、車体上方側に配設されるカウルアウタパネル3と、該カウルアウタパネル3の車体下方側に配設されるカウルインナパネル4と接合されている。なお、カウルアウタパネル3には、接着剤5を介してフロントガラス6が取り付けられている。
【0030】
車体1ではまた、ダッシュパネルロア10に、具体的には縦壁面部11の車室側に、車幅方向に延びるダッシュパネルレインフォースメント30が取り付けられている。ダッシュパネルレインフォースメント30は、車体前後方向と略直交する方向に延びる縦面部31を備え、該縦面部31に車室側に断面コ字状に膨出する膨出部32が設けられて断面ハット状に形成されている。
【0031】
本実施形態では、ダッシュパネルレインフォースメント30はまた、縦面部31の上端部から略水平方向に車体前方側に延びるフランジ33を備え、このダッシュパネルレインフォースメント30のフランジ33は、車体前方側に延びるとともに車幅方向に延びるように形成されている。
【0032】
ダッシュパネルレインフォースメント30のフランジ33はまた、図4及び図5に示すように、ダッシュパネルロア10のフランジ12とダッシュパネルアッパ20のフランジ22との間に、該フランジ12との間及び該フランジ22との間に接着剤7が設けられた状態で挟まれている。
【0033】
図3に示すように、ダッシュパネルレインフォースメント30のフランジ33にはまた、フランジ33の外方側に向かって車体前方側に突出する複数の突出面部34、35が設けられている。具体的には、略台形状に形成される第1突出面部34と、略三角形状に形成される第2突出面部35とが設けられ、第2突出面部35は、フランジ33の長手方向である車幅方向において第1突出面部34の間に該第1突出面部34と離間した状態で設けられている。
【0034】
本実施形態では、ダッシュパネルレインフォースメント30のフランジ33に設けられる第1突出面部34において、ダッシュパネルレインフォースメント30のフランジ33が、ダッシュパネルロア10のフランジ12とダッシュパネルアッパ20のフランジ22とに接着剤7とスポット溶接とによって接合されている。なお、図3では、ダッシュパネルレインフォースメント30においてスポット溶接が施される部分37を○印で示している。
【0035】
一方、ダッシュパネルレインフォースメント30のフランジ33に設けられる第2突出面部35は、フランジ33の長手方向においてスポット溶接される第1突出面部34の間の略中央に配置され、スポット溶接されることなく、図5に示すように、ダッシュパネルロア10のフランジ12とダッシュパネルアッパ20のフランジ22とに接着剤7によって接合されている。
【0036】
なお、ダッシュパネルレインフォースメント30のフランジ33に設けられる第1突出面部34と第2突出面部35との間では、図6に示すように、ダッシュパネルロア10のフランジ12とダッシュパネルアッパ20のフランジ22とが接着剤7によって接合されている。
【0037】
このようにして構成されるダッシュパネルロア10のフランジ12と、ダッシュパネルアッパ20のフランジ22と、ダッシュパネルレインフォースメント30のフランジ33とを接合する際には、先ず、ダッシュパネルロア10のフランジ12とダッシュパネルアッパ20のフランジ12とにそれぞれ接着剤7を塗布した状態で、ダッシュパネルロア10のフランジ12とダッシュパネルアッパ20のフランジ22との間にダッシュパネルレインフォースメント30のフランジ33が挟まれるようにして配置する。
【0038】
そして、図4に示すように、ダッシュパネルロア10のフランジ12を固定側電極41によって保持した状態で、ダッシュパネルアッパ20のフランジ22を可動側電極42によって押圧してスポット溶接を行うことにより溶接部SWを形成し、ダッシュパネルロア10のフランジ12とダッシュパネルアッパ20のフランジ22とをダッシュパネルレインフォースメント30のフランジ33を介して接着剤7とスポット溶接とによって接合する。なお、図4において、スポット溶接部SWのフランジ22とフランジ33の間、及びフランジ33とフランジ12との間には接着剤7が残ったように記載しているが、これはスポット溶接の途中段階を示しているものであり、スポット溶接後にはフランジ22とフランジ33の間、及びフランジ33とフランジ12との間の接着剤7は排除され、フランジ22とフランジ33とフランジ12とはナゲットによって接合される。
【0039】
ダッシュパネルロア10のフランジ12を固定側電極41に保持した状態でダッシュパネルアッパ20のフランジ22を可動側電極42によって押圧してスポット溶接を行うと、前述したように、フランジ22において溶接部SWの間にたわみが生じることとなるが、本実施形態では、ダッシュパネルロア10のフランジ12とダッシュパネルアッパ20のフランジ22との間にダッシュパネルレインフォースメント30のフランジ33が挟まれるとともに、該フランジ33にスポット溶接される複数の第1突出面部34と該1突出面部34の間にスポット溶接されない第2突出面部35とが設けられているので、第2突出面部35によって、フランジ22に生じたたわみがスポット溶接後に少なくなる方向へ、すなわち車体下方側へ変形することを抑制することができる。
【0040】
本実施形態では、ダッシュパネルレインフォースメント30のフランジ33において、フランジ33の長手方向に隣接する2つの第1突出面部34の間に1つの第2突出面部35が設けられているが、フランジ33の長手方向に隣接する2つの第1突出面部34の間に複数の第2突出面35を設けるようにすることも可能である。
【0041】
また、ダッシュパネルロア10のフランジ12を固定側電極41に保持した状態でダッシュパネルアッパ20のフランジ22を可動側電極42によって押圧してスポット溶接を行っているが、ダッシュパネルアッパ20のフランジ22を固定側電極に保持した状態でダッシュパネルロア10のフランジ12を可動側電極によって押圧してスポット溶接を行うようにしてもよい。
【0042】
この場合は、ダッシュパネルレインフォースメント30のフランジ33に設けられる第2突出面部35によって、溶接部SWの間において可動側電極によって押圧されるフランジ12に生じたたわみがスポット溶接後に少なくなる方向へ変形することを抑制することができる。このように、第2突出面部は、ダッシュパネルロア10とダッシュパネルアッパ20の何れか一方のフランジ12、22の変形を抑制するように設けられている。
【0043】
このように、本実施形態では、ダッシュパネルロア10のフランジ12とダッシュパネルアッパ20のフランジ22との間に接着剤7を介して挟まれるダッシュパネルレインフォースメント30のフランジ33に、ダッシュパネルロア10のフランジ12とダッシュパネルアッパ20のフランジ22とに接着剤7とスポット溶接とによって接合される複数の第1突出面部34と、ダッシュパネルロア10のフランジ12とダッシュパネルアッパ20のフランジ22とに接着剤7によって接合される第2突出面部35が設けられ、該第2突出面部35は、ダッシュパネルレインフォースメント30のフランジ33の長手方向において第1突出面部34の間に離間した状態で設けられている。
【0044】
これにより、スポット溶接時に第1突出面部34と第2突出面部35との間に接着剤7を溜めることができるので、両側のフランジ12、22の形状を変更することなくスポット溶接時に接着剤7がフランジ12、22の間からはみ出ることを抑制することができるとともに、スポット溶接時に溶接部SWの間においてダッシュパネルロア10とダッシュパネルアッパ20の何れか一方のフランジ12又は22にたわみが生じる場合においても、第2突出面部35によって、第2突出面部35が設けられていない場合に比して、たわみが生じたフランジ12又は22のスポット溶接後のたわみを少なくする方向への変形を抑制することができ、スポット溶接後にフランジ12、22の間から接着剤7がはみ出ることを抑制することができる。
【0045】
また、ダッシュパネルロア10のフランジ12とダッシュパネルアッパ20のフランジ22を接着剤7とスポット溶接によって接合した後に、電着塗装が施される場合に、電着塗装後にフランジ12、22の間から接着剤7がはみ出ることを抑制することができるので、接着剤7のはみ出しに伴って電着塗装が剥がれることを抑制することができ、フランジに錆びが発生することを抑制することができる。
【0046】
なお、本実施形態では、ダッシュパネルロア10のフランジ12とダッシュパネルアッパ20のフランジ22とダッシュパネルレインフォースメント30のフランジ33とを接着剤7とスポット溶接とによって接合する場合について記載しているが、車体上下方向に延びるピラーにおいてピラーインナの車体前後方向に設けられるフランジとピラーアウタの車体前後方向に設けられるフランジとの間にピラーレインフォースメントの車体前後方向に設けられるフランジが挟まれ、これらフランジを接着剤とスポット溶接とによって接合する場合など、複数のブランク材のフランジを接着剤とスポット溶接とによって接合する場合について適用することができる。
【0047】
また、前述した実施形態では、ダッシュパネルレインフォースメント30のフランジ33において、第1突出面部34と第2突出面部35とが略水平方向に設けられているが、第2突出面部をフランジ33の外方側に向かうにつれて、ダッシュパネルアッパ20のフランジ22側に近づくように傾斜して設けるようにすることも可能である。
【0048】
図7は、本発明の別の実施形態に係るブランク材フランジの接合構造を説明するための説明図であり、図7では、本発明の別の実施形態に係るブランク材フランジの接合構造を備えた車体のダッシュパネルレインフォースメントが模式的に示されている。また、図8は、図7におけるY8a−Y8a線及びY8b−Y8b線に沿った断面図である。なお、図7及び図8では、図3に示すダッシュパネルレインフォースメントを二点鎖線で示している。
【0049】
また、本発明の別の実施形態は、前述した実施形態と、ダッシュパネルレインフォースメントのフランジ33に設けられる第2突出面部がダッシュパネルアッパ20のフランジ22側に近づくように傾斜して形成されていること以外は同様であるので、同様の構成については同一符合を付して説明を省略する。
【0050】
図7に示すように、本発明の別の実施形態に係るダッシュパネルレインフォースメント50においても、ダッシュパネルレインフォースメント50のフランジ33には、フランジ33の外方側に向かって車体前方側に突出するとともに略台形状に形成される第1突出面部34と、フランジ33の外方側に向かって車体前方側に突出するとともに略三角形状に形成される第2突出面部55とが設けられ、第2突出面部55は、フランジ33の長手方向である車幅方向において第1突出面部34の間に該第1突出面部34と離間した状態で設けられているが、第2突出面部55がダッシュパネルアッパ20のフランジ22側に近づくように傾斜して形成されている。
【0051】
図8(a)に示すように、ダッシュパネルレインフォースメント50のフランジ33に設けられる第1突出面部34は、略水平方向に車体前方側に延びるように形成されているが、図8(b)に示すように、ダッシュパネルレインフォースメント50のフランジ33に設けられる第2突出面部55は、フランジ33の外方側に向かうにつれて車体上方側へ傾斜して、ダッシュパネルアッパ20のフランジ22側に近づくように傾斜して設けられている。
【0052】
第2突出面部55は、ダッシュパネルロア10のフランジ12を固定側電極41に保持した状態でダッシュパネルアッパ20のフランジ22を可動側電極42によって押圧してスポット溶接を行ったときに可動側電極42によって押圧されるフランジ22において溶接部SWの間にたわみが生じることから、たわみが生じるフランジ22側に近づくように傾斜して形成されているが、ダッシュパネルアッパ20のフランジ22を固定側電極に保持した状態でダッシュパネルロア10のフランジ12を可動側電極によって押圧してスポット溶接を行う場合には、可動側電極によって押圧されるフランジ12において溶接部SWの間にたわみが生じることから、フランジ33の外方側に向かうにつれてたわみが生じるフランジ12側に近づくように傾斜して形成される。
【0053】
このように、ダッシュパネルレインフォースメント50のフランジ33に設けられる第2突出面部55は、フランジ33の外方側に向かうにつれて、ダッシュパネルロア10のフランジ12とダッシュパネルアッパ20のフランジ22のうちスポット溶接によるたわみが大きいフランジ12又は22側に近づくように傾斜して設けられることにより、スポット溶接後のフランジ12又は22の変形をより有効に抑制することができ、スポット溶接後にフランジ12、22の間から接着剤7がはみ出ることをより有効に抑制することができる。
【0054】
なお、本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上のように、本発明によれば、スポット溶接時に接着剤がフランジの間からはみ出ることを抑制することができるとともに、スポット溶接後にフランジの間から接着剤がはみ出ることを抑制することができるブランク材フランジの接合構造を提供することができ、車体の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0056】
2 ダッシュパネル
7 接着剤
10 ダッシュパネルロア(第1ブランク材)
12 ダッシュパネルロアのフランジ(第1ブランク材のフランジ)
20 ダッシュパネルアッパ(第2ブランク材)
22 ダッシュパネルアッパのフランジ(第2ブランク材のフランジ)
30、50 ダッシュパネルレインフォースメント(第3ブランク材)
33 ダッシュパネルレインフォースメントのフランジ(第3ブランク材のフランジ)
34 第1突出面部(溶接用突出面部)
35、55 第2突出面部(変形抑制用突出面部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のブランク材のフランジを接着剤とスポット溶接とによって接合してなるブランク材フランジの接合構造であって、
第1ブランク材のフランジと第2ブランク材のフランジとの間に、該第1ブランク材のフランジとの間及び該第2ブランク材のフランジとの間に接着剤が設けられた状態で第3ブランク材のフランジが挟まれ、
該第3ブランク材のフランジに、該第3ブランク材のフランジの外方側に向かって突出するとともに前記第1ブランク材のフランジと前記第2ブランク材のフランジとに接着剤とスポット溶接とによって接合される複数の溶接用突出面部と、該第3ブランク材のフランジの外方側に向かって突出するとともに前記第1ブランク材のフランジと前記第2ブランク材のフランジとに接着剤によって接合され、前記第1ブランク材と前記第2ブランク材の何れか一方のフランジの変形を抑制する変形抑制用突出面部とが設けられ、
前記変形抑制用突出面部は、前記第3ブランク材のフランジの長手方向において前記溶接用突出面部の間に離間した状態で設けられている、
ことを特徴とするブランク材フランジの接合構造。
【請求項2】
前記変形抑制用突出面部は、前記第3ブランク材のフランジの外方側に向かうにつれて、前記第1ブランク材のフランジと前記第2ブランク材のフランジのうちスポット溶接によるたわみが大きいフランジ側に近づくように傾斜して設けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載のブランク材フランジの接合構造。
【請求項3】
前記第1ブランク材のフランジは、車室前方側に配設されたダッシュパネルロアの上端部において車体前方側に延びるとともに車幅方向に延びるフランジであり、
前記第2ブランク材のフランジは、前記ダッシュパネルロアの上方側に配設されたダッシュパネルアッパの下端部において車体前方側に延びるとともに車幅方向に延びるフランジであり、
前記第3ブランク材のフランジは、前記ダッシュパネルロアの車室側に車幅方向に延びるように取り付けられる断面ハット状のダッシュパネルレインフォースメントの上端部において車体前方側に延びるとともに車幅方向に延びるフランジである、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のブランク材フランジの接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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